説明

プランジャポンプ

【課題】保持器の破損の恐れを少なくしたプランジャポンプを提供する。
【解決手段】ハウジング11と、このハウジング11に回転可能に軸承された回転軸82と、回転軸82にこの回転軸線に対して偏心した位置に設けられた偏心部52と、偏心部52に取付けられた玉軸受60と、ハウジング11に回転軸82の回転軸線に向けて進退可能に設けられたプランジャ30と、プランジャ30の進退によって容積変化し作動流体を吐出する圧縮室とからなるプランジャポンプにおいて、
玉軸受60は、偏心部の外周側に配置された内輪61と、内輪61の外周側に配置された外輪62と、内輪61および外輪62間に配置された複数の玉64と、玉64を回転可能に支持するポケット63aを形成した保持器63とからなり、ポケット63aは、外径側に向かって径が小さくなるすぼまる形状を有し、ポケット63aの外径側で玉を接触させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振れ回り回転する玉軸受を介してプランジャを進退させるようにしたプランジャポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
図3及び図4(特許文献1)に示すように、振れ回り回転する玉軸受140に対し、プランジャ150が駆動軸130の半径方向に進退することにより、作動流体を吐出している。玉軸受140は、駆動軸130の偏心部131に取り付けられ、駆動軸130の回転軸線Sに対し、偏心部131は偏心量eだけ偏心した軸線T上にある。駆動軸130は、モータハウジング101に対し一対の転がり軸受120、121を介して回転可能に軸承され、モータハウジング101に取り付けられたスタータ140、駆動軸130に取り付けられたロータ141により回転駆動される。前記プランジャ150は、ケーシング151に半径方向に進退可能に案内され、プランジャ150およびケーシング151間にプランジャ150を玉軸受140へ押し付ける図略のコイルスプリングが介挿されている。
【0003】
前記玉軸受140は、外輪142、内輪141、保持器143、玉144とからなり、玉144は、保持器143のポケット143aに回転可能に保持されている。
【0004】
駆動軸130が回転すると、軸線S回りに玉軸受140が振れ回り、外輪142に対し内輪141が回転する。前記振れ回りによって、保持器143に遠心力が作用する。玉軸受140には、プランジャ150を介してコイルスプリングの押圧力とプランジャ150の吐出圧力が作用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−105977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
駆動軸130の回転により玉軸受140全体がプランジャ150側へ移動したときは、遠心力によって保持器142がプランジャ150側へ移動し、プランジャ150の吐出圧力によって、玉軸受140全体が前記遠心力と反対側へ押し付けられる。この結果、複数のポケット143aの内、プランジャ150側のポケット143aの内周側で玉144が接触する。かかる状態で、プランジャ側の玉144に進み遅れが発生し、プランジャ側で保持器143に円周方向に分断させようとする力が作用する。この力によって保持器143が破損する可能性があることが分かった。
【0007】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、保持器の破損の恐れを少なくしたプランジャポンプを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、ハウジングと、このハウジングに回転可能に軸承された回転軸と、この回転軸にこの回転軸線に対して偏心した位置に設けられた偏心部と、この偏心部に取付けられた玉軸受と、前記ハウジングに前記回転軸の回転軸線に向けて進退可能に設けられたプランジャと、このプランジャの進退によって容積変化し作動流体を吐出する圧縮室とからなるプランジャポンプにおいて、
前記玉軸受は、前記偏心部の外周側に配置された内輪と、この内輪の外周側に配置された外輪と、内輪および外輪間に配置された複数の玉と、これらの玉を回転可能に支持するポケットを形成した保持器とからなり、前記ポケットは、外径側に向かって径が小さくなるすぼまる形状を有し、前記ポケットの外径側で前記玉を接触させたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、玉軸受が、プランジャ側へ偏心したとき、遠心力によって保持器がプランジャ側へ移動し、プランジャの吐出圧力により玉軸受全体が、プランジャと反対側へ押圧される。このとき、プランジャ側の玉とポケット間には、隙間が形成されるので、玉の進み遅れにより保持器が破損する恐れがない。プランジャと反対側の玉が、保持器のポケットの外径側で接触し、この玉を介して保持器が支持される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態におけるプランジャポンプの縦断面図である。
【図2】本発明の実施形態における図1の一部拡大断面図ある。
【図3】従来におけるプランジャポンプの縦断面図である。
【図4】従来における図3の一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態について、図1および図2を参酌しつつ説明する。図1はプランジャポンプの縦断面図であり、図2は図1の一部拡大断面図である。
【0012】
プランジャポンプ90は、主にモータ部80と、ポンプ部10とからなる。モータ部80は、回転軸82を回転させる機能を有し、回転軸82の先端に偏心部材50が取り付けられ、偏心部材50に玉軸受60が取り付けられている。これにより、回転軸82が回転すると、偏心部材50と玉軸受60が振れ回り回転するようになっている。ポンプ部10は、回転軸82の半径方向に進退するプランジャ30を有し、プランジャ30の進退により作動流体を吐出する機能を有する。前記玉軸受60の振れ回り回転により、プランジャ30が半径方向に進退するようになっている。
【0013】
前記モータ部80は、モータハウジング81を有し、このモータハウジング81に図略の一対の転がり軸受を介して回転軸82が軸線S回りに回転可能に軸承されている。モータハウジング81に図略のステータが取り付けられ、回転軸82に図略のロータが取り付けられている。ステータおよびロータにより、回転軸82が回転駆動されるようになっている。
【0014】
回転軸82の一端外周には偏心部材50が嵌合されている。回転軸82の外周にはセレーション83が形成され、偏心部材50の内周にはセレーション51が形成され、これらセレーション83、51を介して回転軸82の回転が偏心部材50に伝達されるようになっている。回転軸82および偏心部材50間には、径方向にごく僅かな隙間を有し、この隙間分だけ、後述するプランジャ30の吐出圧力により、回転軸82に対し偏心部材50が移動する。回転軸82には、偏心部材50を挟み込む位置に、段部84とサークリップ溝が形成され、サークリップ溝にはサークリップ70が嵌め込まれている。偏心部材50は、軸線T回りに円筒状の偏心部52を有し、この偏心部52に玉軸受60が嵌合されている。偏心部材50には、玉軸受60を挟み込む位置に、段部53とサークリップ溝が形成され、サークリップ溝にはサークリップ71が嵌め込まれている。
【0015】
玉軸受60は、偏心部52に嵌合されるリング状の内輪61と、内輪61の外周側に配置される外輪62と、内輪61および外輪62間に配置されるリング状の保持器63と、保持器63の各ポケット63aに回転可能に支持される玉64とからなっている。保持器63は円周方向に複数のポケット63aを有する。内輪61、外輪62、玉64は、鉄系の材料からなり、保持器63は、樹脂系の材料からなっている。保持器63は、射出成形等により製作され、各ポケット63aは、玉64より若干大きい球形状で、この球形状の上下を切欠いた形状を有する。玉64は、球形状を有し、外面が転動面となる。
【0016】
ポンプ部10は、ポンプハウジング11を有し、このポンプハウジング11には、前記回転軸82を挟んで両側に一対の取付け穴12が形成されている。一対の取付け穴12は、回転軸82の軸線Tに対し直交する軸線上に設けられている。各取付け穴12には、ガイド部材20と押え部材25が順に嵌合され、各取付け穴12の外径側一端に、めねじ13が形成されている。めねじ13には詰め栓28が螺合されている。
【0017】
ガイド部材20には、取付け穴12と同軸にガイド穴21が形成され、このガイド穴21にプランジャ30が進退可能に嵌合されている。プランジャ30の一端で、プランジャ30およびガイド部材20間に圧縮室24が形成され、この圧縮室24にプランジャ30を外輪62に押し付けるコイルスプリング40が介挿されている。また、圧縮室24には、第1のチェック弁41が介挿されている。第1のチェック弁41は、玉とコイルスプリングとからなる。ガイド部材20には、ガイド穴21に対し半径方向に連通する第1の横穴22が形成され、圧縮室24に対し軸方向に連通する連通穴23が形成されている。
【0018】
プランジャ30には、第1の横穴22に対応する位置に第1の環状溝31が形成され、この第1の環状溝31に対し半径方向に連通する第2の横穴32が形成され、この第2の横穴32に対し軸方向に連通する縦パス穴33が形成されている。縦パス穴33の一端は第1のチェック弁41を介して圧縮室24に連通している。ガイド部材20および押え部材25間には弁室27が形成され、弁室27には第2のチェック弁43が介挿されている。第2のチェック弁43は、玉およびコイルスプリングとからなる。押え部材25には、弁室27に対し半径方向に連通する第3の横穴26が形成されている。
【0019】
前記ポンプハウジング11には、取付け穴12を介して第1の横穴22に連通する第1の通路14が形成され、取付け穴12を介して第3の横穴26に連通する第2の通路15が形成されている。前記第1のチェック弁41は、縦パス穴33および圧縮室24間の圧力差が所定以上になったときに、縦パス穴33および圧縮室24を互いに連通させる機能を有し、前記第2のチェック弁43は、圧縮室24および弁室27間の圧力差が所定以上になったときに、圧縮室24および弁室27を互いに連通させる機能を有する。
【0020】
前記保持器63の各ポケット63aは、球形状の上下を切欠いた形状を有し、球形状の中心から外径側へ行くに従って、径が小さくなるすぼまる形状を有し、球形状の中心から内径側へ行くに従って、径が小さくなるすぼまる形状を有する。偏心部材50が回転軸82の回転により一方のプランジャ30側へ移動したとき、保持器63は遠心力により一方のプランジャ30側へ移動し、保持器63の軸線Hは、偏心部52の軸線Tに対し一方のプランジャ30側へずれた位置にある。一方のプランジャ30の吐出圧力によって、偏心部材50は、他方のプランジャ30側へ押圧され、回転軸82および偏心部材50間の径方向の隙間は、一方のプランジャ30側は無くなり、他方のプランジャ30側に作られる。このとき、一方のプランジャ30側の玉64とポケット63a間には隙間を有し、他方のプランジャ30側の玉64がポケット63aの外径側で接触するように、ポケット63aの大きさ、保持器63の大きさが決定される。
【0021】
続いて、プランジャポンプ90が作動流体を吐出する動作について説明する。
【0022】
まず、図略のステータおよびロータにより、モータ部80の回転軸82が軸線S回りに回転する。偏心部材50および玉軸受60が軸線S回りに振れ回り回転し、外輪62に対し内輪61が回転する。一対のプランジャ30が、軸線Sに対し直交する方向に進退する。
【0023】
他方のプランジャ30が軸線S側へ移動する場合は、縦パス穴33の方が圧縮室24よりも作動流体の圧力が高くなり、第1のチェック弁41が開いて、第1の通路14、第1の環状溝31、第2の横穴32、縦パス穴33を介して圧縮室24へ作動流体が流入する。このとき、弁室27より圧縮室24の方が作動流体の圧力が低いので、第2のチェック弁43は閉じたままである。
【0024】
一方のプランジャ30が軸線Sから遠ざかる方向へ移動する場合は、圧縮室24の方が縦パス穴33よりも作動流体の圧力が高くなり、第1のチェック弁41を閉じる。このとき、弁室27より圧縮室24の方が作動流体の圧力が高いので、第2のチェック弁43は開き、圧縮室24の作動流体は、連通穴23、弁室27、第3の横穴26を介して第2の通路15へ流れる。
【0025】
一方のプランジャ30側の圧縮室24内の作動流体の圧力が、他方のプランジャ30側の圧縮室24内の作動流体の圧力よりも高いので、玉軸受60および偏心部材50は、他方のプランジャ30側へ押し付けられ、回転軸82および偏心部材50間の径方向の隙間は、一方のプランジャ30側は無くなり、他方のプランジャ30側に多く作られる。保持器63は、遠心力によって、一方のプランジャ30側へ移動する。一方のプランジャ30側の玉64およびポケット63a間には隙間を有し、一方のプランジャ30側の玉64に進み遅れが発生しても、保持器63を円周方向に分断させようとする力が発生しない。他方のプランジャ30側の玉64がポケット63aの外径側で接触し、この部分で保持器63が玉64に支持される。
【0026】
本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0027】
上述した実施形態は、プランジャ30を180度毎に配置し、回転軸82の1回転につき、2回作動流体を吐出する形態について説明した。他の実施形態として、プランジャ30を360度毎に配置し、回転軸82の1回転につき、1回作動流体を吐出しても良い。あるいは、プランジャ30を90度毎に配置し、回転軸82の1回転につき、4回作動流体を吐出しても良い。
【符号の説明】
【0028】
11:ポンプハウジング(ハウジング)、24:圧縮室、30:プランジャ、52:偏心部、60:玉軸受、61:内輪、62:外輪、63:保持器、63a:ポケット、64:玉、81:モータハウジング(ハウジング)、82:回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、このハウジングに回転可能に軸承された回転軸と、この回転軸にこの回転軸線に対して偏心した位置に設けられた偏心部と、この偏心部に取付けられた玉軸受と、前記ハウジングに前記回転軸の回転軸線に向けて進退可能に設けられたプランジャと、このプランジャの進退によって容積変化し作動流体を吐出する圧縮室とからなるプランジャポンプにおいて、
前記玉軸受は、前記偏心部の外周側に配置された内輪と、この内輪の外周側に配置された外輪と、内輪および外輪間に配置された複数の玉と、これらの玉を回転可能に支持するポケットを形成した保持器とからなり、前記ポケットは、外径側に向かって径が小さくなるすぼまる形状を有し、前記ポケットの外径側で前記玉を接触させたことを特徴とするプランジャポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−24265(P2013−24265A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157279(P2011−157279)
【出願日】平成23年7月16日(2011.7.16)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】