説明

ブームシリンダ昇降用油圧回路

【課題】建設機械のブームシリンダ昇降をダイレクトに駆動するため、バルブ損失や回路構成の大型化なくシリンダ負荷反転時の制動性が従来より改善された油圧回路の提供。
【解決手段】双方向回転ポンプと、該ポンプの2つの吐出口と各シリンダ室とがそれぞれ接続された負荷シリンダと、リリーフ弁からなる安全弁とを備えたブームシリンダ昇降用油圧回路において、ボトム側シリンダ室からの油圧による変位でポンプの第2吐出口とロッド側シリンダ室間の流路からの第2分岐路とタンクとを接続する第1位置と、ロッド側シリンダ室からの油圧による変位でポンプの第1吐出口とボトム側シリンダ室間の流路からの第1分岐路とタンクとを接続する第2位置と、両分岐路とタンクとの接続を絶つ中央の第3位置とを有するスプリングセンタリング形油圧パイロット3位置切換弁を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばショベルと呼ばれる重機等の建設機械のブームシリンダの昇降を制御する油圧回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建設機械として一般的なショベル等の重機は、自走車両上に、そのエンジンから得た動力が油圧発生装置で変換された油圧力の一部により旋回する旋回ステージが搭載され、この旋回ステージに、運転キャビンと、油圧発生装置からの油圧で起伏可能に枢支された油圧作動ブームとが設置されている。この油圧作動ブームの先端には、堀削用のバケットがブームに対して曲げ伸ばし可能に連結された油圧作動アームを介して取り付けられており、運転キャビン内の制御部からこれらブームおよびアーム、バケットが駆動制御されることにより地面の掘削作業が行われる。
【0003】
油圧発生装置では、エンジンにより油圧ポンプが回転駆動され、発生する流体動力を各部の油圧シリンダに送ることで大出力の作業が可能となる。このような油圧駆動による建設機械では、他の機械と異なり駆動動力が大きいため、省エネルギー化には困難な課題が多くある。メーカーにおいては、まず電動化が考えられるが、油圧システムは油圧ポンプを経て制御弁により作業シリンダを操作する回路構成は従来のままで、油圧ポンプの駆動をバッテリから供給する方式としたものが多い。
【0004】
油圧アクチュエータの油圧回路においては、最も応答性、制御性に優れている油圧サーボ弁による方向制御によってシリンダの駆動制御が行われていた。しかし、油圧サーボ弁は応答性は良いものの消費電力が大きいという問題があった。特に、上記のような建設機械においてアーム及びバケットの負荷を持つブームの駆動には大きな動力が必要である。そこで、このブームを起伏させるためのブームシリンダの昇降用には、近年開発されてきた高速応答するACサーボモータをピストンポンプと組み合わせることによって、油圧サーボ弁を用いることなくダイレクトに油圧アクチュエータを制御できる油圧回路が提案されている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【0005】
例えば、図4に示すような、ACサーボモータ8により駆動され、正逆双方向に油圧を供給できる双方向回転ポンプ9の両出口ポートに負荷シリンダ3を接続するだけのシンプルな油圧回路が挙げられる。即ち、この油圧制御システムでは、ポンプ吐出ラインとシリンダとの間の直列ライン上に制御弁がなく、ほぼ安全弁13と自吸弁20で構成されるものである(特許文献3参照。)。
【0006】
通常、安全弁13は、負荷シリンダ3のボトム側シリンダ室6及びロッド側シリンダ室7の油圧をそれぞれ予め定められた設定圧を越えた際に逃がす2つのリリーフ弁からなるものであり、自吸弁20はロッド側及びボトム側の互いの供給作動油からのパイロット圧により開く2つのオペレートチェック弁から構成され、ポンプ9の油吸込みはシリンダ動作の戻りラインからの供給により行われ、ロッド側とボトム側とのシリンダ断面積差分に基づく油量の過不足分がこの自吸弁20により補償される。これら安全弁13や自吸弁20も余分な電力や回路構成の大型化の必要がなく、油圧アクチュエータのダイレクト駆動による省エネ効果に影響しないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3647319号公報
【特許文献2】特許第3877901号公報
【特許文献3】特開2006−329241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら上記のような油圧回路にて建設機械のブームシリンダの昇降作動を行う場合、ブームシリンダの移動中にシリンダ負荷が反転すると、オペレートチェック弁の開閉も逆になり、回路中の圧力を急激に低下させてしまったり、また、ブームバケットの負荷状況によってはシリンダ圧が中間的圧力となって双方のオペレートチェック弁が同時に開いてしまうなど、作動油流量の過不足分を良好に補償することができなくなり、ブームシリンダの昇降制御が困難になる。またこのような負荷の反転が動的に振動を起こす場合には、制動対策に限界があった。
【0009】
例えば、上記の対策として、スプリングで設定圧に抑えられたスプールを備えたチェック弁を内蔵しているカウンタバランス弁を配置することが考えられるが、この場合、バルブ損失が発生してしまい、省エネルギーとならず、油圧サーボ弁を省いてダイレクトに油圧アクチュエータを制御する利点が損なわれる。また、バルブ搭載による回路構成の大型化、コスト高の要因にもなってしまう。
【0010】
本発明の目的は、建設機械用ブームシリンダの昇降をダイレクトに駆動制御する油圧回路にて、バルブ損失や回路構成の大型化を招くことなくシリンダ負荷反転時の制動性が従来より改善された油圧回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、2つの吐出口を有し、サーボモータによる回転駆動でその回転方向によって選択的に特定される前記2つの吐出口のうちのいずれか一方の吐出口からタンク内の作動油を逆止弁を介して吸引すると共に他方の吐出口から吐出する双方向回転ポンプと、該ポンプの2つの吐出口とボトム側シリンダ室およびロッド側シリンダ室とがそれぞれ接続された負荷シリンダと、この負荷シリンダのロッド側及びボトム側からの油圧をそれぞれ予め定められた設定圧を越えた際に逃がす2つのリリーフ弁からなる安全弁と、を備えたブームシリンダ昇降用油圧回路において、前記ポンプの一方の吐出口と前記ボトム側シリンダ室とを接続する流路からの第1分岐路及び前記ポンプの他方の吐出口と前記ロッド側シリンダ室とを接続する流路からの第2分岐路と、前記タンクとの接続状態を油圧による位置変位で切り換える油圧パイロット切換弁を備えたものであり、該切換弁を、ブームシリンダ下降時にボトム側シリンダ室からの油圧の一部により変位して前記第1分岐路とタンクとの接続を絶つと共に前記第2分岐路とタンクとを接続して前記ポンプからロッド側シリンダ室へ供給される流量のうちの必要流量に対する過剰分をタンクへ導く第1接続回路を形成する第1位置と、ブームシリンダ下降後のブーム接地状態にてロッド側シリンダ室の圧力上昇の際にその一部圧力により変位して前記第2分岐路とタンクとの接続を絶つと共に前記第1分岐路とタンクとを接続して前記ボトム側シリンダ室からの戻り作動油のうちの余剰流量をタンクへ導く第2接続回路を形成する第2位置と、第1位置と第2位置との間の中央位置でタンクと前記第1分岐路及び第2分岐路の双方との接続を絶つ第3位置と、を有するスプリングセンタリング形の3位置切換弁としたものである。
【0012】
即ち、本発明は、建設機械のブームシリンダの昇降をダイレクトに駆動制御する油圧回路において、従来の自吸弁を構成していたオペレートチェック弁に変わって、スプリングセンタリング形の油圧パイロット3位置切換弁を備えたものである。従って、ボトム側シリンダ室にはブーム先端のバケットに負荷が無くても常時自重による荷重がかかる状態であることから、ボトム側シリンダ室からの油圧により前記3位置切換弁は第1位置にあって第1接続回路を形成しており、この状態にてブームシリンダを上昇させる際には、ポンプからの吐出作動油がタンクへの戻りなくそのままボトム側シリンダ室へ供給される一方でロッド側シリンダ室からの戻り作動油がポンプへ環流し、ボトム側とロッド側とのシリンダ面積差による不足分流量がタンクからチェック弁を介してポンプに吸い込まれて補足される。
【0013】
ここでブームシリンダを下降に切り換えても、上昇時と同様に前記自重分の荷重による油圧で3位置切換弁は変わらず第1位置による第1接続回路の状態であり、ボトム側シリンダ室から排出されてポンプに環流され、ロッド側シリンダ室へ供給されるポンプからの吐出作動油は、全流量は必要なく、その過剰分は前記3位置切換弁の第1位置で形成されていた第2分岐路とタンクとを連通する第1接続回路を介してタンクへ戻される。
【0014】
このように、本発明の油圧回路においては、シリンダ負荷を反転しても従来のオペレートチェック弁のように動的振動を生じるような回路中の圧力の急激な低下が生じることなく安定に維持され、優れた制動性を示すものである。しかも、このような制動性の改善を、オペレートチェック弁をスプリングセンタリング形の油圧パイロット切換弁に置き換えることで実現しており、余分な電力やバルブ損失の発生もなく、また回路構成の大型化も抑えられてダイレクト駆動用油圧回路の省エネのメリットが損なわれることがない。
【0015】
さらに、本発明の油圧回路では、ブームシリンダの下降後の堀削工程への移行の際のブーム接地状態にて、ロッド側シリンダ室の圧力上昇が生じても、その一部油圧により前記3位置切換弁が第2位置に変位して第1分岐路とタンクとを連通する第2接続回路が形成されるため、ボトム側シリンダ室からの戻り作動油はポンプに環流しつつ余剰分流量がタンクへ戻る。従って、従来のオペレートチェック弁においてロッド側シリンダ室の圧力上昇とこれに伴うボトム側シリンダ室の圧力低下にその開閉が対応できずに余剰流量の戻しが良好にできずシリンダが停止してしまうような問題は回避される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によるブームシリンダ昇降用油圧回路においては、油圧サーボ弁を省いてダイレクトに負荷シリンダを駆動させる省エネ回路において、従来のオペレートチェック弁からなる自吸弁に変わって、スプリングセンタリング形の油圧パイロット3位置切換弁を配置することによって、省エネ効果を損なうことなくシリンダ負荷が反転しても該切換弁は第1位置のままで同じ第1接続回路状態を維持できるという優れた制動性を示しながら、ブームシリンダ上昇時のロッド側シリンダ室への作動油供給流量の不足分をタンクから吸い込んで補足でき、さらにブームシリンダ下降後の堀削移行の際のロッド側シリンダ室の圧力上昇時には第2位置への変移で第2接続回路状態を形成してボトム側シリンダ室からの戻り作動油の余剰分流量をタンクに戻すことができ、常に良好に作動油流量の過不足を補償してブームシリンダの良好な昇降作動を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態によるブームシリンダ昇降用油圧回路の概略構成図である。
【図2】図1の油圧回路にてブームシリンダの昇降動作時の各要素に関する経時的変移を示す線図であり、それぞれ(a)はピストン位置y(横軸:時間s,縦軸:高さm)、(b)はボトム側シリンダ室圧力Phとロッド側シリンダ室圧力Pr(横軸:時間s,縦軸:圧力bar )、(c)はボトム側シリンダ室への供給流量q1とロッド側シリンダ室への供給流量q2(横軸:時間s,縦軸:流量L/min)、(d)は下降時にロッド側シリンダ室へポンプから吐出供給される流量のうち3位置切換弁を介してタンクと連通した第2分岐路から戻る過剰分流量q3a(横軸:時間s,縦軸:流量L/min)、(e)はブームシリンダ上昇時にタンクからチェック弁を介してポンプに吸い込まれる不足分流量q3b(横軸:時間s,縦軸:流量L/min)、(f)はポンプからの吐出流量q(横軸:時間s,縦軸:流量L/min)である。
【図3】図1の油圧回路にてブームシリンダの下降から堀削に移行する際の各要素に関する経時的変移を示す線図であり、それぞれ(a)はピストン位置y(横軸:時間s,縦軸:高さm)、(b)はボトム側シリンダ室圧力Phとロッド側シリンダ室圧力Pr(横軸:時間s,縦軸:圧力bar )、(c)はボトム側シリンダ室への供給流量q1とロッド側シリンダ室への供給流量q2(横軸:時間s,縦軸:流量L/min)、(d)は3位置切換弁を介してタンクと連通した第2分岐路から戻る余剰流量q3a (横軸:時間s,縦軸:流量L/min)、(e)は堀削状態にて3位置切換弁を介してタンクと連通した第1分岐路によりボトム側シリンダ室から戻る作動油の余剰分流量q4a(横軸:時間s,縦軸:流量L/min)、(f)はブームシリンダ上昇時にタンクからチェック弁を介してポンプに吸い込まれる不足分流量q3b(横軸:時間s,縦軸:流量L/min)、(g)はポンプからの吐出流量q(横軸:時間s,縦軸:流量L/min)である。
【図4】従来のブームシリンダ昇降用油圧回路の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施の形態として、図1に建設機械のブームシリンダ昇降用油圧回路を示す。本油圧回路におけるブームシリンダ1の実質的な昇降作動は、ブーム2を支持する負荷シリンダ3のピストン5・ロッド4の昇降に伴ってなされるものである。即ち、建設機械本体側に搭載されたエンジンからの動力で駆動されるACサーボモータ8と、該サーボモータ8によって駆動される2つの吐出口を有する双方向回転ポンプ9とを備え、負荷シリンダ3は、ピストン5によってボトム側シリンダ室6とロッド側シリンダ室7とに仕切られ、該ポンプ9の2つの吐出口のうちの一方の第1出口9aが第1の油路11によってボトム側シリンダ室6にダイレクトに接続され、他方の第2出口9bが第2の油路12によってロッド側シリンダ室7にダイレクトに接続されている。
【0019】
第1の油路11と第2の油路12の間には、従来と同様にロッド側シリンダ室7及びボトム側シリンダ室6の油圧をそれぞれ予め定められた設定圧を越えた際に逃がす2つのリリーフ弁からなる安全弁13を配置している。
【0020】
以上の基本構成においては、ブームシリンダ1の上昇作動の際は、ACサーボモータ8の回転を正方向で駆動させることによりポンプ9の第1出口9aから作動油を吐出させ、第1の油路11からボトム側シリンダ室6内へ供給し、ピストン5・ロッド4を上昇させる。これに伴いロッド側シリンダ室7内から排出された戻り作動油は、第2の油路12を経てポンプ9の第2出口9bから吸い込まれて環流する。
【0021】
ブームシリンダ1の下降作動の際は、ACサーボモータ8の回転を逆方向で駆動させることによってポンプ9の第2出口9bから作動油を吐出させ、第2の油路12からロッド側シリンダ室7内へ供給し、ピストン5・ロッド4を下降させる。これに伴いボトム側シリンダ室6内から排出された戻り作動油は、第1の油路11を経てポンプ9の第1出口9aから吸い込まれて環流する。なお、ポンプ9の第1出口9aはチェック弁CK1を介してタンク10から作動油を吸い込むことができ、第2出口9bはチェック弁CK2を介してタンク10から作動油を吸い込むことができる。
【0022】
本油圧回路においてもボトム側のシリンダ断面積Ahとロッド側のシリンダ断面積Arとの間の差分に基づいて作動油流量の過不足が生じるが、これを補償するための自吸弁として従来はオペレートチェック弁が配置されていたのに換えて、本油圧回路では、第1の油路11と第2の油路12との間にスプリングセンタリング形の油圧パイロット3位置切換弁16を配置した。
【0023】
この切換弁16は、第1の油路11からの第1分岐路14のポートAと、第2の油路12からの第2分岐路15のポートBと、タンク10のポートTとの間の接続状態を切り換えるものである。具体的には、第1分岐路14のポートAとタンクポートTとの接続を絶つと共に第2分岐路15のポートBとタンクポートTとを接続する第1接続回路を形成する第1位置17と、第2分岐路15のポートBとタンクポートTとの接続を絶つと共に第1分岐路14のポートAとタンクポートTとを接続する第2接続回路を形成する第2位置18と、これら第1位値17と第2位置18との間の中央位置で全てのポートを閉じてタンクポートTと第1分岐路14のポートAおよび第2分岐路15のポートB双方との接続を絶つ第3位置19との3位置を有するものである。
【0024】
切換弁16は両端にスプリングが配置されており、両スプリングによる中立状態では第3位置19によるポートA,BとタンクポートTとの接続が絶たれた回路状態が維持される。また、第1の油路11からのパイロット圧によりスプリングに抗して切換弁16が変位すると第1位置17による第1接続回路が形成され、第2の油路12からのパイロット圧によりスプリングに抗して切換弁16が変位すると第2位置18による第2接続回路が形成される。なお、これら第1および第2の油路から切換弁16に至るパイロット圧は、それぞれ絞りを介して圧力・流量が制御されている。
【0025】
以上の構成を備えた本油圧回路において、ブームシリンダ1の昇降作動を行った場合の切換弁16の動作を以下に示す。図2には、この昇降作動における各要素の経時的変移をそれぞれ(a)〜(f)の線図として示す。(a)にはピストン位置y(m)、(b)にはボトム側シリンダ室圧力Phとロッド側シリンダ室圧力Pr(bar )、(c)にはボトム側シリンダ室6への供給流量q1とロッド側シリンダ室7への供給流量q2(L/min)、(d)には下降時にロッド側シリンダ室7への供給流量のうち、3位置切換弁16を介してタンクポートTと連通した第2分岐路15から戻る過剰分流量q3a(L/min)、(e)にはブームシリンダ上昇時にタンク10からチェック弁CK2を介してポンプに吸い込まれる不足分流量q3b(L/min)、(f)はポンプからの吐出流量q(L/min)を示す。
【0026】
まず、線図(b)からわかるように、一連の昇降作動工程に亘って、ボトム側シリンダ室6の圧力Phは常時40bar を維持し、ロッド側シリンダ室7の圧力Prは上がらない。また、ボトム側シリンダ室6には、バケットに負荷が無くても常時ブームバケットの自重による荷重があるため、第1の油路11からのパイロット圧で切換弁16は第1位置17による第1接続回路が形成されている。
【0027】
この状態でブームシリンダ1の上昇を行えば、ポンプ9の第1出口9aから吐出される作動油流量qがそのままボトム側シリンダ室6への供給流量q1となり、ロッド側シリンダ室7から排出される作動油の流量q2はシリンダ断面積差分に相当する流量でポンプ9の第2出口9bから吸い込まれて環流する。この環流だけの吸込流量ではボトム側シリンダ室6への供給流量が不足するが、ポンプ9はタンク10からチェック弁CK2を介して不足分流量q3bを吸い込むことができ、不足分を補足できる。
【0028】
ブームシリンダ1の上昇後、下降に転じても、切換弁16は、同じ自重荷重による第1位置17による第1接続回路状態のままで、上昇時と変わらない。この下降工程では、ポンプ9の回転方向が上昇時と逆転し、第2出口9bから吐出された作動油流量q2がロッド側シリンダ室7へ供給されると同時にボトム側シリンダ室6から排出される作動油q1は第1出口9aから吸い込まれてポンプ9に環流される。しかしブームシリンダ1の下降にはこの環流全量は不要であるため、過剰分流量q3aが切換弁16の第1位置17の第1接続回路においてタンクポートTに連通された第2分岐路15のポートBからタンクへ戻される。
【0029】
以上のように、自吸弁として油圧パイロット3位置切換弁16を備えた本ブームシリンダ昇降用油圧回路においては、シリンダ3における負荷の反転が移動中に起こっても、切換弁16の変位は生じることなく、油量過不足分の補償を良好に行える状態が維持され、優れた制動性が実現する。
【0030】
次に、本油圧回路において、ブームシリンダ1の下降から堀削へ移行した場合の切換弁16の動作を以下に示す。図3には、この昇降作動における各要素の経時的変移をそれぞれ(a)〜(g)の線図として示す。(a)にはピストン位置y(m)、(b)にはボトム側シリンダ室圧力Phとロッド側シリンダ室圧力Pr(bar )、(c)にはボトム側シリンダ室6への供給流量q1とロッド側シリンダ室7への供給流量q2(L/min)、(d)には下降時にロッド側シリンダ室7への供給流量のうち、3位置切換弁16を介してタンクポートTと連通した第2分岐路15からタンク10へ戻る過剰分流量q3a(L/min)、(e)には堀削状態にてボトム側シリンダ室6からタンク10へ戻る作動油流量のうち、の3位置切換弁16を介してタンクポートTと連通した第1分岐路14からタンクへ戻る余剰分流量q4a 、(f)にはブームシリンダ上昇時にタンク10からチェック弁CK2を介してポンプに吸い込まれる不足分流量q3b(L/min)、(g)はポンプからの吐出流量q(L/min)を示す。
【0031】
本油圧回路における切換弁16は、通常の昇降工程の間は図2に示した状態と同様の動作を行うが、ブームシリンダ1のさらなる下降から堀削状態への移行、即ち線図(a)におけるピストン高さyが0.2mよりさらに下降していくと、ロッド側シリンダ室7の圧力Prは急激に上昇する。この圧力上昇に伴って第2の油路12からのパイロット圧を受けた切換弁16は、スプリングに抗して変位し、第2位置18による第2接続経路を形成し、第1分岐路14のポートAとタンクポートTとを接続する。
【0032】
従って、ボトム側シリンダ室6から排出される作動油流量q1は、全流量がそのままポンプ9へ環流せずに、余剰分流量q4aが切換弁16を介して第1分岐路14からタンク10へ戻る。
【0033】
なお、このときのブームシリンダ1の下降速度は、シリンダ断面積比(Ar/Ah)の逆数分だけ増加する。これは、堀削状態のときの第2接続回路が、ポンプ9からの吐出流量qが全量ロッド側シリンダ室7へ供給される状態であるためである。しかし、建設機械による実際の堀削状態では、相対的に低速での作業となるため特に問題はない。
【符号の説明】
【0034】
1:ブームシリンダ
2:ブーム
3:負荷シリンダ
4:ロッド
5:ピストン
6:ボトム側シリンダ室
7:ロッド側シリンダ室
8:ACサーボモータ
9:双方向回転ポンプ
9a:第1出口
9b:第2出口
CK1,CK2:チェック弁
10:タンク
11:第1の油路
12:第2の油路
13:安全弁(リリーフ弁)
14:第1分岐路
15:第2分岐路
16:油圧パイロット3位置切換弁
17:第1位置
18:第2位置
19:第3位置
20:自吸弁(オペレートチェック弁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの吐出口を有し、サーボモータによる回転駆動でその回転方向によって選択的に特定される前記2つの吐出口のうちのいずれか一方の吐出口からタンク内の作動油を逆止弁を介して吸引すると共に他方の吐出口から吐出する双方向回転ポンプと、該ポンプの2つの吐出口とボトム側シリンダ室およびロッド側シリンダ室とがそれぞれ接続された負荷シリンダと、この負荷シリンダのロッド側及びボトム側からの油圧をそれぞれ予め定められた設定圧を越えた際に逃がす2つのリリーフ弁からなる安全弁と、を備えたブームシリンダ昇降用油圧回路において、
前記ポンプの一方の吐出口と前記ボトム側シリンダ室とを接続する流路からの第1分岐路及び前記ポンプの他方の吐出口と前記ロッド側シリンダ室とを接続する流路からの第2分岐路と、前記タンクとの接続状態を油圧による位置変位で切り換える油圧パイロット切換弁を備え、
該切換弁は、ブームシリンダ下降時にボトム側シリンダ室からの油圧の一部により変位して前記第1分岐路とタンクとの接続を絶つと共に前記第2分岐路とタンクとを接続して前記ポンプからロッド側シリンダ室へ供給される流量のうちの必要流量に対する過剰分をタンクへ導く第1接続回路を形成する第1位置と、ブームシリンダ下降後のブーム接地状態にてロッド側シリンダ室の圧力上昇の際にその一部圧力により変位して前記第2分岐路とタンクとの接続を絶つと共に前記第1分岐路とタンクとを接続して前記ボトム側シリンダ室からの戻り作動油のうちの余剰流量をタンクへ導く第2接続回路を形成する第2位置と、第1位置と第2位置との間の中央位置でタンクと前記第1分岐路及び第2分岐路の双方との接続を絶つ第3位置と、を有するスプリングセンタリング形の3位置切換弁であることを特徴とするブームシリンダ昇降用油圧回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−229776(P2012−229776A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99647(P2011−99647)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000246251)油研工業株式会社 (28)
【Fターム(参考)】