説明

プラスチゾル組成物および物品

【課題】本発明の目的は、貯蔵安定性と変形回復性が良好な(メタ)アクリル系重合体粒子、プラスチゾル組成物及び得られる物品を提供する。
【解決手段】t−ブチルメタクリレート単量体単位(a)を含有する(メタ)アクリル系重合体粒子(A)と、塩基性化合物(B)または吸湿材(C)を含有するプラスチゾル組成物。また、前記プラスチゾル組成物を塗布して得られる物品。塩基性化合物(B)は非共有電子対由来の塩基性を示す塩基性官能基を有する。具体的な例としては、ポリアミノアミドや脂肪族ポリアミンや脂環族ポリアミンや芳香族ポリアミン等のアミン系化合物;アジピン酸ジヒドラジド(ADH)、セバシン酸ジヒドラジド(SDH)等のヒドラジド化合物;ジシアンジアミド等が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は貯蔵安定性と塗膜の変形回復性が良好な(メタ)アクリル系重合体粒子を含むプラスチゾル組成物及び物品に関する。
【背景技術】
【0002】
可塑剤を媒体として重合体微粒子を分散させたプラスチゾルは、自動車アンダーコート、自動車ボディーシーラー、壁紙、カーペットバッキング材、床材、塗料、玩具等、多岐にわたる産業分野で使用されている。
従来プラスチゾルといえば塩化ビニル系重合体粒子を使用した塩ビゾルが殆どであったが、近年では地球環境等への配慮から(メタ)アクリル系重合体粒子を用いた(メタ)アクリル系プラスチゾル(以下「アクリルゾル」という)への移行が検討されている。アクリルゾルはハロゲン系元素を含有しないため、製品を焼却した際に有害なダイオキシンや酸性雨の要因ともなるハロゲン化水素ガスを発生しない。
【0003】
アクリルゾルに関しては様々な提案がなされており、例えば特許文献1、2ではt−ブチルメタクリレート単量体単位を含むアクリル系重合体粒子を用いたプラスチゾル組成物が開示されている。これらの組成物は、貯蔵安定性は良好なものの、変形回復性が不十分であった。
また、特許文献3では、アクリル重合体微粒子、ブロック型ウレタン樹脂、固形のヒドラジン系硬化剤を含むアクリルゾルが開示されている。ヒドラジン系硬化剤は、ウレタン樹脂との尿素結合を形成することにより、接着性、塗膜の耐寒性、塗膜強度を向上させるために添加されている。しかしながら、アクリル重合体微粒子を構成する単量体単位として、t−ブチルメタクリレートを用いることは開示されておらず、変形回復性と貯蔵安定性の両立はできなかった。
【特許文献1】WO03/004568パンフレット
【特許文献2】特開平7−102147号公報
【特許文献3】特開2001−329135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、貯蔵安定性と変形回復性が良好な(メタ)アクリル系重合体粒子、プラスチゾル組成物及び得られる物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はt−ブチル(メタ)アクリレートの分解を抑制することにより、貯蔵安定性と変形回復性がともに優れるプラスチゾル組成物を得ることができることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明の第一の要旨は、t−ブチルメタクリレート単量体単位(a)を含有する(メタ)アクリル系重合体粒子(A)と、塩基性化合物(B)または吸湿材(C)を含有するプラスチゾル組成物である。
また、本発明の第二の要旨は、前記プラスチゾル組成物を塗布して得られる物品である。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、貯蔵安定性と変形回復性が良好なプラスチゾル及び物品を提供することができ、その工業的意義及び地球環境保全にもたらす効果は著しい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のプラスチゾル組成物に含まれる(メタ)アクリル系重合体粒子(A)は、t−ブチルメタクリレート単量体単位(以下、単量体単位(a)という)を含有する。本発明における単量体単位(a)は、(メタ)アクリル系重合体粒子(A)の貯蔵安定性と変形回復性を向上させる成分である。
本願において、(メタ)アクリル系重合体粒子(A)とは、下記の重合体粒子を構成する単量体単位のうち(メタ)アクリレート単位を50質量%以上含むものを意味する。本発明の(メタ)アクリル系重合体粒子は、(メタ)アクリレート単位を80質量%以上含むものが好ましい。本願において、(メタ)アクリルとはメタクリルとアクリルの総称であり、(メタ)アクリレートとはメタクリレートとアクリレートの総称である。
【0008】
(メタ)アクリル系重合体粒子(A)中の単量体単位(a)の含有量は5質量%以上90質量%未満が好ましい。単量体単位(a)が5質量%以上であると塗膜の変形回復性が向上するので、好ましい。また、単量体単位(a)位が90質量%未満であると貯蔵安定性に優れるので好ましい。
上記含有量は、NMR等公知の分析手段によって定量することが出来る。
【0009】
(メタ)アクリル系重合体粒子(A)は、非共有電子対由来の塩基性を示す塩基性官能基を含有してもよい。前記塩基性官能基は単量体単位(a)に含まれるt−ブチル基の脱離を抑制する成分であり、変形回復性を向上させる効果を有する。
重合して前記塩基性官能基を有する単量体単位(b)(以下、単量体単位(b)という)を与える単量体としては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の脂肪族アミノ(メタ)アクリレート;脂環式アミノ(メタ)アクリレート、N−ビニルイミダゾール、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルイミダゾリン、N−ビニルピロリドン等の複素環を有するビニル化合物;ビニルアニリン、ビニルベンジルアミン、アリルアミン、アミノスチレン等が挙げられる。
【0010】
(メタ)アクリル系重合体粒子(A)中の単量体単位(b)の含有量は、0.001質量%以上25質量%未満が好ましい。単量体単位(b)が0.001質量%以上であると塗膜の変形回復性が向上するので、好ましい。また、単量体単位(b)が25質量%未満であると重合の安定性に優れるので好ましい。
上記含有量は、NMR等公知の分析手段によって定量することが出来る。
【0011】
(メタ)アクリル系重合体粒子を構成する単量体単位の原料である単量体としては公知の(メタ)アクリロイル基を有する単量体が挙げられる。具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tーブチルアクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート等の直鎖アルキルアルコールの(メタ)アクリレート類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の環式アルキルアルコールの(メタ)アクリレート類;メタクリル酸、アクリル酸、2−メタクリロイルオキシエチルフタレート、2−メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタレート等のカルボキシル基含有単量体;アリルスルホン酸等のスルホン酸基含有(メタ)アクリレート類;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート等のリン酸基含有(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2ーヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類;アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等のカルボニル基含有(メタ)アクリレート類;ベンジルメタクリレート等の芳香族アルコールの(メタ)アクリレート類;グリシジル(メタ)アクリレート、(3,4−エポキシシクロヘキシル)−メチル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリレート;N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN−メチロール含有(メタ)アクリレート;γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、2−スチリルエチルトリメトキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン等の加水分解性シリル基;2−[(3,5―ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチルメタクリレート、2−[0−(1‘−メチルプロピリデンアミノ)カルボキシアミノ]エチルメタクリレート等のブロックイソシアネート基含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0012】
また、必要に応じて(メタ)アクリロイル基を有する単量体以外に、例えば、アクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン等のスチレン誘導体;ジビニルベンゼン、ジビニルナフタリン、ジビニルエーテル、トリアリールイソシアヌレート等の多官能単量体;イタコン酸;クロトン酸;マレイン酸、マレイン酸エステル、無水マレイン酸、フマル酸、フマル酸エステル等の不飽和酸及びその誘導体等の単量体を共重合しても良い。
【0013】
(メタ)アクリル系重合体粒子の分子量は質量平均分子量30万〜500万が好ましい。プラスチゾル組成物の貯蔵安定性と強度の観点から50万以上が好ましく、加熱成膜時のゲル化性という観点から400万以下が好ましい。
【0014】
(メタ)アクリル系重合体粒子の粒子構造は各層の組成が異なる多層構造やグラディエント構造が好ましい。特に、3層以上の多層構造であって最も内側の層を可塑剤と相溶性を有する層とし、外層側を可塑剤との相溶性が低い層とした構造は、貯蔵安定性と可塑剤保持性及び柔軟性を両立させることができるので好ましい。
【0015】
(メタ)アクリル系重合体粒子の状態としては、例えば、重合で得られた一次粒子が多数凝集した二次粒子構造や、それ以上の高次粒子構造等を形成していても使用可能である。その場合には、プラスチゾルの混練時にかかる剪断でこれら凝集状態が破壊されプラスチゾル中に一次粒子が微細に均一分散されるように、一次粒子同士が強固に結合せず緩く凝集している状態が好ましい。
【0016】
(メタ)アクリル系重合体粒子の一次粒子径は0.01〜30μmが好ましい。0.01μm以上であると重合体粒子を多層構造としたときに、可塑剤の吸収を抑制する層の厚みを十分とることができ、プラスチゾルの貯蔵安定性が良好となるので好ましい。また、プラスチゾル焼付時のゲル化性という観点から30μm以下であることが好ましい。 更に、(メタ)アクリル系重合体粒子の二次粒子径は5〜500μmが好ましい。5μm以上であると作業時の取り扱い性が良好となる。また、500μm以下であると、コーティング用途や薄膜成形物用途において、分散できていない二次粒子に起因するブツ等が少なくなり製品外観が良好となる傾向にある。
【0017】
(メタ)アクリル系重合体粒子の製造方法としては公知の重合体粒子の製造方法を適宜選択することが出来る。例えば、乳化重合法、シード重合法、ソープフリー重合法、分散重合法、微細懸濁重合法により得られる(メタ)アクリル系重合体粒子の分散液を調製し、噴霧乾燥法(スプレードライ法)、酸凝固や塩凝固とそれに続く乾燥プロセス、凍結乾燥法、遠心分離法を用いて粉体化する方法が挙げられる。
【0018】
本発明のプラスチゾル組成物は、塩基性化合物(B)または吸湿材(C)を含有する。前記塩基性化合物(B)は、単量体単位(a)に含まれるt−ブチル基の脱離を抑制する成分であり、変形回復性を向上させる効果を有する。
塩基性化合物(B)は非共有電子対由来の塩基性を示す塩基性官能基を有する。具体的な例としては、ポリアミノアミドや脂肪族ポリアミンや脂環族ポリアミンや芳香族ポリアミン等のアミン系化合物;アジピン酸ジヒドラジド(ADH)、セバシン酸ジヒドラジド(SDH)等のヒドラジド化合物;ジシアンジアミド等が挙げられる。
その中でも(メタ)アクリル系重合体粒子との相溶性、経済性、安全性、入手のし易さの観点から、脂肪族ポリアミン、脂環族ポリアミン、アジピン酸ジヒドラジドまたはジシアンジアミドを主成分として用いることが好ましい。
【0019】
本発明のプラスチゾル中の塩基性化合物(B)の含有量は、0.001質量%以上20質量%未満が好ましい。塩基性化合物(B)が0.001質量%以上であると塗膜の変形回復性が向上するので、好ましい。また、塩基性化合物(B)が20質量%未満であるとゾル粘度が低く抑えられるので好ましい
【0020】
本発明のプラスチゾル組成物は、吸湿材を含有することで、プラスチゾルに含まれる水分((メタ)アクリル系重合体微粒子(A)、可塑剤、配合剤等に含まれる水分)を除去し、単量体単位(a)に含まれるエステル部位の加水分解を抑制することができる。そのため、吸湿剤を含むプラスチゾル組成物は変形回復性を向上させることが出来る。
【0021】
吸湿材は、プラスチゾル中に溶け込む水分と反応、吸着、吸収する化合物であり、例えば、酸化カルシウム、シリカゲルなどが挙げられる。
【0022】
吸湿材の添加量は、(メタ)アクリル系重合体粒子100質量部に対して0.1質量部以上30質量部未満が好ましい。0.1質量部以上であると柔軟性やゴム弾性が貯蔵時の環境の影響を受け難く、30質量部未満であると塗膜の引張強度に優れる傾向にあるので好ましい。
【0023】
本発明のプラスチゾル組成物は前述した(メタ)アクリル系重合体粒子を可塑剤に分散させることにより得られる。
可塑剤としては公知の可塑剤が挙げられる。具体例としては、例えばジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤;ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジヘキシルアジペート、ジー2−エチルヘキシルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート等のアジピン酸エステル系可塑剤;トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ−2−エチルヘキシルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤;トリ−2−エチルヘキシルトリメリテート等のトリメリット酸エステル系可塑剤;ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のセバシン酸エステル系可塑剤;ポリ−1,3−ブタンジオールアジペート等の脂肪族系ポリエステル可塑剤;ジエチレングリコールジベンゾエート、ジブチレングリコールジベンゾエート等の安息香酸系可塑剤;エポキシ化大豆油等のエポキシ化エステル系可塑剤;アルキルスルホン酸フェニルエステル等のアルキルスルホン酸フェニルエステル系可塑剤;脂環式二塩基酸エステル系可塑剤;ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテル系可塑剤;クエン酸アセチルトリブチル等のクエン酸系可塑剤を挙げることができる。
その中でも(メタ)アクリル系重合体粒子との相溶性、経済性、安全性、入手のし易さの観点から、ジイソノニルフタレートを主成分として用いることが好ましい。
【0024】
プラスチゾル組成物にはその他配合剤として、炭酸カルシウム、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、更に消泡剤、防黴剤、防臭剤、抗菌剤、界面活性剤、滑剤、紫外線吸収剤、香料、発泡剤、レベリング剤、接着剤、減粘剤、希釈剤、発泡剤、発泡助剤等の各種添加剤を適宜配合してもよい。
【0025】
本発明のプラスチゾル組成物を製造するための混練機器としては公知のものを適宜使用すればよい。
具体例として、ポニーミキサー(Pony mixer)、チェンジキャンミキサー(Change−can mixer)、ホバートミキサー(Hobert mixer)、プラネタリーミキサー、バタフライミキサー、らいかい機、ニーダー等が挙げられる。
【0026】
本発明のプラスチゾル組成物は公知の加熱方法、成形方法又はゲル化方法により硬化させることが出来る。
本発明のプラスチゾル組成物は、自動車アンダーコート、自動車ボディーシーラー、壁紙、カーペットバッキング材、床材、塗料等の被覆材料用途や、玩具等の成形品用途等、従来のプラスチゾル組成物と同様の用途に使用される。
本発明のプラスチゾル組成物を被覆材料として使用する場合、その塗布方法については公知の方法を適宜使用すればよい。
プラスチゾル組成物を基材上に塗布する方法の具体例としては、ディップコーティング法、スプレーコーティング法、ナイフコーティング法、ロールコーティング法、カーテンフローコーティング法、刷毛塗り塗装法、静電塗装法等が挙げられる。プラスチゾル組成物の塗膜を焼付けることにより目的とする被覆層を有する物品を得ることができる。
本発明のプラスチゾル組成物を使用した物品としては、従来のプラスチゾル組成物が使用されるものと同様の物品が挙げられる。例としては、自動車車体、壁紙、カーペット、床材、塗料、玩具等が挙げられる。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例を用いて本発明を説明する。実施例中の評価方法と評価基準は以下の通りである。
【0028】
(1)変形回復性
プラスチゾル組成物をテフロン(登録商標)処理された鉄板(厚さ約1mm)上に約2mm厚になるようにキャストし、これをギヤーオーブンで130℃×20分加熱して得たシート状成形体を、JIS K−7113記載の手法に従いダンベル形状2号型に裁断して試験片とし、テンシロン測定機により引張変形のヒステリシス試験を行った。ここで、引張速度は50mm/分、変位量は伸度にして40%、測定温度は25℃とした。このヒステリシス試験を連続して5回繰り返したが、2回目の試験における往路(引張り時)のS−S曲線が与える面積(S1)と復路(戻り時)のS−S曲線が与える面積(S2)を計算し、ヒステリシス貯蔵率=S2/S1×100(%)を算出し、これを変形回復性の指標とし、以下の基準で評価した。
「○」:ヒステリシス貯蔵率50%以上
「×」:ヒステリシス貯蔵率50%未満
(2)貯蔵安定性
プラスチゾル組成物を調製後、2時間以内に25℃にて粘度を測定した(初期粘度η1)。さらに、これを40℃の恒温水槽に10日間貯蔵し、25℃に戻して再び粘度を測定した(貯蔵後粘度η2)。これらの粘度測定は、BH型粘度計(東機産業(株)製)を用いて、測定温度25℃、剪断速度20s−1 にて実施した。このようにして測定した初期粘度η1と貯蔵後粘度η2の値から、貯蔵安定性として「η2/η1×100−100」(増粘率%)を算出し、以下の基準で評価した。
「○」: 増粘率が300%未満
「×」: 増粘率が300%以上(またはη2測定不能)
【0029】
[実施例1]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌棒、滴下漏斗、冷却管を装備した2リットルの4つ口フラスコに、純水408gを入れ、30分間十分に窒素ガスを通気し、純水中の溶存酸素を置換した。窒素ガス通気を停止した後、200rpmで攪拌しながら80℃に昇温した。内温が80℃に達した時点でメチルメタクリレート(MMA)20g、n−ブチルメタクリレート(nBMA)15g(初期仕込(M1))及び過硫酸カリウム0.3gを一括添加した。引き続きMMA259g、t−ブチルメタクリレート(tBMA)245g、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王(株)製、商品名:ペレックスO−TP)5.4g及び純水252gの混合物(単量体(M2))を滴下し、重合を実施した。その後MMA60g、ペレックスO−TP0.6g及び純水30gの混合物(単量体(M3))を滴下して重合体粒子を製造した。その後、80℃にて1時間攪拌を継続して重合を完了させ(メタ)アクリル系重合体粒子の分散液を得た。
(メタ)アクリル系重合体粒子の分散液をCL−8型スプレードライヤー(大河原化工機(株)製)を用いて噴霧乾燥し(入口温度/出口温度=150/60℃、ディスク回転数20000rpm)、(メタ)アクリル系重合体粒子(P1)を得た。
次いで、(メタ)アクリル系重合体粒子(P1)50質量部及び可塑剤50質量部(ジイソノニルフタレート:(株)ジェイプラス製)を計量し、真空ミキサー(製品名:ARV−200、(株)シンキー製)にて10秒間大気圧(0.1MPa)で混合した後、2.7kPaに減圧して110秒間混合してプラスチゾル組成物を得た。このプラスチゾル組成物の評価結果を表2に示した。
【0030】
[実施例2〜4および比較例1〜2]
単量体混合物(M2)および(M3)の組成を表1にしたがって変更し、その他の条件は実施例1と同様にして(メタ)アクリル系重合体粒子(P2)を得た。次いで、表2と表3の配合に従って実施例1と同様の操作でプラスチゾル組成物を得た。得られたプラスチゾル組成物の評価結果を表2と表3の下段に示した。
【0031】
実施例1〜3は、アクリル系重合体粒子(P1)と塩基性化合物としてアジピン酸ジヒドラジド、ポリアミドアミン、ジシアンジアミドを配合した例であり、プラスチゾル組成物の貯蔵安定性及び成形シートの変形回復性は良好であった。
【0032】
実施例4は、アクリル系重合体粒子(P1)と吸湿材を配合した例であり、プラスチゾル組成物の貯蔵安定性及び成形シートの変形回復性は良好であった。
【0033】
比較例1は、塩基性化合物および吸湿材を配合しない例であり、貯蔵安定性は優れるものの変形回復性に劣る。
【0034】
比較例2は、t−ブチルメタクリレート単量体単位及び塩基性化合物のない例(P2)であり、変形回復性に優れるものの、貯蔵安定性に劣る。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
t−ブチルメタクリレート単量体単位(a)を含有する(メタ)アクリル系重合体粒子(A)と、塩基性化合物(B)または吸湿材(C)を含有するプラスチゾル組成物。
【請求項2】
請求項1記載のプラスチゾル組成物を塗布して得られる物品。

【公開番号】特開2010−24373(P2010−24373A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188488(P2008−188488)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】