説明

ブーム作業車のノンストップ作動制御装置

【課題】ブームの先端部が円弧運動から直進運動に移行する際にブームの先端部に大きな力が作用することを防止でき、加えてブームの倒伏作動速度が大きいときでもブームの先端部が規制線を大きく超え、或いは算出負荷率が限界負荷率を大きく超えてしまうことを防止することが可能な構成のブーム作業車のノンストップ作動制御装置を提供する。
【解決手段】コントローラのノンストップ作動制御部は、倒伏作動しているブームの先端部がトレース線TRに至る前に、ブームの先端部が描いている軌道mから延びてこの軌道mの下方領域を通る誘導線nを設定し、ブームの先端部がこの誘導線nを通ってトレース線TR上に至るようにブームを作動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブームの倒伏作動の途中でブームの収縮作動を併せて行うことにより、ブームの先端部が許容作業範囲の限界を超えることなく、或いは走行体に作用する転倒モーメントの負荷率が限界値を超えることなくブームの倒伏作動を続行できるようにしたブーム作業車のノンストップ作動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブーム作業車は、走行体上に起伏、伸縮、旋回動自在に設けたブームの先端部に作業機を備えた車両であり、作業機が作業者搭乗用の作業台であるものは高所作業車として、また作業機が吊り上げ装置であるものはクレーン車として知られている。このようなブーム作業車では、オペレータが操作するブーム操作レバーの操作によりブームを起伏、伸縮、旋回作動させることができ、ブームの先端部に設けられた作業機を所望の位置に移動させて所要の作業を行うことができる。
【0003】
このようなブーム作業車では、ブームの自重及び作業機の負荷等により生ずる転倒モーメントによって走行体が転倒することを防止する転倒防止装置が備えられている。この転倒防止装置には種々のものが知られているが、例えば、ブームの先端部の移動が予め定められた許容作業範囲内に限定されるタイプ(作業範囲規制タイプ)のものでは、ブームの先端部が許容作業範囲の限界線を外側へ超えるようなブームの作動が禁止されるようになっている。また、走行体に作用する転倒モーメントを検出してこれが過大とならないようにするタイプ(モーメント規制タイプ)のものでは、予め定められた許容転倒モーメントに対する検出転倒モーメントの比として求められる算出負荷率が設定された限界負荷率を超えるようなブームの作動が禁止されるようになっている。
【0004】
また、このような転倒防止装置とは別に、ブームの倒伏作動時における作業性を高める装置として、ノンストップ作動制御装置が知られている(例えば、下記の特許文献参照)。この装置は、作業範囲規制タイプのものでは、規制線上若しくは規制線よりも内側の領域内に規制線に沿って延びるようにトレース線を設定しておき、倒伏作動中のブームの先端部がこのトレース線に達した後は、ブームの倒伏作動のみならずブームの収縮作動も行うことにより、ブームの先端部をトレース線に沿わせて下降移動させるようになっている。また、モーメント規制タイプのものでは、ブームの倒伏作動中、算出負荷率が限界負荷率よりも小さい所定負荷率に達した後は、ブームの倒伏作動のみならずブームの収縮作動も行うことにより、算出負荷率が上記所定負荷率を維持する状態で、ブームの先端部を下降移動させるようになっている。このようなノンストップ作動制御装置によれば、ブームの倒伏作動によってブームの先端部が規制線に達するような場合であっても、或いはブームの倒伏作動によって算出負荷率が限界負荷率に達するような場合であっても、ブームの作動を止めることなく倒伏作動を継続して行うことができるので、作業性を向上させることができる。
【特許文献1】特開平4−19159号公報
【特許文献2】特開2002−265199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のノンストップ作動制御では、ブームの先端部がそれまでの円弧運動から直線運動(ノンストップ作動)に移行する際、ブームの先端部の進行方向が急変させられるためにブームの先端部に大きな慣性力が作用してしまうという問題があった。この作業機に作用する慣性力は、作業機が作業者搭乗用の作業台である場合には、作業台に搭乗した作業者に大きなショックを与えることになってしまう。また、ブームの倒伏作動速度が大きいときにはブームの先端部が規制線を外側に超え、或いは算出負荷率が限界負荷率を超えることがあり、ブームの先端部が規制線を予想以上に超え、或いは算出負荷率が限界負荷率を予想以上に超えてしまった場合には走行体の安定度が低下するおそれがでてくる。
【0006】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、ブームの先端部が円弧運動から直進運動に移行する際にブームの先端部に大きな力が作用することを防止でき、加えてブームの倒伏作動速度が大きいときでもブームの先端部が規制線を大きく超え、或いは算出負荷率が限界負荷率を大きく超えてしまうことを防止することが可能な構成のブーム作業車のノンストップ作動制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の本発明に係るブーム作業車のノンストップ作動制御装置は、走行体と、走行体に起伏及び伸縮動自在に設けられ、先端部に作業機(例えば、実施形態における作業台40)を有したブームと、ブームの先端部の移動が禁止される領域との境界線である規制線上に若しくは規制線よりも内側の領域内に設けられたトレース線のデータを記憶した記憶手段(例えば、実施形態におけるコントローラ60の記憶部64)と、ブームの倒伏作動中、ブームの先端部がトレース線に達しようとしていると判断したとき、ブームの倒伏作動に併せてブームの収縮作動を行わせることにより、ブームの先端部をトレース線に沿って下降移動させるノンストップ作動制御手段(例えば、実施形態におけるコントローラ60のノンストップ作動制御部65)とを備え、ノンストップ作動制御手段は、倒伏作動しているブームの先端部がトレース線に至る前に、ブームの先端部が描いている軌道から延びてこの軌道の下方領域を通る誘導線を設定し、ブームの先端部がこの誘導線を通ってトレース線上に至るようにブームを作動させるようになっている。なお、上記ブームの先端部とは作業機をも含む概念である。また、上記トレース線は、規制線に対して特定の式で関係付けられた点の集合であってもよく、更には一定の幅(水平方向の距離)を持った領域であってもよい。
【0008】
ここで、誘導線の始点は、ブームの長さに応じた位置に(ブームの長さが大きいときほどトレース線から内側に離れる距離が大きくなる位置に)、またブームの倒伏作動速度に応じた位置に(ブームの倒伏作動速度が大きいときほどトレース線から内側に離れる距離が大きくなる位置に)設定されることが好ましい。
【0009】
また、第2の本発明に係るブーム作業車のノンストップ作動制御装置は、走行体と、走行体に起伏及び伸縮動自在に設けられ、先端部に作業機(例えば、実施形態における作業台40)を有したブームと、走行体に作用する転倒モーメントを検出する転倒モーメント検出手段と、走行体に作用する転倒モーメントの限界値として設定された許容転倒モーメントを記憶した記憶手段(例えば、実施形態におけるコントローラ60の記憶部164)と、転倒モーメント検出手段において検出された検出転倒モーメント及び記憶手段に記憶された許容転倒モーメントから、許容転倒モーメントに対する検出転倒モーメントの比である算出負荷率を算出する負荷率算出手段(例えば、実施形態におけるコントローラ60の負荷率算出部167)と、ブームの倒伏作動中、負荷率算出手段により算出された算出負荷率が予め定められた限界負荷率に達しようとしていると判断したとき、ブームの倒伏作動に併せてブームの収縮作動を行わせることにより、負荷率算出手段により算出された算出負荷率が限界負荷率を超えないようにブームの先端部を下降移動させるノンストップ作動制御手段(例えば、実施形態におけるコントローラ60のノンストップ作動制御部165)とを備え、ノンストップ作動制御手段は、負荷率算出手段により算出された算出負荷率が限界負荷率と同じ若しくは限界負荷率よりも小さい値として定められた第1の所定負荷率に至る前に、ブームの先端部が描いている軌道から延びてこの軌道の下方領域を通る誘導線を設定し、負荷率算出手段により算出された算出負荷率が第1の所定負荷率になるまでブームの先端部がこの誘導線を通って移動するようにブームを作動させるようになっている。
【0010】
ここで、ノンストップ作動制御手段は、負荷率算出手段により算出された算出負荷率が第1の所定負荷率よりも小さい値として定められた第2の所定負荷率に達したときのブームの先端部の位置を誘導線の始点として設定することが好ましい。
【0011】
また、第2の所定負荷率は、ブームの長さに応じた値に(ブームの長さが大きいときほど小さい値に)設定されることが好ましい。また第2の所定負荷率は、ブームの倒伏作動速度に応じた値に(ブームの倒伏作動速度が大きいときほど小さい値に)設定されることが好ましい。
【0012】
また、上記第1及び第2の本発明に係るブーム作業車のノンストップ作動制御装置においては、誘導線が水平線となす傾き角は、ブームの長さに応じた値に(ブームの長さが小さいときほど大きい値に)、またブームの倒伏作動速度に応じた値に(ブームの倒伏作動速度が大きいときほど大きい値に)設定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
第1の本発明に係るブーム作業車のノンストップ作動制御装置では、倒伏作動しているブームの先端部がトレース線に至る前に、ブームの先端部が描いている軌道から延びてこの軌道の下方領域を通る誘導線を設定し、ブームの先端部はこの誘導線を通ってトレース線上に至るようになっている。このため、それまで円弧運動を行っていたブームの先端部は誘導線を通って滑らかに直進運動(トレース線に沿った運動)に移行できるようになり、ブームの先端部に作用する力(慣性力)を軽減することができる。また、これにより作業機が作業者搭乗用の作業台であっても、作業台上の作業者は大きなショックを受けずに済む。また、ブームの倒伏作動速度が大きいときでもブームの先端部の急激な方向変化を抑えることができるので、ブームの先端部がトレース線から大きく逸脱(オーバーシュート)するようなことがなく、ブームの先端部が規制線の外側へ大きく逸脱して車両姿勢が不安定になることを防止することができる。
【0014】
ここで、誘導線の始点が、ブームの長さに応じた位置に(ブームの長さが大きいときほどトレース線から内側に離れる距離が大きくなる位置に)設定されるのであれば、ブームの長さが大きいときほど早めにブームの先端部を誘導線に乗せて、小さい回転(倒伏)半径でブームの先端部を移動させることができるようになるので、ブームの長さによらずブームの先端部に作用する力(慣性力)を小さくすることができ、円弧運動をしていたブームの先端部を滑らかに直進運動に移行させることができる。
【0015】
また、誘導線の始点が、ブームの倒伏作動速度に応じた位置に(ブームの倒伏作動速度が大きいときほどトレース線から内側に離れる距離が大きくなる位置に)設定されるのであれば、ブームの倒伏作動速度が大きいときほど早めにブームの先端部を誘導線に乗せて、小さい回転(倒伏)半径でブームの先端部を移動させることができるようになるので、ブームの倒伏作動速度によらずブームの先端部に作用する力(慣性力)を小さくすることができ、円弧運動をしていたブームの先端部を滑らかに直進運動に移行させることができる。
【0016】
第2の本発明に係るブーム作業車のノンストップ作動制御装置では、ブームが倒伏作動しているとき、負荷率算出手段により算出された算出負荷率が第1の所定負荷率に至る前に、ブームの先端部が描いている軌道から延びてこの軌道の下方領域を通る誘導線を設定し、算出負荷率が第1の所定負荷率になるまで、ブームの先端部はこの誘導線を通って移動するようになっている。このため、それまで円弧運動を行っていたブームの先端部は誘導線を通って滑らかに直進運動(算出負荷率が第1の所定負荷率を維持する状態で下降移動する運動)に移行できるようになり、ブームの先端部に作用する力(慣性力)を軽減することができる。これにより上記第1の本発明の場合と同様の効果を得ることができる。
【0017】
ここで、算出負荷率が第1の所定負荷率よりも小さい値として定められた第2の所定負荷率に達したときのブームの先端部の位置を誘導線の始点として設定するのであれば、誘導線の始点の設定が容易である。ここで、この第2の所定負荷率が、ブームの長さに応じた値に(ブームの長さが大きいときほど小さい値に)設定されるのであれば、ブームの長さが大きいときほど早めにブームの先端部を誘導線に乗せて、小さい回転(倒伏)半径でブームの先端部を移動させることができるようになるので、ブームの長さによらずブームの先端部に作用する力(慣性力)を小さくすることができ、円弧運動をしていたブームの先端部を滑らかに直進運動に移行させることができる。
【0018】
また、第2の所定負荷率が、ブームの倒伏作動速度に応じた値に(ブームの倒伏作動速度が大きいときほど小さい値に)設定されるのであれば、ブームの倒伏作動速度が大きいときほど早めにブームの先端部を誘導線に乗せて、小さい回転(倒伏)半径でブームの先端部を移動させることができるようになるので、ブームの倒伏作動速度によらずブームの先端部に作用する力(慣性力)を小さくすることができ、円弧運動をしていたブームの先端部を滑らかに直進運動に移行させることができる。
【0019】
また、第1及び第2の本発明に係るブーム作業車のノンストップ作動制御装置においては、誘導線が水平線となす傾き角が、ブームの長さに応じた値に(ブームの長さが小さいときほど大きい値に)設定されるのであれば、ブームの長さによらず、円弧運動していたブームの先端部を滑らかに直進運動に移行させることができる。
【0020】
また、誘導線が水平線となす傾き角が、ブームの倒伏作動速度に応じた値に(ブームの倒伏作動速度が大きいときほど大きい値に)設定されるのであれば、ブームの倒伏作動速度によらず、円弧運動していたブームの先端部を滑らかに直進運動に移行させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。図2は本発明の第1実施形態に係るノンストップ作動制御装置が適用されたクローラ式の高所作業車1である。この高所作業車1は、走行体(クローラ走行体)10の上部に旋回体20を有し、旋回体20の上部にはブーム(伸縮ブーム)30がフートピン23を介して起伏自在に取り付けられた構成を有している。
【0022】
旋回体20は旋回体20の内部に設けられた旋回モータ(油圧モータ)21を回転作動させることにより走行体10に対して水平面内360度の範囲で旋回動させることができ、ブーム30は旋回体20との間に設けられた起伏シリンダ(油圧シリンダ)22を伸縮作動させることにより旋回体20に対して起伏動させることができる。ブーム30は基端ブーム30a、中間ブーム30b及び先端ブーム30cが入れ子式に構成されており、ブーム30の内部に設けられた伸縮シリンダ(油圧シリンダ)31を伸縮作動させることにより長手方向に伸縮動させることができる。
【0023】
ブーム30の先端部には垂直ポスト32が設けられており、この垂直ポスト32には作業者搭乗用の作業台40が回動自在に取り付けられている。作業台40は作業台40の内部に設けられた首振りモータ(油圧モータ)41を回転作動させることにより垂直ポスト32に対して水平面内で首振り動させることができる。なお、垂直ポスト32は図示しない平衡装置により常時垂直姿勢に保持されるため、結果として作業台40の床面は常に水平姿勢が保たれる。
【0024】
作業台40には上部操作装置50が設けられており、ここにはブーム30の起伏、伸縮及び旋回操作を行うブーム操作レバー51と、作業台40の首振り操作を行う作業台操作レバー52とが設けられている(図1参照)。このため作業台40に搭乗したオペレータ(作業者)OPは、ブーム操作レバー51を操作してブーム30を起伏、伸縮、旋回させ、また作業台操作レバー52を操作して作業台40を垂直ポスト32まわりに首振り作動させることにより、自身の乗った作業台40を自在に移動させて、所望の位置で高所作業を行うことが可能である。
【0025】
走行体10は、フレーム11の左右両側にクローラ走行装置12を一基ずつ備えている。各クローラ走行装置12はフレーム11の後部に取り付けられた起動輪12aと、フレーム11の前部に取り付けられた遊動輪12bと、これら起動輪12a及び遊動輪12bに巻き掛けられたクローラベルト12cとを有して構成されている。左右のクローラ走行装置12の各起動輪12aはそれぞれフレーム11に取り付けられた走行モータ(油圧モータ)13,14(図2では左側の走行モータ13のみを示す)により図示しないスプロケットを回転させて駆動することが可能であり、左右の走行モータ13,14は上部操作装置50に備えられた走行操作レバー53,54(図1参照)を操作することにより所望に回転・停止動作を行わせることができる。
【0026】
図1に示すように、走行体10内に設けられた油圧ポンプPは図示しない動力源(エンジンや電動モータ等)により駆動され、油圧ポンプPが吐出した作動油は起伏シリンダ22の作動を制御する起伏シリンダ制御バルブV1、伸縮シリンダ31の作動を制御する伸縮シリンダ制御バルブV2、旋回モータ21の作動を制御する旋回モータ制御バルブV3、首振りモータ41の作動を制御する首振りモータ制御バルブV4及び左右の走行モータ13,14の作動を制御する走行モータ制御バルブV5,V6を介して対応する油圧アクチュエータ(起伏シリンダ22、伸縮シリンダ31、旋回モータ21首振りモータ41及び左右の走行モータ13,14)に供給されるようになっている。
【0027】
ブーム操作レバー51又は作業台操作レバー52が作業台40上のオペレータOPにより操作されると、そのレバーの操作方向(傾動方向)及び操作量(傾動量)に対応した電圧信号が出力され、それぞれコントローラ60のバルブ作動制御部61に入力される。そして、コントローラ60のバルブ作動制御部61は、これらレバー51,52の操作により出力された電圧信号に応じた方向及び量で対応する制御バルブV1,V2,V3,V4の各スプール(図示せず)を電磁駆動する。ここで、制御バルブV1,V2,V3,V4の各スプールの駆動方向は対応する油圧アクチュエータの駆動方向(伸縮若しくは回転方向)に関係し、各スプールの駆動量は対応する油圧アクチュエータに供給される作動油の流量(単位時間当たりの流量)、すなわち各油圧アクチュエータの作動速度に関係する。したがって、各制御バルブのスプールの駆動方向が逆になると対応する油圧アクチュエータの作動方向が逆になり、各制御バルブのスプールの駆動量が大きくなるほど対応する油圧アクチュエータの作動速度は大きくなる。
【0028】
ここで、ブーム操作レバー51又は首振り操作レバー52の操作により出力される電圧信号の電圧レベルはその操作量にほぼ比例するようになっており、オペレータOPは各操作レバー51,52の操作量を調節することで、対応する上記油圧アクチュエータの作動速度を自在に調節することができる。
【0029】
また、左右の走行操作レバー53,54がオペレータOPにより操作されると、その操作方向(傾動方向)及び操作量(傾動量)に対応した電圧信号が出力され、それぞれコントローラ60のバルブ作動制御部61に入力される。そして、このバルブ作動制御部61は、これら走行操作レバー53,54の操作により出力された電圧信号に応じた方向及び量で対応する左右の走行モータ制御バルブV5,V6の各スプール(図示せず)を電磁駆動する。ここで、両制御バルブV5,V6の各スプールの駆動方向は対応する走行モータ13,14の回転方向に関係し、各スプールの駆動量は走行モータ13,14に供給される作動油の流量(単位時間当たりの流量)、すなわち走行モータ13,14の回転数(回転速度)に関係する。したがって、制御バルブのスプールの駆動方向が逆になると対応する走行モータ13,14の作動方向が逆になり、各制御バルブのスプールの駆動量が大きくなるほど対応する走行モータ13,14の作動速度は大きくなる。
【0030】
ここで、左右の走行操作レバー53,54の操作により出力される電圧信号の電圧レベルはその操作量にほぼ比例し、左右の走行操作レバー53,54の操作量が同じであれば出力される電圧レベルは同じになるようになっている。このため、オペレータOPは走行操作レバー53,54の操作量を調節することで、左右の走行モータ13,14の回転速度を自在に調節して直進走行或いはターン走行をすることができる。なお、ターン走行はピボットターン(小半径での旋回ターン)とスピンターン(その場でのターン)とがあり、左右のクローラ走行装置12の一方を(ほぼ)固定した状態で他方を順方向或いは逆方向に回転させることによりピボットターンをすることができ、左右のクローラ走行装置12を互いに異なる方向に回転させることによりスピンターンをすることができる。
【0031】
また、本高所作業車1には、図2及び図1に示すように、ブーム30の起伏角度θ(図4参照)を検出する起伏角度検出器81、ブーム30の長さL(図4参照)を検出する長さ検出器82及びブーム30の(旋回体20の)旋回角度を検出する旋回角度検出器83が設けられており、これら検出器81,82,83により検出されたブーム30の起伏角度θ、長さL及び旋回角度の各情報はコントローラ60の位置算出部62に入力されるようになっている(図1参照)。ここで、コントローラ60の位置算出部62は、検出器81,82,83からの情報に基づいて走行体10を基準としたブーム30の先端部(このブーム30の先端部とは作業台40をも含む概念である。ブーム先端部と称することがある)の位置を算出し、その結果得られたブーム先端部の位置の情報を検出器81,82,83が検出する各情報とともにコントローラ60の規制制御部63に出力する(図1参照)。
【0032】
起伏角度検出器81、長さ検出器82、旋回角度検出器83及びコントローラ60の位置算出部62はブーム先端部の位置(座標)を検出する機能を有しており、以下、これらを一組にして位置検出手段80と称する。なお、位置検出手段80は、直接的には、或るブーム30の旋回角度におけるブーム先端部の位置を座標(θ,L)として求めるが、ブーム30の作業半径R(図4に示すようにフートピン23を含む鉛直線PLからブーム30の先端部BPまでの間の水平距離)及びブーム30の先端部高さH(図4に示すようにフートピン23を含む水平線WLからのブーム30の先端部BPの高さ)はそれぞれθとLとを用いて表すことができるので、ブーム先端部の位置を座標(R,H)として求めることも可能である。
【0033】
コントローラ60の記憶部64には、走行体10を転倒させることなく作業台40(ブーム30の先端部)を移動させることができる領域として定められた許容作業範囲のデータが記憶されている。許容作業範囲の外縁は、ブーム30の長さがとり得る範囲とブーム30の起伏角度がとり得る範囲との関係から自ずと画定される外縁(作動限界線と称する)と、構造上はブーム30の先端部を移動させ得るが、走行体10の転倒を防止する(転倒モーメントが過大になるのを防止する)観点からブーム30の先端部の移動を禁止せざるを得ない限界線として設定した外縁(規制線と称する)とから構成されている。
【0034】
高所作業車1に設定される許容作業範囲は例えば図3に示す通りであり、直線L1,L2、曲線L3,L4及び直線(曲線であってもよいが、ここでは直線であるとする)L5によって囲まれる領域からなる。図3中に示す直線L1、直線L2、曲線L3及び曲線L4は作動限界線であり、直線L5は規制線である。また、点線で示す曲線L4′は、規制線L5が仮に設定されなかったとした場合に形成されるであろう、仮想の作動限界線である。すなわち、規制線L5と仮想の作動限界線L4′との間の領域は、ブーム30の先端部の移動が禁止される領域(構造上はブーム30の先端部を移動させ得るが、転倒防止の観点からその移動が禁止される領域)であり、規制線L5は、このブーム30の先端部の移動が禁止される領域との境界線ということになる。なお、規制線L5は許容作業範囲の外縁の一部であるので、規制線L5のデータは許容作業範囲のデータの一部としてコントローラ60の記憶部64に記憶されている。
【0035】
上記説明から分かるように、ブーム30の先端部は作動限界線L1,L2,L3,L4の外側へ移動することはあり得ないが、ブーム30の作動に対する何の規制もなければ規制線L5の外側へ移動することはあり得る。上記コントローラ60の規制制御部63はこのように規制線L5の外側へブーム30の先端部が移動するようなブーム30の作動を禁止する制御を行う働きをする。具体的には、位置検出手段80により検出されたブーム先端部の位置情報と記憶部64に記憶された許容作業範囲のデータとを取り込んでこれらを比較し、ブーム30の先端部が規制線L5に達しているときには、ブーム30の先端部をこの規制線L5の外側へ移動させるようなブーム操作レバー51の操作信号を無視するようにバルブ作動制御部61の動作に規制を与える。このためブーム30の先端部が規制線L5を大きく超えて移動することはなく、作業台40上のオペレータOPは車両の転倒を心配することなく、安心して作業台40の移動操作を行うことができる。例えば、ブーム30の単純伸長作動が行われた場合に、規制線L5にブーム30の先端部が達したとき、ブーム30の作動は停止される。
【0036】
また、図1に示すように、コントローラ60は上述のバルブ作動制御部61、位置算出部62、規制制御部63及び記憶部64のほかノンストップ作動制御部65を有している。コントローラ60の記憶部64には、規制線L5よりも内側(走行体10側)の領域内に(規制線L5に沿って)設けられたトレース線TR(図3及び図4参照)のデータと、トレース線TRよりも内側(走行体10側)の領域内に上下方向に延びて設けられた基準線S(図3及び図4参照)のデータとが記憶されており(これらトレース線TRと基準線Sの各データは数式或いは点(座標値)の集合として記憶されている)、コントローラ60のノンストップ作動制御部65は、ブーム30の倒伏作動中、位置検出手段80からの検出情報に基づいてブーム30の先端部がトレース線TRに達しようとしていると判断したときには、ブーム30の倒伏作動に併せてブーム30の収縮作動を行わせることにより、位置検出手段80により検出されるブーム30の先端部の位置とコントローラ60の記憶部64に記憶されたトレース線TRのデータとを比較しつつ、ブーム30の先端部をトレース線TRに沿って下降移動させるようになっている(図11参照。以下、このような制御を第1実施形態におけるノンストップ作動制御と称する)。ここで、トレース線TRや基準線Sは規制線L5を基準にして(例えば規制線L5から所定の水平方向距離を持つ点の集合として)設定してもよいが、図3に示すフートピン23を含む鉛直線PLなど、規制線L5以外のものを基準にして設定するようにしてもよい。
【0037】
コントローラ60のノンストップ作動制御部65がこのようなノンストップ作動制御を行わなかったとした場合、上記ケースでは、ブーム30の倒伏作動によりブーム30の先端部が規制線L5に達したところでコントローラ60の規制制御部63によりブーム30の作動は強制停止されてしまうところであるが、コントローラ60のノンストップ作動制御部65が上記のようなノンストップ作動制御を行うことにより、ブーム30の先端部の外方(走行体10から離れる側)への移動は制限されるものの、オペレータOPが意図していたブーム30の倒伏作動は続行することができるので、作業性が向上することになる。
【0038】
コントローラ60のノンストップ作動制御部65は、上記ノンストップ作動制御を開始する条件となる、ブーム30が倒伏作動中であることの検知を、位置検出手段80により検出されている(モニターされている)ブーム30の先端部の移動軌跡に基づいて、或いはブーム操作レバー51の操作状態を検出することにより行う。また、ブーム30の先端部がトレース線TRに達しようとしているか否かの判断は、位置検出手段80が検出するブーム30の先端部の位置が基準線S上に達したか否かに基づいて行う。
【0039】
ここで、ブーム30の先端部が基準線Sに達したことは、位置検出手段80により検出されたブーム先端部BPの位置(座標)から算出されるブーム30の作業半径R(図4参照)が、そのときのブーム先端部BPの位置に対応する許容作業半径Rc(フートピン23を含む鉛直線PLとトレース線TRとの間の水平距離。図4参照)と、そのときのブーム先端部BPの位置に対応して求められる、基準線Sがトレース線TRから内側(走行体10側)に離れる距離ΔR(図4参照)との差よりも大きくなった(Rc−ΔR≦Rとなった)ことより検知できる。なお、距離ΔRは、高さ方向距離が大きくなるほど大きくなるように設定されている。
【0040】
ところで、上記のように設定された基準線S上の点は、ブーム30の起伏角度θ、ブーム30の長さL、作業半径R、ブーム30の先端部高さH、作業半径Rの時間変化率dR/dt或いはブーム30の先端部高さHの時間変化率dH/dtに対するΔRとの関係として表すことができる。図5はΔRをθとの関係で表したときのグラフであり、θが大きいときほどΔRが大きくなることを示している。図6はΔRをLとの関係で表したときのグラフであり、Lが大きいときほどΔRが大きくなることを示している。図7はΔRをRとの関係で表したときのグラフであり、Rが小さいときほどΔRが大きくなることを示している。図8はΔRをHとの関係で表したときのグラフであり、Hが大きいときほどΔRが大きくなることを示している。
【0041】
また、図9(A)はΔRをdR/dtとの関係で表したグラフであり、dR/dtが大きいときほどΔRも大きくなることを示している。このことは、図9(B)に示すように、Δθ1=Δθ2のときdR1>dR2かつΔR1>ΔR2であるので、Δθ1及びΔθ2がともに単位時間当たりのθの変化量であるとすれば、dR/dtが大きいときほどΔRは大きくなることから分かる。また、図10(A)はΔRをdH/dtとの関係で表したグラフであり、dH/dtが小さいときほどΔRが大きくなることを示している。このことは、図10(B)に示すように、Δθ1=Δθ2のときdH1<dH2かつΔR1>ΔR2であるので、Δθ1及びΔθ2がともに単位時間当たりのθの変化量であるとすれば、dH/Htが小さいときほどΔRは大きくなることから分かる。
【0042】
すなわち、倒伏作動しているブーム30の先端部がトレース線TRに達しようとしているか否かの判断(後述するように、誘導線nの始点P1の位置決定も同時に行われる)において行われるΔRの呼び出しは、θ,L,R,H,dR/dt,dH/dtのいずれか1つを指定することによって行うことができる。換言すると、基準線Sのデータは、θ,L,R,H,dR/dt,dH/dtのいずれか1つとΔRとの関係のみによって規定することができる。なお、このような基準線Sのデータ、すなわちθ,L,R,H,dR/dt,dH/dtのいずれかに対するΔRの値は、コントローラ60の記憶部64に予め記憶される。また、誘導線nの始点P1の位置としては、ブーム30の先端部が基準線Sに達した後におけるブーム30の先端部の位置を採用することも可能であるが、このように基準線S上に達したときのブーム先端部の位置をそのまま誘導線nの始点P1とすれば、誘導線nの始点P1の設定が大変容易となる。
【0043】
コントローラ60のノンストップ作動制御部65は、上記のようにして、ブーム30の倒伏作動中、位置検出手段80の検出情報に基づいてブーム30の先端部がトレース線TRに達しようとしていると判断したとき、図11に示すように、ブーム30の先端部が描いている軌道mから延びてこの軌道mの下方領域を通る誘導線nを設定し、位置検出手段80により検出されるブーム30の先端部の位置と設定された誘導線nのデータとを比較しつつ、ブーム30の先端部がこの誘導線nを通ってトレース線TR上に至るようにブーム30を作動させる。これによりブーム30の先端部は誘導線nを通る滑らかな軌道を描いてトレース線TRに乗り移り、その後はこのトレース線TRに沿って下降移動することになる。なお、この誘導線nは直線であっても曲線であってもよいが、以下の説明では簡単のため、誘導線nが直線であるとする。
【0044】
この誘導線nの設定手順を具体的に説明すると、先ずコントローラ60のノンストップ作動制御部65は、倒伏作動しているブーム30の先端部が基準線Sに達したとき、そのときのブーム先端部の位置を誘導線nの始点P1として設定する。そして、その始点P1の位置に応じた傾き角(誘導線nが水平線WLとなす傾き角。図11参照)φで始点P1から軌道mの下方領域を通る直線を引く。この直線が誘導線nである。なお、図11中に示す点P0は、倒伏作動していたブーム30の先端部を誘導線nに沿って移動させなかったと仮定した場合にブーム30の先端部が描くであろう仮想軌道m′とトレース線TRとの交点であり、点P2は、誘導線nとトレース線TRとが交わるときの点、すなわち誘導線nの終点である。
【0045】
倒伏作動中のブーム30の先端部が誘導線nの始点P1に至るまでの間は、ブーム30は倒伏作動のみが行われるが、ブーム30の先端部が誘導線nの始点P1に至った後、誘導線nに沿って移動している間は、ブーム30は倒伏作動に加えて収縮作動が行われる(倒伏作動と収縮作動とが連動して行われる)ことになる。そして、ブーム30の先端部がトレース線TRに乗り移った後も、ブーム30は倒伏作動に加えて収縮作動が行われるが、ブーム30の先端部がトレース線TRに沿って下降移動している間のブーム30の収縮作動速度は、ブーム30の先端部が誘導線nに沿って移動している間のブーム30の収縮作動速度よりも大きくなる。これは、図11において、誘導線n上を移動しているブーム30の先端部が仮想軌道m′から離れていく距離と、トレース線TR上を移動しているブーム30の先端部が仮想軌道m′から離れていく距離とを比較したとき、後者の方が前者よりも大きくなることから容易に推察することができる。なお、ブーム30の先端部が誘導線nを通っている間及びトレース線TRに沿って下降移動している間は、必要に応じて(ブーム30の収縮作動速度に合わせて)ブーム30の倒伏作動速度を低下させる制御が行われる。
【0046】
図12は、ノンストップ作動制御を行った場合におけるブーム30の収縮速度の変化を示しており、実線はブーム30の先端部が誘導線nを経由してトレース線TRに乗り移った場合のグラフ、一点鎖線はブーム30の先端部が誘導線nを通らずに直接トレース線TRに乗り移った場合のグラフである。これら両グラフの比較から、ブーム30の先端部が誘導線nを通った場合には、ブーム30の先端部が直接トレース線TRに乗り移った場合よりもブーム30の収縮速度を緩やかに増大させることができるため、ブーム30の収縮速度の時間変化率を小さく抑えることができることが分かる。これにより、倒伏作動中のブーム30の先端部を滑らかにトレース線TR上に乗り移らせることができることができるので、ブーム30の先端部はトレース線TRから大きく逸脱(オーバーシュート)することがない。また、軌道mからトレース線TRに乗り移る際に生じる、ブーム30の先端部の急激な方向変化を抑えることができるので、ブーム30の先端部に作用する力(慣性力)を軽減することができ、作業台40上の作業者が大きなショックを受ける事態を防止することが可能となる。
【0047】
このように、第1実施形態に係るノンストップ作動制御装置では、倒伏作動しているブーム30の先端部がトレース線TRに至る前に、ブーム30の先端部が描いている軌道mから延びてこの軌道mの下方領域を通る誘導線nを設定し、ブーム30の先端部はこの誘導線nを通ってトレース線TR上に至るようになっている。このため、それまで円弧運動を行っていたブーム30の先端部は誘導線mを通って滑らかに直進運動(トレース線TRに沿った運動)に移行できるようになり、ブーム30の先端部に作用する力(慣性力)を軽減することができる。また、これにより作業台40上の作業者は大きなショックを受けずに済む。また、ブーム30の倒伏作動速度が大きいときでもブーム30の先端部の急激な方向変化を抑えることができるので、ブーム30の先端部がトレース線TRから大きく逸脱(オーバーシュート)するようなことがなく、ブーム30の先端部が規制線L5の外側へ大きく逸脱して車両姿勢が不安定になることを防止することができる。
【0048】
ところで、ブーム30の先端部に作用する慣性力は(ブーム30の倒伏作動速度が同一であれば)ブーム30の長さが大きいときほど大きくなる。ここで、本第1実施形態に係るノンストップ作動制御装置では、前述のように、誘導線nの始点P1の位置を設定するときの基準となる基準線Sがトレース線TRから内側に離れる距離ΔRは、高さ方向距離が大きくなるにしたがって(θが大きいときほど、Lが大きいときほど、Rが小さいときほど、Hが大きいときほど、dR/dtが大きいときほど、dH/dtが小さいときほど)、大きくなるように設定されているので、誘導線nの始点P1は、ブーム30の長さに応じた位置に(ブーム30の長さが大きいときほどトレース線TRから内側に離れる距離が大きくなる位置に)設定されることになる。このため、ブーム30の長さが大きいときほど早めにブーム30の先端部を誘導線nに乗せることができ、より小さい回転(倒伏)半径でブーム30の先端部を移動させることができる。したがって、ブーム30の長さによらずブーム30の先端部に作用する力(慣性力)を小さくすることができ、円弧運動をしていたブーム30の先端部を滑らかに直進運動に移行させることができる。これは、図13に示すように、倒伏作動をしているブーム30の先端部が描く軌道mがトレース線TRと交わるときの交叉角αは、トレース線TRと交わるときのブーム30の長さが大きいときほど大きくなり、軌道mとトレース線TRとは滑らかに交わらなくなるので、誘導線nの始点P1をトレース線TRから遠ざけなければ(誘導線nの始点P1を早めに設定しなければ)ブーム30の先端部がトレース線TRをオーバーシュートし易くなることからも分かる。
【0049】
また、ブーム30の先端部に作用する慣性力は(ブーム30の長さが同一であれば)ブーム30の倒伏作動速度が大きいときほど大きくなることから、本第1実施形態に係るノンストップ作動制御装置では、基準線Sはブーム30の倒伏作動速度が大きいときほどトレース線TRから内側に離れる距離が大きくなる位置に設定され、誘導線の始点P1は、ブーム30の倒伏作動速度に応じた位置に(ブーム30の倒伏作動速度が大きいときほどトレース線TRから内側に離れる距離が大きくなる位置に)設定されるようになっている(図14参照)。このため、ブーム30の倒伏作動速度が大きいときほど早めにブーム30の先端部を誘導線nに乗せることができ、より小さい回転(倒伏)半径でブーム30の先端部を移動させることができる。したがって、ブーム30の倒伏作動速度によらずブーム30の先端部に作用する力(慣性力)を小さくすることができ、円弧運動していたブーム30の先端部を滑らかに直進運動に移行させることができる。
【0050】
図15はブーム30の倒伏作動速度と基準線Sのトレース線TRに対する相対位置との関係を表したグラフであり、グラフ中に示すΔFは、基準線S上の任意の位置がトレース線TRから内側に離れている距離である。なお、基準線Sを上述のように高さ方向距離が大きくなるほどトレース線TRから内側に離れる距離が大きくなるように設定するのではなく、単に、ブーム30の倒伏作動速度が大きいときほどトレース線TRから内側に離れる距離が大きくなるように設定することも可能であり、この場合には基準線Sをトレース線TRと平行に設定することも可能である。
【0051】
コントローラ60のバルブ作動制御部61が出力する制御バルブV1,V2,V3の駆動信号(電圧信号)はコントローラ60のノンストップ作動制御部65にも入力されており、コントローラ60のノンストップ作動制御部65は、これら駆動信号のうち起伏シリンダ制御バルブV1の駆動信号に基づいてブーム30の倒伏作動速度を検知する。これは、起伏シリンダ制御バルブV1の駆動信号(の電圧レベル)が大きいときほど起伏シリンダ制御バルブV1のスプールの駆動量は大きく、起伏シリンダ22に供給される作動油の流量(単位時間当たりの流量)が多くなって起伏シリンダ22の作動速度が大きくなるという関係を利用したものである。このため上記図15におけるΔFを起伏シリンダ制御バルブの駆動信号或いは起伏シリンダの作動制御信号との関係でも規定することができ、図15の横軸を「起伏シリンダ制御バルブの駆動信号」或いは「起伏シリンダの作動制御信号」としてもグラフの形状は図15と同傾向となる。そして、コントローラ60のノンストップ作動制御部65は、その検知したブーム30の倒伏作動速度に対応する基準線Sのデータを記憶部64から呼び出してノンストップ作動制御に使用する。この場合、コントローラ60のバルブ作動制御部61がブーム30の倒伏作動速度を検出するブーム倒伏作動速度検出手段として機能することになる。
【0052】
また、ブーム30の倒伏作動速度は、起伏角度検出器81により検出されるブーム30の起伏角度の時間変化率(dθ/dt)やブーム30の作業半径Rの時間変化率(dR/dt)或いはブーム30の先端部高さHの時間変化率(dH/dt)により求めることができるほか、ブーム30を起伏作動させる起伏シリンダ22の出力や作動速度、或いはブーム30の起伏作動指令を行うブーム操作レバー51の操作量等によっても求めることができるので、ΔFはこれらのいずれかとの関係で規定することもできる。このとき図15の横軸を「ブームの起伏角度の時間変化率」、「ブームの作業半径の時間変化率」、「ブーム先端部高さの時間変化率」、「起伏シリンダの出力」、「起伏シリンダの作動速度」或いは「ブーム操作レバーの操作量」とすれば、グラフの形状は図15と同傾向となる。
【0053】
また、誘導線nが水平線WLとなす傾き角φ(図11参照)は誘導線nの始点P1の位置に応じた値として設定される(その値はコントローラ60の記憶部64に記憶されている)。具体的には、誘導線nが水平線WLとなす傾き角φは、長さ検出器82により検出されるブーム30の長さに応じた値に(ブーム30の長さが小さいときほど大きい値に)設定される(図16参照)。このためブーム30の長さによらず、円弧運動していたブーム30の先端部を滑らかに直進運動に移行させることができる。図13に示すように、ブーム30の長さが小さいときにはブーム30の先端部高さが低い位置で基準線Sに達することになるが、ブーム30の先端部が基準線Sに達するときの高さが低くなるほど、軌道mとトレース線TRとの交叉角αは小さくなるので、誘導線nが水平線WLとなす傾き角φをトレース線TRの傾きに近づけてやれば、誘導線nがトレース線TRと滑らかに交わるようになる。
【0054】
また、誘導線nが水平線WLとなす傾き角φ(図11参照)は、上述のようにして検知されるブーム30の倒伏作動速度に応じた値に(ブーム30の倒伏作動速度が大きいときほど大きい値に)設定される(図17及び図18参照)。このため、ブーム30の倒伏作動速度によらず、円弧運動していたブーム30の先端部を滑らかに直進運動に移行させることができる。上述のように、ブーム30の先端部に作用する慣性力は(ブーム30の長さが同一であれば)ブーム30の倒伏作動速度が大きいときほど大きく、ブーム30の先端部は外方に(トレース線TR側に)進もうとするが、図17に示すように、誘導線nをなるべくトレース線TRの延びる方向に沿うように設定してやれば、誘導線nがトレース線TRと滑らかに交わるようになり、ブーム30の先端部がトレース線TRをオーバーシュートしてしまう事態を効果的に防止することができるようになる。
【0055】
なお、この場合もブーム30の倒伏作動速度は、起伏シリンダ制御バルブV1の駆動信号、起伏角度検出器81により検出されるブーム30の起伏角度の時間変化率(dθ/dt)やブーム30の作業半径Rの時間変化率(dR/dt)或いはブーム30の先端部高さHの時間変化率(dH/dt)により求めることができるほか、起伏シリンダ22の出力変化や作動速度、或いはブーム操作レバー51の操作量等により求めることができるので、φはこれらのいずれかとの関係で規定することもできる。このとき図18の横軸を「ブームの起伏角度の時間変化率」、「ブームの作業半径の時間変化率」、「ブーム先端部高さの時間変化率」、「起伏シリンダの出力」、「起伏シリンダの作動速度」或いは「ブーム操作レバーの操作量」とすれば、グラフの形状は図18と同傾向となる。
【0056】
次に、本発明の第2実施形態に係るノンストップ作動制御装置について説明する。この第2実施形態に係るノンストップ作動制御装置が適用されるブーム作業車は、ブーム30の作動制御に関する構成以外は上述の高所作業車1と同一であるので、第1実施形態と共通する構成については同一の符号を付して省略し、ここでは第1実施形態と異なる部分についてのみ説明することにする。
【0057】
この第2実施形態に係るノンストップ作動制御装置では、図19に示すように、コントローラ60は第1実施形態の場合と同じバルブ作動制御部61及び位置算出部62(位置検出手段80)のほか、規制制御部163、記憶部164、ノンストップ作動制御部165、転倒モーメント算出部166及び負荷率算出部167を有している。コントローラ60の記憶部164には、走行体10に作用する転倒モーメントの限界値として設定された許容転倒モーメントM0がブーム30の起伏角度θ及び長さLに対応した値として記憶されている。また、コントローラ60の転倒モーメント算出部166は、起伏シリンダ22の軸力を検出する軸力検出器184(図19参照)からの検出情報及び起伏角度検出器81からの検出情報に基づいて、走行体10に作用する転倒モーメントMを算出する。これら軸力検出器184、起伏角度検出器81及びコントローラ60の転倒モーメント算出部166は、走行体10に作用する転倒モーメントを検出する(検出された転倒モーメントを検出転倒モーメントMとする)機能を有しており、以下、これらを一組にして転倒モーメント検出手段180と称する。
【0058】
コントローラ60の負荷率算出部167は、転倒モーメント検出手段180において検出された検出転倒モーメントMと、その時々で検出されているブーム30の起伏角度θ及び長さLに応じて求められる許容転倒モーメントM0とから、許容転倒モーメントM0に対する検出転倒モーメントMの比である算出負荷率γ(=M/M0)を算出し、その結果を規制制御部163とノンストップ作動制御部165とに出力する。
【0059】
コントローラ60の負荷率算出部167において算出される(モニターされる)算出負荷率γはブーム30の姿勢(ブーム先端部の位置)及び作業台40の積載荷重に応じて変化し、その値が大きいときほど転倒に対する不安定度が増大していることを示す。但し、算出負荷率γが、予め定められた限界負荷率γ0(例えば100%)を超えるようなブーム30作動は後述するようにコントローラ60の規制制御部163によって規制されるので、算出負荷率γは限界負荷率γ0を超えて大きくなることはない。
【0060】
図20は作業台40の積載荷重が或る値をとっているときにブーム30の先端部を移動させることができる領域の外縁を示したものである。この外縁において、直線L1、直線L2、曲線L3及び曲線L4はブーム30の長さがとり得る範囲とブーム30の起伏角度がとり得る範囲との関係から自ずと画定される外縁(作動限界線)であり、直線Lγ0は、算出負荷率γが限界負荷率γ0となるときのブーム先端部の位置をブーム30の長さごとにプロットすることにより形成される線である(この線を限界負荷率線と称する)。また、点線で示す曲線L4′は、最大伸長状態のブーム30を倒伏させていったときに、算出負荷率γが限界負荷率γ0を超えることが許されると仮定した場合にブーム30の先端部が描くであろう仮想の作動限界線である。すなわち、限界負荷率線Lγ0と仮想の作動限界線L4′との間の領域は、ブーム30の先端部の移動が禁止される領域(構造上はブーム30の先端部を移動させ得るが、算出負荷率γが限界負荷率γ0を超えないように規制制御部163が働くために、結果としてブーム30の先端部の移動ができない領域)であり、限界負荷率線Lγ0は、このブーム30の先端部の移動が禁止される領域との境界線ということもできる。なお、当然ながら、設定された限界負荷率γ0の値が同じであっても作業台40の積載荷重に応じて限界負荷率線Lγ0の位置は変化し、作業台40の積載荷重が大きいときには限界負荷率線Lγ0は走行体10に寄る側(図20では図の右側)に移動する。また、作業台40の積載荷重が同じであっても、設定した限界負荷率γ0の値が大きいときには限界負荷率線Lγ0は走行体10から離れる側(図20では図の左側)に移動することになる。
【0061】
作業台40の積載荷重が或る値をとっているとき、ブーム30を伸長或いは倒伏作動させていった場合には、負荷率算出部167において算出される算出負荷率γの値は次第に大きくなっていく。ここで、倒伏作動を伴わないブーム30の作動(例えばブーム30の単純伸長作動)が行われた場合であって、算出負荷率γの値が限界負荷率γ0に達したときには(これは、ブーム30の先端部が限界負荷率線Lγ0に達したとみることもできる)、ブーム30の作動は停止される。なお、このようなブーム30の規制は、コントローラ60の規制制御部163において行われる。すなわち、コントローラ60の規制制御部163は、負荷率算出部167により算出された算出負荷率γが限界負荷率γ0を超えるようなブーム30の作動を禁止する働きをする。
【0062】
コントローラ60のノンストップ作動制御部165は、ブーム30の倒伏作動中、コントローラ60の負荷率算出部167により算出されている(モニターされている)算出負荷率γが限界負荷率γ0に達しようとしていると判断したときには、ブーム30の倒伏作動に併せてブーム30の収縮作動を行わせることにより、算出負荷率γが限界負荷率γ0を超えないようにブーム30の先端部を下降移動させる。具体的には、算出負荷率γが限界負荷率γ0と同じ若しくは限界負荷率γ0よりも小さい値として定めた第1の所定負荷率γ1(例えば98%)を維持する状態でブーム30の先端部を下降移動させる(図21参照。以下、このような制御を第2実施形態におけるノンストップ作動制御と称する)。なお、図21中に示す一点鎖線は算出負荷率γが第1の所定負荷率γ1を維持する状態でブーム30を倒伏作動させた場合にブーム30の先端部が描く軌跡(以下、第1所定負荷率線Lγ1と称する)である。
【0063】
コントローラ60のノンストップ作動制御部165がこのようなノンストップ作動制御を行わなかったとした場合、上記ケースでは、ブーム30の倒伏作動により算出負荷率γが限界負荷率γ0に達したところでコントローラ60の規制制御部163によりブーム30の作動は強制停止されてしまうところであるが、コントローラ60のノンストップ作動制御部165が上記のようなノンストップ作動制御を行うことにより、ブーム30の先端部の外方(走行体10から離れる側)への移動は規制されるものの、オペレータOPが意図していたブーム30の倒伏作動は続行することができるので、作業性が向上することになる。
【0064】
コントローラ60のノンストップ作動制御部165は、上記ノンストップ作動制御を開始する条件となる、ブーム30が倒伏作動中であることの検知を、位置検出手段80により検出されている(モニターされている)ブーム30の先端部の移動軌跡に基づいて、或いはブーム操作レバー51の操作状態を検出することにより行う。また、算出負荷率γが限界負荷率γ0に達しようとしているか否かの判断は、コントローラ60の負荷率算出部167により算出されている(モニターされている)算出負荷率γが第1の所定負荷率γ1よりも小さい値として予め定められた第2の所定負荷率γ2(例えば90%近傍)に達したか否かに基づいて行う。なお、これら第1の所定負荷率γ1のデータと第2所定負荷率γ2のデータとは、コントローラ60の記憶部64に予め記憶されている。
【0065】
コントローラ60のノンストップ作動制御部165は、上記のようにして、ブーム30の倒伏作動中、算出負荷率γが限界負荷率γ0に達しようとしていると判断したとき、図21に示すように、ブーム30の先端部が描いている軌道mから延びてこの軌道mの下方領域を通る誘導線nを設定し、コントローラ60の負荷率算出部167により算出されている(モニターされている)算出負荷率γが第1の所定負荷率γ1になるまで、位置検出手段80により検出されるブーム30の先端部の位置と設定された誘導線nのデータとを比較しつつ、ブーム30の先端部がこの誘導線nを通って移動するようにブーム30を作動させる。なお、この誘導線nは直線であっても曲線であってもよいが、以下の説明では簡単のため、誘導線nが直線であるとする。
【0066】
この誘導線nの設定手順を具体的に説明すると、先ずコントローラ60のノンストップ作動制御部165は、ブーム30の倒伏作動中、コントローラ60の負荷率算出部167により算出された算出負荷率γが第2の所定負荷率γ2に達したとき、そのときのブーム先端部の位置を誘導線nの始点P1として設定する。そして、その始点P1の位置に応じた傾き角(誘導線nが水平線WLとなす傾き角。図21参照)φで始点P1から軌道mの下方領域を通る直線を引く。この直線が誘導線nである。
【0067】
倒伏作動中のブーム30の先端部が誘導線nの始点P1に至るまでの間は、ブーム30は倒伏作動のみが行われるが、ブーム30の先端部が誘導線nの始点P1に至った後、誘導線nに沿って移動している間は、ブーム30は倒伏作動に加えて収縮作動が行われる(倒伏作動と収縮作動とが連動して行われる)ことになるのは前述の第1実施形態の場合と同様である。そして、算出負荷率γが第1の所定負荷率γ1に達した後も、ブーム30は倒伏作動に加えて収縮作動が行われるが、算出負荷率γが第1の所定負荷率γ1を維持する状態で下降移動している間のブーム30の収縮作動速度は、ブーム30の先端部が誘導線nに沿って移動している間のブーム30の収縮作動速度よりも大きくなる。その理由は、第1実施形態の場合と同様である。また、ブーム30の先端部が誘導線nを通っている間及び算出負荷率γが第1の所定負荷率γ1を維持する状態で下降している間は、必要に応じて(ブーム30の収縮作動速度に合わせて)ブーム30の倒伏作動速度を低下させる制御が行われるのも、第1実施形態の場合と同様である。
【0068】
このように、第2実施形態に係るノンストップ作動制御装置では、ブーム30が倒伏作動しているとき、コントローラ60の負荷率算出部167において算出された算出負荷率γが第1の所定負荷率γ1に至る前に、ブーム30の先端部が描いている軌道mから延びてこの軌道mの下方領域を通る誘導線nを設定し、算出負荷率γが第1の所定負荷率γ1になるまで、ブーム30の先端部はこの誘導線nを通って移動するようになっている。このため、それまで円弧運動を行っていたブーム30の先端部は滑らかに直進運動(算出負荷率γが第1の所定負荷率γ1を維持する状態で下降移動する運動)に移行できるようになり、ブーム30の先端部に作用する力(慣性力)を軽減することができる。これにより第1実施形態の場合と同様の効果を得ることができる。
【0069】
ここで、前述したように、ブーム30の先端部に作用する慣性力は(ブーム30の倒伏作動速度が同一であれば)ブーム30の長さが大きいときほど大きくなるので、本第2実施形態に係るノンストップ作動制御装置では、第2の所定負荷率γ2が、長さ検出器82により検出されるブーム30の長さに応じた値に(ブーム30の長さが大きいときほど小さい値に)設定され、誘導線nの始点P1は、ブーム30の長さが大きいときほど第1所定負荷率線Lγ1から離れた位置に設定される。このため、ブーム30の長さが大きいときほど早めにブーム30の先端部を誘導線nに乗せることができ、より小さい回転(倒伏)半径でブーム30の先端部を移動させることができる。したがって、ブーム30の長さによらずブーム30の先端部に作用する力(慣性力)を小さくすることができ、円弧運動をしていたブーム30の先端部を滑らかに直進運動に移行させることができる。これは、図22に示すように、倒伏作動をしているブーム30の先端部が描く軌道mが第1所定負荷率線Lγ1と交わるときの交叉角αは、第1所定負荷率線Lγ1と交わるときのブーム30の長さが大きいときほど大きくなり、軌道mと第1所定負荷率線Lγ1とは滑らかに交わらなくなるので、誘導線nの始点P1を第1所定負荷率線Lγ1から遠ざけなければ(誘導線nの始点P1を早めに設定しなければ)算出負荷率γが第1の所定負荷率γ1を超え易くなることからも分かる。
【0070】
なお、第2の所定負荷率γ2となる点をブーム30の長さごとにプロットすると、図20中に示す破線のようになり(この線を第2所定負荷率線Lγ2と称する)、この第2所定負荷率線Lγ2が第1所定負荷率線Lγ1から内側(走行体10側)に離れる距離は、高さ方向距離が大きくなるほど大きくなることが分かる(これはちょうど第1実施形態におけるトレース線TRと基準線Sとの位置関係と同じである)。
【0071】
また、前述したように、ブーム30の先端部に作用する慣性力は(ブーム30の長さが同一であれば)ブーム30の倒伏作動速度が大きいときほど大きくなることから、本第2実施形態に係るノンストップ作動制御装置では、第2の所定負荷率γ2が、ブーム30の倒伏作動速度に応じた値に(ブーム30の倒伏作動速度が大きいときほど小さい値に)設定され、誘導線nの始点P1は、ブーム30の倒伏作動速度が大きいときほど第1所定負荷率線Lγ1から離れた位置に設定されるようになっている(図23参照)。このため、ブーム30の倒伏作動速度が大きいときほど早めにブーム30の先端部を誘導線nに乗せることができ、より小さい回転(倒伏)半径でブーム30の先端部を移動させることができる。したがって、ブーム30の倒伏作動速度によらずブーム30の先端部に作用する力(慣性力)を小さくすることができ、円弧運動をしていたブーム30の先端部を滑らかに直進運動に移行させることができる。図24はブーム30の倒伏作動速度と第2の所定負荷率γ2との関係を表したグラフである。
【0072】
なお、ブーム30の倒伏作動速度は、第1実施形態の場合と同様、起伏シリンダ制御バルブV1の駆動信号、起伏角度検出器81により検出されるブーム30の起伏角度の時間変化率(dθ/dt)やブーム30の作業半径Rの時間変化率(dR/dt)或いはブーム30の先端部高さHの時間変化率(dH/dt)により求めることができるほか、算出負荷率γの時間変化率(dγ/dt)、ブーム30を起伏作動させる起伏シリンダ22の出力や作動速度、或いはブーム30の起伏作動指令を行うブーム操作レバー51の操作量等によっても求めることができるので、γ2はこれらのいずれかとの関係で規定することもできる。このとき図24の横軸を「ブームの起伏角度の時間変化率」、「ブームの作業半径の時間変化率」、「ブーム先端部高さの時間変化率」、「算出負荷率の時間変化率」、「起伏シリンダの出力」、「起伏シリンダの作動速度」或いは「ブーム操作レバーの操作量」とすれば、グラフの形状は図24と同傾向となる。
【0073】
また、誘導線nが水平線WLとなす傾き角φ(図21参照)は誘導線nの始点P1の位置に応じた値として設定される(その値はコントローラ60の記憶部164に記憶されている)。具体的には、誘導線nが水平線WLとなす傾き角φは、長さ検出器82により検出されるブーム30の長さに応じた値に(ブーム30の長さが小さいときほど大きい値に)設定される(第1実施形態の説明において示した図16参照)。このためブーム30の長さによらず、円弧運動していたブーム30の先端部を滑らかに直進運動に移行させることができる。図22に示すように、ブーム30の長さが小さいときにはブーム30の先端部高さが低い位置で算出負荷率γが第1の所定負荷率γ1に達する(ブーム30の先端部が第1所定負荷率線Lγ1に達する)ことになるが、算出負荷率γが第1の所定負荷率γ1に達するときの高さが低くなるほど、軌道mと第1所定負荷率線Lγ1との交叉角αは小さくなるので、誘導線nが水平線WLとなす傾き角φを第1所定負荷率線Lγ1の傾きに近づけてやれば、誘導線nが第1所定負荷率線Lγ1と滑らかに交わるようになる。
【0074】
また、誘導線nが水平線WLとなす傾き角φ(図21参照)は、前述のようにして検知されるブーム30の倒伏作動速度に応じた値に(ブーム30の倒伏作動速度が大きいときほど大きい値に)設定される(図25及び第1実施形態の説明において示した図18参照)。このため、ブーム30の倒伏作動速度によらず、円弧運動していたブーム30の先端部を滑らかに直進運動に移行させることができる。上述のように、ブーム30の先端部に作用する慣性力は(ブーム30の長さが同一であれば)ブーム30の倒伏作動速度が大きいときほど大きく、ブーム30の先端部は外方に(トレース線TR側に)進もうとするが、図25に示すように、誘導線nをなるべく第1所定負荷率線Lγ1の延びる方向に沿うように設定しれやれば、誘導線nが第1所定負荷率線Lγ1と滑らかに交わるようになり、算出負荷率γが第1所定負荷率γ1を超えてしまう(ブーム30の先端部が第1所定負荷率線Lγ1をオーバーシュートしてしまう)事態を効果的に防止することができるようになる。
【0075】
なお、この場合もブーム30の倒伏作動速度は、起伏シリンダ制御バルブV1の駆動信号、起伏角度検出器81により検出されるブーム30の起伏角度の時間変化率(dθ/dt)やブーム30の作業半径Rの時間変化率(dR/dt)或いはブーム30の先端部高さHの時間変化率(dH/dt)により求めることができるほか、算出負荷率γの時間変化率(dγ/dt)、起伏シリンダ22の出力変化や作動速度、或いはブーム操作レバー51の操作量等により求めることができるので、φはこれらのいずれかとの関係で規定することもできる。このとき図18の横軸を「ブームの起伏角度の時間変化率」、「ブームの作業半径の時間変化率」、「ブーム先端部高さの時間変化率」、「算出負荷率の時間変化率」、「起伏シリンダの出力」、「起伏シリンダの作動速度」或いは「ブーム操作レバーの操作量」とすれば、グラフの形状は図18と同傾向となるのは第1実施形態の場合と同様である。
【0076】
これまで本発明の好ましい実施形態について説明してきたが、本発明の範囲は上述の実施形態に示されたものに限定されない。例えば、上述の実施形態では、トレース線TRは直線であったが、トレース線TRは必ずしも直線である必要はない。また、図3ではトレース線TRは規制線L5とほぼ平行に設定されていたが、規制線L5上に設けることもできる。また、必ずしも規制線L5と平行でなければならないわけではなく、更には(水平方向の)一定の幅を持った領域であってもよい。
【0077】
また、上述の実施形態では、本発明が適用される対象は走行体がクローラ式である高所作業車であったが、走行体は必ずしもクローラ式でなくてもよい。また、本発明が適用される対象は必ずしも高所作業車でなくてもよく、走行体に起伏及び伸縮動自在に設けたブームの先端部に作業機を有して構成されるブーム作業車であれば他のブーム作業車(例えばクレーン車や穴掘り建柱車など)であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の第1実施形態に係るノンストップ作動制御装置が適用されたクローラ式高所作業車における油圧アクチュエータの駆動制御系統図である。
【図2】上記クローラ式高所作業車の側面図である。
【図3】上記クローラ式高所作業車に設定される許容作業範囲の一例を示す図である。
【図4】ブームの起伏角度θ、ブームの長さL、ブームの作業半径R、ブームの先端部高さH及びブームの先端部のトレース線から内側に離れる距離ΔRの関係を説明するための図である。
【図5】ΔRをθとの関係で表したグラフである。
【図6】ΔRをLとの関係で表したグラフである。
【図7】ΔRをRとの関係で表したグラフである。
【図8】ΔRをHとの関係で表したグラフである。
【図9】(A)はΔRをdR/dtとの関係で表したグラフであり、(B)は(A)の関係が成り立つ根拠を説明するための図である。
【図10】(A)はΔRをdH/dtとの関係で表したグラフであり、(B)は(A)の関係が成り立つ根拠を説明するための図である。
【図11】軌道m上から延びて設けられる誘導線nを説明するための図であり、図3中に示す領域XIの拡大図である。
【図12】ノンストップ作動制御を受けた場合におけるブームの収縮速度の変化を示すグラフである。
【図13】倒伏作動をしているブームの先端部が描く軌道mがトレース線TRと交わるときの交叉角αが、ブームの長さが小さいときほど小さくなる様子を示す図である。
【図14】基準線Sのトレース線TRから内側に離れる距離が、ブームの倒伏作動速度が大きいときほど大きく設定される様子を示す図である。
【図15】ブームの倒伏作動速度とΔFとの関係を表したグラフである。
【図16】ブームの長さとφとの関係を表したグラフである。
【図17】誘導線nが水平線WLとなす傾き角φが、ブームの倒伏作動速度が大きいときほど大きく設定される様子を示す図である。
【図18】ブームの長さが同一である場合における、ブームの倒伏作動速度とφとの関係を表したグラフである。
【図19】本発明の第2実施形態に係るノンストップ作動制御装置が適用されたクローラ式高所作業車における油圧アクチュエータの駆動制御系統図である。
【図20】第2実施形態において、作業台の積載荷重が或る値をとっているときにブームの先端部を移動させることができる領域の外縁を示す図である。
【図21】第2実施形態において、軌道m上から延びて設けられる誘導線nを説明するための図である。
【図22】第2実施形態において、倒伏作動をしているブームの先端部が描く軌道mが第1所定負荷率線Lγ1と交わるときの交叉角αが、ブームの長さが小さいときほど小さくなる様子を示す図である。
【図23】ブームの長さが同一である場合において、ブームの倒伏作動速度が大きいときほど第2の所定負荷率γ2が小さい値に設定される様子を示す図である。
【図24】ブームの長さが同一である場合における、ブームの倒伏作動速度とγ2との関係を表したグラフである。
【図25】第2実施形態において、誘導線nが水平線WLとなす傾き角φが、ブームの倒伏作動速度が大きいときほど大きく設定される様子を示す図である。
【符号の説明】
【0079】
1 高所作業車(ブーム作業車)
10 走行体
30 ブーム
40 作業台(作業機)
51 ブーム操作レバー
60 コントローラ
61 バルブ作動制御部
62 位置算出部
63 規制制御部
64 記憶部(記憶手段)
65 ノンストップ作動制御部(ノンストップ作動制御手段)
80 位置検出手段
164 記憶部(記憶手段)
165 ノンストップ作動制御部(ノンストップ作動制御手段)
167 負荷率算出部(負荷率算出手段)
L5 規制線
TR トレース線
n 誘導線
1
誘導線の始点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行体と、
前記走行体に起伏及び伸縮動自在に設けられ、先端部に作業機を有したブームと、
前記ブームの先端部の移動が禁止される領域との境界線である規制線上に若しくは前記規制線よりも内側の領域内に設けられたトレース線のデータを記憶した記憶手段と、
前記ブームの倒伏作動中、前記ブームの先端部が前記トレース線に達しようとしていると判断したとき、前記ブームの倒伏作動に併せて前記ブームの収縮作動を行わせることにより、前記ブームの先端部を前記トレース線に沿って下降移動させるノンストップ作動制御手段とを備え、
前記ノンストップ作動制御手段は、倒伏作動している前記ブームの先端部が前記トレース線に至る前に、前記ブームの先端部が描いている軌道から延びて前記軌道の下方領域を通る誘導線を設定し、前記ブームの先端部が前記誘導線を通って前記トレース線上に至るように前記ブームを作動させることを特徴とするブーム作業車のノンストップ作動制御装置。
【請求項2】
前記誘導線の始点は、ブームの長さに応じた位置に設定されることを特徴とする請求項1記載のブーム作業車のノンストップ作動制御装置。
【請求項3】
前記誘導線の始点は、前記ブームの倒伏作動速度に応じた位置に設定されることを特徴とする請求項1又は2記載のブーム作業車のノンストップ作動制御装置。
【請求項4】
走行体と、
前記走行体に起伏及び伸縮動自在に設けられ、先端部に作業機を有したブームと、
前記走行体に作用する転倒モーメントを検出する転倒モーメント検出手段と、
前記走行体に作用する転倒モーメントの限界値として設定された許容転倒モーメントを記憶した記憶手段と、
前記転倒モーメント検出手段において検出された検出転倒モーメント及び前記記憶手段に記憶された前記許容転倒モーメントから、前記許容転倒モーメントに対する検出転倒モーメントの比である算出負荷率を算出する負荷率算出手段と、
前記ブームの倒伏作動中、前記負荷率算出手段により算出された算出負荷率が予め定められた限界負荷率に達しようとしていると判断したとき、前記ブームの倒伏作動に併せて前記ブームの収縮作動を行わせることにより、前記負荷率算出手段により算出された算出負荷率が前記限界負荷率を超えないように前記ブームの先端部を下降移動させるノンストップ作動制御手段とを備え、
前記ノンストップ作動制御手段は、前記負荷率算出手段により算出された算出負荷率が前記限界負荷率と同じ若しくは前記限界負荷率よりも小さい値として定められた第1の所定負荷率に至る前に、前記ブームの先端部が描いている軌道から延びて前記軌道の下方領域を通る誘導線を設定し、前記負荷率算出手段により算出された算出負荷率が前記第1の所定負荷率になるまで前記ブームの先端部が前記誘導線を通って移動するように前記ブームを作動させることを特徴とするブーム作業車のノンストップ作動制御装置。
【請求項5】
前記ノンストップ作動制御手段は、前記負荷率算出手段により算出された算出負荷率が前記第1の所定負荷率よりも小さい値として定められた第2の所定負荷率に達したときの前記ブームの先端部の位置を前記誘導線の始点として設定することを特徴とする請求項4記載のブーム作業車のノンストップ作動制御装置。
【請求項6】
前記第2の所定負荷率は、前記ブームの長さに応じた値に設定されることを特徴とする請求項5記載のブーム作業車のノンストップ作動制御装置。
【請求項7】
前記第2の所定負荷率は、前記ブームの倒伏作動速度に応じた値に設定されることを特徴とする請求項5又は6記載のブーム作業車のノンストップ作動制御装置。
【請求項8】
前記誘導線が水平線となす傾き角は、前記ブームの長さに応じた値に設定されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のブーム作業車のノンストップ作動制御装置。
【請求項9】
前記誘導線が水平線となす傾き角は、前記ブームの倒伏作動速度に応じた値に設定されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のブーム作業車のノンストップ作動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2006−168870(P2006−168870A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361111(P2004−361111)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(000116644)株式会社アイチコーポレーション (168)
【Fターム(参考)】