説明

ブレース付き柱・梁架構の露出型柱脚部の設計支援方法および設計支援システム

【課題】ブレース構造における露出型柱脚部において、ブレース材を先行して決定し、それに基づいてガセットプレートを設計する手法により、設計を簡便に行うことが可能なブレース付き柱・梁架構の露出型柱脚部の設計支援方法および設計支援システムを提供する。
【解決手段】入力手段、表示手段および出力手段を備える演算装置を用い、架構の柱材、梁材およびブレース材を入力する入力ステップと、入力された柱材に対応する露出型柱脚を決定する柱脚決定ステップと、入力されたブレース材の終局耐力を決定する終局耐力決定ステップと、ガセットプレートの材質および最小幅を入力するガセットプレート初期データ入力ステップと、ガセットプレートの板厚および必要溶接長さを算出するガセットプレート算出ステップと、露出型柱脚が適用可能か否かを判定する柱脚判定ステップと、柱脚およびガセットプレートの設計仕様を表示する表示ステップとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレース構造における露出型柱脚部において、ブレース材を先行して決定し、それに基づいてガセットプレートを設計する手法により、設計を簡便に行うことが可能なブレース付き柱・梁架構の露出型柱脚部の設計支援方法および設計支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブレース材の端部が露出型柱脚部に取り付くブレース構造を設計する際、まず、設計者は柱・梁・ブレースを線材でモデル化して各部材に生じる応力を算出し、それに見合った断面等の仕様を決定する。さらに、各部材の応力から柱脚に作用する応力を算出し、算出された応力に耐え得るような露出型柱脚の仕様を設計する。
【0003】
その際、露出型柱脚では、ブレース材からの引張力およびせん断力も考慮しなければならず、ラーメン構造の露出型柱脚の設計と比較してせん断力が大きくなるため、「アンカーボルトの本数を多くする」、「ベースプレート下面にシアキーを設ける」あるいは「ボルト径とほぼ同じ孔径を有する座金をアンカーボルトに挿通させてベースプレートに溶接する」といったせん断力に対する措置を検討する必要がある。
【0004】
ブレース構造における露出型柱脚部においては一般に、ブレース材端部と柱脚はガセットプレートを介して接合される。そして、このガセットプレートは柱フランジ面(H型鋼の場合は、フランジ面またはウエブ面)とベースプレート上面にそれぞれ溶接によって固定されるが、ブレース構造における柱脚の仕様は、上述したようにアンカーボルトの本数が多くなることから、「希望する位置にガセットプレートを取り付けることができない」ということが多々あった。この場合には、ベースプレートには接合せずに、鉛直方向にずらして柱材のみにガセットプレートを取り付けることになり、その結果、柱脚に付加的な曲げが作用するため、改めて、柱脚の設計を行うことになる。よって、ブレース構造における露出型柱脚部の設計において「ガセットプレートの取付位置が制限される」という、厄介な問題があった。
【0005】
さらに、柱脚部の設計においては、強度が大きいブレース材、すなわち柱脚に作用するせん断力および引張力が大きいブレース材が取り付く場合、ガセットプレートを固定するための溶接強度が不足することもある。その際、柱フランジ面からのベースプレートの出を長くして、ベースプレートに対する溶接量を確保することも行うが、この方法では、ベースプレートの仕様を変更することになるので、当初設計した柱脚の性能とは異なってしまい、ブレースを備える架構全体の設計を改めて行う必要があった。また、ブレース材を露出型柱脚には取り付けず、基礎部の別の位置に取り付けることもあるが、この場合も、改めて架構の設計を行うことになり、結局は従来の露出型柱脚に強度の大きいブレース材を取り付けることは難しいものであった。
【0006】
また、ガセットプレートについては、ブレース位置の関係で、柱心に対して水平方向に偏心した状態で接合される場合も多く、この場合、捻れが柱脚部に作用するため、露出型柱脚の設計をさらに複雑化することとなっていた。
【0007】
以上のことから、ブレース構造における露出型柱脚部の設計は、設計者にとって非常に手間がかかるものであった。
【0008】
また、従来の露出型柱脚において、柱材の種類や径、材質等に応じて予め仕様が決められているものも知られている。これら柱脚は剛性や耐力等の性能についても定められていることから、露出型柱脚としての設計は殆ど行う必要がなく、柱脚の適用可否を確認する程度で足りる。そしてこれら柱脚は、上述した既存の設計による柱脚仕様よりもアンカーボルトの本数が少ないことから、ブレース構造を採用する場合、従来のようにガセットプレートの取付位置が制限されるような事態は少ない。
【0009】
しかしながら、これら露出型柱脚は基本的に、柱脚に作用するせん断力をベースプレート下面と基礎コンクリート上面の摩擦力によって負担させる設計思想であるため、その柱脚に大きなせん断力および引張力が作用する場合、摩擦力だけでは負担しきれなかったり、摩擦力自体が「0」になってしまうということもあった。よって、これら露出型柱脚においても、設計者は、上述した強度が大きいブレース材を簡単には採用することができず、もし採用するのであれば、ベースプレート下面にシアキーを設けるなどの上記措置を講じた上で、改めて柱脚部の設計を行い、性能的に問題がないことを確認しなければならなかった。
【0010】
さらに、これら露出型柱脚においても、柱心に対してガセットプレートが水平方向に偏心して接合されるときに、捩りが生じる場合の設計方法や措置が何ら提示されていないことから、従来の柱脚部同様、設計者の負担が解消されることはなかった。しかも、この露出型柱脚は、仕様を一部でも変更すると規格外となるため、設計者は予め定められている柱脚性能の範囲内で、適用可能なブレース材の方を選定し設計及び確認を行わなければならず、結果的には、比較的強度の小さいブレース材を用いることしかできなかった。
【0011】
この種の露出型柱脚として、本願出願人は、耐震性向上のためのブレースが採用可能で、しかも施工性が良好なブレース付き露出型柱脚構造を出願している(特許文献1参照)。
【0012】
特許文献1のブレース付き露出型柱脚構造は、アンカーボルトとボルト挿通孔との間隙に高強度無収縮モルタルを充填して、すべてのアンカーボルトに柱脚に作用するせん断力を負担させる設計思想であることから、従来の摩擦力によるものと比較して大きなせん断力を負担できるという利点がある。さらに、アンカーボルトの周辺部に高強度無収縮モルタルが充填されていることから、柱心に対してガセットプレートが偏心して接合されるような場合であっても、柱脚部に生じるねじれに対してベースプレートにアンカーボルトが片当たりして、そのアンカーボルトにせん断力が集中するような状況にはならず、すべてのアンカーボルトに対してせん断力を均等に負担させることができるものである。
【特許文献1】特開2008−013912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来からある構造設計の支援システムのうち、柱脚部を設計し、その仕様を決定して出力するものは、ラーメン構造であれば設計も容易であることから、多数知られている。しかしながら、ブレース構造は、上述したような設計上・計算上において検討できない点など、数多くの問題点がある。せいぜい、「構造部材を線材でモデル化してそれら部材に生じる応力から算出される柱脚部の応力に対して、設計者が希望するもしくは所定の柱脚リストから選定する、柱脚仕様の適否を判断するシステム」や「既に設計が完了して全構造部材の仕様が決定した後に、これら仕様を入力することで露出型柱脚部の仕様を作図するシステム」程度のものが知られているに過ぎない。
【0014】
そして特に、ブレース構造における露出型柱脚部の設計で、ガセットプレートも考慮に入れた、一貫設計可能な方法およびシステムの案出が望まれている。すなわち、一般には、ガセットプレートの形状寸法を決めた上で、それに接合するブレース材の長さを細かく調整している。ブレース材の細かな設定では、製品の完成までに時間がかかり、また細かい寸法違いの多種のブレース材を在庫として持つことも、大変な管理作業を要することになる。
【0015】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、ブレース構造における露出型柱脚部において、ブレース材を先行して決定し、それに基づいてガセットプレートを設計する手法により、設計を簡便に行うことが可能なブレース付き柱・梁架構の露出型柱脚部の設計支援方法および設計支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明にかかるブレース付き柱・梁架構の露出型柱脚部の設計支援方法は、入力手段、表示手段および出力手段を備える演算装置を用い、検討するブレース付き柱・梁架構の階高およびスパン、フレーム形状、該架構に作用する荷重、並びに当該荷重により生じる応力に基づいて予め決定した当該架構の柱材、梁材およびブレース材を上記入力手段により上記演算装置に入力する入力ステップと、少なくとも柱材、柱材下端のベースプレートおよびベースプレートを基礎に接合するアンカーボルトを構成要素とする露出型柱脚のうち、入力された上記柱材に基づいて、それに対応する露出型柱脚を上記演算装置が決定する柱脚決定ステップと、入力された上記ブレース材に基づいて、該ブレース材の終局耐力を上記演算装置が決定する終局耐力決定ステップと、ブレース材を露出型柱脚に接合するガセットプレートの材質および最小幅を上記入力手段により上記演算装置に任意に入力するガセットプレート初期データ入力ステップと、決定されたブレース材の上記終局耐力から、入力された上記ガセットプレートについてその板厚および決定された上記露出型柱脚周辺への必要溶接長さを上記演算装置が算出するガセットプレート算出ステップと、架構に作用する荷重により生じる上記応力から、決定された上記露出型柱脚が適用可能か否かを上記演算装置が判定する柱脚判定ステップと、適用可能な上記柱脚および算出された上記ガセットプレートの設計仕様を上記出力手段に出力可能に上記表示手段に上記演算装置が表示する表示ステップとを備えることを特徴とする。
【0017】
柱材の柱心からブレース取付位置までの水平方向偏心距離を前記入力手段により前記演算装置に予め入力する水平偏心入力ステップを備え、前記ガセットプレート算出ステップと前記柱脚判定ステップの間で、前記演算装置が、入力された上記水平方向偏心距離に基づいて、算出された前記ガセットプレートが決定された上記露出型柱脚に取付可能か否かを判定する水平偏心判定ステップを実行することを特徴とする。
【0018】
前記水平偏心判定ステップの判定が否であるときに、前記柱脚判定ステップの前に、前記演算装置が、算出された前記ガセットプレートの鉛直方向移動距離を算出する鉛直移動算出ステップと、算出された上記鉛直方向移動距離に基づいて、算出された上記ガセットプレートが決定された前記露出型柱脚に適用可能か否かを判定する鉛直移動判定ステップと、適用可能な上記ガセットプレートの鉛直方向移動距離に基づく取付位置で、前記架構に作用する荷重により、入力された前記柱材、梁材およびブレース材に生じる応力を再計算する応力再計算ステップを実行することを特徴とする。
【0019】
前記ガセットプレート算出ステップの後に、算出された前記ガセットプレートを入力された前記ブレース材に接続する継手を前記演算装置が決定する継手決定ステップを備えることを特徴とする。
【0020】
前記演算装置には、前記柱材、梁材、ブレース材、柱脚のデータベースが格納されていることを特徴とする。
【0021】
本発明にかかるブレース付き柱・梁架構の露出型柱脚部の設計支援システムは、入力手段、表示手段および出力手段を備える演算装置を備え、上記演算装置は、検討するブレース付き柱・梁架構の階高およびスパン、フレーム形状、該架構に作用する荷重、並びに当該荷重により生じる応力に基づいて予め決定した当該架構の柱材、梁材およびブレース材を上記入力手段から受け付ける入力ステップと、少なくとも柱材、柱材下端のベースプレートおよびベースプレートを基礎に接合するアンカーボルトを構成要素とする露出型柱脚のうち、入力された上記柱材に基づいて、それに対応する露出型柱脚を決定する柱脚決定ステップと、入力された上記ブレース材に基づいて、該ブレース材の終局耐力を決定する終局耐力決定ステップと、ブレース材を露出型柱脚に接合するガセットプレートの任意の材質および最小幅を上記入力手段から受け付けるガセットプレート初期データ入力ステップと、決定されたブレース材の上記終局耐力から、入力された上記ガセットプレートについてその板厚および決定された上記露出型柱脚周辺への必要溶接長さを算出するガセットプレート算出ステップと、架構に作用する荷重により生じる上記応力から、決定された上記露出型柱脚が適用可能か否かを判定する柱脚判定ステップと、適用可能な上記柱脚および算出された上記ガセットプレートの設計仕様を上記出力手段に出力可能に上記表示手段に表示する表示ステップとを実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明にかかるブレース付き柱・梁架構の露出型柱脚部の設計支援方法および設計支援システムにあっては、ブレース構造における露出型柱脚部において、ブレース材を先行して決定し、それに基づいてガセットプレートを設計する手法により、設計を簡便に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明にかかるブレース付き柱・梁架構の露出型柱脚部の設計支援方法および設計支援システムの好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。本実施形態にあっては、図示しないけれども、キーボードやマウスなどの入力手段、モニターなどの表示手段、プリンタなどの出力手段を備えたパソコンなどの周知慣用の演算装置を備える設計支援システムにより、設計支援方法が実行される。
【0024】
本実施形態にかかるブレース付き柱・梁架構の露出型柱脚部の設計支援方法および設計支援システムは、図1および図2に示すように、左右一対の柱材1間に梁材2を架設した架構3内に、ブレース材4を配設する場合に、ブレース材4を、柱材1の柱脚部Fに取り付けたガセットプレート5に継手6を介して接合する露出型柱脚部を対象として、設計的検討を行う際に用いられる。
【0025】
本設計支援方法および設計支援システムは基本的に、架構3の階高やスパンなどにより、長さなどの基本仕様が決まるブレース材4を先行して決定し、決定したブレース材4の仕様に基づいて、ガセットプレート5の寸法などの仕様を決定するようにしている。
【0026】
以下に、図3のフローチャートにしたがって説明する。
(1)入力ステップ
検討するブレース付き柱・梁架構3の柱材1、梁材2およびブレース材4を入力手段により演算装置に入力する。
【0027】
柱材1、梁材2およびブレース材4を入力する前に予め、以下の作業を完了し、検討するブレース付き柱・梁架構3の設定を行っておく(図3中、※参照)。
(i) 階高やスパンなどの架構3の寸法データおよび架構3に作用する荷重などの初期条件を検討し、設定する。
(ii)初期条件に基づく架構3のモデルに荷重が作用した場合に、柱材1、梁材2およびブレース材4に生じる応力(長期、短期、終局時の応力)を算出する。
(iii) 算出された応力に基づき、柱材1、梁材2およびブレース材4の寸法や材質、鋼管もしくはH型鋼などの仕様を決定する。
【0028】
設定を完了したら、図4に示した入力画面(結果の表示画面を兼ねる)や、図5のエクセル(登録商標)の表に設定した各種入力フィールドに、柱材1、梁材2およびブレース材4の仕様データの他、上記(iii) で算出された応力、階高やスパン、フレーム形状(K型ブレース、X型ブレース等)などの必要なデータを入力する。
【0029】
図6に示すように、梁材2の取付位置の関係などで、ブレース材4の取付位置(図中、一点鎖線jで示す)を柱材1の柱心Cから水平方向に偏心させる場合がある。このような場合にはさらに、柱材1の柱心Cからブレース取付位置jまでの水平方向偏心距離kを入力手段により演算装置に予め入力する「水平偏心入力ステップ」を実行する。
【0030】
上述した(i) 〜(iii) については、演算装置に処理させるようにしてもよい。すなわち演算装置が、入力手段から入力される階高、スパンおよび架構3に作用する荷重などから、検討するブレース付き柱・梁架構3の柱材1、梁材2、ブレース材4に生じる応力を算出し、算出された応力からこれら柱材1、梁材2、ブレース材4を予め決定する処理を実行するようにしてもよい。
【0031】
次に、「柱脚決定ステップ」、「終局耐力決定ステップ」、並びに「ガセットプレート初期データ入力ステップ」が実行される。これらステップについては、順番を入れ替えても、また並行処理するようにしてもよい。
【0032】
(2)柱脚決定ステップ
柱脚は図2に示すように、基礎コンクリート7に埋設されたアンカーボルト8に、柱材1下端のベースプレート9に形成したボルト孔を挿通することで、ベースプレート9を介して基礎コンクリート7上に柱材1を設置し、それらアンカーボルト8とボルト孔の間隙に高強度無収縮モルタルを充填する露出型柱脚である。演算装置は、入力された柱材1に基づいて、それに対応する露出型柱脚(図4中、「ベースパック」参照)の仕様を決定する。仕様には、ベースプレート9寸法やアンカーボルト8の設置間隔などが含まれる。
【0033】
柱脚の仕様はデータベースとして演算装置に格納され、演算装置は、柱材1に対応する柱脚を読み出すようになっている。
【0034】
(3)終局耐力決定ステップ
演算装置は、入力されたブレース材4に基づいて、当該ブレース材4の終局耐力を決定する。ブレース材4の終局耐力はデータベースとして演算装置に格納され、演算装置は、入力されたブレース材4の終局耐力を読み出すようになっている。
【0035】
(4)ガセットプレート初期データ入力ステップ
ブレース材4を露出型柱脚に接合するガセットプレート5の材質(強度)および最小幅Hが任意に、入力手段により演算装置に入力される。すなわち、設計者が望ましいと考えるガセットプレート5の材質および最小幅Hが演算装置に入力される。この操作により、図7に二点鎖線aで示すように、柱脚部Fにおける仮想のガセットプレートが設定される。ブレース材4の取付角度bは、柱幅や梁せい、架構3の階高、スパンおよびフレーム形式(X型ブレースなど)によって決定される。
【0036】
(5)ガセットプレート算出ステップ
決定されたブレース材4の終局耐力から、材質および最小幅Hが入力されたガセットプレート5について、その板厚Tおよび決定された露出型柱脚周辺への必要溶接長さLを演算装置が算出する。板厚Tは最適なものとして、最小板厚で算出される。ガセットプレート5は通常一般に、柱材1とベースプレート9との隅角部に接合される。必要溶接長さLは、柱材1からベースプレート9にわたる長さで算出される。溶接は全周隅肉溶接である。この操作により、図7に実線sで示すように、板厚Tが設定され、また最小幅Hに対し必要溶接長さLが加味されて(図中、矢印d参照)、ガセットプレート5の外形寸法が決定される。
【0037】
その後、「水平偏心入力ステップ」が実行されていない場合には、後述する「(10)柱脚判定ステップ」に移行する。「水平偏心入力ステップ」が実行されている場合には、次の「水平偏心判定ステップ」に移行する。
【0038】
(6)水平偏心判定ステップ
演算装置は、「水平偏心入力ステップ」で入力された水平方向偏心距離kに基づいて、「(5)ガセットプレート算出ステップ」で算出されたガセットプレート5が、決定された露出型柱脚に取付可能か否かを判定する処理を実行する。図6および図8に示すように、ブレース取付位置jが柱心Cから左右に偏心している場合、ガセットプレート5の板厚T等の関係でアンカーボルト8やその座金と干渉してしまうなど、ガセットプレート5の取り付けができない場合が想定される。演算装置は例えば、水平方向偏心距離kおよびガセットプレートの板厚Tと、アンカーボルト8位置とを照合し、取り付け可否の判定を実行する。「OK」である場合には、後述する「(10)柱脚判定ステップ」に移行する。「NG」である場合には、次の「鉛直移動算出ステップ」に移行する。
【0039】
(7)鉛直移動算出ステップ
演算装置は、「水平偏心入力ステップ」で入力された水平方向偏心距離kの位置jにおいて、ガセットプレート5を取り付けることが可能な高さ位置を、鉛直方向移動距離mとして算出する。この操作により、例えば図8に示すように、隅角部に接合される二点鎖線eで示すガセットプレート5に対し、実線gで示すように、鉛直方向移動距離mだけ持ち上げられて柱材1のみに接合される仮想のガセットプレートが設定される。さらに、演算装置により必要溶接長さが適用されることで、図7の場合と同様に、ガセットプレート5の外形寸法が決定される。
【0040】
(8)鉛直移動判定ステップ
演算装置は、算出された鉛直方向移動距離mに基づいて、ガセットプレート5が、「(2)柱脚決定ステップ」で決定された露出型柱脚に適用可能か否かを判定する。「(7)鉛直移動算出ステップ」では、高さ位置を想定しているだけなので、本ステップにて、決定している露出型柱脚に構造上、ガセットプレート5が適合するか否かを演算装置が判定する。「OK」である場合には、次の「応力再計算ステップ」に移行する。「NG」である場合には、適用外であるため、検討するブレース付き柱・梁架構3の設定に戻る(※参照)。この際、「適用外」である旨の表示が演算装置により表示手段に表示される。
【0041】
(9)応力再計算ステップ
演算手段は、適用可能と判定されたガセットプレート5の鉛直方向移動距離mに基づく取付位置で、架構3に作用する上記荷重などにより、入力された柱材1、梁材2およびブレース材4に生じる応力を再計算する。ガセットプレート5の位置を移動させたことにより、ブレース材4の柱脚部Fへの取付位置が変更されたためである。
【0042】
(10)柱脚判定ステップ
演算手段は、「(1)入力ステップ」で入力された応力、または「(9)応力再計算ステップ」で算出された応力を参照し、架構3に作用する荷重などにより生じるこれら応力から、「(3)柱脚決定ステップ」で決定された露出型柱脚が適用可能か否かを判定する。これにより、架構3の全体構成から露出型柱脚が適合するものであるか否かが判定される。「OK」である場合には、次の「表示ステップ」に移行する。「NG」である場合には、適用外であるため、検討するブレース付き柱・梁架構3の設定に戻る(※参照)。この際、「適用外」である旨の表示が演算装置により表示手段に表示される。
【0043】
(11)表示ステップ
演算手段は、適用可能な柱脚および算出されたガセットプレート5の設計仕様を出力手段に出力可能に表示手段に表示する。表示態様は適宜に設定することができ、例えば図9に示すように、ガセットプレート付きの柱脚部が図面として表示される。また、図4に示した表示画面に最終結果が、文字データや数値データとして表示される。
【0044】
(12)継手決定ステップ
演算手段は、「(5)ガセットプレート算出ステップ」の後に、算出されたガセットプレート5をブレース材4に接続する継手6を決定する継手決定ステップを実行する。継手6の仕様はデータベースとして演算装置に格納され、演算装置は、ガセットプレート5に対応する継手6を読み出すようになっている。
【0045】
演算装置が上述した(i) 〜(iii) について処理する場合には、柱材1、梁材2およびブレース材4の仕様がデータベースとして演算装置に格納される。
【0046】
以上説明したように本実施形態にかかるブレース付き柱・梁架構の露出型柱脚部の設計支援方法および設計支援システムによれば、階高やスパンなどに基づいて定まるブレース材の仕様を決定することで、柱脚に取り付けるガセットプレートの仕様を決定することができる。
【0047】
また、サイズ毎にパッケージ化した柱脚、例えば、ブレース付き柱・梁架構に用いる露出型柱脚として、基礎コンクリートに埋設されたアンカーボルトにベースプレートに形成したボルト孔を挿通して、それらボルトとボルト孔の間隙に高強度無収縮モルタルを充填する柱脚を採用すれば、ブレース材を決定することで、ガセットプレートを含む露出型柱脚部の設計を完了することができ、作業効率を向上することができる。
【0048】
当該露出型柱脚は予め、柱材の種類や径、材質等に対応して仕様およびその性能が決められていることから、柱脚の設計は殆ど行う必要がなく、せん断力に対する措置を検討する必要もないものである。さらに、ブレース材の端部が接合されるガセットプレートについても、上記支援方法および支援システムにより、柱脚における取付位置の制限が緩和され、希望する位置にガセットプレートを取り付けることが可能となる。さらにガセットプレートが柱心に対して偏心して接合される場合でも、当該支援方法および支援システムによって取り付けの可否や柱脚に対する適合性が判定されるので、設計者の負担を軽減することができる。
【0049】
要するに、本支援方法および支援システムによれば、演算装置により、設計者が設定した柱材等の各構造部材の仕様や架構の諸寸法を利用して、設計しようとする露出型柱脚部における適用可能なガセットプレートの仕様を自動的に設計することができる。
【0050】
本支援方法および支援システムは、使用するブレース材がたとえ強度の大きい(柱脚部に作用するせん断力および引張力が大きい)ブレースであっても、露出型柱脚部の設計に適用することができ、実用性に富んだ多種多様な仕様のブレース材の採用を可能にすることができる。
【0051】
もちろん、パッケージ化した柱脚を用いる設計に限らず、ガセットプレートの仕様を調整するだけで設計できるので、ブレース材についてはサイズ毎に用意すればよい。
【0052】
水平偏心入力ステップおよび水平偏心判定ステップを備えているので、ブレース材が柱心位置から偏心する架構であっても、適用することができる。
【0053】
鉛直移動算出ステップ、鉛直移動判定ステップを備えているので、ガセットプレートを鉛直方向へ移動して取り付ける必要のある架構であっても、適用することができる。
【0054】
ガセットプレートを鉛直方向へ移動させる場合の応力再計算ステップを備えているので、架構の応力評価を適切に実行することができる。
【0055】
継手決定ステップを備えているので、算出したガセットプレートとブレース材とを連結する継手を適切に設計することができる。
【0056】
演算装置は、入力ステップに代えて、入力手段から入力される階高、スパン、フレーム形状および架構に作用する荷重から、検討するブレース付き柱・梁架構の柱材、梁材、ブレース材に生じる応力を算出し、算出された応力からこれら柱材、梁材、ブレース材を予め決定する処理を実行してもよく、これにより設計手順の一貫性および省力化を促進することができる。
【0057】
演算装置に、継手、柱材、梁材、ブレース材、柱脚のデータベースを格納したので、入力作業を軽減することができる。
【0058】
「柱脚決定ステップ」は、演算装置によらず、「入力ステップ」の入力項目としてもよい。「鉛直移動算出ステップ」は、演算装置による算出に代えて、「入力ステップ」の入力項目とし、「表示ステップ」での表示項目に加えるようにしてもよい。「終局耐力決定ステップ」は、ブレース材の材質や寸法から算出するようにしてもよい。
【0059】
なお、「終局耐力決定ステップ」においては、少なくともブレース材の終局耐力が決定されれば良いものであって、当該ステップで、これ以外にも、ブレース材の長期許容耐力や短期許容耐力を決定しても良いことは言うまでもない。また、「ガセットプレート算出ステップ」において、当該ステップで決定されるガセットプレートがその長期・短期許容耐力時において性能的に問題がないことを確認するようにしても良い。
【0060】
また、上記実施形態で説明した「適用外」となる場合に、角形鋼管の柱材であるときにガセットプレートがコーナーR部に取り付く場合や、鉛直方向移動距離が柱フランジ幅よりも大きくなった場合を含めることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明にかかるブレース付き柱・梁架構の露出型柱脚の設計支援方法および設計支援システムが適用される架構の一例を示す正面図である。
【図2】図1中、X部拡大斜視図である。
【図3】本発明にかかるブレース付き柱・梁架構の露出型柱脚の設計支援方法および設計支援システムの好適な一実施形態を示す、当該方法およびシステムによって実行される手順のフローチャート図である。
【図4】図3の実行手順で、表示手段の表示画面を示す説明図である。
【図5】図3の実行手順で、入力ステップに適用される表で設定した各種入力フィールドを示す説明図である。
【図6】図3の実行手順で、水平偏心入力ステップについて柱材の側面図である。
【図7】図3の実行手順で、ガセットプレート算出ステップについて説明する柱脚部の概念図である。
【図8】図3の実行手順で、鉛直移動算出ステップについて説明する柱脚部の概念図である。
【図9】図3の実行手順で、表示手段に表示され、出力手段で出力される図面の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0062】
1 柱材
2 梁材
3 ブレース付き柱・梁架構
4 ブレース材
5 ガセットプレート
6 継手
7 基礎
8 アンカーボルト
9 ベースプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力手段、表示手段および出力手段を備える演算装置を用い、
検討するブレース付き柱・梁架構の階高およびスパン、フレーム形状、該架構に作用する荷重、並びに当該荷重により生じる応力に基づいて予め決定した当該架構の柱材、梁材およびブレース材を上記入力手段により上記演算装置に入力する入力ステップと、
少なくとも柱材、柱材下端のベースプレートおよびベースプレートを基礎に接合するアンカーボルトを構成要素とする露出型柱脚のうち、入力された上記柱材に基づいて、それに対応する露出型柱脚を上記演算装置が決定する柱脚決定ステップと、
入力された上記ブレース材に基づいて、該ブレース材の終局耐力を上記演算装置が決定する終局耐力決定ステップと、
ブレース材を露出型柱脚に接合するガセットプレートの材質および最小幅を上記入力手段により上記演算装置に任意に入力するガセットプレート初期データ入力ステップと、
決定されたブレース材の上記終局耐力から、入力された上記ガセットプレートについてその板厚および決定された上記露出型柱脚周辺への必要溶接長さを上記演算装置が算出するガセットプレート算出ステップと、
架構に作用する荷重により生じる上記応力から、決定された上記露出型柱脚が適用可能か否かを上記演算装置が判定する柱脚判定ステップと、
適用可能な上記柱脚および算出された上記ガセットプレートの設計仕様を上記出力手段に出力可能に上記表示手段に上記演算装置が表示する表示ステップとを備えることを特徴とするブレース付き柱・梁架構の露出型柱脚部の設計支援方法。
【請求項2】
柱材の柱心からブレース取付位置までの水平方向偏心距離を前記入力手段により前記演算装置に予め入力する水平偏心入力ステップを備え、
前記ガセットプレート算出ステップと前記柱脚判定ステップの間で、前記演算装置が、入力された上記水平方向偏心距離に基づいて、算出された前記ガセットプレートが決定された上記露出型柱脚に取付可能か否かを判定する水平偏心判定ステップを実行することを特徴とする請求項1に記載のブレース付き柱・梁架構の露出型柱脚部の設計支援方法。
【請求項3】
前記水平偏心判定ステップの判定が否であるときに、前記柱脚判定ステップの前に、前記演算装置が、
算出された前記ガセットプレートの鉛直方向移動距離を算出する鉛直移動算出ステップと、
算出された上記鉛直方向移動距離に基づいて、算出された上記ガセットプレートが決定された前記露出型柱脚に適用可能か否かを判定する鉛直移動判定ステップと、
適用可能な上記ガセットプレートの鉛直方向移動距離に基づく取付位置で、前記架構に作用する荷重により、入力された前記柱材、梁材およびブレース材に生じる応力を再計算する応力再計算ステップを実行することを特徴とする請求項2に記載のブレース付き柱・梁架構の露出型柱脚部の設計支援方法。
【請求項4】
前記ガセットプレート算出ステップの後に、
算出された前記ガセットプレートを入力された前記ブレース材に接続する継手を前記演算装置が決定する継手決定ステップを備えることを特徴とする請求項1〜3いずれかの項に記載のブレース付き柱・梁架構の露出型柱脚部の設計支援方法。
【請求項5】
前記演算装置には、前記柱材、梁材、ブレース材、柱脚のデータベースが格納されていることを特徴とする請求項1〜4いずれかの項に記載のブレース付き柱・梁架構の露出型柱脚部の設計支援方法。
【請求項6】
入力手段、表示手段および出力手段を備える演算装置を備え、
上記演算装置は、
検討するブレース付き柱・梁架構の階高およびスパン、フレーム形状、該架構に作用する荷重、並びに当該荷重により生じる応力に基づいて予め決定した当該架構の柱材、梁材およびブレース材を上記入力手段から受け付ける入力ステップと、
少なくとも柱材、柱材下端のベースプレートおよびベースプレートを基礎に接合するアンカーボルトを構成要素とする露出型柱脚のうち、入力された上記柱材に基づいて、それに対応する露出型柱脚を決定する柱脚決定ステップと、
入力された上記ブレース材に基づいて、該ブレース材の終局耐力を決定する終局耐力決定ステップと、
ブレース材を露出型柱脚に接合するガセットプレートの任意の材質および最小幅を上記入力手段から受け付けるガセットプレート初期データ入力ステップと、
決定されたブレース材の上記終局耐力から、入力された上記ガセットプレートについてその板厚および決定された上記露出型柱脚周辺への必要溶接長さを算出するガセットプレート算出ステップと、
架構に作用する荷重により生じる上記応力から、決定された上記露出型柱脚が適用可能か否かを判定する柱脚判定ステップと、
適用可能な上記柱脚および算出された上記ガセットプレートの設計仕様を上記出力手段に出力可能に上記表示手段に表示する表示ステップとを実行することを特徴とするブレース付き柱・梁架構の露出型柱脚部の設計支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−150836(P2010−150836A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331292(P2008−331292)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】