説明

プラズマ処理装置

【課題】コストがかからず、低いガス圧下でもムラ無く安定して、効率よくプラズマを発生し、メンテナンスも容易なプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】プラズマ発生空間34に対面した電極40と、電極40を複数枚平行に保持した電極支持部材42と、電極支持部材42に保持され互いに隣接する電極40間に対応して電極40の背面側に各々固定された複数の磁石48を有する。電極支持部材42により、電極40と磁石48を一体的に保持して成る電極ユニット32を備える。電極ユニット32を複数収容したチャンバ16と、チャンバ16内で電極支持部材42を着脱自在にガイドするガイドローラ38を備える。チャンバ16内の電極40が対面したプラズマ発生空間34内に位置しプラズマ処理が施されるワーク12を保持するチャック機構部64を備える。電極40は、冷却流体が通過可能に中空に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、放電によりプラズマを発生させるための装置であって、位相制御多電極型交流放電装置を利用して放電を行うプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマを発生させるには、対向する2つの電極の間で放電させて、プラズマを発生させる方法が一般的である。この放電形態には、直流・交流放電、高周波静電結合放電、高周波誘導磁場結合放電及びマイクロ波放電の4通りに大別されることが知られている。
【0003】
そのほか、特許文献1では、プラズマ処理を行うチャンバ内のフィールドアドミッション窓を介して時間変動する磁場を発生させて、誘導結合によりチャンバ内にプラズマを発生させ、安定的に維持する装置が開示されている。
【特許文献1】特表2003−510780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の技術の例えば直流放電では、電極表面に絶縁物などが付着すると放電できなくなり、低ガス圧力下での放電は困難であった。また、交流放電では、電源周波数によりプラズマパラメータが変動し、直流放電と同様に、電極表面に絶縁物などが付着すると放電できなくなり、低ガス圧力下での放電が難しいものであった。さらに、高周波静電結合放電、高周波誘導磁場結合放電、及びマイクロ波放電では、電源の発振・増幅および負荷との整合などにコストがかかるほか、広い領域に一様なプラズマを発生させることができなかった。
【0005】
さらに近年、大きい基板などのワークをプラズマ処理する際には、広い圧力範囲に亘って低く且つ制御可能なエネルギーを有する高密度の反応種の発生、及び基板全体に対する処理の高度な均質性が求められている。
【0006】
一方、特許文献1の装置では、構造が複雑で、コストがかかるほか、チャンバのメンテナンスの際に、電極部分を簡単に取り外すことができず、清掃が容易に行うことができなかった。
【0007】
この発明は、上記従来技術の問題に鑑みて成されたもので、コストがかからず、低いガス圧下でもムラ無く安定して、効率よくプラズマを発生し、メンテナンスも容易なプラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、プラズマ発生空間に対面した電極と、この電極を複数枚平行に保持した電極支持部材と、前記電極支持部材に保持され互いに隣接する前記電極間に対応して前記電極の背面側に各々固定された複数の磁石と、前記電極支持部材により前記電極と磁石を一体的に保持して成る電極ユニットと、この電極ユニットを収容したチャンバと、このチャンバ内で前記電極支持部材を着脱自在にガイドするガイド部材と、前記チャンバ内の前記電極が対面したプラズマ発生空間内に位置しプラズマ処理が施されるワークを保持するチャック機構部とを備えたプラズマ処理装置である。
【0009】
前記電極は、冷却流体が通過可能に中空に形成され、前記電極支持部材は前記冷却流体が流出入する接続部を備え、この接続部が前記チャンバの流出入口に接続可能に設けられている。前記接続部内には、前記電極支持部材の取り外し時に内部の流体を止める弁を備える。
【0010】
前記チャック機構部は、前記チャンバ外の駆動装置に連結され、前記プラズマ発生用の空間内を往復運動可能に設けられている。さらに、前記チャック機構部は、前記チャンバ外の駆動装置に連結され、チャックを開閉可能に設けられている。
【0011】
さらに、前記チャック機構部は、前記チャンバ外上部の駆動装置に連結され、前記電極が対面した空間は、垂直方向に形成され、前記ワークを垂直方向に前記チャック機構部により保持して、プラズマ処理を行う。
【発明の効果】
【0012】
この発明のプラズマ処理装置によれば、コストがかからず、低いガス圧下でもムラ無く安定し、効率よくプラズマを発生可能に形成され、電極ユニットが簡単に脱着可能なため、メンテナンスの際の掃除も容易なものである。
【0013】
また電極を冷却可能に形成することにより、電極の反りや変形を防止することができる。さらに、ワークを往復運動可能に保持することにより、処理ムラなく均一な処理が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明のプラズマ処理装置の一実施形態について、図1〜図10を基にして説明する。この実施形態のプラズマ処理装置10により生成するプラズマは、気体分子が励起され、電離状態が発生し、荷電種であるイオンや電子及び中性種であるラジカルなどの集団である。そして生成されたプラズマにより、基板などのワーク12に付着した有機物の分解や滅菌、表面改質、金属酸化物の除去、薄膜形成など種々の用途に使用されている。
【0015】
この実施形態のプラズマ処理装置10は、図1に示すように、アルミ型材や鋼材から形成された矩体18に、箱状の筐体14が取り付けられ、金属製の長箱形に形成されたチャンバ16が、矩体18に固定されて筐体14内に設けられている。また、矩体18には、チャンバ16内へガスを吹き込む装置や真空ポンプ、電源装置などが固定されている。その他、矩体18底部には、移動用の自在輪及び固定具が設けられている。
【0016】
チャンバ16には、図2に示すように、筐体14の一側面側に位置して電気的接点となる複数のコンタクトプローブ20が等間隔に設けられている。コンタクトプローブ20は、チャンバ16の一側面16aを貫通して露出し、接点がチャンバ16内に突出している。チャンバ16の一側面16aと対向する他の側面16bには、チャンバ16内を目視可能に形成された覗き窓22が設けられ、例えば等間隔に上下方向4箇所に5列設けられている。チャンバ16の上部及び底部の筐体14の一側面位置には、チャンバ16内のガスを排気する排気口24が所定間隔で形成されている。また、チャンバ16の上面及び底面の中央近傍にはガス流入口26が設けられている。
【0017】
チャンバ16の一側面16a側の底面端部には、冷却水流出口28が設けられ、チャンバ16の他側面16b側には、冷却水流入口30がそれぞれ設けられている。また、チャンバ16の各側面16a,16bには、チャンバ16側の当接面に図示しないシール材が設けられている。
【0018】
チャンバ16内には、図3、図5に示すような厚板状に形成された電極ユニット32が、図1に示すように一定の隙間のプラズマ発生空間34を空けて、所定間隔に複数装着されている。この電極ユニット32は、その底部に図4に示すように、チャンバ16底面に回転自在に当接する回動自在の複数の受けローラ36が設けられている。また、電極ユニット32の上下端部側面には、チャンバ16内壁に回転自在に設けられたガイド部材であるガイドローラ38が当接し、側面方向から支持されている。
【0019】
電極ユニット32は、図5に示すように、断面が扁平な長方形状で表面が平らな角状パイプから形成された電極40が、電極支持部材42に螺子止めされて形成されている。そして、表面側に4枚ずつ電極40が等間隔に並べられて、1組の電極群46が形成されている。さらに、この電極群46を等間隔に上下方向に4列一体的に重ねて、一組の電極ユニット32を形成している。さらにプラズマ発生空間34を挟んで電極40が対面するように電極ユニット32の背面同士が接するように配置されている。そして、図2に示すように、各電極ユニット32の電極40の端面が、それぞれがチャンバ16の一側面16aに設けられたコンタクトプローブ20に圧接して接続可能に形成されている。
【0020】
各電極ユニット32の電極40の背面側には、隣接する各電極40間の隙間に対応して、磁石48がそれぞれ電極支持部材42に固定されて設けられている。この磁石48は、図2、図3に示すように、電極40の長手方向に長尺な細い板状に形成され、互いに同極又は異極の磁極がプラズマ発生空間34を挟んで対向している。磁石48の長さは、電極40の約1/2で、電極40の長手方向中央付近に2つに分割された状態に配置されている。
【0021】
電極40の長手方向両端付近の背面側には、図2、図3に示すように、電極ユニット32の電極支持部材42を垂直方向に貫通した冷却水パイプ50がそれぞれ設けられている。この冷却水パイプ50の両端部に連通して、図2、図6に示すように、チャンバ16正面側には、冷却水流出口接続部52が設けられ、チャンバ16裏面側には、冷却水流入口接続部54が設けられている。冷却水流出口接続部52及び冷却水流入口接続部54は、チャンバ16上部及び底部の、冷却水流出口28及び冷却水流入口30とそれぞれ接続されて、連通可能に形成されている。冷却水流出口28及び冷却水流入口30の当接面にはシール材が設けられ、冷却水流入口接続部52及び冷却水流出口接続部54とそれぞれが密着可能に形成されている。
【0022】
電極ユニット32の各電極40端部近傍には、冷却水パイプ50に設けられた連結部56と電極40の中空部40aが、液密状態で連通している。また、冷却水流出口接続部52及び冷却水流入口接続部54には、電極ユニット32をチャンバ16から脱着する際に、冷却水パイプ50の冷却水漏れを防止する弁58が内設されている。弁58は図示しないバネ等により閉方向に付勢されている。そのほか、電極ユニット32中央には、プラズマ発生空間34に連通したガス流入パイプ60が形成され、その両端部には、ガス流入口接続部62が設けられている。
【0023】
チャンバ16内に収納された各電極ユニット32間に形成されたプラズマ発生空間34の上部には、図2、図5に示すように、ワーク12を狭持可能に形成されたチャック機構部64が設けられている。チャック機構部64は、図9,図10で示すように、チャンバ16上部を貫通状態に設けられた2本の支持軸66の端部に接続されている。支持軸66は、チャンバ16に形成された軸受け68により軸方向に摺動可能に挿通され、軸受け68に設けられたシール材により、チャンバ16内は密閉状態に保持されている。
【0024】
チャンバ16の外側に位置する支持軸66の端部は、図7、図8に示すように、それぞれ駆動装置であるエアシリンダ70に連結されている。また、支持軸66には、同軸状に操作軸72が摺動可能に嵌挿され、操作軸72の一方の端部は、エアシリンダ70内のピストン74に連結されている。さらに、他方の下端部は円錐状に形成されて押圧部72aが設けられている。各エアシリンダ70は、板状の連結駆動部材76により連結され、連結駆動部材76の中央位置にはクランク部78に連結されている。そして、クランク部78に駆動装置であるモータ80が接続され、各支持軸66を同時に上下動可能に形成されている。
【0025】
また、図8に示すように、エアシリンダ70により、操作軸72が上下動可能に設けられ、押圧部72aにより一対のチャック64a後端部が互いに開方向に押圧されると、図9、図10に示すように、チャック64aは結合軸64bを中心に閉方向に揺動可能に形成されている。また、チャック64aにはバネなどの弾性体82が内蔵され、押圧部72aが退避すると、開方向へチャック64aが揺動するように弾性的に付勢されている。
【0026】
次に、このプラズマ処理装置10の動作について説明する。まず、図示しない搬送装置により、基板などのワーク12が、チャンバ16に装着された各電極ユニット32間のプラズマ発生空間34に挿入される。そして、チャック64aが開状態で、モータ80によりチャック機構部64が下降し、この後エアシリンダ70により操作軸72が下降して、チャック64aを閉じ、ワーク12端部を挟み込む。
【0027】
続いて、図示しないチャンバ16の扉を閉じて密閉状態にし、プラズマ処理装置10を起動して、真空ポンプなどによりチャンバ16内が真空状態にされ、ガスが流入される。この後、電極40により放電が開始されるとプラズマが発生し、プラズマ処理が開始される。この際、チャック機構部64は、モータ80とクランク部78により、支持軸66を介して上下動し、狭持されたワーク12は上下に揺動される。ワーク12のプラズマ処理が終了すると、プラズマ処理装置10を停止させて図示しない扉を開け、エアシリンダ70により操作軸72を上昇させると、チャック64aが開口して、ワーク12が解放される。同時に、図示しない搬送装置によりワーク12を保持し、チャンバ16から取り出される。
【0028】
この実施形態のプラズマ処理装置10によれば、コストがかからず、低いガス圧下でも安定に放電が維持され、プラズマ処理中にワーク12が揺動されるため、ムラ無く安定して均一にプラズマ処理が施されるものである。また、電極ユニット32が簡単に脱着可能なため、メンテナンスの際の掃除等も容易で、安定して効果的な処理が可能なものである。
【0029】
なお、この発明のプラズマ処理装置は上記実施形態に限定されるものではなく、電極ユニットの形状は適宜設定可能なものであり、電極間のプラズマ発生空間に挿入されたワークを往復運動させる機構やチャック機構部も適宜設定可能なものである。また、チャックの大きさは、ワークを挟持できれば形状や素材など適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の一実施形態のプラズマ処理装置のチャンバ内を示す正面図である。
【図2】この実施形態のプラズマ処理装置のチァンバ内を示す概略側面図である。
【図3】この実施形態のプラズマ処理装置の電極ユニットを示す側面図である。
【図4】この実施形態のプラズマ処理装置のチャンバに収納された電極ユニット下部を示す部分拡大図である。
【図5】この実施形態のプラズマ処理装置のチャンバに収納された電極ユニットの正面図である。
【図6】この実施形態のプラズマ処理装置の冷却水流入口及び冷却水流出口を示す部分拡大縦断面図である。
【図7】この実施形態のプラズマ処理装置のチャンバ上部を示す部分側面図である。
【図8】この実施形態のプラズマ処理装置のエアシリンダ及びチャック機構部を示す部分拡大縦断面図である。
【図9】この実施形態のプラズマ処理装置のチャック機構部を示す部分拡大縦断面図である。
【図10】この実施形態のプラズマ処理装置のチャックを示す部分拡大側面図である。
【符号の説明】
【0031】
10 プラズマ処理装置
12 ワーク
16 チャンバ
28 冷却水流出口
30 冷却水流入口
32 電極ユニット
34 プラズマ発生空間
36 受けローラ
38 ガイドローラ
40 電極
42 電極支持部材
48 磁石
50 冷却水パイプ
52 冷却水流出口接続部
54 冷却水流入口接続部
58 弁
64 チャック機構部
64a チャック
66 支持軸
70 エアシリンダ
72 操作軸
78 クランク部
80 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ発生空間に対面した電極と、この電極を複数枚平行に保持した電極支持部材と、前記電極支持部材に保持され互いに隣接する前記電極間に対応して前記電極の背面側に各々固定された複数の磁石と、前記電極支持部材により前記電極と磁石を一体的に保持して成る電極ユニットと、この電極ユニットを収容したチャンバと、このチャンバ内で前記電極支持部材を着脱自在にガイドするガイド部材と、前記チャンバ内の前記電極が対面したプラズマ発生空間内に位置しプラズマ処理が施されるワークを保持するチャック機構部とを備えたことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記電極は、冷却流体が通過可能に中空に形成され、前記電極支持部材は前記冷却流体が流出入する接続部を備え、この接続部が前記チャンバの流出入口に接続可能に設けられた請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記接続部内には、前記電極支持部材の取り外し時に内部の流体を止める弁を備えた請求項2記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記チャック機構部は、前記チャンバ外の駆動装置に連結され、前記プラズマ発生用の空間内を往復運動可能に設けられている請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記チャック機構部は、前記チャンバ外の駆動装置に連結され、チャックを開閉可能に設けられている請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記チャック機構部は、前記チャンバ外上部の駆動装置に連結され、前記電極が対面した空間は、垂直方向に形成され、前記ワークを垂直方向に前記チャック機構部により保持して、プラズマ処理を行う請求項4または5記載のプラズマ処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−193997(P2007−193997A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−9185(P2006−9185)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(591124721)立山マシン株式会社 (36)
【Fターム(参考)】