説明

プラズマ発生装置およびスペクトル制御方法

【課題】プラズマ発生に基づく放射光をより効率的に取り出すことが可能なプラズマ発生装置を提供する。
【解決手段】コイル6A,6Bによって、初期プラズマP1が生成される以前から、Z軸方向に沿って磁場Bzを印加する。また、磁場調整部7によって、この印加磁場Bzの強度を調整する。プラズマの収縮速度が緩和されると共に、その緩和の度合いが調整可能となる。よって、プラズマの最大収縮持続時間が長くなる度合いも、任意に調整可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピンチ放電方式を用いたプラズマ発生装置およびスペクトル制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノスケールの微細加工のためのリソグラフィ用の光源や、生物を生きたまま高解像度で観察可能な軟X線顕微鏡用の光源として、例えばZピンチ放電方式などのピンチ放電方式を用いたプラズマ光源の開発が進められている。このZピンチとは、ターゲットガス(低圧ガス)が封入された放電管の軸方向(Z方向)に大電流を流した場合に、この電流が作り出す方位角方向の自己磁場によって、プラズマ柱自身が圧縮される(圧縮プラズマが発生する)現象のことである。
【0003】
図7(A)〜(C)は、従来のZピンチ放電方式による収縮プラズマの発生過程を表したものである(例えば、非特許文献1参照)。この発生過程では、まず、生成された環状の初期プラズマP101において、Z軸方向に大電流Izを流すと、この初期プラズマP101の中心方向へ向けて電磁力Frが発生する(図7(A))。よって、初期プラズマP101は次第にZ軸上に収縮され(図7(B)のプラズマP102)、最終的には200〜300μmの大きさに収縮され、高温かつ高エネルギー密度の最大収縮状態となる(図7(C))。このようにして、微小かつ高エネルギー密度の収縮プラズマP103が発生し、この収縮プラズマP103の発生に基づいて、極短波長(主に真空紫外線からX線に至る波長領域)の光が放射されるようになっている。
【0004】
【非特許文献1】Waisman, Eduardo、他3名“Fast Bz stabilization for uniform fill z-pinch; theoretical study”、[online]、The NASA Astrophysics Data System、1998年11月、[2004年4月20日検索]、インターネット<URL: http://adsabs.harvard.edu/cgi-bin/nph-bib#query?bibcode=1998APS..DPP.B1F10W&db#key=PHY&data#type=HTML&format=>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このようなZピンチ放電方式などのピンチ放電方式による光放射では、プラズマ発生に基づく放射光のスペクトル特性を制御することはできないという問題があった。したがって、例えば特定の波長領域の強度だけを選択的に向上させたいような場合であっても、スペクトル全体として強度を向上させる必要が生じ、装置への投入エネルギーが不必要に増大してしまっていた。
【0006】
このようにして、放射光のスペクトル特性を制御することができない従来の技術では、プラズマ発生に基づく放射光を効率よく取り出すことは困難であった。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、プラズマ発生に基づく放射光をより効率的に取り出すことが可能なプラズマ発生装置およびスペクトル制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1のプラズマ発生装置は、初期プラズマを生成すると共にこの初期プラズマを所定の軸線上に収縮させることにより、収縮プラズマを発生させるプラズマ発生部と、初期プラズマが生成される以前から上記軸線に沿って磁場を印加する磁場印加部と、この磁場印加部により印加する磁場の強度を調整する磁場強度調整手段とを備えたものである。
【0009】
ここで、「初期プラズマ」とは、ターゲットガスが絶縁破壊することにより生成される円環状のプラズマのことであり、収縮プラズマとなる前のプラズマ状態を意味する。
【0010】
本発明のスペクトル制御方法は、初期プラズマを生成すると共にこの初期プラズマを所定の軸線上に収縮させることにより、収縮プラズマを発生させ、初期プラズマが生成される以前から上記軸線に沿って磁場を印加すると共にこの印加磁場の強度を調整することにより、収縮プラズマに基づく放射光のスペクトル特性を制御するようにしたものである。
【0011】
本発明の第1のプラズマ発生装置およびスペクトル制御方法では、初期プラズマが生成される以前から所定の軸線に沿って磁場が印加されているため、初期プラズマが収縮される際にこの磁場による磁束が収縮プラズマの中心方向に束ねられ、収縮されるにつれて中心部分の磁束密度が急激に高まる。ここで、電磁力は磁束密度の2乗に比例することから、プラズマが収縮されるにつれてこの収縮方向とは逆向き(外向き)の電磁力が強まり、その結果、プラズマの収縮の度合い(収縮速度)が緩和され、収縮プラズマにおける最大収縮状態の持続時間(最大収縮持続時間)が長くなる。また、この収縮速度の緩和の度合いは、印加する磁場の強度により調整可能であることから、最大収縮持続時間が長くなる度合いも、任意に調整可能となる。
【0012】
本発明の第2のプラズマ発生装置は、初期プラズマを生成すると共にこの初期プラズマを所定の軸線上に収縮させることにより、収縮プラズマを発生させるプラズマ発生部と、初期プラズマの収縮過程でこの初期プラズマの収縮方向とは逆方向に電磁力が発生するように、磁場を印加する磁場印加部と、この磁場印加部により印加する磁場の強度を調整する磁場強度調整手段とを備えたものである。
【0013】
本発明の第2のプラズマ発生装置では、初期プラズマの収縮過程でこの初期プラズマの収縮方向とは逆方向に電磁力が発生するようにして、磁場が印加されるため、この逆方向の電磁力によって、プラズマの収縮速度が緩和され、収縮プラズマにおける最大収縮持続時間が長くなる。また、この収縮速度の緩和の度合いは、印加する磁場の強度により調整可能であることから、最大収縮持続時間が長くなる度合いも、任意に調整可能となる。
【0014】
本発明の第1のプラズマ発生装置では、上記磁場印加部がコイルを含むと共に、上記磁場強度調整手段がこのコイルに流す電流の大きさを調整することにより、磁場の強度を調整するようにしてもよい。このように構成した場合、このコイルに流す電流の調整によって、プラズマの収縮速度における緩和の度合いが調整される。
【0015】
本発明の第1のプラズマ発生装置では、上記磁場強度調整手段が、収縮プラズマに基づく放射光において特定の波長成分の強度が選択的に増加するように、磁場の強度を調整するようにするのが好ましい。
【0016】
本発明の第1のプラズマ発生装置では、上記磁場印加部により印加する磁場を、所定強度の直流磁場としてもよく、また、パルス磁場としてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1のプラズマ発生装置またはスペクトル制御方法によれば、初期プラズマが生成される以前から所定の軸線に沿って磁場を印加すると共にこの印加磁場の強度を調整するようにしたので、プラズマの収縮速度を緩和させると共にその緩和の度合いを調整することができ、これにより収縮プラズマの最大収縮持続時間も調整できることから、プラズマ発生に基づく放射光をより効率的に取り出すことが可能となる。
【0018】
また、本発明の第2のプラズマ発生装置によれば、初期プラズマの収縮過程で初期プラズマの収縮方向とは逆方向に電磁力が発生するように磁場を印加するようにしたので、この逆方向の電磁力によってプラズマの収縮速度を緩和させると共にその緩和の度合いを調整することができ、これによりプラズマの最大収縮持続時間が長くなる度合いも調整できることから、プラズマ発生に基づく放射光をより効率的に取り出すことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施の形態に係るプラズマ発生装置の構成を断面斜視図で表すものである。このプラズマ発生装置1は、Zピンチ放電方式を用いて収縮プラズマPを発生させると共にこの収縮プラズマに基づく光(放射光L)を放射するプラズマ光源であり、コンデンサ2と、このコンデンサ2に接続されると共に互いに対向する一対の環状電極(陰極31および陽極32)と、これら陰極31と陽極32との間に配置された電極支持体4と、コンデンサ2と陰極31および陽極32との間を接続または切断するスイッチSWと、陰極31および陽極32を挟むようにして配置された一対の環状コイル(コイル6A,6B)と、これらコイル6A,6Bをそれぞれ駆動する駆動電源5と、この駆動電源5に接続された磁場調整部7とから構成されている。なお、本発明の一実施の形態に係るスペクトル制御方法は、本実施の形態に係るプラズマ発生装置によって具現化されるので、以下、併せて説明する。
【0021】
コンデンサ2は、図示しない高圧電源に基づいて高圧の電荷(後述する投入エネルギーE0)を充電しておく部分である。また、陰極31および陽極32はそれぞれ電極として機能しており、コンデンサ2からスイッチSWを介して、これらの電極間に投入エネルギーE0に基づく電圧を印加することにより、例えばキセノン(Xe)などからなるターゲットガスGを放電させ、これら環状電極の形状に応じた環状のプラズマP(後述する初期プラズマP1)を生成するものである。また、これら陰極31および陽極32は、詳細は後述するが、生成したこのプラズマPに対して電極間の方向(後述するZ軸方向)に10〜50kAの大電流を流すことにより(Zピンチ放電方式)、収縮されたプラズマ(後述する収縮プラズマP2,P3)を発生させるようになっている。ここで、「ピンチ」とは、ターゲットガスが封入された放電管において所定の軸線に沿って大電流を流した場合に、この電流が作り出す方位角方向の自己磁場により、初期プラズマ自身が圧縮される(圧縮プラズマが発生する)現象のことを意味する。なお、これら陰極31および陽極32は、絶縁性の電極支持体4により互いに電気的に隔離されると共に支持されるようになっている。また、陰極31、陽極32および電極支持体4はそれぞれ、ターゲットガスGが封入された真空容器内に配置されるようになっている。
【0022】
コイル6A,6Bはそれぞれ、駆動電源5から供給される電流に基づいて、陰極31と陽極32との間(後述するZ軸方向)に磁場B1,B2を印加するものである。また、詳細は後述するが、これら磁場B1,B2は、プラズマPが生成される以前から印加されるようになっており、これによってプラズマPの収縮の度合い(後述する収縮速度)が緩和されるようになっている。なお、これら磁場B1,B2は、所定強度の直流磁場、あるいはパルス磁場のどちらであってもよい。
【0023】
磁場調整部7は、駆動電源5を介してコイル6A,6Bに流れる電流を調整することにより、これらコイル6A,6Bから印加される磁場B1,B2の強度をそれぞれ調整するものである。このようにして磁場B1,B2の強度を調整することにより、詳細は後述するが、上記したプラズマPの収縮速度における緩和の度合いを制御できるようになっている。
【0024】
ここで、コンデンサ2、スイッチSW、陰極31、陽極32および電極支持体4が、本発明における「プラズマ発生部」の一具体例に対応する。また、駆動電源5およびコイル6A,6Bが本発明における「磁場印加部」の一具体例に対応し、磁場調整部7が本発明における「磁場調整手段」の一具体例に対応する。
【0025】
次に、図1〜図3を参照して、このような構成のプラズマ発生装置1の動作について、詳細に説明する。ここで、図2は、プラズマPの収縮過程(収縮プラズマの発生過程)を模式的に表したものであり、図3は、プラズマ半径と時間との関係を表したものである。
【0026】
まず、このプラズマ発生装置1では、プラズマPを生成する以前から、陰極31と陽極32との間に、磁場B1,B2が印加される。具体的には、磁場調整部6による制御に基づいて、駆動電源5からコイル6A,6Bへ電流が供給され、これにより陰極31と陽極32との間に磁場B1,B2が印加される。
【0027】
次いで、磁場B1,B2が印加された状態のもとでスイッチSWがオン状態になると、高圧の電荷が充電されたコンデンサ2によって、陰極31と陽極32との間に、投入エネルギーE0に基づく高圧の電圧が印加される。そしてこの電圧に基づいてターゲットガスGが放電すると、電極支持体4の表面付近において、図2(A)に示したような環状の初期プラズマP1が生成される。
【0028】
次いで、図2(A)に示したように、この初期プラズマP1にZ軸方向の磁場Bz(前述の磁場B1,B2)を印加しつつ、陰極31と陽極32との間、すなわち同じくZ軸方向に10〜50kA程度の大電流を流すと、初期プラズマP1の中心方向へ電磁力Frが発生し、図2(B)に示したように、この初期プラズマPが次第にZ軸上に収縮される(収縮プラズマP2)。
【0029】
ここで、本実施の形態のプラズマ生成装置1では、この収縮プラズマP2の収縮軸方向(Z軸方向)に沿って磁場Bzが印加されているため、図2(B)に示したように、この磁場Bzによる磁束が、収縮プラズマP2の中心方向に束ねられる。よって、このプラズマが収縮されるにつれて、その中心部分の磁束密度が、急激に高まる。
【0030】
ここで、電磁力は磁束密度の2乗に比例することから、プラズマが収縮されるにつれて、この収縮方向とは逆向き(外向き)の電磁力が発生すると共にその大きさが急激に強まり、その結果、プラズマの収縮速度が緩和される。よって、例えば図3に示したように、磁場Bzを印加しない従来の場合(図中のグラフG0)におけるプラズマの最大収縮状態の持続時間T0(最大収縮持続時間)と比べて、磁場Bzを印加する本実施の形態(図中のグラフG1)におけるプラズマの最大収縮持続時間T1のほうが長くなり、言い換えると、プラズマが最大収縮状態でより安定化する。また、同じく図3に示したように、従来の場合(グラフG0)における最大収縮時のプラズマ半径と比べ、本実施の形態(グラフG1)における最大収縮時のプラズマ半径のほうが、大きくなっている。すなわち、本実施の形態では、従来と比べてプラズマの収縮速度が緩和され、これにより最大収縮持続時間もより長くなる。
【0031】
また、磁場Bzの強度、すなわちコイル6A,6Bに流す電流の大きさは、磁場調整部7によって調整可能であるため、収縮速度の緩和の度合いが印加する磁場Bzの強度によって任意に調整可能となり、その結果、最大収縮持続時間が長くなる度合いも任意に調整可能となる。
【0032】
このようにして、図2(C)に示したように、最終的にプラズマは、従来と比べ収縮の度合いが緩和化されると共にその緩和の度合いが調整された最大収縮状態(収縮プラズマP3)となり、微小かつ高エネルギー密度の収縮プラズマP3が発生する。そしてこの収縮プラズマP3の発生に基づいて、極短波長(主に真空紫外線からX線に至る波長領域)の光(放射光L)が放射される。
【0033】
次に、図4〜図6を参照して、本実施の形態に係るプラズマ発生装置の具体的な実施例について説明する。ここで、図4は、磁場Bzの強度と放射光L(極端紫外領域の放射光の場合)の発光強度との関係の一例をスペクトル特性で表したものであり、図5は、磁場Bzの強度と、波長13.5nmの光出力との関係の一例(コンデンサ2に蓄えられた投入エネルギーがE0=15Jの場合)を表したものであり、図6は、磁場Bzの有無による収縮プラズマの変化の一例を説明するためのプラズマ中心部の写真であり、図6(A)は約300(Gauss)の磁場Bzを印加した場合を、図6(B)は磁場Bzを印加しない従来の場合を、それぞれ示している。なお、この実施例では、ターゲットガスGとして、キセノン(Xe)を用いている。
【0034】
まず、図4に示したように、磁場Bzを印加しない従来の場合と比べ、磁場Bzを印加する本実施の形態のほうが、放射光Lの発光強度がより大きくなっていることが分かる。これは、前述のように本実施の形態では、従来と比べてプラズマの最大収縮持続時間が長くなり、最大収縮状態でより安定化するためである。よって、プラズマの収縮過程において磁場Bzを印加することにより、放射光Lの発光強度が高まり、より効率的に光を放射できることが分かる。
【0035】
また、印加する磁場Bzの強度に応じて放射光Lの発光強度も変化していることから、この磁場Bzの強度、すなわちコイル6A,6Bに流す電流の大きさを調整することにより、放射光Lのスペクトル特性、具体的には発光強度を制御できることが分かる。より具体的には、例えば図5に示したように、印加する磁場Bzの強度に応じて光出力(放射光Lの発光強度)の最適値が存在する場合には、この最適値となるように、磁場Bzの強度を調整することができる。なお、図5の場合の例では、磁場Bzの強度を約300(Gauss)程度に設定することで、波長13.5nmの光出力を最大にすることができることが分かる。
【0036】
さらに、印加する磁場Bzの強度に応じて増加する発光強度の割合が、放射光Lの波長によって若干異なっているため(例えば図4の場合の例では、約11nm程度の波長領域や、約13.5nm程度の波長領域において、増加の割合が大きくなっている)、特定の波長領域における放射光の発光強度が他の波長領域における放射光の発光強度と比べてより増加するように磁場Bzを調整することにより、目標波長の放射光の発光強度を選択的に増加させることも可能であることが分かる。
【0037】
また、図6(A)および図6(B)を比較すると、磁場Bzを印加しない従来の場合(図6(B))では収縮プラズマの形状が楕円形となっている一方、磁場Bzを印加する本実施例の場合(図6(A))の場合では、収縮プラズマの形状が円形になっており、本実施例のほうがプラズマがより均一に収縮され、より安定化していることが分かる。また、従来の場合と比べ、本実施例の場合のほうが収縮プラズマが若干大きくなっており(直径270μmに対して直径350μm)、実際に最大収縮の度合いが緩和化されていることが分かる。
【0038】
以上のように、本実施の形態では、初期プラズマP1が生成される以前からコイル6A,6BによってZ軸方向に沿って磁場Bzを印加すると共に、磁場調整部7によってこの印加磁場Bzの強度を調整するようにしたので、プラズマの収縮速度を緩和させると共にその緩和の度合いを調整することができ、これによりプラズマの最大収縮持続時間が長くなる度合いも調整できることから、ピンチ放電方式を用いた光放射において、プラズマ発生に基づく放射光Lをより効率的に取り出すことが可能となる。
【0039】
また、磁場強度調整部7により、印加する磁場Bzの強度を調整するようにしたので、放射光Lのスペクトル特性を制御することが可能となる。具体的には、プラズマの収縮の度合い(収縮速度)を調整することにより、放射光Lの強度を全体的に増加させることや、目標波長の光の強度を選択的に増加させることが可能となる。
【0040】
また、駆動電源5およびコイル6A,6Bにより磁場Bzを印加するようにしたので、磁場調整部7が駆動電源5を介してこれらコイル6A,6Bに流れる電流を調整することにより、実際に磁場Bzの強度を調整することが可能となる。
【0041】
また、印加する磁場Bzの強度調整により、プラズマが収縮する際のエネルギー状態(密度・温度)を制御することが可能なので、例えば発光粒子の数を増やして投入エネルギーを増加させるなどすることことなく、目標波長の光の強度を選択的に増加させることができる。よって、効率よく目標波長の光の強度を増加させることが可能となる。
【0042】
また、プラズマの安定性を向上させることができるので、プラズマの流体不安定性に起因する、余分な高速イオンの発生を低減させることが可能となる。
【0043】
また、磁場Bzを印加することにより、プラズマ中の荷電粒子が螺旋運動をするようになるので、プラズマ抵抗が増加し、プラズマをより効率的に加熱することが可能となる。
【0044】
さらに、放射光Lの強度を高めることができるので、高効率で極短波長の放射光を発生させることができる。よって、例えばこの放射光Lをナノスケールの半導体等の微細加工用に利用するような場合には、そのような半導体等の製造コストを低減させることが可能となる。また、例えばこの放射光Lを軟X線顕微鏡に適用するような場合には、従来主にシンクロトロン(SOR)を用いて行っていた生体顕微鏡による研究を、小型の軟X線顕微鏡によって行うことができるようになり、そのような研究を小規模な研究室等によっても行うことが可能となる。
【0045】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0046】
例えば、上記実施の形態では、コイル6A,6Bに流れる電流を調整して磁場Bzの強度を調整する場合について説明したが、この磁場Bzの強度調整方法としては、この方法には限られない。具体的には、例えば永久磁石を用いて磁場Bzの最適化を行うことにより、強度調整を行う方法などが挙げられる。
【0047】
また、上記実施の形態では、初期プラズマP1が生成される以前から収縮プラズマの最大収縮時まで、磁場Bzを印加する場合について説明したが、最大収縮時よりも前で磁場Bzの印加を止めるようにしてもよい。このようにして磁場Bzの印加を途中で止めた場合でも、初期プラズマP1が生成される時点で印加されているのであれば、磁場Bzは継続してプラズマ内に束ねられていることから、上記実施の形態と同様の効果を得ることが可能である。
【0048】
さらに、上記実施の形態では、ピンチ放電方式の一例として、Zピンチ放電方式によるプラズマ発生の場合について説明したが、本発明は、例えばプラズマフォーカス放電方式やθピンチ放電方式など、他のピンチ放電方式によるプラズマ発生の場合にも適用することが可能であり、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係るプラズマ発生装置およびスペクトル制御方法は、例えば、ナノスケールの微細加工のためのリソグラフィ用の光源や、生物を生きたまま高解像度で観察可能な軟X線顕微鏡用の光源など、極短波長(主に真空紫外線からX線に至る波長領域)の放射光を用いるあらゆる産業分野で利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施の形態に係るプラズマ発生装置の構成を表す断面斜視図である。
【図2】本実施の形態に係る収縮プラズマの発生過程を説明するための模式図である。
【図3】収縮プラズマにおける最大収縮持続時間の一例を説明するための特性図である。
【図4】印加磁場の強度と放射光の発光強度との関係の一例を説明するための特性図である。
【図5】印加磁場の強度と特定波長の光出力との関係の一例を説明するための特性図である。
【図6】印加磁場の有無による収縮プラズマの変化の一例を説明するための特性写真である。
【図7】従来のプラズマ発生装置による収縮プラズマの発生過程を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0051】
1…プラズマ発生装置、2…コンデンサ、31…陰極、32…陽極、4…電極支持体、5…駆動電源、6A,6B…コイル、7…磁場調整部、SW…スイッチ、G…ターゲットガス、P…プラズマ、P1……初期プラズマ、P2,P3…収縮プラズマ、B1,B2,Bz…印加磁場、Iz…電流、Fr…電磁力、L…放射光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
初期プラズマを生成すると共にこの初期プラズマを所定の軸線上に収縮させることにより、収縮プラズマを発生させるプラズマ発生部と、
前記初期プラズマが生成される以前から前記軸線に沿って磁場を印加する磁場印加部と、
前記磁場印加部により印加する磁場の強度を調整する磁場強度調整手段と
を備えたことを特徴とするプラズマ発生装置。
【請求項2】
前記磁場印加部がコイルを含み、
前記磁場強度調整手段は、前記コイルに流す電流の大きさを調整することにより、前記磁場の強度を調整する
ことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ発生装置。
【請求項3】
前記磁場強度調整手段は、前記収縮プラズマに基づく放射光において特定の波長成分の強度が選択的に増加するように、前記磁場の強度を調整する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプラズマ発生装置。
【請求項4】
前記磁場印加部により印加する磁場が、所定強度の直流磁場である
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のプラズマ発生装置。
【請求項5】
前記磁場発生部により印加する磁場が、パルス磁場である
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のプラズマ発生装置。
【請求項6】
初期プラズマを生成すると共にこの初期プラズマを所定の軸線上に収縮させることにより、収縮プラズマを発生させるプラズマ発生部と、
前記初期プラズマの収縮過程でこの初期プラズマの収縮方向とは逆方向に電磁力が発生するように、磁場を印加する磁場印加部と、
前記磁場印加部により印加する磁場の強度を調整する磁場強度調整手段と
を備えたことを特徴とするプラズマ発生装置。
【請求項7】
初期プラズマを生成すると共にこの初期プラズマを所定の軸線上に収縮させることにより、収縮プラズマを発生させ、
前記初期プラズマが生成される以前から前記軸線に沿って磁場を印加すると共にこの印加磁場の強度を調整することにより、前記収縮プラズマに基づく放射光のスペクトル特性を制御する
ことを特徴とするスペクトル制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−156359(P2006−156359A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−312739(P2005−312739)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】