説明

プラズマ処理装置

【課題】
ドライエッチング装置において、真空容器壁のスパッタで生じる被加工試料への汚染や異物発生の抑制および真空容器壁交換に伴うランニングコスト増加や稼働率低下を抑制することが可能なプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】
平行平板構造のドライエッチング装置において、被加工試料4と対向する位置に配置され、放電生成用高周波電源2が接続される放電生成用電極1に、放電生成用高周波電源2の周波数に対して高インピーダンスで、かつ直流的に低抵抗でアースと接続される低周波通過フィルタを3接続するか、または直流的に低抵抗でアースと接続される低周波通過フィルタ3とそれに直列に挿入された直流電源を接続する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスを製造する半導体製造装置に係り、特に、プラズマを用いて半導体材料をエッチングするドライエッチング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライエッチング技術は、光または電子線を用いたリソグラフィー技術によりレジスト材料等にパターニングされた微細形状をマスクとして、プラズマによりシリコンやシリコン酸化膜等の半導体材料をエッチングし所望の形状を得るもので、半導体製造プロセスにおける不可欠な技術の一つである。ドライエッチングでは、排気手段を有する真空容器内に原料ガスを導入し、該原料ガスを電磁波によりプラズマ化して被加工試料に曝すことにより被加工試料面のマスク部以外をエッチングし、所望の形状を得る。被加工試料には、プラズマ生成とは別の高周波電圧が印加され、該高周波電圧により、プラズマからイオンを加速して被加工試料面に入射させることにより、エッチング効率向上と加工形状の垂直性を得ている。
【0003】
従来のドライエッチング装置では、エッチングを行う際、プラズマを生成する放電用周波数の電圧または被加工試料に印加する高周波電圧により、プラズマ電位がアース電位より上昇する。プラズマ電位の上昇により、アース電位である真空容器壁には、プラズマから加速されたイオンが入射し、真空容器壁がスパッタリングされる。真空容器壁がスパッタリングされると、被加工試料に真空容器壁材または真空容器壁材の化合物が飛散し汚染や異物源となり、半導体デバイスである被加工試料の製造歩留まりを低下させる。また、真空容器壁がスパッタリングにより消耗されるため、真空容器壁を定期的に交換する必要が生じ、ドライエッチング装置のランニングコスト増加や稼働率低下をもたらす。
【0004】
この解決策として、被加工試料に印加する高周波電圧と位相が180度異なる同一の周波数を被加工試料の対面する位置に配置された放電生成用電極に印加する方法が提案されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。被加工試料に印加する高周波電圧と位相が180度異なる高周波電圧の放電生成用電極への印加により、被加工試料に印加する高周波電圧の正電圧周期時に対向電極が負電位となるので、プラズマ電位の上昇が抑制され、真空容器壁のスパッタリングが抑制される。
【0005】
また、被加工試料に印加される高周波電圧を効率よく放電生成用電極からアースに流入させるために、放電生成用電極にフィルタを設置する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
また、被加工試料設置電極に放電用周波数の1/4波長の長さを有するフィルタを挿入する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2002−184766号公報
【特許文献2】特開2002−43286号公報
【特許文献3】特開2002−16045号公報
【非特許文献1】2003 Proceedings of International Symposium on Dry Process、p43-48
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来のドライエッチング装置では、エッチングを行う際、プラズマを生成する放電用周波数の電圧または被加工試料に印加する高周波電圧により、プラズマ電位がアース電位より上昇する。プラズマ電位の上昇により、アース電位である真空容器壁には、プラズマから加速されたイオンが入射し、真空容器壁がスパッタリングされる。この真空容器壁のスパッタリングにより真空容器壁材料または真空容器壁材用の化合物が真空容器内に放出されるため、被加工試料面への汚染や異物の原因となっていた。また、真空容器壁が消耗することで、交換が必要となり、ドライエッチング装置のランニングコスト上昇や稼働率低下の要因となっていた。
【0009】
これに対して、上述の特許文献1および非特許文献1における従来の方法では、位相制御された高周波電源が必要であり、装置の大型化や高コスト化をもたらす課題を有する。また、精密な位相制御が必要であり、条件により波形歪が生じる場合等において十分な効果が得られない場合がある。また、上述の特許文献2に記載された従来例で用いられるフィルタは、直列にコンデンサが挿入される形となっており、プラズマ電位の上昇抑制効果は極めて少ない。また、上述の特許文献3におけるフィルタも、被加工試料を被加工試料設置電極に静電吸着させるためのものであり、プラズマ電位の上昇を抑制する効果はない。
【0010】
そこで、本発明の目的は、ドライエッチング装置において、真空容器壁のスパッタリングで生じる被加工試料への汚染や異物発生の抑制および真空容器壁交換に伴うランニングコスト増加や稼働率低下を抑制することが可能なプラズマ処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明のプラズマ処理装置は、下記に示すような特徴を有する。
【0012】
(1)真空容器内にあって、被加工試料を載置する被加工試料設置手段と、前記被加工試料設置手段上に載置された前記被加工試料と対面する位置に配置された放電生成用電極と、前記被加工試料設置手段に高周波電圧を印加するための手段と、前記放電生成用電極に放電生成用高周波電圧を印加するための手段と、前記放電生成用電極により導入される放電用高周波との相互作用で所定のガスをプラズマ化するための磁場を生成する磁場生成手段とを有し、前記放電生成用電極に、前記放電生成用高周波電圧の周波数に対して高インピーダンスで、かつ直流的に低抵抗でアースと接続される低周波通過フィルタを設けてなることを特徴とする。
【0013】
(2)真空容器内にあって、被加工試料を載置する被加工試料設置手段と、前記被加工試料設置手段上に載置された前記被加工試料と対面する位置に配置された放電生成用電極と、前記被加工試料設置手段に高周波電圧を印加するための手段と、前記放電生成用電極に放電生成用高周波電圧を印加するための手段と、前記放電生成用電極により導入される放電用高周波との相互作用で所定のガスをプラズマ化するための磁場を生成する磁場生成手段とを有し、前記放電生成用電極に、前記放電生成用高周波電圧の周波数に対して高インピーダンスで、かつ直流的に低抵抗でアースと接続される低周波通過フィルタと、前記低周波通過フィルタと前記アースとの間に直列に接続された直流電圧印加手段とを設けてなることを特徴とする。
【0014】
(3)前記(2)のプラズマ処理装置において、プラズマ電位を検出し、プラズマ電位の変化に対応して前記直流電圧印加手段に印加する電圧を制御するプラズマ電位制御手段を設けてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ドライエッチング装置において、真空容器壁のスパッタリングで生じる被加工試料への汚染や異物発生の抑制および真空容器壁交換に伴うランニングコスト増加や稼働率低下を抑制することが可能な半導体製造装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して詳述する。
【0017】
(実施例1)
図1に、本発明の第1の実施例における基本構成を示す。本実施例では、被加工試料を載置する被加工試料設置電極に高周波電源が接続され、さらに被加工試料に対面する位置に配置された放電生成用電極に放電生成用高周波電源が接続された装置構成を有する平行平板構造のドライエッチング装置において、前記放電生成用電極に、前記放電生成用高周波電圧の周波数に対して高インピーダンスで、かつ直流的に低抵抗でアースと接続される低周波通過フィルタを挿入した構造を有する。
【0018】
図1において、放電生成用電極1に放電生成用高周波電源2(本実施例では200MHzを用いた)が接続されており、さらに放電生成用電極1は、直流的に低抵抗な低周波通過フィルタ3によりアースに接続されている。また、放電生成用電極1に対面する位置に被加工試料4が被加工試料設置手段5上に載置されている。被加工試料設置手段5には、高周波電源6(本実施例では800kHzを用いた)が接続されている。放電生成用電極1の被加工試料4に対面する面には、シリコンで形成されたシャワープレート7が配置される。真空容器8内は、真空排気手段により排気されており、またガス導入手段9によりプラズマの原料ガスが放電生成用電極1およびシャワープレート7を介して真空容器8内に導入される。また、真空容器1の周辺にはソレノイドコイル11が配置されており、ソレノイドコイル11で生成される磁場と放電生成用電極1で真空容器1内に導入される放電用高周波の相互作用でプラズマが生成される。
【0019】
次に、本実施例の動作について説明する。
【0020】
まず、比較のため、本発明である放電生成用電極1に配置した直流的に低抵抗な低周波通過フィルタ3を用いない場合について説明する。図2(a)は、低周波通過フィルタ3を用いない場合における高周波電源6による被加工試料面の電圧波形16を示し、(b)は被加工試料4に印加する高周波電源6によるバイアスに伴って生じるプラズマ電位の時間変動17を示している。(a)中の15は、放電生成用電極1と被加工試料4との間で生成されたプラズマを示し、20は、放電生成用高周波電源2による放電生成用高周波電圧の周波数のみにより生ずるプラズマ電位の時間変動を示す。
【0021】
図2(a)で示されるように、被加工試料4に高周波電圧(電圧振幅をVppとする)を印加すると、被加工試料4の平均電位は負側にシフトする(図中、Vdcは負側にシフトする被加工試料の平均電位を示す)。この平均電位の負側へのシフトが1/2・Vpp以上となれば、プラズマ電位の正側への上昇は生じないが、実際には図2(a)に示すように、平均電位の負側へのシフトは1/2・Vppより小さく、被加工試料4に印加した高周波電圧の正側電位分プラズマ電位が周期的に上昇し、このプラズマ電位の上昇時にアース電位である真空容器壁10に上昇したプラズマ電位分のエネルギーを有するイオンが入射して真空容器壁10をスパッタリングする。このときの真空容器壁10へ入射するイオンのエネルギーは、1/2・Vpp−Vdcとなる。すなわち、図2(b)で示されるように、Vdcが限りなく1/2・Vppとなれば、真空容器壁10への入射イオンのエネルギーが小さくなることを示す。
【0022】
つぎに、本発明である放電生成用電極1に配置した直流的に低抵抗な低周波通過フィルタ3を用いた場合について説明する。図3は、本発明による低周波通過フィルタ3を用いた場合における高周波電源6による被加工試料面の電圧波形16を示し、(b)は被加工試料4に印加する高周波電源6によるバイアスに伴って生じるプラズマ電位の時間変動17を示している。放電生成用電極1を直流的に低抵抗でアースと接続すると、放電生成用電極1の平均電位は常にアース電位となる。
【0023】
図2における本発明を用いない場合には、放電生成用電極1からプラズマへの電子供給が放電生成用電極1に流入するイオン電流と同量で放電用高周波電源2が供給できる量に制限される。また、放電生成用電極1の平均電位が負側にシフトすることによって放電生成用電極面に形成されるイオンシースの厚さが厚くなり、また、該イオンシースのインピーダンスが大きいことでも放電生成用電極からプラズマへの電子供給が抑制される。そのため、被加工試料4に印加される高周波電圧の正側周期の際に放電生成用電極1からプラズマへの電子供給が不十分となり、被加工試料1の平均電位の負側へのシフトが抑制される。
【0024】
これに対して、放電生成用電極1を直流的に低抵抗でアースと接続すると、放電生成用電極1の平均電位は常にアース電位となる。図3(a)に示すように、放電生成用電極1の平均電位が常にアース電位となることにより、被加工試料1への高周波電圧印加の正側周期の際の放電生成用電極1からプラズマへの電子の供給が放電用高周波電源2からのみでなく、低周波通過フィルタ3を介したアースからも行われる。また、放電生成用電極1の平均電位が常にアース電位であることから、放電生成用電極1の表面に形成されるイオンシース幅も薄く低インピーダンスで放電用電極とプラズマが結合される。これらの効果により、被加工試料1のVdcが大きくなる。その結果として、図3(b)で示すように、1/2・Vpp−Vdc≒0となり、真空容器壁10へのプラズマからのイオン入射エネルギーが抑制される。
【0025】
以上の効果により、真空容器壁10のスパッタリングが抑制され、被加工試料1の汚染や異物発生、および真空容器壁交換に伴うランニングコスト増加や装置の稼働率低下を抑制できる。さらに、先述した特許文献1および非特許文献1で示した従来技術に比較して、本発明では非常に簡単で低コストな構造で、常に確実にプラズマ電位の上昇抑制を実現することが可能となる。
【0026】
図4に、図1で示した放電電生成用電源の周波数に対して高インピーダンスで、かつ直流的に低抵抗でアースと接続する低周波通過フィルタの具体例を示す。図4(a)は、インダクタンスを用いた場合であり、放電用周波数をアース側に流入するのを阻止しながら、直流的に低抵抗で放電生成用電極1をアースと接続する。図4(b)は、インダクタンスの両端にコンデンサをアース間に挿入した構造のフィルタである。図4(a)の例と同様の作用をもつ。図4(c)は、放電用周波数の波長λの1/4の長さを有する特性インピーダンス線路を用いた場合を示す。周波数の高い(例えば、100MHz以上)電磁波では、特定の特性インピーダンスを有する線路をその特性長さ(1/4λ)とすると全反射する特性をもつ。よって、図4(c)に示す特性インピーダンス線路を用いることで、放電用周波数をアース側に流入するのを阻止しながら、非常に低抵抗な状態で放電生成用電極1をアースと接続することが可能となる。
【0027】
図4(a)、(b)、(c)の各フィルタを単独、または複合して用いることにより、放電生成用電極1に放電用高周波を供給しながら、放電生成用電極1を直流的に低抵抗でアースと接続することが可能となる。
【0028】
図1の実施例では、プラズマ生成にソレノイドコイル11を用いている。ソレノイドコイル11で生成される磁場は、放電生成用電極1または被加工試料4面に垂直方向の成分を有する磁場配置となっている。該磁場配置とすることでプラズマを介した放電生成用電極1と被加工試料4間のインピーダンスが低くなり、磁場によるプラズマの生成制御機能の他に本発明による機能を向上する作用も有する。
【0029】
また、図1の実施例では、プラズマの生成制御および本発明の機能向上のため、ソレノイドコイルによる磁場を用いたが、本質的には磁場が無くても本発明の効果は得られるため、図1の実施例に対してソレノイドコイルを具備しない構成であっても同様な効果が期待できる。
【0030】
また、図1の実施例では、放電用高周波電源2に200MHzを用いたが、50MHz以上500MHz以下の電磁波を用いても同様の効果がある。50MHz以下では、放電用周波数自身で生じる放電生成用電極の電位シフトが大きく、常に大量の電流を本発明での低周波通過フィルタに流すこととなり、放電効率が低下する。500MHz以上では、図1に示す平行平板構造でのプラズマ形成において均一なプラズマ生成が困難となる。また同様に、図1の実施例では、被加工試料4に電磁波を印加する高周波電源6に800kHzを用いたが、400kHz以上15MHz以下の周波数でも同様の効果がある。
【0031】
さらにまた、図1の実施例では、放電生成用電極1の被加工試料4と対面する側にシリコン製のシャワープレート7を配置した。しかし、シャワープレート7には導電性があれば同様の効果が得られるため、他の導体または半導体であっても同様な効果があることは言うまでも無い。具体的には、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、炭化シリコン、アルミニュム、ステンレス、カーボン、ガラス状カーボンを用いることで同様な効果が得られる。
【0032】
(実施例2)
図5に、本発明の第2の実施例における基本構成を示す。本実施例では、被加工試料を載置する被加工試料設置電極に高周波電源が接続され、さらに被加工試料に対面する位置に配置された放電生成用電極に放電生成用電源が接続された装置構成を有する平行平板構造のドライエッチング装置において、放電生成用電極に、前記放電生成用高周波電圧の周波数に対して高インピーダンスで、かつ直流的に低抵抗でアースと接続される低周波通過フィルタを含む線路に直流電源を直列に挿入した構造を有する。
【0033】
図5において、図1での低周波通過フィルタ3に直列に直流電源12を挿入した形態である。図5の形態により、放電生成用電極1の平均電位を直流電源12で出力される直流電圧とすることが可能となり、放電生成用電極1の平均電位を自由に調整することが可能となる。具体的には、直流電源12で10〜30Vの正電位を放電用電極1に与える。
【0034】
図6に、その際の放電生成用電極1、被加工試料4およびプラズマの各電位の様子を示し、(a)は被加工試料面の電圧波形16、(b)はプラズマ電位の時間変動17を示す。放電生成用電極1の平均電位を、図1でのアース電位以外に精密に制御可能なため、プラズマ電位上昇の抑制効果を高めることが可能となる。なお、本実施例の場合、図中の20は、放電生成用高周波電源2によるプラズマ電位に直流電源12の電位分が付加された波形を示している。
【0035】
本実施例においても、上述の第1の実施例で説明した場合と同様に、放電生成用高周波電源の周波数については、50kMHz以上500MHz以下が望ましく、さらに被加工試料に印加する高周波電源の周波数については、400kHz以上15MHz以下が望ましい。また、シャワープレートの材質およびプラズマ生成制御用ソレノイドコイルの有無に関しても、上述の第1の実施例で説明した場合と同様に適用される。
【0036】
(実施例3)
図7に、本発明の第3の実施例における基本構成を示す。図7の実施例では、図5で示した第2の実施例に対して、プラズマ電位計測手段13と、プラズマ電位計測手段13により検出したプラズマ電位に応じて直流電源12の直流電圧出力を制御する直流電源制御部14を有するプラズマ電位制御手段を有する。
【0037】
上述した第2の実施例の場合には、定常的に放電生成用電極1に直流電圧を印加するため、常に大電流が放電生成用電極1、直流電源12および低周波通過フィルタ3に流れるので、各部の熱容量を大きく設計する必要があり、また直流電源12の出力も大電流となり大型化してしまうという課題を有する。これに対して、図7の実施例では、プラズマ電位計測手段13により、プラズマ電位が上昇した時にのみ、直流電源12より直流電圧を出力する。
【0038】
図8に、本実施例における放電生成用電極1、被加工試料4およびプラズマの各電位の様子を示す。図8(a)は、被加工試料面の電圧波形16を示し、(b)はプラズマ電位の時間変動17を示す。本実施例の場合には、真空容器壁へのイオン入射エネルギーは、放電生成用高周波電源2の周波数のみによって生じるプラズマ電位(Vp)となる。図中、18は、直流電源制御信号を示し、19は、直流電源12を非動作とした場合のプラズマ電位変化を示す。
【0039】
かかる構成により、放電生成用電極、低周波通過フィルタ、直流電源に流れる平均電流は非常に小さくなり、各部の容量を必要以上に大きくする必要がなくなる。
【0040】
本実施例においても、放電用周波数および被加工試料に印加する周波数は、上述の第1の実施例で説明した場合と同様に、適用される。また、シャワープレートの材質およびプラズマ生成制御用ソレノイドコイルの有無に関しても、上述の第1の実施例で説明した場合と同様に適用される。
【0041】
以上詳述したように、本発明では、被加工試料と対向する位置に配置され、放電生成用高周波電源が接続される放電生成用電極に、放電生成用高周波電源の周波数に対して高インピーダンスで、かつ直流的に低抵抗でアースと接続される低周波通過フィルタを接続するか、または直流的に低抵抗でアースと接続される低周波通過フィルタとそれに直列に挿入された直流電源を接続する。このように、直流的に低抵抗でアースと接続、あるいは低抵抗でアースと接続される線路に直流電源を直列に挿入することにより、被加工試料に高周波電圧を印加した際の、被加工試料の平均電位の負側へのシフト量が増加し、被加工試料に印加する高周波電圧によるプラズマ電位の正側へのシフト量が抑制される。プラズマ電位の正側へのシフト量が抑制されることで、アース電位である真空容器壁へのプラズマからのイオンの入射エネルギーが抑制され、真空容器壁のスパッタリングが抑制される。かかる効果により、真空容器壁スパッタリングに伴う被加工試料への汚染や異物発生およびランニングコストの増加という従来における課題が解決される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例1の基本構成を説明する図。
【図2】本発明を適用しない場合における被加工試料面の電圧波形(a)とプラズマ電位の時間変動(b)を示す図。
【図3】本発明による場合における被加工試料面の電圧波形(a)およびプラズマ電位の時間変動(b)を示す図。
【図4】本発明で用いる低周波通過フィルタの具体例(a)〜(c)を示す図。
【図5】本発明の実施例2の基本構成を説明する図。
【図6】本発明の実施例2における被加工試料面の電圧波形(a)およびプラズマ電位の時間変動(b)を示す図。
【図7】本発明の実施例3の基本構成を説明する図。
【図8】本発明の実施例3における被加工試料面の電圧波形(a)およびプラズマ電位の時間変動(b)を示す図。
【符号の説明】
【0043】
1…放電生成用電極、2…放電用高周波電源、3…低周波通過フィルタ、4…被加工試料、5…被加工試料設置手段、6…高周波電源、7…シャワープレート、8…真空容器、9…ガス導入手段、10…真空容器壁、11…ソレノイドコイル、12…直流電源、13…プラズマ電位計測手段、14…直流電源制御部、15…プラズマ、16…被加工試料への印加電圧波形、17…プラズマ電位上昇の時間変化、18…プラズマ電位モニタによる直流電源制御信号、19…直流電源を非動作とした場合のプラズマ電位変化、20…放電生成用高周波電源による放電生成用高周波電圧の周波数のみにより生ずるプラズマ電位の時間変動。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内にあって、被加工試料を載置する被加工試料設置手段と、前記被加工試料設置手段上に載置された前記被加工試料と対面する位置に配置された放電生成用電極と、前記被加工試料設置手段に高周波電圧を印加するための手段と、前記放電生成用電極に放電生成用高周波電圧を印加するための手段と、前記放電生成用電極により導入される放電用高周波との相互作用で所定のガスをプラズマ化するための磁場を生成する磁場生成手段とを有し、前記放電生成用電極に、前記放電生成用高周波電圧の周波数に対して高インピーダンスで、かつ直流的に低抵抗でアースと接続される低周波通過フィルタを設けてなることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
真空容器内にあって、被加工試料を載置する被加工試料設置手段と、前記被加工試料設置手段上に載置された前記被加工試料と対面する位置に配置された放電生成用電極と、前記被加工試料設置手段に高周波電圧を印加するための手段と、前記放電生成用電極に放電生成用高周波電圧を印加するための手段と、前記放電生成用電極により導入される放電用高周波との相互作用で所定のガスをプラズマ化するための磁場を生成する磁場生成手段とを有し、前記放電生成用電極に、前記放電生成用高周波電圧の周波数に対して高インピーダンスで、かつ直流的に低抵抗でアースと接続される低周波通過フィルタと、前記低周波通過フィルタと前記アースとの間に直列に接続された直流電圧印加手段とを設けてなることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載のプラズマ処理装置において、プラズマ電位を検出し、プラズマ電位の変化に対応して前記直流電圧印加手段に印加する電圧を制御するプラズマ電位制御手段を設けてなることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載のプラズマ処理装置において、前記低周波通過フィルタが、インダクタンスであることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項5】
請求項1、2又は3に記載のプラズマ処理装置において、前記低周波通過フィルタが、前記放電生成用高周波電圧の周波数の1/4波長の長さで構成された特定の特性インピーダンスを有する導体線路であることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項6】
請求項1、2又は3に記載のプラズマ処理装置において、前記低周波通過フィルタが、接地されたインダクタンスと、前記インダクタンスの両端に対接地間で接続されたコンデンサとで構成されることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項7】
請求項1、2又は3に記載のプラズマ処理装置において、前記放電生成用高周波電圧の周波数が、50MHz以上500MHz以下であることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項8】
請求項1、2又は3に記載のプラズマ処理装置において、前記被加工試料設置手段に印加される高周波電圧の周波数が、400KHz以上15MHz以下であることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項9】
請求項1、2又は3に記載のプラズマ処理装置において、前記磁場発生手段による磁場の向きが、前記放電生成用電極および前記被加工試料設置手段の面に垂直方向の成分を有することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項10】
請求項1、2又は3に記載のプラズマ処理装置において、前記被加工試料に対面する位置に配置された前記放電生成用電極の表面に、導体または半導体材料のいずれか一方を配置してなることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項11】
請求項10に記載のプラズマ処理装置において、前記放電生成用電極の表面に配置する前記導体または半導体材料が、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、炭化シリコン、アルミニュム、ステンレス、カーボン、ガラス状カーボンのいずれか1つであることを特徴とするプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−32759(P2006−32759A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−211243(P2004−211243)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】