説明

プラスチック光学材料用プリフォームの製造方法及び製造機

【課題】光学性能の優れたプラスチック光ファイバ(POF)を製造する。
【解決手段】重合容器29に、次第に先細になる中空部(図示せず)を形成する。重合容器29の中空部に、その内側面とほほ同じ傾斜の外側面を有する中子32を挿入する。重合容器29と中子32との間に形成された隙間(図示せず)に第1混合溶液24(1)を注入する。注入された第1混合溶液24(1)を重合させて第1樹脂層22(1)を形成する。中子32を所定距離引き上げて、第1樹脂層22(1)との間に隙間50(2)を形成する。隙間50(2)に第2混合溶液24(2)を注入して重合させる。中子の引き上げと、混合溶液24(3〜N)の注入及び重合とを繰り返して複層構造のコアを形成する。コアにクラッドパイプを装着してプリフォームを形成する。このプリフォームを延伸することで、光学性能の優れたPOFが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック光学材料の母材となるプラスチック光学材料用プリフォームの製造方法及び製造機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバとしてプラスチック光ファイバがよく知られている。プラスチック光ファイバ(以下、単にPOFという)は、石英系光ファイバと比較すると光の伝送損失が大きいため長距離の光伝送には向かないものの、プラスチックの性質により大口径化が容易である。そのため、POFは、周辺部品や機器との接続容易性、端末加工容易性、高精度の調芯が不要になるメリットを有する。また、この他にもPOFには、人体への突き刺し災害等の危険性の低さ、高い柔軟性による易加工性や易敷設性や耐振動性、そして低価格等のメリットがある。これにより、POFは、家庭や、車載用途に注目されているだけでなく、高速データ処理装置の内部配線や、DVI(Digital Video Interface)リンク、その次世代規格のHDMI(High Definition Multimedia Interface)リンク用のケーブルとしても利用が進められている。
【0003】
近年、POFの一態様として、中心から外側に向かって屈折率が連続的に低くなるコアと、コアよりも低い屈折率を有し、コアの外側面を覆うクラッドとを有するグレーデッドインデックス(GI)型のPOFが急速に普及し始めている。このGI型POFは、コアの特有の屈折率分布により伝送する光信号が歪みにくくなるため、広帯域の光信号の伝送を行えるという利点がある。このようなGI型POFを製造する方法としては、GI型POF原料であるポリマーを溶融押出により繊維状(GI型POF原糸)にしてGI型POFとする方法(溶融押出法)や、GI型POFの母材となる管形状または柱形状のプリフォーム(母材)を形成し、これを長手方向に熱延伸してGI型POFとする方法が一般的である。
【0004】
GI型POFの溶融押出製造法については種々の提案がされており、例えば特許文献1に記載されているように、ペレット状にしたコア形成用ポリマーとクラッド形成用ポリマーとを溶融押出装置に供する。溶融押出装置では両ポリマーを溶融状態とした後に、装置内の押出ダイによりコア及びクラッドの2層構造を形成する。また、押出ダイの内部では2層構造とされた両ポリマーの液流路の温度調整を行って、コア形成用ポリマーに添加された屈折率調整剤(ドーパント)を熱拡散させることで、上述のような屈折率分布を有するGI型POF原糸を形成してGI型POFとしている。
【0005】
プリフォームを延伸してGI型POFとする方法では、回転ゲル重合法を利用してプリフォームを形成するのが一般的である。具体的には、特許文献2に記載されているように、溶融押出法等で形成されたクラッドパイプの内部に、ドーパントが添加されたコア形成用モノマーを注入する。次いで、パイプの両端をシールした後、このパイプを回転重合装置にセットして回転重合させる。コア形成用モノマーの重合の進行と共にコア中心部のドーパントの濃度が高くなるため、上述のような屈折率分布を有するプリフォームが形成される。そして、このプリフォームを延伸装置にセットして長手方向に熱延伸させることでGI型POFが得られる。
【0006】
また、回転重合装置を用いてプリフォームを形成する方法として、特許文献3に記載されているように、重合後に異なる屈折率を示す2種類以上のコア形成用ポリマーをその配合比率を変えて混合した混合溶液を複数種類形成する。そして、これらの中で重合後に最も屈折率が低くなるものをクラッドパイプの内部に注入する。次いで、パイプの両端を液シールした後、このパイプを回転重合装置にセットして回転重合させることで、パイプの内側面に円管状の樹脂層が形成される。以下同様にして、重合後に屈折率の低くなる混合溶液から順に注入して回転重合させることで、上述のような屈折率分布を有する複層構造のコアが形成されたプリフォームが得られる。
【0007】
また、特許文献4に記載されているように、一端側から他端側に向かって屈折率が連続的に低くなる長尺フイルムを形成し、このフイルムをその一端側を中心としてロール状に巻き取ることで上述のような屈折率分布を有するプリフォームを形成する方法も知られている。
【特許文献1】特開2000−356716号公報(第6〜8頁、第1〜2図参照)
【特許文献2】特許第3332922号公報(第7〜9頁参照)
【特許文献3】特開平8−54520号公報(第3頁、第1図参照)
【特許文献4】特開2005−37910号公報(第9頁、第1図参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、前記特許文献1に記載されている方法では、ドーパントを熱拡散させることで屈折率分布を持たせるようにしているが、熱拡散ではドーパントの移動の制御が難しいので高度な屈折率分布制御が行えない。その結果、高伝送帯域を持つGI型POFの製造が難しくなってしまう。また、溶融押出法は、工程数が多くなり、その生産効率も悪いため、GI型POFの製造コストが高くなってしまうという問題もある。
【0009】
前記特許文献2に記載されているように、回転ゲル重合法を利用してプリフォームを形成する場合にも溶融押出法と同様に工程数が多くなり、その生産効率が悪いという問題もある。また、ドーパントの移動で屈折率分布を形成するため、ドーパント以外の他の素材、例えばコポリマー(共重合体)等を用いてGI型POFの高性能化を図ることが困難である。さらに、パイプの両端のシールが難しいため、回転重合中に液漏れが発生するおそれがある。
【0010】
また、回転重合時には、コア形成用モノマーがクラッドパイプの内側面上に拡がるように充分な遠心力を与える必要があるので、パイプは高速で回転される。その結果、高速回転時のパイプの軸ブレに起因して発生する振動や、高速回転によるパイプ内部のモノマーの波打ちにより、プリフォーム(コア)の内側面が波打ち形状に形成されて、GI型POFの光学性能が低下するおそれがある。また、製品として使用できないロスが多発するおそれもある。これを防止するため、パイプを回転させる回転機構として軸ブレが発生しないような高機能な機構を採用したり、モノマーの波打ちを抑制するためにモノマーの重合の進行に合わせてパイプの回転速度を変えたりする方法があるが、この場合には、回転重合装置が複雑化してその製造コストが高くなってしまう。また、上述の方法を用いたとしても、クラッドパイプのたわみに起因して発生するモノマーの波打ちを完全には抑制することができない。
【0011】
前記特許文献3に記載されているように、複層構造のコアを有するプリフォームを形成する場合も回転重合装置を用いるので、上述のようにパイプの軸ブレ、モノマーの波打ち、パイプのたわみなどに起因するプリフォーム(コア)の内側面の波打ちを抑えることは困難である。
【0012】
また、複数種類の混合溶液の注入と重合とを繰り返す際に、クラッドパイプを回転重合装置外に取り外して注入を行うとパイプの温度が下がってしまう。その結果、注入後に重合を行う際に、パイプの温度が所定の重合温度に達するまでに時間が掛かってしまう。さらに、室温から所定の温度に達するまでの間にモノマーが少しずつ重合して粘度が変化することで、プリフォームの内側面に波打ちが発生し易くなるという問題もある。
【0013】
上述の問題を防止するため、パイプを装置外に取り外すことなく、回転中のパイプ内部への注入及び重合を繰り返し実行可能にすることが好ましいが、この場合には、注入及び重合が繰り返される度にプリフォームの中空部の開口が狭くなる。そのため、パイプ内部に混合溶液を注入する注入ノズルはパイプの中心軸上に一つしか配置できなくなる。従って、複数種類の混合溶液は共通の配管を通って注入ノズルまで送液される。この配管内は混合溶液が注入される度に洗浄液で洗浄されるが、構造上、ノズル先端まで洗浄液で洗浄することは困難である。このため、先に送液された混合溶液が配管やノズル内に一部残って、次に送液される混合溶液と混合してしまうことがある。また、配管内などに残った洗浄液が混合溶液に混入することある。その結果、コアの各層を所望の厚みや屈折率に形成することができなくなり、GI型POFの光学性能が低下してしまう。
【0014】
前記特許文献4に記載されているように、屈折率が連続的に変化する長尺フイルムをロール状に巻き取ってプリフォームを形成する場合には、屈折率を精度よく変化させた長尺フイルムを形成すること自体が困難である。さらに、長尺フイルムをロール状に巻き取った際に、巻き取られたフイルム同士が完全に密着していないと、光が散乱してGI型POFの光学性能が低下してしまう。
【0015】
本発明は上記課題を解決するためのものであり、光学性能の優れたGI型POFなどのプラスチック光学材料を形成可能なプラスチック光学材料用プリフォームの製造方法及び製造機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のプラスチック光学材料用プリフォームの製造方法は、抜き取り勾配を有する容器内に、前記抜き取り勾配とほぼ同じ勾配を有する中子を挿入し、前記容器と前記中子との間に隙間を形成する第1工程と、前記隙間に光学材料を注入した後にこれを固化させて層を形成する第2工程と、前記成形体と前記容器もしくは前記中子との間に隙間を形成する第3工程と、前記第3工程による隙間に、光学材料を注入した後にこれを固化させて層を形成する第4工程と、前記3工程及び前記第4工程を繰り返して同心の複数の層を形成する第5工程とを有することを特徴とする。
【0017】
前記第3工程は、前記容器または前記中子を相対移動させて前記隙間を形成することが好ましい。また、前記第3工程は、サイズを変えた中子により前記隙間を形成することが好ましい。
【0018】
前記光学材料は、前記成形後の屈折率が異なるように、複数の重合性組成物の配合比が各成形体で異なるように調製されていることが好ましい。さらに、前記配合比を変えて、前記層の屈折率が中心に向かうに従い次第に高くなるようにすることが好ましい。また、前記容器または前記中子を相対移動させて前記隙間を形成する際に、前記容器または前記中子を回転させることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、プラスチック光学材料用プリフォームの製造機において、抜き取り勾配を有する容器と、前記抜き取り勾配とほぼ同じ勾配を有する中子と、前記容器または前記中子を移動させて前記容器と前記中子との間に隙間を形成する隙間形成装置と、前記隙間に光学材料を注入する注入装置と、注入された前記光学材料を固化させて成形品とする固化装置と、前記隙間形成装置、前記注入装置、前記固化装置を順に繰り返し作動させて複数層の成形品を形成する制御装置とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明のプラスチック光学材料用プリフォームの製造方法は、抜き取り勾配を有する容器内に、ほぼ同じ勾配を有する中子を挿入して隙間を形成する第1工程と、前記隙間内に層を形成する第2工程と、前記成形体と前記中子との間に隙間を形成する第3工程と、前記第3工程による隙間に層を形成する第4工程と、前記第3工程及び前記第4工程を繰り返して複数の層を形成する第5工程とを有するので、従来のように回転重合法を用いてプリフォームを製造したときのように、その内側面が波打ち形状に形成されることがなくなる。その結果、良好な光学性能を有するPOFを製造可能なプリフォームが得られる。また、重合時に回転速度の制御が必要となる回転重合法とは異なり、複雑な制御を必要としないという利点がある。さらに、回転重合法での高速回転による振動の抑制(プリフォームの波打ちの低減)という困難な問題を解決する必要がなくなる。
【0021】
本発明のプラスチック光学材料用プリフォームの製造機は、抜き取り勾配を有する容器と、前記抜き取り勾配とほぼ同じ勾配を有する中子と、前記容器と前記中子との間に隙間を形成する隙間形成装置と、前記隙間に光学材料を注入する注入装置と、前記光学材料を固化させて成形品とする固化装置と、前記隙間形成装置、前記注入装置、前記固化装置を順に繰り返し作動させて複数層の成形品を形成する制御装置とを有するので、同様に形成されたプリフォームの内側面が波打ち形状に形成されることがなくなる。また、回転重合装置ように複雑な機構を必要としないので装置の製造コストを低く抑えることができる。また、本発明の原理によれば、前記成形品と前記中子との間に前記隙間を形成することも可能であるし、前記成形品と前記容器との間に前記隙間を形成することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、GI型POFケーブル10の製造工程11の一例を示したフロー図である。製造工程11は、大別してコア形成工程13、クラッドパイプ装着工程14、延伸工程15、被覆工程16から構成される。
【0023】
本実施形態では、コア形成工程13及びクラッドパイプ装着工程14において、GI型POF(GI型POF素線)17の母材となるプラスチック光ファイバプリフォーム(以下、単にプリフォームという)18を形成する。具体的には後述するが、コア形成工程13においては、光伝送路となる略管状のコア19(図2参照)を形成し、クラッドパイプ装着工程14においては、コア19にクラッドパイプ21(図2参照)を装着してプリフォーム18を形成する。延伸工程15では、プリフォーム18を延伸してGI型POF素線17を形成する。そして、被覆工程16では、GI型POF素線17を被覆してGI型POFケーブル10を形成する。
【0024】
図2は、本発明のプリフォーム18の斜視図を示したものである。プリフォーム18は、詳しくは後述する本発明の製造方法で形成された略管状のコア19と、このコア19の外側面を覆う略管状のクラッドパイプ21とから構成されており、テーパ状に形成されている。コア19は、テーパ状の外側面及び内側面を有し、その断面が略円環状に形成されている。また、このコア19は、その中心軸C1から外側面に向かって屈折率がほぼ連続的に低くなる屈折分布(以下、単に屈折率分布という)を有するように形成されている。
【0025】
クラッドパイプ21もコア19と同様にテーパ状の外側面及び内側面を有し、その断面が略円環状に形成されている。このクラッドパイプ21は、コア19に被せる時点ではテーパ状ではなくて単純に円筒形状でも良く、熱延伸時にパイプ21とコア19との隙間を減圧吸引させたり、熱収縮させたりする事によってコア19に密着される。クラッドパイプ21は、コア19よりも低い屈折率を有するように形成されている。
【0026】
コア19に上述の屈折率分布を持たせるため、本実施形態では、コア19を異なる屈折率を有する透光性の第1〜第N樹脂層22(1〜N)を外側面側から中心軸C1に向かう方向に同心円状に順次積層した複層構造に形成している。そして、各樹脂層22(1〜N)は、中心軸C1に近い層ほどその屈折が高くなるように形成されている。つまり、第1樹脂層22(1)の屈折率が一番低くなり、第N樹脂層22(N)の屈折率が一番高くなるように形成される。
【0027】
樹脂層22(1〜N)の屈折率を各層ごとに変えるため、本実施形態では、重合後の屈折率が異なる2種類以上のコア形成用モノマー(重合性組成物)を異なる配合比で共重合させて樹脂層22(1〜N)を形成する。これにより、各層22(1〜N)に屈折率の差を発現させることができる。例えば、重合後の屈折率の低い方のコア形成用モノマーの配合割合を増やすことで屈折率を低くすることができ、屈折率が高い方のコア形成用モノマーの配合割合を増やすことで屈折率を高くすることができる。
【0028】
コア形成用モノマーとしては、下記の(a)〜(e)のものが例示できる。
(a) (メタ)アクリル酸エステル(フッ素含まず)
(b) 含フッ素(メタ)アクリル酸エステル
(c) スチレン系化合物
(d) ビニルエステル類
(e) 含フッ素主鎖環状モノマー類
【0029】
(a)としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−tert−ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ジフェニルメチル、アダマンチルメタクリレート、イソボニルメタクリレート、ノルボニルメタクリレート、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−tert−ブチル、アクリル酸フェニルなどが挙げられる。
【0030】
(b)としては、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメタクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレートなどが挙げられる。
【0031】
(c)としては、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレンなどが挙げられる。(d)としては、ビニルアセテート、ビニルベンゾエート、ビニルフェニルアセテート、ビニルクロロアセテートなどが挙げられる。(e)としては、ポリパーフルオロブタニルビニルエーテルや特開平8−334634などに例示される主鎖に脂肪環もしくは複素環を有するようなポリマーを形成するモノマーなどが挙げられる。なお、本発明はこれらに限定されるものではなく、モノマーの単独あるいは共重合体からなるポリマーが光学的な透明性を有し、且つポリマーの屈折率がGI型POF素線17を形成したときに所定の性能を発揮するような範囲で調整できるものであれば良い。
【0032】
具体的に、本実施形態ではコア形成用モノマーとして、重合体の屈折率が1.41を示し、水素原子が一部重水素原子とされた(重水素置換された)2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート(以下、3FMd7という)と、重合体の屈折率が1.49を示し、重水素置換されたペンタフルオロフェニルメタクリレート(PFPMAd5)とを用いる。そして、両者の配合比を調整することで、樹脂層(1〜N)の屈折率を各層ごとに変えることができる。
【0033】
上述のように3FMd7、PFPMAd5を共重合させてコポリマーとする際に、本実施形態では重合開始剤を使用する。重合開始剤としては下記(a)〜(c)ものが例示される。
(a) 約80℃以上での使用が好ましいもの
(b) 40℃〜80℃程度での使用が好ましいもの
(c) −10℃〜40℃での使用が好ましいのも
この際に、重合開始温度が常温以下の重合開始剤を用いると、調液中に反応が進行して粘度が上がり、注入時にうまく注入できなくなるなどの問題が発生することがある。従って、一般的には常温以上で使用可能な重合開始剤を用いることが調液時のハンドリング上、工程を安定させることができるので好ましい。
【0034】
(a)としては、クメンヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド等が挙げられる。(b)としては、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アゾビスイソブチルニトリル等が挙げられる。(c)としては、過酸化水素−第一鉄塩、過硫酸塩−酸性亜硫酸ナトリウム、クメンヒドロペルオキシド−第一鉄塩、過酸化ベンゾイル−ジメチルアニリン等が挙げられる。そして、これらの中でも過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチルニトリル等を用いることが好ましい。なお、常温以上で使用できる重合開始剤の中でも比較的低温で重合が開始できる開始剤を使用すると、重合後の樹脂が詳しくは後述する中子(図3参照)から剥離しやすくなることがある。また、過酸化物−有機金属アルキル、酸素−有機金属アルキルなどを組み合せても重合反応を開始させることができる。
【0035】
また、コポリマーとしたときの機械特性や熱物性などの各種物性値を全体にわたって均一に保つために、重合度の調整を行うようにしてもよい。この重合度の調整は連鎖移動剤を用いて行う。連鎖移動剤については、併用するモノマーの種類に応じて適宜種類および添加量を選択すればよい。
【0036】
上述した方法以外に、第1〜第N樹脂層22(1〜N)の屈折率を各層ごとに変える方法として、各層を形成するコア形成用モノマーに屈折率調整剤(ドーパント)を添加し、各層ごとにドーパントの添加量を変えることで各層に屈折率の差を発現させる方法もある。
【0037】
ドーパントとしては、高屈折率で分子体積が大きく、重合に関与しないものを用いることが好ましい。具体的には、ベンジルベンゾエート、ベンジルn−ブチルフタレート、ベンジルサルチレート、ベンジルフェニルエーテル、ベンゾイックアンハイドライド、ジベンジルエーテル、ジフェニルフタレート、ジエチレングリコールジベンゾエート、トリフェニルフォスフェート、ジフェニル、ジフェニルメタン、ジフェニルエーテル、ジフェニルサルファイド、m−フェノキシトルエン、フェニルベンゾエート、1,2−プロパンジオールジベンゾエート、トリクレジルフォスフェート、ジブチルフタレート、ジフェニルスルフォキシドなどが挙げられる。また、ドーパントの代わりに、またはドーパントに加えて、屈折率が互いに異なる複数のポリマーの混合物や、屈折率が互いに異なる繰り返し単位をもつ共重合物等を用いることもできる。また、上記の様な重合性組成物を後述する空隙の領域で重合させて層を形成する以外に、熱可塑性樹脂を溶融樹脂として流し込み冷却固化させることもできる。
【0038】
次に、コア19の形成について具体的に説明を行う。図1に示すようにコア形成工程13は、第1〜第N層形成工程13(1〜N)から構成される。各層形成工程13(1〜N)では、詳しくは後述するが、上述の3FMd7、PFPMAd5、重合開始剤などを混合した第1〜第N混合溶液24(1〜N)(図3、図6、図7参照)の形成と、形成された第1〜第N混合溶液24(1〜N)の重合とを順に行って、それぞれ各樹脂層22(1〜N)を形成する。なお。各混合溶液24(1〜N)中の3FMd7及びPFPMAd5の配合比は、形成する樹脂層22(1〜N)に応じて異なるように調整されている。この層形成工程13(1〜N)を所望数だけ繰り返すことにより、上述の屈折率分布を有する複層構造のコア19が得られる。以下、コア形成工程13を構成するコア形成機25について図3を用いて説明する。
【0039】
図3は、コア形成機25の概略図を示したものである。このコア形成機25は、本発明の光学材料用プリフォームの製造機に相当するものであり、大別して重合装置26と注入装置27とから構成される。
【0040】
重合装置26は、本発明の固化装置に相当する恒温槽28と、第1及び第2重合容器29,30と、ホルダ31と、第1及び第2中子32,33と、第1及び第2中子移動機構34,35と、注入ノズル36と、ノズル移動機構37と、廃液収納容器38とから構成される。恒温槽28は、上述の廃液収納容器38以外の各部材・機構が収納される恒温室28aを備えている。この恒温槽28は、図示は省略するが恒温室28aの温度を調整するヒータ、及び温度を測定する温度センサを備えており、恒温室28a内の温度を混合溶液24(1〜N)が重合する所定の重合温度に維持している。また、この恒温槽28の側壁部には、詳しくは後述するが注入ノズル36を槽外に移動可能にするための窓28bが形成されている。そして、この窓28の近傍に廃液収納容器38が配置されている。
【0041】
図3及び図4に示すように、重合容器29,30は、恒温室12a内に設けられたホルダ31上に並列にセットされている。このホルダ31には重合容器29,30がそれぞれ嵌合する嵌合穴31aが形成されており、各重合容器29,30は嵌合穴31aに嵌め込まれた状態でホルダ31上に位置決め及び固定される。また、嵌合穴31aの底部には詳しくは後述するが、中子32(33)の先端部を挿通可能な貫通孔31bが形成されている。なお、ホルダ31に嵌合穴31aを形成する代わりに、位置決め部材など設けて各重合容器29,30を固定するようにしてもよい。また、図3中では図面の煩雑化を防ぐために2個の重合容器29,30しかセットされていないが、3個以上セットされていてもよい。
【0042】
第1及び第2重合容器29,30は同じ構造であり、それぞれ鉛直方向に延びた略円筒状の容器本体40を備えている。この容器本体40は、SUSなどの金属材料から形成され、上端側の開口部21からその中心軸C2に沿って次第に先細になる中空部42を有している。つまり、容器本体40の内側面40aがテーパ状に形成されており、両重合容器29,30は抜き取り勾配を有している。また、この容器本体40の下端側の開口部には中子32(33)の先端部が嵌合する略環状のシール部材43が設けられている。
【0043】
第1及び第2中子32,33は、それぞれ中子移動機構34,35により各重合容器29,30の開口部43と対向する位置に保持されている。中子32,33は、重合容器29,30の内側面40aとほぼ同じ傾斜(勾配)のテーパ状の外側面32a,33aを有する略円錐形状に形成されている。なお、中子32,33は、テーパ状の外側面32a,33aを有していればその形状は特に限定はされない。
【0044】
第1及び第2中子移動機構34,35は、中子32,33を開口部43の中心軸C2(図4参照)に沿う方向に移動自在に保持する。両中子移動機構34,35は同じ構成であり、それぞれ回転軸45と、軸保持部材46と、第1及び第2中子移動用モータ47,48とから構成される。回転軸45は、その周面にネジ溝が形成され、恒温槽28の側壁部に固定された軸保持部材46のネジ孔に螺合している。そして、この回転軸45の一端部は中子32,33の上面に接続され、他端部は図示しない駆動連結機構を介して中子移動用モータ47,48に連結されている。例えば、中子移動用モータ47,48が正転されると、中子32,33は中心軸C2周りに回転しながら、中心軸C2に沿って下降する。逆に、中子移動用モータ47,48が逆転されると、中子32,33は逆方向に回転しながら、中心軸C2に沿って上昇する。
【0045】
ホルダ31上に重合容器29,30がそれぞれセットされると、中子移動用モータ47,48が正転されて、各中子32,33がそれぞれ重合容器29,30の中空部42内に挿入される。そして、中子32,33が、その外側面32a,33aと重合容器29,30の内側面40aとの間に第1樹脂層22(1)と同じ形状の隙間50(1)が形成される第1隙間形成位置まで移動されたら、中子移動用モータ47,48の回転が停止される。なお、中子32,33の位置を検出する方法としては、例えば中子移動用モータ47,48の回転数をカウントしたり、各種センサなどを設けるようにしてもよい。
【0046】
中子32,33が第1隙間形成位置まで移動されると、その先端部が容器本体40の下端側の開口部に設けられたシール部材43に嵌合しつつ、ホルダ31の貫通孔31bに挿通される。このシール部材43としては、その開口の大きさを調整可能なものが用いられる。具体的には、空気の注入により膨張するドーナツ状のシールリングなどが用いられる。シール部材43を中子32,33の先端部の周面に密着させることで、隙間50(1)の下端側の開口部を閉じることができる。この隙間50(1)内には、後述の注入ノズル36により第1混合溶液24(1)が注入される。
【0047】
注入ノズル36は、ノズル本体36aとプローブ(注射針状の先端)36bとから構成され、後述する注入装置27に送液用チューブ(図示せず)を介して接続されている。この注入ノズル36は、ノズル移動機構37によりスライド移動自在に保持されている。
【0048】
ノズル移動機構37は、回転軸51と、ノズル保持台52と、ガイド軸53と、ノズル移動用モータ54とから構成される。回転軸51は、重合容器29,30の配列方向に対して平行な方向に延び、恒温室28a内に設けられた軸保持部材(図示せず)に回動自在に保持されている。この回転軸51は、その周面にネジ溝31aが形成されており、ノズル保持台52に形成された図示しないネジ孔に螺合している。
【0049】
ノズル保持台52は、モータやギヤ(図示せず)などから構成されるノズル回動機構55(図9参照)を有しており、注入ノズル36(ノズル本体36a)を中心軸C2に対して平行な回転軸を中心として回転自在に保持する。また、ノズル保持台52には、回転軸51に対して平行なガイド軸53が挿通される貫通孔(図示せず)が形成されている。このガイド軸53は、上述の軸保持部材(図示せず)に保持され、その一端が恒温槽28の窓28bから恒温室28a外に突出している。
【0050】
回転軸51の一端部は、恒温槽28の側壁部に設けられた窓28bから恒温室28b外に突出し、他端部は図示しない駆動連結機構を介してノズル移動用モータ54に連結されている。例えばノズル移動用モータ54が正転されると、ノズル保持台52がガイド軸53に沿って窓28bから重合容器29,30に向かう方向に移動される。また、ノズル移動用モータ54が逆転されるとノズル保持台52が逆方向に移動される。
【0051】
上述のように、注入ノズル36を回転軸51及びガイド軸53に沿って移動させることができるので、1つの注入ノズル36で各重合容器29,30にそれぞれ形成された隙間50(1)内に注入を行うことができる。また、注入ノズル36をノズル保持台52に回転自在に保持させるようにしたので、プローブ36bの注入口を各樹脂層22(1〜N)形成時に形成される隙間50(1〜N)の位置に合わせることができる。さらに、本実施形態では、両軸51,53の一端部を恒温槽28の窓28bから突出させているので、詳しくは後述する洗浄時に注入ノズル36を窓28bから恒温室28a外に移動させることができる。
【0052】
ノズル移動機構37及びノズル回動機構55により、注入ノズル36及びそのプローブ36bの位置調整が完了したら、注入装置27より第1混合溶液24(1)が注入ノズル36に向けて送液される。
【0053】
図5に示すように注入装置27は、3FMd7供給ユニット(以下、第1供給ユニットという)60と、PFPMAd5供給ユニット(以下、第2供給ユニットという)61と、第1ミキサー62と、第2ミキサー64と、重合開始剤供給ユニット(以下、第3供給ユニットという)65と、切替弁66と、洗浄液供給ユニット67とから構成される。なお、第3供給ユニット65は、必要に応じて複数個設置するようにしてもよい。
【0054】
第1供給ユニット60は、3FMd7を貯留する第1貯留槽68と、第1窒素ガス供給部69と、第1ポンプ70とから構成される。第1貯留槽68は、槽内の温度を調節する温度調節部(図示せず)を有しており、必要に応じて貯留されている3FMd7の温度を低温に保つ。第1窒素ガス供給部69は、第1貯留槽68内に窒素ガスを送り込んで槽内を常圧または加圧状態に保つ。第1ポンプ70は、3FMd7を第1ミキサー62に向けて送液する。この際に、第1ポンプ70は、形成する混合溶液22(1〜N)に応じた分だけ3FMd7を定量送液する。
【0055】
第2供給ユニット61は、3FMd7の代わりにPFPMAd5を供給する以外は第1供給ユニット60と同じであり、PFPMAd5を貯留する第2貯留槽72と、窒素ガス供給部73と、第2ポンプ74とから構成される。同様に、第2ポンプ74は、形成する混合溶液22(1〜N)に応じた分だけPFPMAd5を定量送液する。
【0056】
第1ミキサー62は、両供給ユニット60,61から送液される溶液を混合して第2ミキサー64に向けて送液する。連鎖移動剤はあらかじめ少量のモノマーに溶かしておいて別系統で添加しても良いし、供給ユニット60、61のモノマー貯留槽内に添加しておいても良い。第3供給ユニット65は、重合開始剤を貯留する第3貯留槽76と、窒素ガス供給部77と、第3ポンプ78とから構成され、第3ポンプ78を用いて重合開始剤を第2ミキサー64に向けて送液する。なお、必要に応じ重合開始剤は予め少量のモノマーに溶かしておいても良く、その場合は重合開始剤が実質的に反応を開始しないように供給ユニット65を低温に保つ事が好ましい。また、第1貯留槽68及び第2貯留槽72の槽内の温度が極低温、例えば−5℃に保たれている場合には、第3供給ユニット65を設ける代わりに、予め重合開始剤を各槽68,72内に添加しておいてもよい。
【0057】
第2ミキサー64は、第1ミキサー62から送液される混合溶液に重合開始剤を混合して混合溶液24(1〜N)を形成する。形成された混合溶液24(1〜N)は、図示しないフィルタで濾過され、同じく図示しない加温装置で加温された後、送液用チューブ(図示せず)を介して重合装置26の注入ノズル36に送液される。重合容器や中子、あるいは重合した成形体(樹脂層22)は重合温度に加熱されている。そのため、新たに混合溶液24(2〜N)を注入する際に、この溶液の温度が低すぎると、ヒートショックによってすでに形成されている成形体(樹脂層22)にひびが入ったりする場合がある。従って、上述のように混合溶液24(1〜N)を加温して注入する事が好ましい。
【0058】
切替弁66は、送液配管内に洗浄液を導入するためのものであり、第1ミキサー62と第2ミキサー64とを接続する送液配管の途中に設けられている。この切替弁66には、洗浄液供給ユニット67及び窒素供給部80が接続されている。洗浄液供給ユニット67は、洗浄液を貯留する第4貯留槽81と、窒素ガス供給部82と、第4ポンプ83とから構成され、第4ポンプ83を用いて洗浄液を切替弁66から注入ノズル36まで充分液送してラインの洗浄を行う。窒素供給部80は切替弁66から注入ノズルまでの混合溶液24(1〜N)や洗浄液の窒素パージを行う。
【0059】
切替弁66は、第1ミキサー62から送液される混合溶液の送液が可能な第1の状態と、洗浄液の送液が可能な第2の状態と、上述のラインの窒素パージが可能な第3の状態とに切り替え可能となっている。この切替弁66は、各混合溶液24(1〜N)の注入完了時に第2の状態及び第3の状態に切り替えられる。そして、この時には、予め上述のノズル移動機構37及びノズル回動機構55を駆動して、プローブ17bの注入口が廃液収納容器38の開口と対向するように位置調整しておく(図3参照)。これにより、洗浄液供給ユニット67から送液された洗浄液は、切替弁66、第2ミキサー64、注入ノズル36を介して廃液収納容器38内に排出される。また、残液を伴うパージされた窒素も廃液収納容器38側に排出され、プリフォーム18が汚染されることが防止される。その結果、切替弁66〜注入ノズル36間が洗浄されて、両者間に滞留している混合溶液22(1〜N)が除去される。
【0060】
切替弁66〜注入ノズル36間を洗浄することで、次の層形成工程(α+1)時(α=1〜(N−1))に送液される混合溶液24(α+1)に、配合比が異なる先の混合溶液24(α)が混合する量が最小限に抑えられる。また、窒素供給部80により切替弁66
から注入ノズル36までの残液が充分パージされるようにしたので、洗浄液の残液量も最小限に抑えられる。その結果、混合溶液24(1〜N)を重合させたときに、所望の屈折を示す樹脂層22(1〜N)を形成することができる。
【0061】
注入装置27は、第1層形成工程13(1)が開始されると、第1ミキサー62で第1混合溶液24(1)となる3FMd7及びPFPMAd5の混合溶液を形成する。そして、本実施形態では、中子32,33や注入ノズル36の位置調整が完了し、且つ恒温室12a内の温度(重合容器29,30の温度)が所定の重合温度で安定した後に、切替弁66が第1の状態に切り替えられる。これにより、混合溶液が第2ミキサー64に向けて送液される。第2ミキサー64では、混合溶液に重合開始剤が混合されて第1混合溶液24(1)が形成される。この第1混合溶液24(1)は、フィルタ(図示せず)などで濾過された後、注入ノズル36に送液される。
【0062】
図6(A)に示すように、注入ノズル36に送液された第1混合溶液24(1)は、第1隙間形成位置にある中子32と、重合容器29と間の隙間50(1)(図4参照)に注入されて重合される。そして、一定時間が経過すると隙間50(1)内に注入された第1混合溶液24(1)が重合して第1樹脂層22(1)が形成される。この際に、第1樹脂層22(1〜N)の形状及び厚みは、隙間50(1)の形状に依存するため、注入量を規定量よりも極わずかに多めに注入してオーバフローさせるようにしてもよい。これにより、各樹脂層22(1〜N)の厚みのばらつきの発生が防止される。また、中子33と、重合容器30と間の隙間50(1)にも同様にして、第1混合溶液24(1)が注入されて重合される。
【0063】
この第1混合溶液の注入が完了したら、切替弁66が第2の状態に切り替えられる。同時に、注入ノズル36及びプローブ36が、その注入口が廃液収納容器38の開口と対向するように位置調整される。次いで、洗浄液供給ユニット67より洗浄液が送液され、切替弁66〜注入ノズル36間が洗浄される。その後、切替弁66は第3の状態となり、残液の窒素パージが行われる。
【0064】
図6(B)に示すように第1樹脂層22(1)が形成されたら、第1及び第2中子移動機構34,35により中子32,33が、第1樹脂層22(1)との間に新たな隙間50(2)が形成される第2隙間形成位置まで引き上げられる。この隙間50(2)は、第2樹脂層22(2)と同じ形状である。この際に、本実施形態では中子32,33を中心軸C2(図4参照)周りに回転させながら引き上げるようにしたので、中子32,33と第1樹脂層22(1)との剥離を容易に行うことができる。中子32,33が引き上げられると、シール部材43の開口が中子32,33の周面に密着可能な大きさに調整される。
【0065】
中子32,33の移動後、注入ノズル36及びそのプローブ17aの位置調整が完了したら、切替弁66が第1の状態に切り替えられる。そして、図6(C)に示すように、第2混合溶液24(2)が隙間50(2)内に注入されて重合される。
【0066】
この第2混合溶液24(2)の注入が完了したら、同様に切替弁66〜注入ノズル36間の洗浄と、第3混合溶液24(3)となる混合溶液の形成とが行われる。次いで、図7(A)に示すように第2樹脂層22(2)が形成されたら、(B)に示すように中子32,33は隙間50(3)が形成される第3隙間形成位置まで引き上げられる。この隙間50(3)は第2樹脂層22(3)と同じ形状である。また、これと同時にシール部材43の開口が中子32,33の周面に密着可能な大きさに調整される。そして、(C)に示すように、隙間50(3)に第3混合溶液24(3)がそれぞれ注入されて重合される。これにより、第3樹脂層22(3)(図2参照)が形成される。以下、同様にして隙間50(4〜N)形成と、混合溶液24(4〜N)の注入・重合とが順に繰り返されて、第4〜第N樹脂層22(4〜N)が順次形成される。
【0067】
本実施形態のように、一つの樹脂層22(α)[α=1〜(N−1)]の上に次の混合溶液24(α+1)を注入して共重合させると、混合溶液24(α+1)中のモノマー(3FMd7及びPFPMAd5)の一部が樹脂層22(α)内に僅かに溶け込む。そのため、樹脂層22(α)と樹脂層22(α+1)とが界面で強固に接着して、光学的な欠陥が発生しにくくなる。
【0068】
また、本実施形態では、隣接する樹脂層22(α)と樹脂層(α+1)との屈折率の差Δnが、5×10-5≦Δn<5×10-3を満たすように、各混合溶液24(1〜N)中の3FMd7及びPFPMAd5の配合比を調整している。これにより、各樹脂層22(1〜N)間の界面で曇りを生じさせずに透明性を保つことができるので、GI型POF素線17の光学性能の劣化が防止される。
【0069】
また、本実施形態では、重合容器29,30の内側面40a及び中子32,33の外側面32a,33aをテーパ状に形成するようにしたので、重合容器29,30とコア19との剥離、中子32,33と各樹脂層22(1〜N)との剥離を容易に行うことができる。なお、内側面40a及び外側面32,33は、中心軸C2に対して0.5°〜5°の範囲内で傾けられていることが好ましい。
【0070】
第N樹脂層22(N)が形成されたら、第1及び第2中子移動機構34,35により両中子32,33が重合容器32,33内の中空部42から完全に引き上げられる。この中空部42内には、図8に示したように複層構造を有するコア19が形成される。なお、図8中では図面の煩雑化を防止するために、シール部材43などの図示は省略している。また、図中の記号φ1〜φ3、t、Δtは後述するので、ここでは説明を省略する。
【0071】
コア19の形成が完了したら、重合容器29,30が恒温槽26外に取り出される。そして、各重合容器29,30内からコア19が取り出される。なお、図示は省略するが、例えば重合容器29,30内に押出しピンからなる押出機構を設けて、取出し時にコア19を容器内から押し出すようにしてもよい。これにより、コア19の取り出しを容易に行うことができる。また、コア19の取り出しを容易にするため、重合容器29,30の内側面40a(図4参照)に表面処理を施すことが好ましい。この表面処理はPVDF処理などが好ましいが、特に重合容器29,30の内側面40aの剥離性を向上させるために、容器の内側をシリコーン樹脂のような柔軟な素材で製作することがより好ましい。また、中子32,33にも完成したプリフォーム18を取り外し易くするために、表面処理を施すことが好ましい。
【0072】
図9に示すように、コア形成機25の各部の駆動はコントローラ85により制御される。このコントローラ85は、温度制御部86と、中子移動制御部87と、シール制御部88と、ノズル移動制御部89と、ノズル回動制御部90と、ミキサー制御部92と、バルブ切替制御部93とから構成される。
【0073】
温度制御部86は、恒温槽28に内蔵された図示しないヒータの駆動を制御して、恒温室28a内の温度を所定温度に制御する。中子移動制御部87は、第1及び第2中子移動用モータ47,48の駆動を制御することで、第1及び第2中子32,33の移動を制御する。シール制御部88は、中子32,33がそれぞれ第(1〜N)隙間形成位置に移動されたときに、シール部材43の開口を中子32,33の周面に密着可能な大きさに調整する。
【0074】
ノズル移動制御部89は、ノズル移動用モータ54の駆動を制御することで、注入ノズル36のガイド軸53に沿う方向の移動を制御する。ノズル回動制御部90は、ノズル回動機構55の駆動を制御することで、ノズル本体36aを回転させてプローブ36bの注入口(図示せず)の位置を調整する。
【0075】
ポンプ駆動制御部91は、第1〜第4ポンプ70,74,78,83の駆動を制御することで、3FMd7、PFPMAd5、重合開始剤、洗浄液の送液及び送液量を制御する。ミキサー制御部92は、第1及び第2ミキサー62,64の駆動を制御する。バルブ切替制御部93は、切替弁66を第1の状態と第2の状態と第3の状態とに切り替える。
【0076】
図1に示すように、コア形成工程13で形成されたコア19は、クラッドパイプ装着工程14において、その外側面に予め形成されたクラッドパイプ(クラッド)21が装着される(図2参照)。このクラッドパイプ21は、PVFD(フッ化ビニリデン樹脂) やその変性樹脂、例えば、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライドの3元系コポリマー、より具体的には、住友スリーエム(株)製のダイニオンTHVなどから形成されるものが用いられる。クラッドパイプ21は、コア19の外側面に装着された後、熱収縮されてコア19の外側面に密着される。これにより、プリフォーム18が形成される。なお、クラッドパイプ21は、テーパ状に形成されていても良いし、円筒状に形成されていても良い。
【0077】
なお、クラッドパイプ21は、コア19の保護や、GI型POF素線17の伝送損失の増加の抑制及び曲げ損失の低減などの光学特性の向上の役割も果たす。そのため、コア19の外側面上に径の異なる複数のクラッドパイプを装着するようにしてもよい。また、コア19の外側面にクラッドパイプ21を装着する代わりに、上述のPVFD等からなる層を延伸されたGI型POF素線17の周面に形成するようにしてもよい。
【0078】
延伸装置95は、図10に示すように、保持アーム96、アーム駆動用スクリュウ97、プリフォームホルダ98、減圧ユニット99、延伸ヒータ100、レーザ式線径測定器(以下、単に線径測定器という)101、引取りローラ対102、巻取りユニット103から構成される。
【0079】
保持アーム96は、アーム駆動用スクリュウ97に取り付けられている。そして、アーム駆動スクリュウ97が図示しないモータによって回転駆動されると、保持アーム96が図中上下方向に移動される。この保持アーム96には、プリフォーム18の一端を把持するプリフォームホルダ98が設けられている。
【0080】
プリフォームホルダ98には、プリフォーム18の一端に連通した通気孔105が形成されている。そして、この通気孔105の他端側には、チューブ106を介して減圧ユニット99が接続されている。減圧ユニット55としては、例えば真空ポンプなどが用いられる。この減圧ユニット99は、チューブ106、通気孔105を介して空気を吸引する。この際に、予めプリフォーム18の他端(図中下端)を熱溶融したPVDFに浸漬させるなどして、その他端側に開口したプリフォーム18の中空部の開口や、コア19とクラッドパイプ21との間の隙間を封止しておく。これにより、プリフォーム18の中空部や、コア19とクラッドパイプ21との間の隙間が減圧された状態となる。
【0081】
アーム駆動スクリュウ97が回転され、保持アーム96が図中下方向に移動されると、プリフォーム18の先端が略円筒形状の延伸ヒータ100内に挿入される。プリフォームホルダ98と延伸ヒータ100との間は円筒カバー107で覆われており、溶融前のプリフォーム18に塵埃が付着するのが防止される。また、この円筒カバー107は、加熱による上昇気流を抑えてプリフォーム18の温度ムラを低減する。そして、延伸ヒータ100内に挿入されたプリフォーム18はその先端から少しずつ溶融され、延伸される。この際に、プリフォーム18の中空部や、コア19とクラッドパイプ21との間の隙間は、減圧ユニット99により減圧されているので溶融の際に消失する。これにより、空隙(欠陥)のない所定外径のGI型POF素線17が得られる。
【0082】
延伸されたGI型POF素線17は、延伸ヒータ100の鉛直下方に配置された線径測定器101でその外径が測定される。そして、GI型POF素線17は、線径測定器101の鉛直下方に配置された引取りローラ対102により所定の引き取り速度で引き取られる。また、この引取り速度に応じて保持アーム96は図中下方に移動される。そして、引取りローラ対102により引き取られたGI型POF素線17は、巻取りユニット103によってコイル状に巻き取られる。なお、プリフォーム18を溶融延伸する際に、プリフォーム18を中心軸C1(図2参照)周りに回転させるようにしてもよい。この場合には、図示は省略するが、例えばプリフォームホルダ98を回転させる回転機構を保持アーム96に設ければよい。
【0083】
POFコイル108は、被覆工程16(図1参照)を構成する図示しない被覆装置にセットされる。この被覆装置(図示せず)としては、電気ケーブルや石英系光ファイバケーブルの製造ラインに用いられている被覆装置を用いることができる。
【0084】
図11に例示するように、被覆工程16では、POFコイル108から引き出されたGI型POF素線17に第1被覆材110を被覆してGI型POFコード111を形成し、このGI型POFコード111に抗張力繊維112、第2被覆材113を順次被覆してGI型POFケーブル10を形成する。なお、図示は省略するが、GI型POFケーブル10を形成する際に複数本のGI型POFコード111を束ねた状態で張力繊維112、第2被覆材113を被覆するようにしてもよい。
【0085】
第1被覆材110は、GI型POF素線17を保護するとともに、その機械的強度を補う。第1被覆材110を形成する材料としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)等が挙げられる。中でもPEが好ましく、低密度ポリエチレン(LDPE)またはリニアー低密度ポリエチレン(LLDPE)が特に好ましい。そして、第1被覆材110には、被覆後のGI型POF素線17の性能や商品価値を向上させるために、酸化防止剤、遮光剤、滑剤、無機フィラー、着色剤、ポリテトラフッ化エチレン(PTFE)微粒子等を添加することが好ましい。
【0086】
これらの添加剤としては液体のものと固体のものとの両方があるが、後者の場合には混合が不均一になりやすいために、これを充分微細な粉体にしてから混合添加することが好ましい。これらの微粒子の大きさが充分小さくない場合には、GI型POF素線17が被覆された際に、これら微粒子のうち主に第1被覆材110の内面及び内面付近に存在するものによりGI型POF素線17に局部的な側圧がかかってしまう。その結果、GI型POFコード111に局部的な歪みが与えられて、伝送損失が大きくなることがある。このため、これら添加剤の粒子径は1μm以下であることが望ましい。また、第1被覆材110に、既知の難燃剤(例えば縮合リン系の難燃剤である旭電化工業(株)製のアデカスタブFP−2000,2100、T−1063Fなど)を添加しても良い。
【0087】
抗張力繊維112は、GI型POFコード111よりも高い弾性率を有する繊維である。この抗張力繊維112を第1被覆材110と第2被覆材113との間に設けることで、GI型POFケーブル10の力学的強度、引っ張り強度などを向上させることができる。さらに、この抗張力繊維112と後述の第2被覆材113とを組み合せることで、GI型POFケーブル10の難燃性を強化することができる。
【0088】
抗張力繊維112としては、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、カーボン繊維などを用いることができる。例えば、UL1666(ライザー試験)に合格するためには、燃焼性試験中に抗張力繊維が焼き切れることが好ましく、このような観点でアラミド繊維が特に好ましい。GI型POFケーブル10の力学的強度や引張強度等をさらに向上させるために、金属線等の線状体を抗張力繊維とともに用いてもよい。金属線の材料としては、ステンレス、メッキを付した鉄、あるいは、電気配線との複合化を狙って銅などが用いられるが、いずれもこれら材料に限定されるものではない
【0089】
第2被覆材113を形成する材料としては、被覆によるGI型POF素線17の熱劣化を抑制するために、できるだけ低温での流動性が高いものが好ましいが、固化後の力学的強度も必要であるので、この両者の兼ね合いで選択される。
【0090】
具体的に第2被覆材113を形成する材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−ビニルアセテート共重合体、ナイロン(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11など)、エチレンエチルアクリレート及びその変性ポリマーなどが挙げられる。中でもエチレン−ビニルアセテート共重合体が好ましく、エチレン−ビニルアセテート共重合体の中でもエチレン構造の繰り返し単位が35〜45重量%であるものがより好ましい。なお、本発明は、これらのポリマーの分子量、分子量分布、分岐の程度、架橋の程度に依存するものではなく、また、官能基の種類等を適宜変えてもよい。また、これらのポリマーを必要に応じてブレンドして使用することもできる。
【0091】
また、第2被覆材113に、難燃剤として水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物を含有してもよい。さらに、難燃性向上のために、金属水酸化物に加えて、第2被覆材113に難燃助剤を添加してもよい。難燃助剤としては、公知のものを各種用いることができる。例えば、発泡断熱効果のあるポリリン酸アンモニウム等の縮合リン酸エステル化合物が有効であり、窒素系化合物では、過酸化処理した4−ブチルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンと2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジン、及びシクロヘキサン、N,N’エタン−1,2−ジイルビス(1,3−プロパンジアミン)との反応生成物などが有効である。これら難燃助剤を加える事により、金属水酸化物の含有量を下げる事ができ、GI型POFケーブル10の柔軟性を向上させることが可能である。
【0092】
また、第2被覆材113に含まれる可燃性物質の割合を減らす、及び第2被覆材113の内表面及び外表面の面状を改良して滑り性を付与する等の目的で、タルク、シリカ、カルシウムなどを添加してもよい。
【0093】
形成されたGI型POFケーブル10が、難燃性の規格であるUL1581(VW−1)に合格するためには、GI型POFケーブル10を燃焼しながら溶融・滴下(ドリップ)した際に、このケーブル10の下に置かれた脱脂綿に着火しない事が必要条件となる。従って、このドリップ抑制の観点からは、第2被覆材113にメラミン樹脂などの熱硬化性樹脂やエポキシ樹脂、ポリテトラフッ化エチレン(PTFE)等の微粒子などを添加することが特に好ましい。なお、ジオクタデシルジメチルアンモニウムで変性したモンモリロナイトやベントナイト、ヘクトライトのようなナノクレーや、アルミニウム、銅、鉄などのナノ金属化合物粒子を第2被覆材113へ微量添加することも、熱硬化性樹脂やエポキシ樹脂等の粒子添加と同じような効果がある。
【0094】
また、第2被覆材113には、酸化チタン、着色のためのカーボン等を添加してもよい。これにより、長期間の使用で第2被覆材113の表面が黄ばんでしまうのを抑制し、白色度を保つ、或いは変色を目立たぬようにすることができるので、商品価値が向上する。
【0095】
また、第1被覆材110と同様に、GI型POFケーブル10としての性能や商品価値をさらに向上させるために、酸化防止剤、遮光材、滑材、無機フィラー、着色剤、PTFE微粒子等を添加してもよい。
【0096】
上述のような第1被覆材110、抗張力繊維112、第2被覆材113が順次被覆されて形成されたGI型POFケーブル10は、図示しないケーブル巻取りユニットによりコイル状に巻き取られた後、出荷される。
【0097】
次に本実施形態の作用について説明を行う。最初に、コア形成機25の恒温槽28の恒温室28a内に第1及び第2重合容器29,30がセットされる。次いで、オペレータによりコア形成機25の運転開始操作が成されると、コントローラ85の温度制御部86は、恒温槽28に内蔵されたヒータ(図示せず)を制御して、恒温室28a内の温度を所定の重合温度に調整する。
【0098】
中子移動制御部87は、両中子移動用モータ47,48を駆動して両中子32,33をそれぞれ第1隙間形成位置に移動させ、隙間50(1)を形成する(図4参照)。これと同時にシール制御部88は、シール部材43の開口を中子32,33の周面に密着可能な大きさに調整する。そして、ノズル移動制御部89及びノズル回動制御部90(以下、単に両制御部89,90という)は、それぞれノズル移動用モータ54及びノズル回動機構55を駆動して、注入ノズル36のプローブ36bの注入口を第1重合容器29に形成された隙間50(1)の位置に合わせる。
【0099】
ポンプ駆動制御部91は、恒温室28a内の温度が所定の重合温度に達するまでの間に、第1及び第2ポンプ70,74の駆動をして、第1混合溶液24(1)に応じた分だ3FMd7及びPFPMAd5を第1ミキサー62に向けてそれぞれ定量送液させる。そして、ミキサー制御部92は、第1ミキサー62を駆動して送液された3FMd7及びPFPMAd5を混合する。
【0100】
恒温室28a内の温度が所定の重合温度に達したら、バルブ切替制御92は切替弁66を第1の状態に切り替える。これにより、3FMd7及びPFPMAd5の混合溶液が第2ミキサー64に向けて送液される。また、ノズル回動制御部90は、第3ポンプ78を駆動して重合開始剤を所定量だけ第2ミキサー64に向けて送液する。次いで、ミキサー制御部92は、第2ミキサー64を駆動して混合溶液に重合開始剤を混合し、第1混合溶液24(1)を形成する。この第1混合溶液24(1)は、フィルタ(図示せず)等で濾過された後、加温された状態で重合装置26の注入ノズル36に向けて送液される。
【0101】
注入ノズル36に送液された第1混合溶液24(1)は、中子32と重合容器29との間の隙間50(1)(図4参照)に注入される。また、同様にして、中子33と重合容器30との間の隙間50(1)にも第1混合溶液24(1)が注入される。第1混合溶液24(1)の注入が完了したら、両重合容器29,30を重合温度で所定時間熱処理する。また、注入の完了後、バルブ切替制御部93は切替弁66を第2の状態に切り替える。また、両制御部89,90は、ノズル移動用モータ54及びノズル回動機構55を駆動して、注入ノズル36をその注入口が廃液収納容器38の開口と対向するように位置調整する。
【0102】
注入ノズル36の位置調整が完了したら、ポンプ駆動制御部91は、第4ポンプ83を駆動して洗浄液の送液を開始する。送液された洗浄液は、切替弁66、第2ミキサー64、注入ノズル36を介して廃液収納容器38内に排出される。これにより、切替弁66〜注入ノズル36間が洗浄されて、両者間に滞留している第1混合溶液22(1)が除去される。また、切替弁を第3の状態とし、窒素供給部80により切替弁66から下流の流路を窒素パージするようにしたので、洗浄液の残液量も最小限に抑えられる。その結果、次に送液される第2混合溶液24(2)に先の第1混合溶液24(1)や洗浄液が混合する量を最小限に抑えることができる。
【0103】
第1混合溶液24(1)が重合して第1樹脂層22(1)が形成されたら、中子移動制御部87は、第1及び第2中子移動用モータ47,48を駆動して、両中子32,33をそれぞれ第2隙間形成位置(図6(B)参照)に引き上げる。これにより、第1樹脂層22(1)と、両中子32,33との間に隙間50(2)が形成される。この際に、本実施形態では、中子32,33を中心軸C2(図4参照)周りに回転させながら引き上げるようにしたので、中子32,33と第1樹脂層22(1)との剥離を容易に行うことができる。この移動に応じてシール制御部88は、シール部材43の開口を中子32,33の周面に密着可能な大きさに調整する。
【0104】
中子32,33が第2隙間形成位置に移動されたら、注入ノズル36をその注入口が中子32と重合容器29との間の隙間50(2)と対向するように位置調整する。この位置調整後、この隙間50(2)に第2混合溶液24(2)が注入されて重合される。また、中子32と重合容器29との間の隙間50(2)にも同様に第2混合溶液24(2)が注入されて重合される。これにより、第2樹脂層22(2)が形成される。
【0105】
以下同様にして、第3〜第N樹脂層22(3〜N)が形成される。これにより、上述の屈折率分布を有する複層構造のコア19が形成される。そして、コア19の形成後に各重合容器29,30は、恒温槽28外に取り出される。次いで、各重合容器29,30からコア19が取り出される。
【0106】
コア19が形成されたら、その外側面にクラッドパイプ21(図2参照)が装着される。このクラッドパイプ21は、熱収縮されてコア19の外側面に密着される。これにより、プリフォーム18が形成される。形成されたプリフォーム18は、延伸装置95(図10参照)セットされ、長手方向に延伸されてGI型POF素線17に形成される。このGI型POF素線17は、コイル状に巻き取られてPOFコイル108となる。
【0107】
POFコイル108は、被覆工程16を構成する図示しない被覆装置にセットされる。そして、POFコイル108から引き出されたGI型POF素線17に第1被覆材110が被覆されてGI型POFコード111が形成される。次いで、このGI型POFコード111に抗張力繊維112、第2被覆材113が順次被覆されてGI型POFケーブル10が形成される。
【0108】
以上のように、本実施形態では、重合容器29,30の中空部42に中子32,33を挿入して隙間50(1)を形成する本発明の第1工程と、この隙間50(1)に第1混合溶液24(1)を注入して重合させる本発明の第2工程とにより第1樹脂層22(1)を形成する。そして、この第2工程終了後に、中子32a,33aを所定距離引き上げて新たな隙間50(2〜N)を形成する本発明の第3工程と、形成された新たな隙間に混合溶液24(2〜N)を注入して重合させる本発明の第4工程と、第3工程及び第4工程を繰り返す本発明の第5工程とによりコア19を形成している。これにより、従来のように重合容器(クラッドパイプ)をその中心軸周りに高速回転させて所謂回転重合を行う必要がなくなるので、高速回転中の軸ブレ及び混合溶液の波打ち、クラッドパイプのたわみなどに起因するプリフォーム18の内側面の波打ちの発生を防止することができる。その結果、良好な光学性能を有するGI型POFを製造可能なプリフォーム18が得られる。
【0109】
また、軸ブレや波打ちが発生しないように重合装置のパイプ回転機構を複雑化する必要がなくなり、多数のプリフォーム18を同時に成形する事が容易になる。従って、POFの製造効率を上げる事ができ、POFの製造コストを低く抑えることができる。また、各樹脂層22(1〜N)の形状及び厚みは、隙間50(1〜N)の形状に依存するため、注入量を規定量よりも極わずかに多めに注入してオーバフローさせることで、各層の形状及び厚みのばらつきを防止できる。さらに、本実施形態では重合容器29,30を回転重合装置27の外に取り外すことなく、混合溶液24(1〜N)の注入及び重合を繰り返すことができるので、プリフォーム18の製造工程数及び人手による製造に掛かる時間を減らすことができる。
【0110】
このようにして形成されたGI型POFケーブル10(GI型POF素線17)は、種々の発光素子、受光素子、他の光ケーブル、光バス、導光板、光カプラ、光信号処理装置、接続用光コネクタ等とともに用いることにより光信号を伝送するシステムを構成することができる。この際、必要に応じて他の光ファイバなどと組合せてもよい。それらに関連する技術としてはいかなる公知の技術も適用することができる。例えば、プラスティックオプティカルファイバの基礎と実際(エヌ・ティー・エス社発行)、日経エレクトロニクス2001.12.3号110頁〜127頁「プリント配線基板に光部品が載る,今度こそ」などを参考にすることができる。
【0111】
また、前記文献に記載の種々の技術と組み合わせることによって、コンピュータや各種デジタル機器内の装置内配線,車両や船舶などの内部配線,光端末とデジタル機器,デジタル機器同士の光リンクや一般家庭や集合住宅・工場・オフィス・病院・学校などの屋内や域内の光LANなどをはじめとする高速大容量のデータ通信や電磁波の影響を受けない制御用途などの短距離に適した光伝送システムに好適に用いることができる。
【0112】
さらに、IEICE TRANS. ELECTRON.,VOL.E84−C,No.3,MARCH 2001,p.339−344 「High−Uniformity Star Coupler Using Diffused Light Transmission」,エレクトロニクス実装学会誌 Vol.3,No.6,2000 476頁〜480頁「光シートバス技術によるインタコネクション」の記載されているものや、特開2003−152284号公報に記載の導波路面に対する発光素子の配置;特開平10−123350号、特開2002−90571号、特開2001−290055号などの各公報に記載の光バス;特開2001−74971号、特開2000−329962号、特開2001−74966号、特開2001−74968号、特開2001−318263号、特開2001−311840号などの各公報に記載の光分岐結合装置;特開2000−241655号などの公報に記載の光スターカプラ;特開2002−62457号、特開2002−101044号、特開2001−305395号などの各公報に記載の光信号伝達装置や光データバスシステム;特開2002−23011号などに記載の光信号処理装置;特開2001−86537号などに記載の光信号クロスコネクトシステム;特開2002−26815号などに記載の光伝送システム;特開2001−339554号、特開2001−339555号などの各公報に記載のマルチファンクションシステム;や各種の光導波路、光分岐器、光結合器、光合波器、光分波器などと組み合わせることで、多重化した送受信などを使用したより高度な光伝送システムを構築することができる。なお、以上の光伝送用途以外にも、信号伝達用の導光板などの成形品、導光型の照明器具、エネルギー伝送、イルミネーション、レンズ、センサ分野にも用いることができる。
【0113】
なお、上記実施形態では、第1樹脂層22(1)形成後に第1及び第2中子32,33を移動させることで新たな隙間50(2〜N)を形成するようにしているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、中子32,33を移動させる代わりに重合容器29,30を移動させることで隙間50(2〜N)を形成するようにしてもよい。また、各樹脂層22(1〜N)形成後に、中子32,33を中心軸C2(図4参照)周りに回転させて剥離を行う代わりに、重合容器29,30を中心軸C2周りに回転させて剥離を行うようにしてもよい。
【0114】
また、上記実施形態では、各樹脂層22[1〜(N−1)]形成後に各樹脂層と中子32,33とを分離させて隙間50(2〜N)を形成するようしているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、各樹脂層22[1〜(N−1)]形成後に各樹脂層と重合容器29,30とを分離させて、各樹脂層と重合容器29,30との間に隙間(図示せず)を形成するようにしてもよい。
【0115】
なお、上記実施形態では、第1樹脂層22(1)形成後に中子32,33を移動させることで隙間50(2〜N)を形成するようにしているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、複数の径の異なる中子を用いて隙間50(2〜N)を形成するようにしてもよい。
【0116】
また、上記実施形態では、プリフォーム18の外周及び中空部の断面形状が略円状に形成されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、多角形状に形成されていてもよい。この場合には、重合容器29,30の中空部42、及び中子32,33の断面形状を多角形状に形成すればよい。
【0117】
なお、上記実施形態では、延伸装置95で1つのプリフォーム18を延伸してGI型POF素線を得るようにしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、プリフォーム18を複数本束ねた状態で延伸して、多芯のGI型POF素線を得るようにしてもよい。
【0118】
[実施例]
以下、本発明の効果を明確にするために、上述の製造方法に従ってGI型POF素線17を製造して、その伝送損失及び伝送帯域を測定した。最初にGI型POF素線17の製造条件についての説明を行う。
【0119】
重合容器29(30)として、その容器本体40の上端側の開口径φ1が37mm、下端側の開口径φ2が27mmに形成されているものを用いた(図8参照)。そして、上述のコア形成機25を用いて、第1〜第11混合溶液24(1〜11)の注入と重合とを繰り返して行い第1〜第11樹脂層22(1〜11)の計11層からなる複層構造のコア19を形成した。
【0120】
各混合溶液24(1〜11)中の3FMd7、PFPMAd5の混合比率、及び各層樹脂層22(1〜11)の厚みΔt(図8参照)を下記表1に記載した。なお、表1中の混合比率は、両成分の混合比率を容積比で表したものである。例えば、表中において3FMd7が10、PFPMAd5が7である場合には、3FMd7とPFPMAd5とを容積で10:7の比率で混合している。また、各層樹脂層22(1〜11)の厚みとは、各層樹脂層22(1〜11)のそれぞれの中心軸C2に対して垂直な方向に沿う長さであり、本実施例では各樹脂層22(1〜11)の厚みΔtを1mmに形成した。これにより、コア19の厚みtが11mmに形成され、コア19の上端側の開口径φ3が15mm、下端側の開口径φ4が5mmに形成された(図8参照)。
【0121】
第1〜第10樹脂層22(1〜N)形成時には、1.2気圧、90℃の条件で3時間熱処理して重合させた。また、第11樹脂層22(11)形成時には、1.2気圧、90℃の条件で10時間熱処理して重合させた。このようにして、形成されたコア19の各樹脂層22(1〜11)ごとの屈折率を測定して下記表1に記載した。
【0122】
【表1】

【0123】
形成されたコア19に、厚み0.5mmのPVDF製のクラッドパイプ21を装着した。次いで、このクラッドパイプ21を熱収縮させてコア19の外側面に密着させて、プリフォーム18を形成した。このプリフォーム18を上述の延伸装置95にセットして、外径480μmのGI型POF素線17に延伸した。
【0124】
このように形成されたGI型POF素線17の伝送損失と伝送帯域とを測定した。その結果、GI型POF素線17の波長850nmにおける伝送損失は125dB/Kmであった。なお、従来の回転重合装置を用いて形成されたGI型POF素線の波長850nmにおける伝送損失は141dB/Kmであった。
【0125】
また、このGI型POF素線17の伝送帯域は波長850nmにおいて距離100mで3.4GHzであった。なお、従来の回転重合装置を用いて形成されたGI型POF素線の伝送帯域は波長850nmにおいて距離100mで2.7GHzであった。
【0126】
以上の結果より、本発明のプリフォーム18を延伸して得られたGI型POF素線17が、回転重合装置を用いて形成されたプリフォームを延伸して得られたGI型POFよりも伝送損失が低く、且つ優れた伝送帯域特性を有することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】GI型POFケーブル製造工程のフロー図である。
【図2】プリフォームの斜視図である。
【図3】コア形成機の概略図である。
【図4】重合装置内にセットされた重合容器の断面図である。
【図5】注入装置の概略図である。
【図6】樹脂層形成を説明するための説明図であり。(A)が第1混合溶液注入後、(B)が中子引き上げ後、(C)が第1混合溶液注入後の状態を示したものである。
【図7】樹脂層形成を説明するための説明図であり。(A)が第2樹脂層形成後、(B)が中子引き上げ後、(C)が第3混合溶液注入後の状態を示したものである。
【図8】重合容器内に形成されたコアの断面図である。
【図9】コア形成機の電気的構成を示したブロック図である。
【図10】延伸装置の概略図である。
【図11】GI型POFケーブルの断面図である。
【符号の説明】
【0128】
10 GI型プラスチック光ファイバ(POF)ケーブル
17 GI型POF素線
18 プリフォーム
19 コア
20 コア素片
22(1〜N) 第1〜第N樹脂層
24(1〜N) 第1〜第N混合溶液
25 コア形成機
26 重合装置
27 注入装置
28 恒温槽
29,30 第1及び第2重合容器
32,33 第1及び第2中子
34,35 中子移動機構
36 注入ノズル
50(1〜N) 隙間
85 コントローラ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抜き取り勾配を有する容器内に、前記抜き取り勾配とほぼ同じ勾配を有する中子を挿入し、前記容器と前記中子との間に隙間を形成する第1工程と、
前記隙間に光学材料を注入した後にこれを固化させて層を形成する第2工程と、
前記成形体と前記容器もしくは前記中子との間に隙間を形成する第3工程と、
前記第3工程による隙間に、光学材料を注入した後にこれを固化させて層を形成する第4工程と、
前記3工程及び前記第4工程を繰り返して同心の複数の層を形成する第5工程とを有することを特徴とするプラスチック光学材料用プリフォームの製造方法。
【請求項2】
前記第3工程は、前記容器または前記中子を相対移動させて前記隙間を形成すること特徴とする請求項1記載のプラスチック光学材料用プリフォームの製造方法。
【請求項3】
前記第3工程は、サイズを変えた中子により前記隙間を形成することを特徴とする請求項1記載のプラスチック光学材料用プリフォームの製造方法。
【請求項4】
前記光学材料は、前記成形後の屈折率が異なるように、複数の重合性組成物の配合比が各成形体で異なるように調製されていることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載のプラスチック光学材料用プリフォームの製造方法。
【請求項5】
前記配合比を変えて、前記層の屈折率が中心に向かうに従い次第に高くなるようにすることを特徴とする請求項4記載のプラスチック光学材料用プリフォームの製造方法。
【請求項6】
前記容器または前記中子を相対移動させて前記隙間を形成する際に、前記容器または前記中子を回転させることを特徴とする請求項1ないし5いずれか1項記載のプラスチック光学材料用プリフォームの製造方法。
【請求項7】
プラスチック光学材料用プリフォームの製造機において、
抜き取り勾配を有する容器と、
前記抜き取り勾配とほぼ同じ勾配を有する中子と、
前記容器または前記中子を移動させて前記容器と前記中子との間に隙間を形成する隙間形成装置と、
前記隙間に光学材料を注入する注入装置と、
注入された前記光学材料を固化させて成形品とする固化装置と、
前記隙間形成装置、前記注入装置、前記固化装置を順に繰り返し作動させて複数層の成形品を形成する制御装置とを有することを特徴とするプラスチック光学材料用プリフォームの製造機。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2007−108304(P2007−108304A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297630(P2005−297630)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】