説明

プラスチックレンズ用染料塗布装置

【課題】レンズを充分にかつ正しい色で染色する。
【解決手段】プラスチックレンズを被染色面が露出する状態で搬送する搬送装置15と、前記被染色面と対向する位置に配設されて被染色面に濡れ性が向上する改質処理を施す改質装置(コロナ放電処理装置21)とを備える。前記改質装置より搬送装置15の搬送経路の下流側であって前記被染色面と対向する位置に配設され、前記被染色面に染料の粒子を飛ばして付着させる染料噴出装置(インクジェット装置22)とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズに染料を塗布する工程で染料の粒子を飛ばして付着させるプラスチックレンズ用染料塗布装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックレンズ(以下、単にレンズという)を染色する方法としては、例えば特許文献1に記載されている方法がある。この特許文献1に開示されている染色方法は、レンズにインクジェット法によって染料を塗布し、その後、レンズを加熱することによって実施する。
【0003】
前記染料は、レンズの上方に配置されたノズルヘッドから粒子状の液滴(以下、単に染料粒という)として噴射される。一般的なインクジェット法によれば、前記染料粒は、所定の間隔をおいて連続的にノズルヘッドから噴出される。特許文献1に記載の方法において、染料粒がノズルヘッドから噴出されるときには、レンズの被染色面の全域に染料が塗布されるように、ノズルヘッドとレンズとが相対的に移動する。
【0004】
ノズルヘッドから飛ばされてレンズに到達した染料粒は、図14に示すように、レンズの表面に一粒ずつ付着する。図14において、符号1は染料粒を示す。すなわち、染料粒1が半球状にレンズ表面に付着する。図14に示す染料粒1は、互いに隣り合う染料粒1どうしが接触するような大きさで描いてある。このような大きさの染料粒1がレンズ表面に付着している場合は、図14(A)で示すように、染料粒1で囲まれた領域2においてレンズ表面が部分的に露出することになる。この領域2は、レンズを加熱して染料をレンズ内に浸透させたとしても、染色されることはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−20080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示す染色方法によって染色されたレンズは、着色が不充分で、目標とする色とは異なる色に染色されるおそれがあった。この理由は、図14(A)に示すように、染料粒1どうしが互いに接触するように染料をレンズ表面の全域に塗布したとしても、染料粒1によって囲まれた領域2を染色することができないからである。
【0007】
また、インクジェット法の大きな特徴は、複数のインクジェットノズルから異なる色の染料を噴出し、その各ドットの量バランスが合わさることで、見た目上の様々な色を作り出している点であるが、実際は各ドットが独立している、または一部分が混ざり合っている状態である。染料中の色素は青、赤、黄色等、色によってレンズ中への浸透しやすさが異なるため、プラスチック基材の種類によっては染料同士が均一に混ざっていないことが原因で、目標とする色と異なった染色結果になることが考えられる。
【0008】
本発明はこのような問題を解消するためになされたもので、レンズを充分にかつ正しい色で染色することができるプラスチックレンズ用染料塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、本発明に係るプラスチックレンズ用染料塗布装置は、プラスチックレンズを被染色面が露出する状態で搬送する搬送装置と、前記被染色面と対向する位置に配設され、前記被染色面に濡れ性が向上する改質処理を施す改質処理装置と、前記改質処理装置より前記搬送装置の搬送経路の下流側であって前記被染色面と対向する位置に配設され、前記被染色面に染料の粒子を飛ばして付着させる染料噴出装置とを備えているものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、改質処理により濡れ性が向上した被染色面に染料粒が付着するから、染料粒が被染色面上で濡れ拡がり、染料粒で囲まれた領域にも染料が流れて塗られる。したがって、被染色面の全域にわたって染料を確実に塗布することができ、染料の塗布むらがなくなるから、プラスチックレンズを充分に染色することができる。
【0011】
また、染料粒が被染色面上で濡れ拡がるときには、互いに隣り合う染料粒を構成していた染料が被染色面上で混ざるようになる。例えば、色の異なる染料からなる染料粒が互いに隣り合っていた場合は、それぞれの染料を混ぜたような色となる。すなわち、実質的に被染色面上で色を調合したことになるから、染料粒を並べて色を表現する場合に較べると、目標とする色と一致する、またはきわめて近い色で染色することができる。
【0012】
さらに、本発明に係るプラスチックレンズ用染料塗布装置によれば、被染色面の濡れ性を向上させる改質処理と、改質された被染色面への染料の塗布とを連続して行うことができる。このため、このプラスチックレンズ用染料塗布装置を使用することによって、目標とする色と一致する、またはきわめて近い色に充分に染色されたプラスチックレンズを生産性よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るプラスチックレンズ用染料塗布装置の動作を説明するための模式図である。
【図2】レンズ移動テーブルを示す図で、同図(A)は平面図、同図(B)は同図(A)におけるB−B線断面図である。
【図3】レンズ移動テーブルにプラスチックレンズを装填した状態を示す図で、同図(A)は平面図、同図(B)は同図(A)におけるB−B線断面図、同図(C)は同図(A),(B)におけるレンズ保持用のレンズホルダーを示す斜視図である。
【図4】本発明に係るプラスチックレンズ用染料塗布装置における搬送装置の正面図である。
【図5】本発明に係るプラスチックレンズ用染料塗布装置における搬送装置の側面図である。
【図6】制御装置の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明に係るプラスチックレンズの染色方法を説明するためのフローチャートである。
【図8】改質処理装置の構成を示す正面図である。
【図9】プラスチックレンズの状態を示す図で、同図(A)は改質処理後の状態を示し、同図(B)〜(D)は染料塗布後の状態を示す。
【図10】染料塗布装置の構成を示す正面図である。
【図11】染料粒の付着形態を示す平面図である。
【図12】染料粒の塗布パターンを示す図で、同図(A)は染料粒を2方向に一定のピッチで配置した例を示し、同図(B)は染料粒を濃淡が徐々に変化するように配置した例を示す。
【図13】表面改質処理を施した面に対し、染料塗布後の染料の状態を示す図で、同図(A)は平面図、同図(B)は同図(A)におけるB−B線断面図である。
【図14】従来の染色方法によって染料粒がプラスチックレンズに付着された状態を示す図で、同図(A)は平面図、同図(B)は同図(A)におけるB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るプラスチックレンズ用染料塗布装置の一実施の形態を図1〜図13によって詳細に説明する。
本発明に係るプラスチックレンズ用染料塗布装置は、図1に示す各工程を経て染色を行う構成のものである。前記各工程とは、図1に示すように、後述する改質処理工程Aおよび染料塗布工程Bと、加熱工程Cとである。この実施の形態においては、改質処理工程Aと染料塗布工程Bとを後述する一つの染料塗布装置11によって実施し、加熱工程Cを加熱炉12によって実施する。この加熱炉12は、詳細には図示してはいないが、多数のプラスチックレンズ(以下、単にレンズという)13を一度に所定の温度に加熱することができるものや、連続方式による加熱炉が用いられている。
【0015】
改質処理工程Aにおいては、レンズ13の被染色面14(レンズ表面)に濡れ性が向上する改質処理を施す。この改質処理は、例えばコロナ放電処理や大気圧プラズマ処理などによって行う。
コロナ放電処理は、一対の電極(図示せず)に高周波高電圧を印加して電極間にコロナ放電を生じさせ、このコロナ放電によるエネルギー場に前記被染色面14を晒すことによって行う。
【0016】
大気圧プラズマ処理は、一対の電極間にプラズマを発生させ、このプラズマによるエネルギー場に前記被染色面14を晒すことによって行う。なお、レンズ13の濡れ性を向上させるための処理法は、コロナ放電処理やプラズマ処理に限定されることはなく、たとえば紫外線を照射して行う紫外線表面処理法を採用することも考えられる。
【0017】
染料塗布工程Bにおいては、染料の粒子(以下、単に染料粒という)を飛ばして被染色面14に付着させる。染料粒を飛ばす手法としては、例えばインクジェット法やスプレー法が挙げられる。この実施の形態においては、詳しくは後述するがインクジェット法によって染料粒を被染色面14に塗布している。
【0018】
染料は、従来からよく知られている浸漬染色法や昇華染色法で使用するものを用いることができる。使用する分散染料としては、ディスパーズ・イエロー・3 、ディスパーズ・イエロー・3 3 、ディスパーズ・イエロー・5 4 、ディスパーズ・イエロー・1 2 2 、ディスパーズ・イエロー・1 2 4 、ディスパーズ・イエロー・1 2 8 、ディスパーズ・イエロー・1 3 4 、ディスパーズ・イエロー・1 4 0 、ディスパーズ・オレンジ・5 、ディスパーズ・オレンジ・3 7 、ディスパーズ・オレンジ・9 3 、ディスパーズ・オレンジ・1 0 3 、ディスパーズ・オレンジ・1 1 2 、ディスパーズ・オレンジ・1 3 4 、ディスパーズ・オレンジ・3 70 、ディスパーズ・グリーン・7 、ディスパーズ・バイオレット・6 1 、ディスパーズ・バイオレット・6 3
、ディスパーズ・ブラウン・1 、ディスパーズ・ブラウン・1 3 、ディスパーズ・ブルー・1 4 、ディスパーズ・ブルー・2 7 、ディスパーズ・ブルー・5 4、ディスパーズ・ブルー・5 6 、ディスパーズ・ブルー・1 4 9 、ディスパーズ・ブルー・1 7 6 、ディスパーズ・ブルー・1 8 2 、ディスパーズ・ブルー・1 9 3 、ディスパーズ・レッド・6 0 、ディスパーズ・レッド・9 1 、ディスパーズ・レッド・1 4 6 、ディスパーズ・レッド・1 9 9 、ディスパーズ・レッド・2 0 2 、ディスパーズ・レッド・20 7 、ディスパーズ・レッド・2 0 4 、ディスパーズ・レッド・2 9 1 等が挙げられ、これらの1 種を単独でまたは2 種以上を混合して用いることができる。
【0019】
市販品としては、例えばカヤセットブルー906(日本化薬(株)製)、カヤセットブラウン939(日本化薬(株)製)、カヤセットレッド130(日本化薬(株)製)、Kayalon Microester Red C-LS conc(日本化薬(株)製)、Kayalon Microester Red AQ-LE(日本化薬(株)製)、Kayalon Microester Red DX-LS(日本化薬(株)製)、Dianix Blue AC-E(ダイスタージャパン(株)製)、Dianix Red AC-E 01、(ダイスタージャパン(株)製)、Dianix Yellow AC-E new(ダイスタージャパン(株)製)、Kayalon Microester Blue C-LS conc(日本化薬(株)製)、Kayalon Microester Blue AQ-LE(日本化薬(株)製)、Kayalon Microester Yellow AQ-LE(日本化薬(株)製)、Kayalon Microester Yellow C-LS(日本化薬(株)製)、Kayalon Microester Blue DX-LS conc(日本化薬(株)製)等がある。
【0020】
次に、前記改質処理工程Aと前記染料塗布工程Bとを実施する際に使用するプラスチックレンズ用染料塗布装置11の一実施の形態を図1〜図5によって詳細に説明する。
この実施の形態によるプラスチックレンズ用染料塗布装置11は、後述する各処理装置が水平方向に並ぶ構成のものである。また、この染料塗布装置11は、レンズ13を各処理装置の下方を通して搬送する搬送装置15を備えている。この搬送装置15は、レンズ13を第1、第2の搬送テーブル16,17に装填した状態で搬送するものである。
【0021】
この染料塗布装置11の水平方向の両端部には、作業者(図示せず)がレンズ13の搬入と搬出とを行うために第1、第2の処理ユニット18,19が設けられている。第1の処理ユニット18は、染料塗布装置11における図1において左側の端部に設けられ、第2の処理ユニット19は、他端部に設けられている。これらの第1、第2の処理ユニット18,19には、ライトカーテン20によって仕切られて装置前方(図1の紙面の上方)に向けて開放された作業スペースSがそれぞれ形成されている。
【0022】
前記第1の搬送テーブル16は、前記第1の処理ユニット18においてレンズ13の着脱が行われる。第2の搬送テーブル17は、前記第2の処理ユニット19においてレンズ13の着脱が行われる。このように二つの搬送テーブル16,17を使用する理由は、第1の処理ユニット18と第2の処理ユニット19とにおいてレンズ13の搬入・搬出作業を個別に行うことができるため、例えば第1の処理ユニット18側が処理を行っている間に、第2の処理ユニット19側のレンズをセットできる。このようにユニットを2つ設けることで交互の処理が可能となり、生産効率が向上する。もちろん処理ユニット18か19のいずれか片方を除いた形でも問題ないことは言うまでもない。
【0023】
前記第1、第2の処理ユニット18,19の間には、詳細は後述するが、前記各処理装置としてのコロナ放電処理装置21とインクジェット装置22とが配設されている。コロナ放電処理装置21は、上述した改質処理工程Aを実施するためのものである。この実施の形態においては、このコロナ放電処理装置21によって、本発明でいう「改質装置」が構成されている。インクジェット装置22は、上述した染料塗布工程Bを実施するためのものである。このインクジェット装置22によって、本発明でいう「染料噴出装置」が構成されている。
【0024】
レンズ13は、第1または第2の処理ユニット18,19において、作業者によって染料塗布装置11内に搬入され、搬送装置15の前記第1、第2の搬送テーブル16,17に装填される。そして、このレンズ13は、搬送装置15によってコロナ放電処理装置21とインクジェット装置22とに送られ、これらの装置による処理が終了した後に搬入時と同じ第1または第2の処理ユニット18,19に戻される。この実施の形態による染料塗布装置11は、このような各装置の動作を自動的に行うための制御装置23を備えている。
【0025】
前記搬送装置15は、前記第1、第2の搬送テーブル16,17をそれぞれ上下方向に移動させる機能と、これらの搬送テーブル16,17をそれぞれ水平方向に移動させる機能とを有している。第1、第2の搬送テーブル16,17は、図2に示すように、板状に形成されており、図4および図5に示すように、後述する昇降用スライダ24の上端部にそれぞれ設けられている。
【0026】
前記第1、第2の搬送テーブル16,17には、図2に示すように、二つの円形穴25が上方に向けて開口するように形成されている。これらの円形穴25は、図3(A),(B)に示すように、レンズ保持用のレンズホルダー26が着脱可能に嵌合できる寸法に形成されている。これらの第1、第2の搬送テーブル16,17によって、本発明でいう「搬送テーブル」が構成されている。
【0027】
前記レンズホルダー26は、図3(C)に示すように、円筒26aと、この円筒26aから中空部内に臨むばね片26bとによって構成されている。これらの円筒26aとばね片26bとは、プラスチックによって一体成形により一体に形成されている。円筒26aの軸線方向の長さは、レンズ13の厚みより僅かに大きくなるように形成されている。
前記ばね片26bは、円筒26aを周方向に3等分する位置に設けられている。これらのばね片26bは、円筒26aから周方向の一方に延びるとともに、先端側に向かうにしたがって漸次円筒26aの軸心に接近するように湾曲している。
【0028】
ばね片26bの先端部には、レンズ13の外周面を径方向の中心に向けて押圧するための爪26cが設けられている。レンズ13は、これら3本のばね片26bにより挟まれることによって、円筒26aの中心部内に保持されている。レンズ13は、ばね片26bで保持されている状態において、ばね片26bが弾性変形することにより円筒26a内で径方向に移動することが可能である。
【0029】
このように構成されたレンズホルダー26は、レンズ13を保持している状態で前記円形穴25に上方から嵌合させられる。すなわち、レンズ13は、レンズホルダー26を介して前記第1、第2の搬送テーブル16,17にいわゆるカートリッジ式に装填される。第1、第2の搬送テーブル16,17に形成されている二つの円形穴25,25のうち、一方の円形穴25には左眼用レンズ13が装填され、他方の円形穴25には右眼用レンズ13が装填される。
【0030】
レンズホルダー26の第1、第2の搬送テーブル16,17への装填は、レンズ13の被染色面14(インクジェット装置22で染料を塗布するレンズ面)が上方を指向するように行う。このため、レンズ13は、被染色面14が上方を指向する状態で搬送テーブル16,17に支持され、被染色面14が露出する状態で搬送装置15によって搬送されることになる。この実施の形態においては、レンズ13は、染料塗布装置11で染料が塗布された後、レンズホルダー26から取り外されることなく加熱炉12に送られる。
【0031】
前記第1、第2の搬送テーブル16,17を搬送する搬送装置15は、図4および図5に示すように、前記各搬送テーブル16,17を上下方向に移動させる二つの昇降装置31と、各搬送テーブル16,17を水平方向に移動させる二つの水平移動装置32とを備えている。
前記昇降装置31は、第1、第2の搬送テーブル16,17が取付けられた昇降用スライダ24をボールねじ機構によって昇降させる構成が採られている。
【0032】
昇降用スライダ24は、後述する水平移動装置32に支持された昇降ベースプレート33に上下方向に移動自在に支持されている。昇降用スライダ24の移動する方向は、昇降
ベースプレート33に設けられた2本のガイドレール34によって規制されている。これらのガイドレール34は、上下方向に延びるとともに、互いに水平方向に離間している。
昇降ベースプレート33には、上下方向に延びるボールねじ軸35が回転自在に支持されているとともに、このボールねじ軸34を回転させる第1、第2の昇降サーボモータ36,37が取付けられている。
【0033】
前記ボールねじ軸35は、2本のガイドレール34の間に配設されている。このボールねじ軸35には、昇降用スライダ24に回転自在に支持されたボールねじナット38が螺合している。すなわち、この昇降装置31は、第1、第2の昇降サーボモータ36,37の駆動によりボールねじ軸35が回転することによって、昇降用スライダ24が第1の搬送テーブル16または第2の搬送テーブル17とともに上昇または下降する。
【0034】
第1、第2の昇降サーボモータ36,37の動作は、後述する制御装置23によって制御される。この実施の形態による昇降装置31は、第1、第2の搬送テーブル16,17に装填された二つのレンズ13,13の高さをそれぞれ検出するために、二つの高さ計測ゲージ39を備えている。これらの高さ計測ゲージ39は、図1に示すように、前記第1の処理ユニット18と後述するコロナ放電処理装置21との間であって、搬送装置15の搬送経路の上方に位置付けられている。
【0035】
高さ計測ゲージ39は、下端部に設けられている接触子が上方へ移動したときの接触子の移動量を計測するものである。この実施の形態による高さ計測ゲージは、前記接触子がレンズ13によって下方から押し上げられたときの接触子の移動量に基づいてレンズ13の高さを検出するものである。この高さ計測ゲージ39は、図1に示すように、2本一組でレンズ13を片方ずつ測定する。
【0036】
この高さ計測ゲージ39の検出データは制御装置23に送られる。制御装置23は、高さ計測ゲージ39によって検出されたレンズ13の高さに基づいて昇降装置31の動作を制御する。すなわち、制御装置23は、レンズ13の高さがコロナ放電処理装置21やインクジェット装置22に適合するように、第1、第2の昇降サーボモータ36,37を回転させる。このように高さ計測ゲージ39を備えた昇降装置31によって、請求項4記載の発明でいう「間隔調整装置」が構成されている。
【0037】
前記水平移動装置32は、図4および図5に示すように、前記昇降装置31の昇降ベースプレート33をボールねじ機構によって水平方向に移動させる構成が採られている。この実施の形態においては、この水平移動装置32によって、請求項5記載の発明でいう「移動装置」が構成されている。昇降ベースプレート33は、水平方向に延びるように形成された横移動ベースプレート41に水平方向に移動自在に支持されている。
【0038】
昇降ベースプレート33が移動する方向は、横移動ベースプレート41に設けられた2本のガイドレール42によって規制されている。これらのガイドレール42は、水平方向に延びるとともに、互いに上下方向に離間している。前記横移動ベースプレート41には、水平方向に延びるボールねじ軸43が回転自在に支持されているとともに、このボールねじ軸43を回転させる第1、第2の横移動サーボモータ44,45が取付けられている。
【0039】
前記ガイドレール42は、二つの昇降ベースプレート33,33を支持している。前記ボールねじ軸43には、昇降ベースプレート33に回転自在に支持されたボールねじナット46が螺合している。この実施の形態による二つの水平移動装置32は、横移動ベースプレート41とガイドレール42とを共有する構成が採られている。すなわち、ボールねじ軸43と、第1、第2の横移動サーボモータ44,45と、ボールねじナット46とは
、それぞれ昇降ベースプレート33毎に設けられている。
【0040】
2本のボールねじ軸43は、2本のガイドレール42の間に上下方向に並ぶ状態で配置されている。上側に位置するボールねじ軸43は、前記第1の処理ユニット18と対応する一端部が第1の横移動サーボモータ44によって駆動される。下側に位置するボールねじ軸43は、前記第2の処理ユニット19と対応する他端部が第2の横移動サーボモータ45によって駆動される。
【0041】
すなわち、第1の搬送テーブル16は、第1の横移動サーボモータ44の駆動により上側のボールねじ軸43が回転することによって水平方向に移動する。第2の搬送テーブル17は、第2の横移動サーボモータ45の駆動により下側のボールねじ軸43が回転することによって水平方向に移動する。これらの横移動サーボモータ44,45の動作は、後述する制御装置23によって制御される。
【0042】
前記コロナ放電処理装置21は、図1に示すように、一つの放電ヘッド51を備えている。この放電ヘッド51は、図8に示すように、大気中でコロナ放電51aを発生させるものである。この放電ヘッド51は、前記搬送装置15が第1、第2の搬送テーブル16,17を水平方向に搬送するときの搬送経路の上方であって、所定の高さとなる位置に配設されている。また、放電ヘッド51は、コロナ放電51aが下方に向けて発生するように位置付けられている。
【0043】
この実施の形態によるコロナ放電処理装置21は、大気中で放電ヘッド51においてコロナ放電51aを発生させ、その放電電子をレンズ13の被染色面14に照射するものである。この場合、高さ計測ゲージ39によって検出されたレンズ13の高さに基づいて、昇降装置31の動作を放電ヘッド51とレンズ13の高さが最適になるように制御装置23で制御する。
このようにコロナ放電51aのエネルギーをレンズ13に作用させると、被染色面14が活性化された状態になるとともに、被染色面14にカルボニル基等の極性基が生成され、被染色面14の濡れ性が向上する。コロナ放電処理装置としては、例えばマルチダイン1{型番、ナビスタ(株)製}を用いることができる。
【0044】
本発明に係る染料塗布装置11に装備することが可能なレンズ表面改質装置としては、コロナ放電処理装置21の他に、例えば大気圧プラズマ処理装置(図示せず)や、紫外線を用いる表面改質装置(図示せず)などがある。
プラズマ処理装置を用いる場合は、前記放電ヘッド51が設けられている位置に放電ヘッド51の代わりにプラズマ照射ヘッドが配置される。このプラズマ照射ヘッドは、下方に向けてプラズマが照射されるように位置付けられる。紫外線を用いる表面改質装置を用いる場合は、前記放電ヘッド51が設けられている位置に放電ヘッド51の代わりに紫外線発生器が配置される。この紫外線発生器は、紫外線を下方に向けて照射するように位置付けられる。
【0045】
前記インクジェット装置22は、図1および図10に示すように、第1〜第4のインクジェットヘッド52〜55を備えている。これらのインクジェットヘッド52〜55は、前記搬送経路が延びる方向に並べられている。また、これらのインクジェットヘッド52〜55は、圧電素子(図示せず)によって染料を加圧し、染料粒(粒子状の液滴)56として噴出させるオンデマンド型のものである。第1〜第4のインクジェットヘッド52〜55には、互いに異なる色の原染料が供給される。
【0046】
これらのインクジェットヘッド52〜55は、染料が噴出するインクジェット穴(図示せず)が下方を指向する状態で所定の位置に配設されている。この所定の位置とは、前記
搬送経路の上方であって、所定の高さとなる位置である。ここでも高さ計測ゲージ39によって検出されたレンズ13の高さに基づいて、昇降装置31の動作をインクジェットヘッド52〜55とレンズ13の高さが最適になるように制御装置23で制御する。
【0047】
各インクジェットヘッド52〜55には、図示してはいないが、複数のインクジェットノズル穴が等ピッチで列状に配列されている。これらの複数のインクジェットノズル穴からなる列は、前記搬送経路が延びる方向とは直交する水平方向(図1の紙面と直交する方向)に、レンズ13の外径と同等または外径より長く延びている。また、各インクジェットヘッド52〜55は、一つの染料粒56の液適量と、同一位置に付着する染料粒56の数量とを制御できるものが用いられている。これらの染料粒56の液適量と、染料粒56の数量とは、目標とする色が得られるように制御装置23によって制御される。
使用可能なインクジェットヘッド52〜55の機種として、例えばCF1{製品名、東芝テック(株)製}を使用することができる。
【0048】
なお、インクジェットヘッド52〜55としては、ピエゾ式のものの他に、サーマル方式や静電方式のものを用いることができる。また、この実施の形態による染料塗布装置11に装備する染料噴出装置としては、インクジェット装置22の他に、スプレー式の塗布装置(図示せず)を用いることができるが、加熱することなくインクの凝集が抑制される点や、インクの液滴制御が容易な点を考慮するとピエゾ方式を用いることが好ましい。
【0049】
この実施の形態によるインクジェット装置22は、第1〜第4のインクジェットヘッド52〜55によってレンズ13に塗布された染料を高速で乾燥させるために、図1に示すようにハロゲンヒーター57を備えている。このハロゲンヒーター57は、図1に示すように、第1〜第4のインクジェットヘッド52〜55より搬送方向(図1において左から右へ移行する方向)の下流側であって、レンズ13の搬送経路の上方近傍に配設されている。
【0050】
上述した各装置の動作を制御する制御装置23は、図6に示すように、制御データ作成部61と、搬送装置制御部62と、改質装置制御部63と、染料噴出装置制御部64と、ログデータ保存部65などを備えている。また、制御装置23には、サーバー66が通信可能に接続されているとともに、バーコードリーダ67が接続されている。前記サーバー66は、レンズ13に染料を塗布する際に必要な全てのデータを記憶する機能と、制御装置23が必要とするデータ(レンズ13毎の仕様データ)を制御装置23に送る機能とを有している。
【0051】
前記バーコードリーダ67は、レンズ13毎の仕様(色、濃度、INDEX、染色種類等)が記録されているバーコードを読むためのものである。このバーコードは、レンズ13毎に形成されているオーダーシート(図示せず)に記録されており、レンズ13とともに前工程の装置(図示せず)から染料塗布装置11に送られる。このバーコードリーダ67は、前記第1の処理ユニット18と前記第2の処理ユニット19とにおいて作業者が容易に操作できるように構成されている。また、バーコードリーダ67の代わりにRFID(Radio Frequency IDentification)リーダを用いても良い。
【0052】
前記制御データ作成部61は、前記バーコードリーダ67によってレンズ13毎の仕様を読み込み、この仕様が実現されるように実際に染料を塗布するに当たって必要なデータをサーバー66から取得する。そして、制御データ作成部61は、前記データに基づいてコロナ放電処理装置21およびインクジェット装置22を制御するためのデータを作成する。
【0053】
前記搬送装置制御部62は、第1、第2の搬送テーブル16,17が第1、第2の処理
ユニット18,19から高さ計測ゲージ39→コロナ放電処理装置21→インクジェット装置22→ハロゲンヒーター57→第1、第2の処理ユニット18,19という順序で移動するように、搬送装置15の4個のサーボモータ36,37,44,45の動作を制御する。第1の搬送テーブル16は、第1の処理ユニット18から搬送を開始され、第1の処理ユニット18に戻される。第2の搬送テーブル17は、第2の処理ユニット19から搬送を開始され、第2の処理ユニット19に戻される。この実施の形態による染料塗布装置11においては、前記第1の搬送テーブル16でレンズ13をコロナ放電処理装置21およびインクジェット装置22に搬送する第1の搬送形態と、前記第2の搬送テーブル17でレンズ13をコロナ放電処理装置21およびインクジェット装置22に搬送する第2の搬送形態とが交互に繰り返される。
【0054】
前記改質装置制御部63は、前記制御データ作成部61によって作成された制御データに基づいて前記コロナ放電処理装置21の動作を制御する。
前記染料噴出装置制御部64は、前記制御データ作成部61によって作成された制御データに基づいて第1〜第4のインクジェットヘッド52〜55の動作を制御する。また、染料噴出装置制御部64は、インクジェット装置22による染料の塗布が終了した後にハロゲンヒーター57を予め定めた時間だけ動作させる。
前記ログデータ保存部65は、染料を乾燥させる工程が終了した後にレンズ13毎の処理条件データをログファイルとして保存する。
【0055】
次に、この実施の形態によるプラスチックレンズ用染料塗布装置11の動作を図7に示すフローチャートによって説明する。なお、図7に示す処理ボックスのうち、台形からなる処理ボックスは人の動作(手入力)を示し、菱形からなる処理ボックスは人の判断を示す。また、長方形からなる処理ボックスは装置の動作(処理)を示し、平行四辺形からなる処理ボックスはデータを基にしたPC(制御装置)の処理を示す。
【0056】
この染料塗布装置11を用いてレンズ13に染料を塗布するに当たっては、先ず、図7のステップS1に示すように、作業者が左眼用レンズ13と右眼用レンズ13とをレンズホルダー26に組み付ける。この作業は、第1、第2の処理ユニット18,19において行われる。
【0057】
次に、作業者は、ステップS2において、染料を塗布するレンズ面(凹面か凸面)を選択し、ステップS3において、このレンズ面に対応するオーダーシートのバーコードをバーコードリーダ67を使って制御装置23に読み込ませる。
制御装置23は、ステップS4において、バーコードリーダ67を使って読み込んだ仕様通りに染料を塗布するために必要なデータをサーバー66から取得する。このデータは、カラー、濃度、INDEX、染色種類などである。そして、制御装置23は、ステップS5において、コロナ放電処理装置21とインクジェット装置22とを制御するための制御データを作成する。
【0058】
作業者は、上述したようにバーコードリーダ67を操作した後、ステップS6に示すように、レンズホルダー26を搬送テーブル16,17に装填する。この作業は、被染色面14が上方を指向するように行う。作業者は、このようにレンズホルダー26を第1、第2の搬送テーブル16,17に装填した後、例えばスタートスイッチ(図示せず)を操作する(ステップS7)。このとき、第1の処理ユニット18に待機していた第1の搬送テーブル16にレンズホルダー26を装填した場合は、図1中に矢印(A)で示すように、第1の搬送テーブル16が搬送装置15によって高さ計測ゲージ39の下方まで送られる。
【0059】
前記矢印(A)に示す搬送行程においては、先ず、第1の搬送テーブル16,17が昇
降装置31によって予め定めた搬送高さまで下降させられる。そして、第1の搬送テーブル16は、水平移動装置32によって高さ計測ゲージ39の下方まで移動させられ、その後、昇降装置31によって上昇させられる。一方、前記ステップS6において、第2の処理ユニット19において第2の搬送テーブル17にレンズホルダー26を装填した場合は、図1中に矢印(a)に示すように第2の搬送テーブル17が搬送される。すなわち、第2の搬送テーブル17がインクジェット装置22とコロナ放電処理装置21の下方を通過して高さ計測ゲージ39の下方に移動し、その後、上昇する。
【0060】
作業者は、ステップS7でスタートスイッチを操作した後、他方の処理ユニットに移動し、その処理ユニットにおいてステップS1〜S3、S6およびS7に示す作業を行う。なお、スタートスイッチは、前記一方の処理ユニットに染料塗布処理後のレンズ13が戻された後に操作する。
【0061】
前記昇降装置31の前記上昇動作は、高さ計測ゲージ39の接触子がレンズ13によって上方に押されるまで行われる。このとき、制御装置23は、ステップS8において、高さ計測ゲージ39の検出データに基づいてレンズ13の高さを検出する。この高さ検出は、左眼用レンズ13と右眼用レンズ13とのそれぞれについて実施される。
このように高さ検出が行われた後、搬送装置15が第1の搬送テーブル16または第2の搬送テーブル17を図1中に矢印(B)で示すようにコロナ放電処理装置21に搬送する。
【0062】
詳述すると、搬送装置15は、先ず、第1、第2の搬送テーブル16,17をコロナ放電処理装置21の処理位置と同じ高さまで下降させ、次に、コロナ放電処理装置21の処理位置まで水平方向に移動させる。
搬送テーブル16,17がコロナ放電処理装置21の処理位置に搬送された後、図8に示すように、コロナ放電処理装置21がレンズ13の改質処理を行う(ステップS9)。
【0063】
この改質処理は、第1、第2の搬送テーブル16,17を搬送装置15によって所定の速度で搬送方向の下流側に送りながら行う。この改質処理は、図9(A)に示すように、被染色面14の全域に均等に施される。図9は被染色面14の平面図で、同図(A)においては、改質処理が施されている部分をハッチングによって示す。この改質処理が施された被染色面14は、活性が高くなるとともに、染料に対して濡れ性が向上する。このような効果は、プラズマ処理や紫外線表面処理を行った場合であっても同様に得られる。また、上記改質処理を行うことによって、被染色面14を洗浄することができる。
【0064】
改質処理が終了した後、搬送装置15は、図1中に矢印(C)で示すように、第1、第2の搬送テーブル16,17をコロナ放電処理装置21からインクジェット装置22に搬送する。このとき、搬送装置15の昇降装置31は、被染色面14と第1〜第4のインクジェットヘッド52〜55との間隔が予め定めた間隔と一致するように第1、第2の搬送テーブル16,17の高さを調整する。また、搬送装置15の水平移動装置32は、第1、第2の搬送テーブル16,17を予め定めた速度で搬送方向の下流側へ搬送する。
【0065】
このとき、第1、第2の搬送テーブル16,17は、第1〜第4のインクジェットヘッド52〜55より搬送方向の上流側から所定の速度でこれらのインクジェットヘッド52〜55の下方に進入し、たとえば一定の速度でこれらのインクジェットヘッド52〜55の下方を通過させられる。
【0066】
インクジェット装置22は、搬送テーブル16,17が下方を通過するときに染料粒56を前記仕様通りとなるように噴出させる(ステップ10)。この染料粒56は、第1〜第4のインクジェットヘッド52〜55から空中を飛行し、被染色面14に付着する。
この実施の形態によるインクジェット装置22は、染色面に付着する染料粒56の大きさ、数、塗布パターンなどを変えることにより任意の濃度、模様で染料塗布を行うことができる。また、インクジェットによるダイレクト染色方式では、従来の浸漬法と比べて染料が完全密閉された状態から必要量だけ塗布する方法になることから、染料自体の劣化や添加剤含有率の変化が無くなり、染料を加熱することによる染料色素の凝集や変質も抑えることが出来るといった効果もある。
【0067】
例えば、図9(B)に示すように、濃度が低くなるように塗布することができるし、同図(C)に示すように、濃度が高くなるように塗布することができる。このように高い濃度となるように染料塗布を行うに当たっては、図12(A)に示すように染料粒56を被染色面14に高い密度で付着させる。これを実現できるインクジェットヘッド52〜55としては、1個の染料粒56の液適量を数plの範囲で変えることができ、1箇所に塗布する染料粒56の数量を変えることができるものが望ましい。
【0068】
任意の濃度で任意の色が得られるように染料塗布を行うに当たっては、例えば図11(A)〜(D)に示すような塗布パターンとすることができる。図11は、同色の染料粒56には同一のハッチングを付して描いてある。図11(A)〜(D)に示すように、染料粒56の色、大きさ、数量、位置などを変更することによって、多種多様な染料塗布を行うことができる。
【0069】
染料の濃淡が滑らかに連続して変化する(グラデーションとなる)ように染料塗布を行う場合は、図12(B)に示すように、染料粒56の大きさを徐々に変化させる。同図に示す場合は、同図の上側から下側に向かうにしたがって、1個の染料粒56の液適量および染料粒56の数量を順に減少させている。このように染料塗布を行うに当たって、レンズ13の搬送方向は、同図の上下方向または左右方向のいずれかの方向とする。なお、同図の左右方向に搬送する場合は、インクジェットヘッド52〜55の各噴出部において、染料粒56の液適量、数量を一定とすることができる。
【0070】
また、レンズ13をグラジエント染色する場合、制御装置23によりインクジェットヘッド52〜55の各ヘッドの液滴数や量をコントロールすることに加えて、水平移動装置32の動きも併せて制御して、レンズの移動速度を可変すること、更にはインクジェットヘッド52〜55は全面均一に塗布する設定で、水平移動装置32の移動速度のみをグラジライン前後で可変して塗布するなど、レンズ13の形状や所望のデザインによって様々な制御方法を用いることができる。
【0071】
染料粒56が付着した被染色面14は、改質処理が施されていて濡れ性が向上している。このため、被染色面14に付着した染料粒56は、従来のような半球状の形状を維持することはない。この染料粒56は、図13に示すように、被染色面14上で濡れ拡がる。すなわち、同図(A)に示すように、染料粒56で囲まれた未染色の領域{図14(A)参照}はなくなる。また、図13(B)に示すように、染料粒56の高さが低くなり、染料が略一定の厚みの膜状に塗布されるようになる。このように染料粒56が被染色面14上で濡れ拡がるときには、互いに隣り合う染料粒56を構成していた染料が被染色面14上で混ざるようになる。結果、目的とする色を被染色面14上で出すことができるため、従来のインクジェット等による、被染色面に直接塗布する方法に比べて、より均一な色をレンズ内部に浸透させることができる。
【0072】
このように染料の塗布が行われた後、図7に示すフローチャートのステップS11に示すように、乾燥処理が行われる。このとき、搬送装置15は、図1中に矢印(D)で示すように、第1、第2の搬送テーブル16,17をハロゲンヒーター57の下方に搬送し、停止させる。このとき、搬送装置15の昇降装置31は、被染色面14とハロゲンヒータ
ー57との間隔が予め定めた間隔と一致するように第1、第2の搬送テーブル16,17の高さを調整する。
【0073】
ハロゲンヒーター57は、レンズ13が下方に搬送された後、被染色面14上の染料が乾燥する時間だけ被染色面14を加熱する。加熱終了後、制御装置23は、ハロゲンヒーター57の下方に位置しているレンズ13(現在、染料塗布の対象になっているレンズ13)の処理条件データをログファイルとして保存する(ステップS12)。このログファイルは、生産履歴を参照するために用いることができる。
【0074】
制御装置23がログファイルを保存した後、ステップS13に示すように、搬送装置15が第1、第2の搬送テーブル16,17を第1または第2の処理ユニット18,19に復帰させる。このとき、第1の搬送テーブル16は、図1中に矢印(E)で示すように、ハロゲンヒーター57の下方から第1の処理ユニット18に戻される。第2の搬送テーブル17は、図1中に矢印(b)で示すように、第2の処理ユニット19に戻される。
第1または第2の処理ユニット18,19に第1、第2の搬送テーブル16,17が戻された後、レンズ13の下側の面にも染料を塗布する場合は、作業者がレンズホルダー26を裏返して第1、第2の搬送テーブル16,17に装填する。そして、染料塗布装置11は、上述したステップS3から上記と同じ動作を繰り返す。両面染色を行う場合、前述のレンズホルダー26の位置決め機構にて、グラジ染色時のライン制御が可能であり、レンズホルダー26の受け側には、レンズの上下方向を凸面/凹面切り換えても回転軸の水平度が保証される。
【0075】
レンズ13への染料の塗布が完了した場合は、ステップS14に示すように、作業者がレンズホルダー26を第1、第2の搬送テーブル16,17から取り外す。
レンズ13は、レンズホルダー26から取り外され、加熱炉12に送られる(ステップS15)。レンズ13が加熱炉12内で加熱されることによって、染料がレンズ13内に浸透した状態でレンズ13がキュアされる。レンズ13は、加熱炉12による加熱が終了した後、洗浄され(ステップS16)、染色工程の後の工程に送られる。
【0076】
この実施の形態に示した染料塗布装置11によって実施するレンズの染色方法は、改質処理により濡れ性が向上した被染色面14に染料粒56を付着させ、その後、レンズ13を加熱してキュアする方法である。このため、染料粒56が被染色面14上で濡れ拡がり、染料粒56で囲まれた領域にも染料が流れて塗られるようになる。
【0077】
したがって、この実施の形態による染料塗布装置11によれば、レンズ13の被染色面14の全域にわたって染料を確実に塗布することができ、染料の塗布むらがなくなるから、レンズ13を充分に染色することができる。また、染料粒56が被染色面14上で濡れ拡がるときには、互いに隣り合う染料粒56を構成していた染料が被染色面14上で混ざるようになる。例えば、色の異なる染料からなる染料粒56が互いに隣り合っていた場合は、それぞれの染料を混ぜたような色となる。すなわち、実質的に被染色面14上で色を調合したことになるから、染料粒56を並べて色を表現する従来の方法に較べると、目標とする色と一致するかきわめて近い色で染色することができる。
【0078】
この実施の形態によるプラスチックレンズ用染料塗布装置11は、被染色面14の濡れ性を向上させる改質処理と、改質された被染色面14への染料の塗布とを連続して行うことができる。このため、この染料塗布装置11を使用することによって、目標とする色と一致するかきわめて近い色に充分に染色されたレンズ13を生産性よく製造することができる。
【0079】
この実施の形態においては、コロナ放電処理やプラズマ処理などによって被染色面14
の濡れ性を向上させる。このため、濡れ性を向上させるために薬液を使用するような場合に較べて、容易に被染色面14を清浄に保つことができる。特にコロナ放電処理やプラズマ処理を行うと、染料がレンズ13内に浸透し易くなるため、より一層品質が高くなるように染色を行うことができると同時に、染色自体が困難である屈折率が1.7を超えるような高屈折率レンズに対しても、染色濃度やパターンの幅を広げることができる。
【0080】
この実施の形態においては、レンズ13の被染色面14に染料の粒子を飛ばして付着させる工程は、インクジェット装置22を用いてインクジェット法によって行われる。このため、多種多様な染料塗布を容易に行うことができる。しかも、染料の混合比や、染料粒56の液適量などを数値で管理することができるから、多くの染色パターンで染色することができるだけでなく、従来の浸漬法では困難であった同一の染色パターンのレンズ13を再現性よく製造することができる。
【0081】
この実施の形態による染料塗布装置11は、被染色面14とコロナ放電処理装置21、インクジェット装置22との間隔を予め定めた間隔に調整する昇降装置31(間隔調整装置)を備えている。このため、改質処理と染料の塗布とがそれぞれ最適な条件で実施される。したがって、この実施の形態によれば、改質処理と染料の塗布とがそれぞれ確実に実施されるから、高い品質で染料を塗布できる染料塗布装置11を提供することができる。
【0082】
この実施の形態による搬送装置15は、前記レンズ13を被染色面14が上方を指向する状態で支持する第1、第2の搬送テーブル16,17と、これらの第1、第2の搬送テーブル16,17を水平方向に移動させる水平移動装置32とを備えている。このため、レンズ13は、支持が安定する状態で搬送される。しかも、インクジェット装置22から噴出した染料粒56は、重力に逆らうことなく飛行して被染色面14に付着する。したがって、この搬送装置15を装備した染料塗布装置11は、改質処理と染料の塗布とをより一層確実にかつ高い精度で行うことができるものとなる。
【0083】
この実施の形態による染料塗布装置11は、第1、第2の搬送テーブル16,17を備え、二つの搬送形態を採ることができるものである。第1の搬送形態は、第1の搬送テーブル16でレンズ13をコロナ放電処理装置21とインクジェット装置22とに搬送する形態である。第2の搬送形態は、第2の搬送テーブル17でレンズ13をコロナ放電処理装置21とインクジェット装置22とに搬送する形態である。
【0084】
この実施の形態による染料塗布装置11は、前記第1の搬送形態と前記第2の搬送形態とが交互に繰り返されるように前記各装置の動作を制御する制御装置23を備えている。このため、作業者は、コロナ放電処理装置21やインクジェット装置22が動作している間に一方の処理ユニットから他方の処理ユニットに移動し、次のレンズ13を搬送テーブル16,17に装填することができる。したがって、この実施の形態によれば、処理能力が高い染料塗布装置11を提供することができる。
【0085】
なお、上述した実施の形態ではレンズ13の被染色面14が上方を指向する状態で染料を塗布する例を示したが、レンズ13を縦置き式に保持することによって、被染色面14が水平方向を指向する状態で染料を塗布することができる。また、レンズ13と改質装置や染料噴出装置との間の間隔調整は、改質装置や染料噴出装置をレンズ13に対して移動させて行うことができる。
【符号の説明】
【0086】
11…プラスチックレンズ用染料塗布装置、12…加熱炉、13…プラスチックレンズ、14…被染色面、15…搬送装置、16…第1の搬送テーブル、17…第2の搬送テーブル、18…第1の処理ユニット、19…第2の処理ユニット、21…コロナ放電処理装
置、23…制御装置、26…レンズホルダー、31…昇降装置、32…水平移動装置、51…放電ヘッド、52〜55…第1〜第4のインクジェットヘッド、56…染料粒、57…ハロゲンヒーター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックレンズを被染色面が露出する状態で搬送する搬送装置と、
前記被染色面と対向する位置に配設され、前記被染色面に濡れ性が向上する改質処理を施す改質装置と、
前記改質装置より前記搬送装置の搬送経路の下流側であって前記被染色面と対向する位置に配設され、前記被染色面に染料の粒子を飛ばして付着させる染料噴出装置とを備えたことを特徴とするプラスチックレンズ用染料塗布装置。
【請求項2】
請求項1記載のプラスチックレンズ用染料塗布装置において、前記改質装置は、コロナ放電処理装置またはプラズマ処理装置であることを特徴とするプラスチックレンズ用染料塗布装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のプラスチックレンズ用染料塗布装置において、前記染料噴出装置は、インクジェット式のものであることを特徴とするプラスチックレンズ用染料塗布装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちいずれか一つに記載のプラスチックレンズ用染料塗布装置において、
前記被染色面と前記改質装置および前記染料噴出装置との間隔を予め定めた間隔に調整する間隔調整装置をさらに備えたことを特徴とするプラスチックレンズ用染料塗布装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちいずれか一つに記載のプラスチックレンズ用染料塗布装置において、前記搬送装置は、前記プラスチックレンズを前記被染色面が上方を指向する状態で支持する搬送テーブルと、この搬送テーブルを水平方向に移動させる移動装置とを備えていることを特徴とするプラスチックレンズ用染料塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−209645(P2011−209645A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79642(P2010−79642)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】