説明

ブレーキ液圧制御装置

【課題】 ブレーキ液圧制御装置において、電磁弁に作動特性のバラツキがあっても、流体の圧力または流量の制御精度を向上する。
【解決手段】ブレーキアクチュエータは、複数の作動特性に予め分類された電磁弁のうち同一作動特性の電磁弁が備えられるとともに、その作動特性を示す識別情報が設定され、制御装置は、アクチュエータから識別情報を入力し同識別情報に基づいてアクチュエータの作動特性を判定する判定手段(ステップ108)と、各作動特性に対応した予め記憶されている各特性マップと、判定手段により判定された作動特性に対応する特性マップを確定する特性マップ確定手段と、特性マップ確定手段によって確定された特性マップに基づいてアクチュエータを駆動する駆動手段(ステップ110)とを備えたことである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ液圧制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ブレーキ液圧制御装置としては、ホイールシリンダの液圧を調整可能な電磁弁を備えたアクチュエータと、電磁弁を制御することによりアクチュエータを制御する制御装置とを備えたものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、液体の圧力を励磁電流に応じた大きさに制御可能な電磁弁である液圧制御弁が記載されている。この種のブレーキ液圧制御装置においては、一般に励磁電流と流体の制御液圧との関係(作動特性の一例)が予め記憶されており、その記憶された作動特性に基づいて励磁電流が決定される。液圧制御弁すべてが同じ作動特性を有することを前提として一律の制御が行われている。しかし、個々の液圧制御弁には作動特性のバラツキがあり、これを無視し得ない場合がある。構成部材の寸法誤差,弾性部材のばね定数のバラツキ等に起因する作動特性のバラツキがあり、励磁電流が同じであっても制御液圧が同じになるとは限らないのである。それにもかかわらず、すべての液圧制御弁が一律に制御されると、所望の液圧制御精度が得られない事態が発生する場合がある。
【0004】
そこで、この問題を解決するものとして、特許文献2に示されているように、電磁弁それぞれについての作動特性が電磁弁における流体の流れ状態と供給電力とに基づいて取得される作動特性取得装置が知られている。電磁弁は個々にバラツキがあり、作動特性が同じであるとは限らないため、電磁弁個々について作動特性を直接計測して取得し、取得した作動特性を記憶しこの記憶した作動特性に応じた制御を行えば、作動特性が一律であると見なして制御を行う場合に比較して、流体の圧力または流量の制御精度を向上させるようになっている。
【特許文献1】特開平4−243658号公報
【特許文献2】特開平11−147466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献2に記載のブレーキ液圧制御装置においては、電磁弁に作動特性のバラツキがあっても、電磁弁個々について制御できるので、流体の圧力または流量の制御精度は向上する。しかし、電磁弁個々の作動特性を全て記憶しなければならないため記憶量が大きくなり、大きい記憶容量が必要である。また、電磁弁(アクチュエータ)とこの電磁弁の作動特性を記憶した装置は、一体・別体に拘わらず1セットで取り扱う必要があるが、このセットを車両に取り付ける際にそのセットの保管しやすさ・組み付けやすさに問題がある。また、電磁弁個々について作動特性を直接計測するため、作動特性を得るのに時間が掛かるので、通常制御に影響がでるおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明は、上述した各問題を解消するためになされたもので、ブレーキ液圧制御装置において、大きい記憶容量が必要なく、ブレーキ液圧制御装置を構成する部材の保管性、組み付け性を悪化させることなく、かつ、電磁弁の作動特性の取得時間が長くなることなく、電磁弁に作動特性のバラツキがあっても、流体の圧力または流量の制御精度を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、ホイールシリンダの液圧を調整可能な電磁弁として複数の作動特性に予め分類された電磁弁のうち同一作動特性の電磁弁が備えられるとともに、その作動特性を示す識別情報が設定されているアクチュエータと、アクチュエータから識別情報を入力し同識別情報に基づいてアクチュエータの作動特性を判定する判定手段と、各作動特性に対応した各特性マップを予め記憶する記憶手段と、判定手段により判定された作動特性に対応する特性マップを確定する特性マップ確定手段と、特性マップ確定手段によって確定された特性マップに基づいて前記アクチュエータを駆動する駆動手段とを備えたことである。
【0008】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、識別情報は同識別情報に対応した識別抵抗により形成される電圧値のレベルで示されることである。
【0009】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項2において、判定手段は、所定の短時間毎に電圧値のレベルを判定するレベル判定手段と、レベル判定手段によって所定時間内に所定回数以上判定された電圧値のレベルをアクチュエータの作動特性として確定する作動特性確定手段とを備えたことである。
【0010】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項2において、識別情報は同識別情報に対応した少なくとも二つの識別抵抗によりそれぞれ形成される各電圧値のレベルで示されることである。
【0011】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項3において、識別抵抗に付与する識別電圧が正常電圧であり、かつ、比較回路の電源電圧が正常電圧である場合には、判定手段による判定を許可する判定許可手段を備えたことである。
【0012】
請求項6に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、識別情報は記憶装置に記憶されている情報で示されることである。
【0013】
請求項7に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、判定手段、記憶手段、特性マップ確定手段、および駆動手段を含んだ制御装置を備え、アクチュエータと制御装置は別体であることである。
【発明の効果】
【0014】
上記のように構成した請求項1に係る発明においては、アクチュエータは、複数の作動特性に予め分類された電磁弁のうち同一作動特性の電磁弁が備えられるとともに、その作動特性を示す識別情報が設定されている。これにより、電磁弁自体のバラツキを抑えることなく、また、電磁弁を選別することなく、電磁弁の作動特性範囲を数グループに分割して同一グループの電磁弁をアクチュエータに備えることにより、電磁弁のバラツキ特性を現状のままで歩留まりを出さずに利用することができる。また、グループ分けされた作動特性を示す識別情報がアクチュエータに設定されているので、識別情報を有するアクチュエータを単品で取り扱うことができる。
【0015】
また、判定手段が、アクチュエータから識別情報を入力し同識別情報に基づいてアクチュエータの作動特性を判定し、記憶手段が、各作動特性に対応した各特性マップを予め記憶し、特性マップ確定手段が、判定手段により判定された作動特性に対応する特性マップを予め記憶されている特性マップのなかから確定し、駆動手段が、特性マップ確定手段によって確定された特性マップに基づいてアクチュエータを駆動する。したがって、電磁弁の作動特性にバラツキがあっても電磁弁のバラツキ特性を現状のままで歩留まりを出さずに流体の圧力または流量の制御精度を向上することができる。また、作動特性は識別情報としてアクチュエータに設定されるとともに、特性マップも電磁弁毎に記憶する必要はないので、記憶容量を小さくすることができる。さらに、アクチュエータから識別情報を入力し同識別情報に基づいてアクチュエータの作動特性を判定するので、作動特性を短時間で得ることでき、通常制御に影響がでるのを防止することができる。
【0016】
上記のように構成した請求項2に係る発明においては、請求項1に係る発明において、識別情報は同識別情報に対応した識別抵抗により形成される電圧値のレベルで示されるので、簡単な構成で識別情報を付与できるとともに容易に取り出すことができる。
【0017】
上記のように構成した請求項3に係る発明においては、請求項2に係る発明の判定手段においては、レベル判定手段が、所定の短時間毎に電圧値のレベルを判定し、作動特性確定手段が、レベル判定手段によって所定時間内に所定回数以上判定された電圧値のレベルをアクチュエータの作動特性として確定する。これにより、外乱によって電圧値にノイズが乗っても、判定が遅くなったり、誤判定をしたりするのを防止することができる。
【0018】
上記のように構成した請求項4に係る発明においては、請求項2に係る発明において、識別情報は同識別情報に対応した少なくとも二つの識別抵抗によりそれぞれ形成される各電圧値のレベルで示されるので、電圧値の信号線が断線していたり短絡していたりする場合、制御装置がアクチュエータの識別情報を誤判定するのを防止することができる。
【0019】
上記のように構成した請求項5に係る発明においては、請求項3に係る発明において、判定許可手段が、識別抵抗に付与する識別電圧が正常電圧であり、かつ、比較回路の電源電圧が正常電圧である場合には、判定手段による判定を許可する。これにより、制御装置がアクチュエータの識別情報を誤判定するのを防止することができる。
【0020】
上記のように構成した請求項6に係る発明においては、請求項1に係る発明において、識別情報は記憶装置に記憶されている情報で示されるので、簡単な構成で識別情報を付与できるとともに容易に取り出すことができる。
【0021】
上記のように構成した請求項7に係る発明においては、請求項1に係る発明において、判定手段、記憶手段、特性マップ確定手段、および駆動手段を含んだ制御装置とアクチュエータは別体であるので、アクチュエータと制御装置を別々に取り扱うことができる。したがって、ブレーキ液圧制御装置を構成する部材の保管性、組み付け性を良くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係るブレーキ液圧制御装置の一実施形態を図面を参照して説明する。図1はブレーキ液圧制御装置の構成を示す概要図であり、図2はブレーキアクチュエータと制御装置の電気的な構成を示す概要図である。
【0023】
液圧ブレーキ制御装置は、図1に示すように、ブレーキペダル11の踏み込みによるブレーキ操作状態に対応した基礎液圧をマスタシリンダ13にて発生し、同発生した基礎液圧を当該マスタシリンダ13と液圧制御弁21,31をそれぞれ介在した第1および第2配管系La,Lbによって連結された各車輪Wfl,Wfr,Wrl,WrrのホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに直接付与することにより、同各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させるとともに、ブレーキ操作状態に対応して発生される基礎液圧とは独立してポンプ24,34の駆動と液圧制御弁21,31の制御によって形成される制御液圧を各車輪Wfl,Wfr,Wrl,WrrのホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに付与することにより各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに制御液圧制動力を発生可能に構成されたものである。
【0024】
各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrは、各キャリパCLfl,CLfr,CLrl,CLrrに設けられており、液密に摺動するピストン(図示省略)を収容している。各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに基礎液圧または制御液圧が供給されると、各ピストンが一対のブレーキパッドを押圧して各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrと一体回転するディスクロータDRfl,DRfr,DRrl,DRrrを両側から挟んでその回転を停止するようになっている。なお、本実施の形態においては、ディスク式ブレーキを採用するようにしたが、ドラム式ブレーキを採用するようにしてもよい。この場合、各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに基礎液圧または制御液圧が供給されると、各ピストンが一対のブレーキシューを押圧して各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrと一体回転するブレーキドラムの内周面に当接してその回転を停止するようになっている。
【0025】
このブレーキ液圧制御装置は、図1に示すように、エンジンの吸気負圧をダイヤフラムに作用させてブレーキペダル11の踏み込み操作により生じるブレーキ操作力を助勢して倍力(増大)する倍力装置である負圧式ブースタ12と、負圧式ブースタ12により倍力されたブレーキ操作力(すなわちブレーキペダル11の操作状態)に応じた基礎液圧である液圧(油圧)のブレーキ液(油)を生成してキャリパCLfl,CLfr,CLrl,CLrr内に設けたピストンが摺動するシリンダ内に供給するマスタシリンダ13と、ブレーキ液を貯蔵してマスタシリンダ13にそのブレーキ液を補給するリザーバタンク14と、マスタシリンダ13とキャリパCLfl,CLfr,CLrl,CLrrとの間に設けられて制御液圧を形成するアクチュエータであるブレーキアクチュエータ(制動力制御装置)15を備えている。
【0026】
マスタシリンダ13は、図1に示すように、タンデム式のマスタシリンダであり、第1および第2液圧室13a,13bを備えている。第1および第2液圧室13a,13bは、第1および第2出力ポート13c,13dを介していわゆるX配管式方式である第1配管系Laおよび第2配管系Lbと連通している。マスタシリンダ13は、ブレーキペダル11の踏込操作に応じて第1及び第2出力ポート13c,13dからほとんど同一の油圧(液圧)のブレーキ油(液体)を圧送するようになっている。第1配管系Laは、第1液圧室13aと右前輪Wfr,左後輪WrlのホイールシリンダWCfr,WCrlとをそれぞれ連通するものであり、第2配管系Lbは、第2液圧室13bと左前輪Wfl,右後輪WrrのホイールシリンダWCfl,WCrrとをそれぞれ連通するものである。
【0027】
ブレーキアクチュエータ15は、一般的によく知られているものであり、液圧制御弁21,31、ABS制御弁を構成する増圧制御弁22,23,32,33および減圧制御弁26,27,36,37、調圧リザーバ25,35、ポンプ24,34、モータ34aなどを一つのケースにパッケージすることにより構成されている。
【0028】
まず、ブレーキアクチュエータ15の第1配管系Laの構成について説明する。第1配管系Laは、油経路La1〜La7から構成されている。油路La1は一端がマスタシリンダ13の第1出力ポート13cに接続されている。油路La1上には、液圧制御弁21が配設されている。油路La2は、一端が油路La1に接続され他端がホイールシリンダWCrlに接続されている。油路La2上には、増圧制御弁22が配設されている。油路La3は、一端が油路La1に接続され他端がホイールシリンダWCfrに接続されている。第3油路La3上には、増圧制御弁23が配設されている。油路La4は、一端が油路La1に接続され他端が調圧リザーバ25のポンプ側ポート25aに接続されている。油路La4上には、ポンプ24が配設されている。油路La2,La4の間には、両油路La2,La4を接続する油路La5が設けられている。油路La5上には、減圧制御弁26が配設されている。油路La3,La4の間には、両油路La3,La4を接続する油路La6が設けられている。油路La6には、減圧制御弁27が配設されている。調圧リザーバ25のマスタシリンダ側ポート25bと油路La1の間には油路La7が設けられている。
【0029】
液圧制御弁21は、制御装置であるECU16により連通状態と差圧状態を切り替え制御される電磁弁である。液圧制御弁21は通常連通状態(図示状態)とされているが、差圧状態にすることによりホイールシリンダWCrl,WCfr側の圧力をマスタシリンダ13側の圧力よりも所定の差圧分高い圧力に保持することができる。この差圧はECU16により制御電流に応じて調圧されるようになっている。
【0030】
増圧制御弁22は、ABS制御の増圧モード時においてホイールシリンダWCrlへのブレーキ液圧の増圧を制御するノーマルオープン型の電磁弁である。増圧制御弁23は、ABS制御の増圧モード時においてホイールシリンダWCfrへのブレーキ液圧の増圧を制御するノーマルオープン型の電磁弁である。これら増圧制御弁22,23は、ECU16により連通状態と差圧状態を切り替え制御される電磁弁である。そして、これら増圧制御弁22,23が連通状態(図示状態)に制御されているときには、マスタシリンダ13の基礎液圧または/およびポンプ24の駆動と液圧制御弁21の制御によって形成される制御液圧を各ホイールシリンダWCrl,WCfrに加えることができる。また差圧状態にすることにより、各ホイールシリンダWCrl,WCfr側の圧力をマスタシリンダ13側の圧力よりも所定の差圧分低い圧力に保持することができる。また、増圧制御弁22,23は減圧制御弁26,27およびポンプ24とともにABS制御を実行することができる。なお、制御液圧は、ポンプ24の駆動と増圧制御弁22,23の制御によっても形成される。
【0031】
なお、ABS制御が実行されていないノーマルブレーキの際には、これら増圧制御弁22,23は常時連通状態に制御されている。また、増圧制御弁22,23には、それぞれ逆止弁22a,23aが並列に設けられており、ABS制御時においてブレーキペダル11を離したとき、それに伴ってホイールシリンダWCrl,WCfr側からのブレーキ液をマスタシリンダ13に戻すようになっている。
【0032】
減圧制御弁26は、ABS制御の保持、増圧モード時においてホイールシリンダWCrlと調圧リザーバ25を遮断し、ABS制御の減圧モード時において連通するノーマルクローズ型の電磁弁である。減圧制御弁27は、ABS制御の保持、増圧モード時においてホイールシリンダWCfrと調圧リザーバ25を遮断し、ABS制御の減圧モード時において連通するノーマルクローズ型の電磁弁である。これら減圧制御弁26,27は、ECU16により連通・遮断状態を制御できる2位置弁として構成されている。これらの減圧制御弁26,27はノーマルブレーキ状態(ABS非作動時)では常時遮断状態(図示状態)とされ、また、適宜連通状態として油経路La5,La6を通じて調圧リザーバ25へブレーキ液を逃がすことにより、ホイールシリンダWCrl,WCfrにおけるブレーキ液圧を制御し、車輪がロック傾向にいたるのを防止できるように構成されている。
【0033】
ポンプ24は、ECU16の指令によりモータ24aによって駆動されるものである。ポンプ24は、ABS制御の減圧モード時においては、ホイールシリンダWCrl,WCfr内のブレーキ液または調圧リザーバ25のリザーバ室内に貯められているブレーキ液を吸い込んで連通状態である液圧制御弁21を介してマスタシリンダ13に戻している。また、ポンプ24は、ESC(Electronic Stability Control)(横滑り防止制御)、トラクションコントロール、ブレーキアシストなどの車両の姿勢を安定に制御するための制御液圧を形成する際においては、差圧状態に切り替えられている液圧制御弁21に差圧を発生させるべく、マスタシリンダ13内のブレーキ液を油経路La1,La7および調圧リザーバ25を介して吸い込んで油経路La4,La2,La3および連通状態である増圧制御弁22,23を介して各ホイールシリンダWCrl,WCfrに吐出して制御液圧を付与している。なお、ポンプ24が吐出したブレーキ液の脈動を緩和するために、油経路La4のポンプ24の上流側にはダンパ29が配設されている。また、油経路La4のポンプ24の上流側には、ポンプの出力ポートへの逆流を防止するために逆止弁28が配設されている。
【0034】
調圧リザーバ25は、一般的に知られているものであり、リザーバ室内に収容されているブレーキ液(油)が所定量(所定圧)未満であるときには、調圧弁が開状態となり、調圧弁を挟んで両側に設けられたポンプ側ポート25aとマスタシリンダ側ポート25bが連通して油経路La7と油経路La4(またはLa5,La6)が連通する。一方、リザーバ室内に収容されているブレーキ液(油)が所定量(所定圧)以上であるときには、調圧弁が閉状態となり、ポンプ側ポート25aとマスタシリンダ側ポート25bが遮断されて油経路La7と油経路La4(またはLa5,La6)が遮断するようになっている。したがって、ブレーキペダル11が踏み込まれていないときには、調圧リザーバ25にはブレーキ液圧が供給されておらずリザーバ室内の液圧が所定量未満であり調圧リザーバ25の調圧弁は開状態であるので、マスタシリンダ13の第1液圧室13aは、油経路La1,La5、調圧リザーバ25、および油経路La4を介してポンプ24の吸入口に連通している。また、ブレーキペダル11が踏み込まれて、調圧リザーバ25のリザーバ室内の液圧が所定量以上となると、調圧リザーバ25の調圧弁は閉状態となり、マスタシリンダ13の第1液圧室13aはポンプ24の吸入口と遮断される。
【0035】
さらに、ブレーキアクチュエータ15の第2配管系Lbは第1配管系Laと同様に油経路Lb1〜Lb7から構成されている。油路Lb1は一端がマスタシリンダ13の第2出力ポート13bに接続されている。油路Lb1上には、液圧制御弁21と同様な液圧制御弁31が配設されている。油路Lb2は、一端が油路Lb1に接続され他端がホイールシリンダWCflに接続されている。油路Lb2上には、増圧制御弁22および逆止弁22aと同様な増圧制御弁32および逆止弁32aが配設されている。油路Lb3は、一端が油路Lb1に接続され他端がホイールシリンダWCrrに接続されている。油路Lb3上には、増圧制御弁23および逆止弁23aと同様な保持弁33および逆止弁33aが配設されている。油路Lb4は、一端が油路Lb1に接続され他端が調圧リザーバ25と同様な調圧リザーバ35に接続されている。油路Lb4上には、ダンパ29、逆止弁28およびポンプ24と同様なダンパ39、逆止弁38およびポンプ34が配設されている。油路Lb2,Lb4を接続する油路Lb5には、減圧制御弁26と同様な減圧制御弁36が配設されている。第4油路Lb3,Lb4を接続する油路Lb6には、減圧制御弁27と同様な減圧制御弁37が配設されている。調圧リザーバ35のマスタシリンダ側ポート35bと油路Lb1の間には油路Lb7が設けられている。
【0036】
これにより、ポンプ24,34の駆動と液圧制御弁21,31の制御によって形成された制御液圧を各車輪Wfl,Wfr,Wrl,WrrのホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに付与することにより各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに制御液圧制動力を発生させることができる。すなわち、ブレーキアクチュエータ15は、運転者の操作によらず車両への制動力を制御可能である。
【0037】
ブレーキ液圧制御装置は、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの車輪速度をそれぞれ検出する各車輪速センサSfl,Sfr,Srl,Srrを備えている。各車輪速センサSfl,Sfr,Srl,Srrからの検出信号がECU16に送信されるようになっている。
【0038】
ブレーキ液圧制御装置は、図1に示すように、ブレーキアクチュエータ15を制御するECU16を備えている。ECU16はブレーキアクチュエータ15とは別体である。ECU16は、マイクロコンピュータ41を有しており、マイクロコンピュータ41は、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAMおよびROM(いずれも図示省略)を備えている。CPUは、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの車輪速度をそれぞれ検出する各車輪速センサSfl,Sfr,Srl,Srrからの各検出信号に基づいて、各電磁弁21,22,23,26,27,31,32,33,36,37の状態を切り換え制御または通電電流制御するとともにモータ24aを駆動しポンプ24,34を制御することによりホイールシリンダWCfl〜WCrrに付与する制御液圧すなわち各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに付与する制御液圧制動力を制御する。また、図3〜6のフローチャートに対応したプログラムを実行して、ブレーキアクチュエータ15の識別情報すなわち作動特性を判定する。RAMは同プログラムの実行に必要な変数を一時的に記憶するものであり、ROMは前記プログラムを記憶するものである。
【0039】
また、ECU16は、図7に示す電磁弁の作動特性マップを記憶している。この作動特性は励磁電流(制御電流)と流体の制御液圧との関係を示すものである。作動特性マップは、バラツキを持って分布する電磁弁の作動特性を複数の領域に分けたものである。本実施形態においては3つの領域A,B,Cを有している。領域Aは太い実線の間の領域であり、領域Bは領域Aの上側の太い実線と細い実線の間の領域であり、領域Cは領域Aの下側の太い実線と細い実線の間の領域である。これら各領域はそれぞれ独立した作動特性マップを表すものであり、図7に示す作動特性マップはそれら各作動特性マップを一つにまとめたものである。作動特性マップは、予め電磁弁の作動特性を計測し、その計測結果に基づいて作成される。
【0040】
ブレーキアクチュエータ15は、複数の作動特性に予め分類された電磁弁のうち同一作動特性(同一分類)の電磁弁が搭載されている。作動特性が同一であるとは、作動特性が図7に示す領域のうちの同一領域に入ることである。
【0041】
さらに、上述したブレーキアクチュエータ15とECU16との電気的な接続について図2を参照して説明する。図2は、ブレーキアクチュエータ15とECU16との電気的な接続構造、電磁弁のうち増圧制御弁22,23,32,33の駆動回路、および、識別信号線の電圧判定回路を示している。
【0042】
増圧制御弁22,23,32,33のソレノイドコイル22a,23a,32a,33aの各一端は、線材(ワイヤハーネス)61a〜64a、スイッチング素子42a,42b,42c,42d(例えばトランジスタ)、線材(ワイヤハーネス)67、およびスイッチ71を介して電源72に電気的に接続されている。ソレノイドコイル22a,23a,32a,33aの各他端は、線材(ワイヤハーネス)61b〜64bを介して電気的に接地されている。スイッチング素子42a,42b,42c,42dはマイコン41のオンオフ指令に基づいて制御されて、ソレノイドコイル22a,23a,32a,33aに流れる制御電流が制御され、増圧制御弁22,23,32,33が制御されるようになっている。
【0043】
ブレーキアクチュエータ15は、搭載されている電磁弁の同一作動特性を示す識別情報が設定されている。識別情報は識別情報部81,82に設定されている。識別情報部81,82はECU16によって電気的に読み取れるもので構成されている。本実施形態においては、識別情報部81,82は識別抵抗81a,82aで構成されている。この場合、識別抵抗81a,82aの抵抗値は、上述した各領域A,B,Cに対応した値に設定されている。なお、ブレーキアクチュエータ15に搭載する識別抵抗81a,82aの抵抗値は同一である。
【0044】
これら識別抵抗81a,82aは、スイッチ71を介して識別電圧を付与する電源72に電気的に接続されている。識別抵抗81a,82aは、線材(ワイヤハーネス)65,66を介してECU16に電気的に接続されている。より具体的には、識別抵抗81a,82aは、識別信号線の電圧判定回路43に電気的に接続されている。
【0045】
この電圧判定回路43は、第1および第2分圧抵抗43a,43b、第1および第2積分回路43c,43d、第1〜第4比較回路43e〜43h、および通信回路43iから構成されている。識別抵抗81aは、第1分圧抵抗43aを介して接地されるとともに、第1積分回路43cを介して第1および第2比較回路43e,43fの各入力端子に接続されている。識別抵抗82aは、第2分圧抵抗43bを介して接地されるとともに、第2積分回路43dを介して第3および第4比較回路43g,43hの各入力端子に接続されている。第1〜第4比較回路43e〜43hの出力端子は通信回路43iに接続されている。通信回路43iは第1〜第4比較回路43e〜43hからの比較信号を入力しマイコン41に出力している。また、第1〜第4比較回路43e〜43hは、ダイオード44およびスイッチ45を介して電源72に電気的に接続されている。
【0046】
スイッチ71,72がそれぞれオンしている時、電源72の電圧(識別電圧)が識別抵抗81aと第1分圧抵抗43aによって分圧される。この分圧値が識別抵抗81aからの電圧すなわち第1識別信号線の電圧である。同時に、電源72の電圧(識別電圧)が識別抵抗82aと第2分圧抵抗43bによって分圧される。この分圧値が識別抵抗82aからの電圧すなわち第2識別信号線の電圧である。第1および第2識別信号線の各電圧は、第1および第2積分回路43c,43dで積分されて第1〜第4比較回路43e〜43hの各入力端子に入力する。
【0047】
第1〜第4比較回路43e〜43hに供給される電源電圧が12Vであり、第1および第3比較回路43e,43gの基準電圧を8Vに設定し、第2および第4比較回路43f,43hの基準電圧を4Vに設定する。入力電圧が8V以上12V以下である場合、マイコン41は第1および第3比較回路43e,43gからの出力結果に基づいて第1識別信号線の電圧はHレベル(ハイレベル)であると判定する。入力電圧が4V以上8V未満である場合、マイコン41は第1および第3比較回路43e,43gからの出力結果に基づいて第1識別信号線の電圧はMレベル(ミドルレベル)であると判定する。入力電圧が0V以上4V未満である場合、マイコン41は第1および第3比較回路43e,43gからの出力結果に基づいて第1識別信号線の電圧はLレベル(ローレベル)であると判定する。第2識別信号線についても同様に判定する。
【0048】
なお、前述したH,M,Lレベルは図7に示す各領域C,B,Aに対応付けされている。また、信号線の故障(断線・短絡)により作動特性の領域を誤選択するのを防止するため、信号線を2本にしている。第1識別信号線および第2識別信号線の各電圧レベルが(H,H)の組み合わせであれば、ブレーキアクチュエータ15の識別情報は領域Cの作動特性であると確定する。第1識別信号線および第2識別信号線の各電圧レベルが(M,M)の組み合わせであれば、ブレーキアクチュエータ15の識別情報は領域Bの作動特性であると確定する。そして、第1識別信号線および第2識別信号線の各電圧レベルが(L,L)の組み合わせであれば、ブレーキアクチュエータ15の識別情報は領域Aの作動特性であると確定する。
【0049】
また、第1識別信号線および第2識別信号線の各電圧レベルが、これら以外の組み合わせである場合には、信号線が故障(断線・短絡)していると判定する。この場合、ブレーキアクチュエータ15の識別情報をとりあえず領域Bの作動特性に設定する。これにより、ブレーキアクチュエータ15の識別情報は不確かであるが、ブレーキアクチュエータ15の駆動すなわち電磁弁の駆動を実施することができる。
【0050】
なお、マイコン41は、ダイオード44、IG1端子およびスイッチ45を介して電源72に電気的に接続されており、電源72からの電源電圧すなわち比較回路43e,43f,43g,43hへの電源電圧(比較回路電源電圧)を監視している。また、マイコン41は、AST端子およびスイッチ71介して電源72に電気的に接続されており、識別抵抗81a,82aに付与される電源電圧である識別電圧を監視している。
【0051】
次に、上述したブレーキ液圧制御装置の作動について図3〜図6のフローチャートに沿って説明する。ECU16は、車両のイグニションスイッチ(図示省略)がオン状態になると、上記フローチャートに対応したプログラムを実行する。ECU16が起動されると、ECU16は、メモリクリア、フラグリセット等の初期化処理を行い(ステップ102)、以降の処理を所定時間Ta(例えば5msec)毎に実行するために、所定時間Taが経過するのを待つ(ステップ104)。
【0052】
そして、ECU16は、所定時間Taが経過したと判断すると(ステップ104にてYES)、特性判定処理が終了したか否かを判断する(ステップ106)。特性判定処理が終了していないと判断すると(ステップ106にてNO)、特性判定処理を実行し(ステップ108)、特性判定処理が終了したと判断すると(ステップ106にてYES)、特性判定処理を飛ばして液圧制御を実施する(ステップ110)。
【0053】
ステップ106において、ブレーキアクチュエータ15の作動特性が確定された場合、および識別信号線が異常と判定された場合には、特性判定処理が終了していると判定され、そうでなければ特性判定処理が終了していないと判定される。
【0054】
ECU16は、ステップ108において、図4に示す特性判定処理ルーチンを実施する。ECU16は、ステップ200にて本ルーチンが開始される度に、特性切替判定の実施を許可するか否かを判定する(ステップ202)。具体的には、ECU16は、識別抵抗81a,82aに付与する識別電圧が正常電圧(例えば10Vから16Vの範囲)であり、かつ、比較回路に付与される電源電圧(比較回路電源電圧)が正常電圧(例えば10Vから16Vの範囲)である場合には、ステップ202(判定許可手段)にて「YES」と判定し後述する判定手段による判定(特性判定処理)を許可する。一方そうでない場合には、「NO」と判定しプログラムをステップ224に進めて、各信号回数カウンタやサンプル回数カウンタをクリアし、その後ステップ216にて本ルーチンを終了する。なお、ステップ202において、識別電圧と比較回路電源電圧との差が所定値(例えば2V)以下であることを判定許可条件として追加しても良い。
【0055】
ECU16は、ステップ204において、図5に示す第1識別信号線レベル判定ルーチンを実施する。ECU16は、ステップ300にて本ルーチンが開始される度に、ステップ302からステップ310の処理によって第1識別信号の電圧レベルがハイレベルかミドルレベルかローレベルかを判定し、その判定結果のレベルの回数をカウントする。すなわち、第1識別信号の電圧がハイレベルであれば、ステップ302にて「YES」と判定し、ステップ306で第1識別信号H回数(カウンタ)をカウントアップする。第1識別信号の電圧がミドルレベルであれば、ステップ302,304にて「NO」、「YES」と判定し、ステップ308で第1識別信号M回数(カウンタ)をカウントアップする。そして、第1識別信号の電圧がローレベルであれば、ステップ302,304にてそれぞれ「NO」と判定し、ステップ310で第1識別信号L回数(カウンタ)をカウントアップする。なお、ステップ302および304においては、ECU16は第1識別信号の電圧を入力しそれに基づいて上述したように電圧レベルを判定する。
【0056】
ECU16は、ステップ312からステップ324の処理によって第1識別信号H回数、第1識別信号M回数および第1識別信号L回数のうちいずれかが規定回数(例えば40回)以上となれば、規定回数以上となった電圧レベルが第1識別信号の確定値として設定される。すなわち、第1識別信号H回数が規定回数以上となれば、ステップ312にて「YES」と判定し、ステップ318にてハイレベルが第1識別信号の確定値として設定される。第1識別信号M回数が規定回数以上となれば、ステップ312、314にて「NO」、「YES」とそれぞれ判定し、ステップ320にてミドルレベルが第1識別信号の確定値として設定される。そして、第1識別信号L回数が規定回数以上となれば、ステップ312、314、316にて「NO」、「NO」、「YES」とそれぞれ判定し、ローレベルが第1識別信号の確定値として設定される。そして、ECU16は、ステップ324において、第1識別信号が確定されたと設定する。その後ステップ326にて本ルーチンを終了する。
【0057】
また、ECU16は、第1識別信号H回数、第1識別信号M回数および第1識別信号L回数のうちいずれも規定回数(例えば40回)未満である場合には、ステップ312、314、316にて「NO」とそれぞれ判定し、その後ステップ326にて本ルーチンを終了する。
【0058】
そして、ECU16は、プログラムをステップ206に進めて、図6に示す第2識別信号線レベル判定ルーチンを実施する。この第2識別信号線レベル判定ルーチンは前述した第1識別信号線レベル判定ルーチンと同様な処理である。ECU16は、ステップ400にて本ルーチンが開始される度に、ステップ402からステップ410の処理によって第2識別信号の電圧レベルがハイレベルかミドルレベルかローレベルかを判定し、その判定結果のレベルの回数をカウントする。すなわち、第2識別信号の電圧がハイレベルであれば、ステップ402にて「YES」と判定し、ステップ406で第2識別信号H回数(カウンタ)をカウントアップする。第2識別信号の電圧がミドルレベルであれば、ステップ402,404にて「NO」、「YES」と判定し、ステップ408で第2識別信号M回数(カウンタ)をカウントアップする。そして、第2識別信号の電圧がローレベルであれば、ステップ402,404にてそれぞれ「NO」と判定し、ステップ410で第2識別信号L回数(カウンタ)をカウントアップする。なお、ステップ402および404においては、ECU16は第2識別信号の電圧を入力しそれに基づいて上述したように電圧レベルを判定する。
【0059】
ECU16は、ステップ412からステップ424の処理によって第2識別信号H回数、第2識別信号M回数および第2識別信号L回数のうちいずれかが規定回数(例えば40回)以上となれば、規定回数以上となった電圧レベルが第2識別信号の確定値として設定される。すなわち、第2識別信号H回数が規定回数以上となれば、ステップ412にて「YES」と判定し、ステップ418にてハイレベルが第1識別信号の確定値として設定される。第2識別信号M回数が規定回数以上となれば、ステップ412、414にて「NO」、「YES」とそれぞれ判定し、ステップ420にてミドルレベルが第2識別信号の確定値として設定される。そして、第2識別信号L回数が規定回数以上となれば、ステップ412、414、416にて「NO」、「NO」、「YES」とそれぞれ判定し、ローレベルが第2識別信号の確定値として設定される。そして、ECU16は、ステップ424において、第2識別信号が確定されたと設定する。その後ステップ426にて本ルーチンを終了する。
【0060】
また、ECU16は、第2識別信号H回数、第2識別信号M回数および第2識別信号L回数のうちいずれも規定回数(例えば40回)未満である場合には、ステップ412、414、416にて「NO」とそれぞれ判定し、その後ステップ426にて本ルーチンを終了する。
【0061】
ECU16は、プログラムを図4に示す特性判定処理ルーチンのステップ208以降に進める。第1および第2識別信号の両方が確定し、かつ、第1および第2識別信号の確定値の組み合わせが正しい場合には、ECU16は、ステップ208、210にてそれぞれ「YES」と判定し、ステップ212でブレーキアクチュエータ15の特性(作動特性)を確定(判定)する。第1および第2識別信号の確定値の組み合わせが正しい場合とは、第1および第2識別信号の確定値が同一レベルである場合である。例えば、第1および第2識別信号の確定値の組み合わせが(H,H)であれば、ブレーキアクチュエータ15の作動特性は領域Cであると確定する。
【0062】
また、第1および第2識別信号の両方が確定し、かつ、第1および第2識別信号の確定値の組み合わせが正しくない場合には、ECU16は、ステップ208、210にて「YES」、「NO」と判定し、ステップ214で第1および第2識別信号線のいずれかが異常(断線、短絡)であると確定(判定)する。もともと識別抵抗81a,82aは同一抵抗値であるので、第1および第2識別信号線に異常がなければ第1および第2識別信号の電圧値は同一レベルになるはずである。したがって、第1および第2識別信号の確定値の組み合わせが正しくないすなわち第1および第2識別信号の電圧値が異なるレベルである場合、第1および第2識別信号線のいずれかが異常があることになる。
【0063】
また、第1および第2識別信号の両方が確定していない場合、ECU16は、ステップ208にて「NO」と判定し、ステップ218でサンプル回数(識別信号不定異常カウンタ)をカウントアップし、ステップ220でそのサンプル回数が規定回数(50回)以上であるか否かを判定する。この場合、確定していない識別信号線を対象にサンプル回数がカウントアップされる。サンプル回数が規定回数以上である場合には、ECU16は、ステップ220にて「YES」と判定し、ステップ222で第1および第2識別信号線のいずれかが異常(断線、短絡)であると確定(判定)する。これにより、この規定回数(50回)分の時間(特許請求の範囲の請求項3に記載の「所定時間」である。)すなわち300ms以内に識別信号の判定が実施可能であり、その時間を越えると識別信号線に異常があるとみなして識別信号の判定が中止される。
【0064】
なお、サンプル回数が規定回数以上である場合には、ECU16は、ステップ220にて「NO」と判定し、ステップ216で本ルーチンを終了する。また、ステップ211,214,222の処理後、ECU16は、プログラムをステップ216に進めて本ルーチンを終了する。
【0065】
そして、ECU16は、プログラムを図3に示すステップ110に進めて、確定された作動特性(作動特性マップ)に基づいてブレーキアクチュエータ15すなわちブレーキアクチュエータ15の各電磁弁を駆動してブレーキ液圧を制御(調整)する。ECU16は例えばABS制御を実施する。ECU16は、制動中において車体速度および各車輪速度に基づいて車輪のロック状態(車輪制動状態)を監視しており、ロック状態にあればABS制御を実行し、ロック状態になければABS制御を実行しない。ロック状態とは、車輪がロックした状態だけでなく、車輪のスリップ量が所定値より大きい状態を含むものとする。ABS制御とは、車両の制動時に車輪速検出手段Sfl,Sfr,Srl,Srrで検出された車輪速に基づいて各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrのホイールシリンダ圧の減圧、保持および増圧を繰り返し実行してホイールシリンダ圧を自動的にコントロールすることにより、車輪と路面間の摩擦力を確保するものである。
【0066】
具体的には、ECU16は、車輪速検出手段Sfl,Sfr,Srl,Srrで検出された車輪速に基づいて車体速度を演算し、その車体速度と各輪の車輪速度とに基づいて車輪スリップ量(車輪制動状態を示す)を演算する。ECU16は、車輪速検出手段Sfl,Sfr,Srl,Srrで検出された車輪速に基づいて車輪加速度を演算する。そして、ECU16は、車輪スリップ量および車輪加速度に基づいて電磁弁22,23,26,27,32,33,36,37の状態を切り替えて、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrのホイールシリンダ圧の減圧、保持および増圧を繰り返し実行して制動力を調整している。
【0067】
さらに、上述したブレーキ液圧制御装置の作動を図7に示すタイムチャートを参照して説明する。第1および第2識別信号線からは両方ともHレベルの電圧信号が入力されているとする。時刻t1〜t2、時刻t3〜t9、時刻t10以降の各時間帯において、ステップ202の許可条件を満足して特性切替判定の許可状態となっている。
【0068】
時刻t1から第1および第2識別信号線Hカウンタがカウントアップされるとともに、まだ第1および第2識別信号線ともに確定していないので、不定異常カウンタもカウントアップされる。しかし、時刻t2にて許可状態が終了するので、各信号線カウンタおよび不定異常カウンタのカウントアップは中止され、各信号線カウンタ、不定異常カウンタはクリアされる。
【0069】
時刻t3から第1および第2識別信号線Hカウンタが再びカウントアップされる。時刻t4からt5の間、第1識別信号線が外乱によってHレベルからMレベルに落ちると、第1識別信号線Hカウンタのカウントアップがホールドされるとともに第1識別信号線Mカウンタがカウントアップされる。時刻t5にて第1識別信号線がHレベルに復帰すると、第1識別信号線Hカウンタが再びカウントアップされるとともに第1識別信号線Mカウンタのカウントアップがホールドされる。
【0070】
一方、時刻t4からt6の間、第2識別信号線が外乱によってHレベルからMレベルに落ちると、第2識別信号線Hカウンタのカウントアップがホールドされるとともに第2識別信号線Mカウンタがカウントアップされる。時刻t6にて第2識別信号線がHレベルに復帰すると、第2識別信号線Hカウンタが再びカウントアップされるとともに第2識別信号線Mカウンタのカウントアップがホールドされる。
【0071】
第1識別信号線Hカウンタのカウントアップが進んで時刻t7にて規定回数に達すると、第1識別信号線確定値がHレベルに設定されて、第1識別信号線が確定に設定され、以降第1識別信号線確定が維持される。また、第1識別信号線Hカウンタ、第1識別信号線Mカウンタ、および第1識別信号線Lカウンタがクリアされる。
【0072】
時刻t8にて許可状態が終了するので、第2識別信号線の各カウンタおよび不定異常カウンタのカウントアップは中止され、第2識別信号線の各信号線カウンタ、不定異常カウンタはクリアされる。なお、第1識別信号線確定および第1識別信号線確定値はクリアされない。
【0073】
時刻t9にて再び許可状態となると、第2識別信号線Hカウンタが再びカウントアップされる。第1識別信号線は確定したので、第1識別信号線の各カウンタはカウントアップされない。時刻t10からt11の間、第2識別信号線が外乱によってHレベルからLレベルに落ちると、第2識別信号線Hカウンタのカウントアップがホールドされるとともに第2識別信号線Lカウンタがカウントアップされる。時刻t11にて第2識別信号線がHレベルに復帰すると、第2識別信号線Hカウンタが再びカウントアップされるとともに第2識別信号線Lカウンタのカウントアップがホールドされる。
【0074】
第2識別信号線Hカウンタのカウントアップが進んで時刻t12にて規定回数に達すると、第2識別信号線確定値がHレベルに設定されて、第2識別信号線が確定に設定され、以降第2識別信号線確定が維持される。また、第2識別信号線Hカウンタ、第2識別信号線Mカウンタ、および第2識別信号線Lカウンタがクリアされる。
【0075】
なお、図7の破線で示すように、時刻t11にて第2識別信号線がHレベルでなくMレベルまでしか復帰しないとすると、第2識別信号線Hカウンタのホールドが維持され、第2識別信号線Mカウンタがカウントアップされ、第2識別信号線Lカウンタのカウントアップがホールドされる。そして、第2識別信号線Mカウンタのカウントアップが進むなか、不定異常カウンタのカウントアップも進んで時刻t13にて規定回数(50回)に達すると、識別信号線に異常(例えば接触不良)があるとして特性判定処理を終了する。
【0076】
上述した説明から明らかなように、本実施形態によれば、ブレーキアクチュエータ15は、複数の作動特性に予め分類された電磁弁のうち同一作動特性の電磁弁が備えられるとともに、その作動特性を示す識別情報が設定されている。これにより、電磁弁自体のバラツキを抑えることなく、また、電磁弁を選別することなく、電磁弁の作動特性範囲を数グループに分割して同一グループの電磁弁をブレーキアクチュエータ15に備えることにより、電磁弁のバラツキ特性を現状のままで歩留まりを出さずに利用することができる。また、グループ分けされた作動特性を示す識別情報がブレーキアクチュエータ15に設定されているので、識別情報を有するブレーキアクチュエータ15を単品で取り扱うことができる。
【0077】
また、ECU(制御装置)16においては、判定手段(ステップ108)が、ブレーキアクチュエータ15から識別情報を入力し同識別情報に基づいてブレーキアクチュエータ15の作動特性を判定し、特性マップ確定手段(ステップ212)が、判定手段により判定された作動特性に対応する特性マップを予め記憶されている特性マップのなかからを確定し、駆動手段(ステップ110)が、特性マップ確定手段によって確定された特性マップに基づいてブレーキアクチュエータ15を駆動する。したがって、電磁弁の作動特性にバラツキがあっても電磁弁のバラツキ特性を現状のままで歩留まりを出さずに流体の圧力または流量の制御精度を向上することができる。また、作動特性は識別情報としてブレーキアクチュエータ15に設定されるとともに、特性マップも電磁弁毎に記憶する必要はないので、記憶容量を小さくすることができる。さらに、ブレーキアクチュエータ15から識別情報を入力し同識別情報に基づいてブレーキアクチュエータ15の作動特性を判定するので、作動特性を短時間で得ることでき、通常制御に影響がでるのを防止することができる。
【0078】
また、識別情報は同識別情報に対応した識別抵抗81a,82aにより形成される電圧値のレベルで示されるので、簡単な構成で識別情報を付与できるとともに容易に取り出すことができる。
【0079】
また、レベル判定手段(ステップ302,304,402,404)が、所定の短時間毎に電圧値のレベルを判定し、作動特性確定手段(ステップ312,314,316,412,414,416)が、レベル判定手段によって所定時間内に所定回数以上判定された電圧値のレベルをブレーキアクチュエータ15の作動特性として確定する。これにより、外乱によって電圧値にノイズが乗っても、判定が遅くなったり、誤判定をしたりするのを防止することができる。
【0080】
また、識別情報は同識別情報に対応した少なくとも二つの識別抵抗81a,82aによりそれぞれ形成される各電圧値のレベルで示されるので、電圧値の信号線が断線していたり短絡していたりする場合、制御装置16がブレーキアクチュエータ15の識別情報を誤判定するのを防止することができる。
【0081】
また、判定許可手段(ステップ202)が、識別抵抗に付与する識別電圧が正常電圧であり、かつ、比較回路の電源電圧が正常電圧である場合には、判定手段による判定を許可する。これにより、制御装置16がブレーキアクチュエータ15の識別情報を誤判定するのを防止することができる。
【0082】
また、ブレーキアクチュエータ15と制御装置16は別体であるので、ブレーキアクチュエータ15と制御装置16を別々に取り扱うことができる。したがって、ブレーキ液圧制御装置を構成する部材であるブレーキアクチュエータ15と制御装置16の保管性、組み付け性を良くすることができる。
【0083】
なお、特許請求の範囲に記載した判定手段はステップ108の処理であり、記憶手段は制御装置16の記憶部(記憶装置)であり、特性マップ確定手段はステップ212の処理であり、駆動手段はステップ110の処理であり、レベル判定手段はステップ302,304,402,404の処理であり、作動特性確定手段はステップ312,314,316,412〜416の処理であり、判定許可手段はステップ202の処理である。
【0084】
なお、上述した実施形態においては、識別情報は識別抵抗81a,82aに設定されているが、これ以外に識別情報を電気信号で取り出せる記憶装置に設定するようにしてもよい。すなわち、識別情報は記憶装置に記憶されている情報で示されるようにしてもよい。これによれば、簡単な構成で識別情報を付与できるとともに容易に取り出すことができる。
【0085】
また、識別抵抗81a,82aは2つでなく、3つ以上から構成するようにしてもよい。
また、上述した実施形態においては、ブレーキ配管系はX配管方式にて構成されているが、前後分割方式にて構成されるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明によるブレーキ液圧制御装置の一実施形態を示す概要図である。
【図2】図1に示すブレーキアクチュエータとECUとの電気的な接続構造、電磁弁の駆動回路、および識別信号線の電圧判定回路を示す図である。
【図3】図1に示すECUにて実行される制御プログラムのフローチャートである。
【図4】図1に示したECUにて実行される特性判定処理ルーチンのフローチャートである。
【図5】図1に示したECUにて実行される第1識別信号線レベル判定ルーチンのフローチャートである。
【図6】図1に示したECUにて実行される第2識別信号線レベル判定ルーチンのフローチャートである。
【図7】本発明によるブレーキ液圧制御装置の作動を示すタイムチャートである。
【図8】電磁弁の作動特性を示す特性マップである。
【符号の説明】
【0087】
11…ブレーキペダル、12…負圧式ブースタ、13…マスタシリンダ、14…リザーバタンク、15…ブレーキアクチュエータ、16…ECU(制御装置)、21,31…液圧制御弁(電磁弁)、22,23,32,33…増圧制御弁(電磁弁)、26,27,36,37…減圧制御弁(電磁弁)、識別抵抗…81a,82a、Wfl,Wfr,Wrl,Wrr…車輪、La,Lb…第1および第2配管系、Sfl,Sfr,Srl,Srr…車輪速センサ、WCfl,WCfr,WCrl,WCrr…ホイールシリンダ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイールシリンダ(WCfl,WCfr,WCrl,WCrr)の液圧を調整可能な電磁弁(21,31,22,23,32,33,26,27,36,37)として複数の作動特性に予め分類された電磁弁のうち同一作動特性の電磁弁が備えられるとともに、その作動特性を示す識別情報が設定されているアクチュエータ(15)と、
前記アクチュエータから前記識別情報を入力し同識別情報に基づいて前記アクチュエータの作動特性を判定する判定手段(ステップ108)と、
前記各作動特性に対応した各特性マップを予め記憶する記憶手段と、
前記判定手段により判定された作動特性に対応する特性マップを確定する特性マップ確定手段(ステップ212)と、
前記特性マップ確定手段によって確定された特性マップに基づいて前記アクチュエータを駆動する駆動手段(ステップ110)とを備えたことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記識別情報は同識別情報に対応した識別抵抗(81a,82a)により形成される電圧値のレベルで示されることを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項3】
請求項2において、前記判定手段は、所定の短時間毎に前記電圧値のレベルを判定するレベル判定手段(ステップ302,304,402,404)と、
前記レベル判定手段によって所定時間内に所定回数以上判定された前記電圧値のレベルを前記アクチュエータの作動特性として確定する作動特性確定手段(ステップ312〜322,412〜422)とを備えたことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項4】
請求項2において、前記識別情報は同識別情報に対応した少なくとも二つの識別抵抗によりそれぞれ形成される各電圧値のレベルで示されることを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項5】
請求項3において、前記識別抵抗に付与する識別電圧が正常電圧であり、かつ、比較回路の電源電圧が正常電圧である場合には、前記判定手段による判定を許可する判定許可手段(ステップ202)を備えたことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項6】
請求項1において、前記識別情報は記憶装置に記憶されている情報で示されることを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項7】
請求項1において、前記判定手段、記憶手段、特性マップ確定手段、および駆動手段を含んだ制御装置を備え、前記アクチュエータと前記制御装置は別体であることを特徴とするブレーキ液圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−55560(P2007−55560A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−246650(P2005−246650)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】