説明

プリント配線板用銅箔およびその製造方法

【課題】 例えばCOFテープ用の銅箔などに要求される種々の技術的要件に十分対応可能な程度に表面を平滑化してなるプリント配線板用銅箔およびその製造方法を提供する。また、そのような表面の平滑化を実現した後に、所望の粗さに粗化処理を施して、絶縁性基板に対するさらなる良好な密着性(接着性)を確保することを可能とした、プリント配線板用銅箔およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 絶縁性基板4の表面に対して張り合わされて用いられるように設定されたプリント配線板用銅箔であって、前記絶縁性基板4に対して張り合わされるように設定された面のJIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のクルトシスRkuを4以下にすると共にJIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のスキューネスRskを0以下にする平坦化銅めっき層2を、原箔1上に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リジッドまたはフレキシブルプリント配線板や半導体装置用テープキャリアのような各種プリント配線板における配線パターンやその他各種の導体パターンの形成材料として、絶縁性基板の表面に張り合わされて用いられるように設定された、プリント配線板用銅箔およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子機器の小型化に伴って、それに用いられるプリント配線板においても、配線ピッチのさらなる微細化が強く要請されるようになってきている。
いわゆる銅配線(銅箔をパターン加工してなる配線パターン等の各種導体パターン)を有するプリント配線板の製造方法としては一般に、サブトラクティブ法が、現在主流のプロセスとして用いられている。サブトラクティブ法は、絶縁性基板上に張り合わせた銅箔の表面上にエッチングレジストパターンを形成した後、それをエッチングマスクとして用いて、配線パターン等の導体パターンとなる部分以外の銅箔を溶解(エッチング)除去することにより、所望のパターン形状の導体パターン(いわゆる銅パターン)を形成する方法である。
【0003】
特に、テープキャリア等で用いられる、絶縁性フィルム基材の表面に銅箔を張り合わせてなる銅張基板は、CCL(Copper Clad Laminate)と呼ばれているが、このCCLに用いられる銅箔は、絶縁性フィルム基材との密着性を高めるために、表面処理が施される場合が多い。その表面処理としては、粗化処理が多く用いられる。粗化処理とは、銅めっき液中で限界電流密度以上の電流密度で電解めっきを行うことで、原箔の上にその原箔の表面の粗さよりも粗い凹凸形状を生じるような粗化銅めっき層を形成することで、その銅箔における絶縁性フィルム基材に対して張り合わされる面の表面粗さを適度に大きくする処理方法である。この場合、絶縁性フィルム基材に対する銅箔の密着性は、その銅箔の表面粗さが大きいほど、良好なものとなる。
【0004】
しかし、銅箔の表面粗さが大きくなり過ぎると、別の問題が発生する。第1に、表面粗さが大き過ぎると、エッチングプロセスによって配線パターン等の導体パターンを形成した際に、その出来上がった導体パターンの寸法精度や密着性が低下する虞が極めて高くなる。これは、銅箔の表面粗さが大き過ぎると、エッチングマスクの真下にもエッチングが進んでしまい、アンダーカットが生じるためである。第2に、銅箔の表面粗さは、TAB(Tape Automated Bonding)テープ、BGA(Ball Grid Array)テープ、COF(Chip On Film)テープ等の半導体装置用テープキャリア上にIC(Integrated Circuit)など
のような半導体装置や電子部品素子等を搭載する工程で不都合を生じる原因となる。例えば、COFテープ上にICをボンディングおよび実装するに際して、搭載されるICチップ上の金バンプとCOFテープのリードとの位置合わせには一般に、CCDカメラ等を用いた方法が採用されている。このとき、COFテープの絶縁性フィルム基材を透過する光によって、そのCOFテープにおける接続端子部等の導体パターンの位置をCCDカメラ等で認識しなければならない。このため、COFテープの絶縁性フィルム基材には透明性が要求される。ところが、表面粗さの大き過ぎる銅箔を用いると、その銅箔をエッチング除去した後に露出する、いわゆる非パターン部分の絶縁性フィルム基材の表面も粗くなるので、その部分であたかも擦りガラスのように光が乱反射しやすくなって透明性が低下し、位置合わせが困難なものとなる。
【0005】
COFテープなどに用いられる銅箔としては、電解銅箔、圧延銅箔があるが、特に、高い屈曲性が求められる用途に対しては、圧延銅箔が適している。ところが、圧延銅箔の表
面には、一般に、圧延時に形成されるオイルピットと呼ばれる窪みが生じる場合が多い。ある程度の表面粗さが必要とされる場合には、圧延銅箔の表面に既述のような粗化処理を施して、その表面を適度な粗さとなるように敢えて荒らすこととなるが、この場合でも、粗化処理前の銅箔は平滑であることが望ましい。これは、銅箔(原箔)の表面にオイルピットなどの比較的大きな窪みが存在していると、その窪みの部分にクレータと呼ばれる欠陥が発生することがあるためである。クレータとは、窪み部分を基点にめっきが異常析出する現象であり、そのクレータの部分では周囲に比べて粗さが大きくなるので、配線パターン等を形成した際に短絡不良などのパターン形成不良を生じる原因となる。
従って、リジッドプリント配線板や半導体装置用テープキャリア等に用いられる銅箔には、まず、銅箔表面が平滑であることが強く要請される。
そしてまた、そのように平滑な表面を有する銅箔を得ることができれば、その銅箔の表面上に、さらに密着性を向上するための粗化処理を施しても、クレータなどの異常部が発生しないようにすることが可能となる。
【0006】
このような銅箔の表面を平坦ないしはさらに平滑なものとするための方策としては、圧延銅箔の場合、圧延時の油膜当量を45000以下とする条件設定で冷間圧延を行って銅箔(原箔)を製造する、という技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
また、電解銅箔の場合、その電解銅箔の表面粗さを小さくする、つまりその電解銅箔の原箔としての表面を平滑にする方法としては、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸および/またはビス(3−スルホプロピル)、ジスルフィドと環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体と塩素とを添加して得られた硫酸系銅電解液を用いた電解法によって電解銅箔を製造する、という技術が提案されている(例えば、特許文献2)。
また、原箔として製造された後の銅箔の表面粗さを小さくする方法としては、その銅箔の表面を電気化学的溶解やめっきなどの方法で平滑化してから粗化処理する、という技術が提案されている(例えば、特許文献3、4)。
また、これはプリント配線板用銅箔に関する技術ではなく、半導体リードフレーム用銅合金板に関する技術であるが、銅合金板の組成を適切なものとすることにより、その表面の粗さを、粗さ曲線のクルトシス(尖り度)Rkuで3.1以下とする、という技術が提案されている(例えば、特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−281249号公報
【特許文献2】特開2007−217787号公報
【特許文献3】特開2004−238647号公報
【特許文献4】特開2006−155899号公報
【特許文献5】特許第4197718号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の特許文献1にて提案された技術は、銅箔の表面の全体的な粗さを小さくして平滑化を図るための技術ではなく、オイルピットのような大きな窪みの発生を抑止することによってクレータの発生を抑止するということを目的としているものであるから、銅箔の表面の全体的なさらなる平滑化を達成すための方策として用いることは、極めて困難ないしは不可能である。
また、上記の特許文献2にて提案された技術は、特に電解銅箔の原箔としての表面を平滑にするためのものであって、圧延銅箔に関するものではないから、特にCOFテープのような半導体装置用テープキャリアやフレキシブルプリント配線板などのような、高い屈曲性を要求されるプリント配線板に好適に用いられる圧延銅箔の表面の平滑化を達成すための方策として用いることは考察・検討の対象外であった。
また、上記の特許文献3、4にて提案された技術では、一旦形成された原箔の表面を、所定の厚さに亘って電気化学的溶解や機械的研磨等により研削除去するようにしているが、そのような研削処理を施すことは、材料コストの観点から、またそのような研削工程を付加することに起因した製造工程の煩雑化の観点からも、不都合な点が多いという問題がある。また、この技術では、銅箔の表面のRzを調節するようにしているが、しかし本発明が対象としているCOFテープ用の銅箔のような、より精密に表面の粗さを平滑なものとするということについては、十分効果的に対応することは困難である。
また、上記の特許第4197718号にて提案された技術は、リードフレーム用銅板材に関するものであって、絶縁性フィルム基材のような絶縁性基板の表面に張り合わされて用いられるプリント配線板用銅箔とは全く異なった条件や要請に対応したものであるから、本発明が対象としているCOFテープ用の銅箔のようなプリント配線板用銅箔に対して要求される、より精密な表面の平滑性を得ることが可能か否かは、思案の埒外でさえあった。
【0009】
このように、半導体装置用テープキャリアのようなプリント配線板における各種導体パターンを形成するために用いられるプリント配線板用銅箔の表面を、近年要求されているような程度にまで平滑化することは、従来の技術では極めて困難ないしは不可能であるという問題があった。
本発明は、このような問題に鑑みて成されたもので、その目的は、例えばCOFテープ用の銅箔などに要求される種々の技術的要件に十分対応可能な程度にまで表面を平滑化してなるプリント配線板用銅箔およびその製造方法を提供することにある。
また、そのような表面の平滑化を実現した後に、所望の粗さに粗化処理を施して、絶縁性基板に対するさらなる良好な密着性(接着性)を確保することを可能とした、プリント配線板用銅箔およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のプリント配線板用銅箔は、第1に、絶縁性基板の表面に張り合わされて用いられるように設定されたプリント配線板用銅箔であって、前記絶縁性基板に対して張り合わされるように設定された面のJIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のクルトシスRkuを4以下にすると共にJIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のスキューネスRskを0以下としてなることを特徴としている。
また、本発明のプリント配線板用銅箔は、第2に、絶縁性基板の表面に張り合わされて用いられるように設定されたプリント配線板用銅箔であって、前記絶縁性基板に対して張り合わされるように設定された面のJIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のクルトシスRkuを4以下にすると共にJIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のスキューネスRskを0以下にする平坦化銅めっき層を、原箔上に設けてなることを特徴としている。
また、本発明のプリント配線板用銅箔は、第3に、絶縁性基板の表面に張り合わされて用いられるように設定されたプリント配線板用銅箔であって、前記絶縁性基板に対して張り合わされるように設定された面のJIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のクルトシスRkuを4以下にすると共にJIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のスキューネスRskを0以下にする平坦化銅めっき層を、原箔における前記絶縁性基板に対して張り合わされるように設定された面上に設けると共に、前記平坦化銅めっき層の上に、JIS B0601−1994で定義される表面粗さRzを0.8超3.0以下とする粗化銅めっき層を設けてなることを特徴としている。
本発明のプリント配線板用銅箔の製造方法は、絶縁性基板の表面に張り合わされて用いられるように設定されたプリント配線板用銅箔の製造方法であって、前記絶縁性基板に対して張り合わされるように設定された面のJIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のクルトシスRkuを4以下にすると共にJIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のスキューネスRskを0以下にする平坦化銅めっき層を、原箔上に設ける
工程を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、原箔の表面上に平坦化銅めっき層を形成して、当該プリント配線板用銅箔における絶縁性基板に対して張り合わされるように設定された面の、JIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のクルトシスRkuを4以下にすると共に、JIS
B0601−2001で定義される粗さ曲線のスキューネスRskを0以下とするようにしたので、例えばCOFテープ用の銅箔などに要求される種々の技術的要件に十分対応可能な程度にまで表面を平滑化してなるプリント配線板用銅箔を得ることができる。
また、そのような表面の平滑化を実現することにより、その平滑化された表面上に、クレータ等の発生の虞なく所望の粗さに粗化処理を施す(粗化銅めっき層を形成する)ことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔の主要部の構成を示す図である。
【図2】図1に示したプリント配線板用銅箔の平坦化銅めっき層の上に、さらに粗化銅めっき層を形成した構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔の製造方法における主要な製造工程の流れを示す図である。
【図4】プリント配線板用銅箔の表面における、JIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のクルトシスRkuとそれに対応した表面の凹凸状態との関係を模式的に示す図である。
【図5】プリント配線板用銅箔の表面における、JIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のスキューネスRskとそれに対応した表面の凹凸状態との関係を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔およびその製造方法について、図面を参照して説明する。
【0014】
本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔は、図1に示したように、原箔1の上に、平坦化銅めっき層2が設けられており、その平坦化銅めっき層2を含めた表面の粗さ、つまり外部の(張り合わされる相手の)例えばポリイミド樹脂フィルム基材のような絶縁性基板4に対して張り合わされるように設定された面の粗さは、JIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のクルトシスRkuが4以下となっており、かつJIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のスキューネスRskが0以下となっている。
【0015】
また、絶縁性基板4に対して張り合わされる面のJIS B0601−1994で定義される表面粗さRzが、0.8μm以下となっている。
【0016】
また、平坦化銅めっき層2の膜厚Tと原箔1における窪み部分の平均深さDとの関係が、0.1≦T/D≦2を満たすようになっている。
【0017】
また、図示は省略するが、より望ましい態様としては、原箔1の表面上または平坦化銅めっき層2の表面上に、ニッケル(Ni)−コバルト(Co)合金めっき層、亜鉛(Zn)めっき層、クロメート処理層のような防錆処理層、またはシランカップリング層のうちの、どちらか一種類または両方を設けるようにしてもよい。
【0018】
また、原箔1は、錫(Sn)を0.001質量%以上0.01質量%以下含むと共に残部が銅(Cu)および不可避不純物である銅合金からなるものであることが望ましい。
【0019】
また、原箔1は圧延銅箔もしくは電解銅箔のどちらでも用いることが可能であるが、表面の平坦性、折り曲げ性の点で、圧延等箔は、より優れた特性を一般に有していることから、原箔1としては圧延銅箔を使用することが、より望ましい。
【0020】
ここで、このプリント配線板用銅箔が張り合わされる相手先の絶縁性基板4に対する密着性(接着性)を、より良好なものとするために、図2に示したように、平坦化銅めっき層2の上に、JIS B0601−1994で定義される表面粗さRzを0.8超3.0以下とする粗化銅めっき層3を、さらに形成するようにすることは、望ましい一態様である。
【0021】
本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔の製造方法は、絶縁性基板4の表面に張り合わされて用いられるように設定されたプリント配線板用銅箔の製造方法であって、絶縁性基板4に対して張り合わされるように設定された面のJIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のクルトシスRkuを4以下にすると共にJIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のスキューネスRskを0以下にする平坦化銅めっき層2を、原箔1上に設けるめっき工程を含んでいる。そして、その平坦化銅めっき層2を形成する工程は、メルカプト基を有する有機硫黄化合物、または界面活性剤、もしくは塩化物イオンのうちの少なくともいずれか一種類の添加剤を含有するめっき液を用いた電解銅めっきプロセスによって行われる。
【0022】
より具体的には、まず、原箔1として、圧延銅箔または電解銅箔を用意する。特に、例えばCOFテープやその他の半導体装置用テープキャリアのような、精密な表面平坦性や高い屈曲性が強く要求される用途に用いられるプリント配線板用銅箔の場合には、原箔1として圧延銅箔を用いることが、より望ましい。
【0023】
そして、用意した原箔1の表面を清浄化するために、電解脱脂を施す(図3の工程a)。この清浄化の処理プロセスは、例えば、水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液を用いた陰極電解脱脂によって行うことが可能である。
【0024】
続いて、銅箔の表面に残存するアルカリの中和および銅酸化膜の除去のために、酸洗処理を施す(図3の工程b)。この酸洗処理は、硫酸等の酸性水溶液に浸漬することで行なわれる。酸洗用の液としては、銅エッチング液を用いることも可能である。
【0025】
続いて、硫酸銅および硫酸を主成分とした酸性銅めっき浴により、原箔1を陰極とする電解処理を施して、平坦化銅めっき層2を形成する(図3の工程c)。このとき、平坦化銅めっき層2を設けるための硫酸銅、硫酸浴の液組成、液温、電解条件は、特に限定されるものではないが、下記の範囲から選択されることが望ましい。
硫酸銅五水和物:20〜300g/dm
硫酸:10〜200g/dm
液温:15〜50℃
めっき電流密度 :1〜30A/dm(限界電流密度末満)
めっき時間:1〜20秒
また、この平坦化銅めっき層2を形成するプロセスでは、平滑化をさらに確実に促進するための添加剤を添加することが望ましい。その添加剤としては、3−メルカプト−1−スルホン酸やビス(3−スルホプロピル)ジスルフィドなどのメルカプト基を持つ化合物、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどの界面活性剤、塩化物イオンなどを組み合わせて用いることが可能である。あるいは、プリント配線板の製造工程で用
いられている各種の銅めっき用添加剤等も用いることが可能である。そのような銅めっき用添加剤としては、奥野製薬社製トップルチナLS、メルテックス社製カパーグリームCLX、荏原ユージライト社製CU−BRITETH−RIII、上村工業社製スルカップE
UCなどを用いることができる。
めっき電流密度は、限界電流密度よりも小さいことが望ましい。限界電密度以上では、表面の凹凸が大きくなってしまう虞が高くなる。しかし他方、めっき電流密度は高ければ高いほど、生産性は向上する傾向にあるから、めっき電流密度は、そのめっき条件における限界電流密度より小さい範囲内で、できるだけ高くすることが、より望ましい。
【0026】
平坦化銅めっき層2を形成した後、絶縁性基板4に対する、より高い密着性が必要とされる場合には、粗化銅めっき層3を形成する。この粗化銅めっき層3の形成工程は、樹脂状銅めっき層を形成する工程(図3の工程d)と、それをコブ状の銅めっき層に変化させる工程(図3の工程e)とを含んでいる。
【0027】
樹枝状銅めっき層は、硫酸銅や硫酸を主成分とした酸性銅めっき液を用い、そのめっきを施す対象の銅箔自体を陰極として浴の限界電流密度を超えた電流値で電解処理を施すことによって形成される(図3の工程d)。
このときの、樹枝状銅めっき層を設けるための硫酸銅、硫酸浴の液組成、液温、電解条件は広い範囲で選択可能であり、特に限定されるものではないが、下記の範囲から選択されることが望ましい。また、樹枝状銅めっき層を形成する際には、例えば銅以外の金属元素(モリブデン、鉄、コバルトなど)を添加することが、より望ましい。
硫酸銅五水和物:20〜300g/dm
硫酸:10〜200g/dm
液温:15〜50℃
めっき電流密度:限界電流密度以上、20〜100A/dm
めっき時間:1〜10秒
【0028】
引き続いて、めっき液の限界電流密度未満の電流により、上記の樹枝状銅めっき層に平滑な銅めっき層(被せめっき)を形成して、上記の樹枝状銅を、いわゆるコブ状銅へと変化させる(図3の工程e)。
このとき、コブ状銅を設けるための硫酸銅、硫酸浴の液組成、液温、電解条件は広い範囲で選択可能であり、特に限定されるものではないが、下記の範囲から選択されることが望ましい。また、このとき用いるめっき液中には、平坦化銅めっき層2の形成プロセスで用いた添加剤を添加させるようにしてもよい。
硫酸銅五水和物:20〜300g/dm
硫酸:10〜200g/dm
液温:20〜50℃
めっき電流密度:1〜20A/dm(限界電流密度未満)
めっき時間:1〜20秒
ここで、上記の粗化銅めっき層3を形成するための、いわゆる粗化処理工程(図3の工程dおよび工程e)は、粗化銅めっき層3の形成が不要の場合などには、省略することが可能であることは勿論である。
【0029】
粗化銅めっき層3を形成した後(あるいは粗化銅めっき層3を形成しなかった場合は平坦化銅めっき層2を形成した後)、例えば十分な防錆性能のような、さらに望ましい表面特性を得るためには、いわゆる後処理めっき層(図1、図2では図示省略)を設ける。
まず、銅の拡散防止のために、ニッケルめっき層(またはニッケル合金めっき層)を形成する(図3の工程f)。
続いて、耐熱性向上のために、亜鉛めっき層(または亜鉛合金めっき層)を形成する(図3の工程g)。
その後、3価クロムタイプの反応型クロメート液を用いて3価クロム化成処理層を形成する(図3の工程h)。
そして、絶縁性基板4の樹脂表面との密着性向上のために、化成処理皮膜としてシランカップリング処理層を形成する(図3の工程i)。
このようにして、本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔の主要部が製造される。
【0030】
次に、本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔およびその製造方法における作用について説明する。
本発明の実施の形態に係るプリント配線板用銅箔およびその製造方法では、原箔1の表面に、平滑化のための平坦化銅めっき層2を施すことで、その平坦化銅めっき層2を含めた(但し、粗化銅めっき層3は含めない)銅箔全体の最表面における粗さ曲線のクルトシスRkuおよび粗さ曲線のスキューネスRskを適正な値に制御するようにしている。
【0031】
粗さの指標としては、従来からRa、Rzなどが用いられており、要求特性に応じてそれらの指標が用いられてきた。
しかし、本発明の発明者達は、種々の実験・調査およびそれらの結果に対する検討を鋭意行った結果、特にCOFテープ等の導体パターンの形成材料として用いられるプリント配線板用銅箔およびその製造方法においては、粗さ曲線のクルトシスRkuおよび粗さ曲線のスキューネスRskを制御することによって、望ましい平滑な表面を得ることができることを確認した。その具体的な手段としては、原箔1の上に平坦化銅めっき層2を電解めっき法によって形成することにより、そのような表面の平滑さを的確に制御することが可能となるということを確認したのであった。
【0032】
Rkuは、粗さ曲線における凸部および凹部の尖りの程度を示す指標であり、Rskは、粗さ曲線において基準面に対する凸形状部分と凹形状部分との分布の程度を表す指標である。図4に、Rkuの値による表面形状の変化を、また図5に、Rskの値による表面形状の変化を、それぞれ示す。
【0033】
粗さ曲線のクルトシスRkuおよび粗さ曲線のスキューネスRskが、半導体装置用テープキャリア上にICなどの電子部品素子を搭載する工程におけるCCDでの視認性や銅箔の粗化処理における異常部発生に対して与える影響について、ここでその要点を説明する。
【0034】
半導体装置用テープキャリア上にICチップなど電子部品素子を搭載する工程において、ICチップ上の金バンプとCOFテープのリードのような接続用端子部との位置合わせを行う際の、CCDカメラでの視認性を向上させるためには、そのCCDカメラによって撮像される視野内での部分的な光量の差を小さくすることが重要となる。光量の差が大き過ぎると、CCDカメラのダイナミックレンジを越えてしまう可能性が高くなり、このとき必要な接続用端子部等の認識が困難なものとなる。銅箔をエッチングによって除去した後の、樹脂フィルム基材(絶縁性基板)の表面の粗さ、つまりその凹凸の発生要因である銅箔表面の粗さについて考えると、局所的に尖った形状の凸部や凹部が存在している場合には、その部分で光が乱反射するなどして、その部分におけるCCDカメラでの撮像による認識を可能とする程度以上の透過光量を得ることができなくなってしまう。従って、プリント配線板用銅箔の表面には、急峻にその先端や奥底が尖った形状の凸部や凹部が少ないことが望ましい。
【0035】
このような凸部や凹部の概形は、粗さ曲線のクルトシスRkuで表すことができる。すなわち、図4(a)に模式的に示したように、Rkuが小さいほど、尖っている部分が少なくなり、銅箔をエッチング除去した後の樹脂フィルムの光透過性の向上が期待できる。
より具体的には、プリント配線板用銅箔の表面においては、Rkuは4以下であることが好ましい。これとは逆に、図4(b)に模式的に示したように、Rkuが大きくなるほど、急峻にその先端や奥底が尖った形状の凸部や凹部が存在することとなる。
【0036】
また、それと共に、プリント配線板用銅箔の表面には先鋭な(尖っている)凸部が少ないほど好ましい。すなわち、粗さ曲線のスキューネスRskが0以下(または負)であれば、図5(a)に示したように、その表面の断面形状は緩慢な曲線状の凸部が連続して存在する状態となっており、好ましいが、粗さ曲線のスキューネスRskが正であると、図5(b)に示したように、その表面の断面形状はその表面の断面形状は先鋭な(尖った)凸部が連続して存在する状態となってしまう。
【0037】
また、平坦化銅めっき層2を形成して、一旦、平滑化を行った後に、図2に示したような粗化銅めっき層3を形成してその表面の粗さを敢えて適度に荒らす、という場合であっても、その粗化銅めっき層3の形成プロセスにおけるクレータのような異常部の発生を抑止するためには、その粗化銅めっき層3を形成する前の段階でのプリント配線板用銅箔の表面には、上記同様に、尖っている凸部や凹部が少ないほど好ましい。これは、先鋭な凸部が存在していると、その部分に電流が偏って集中し、異常なめっきが析出して、クレータ等のめっき異常が発生するためである。また、尖った凹部が存在していると、その部分はめっきが十分に行われなくなってしまう。また、粗化めっき以外にも、例えばこの種のプリント配線板用銅箔にパターン加工を施して導体パターンを形成した後に、その導体パターン上に錫(Sn)めっき層や金めっき層などを形成する場合などでも、上記同様に、このプリント配線板用銅箔の表面に先鋭な凸部や凹部が存在していると、その部分付近にめっき不良が発生して、そのプリント配線板としての品質の低下や信頼性の低下を引き起こしてしまう虞が高い。従って、Rkuは、4以下のように小さいことが望まれる。
【0038】
また、特に銅箔表面に先鋭な凸部が存在する状態になっていると、その銅箔に対してエッチング法等によりパターン加工を施して配線パターン等の各種導体パターンを形成した際に、配線間短絡不良やその他のパターン形成不良を引き起こす虞が高くなる。この点からも、粗さ曲線のスキューネスRskは、0以下であることが好ましい。
【0039】
このような理由から、粗さ曲線のクルトシスRkuが4以下であり、かつ粗さ曲線のスキューネスRskが0以下(ないしは負)であることが好ましいのである。
このようにRku、Rskを制御するためには、原箔1の表面上に平坦化銅めっき層2を形成することが、実際上有効な手段である。すなわち、原箔1の表面上に平坦化銅めっき層2を形成することにより、原箔1の表面に存在している先鋭な凸部や凹部やオイルピットのような窪み部分などを全て埋めて、極めて平滑な表面状態を得ることが可能となる。
【0040】
ここで、特に尖った窪み部分を平坦化銅めっき層2で埋めるには、有機硫黄化合物、界面活性剤、塩化物イオンなどの添加剤を添加してなるめっき液を用いためっきプロセスによって平坦化銅めっき層2を形成することが望ましい。
このような添加剤を用いることにより、それらの添加剤とめっき液との複合作用によって、原箔1の表面の窪み部分に対して優先的にめっき膜を成長させることが可能となるので、より確実に、それらの窪み部分を埋め尽くすことができる。
【0041】
また、このときの平坦化銅めっき層2の膜厚Tと、その平坦化銅めっき層2の形成前の原箔1の表面に存在している窪み部分の平均深さDとの関係が、0.1≦T/D≦2となるように、平坦化銅めっき層2を形成することが望ましい。
これは、T/D<0の場合、原箔1の表面に存在する窪みを十分に埋め立てることができない虞が極めて高くなって、Rkuを4以下の小ささにすることが困難ないしは不可能
になるからである。また、2<T/Dの場合、原箔1における窪み部分での平坦化銅めっき層2の膜厚が厚くなり過ぎる現象が生じることに因って、その部分のRkuが4を超して大きくなることや、屈曲性の低下が無視できなくなるといった不都合が生じる虞が極めて高くなるからである。
【0042】
以上説明したように、本実施の形態に係るプリント配線板用銅箔およびその製造方法によれば、絶縁性基板4に対して張り合わされるように設定された面のJIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のクルトシスRkuを4以下にすると共にJIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のスキューネスRskを0以下にする平坦化銅めっき層2を、原箔1上に設けるようにしたので、例えば典型的な一例としてCOFテープ用の銅箔などに要求される透過光による導体パターンの視認性の確保や種々の技術的要件に十分対応可能な程度に表面を平滑化してなるプリント配線板用銅箔を得ることができる。
また、そのような銅箔表面の平滑化を実現したことにより、その後さらにその表面上に粗化処理を施す(粗化銅めっき層3を形成する)場合でも、クレータ等の発生の虞なく、所望の粗さに、その粗化処理によって粗化銅めっき層3を形成することが可能となる。
【実施例】
【0043】
上記の実施の形態で説明したようなプリント配線板用銅箔を作製し、それらを実施例に係る試料とした(実施例1〜8)。また、それとの比較のために、敢えて上記の実施の形態で説明したものとは異なった構成や製造方法によってプリント配線板用銅箔を作製し、それらを比較例に係る試料とした(比較例1〜8)。そして、それら各試料についての各種特性を調べて比較・検討した。ここに、実施例1〜5の試料、および比較例1〜4の試料は、平坦化銅めっき層2の上に、粗化銅めっき層3は形成しないものとした。また、実施例6〜8の試料、および比較例5〜8の試料は、平坦化銅めっき層2の上に、粗化銅めっき層3を形成してなるものとした。
【0044】
それらの各試料についての評価は、下記の(1)〜(8)のような方法によって行った。
(1)原箔1の表面における窪みの深さDの測定
原箔1の表面における窪みの深さDの測定には、キーエンス社製レーザ顕微鏡VK−8700を用いた。観察倍率を500倍とし、視野内の窪み50箇所について、その深さを測定し、その平均値を求めて、それをD(μm)とした。
(2)平坦化銅めっき層2の膜厚T
平坦化銅めっき層2の膜厚Tは、銅箔をFIB(Focused Ion Beam)を用いて加工した断面を走査型電子顕微鏡で観察した写真から求めた。
(3)粗さ曲線のクルトシスRku
粗化銅めっき層3を形成していない、もしくは粗化銅めっき層3を形成する以前の、実施例および比較例に係る試料における表面のRkuの評価には、キーエンス社製レーザ顕微鏡VK−8700を用い、観察倍率を500倍に設定して、視野内の全面的な粗さとしてJIS B0601−2001によるRkuを求めた。
(4)粗さ曲線のクルトシスRsk
粗化銅めっき層3を形成していない、もしくは粗化銅めっき層3を形成する以前の、実施例および比較例に係る試料における表面のRsk評価には、上記の(3)と同様に、キーエンス社製レーザ顕微鏡VK−8700を用い、観察倍率を500倍に設定して、視野内の全面的な粗さとしてJIS B0601−2001によるRskを求めた。
(5)粗さ曲線の十点平均粗さRz
粗化銅めっき層3の形成前後の表面粗さRzの評価は、JIS B0601−1994による定義に準拠した十点平均粗さで評価した。その測定には、小坂研究所社製SE500表面粗さ測定機を用いた。Rzは走査距離4mm、カットオフは0.8mmとした。
(6)樹脂フィルム(絶縁性基板4)の光透過性
各試料のプリント配線板用銅箔を絶縁性基板4に張り合わせた後、それをエッチング除去した後に露出する部分の絶縁性基板4における、光透過性の良否を、その部分におけるCCDカメラによる透過画像の認識の容易さの度合いによって評価した。
すなわち、キャスティング法によって各試料のプリント配線板用銅箔にポリイミド樹脂を塗布して絶縁性基板4を形成した後、そのプリント配線板用銅箔の一部分をエッチング除去して所定の配線パターンを形成した。そして、その試料を配線パターンが形成された面とは反対側の面(いわゆる裏面)からCCDカメラで撮影し、そのとき撮像された配線パターンおよびその付近に配置したLSIの画像が所定以上の明確さで容易に認識可能であるか否かに基づいて、樹脂フィルム(絶縁性基板4)の光透過性の良否を、◎、○、△の3段階で評価した。なお、表1では、記号◎が、「容易」に認識可能であること、記号○が、所定の明確さで認識「可能」であること、△が、認識「困難」であることを、それぞれ示している。
(7)エッチング後の銅残り
エッチング後の銅残りを、光学顕微鏡による目視にて確認した。すなわち、絶縁性基板4の樹脂表面と張り合わせた銅箔を、その厚さ相当までエッチングにより除去した後、その部分の絶縁性基板4の樹脂表面上に、銅残りがあるか否かを確認した。
(8)粗化銅めっき層形成後のクレータ密度
粗化銅めっき層3を形成してなる試料(表2に掲げた試料)については、クレータ密度を評価した。そのクレータ密度の評価には、光学顕微鏡を用い、3×3mmの領域を撮影した光学顕微鏡写真中のクレータの個数を数えて、単位面積当りのクレータの個数密度を求め、それをクレータ異常発生の評価の指標として用いた。
【0045】
粗化銅めっき層3を形成していない試料(実施例1〜5および比較例1〜4)についての仕様および結果を、表1に纏めて示す。また、粗化銅めっき層3を形成してなる試料(実施例6〜8および比較例5〜8)についての仕様および結果を、表2に纏めて示す。
【0046】
(実施例1)
原箔1として、錫(Sn)を0.01質量%含む、厚さ11μmの圧延銅箔を用いた。この圧延銅箔の表面を清浄化するために、電解脱脂、酸洗処理を施した。電解脱脂処理は、水酸化ナトリウム40g/dm、炭酸ナトリウム20g/dmを含む水溶液中にて、温度40℃、電流密度5A/dmの設定で10秒間の処理を行った。酸洗処理は、硫酸150g/dmを含む水溶液中にて液温25℃に保ちつつ5秒間の処理を行った。その後、流水で水洗した。ここで、この原箔1としては、限定はしないが、特に高い屈曲性が要求されるプリント配線板や配線の超微細化対応が要求されるプリント配線板などに用いられる銅箔の場合には、圧延銅箔が好適である。また、その場合、銅(Cu)に錫(Sn)や銀(Ag)、ジルコニウム(Zr)などを混ぜた銅合金からなるものを用いるようにすることも望ましい。
続いて、原箔1の表面に、電気めっき法により平均厚さ0.07μmの平坦化銅めっき層2を形成した。この工程で用いた銅めっき液は、硫酸銅五水和物を185g/dm、硫酸を80g/dm、有機硫黄化合物としてビス(3−スルホプロピル)ジスルフィドを50mg/dm、界面活性剤としてポリエチレングリコール3000を200mg/dm、塩化物イオンを50mg/dm含む水溶液とした。めっき条件は、めっき液温35℃、めっき電流密度6A/dmで、3秒間とした。
続いて、硫酸ニッケル六水和物300g/dm、塩化ニッケル45g/dm、硼酸50g/dm、温度50℃に調整しためっき液を用いて、電流密度2A/dmで5秒間電解処理し、ニッケルめっき層を10μg/cm形成した。
引き続いて、水洗した後、硫酸亜鉛90g/dm、硫酸ナトリウム70g/dm、温度30℃に調整しためっき液を用いて、電流密度1.5A/dmで4秒間電解処理し、亜鉛めっき層を1.0μg/cm形成した。さらに、3価クロム化成処理を行って、
クロメート皮膜を1.1μg/cm形成した。
そして、水洗し、3−アミノプロピルトリメトキシシラン5%のシランカップリング液に、室温で5秒間浸漬した後、直ちに120℃の温度で乾燥し、シランカップリング処理層を形成した。
【0047】
(実施例2)
この実施例2では、電気めっき法により平均厚さ0.2μmの平坦化銅めっき層2を形成した。そしてそれ以外は実施例1と同様とした。なお、その平坦化銅めっき層2の形成時のめっき条件は、めっき電流密度6A/dmで9秒間とした。
【0048】
(実施例3)
この実施例3では、電気めっき法により平均厚さ0.8μmの平坦化銅めっき層2を形成した。そしてそれ以外は実施例1と同様とした。なお、その平坦化銅めっき層2の形成時のめっき条件は、めっき電流密度24A/dmで9秒間とした。
【0049】
(実施例4)
この実施例4では、電気めっき法により平均厚さ1.4μmの平坦化銅めっき層2を形成した。そしてそれ以外は実施例1と同様とした。なお、その平坦化銅めっき層2の形成時のめっき条件は、めっき電流密度24A/dmで16秒間とした。
【0050】
(実施例5)
この実施例5では、原箔1として、錫(Sn)を0.001質量%含む、厚さ8μmの圧延銅箔を用いた。また、電解めっき法により平均厚さ0.9μmの平坦化銅めっき層2を形成した。そしてそれ以外は実施例1と同様とした。
【0051】
(比較例1)
比較例1の試料として、平坦化銅めっき層2を形成しないこと以外は、実施例1と同様の試料を作製した。
【0052】
(比較例2、3)
比較例2、3として、平坦化銅めっき層2を形成する際に用いるめっき液を、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド、ボリエチレングリコール、塩化物イオンのような添加剤を含まないものとした以外は、実施例2、3と同様の設定で試料を作製した。
【0053】
(比較例4)
比較例4として、平坦化銅めっき層2を形成する際のめっき工程におけるプロセス条件を、めっき電流密度30A/dmで3秒間としたこと以外は、比較例2と同様の設定で試料を作製した。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に纏めて示したように、実施例1〜5に係る試料の良好な結果を、比較例1〜4に係る試料の劣った結果と比較して明らかなように、原箔1の表面上に平坦化銅めっき層2を形成し、その表面の粗さ曲線のクルトシスRkuを4以下とすると共にその表面の粗さ曲線のスキューネスRskを0以下とし、かつT/Dの値を0.1≦T/D≦2の範囲内に制御することにより、絶縁性基板4(樹脂フィルム)における当該銅箔のエッチング除去後の部分の光透過性、延いてはその部分における透過光による導体パターン等の良好な認識性を、確保することが可能となることが確認された。また、それと共に、エッチング後の銅残りの発生を抑止または解消することが可能となることが確認された。また、特に、平坦化銅めっき層2を形成する際に用いるめっき液中に、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド、ボリエチレングリコール、塩化物イオンのような添加剤を添加することにより、さらに確実に、表面の平滑化を実現することが可能となることが確認された。
【0056】
また、上記の設定にさらに加えて、表面のRzを0.8μm以下とすることにより、その表面の平滑性をさらに確実に良好なものとすることが可能となることが、特に実施例5の結果(Rz=1.0つまりRz>0.8のとき、樹脂フィルムの透過性は○)と、それ以外の実施例1〜4の結果(Rz≦0.8のとき、樹脂フィルムの透過性は◎)との比較によって、確認された。
【0057】
(実施例6)
実施例6の試料では、錫(Sn)を0.004質量%含む、厚さ11μmの圧延銅箔を用いて、その原箔1の上に、平坦化銅めっき層2を形成した後、粗化銅めっき層3および被せめっき層(図示省略)を形成した。そしてそれ以外は、実施例1と同様の設定とした。
粗化銅めっき層3の形成に当たっては、まず、平坦化銅めっき層2原箔1の表面上に形成した後、水洗し、硫酸銅五水和物75g/dm、硫酸150g/dm、硫酸鉄七水和物20g/dm、モリブデン酸ナトリウム1g/dm、温度30℃に調整しためっき浴により、電流密度40A/dmで3秒間電解処理を行うことで、樹枝状銅めっき層
を形成した。続いて、水洗後、硫酸銅五水和物185g/dm、硫酸80g/dm、温度35℃に調整しためっき液を用いて、電流密度10A/dmで10秒間電解処理し、樹枝状銅めっき層をコブ状銅めっき層に変化させることで、粗化銅めっき層3を形成した。
【0058】
(実施例7)
実施例7の試料では、粗化銅めっき層3を形成する際のめっき時間を5秒間としたこと以外は、実施例6と同様の設定とした。
【0059】
(実施例8)
実施例8の試料では、粗化銅めっき層3を形成する際の、粗化銅めっきのめっき時間を8秒間、被せ銅めっき層のめっき時間を20秒間としたこと以外は、実施例6と同様の設定とした。
【0060】
(比較例5〜7)
比較例5〜7の試料では、平坦化銅めっき層2を形成する際のめっき液を、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド、ポリエチレングリコール、塩化物イオンなどの添加剤を含まないめっき液としたこと以外は、実施例6〜8と同様の設定とした。
【0061】
(比較例8)
比較例8の試料では、平坦化銅めっき層2を形成する際のめっき条件を、めっき電流密度30A/dmで3秒間としたこと以外は、比較例6と同様の設定とした。
【0062】
【表2】

【0063】
表2に纏めて示したように、実施例6〜8に係る試料の良好な結果を、比較例5〜8に係る試料の劣った結果と比較して明らかなように、原箔1の表面上に平坦化銅めっき層2を形成して、その表面の粗さ曲線のクルトシスRkuを4以下とすると共にその表面の粗さ曲線のスキューネスRskを0以下とすることにより、絶縁性基板4(樹脂フィルム)における当該銅箔のエッチング除去後の部分の光透過性、延いてはその部分における透過光による導体パターン等の良好な認識性を、確保することが可能となることが確認された。また、それと共に、エッチング後の銅残りの発生を抑止または解消することが可能となることが確認された。また、特に、平坦化銅めっき層2を形成する際に用いるめっき液中
に、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド、ボリエチレングリコール、塩化物イオンのような添加剤を添加することにより、さらに確実に、表面の平滑化を実現することが可能となることが確認された。
【0064】
そしてまた、そのように極めて平滑な平坦化銅めっき層2を形成して、極めて平滑なものとした銅箔の表面上に、粗化銅めっき層3を形成する場合、その粗化銅めっき層3にクレータ等の不良が発生することを抑止ないしは解消することができ、絶縁性基板4に対する密着性を良好なものとすることができる所望の粗さの粗面を確実に得ることが可能となることが確認された。
【0065】
なお、本発明は、特にCOFテープ用のプリント配線板用銅箔およびその製造方法などに好適なものであるが、本発明の適用はそれのみには限定されないことは勿論である。その他にも、例えば携帯電話機用や車載用等のフレキシブルプリント配線板のような、近年ますます配線のファイン化が進むと共にICチップ等の実装時に透過光に基づいて精確な位置合わせを行わなければならないタイプのプリント配線板に用いられる銅箔としても好適に利用することが可能である。あるいはさらにその他にも種々の用途先に本発明は適用可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0066】
1 原箔
2 平坦化銅めっき層
3 粗化銅めっき層
4 絶縁性基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基板の表面に張り合わされて用いられるように設定されたプリント配線板用銅箔であって、
前記絶縁性基板に対して張り合わされるように設定された面のJIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のクルトシスRkuを4以下にすると共にJIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のスキューネスRskを0以下としてなる
ことを特徴とするプリント配線板用銅箔。
【請求項2】
絶縁性基板の表面に張り合わされて用いられるように設定されたプリント配線板用銅箔であって、
前記絶縁性基板に対して張り合わされるように設定された面のJIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のクルトシスRkuを4以下にすると共にJIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のスキューネスRskを0以下にする平坦化銅めっき層を、原箔上に設けてなる
ことを特徴とするプリント配線板用銅箔。
【請求項3】
請求項1または2記載のプリント配線板用銅箔において、
前記絶縁性基板に対して張り合わされる面のJIS B0601−1994で定義される表面粗さRzが、0.8μm以下である
ことを特徴とするプリント配線板用銅箔。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちいずれか一つの項に記載のプリント配線板用銅箔において、
前記原箔の表面上または前記平坦化銅めっき層の表面上に、防錆処理層および/またはシランカップリング層を設けてなる
ことを特徴とするプリント配線板用銅箔。
【請求項5】
請求項2ないし4のうちいずれか1つの項に記載のプリント配線板用銅箔において、
前記平坦化銅めっき層の膜厚Tと前記原箔における窪み部分の平均深さDとの関係が、0.1≦T/D≦2である
ことを特徴とするプリント配線板用銅箔。
【請求項6】
請求項2ないし5のうちいずれか1つの項に記載のプリント配線板用銅箔において、
前記原箔が、錫(Sn)を0.001質量%以上0.01質量%以下含むと共に残部が銅(Cu)および不可避不純物である銅合金からなるものである
ことを特徴とするプリント配線板用銅箔。
【請求項7】
請求項1ないし6のうちいずれか1つの項に記載のプリント配線板用銅箔において、
前記原箔の表面上または前記平坦化銅めっき層の上に、JIS B0601−1994で定義される表面粗さRzを0.8超3.0以下とする粗化銅めっき層を、さらに設けてなる
ことを特徴とするプリント配線板用銅箔。
【請求項8】
絶縁性基板の表面に張り合わされて用いられるように設定されたプリント配線板用銅箔であって、
前記絶縁性基板に対して張り合わされるように設定された面のJIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のクルトシスRkuを4以下にすると共にJIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のスキューネスRskを0以下にする平坦化銅めっき層を、原箔における前記絶縁性基板に対して張り合わされるように設定された面上に設けると共に、前記平坦化銅めっき層の上に、JIS B0601−1994で定義される表
面粗さRzを0.8超3.0以下とする粗化銅めっき層を設けてなる
ことを特徴とするプリント配線板用銅箔。
【請求項9】
絶縁性基板の表面に張り合わされて用いられるように設定されたプリント配線板用銅箔の製造方法であって、
前記絶縁性基板に対して張り合わされるように設定された面のJIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のクルトシスRkuを4以下にすると共にJIS B0601−2001で定義される粗さ曲線のスキューネスRskを0以下にする平坦化銅めっき層を、原箔上に設ける工程を含む
ことを特徴とするプリント配線板用銅箔の製造方法。
【請求項10】
請求項9記載のプリント配線板用銅箔の製造方法において、
前記平坦化銅めっき層を、メルカプト基を有する有機硫黄化合物、または界面活性剤、もしくは塩化物イオンのうちの少なくともいずれか一種類の添加剤を含有するめっき液を用いた電解銅めっきプロセスによって形成する
ことを特徴とするプリント配線板用銅箔の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−9267(P2011−9267A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148452(P2009−148452)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】