説明

プラスチック成形機用パージ材及びプラスチック成形機のパージ方法

【課題】パージ後の廃材の焼却処分、あるいはオレフィン系リサイクル材料としての再利用が可能であって、環境負荷を大幅に低減させることが出来るプラスチック成形機用パージ材及びプラスチック成形機のパージ方法の提供。
【解決手段】オレフィン系樹脂(A)と有機繊維(B)を含む樹脂組成物からなるプラスチック成形機用パージ材であって、有機繊維(B)の含有量が、オレフィン系樹脂(A)100重量部に対して20〜200重量部であることを特徴とするプラスチック成形機用パージ材;プラスチック成形機用パージ材のペレットを成形機に供給し、オレフィン系樹脂(A)を溶融可塑化させ、有機繊維(B)を溶融若しくは軟化させずにパージすることを特徴とするプラスチック成形機のパージ方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック成形機用パージ材及びプラスチック成形機のパージ方法に関し、より詳しくは、パージ後の廃材の焼却処分、あるいはオレフィン系リサイクル材料としての再利用が可能であって、環境負荷を大幅に低減させることが出来るプラスチック成形機用パージ材及びプラスチック成形機のパージ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックの溶融混練や成形加工の工程においては、材料切り替えや加工機の分解清掃を行う際に、シリンダやスクリュに残留付着している樹脂、充填剤、添加剤、熱分解固着物等を可能な限り除去する必要があり、通常は従来公知のパージ材を成形機に供給し、これを溶融混練することで残留物を除去する方法が採用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には熱可塑性樹脂に繊維状充填材を配合したパージ材であって、繊維状充填材の長さが2mm以上のいわゆる長繊維を用いたペレット構造であるパージ材が開示されている。該文献には、パージ材の作用として、熱可塑性樹脂中に配合された長さ2mm以上の繊維状充填材が可塑化されて空隙率の高い“たわし”を形成し、成形機内の付着物を掻き落とす旨の説明がなされている。そして、この繊維状充填材は、“たわし”形成による清掃効率等からガラス繊維が好ましいとしている。
しかしながら、該文献において、掻き落とし効果は、繊維状充填材のエッジ効果を利用するものであって、そのためには繊維状充填材を長繊維とすることで該エッジを樹脂中に埋没させず、シリンダやスクリュに接触せしめなければならない旨記載されている。つまり、ガラス繊維以外の有機繊維などでは硬質ではないために、ガラス繊維と同様のエッジ効果を発現しないので好適なパージを行うことが出来ないことが示唆されている。
しかも、成形機は、通常数十年の長期間使用し続けることを前提としているが、ガラス繊維のような硬質繊維によるエッジ効果を利用したパージ材を用いると、シリンダやスクリュを磨耗させるので、成形機の寿命を大幅に縮めることとなってしまう。さらに、繊維状充填材としてガラス繊維を含むパージ材を用いると、パージ後の廃材は、焼却処分することが出来ないので、一般に産業廃棄物として埋め立て処分されることなり、環境負荷は看過できるものではない。
【0004】
また、特許文献2には、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体に無機充填剤と化学発泡剤とスリップ剤を配合してなるパージ材が開示されている。該文献にはエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のような金属との接着性に富む材料をパージする際に、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体でパージすると一応の効果があり、これに無機充填剤と化学発泡剤とスリップ剤を配合すると該パージ材に対して改善効果があり、さらにポリエチレンを配合することで価格低減や臭気抑制などが改良される旨の説明がなされている。
しかしながら、このパージ材は、前記特許文献1とは異なり、シリンダやスクリュに残留付着している樹脂をパージ材の樹脂成分と混合させながら、熱分解固着物等も除去させる効果に依存しているために、着色のみなされた樹脂のパージには好適であるが、無機充填剤などの副資材成分が配合された樹脂をパージする際には、これら付着成分を効率よく物理的に掻き落とすことが出来ず、結局多量のパージ材を使用して徐々に付着成分を押し出さなければならない。
【0005】
こうした状況下に、パージ効果が高く、パージ後の廃材を焼却処分することが出来て、環境負荷を小さくすることができるプラスチック成形機用パージ材の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−42546号公報
【特許文献2】特開平7−9531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、成形機シリンダやスクリュに付着した無機充填剤等容易にパージすることが困難な残留物をも効率よく排出でき、環境負荷が小さく、成形機の磨耗のないプラスチック成形機用パージ材を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、オレフィン系樹脂に対して特定量の有機繊維を含有してなる樹脂組成物を用いると、該有機繊維が、混練中に折損せず有効に長い繊維長を保ち続けるため、有機繊維が成形機内残留物を絡め取ることができプラスチック成形機用パージ材として好適であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、オレフィン系樹脂(A)と有機繊維(B)を含む樹脂組成物からなるプラスチック成形機用パージ材であって、有機繊維(B)の含有量が、オレフィン系樹脂(A)100重量部に対して20〜200重量部であることを特徴とするプラスチック成形機用パージ材が提供される。
【0009】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、有機繊維(B)は、引張強度が5cN/dtex以上であることを特徴とするプラスチック成形機用パージ材が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、有機繊維(B)は、融点(融点が観測されないものは軟化点)が200℃以上の有機繊維又は熱可塑性でない有機繊維であることを特徴とするプラスチック成形機用パージ材が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、有機繊維(B)は、長さが3〜20mmであることを特徴とするプラスチック成形機用パージ材が提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、オレフィン系樹脂(A)は、高密度エチレン系樹脂であるプラスチック成形機用パージ材が提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、オレフィン系樹脂(A)は、プロピレン系樹脂であるプラスチック成形機用パージ材が提供される。
さらに、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において、更に無機充填剤、化学発泡剤、又はスリップ剤から選ばれる1種以上を配合してなるプラスチック成形機用パージ材が提供される。
【0010】
一方、本発明の第8の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明に係り、プラスチック成形機用パージ材のペレットを成形機に供給し、オレフィン系樹脂(A)を溶融可塑化させ、有機繊維(B)を溶融若しくは軟化させずにパージすることを特徴とするプラスチック成形機のパージ方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のプラスチック成形機用パージ材は、オレフィン系樹脂に対して特定量の有機繊維を含有してなる樹脂組成物であり、しかも該有機繊維が、オレフィン系樹脂よりも融点が高いので、混練中に折損せず有効に長い繊維長を保ち続けるため、有機繊維が成形機内残留物を絡め取るという作用効果を発揮することができる。
特に、引張強度が特定値以上という高強度の有機繊維を用いると、成形機内残留物を絡め取る作用効果が一層向上する。また、オレフィン系樹脂として、高密度エチレン系樹脂あるいはプロピレン系樹脂を採用することで、比較的安価でありながら、多くのプラスチック成形機用パージ材として活用することができる。
また、本発明のプラスチック成形機用パージ材は、従来公知のガラス繊維のような硬質繊維を用いていないので、シリンダやスクリュを磨耗させないから、成形機の寿命を縮めることがない。さらに、パージ後の廃材は、焼却処分することが出来るので、環境負荷が小さくなる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明のプラスチック成形機用パージ材及びプラスチック成形機のパージ方法について詳細に説明する。
【0013】
1.プラスチック成形機用パージ材
本発明のプラスチック成形機用パージ材は、オレフィン系樹脂(A)と有機繊維(B)を含む樹脂組成物からなるプラスチック成形機用パージ材であって、有機繊維(B)の含有量が、オレフィン系樹脂(A)100重量部に対して20〜200重量部であることを特徴とする。
【0014】
[オレフィン系樹脂]
本発明で用いるオレフィン系樹脂は、ホモポリプロピレン、プロピレン・エチレンブロック共重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体などのプロピレン系樹脂、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸アルキル共重合体などのエチレン系樹脂、これらとエラストマーの溶融混合物、これらの不飽和カルボン酸変性体などから選択することが出来る。また複数種を選択し混合して用いてもよい。
オレフィン系樹脂は、メルトフローレート(MFR、230℃、荷重2.16kg)が、好ましくは30〜300g/10分、より好ましくは60〜180g/10分であるものが好適である。パージ作業中にシリンダ内で繊維が延伸破断を起こすことなく、残留物の絡め取りや押出搬送を十分に行うことができるからである。
【0015】
これらオレフィン系樹脂のうち、エチレン系樹脂又はプロピレン系樹脂が好適である。エチレン系樹脂としては、パージ効果が著しいことから高密度ポリエチレンが好ましい。高密度エチレンは、金属からの剥離性がよいため、これを該オレフィン系樹脂として用いたパージ材は、シリンダやスクリュに付着した残留物と混合された後、効率よく剥離排出される。高密度ポリエチレンの密度は0.93〜0.98g/cmであり、より好ましくは0.94〜0.97g/cmである。
【0016】
プロピレン系樹脂としては、ホモポリプロピレンでもよいが、プロピレン・エチレンブロック共重合体、又はプロピレン・エチレンランダム共重合体が好ましい。パージすべき樹脂がプロピレン系樹脂の場合、プロピレン系樹脂を用いたパージ材は、高密度ポリエチレンに比べて剥離性は劣るものの、残留物と相溶し十分混合されることから良好なパージ効果を得ることが出来る。
プロピレン・エチレンブロック共重合体としては、結晶性ポリプロピレン重合体部(C−1単位部)とプロピレン・エチレンランダム共重合体部(C−2単位部)とを含有するブロック共重合体が好ましい。上記C−1単位部は、通常プロピレンの単独重合、場合によってはプロピレンに少量の他のα−オレフィンを共重合することによって得られる結晶性の重合体であり、その密度は高いことが好ましい。C−1単位部の結晶性は、アイソタクチック指数(沸騰n−ヘプタン抽出による不溶分)として通常90%以上、好ましくは95〜100%である。結晶性が高いと十分な機械的強度を得ることができる。
また、プロピレン・エチレンランダム共重合体は、プロピレンとエチレンをスラリー、気相法等の重合プロセスにおいてランダムに共重合させることにより得られる共重合体である。このプロピレン・エチレンランダム共重合体中のエチレン含量は2〜15重量%、好ましくは3〜10重量%である。
【0017】
[有機繊維]
本発明で用いる有機繊維は、前記のとおり、使用後焼却処分またはリサイクル材料として汎用に用いることができるパージ材に資するものであれば限定されない。
【0018】
例えばポリエステル繊維(代表例 ポリエチレンテレフタレート;融点約260℃ 熱可塑性)、ポリアミド繊維(代表例 ナイロン6−6;融点約268℃ 熱可塑性)、ポリウレタン繊維(代表例 スパンデックス ;融点200−230℃ 熱可塑性)、アクリル繊維(代表例 ポリアクリロニトリル ;融点約317℃ 熱可塑性)、ビニロン繊維(代表例 ビニロン;軟化点220−230℃)、ケナフ繊維(代表例 洋麻 ;分解点200℃ 天然繊維 熱可塑性でない)等の天然繊維などから選択することができる。中でも原料コストなどを考慮してポリエステル繊維またはポリアミド繊維が好適である。また複数種を選択し混合して用いてもよい。
【0019】
有機繊維は、融点(融点の無いものについては軟化点)が200℃以上、さらには230℃以上、特には240℃以上であるもの、若しくは加熱しても溶融可塑化しないものが好適である。オレフィン系樹脂を溶融可塑化させパージ作業を行う際に、有機繊維が溶融可塑化せず繊維状充填材として混練されることが好適であるためである。
ここで融点は、DSC測定によって求められる値である。DSC測定によって融点が観測されない場合、軟化点が200℃以上であることが好ましいが、ここで軟化点はビカット軟化点を指す。
【0020】
有機繊維の長さは、3〜20mm、特には4〜10mmが好適である。有機繊維の長さが短すぎると、シリンダ内で混練されたときに残留物の絡め取りや押出搬送を十分に行うことができなくなることがあり、長すぎると、パージ原料としてのペレットが肥大化したり非常にアスペクト比が大きくなったりすることがある。有機繊維の長さが、上記範囲内であれば、成形機へ安定連続供給することが困難になったりすることを防止できる。
【0021】
また、有機繊維の引張強度は3cN/dtex以上、さらには5cN/dtex以上、特に6cN/dtex以上であるものが好適である。ここで、引張強度はJIS L1013に準拠して測定する値である。パージ作業中にシリンダ内で繊維が延伸破断を起こすことなく、残留物の絡め取りや押出搬送を十分に行うことができるようにするためである。ただし、有機繊維の引張強度は、50cN/dtex以下、さらには30cN/dtex以下、特に10cN/dtex以下であるものが好ましい。成形機の磨耗を低減するためである。高強度有機繊維は、一般にタイヤコード、テント、シート、コンクリート補強繊維等の用途で市販されているものを好適に用いることが出来る。
【0022】
有機繊維の配合比は、オレフィン系樹脂の100重量部に対して、20〜200重量部、さらに25〜150重量部、特に30〜100重量部配合されることが好適である。有機繊維の配合比が、少なすぎると残留物の絡め取り頻度が低下し、結果的に多量のパージ材を投入しないとパージ作業が完了せず、一方、多すぎるとパージ材自体の製造が困難になるうえ、パージ作業時のシリンダ内樹脂圧力が非常に高くなったり、スクリュにかかるトルクが増大したりするため成形機に過剰の負荷をかけることになるためである。
【0023】
本発明の樹脂組成物は、オレフィン系樹脂と有機繊維だけでも十分な効果を発揮しうるが、そのほかに、性能バランスを向上させる目的で、無機充填剤、化学発泡剤、スリップ剤を配合すると好適である。
【0024】
[無機充填剤]
本発明のパージ材には無機充填剤を配合することができる。本発明で用いる無機充填剤は、タルク、シリカ、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ガラス短繊維などから選択することが出来る。形態は粒径10μm以下であり、5μm以下の微粉が好適である。ただし、平均粒径が0.5μm以下のものは、高価となり、成形材料の流動性が著しく低下する。ここで平均粒径は、液相沈降式光透過法で測定し、粒度累積分布曲線から読み取った累積量50重量%の粒径値である。
無機充填剤を配合すると、オレフィン系樹脂を増粘させ、残留物との混合や押出排出を促進する効果がある。ただし、多量に配合すると、パージ後に該充填剤が成形機内に残留する恐れがある。これら事情より、無機充填剤の配合比は、オレフィン系樹脂の100重量部に対して、5〜40重量部、特には5〜30重量部配合されることが好適である。
【0025】
[化学発泡剤]
本発明のパージ材には化学発泡剤を配合することができる。本発明で用いる化学発泡剤は、パージ温度において分解してガスを発生させるものであればよく、その種類によって限定されない。
例えば、アゾジカルボン酸アミドのようなアゾ化合物、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のニトロソ化合物、重炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、重炭酸アンモニウム塩等の炭酸塩、クエン酸、クエン酸ナトリウム、シュウ酸などの有機酸等を用いることができる。該発泡剤を配合すると、シリンダやスクリュに付着した残留物の絡め取りを促進する効果がある。ただし、多量に配合すると成形機内を腐食させたり、パージ作業中に強い臭気を生じたりする。これら事情より、化学発泡剤の配合比は、オレフィン系樹脂の100重量部に対して、0.1〜10重量部、特には0.1〜5重量部配合されることが好適である。
【0026】
[スリップ剤]
本発明のパージ材には、スリップ剤を配合することができる。本発明で用いるスリップ剤は、脂肪酸アマイドが好ましく、末端モノアマイド、置換モノアマイド、置換ビスアマイド、メチロールアマイド、エステルアマイドなどから選択することが出来る。
これらのスリップ剤を配合すると、残留物を取り込んだパージ材のシリンダやスクリュからの剥離を促進する効果がある。特に末端モノアマイドを配合するとこの効果が著しい。ただし多量に配合すると、残留物の絡め取りを阻害する要因となる恐れがある。これら事情より、スリップ剤の配合比は、オレフィン系樹脂の100重量部に対して、0.01〜3重量部、特には0.01〜2重量部配合されることが好適である。
以上のように、無機充填剤、化学発泡剤、スリップ剤は、本発明が解決しようとする課題を著しく阻害しない範囲で配合される付加的な要素であるが、それぞれ独立してパージ効果を促進する。これらは用途に応じて適切に配合される。
【0027】
さらに、樹脂添加剤として、熱可塑性樹脂の1種または2種以上を補助的に少量併用することも可能である。また、目的に応じ所望の特性を付与するため、一般に熱可塑性樹脂に添加される公知の物質、例えば酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤などの安定剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、潤滑剤、可塑剤、結晶化促進剤、結晶核剤などをさらに配合することも可能である。
【0028】
2.プラスチック成形機用パージ材の製造
本発明において、プラスチック成形機用パージ材は、その製造方法によって限定されないが、オレフィン系樹脂(A)に有機繊維(B)を配合して、必要により無機充填剤、化学発泡剤、スリップ剤を配合して混練することにより樹脂組成物とし、これをペレット化して製造される。
【0029】
[パージ原料としてのペレット]
有機繊維を含有する成形機用パージ材としてのペレットは、有機繊維がオレフィン系樹脂中にランダムに絡まりあうように分散しているコンパウンドペレットでもよいし、一般にガラス繊維強化熱可塑性樹脂等で実用化されているプルトルージョン法と呼ばれる引抜き成形法により得られる繊維一軸配向ペレットでもよい。また、ペレットの形状としては、球状、円柱状、角柱状、板状、さいころ状などが挙げられる。ただし、いずれのペレット形態においても、有機繊維の長さを前記のとおりとするために、長さ方向に3〜20mm、特には4〜15mmであるものが好ましい。
また、オレフィン系樹脂と有機繊維以外の無機充填剤、化学発泡剤、スリップ剤などを配合する場合に、有機繊維を含有するペレット中に、これら成分を配合してもよいし、別途にオレフィン系樹脂と該成分を含有するペレットを製造して有機繊維を含有するペレットとブレンドしてなるブレンドペレットとしてもよい。
【0030】
有機繊維を含有するペレットを製造するときに、有機繊維が溶融可塑化しない様にオレフィン系樹脂と複合されることが好ましく、有機繊維が供される部位の加工温度の下限は160℃以上が好適である。上限は有機繊維の融点(融点の無いものについては軟化点)が320℃以下の場合は、それより20℃低い温度以下、該融点が320℃以上の場合及び有機繊維が加熱しても溶融可塑化しない場合は300℃以下が好適である。いずれの有機繊維を選択した場合でも、ペレット加工温度が300℃を超えると、オレフィン系樹脂が著しく熱分解劣化し、引火または発火する恐れがある。
ペレットは、通常、押出機の先端部に設けられた複数個のノズルを有するダイスに対面して、複数のカッター刃を先端に備えたカッターユニットを設けているペレタイザによって製造される。カッター刃はダイス面に接触した状態で回転し、ダイスから押し出される樹脂成形物を切断することによって、ペレットが生産される。
【0031】
一方、引き抜き成形法では、例えば、連続した有機長繊維を繊維ラックからクロスヘッドダイを通して引きながら、オレフィン系樹脂を含む溶融樹脂で含浸する方法が採用される。具体的には、オレフィン系樹脂に必要に応じて樹脂添加剤を加え、有機繊維をクロスヘッドダイに通して引き抜きながら、オレフィン系樹脂を押出機から溶融状態でクロスヘッドダイに供給し、有機繊維にオレフィン系樹脂を含浸被覆させ、溶融含浸物を加熱し、冷却後、引き抜き方向と直角に切断する。この方法によれば、有機繊維の損傷を起こすことなく、得られるペレットの長さ方向に有機繊維が同一長さで平行配列しているペレットが得られる。
【0032】
特許文献1に記載されたようなガラス繊維等の硬質な繊維状充填材は、押出機等で熱可塑性樹脂と溶融混練すると、容易に折損し粉々に砕けてしまうため、連続繊維または10mm以上の長さのチョップド繊維を供しても得られるコンパウンド中の残存繊維長は2mm以下程度になってしまう。しかしながら、本発明に用いる有機繊維は、硬質ではないため同様に溶融混練しても折損することなく、有効に長い残存繊維長を得ることができるので、前述のとおりコンパウンドペレットでも本発明の効果を達成することが出来る。
【0033】
3.プラスチック成形機のパージ方法
また本発明は、上記プラスチック成形機用パージ材のペレットを成形機に供給し、オレフィン系樹脂(A)を溶融可塑化させ、有機繊維(B)を溶融若しくは軟化させずにパージすることを特徴とする。このパージ方法において、組成中の有機繊維が溶融可塑化せず繊維状充填材として混練されることが望ましい。
【0034】
本発明のパージ方法は、プラスチック成形機の種類によって限定されず、特にプラスチックの溶融混練に用いられる連続押出機、バンバリーミキサやニーダ等のバッチ混練機に好ましく適用される。本発明のパージ材によって排出できるプラスチックは、前記温度の制限範囲内で特に制限は無く、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリレート系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体ケン化物、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂などを列挙できる。
プラスチックの加工を終えた成形機では、シリンダやスクリュに樹脂、充填剤、添加剤、熱分解固着物等が残留付着している。そのため、材料切り替えや加工機の分解清掃を行う際には、残留付着している樹脂、充填剤、添加剤、熱分解固着物等を可能な限り除去しなければならない。
【0035】
本発明のパージ材は、公知の条件で、プラスチック成形機に供給することができる。そして、パージすべき個所を加熱して、該パージ材中のオレフィン系樹脂を溶融可塑化させ混練して排出する。ここで、パージ温度の下限を160℃以上、特には180℃以上とすることが好適である。該パージ材中の有機繊維を溶融可塑化させず繊維状充填材として混練すると、成形機内残留物を効率よく掻き落とし押出排出できるからである。
また、パージ温度の上限は、有機繊維の融点(融点の無いものについては軟化点)が320℃以下の場合は、それより20℃低い温度以下、該融点が320℃以上の場合及び有機繊維が加熱しても溶融可塑化しない場合は、300℃以下が好適である。先に加工したプラスチックの加工温度がこれより高い場合は、オレフィン系樹脂を用いた本発明のパージ材の性能が低下するが、この場合でも、より融点が高い樹脂成分を多めに配合することで対応することができる。
【0036】
本発明のパージ材は、前記のとおり、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリレート系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体ケン化物、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂などを成形機から排出できる。これは本発明の有機繊維を含有するオレフィン系樹脂からなるパージ材が、いずれの種類のプラスチックからなる成形機内残留物であっても、有効に長い含有繊維が絡め取って押出排出することが出来るためと推定され、その挙動は残留物の性状に関係しないためである。除去しにくい付着物であっても、オレフィン系樹脂に有機繊維だけでなく、無機充填剤、化学発泡剤、スリップ剤を適宜選択配合すれば、パージすべき残留物の性状に合わせて、パージ効果を促進することが出来る。
【0037】
前記特許文献1には、長さ2mm以上の繊維状充填材を含有するパージ材が例示されているが、これは繊維のエッジが成形機内残留物を掻き落とすことをパージ効果の本質としており、混練中に折損するという難点がある。これに対し、本発明の有機繊維を含有するパージ材は、混練中に折損せず有効に長い繊維長を保ち続ける有機繊維が成形機内残留物を絡め取ることがパージ効果の本質といえる。
本発明のパージ材は、成形機内に付着残留しにくいため、例えば高密度ポリエチレンの様な金属剥離性のよい別の樹脂で更にパージしたり、或いは引き続いて加工するプラスチック材料を製品取りの前に多量に混練廃棄して材料置換させたりする必要が無い。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例により限定されるものではない。
【0039】
[使用材料]
成分(a):プロピレン・エチレンランダム共重合体
MFR(230℃、荷重2.16kg)が100g/10分、エチレン含量が10重量%である、プロピレン・エチレンランダム共重合体。
成分(b):ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)繊維(帝人ファイバー社製、単糸繊度6.68dtex、引張強度7cN/dtex、融点265℃)
比較材料1:ポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製、MH4)
比較材料2:ガラス長繊維強化ポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製、LR24A、ガラス含有量40wt%)
比較材料3:市販パージ材(日祥(株)製、チッソZクリーン S60:界面活性剤タイプ)
【0040】
[評価方法]
<パージ性能及びパージ材の抜けの確認>
射出成形機(東芝機械(株)製,IS100GN)を用い,パージすべき材料を成形後、評価する材料でパージ作業し、樹脂置換が完了し残留物の色調が消失したときを目視で判定し、それまでに必要だった材料の質量を測定した。
なお、判定に当たり、パージ完了後にパージ効果を確認する材料を成形し、11ショット目から25ショット目までを判定サンプルとし、その外観を評価した。パージ条件及び成形条件は表1に示した。
パージ材必要量は、パージ塊が800g未満であれば○、800〜1000gであれば△、1000gを超えていれば×とした。また、パージ材の抜けが良ければ○、抜けが悪ければ×とした。
【0041】
【表1】

【0042】
<実施例1>
[有機長繊維含有オレフィン系樹脂の製造例]
二軸押出機(日本製鋼所(株)製TEX30)にて成分(a)を溶融可塑化し、押出機先端に接続した含浸槽を有するクロスヘッドダイに、成分(b)を導入し、プルトルージョン法にて溶融オレフィン系樹脂を連続有機繊維に含浸被覆させた。このとき成分(a)と成分(b)の重量比が100/65となるよう、オレフィン系樹脂の吐出量とストランド引取速度を調節した。引き取ったストランドをカット長10mmでペレタイズし、パージ材とした。有機繊維の長さは10mmである。
[パージ方法]
プラスチック成形機(東芝機械(株)製,IS100GN)を用いて、ブロックプロピレン・エチレン共重合体の射出成形を行った。その後、成形樹脂をランダムポリプロピレン樹脂に切り替えるために、本発明の上記パージ材を用いて、シリンダや金型に残留した樹脂材料(残留物)をパージした。パージ性能及びパージ材の抜けの確認を行ない、評価結果を表2に示した。
なお、パージすべき材料(前使用材)としては、ブロックプロピレン・エチレン共重合体(日本ポリプロ(株)製、BC03B)100重量部に黒着色マスターバッチペレットを3重量部ブレンドした材料を用いた。また、パージ終了後にパージ効果を確認する材料(後使用材)としては、ランダムポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ(株)製、MG03E)を用いた。
【0043】
<比較例1〜3>
実施例1に対して、有機長繊維を含有しないポリプロピレン材料を用いた場合(比較例1)、有機長繊維ではなく、ガラス長繊維を用いた場合(比較例2)、市販のパージ材を用いた場合(比較例3)について、同様に実験し、各パージ材の性能を評価した。評価結果を表2に示した。
【0044】
【表2】

【0045】
「評価」
実験結果を示した表2より、次のことが分かる。実施例1に示された本発明のプラスチック成形機用パージ材は、オレフィン系樹脂(A)と有機繊維(B)を含む樹脂組成物からなり、有機繊維(B)の含有量が、オレフィン系樹脂(A)100重量部に対して20〜200重量部であるので、パージ材の必要量が少なく且つパージ材の抜けが良好な材料であることが分かる。
これに対して、比較例1は、有機長繊維を含有しないポリプロピレン材料を用いたために、パージ材の必要量が多くなっている。また、比較例2は、有機長繊維ではなく、ガラス繊維を用いたために、繊維が残存して外観が悪化した。また、比較例3は、市販のパージ材を用いたために、パージ材が残存して外観が悪化した。
したがって、これら比較例の材料では、パージ材必要量が少なく、かつパージ材の抜けが良い、真に効率の良いパージを行うことは困難である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のパージ材は、環境負荷が大きく且つ装置を磨耗させる元となるガラス繊維を配合しなくても、成形機シリンダやスクリュに付着した無機充填剤等容易にパージすることが困難な残留物をも効率よく排出できるため、プラスチック成形機用パージ材として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系樹脂(A)と有機繊維(B)を含む樹脂組成物からなるプラスチック成形機用パージ材であって、有機繊維(B)の含有量が、オレフィン系樹脂(A)100重量部に対して20〜200重量部であることを特徴とするプラスチック成形機用パージ材。
【請求項2】
有機繊維(B)は、引張強度が5cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック成形機用パージ材。
【請求項3】
有機繊維(B)は、融点(融点が観測されないものは軟化点)が200℃以上の有機繊維又は熱可塑性でない有機繊維であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラスチック成形機用パージ材。
【請求項4】
有機繊維(B)は、長さが3〜20mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプラスチック成形機用パージ材。
【請求項5】
オレフィン系樹脂(A)は、高密度エチレン系樹脂である請求項1〜4のいずれかに記載のプラスチック成形機用パージ材。
【請求項6】
オレフィン系樹脂(A)は、プロピレン系樹脂である請求項1〜5のいずれかに記載のプラスチック成形機用パージ材。
【請求項7】
更に無機充填剤、化学発泡剤、又はスリップ剤から選ばれる1種以上を配合してなる請求項1〜6のいずれかに記載のプラスチック成形機用パージ材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のプラスチック成形機用パージ材のペレットを成形機に供給し、オレフィン系樹脂(A)を溶融可塑化させ、有機繊維(B)を溶融若しくは軟化させずにパージすることを特徴とするプラスチック成形機のパージ方法。

【公開番号】特開2011−136467(P2011−136467A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297458(P2009−297458)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】