説明

プレコートアルミニウム板

【課題】400℃以上の高温に耐え、安全性、加工性に優れたプレコートアルミニウム板を提供する。
【解決手段】本発明に係るプレコートアルミニウム板1は、アルミニウム板2の表面に耐熱皮膜3が形成されたプレコートアルミニウム板であって、前記耐熱皮膜3は、水性樹脂、ケイ酸塩化合物および粒子状無機充填材4を含み、前記水性樹脂/前記ケイ酸塩化合物の質量比率が1以上100以下であり、前記粒子状無機充填材4の粒径が1nm以上100nm以下であり、前記粒子状無機充填材4/前記ケイ酸塩化合物の質量比率が1以上100以下であり、膜厚が0.2μm以上20μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の排気系部材、家電製品の耐熱構造部材などの高温環境下で使用されるアルミニウム板およびアルミニウム合金板に係り、塗装によりアルミニウム板の表面に耐熱皮膜を設けたプレコートアルミニウム板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排気系部材や家電製品の耐熱構造部材などの高温で使用されるアルミニウム板(アルミニウム合金を含む。以下同じ。)の表面処理は、従来、アルミニウム板を製品形状に成形してから耐熱性の高い無機皮膜やシリコーン樹脂皮膜を形成するポストコート方式により行われていた。しかし、表面処理としては大量生産性や製造工程の簡略化、コスト低減の観点から、成形前のアルミニウム板の表面にあらかじめ樹脂皮膜を形成するプレコート方式により行う方が好ましい。プレコート方式により製造された耐熱性に優れるプレコート材として、次のようなものが挙げられる。
【0003】
特許文献1には、エーテル・エステル型ウレタン樹脂およびエポキシ樹脂に、ポリオレフィンワックスとシリカを含有してなる有機物塗膜が形成された、耐熱性に優れた無塗油型有機被覆金属板が記載されている。
【0004】
特許文献2には、アルカリケイ酸系ガラス水溶液に粒子状充填材、四フッ化系フッ素樹脂を配合してなる複合皮膜が形成された塗装金属板が提案されている。
【0005】
特許文献3には、アルキルシリコーン樹脂にアルミナフレーク、マイカ粉、タルク粉、板状カオリンなどの鱗片状無機粉末を分散させてなるクリア皮膜が形成された耐熱クリアプレコート金属板が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−192102号公報
【特許文献2】特開2000−319575号公報
【特許文献3】特許第4046322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動車の排気系部材や耐熱構造部材などは、使用中の温度が400℃以上の高温となる場合がある。このような高温で特許文献1〜3を使用すると、次のような問題がある。
【0008】
特許文献1に記載のウレタン樹脂やエポキシ樹脂の耐熱温度は高くても200℃程度であり、それ以上の高温環境では樹脂が分解し始めるという問題がある。
【0009】
また、特許文献2に記載の複合皮膜は、耐熱性は良いが、加工による皮膜割れや剥離等が生じやすいため、複雑な加工には対応できないおそれがある。しかも、高温で長時間使用を続けるとフッ素樹脂が分解し、毒性の強いフッ素ガスを発生するおそれがある。
【0010】
特許文献3に記載のシリコーン樹脂を主成分とする皮膜は、耐熱性、安全性では問題ないが、皮膜の加工性が悪く、折曲げや絞りなどの複雑な加工をすると皮膜割れや皮膜剥離を生じる。そのため、ポストコート方式により製造される板材や部材では広く利用されているが、プレコート板としては平板での使用あるいは加工の易しい部材など用途が極めて限定される。
【0011】
本発明は前記状況を鑑みてなされたものであり、400℃以上の高温に耐え、安全性、加工性に優れたプレコートアルミニウム板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、水性樹脂、ケイ酸塩化合物、粒子状無機充填材の比率、粒子状無機充填材の粒子径および膜厚を特定の範囲にすることにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明に係るプレコートアルミニウム板は、アルミニウム板の表面に耐熱皮膜が形成されたプレコートアルミニウム板であって、前記耐熱皮膜は、水性樹脂、ケイ酸塩化合物および粒子状無機充填材を含み、前記水性樹脂/前記ケイ酸塩化合物の質量比率が1以上100以下であり、前記粒子状無機充填材の粒径が1nm以上100nm以下であり、前記粒子状無機充填材/前記ケイ酸塩化合物の質量比率が1以上100以下であり、膜厚が0.2μm以上20μm以下であることを特徴としている。
【0014】
このように、本発明に係るプレコートアルミニウム板は、耐熱皮膜が水性樹脂、ケイ酸塩化合物および粒子状無機充填材を含んでいるので耐熱性、加工性、安全性に優れる。また、水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率を1以上100以下としているので耐熱性、加工性に優れ、粒子状無機充填材の粒径を1nm以上100nm以下としているので外観に優れ、粒子状無機充填材/ケイ酸塩化合物の質量比率を1以上100以下としているので耐熱性に優れる。そして、膜厚を0.2μm以上20μm以下としているので良好な外観を得ることができる。
【0015】
本発明に係るプレコートアルミニウム板における前記耐熱皮膜は着色顔料をさらに含んでいてもよい。
着色顔料を含むことによって、意匠性に優れたものとすることができる。
【0016】
本発明に係るプレコートアルミニウム板においては、前記耐熱皮膜の上にトップコート皮膜が形成されていてもよい。
耐熱皮膜の上にトップコート皮膜が形成されることによって、より優れた加工性を得ることができる。
【0017】
本発明に係るプレコートアルミニウム板における前記耐熱皮膜は160℃以上260℃以下で焼付処理して皮膜形成されるのが好ましい。
耐熱皮膜の焼付処理温度を160℃以上260℃以下とすることによって、加工性に優れた皮膜とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るプレコートアルミニウム板は、水性樹脂、ケイ酸塩化合物、粒子状無機充填材の質量比率と膜厚を特定の範囲とした耐熱皮膜が形成されているので、400℃以上の高温に耐え、かつ、安全性、加工性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るプレコートアルミニウム板の第1実施形態を示す断面模式図である。
【図2】本発明に係るプレコートアルミニウム板の第2実施形態を示す断面模式図である。
【図3】本発明に係るプレコートアルミニウム板の第3実施形態の一例を示す断面模式図である。
【図4】本発明に係るプレコートアルミニウム板の第3実施形態の他の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面を参照して、本発明に係るプレコートアルミニウム板を実施するための形態について説明する。
【0021】
[第1実施形態]
まず、図1を参照して、本発明に係るプレコートアルミニウム板の第1実施形態について説明する。
図1に示すように、第1実施形態に係るプレコートアルミニウム板1Aは、アルミニウム板2の表面に耐熱皮膜3が形成されたプレコートアルミニウム板である。
【0022】
アルミニウム板2は、純アルミニウム(Al)またはAl合金からなるものであればよく、例えば、JISに規定される1000系の工業用純Al、3000系のAl−Mn系合金、5000系のAl−Mg系合金などが適用できる。具体的には、絞り加工やしごきを行う場合にはJIS H4000に規定するA1050、A1100、A3003、A3004が推奨される。また、強度が望まれる用途にはA5052、A5182が推奨される。調質、板厚については特に制限はなく、目的に応じて選択することができる。
【0023】
耐熱皮膜3は、本発明のプレコートアルミニウム板1に耐熱性と加工性を付与するために設けられる。
本発明のプレコートアルミニウム板1は、図1に示すように、アルミニウム板2の片面のみを耐熱皮膜3で被覆するものに限定されず、アルミニウム板2の両面を被覆するものであってもよい(図示せず)。目的に応じて被覆形態を自在に選択することができる。
【0024】
耐熱皮膜3は、水性樹脂、ケイ酸塩化合物および粒子状無機充填材4を含んでいる。かかる耐熱皮膜3は、これらを混合した塗料をアルミニウム板2の表面に塗布し、塗料を塗布したアルミニウム板2を焼付け処理して塗料を硬化することにより形成することができる。
【0025】
かかる塗料のアルミニウム板2への塗工方法としては、刷毛塗り、ロールコーター、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、静電塗布機、ブレードコーター、ダイコーター等いずれの方法で行ってもよいが、塗布量が均一になるとともに作業が簡便なロールコーターにより塗工するのが好ましい。
【0026】
塗工は、アルミニウム板2の表面に塗布した塗料を焼付け処理によって皮膜とした場合に、膜厚が0.2μm以上20μm以下の範囲で形成されるように塗料の塗布量を調整する必要がある。膜厚をこの範囲にすることにより本発明の所望する諸効果を奏することができるだけでなく、コイル状のアルミニウム板2にロールコーターを使用して連続的に皮膜を形成できるため、生産性に優れ、コスト的にも望ましい。なお、塗布量の調整は、例えば、ロールコーターを用いる場合、アルミニウム板2の搬送速度、ロールコーターの回転方向と回転速度等を適切に設定することで行うことができる。
【0027】
膜厚が0.2μm未満となると、耐熱皮膜3によって奏される効果を十分に得ることができないおそれがある。特に、未塗装部が生じることがあり、外観が劣るおそれがある。また、ロールコーターを用いる場合、ピックアップロールとアプリケーターロールの間の圧力を高くする必要があり、ロールの摩耗が激しくなるため好ましくない。
一方、膜厚が20μmを超えても、さらなる効果の向上は得られ難い。また、ロールコーターのピックアップロールによる塗料の持ち上げが不十分となり膜厚のバラツキが著しく大きくなり、外観が劣ることになるため好ましくない。なお、膜厚は、好ましくは3μm以上18μm以下であり、より好ましくは3μm以上10μm以下、さらに好ましくは3μm以上7μm以下である。
【0028】
前記したようにして塗布した塗料であれば、例えば、160℃以上260℃以下の焼付処理温度で焼付け処理を行うのが好ましい。このような焼付処理温度で焼付け処理を行うと、好適に皮膜を形成させることができる。焼付処理温度が160℃未満であると、皮膜形成が不十分となり、かつ、アルミニウム板2との密着も不十分となるため加工性が低下する傾向にある。一方、焼付処理温度が260℃を超えると、塗料の劣化や分解が始まるため加工性および密着性が低下する傾向にある。なお、焼付処理温度は、160℃からあまり低くならない程度の温度、例えば、154℃程度であれば加工性に問題はなく、また、260℃からあまり高くならない程度の温度、例えば、272℃程度であれば加工性に問題はない。焼付処理温度は、166℃以上とすることができ、250℃以下とすることができる。前記した焼付処理温度であれば、20秒から50秒程度の短時間焼付け処理にて皮膜を形成させることができる。
【0029】
耐熱皮膜3に含まれる水性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、PVA(ポリビニルアルコール)、PEO(ポリエチレンオキサイド)、CMC(カルボキシメチルセルロース)等があり、これらの中から選択される1種類を用いることもできるし、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0030】
耐熱皮膜3に含まれるケイ酸塩化合物としては、例えば、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、またはこれらの混合物等がある。
【0031】
また、耐熱皮膜3に含まれる粒子状無機充填材4は、無機粒子を水系溶媒に分散させた無機粒子コロイドであれば使用することができる。無機粒子コロイドとしては、例えば、コロイダルシリカ、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル等があり、これらの中から選択される1種類を用いることもできるし、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0032】
粒子状無機充填材4の粒径は、1nm以上100nm以下とする。粒子状無機充填材4の粒径が1nm未満または100nmを超えると、耐熱皮膜3が外観不良となる。特に、粒子状無機充填材4の粒径が100nmを超えると耐熱性を得ることができない。粒子状無機充填材4の粒径は、1nm以上50nm以下とするのが好ましい。また、粒子状無機充填材4の粒径は、好ましくは20nm以下、より好ましくは6nm以下である。
なお、粒子状無機充填材4の粒径には通常分布があり、本発明における粒子状無機充填材4の粒径とは、粒子状無機充填材4を水系溶媒等に分散させたコロイドの状態で、レーザー回折式粒度分布測定器等で測定した積算体積50%粒子径をいう。
【0033】
耐熱皮膜3は、水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率を1以上100以下とする。水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率をこの範囲にすることで、耐熱性、加工性を良好に保つことができる。水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率が1未満であると、十分な加工性を得ることができない。一方、水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率が100を超えると耐熱性を得ることができない。なお、水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率は、好ましくは3以上93以下、より好ましくは7以上33以下、さらに好ましくは14以上33以下である。
【0034】
耐熱皮膜3は、粒子状無機充填材4/ケイ酸塩化合物の質量比率を1以上100以下とする。粒子状無機充填材4/ケイ酸塩化合物の質量比率をこの範囲にすることで、造膜性と耐熱性を良好に保つことができる。粒子状無機充填材4/ケイ酸塩化合物の質量比率が1未満では、水性樹脂、ケイ酸塩化合物、粒子状無機充填材4を含む所定の塗料を塗布したとしても連続的な皮膜を形成することが難しく、外観不良となる。また、粒子状無機充填材4/ケイ酸塩化合物の質量比率が100を超えると、400℃以上の高温に耐えることができない。つまり、耐熱性を得ることができない。なお、粒子状無機充填材4/ケイ酸塩化合物の質量比率は、好ましくは1以上90以下であり、より好ましくは1以上65以下であり、さらに好ましくは1.5以上6以下である。
【0035】
[第2実施形態]
次に、図2を参照して、本発明に係るプレコートアルミニウム板の第2実施形態について説明する。
図2に示すように、第2実施形態に係るプレコートアルミニウム板1Bは、アルミニウム板2の表面に着色顔料5をさらに含む耐熱皮膜3が形成されたプレコートアルミニウム板である。
【0036】
なお、第2実施形態に係るプレコートアルミニウム板1Bは、着色顔料5を含む点でのみ第1実施形態に係るプレコートアルミニウム板1Aと相違する。そのため、第1実施形態と第2実施形態とにおいて共通する構成については同一の符号を付して表すとともに重複する説明は省略し、以下ではこれらの間で相違する構成について説明する。
【0037】
耐熱皮膜3は着色顔料5を含むことによって、所望の色を付けることができる。着色顔料5は、400℃以上の高温でも分解や変色しない耐熱性の高い無機顔料が好ましく、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、チタンブラック、銅・クロムブラック、コバルトブラック、マンガン・鉄ブラック、銅・マンガン・鉄ブラック、マンガン・ビスマスブラック等があり、これらの中から選択される1種類を用いることもできるし、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0038】
[第3実施形態]
次に、図3および図4を参照して、本発明に係るプレコートアルミニウム板の第3実施形態について説明する。
図3および図4に示すように、第3実施形態に係るプレコートアルミニウム板1C、1Dは、耐熱皮膜3の上にトップコート皮膜6が形成されたものである。
【0039】
なお、第3実施形態の一例として示すプレコートアルミニウム板1Cおよび第3実施形態の他の一例として示すプレコートアルミニウム板1Dは、耐熱皮膜3の上にトップコート皮膜6が形成されている点でのみ第1実施形態または第2実施形態に係るプレコートアルミニウム板1A、1Bと相違する。そのため、第1実施形態から第3実施形態において共通する構成については同一の符号を付して表すとともに重複する説明は省略し、以下ではこれらの間で相違する構成について説明する。
【0040】
耐熱皮膜3の上に形成されるトップコート皮膜6としては、アクリル樹脂、エチレン樹脂、エポキシ樹脂等の水性樹脂を塗布して形成したものが好ましい。トップコート皮膜6を形成させることで加工性を向上させることができる。また、トップコート皮膜6には目的に応じた添加剤を含有させることができる。例えば、潤滑性を向上させるためにカルナウバワックス、ポリエチレンワックス等を添加することができ、耐指紋性を高めるために光学調整微粒子を含有させてもよく、耐ブロッキング性を向上させるためにブッキング防止剤を含有させることもできる。これらは使用目的に応じて選択することができ、その種類は特に制限されるものではない。トップコート皮膜6は前記した各効果を確実に奏するため、膜厚0.2μm以上5μm以下とするのが好ましい。
【0041】
以上、図1から図4を参照して、第1実施形態から第3実施形態に係るプレコートアルミニウム板について説明した。いずれのプレートアルミニウム板も、水性樹脂、ケイ酸塩化合物、粒子状無機充填材の質量比率と膜厚を特定の範囲とした耐熱皮膜が形成されているので、400℃以上の高温に耐え、かつ加工性に優れている。また、フッ素樹脂を用いていないため、400℃以上の高温に加熱されても毒性の強いフッ素ガスを発生することもなく、安全性に優れている。
【0042】
なお、本発明の内容は以上に説明した内容に限定されるものではない。例えば、アルミニウム板2と耐熱皮膜3との密着性を向上させるとともに、耐食性を向上させるために、図示しない下地処理層を形成することもできる。
【0043】
下地処理層としては、従来公知のCr,Zr,Tiの中から選択される1種類以上を含有する皮膜が適用できる。例えば、リン酸クロメート皮膜、クロム酸クロメート皮膜、リン酸ジルコニウム皮膜、酸化ジルコニウム皮膜、リン酸チタン皮膜、塗布型クロメート皮膜、塗布型ジルコニウム皮膜などを適宜使用することができる。また、必要に応じて、これらの皮膜に有機成分を含有させてもよい。近年の環境への配慮の観点から、六価クロムを含まないリン酸クロメート皮膜や、リン酸ジルコニウム皮膜、酸化ジルコニウム皮膜、リン酸チタン皮膜、塗布型ジルコニウム皮膜を使用することが好ましい。下地処理層の厚さは、目安として、アルミニウム板2へのCr,Zr,Tiの付着量(Cr,Zr,Ti換算値)で10〜50mg/m2程度が好ましい。付着量が10mg/m2未満では、アルミニウム板2の全面を均一に被覆することができず効果が十分に得られない。一方、付着量が50mg/m2を超えると、下地処理層自体に割れが生じやすくなる。Cr,Zr,Ti換算値は、例えば、蛍光X線法により比較的簡便かつ定量的に測定することができる。そのため、生産性を阻害することなくプレコートアルミニウム板の品質管理を行うことができる。
【0044】
また、耐熱皮膜3を形成する塗料をアルミニウム板2に塗布する前に、アルミニウム板2の表面を脱脂してもよい。アルミニウム板2の表面の脱脂は、例えば、アルミニウム板2の表面にアルカリ水溶液をスプレーした後に水洗することで行うことができる。
【実施例】
【0045】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明に係るプレコートアルミニウム板について具体的に説明する。
【0046】
まず、アルミニウム板(JIS 1100−H24材、板厚0.3mm)に対し、下地処理としてアルカリ水溶液で脱脂をした後、リン酸クロメート処理を施し、Cr換算で20mg/m2のリン酸クロメート皮膜を両面に形成した。
【0047】
次いで、表1に示す種類の水性樹脂、ケイ酸塩化合物および粒子状無機充填材を、表1に示す質量比率となるように各塗料を調製した。調製した塗料を、ロールコーターを用いてアルミニウム板に塗布した。そして、表1に示す焼付処理温度で加熱時間30秒間という焼付け処理を行ない、表1に示す膜厚を有する耐熱皮膜を形成し、供試材No.1〜29を作製した。なお、供試材No.16は脱脂した後に前記したリン酸クロメート処理を施さないで塗料を塗布して焼付けて作製した。
表1中のかっこ“( )”内の数字は、皮膜中の各成分の質量部を示す。
【0048】
また、塗料を塗布したアルミニウム板の加熱方式は、塗料を塗布したアルミニウム板がオーブンの入口から出口へ移動する連続焼付け方式とし、アルミニウム板がオーブン内を通過する時間を加熱時間とし、これを30秒に調整した。また、アルミニウム板に貼り付けたヒートラベルで確認されるアルミニウム板の到達温度を焼付温度とし、これが表1に示す温度となるように調整した。
作製したプレコートアルミニウム板の外観、耐熱性、加工性を次のように評価した。
【0049】
<外観の評価>
外観の評価は、作製したプレコートアルミニウム板の表面を目視で観察し、皮膜に割れ、剥離、フクレ、未塗装部、色むら、凝集物が認められたものを不良(×)、皮膜にいずれの異常もないものを良好(○)と評価した。
【0050】
<耐熱性の評価>
耐熱性の評価は、作製したプレコートアルミニウム板を大気雰囲気中で400℃、24時間加熱を行い、加熱前と比較して皮膜が消失したものを不良(×)、皮膜は残存するが変色したものを良好(○)、皮膜が残存し変色しないものを優良(◎)と評価した。
【0051】
<加工性の評価>
加工性の評価は、JIS K5400に規定される5Tおよび3T180度曲げ加工を行い、5T180度曲げ加工部の皮膜がセロハンテープで剥離したものを不良(×)、5T180度曲げ加工部の皮膜がセロハンテープで剥離しないものを良好(○)、3T180度曲げ加工部の皮膜がセロハンテープで剥離しないものを優良(◎)とした。
【0052】
作製したプレコートアルミニウム板の外観、耐熱性、加工性の評価結果を表1に示す。なお、表1中の下線は本発明の要件を満たさないことを示す。
【0053】
【表1】

【0054】
供試材No.1〜16は、本発明の要件を満たしていたので外観、耐熱性、加工性がいずれも良好または優良であった。また、耐熱性を評価する際にフッ素ガスなどの毒性の強いガスを発生することもなく、安全性に優れていた。
これに対し、供試材No.17〜29は、本発明の要件のいずれかを満たしていないので、外観、耐熱性、加工性のうちいずれかが不良となった。
【0055】
具体的には、供試材No.17は、水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率が1未満であるため加工性が不良であった。
供試材No.18は、水性樹脂/ケイ酸塩化合物の質量比率が100を超えるため耐熱性が不良であった。
供試材No.19,20は、粒子状無機充填材の粒径が本発明の要件を満たさないため皮膜が外観不良となった。
供試材No.21は、粒子状無機充填材/ケイ酸塩化合物の質量比率が1未満であるため外観が不良となった。
供試材No.22は、粒子状無機充填材/ケイ酸塩化合物の質量比率が100を超えるため耐熱性が不良となった。
供試材No.23,24は、膜厚が本発明の要件を満たさないため外観不良となった。
【0056】
供試材No.25〜29は、本発明とは異なる組成の皮膜の例である。
供試材No.25は、ウレタン樹脂を用いたため400℃で加熱すると有機成分が分解し、耐熱性が不良となった。
供試材No.26は、シリカを含有したエポキシ樹脂を用いたが、400℃で加熱するとシリカは残留するがエポキシ樹脂が分解するため耐熱性が不良となった。
供試材No.27は、粒子状充填材であるガラス粉末粒子と四フッ化系フッ素樹脂を含有した水ガラスを用いているので耐熱性は良好であったが、加工性が不良となった。さらに皮膜にフッ素樹脂を含むため400℃で加熱すると毒性の強いフッ素ガスが発生した。そのため、安全性に劣っていた。
供試材No.28は、シリコーン樹脂を用いたため耐熱性は良好であるが、加工性が不良であった。
供試材No.29は、シリコーン樹脂の上にトップコートを設けた皮膜であるが、トップコートを設けた場合でも加工性は不良であった。
【0057】
以上、本発明に係るプレコートアルミニウム板について、発明を実施するための形態および実施例により詳細に説明したが、本発明の趣旨はこれらの説明に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。
【符号の説明】
【0058】
1A、1B、1C、1D プレコートアルミニウム板
2 アルミニウム板
3 耐熱皮膜
4 粒子状無機充填材
5 着色顔料
6 トップコート皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム板の表面に耐熱皮膜が形成されたプレコートアルミニウム板であって、
前記耐熱皮膜は、
水性樹脂、ケイ酸塩化合物および粒子状無機充填材を含み、
前記水性樹脂/前記ケイ酸塩化合物の質量比率が1以上100以下であり、
前記粒子状無機充填材の粒径が1nm以上100nm以下であり、
前記粒子状無機充填材/前記ケイ酸塩化合物の質量比率が1以上100以下であり、
膜厚が0.2μm以上20μm以下である
ことを特徴とするプレコートアルミニウム板。
【請求項2】
前記耐熱皮膜は着色顔料をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のプレコートアルミニウム板。
【請求項3】
前記耐熱皮膜の上にトップコート皮膜が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプレコートアルミニウム板。
【請求項4】
前記耐熱皮膜は160℃以上260℃以下で焼付処理して皮膜形成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のプレコートアルミニウム板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−101161(P2012−101161A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250720(P2010−250720)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】