説明

プラズマ衝突による周期的微細構造物質生成捕集方法

【課題】周期的微細構造を有する物質を高純度で生成することができる技術を提供
【解決手段】レーザー光LL1,LL2はそれぞれ、固体ターゲット51,52の湾曲面51a,52a上に照射される。これにより、アブレーションが発生し、固体ターゲット51,52の湾曲面51a,52aからプルームプラズマPP1,PP2が放出される。なお、レーザー光LL1,LL2の照射により、プルームプラズマPP1,PP2内のイオンがプルームプラズマの交差衝突部空間を通過する距離に対して、上記イオンの衝突平均自由工程が数分の1以下となるような密度と温度を持つプルームプラズマが生成される。そして、プルームプラズマPP1とプルームプラズマPP2の衝突により、周期的微細構造を有する物質(例えば、カーボンナノチューブ)が生成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ衝突により周期的微細構造を有する物質を生成捕集する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンを含有する2つのターゲットを真空チェンバー内に収容し、この2つのターゲットにそれぞれレーザービームを同時照射して、2つのプルームプラズマを生成し、さらに2つのプルームプラズマを互いに衝突させることにより、カーボンナノ物質を生成する技術が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】IFSA2009, San Francisco, The Sixth International Conference on Inertial Fusion Sciences & Applications, September 6-11, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記非特許文献1に記載の技術では、現在、有用性が実証されている周期的な微細構造を有する物質(例えば、カーボンナノチューブ)を製造することができなかった。
【0005】
本発明は、こうした問題に鑑みてなされたものであり、周期的微細構造を有する物質を高純度で生成することができる技術を提供すること、或いは、前記周期的微細構造物質にバンドギャップ等の量子特性を変調し以て巨視的特性としての電気抵抗等を変化させる置換型成分原子(例えば、カーボンナノチューブ中の炭素をホウ素に置換する)をドーピングする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載のプラズマ衝突による周期的微細構造物質生成捕集方法は、原料原子を含有する複数のターゲットを真空チェンバー内に配置する第1工程と、短パルス高エネルギービームを、複数のターゲットそれぞれに照射する第2工程と、短パルス高エネルギービームが照射された複数のターゲットのそれぞれから放出されるプルームプラズマを相互に交差衝突させることにより微細構造物質を生成する第3工程とを有する。
【0007】
そして、この周期的微細構造物質生成捕集方法では、プルームプラズマ内のイオンがプルームプラズマの交差衝突部空間を通過する距離である衝突通過距離に対して、単原子イオン同士の衝突平均自由工程が数分の1以下となるような密度と温度を持つプルームプラズマが、第2工程における短パルス高エネルギービームの照射により生成される。これにより、有限な体積を持つプルームの交差衝突部空間においてもプラズマ粒子同士の衝突平均自由行程が十分短くなる。つまり、プルームプラズマ粒子が交差衝突部空間を通過する間に十分な頻度で衝突が起る。それによって、先ずクラスター分子イオンが生成し、引き続いてそのクラスターを最小単位とするような周期的微細構造を持つ新物質を生成することができる。このとき、クラスター分子イオンが生成することで衝突頻度が、飛躍的に増大するため雪崩的に周期的微細構造物質の生成が起こる(クラスター化は分子の大型化を意味する)。
【0008】
また、請求項1に記載のプラズマ衝突による周期的微細構造物質生成捕集方法においては、請求項2に記載のように、第3工程で生成された微細構造物質の真空中飛行経路上に、複数の網目が形成されたメッシュ部材を設置するようにすることで下記原理により効率的に生成した微細構造物質を捕集することができる。
【0009】
このように構成されたプラズマ衝突による周期的微細構造物質生成捕集方法によれば、メッシュ部材の目開きより大きい微細構造物質をメッシュ部材上に捕集することができる一方、メッシュ部材の目開きより小さい微細構造物質についてはメッシュ部材を通過させることができる。すなわち、メッシュ部材の目開きより大きい微細構造物質と目開きより小さい微細構造物質とを簡便に選別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】周期的微細構造物質生成捕集装置1の構成を示す模式図である。
【図2】ターゲットへのレーザー照射様式とプルームプラズマの放出挙動を説明する図である。
【図3】周期的微細構造物質生成捕集装置1で生成されたカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡像である。
【図4】周期的微細構造物質生成捕集装置1で生成されたクラスター分子イオンの質量分析結果を示す図である。
【図5】メッシュ53bとカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態を図面とともに説明する。
図1は周期的微細構造物質生成捕集装置1の構成を示す模式図である。図2(a)はターゲットへのレーザー照射様式を説明する図、図2(b)はプルームプラズマの放出挙動を説明する図である。
【0012】
周期的微細構造物質生成捕集装置1は、図1に示すように、レーザー光を生成するレーザー生成部2と、レーザー分割部3と、線集光部4と、ターゲット収納部5とを備える。
レーザー生成部2は、YAGレーザー(例えばパワー1J、パルス幅6ns、発振周波数10Hz)を発生させた後に、固体による吸収率を上げるために3倍高調波(波長:355nm)に変換し、外部に出射する。
【0013】
またレーザー分割部3は、ビームスプリッタ31と、固定鏡32,33とを備える。これらのうちビームスプリッタ31は、レーザー生成部2から照射されたレーザー光を2方向に向けて所望の強度比(本実施形態では等強度)に分割する。そして固定鏡32は、ビームスプリッタ31で2分割された一方のレーザー光をターゲット収納部5に向けて反射し、固定鏡33は、ビームスプリッタ31で2分割された他方のレーザー光をターゲット収納部5に向けて反射する。
【0014】
また線集光部4は、シリンドリカルレンズ41,42を備える。シリンドリカルレンズ41は、固定鏡32とターゲット収納部5との間に配置され、固定鏡32で反射されたレーザー光(以下、レーザー光LL1という)を線集光し、ターゲット収納部5に向けて照射する。またシリンドリカルレンズ42は、固定鏡33とターゲット収納部5との間に配置され、固定鏡33で反射されたレーザー光(以下、レーザー光LL2という)を線集光し、ターゲット収納部5に向けて照射する。
【0015】
またターゲット収納部5は、微細構造物質の原料原子(本実施形態では炭素)を含有する固体ターゲット51,52と、ターゲット収納部5内で生成されたナノ物質を捕集する捕集基板53(図1では不図示。図2(b)を参照)と、固体ターゲット51,52および捕集基板53を収納する真空チェンバー54とを備える。
【0016】
固体ターゲット51,52は、図2(a)に示すように、湾曲面51a,52aを有するように形成されている。そして固体ターゲット51は、シリンドリカルレンズ41からのレーザー光が湾曲面51a上に照射されるように配置され、固体ターゲット52は、シリンドリカルレンズ42からのレーザー光が湾曲面52a上に照射されるように配置される。
【0017】
さらに固体ターゲット51,52はそれぞれ、線集光されたレーザー光LL1,LL2の集光方向FD1,FD2が湾曲面51a,湾曲面52aの円周方向に沿うように配置される。
【0018】
また固体ターゲット51,52はそれぞれ、図2(b)に示すように、固体ターゲット51,52へのレーザー光により生成されたプルームプラズマPP1,PP2が自己集光点CP1,CP2で自己集光するように、湾曲面51a,52aの形状が設定されている。そして固体ターゲット51,52は、自己集光点CP1と自己集光点CP2とが重なるように配置されている。以下、自己集光点CP1と自己集光点CP2とが重なる点を衝突点IPという。
【0019】
また捕集基板53は、図2(b)に示すように、平板53a上にメッシュ53bを配置した二重構造である。メッシュ53bの目開きは例えば16μmである。そして捕集基板53は、プルームプラズマPP1,PP2が合流した後に直進する方向D1(後述)に設置される。
【0020】
また真空チェンバー54は、例えばターボ分子ポンプで全圧力が10-4Pa台になるまで排気される。
このように構成された周期的微細構造物質生成捕集装置1では、まず、レーザー生成部2から照射されたレーザー光が、ビームスプリッタ31でレーザー光LL1とレーザー光LL2に分割される。そしてレーザー光LL1,LL2はそれぞれ、シリンドリカルレンズ41,42により集光方向FD1,FD2に線集光され、固体ターゲット51,52の湾曲面51a,52a上に照射される。これにより、ターゲット物質のアブレーションが誘起され、固体ターゲット51,52の湾曲面51a,52aからプルームプラズマPP1,PP2が放出される。(なおアブレーションとは、極端に高いエネルギー流束に材料が曝されたときに熱蒸発を通り越して一気にプラズマ生成が起こり、表面層原子が放出される現象を言う。)
そして、プルームプラズマPP1の自己集光点CP1とプルームプラズマPP2の自己集光点CP2が重なるように配置されているため、プルームプラズマPP1とプルームプラズマPP2は湾曲の半径が交差する点IPを含む有限体積を持つ真空中の空間で相互に交差衝突する。
【0021】
この衝突により、カーボンナノ物質が生成される。なお、この衝突は真空中で発生するため、生成されるカーボンナノ物質は高純度である。そして、生成されたカーボンナノ物質は、プルームプラズマPP1の速度ベクトルとプルームプラズマPP2の速度ベクトルとの合成ベクトルの方向D1に向かって直進し、捕集基板53に飛来捕捉される。
【0022】
捕集基板53に捕捉されるカーボンナノ物質のうち、メッシュ53bの目開きより大きいものはメッシュ53bに捕捉され、メッシュ53bの目開きより小さいものは平板53aに捕捉される。これにより、メッシュ53bの目開きより大きいカーボンナノ物質と目開きより小さいカーボンナノ物質とを簡便に選別することができる。
【0023】
そして、レーザー生成部2から照射されるレーザー光の強度が108W/cm2台である場合に、上記カーボンナノ物質として、所謂ベンゼンリングに相当するもので周期的微細構造の最小単位であるC6+核生成をきっかけにしてそれを最小単位とするような周期的微細構造を持つカーボンナノチューブが生成された。なお、このときに放出されるプルームプラズマPP1,PP2の密度は1010[1/cc]台、イオン温度は0.1[eV]台である。そして本実施形態では、プルームプラズマの相互貫通距離は約2cm、イオン同士の衝突平均自由工程は約1cmであった。
【0024】
図3(a)は、周期的微細構造物質生成捕集装置1で生成されたカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡像である。図3(b)は、図3(a)の拡大像である。これは、前記のレーザー強度で約2時間の連続運転で生成されたカーボンナノチューブで、総延長が数キロに及ぶ。
【0025】
図4は、周期的微細構造物質生成捕集装置1で生成されたクラスター分子イオンの質量分析結果を示す図である。図4に示すように、C+,C2+,C3+,C4+,C5+,C6+の生成が確認された。特にC6+は、上記周期的微細構造を構成するための最小単位として、その生成が必須である。
【0026】
すなわち、プルームプラズマPP1,PP2内のイオンがプルームプラズマの交差衝突部空間(すなわち、衝突点IP周辺の空間)を通過する距離(すなわち、上記の相互貫通距離)に対して、上記単原子イオン同士の衝突平均自由工程が数分の1以下となるイオン温度のプルームプラズマが、短パルス高エネルギービームの照射により生成される。この条件下であれば、プルームプラズマ中のイオンが有限な体積を持つ交差部空間を通過する間に十分な頻度で衝突が起る。それによって、先ずクラスターイオンが生成し、引き続いてそのクラスターを最小単位とするような周期的微細構造を持つ新物質が生成する。また、クラスターイオンの形成によりイオン同士の衝突頻度が飛躍的に増大し以て周期的微細構造物質の形成が加速度的に進行する(クラスター化は分子の大型化を意味する)。
【0027】
図5は、メッシュ53bとカーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡像である。図5に示すように、カーボンナノチューブCNTをメッシュ53b上に捕捉することができる。
以上説明した実施形態において、固体ターゲット51,52を真空チェンバー54内に設置する工程は本発明における第1工程、レーザー光LL1,LL2を固体ターゲット51,52に等強度で照射する工程は本発明における第2工程、プルームプラズマPP1とプルームプラズマPP2とを衝突させる工程は本発明における第3工程、カーボンナノチューブは本発明における周期的微細構造物質、メッシュ53bは本発明におけるメッシュ部材である。
【0028】
以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採ることができる。
例えば上記実施形態では、2つの固体ターゲットにレーザー光を照射するものを示したが、これに限定されず、3つ以上の固体ターゲットを用いてもよい。ターゲットの数を増やすことで周期的微細構造物質の生成速度が飛躍的に増大するものと考えられる。
【0029】
また上記実施形態では、固体ターゲットの原料原子が炭素であるものを示したが、これに限定されず、その他の原料原子であってもよい。例えば、ホウ素が挙げられる。3つ目のターゲットとしてホウ素を用いることでカーボンナノチューブの炭素原子をホウ素で置換するようなドーピングが可能である。また、このことで局所的にバンドギャップ等の量子特性や巨視的特性としての周期的微細構造物質の電気抵抗を変化させることも可能である。
【0030】
また上記実施形態では、短パルス高エネルギービームとしてレーザー光を用いたものを示したが、これに限定されず、例えばアブレーションプルームプラズマが上記のような密度・イオン温度を持てば、電子ビームであってもよい。
【符号の説明】
【0031】
1…微細構造物質生成装置、2…レーザー生成部、3…レーザー分割部、4…線集光部、5…ターゲット収納部、31…ビームスプリッタ、32,33…固定鏡、41,42…シリンドリカルレンズ、51,52…固体ターゲット、53…捕集基板、53a…平板、53b…メッシュ、54…真空チェンバー、LL1,LL2…レーザー光、PP1,PP2…プルームプラズマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料原子を含有する複数のターゲットを真空チェンバー内に配置する第1工程と、
短パルス高エネルギービームを、複数の前記ターゲットそれぞれに照射する第2工程と、
前記短パルス高エネルギービームが照射された複数の前記ターゲットのそれぞれから放出されるプルームプラズマを相互に交差衝突させることにより微細構造物質を生成する第3工程とを有し、
前記プルームプラズマ内の単原子イオンが前記プルームプラズマの交差衝突部空間を通過する距離である衝突通過距離に対して、前記単原子イオン同士の衝突平均自由工程が数分の1以下となるような密度と温度を持つ前記プルームプラズマが、前記第2工程における前記短パルス高エネルギービームの照射により生成され、前記第3工程により周期的微細構造を有する物質が生成される
ことを特徴とするプラズマ衝突による周期的微細構造物質生成捕集方法。
【請求項2】
前記第3工程で生成された前記微細構造物質の真空中飛行経路上に、複数の網目が形成されたメッシュ部材を設置する
ことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ衝突による周期的微細構造物質生成捕集方法。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−31017(P2012−31017A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172530(P2010−172530)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【Fターム(参考)】