説明

プラズマディスプレイパネル用基板構体の製造方法

【課題】緑の蛍光体の劣化を抑えることが可能なPDP用基板構体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のPDP用基板構体の製造方法は、基板上に隔壁形成材料層を形成し、焼成前の隔壁形成材料層上に耐サンドブラスト性のレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとして前記隔壁形成材料層をサンドブラストにより隔壁形状にパターニングし、焼成することによって隔壁を形成する工程を備え、前記隔壁形成材料層は、前記レジストパターンに接する上層と、前記上層と前記基板の間の下層とを有し、前記下層及び前記上層は、前記下層のフタル酸エステルの重量濃度が前記上層よりも低くなるように形成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル用基板構体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図4は、従来のPDPの構成を示す斜視図である。PDPは、前面側基板構体1と、背面側基板構体2を貼り合わせた構造をしている。前面側基板構体1は、ガラス基板からなる前面側基板1a上に、透明電極3aとバス電極3bからなる表示電極3が配置され、表示電極3は、誘電体層4で覆われている。誘電体層4の上にさらに2次電子放出係数の高い酸化マグネシウム層からなる保護層5が形成されている。背面側基板構体2には、ガラス基板からなる背面側基板2a上に、表示電極と直交するようにアドレス電極6を配置し、かつアドレス電極6間には、発光領域を規定するために隔壁7が設けられ、アドレス電極6上の隔壁7で区分けされた領域には、赤、緑、青の蛍光体層8が形成されている。貼り合わせた前面側基板構体1と背面側基板構体2の内部に形成された気密な放電空間には、Ne−Xeガスからなる放電ガスが封入されている。なお、図示していないが、アドレス電極6は、誘電体層で被覆されており、隔壁7及び蛍光体層8は、この誘電体層上に設けられている。
【0003】
ここで、図5(a)〜(f)を用いて背面側基板構体2の一般的な製造方法について説明する。図5(a)〜(f)は、背面側基板構体2の製造工程を示す断面図である。
【0004】
まず、背面側基板2a上にアドレス電極6を形成し、次に、アドレス電極6を覆うように誘電体層9を形成し、図5(a)に示す構造を得る。
【0005】
次に、誘電体層9にガラスペーストを塗布し、塗布したガラスペーストを乾燥させることによって隔壁形成に用いる未焼成の隔壁形成材料層11を形成し、図5(b)に示す構造を得る。ガラスペーストの塗布は、例えば、スクリーン印刷、ロールコート印刷、ディップコート印刷、ダイコート印刷又はバーコート印刷等の方法によって行うことができる。ガラスペーストは、例えば特許文献1に示すようにBaO−ZnO−B23系ガラスのような無機酸化物ガラス粉末、Al23のような無機結晶質粉末フィラー、エチルセルロースのような熱可塑性樹脂、ブチルカルビトールアセテートのような溶剤を主成分としている。また、ガラスペーストにはフタル酸ジブチルのような可塑剤が添加されることもあり、この場合、可塑剤によって隔壁形成材料層11に柔軟性が付与され、これによって、隔壁形成材料層11とその上に形成されるレジストパターン13との密着性が高められる。
【0006】
次に、隔壁形成材料層11上に耐サンドブラスト性のレジストパターン13を形成し、図5(c)に示す構造を得る。
次に、レジストパターン13をマスクとして隔壁形成材料層11をサンドブラストにより隔壁形状にパターニングし、図5(d)に示す構造を得る。
次に、レジストパターン13を除去し、図5(e)に示す構造を得る。
次に、パターニングされた隔壁形成材料層11を焼成することによって隔壁7を形成し、図5(f)に示す構造を得る。
次に、隔壁7で区分けされた領域に蛍光体層8を形成し、背面側基板構体2の製造を完了する。
【特許文献1】特開2005−89289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、PDPは、上記の方法で形成された背面側基板構体2と、前面側基板構体1を貼り合せることによって製造されるが、本発明者が鋭意研究を行ったところ、このような方法で製造したPDPでは、放電を行った際に緑の蛍光体の劣化が速くなる場合があることが見出された。緑の蛍光体の劣化は、PDPの短寿命化に繋がるため、緑の蛍光体の劣化を抑える技術が望まれる。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、緑の蛍光体の劣化を抑えることが可能なPDP用基板構体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0009】
本発明のPDP用基板構体の製造方法は、基板上に隔壁形成材料層を形成し、焼成前の隔壁形成材料層上に耐サンドブラスト性のレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとして前記隔壁形成材料層をサンドブラストにより隔壁形状にパターニングし、焼成することによって隔壁を形成する工程を備え、前記隔壁形成材料層は、前記レジストパターンに接する上層と、前記上層と前記基板の間の下層とを有し、前記下層及び前記上層は、前記下層のフタル酸エステルの重量濃度が前記上層よりも低くなるように形成されることを特徴とする。
【0010】
本発明者は、鋭意研究の結果、PDPの放電空間内にフタル酸エステルが存在している場合に、緑の蛍光体の劣化速度が速くなるという現象を見出した(後記検証実験参照。)。次に、PDPの放電空間内へのフタル酸エステルの侵入経路について検討を行ったところ、放電空間内のフタル酸エステルは、空気中に存在しているフタル酸エステルが前面側基板構体及び背面側基板構体の表面に付着し、その状態で前面側基板構体と背面側基板構体が貼り合わされることによってフタル酸エステルが放電空間内に取り込まれるという考えに到った。そして、このような考えに基づき、PDPの放電空間内のフタル酸エステルの量を減らすには、空気中に存在しているフタル酸エステルの量を減らせばよいとの考えに到った。なお、PDP製造工場内の空気をサンプリングしたところ、サンプルからフタル酸エステルが比較的高い濃度で検出された。このことは、上記考えの正しさを裏付けていると考えられる。
【0011】
空気中に存在しているフタル酸エステルの量を減らすには、単純には、隔壁形成材料層のフタル酸エステルの重量濃度(以下、「フタル酸エステル濃度」と呼ぶ。)を低くすればよい。これによって、乾燥工程や焼成工程等で空気中に放出されるフタル酸エステルの量が減少するからである。しかし、フタル酸エステルは一般に可塑剤として隔壁形成材料層に含められるものであるから、フタル酸エステル濃度を単純に低くすると、隔壁形成材料層とレジストパターンとの密着性が低下し、レジストパターン形成時やサンドブラスト時にレジストパターンが剥れる等の不都合が生じ得る。そこで、本発明者は、隔壁形成材料層をレジストパターンに接する上層とその下の下層とで構成し、下層のフタル酸エステル濃度を上層よりも低くすることによって、レジストパターンとの接触部分での弾力性を確保しつつフタル酸エステルの放出量を低減することができることを見出し、本発明の完成に到った。
【0012】
一例では、前記隔壁形成材料層は、前記基板上に第1ガラスペーストを塗布し、塗布した第1ガラスペーストを乾燥させることによって前記下層を形成し、前記下層上に第2ガラスペーストを塗布し、塗布した第2ガラスペーストを乾燥させることによって前記上層を形成することによって形成され、第1ガラスペーストは、フタル酸エステルの重量濃度が第2ガラスペーストより低いことを特徴とする。従来の方法ではガラスペーストの乾燥工程でも多くのフタル酸エステルが空気中に放出されていたが、本実施形態では、隔壁形成材料層の下層を形成するための第1ガラスペーストのフタル酸エステル濃度が比較的小さいので、ガラスペーストの乾燥工程でのフタル酸エステルの放出量も低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。以下の実施形態では、3電極面放電型PDP用基板構体又は3電極面放電型PDPの製造方法を例にとって説明を進めるが、本発明は、これ以外の種類のPDP用基板構体又はPDPの製造方法にも適用可能である。
【0014】
1.PDP用基板構体の製造方法
図1(a)〜(g)は、本発明の一実施形態のPDP用基板構体の製造工程を示す断面図である。本実施形態では、背面側基板構体に隔壁が設けられる場合を例にとって説明を進めるが、前面側基板構体に隔壁が設けられる場合も本発明の範囲に含まれる。また、本実施形態では、アドレス電極を覆う誘電体層上に隔壁が形成される場合を例にとって説明を進めるが、表示電極を覆う誘電体層上の保護層上に隔壁が形成される場合も本発明の範囲に含まれる。
【0015】
本実施形態のPDP用基板構体の製造方法は、基板(以下の実施形態では、背面側基板2a上にアドレス電極6と、アドレス電極6を覆う誘電体層9が形成されたものが、これに相当する。)上に隔壁形成材料層11を形成し、焼成前の隔壁形成材料層11上に耐サンドブラスト性のレジストパターン13を形成し、このレジストパターン13をマスクとして隔壁形成材料層11をサンドブラストにより隔壁形状にパターニングし、焼成することによって隔壁7を形成する工程を備え、隔壁形成材料層11は、レジストパターン13に接する上層11bと、上層11bと前記基板の間の下層11aとを有し、下層11a及び上層11bは、下層11a中のフタル酸エステルの重量濃度が上層11bよりも低くなるように形成されることを特徴とする。
【0016】
以下、本実施形態に関連する種々の工程について説明する。
【0017】
1−1.アドレス電極及び誘電体層形成工程
まず、背面側基板2a上にアドレス電極6を形成し、さらにアドレス電極6を覆うように誘電体層9を形成し、図1(a)に示す構造を得る。
【0018】
基板2aとしては、ガラス、石英、セラミック等の基板や、これらの基板上に、絶縁膜、誘電体層、保護膜等の所望の構成物を形成した基板を用いることができる。
【0019】
基板2a上のアドレス電極6は、Ag、Au、Al、Cu、Cr及びそれらの積層体(例えばCr/Cu/Crの積層構造)等から構成される。アドレス電極6は、Ag、Auについては印刷法を用い、その他については蒸着法、スパッタ法等の成膜法とエッチング法を組み合わせることにより、所望の本数、厚さ、幅及び間隔で形成することができる。
【0020】
誘電体層9は、例えば、基板2a上に主成分として低融点ガラス粉末、樹脂及び溶剤を含有するガラスペーストを塗布し、塗布したガラスペーストを乾燥させ、その後焼成することによって形成することができる。誘電体層9は、主成分として低融点ガラス粉末と樹脂を含有するガラスシート材を基板2aに貼り合わせ、貼り合せたガラスシート材を焼成することによって形成してもよい。
【0021】
なお、この時点で焼成を行わずに、後工程で隔壁形成材料層11と一緒に焼成を行ってもよい。この場合、例えば、未焼成の誘電体層中の樹脂や可塑剤の含有量を多くすることによって、未焼成の誘電体層のサンドブラストレートを小さくしておく。
【0022】
1−2.隔壁形成材料層形成工程
次に、誘電体層9上に隔壁形成材料層11の下層11aを形成し、図1(b)に示す構造を得る。下層11aは、一例では、誘電体層9上に第1ガラスペーストを塗布し、塗布した第1ガラスペーストを乾燥させることによって形成することができる。
【0023】
次に、下層11a上に隔壁形成材料層11の上層11bを形成し、図1(c)に示す構造を得る。上層11bは、一例では、下層11a上に第2ガラスペーストを塗布し、塗布した第2ガラスペーストを乾燥させることによって形成することができる。
【0024】
第1ガラスペーストは、フタル酸エステル濃度が第2ガラスペーストよりも低いので、このような方法によって下層11a及び上層11bを形成すると、下層11a中のフタル酸エステル濃度を上層11bよりも低くすることができる。
【0025】
第1又は第2ガラスペーストの塗布方法は、特に限定されず、例えば、スクリーン印刷、ロールコート印刷、ディップコート印刷、ダイコート印刷又はバーコート印刷等の方法によって行うことができる。但し、後記のように、フタル酸エステルの放出量を低減するという観点から上層11bは薄く形成する方が好ましいので、第2ガラスペーストは、薄い層の形成に適しているスクリーン印刷又はバーコート印刷によって塗布することが好ましい。
【0026】
第1ガラスペースト及び第2ガラスペーストは、それぞれ、例えば、主成分として低融点ガラス粉末、フィラー、樹脂、溶剤及びフタル酸エステルを含有する。但し、第1ガラスペーストには、フタル酸エステルを実質的に含有させないことも可能である。
【0027】
低融点ガラス粉末、フィラー、樹脂及び溶剤の種類は、特に限定されず、例えば、特許文献1に記載されているものを用いることができる。一例では、低融点ガラス粉末は、BaO−ZnO−B23系ガラスのような無機酸化物ガラス粉末からなり、フィラーは、Al23のような無機結晶質粉末からなり、樹脂は、エチルセルロースやアクリル樹脂のような熱可塑性樹脂からなり、溶剤は、テルピネオール、ブチルカルビトールアセテート又は酢酸ブチル等からなる。また、第1ガラスペースト又は第2ガラスペーストにはソルビタンセスキオレートのような分散剤が添加されてもよい。
【0028】
フタル酸エステルは、通常、可塑剤として機能する。フタル酸エステルの種類は、特に限定されない。フタル酸エステルは、好ましくは、フタル酸ジエステルである。フタル酸エステルは、例えば、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソオクチル、フタル酸ブチルベンジル及びフタル酸ジカプリルのうちの一種、又は二種以上の混合物からなる。第1ガラスペーストのフタル酸エステルと第2ガラスペーストのフタル酸エステルは、同じであっても異なっていてもよい。
【0029】
第2ガラスペーストのフタル酸エステル濃度は、特に限定されないが、好ましくは3wt%以上10wt%以下である。第2ガラスペーストのフタル酸エステル濃度は、例えば、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5又は10wt%である。第2ガラスペーストのフタル酸エステル濃度は、ここで例示した何れか2つの数値の間の範囲内であってもよい。
【0030】
第2ガラスペーストのフタル酸エステル濃度が高くなると第2ガラスペーストの乾燥膜の強度が弱くなるが、フタル酸エステル濃度が10wt%以下の場合、サンドブラストによるパターニングに耐える程度の強度が確保できる。また、第2ガラスペーストのフタル酸エステル濃度が3wt%以上の場合、隔壁形成材料層11の上層11bと、上層11bの上に形成されるレジストパターン13との密着性を十分に確保でき、かつ第1ガラスペーストと第2ガラスペーストとの間のフタル酸エステル濃度の差を大きくしてフタル酸エステルの放出量を大きく低減させやすいので、本発明を適用するメリットが大きい。
【0031】
第1ガラスペーストのフタル酸エステル濃度は、第2ガラスペーストよりも低く、好ましくは0wt%以上5wt%以下である。第1ガラスペーストのフタル酸エステル濃度は、例えば、0、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5又は5wt%である。第1ガラスペーストのフタル酸エステル濃度は、ここで例示した何れか2つの数値の間の範囲内であってもよい。
【0032】
フタル酸エステルの放出量低減という観点からはフタル酸エステル濃度は、実質的に0wt%にすることが好ましいが、この場合、下層11aが脆くなりすぎることがある。下層11aの脆性を改善するためには、少量のフタル酸エステルを第1ガラスペーストに含有させることが好ましい。但し、フタル酸エステルの放出量を十分に低減するという観点からは、フタル酸エステル濃度は、5wt%にすることが好ましい。
【0033】
第1及び第2ガラスペーストを塗布後、これらを乾燥させるが、乾燥工程でフタル酸エステルの一部がガラスペーストから空気中に放出される。本実施形態では、第1ガラスペーストのフタル酸エステル濃度が第2ガラスペーストよりも低いので、乾燥工程でのフタル酸エステルの放出量を低減することができる。
【0034】
ここまでは、ガラスペーストを塗布し、塗布したガラスペーストを乾燥させることによって隔壁形成材料層の下層11a及び上層11bを形成する方法を例にとって説明を進めたが、下層11a及び上層11bのうちの何れか一方又は両方は、上記のガラスペーストの成分から溶剤を除いた成分からなるガラスシート材を基板に貼り付けることによって形成してもよい。ガラスシート材を用いて下層11a又は上層11bを形成する場合、乾燥工程は必要でなく、乾燥工程でのフタル酸エステルの放出量低減という効果は得られないが、後記の焼成工程でのフタル酸エステルの放出量低減の効果が得られる。また、ガラスペースト中のフタル酸エステルについて述べた内容は、下層11a又は上層11b中のフタル酸エステルについても基本的に当てはまる。
【0035】
下層11a及び上層11bの厚さは、特に限定されないが、フタル酸エステルの放出量を低減するという観点から上層11bは、できるだけ薄い方が好ましい。但し、薄くしすぎると均一に形成することが難しくなるので、この観点からは上層11bはある程度の厚さで形成することが好ましい。このような観点から、上層11bの厚さは、隔壁形成材料層11の厚さの5%以上50%以下にすることが好ましい。上層11bの厚さは、例えば、隔壁形成材料層11の厚さの5、10、15、20、25、30、35、40、45又は50%であり、ここで例示した何れか2つの数値の間の範囲内であってもよい。
【0036】
「下層11aの厚さ」、「上層11bの厚さ」、「隔壁形成材料層11の厚さ」は、溶媒を実質的に含まない状態(ガラスペーストの乾燥工程後の状態又はガラスシート材の状態)での厚さをいう。但し、第1及び第2ガラスペーストの塗布厚の比と、ガラスペーストの乾燥工程後の下層11a及び上層11bの厚さの比は、同程度になると考えられるため、下層11aと上層11bの厚さの比や、上層11bと隔壁形成材料層11の厚さの比に関係する上記事項は、第1及び第2ガラスペーストの塗布厚の比や、第2ガラスペーストの塗布厚と第1及び第2ガラスペーストの塗布厚の合計の比についても当てはまる。
【0037】
ここでは、隔壁形成材料層11が2層構成である場合を例にとって説明を進めたが、隔壁形成材料層11は、3層以上で構成してもよい。この場合、レジストパターン13と接する層が「上層」であり、それ以外の全ての層が「下層」である。従って、「下層」は、複数層からなる場合があるが、この場合、「下層のフタル酸エステル濃度」は、複数層のうち、フタル酸エステル濃度が最も低い層のフタル酸エステル濃度を指す。複数層の下層を形成するための複数種類のガラスペーストについても同様である。
【0038】
1−3.レジストパターン形成工程
次に、上層11b上に耐サンドブラスト性のレジストパターン13を形成し、図1(d)に示す構造を得る。
【0039】
レジストパターン13は、例えば、上層11b上にフォトレジストを塗布するか、ドライフィルムレジストを貼り付け、これをフォトマスクを介して露光し、現像することによって形成することができる。
本実施形態では、上層11bは、可塑剤として機能するフタル酸エステルの濃度が比較的高いので、上層11bとレジストパターン13との間の密着性を高くしやすい。
【0040】
1−4.サンドブラスト工程
次に、レジストパターン13をマスクとして隔壁形成材料層11をサンドブラストにより隔壁形状にパターニングし、図1(e)に示す構造を得る。
【0041】
サンドブラストの方法は、特に限定されず、一般的な方法によって行うことができる。本実施形態では、隔壁形成材料層11の下層11aのフタル酸エステル濃度が比較的低くなっているので、下層11aがサンドブラストによって削られやすい。従って、サンドブラストを比較的短時間で行うことができる。
【0042】
パターニングによって形成される隔壁形状は、限定されず、例えば、ストライプ形、ミアンダ形、格子形又はラダー形にすることができる。
【0043】
パターニング後にレジストパターン13を除去し、図1(f)に示す構造を得る。但し、この工程を省略し、次の焼成工程でレジストパターン13を燃焼又は気化させて除去してもよい。
【0044】
1−5.焼成工程
次に、パターニングされた隔壁形成材料層11を焼成することによって隔壁7を形成し、図1(g)に示す構造を得る。
【0045】
焼成の方法は、特に限定されず、一般的な方法によって行うことができる。焼成の温度は、例えば、550〜590℃である。焼成工程では、隔壁形成材料層11に含まれているフタル酸エステルが燃焼又は気化されるが、本実施形態では、隔壁形成材料層11の下層11aのフタル酸エステル濃度が比較的低くなっているので、空気中に放出されるフタル酸エステルの量を低減することができる。
【0046】
1−6.蛍光体層形成工程
次に、隣接する隔壁7間の溝内に、蛍光体層(図示せず)を形成し、本実施形態に係るPDP用基板構体の製造を完了する。蛍光体層は、例えば、蛍光体粉末とバインダとを含む蛍光体ペーストを隣接する隔壁7間の溝内にスクリーン印刷、又はディスペンサーを用いた方法などで塗布し、これを各色(R、G、B)毎に繰り返した後、焼成することにより形成することができる。
【0047】
2.PDPの製造方法
上記実施形態の方法で製造した背面側基板構体と、別途作製した、表示電極、誘電体層及び保護層等が設けられた前面側基板構体とを貼り合わされて内部に気密な放電空間を有するパネルを形成する。前面側基板構体と背面側基板構体は、表示電極とアドレス電極が直交するように貼り合わされる。
【0048】
前面側基板構体と背面側基板構体の表面には、貼り合わせの前に、空気中に存在しているフタル酸エステルが付着しており、その状態で前面側基板構体と背面側基板構体が貼り合わされることによって放電空間内にフタル酸エステルが取り込まれる。本実施形態によれば、空気中のフタル酸エステル濃度を低減することができるので、前面側基板構体と背面側基板構体の表面に付着するフタル酸エステルの量を低減することができ、従って、放電空間内に取り込まれるフタル酸エステル量を低減することができる。フタル酸エステルは、後の検証実験で示すように、緑の蛍光体の劣化を促進するので、放電空間内に取り込まれるフタル酸エステル量を低減することによって、緑の蛍光体の劣化を抑制することができる。
【0049】
次に、パネルの放電空間内を排気し、その後、ネオンやキセノンなどからなる放電ガスを放電空間内に導入することによって、PDPを製造する。このPDPは、前面側基板構体と背面側基板構体の間に表示電極とアドレス電極との交点で定まる複数の放電セルを有する。なお、前面側基板構体と背面側基板構体の表面に付着したフタル酸エステルの少なくとも一部は、放電空間内の排気によっては完全には除去されない。
【0050】
以上の実施形態中に含まれる種々の特徴は、単独で又は組み合わせて、本発明に採用することができる。
【0051】
3.検証実験
以下の方法によって、フタル酸エステルが緑の蛍光体の劣化を促進することの検証実験を行った。
【0052】
まず、表示電極、誘電体層及び保護層(MgO層)を有する前面側基板構体の保護層上に、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジオクチル(DOP)、メタクリル酸メチル(MMA)、ブチルカルビトールアセテート(BCA)、酢酸ブチルからなる試料をそれぞれ滴下し、150℃で30分間乾燥させた。乾燥工程では、滴下された試料は、気化し、気化された試料が保護層と接触し、保護層に付着すると考えられる。従って、乾燥後の保護層上には、気化されずに保護層上に残渣として残った試料と、気化後に保護層と接触して保護層に付着した試料とが存在していると考えられる。
【0053】
次に、アドレス電極、誘電体層、隔壁及び蛍光体層を有する背面側基板構体を準備し、この背面側基板構体と、上記乾燥工程後の前面側基板構体とを貼り合わせ、その後、排気及び放電ガス導入を行ってPDPを作製した。蛍光体層の蛍光体は、赤(Y,Gd)BO3:Eu、緑Zn2SiO4:Mn、青BaMgAl1017:Euとした。
【0054】
作製したPDPを180V、45kHzで点灯し、1時間後、10時間後、40時間後、100時間後及び200時間後の色度を測定した。色度は、負荷率10%の白色表示をトプコン社製輝度計BM7にて測定した。この測定によって得られたCIE表色系での色度座標を図2(a)〜(c)及び図3(d)〜(f)に示す。また、図2(a)〜(c)及び図3(d)〜(f)には、点灯電圧を140、150、160、170、190、200、210Vに変えて同様の実験を行った結果も併せて示した。全ての点灯電圧での結果が同じ色度座標変化を示しており、色度座標変化が点灯電圧には依存しないことが分かる。
【0055】
図2(a)は、試料の滴下がない場合の結果であり、点灯時間が長くなるに従って色度座標が右上に向かっている。この結果は、青の発光が弱くなったことを示しているが、一般に、青の蛍光体が最も劣化しやすいので、予想された結果である。
【0056】
図2(b)及び(c)は、それぞれ、フタル酸エステルであるDBP及びDOPを滴下した場合の結果であり、点灯時間が長くなるに従って色度座標が右下に向かっている。この結果は、青の発光と緑の発光の両方が弱くなったことを示している。青の発光は、何も滴下しない場合(図2(a)の場合)でも劣化しやすいので、図2(b)及び(c)の結果は、フタル酸エステルであるDBP及びDOPによって緑の蛍光体の劣化が促進されたことを示している。
【0057】
図3(d)は、MMAを滴下した場合の結果であり、点灯時間が40時間までは点灯時間が長くなるに従って色度座標がほぼ右上に向かっており、図2(a)とほぼ同様の傾向を示している。また、点灯時間が40時間を超えてからは、色度座標がゆるやかに右下に向かっている。この結果は、MMAは、緑の蛍光体の劣化をいくらか促進するが、劣化の速度は、図2(b)や図2(c)の場合よりもはるかに緩やかであり、MMAが緑の蛍光体の劣化を促進する度合いは、フタル酸エステルの場合よりはるかに小さいことを示している。
【0058】
図3(e)〜(f)は、それぞれ、BCA及び酢酸ブチルを滴下した場合の結果であり、点灯時間が長くなるに従って色度座標がほぼ右上に向かっており、図2(a)とほぼ同様の傾向を示している。これらの結果は、BCA及び酢酸ブチルによっては、緑の蛍光体の劣化がほとんど促進されないことを示している。
【0059】
以上より、フタル酸エステルによって緑の蛍光体の劣化が大きく促進されることが検証された。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】(a)〜(g)は、本発明の一実施形態のPDP用基板構体の製造工程を示す断面図である。
【図2】(a)〜(c)は、それぞれ、試料滴下なし、DBPを滴下した場合、DOPを滴下した場合の、PDPの白色表示の、長時間点灯による色度座標変化を示すグラフである。
【図3】(d)〜(f)は、それぞれ、MMA、BCA及び酢酸ブチルを滴下した場合の、PDPの白色表示の、長時間点灯による色度座標変化を示すグラフである。
【図4】従来のPDPの構成を示す斜視図である。
【図5】(a)〜(f)は、従来のPDPの背面側基板構体の製造工程を示す断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1:前面側基板構体 1a:前面側基板 2:背面側基板構体 2a:背面側基板 3:表示電極 3a:透明電極 3b:バス電極 4:誘電体層 5:保護層 6:アドレス電極 7:隔壁 8:蛍光体層 9:誘電体層 11:隔壁形成材料層 11a:隔壁形成材料層の下層 11b:隔壁形成材料層の上層 13:レジストパターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に隔壁形成材料層を形成し、焼成前の隔壁形成材料層上に耐サンドブラスト性のレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとして前記隔壁形成材料層をサンドブラストにより隔壁形状にパターニングし、焼成することによって隔壁を形成する工程を備え、
前記隔壁形成材料層は、前記レジストパターンに接する上層と、前記上層と前記基板の間の下層とを有し、前記下層及び前記上層は、前記下層のフタル酸エステルの重量濃度が前記上層よりも低くなるように形成されることを特徴とするプラズマディスプレイパネル用基板構体の製造方法。
【請求項2】
前記隔壁形成材料層は、前記基板上に第1ガラスペーストを塗布し、塗布した第1ガラスペーストを乾燥させることによって前記下層を形成し、前記下層上に第2ガラスペーストを塗布し、塗布した第2ガラスペーストを乾燥させることによって前記上層を形成することによって形成され、
第1ガラスペーストは、フタル酸エステルの重量濃度が第2ガラスペーストより低いことを特徴とする請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル用基板構体の製造方法。
【請求項3】
前記上層は、その厚さが、前記隔壁形成材料層の厚さの5%以上50%以下である請求項1又は2に記載のプラズマディスプレイパネル用基板構体の製造方法。
【請求項4】
第2ガラスペーストは、フタル酸エステルの重量濃度が3wt%以上10wt%以下であり、第1ガラスペーストは、フタル酸エステルの重量濃度が0wt%以上5wt%以下である請求項2に記載のプラズマディスプレイパネル用基板構体の製造方法。
【請求項5】
前記フタル酸エステルは、フタル酸ジオクチル又はフタル酸ジブチルからなる請求項1から4の何れか1つに記載のプラズマディスプレイパネル用基板構体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−153116(P2008−153116A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−341257(P2006−341257)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(599132708)日立プラズマディスプレイ株式会社 (328)
【Fターム(参考)】