説明

プリント回路基板用基材およびその製造方法

【課題】 生産性を損なうことなく、曲げ加工等を受けても樹脂との密着性に優れたプリント回路基板用基材を安定して得る方法を提供する。
【解決手段】 アルミニウム合金板上に、ホウ素成分を含むアルカリ性水溶液中での交流電解処理によって形成した膜厚50〜200nmの酸化皮膜と、その酸化皮膜の上にSi量換算で1〜20mg/mの特定の有機官能基を有する有機ケイ素化合物層の1種又は2種以上とからなる複合皮膜を有することを特徴とするプリント回路基板用基材。
アルミニウム合金板の表面を、0.1〜3%のホウ素成分を含む浴温35〜80℃、pH9〜13のアルカリ性水溶液中で、40〜60Hzの周波数、4〜50A/dmの電流密度にて、10〜60秒の交流電解処理を行い、さらに、特定の有機官能基を有する有機ケイ素化合物層を設けることにより製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子・電気機器、例えばテレビ、オーディオ、ビデオレコーダー等の家庭用電気器具、あるいは計算機、通信機、事務用電子機器、自動車等に使用される放熱性の良好なアルミニウム合金をベースとし、これに樹脂層を介して金属箔を貼付したプリント回路基板用基材及びその製造方法に関するものである。
なお、本明細書において「アルミニウム合金」とは、工業用純アルミニウムを含む種々のアルミニウム合金を含むものとする。
【背景技術】
【0002】
一般に、プリント回路基板は、絶縁板上の片面または両面に樹脂からなる接着剤により銅箔等の金属箔を貼着し、その金属箔をエッチングして配線路を形成し、これに電子部品を取り付けて電子・電気機器に使用される。近年では、電子・電気機器の小型化、軽量化が図られるとともに、このような小型化や軽量化とは両立しにくい高性能化、プリント回路基板の多層化、高集積化、高密度化が図られている。そのため、プリント回路基板としても、それ自体の放熱性が重視されるようになり、最近では、従来の伝熱性の低い絶縁板に代わって、アルミニウム板をベースとした基板が使用されるようになっている。
アルミニウム板をベースとしたプリント回路基板は、一般にアルミニウム板やアルミニウム箔に、接着のためのエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等から成る樹脂層を介して、銅箔等の金属箔を貼着することによって作られる。しかしながら、銅箔は樹脂層との接着力が強固であるのに対し、アルミニウム板は、樹脂層との間の接着力が極めて弱く、そのため、電子機器の使用中に剥れてしまう危険性がある。そこでアルミニウム板を用いた場合の樹脂層との接着力の改善のために、従来から多くの提案がなされてきた。
【0003】
アルミニウム板と樹脂層との密着性を向上させるためには、アルミニウム板に表面処理を施す方法が知られており、このようなアルミニウム板の表面処理方法としては、表面を機械的に粗面化する方法(特許文献1)、酸性溶液中で陽極酸化処理して多孔性の酸化皮膜を設ける方法(特許文献2)、アルカリ溶液中で交流電解処理して多孔性の酸化皮膜を設ける方法(特許文献3)、また、ケイ酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩等の電解液による処理によって、Si、P、Bを含む無孔質陽極酸化皮膜を設ける方法(特許文献4)、さらには、酸性溶液中で陽極酸化処理して微孔性の酸化皮膜を設けた後、シランカップリング剤を塗布する方法(特許文献5)がある。しかしながら、これら従来の提案による方法では、樹脂層との接着力や密着性を充分に向上させることはできず、ごく限られた用途にしか利用できないといった問題点があった。
【特許文献1】特公昭56−17227号公報
【特許文献2】特公昭63−44059号公報
【特許文献3】特公平7−11078号公報
【特許文献4】特開2002−53996号公報
【特許文献5】特開2002−155397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のように、アルミニウム板を用いた従来のプリント回路基板では、樹脂層との密着性が未だ不充分であり、曲げ加工部等の高い密着力が要求される部分では、より一層の密着性の向上が望まれている。また、従来までは、密着性向上のための表面処理が生産性を損なってしまうことも多かったのが実情である。
【0005】
本発明は、以上を背景としてなされたものであって、生産性を損なうことなく、曲げ加工等を受けても樹脂との密着性に優れたプリント回路基板用基材を安定して得る方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、アルミニウム板に対してアルカリ水溶液中で交流電解処理を行って酸化皮膜を形成した後、当該酸化皮膜の上部に有機ケイ素化合物層を有する複合皮膜を得ることによって、生産性を損なうことなく、樹脂層との密着性に優れたプリント回路基板用のアルミニウム素板が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、請求項1に記載した発明は、アルミニウム合金板上に、ホウ素成分を含むアルカリ性水溶液中での交流電解処理によって形成した膜厚50〜200nmの酸化皮膜と、その酸化皮膜の上にSi量換算で1〜20mg/mの下記式(1)で表される有機ケイ素化合物層の1種又は2種以上とからなる複合皮膜を有することを特徴とするプリント回路基板用基材である。
【化1】

式(1)において、Yはアミノ基、ビニル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基から成る群から選択されるいずれかの有機官能基、Rは炭素数1〜5のアルキル基、OR’はアルコキシル基、nは0、1または2である。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、アルミニウム合金板の表面を、0.1〜3%のホウ素成分を含む浴温35〜80℃、pH9〜13のアルカリ性水溶液中で、40〜60Hzの周波数、4〜50A/dmの電流密度にて、10〜60秒の交流電解処理を行い、さらに、下記式(1)で表される有機ケイ素化合物層の1種又は2種以上とからなる層を設けることを特徴とするプリント回路基板用基材の製造方法である。
【化1】

式(1)において、Yは アミノ基、ビニル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基から成る群から選択されるいずれかの有機官能基、Rは炭素数1〜5のアルキル基、OR’はアルコキシル基、nは0、1または2である。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、ホウ素成分を含むアルカリ性水溶液中で交流電解処理することにより形成された酸化皮膜は、表面が清浄であり、また多孔質型の構造を有しているため、柔軟性にも優れる。さらに、酸化皮膜の上部に有機ケイ素化合物層を設けることにより、加工後の密着性や絶縁性にも優れたプリント回路基板用のアルミニウム素材を提供できる。
【0010】
さらに、本発明の製造方法によれば、液抵抗の少ない高温の交流電解をするため、高電流密度でかつ短時間で必要な厚さの酸化皮膜を形成させることができ、また脱脂工程と酸化皮膜生成工程を同一の処理で同時に行えるため、設備コストも安価となり、クロム等の有害物質も使用しないため、廃液処理、薬液の取り扱いでも極めて有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
請求項1に記載の発明では、アルミニウム合金板上に、ホウ素成分を含むアルカリ性水溶液中での交流電解処理によって形成した膜厚50〜200nmの酸化皮膜と、その酸化皮膜の上にSi量換算で1〜20mg/mの式(1)で表される有機ケイ素化合物層の1種又は2種以上とからなる層とからなる複合皮膜を有することを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明では、アルミニウム合金板の表面を、0.1〜3%のホウ素成分を含む浴温が35〜80℃、pHが9〜13のアルカリ性溶液中で、40〜60Hzの周波数、4〜50A/dmの電流密度にて、10〜60秒の交流電解処理を行い、さらに、式(1)で表される有機ケイ素化合物層の1種又は2種以上とからなる層を設けることにより、伝熱性が高く、樹脂層との密着性に優れたプリント回路基板用基材を低コストで製造することが可能になる。
【0013】
本発明では、まず、アルカリ性溶液中で交流電解処理を行うことによって、アルミニウム合金板の表面が強力に脱脂・洗浄されると同時に、多孔質構造を有する50〜200nmの酸化皮膜が緻密に形成される。
【0014】
A.交流電解処理
電解液として用いるアルカリ性水溶液は、それ自体で脱脂性を有していることに加え、高温であるため、脱脂性はより強力になっている。しかも交流波形による電解では、アノード反応時には酸素ガスが発生する一方、カソード反応時には水素ガスが発生するため、アノード反応時には板表面に付着している有機物の酸化による脱脂・洗浄作用が働き、カソード反応時には、板表面での水素気泡の膨張による機械的洗浄作用が働く。したがって、高温のアルカリ性溶液中での交流電解処理によれば、上述の各作用が相乗的に機能して、強力な脱脂・洗浄効果が発揮され、極めて短時間で圧延油等に由来する板表面の各種の汚れが除去される。
【0015】
この場合、電解液として使用するアルカリ性水溶液は、ホウ砂やホウ酸等のホウ素成分を含み、主成分としてリン酸ソーダ、リン酸水素カリウム、ピロリン酸ソーダ、ピロリン酸カリウム、メタリン酸ソーダ等のリン酸塩、炭酸ソーダ、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩、苛性ソーダ、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化アンモニウム水溶液あるいはこれらの混合物の水溶液であり、場合によっては、これらに界面活性剤を添加したものを用いることができる。なお、以下に示すように、電解液のpH範囲を一定にする必要があるため、この観点からpHの緩衝能のあるリン酸ソーダ系を用いることが好ましい。
【0016】
また、アルカリ性水溶液に必須成分として含ませるホウ素成分は、pHやエッチング性の緩衝能に加え、電解処理後の酸化皮膜中にも取り込まれるため、有機ケイ素化合物層との高い密着力を発揮する。電解液中のホウ素成分の濃度は、ホウ素濃度として0.1〜3%、より好ましくは、0.5〜1%である。0.1%未満であると、pHやエッチング性の緩衝能が充分に得られず、また、電解処理後の酸化皮膜中への取り込み量が少なくなるため、有機ケイ素化合物層との高い密着力が得られない。一方、3%以上になると、アルカリ水溶液によるエッチング特性が低下し、良好な酸化皮膜が形成されないばかりか、酸化皮膜中への取り込み量が多くなりすぎ、有機ケイ素化合物層との高い密着力が得られない。
【0017】
主成分の濃度はアルカリ性化合物の種類により異なるが、水素イオン濃度指数として、pH9〜13、好ましくは9.5〜12である。pHが9よりも低いと、電解電圧が高くなりすぎ、脱脂効果が劣るばかりでなく、安定した処理が困難となる。また、pHが13より高いと、エッチング作用が強すぎてしまい、電解処理によって多量のスマットを生じるため、樹脂層との密着性が低下してしまう。
【0018】
電解処理温度は、35〜80℃、より好ましくは、40〜70℃である。35℃未満の処理では、脱脂力が劣るだけではなく、得られた基板と樹脂との接着力が低い結果となる。また、80℃以上ではエッチング作用が強く、アルミニウム表面に多量のスマットを生じ、これも樹脂との接着力を阻害する一因となる。
【0019】
電流密度は、4〜30A/dmである。4A/dm以下では、処理時間が長くなってしまうため、生産性が低下することに加え、脱脂・洗浄作用が弱く、その結果、樹脂との充分な接着力も得られない。一方、30A/dm以上では、エッチング作用が強すぎて、アルミニウム表面に多量のスマットが生じたり、焼けと呼ばれる外観不良が生じてしまうので、好ましくない。
【0020】
周波数は、40〜60Hzである。40Hz以下では、処理時間が長くなり、生産性の低下や、樹脂との接着力低下が懸念される。60Hz以上では、スマットの発生や外観不良が懸念される。
【0021】
電解処理時間は、10〜60秒、より好ましくは20〜50秒である。上記電流密度において、この処理時間にて電解処理することにより、膜厚が50〜200nmの多孔質構造を有する酸化皮膜を得ることができる。この多孔質構造を有する酸化皮膜とは、アルミニウム素地の上部に形成されるバリア型の緻密な皮膜の上部にポア系の大きい(直径約200Å、通常の陽極酸化皮膜では約50Å)多孔質型の構造を有する酸化皮膜のことをいう。この多孔質構造を有する酸化皮膜の形成において、電解処理時間が10秒より短い場合には、バリア型の緻密な酸化皮膜は形成されるものの、多孔質型の酸化皮膜が充分に形成されず、樹脂層との接着力に優れた酸化皮膜が形成されない。一方、電解処理時間が60秒より長い場合には、多孔質型の酸化皮膜が充分に形成されるものの、全体の酸化皮膜厚も厚くなるため、加工時にクラックが入り、接着力が低下することに加え、生産性も低下する。したがって、電解処理時間は、10〜60秒、より好ましくは20〜50秒であることが好ましく、上記処理時間の範囲においては、緻密なバリア型の酸化皮膜の上部に、接着性や加工性の両方に優れた、最適な多孔質構造を有する酸化皮膜が形成される。また、この処理によって得られた多孔質構造を有する酸化皮膜は、後述する有機ケイ素化合物処理を施す際にも、多孔質構造のポア部に有機ケイ素化合物溶液が充分に浸透するため、処理性に優れる。
【0022】
本発明による交流電解処理では、交流電解処理時に脱脂処理も同時に行えるので、特に有機溶剤等による前処理は不必要である。また本発明では、電解処理によるスマット等の汚れを生じないので、後処理は水洗のみで充分である。
【0023】
本発明による電解処理では、陽極酸化処理に見られるような多孔性の酸化皮膜を形成しない。したがって、アルミニウム板表面は平坦なので、絶縁樹脂層には局部的に薄い部分が生成せず、絶縁性樹脂層を薄くしても良好な絶縁性が維持でき、誘電率の低下も起こりにくい。
【0024】
また、陽極酸化皮膜は硬質であるため、折り曲げや打ち抜き等の加工時にひび割れを生じ、絶縁性樹脂との接着不良の原因となるが、本法ではそのような欠陥を生じない。
【0025】
一方、化学エッチングとの比較においては、不均一なエッチングでは接着力の劣る表面層が残存するための密着力低下が無く、エッチング量が0.1〜2g/mと少なく(通常の化学エッチングでは5〜20g/m)、アルミニウム板表面にスマット等の汚れの付着がないので、接着力の低下が無く、さらに、スマット除去等の後処理を必要としないため、工程が簡略化でき、さらに板成分の溶出による電解液組成の変質、劣化も起こりにくいので、液の更新頻度や廃液処理量も少なくて済み、生産性を高く維持できる。また、本発明によれば、前記条件からも分かるように、エッチング量が少なく、ピットの形成が無いため、薄いアルミニウム箔においても同様な処理が可能である。このことは、酸性溶液中での電解処理の如く、ピットが貫通したり、化学エッチング処理や陽極酸化処理のように電解処理時間を厳しく制限する必要が無いので、これらの方法とは異なって、本発明では安定した操業を行うことができ、優れた製品を安定して得ることができる。
【0026】
電解処理をしたアルミニウム板は、表面に付着した電解液を除去するために、水洗を行う。また、水洗後には、乾燥処理を行う。乾燥処理条件は、厳密に制限されるものではなく、処理後の表面が完全に乾いていればよい。通常は、生産性等を考慮して、乾燥温度が60℃〜150℃、乾燥時間が10〜60秒にて処理される。乾燥を行う最大の目的は、上記電解処理に続く有機ケイ素化合物層の形成を、ムラ無く均一に行うためである。
【0027】
B.有機ケイ素化合物による処理
本発明では、上記交流電解処理を行った後に、有機ケイ素化合物による有機ケイ素化合物層を設ける。有機ケイ素化合物で処理することにより、前記交流電解処理によって得られた多孔質構造を有する酸化皮膜の上部に有機ケイ素化合物層が形成された複合皮膜を得ることができる。この複合皮膜は、樹脂層との接着性に極めて優れる。
【0028】
前記アルミニウム酸化皮膜の表面に所定の有機ケイ素化合物皮膜を形成することにより、樹脂層との密着性を向上させることができる。このような有機ケイ素化合物は、下記式(1)の構造を有する。
【化1】

式(1)において、Yは アミノ基、ビニル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基から成る群から選択されるいずれかの有機官能基、Rは炭素数1〜5のアルキル基、OR’はアルコキシル基、nは0、1または2である。
【0029】
アミノ基、ビニル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基は、交流電解処理によって得られた酸化皮膜のヒドロキシル基、酸化皮膜中に取り込まれたホウ素成分、そして樹脂層のヒドロキシル基やカルボキシル基等との双方で強固な結合を形成するため、優れた密着性が付与される。
【0030】
このような有機ケイ素化合物には、官能基Yがアミノ基より成るものとして、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0031】
官能基Yがビニル基より成るものとして、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリ(メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、アリルトリメトキシシラン等が挙げられる。
官能基Yがメタクリル基より成るものとして、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0032】
また、官能基Yがエポキシ基より成るものとして、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0033】
さらに、官能基Yがメルカプト基より成るものとして、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0034】
有機ケイ素化合物層の形成による複合皮膜は、その有機ケイ素化合物溶液を上記酸化皮膜の上部に塗布することによって得られる。有機ケイ素化合物層の塗布量は、乾燥後における有機ケイ素化合物層がSi換算で、すなわち、乾燥後における有機ケイ素化合物層中に存在するSi量が、1〜10mg/mとなるようにする。この塗布量により、圧延目などによってアルミニウム基材表面に凹凸が存在していても良好な均一性をもった皮膜が得られ、さらに、このような形成量とすることにより、安定して良好な密着性が発揮される。
【0035】
上記有機ケイ素化合物層のSi量が1mg/m未満であると、アルミニウム基材表面全体を被覆するような有機ケイ素化合物皮膜が得られない。このような場合には、有機ケイ素化合物皮膜により被覆されていない箇所で、密着性が劣ってしまう。一方、上記有機ケイ素化合物層のSi量が10mg/mを超えると、アルミニウム基材表面を有機ケイ素化合物皮膜で完全に被覆することが可能であるが、有機ケイ素化合物皮膜量を多くすることで、有機ケイ素化合物皮膜内部で凝集破壊が生じるため、密着性の低下を招くことになる。
【0036】
有機ケイ素化合物溶液は、その有機ケイ素化合物を水、あるいは、極性又は非極性の有機溶剤などの溶媒に溶解又は分散して、処理に適した濃度に調製される。溶媒としては、コストの観点から水が好適に用いられる。塗布方法は特に限定されるものではなく、ロールコート法、スプレーコート法、バーコート法、ディップコート法などが用いられる。
【0037】
塗布した後には、50〜200℃、好ましくは80〜180℃の温度で乾燥される。乾燥時間は、乾燥温度等に応じて適宜選択される。すなわち、乾燥温度が高い場合には乾燥時間を短時間に、乾燥温度が低い場合には乾燥時間を長くすることが望ましい。ただし、低温で短時間の乾燥をすると、アルミニウム基材と有機ケイ素化合物皮膜との間で脱水反応が不完全となり、共有結合を促進することができず、充分な密着性が得られない。また、高温で長時間にわたって乾燥すると、酸化皮膜に割れが生じ、密着性の低下を招く。したがって、乾燥条件としては、例えば、乾燥温度が60℃の場合には乾燥時間が40秒、150℃では15秒などとすることが好ましい。
【0038】
この乾燥処理により、有機ケイ素化合物の溶液を塗布した後に形成されるアルミニウム基材と有機ケイ素化合物との間に形成される水素結合部から、脱水反応が進行し、アルミニウム基材と良好な共有結合を形成した有機ケイ素化合物皮膜を設けることができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は以下に記載の例に限定されるものではない。
【0040】
実施例1〜6、比較例1〜6
純アルミ系アルミニウム合金圧延板(JIS A 1100−H24、板厚1.0mm)を電解処理し、その後、バーコーターにより有機ケイ素化合物を塗布した。表1に試験条件の詳細を示す。
【0041】
【表1】

【0042】
上記処理を行った後、エポキシ樹脂を40μmの厚さに塗布し、厚さ35μmの電解銅箔を積層した後、ホットプレスにて165℃、90分間の加熱圧着を行い、プリント回路基板を作製した。そして、以下の項目及び方法に従って試験を実施した。評価試験結果を表2に示す。
【0043】
耐熱接着性試験
上記のプリント回路基板を55mm×25mmのサイズに切断し、オートクレーブ中で121℃、16時間吸湿処理した後、260℃の半田浴上にて30秒間フロートし、銅箔を引き剥がした後のアルミニウム露出面積により、樹脂に対するアルミニウム板の吸湿下での耐熱接着性を評価した。評価判定は下記の通りとした。
露出面積 0% = ◎
0〜2% = ○
2〜50% = △
50%以上 = ×
【0044】
ピール強度試験
上記のプリント回路基板を、55mm×10mmのサイズに切断し、オートクレーブ中で121℃、16時間吸湿処理した後、180°ピール強度を測定した。評価判定は下記の通りとした。
2.5kgf/10mm巾以上 = ◎
2.0〜2.5kgf/10mm巾 = ○
1.5〜2.0kgf/10mm巾 = △
1.5kgf/10mm巾以下 = ×
【0045】
【表2】

【0046】
実施例1〜6においては、交流電解処理、及び有機ケイ素化合物による処理が、本発明の範囲内であり、所望の複合皮膜が得られているため、評価試験結果はいずれも良好であった。
【0047】
一方、比較例1〜4においては、交流電解処理、及び有機ケイ素化合物による処理が、本発明の範囲と異なり、充分な性能が得られない結果となった。
【0048】
一方、比較例1では、電解液の浴温が30℃と低く、充分な脱脂性が得られていない上に、有機ケイ素化合物の塗布量も少ないため、ピール強度が劣る結果となった。比較例2では、電解液のpHが低く、ホウ素濃度も高い。また、電解条件も本発明の範囲と異なるため、耐熱接着性が劣った。比較例3では、電解液の浴温が高い上に、電解液にホウ素を含んでいない。また、電解条件も本発明の範囲と異なり、さらに有機ケイ素化合物の塗布量も多いため、所望の複合皮膜が得られず耐熱接着性やピール強度が劣った。比較例4では、電解液のpHが高く、電解条件も本発明の範囲と異なる。また、酸化皮膜の厚さも220nmと本発明の範囲よりも厚いため、ピール強度が劣った。比較例5では、電解液条件や電解条件はともに本発明の範囲内であるが、有機ケイ素化合物の液主成分が本発明とは異なるため、耐熱接着性やピール強度は劣った。比較例6では、電解液条件や電解条件はともに本発明の範囲内であるが、有機ケイ素化合物による処理を行わず、複合皮膜を得ていないことから、耐熱接着性やピール強度は劣った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金板上に、ホウ素成分を含むアルカリ性水溶液中での交流電解処理によって形成した膜厚50〜200nmの酸化皮膜と、その酸化皮膜の上にSi量換算で1〜20mg/mの下記式(1)で表される有機ケイ素化合物層の1種又は2種以上とからなる複合皮膜を有することを特徴とするプリント回路基板用基材。
【化1】

式(1)において、Yはアミノ基、ビニル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基から成る群から選択されるいずれかの有機官能基、Rは炭素数1〜5のアルキル基、OR’はアルコキシル基、nは0、1または2である。
【請求項2】
アルミニウム合金板の表面を、0.1〜3%のホウ素成分を含む浴温35〜80℃、pH9〜13のアルカリ性水溶液中で、40〜60Hzの周波数、4〜50A/dmの電流密度にて、10〜60秒の交流電解処理を行い、さらに、下記式(1)で表される有機ケイ素化合物層の1種又は2種以上とからなる層を設けることを特徴とするプリント回路基板用基材の製造方法。
【化1】

式(1)において、Yは アミノ基、ビニル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基から成る群から選択されるいずれかの有機官能基、Rは炭素数1〜5のアルキル基、OR’はアルコキシル基、nは0、1または2である。

【公開番号】特開2008−266679(P2008−266679A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−108059(P2007−108059)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】