説明

プリント配線板用銅箔およびその製造方法ならびにプリント配線板

【課題】 シランカップリング処理による銅箔の表面またはその上の金属防錆層の表面へのシランの付着量を適正化して、有機材料からなる絶縁性基材の表面との接合強度の向上を達成したプリント配線板用銅箔およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 銅箔1の表面上に設けられたシランカップリング処理層2における、グロー放電発光表面分析によって計測されるシランの成分分布のピーク面積Vを、当該プリント配線板用銅箔におけるシランカップリング処理層2が設けられた面における比表面積Sで除算した値V/Sを、0.03以上0.6以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばフレキシブルプリント配線板等に用いられるプリント配線板用銅箔およびその製造方法ならびにプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
銅箔は一般に、導電性部材として用いられている。なかでも、フレキシブルプリント配線板の分野では、ポリイミド樹脂フィルムからなる絶縁性基材にラミネートされ、いわゆる銅張フレキシブルプリント配線基板の導体層として、盛んに用いられている。あるいは、ポリアミック酸を主成分とするポリイミドワニスを裏面に塗布し、それを硬化させて絶縁性基材とすることで、上記のラミネート方式の場合とほぼ同様に、銅張フレキシブルプリント配線基板における、絶縁性基材の表面に張り合わされた状態の導体層として用いられている。そして、斯様な銅張フレキシブル配線基板の表面の導体層である銅箔を、例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法などを用いて所望の配線パターンに加工することで、フレキシブル配線板が作製される。
【0003】
このような銅張フレキシブル配線基板の導体層として用いられる銅箔には、一般に、絶縁性基材との密着性を高めてその接合強度を確保するために、粗面化処理や防錆処理等が施される場合も多い。特に、フレキシブルプリント配線板用の銅張プリント配線基板等に用いられる絶縁性基材は上記のポリイミド樹脂のような有機材料からなるものである場合が多いので、斯様な有機材料からなる絶縁性基材と、無機材料である銅箔やその表面に形成された例えばニッケルやコバルトなどの薄膜からなる金属防錆層との、化学的な接合強度を高めるための有効な手段として、シランカップリング処理と呼ばれる有機皮膜処理を銅箔や金属防錆層の表面に施すという技術が提案されている。
【0004】
シランカップリング処理は一般に、エポキシ系、アミノ系のシランカップリング剤を水溶液またはエタノール等の有機溶媒中に溶解させておき、それを処理対象の銅箔の表面またはその上に形成された防錆処理層の表面に接触させることによって行われる。この処理により、銅箔の表面にシランカップリング剤のOH基が吸着され、乾燥時に脱水・結合して、その銅箔の表面にポリイミド樹脂のような有機材料と化学的に反応しやすいアミノ基が多数存在する状態のシランカップリング処理層が形成される。その結果、シランカップリング処理が施された銅箔の表面には、ポリイミドフィルムのような有機材料からなる絶縁性基材に対する良好な接合強度が付与されることとなる(以上、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−98732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のようなシランカップリング処理は、プリント配線板用銅箔の表面とポリイミド等の有機材料からなる絶縁性基材の表面との接合強度を確保する上で、極めて重要な処理であるにも関わらず、そのプロセス処理条件等の設定・管理は概ね経験則に頼るところが大きく、その適正な設定・管理を恒常的に維持することや、異なった仕様のものに対して適切に再設定することが、困難であるという問題があった。
また、シランカップリング処理層の厚さやその実質的な付着量を計測すること自体からして従来は困難であった。すなわち、シランカップリング処理によって付着されるシランの量は極めて微量であり、従ってシランカップリング処理層は極めて薄いものであり、ま
たシランカップリング処理層の主成分がシリコンであるため、一般的な銅箔の表面に形成される金属防錆層などの厚さや付着量を計測するために用いられるICP法などでは、シランカップリング処理層の厚さやそのシランの実質的な付着量を正確に計測することは困難ないしは不可能であった。
このため、従来のプリント配線板用銅箔およびその製造方法では、様々な表面形態や表面粗さを有している、異なった複数品種の銅箔に対して、同一の条件でシランカップリング処理を行うことを余儀なくされたり、あるいは逆に、同一品種の銅箔に対して施される実質的なシランカップリング処理の付着量に、無視できないばらつきが生じたりして、最適なシランカップリング処理を恒常的かつ確実に行うことができなかった。
また、例えば必要量を超えた過剰なシランカップリング剤を処理対象の銅箔の表面に塗布した場合、その銅箔の表面に絡まり付くようにして余剰なシランカップリング剤が付着し残存することとなる。そうすると、その銅箔の表面に、強固な力で吸着されているのではなくて、弱い力で絡まり付いているだけの、余剰なシランの存在が、銅箔と絶縁性基材との接合強度を低下させてしまう要因となる。また、そのような余剰なシランが弱い力で表面上に絡まり付いている銅箔は、エッチング法等によりパターン加工した後にも、その余剰なシランは残留しつづけている場合が多く、これが要因となって、作製されたプリント配線板における配線パターンにマイグレーションなどの不具合が発生する虞もある。
本発明は、このような問題に鑑みて成されたもので、その目的は、シランカップリング処理による銅箔の表面またはその上の金属防錆層の表面へのシランの付着量を適正化して、有機材料からなる絶縁性基材の表面との接合強度の向上を達成したプリント配線板用銅箔およびその製造方法ならびにプリント配線板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプリント配線板用銅箔は、シランカップリング剤を用いたシランカップリング処理によって、処理対象の銅箔の表面上にシランを付着してなるシランカップリング処理層が形成されたプリント配線板用銅箔であって、前記シランカップリング処理層におけるシランの付着量が、ロー放電発光表面分析によって計測される前記シランの成分分布のピーク面積と当該プリント配線板用銅箔における前記シランカップリング処理が施された面の比表面積との比によって規定されていることを特徴としている。
本発明のプリント配線板用銅箔の製造方法は、処理対象の銅箔の表面上にシランカップリング剤を用いたシランカップリング処理を施して、当該銅箔の表面上にシランを付着してなるシランカップリング処理層を設ける工程を有するプリント配線板用銅箔の製造方法であって、前記シランカップリング処理層におけるシランの付着量を、グロー放電発光表面分析によって計測される前記シランの成分分布のピーク面積と当該プリント配線板用銅箔における前記シランカップリング処理が施された面の比表面積との比によって規定して、前記シランカップリング処理を施す工程を含むことを特徴としている。
本発明のプリント配線板は、処理対象の銅箔の表面上にシランカップリング剤を用いたシランカップリング処理によってシランを付着してなるシランカップリング処理層が形成されたプリント配線板用銅箔の表面を、有機材料からなる絶縁性基材と対面するように張り合わせ、前記プリント配線板用銅箔をパターン加工して、所望の配線パターンを形成してなるプリント配線板であって、前記シランカップリング処理層におけるシランの付着量が、グロー放電発光表面分析によって計測される前記シランの成分分布のピーク面積と当該プリント配線板用銅箔における前記シランカップリング処理が施された面の比表面積との比によって規定されていることを特徴としている。
ここに、上記の「ピーク面積」とは、グロー放電発光表面分析(GDOES)によって得られる強度の深さ方向の和、または深さ方向プロファイル(Depth Profile)上の面積
を意味するものである。また、上記の「比表面積」とは、実際の表面積/測定面積を意味するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、グロー放電発光表面分析によって、シランカップリング処理層におけるシランの成分分布のピーク面積を計測し、そのピーク面積を、シランカップリング処理が施された面の比表面積で除算した値(つまりシランの成分分布のピーク面積の、シランカップリング処理が施された面における比表面積に対する比の値)を、望ましい一態様として例えば3.0以上20以下のような、所定の値となるように設定して、シランカップリング剤を用いたシランカップリング処理を処理対象の銅箔の表面またはその上に形成された金属防錆層の表面に施すようにしたので、シランカップリング処理による銅箔の表面またはその上の金属防錆層の表面へのシランの付着量を適正化して、有機材料からなる絶縁性基材の表面との接合強度の向上を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔の主要な構成を示す図である。
【図2】シランカップリング処理によって銅箔のような無機材料の表面にシランが吸着〜脱水・化学結合する状況を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施の形態に係るプリント配線板用銅箔およびその製造方法ならびにプリント配線板について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔の主要な構成を示す図、図2は、シランカップリング処理によって銅箔のような無機材料の表面にシランが吸着〜脱水・化学結合する状況を模式的に示す図である。
【0011】
本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔は、銅箔1と、その銅箔1の表面にシランカップリング剤を用いたシランカップリング処理によって適正量のシランを付着してなるシランカップリング処理層2とを、その主要部として備えている。
【0012】
銅箔1は、それ自体については、電解箔あるいは圧延箔のどちらでも用いることが可能である。この銅箔1の表面には、ポリイミド樹脂フィルムのような有機材料からなる絶縁性基材3の表面と張り合わせてなる、いわゆる銅張プリント配線基板としての、またさらにはそれに所望の配線パターン等を加工形成してなるプリント配線板としての、必要とされる引き剥がし強度に対応した表面粗さを得るために、粗面化処理等が施される場合も多い。
一般に、この銅箔1における絶縁性基材3と張り合わされる表面の表面粗さが高いほど、引き剥がし強度は高くなるが、微細な配線の形成には不利になる傾向にある。また逆に、表面粗さが低いほど、微細な配線の形成には有利になるが、引き剥がし強度は低下する傾向にある。本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔に用いられる銅箔1としては、どのような表面粗さを有しているものであってもよい。
【0013】
また、銅箔1には、長期保存性や加熱酸化変色防止などのために、防錆処理が施される場合も多い。この防錆処理としては、具体的には、銅箔1の表面に、耐酸化性の良好な金属皮膜からなる金属防錆層(図示省略)を、電気めっきまたは化成処理によって形成することが一般に行われている。その金属防錆層を形成する金属皮膜の種類としては、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)等があり、これらのうちの1種類または複数種類の金属を、防錆処理対象である銅箔1の表面上に、単一材料または合金からなる金属皮膜状に着膜させることにより、金属防錆層が形成される。ここで、本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔およびその製造方法ならびにプリント配線板における、シランカップリング処理は、銅箔1それ自体の表面に施すことが可能であることは勿論であるが、銅箔1の表面上に形成された金属防錆層の表面に施すことも可能である。そして、そのように金属防錆層の表
面に後述するような適正量のシランの付着量を以てシランカップリング処理を施した場合でも、銅箔1それ自体の表面に適正量のシランの付着量を以てシランカップリング処理を施した場合と同様に、シランの付着量を適正化して、有機材料からなる絶縁性基材3の表面との接合強度の向上を達成することが可能である。
【0014】
シランカップリング処理層2は、銅箔1の表面またはその表面上の金属防錆層の表面に(本明細書では、これらを纏めて単に「銅箔1の表面上に」とも表記する)、適正なシランの付着量に対応して設定される所定量のシランカップリング剤を用いたシランカップリング処理によって、適正な付着量のシランを付着してなるものである。
このシランカップリング処理層2におけるグロー放電発光表面分析によって計測されるシランの成分分布のピーク面積を、シランカップリング処理が施された面の比表面積で除算(割り算)した値(つまりシランの成分分布のピーク面積の、シランカップリング処理が施された面の比表面積に対する割合)は、0.03以上0.6以下の範囲内の所定の値に設定されている。
ここで、上記の「ピーク面積」とは、グロー放電発光表面分析(GDOES)によって得られる強度の、計測対象の膜の深さ方向の和、または、その深さ方向プロファイル(Depth Profile)上の面積を意味するものである。また、上記の「比表面積」とは、実際の
表面積(表面の凹凸等を伸ばして平面化したときの、その実質的な全面積)/測定面積(見掛けの外形寸法等の測定値に基づいて算出される幾何学的な面積)を意味するものである。
また、その計測の際の各種設定としては、圧力600Paの作業雰囲気中で、光源設定を、出力35W、周波数25Hz、デューティサイクル0.1、実効値3.5Wとする。
【0015】
シランカップリング剤は一般に、その構造から様々な種類に分類され、銅箔1が接合される絶縁性基材3の材質に対応して使い分けられている。特に、フレキシブルプリント配線板の分野では、絶縁性基材3としてポリイミド樹脂フィルムのような有機材料からなるものが用いられる場合が多い。この観点から、シランカップリング剤としては、ポリイミドとの良好な接合強度および長期安定性が得られる、アミノ基を有するシランカップリング剤などを用いることが望ましい。但し、これのみには限定されないことは言うまでもない。
そのようなアミノ基を有するシランカップリング剤としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランなどを用いることが可能である。これらのシランカップリング剤の一種類または複数種類を選択し、特定の濃度の水溶液として用いるのである。
ここで、一般に、シランカップリング剤の水溶液の濃度が高いほど、銅箔1の表面への付着量も増加する傾向にある。
シランカップリング剤の、銅箔1の表面への吸着は、図2に模式的に示したように、銅箔1の表面のOH基に対して行われる。このため、実際に銅箔1の最表面に吸着されるシランの量は限定される。そして、吸着されなかった余剰のシランカップリング剤の一部は、銅箔1の表面上に吸着したシランにあたかも絡まり付くようにして、銅箔1の表面上に弱い力で付着した状態で残留する。絶縁性基材3との接着時には、それら吸着したシランおよびそれに絡まり付いているシランが、絶縁性基材3の表面と結合することになる。
【0016】
ところが、銅箔1の表面に吸着されているわけではなく単に絡まり付いているだけの余剰なシランは、その絡まりの力が弱いので、絶縁性基材3に対する銅箔1の接着強度を低下させる要因となる虞が極めて高い。このため、銅箔1の表面に吸着されるシランの量それ自体を調節するのではなくて、従来技術の場合のような単に銅箔1の表面に塗布するシランカップリング剤の使用量を経験則等に従って見積もって調節するだけでは、銅箔1の表面に吸着されることなく徒に弱く絡まり付いているだけの余剰なシランの存在に起因し
て、むしろ絶縁性基材3との接着力が低下する虞すらある。また逆に、銅箔1の表面上に余剰なシランが多く絡まり付くように付着することを回避しようとして、あらかじめ少なめに見積った量の、あるいは低濃度のシランカップリング剤を用いるようにすると、実質的に接合強度の強化に寄与するシランの量、つまり銅箔1の表面に確実に吸着されるシランの付着量が不足してしまい、やはり絶縁性基材3との接着力が低下する虞が高くなる。
しかし、本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔およびその製造方法ならびにプリント配線板では、実質的に接着力の強化に寄与できる適正なシランの付着量の設定として、シランカップリング処理層2におけるグロー放電発光表面分析によって計測されるシランの成分分布量のピーク面積(これをシランの付着量の指標としてVと表記する)を、シランカップリング処理が施された面における比表面積(これをSと表記する)で除算した値(V/S)が、0.03以上0.6以下の範囲内の値(0.03≦V/S≦0.6)となるように、処理対象の銅箔1の表面上にシランカップリング剤を用いてシランカップリング処理を施すようにしている。これにより、本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔およびその製造方法ならびにプリント配線板によれば、シランカップリング処理による銅箔の表面またはその上の金属防錆層の表面へのシランの付着量を適正化して、有機材料からなる絶縁性基材3の表面との接合強度の向上を達成することが可能となるのである。
【0017】
すなわち、我々は鋭意に種々の実験およびその結果の評価・検討等を行った結果、シランカップリング処理の対象となる銅箔1の実質的な表面積である比表面積(S)当たりの、実質的に銅箔1の表面上に吸着されているシランの付着量(V)を適正な範囲内の値に規定することにより、特に有機材料からなる絶縁性基材3と張り合わされるフレキシブルプリント配線板用銅箔にとって好適なシランカップリング処理層2を得ることが可能であることを確認した。
そしてまた、上記の銅箔1の表面上におけるシランの付着量(V)は、GDOES(グロー放電発光表面分析)法によって、銅箔1の表面上におけるシランの成分分布量のピーク面積を計測し、それを指標として用いることにより、確実に正確な数値として把握することが可能となることを確認した。
また、シランカップリング処理の対象となる銅箔1の比表面積(S)は、レーザ顕微鏡を用いた計測によって、銅箔1における完全にフラットな表面の面積(銅箔1における処理対象領域の寸法に基づいた、いわゆる幾何学的な面積)に対する比として求められる。
【0018】
そして、我々は後述の実施例で説明するような各種実験およびそれに対する考察等を行った結果、シランの付着量(V)を比表面積(S)で除算した値(V/S)が0.03以上0.6以下の範囲内の値(0.03≦V/S≦0.6)であるときに、必要十分な適正量のシランが銅箔1の表面上に付着した状態が得られ、絶縁性基材3との接合強度が最適化されるということを確認した。
シランの付着量が少なくなってV/Sの値が0.03未満になると、絶縁性基材3との引き剥がし強度(換言すれば接合強度)が顕著に低下する。また、銅箔1の表面に十分なシランが付着していないことから、長期保存時に酸化や湿度によって変色等の不具合も発生しやすい。
また、シランの付着量が過多となってV/Sの値が0.6超になると、余剰のシランの絡まり付きなどに起因して、絶縁性基材3との引き剥がし強度が低下する。また、銅箔1のパターン加工のためのエッチングの際などでも、残留している余剰のシランが除去しきれずに、いわゆるエッチング残りとなるなどして、その銅箔1をパターン加工してなる配線パターンにおけるマイグレーション不良等の要因となる虞が高くなる傾向にある。
よって、V/Sは、上記のように0.03以上0.6以下の範囲内の値とすることで、銅箔1の絶縁性基材3に対する接合強度を最適化することが可能となるのである。
ここで、銅箔1の表面には、一般に、粗面化処理が施される場合が多い。ところが、そうすると処理対象の銅箔1の実質的な表面積は、銅箔1の外形寸法のような単なる幾何学
的な面積ではなく、その面積を銅箔1の処理対象の面の比表面積Sで補正することが必要ということになる。このため、より実質的に適正なシランの付着量を設定するためには、比表面積Sで付着量Vを除算して、いわゆる計測工学的な確からしさを向上させるという観点からも、補正を掛けることが望ましいからである。
【0019】
上記のような本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔は、例えば次のようにして製造される。
銅箔1の表面に、例えば電解めっき法等により粗化めっき処理を施した後、その表面に、ニッケルめっき、亜鉛めっき、クロメート処理等のような防錆処理を行って金属防錆層を形成する。
【0020】
続いて、その銅箔1を、シランカップリング剤の水溶液に浸漬させる。このとき、例えばこのコマーシャルベースのシランカップリング処理プロセスを開始するに先立って、銅箔1やシランカップリング剤の仕様と同一の仕様のテストピースを用いた先行試作等によって、シランカップリング剤の水溶液の濃度や浸漬時間等の諸条件を、シランの付着量(V)を比表面積(S)で除算した値(V/S)が0.03以上0.6以下の範囲内の適正な値(0.03≦V/S≦0.6)となるように、あらかじめ設定しておく。あるいは、このコマーシャルベースのシランカップリング処理プロセスの施行と並行して、このシランカップリング処理プロセスで銅箔1の表面上に付着しつつあるシランの量を計測し、その付着量Vが上記のような適正範囲内の所定の値となるように、例えばフィードバック制御法などによって適宜にシランカップリング剤の水溶液の濃度や浸漬時間等の諸条件を調節するようにしてもよい。
このようにして、銅箔1の表面上に、適正量のシランを付着してなるシランカップリング処理層2を形成して、本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔の主要部を製造することができる。
【0021】
また、図示は省略するが、さらにこのプリント配線板用銅箔を用いて、銅箔1にパターン加工を施して配線パターンを形成することなどにより、絶縁性基材3の表面に対して極めて良好な接着性を有する配線パターン等を備えたプリント配線板を製造することができる。
【実施例】
【0022】
上記の実施の形態で説明した設定および製造方法に従って、本発明の実施例に係るプリント配線板用銅箔の試料を製造した。また、それとの比較のために、敢えて上記の実施の形態で説明した設定および製造方法とは異なる設定および製造方法で、比較例に係るプリント配線板用銅箔の試料を製造した。そして、それらプリント配線板用銅箔の各試料を、ポリイミド樹脂フィルムからなる絶縁性基材3と張り合わせて、引き剥がし強度を調べることで、その各々の試料の、有機材料からなる絶縁性基材3に対する接着性について確認・評価した。その結果を表1に纏めて示す。
【0023】
ここで、銅箔1と絶縁性基材3との張り合わせは、具体的には、いわゆるラミネートネーションのような張り合わせではなく、各試料の粗化面側の表面にポリイミドワニス(宇部興産 U−ワニス)をバーコータで9mil塗布し、大気中で110℃×10分加熱し乾燥させた後、窒素ガス雰囲気中へ試料を投入して300℃×15分加熱することで硬化させるようにした。これによって形成されたポリイミド樹脂からなる絶縁性基材3の厚さは25μmとなった。そして、塩化第二鉄エッチング液を用いて銅箔1にパターン加工を施して、幅1.0mmの直線回路を形成した。
シランカップリング処理によるシランの付着量Vについては、GDOES(グロー放電発光表面分析、堀場製作所GD-Profiler2)による深さ方向分析を行い、シリコンのピークから得られるピーク面積を付着量Vの指標とした。このときのシリコンの測定波長は288.
158nm、フォトマルの感度をH.V.=999Vとした。また、その計測の際の各種設定
は、圧力600Paの作業雰囲気中で、光源を、出力35W、周波数25Hz、デューティサイクル0.1、実効値3.5Wとした。
引き剥がし強度の計測は、オートグラフ(島津製作所AGS-500A)を用いて、90°方向にクロスヘッド速度50mm/minで引き剥がした際に発生する荷重を計測することで行った。
【0024】
【表1】

【0025】
(実施例1)
圧延方式で製造された厚さ18μmの銅箔1の片面に粗化めっき処理を行った。その面の比表面積Sは1.3となった。
その銅箔1の表面に、ニッケルめっき、亜鉛めっき、クロメート処理の防錆処理を行って金属防錆層を形成した。そして、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APS)水溶液に浸漬させることで、金属防錆層の表面にシランカップリング処理層2を形成して、実施例1の試料を得た。この実施例1の試料のシラン付着量Vを計測したところ、0.16であった。従って、この実施例1の試料のV/S、つまりシランの比面積当たりの付着量V/S(表1では右端の欄に「シラン比面積付着量」として記載)は、0.12であった。
そして、この実施例1の試料の引き剥がし強度を計測した。この実施例1の試料では、引き剥がし強度は1.03N/mmであり、1.0N/mm以上の良好な引き剥がし強度が得られていることが確認された。この結果から、本発明に係る実施例1の試料は、十分な接合強度を有しているものと評価できる。
【0026】
(実施例2)
シラン付着量Vを0.49とし、実施例1と同様に銅箔の比表面積Sを1.3とすると共に、シランカップリング剤としてはAPSを用いて実施例2の試料を製造した。そして、この実施例2の試料におけるシラン比面積付着量V/Sを、実施例1と同様の手法によって計測したところ、0.38であった。
この実施例2の試料について、引き剥がし強度を計測した。その結果、引き剥がし強度は1.04N/mmであり、1.0N/mm以上の良好な引き剥がし強度が得られていることが確認された。この結果から、本発明に係る実施例2の試料は、十分な接合強度を有しているものと評価できる。
【0027】
(実施例3)
比表面積Sを1.7とし、シランカップリング剤としてN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(AEAPS)を用い、シラン付着量Vを0.13とした、実施例3の試料を製造した。この実施例3の試料におけるシラン比面積付着量V/Sは、0.1であった。
この実施例3の試料について、引き剥がし強度を計測した。その結果、引き剥がし強度は1.00N/mmであり、良好な引き剥がし強度が得られていることが確認された。この結果から、本発明に係る実施例3の試料は、1.0N/mm以上の十分な接合強度を有しているものと評価できる。
【0028】
(実施例4)
比表面積Sを1.7とし、シランカップリング剤としてAEAPSを用い、シラン付着量Vを0.78とした、実施例4の試料を製造した。この実施例4の試料におけるシラン比面積付着量V/Sは、0.46であった。
この実施例4の試料について、引き剥がし強度を計測した。その結果、引き剥がし強度は1.02N/mmであり、1.0N/mm以上の良好な引き剥がし強度が得られていることが確認された。この結果から、本発明に係る実施例4の試料は、十分な接合強度を有しているものと評価できる。
【0029】
(実施例5)
比表面積Sを1.7とし、シランカップリング剤としてAEAPSを用い、シラン付着量Vを0.46とした、実施例5の試料を製造した。この実施例5の試料におけるシラン比面積付着量V/Sは、0.27であった。
この実施例5の試料について、引き剥がし強度を計測した。その結果、引き剥がし強度は1.20N/mmであり、1.0N/mm以上の良好な引き剥がし強度が得られていることが確認された。この結果から、本発明に係る実施例5の試料は、十分な接合強度を有しているものと評価できる。
【0030】
(比較例1)
実施例1と同様に防錆処理までを行ったが、シランカップリング処理は敢えて行わないようにして、比較例1の試料を製造した。この比較例1の試料では、比表面積Sは1.1、シラン付着量Vは0であるから、シラン比面積付着量V/Sは0(つまり0.03未満の最も極端な例)である。
そして、上記の各実施例度同じ条件で引き剥がし強度を計測した。その結果、引き剥がし強度は1.0N/mm未満(約半分程度)の0.51となり、十分な強度を有しているとは言えないと評価せざるを得ないものとなった。
【0031】
(比較例2)
比表面積Sを1.3とし、シランカップリング剤としてAPSを用いてシラン付着量Vを0.03とした、比較例2の試料を製造した。この比較例2の試料では、シラン比表面積付着量V/Sは、0.02(つまり0.03未満)である。
そして、上記の各実施例度同じ条件で引き剥がし強度を計測した。その結果、引き剥がし強度は1.0N/mm未満の0.87となり、十分な強度を有しているとは言えないと評価せざるを得ないものとなった。
【0032】
(比較例3)
比表面積Sを1.3とし、シランカップリング剤としてAPSを用いてシラン付着量Vを0.98とした、比較例3の試料を製造した。この比較例3の試料では、シラン比表面積付着量V/Sは、0.75(つまり0.6超)である。
そして、上記の各実施例度同じ条件で引き剥がし強度を計測した。その結果、引き剥がし強度は1.0N/mm未満の0.96となり、十分な強度を有しているとは言えないと
評価せざるを得ないものとなった。
【0033】
なお、シラン付着量は、さらに好ましくは、0.2以上0.35以下とすることで、さらに良好な接合強度を示すことが出来る。
すなわち、特に、自動車用のフレキシブルプリント配線板などのような高信頼性・耐久性が求められる用途や、例えば配線幅が40μm以下の微細配線を備えたフレキシブルプリント配線板用に用いられる銅箔の場合、さらに高い接着性が要求されることがある。そのような場合には、シラン付着量を0.2以上0.35以下とすることによってさらに良好な接着強度を得ることで対応することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 銅箔
2 シランカップリング処理層
3 絶縁性基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シランカップリング剤を用いたシランカップリング処理によって、処理対象の銅箔の表面上にシランを付着してなるシランカップリング処理層が形成されたプリント配線板用銅箔であって、
前記シランカップリング処理層におけるシランの付着量が、グロー放電発光表面分析によって計測される前記シランの成分分布のピーク面積と当該プリント配線板用銅箔における前記シランカップリング処理が施された面の比表面積との比によって規定されている
ことを特徴とするプリント配線板用銅箔。
【請求項2】
請求項1記載のプリント配線板用銅箔において、
前記シランカップリング処理層におけるグロー放電発光表面分析によって計測される前記シランの成分分布のピーク面積を当該プリント配線板用銅箔における前記シランカップリング処理が施された面の比表面積で除算した値が、0.03以上0.6以下である
ことを特徴とするプリント配線板用銅箔。
【請求項3】
請求項1または2記載のプリント配線板用銅箔において、
前記処理対象の銅箔の表面に金属防錆層が設けられており、当該金属防錆層の表面に前記シランカップリング処理を施して前記シランカップリング処理層が形成されている
ことを特徴とするプリント配線板用銅箔。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちいずれか一つの項に記載のプリント配線板用銅箔において、
前記処理対象の銅箔の表面には、粗面化処理が施されている
ことを特徴とするプリント配線板用銅箔。
【請求項5】
処理対象の銅箔の表面上にシランカップリング剤を用いたシランカップリング処理を施して、当該銅箔の表面上にシランを付着してなるシランカップリング処理層を設ける工程を有するプリント配線板用銅箔の製造方法であって、
前記シランカップリング処理層におけるシランの付着量を、グロー放電発光表面分析によって計測される前記シランの成分分布のピーク面積と当該プリント配線板用銅箔における前記シランカップリング処理が施された面の比表面積との比によって規定して、前記シランカップリング処理を施す工程を含む
ことを特徴とするプリント配線板用銅箔の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載のプリント配線板用銅箔の製造方法において、
前記シランカップリング処理を施す工程では、前記シランカップリング処理層におけるグロー放電発光表面分析によって計測される前記シランの成分分布のピーク面積を当該プリント配線板用銅箔における前記シランカップリング処理が施された面の比表面積で除算した値が0.03以上0.6以下となるように、前記シランカップリング剤を用いて前記シランカップリング処理を施す
ことを特徴とするプリント配線板用銅箔の製造方法。
【請求項7】
処理対象の銅箔の表面上にシランカップリング剤を用いたシランカップリング処理によってシランを付着してなるシランカップリング処理層が形成されたプリント配線板用銅箔の表面を、有機材料からなる絶縁性基材と対面するように張り合わせ、前記プリント配線板用銅箔をパターン加工して、所望の配線パターンを形成してなるプリント配線板であって、
前記シランカップリング処理層におけるシランの付着量がグロー放電発光表面分析によって計測される前記シランの成分分布のピーク面積と当該プリント配線板用銅箔における前記シランカップリング処理が施された面の比表面積との比によって規定されている
ことを特徴とするプリント配線板。
【請求項8】
請求項7記載のプリント配線板において、
前記シランカップリング処理層におけるグロー放電発光表面分析によって計測される前記シランの成分分布のピーク面積を当該プリント配線板用銅箔における前記シランカップリング処理が施された面の比表面積で除算した値が、0.03以上0.6以下である
ことを特徴とするプリント配線板。
【請求項9】
請求項7または8記載のプリント配線板において、
前記処理対象の銅箔の表面に金属防錆層が設けられており、当該金属防錆層の表面に前記シランカップリング処理を施して前記シランカップリング処理層が形成されている
ことを特徴とするプリント配線板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−212470(P2010−212470A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57432(P2009−57432)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】