説明

プリント回路基板におけるガルバニック腐食を制御するための組成物及び方法

プリント回路基板のガルバニック腐食を抑制するための組成物。耐腐食性塗工組成物をプリント基板に塗布することで、ガルバニック腐食をもたらす化学的メカニズムを防止し、腐食を防止し、製品を腐食から保護することが可能になる。耐腐食性塗工組成物は、a)メルカプタン、b)エトキシ化アルコール、及びc)モリブデン酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、ジルコニウム、及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1種の金属イオン種を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント回路基板の表面の腐食を抑制するための水性耐腐食性塗工組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント回路基板(PCB)の製造工程は、通常多くの工程からなるが、その理由の1つとして、性能向上の要求が高まっていることが挙げられる。PCBの表面回路は、通常、銅及び銅合金材料を含み、これら材料は、組立品において他の装置と、機械的及び電気的に良好な接続を得るために塗布される。プリント回路基板の製造においては、第1ステージにおいて回路基板の製造を行い、第2ステージにおいて前記回路基板上に様々な部品の装着を行う。
【0003】
回路基板に取り付け可能な部品は、一般的に以下の2種に分けられる。
a)脚付部品、例えば抵抗器、トランジスタ等。これらは、基板の穴に各々の脚を通し、次に脚の周りの穴部分に確実にはんだを充填することにより、回路基板に取付けられる。
b)面実装装置。これらは、平らな接触エリアを基板表面にはんだ付けするか、適切な接着剤で接着することにより、前記基板表面に取付けられる。
【0004】
一般的に、めっきスルーホールプリント回路基板は、以下の一連の工程を含む方法により製造することができる。
1) 銅張り積層板に穴を開ける
2) 基板を標準めっきスルーホールサイクルにより加工し、無電解銅で前記穴及び前記表面をめっきする
3) めっきマスクを塗布する
4) 前記穴中及び前記露出回路構成部分上に、望ましい厚みとなるように銅を電解めっきする
5) エッチングレジストとして、穴中及び露出回路構成部分上にスズを電解めっきする
6) めっきレジスト(めっきマスク)を取り除く
7) 露出している銅(即ち、スズでめっきされていない銅)をエッチングする
8) スズを取り除く
9) ソルダーマスクが接続エリア以外、実質的に基板表面全体を覆うように、ソルダーマスクを塗布、造影、及び現像する、及び
10)はんだ付けするエリアにはんだ付け性の高い保護層を塗布する。
【0005】
また、一般的に当業者に公知の他の一連の工程を使用することも可能である。更に、真水によるすすぎ工程を各工程の間に入れることも可能である。前記第1ステージにおいてプリント回路基板を準備するために使用できる他の一連の工程の例が、特許文献1(Soutar他)、特許文献2(Toscano他)、及び特許文献3(Fey等他)に開示されており、これら文献の発明の要旨全体を本明細書中に参照として組み込む。
【0006】
はんだマスキングは、プリント回路基板の、はんだパッド、面実装パッド、及びめっきスルーホールを除く、全エリアを有機ポリマー被膜で選択的に被覆する工程である。前記ポリマー被膜は、パッドの周りに位置し、組み立て時の望ましくないはんだの流出を防止する障壁のような働きを担い、電気伝導体間の電気絶縁性抵抗も向上させ、そして外的環境から基板を保護する。
【0007】
ソルダーマスク化合物は、通常は、基材と融和性のあるエポキシ樹脂である。前記ソルダーマスクは、プリント回路基板上に所望のパターン状にスクリーン印刷されるもの、又はプリント回線基板の表面を被覆するフォトイメージ可能なソルダーマスクであってもよい。これらのソルダーマスクの両方とも、一般的に当業者によく知られている。
【0008】
接触エリアとしては、ワイヤ接着エリア、チップ取付けエリア、はんだ付けエリア、及び他の接触エリアが含まれる。接触エリア仕上げ剤は、優れたはんだ付け性、優れたワイヤボンディング性能、及び高い腐食耐性を与える。ある種の接触エリア仕上げ剤は、高い伝導性、高い磨耗耐性、及び高い腐食耐性も与える。典型的な従来技術の接触エリア仕上げコーティングとしては、最外層に電解金層を有する電解ニッケルコーティングが挙げられるが、他のコーティングも当業者には知られている。
【0009】
はんだ付け工程は、一般的に、多様な物品へ機械的、電気機械的、又は電気的に接続するために使用される。プリント回路を使用した電子機器の製造においては、プリント回路への電子部品の接続を、電子部品のリード線を、スルーホール、サラウンディングパッド、ランド、及び他の接続地点(これらを“接続エリア”と総称する)へはんだ付けすることにより行う。
【0010】
このはんだ付け工程を容易にするために、スルーホール、パッド、ランド、及び他の接続地点は、後のはんだ付けができるように準備される。即ち、これらの接続表面は、はんだで容易に濡らすことができる必要があり、そして前記リード線又は前記電子部品の表面と一体化した電気伝導性接続を形成できなければならない。これらの必要性から、プリント回路製造者は、表面のはんだ付け性を維持し促進する様々な方法を考案している。このような方法の例としては、特許文献4(Redline他)、及び特許文献5(Ferrier他)に記載される方法が挙げられ、これらの文献の発明の要旨全体は参照により本明細書中に組み込まれる。
【0011】
特許文献4及び特許文献5(参照により本明細書中に組み込まれる)において論じられているように、浸漬めっき法による無電解銀は、優れたはんだ付け性の保存剤であり、プリント回路基板の製造において特に有用である。浸漬めっき法は、めっきされる金属表面が溶液中に溶け出し、同時にめっきとなる金属がめっき溶液から前記金属表面上に沈殿することによりもたらされる置換反応によって引き起こされる工程である。前記浸漬めっき法は、通常は、表面を前もって活性化せずとも開始できる。めっきとなる金属は、一般的に前記金属表面の金属よりもより貴である。このように、浸漬めっき法は、精巧に製造された自己触媒型めっき溶液とめっきに先立つ表面の活性化工程とを必要とする化学めっき法に比較して、普通、制御することが遥かに容易であり、遥かに良好なコストパーフォースを実現する。
【0012】
しかし、浸漬めっき法による無電解銀の使用は、ソルダーマスク界面アタック(solder mask interface attack (SMIA))が起こりえるため、問題となり得る。ソルダーマスク界面アタック(SMIA)では、ガルバニックアタックによりソルダーマスクと銅トレースとの間の界面で、銅トレースを腐食させる。SMIAは、ソルダーマスク隙間腐食(solder mask crevice corrosion)及び単に、ソルダーマスク界面でのガルバニックアタック等の他の名称でも知られる。名称がどうであれ、この問題は、ソルダーマスク/銅界面でのガルバニックアタックを含む。この界面でのガルバニックアタックは、ソルダーマスク/銅界面構造及び浸漬めっきメカニズムにより生じる。
【0013】
ガルバニック腐食は、2種の相異する金属の接合により引き起こされる。金属の相異は、金属組成物自体の変化又は相違であり、粒の境界において生じる質の相異、又は製造工程における局在するせん断若しくはトルクによる質の相異である。。金属表面又はその環境の均一性の欠如のほとんど全てが、電位差を引き起こし、ガルバニック腐食アタックを開始させる原因となり得る。また、異なる金属間の接触も、2種、及び2種を超える種の異なる金属間に電位差を引き起こすことにより、ガルバニック電流を引き起こす。ガルバニック腐食は、例えば銅の上に銀を被覆するように、一種の金属をより貴な金属で被覆することで引き起こす。銅を露出させれば、全ての場合で、この腐食過程も同様に加速し得る。単体硫黄及び硫化水素などの還元型硫黄ガスが高濃度で存在する環境においては、高い製品欠陥率及び腐食の悪化が見られる。
【0014】
回路基板は、通常、これらに限るわけではないがほんの一例として示すと、銅、スズ、及び銀などの数種の異なる金属から構成される。これらの金属は、ガルバニック系列において異なる位置に存在するので、相互にガルバニックに反応する可能性がある。従って、ガルバニック腐食を抑制し、また、ガルバニック腐食の化学的メカニズムを防止するために、プリント回路基板を処理する組成物の開発が望まれいる。
【0015】
本発明は、広い観点では、金属の腐食の抑制に関する。本発明は、特に、プリント回路基板の表面のガルバニック腐食を制御/抑制する組成物及び方法に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第6319543号明細書
【特許文献2】米国特許第6656370号明細書
【特許文献3】米国特許第6815126号明細書
【特許文献4】米国特許第6773757号明細書
【特許文献5】米国特許第5935640号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、プリント回路基板の表面の腐食を抑制する耐腐食性塗工組成物を提供することである。
【0018】
本発明の別の目的は、プリント回路基板の表面のガルバニック腐食を抑制し、ガルバニック腐食の化学的メカニズムも同様に防止できる組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的を達成するために、本発明は、a)メルカプタン、b)好ましくは、エトキシ化アルコール、及びc)モリブデン酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、ジルコニウム、コバルト、及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の金属イオン種を含む水性耐腐食性塗工組成物に関する。
【0020】
別の実施形態では、本発明は、腐食を抑制するために基体表面を水性耐腐食性塗工組成物で処理する方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、概して、a)メルカプタン、b)好ましくは、エトキシ化アルコール、及びc)モリブデン酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、ジルコニウム、コバルト、及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の金属イオン種を含む水性耐腐食性塗工組成物に関する。
【0022】
任意であるが好ましい実施形態においては、耐腐食性塗工組成物は、ザンサンガムも含む。使用の際は、ザンサンガムの濃度は、1g/L〜10g/Lであることが好ましい。
【0023】
エトキシ化アルコールは、C10アルコールエトキシレートであることが好ましい。他の類似のエトキシ化アルコールも当業者には知られており、本発明において使用可能である。使用の際は、エトキシ化アルコールの濃度は、0.1g/Lから10g/Lであることが好ましい。
【0024】
また、例えば、C12〜C18の炭素鎖を有するメルカプタンなどの、様々なメルカプタンを本発明の組成物に使用することができる。1つの好ましい実施形態においては、前記メルカプタンは、ステアリルメルカプタン(1−オクタデカンチオール)である。メルカプタンの濃度は、1g/L〜20g/Lであることが好ましい。
【0025】
また、本発明の組成物においては様々な金属イオン種が使用可能であるが、1つの好ましい実施形態においては、前記少なくとも1種の金属イオン種は、モリブデン酸アンモニウム四水和物である。別の好ましい実施形態では、前記少なくとも1種の金属イオン種は、メタタングステン酸アンモニウム及びメタバナジウム酸アンモニウムの少なくともいずれかである。金属種の濃度は2g/L〜100g/Lであることが好ましい。
【0026】
前記耐腐食性塗工組成物の成分の濃度としては、腐食の抑制及び/又は排除の結果が望ましいものとなるような濃度全てを用いることができると考えられる。1つの好ましい実施形態では、本明細書において記載される前記耐腐食性コーティング組成物は、以下の通りである:
1. ザンサンガム 0.10重量%〜1.0重量%
2. エトキシ化アルコール(C10) 0.10重量%〜1.00重量%
3. ステアリルメルカプタン 0.10重量%〜2.00重量%
4. モリブデン酸アンモニウム四水和物 0.20重量%〜10.00重量%
5. 水 残量
【0027】
本発明の水性耐腐食性塗工組成物は、銅沈着物及び銀沈着物の両方を有するプリント回路基板などのプリント回路基板の表面を処理し、ガルバニック腐食を抑制するのに特に適している。
【0028】
従って、本発明は、プリント回路基板の表面を処理し前記プリント回路基板上の腐食を抑制する方法であって、
a)メルカプタン、
b)好ましくは、エトキシ化アルコール、及び
c)モリブデン酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、ジルコニウム、コバルト、及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の金属イオン種
を含む水性耐腐食性塗工組成物を、前記プリント回路基板の表面に接触させる工程を含む方法にも関する。
【0029】
本発明の耐腐食性塗工組成物と前記プリント回路基板とを接触させる方法としては、様々な方法が当業者に知られているが、前記方法の好ましい例としては、ディッピング法、スプレー法、及び水平フラッディング法などが挙げられる。他の方法もまた当業者に知られている。
【0030】
前記組成物と前記プリント回路基板は50℃で、望ましい結果を得るために十分な時間接触させるのが好ましい。しかし20℃〜70℃の範囲の温度も使用可能である。また、接触時間は、通常、約10秒〜約300秒の範囲内である。
【0031】
回路基板の腐食を抑制することにより、装置の耐用年数を長くすることができる。更に、腐食を排除することにより、はんだ付けの際の問題を完全に排除できるき、これは、基板製造者、回路製造者、及び部品製造者にとって大きな利点となる。
【0032】
本発明を、本発明の個々の実施形態に言及して、上述したが、本明細書において開示される発明概念から逸脱することなく、多くの、変更、変形、及び変化を加えることができることは明白である。従って、本発明の請求項の意図およびその広い範囲内に存在するこのような変更、変形、及び変化の全ても包含することが意図される。本明細書において引用される全ての特許出願、特許、及び他の刊行物の全体を参照することにより本発明中に組み込む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)メルカプタン、
b)モリブデン酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、ジルコニウム、コバルト、及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の金属イオン種、並びに
c)任意で、エトキシ化アルコール
を含むことを特徴とする、プリント回路基板用水性耐腐食性塗工組成物。
【請求項2】
ザンサンガムを含む、請求項1に記載の耐腐食性塗工組成物。
【請求項3】
メルカプタンがステアリルメルカプタンを含む、請求項1に記載の耐腐食性塗工組成物。
【請求項4】
メルカプタンがステアリルメルカプタンを含む、請求項2に記載の耐腐食性塗工組成物。
【請求項5】
少なくとも1種の金属イオン種がモリブデン酸アンモニウム四水和物を含む、請求項1に記載の耐腐食性塗工組成物。
【請求項6】
少なくとも1種の金属イオン種がモリブデン酸アンモニウム四水和物を含む、請求項4に記載の耐腐食性塗工組成物。
【請求項7】
少なくとも1種の金属イオン種がメタタングステン酸アンモニウム及びメタバナジウム酸アンモニウムのいずれかを含む、請求項1に記載の耐腐食性塗工組成物。
【請求項8】
メルカプタンがC12〜C18の炭素鎖を有するメルカプタンを含む、請求項1に記載の耐腐食性塗工組成物。
【請求項9】
金属イオン種を組成物の全重量に対して約0.20重量%〜約10.00重量%の量で含有する、請求項1に記載の耐腐食性塗工組成物。
【請求項10】
メルカプタンを組成物の全重量に対して約0.10重量%〜約2.00重量%の量で含有する、請求項1に記載の耐腐食性塗工組成物。
【請求項11】
エトキシ化アルコールを組成物の全重量に対して約0.10重量%〜約1.00重量%の量で含有する、請求項1に記載の耐腐食性塗工組成物。
【請求項12】
ザンサンガムを組成物の全重量に対して約0.10重量%〜約1.0重量%の量で含有する、請求項2に記載の耐腐食性塗工組成物。
【請求項13】
プリント回路基板の表面を処理し前記プリント回路基板上の腐食を抑制する方法であって、
a)メルカプタン、
b)モリブデン酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、ジルコニウム、コバルト、及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種の金属イオン種、並びに
c)任意で、エトキシ化アルコール
を含む水性耐腐食性塗工組成物を前記プリント回路基板の表面に接触させる工程を含む方法。
【請求項14】
耐腐食性塗工組成物がザンサンガムを含有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ディッピング法、スプレー法、及び水平フラッデイング法からなる群から選択される方法を用いて、プリント回路基板に耐腐食性塗工組成物を接触させる、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
メルカプタンがステアリルメルカプタンを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1種の金属イオン種がモリブデン酸アンモニウム四水和物を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1種の金属イオン種がモリブデン酸アンモニウム四水和物を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも1種の金属イオン種がメタタングステン酸アンモニウム及びメタバナジウム酸アンモニウムのいずれかを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
メルカプタンがC12〜C18の炭素鎖を有するメルカプタンを含む、請求項13に記載の方法。


【公表番号】特表2011−503897(P2011−503897A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534009(P2010−534009)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【国際出願番号】PCT/US2008/010489
【国際公開番号】WO2009/064329
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(591069732)マクダーミッド インコーポレーテッド (38)
【氏名又は名称原語表記】MACDERMID,INCORPORATED
【Fターム(参考)】