説明

プラズマディスプレイパネル及びその製造方法、並びにプラズマディスプレイ装置

【課題】広い温度範囲においてアドレス放電遅れ時間を短縮して放電応答性を向上させ、休止期間中の壁電荷の減少及び電圧変動の抑制を両立することにより、安定したアドレス放電と高画質なPDPを実現する保護層技術を提供する。
【解決手段】PDPにおいて、保護層は、酸化マグネシウム(MgO)を主成分とし、不純物元素としてスカンジウム(Sc)及びシリコン(Si)を含み、MgOに対するスカンジウム(Sc)の濃度を5質量ppm以上525質量ppm以下、MgOに対するシリコン(Si)の濃度を5質量ppm以上1000質量ppm以下の範囲で制御することにより、広い温度範囲において良好なアドレス放電特性を行うことができ、低コストで高輝度、高コントラストのプラズマディスプレイ装置が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル(Plasma Display Panel:以下、PDPとも称する)及びプラズマディスプレイ装置に関し、特に、高画質で高効率なプラズマディスプレイパネルに適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネルは、他のディスプレイデバイスに比べ、動画性能が良い、視野角が広い、大型化が容易という特徴を有する。
【0003】
図1は典型的なPDPの分解斜視図である。また、プラズマディスプレイ装置の概略構成を図2に示す。プラズマディスプレイ装置23は、プラズマディスプレイパネル20とこのプラズマディスプレイパネル20に電圧を印加する駆動電源21と映像信号を生成する映像源22から構成される。
【0004】
プラズマディスプレイパネル(PDP100)は、前面基板1と背面基板6を貼り合わせた構造であり、これら基板間に複数の放電セルが形成されている。放電セルには、電圧を印加するための3種類の電極が形成されている。前面基板1上には、維持放電のための表示電極対14が形成され、それら表示電極対14は誘電体層4と保護層5により覆われている。表示電極対14は、サステイン電極(以下、X電極とも称す)12とスキャン電極(以下、Y電極とも称す)13で構成される。サステイン電極12、スキャン電極13はそれぞれ、透明電極2(2a、2b)とバス電極3(3a、3b)からなる。
【0005】
一方、背面基板6上には、アドレス電極(以下、A電極とも称す)9が形成され、アドレス電極9は誘電体層8で覆われている。さらに誘電体層8上には、隔壁(リブとも称す)7が構成され、隔壁間には赤、青、緑色の蛍光体層10が形成されている。図1からも分かるように隔壁7及び誘電体層8は、蛍光体層10に直接接しており、蛍光体層10の保持手段としての機能も有している。
【0006】
前面基板1側の表示電極対14と背面基板6側のアドレス電極9とが互いに概略直交するように(場合によっては、単に互いに交差するように)、前面基板1と背面基板6の向きを合わせて、前面基板1と背面基板6とが封着され、両基板間の空隙部分である放電空間11にはNe+Xeの混合ガス、またはHe+Ne+Xeの混合ガスなどの放電ガスが封入され、両基板間に複数の放電セルが形成されている。放電ガスは放電により真空紫外線(146nm及び172nm)を発生する。このときに発生した真空紫外線が背面基板6に配置した蛍光体層10を励起し、可視光を発する。PDP装置では各表示セルに用いられる蛍光体層10としてそれぞれ、赤(R)、緑(G)、青(B)に発光する蛍光体を用い、これらを塗り分けることにより、フルカラー表示を行うことが出来る。
【0007】
PDPの保護層5は、一般的に酸化マグネシウム(MgOと称す)を用いて形成されている。保護層5の役割は、大きく三つある。まず、放電の際に発生するプラズマから誘電体層4を保護し、誘電体層4がスパッタリングされるのを防ぐ役割である。次に、イオン入射による二次電子の放出による放電開始電圧を低下させる作用である。最後に、放電の種火となる電子を放出してプラズマを発生・持続させる役割、特に荷電粒子であるプライミング電子を放出して放電開始を促進する役割がある。プライミング電子とは放電の種火となる電子のことである。
【0008】
近年、プラズマディスプレイを取り巻く市場においては、液晶ディスプレイなど他のフラットパネルディスプレイ(FPD(Flat Panel Display))も含めた性能競争が激しく、プラズマディスプレイにおいても、高輝度化(高効率化)、高コントラスト化が要求されている。また、今後の高解像度デジタル放送に向けてフルHD(High Definition)対応化(高精細化)が必要となっている。
【0009】
PDPの高品位の画質を実現するために、PDPの高精細化、高効率化等の高性能化が要求されている。しかし、上記要求に伴い、セルサイズの縮小化、セル構造の高精細化に伴う走査線数の増加、高Xe濃度化のために、放電遅れと呼ばれる問題がある。
【0010】
PDPにおける一般的な画像の階調表示方式としてADS(Address Display-Period Separation)がある。ADS方式では、1TVフィールド(1/60s)を所定の輝度比を有する複数のサブフィールドに分割し、それらのサブフィールドを画像に応じて選択的に発光させ、輝度の違いにより階調を表現している。さらにサブフィールドは、リセット期間、アドレス期間、サステイン期間で構成される。リセット期間では、マトリクス配列された全ての放電セル内の壁電圧をほぼ均一に揃えるため、サステイン放電電極対間に放電開始電圧以上のサステイン電圧を印加し、全ての放電セルでリセット放電を行う。アドレス期間では、全ての放電セルのうちの点灯すべき放電セルのみに、適量の壁電荷を生成するアドレス放電を行う。サステイン期間では、その壁電荷を利用して表示データの階調値に応じた回数のサステイン放電(表示放電)を行う。
【0011】
このPDPを用いたプラズマディスプレイ装置は、デジタル放送等の高品位な画質に対応した画像表示装置としての期待が高まっており、高精細化、高輝度化、高コントラスト化等の高画質化と高効率化が要求されている。また、黒ノイズの発生率低減といった表示画像の信頼性も要求されている。
【0012】
PDPの高精細化は画素ピッチ及び放電セルサイズを小さくすることにより達成される。高輝度化は発光効率の増加やサステイン放電の回数を多くすることにより達成される。高コントラスト化には、サステイン放電回数が異なるサブフィールド数を増加させることと、リセット放電等の表示放電に寄与しない放電を低減して黒表示時の輝度を低下させることにより達成される。
【0013】
各サブフィールドのアドレス期間は、PDPのスキャンライン数とアドレスパルス幅で決定される。アドレスパルス幅は、アドレス電圧を印加してからアドレス放電が起こるまでのアドレス放電遅れ時間t(以下、放電遅れ時間とも記す)を考慮して設定される。アドレスパルス幅が不十分であると、アドレス電圧を印加している間にアドレス放電が起こらない。そのため、その後のサステイン放電が行われないといった誤放電による黒ノイズが発生する。更に高精細化では画素数の増加に伴いスキャンライン数が増加する。これにより、高精細なPDPでは、各TVフィールドにおけるアドレス期間の割合が増加し、高輝度化、高コントラスト化において重要であるサステイン期間の割合が減少する。
【0014】
このアドレス放電遅れ時間tはPDPの高効率化にも関係する。高性能のテレビ装置としてPDP装置の高発光効率化を目的とするPDP構造の改善検討が進められており、Neを主成分とする放電ガス中のXeガスの組成比を増加させ、発生するXe分子線を積極的に利用しようとする検討が盛んに行われている。通常、放電ガス中のキセノンガス組成比(5%程度)より多い組成比領域でこうしたPDPの発光高効率化を達成する検討がなされている。しかし、Xe分圧を増大させると、放電開始電圧の上昇と放電遅れ時間の増大といった問題が起こることも知られている。
【0015】
以上から、PDPの高性能化を実現するためにはアドレス放電遅れ時間t及びアドレス期間を短縮することが必須である。この放電遅れ時間及びアドレス期間を短縮するには、大きく2つの方法がある。1つは、データドライバICを増加させる方法である。例えばデータドライバICを2倍にし、パネルの上下でスキャンラインを2分割して同時にスキャンをするデュアルスキャン方式に変えると、見かけ上のアドレス期間が半減する。しかし、デュアルスキャン方式ではデータドライバIC等の駆動に関係する回路数の増加や配線が複雑となり、生産性やコストの点で問題がある。
【0016】
もう1つは、アドレス放電遅れ時間tの短縮をPDPの保護層であるMgOを改良することで実現する方法である。アドレス放電遅れ時間tは、Y電極、X電極とA電極の印加電圧とリセット放電後の残留壁電荷に依存する形成遅れ時間t、並びに、プライミング電子がMgOから放出されるまでの統計遅れ時間tの和で構成される。リセット放電後の残留壁電荷量に揺らぎが存在するとすれば、形成遅れ時間tに揺らぎが生じる。プライミング電子とは、放電形成に寄与する電子のことである。このうち、統計遅れは保護層であるMgOからのプライミング電子放出頻度に大きく依存している。MgOのプライミング電子放出頻度は、電子放出源となるトラップ準位の数やエネルギー状態密度といったMgOの準位構造に大きく関係している。プライミング電子放出源として有効なトラップ準位は、トラップされた電子が室温付近で伝導帯へ熱励起可能な深さにあり、アドレスパルス幅内に放電を発生するのに十分な準位構造を持たなければならない。このMgOの準位構造は、室温付近での放電遅れのみならず、広い温度範囲における放電遅れ時間の温度特性や、高温状態での壁電圧変動等の様々なパネル駆動特性に影響を与える。
【0017】
このようなPDPの保護層であるMgOに対し、非特許文献1に記載されるように、プライミング電子の放出源としてMgOにシリコン(Si)等の不純物を添加する手法が報告されている。また、特許文献1に記載されるように、MgOにシリコン(Si)を添加することによって黒ノイズの発生率を低減する手法が報告されている。また、特許文献2及び特許文献3に記載されるように、スカンジウム(Sc)等の元素をMgOに添加することによって放電応答性を改善する手法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平10−334809号公報
【特許文献2】特開2006−169636号公報
【特許文献3】特開2006−207013号公報
【特許文献4】WO2005/098890A
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】IDW‘06、PDP1−1 2006年、p333〜336
【非特許文献2】IDW‘06、PDP2−4 2006年、p359〜362
【非特許文献3】IDW‘08、PDP3−3 2008年、p1869〜1872
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、放電遅れに関する対策は、未だ十分になされているとは言い難い現状にある。具体的には、特許文献1の技術では、MgOにシリコン(Si)を添加することで、ある程度不点灯領域の発生を抑制できるが、一方で各セルにおける放電遅れのバラツキが顕著になるという新たに問題が生じることが、例えば、特許文献4に記載されている。
【0021】
特許文献2及び特許文献3の技術では、MgOにスカンジウム(Sc)を添加することで放電遅れが改善することが示されている。PDPの保証温度は製造メーカによっては、最低温度0℃、更に好ましくは−15℃、最高温度で70℃、更に好ましくは80℃と上下温度幅がある。そこで、本発明者らは、−10℃〜60℃の広い温度範囲で放電遅れ時間の評価を行った。本発明者らが検討した結果、放電遅れ時間には温度依存性があり、高温領域では放電遅れ時間が悪化することが明らかになっている。そのため、広い温度範囲で安定したアドレス放電を行うためには、アドレス期間を十分に長くする必要があり、高画質化において重要であるサステイン期間の確保が困難となる。
【0022】
また、特許文献2の技術では、MgOにスカンジウム(Sc)、カルシウム(Ca)及びシリコン(Si)を共ドープすることが示されている。しかしながら、本発明者らが検討した結果、これら不純物元素を閾値以上に添加すると、MgOのアドレス放電遅れ時間tの休止期間依存性、つまり放電が生起されてから次の放電が生起されるまでの時間間隔の依存性が悪化するという問題があることが明らかになっている。
【0023】
以上のMgOへのスカンジウム(Sc)、シリコン(Si)といった不純物元素の添加は放電遅れ時間の改善に着目した技術であるが、本発明者らが検討した結果、MgOに対するSc及びSiの濃度が閾値以上であると、PDPの通常動作中のある時点において、黒ノイズの発生率の増加や不点灯ラインの出現といった現象が発生することが明らかになっているこの現象は、PDPのパネル表面温度が高温である場合によくみられる。
【0024】
この原因の一つとして、リセット放電終了後からアドレス電圧を印加するまでの休止期間t中に、アドレス電極(A電極)を覆う誘電体層及び保護層の放電空間側表面とスキャン電極(Y電極)を覆う誘電体層及び蛍光体層の放電空間側表面との電圧差(即ち、A−Y電極間の放電空間に印加される電圧)VAYが減少することが挙げられる。以下、休止期間t中の電圧差VAYの減少量を電圧変動ΔVAYと記す。
【0025】
この電圧変動ΔVAYにより、アドレス電圧印加時に放電空間に印加される実効的な電圧は減少する。そのため、所定の電圧が放電空間に印加されなくなり、アドレス放電を失敗して誤放電が発生し易くなる。
【0026】
電圧変動ΔVAYの要因として、リセット放電終了後からアドレス電圧を印加するまでの間に保護層から放出されたプライミング電子が、放電空間側表面の壁電荷を打ち消していると考えられている。非特許文献2によれば、プライミング電子による休止期間t中の電圧変動ΔVAYは、300〜10000V/sであると記載されている。
【0027】
このような問題を解決する方法の一つとして、電圧変動ΔVAYを想定してアドレス電圧を予め高めに設定する方法がある。しかし、この方法では使用する駆動回路や制御回路に実装される電子部品を高電圧に対応したものに変更する必要があり、コストの点で問題がある。また、消費電力の増加や、コントラストの低下といった問題も生じる。
【0028】
したがって、アドレス放電遅れ時間tを短縮するだけでなく、休止期間t中の電圧変動ΔVAYを抑制する保護層技術が必要である。
【0029】
以上より、MgOへ不純物元素を添加する技術に関しては、優れた表示性能を得る上で十分な効果が有るとは言い難いのが現状である。このため、放電特性を一層向上させることが可能なMgO膜の実現が望まれている。
【0030】
本発明の目的は、広い温度範囲においてアドレス放電遅れ時間tを短縮して放電応答性を向上させ、休止期間t中の壁電荷の減少及び電圧変動ΔVAYの抑制を両立することにより、安定したアドレス放電と高画質なPDPを実現する保護層技術を提供することにある。
【0031】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述と添付図面によって明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0033】
すなわち、代表的なものの概要は、プラズマディスプレイパネル及びプラズマディスプレイ装置について、広い温度範囲でのアドレス放電遅れ時間tの改善と、休止期間t中の壁電荷の減少及び電圧変動ΔVAYの抑制を両立するために、以下の手段を用いる。
【0034】
上記課題を解決するために、代表的な実施の形態によるプラズマディスプレイ装置は、間隔をあけて対向配置された一対の基板と、前記一対の基板間に設けられ前記一対の基板間の間隔を保持する隔壁と、前記一対の基板間に形成された空間内に封入され放電により紫外線を発生する放電ガスと、前記一対の基板の対向面の少なくとも一方の上に配置された電極とを備え、前記電極を覆う誘電体層と、前記誘電体層を覆う保護層が配置されたPDPと、前記PDPを駆動し、リセット期間、アドレス期間、サステイン期間で構成される駆動方法を実現する駆動装置とを有する。
【0035】
本発明者らは、広い温度範囲においてアドレス放電遅れ時間tを短縮して放電応答性を向上させ、休止期間t中の壁電荷の減少及び電圧変動ΔVAYの抑制を両立する方法について、MgOを主成分とする保護層に対し、所定の成分比の範囲でスカンジウム(Sc)及びシリコン(Si)を添加する構成により、この問題が解決できることを見出した。
【0036】
すなわち、前記保護層は、酸化マグネシウム(MgO)を主成分とし、不純物元素としてスカンジウム(Sc)及びシリコン(Si)を含み、スカンジウム(Sc)の濃度が5質量ppm以上525質量ppm以下であり、シリコン(Si)の濃度が5質量ppm以上1000質量ppm以下であり、且つ、下記式(I)を満たすことを特徴とする。
【0037】
y≦−3.5x+1845…(I)
但し、式(I)において、yはシリコン(Si)濃度、xはスカンジウム(Sc)濃度を示し、単位は質量ppmであり、駆動方法においての最大リセット間隔は1msである。
【0038】
また、前記保護層は、酸化マグネシウム(MgO)を主成分とし、不純物元素としてスカンジウム(Sc)及びシリコン(Si)を含み、スカンジウム(Sc)の濃度が7質量ppm以上217質量ppm以下であり、シリコン(Si)の濃度が5質量ppm以上405質量ppm以下であり、且つ、下記式(II)を満たすことを特徴とする。
【0039】
−74x+887≦y≦−1.9x+418…(II)
但し、式(II)において、yはシリコン(Si)濃度、xはスカンジウム(Sc)濃度を示し、単位は質量ppmであり、駆動方法においての最大リセット間隔は1/60sである。
【0040】
さらに、前記保護層は、酸化マグネシウム(MgO)を主成分とし、不純物元素としてスカンジウム(Sc)及びシリコン(Si)を含み、スカンジウム(Sc)の濃度が15質量ppm以上200質量ppm以下であり、シリコン(Si)の濃度が5質量ppm以上284質量ppm以下であり、且つ、下記式(III)、(IV)を満たすことを特徴とする。
【0041】
−63x+1227≦y≦−1.5x+306…(III)
−1.5x+87≦y≦−1.5x+306…(IV)
但し、式(III)及び(IV)において、yはシリコン(Si)濃度、xはスカンジウム(Sc)濃度で、単位は質量ppmであり、スカンジウム(Sc)濃度xは式(III)において15≦x<19、式(IV)において19≦x≦200の範囲が適当である。このとき、駆動方法においての最大リセット間隔は1/20sである。
【0042】
また、前記プラズマディスプレイ装置において、前記放電ガスは、組成比10%以上となる量でXeを含んで構成されたガスであることを特徴とする。ここで、組成比とは、放電ガスがXeガスを含み、前記放電ガスのモル濃度をngとし、前記Xeガスのモル濃度をnXgとし、前記放電ガス中のXeモル濃度比をaXeとし、Xeモル濃度比aXe=nXg/ngとして表される。
【0043】
スキャンライン数が多く高精細なPDP、例えば解像度がフルHD(High Definition)のPDPにおいて、十分なリセット期間とサステイン期間を確保しつつ、全スキャンラインを1つのデータドライバICでスキャンを行うシングルスキャン方式を実現するには、休止期間t=16msの統計遅れ時間tを従来品のMgOの1/3以下にする必要がある。そこでスカンジウム(Sc)及びシリコン(Si)の濃度範囲の下限値は、−20〜60℃の温度範囲における統計遅れ時間tの最大値が、従来品のMgOの1/3以下となるスカンジウム(Sc)及びシリコン(Si)の濃度である。
【0044】
この統計遅れ時間tは、保護層のプライミング電子放出特性(以下、電子放出特性とも記す)に関係していることから、測定する以外にも保護層中のプライミング電子放出源のエネルギー状態密度からも得ることができる。
【0045】
エネルギー状態密度は、アドレス放電遅れ時間tから統計遅れ時間tを分離し、プライミング電子放出特性の計測条件依存性を解析することにより決定される。解析システム及び解析方法の概略は以下のとおりであり、解析方法は非特許文献3に記載されている。詳細については後で説明する。
【0046】
(1)休止期間t、温度Tの計測条件に対するアドレス放電遅れ時間tの計測データを入力する。
【0047】
(2)各休止期間tと温度Tに対する計測データをもとに、アドレス放電遅れ時間毎の累積数を計算し、放電確率頻度と既放電確率を算出する。
【0048】
(3)統計遅れ時間tに関係するプライミング電子の電子放出時定数texp(t,T)を算出する。
【0049】
(4)電子放出源のエネルギー状態密度の関数を設定し、エネルギー状態密度に対する活性化エネルギーの平均値、分散値と実効数の探索範囲と探索幅を設定する。
【0050】
(5)電子放出源のエネルギー状態密度とウインドウ関数のエネルギーに対する重なり積分によりプライミング電子の電子放出時定数tsth(t,T)を算出する。
【0051】
(6)休止期間tと温度Tの計測条件の総数に対して、計測データから求めたtexp(t,T)と計算から求めたtth(t,T)の平均二乗誤差が最小となる活性化エネルギーの平均値、分散値と実効数を決定する。
【0052】
これにより、一つまたは複数の電子放出源のエネルギー状態密度を解析することができる。更に、(5)により電子放出源のエネルギー状態密度から各計測条件に対するプライミング電子の電子放出時定数tth(t,T)を算出することもできる。
【0053】
休止期間tの間の電圧変動ΔVAYは、保護層から放出されるプライミング電子放出量Nemに関係する。単位時間当たりに放出されるプライミング電子量Nemは、プライミング電子の放出時定数tの逆数で与えられる。PDPの温度Tを一定として休止期間ti中のプライミング電子放出量Nemは、
【0054】
【数1】

【0055】
で与えられる。放出される電荷Qemは電気素量qを用いて、
【0056】
【数2】

【0057】
で与えられる。リセット放電により形成される壁電荷が、A電極側の誘電体層及び蛍光体層表面が正で、Y電極側の誘電体層及び保護層表面が負であるとすると、保護層から放出される電荷Qemは、A電極側の誘電体層及び蛍光体層表面に到達すると考える。この結果、A電極側の誘電体層及び蛍光体層表面の壁電荷が−Qemだけ、Y電極側の誘電体層及び保護層表面の壁電荷がQemだけ減少する。
【0058】
1つの放電セルにおけるA電極側とY電極側の静電容量をC、Cとすると、プライミング電子放出による壁電荷の変動に伴う電圧変動ΔVAYは、
【0059】
【数3】

【0060】
で表され、プライミング電子放出量Nemに関係する。更に、電圧差VAYが大きければ、放出されたプライミング電子は、放電空間において放電ガスを電離し、保護層から二次電子が放電空間へ放出され、電圧変動ΔVAYを増大させることもある。
【0061】
プライミング電子放出量Nemは、酸化マグネシウム(MgO)中のトラップ準位に起因するプライミング電子放出源の実行数Nee,jに依存する。スカンジウム(Sc)はMgOに対してドナーであることから、プライミング電子放出源となるトラップ準位を形成する。シリコン(Si)についてもプライミング電子放出源となるトラップ準位を形成するため、スカンジウム(Sc)及びシリコン(Si)を添加したMgOを用いた保護層では、プライミング電子放出源の実行数Nee,jはMgOに対するSc濃度で決定される。
【0062】
従来品のMgOでは、高温で動作させたときに、1TVフィールドに相当する休止期間t=16msでは、電圧変動ΔVAYによる黒ノイズが実用上問題のない程度である。そこでSc濃度範囲の上限値、休止期間t=16msにおける電圧変動ΔVAY及びプライミング電子放出量Nemについて従来品のMgOで規格化し、各条件での電圧変動ΔVAYが1以下となるスカンジウム(Sc)及びシリコン(Si)の濃度である。
【発明の効果】
【0063】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0064】
すなわち、代表的な実施の形態によるPDPによれば、保護層として、酸化マグネシウム(MgO)を主成分として、不純物元素としてスカンジウム(Sc)及びシリコン(Si)を所定の成分比の範囲で含むことにより、広い温度範囲において統計遅れ時間t及びアドレス放電遅れ時間tを短縮し、休止期間t中の電圧変動ΔVAYを抑制することができ、広い温度範囲において、安定したアドレス放電と高画質なPDPを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】典型的なPDPの構造を示す分解斜視図である。
【図2】典型的なPDPを用いたプラズマディスプレイ装置の概略構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態によるPDPの構造を示す分解斜視図である。
【図4】図3のPDPにおいて、階調表示方式であるADSにおける1フィールドとサブフィールドの構成を説明するための図である。
【図5】図4中のアドレス期間において、放電セルを選択してアドレス放電させる駆動方法を説明するための図である。
【図6】図3のPDPを用いたプラズマディスプレイ装置の構成を示す説明図である。
【図7】本発明の前提として検討したPDPのパネル表面温度に対する統計遅れ時間の関係を示す図である。
【図8】本発明の前提として検討したアドレス放電遅れ時間の計測データに対する累積数、及び、既放電確率を用いた統計遅れ時間と形成遅れ時間の解析方法を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、その構成及び手順の一例を示すブロック図である。
【図10】本発明の実施の形態による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、その解析システムのハードウエア構成の一例を示すブロック図である。
【図11】本発明の実施の形態による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、既放電確率を用いたプライミング電子の電子放出時定数解析の説明図である。
【図12】本発明の実施の形態による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、休止期間と温度に対するウインドウ関数が最大となるエネルギーを示す図である。
【図13】本発明の実施の形態による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、電子放出源のエネルギー状態密度とウインドウ関数のエネルギー重なり積分の説明図である。
【図14】本発明の実施の形態による電子放出特性の解析システム及び解析方法において、活性化エネルギーの平均値、分散値と実効数の探索範囲と探索幅を示す図である。
【図15】本発明の実施の形態による電子放出特性の解析システム及び解析方法により得られたMgO中に含まれるスカンジウム、シリコンに起因した各電子放出源のエネルギー状態密度を示す図である。
【図16】本発明の実施の形態により統計遅れ時間と電圧変動が改善されるスカンジウム濃度とシリコン濃度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0066】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。本発明は以下の実施の形態に限定されるものではい。なお、実施の形態を説明する全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0067】
(実施の形態)
まず、図3に示した放電セルで構成されるプラズマディスプレイパネルを作製した。図3は本実施の形態によるPDPの構造を示す分解斜視図である。
【0068】
発明者らは、パネルサイズが50インチで、表示画素数が1920×1080のフルHDの高精細なPDPで検討しているが、パネルサイズが32インチ以上、表示画素数がHD以上の高精細なPDPであっても構わない。
【0069】
本実施の形態のようなAC面放電型カラープラズマディスプレイパネルのPDP200は、間隔をあけて対向配置された一対の前面基板1及び背面基板6と、前面基板1及び背面基板6の基板間に設けられ基板間の間隔を保持する隔壁7と、基板間に形成された放電空間11内に封入され放電により紫外線を発生する放電ガスと、前面基板1及び背面基板6の対向面の少なくとも一方の前面基板1上に配置されたサステイン電極(X電極)12とスキャン電極(Y電極)13とからなる表示電極対14と、他方の背面基板6上に配置されたアドレス電極(A電極)9とを備えている。前面基板1上には、表示電極対14を覆う誘電体層4と、この誘電体層4を覆う保護層5が配置されている。背面基板6上には、アドレス電極9を覆う誘電体層8と、この誘電体層8上に隔壁7及び蛍光体層10が配置されている。
【0070】
本実施の形態のようなAC面放電型カラープラズマディスプレイパネルのPDP200では、例えば、サステイン電極12とスキャン電極13で構成される表示電極対14のうちの一方(一般にスキャン電極13)に負の電圧を、アドレス電極9ともう一方の残りの表示電極に正の電圧(前記一方の表示電極に印加される電圧に比して正の電圧)を印加することによりアドレス放電が発生し、これにより、一対の表示電極の間で放電を開始するための補助となる壁電荷が形成される。この状態で一対の表示電極の間に、適当な逆の電圧を印加すると、誘電体層4及び保護層5を介して、表示電極対14の間の放電空間11で放電が発生する。
【0071】
放電終了後、前記表示電極対14に印加する電圧を逆にすると、新たに放電が発生する。これを繰り返すことにより継続的に放電が発生する。これをサステイン放電又は表示放電と呼ぶ。このサステイン放電により、放電空間11内に封入された放電ガスが紫外線を発生し、その紫外線で蛍光体層10を励起することで、蛍光体層10が可視発光してカラー表示を行う。
【0072】
本実施の形態のPDP200は、前面基板1上に、複数対のサステイン電極12とスキャン電極13がストライプ状に形成され、一対の表示電極対14が構成される。なお、表示電極対14を構成するサステイン電極12とスキャン電極13の材料には、透明電極2(2a、2b)の材料に、ITO(Indium Tin Oxide、酸化インジウムスズ)、あるいは酸化亜鉛(ZnO)など、バス電極3(3a、3b)の材料に、銀(Ag)の他、アルミニウム(Al)などからなる金属膜、または、クロム(Cr)/銅(Cu)/クロム(Cr)の積層膜なども適用可能である。
【0073】
上記表示電極対14上には覆うようにしてガラス系の材料で構成される誘電体層4が形成される。当該誘電体層4を覆うようにして保護層5が形成される。保護層5は、MgOを主成分とし、不純物元素としてシリコン(Si)、スカンジウム(Sc)を添加して構成される。この保護層5の構成と形成方法については後述する。
【0074】
背面基板6上には、銀などで構成されている複数並設されたアドレス電極9と、前記アドレス電極9を覆うようにして、ガラス系の材料で構成される誘電体層8が形成される。当該誘電体層4上には、同じくガラス系の材料で構成される隔壁材を厚膜印刷し、ブラストマスクを用いたブラスト除去により隔壁7が形成される。
【0075】
次に、この隔壁7上に、赤(R)、緑(G)及び青(B)の各蛍光体層10を該当する隔壁7間の溝面を被覆する形で、順次ストライプ状に形成する。各蛍光体層10は、赤、緑及び青にそれぞれ対応し、赤蛍光体粒子を35重量部(ビヒクルを65重量部)、緑蛍光体粒子を35重量部(ビヒクルを65重量部)、青蛍光体粒子を35重量部(ビヒクルを65重量部)とし、それぞれビヒクルと混ぜて蛍光体ペーストとし、スクリーン印刷により塗布した後、乾燥及び焼成工程により蛍光体ペースト内の揮発成分の蒸発と有機物の燃焼除去を行って形成する。また、各蛍光体層10の材料については、例えば、赤蛍光体は(Y,Gd)BO:Eu蛍光体、緑色蛍光体はZnSiO:Mn、青蛍光体はBaMgAl1017:Eu蛍光体を用いる。
【0076】
次に、上記表示電極対14、誘電体層4、及び保護層5を形成した前面基板1と、アドレス電極9、誘電体層8、隔壁7、及び蛍光体層10を形成した背面基板6を表示電極対14とアドレス電極9とが直交するように対向配置され、非表示領域をシール材でフリット封着することで、ボックス型に隔壁7で区分けされてなる放電空間11が複数形成される。その後、当該放電空間11を真空状態にし、Ne、Xe、He等からなる放電用の混合ガスが封入されPDP200が完成する。放電ガスの封入圧力は、例えば、50〜80kPa程度である。
【0077】
本実施の形態では放電ガスのXe組成比が12%以上を用いた。これは、プラズマディスプレイ装置の発光効率を増大させるためには、放電による紫外線の発生効率を増大させることが非常に重要なためであり、そのためにはXe組成比を高める必要がある。従来技術ではXe組成比が通常4%〜10%である。本実施の形態では、さらにXe組成比を12%以上に高めて効率を上げている。
【0078】
次に、上述した保護層5の形成方法について説明する。本発明の保護層5の主成分はMgOであり、所定量のスカンジウム(Sc)及びシリコン(Si)を含んでいる。本発明では、この保護層5を電子ビーム蒸着法により成膜する。このとき、膜質を制御するために、酸素ガスや水素ガス、水蒸気等を供給しても構わない。また、MgOの成膜方法として、イオンアシスト蒸着法、スパッタリング法、化学蒸着(CVD)法等を用いても構わない。これらの成膜方法により保護層5は300nmから1000nmの厚さに形成される。
【0079】
この保護層5の膜厚は700nmである。ただし、膜厚はこれに限定されるものではなく、保護層としての機能を有することができるものであれば構わない。保護層の膜厚に関しては、本実施の形態に記載されているものだけに限定されず、保護層は500nm以上から2000nm以下であれば構わない。上述した膜厚範囲の場合、誘電体層4などの下地層の影響や、保護層5に発生する膜応力の影響などを受けない。500nm未満では耐スパッタ性が不十分なため、良好な放電応答性を得ることができない。また、2000nmを越える厚さでは、MgOの柱状結晶構造が成長し、その構造間に隙間ができるため、クラックの発生や不純物ガスの吸着といった問題が生じることもある。
【0080】
蒸着源には、粉末状のMgOにスカンジウム(Sc)化合物、シリコン(Si)化合物を混合してペレット状に成型したものを用いるか、ペレット状のMgOとペレット状のスカンジウム(Sc)化合物、シリコン(Si)化合物を混合して用いるか、あるいはこれらのペレット状に成型したものの焼結体を用いる。この蒸着源中のスカンジウム(Sc)濃度は、MgOに対して5質量ppm以上5000質量ppm以下であり、シリコン(Sc)濃度は、MgOに対して5質量ppm以上1000質量ppm以下である。ここで不純物濃度を5質量ppm以上に限定したのは、5ppm未満では濃度の安定制御が困難なためである。
【0081】
これらの蒸着源は、MgOとスカンジウム(Sc)化合物、シリコン(Si)化合物を出発材料として作製されるが、本発明者らが検討した結果、出発材料に用いるMgO中の不純物の濃度は、多くてもMgOに対して200質量ppm以下であることが望ましい。これは、出発材料に用いるMgOの純度が低いと、スカンジウム(Sc)及びシリコン(Si)を添加することにより得られる効果が低減するためである。本発明で用いたMgOに含まれる不純物元素とその濃度を表1に示す。表1に示される不純物の濃度は高周波誘導結合プラズマ質量分析(以下、ICP−MSと記す)による分析結果である。Zn、Mn以外の不純物元素は、検出限界未満であった。
【0082】
【表1】

【0083】
上記スカンジウム化合物及びシリコン化合物は、それらの酸化物及び塩化物、硝酸塩または炭酸塩などの塩よりなる群から選択された1つ以上から由来する成分を含むことが出来る。例えば、Sc、Sc(NO、ScF、ScCl、SiOなどが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0084】
以上の方法により形成される保護層5のMgOに対するスカンジウム(Sc)及びシリコン(Si)の濃度は、ICP−MS、または二次イオン質量分析装置(SIMS)を用いて測定することができる。
【0085】
このPDPに画像の階調表示方式としてADS(Address Display-Period Separation)を適用した場合について説明する。図4は階調表示方式であるADSにおける1TVフィールドとサブフィールドの構成を説明するための図である。図5は図4中のアドレス期間において、放電セルを選択してアドレス放電させる駆動方法を説明するための図である。なお、図5中のGNDは基準電圧(基準電位)である。
【0086】
図4(i)で示されるように1フィールド(1/60s≒16.67ms)を所定の輝度比を有する複数のサブフィールドに分割している。それらのサブフィールドを画像に応じて選択的に発光させ、輝度の違いにより階調を表現している。各サブフィールドは、図4(ii)で示されるリセット期間、アドレス期間、サステイン期間で構成される。
【0087】
リセット期間では、表示電極間に放電開始電圧以上の電圧が印加され、全ての放電セルでリセット放電が起こる。これにより、全ての放電セル内の壁電圧、即ち帯電状態をほぼ均一に揃えることができる。
【0088】
アドレス期間では、画像データに基づき選択された放電セルのアドレス電極(A電極)とスキャン電極(Y電極)に電圧が印加される。図5は、3つの連続したスキャン電極(Y電極)であり、(Y電極)と(Yi+2電極)が選択され、(Yi+1電極)が選択されない時の、各電極に印加される電圧波形である。選択された放電セルの(Y電極)と(Yi+2電極)には、−Vyのスキャンパルスが印加されるのと同期してアドレス電極(A電極)に電圧Vaのアドレス電圧が印加されてアドレス放電(選択放電)が起こる。選択されアドレス放電が起こった放電セルでは、サステイン期間で行われるサステイン放電(表示放電)を行うのに必要な壁電荷が形成される。一方、選択されない放電セルの(Yi+1電極)では、−Vyのスキャンパルスが印加される時にアドレス電極(A電極)にアドレス電圧が印加されないため、アドレス放電が起こらない。これにより表示放電を行うのに必要な壁電荷が形成されず、サステイン期間でサステイン放電が起こらない。各サブフィールドのアドレス期間を表示電極対数によらず一定とすると、表示電極対数が増加するとスキャンパルス幅が短くなる。そのため、表示電極対数が増加すると、許容されるアドレス遅れ時間tも短くなる。
【0089】
サステイン期間では、サステイン電極(X電極)とスキャン電極(Y電極)にサステインパルスが交互に印加され、選択された放電セルにおいてサステイン放電が起こる。例えば、2進法に基づく輝度の重みを持った8個のサブフィールドを設けると、赤(R)、緑(G)、青(B)の放電セルはそれぞれ2(=256)階調の輝度表示が得られ、約1678万色の色表示が可能となる。
【0090】
図6は、PDPを備えたプラズマディスプレイ装置の構成を示す説明図である。プラズマディスプレイ装置23は、アドレス電極(A電極)9、サステイン電極(X電極)12、スキャン電極(Y電極)13を有するPDP20と、アドレス電極(A電極)9を駆動するためのアドレス駆動回路24と、サステイン電極(X電極)12を駆動するためのサステインパルス出力回路25と、スキャン電極(Y電極)13を駆動するためのスキャンパルス出力回路26と、これらの出力回路を制御する駆動制御回路27と、入力信号の処理を行う信号処理回路28と、PDP20などに電圧を印加する駆動電源21と映像信号を生成する映像源22からなる駆動装置を備えている。
【0091】
プラズマディスプレイ装置23は、PDP20が完成した後、PDP20の電極とフレキシブル基板とを異方性導電フィルムによって接合する。その後、PDP20の変形を防ぎ、放熱性を良くするために例えばアルミニウムなどの板が取り付けられ、この板の上に、駆動電源21やアドレス駆動回路24などの駆動装置が組み込まれ、プラズマディスプレイモジュールが完成する。その後、さらに検査などを行い、外装ケースを取り付けることによって、プラズマディスプレイ装置23が完成する。
【0092】
次に、本発明者らが本発明に至った実験方法と解析手法について説明する。前述したように、MgOにシリコン(Si)のみを添加した場合、各セルにおける放電遅れのバラツキが顕著になるという問題が生じることが知られている。また、MgOにスカンジウム(Sc)を添加することで放電遅れが改善することが示されているが、放電遅れの高温領域では温度依存性が悪化するという問題があることが明らかになっている。アドレス放電遅れ時間tは、Y電極、X電極とA電極の印加電圧とリセット放電後の残留壁電荷に依存する形成遅れ時間t、並びに、プライミング電子がMgOから放出されるまでの統計遅れ時間tの和で構成される。
【0093】
図7にスカンジウム(Sc)のみを添加したMgOを主成分とする保護層で構成されたPDPのパネル表面温度Tに対する統計遅れ時間tの結果を示す。スカンジウム(Sc)が多くなるに従い、統計遅れ時間tが改善されていることが分かる。しかしながら、パネル表面温度Tが上昇するに従い、統計遅れ時間tは悪化していることが分かる。上記問題解決のため、MgOに高濃度にスカンジウム(Sc)を添加することで改善できる可能性はあるが、プライミング電子放出源数が許容限度を越えて多くなり、電圧変動ΔVAYが増大して表示特性に支障をきたす場合がある。
【0094】
また、MgOにスカンジウム(Sc)とシリコン(Si)を共ドープすることが提案されているが、シリコン(Si)の濃度が1000質量ppmを超えると、放電遅れの休止期間依存性が悪化し、共ドープの効果が得られないことが明らかになっている。そのため、スカンジウム(Sc)濃度及びシリコン(Si)濃度の制御が重要となっており、本実施の形態において、スカンジウム(Sc)濃度及びシリコン(Si)濃度の最適化を行う。
【0095】
まず、本発明者らが本発明に至った実験方法と解析手法について説明する。尚、以下の解析手法については前述したように非特許文献3にも記載されている。
【0096】
アドレス放電遅れ時間tは、Y電極、X電極とA電極の印加電圧とリセット放電後の残留壁電荷に依存する形成遅れ時間t、並びに、放電の種火となるプライミング電子が保護層から放出されるまでの統計遅れ時間tの和で構成される。
【0097】
保護層からプライミング電子が放電空間に放出されることは、統計現象のため、統計遅れ時間tには揺らぎが生じる。図8は、同一放電セルにおけるアドレス放電遅れ時間を繰り返し計測した計測データを、アドレス放電遅れ時間毎に累積数(2001)で表示した放電遅れ時間の頻度分布の一例である。なお、2002は既放電確率Gを示す。同一放電セルにもかかわらず、約500nsをピークに、放電時間が早い場合は400ns、放電時間が遅い場合は1000ns以上を示しており、左右非対称な形状を示している。この繰り返し計測した計測データを用いて、以下の方法により保護層のプライミング電子放出特性を解析する。
【0098】
図9はプライミング電子放出特性の解析システム及び解析方法において、その構成及び手順の一例を示すブロック図、図10はその解析システムのハードウエア構成の一例を示すブロック図である。
【0099】
まず、図9及び図10により、本発明に用いたプライミング電子放出特性の解析システムの構成を説明する。本発明に用いた解析システムは、保護層中の電子放出源に対する電子放出特性の解析システムとされ、パーソナルコンピュータ2200と、計算装置102などから構成されている。パーソナルコンピュータ2200は、記憶装置を含む入力装置101と、画像処理装置を含む出力装置103などから構成される。計算装置102は、CPU装置2201と、記憶装置2202などから構成され、CPU装置2201と記憶装置2202は、データ転送用結合バス2204により接続されている。
【0100】
なお、図10では、複数の計算装置102が、データ転送用結合バス2205によりマトリクス状に接続される構成となっているが、これに限定されず、計算装置102は1つであってもよく、また、パーソナルコンピュータ2200内に設けてもよい。
【0101】
次に、図9及び図10により、本発明で用いた電子放出特性の解析システムについて、その動作例を説明する。計算装置102において、記憶装置2202には電子放出特性の解析プログラムが記憶(保持)されており、パーソナルコンピュータ2200からの指示により、CPU装置2201がそのプログラムを読み出して演算処理を行う。その演算処理の結果は、記憶装置2202に保存される。演算処理に必要なデータ類は、パーソナルコンピュータ2200から、データ転送用結合バス2205を介して送信される。また、計算装置102における演算処理の結果は、データ転送用結合バス2205を介して、パーソナルコンピュータ2200に送信される。また、パーソナルコンピュータ2200において、演算処理に必要なデータは入力装置101から入力され、演算処理の結果は出力装置103で出力・表示される。
【0102】
図9に示すように、計算装置102における演算処理は、以下の手順で実行される。
【0103】
まず、ステップS102−1において、PDPに対して計測した、サステイン電圧印加後からアドレス電圧印加までの休止期間tとMgOの温度Tに対するアドレス放電遅れ時間tの計測データを、入力装置101から計算装置102に入力する。尚、上記MgOの温度Tはパネル表面温度としている。
【0104】
次に、ステップS102−2において、計算装置102では、各休止期間tとMgO温度Tに対する計測データをもとに、アドレス放電遅れ時間毎の累積数を計算し、放電確率頻度P(t)を算出する。
【0105】
図11に、放電確率頻度の最大値を1に規格化した放電確率頻度P(t)201を示した。放電確率頻度P(t)は、短時間側ではガウス関数型であるが、長時間側はテールを引いた非対称な形状である。この放電確率頻度P(t)と式(1)を用いて、既放電確率G(t)を算出する。図11には、既放電確率G(t)202を示した。既放電確率G(t)は、下に凸から上に凸の形状を示し、長時間側で傾きはなだらかになっている。
【0106】
【数4】

【0107】
ステップS102−3において、形成遅れ時間tの揺らぎを取り除き、プライミング電子の電子放出時定数texpを求めるために、
【0108】
【数5】

【0109】
を満たす長時間領域における既放電確率G(t)とその時刻tを用いる。ここで、taveは形成遅れ時間tの平均値、σtfは形成遅れ時間tの分散値である。形成遅れ時間の平均値taveと形成遅れ時間の分散値σtfは、アドレス電圧印加時にプライミング電子が存在するような短い休止期間tの計測データに対して、そのアドレス放電遅れ時間の平均値と分散値から求めることができる。図11に示すように、
【0110】
【数6】

【0111】
の長時間領域203を満たすta、tb、その既放電確率G(ta)とG(tb)、並びに、式(2)を用いて、プライミング電子の電子放出時定数texpを算出する。
【0112】
【数7】

【0113】
例えば、t=0.1ms、T=25℃の短い休止期間に対するアドレス放電遅れ時間の計測データでは、アドレス放電遅れ時間の平均値tave=0.59μs、分散値σtf=0.09μsである。そして、解析対象の計測条件t=50ms、T=25℃における既放電確率G(t)が63.2%と95%となる時刻t63.2とt95は夫々に0.84μsと1.45μsである。式(2)を用いて得られたtexp(t=50ms、T=25℃)は0.31μsである。よって、
【0114】
【数8】

【0115】
は0.71μsになることから、
【0116】
【数9】

【0117】
の長時間領域の条件を満たすことが分かる。
【0118】
次に、電子放出源の種類jのエネルギー状態密度D(E)を解析する方法を述べる。計算から求められるプライミング電子の電子放出時定数tthは、式(3)と(4)によりエネルギー状態密度D(E)と関係付けられる。
【0119】
【数10】

【0120】
【数11】

【0121】
ここで、Eはプライミング電子放出源のエネルギー深さ(以下、エネルギーもしくはエネルギー準位とも称する)、fphは電子放出源のフォノン振動数、kはボルツマン定数である。また、W(E,t,T)は、休止期間tとMgOの温度Tの計測条件に対して、
【0122】
【数12】

【0123】
を中心に最大値e-1-1とエネルギー幅±数kTを有するウインドウ関数である。計測条件として、休止期間tを一定、MgOの温度Tを変化させた計測では、ウインドウ関数は、最大値e-1-1を一定としてエネルギーE(t,T)が推移する。一方、MgOの温度Tを一定、休止期間tを変化させた計測では、E(t,T)が推移しながら、最大値e-1-1も変化する。
【0124】
図12に、休止期間t=0.01ms、0.1ms、1ms、10ms、100ms、1000msとMgOの温度T=−10℃(263.15K)、0℃(273.15K)、10℃(283.15K)、25℃(298.15K)、40℃(313.15K)、60℃(333.15K)におけるウインドウ関数が最大となるエネルギー
【0125】
【数13】

【0126】
を示した。ここで、電子放出源のフォノン振動数fphは3.1×1013Hzとした。休止期間t=0.01msとMgOの温度T=−10℃では、ウインドウ関数が最大となるエネルギーは443meVである。また、休止期間t=1000msとMgOの温度T=60℃では、ウインドウ関数が最大となるエネルギーは892meVを表している。
【0127】
図13に示すように、電子放出時定数tthの逆数は、未知なる電子放出源のエネルギー状態密度Dj(E)401と計測条件で決定するウインドウ関数W(E,t,T)402のエネルギーに対する重なり積分を計算し、全電子放出源の種類jについて和を取ることに等しいことが分かる。
【0128】
図9に示したステップS102−4において、Scを含むMgOについて、第1種の電子放出源のエネルギー状態密度D(E)として、式(5)のガウス関数を設定した場合において、図14に従って、実効数Nee,1、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1、活性化エネルギーの分散値σE,1を求める。このとき、これらパラメータ値を探索するために入力する探索範囲と探索幅、及び、個数について述べる。
【0129】
【数14】

【0130】
第1種の電子放出源のフォノン振動数fph,1を1.26×1013Hzとして、計測条件t=1ms、4ms、10ms、16ms、26ms、50ms、T=−20℃、−10℃、0℃、10℃、20℃、40℃、60℃に対して、ウインドウ関数のエネルギー領域は507meV〜780meVの範囲となる。ウインドウ関数のエネルギー幅の3kTは約75meVなので、エネルギー領域は430meV〜860meVとなる。そこで、活性化エネルギーの平均値ΔEa,jの探索範囲として、計測条件により決定するE(t,T)の最小値−3kTからE(t,T)の最大値+3kTを包含する400meV〜900meVとした。活性化エネルギーの平均値ΔEa,jと活性化エネルギーの分散値σE,jのエネルギーの探索幅を、E(t,T)のエネルギー間隔の平均値以下の5meVとした。
【0131】
次に、実効数Nee,1は、計測条件の時間オーダー幅が2桁程度なので、実効数の探索範囲はその時間オーダー幅である2桁として、1×10個/セル〜1×10n+2個/セル(n=0〜4)を離散化した201個とした。以上より、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1に対する探索範囲は400meV〜900meVを5meV幅で離散化した101個の探索点、活性化エネルギーの分散値σE,1に対する探索範囲は5〜100meVを5meV幅で離散化した20個の探索点、実効数Nee,1に対する探索範囲は1×10個/セル〜1×10個/セルを離散化した201個の探索点から構成され、探索範囲と探索幅、及び、全ての組み合わせとして約4.1×10個のパラメータ値を入力する。
【0132】
ステップS102−5では、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1、活性化エネルギーの分散値σE,1と実効数Nee,1の各パラメータ値を設定した式(5)を式(3)に代入し、電子放出源のエネルギー状態密度D(E)とウインドウ関数W(E,t,T)のエネルギーに対する重なり積分を計算し、その逆数からt1,sth(t,T)を求めることができる。
【0133】
ステップS102−6において、休止期間tとMgOの温度Tの計測条件の総数N=42に対して、式(6)で表された計測データから求めたtexp(t,T)と計算から求めたt1,s th(t,T)の平均二乗誤差RMSDが最小となる活性化エネルギーの平均値ΔEa,1、活性化エネルギーの分散値σE,1、実効数Nee,1を求める。
【0134】
ΣN=42 {texp(t,T)-t1,s th(t,T)} (6)
このようにして、第1種の電子放出源のエネルギー状態密度D(E)に対して、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1、活性化エネルギーの分散値σE,1、実効数Nee,1を出力装置103から出力・表示する。
【0135】
次に、第2種の電子放出源について、図9に示したステップS102−7に従って、ステップS102−4に戻り、第2種の電子放出源のエネルギー状態密度D(E)として、式(7)のガウス関数を設定した場合において、図14に従って、実効数Nee,2、活性化エネルギーの平均値ΔEa,2、活性化エネルギーの分散値σE,2を求める。このとき、これらパラメータ値を探索するために入力すべき探索範囲と探索幅、及び、個数について述べる。
【0136】
【数15】

【0137】
第2種の電子放出源のフォノン振動数fph,2を1.2×1013Hzとして、計測条件t=1ms、4ms、10ms、16ms、26ms、50ms、T=−20℃、−10℃、0℃、10℃、20℃、40℃、60℃に対して、第1種の電子放出源に対して述べたと同様に、活性化エネルギーの平均値ΔEa,2に対する探索範囲は400meV〜900meVを5meV幅で離散化した101個の探索点、活性化エネルギーの分散値σE,2に対する探索範囲は5〜100meVを5meV幅で離散化した20個の探索点、実効数Nee,2に対する探索範囲は1×10個/セル〜1×10n+2個/セル(n=0〜4)を離散化した201個の探索点から構成され、探索範囲と探索幅、及び、全ての組み合わせとして約4.1×10個のパラメータ値を入力する。
【0138】
ステップS102−5において、活性化エネルギーの平均値ΔEa,2、活性化エネルギーの分散値σE,2と実効数Nee,2の各パラメータ値を設定した式(7)を式(3)に代入し、電子放出源のエネルギー状態密度D(E)とウインドウ関数W(E,t,T)のエネルギーに対する重なり積分を計算し、その逆数からt2,sth(t,T)を求めることができる。
【0139】
ステップS102−6において、休止期間tとMgOの温度Tの計測条件の総数N=18個に対して、式(8)で表された計測データから求めたtexp(t、T)と計算から求めたt1,s th(t,T)とt2,s th(t,T)の和に対する平均二乗誤差RMSDが最小となる活性化エネルギーの平均値ΔEa,2、活性化エネルギーの分散値σE,2、実効数Nee,2を求める。
【0140】
ΣN=18 {texp(t,T)-t1,s th(t,T) -t2,s th(t,T)} (8)
このようにして、第1種と第2種の電子放出源のエネルギー状態密度D(E)とD(E)に対して、活性化エネルギーの平均値ΔEa,1、活性化エネルギーの分散値σE,1、実効数Nee,1、並びに、活性化エネルギーの平均値ΔEa,2、活性化エネルギーの分散値σE,2、実効数Nee,2を出力装置103から出力・表示する。
【0141】
スカンジウム(Sc)を含むMgOを基にして、更にシリコン(Si)を含むMgOについては、第3種の電子放出源として、第2種の電子放出源と同様に、図9に示したステップS102−7に従って、ステップS102−4に戻り、第3種の電子放出源のエネルギー状態密度D(E)として、式(7)のガウス関数を設定した場合において、図14に従って、実効数Nee,3、活性化エネルギーの平均値ΔEa,3、活性化エネルギーの分散値σE,3を求める。
【0142】
MgOの温度TをPDPの温度として、以上の実験方法と解析手法により得られた、本発明によるMgOからなる保護層のスカンジウム(Sc)、シリコン(Si)に起因した電子放出源のエネルギー状態密度D(E)501、D(E)502、D(E)503を図15に示す。これらのエネルギー状態密度D(E)はMgOからなる保護層に含まれる各元素の濃度に依存する。図15の破線504は、PDPに要求される前記の動作保証温度範囲−20〜60℃と休止期間t=1〜50msにおけるウインドウ関数のエネルギー領域430〜860meVである。つまり、このウインドウ関数のエネルギー領域にエネルギー状態密度が広く分布していることが望ましい。
【0143】
解析の結果、スカンジウム(Sc)を含む酸化マグネシウム(MgO)は第1種の電子放出源であるエネルギー準位(浅いエネルギー準位と称す)と第2種の電子放出源である第1種の電子放出源より比較的深いエネルギー準位(深いエネルギー準位と称す)のトラップ準位で構成されていることが明らかである。また、第1種の電子放出源である浅いエネルギー準位と第2種の電子放出源である深いエネルギー準位では、第1種の電子放出源である浅いエネルギー準位のエネルギー状態密度が大きい。そのため、パネル表面温度が上昇するに従い、エネルギー状態密度が減少することとなり統計遅れ時間tは悪化する。
【0144】
一方、シリコン(Si)を含む酸化マグネシウム(MgO)は、第3種の電子放出源である深いエネルギー準位で構成される。そのため、パネル表面温度が上昇するに従い、統計遅れ時間は改善されることが明らかである。また、スカンジウム(Sc)の第2種の電子放出源とシリコン(Si)の第3種の電子放出源はほぼ同じ活性化エネルギーである。
【0145】
このことから、スカンジウム(Sc)とシリコン(Si)に起因する第1種、第2種及び第3種の電子放出源を組み合わせ、更にMgOからなる保護層に含まれる各元素の濃度を制御することにより、統計遅れ時間tと電圧変動ΔVAYを制御できることが明らかである。
【0146】
図16は本発明の実施の形態のプラズマディスプレイ装置について、前記の動作保証温度範囲−10〜60℃と最大リセット間隔、即ち休止期間t=1ms、16.67ms(=1/60s)、50ms(=1/20s)の駆動方法において、良好なアドレス放電を行うことができる酸化マグネシウム(MgO)に対するスカンジウム(Sc)とシリコン(Si)の濃度範囲をハッチングで表している。このハッチングした部分は、評価及び解析結果に加え、保護層の結晶性等に起因したプライミング電子放出源の生成率によるスカンジウム(Sc)とシリコン(Si)の濃度に対する特性の分布も加味している。
【0147】
ハッチングした部分の(1)の範囲は、スカンジウム(Sc)及びシリコン(Si)を含み、スカンジウム(Sc)の濃度が5質量ppm以上525質量ppm以下であり、シリコン(Si)の濃度が5質量ppm以上1000質量ppm以下であり、且つ、下記式(I)を満たすことを特徴とすることにより、休止期間t=1msにおいて良好な放電特性を得ることができる。
【0148】
y≦−3.5x+1845 (I)
但し、式(I)において、yはシリコン(Si)濃度、xはスカンジウム(Sc)濃度を示し、単位は質量ppmである。
【0149】
また、ハッチングした部分の(2)の範囲は、スカンジウム(Sc)の濃度が7質量ppm以上217質量ppm以下であり、シリコン(Si)の濃度が5質量ppm以上405質量ppm以下であり、且つ、下記式(II)を満たすことを特徴とすることにより、休止期間t=16.67ms(=1/60s)において良好な放電特性を得ることができる。
【0150】
−74x+887≦y≦−1.9x+418 (II)
但し、式(II)において、yはシリコン(Si)濃度、xはスカンジウム(Sc)濃度を示し、単位は質量ppmである。式(II)を満たす(2)の範囲では、休止期間t、即ち最大リセット間隔を1TVFに相当する16.67msとする駆動が可能であり、輝度とコントラスト向上のためにリセット回数を減らした駆動方法を実現することが出来る。これにより、高輝度、高コントラストなプラズマディスプレイ装置が得られる。
【0151】
さらに、ハッチングした部分の(3)の範囲は、スカンジウム(Sc)の濃度が15質量ppm以上200質量ppm以下であり、シリコン(Si)の濃度が5質量ppm以上284質量ppm以下であり、且つ、下記式(III)、(IV)を満たすことを特徴とすることにより、休止期間t=50ms(=1/20s)において良好な放電特性を得ることができる。
【0152】
−63x+1227≦y≦−1.5x+306 (III)
−1.5x+87≦y≦−1.5x+306 (IV)
但し、式(III)及び(IV)において、yはシリコン(Si)濃度、xはスカンジウム(Sc)濃度で、単位は質量ppmであり、スカンジウム(Sc)濃度xは式(III)において15≦x<19、式(IV)において19≦x≦200の範囲が適当である。式(III)及び(IV)を満たす(3)の範囲では、休止期間t、即ち最大リセット間隔を3TVFに相当する50msとする駆動が可能であり、輝度とコントラスト向上のためにリセット回数を大きく減らした駆動方法を実現することが出来る。これにより、更に高輝度、高コントラストなプラズマディスプレイ装置が得られる。
【0153】
以上から、本実施の形態において、保護層5のMgOに対するスカンジウム(Sc)の濃度を5質量ppm以上525質量ppm以下であり、シリコン(Si)の濃度を5質量ppm以上1000質量ppm以下とすることにより、−10〜60℃の広い温度範囲で最大リセット間隔を1〜50msとしたときに、高精細なPDPを低コストなシングルスキャン方式で駆動することができ、高温で動作させても電圧変動ΔVAYによる黒ノイズが実用上問題のないプラズマディスプレイ装置が得られる。
【0154】
本実施の形態では、不純物添加元素として、スカンジウム(Sc)及びシリコン(Si)を挙げている。この放電遅れ改善の効果は、MgOに不純物元素を添加したことによる伝導帯から0.6eV程度の深さの浅いところに存在するトラップ準位の形成により、プライミング電子が増大したためと考えられており、同様にトラップ準位を形成するその他、ランタン(La)、サマリウム(Sm)、イットリウム(Y)、水素(H)の内の少なくとも一種を含んだ不純物元素を含有させても構わない。
【0155】
以上、本発明者によってなされた発明を、実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明は、プラズマディスプレイパネル及びプラズマディスプレイ装置に関し、特に、高画質で高効率なプラズマディスプレイパネルに適用して有効で、映像機器産業、宣伝機器産業、医療機器産業、プラズマディスプレイ装置の製造業といった産業に幅広く利用されるものである。すなわち、広い温度範囲で放電応答性が良好なプラズマディスプレイ装置を提供することができ、さらには、放電応答性が良好なプラズマディスプレイ装置の製造方法を提供することができるため、高画質と低コストを両立する高品位なPDP表示装置への適用効果が大きい。
【符号の説明】
【0157】
1 前面基板
2、2a、2b 透明電極
3、3a、3b バス電極
4 誘電体層
5 保護層
6 背面基板
7 隔壁
8 誘電体層
9 アドレス電極(A電極)
10 蛍光体層
11 放電空間
12 サステイン電極(X電極)
13 スキャン電極(Y電極)
14 表示電極対
20 プラズマディスプレイパネル
21 駆動電源
22 映像源
23 プラズマディスプレイ装置
24 アドレス駆動回路
25 サステインパルス出力回路
26 スキャンパルス出力回路
27 駆動制御回路
28 信号処理回路
100、200 PDP
101 入力装置
102 計算装置
103 出力装置
2200 パーソナルコンピュータ
2201 CPU装置
2202 記憶装置
2204、2205 データ転送用結合バス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔をあけて対向配置された一対の基板と、前記一対の基板間に設けられ前記一対の基板間の間隔を保持する隔壁と、前記一対の基板間に形成された空間内に封入され放電により紫外線を発生する放電ガスと、前記一対の基板の対向面の少なくとも一方の上に配置された電極とを備え、前記電極を覆う誘電体層と、前記誘電体層を覆う保護層が配置されたプラズマディスプレイパネルであって、
前記保護層は、酸化マグネシウム(MgO)を主成分とし、不純物元素としてスカンジウム(Sc)及びシリコン(Si)を含み、前記スカンジウム(Sc)の濃度が5質量ppm以上525質量ppm以下であり、前記シリコン(Si)の濃度が5質量ppm以上1000質量ppm以下であり、且つ、前記スカンジウム(Sc)の濃度をx(単位は質量ppm)、前記シリコン(Si)の濃度をy(単位は質量ppm)とした場合に、y≦−3.5x+1845…(I)、を満たすことを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項2】
請求項1記載のプラズマディスプレイパネルにおいて、
前記保護層は、前記スカンジウム(Sc)の濃度が7質量ppm以上217質量ppm以下であり、前記シリコン(Si)の濃度が5質量ppm以上405質量ppm以下であり、且つ、−74x+887≦y≦−1.9x+418…(II)、を満たすことを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項3】
請求項1記載のプラズマディスプレイパネルにおいて、
前記保護層は、前記スカンジウム(Sc)の濃度が15質量ppm以上200質量ppm以下であり、前記シリコン(Si)の濃度が5質量ppm以上284質量ppm以下であり、且つ、−63x+1227≦y≦−1.5x+306…(III)、−1.5x+87≦y≦−1.5x+306…(IV)、(但し、式(III)において15≦x<19、式(IV)において19≦x≦200の範囲である)、を満たすことを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
前記放電ガスを封入する工程は、組成比10%以上となる量でXeを含んで構成されたガスを封入する段階を含むことを特徴とするプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のプラズマディスプレイパネルと、前記プラズマディスプレイパネルを駆動する駆動装置とからなることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−177019(P2010−177019A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18013(P2009−18013)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】