説明

プラズマアドレス表示装置の駆動方法

【課題】 AC放電型のプラズマアドレス表示装置における液晶オフセットを小さくし、表示品位や寿命を向上する。
【解決手段】 列状の信号電極を備えた表示セルと、露出電極及び誘電体で覆われた被覆電極を有する行状の放電チャンネルを備えたプラズマセルとが重ね合わされてなるプラズマアドレス表示装置の駆動方法である。駆動に際しては、露出電極に負の放電パルスを印加した後に被覆電極に負の放電パルスを印加し、各放電チャンネルにおいてACプラズマ放電を発生させる。ACプラズマ放電が行われる行状の放電チャンネルを線順次で切り換え走査するとともに、この走査に同期して表示セル側の列状の信号電極に画像信号を印加し、表示駆動を行う。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プラズマ放電を用いたフラットパネルディスプレイ(FPD)に関し、より詳しくは、表示セルとプラズマセルとを重ね合わせた構造を有するプラズマアドレス表示装置の駆動方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】プラズマアドレス表示装置は、例えば特開平4−265931号公報に開示されており、表示セル、プラズマセル、及び両者の間に介在する共通の中間シートからなるフラットパネル構造を有する。
【0003】プラズマセルは、中間シートとその下側に接合されるガラス基板との間の空隙として構成されており、放電チャンネルに対応して隔壁で区切られた空隙には、放電可能な気体が封入されている。また、下側のガラス基板の内表面には、ストライプ状の放電電極が形成されており、DC駆動型の場合、これらの放電電極は各々アノード及びカソードとして機能する。
【0004】一方、表示セルには、例えば液晶セルが用いられ、透明な上側のガラス基板を有し、上記中間シートのプラズマセルとは反対側に配されている。
【0005】そして、上記上側のガラス基板の内表面には、上記放電チャンネルと直交する信号電極が形成されており、この信号電極と放電チャネルの交差部がマトリクス状の画素部として機能する。
【0006】係る構成を有するプラズマアドレス表示装置では、プラズマ放電が行なわれる行状の放電チャネルを線順次で切り換え走査するとともに、この走査に同期して表示セル側の列状信号電極に画像信号を印加することにより表示駆動が行なわれる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上述したプラズマアドレス液晶表示装置においては、通常、DCプラズマ放電によって生成されたイオンや電子が、中間シートである誘電体シートの下面(プラズマセル側の面)をチャージアップすることでデータ電圧の書き込みが行われる。
【0008】しかしながら、このようにDCプラズマ放電によって書き込みが行われるものにあっては、プラズマ電極(アノード電極、カソード電極)の表面状態、放電電流による電圧降下、構造上のばらつき、データ電極電位等の影響で、原理的に放電チャネル全域で均一な放電電流密度を得ることが難しく、画面全域で安定な表示を得ることが困難である。
【0009】例えば、DCプラズマ放電によれば、放電発生部分は正帰還によって、一層放電し易くなるため、放電の局在化が発生する。また、放電電流による電圧降下によって、放電が部分的に起こり難くなる。また、データ電圧が放電駆動電圧としてのカソード電圧とアノード電位(基準電位)に対して同じ極性となる場合には、放電チャネル内の電界が弱くなって放電が抑制される。
【0010】さらに、アノード電極及びカソード電極は、何ら覆われておらず剥き出しであるため、例えばプラズマ放電によって生成されたイオンや電子によってスパッタされて放電特性が変化するとともに、スパッタされた金属が飛び散り、誘電体シートあるいは基板に付着することから、透過率の低下が生ずる。加えて、DCプラズマ放電によれば、放電発光が持続されるので、放電光によってコントラストが低下する。
【0011】このような状況から、本願出願人は、先に、基準電極(露出電極)に対応した平行な隔壁によって互いに区切られそれぞれに誘電体に覆われプラズマ放電を行う放電電極(被覆電極)が設けられた放電チャンネルを複数備えた構造のAC放電型のプラズマアドレス表示装置を提案している。
【0012】上記AC放電型のプラズマアドレス表示装置では、放電電極が誘電体によって覆われているため、スパッタによる劣化等が解消され、安定な画像表示が実現される。
【0013】ここで、上記のような露出電極と被覆電極を有するAC放電型のプラズマアドレス表示装置においては、通常、被覆電極を走査して放電させ、露出電極は共通に接続し、負の電圧を印加する駆動を行うことにより液晶への書き込みを行っている。
【0014】しかしながら、このような駆動方法を採用した場合、次のような問題が生ずる虞れがある。
【0015】すなわち、各放電チャンネルにおいて、最後の放電は、露出電極に負パルスを印加した際に起こり、それ故、書き込み電位が強く負にオフセットする。液晶へのオフセットは、焼き付きの原因となり、緩和に長時間を要する。
【0016】また、緩和までの時間、液晶層には有害なDC電圧が印加されることになり、液晶劣化の原因となる。
【0017】さらに、薄板ガラスによるオフセット緩和後のパネル放置により、再度焼き付きが起こり得る。
【0018】本発明は、かかる不都合を解消することを目的に提案されたものである。すなわち、本発明は、AC放電型のプラズマアドレス表示装置の利点はそのままに、液晶オフセットを小さくすることができ、表示品位や寿命を向上し得る駆動方法を提供することを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】上述の目的を達成するために、本発明は、列状の信号電極を備えた表示セルと、露出電極及び誘電体で覆われた被覆電極を有する行状の放電チャンネルを備えたプラズマセルとが重ね合わされてなるプラズマアドレス表示装置を駆動するに際し、上記露出電極に負の放電パルスを印加した後に被覆電極に負の放電パルスを印加することにより各放電チャンネルにおいてACプラズマ放電を行い、このACプラズマ放電が行われる行状の放電チャンネルを線順次で切り換え走査するとともに、この走査に同期して表示セル側の列状の信号電極に画像信号を印加することにより表示駆動を行うことを特徴とする。
【0020】本発明の駆動方法においては、先ず、露出電極に負の放電パルスを印加する。これにより、被覆電極上には、負の壁電位が形成されることになる。
【0021】この状態で、被覆電極に負の放電パルスを印加すると、この外部からの電圧(放電パルス)と上記負の壁電位とが合わさって、放電チャンネル内でACプラズマ放電が起こる。
【0022】このとき、露出電極はアノード(基準電極:電位0V)として機能し、このアノード電位に対して液晶セル側の信号電極にプラスまたはマイナスの電位を印加することで書き込みを行う。これは、プラズマアドレス表示装置の正常な動作であり、書き込み電位が負にオフセットすることはない。
【0023】
【発明の実施の形態】以下、本発明を適用したプラズマアドレス表示装置の駆動方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】プラズマアドレス表示装置は、図1に示すように、表示セルに相当する液晶セルLCとこれを駆動するプラズマセルPCとを誘電シート1を介して重ね合わせた構造を有しており、プラズマセルPCの背面側にはバックライト2が配置されている。
【0025】液晶セルLCは、フロントプレート3と上記誘電シート1とにより構成されており、フロントプレート3の前面には偏光板4が、内面側にはストライプ状のカラーフィルター5及び透明電極(信号電極)6が形成されている。
【0026】そして、これらフロントプレート3と誘電シート1に挟まれる空間に液晶材料が注入され、液晶層7が形成されている。
【0027】一方、プラズマセルPCは、バックプレート8と誘電シート1とで構成されており、上記液晶セルLCの信号電極である透明電極6と直交する方向に隔壁(リブ)9が形成され、これらバックプレート8と誘電シート1との間の放電空間が各放電チャンネルに区切られている。
【0028】上記バックプレート8の背面側には、上記フロントプレート3と同様、偏光板10が設けられ、内面側には放電のための電極が設けられている。この放電のための電極としては、隔壁9の直下に配される露出電極(第1の放電電極)11と透明誘電体層13により被覆された被覆電極(第2の放電電極)12が挙げられ、これらが互いに平行に形成されている。
【0029】図2は、各プラズマセルにおける電極構成を示すものである。被覆電極12は、バックプレート8上に直接形成されており、その表面は上記の通り透明誘電体層13により覆われている。また、その表面上には、電気抵抗の低減を目的として幅狭なバス電極14が重なり合うように形成されている。露出電極11は、上記透明誘電体層13上に上記隔壁9と挟まれる形で形成されており、その両端縁が放電チャンネル内に露出している。
【0030】上記露出電極11は、上記の通り透明誘電体層13の上に位置し、放電と液晶書き込みの基準電極として機能する。
【0031】上記被覆電極12は、例えばITO等の透明導電材料により、約150nmの厚さを有して形成されている。
【0032】また、バス電極14は、例えばクロム−銅−クロム(Cr−Cu−Cr)の積層構造となっている。クロム層は、約100nm、銅層は、1μm乃至2μmの厚さである。
【0033】ここで、放電電極(被覆電極12+バス電極14)の電気抵抗値(電極抵抗)は、バス電極14を構成する銅層の厚さで決まるといってよい。放電特性の上からは、放電電極の電極抵抗は低いほど望ましいが、プロセス上の制約、すなわち、銅のスパッタプロセスの時間、銅を厚膜にした場合のバックプレート8の反りの発生量等により決定される。
【0034】放電電極の電気抵抗値が高くなると、電極容量と電極抵抗で決まる時定数が大きくなり、また、放電電流による電圧降下のため電極取り出し部から離れるほど外部からの印加電圧を高く設定する必要が生じてくる。したがって、放電電極の電気抵抗値が高い場合には、駆動電圧ムラが起こり易くなる。
【0035】バス電極14は、不透明な材料により形成されるため、その幅や位置については、光学的見地からの制約が生じる。バス電極14の部分は、開口率を下げることになるからである。
【0036】図3は、バス電極14を開口部ではない隔壁9下に配し、開口率を高めた構造を示すものである。バス電極14を隔壁9直下に配することにより、開口率(透過率)を高めることができ、省電力化に寄与することができる。
【0037】上記のように透明誘電体層13が存在する場合の放電は、いわゆるAC放電となるため、ギャップ電圧が放電開始電圧を上回り放電が始まると、透明誘電体層13の容量を放電電流で充電することになる。この充電が終わると、自動的に放電が終了する。ピーク電流は放電電極の電極抵抗、配線抵抗、駆動トランジスタのオン抵抗、プラズマインピーダンスで決まるが、透明誘電体層13の容量が大きい場合には、放電電流による充電がなされるまでに要する時間が長くる。また、発生したキャリアで液晶層7と透明誘電体層13を隔てる誘電シート1も充電することになるため、データ書込みの特性の点でも誘電体の容量は重要である。発生する電荷量が多くなると、残存する準安定原子数も増加し、それから発生する残存キャリア数も増加する。
【0038】上記構成のプラズマアドレス表示装置において、各放電チャンネルで放電を行なう際は、先に露出電極11に負のパルスを印加する。この放電は被覆電極12上に負の壁電位が形成されることで終了する。
【0039】次に、被覆電極12に負のパルスを印加する。これにより、この外部からの電圧(前記負のパルス)と先に形成された壁電位が合わさって放電が発生する。この放電は、ACプラズマ放電である。
【0040】この時、被覆電極12近傍には陰極降下領域が発生し、その他の領域は露出電極11に近い陽極電位となる。この放電時に露出電極11を基準として液晶電極(透明電極6)に電圧を印加することで、正常な書き込みが行なわれる。
【0041】被覆電極12へのパルスが終わった後、被覆電極12上には正の壁電位が形成され、次フレームでの露出電極11での放電に備える。
【0042】上記露出電極・・・Bn,Bn+1,Bn+2・・・及び被覆電極・・・Cn,Cn+1,Cn+2・・・の配列を図4に、また、上記一連の駆動を行なう駆動波形例を図5に示す。
【0043】1つの放電チャンネル内では、先に露出電極への負のパルスで放電(壁電位の形成)し、続いて被覆電極への負のパルスで放電する。例えば、左端の放電チャンネルの場合、先ず露出電極Bnへの負のパルスによる放電、次に露出電極Bn+1への負のパルスによる放電、最後に被覆電極Cnへの負のパルスによる放電(ACプラズマ放電)の順である。
【0044】なお、上記の駆動において、2つの放電の間隔を2H(H:水平同期周期)もしくは偶数Hとすると、ライン反転の液晶駆動における同極性での書き込みとなり、液晶書込率が向上する。
【0045】上記図5に示す駆動方法において、被覆電極Cnと露出電極Bn+2は同じタイミングで駆動することもできる。その場合、図6に示すように、取り出し電極を結線することでドライバーICの半減が可能となる。また、取り出し部のピッチを2倍に広くできるため、XGAやHD等の高解像化に有利である。
【0046】図7に示す駆動波形は、図5に示す駆動波形の変形例である。露出電極に連続してパルスを印加し、1つの放電チャネル内の両側の露出電極を駆動することで、間の被覆電極上の壁電位を安定に負に落ちつけることができる。
【0047】図8に示す例では、さらに、1つの放電チャネル内で片方の露出電極にパルスが印加された時に、同時に被覆電極も負パルスで駆動するものである。このパルス印加では、壁電荷の重畳が行われないため、チャネル内は放電せず、次の水平同期周期において放電する。
【0048】図7に示す駆動方法、図8に示す駆動方法のいずれにおいても、最後の放電は被覆電極への負のパルスの印加で行なわれ、液晶に対して正しい電位が書き込まれる。
【0049】以上、本発明の駆動方法について説明してきたが、本発明がこれらの例に限定されるものでないことは言うまでもなく、本願の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0050】
【発明の効果】以上の説明からも明らかなように、本発明によれば、開口率を高くすることができ、同輝度当たりの省電力化が可能で、書き込みムラ、ノイズ等の表示品質を改善することができるというAC放電型のプラズマアドレス表示装置の利点はそのままに、液晶オフセットを小さくすることができ、表示品位や寿命を大幅に向上することができる。
【0051】また、駆動方法を工夫することで、取り出し電極を結線した構造とすることができ、これにより例えばICの数を半減することができ、また高解像度化も容易である。
【図面の簡単な説明】
【図1】プラズマアドレス表示装置の概略構成を一部破断して示す斜視図である。
【図2】各放電チャンネルにおける電極構造の一例を示す概略断面図である。
【図3】各放電チャンネルにおける電極構造の他の例を示す概略断面図である。
【図4】電極の配列状態を示す模式図である。
【図5】駆動波形の一例を示す波形図である。
【図6】取り出し電極を結線した構造の一例を示す模式図である。
【図7】駆動波形の他の例を示す波形図である。
【図8】駆動波形のさらに他の例を示す波形図である。
【符号の説明】
1 誘電シート、6 透明電極(信号電極)、7 液晶層、9 隔壁、11 露出電極、12 被覆電極、13 透明誘電体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 列状の信号電極を備えた表示セルと、露出電極及び誘電体で覆われた被覆電極を有する行状の放電チャンネルを備えたプラズマセルとが重ね合わされてなるプラズマアドレス表示装置を駆動するに際し、上記露出電極に負の放電パルスを印加した後に被覆電極に負の放電パルスを印加することにより各放電チャンネルにおいてACプラズマ放電を行い、このACプラズマ放電が行われる行状の放電チャンネルを線順次で切り換え走査するとともに、この走査に同期して表示セル側の列状の信号電極に画像信号を印加することにより表示駆動を行うことを特徴とするプラズマアドレス表示装置の駆動方法。
【請求項2】 上記プラズマアドレス表示装置において、上記誘電体及び被覆電極は、それぞれ透明な材料により形成されていることを特徴とする請求項1記載のプラズマアドレス表示装置の駆動方法。
【請求項3】 上記プラズマアドレス表示装置において、上記被覆電極と接して電気抵抗を低減するためのバス電極が形成されており、このバス電極が各放電チャンネル間のリブの下部に配置されていることを特徴とする請求項1記載のプラズマアドレス表示装置の駆動方法。
【請求項4】 上記プラズマアドレス表示装置において、1ライン以上ずれた放電チャンネルにそれぞれ形成された被覆電極と露出電極とが放電チャンネル外部で互いに接続されていることを特徴とする請求項1記載のプラズマアドレス表示装置の駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2002−169500(P2002−169500A)
【公開日】平成14年6月14日(2002.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−367477(P2000−367477)
【出願日】平成12年12月1日(2000.12.1)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】