説明

プラズマディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネルの基板構体

【課題】前回の放電からアドレス放電までの休止期間が長い場合でも効果的に放電遅れを改善させることができるPDPを提供する。
【解決手段】本発明によれば、対向配置された2つの基板構体間の放電空間に露出するように、ハロゲン元素が1〜10000ppm添加された酸化マグネシウム結晶体を含むプライミング粒子放出層が配置されているPDPが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル(以下、「PDP」と呼ぶ。)及びPDPの基板構体に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、従来のPDPの構成を示す斜視図である。PDPは、前面側基板構体1と、背面側基板構体2を貼り合わせた構造をしている。前面側基板構体1は、ガラス基板からなる前面側基板1a上に、透明電極3aと金属電極3bからなる表示電極3が配置され、表示電極3は、誘電体層4で覆われている。誘電体層4の上にさらに2次電子放出係数の高い酸化マグネシウム層からなる保護層5が形成されている。背面側基板構体2には、ガラス基板からなる背面側基板2a上に、表示電極と直交するようにアドレス電極6を配置し、かつアドレス電極6間には、発光領域を規定するために隔壁7が設けられ、アドレス電極6上の隔壁7で区分けされた領域には、赤、緑、青の蛍光体層8が形成されている。貼り合わせた前面側基板構体1と背面側基板構体2の内部に形成された気密な放電空間には、Ne−Xeガスからなる放電ガスが封入されている。なお、図示していないが、アドレス電極6は、誘電体層で被覆されており、隔壁7及び蛍光体層8は、この誘電体層上に設けられている。
【0003】
このようなPDPでは、アドレス電極6と、スキャン電極を兼ねる表示電極3の間に電圧を印加することによって、アドレス放電を生じさせ、対をなす表示電極3の間に電圧を印加することによって、リセット放電や表示のためのサステイン放電を生じさせる。
【0004】
PDPは、大型薄型テレビとして実用化されており、近年は高精細化が進んでいる。高精細化すると画素数が増えるため、セルの点灯非点灯を決めるアドレス操作の時間が増大する。アドレス操作時間の増大を抑えるためには、アドレス放電用電圧(アドレス電圧ともいう)のパルス幅を小さくする必要がある。しかし、電圧を印加してから放電が起こるまでの時間(放電遅れ)にばらつきがあるため、アドレス電圧のパルス幅が小さ過ぎると放電が起きないことがあり得る。その場合、表示期間においてセルが正しく点灯しないため、画質の劣化を招くという問題がある。
【0005】
PDPの放電遅れを改善する手段として、前面側基板基板構体に電子放出層として酸化マグネシウム結晶体層を設ける方法がある(例えば、特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2006−59786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが鋭意研究を行ったところ、特許文献1に記載の方法では、前回の放電からアドレス放電までの休止期間が短い場合(概ね、数ms程度以下の場合)には放電遅れの改善効果が見られるが、休止期間が長い場合には放電遅れの改善効果が極端に劣化することが明らかになった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、前回の放電からアドレス放電までの休止期間が長い場合でも効果的に放電遅れを改善させることができるPDPを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、対向配置された2つの基板構体間の放電空間に露出するように、ハロゲン元素が1〜10000ppm添加された酸化マグネシウム結晶体を含むプライミング粒子放出層が配置されているPDPが提供される。
【0009】
本発明者は、鋭意研究を行った結果、ハロゲン元素が1〜10000ppm添加された酸化マグネシウム結晶体(以下、「MgO結晶体」と呼ぶ。)を含むプライミング粒子(以下、「P粒子」と呼ぶ)放出層が放電空間に露出するように配置されている場合、放電遅れの改善効果が長時間持続するため、前回の放電からアドレス放電までの休止期間が長い場合でも効果的に放電遅れを改善させることができることを見出し、本発明の完成に到った。
【0010】
本発明によって放電遅れの改善効果が長時間持続する理由は必ずしも明らかではないが、添加したハロゲン元素がMgO結晶体中の酸素と置換され、これが電子トラップとなって、電子放出特性が向上したためであると推測される。
また、本発明によれば、放電遅れの改善効果が長時間持続するため、比較的少量であっても休止期間が長い場合の放電遅れを効果的に抑制することができ、コスト低減に繋がる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。以下の実施形態では、反射型3電極面放電型PDPを例にとって説明を進めるが、本発明は、これ以外の種類のPDPにも適用可能である。例えば、「前面側」と「背面側」の構成が逆転した透過型PDPや、電極数、電極配置、放電形式等が異なるPDPにも適用可能である。
【0012】
図1(a)〜(c)は、本発明の一実施形態のPDPの構造を示す断面図である。図1(a)は、本実施形態のPDPの構造を示す平面図であり、図1(b)及び(c)は、それぞれ、図1(a)中のI−I断面図及びII−II断面図である。
【0013】
本実施形態のPDPは、対向配置された前面側基板構体1及び背面側基板構体2を有する。前面側基板構体1は、前面側基板1a上にそれぞれが透明電極3aと金属電極3bとからなる複数の表示電極3と、複数の表示電極3を覆う誘電体層4と、誘電体層4上に保護層5を介してP粒子放出層11を有する。
背面側基板構体2は、背面側基板1b上に表示電極3に交差(好ましくは、直交)する複数のアドレス電極6、複数のアドレス電極6を覆う誘電体層9、誘電体層9上に隔壁7及び蛍光体層8を有する。
前面側基板構体1と背面側基板構体2とは、周縁部が封着材で貼り合わされており、前面側基板構体1と背面側基板構体2の間の気密な放電空間内には放電ガス(例えば、ネオンに数%程度のキセノンを混合させたもの)が封入されている。
P粒子放出層11は、放電空間に露出するように配置され、ハロゲン元素が1〜10000ppm添加されたMgO結晶体を含んでいる。
以下、各構成要素について詳細に説明する。
【0014】
1−1.基板、表示電極、誘電体層、保護層(前面側基板構体)
前面側の基板1aは、特に限定されず、当該分野で公知の基板をいずれも使用することができる。具体的には、ガラス基板、プラスチック基板等の透明基板が挙げられる。
【0015】
表示電極3は、例えば、ITO、SnO2 などの幅の広い透明電極3aと、電極の抵抗を下げるための、例えばAg、Au、Al、Cu、Cr及びそれらの積層体(例えばCr/Cu/Crの積層構造)等からなる幅の狭い金属電極3bとで構成することができる。透明電極3a及び金属電極3bの形状は、特に限定されず、T字形や梯子形であってもよい。透明電極3aと金属電極3bの形状は、同じであっても互いに異なっていてもよい。例えば、透明電極3aをT字形や梯子形にして、金属電極3bをストレート形にしてもよい。また、透明電極3aは、省略することもでき、この場合、表示電極3は、金属電極3bのみからなる。
【0016】
複数の表示電極3は、2本ずつがペアになって表示ラインを構成するが、電極配列形態として電極ペア間に非放電領域(逆スリットともいう)を設けた配列、電極を等間隔に配列して隣接する電極間が全て放電領域となるALIS形式の配列のいずれかによって配置されている。このペアは、アドレス電極6との間のアドレス放電に用いられるスキャン電極3Yと、スキャン電極3Yとの間のサステイン放電等に用いられるサステイン電極3Xとで構成される。
【0017】
誘電体層4は、例えば、低融点ガラスフリットにバインダと溶剤を加えた低融点ガラスペーストを、表示電極3形成後の基板上にスクリーン印刷法で塗布し、焼成することによって形成することができる。誘電体層4は、表示電極3形成後の基板上にCVD法などで酸化シリコンを堆積することによって形成してもよい。
【0018】
保護層5は、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム又は酸化バリウム等の金属(より具体的には2価の金属)酸化物からなり、好ましくは、酸化マグネシウムからなる。保護層5は、蒸着法、スパッタ法又は塗布法等で形成される。
【0019】
1−2.基板、アドレス電極、誘電体層、隔壁、蛍光体層(背面側基板構体)
背面側の基板2aは、特に限定されず、当該分野で公知の基板をいずれも使用することができる。具体的には、ガラス基板、プラスチック基板等の透明基板が挙げられる。
アドレス電極6は、例えばAg、Au、Al、Cu、Cr及びそれらの積層体(例えばCr/Cu/Crの積層構造)等で構成することができる。
誘電体層9は、誘電体層4と同様の材料及び方法で形成することができる。
【0020】
隔壁7は、誘電体層9上に低融点ガラスペースト等の隔壁形成材料層を形成し、この隔壁形成材料層をサンドブラスト等によりパターニングし、焼成することによって形成することができる。隔壁7は、これ以外の方法で形成してもよい。隔壁7の形状は、限定されず、例えば、ストライプ形、ミアンダ形、格子形又は梯子形にすることができる。
蛍光体層8は、例えば、蛍光体粉末とバインダとを含む蛍光体ペーストを隣接する隔壁7間の溝内にスクリーン印刷、又はディスペンサーを用いた方法などで塗布し、これを各色(R、G、B)毎に繰り返した後、焼成することにより形成することができる。
【0021】
1−3.プライミング粒子(P粒子)放出層
P粒子放出層11は、放電空間に露出するように配置され、ハロゲン元素が1〜10000ppm添加されたMgO結晶体(以下、ハロゲン元素が添加されたMgO結晶体を「ハロゲン添加MgO結晶体」と呼ぶ。)を含むP粒子放出材料からなる。本明細書では、「ppm」は、重量濃度である。P粒子放出材料は、ハロゲン添加MgO結晶体以外の成分を含んでいてもよく、ハロゲン添加MgO結晶体を主成分としてもよく、ハロゲン添加MgO結晶体のみからなってもよい。
【0022】
ハロゲン元素の種類は、特に限定されない。ハロゲン元素は、例えば、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素のうちの一種又は二種以上からなる。フッ素の場合に放電遅れの改善効果が長時間持続することが確認されているが、電子状態の類似性からフッ素以外のハロゲンを添加した場合にも同様の効果が得られると考えられる。
【0023】
ハロゲン元素の添加量は、特に限定されない。ハロゲン元素の添加量は、例えば、1〜10000ppmである。実施例では、24〜440ppmの範囲でハロゲン元素の添加量を変化させてもほぼ同様の効果が得られることが確認されていることから、ハロゲン元素の添加量が効果に与える影響は大きくないと考えられ、添加量が1〜10000ppm程度の範囲であれば、放電遅れの改善効果が長時間持続すると考えられる。ハロゲン元素の添加量は、例えば、1,5,10,15,20,30,40,50,60,70,80,90,100,120,140,160,180,200,250,300,350,400,450,500,600,700,800,900,1000,1500、2000,3000,4000,5000,6000,7000,8000,9000又は10000ppmである。ハロゲン元素の添加量は、ここで例示した何れか2つの数値の間の範囲内であってもよい。ハロゲン元素の添加量は、燃焼−イオンクロマトグラフ分析によって測定することができる。
【0024】
ハロゲン添加MgO結晶体の製造方法は、特に限定されない。ハロゲン添加MgO結晶体は、一例では、MgO結晶体とハロゲン含有物質を混合して焼成し、解砕することによって製造することができる。MgO結晶体については、後述する。ハロゲン含有物質としては、例えば、マグネシウムのハロゲン化物(フッ化マグネシウム等)やAl,Li,Mn,Zn,Ca,Ceのハロゲン化物が挙げられる。焼成は、1000〜1700℃で行うことが好ましい。焼成の温度は、例えば、1000,1100,1200,1300,1400,1500,1600又は1700℃である。焼成の温度は、ここで例示した何れか2つの数値の間の範囲内であってもよい。焼成物の解砕を行う方法は、特に限定されないが、例えば、焼成物を乳鉢に入れて、それを乳棒ですり潰して粉体状にする方法が挙げられる。
【0025】
ハロゲン添加MgO結晶体は、好ましくは、粉体状であり、そのサイズや形状は特に限定されないが、平均粒径が0.05〜20μmであることが好ましい。ハロゲン添加MgO結晶体は、平均粒径が小さすぎると、放電遅れの改善効果が小さく、平均粒径が大きすぎると、P粒子放出層11が均一に形成されにくいからである。
【0026】
ハロゲン添加MgO結晶体の平均粒径は、次の式に従って求めることができる。
式:平均粒径=a/(S×ρ)
(但し、aは、形状係数で6、Sは、窒素吸着法により求まるBET比表面積、ρは、ハロゲン添加MgO結晶体の真密度である。)
ハロゲン添加MgO結晶体の平均粒径は、具体的には、例えば、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20μmである。ハロゲン添加MgO結晶体の平均粒径の範囲は、上記具体的な平均粒径として例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
【0027】
次に、ハロゲン添加MgO結晶体の製造に使用されるMgO結晶体について説明する。MgO結晶体は、電子線の照射によって波長域200〜300nm内にピークを有するカソードルミネッセンス発光を行うという特性を有している。MgO結晶体は、好ましくは、粉体状であり、そのサイズや形状は特に限定されないが、平均粒径が0.05〜20μmであることが好ましい。
【0028】
MgO結晶体の平均粒径は、次式に従って求めることができる。
式:平均粒径=a/(S×ρ)
(但し、aは、形状係数で6、Sは、窒素吸着法により求まるBET比表面積、ρは、酸化マグネシウムの真密度である。)
MgO結晶体の平均粒径は、具体的には、例えば、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20μmである。MgO結晶体の平均粒径の範囲は、上記具体的な平均粒径として例示した数値の何れか2つの間であってもよい。
【0029】
MgO結晶体の製造方法は、特に限定されないが、マグネシウム蒸気と酸素とを反応させる気相法で製造することが好ましく、例えば、特開2004−182521号公報に記載された方法や、『材料』昭和62年11月号、第36巻第410号の第1157〜1161頁の『気相法によるマグネシア粉末の合成とその性質』に記載された方法で製造することができる。また、MgO結晶体は、宇部マテリアルズ株式会社から購入してもよい。気相法で製造することが好ましいのは、気相法によりMgO結晶体を製造すると、純度の高い単結晶体が得られるからである。
【0030】
P粒子放出層11は、直接又は別の層を介して誘電体層4上に配置することができる。図1では、P粒子放出層11は、保護層5を介して誘電体層4上に配置されている。図1の構成は、一例であって、P粒子放出層11は、前面側基板構体1と背面側基板構体2の間の放電空間に露出するように、放電空間のどこかに配置されていればよい。放電空間内のどこかにP粒子放出層11が配置されていれば、P粒子放出層11からのP粒子によって放電遅れが改善されるからである。P粒子放出層11は、その全体が放電空間に露出していることが好ましいが、一部のみが露出していてもよい。
【0031】
例えば、P粒子放出層11は、前面側基板構体1に配置してもよく、背面側基板構体2に配置してもよい。P粒子放出層11を前面側基板構体1に配置する場合、保護層5を省略してP粒子放出層11を誘電体層4上に配置してもよく、開口部を有する保護層5を誘電体層4上に配置して、この開口部内にP粒子放出層11を配置してもよい。
【0032】
P粒子放出層11の厚さや形状は、特に限定されない。P粒子放出層11は、表示領域の全面に配置してもよく、一部にのみ配置してもよい。例えば、正面視において表示電極3と重なる領域にのみ形成したり、スキャン電極3Yと重なる領域にのみ形成したりしてもよい。この場合、放電遅れの改善効果をあまり低下させることなくP粒子放出材料の使用量を低減することができる。また、金属電極3bと重なる領域にのみ形成したり、面放電の起こらない表示電極対間の非放電ライン(逆スリット)と重なる領域にのみ形成したりしてもよい。この場合、P粒子放出層11を形成することによる輝度低下を抑えることができる。P粒子放出層11は、ストレート状に形成してもよく、放電セル毎に分離した島状に形成してもよい。
【0033】
P粒子放出層11の形成方法は、特に限定されない。P粒子放出層11は、例えば、粉体状のP粒子放出材料をそのまま又は分散媒に分散させた状態で保護層5に向けて散布することによって形成することができる。また、スクリーン印刷によって、P粒子放出材料を保護層5上に付着させてもよい。また、P粒子放出層11は、ディスペンサーやインクジェット装置を用いてP粒子放出層11を形成する部位にP粒子放出材料を含むペーストや懸濁液を付着させることによって形成してもよい。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例について説明する。以下の実施例では、フッ素が添加されたMgO結晶体(以下、「F添加MgO結晶体」と呼ぶ。)を放電空間に露出するように配置することによる放電遅れ改善効果を調べた。また、フッ素が添加されていない通常のMgO結晶体を放電空間に露出するように配置した場合と比較した。
【0035】
1.F添加MgO結晶体の製造方法
以下の方法でF添加量が互いに異なる5種類のF添加MgO結晶体(実施例サンプルA〜Eと呼ぶ。)を作製した。
【0036】
まず、MgO結晶体(宇部マテリアルズ株式会社製、商品名:気相法高純度超微粉マグネシア(2000A))と、MgF2(フルウチ化学株式会社製、純度:99.99%)をそれぞれ乳鉢と乳棒を用いて凝集解砕して粉体状にした。
次に、表1に示す混合量になるように、凝集解砕したMgO結晶体とMgF2を秤量し、タンブラー混合機で混合した。
次に、混合したものを大気中1450℃で1時間焼成した。
次に、焼成した粉を凝集解砕して粉体状にして、実施例サンプルA〜EのF添加MgO結晶体を得た。
【0037】
次に、実施例サンプルAとCのF添加量を燃焼イオンクロマトグラフ分析によって測定した。その結果を表1に示す。また、実施例サンプルAとCのF添加量の測定値から推測される実施例サンプルB,D,EのF添加量の推定値を図2のグラフに従って求めた。表1ではF添加量の推定値は括弧で囲んで表示した。
【0038】
【表1】

【0039】
2.PDPの製造方法
次に、実施例サンプルA、B、C、D又はEのF添加MgO結晶体からなるP粒子放出層11を有するPDPを以下の方法で製造した。また、後述する放電遅れ試験の比較例に使用するために、F添加MgO結晶体の代わりにF添加を行っていないMgO結晶体(メーカ,商品名は同上)を用いてPDPを同様の方法及び条件で製造した。
【0040】
2−1.概要
図1(a)〜(c)に示すようにガラス基板1a上に表示電極3、誘電体層4、保護層5、P粒子放出層11を形成することによって前面側基板構体1を作製した。また、ガラス基板2a上にアドレス電極6、誘電体層9、隔壁7及び蛍光体層8を形成することによって背面側基板構体2を作製した。次に、前面側基板構体1と背面側基板構体2を重ね合わせて周縁部を封着材で封止することによって内部に気密な放電空間を有するパネルを作製した。次に、放電空間内を排気後、放電ガスを封入し、PDPを完成させた。
【0041】
2−2.P粒子放出層の形成方法
P粒子放出層11は、詳しくは、以下の方法で形成した。
まず、F添加MgO結晶体をIPA(関東化学株式会社製、電子工業用)1Lに対して2gの割合で混合し、超音波分散機で分散させて凝集解砕させ、スラリーを作製した。
次に、保護層5上に塗装用スプレーガンを用いて上記スラリーをスプレー塗布し、その後にドライエアを吹き付けて乾燥させる工程を数回繰り返すことによってP粒子放出層11を形成した。P粒子放出層11は、F添加MgO結晶体の重量が1m2当り2gとなるように形成した。
【0042】
2−3.その他
その他の条件は、以下の通りにした。
【0043】
前面側基板構体1:
表示電極3aの幅:270μm
金属電極3b幅:95μm
放電ギャップの幅:100μm
誘電体層4:低融点ガラスペーストの塗布焼成により形成、厚さ:30μm
保護層5:電子ビーム蒸着によるMgO層、厚さ:7500Å
【0044】
背面側基板構体2:
アドレス電極6の幅:70μm
誘電体層9:低融点ガラスペーストの塗布焼成により形成、厚さ:10μm
アドレス電極6の真上での蛍光体層8の厚さ:20μm
蛍光体層8の材料:Zn2SiO4:Mn(緑蛍光体)
隔壁7の高さ:140μm 頂部での幅:50μm
隔壁7のピッチ(図1(a)の寸法A):360μm
放電ガス:Ne96%−Xe4%、500Torr
【0045】
3.放電遅れ試験
次に、製造した各PDPについて放電遅れ試験を行った。放電遅れ試験は、図3に示す測定用の電圧波形によって行った。リセット放電期間ではサステイン電極3Xとスキャン電極3Yの間でリセット放電を起こさせて誘電体層の電荷状態をリセットし、以前の放電の影響を除去した。予備放電期間では特定のセルを選択した後にサステイン電極3Xとスキャン電極3Yの間で放電を起こさせてP粒子放出材料を励起した。その後、10μs〜50msの休止期間を経過した後、アドレス放電期間にアドレス電極6に電圧を印加し、この電圧印加時から実際に放電が開始されるまでの時間を測定した。放電開始までの時間は1000回測定し、累積放電確率が90%となる時間を放電遅れと定義した。
【0046】
このようにして得られた結果を表2、図4及び図5に示す。図4は、実施例サンプルCを用いて製造したPDPと、無添加のMgO結晶体を用いて製造したPDPについての、休止期間と放電遅れとの関係を示すグラフである。図5は、表2をプロットしたものである。
【0047】
【表2】

【0048】
図4から明らかなように、実施例サンプルCを用いて製造したPDPでは、無添加MgO結晶体を用いて製造したPDPに比べて、休止期間が長いところでも放電遅れが短いことが分かる。このことは、実施例サンプルCのような、F添加MgO結晶体は、無添加のMgO結晶体に比べて放電遅れを抑制する効果が長く持続することを意味している。
【0049】
また、表2及び図5から明らかなように、F添加量が24〜440ppmの範囲において、放電遅れの変化が小さいことが分かる。このことは、F元素の添加量が放電遅れの改善効果に与える影響は大きくないことを示しており、添加量が1〜10000ppm程度の範囲であれば、放電遅れの改善効果が長時間持続することを示唆していると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の一実施形態のPDPの構造を示す断面図であり、(a)は、平面図であり、(b)及び(c)は、それぞれ、(a)中のI−I断面図及びII−II断面図である。
【図2】本発明の実施例において、実施例サンプルB,D,EのF添加量の推定値を求めるためのグラフである。
【図3】本発明の実施例の放電遅れの測定に用いた電圧波形を示す。
【図4】実施例サンプルCを用いて製造したPDPと、無添加のMgO結晶体を用いて製造したPDPについての、休止期間と放電遅れとの関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例にかかる、F添加量の測定値又は推定値と、放電遅れとの関係を示すグラフである。
【図6】従来のPDPの構造を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0051】
1:前面側基板構体 1a:前面側基板 2:背面側基板構体 2a:背面側基板 3:表示電極 3a:透明電極 3b:金属電極 3X:サステイン電極 3Y:スキャン電極 4:誘電体層 5:保護層 6:アドレス電極 7:隔壁 8:蛍光体層 9:誘電体層 11:プライミング粒子放出層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置された2つの基板構体間の放電空間に露出するように、ハロゲン元素が1〜10000ppm添加された酸化マグネシウム結晶体を含むプライミング粒子放出層が配置されているプラズマディスプレイパネル。
【請求項2】
前記ハロゲン元素は、フッ素である請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項3】
前記フッ素の添加量は、5〜1000ppmである請求項2に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項4】
前記基板構体の一方は、基板上に表示電極と、前記表示電極を覆う誘電体層とを備え、
前記プライミング粒子放出層は、前記誘電体層上に配置されている請求項1〜3のいずれか1つに記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項5】
前記誘電体層と前記プライミング粒子放出層との間に酸化マグネシウムからなる保護層が設けられている請求項4に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項6】
基板と、前記基板上に設けられた複数の表示電極と、それらの表示電極を覆う誘電体層と、前記誘電体層上にあって放電空間と接するように設けられたプライミング粒子放出層とを備えてなるプラズマディスプレイパネルの基板構体であって、
前記プライミング粒子放出層は、ハロゲン元素が1〜10000ppm添加された酸化マグネシウム結晶体から構成されているプラズマディスプレイパネルの基板構体。
【請求項7】
前記誘電体層と前記プライミング粒子放出層との間に酸化マグネシウムからなる保護層が設けられている請求項6に記載のプラズマディスプレイパネルの基板構体。
【請求項8】
前記ハロゲン元素は、フッ素である請求項6または7に記載のプラズマディスプレイパネルの基板構体。
【請求項9】
前記フッ素の添加量は、5〜1000ppmである請求項8に記載のプラズマディスプレイパネルの基板構体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−282623(P2008−282623A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124718(P2007−124718)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】