説明

プラズマ処理装置の制御方法

【課題】稼動状態を維持したまま処理室内から付着物を除去することが可能なプラズマ処理装置およびその制御方法を提供する。
【解決手段】ウェハに対するプラズマ処理が開始される直前に下部電極に対してオーバーシュート電圧が印加される。このオーバーシュート電圧によって,下部電極の周辺部に付着し堆積した付着物が除去されるため,プラズマ点火直後の処理室内における異常放電の発生が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,被処理体,例えば半導体ウェハに対して,エッチング処理などのプラズマ処理を施すプラズマ処理装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,半導体製造工程においては,被処理体,例えば半導体ウェハ(以下,「ウェハ」という)の表面に微細加工を施すために,処理室内に導入された反応性ガス(処理ガス)の高周波グロー放電を利用したプラズマ処理装置が広く使用されている。その中でも処理室内の上下に電極を対向配置したいわゆる平行平板型のプラズマ処理装置は,大口径のウェハの処理に適している。
【0003】
平行平板型プラズマエッチング処理装置は,処理室内に,互いに平行に昇降可能に配置された上部電極と下部電極を備える。このうち下部電極は,ウェハの載置台としての役割も果たす。上部電極と下部電極にはそれぞれ周波数を異にする高周波電力が印加され,ウェハが載置された下部電極と上部電極との間にグロー放電が生じ,処理室内に導入された反応性ガスがプラズマ化する。プラズマ中のイオンは,両電極間に生じる電位差によってウェハの表面に衝突し,この結果,ウェハ表面に形成されている膜(例えば絶縁膜)がエッチングされる。
【0004】
下部電極の外周縁部には,下部電極の上面に載置されたウェハを囲むフォーカスリングが配置され,上部電極の外周縁部にはシールドリングが設けられる。これらの二つのリングによって,上下両電極間で発生したプラズマがウェハに集束し,ウェハ面内でのプラズマ密度が均一化する。
【0005】
ところで,半導体の製造工程において,プラズマ処理装置の処理室内には,成膜用あるいは膜除去用として種々の反応性ガスが導入される。こららの反応性ガスは,それぞれの目的に応じて完全に反応することが好ましいが,一部は未反応のまま処理室外に排出され,また一部は不要な反応生成物を発生させてしまう。そして,この不要な反応生成物は,処理室内の様々な部位に付着してしまう。以下,処理室内に付着した不要な反応生成物を「付着物」と称する。
【0006】
プラズマ処理装置の処理室内を洗浄することによって,付着物は処理室内から除去されるが,プラズマ処理装置が稼動し始め,ウェハに対するプラズマ処理が繰り返し行われると,処理室内に新たな付着物が現れ,この付着物は次第に成長していく。
【0007】
特に,上下の電極の周囲部,例えばフォーカスリング等に付着物が堆積すると,プラズマ点火直後に付着物に起因する異常放電が発生し,以後の成膜や膜除去が適切に行えなくなる可能性がある。また,プラズマ処理装置全体が緊急停止し,システム側から処理室内の洗浄が要求されるおそれもある。
【0008】
このような付着物の問題に関して,下記特許文献1に記載の発明は,電極部と電極周囲部とがベースプレート上に固定されたことを特徴とするECR−CVD装置の試料台を提供している。
【0009】
例えば,特許文献1に記載の発明によれば,電極周囲部は,酸化アルミニウム等で形成され,さらにベースプレート上に固定されているため,所定の剛性,耐酸性,および絶縁性を有する。したがって,電極周囲部を繰り返し洗浄して,常に付着物のない状態に保つことが可能となる。また,電極周囲部の洗浄にかかる時間の短縮化も実現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−58028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら,従来技術によれば,電極周囲部から付着物を除去することを目的とした洗浄作業が容易化されるものの,付着物を除去するためには,依然としてプラズマ処理装置を停止させなければならなかった。大口径のウェハに対して,多層構造を形成する今日の半導体製造工程においては,付着物が成長する速度は従来に比べて早まる傾向にあり,付着物を除去するために稼動状態にあるプラズマ処理装置をその都度停止させていたのでは,スループットが大きく低下してしまう。
【0012】
本発明は,このような問題に鑑みてなされたものであり,その目的は,稼動状態を維持したまま処理室内から付着物を除去することが可能な新規かつ改良されたプラズマ処理装置およびその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために,本発明のある観点によれば,処理室内に配置された第1電極と,処理室内において第1電極に対向する位置に配置された第2電極と,第2電極の外周縁部に、被処理体を囲むように配置されたフォーカスリングと,第1電極に第1電力を供給する第1電力源を有する第1電力系と,第2電極に第2電力を供給する第2電力源を有する第2電力系と,第1電力系及び第2電力系を制御する制御部と,を備えたプラズマ処理装置の制御方法が提供される。この制御方法は,第2電極状に被処理体を配置している状態で,プラズマ点火後であってプラズマ処理を開始する前の所定期間,被処理体のプラズマ処理中に第2電極に印加する電圧よりも高い処理前電圧が第2電極に印加されるように,第1電力系及び第2電力系の少なくともいずれかを制御することを特徴としている。
【0014】
第2電極に対して,適切な大きさの処理前電圧を印加することによって,処理室内,特に第2電極周辺に付着堆積した付着物を除去することが可能となる。第2電極に対する処理前電圧の印加タイミングを被処理体に対するプラズマ処理が開始される前に設定すれば,処理室内に付着物がない状態で被処理体に対するプラズマ処理を行うことが可能となる。
【0015】
第1電源側のインピーダンスと第1電極側のインピーダンスを整合させる第1整合器,および第2電源側のインピーダンスと第2電極側のインピーダンスを整合させる第2整合器の両方またはいずれか一方のリアクタンスを調整すれば,第2電極に印加する処理前電圧を容易に生成することができる。また,第1電源から第1電力が出力されるタイミングと第1電力の電力レベル,および第2電源から第2電力が出力されるタイミングと第2電力の電力レベルを調整することによって,第2電極に印加する処理前電圧を生成するようにしてもよい。
【0016】
かかる制御方法によれば,プラズマ処理準備工程において形成されるプラズマによって,処理室内,特に第2電極周辺に付着堆積した付着物をスパッタリング除去することが可能となる。プラズマ処理準備工程は,被処理体に対する所定のプラズマ処理を行うためのプラズマ処理工程の前に行われるため,処理室内に付着物がない状態で被処理体に対するプラズマ処理を行うことが可能となる。
【0017】
プラズマ処理準備工程の所定期間では,第2電極に対して,プラズマ処理工程中に第2電極に印加される電圧よりも高い処理前電圧が印加される。この処理前電圧によって,第2電極周辺から付着物が確実に除去されることになる。
【発明の効果】
【0018】
以上本発明によれば,第2電極に対してオーバーシュート電圧が印加されるため,処理室内,特に第2電極周辺から付着物を除去することが可能となる。第2電極に対するオーバーシュート電圧の印加タイミングを被処理体に対するプラズマ処理が開始される前に設定すれば,プラズマ処理の開始時における異常放電の発生が防止される。また,プラズマ処理中において,プラズマの均一性が確保される。さらに,プラズマ処理装置のスループットの向上も実現する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施の形態にかかるプラズマ処理装置の構成を示すブロック図。
【図2】同実施の形態にかかるプラズマ処理装置が備えるサセプタおよびその周辺部の構成を示す断面図。
【図3】一般的なプラズマ処理装置における第1高周波電力,第2高周波電力,および下部電極電圧の波形図。
【図4】本発明の第1の実施の形態にかかるプラズマ処理装置における第1高周波電力,第2高周波電力,および下部電極電圧の波形図。
【図5】一般的なプラズマ処理装置におけるインピーダンス整合の軌跡を示すスミスチャート。
【図6】本発明の第1の実施の形態にかかるプラズマ処理装置におけるインピーダンス整合の軌跡を示すスミスチャート。
【図7】サセプタ(下部電極)の電圧をオーバーシュートさせない場合と,オーバーシュートさせた場合の異常放電の発生頻度を示す説明図。
【図8】サセプタ(下部電極)に印加されるオーバーシュート電圧を示す波形図。
【図9】異常放電の抑制効果とオーバーシュート量との関係を示す説明図。
【図10】本発明の第2の実施の形態にかかるプラズマ処理装置に備えられた制御部が出力する制御信号の波形図。
【図11】同実施の形態にかかるプラズマ処理装置における第1高周波電力,第2高周波電力,および下部電極電圧の波形図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら,本発明にかかるプラズマ処理装置およびその制御方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書および図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態にかかるプラズマ処理装置100の構成を図1に示す。プラズマ処理装置100は,導電性材料,例えばアルミニウムから成る処理容器(図示せず)を有している。この処理容器内には,被処理体であるウェハWに対して所定のプラズマ処理が施される処理室110が形成されている。
【0022】
処理室110内には,上部電極(第1電極)120とサセプタ130が対向配設されている。処理室110内下方に位置する略円柱形のサセプタ130は,プラズマ処理中にウェハWが載置される載置台として用いられるとともに,処理室110の上方に設けられた上部電極120と一対を成してグロー放電を生じさせ,処理室110内に導入された反応性ガスをプラズマ化させる下部電極(第2電極)として機能する。上部電極120とサセプタ130の間に形成されたプラズマPによって,ウェハWに対してエッチング等の所定のプラズマ処理が行われる。
【0023】
上部電極120は,サセプタ130と,例えば5mm〜150mmの空間をもって配置されている。なお,上部電極120とサセプタ130は,それぞれ独立して上下動が可能であり,これらの間隔はプラズマ処理の内容に応じて,かつプラズマの均一性が得られるように調整される。
【0024】
次に,プラズマ処理装置100に備えられた高周波電力系について説明する。プラズマ処理装置100は,上部電極120に第1高周波電力147を供給するための第1電力系と,サセプタ130に第2高周波電力157を供給するための第2電力系の2つの電力系を有する。
【0025】
第1電力系には,例えば60MHzの第1高周波電力147を出力する第1高周波電源141,負荷側のインピーダンスを第1高周波電源141側のインピーダンスに整合させる第1整合器143,およびサセプタ130に接続されたハイパス・フィルタ(HPF)145が属する。第1整合器143は,キャパシタンスの変更が可能な可変キャパシタC1Uおよび可変キャパシタC2Uから構成されている。可変キャパシタC1Uは,第1高周波電力147の伝送路とグランドとの間に接続されており,可変キャパシタC2Uは,第1高周波電力147の伝送路に直列に接続されている。
【0026】
一方の第2電力系には,例えば2MHzの第2高周波電力157を出力する第2高周波電源151,負荷側のインピーダンスを第2高周波電源151側のインピーダンスに整合させる第2整合器153,および上部電極120に接続されたローパス・フィルタ(LPF)155が属する。第2整合器153は,インダクタンスの変更が可能な可変インダクタL1Lおよび可変インダクタL2L,並びに,キャパシタンス一定のキャパシタC1LおよびキャパシタC2Lから構成されている。可変インダクタL1L,可変インダクタL2L,キャパシタC2Lは,第2高周波電源151側から順に,第2高周波電力157の伝送路に直列に接続されている。また,キャパシタC1Lは,可変インダクタL1Lと可変インダクタL2Lの接続ラインとグランドとの間に接続されている。
【0027】
第1高周波電源141から出力された第1高周波電力147は,第1整合器143を経由して上部電極120に供給され,第2高周波電源151から出力された第2高周波電力157は,第2整合器153を経由してサセプタ130に供給される。これによって,処理室110に導入された反応性ガスがプラズマ化する。
【0028】
上部電極120とサセプタ130の間にプラズマPが生じると,上部電極120からサセプタ130へ第1高周波電力147が流れ,逆にサセプタ130から上部電極120へ第2高周波電力157が流れる。サセプタ130へ貫流した第1高周波電力147は,HPF145を経由してグランドへ落とされ,上部電極120へ貫流した第2高周波電力157は,LPF155を経由してグランドへ落とされる。サセプタ130にHPF145が接続されているため,第2電力系を構成する第2整合器153および第2高周波電源151への第1高周波電力147の流れ込みが防止され,第2電力系の動作の安定化が図られる。同様に,上部電極120にLPF155が接続されているため,第1電力系を構成する第1整合器143および第1高周波電源141への第2高周波電力157の流れ込みが防止され,第1電力系の動作の安定化が図られる。
【0029】
なお,図1に示した第1整合器143および第2整合器153の内部回路は一例であり,プラズマ処理装置100の構成(特に高周波電力系の構成)またはプロセス条件等に応じて,キャパシタやインダクタの接続関係およびそれぞれの実装数を変更することが好ましい。
【0030】
プラズマ処理装置100は,第1電力系と第2電力系を制御する制御部160を備えている。この制御部160は,第1高周波電源141,第1整合器143,第2高周波電源151,および第2整合器153に対して,所定の少なくとも以下の制御を行う。以下,制御部160が行う制御の具体例を説明する。
【0031】
制御部160は,第1高周波電源141から上部電極120に対して出力される第1高周波電力147の出力周波数,出力タイミング,およびその電力レベルを制御する。
【0032】
また,制御部160は,第1高周波電源141側のインピーダンスが例えば50Ωであれば,第1整合器143の入力端子143−1から負荷側を見たときのインピーダンスが50Ωとなるように,第1整合器143に属する可変キャパシタC1Uと可変キャパシタC2Uのキャパシタンスを調整する。
【0033】
さらに,制御部160は,第2高周波電源151からサセプタ130に対して出力される第2高周波電力157の出力周波数,出力タイミング,およびその電力レベルを制御する。
【0034】
また,制御部160は,第2高周波電源151側のインピーダンスが例えば50Ωであれば,第2整合器153の入力端子153−1から負荷側を見たときのインピーダンスが50Ωとなるように,第2整合器153に属する可変インダクタL1Lと可変インダクタL2Lのインダクタンスを調整する。
【0035】
なお,図1には示していないが,第1整合器143と上部電極120との間に,上部電極120に供給される第1高周波電力147に関する情報(例えば,第1高周波電力147の周波数,その電力レベル,および上部電極120に対して第1高周波電力147が印加された実際のタイミング)を検出する第1検出器を備え,この第1検出器によって検出された情報を制御部160へフィードバックさせるようにしてもよい。この構成によって,制御部160は,第1高周波電源141と第1整合器143の動作をより高精度に制御することが可能となる。また,第2整合器153とサセプタ130との間に第2検出器を備えることによって,第2高周波電源151および第2整合器153の制御に関して同様の効果が得られる。
【0036】
次に,処理室110内に備えられた下部電極(第2電極)としてのサセプタ130とその周辺部について図2を参照しながら詳細に説明する。
【0037】
上述のように,下部電極(第2電源)として機能するサセプタ130には第2整合器153を介して第2高周波電源151が接続されている。
【0038】
サセプタ130の上面には静電チャック170が配置されている。この静電チャック170の電極板170aには直流電源172が接続されている。このような静電チャック170によれば,高真空下で直流電源172から電極板170aに高電圧を印加することにより,ウェハWを静電吸着することができる。
【0039】
サセプタ130の外周縁部には,静電チャック170の上面に載置されたウェハWを囲むフォーカスリング180が配置されている。このフォーカスリング180は,導電体である。また,フォーカスリング180は,絶縁体であるカバーリング182によって囲まれている。
【0040】
ここで,一般的なプラズマ処理動作について説明する。プラズマ処理の対象であるウェハWは,搬送手段(図示せず)によって図1,図2に示した処理室110に搬入される。ウェハWは,待機位置まで下降しているサセプタ130上の静電チャック170に載置される。静電チャック170に対して高圧直流電源172から直流電圧が印加されると,ウェハWが静電チャック170上に吸着保持される。
【0041】
サセプタ130は,上部電極120との間隔が15〜45mmの範囲に収まる位置まで上昇する。その後,処理室110内は15〜800mTorrの範囲に収まる程度の所定の圧力に調整される。そして,処理室110内が所定の圧力に達したところで,反応性ガスが処理室110内に導入される。
【0042】
次に,制御部160からの制御信号に従い,第1高周波電源141は第1高周波電力147を出力し,第2高周波電源151は第2高周波電力157を出力する。第1高周波電力147が上部電極120に印加され,第2高周波電力157がサセプタ130に印加されると,上部電極120とサセプタ130との間にグロー放電が生じプラズマPが点火する。点火したプラズマPが安定したところで,ウェハWに対するエッチング等の所定のプラズマ処理が開始される。
【0043】
プラズマ処理装置100によるプラズマ処理が開始されると,フォーカスリング180はウェハWにプラズマが集束するように機能するが,もしフォーカスリング180がなければ,プラズマが処理室110の内壁側に拡散してしまい,上部電極120およびサセプタ130の各周縁部でプラズマ密度が低下してしまう。このフォーカスリング180により,ウェハWの中央部から周縁部に亘り,プラズマ密度を均一にすることが可能となる。この結果,プラズマの不均一性に起因するウェハWの周縁部における異常放電が防止される。
【0044】
ところが上述のように,サセプタ130の周辺部,例えばプラズマが形成される領域に近いフォーカスリング180とウェハWの間の部位S1に付着物D1が存在すると,プラズマ点火直後に上部電極120とこの付着物D1の間で異常放電が生じるおそれがある。また,付着物が導電体であるフォーカスリング180と絶縁体であるカバーリング182との間の部位S2に付着物D2が堆積した場合は,上部電極120との間での異常放電に加えて,ウェハW上のプラズマ密度を不均一にしてしまう可能性もある。この現象は,プラズマ処理後のウェハWの品質を低下させるだけでなく,システムダウンの原因となり,スループット低下に繋がるものである。
【0045】
この点,第1の実施の形態にかかるプラズマ処理装置100は,処理室110内,特に下部電極(第2電極)であるサセプタ130の周辺部(例えば,部位S1,S2)から付着物を除去する機能を有しており,かかる機能に基づいてこの付着物を除去するための動作を行う。
【0046】
以下,プラズマ処理装置100における付着物除去機能に関する構成,および,付着物を除去するためのプラズマ処理装置100の制御方法について,一般的なプラズマ制御装置およびその制御方法と比較しながら説明する。
【0047】
第1の実施の形態にかかるプラズマ処理装置100およびその制御方法によれば,ウェハWに対するエッチング処理等の所定のプラズマ処理を行う直前,すなわちプラズマ点火時に,処理室110内部,特に下部電極としてのサセプタ130の周辺部に付着し堆積した付着物を除去するために,サセプタ130に対して処理前電圧としてのオーバーシュート電圧が印加される。
【0048】
まず,プラズマ点火から実際のプラズマ処理が開始されるまでの間に,下部電極としてのサセプタ130に対してオーバーシュート電圧が印加されない一般的なプラズマ処理装置の動作を説明する。図3は,この一般的なプラズマ処理装置の動作を示すものであって,プラズマ点火から実際のプラズマ処理が開始されるまでの期間に上部電極に印加される第1高周波電力の電力波形,下部電極に印加される第2高周波電力の電力波形,および下部電極の電圧波形を示している。
【0049】
図3に示すように,時刻T01において,第2高周波電源から初期レベル(例えば,200〜1000W)に調整された第2高周波電力が出力され,下部電極に印加される。次いで時刻T02において,第1高周波電源から初期レベル(例えば,50〜1000W)に調整された第1高周波電力が出力され,上部電極に印加される。
【0050】
この時刻T02において上部電極と下部電極の間にはプラズマが点火するが,先に時刻T01において下部電極に対して初期レベルに調整された第2高周波電力が印加されているため,下部電極上のウェハの表面にイオン・シース(Ion Sheath)と称される被覆領域が形成されている。プラズマ点火直後はプラズマ密度が均一になっておらず,この状態のプラズマがウェハに接すると,ウェハ中にプラズマ密度の偏りに起因する電流が流れる。この電流はウェハに形成されている半導体素子等の構成要素にダメージを及ぼすおそれがある。プラズマ点火時にウェハ表面にイオン・シースが形成されていれば,この時点ではプラズマがウェハに接触せず,ウェハの構成要素は良好な状態に保たれる。
【0051】
時刻T02の後,反応性ガスにおいて,ウェハに対する所定のプラズマ処理に必要な解離度が得られるように,第1高周波電力のレベルと第2高周波電力のレベルが調整される。このときの各高周波電力のレベル,および,下部電極の電圧レベルを,以下の説明では「レシピ・レベル」と称する。例えば,あるアプリケーションをエッチングするレシピにおいて,第1高周波電力のレシピ・レベルは,1000〜2500Wであり,第2高周波電力のレシピ・レベルは,1000〜2000Wであり,下部電極電圧のレシピ・レベルは,約1500Vである。
【0052】
時刻T03において,第1高周波電力および第2高周波電力はそれぞれレシピ・レベルに達し,下部電極の電圧もレシピ・レベルに調整される。以後,下部電極の電圧は,このレシピ・レベルに維持され,ウェハに対する所定のプラズマ処理が実施される。なお,図3には,第1高周波電力および第2高周波電力が時刻T03においてほぼ同時にレシピ・レベルに達する場合の電力・電圧波形を示したが,これは一例である。ウェハ保護の観点からは,時刻T02においてウェハ表面にイオン・シースが形成されていれば,その後,第1高周波電力または第2高周波電力のいずれか一方を他方より先にレシピ・レベルに到達させるようにしてもよい。
【0053】
このような,一般的なプラズマ処理装置のプラズマ点火からプラズマ処理開始までの動作によれば,所定のプラズマ処理を重ねていくと,処理室110内部,特に下部電極としてのサセプタ130の周辺部に付着物が堆積してしまい,付着物に起因する異常放電が発生し,以後のプラズマ処理が適切に行えなくなる可能性がある。また,所定のプラズマ処理を開始しようとすると,プラズマ処理装置全体が緊急停止し,システム側から処理室内の洗浄が要求されるおそれもある。
【0054】
このような問題を解決する第1の実施の形態にかかるプラズマ処理装置100およびその制御方法を説明する。図4は,プラズマ処理装置100の動作を示すものであって,プラズマ点火から実際のプラズマ処理が開始されるまでの期間に上部電極120に印加される第1高周波電力147の電力波形,下部電極としてのサセプタ130に印加される第2高周波電力157の電力波形,およびサセプタ130の電圧波形を示している。
【0055】
図4に示すように,時刻T11において,第2高周波電源151から初期レベル(例えば,200〜1000W)に調整された第2高周波電力157が出力され,サセプタ130に印加される。次いで時刻T12において,第1高周波電源141から初期レベル(例えば,50〜1000W)に調整された第1高周波電力147が出力され,上部電極120に印加される。上述のように,時刻T12においてウェハWの表面にはイオン・シースが形成されているため,点火直後の密度が不均一なプラズマPがウェハWに接触せず,ウェハWおよびウェハWに形成されている各種半導体素子等の構成要素は良好な状態に保たれる。
【0056】
次に,時刻Tos1において,第2高周波電力157をレシピ・レベル(例えば,1000〜2000W)に調整する。このとき,下部電極であるサセプタ130の電圧は,時刻T11および時刻T12における電圧レベルから上昇を開始し,レシピ・レベル(例えば,1500V)よりも高い電圧レベル(ピーク・レベル。例えば,3000V)に達する。その後,サセプタ130の電圧は,時刻Tos2までの間,レシピ・レベルよりも高いレベルを維持する。時刻Tos1から時刻Tos2までの間のサセプタ130の電圧状態は,図4において,オーバーシュート波形(オーバーシュート電圧)として現れている。
【0057】
時刻T13において,第1高周波電力147はレシピ・レベルに達し,サセプタ130の電圧はピーク・レベルから低下し(オーバーシュート状態を脱し),レシピ・レベルに安定する。以後,サセプタ130の電圧は,このレシピ・レベルに維持され,ウェハWに対する所定のプラズマ処理が実施される。
【0058】
図3と図4を比較すると明らかなように,第1の実施の形態にかかるプラズマ処理装置100およびその制御方法によれば,一般的なプラズマ処理装置およびその制御方法とは異なり,プラズマの点火段階において,サセプタ130の電圧が,レシピ・レベルに調整される直前の所定期間(時刻Tos1〜Tos2)オーバーシュート状態を取ることになる。第1の実施の形態にかかるプラズマ処理装置100は,サセプタ130の電圧をオーバーシュート状態に調整することが可能な手段として制御部160を備えている。そして,第1の実施の形態にかかるプラズマ処理装置100の制御方法によれば,所定のプラズマ処理が開始される直前の所定期間,サセプタ130に対してオーバーシュート電圧が印加される。
【0059】
第1の実施形態では,制御部160によって,各リアクタンス素子(可変キャパシタC1U,C2Uおよび可変インダクタL1L,L2L)のリアクタンスが所定の値に調整される。これによって,図4に示したように,サセプタ130の電圧をレシピ・レベルに調整される直前にオーバーシュートさせることが可能となる。第1整合器143と第2整合器153のリアクタンス調整と,サセプタ130の電圧のオーバーシュート現象との関係については,プラズマ処理装置100を用いた実測結果によって確認されている。
【0060】
まず,比較のために,サセプタ130に印加される電圧にオーバーシュートを生じさせない場合の第1整合器143と第2整合器153のリアクタンスの設定条件について説明する。図3に示したサセプタ130の電圧波形,すなわちオーバーシュート部を有しないサセプタ130の電圧波形は,第1の実施の形態にかかるプラズマ処理装置100において,第1整合器143と第2整合器153のリアクタンス制御ステップを,例えば以下のように設定した場合に得られる。なお,第1整合器143のリアクタンス(キャパシタンス)は,0〜2000ステップの範囲で制御可能であり,第2整合器153のリアクタンス(インダクタンス)は,0〜1000ステップの範囲で制御可能である。
【0061】
[設定条件1]
C1U=1500ステップ;
C2U=900ステップ;
L1L=100ステップ;
L2L=500ステップ;
【0062】
例えば,第1整合器143に属する可変キャパシタC1U,C2Uの各キャパシタンスは,0〜2000ステップで0〜200pFに調整され,第2整合器153に属する可変インダクタL1L,L2Lの各インダクタンスは,0〜1000ステップで0〜30μHに調整される。ステップ数と各キャパシタンス/インダクタンスは線形の関係にある。したがって,可変キャパシタC1Uが1500ステップに調整された場合,そのキャパシタンスは150pFとなり,可変キャパシタC2Uが900ステップに調整された場合,そのキャパシタンスは90pFとなる。また,可変インダクタL1Lが100ステップに調整された場合,そのインダクタンスは3μHとなり,可変インダクタL2Lが500ステップに調整された場合,そのインダクタンスは15μHとなる。
【0063】
これに対して,図4に示したサセプタ130の電圧波形,すなわちオーバーシュート部を有するサセプタ130の電圧波形は,第1の実施の形態にかかるプラズマ処理装置100において,第1整合器143と第2整合器153のリアクタンス制御ステップを以下のように設定した場合に得られる。
【0064】
[設定条件2]
C1U=1200ステップ;
C2U=600ステップ;
L1L=400ステップ;
L2L=550ステップ;
【0065】
図5は,上記の[設定条件1]が適用されたプラズマ処理装置100において,上部電極120とサセプタ130との間にプラズマPが形成される際の,第1整合器143の第1高周波電源141側から見た上部電極120側のインピーダンス整合の軌跡を示すスミスチャート(a),および,第2整合器153の第2高周波電源151側から見たサセプタ130側のインピーダンス整合の軌跡を示すスミスチャート(b)である。この場合,図3に示したように,サセプタ130の電圧には,オーバーシュートが生じない。
【0066】
図6は,上記の[設定条件2]が適用されたプラズマ処理装置100において,上部電極120とサセプタ130との間にプラズマPが形成される際の,第1整合器143の第1高周波電源141側から見た上部電極120側のインピーダンス整合の軌跡を示すスミスチャート(a),および,第2整合器153の第2高周波電源151側から見たサセプタ130側のインピーダンス整合の軌跡を示すスミスチャート(b)である。この場合,図4に示したように,サセプタ130の電圧にオーバーシュートが生じる。
【0067】
図5(a)に示したインピーダンス軌跡と図6(a)に示したインピーダンス軌跡が相違し,図5(b)に示したインピーダンス軌跡と図6(b)に示したインピーダンス軌跡が相違する理由は,第1整合器143に属する可変キャパシタC1U,C2Uの各キャパシタンス,および,第2整合器153に属する可変インダクタL1L,L2Lの各インダクタンスが変更されたことにある。そして,図5(a)と図6(a)に注目すると,両者のスタートポイントSPに差が生じ,しかも,インピーダンス整合に至るまでの軌跡が図6(a)の方が図5(a)に比べて長くなっていることがわかる。図5(b)と図6(b)の関係も同様である。ただし,サセプタ130側のインピーダンス整合軌跡の伸長量(図5(b)と図6(b)との関係)よりも,上部電極120側のインピーダンス整合軌跡の伸長量(図5(a)と図6(a)との関係)の方が大きい。
【0068】
この図5と図6の関係および図3と図4の関係をみれば明らかなように,上部電極120側のインピーダンス整合が完了するまでの時間(上部電極側インピーダンス整合時間)とサセプタ130側のインピーダンス整合が完了するまでの時間(下部電極側インピーダンス整合時間)がそれぞれある程度長くなり,かつ上部電極側インピーダンス整合時間が,下部電極側インピーダンス整合時間に対してより長くなるように第1整合器143のリアクタンスと第2整合器153のリアクタンスを調整することによって,下部電極としてのサセプタ130の電圧を,レシピ・レベルに調整される直前に所定期間オーバーシュートさせることが可能となる。このように第1の実施の形態は,制御部160によって第1整合器143と第2整合器153の各リアクタンスを制御して,サセプタ130に印加される電圧をオーバーシュートさせるものである。
【0069】
図7は,所定のプラズマ処理が開始される直前にサセプタ130の電圧をオーバーシュートさせない場合(図3)と,オーバーシュートさせた場合(図4)のそれぞれについてのプラズマ点火直後における異常放電の発生頻度を示している。この実験では,結果の信頼性を高めるために,第1の実施の形態にかかるプラズマ処理装置100と実質的に同一構成の2台の試験用プラズマ処理装置A,Bを用意した。
【0070】
プラズマ処理装置Aについて,上記の[設定条件1],すなわち下部電極電圧にオーバーシュートが発生しない条件に基づいて上部電極用整合器と下部電極用整合器の各リアクタンスを調整し,プラズマ点火を複数回繰り返した。この実験では,異常放電の発生頻度1.6%という結果が得られた。この結果は,下部電極電圧にオーバーシュートを発生させなければ,プラズマ点火を100回行うと1.6回の異常放電が発生し得ることを示している。
【0071】
同じプラズマ処理装置Aについて,上記の[設定条件2],すなわち下部電極電圧にオーバーシュートが発生する条件に基づいて上部電極用整合器と下部電極用整合器の各リアクタンスを調整し,プラズマ点火を複数回繰り返した。この実験では,異常放電の発生頻度0.0%という結果が得られた。この結果は,下部電極電圧にオーバーシュートを発生させれば,プラズマ点火を何度繰り返しても異常放電が発生しないことを示している。
【0072】
プラズマ処理装置Bについても同じ実験が行われ,[設定条件1]の場合は,異常放電の発生頻度1.1%という結果が得られ,[設定条件2]の場合は,異常放電の発生頻度0.0%という結果が得られた。
【0073】
以上のプラズマ処理装置A,Bを用いた実験結果から,プラズマ処理を開始する前に下部電極にオーバーシュート電圧を印加すれば,処理室内におけるプラズマ点火直後の異常放電の発生が防止されることが明らかになった。先に述べたように,プラズマ点火直後の異常放電の原因は,主に,下部電極の周辺部に付着し堆積した付着物にあると考えられる。プラズマ処理を開始する前に下部電極に対して意図的にオーバーシュート電圧を印加することによって,この付着物をスパッタリング除去することが可能となる。下部電極の周辺部から付着物が除去されれば,プラズマ点火直後から安定したプラズマ状態が形成され,ウェハおよびウェハに形成されている半導体素子等の構成要素にダメージが及ぶことはない。
【0074】
次に,プラズマ点火直後の異常放電の発生を防止するために適切なオーバーシュートの大きさ(オーバーシュート量)について,図8,図9を参照しながら説明する。
【0075】
図8は,図4に示した下部電極としてのサセプタ130に印加される電圧波形のうち,オーバーシュート部を拡大して示すものである。ここでは,サセプタ130に印加される電圧のオーバーシュート量を,図8に示したように,電圧のピーク値Vpと,サセプタ130に対する電圧印加開始後,この電圧がピーク値Vpを経て安定するまで(例えば,2000Vに低下するまで)に要する時間ΔTを用いて定義することとする。
【0076】
図9は,異常放電の抑制効果とオーバーシュート量との関係を検証した実験の結果を示している。
【0077】
この実験では第1の実施の形態にかかるプラズマ処理装置100と実質的に同一構成の8台の試験用プラズマ処理装置A,B,C,D,E,F,G,Hが用意された。そして,各プラズマ処理装置について,プラズマ点火時の下部電極の電圧波形を測定し,そのときの異常放電発生の有無を確認した。
【0078】
全ての試験用プラズマ処理装置に備えられた上部電極用整合器および下部電極用整合器は,下部電極に印加される電圧がプラズマ処理前にオーバーシュートするように,そのリアクタンスが調整されている。しかし,各プラズマ処理装置毎にリアクタンスの調整を変えているため,下部電極電圧のオーバーシュート量に関して各プラズマ処理装置間に差が生じている。
【0079】
図9に示したように,本実験では,プラズマ処理装置Fが最も大きいオーバーシュート量を示し,プラズマ処理装置Hが次に大きいオーバーシュート量を示した。逆に,プラズマ処理装置Bが最も小さいオーバーシュート量を示し,プラズマ処理装置Cが次に小さいオーバーシュート量を示した。実験を行った8台のプラズマ処理装置の中で,最もオーバーシュート量が小さかったプラズマ処理装置Bにおいてのみ,プラズマ点火直後に異常放電が観測され,その他のプラズマ処理装置では異常放電は観測されなかった。
【0080】
この実験結果から,プラズマ点火直後の異常放電の発生を防止するためには,下部電極にオーバーシュート電圧を印加することが有効であり,しかも,そのオーバーシュート量にもある程度の大きさが必要であることが明らかになった。図9に示したように,5500V・secを下部電極に印加する電圧のオーバーシュート量のしきい値として採用することができる。すなわち,下部電極に対して,5500V・sec以上の量のオーバーシュート電圧を印加することによって,プラズマ点火直後の異常放電の発生を防止することが可能となる。
【0081】
下部電極に印加する電圧において,そのオーバーシュート量が大きくなれば,プラズマ点火直後の異常放電の抑制効果が高くなると考えられる。オーバーシュート量を大きくするためには,時間ΔTを長くするか,あるいはピーク値Vpを高める必要がある。しかし,これらの値を設定するにあたり以下の条件を満たす必要がある。
【0082】
時間ΔTを設定する際に,プラズマ処理装置のスループットを考慮することが好ましい。時間ΔTをあまり長く設定すると,単位時間当たりに処理可能なウェハの枚数が減少してしまい,スループットが低下する。一方,ピーク値Vpについては,設計上の絶縁耐圧(例えば,3000V)を考慮する必要がある。
【0083】
この点,本実施の形態では,第1整合器143と第2整合器153の各リアクタンスが制御部160によって自在に調整され,サセプタ130に印加されるオーバーシュート電圧の時間ΔTとピーク値Vpは,この調整された第1整合器143と第2整合器153の各リアクタンスによって決定される。したがって,本実施の形態によれば,処理室110内の付着物を除去するために十分な大きさのオーバーシュート電圧であって,プラズマ処理装置のスループットを低下させず,かつ,プラズマ処理装置にダメージを与えない大きさのオーバーシュート電圧を下部電極としてのサセプタ13に印加することが可能となる。
【0084】
以上説明したように,第1の形態にかかるプラズマ処理装置100およびその制御方法によれば,ウェハWに対するプラズマ処理が開始される直前に下部電極としてのサセプタ130に対してオーバーシュート電圧が印加される。このオーバーシュート電圧によって,サセプタ130の周辺部に付着し堆積した付着物が除去されるため,プラズマ点火直後の処理室内における異常放電の発生が防止される。また,サセプタ130の周辺部から付着物が除去されれば,プラズマ密度の均一性も高まり,結果としてプラズマ処理の安定化に繋がる。
【0085】
第1整合器143と第2整合器153のリアクタンスを調整することによって,サセプタ130に印加される電圧にオーバーシュートを生じさせることが可能となる。この点,第1の実施の形態にかかるプラズマ処理装置100は,第1整合器143と第2整合器153の各リアクタンスを個別に調整可能な制御部160を備えているため,サセプタ130に対してオーバーシュート電圧を印加することは容易である。しかも,オーバーシュート量の調整も自在である。
【0086】
また,ウェハWに対するプラズマ処理の直前に付着物の除去が行われるため,プラズマ処理装置100を停止させて,処理容器を解放し,サセプタ130の周辺部を洗浄する必要がなくなる。したがって,プラズマ処理装置100のスループットの向上が実現する。
【0087】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態にかかるプラズマ処理装置およびその制御方法を図1,図10,および図11を参照しながら説明する。第2の実施の形態にかかるプラズマ処理装置は,図1に示した第1の実施の形態にかかるプラズマ処理装置100と略同一の構成を有する。また,第2の実施の形態にかかるプラズマ装置の制御方法は,第1の実施の形態にかかるプラズマ処理装置の制御方法と同様に,ウェハWに対するプラズマ処理の直前に下部電極であるサセプタ130に対してオーバーシュート電圧を印加することを特徴としている。
【0088】
しかし,第2の実施の形態にかかるプラズマ処理装置およびその制御方法によれば,第1の実施の形態にかかるプラズマ処理装置100およびその制御方法とは異なる機能・動作によってサセプタ130に印加される電圧にオーバーシュートを生じさせる。
【0089】
すなわち,第1の実施の形態では,オーバーシュート電圧を得るために,制御部160によって第1整合器143と第2整合器153のリアクタンスを調整したが,第2の実施の形態では,第1高周波電源141から出力される第1高周波電力147の電力レベルとその出力タイミング,および,第2高周波電源151から出力される第2高周波電力157の電力レベルとその出力タイミングをそれぞれ制御することによって,オーバーシュート電圧を生成する。
【0090】
図10は,第2の実施の形態にかかるプラズマ処理装置に備えられた制御部160が第1高周波電源141に対して出力する制御信号と,第2高周波電源151に対して出力する制御信号のタイミングチャートを示している。第1高周波電源141は,制御部160から受けた制御信号に従って,第1高周波電力147の出力電力レベルおよび出力タイミングを調整する。同様に,第2高周波電源151は,制御部160から受けた制御信号に従って,第2高周波電力157の出力電力レベルおよび出力タイミングを調整する。
【0091】
図11は,図10に示したタイミングで制御部160が各制御信号を第1高周波電源147と第2高周波電源157に対して出力したときの,上部電極120に印加される第1高周波電力147の電力波形,下部電極としてのサセプタ130に印加される第2高周波電力157の電力波形,およびサセプタ130の電圧波形を示している。
【0092】
時刻T31において,制御部160は,第2高周波電源151に対して,初期レベルに調整された第2高周波電力157を出力するように制御信号を送信する(図10)。この制御信号を受けた第2高周波電源151は,初期レベル(例えば,200〜1000W)に調整された第2高周波電力157をサセプタ130に対して出力し,下部電極であるサセプタ130の電圧が0Vから例えば500Vに上昇する(図11)。
【0093】
時刻T32において,制御部160は,第1高周波電源141に対して,初期レベルに調整された第1高周波電力147を出力するように制御信号を送信する(図10)。この制御信号を受けた第1高周波電源141は,初期レベル(例えば,50〜1000W)に調整された第1高周波電力147を上部電極120に対して出力する。この時刻T32において上部電極120とサセプタ130の間にはプラズマ(プレ・プラズマ)が点火するが,先に時刻T31においてサセプタ130に初期レベルに調整された第2高周波電力157が印加されているため,サセプタ130上のウェハWの表面にイオン・シースが形成されている。したがって,この時点ではプラズマがウェハWに接触せず,ウェハWに形成されている半導体素子等の構成要素は良好な状態に保たれる。
【0094】
時刻T33から時刻T35までの間,制御部160は,第1高周波電源141に対して,初期レベルよりも高い付着物除去レベルに調整された第1高周波電力147を出力するように制御信号を送信する(図10)。この制御信号を受けた第1高周波電源141は,付着物除去レベルに調整された第1高周波電力147を上部電極120に対して出力する。
【0095】
時刻T34から時刻T35までの間,制御部160は,第2高周波電源151に対して,付着物除去レベルに調整された第2高周波電力157を出力するように制御信号を送信する(図10)。この制御信号を受けた第2高周波電源151は,付着物除去レベル(例えば,1000W)に調整された第2高周波電力157をサセプタ130に対して出力し,下部電極であるサセプタ130の電圧が例えば2700Vに上昇する(図11)。
【0096】
時刻T35から時刻T36までの間,制御部160からの指示に従い,第1高周波電源141は第1高周波電力147の出力を停止し,第2高周波電源151は第2高周波電力157の出力を停止する。このため,下部電極であるサセプタ130の電圧は一旦0Vまで低下する。時刻T32で点灯したプラズマ(プレ・プラズマ)もここで消灯する。
【0097】
時刻T36において,再び制御部160は,第2高周波電源151に対して,初期レベルに調整された第2高周波電力157を出力するように制御信号を送信する(図10)。この制御信号を受けた第2高周波電源151は,初期レベル(例えば,200〜1000W)に調整された第2高周波電力157をサセプタ130に対して出力し,下部電極であるサセプタ130の電圧が0Vから例えば500Vに上昇する(図11)。
【0098】
時刻T37において,再び制御部160は,第1高周波電源141に対して,初期レベルに調整された第1高周波電力147を出力するように制御信号を送信する(図10)。この制御信号を受けた第1高周波電源141は,初期レベル(例えば,50〜1000W)に調整された第1高周波電力147を上部電極120に対して出力する。この時刻T37において上部電極120とサセプタ130の間にはプラズマ(メイン・プラズマ)が点火するが,この時点ではウェハWの表面にイオン・シースが形成されており,プラズマがウェハWに接触せず,ウェハWに形成されている半導体素子等の構成要素は良好な状態に保たれる。
【0099】
時刻T38において,制御部160は,第2高周波電源151に対して,レシピ・レベルに調整された第2高周波電力157を出力するように制御信号を送信する(図10)。この制御信号を受けた第2高周波電源151は,レシピ・レベル(例えば,1000〜2000W)に調整された第2高周波電力157をサセプタ130に対して出力する。
【0100】
時刻T39において,制御部160は,第1高周波電源141に対して,レシピ・レベルに調整された第1高周波電力147を出力するように制御信号を送信する(図10)。この制御信号を受けた第1高周波電源141は,レシピ・レベル(例えば,1000〜2500W)に調整された第1高周波電力147を上部電極120に対して出力する(図11)。この時点で,下部電極としてのサセプタ130の電圧はレシピ・レベル(例えば,1500V)に達し,以後サセプタ130の電圧はこのレシピ・レベルに維持され,メイン・プラズマを用いてウェハWに対する所定のプラズマ処理が実施される。
【0101】
以上説明した第2の実施の形態にかかるプラズマ処理装置の制御方法の特徴は,図10および図11に示したように,メイン・プラズマを点火し,このメイン・プラズマを用いてウェハWに対して所定のプラズマ処理を実施するプラズマ処理工程(時刻T36以降)と,このプラズマ処理工程の前に実施され,処理室110内の付着物を除去するためのプレ・プラズマを点火するプラズマ処理準備工程としての付着物除去工程(時刻T31〜時刻T35)を備える点にある。
【0102】
プラズマ処理工程において点火されるメイン・プラズマは,ウェハWに対する所定のプラズマ処理のためのものであり,付着物除去工程において点火されるプレ・プラズマは処理室110内の付着物を除去するためのものである。したがって,両プラズマの物理的な特性は異なり,図10,図11に示したように,両プラズマの形成条件,すなわち第1高周波電力147の電力レベルや第1高周波電源141からの出力タイミングおよび第2高周波電力157の電力レベルや第2高周波電源151からの出力タイミングも相違する。
【0103】
図11に示したように,付着物除去工程の所定期間(時刻T34〜T35)では,下部電極であるサセプタ130に対して,レシピ・レベルよりも高い処理前電圧(オーバーシュート電圧)が印加され,上述のプレ・プラズマが形成される。したがって,サセプタ130の周辺部に付着物が存在していても,付着物除去工程においてこの付着物はプレ・プラズマによって確実に除去されることになる。
【0104】
しかも,付着物除去工程は,プラズマ処理工程の直前に実施されるため,処理室110内から付着物を除去した状態でウェハWに対する所定のプラズマ処理を実施することが可能となる。
【0105】
以上のように,第2の実施の形態にかかるプラズマ処理装置およびその制御方法によれば,第1の実施の形態にかかるプラズマ処理装置100およびその制御方法と同様の効果を得ることができる。
【0106】
さらに,第2の実施の形態によれば,次の効果が得られる。第2の実施の形態においては,第1高周波電源141から出力される第1高周波電力147の電力レベルとその出力タイミング,および,第2高周波電源151から出力される第2高周波電力157の電力レベルとその出力タイミングをそれぞれ制御することによって,下部電極であるサセプタ130に印加する電圧を所定期間オーバーシュートさせる。このため,反応性ガスの種類,処理室110内の圧力,上部電極120とサセプタ130の間隔等,プロセス条件が変更になった場合であっても,サセプタ130に印加する電圧のオーバーシュート量を高い精度で,かつ容易に調整できる。したがって,プラズマ点火直後の処理室内における異常放電の発生をより確実に防止できる。
【0107】
ところで,プラズマ処理工程の前に付着物除去工程を毎回行えば,その分第2の実施の形態にかかるプラズマ処理装置のスループットが低下するおそれがある。この点,第2の実施の形態によれば,付着物除去工程をプラズマ処理工程の前に行うか否かの選択は容易である。処理室110内の付着物を除去する必要が生じたときにのみ付着物除去工程を実施することで高いスループットが得られる。所定の周期で付着物除去工程を実施するようにしてもよいが,処理室110内の付着物の有無を検出する手段を備えて,その検出結果に基づいて付着物除去工程を実施するようにしてもよい。
【0108】
以上,添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが,本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0109】
本実施の形態の説明の中では,プラズマ処理装置の例として平行平板型プラズ処理装置が用いられているが,本発明はこれに限定されるものではない。例えば,ヘリコン波プラズマ処理装置,誘導結合型プラズマ処理装置等への適用も可能である。
【符号の説明】
【0110】
100:プラズマ処理装置
110:処理室
120:上部電極
130:サセプタ
141:第1高周波電源
143:第1整合器
145:HPF
147:第1高周波電力
151:第2高周波電源
153:第2整合器
155:LPF
157:第2高周波電力
170:静電チャック
180:フォーカスリング
182:カバーリング
C1U,C2U:可変キャパシタ
L1L,L2L:可変インダクタ
W:ウェハ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理室内に配置された第1電極と、
前記処理室内において前記第1電極に対向する位置に配置された第2電極と、
前記第2電極の外周縁部に、前記被処理体を囲むように配置されたフォーカスリングと、
前記第1電極に第1電力を供給する第1電力源を有する第1電力系と、
前記第2電極に第2電力を供給する第2電力源を有する第2電力系と、
前記第1電力系及び前記第2電力系を制御する制御部と、
を備え、前記処理室内にプラズマを発生させて被処理体をプラズマ処理するプラズマ処理装置の制御方法であって、
前記制御部は、前記第2電極上に前記被処理体を配置している状態で、プラズマ点火後であって前記プラズマ処理を開始する前の所定期間、前記プラズマ処理中に前記第2電極に印加される電圧よりも高い処理前電圧が前記第2電極に印加されるように、前記第1電力系及び前記第2電力系の少なくともいずれかを制御することを特徴とする、プラズマ処理装置の制御方法。
【請求項2】
前記第1電力系は、前記第1電力源側のインピーダンスと前記第1電極側のインピーダンスとを整合させる第1整合器をさらに有し、
前記第2電力系は、前記第2電力源側のインピーダンスと前記第2電極側のインピーダンスとを整合させる第2整合器をさらに有し、
前記制御部は、前記第1整合器と前記第2整合器との少なくともいずれかのリアクタンスを調整することによって、前記第2電極に印加される前記処理前電圧を生成することを特徴とする、請求項1に記載のプラズマ処理装置の制御方法。
【請求項3】
前記制御部は、
前記第1電力の電力レベルを、前記プラズマ処理を行うときよりも低く前記プラズマ点火するときよりも高い第1電力付着物除去レベルにし、
前記第2電力の電力レベルを、前記プラズマ処理を行うときよりも低く前記プラズマ点火するときよりも高い第2電力付着物除去レベルに順次することで、
前記第2電極に印加する前記処理前電圧を生成することを特徴とする、請求項1に記載のプラズマ処理装置の制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−211241(P2011−211241A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162076(P2011−162076)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【分割の表示】特願2003−138274(P2003−138274)の分割
【原出願日】平成15年5月16日(2003.5.16)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】