説明

プレス機械、および、プレス機械の制御方法

【課題】サーボプレス機械において、ユーザの生産目的に合わせた動作指定を事前におこない、サーボモータの回転数と出力トルク特性に応じて、加減速の制御をおこなえるようにする。
【解決手段】弱め界磁制御を始める回転数の動作モードである動作優先モード、それより小さな回転数の動作モードである客先優先モード、それより大きな回転数の動作モードである生産優先モードのいずれかの動作モードを設定する。そして、設定された動作モードに応じて、最高非加工速度、加減速時定数、加減速終端丸め定数からなるサーボパラメタによりサーボモータに対してサーボ制御をするように設定する。客先優先モードでは、加減速時定数を小さくし、加減速の変化を大きくして、生産優先モードでは、加減速時定数を大きくして、加減速の変化を小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス機械、および、プレス機械の制御方法に係り、特に、サーボモータによりクランク軸を駆動させて、スライドを昇降運動させるプレス機械のサーボ制御をおこなうときに、生産目的に応じて最適なパラメタを与えるのに好適なプレス機械、および、プレス機械の制御方法に関する
【背景技術】
【0002】
サーボプレス機械は、サーボ機構によってモーション制御をおこなう装置であり、加工時の位置・速度・エネルギーを自在かつ高精度に制御することができ、高生産性、低騒音、省エネルギーなどが可能になるという特徴を有する。
【0003】
このサーボ制御の加減速制御方法として、従来技術は、プレス作業者が設定したプレス運転のSPM(Strokes Per Minute:1分あたりのストローク数)が変化してもモータの加速度を一定とする手法が一般的である。この加速度は、モータ最高回転数とギア比から算出されるプレス最高非加工速度に対するサーボモータの加減速時間から求められるものである。
【0004】
特許文献1には、ストロークの長さに対応する加速/減速時定数を定めたサーボパラメタテーブルを使用して、サーボ制御をおこなうサーボプレス機械が開示されている。
【0005】
特許文献2には、板材の距離と移動時間に応じて、ラム速度を制御する加減速時定数を定めるパンチプレスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−263299号公報
【特許文献2】特開2001−198632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、プレス機械のサーボモータを制御するとき、できるだけ生産性を高く加工したい場合には、変速指定をおこなわずにサーボモータを最高速で連続動作させるようにした動作モーションで指定する。特にサーボプレス機械の制御をおこなうとき、振り子加工動作(振り子モーション)時に、他のモーションより、生産性が高い設定が可能となる。そのため、振り子モーション時のとき特に、より高い生産性を得ることを目的として、加圧加工動作以外の時間を短縮するために、非加工速度を最高非加工速度に設定し、さらには、スライドストロークも必要最小距離で設定したいという要求が強く発生する。
【0008】
一方、振り子モーションは、スライドストローク端で、サーボモータの減速動作後、モータ旋回方向を切替え、加速動作をおこなうので目標とするSPMに応じた加減速動作時間と加減速距離が必要である。そのため、プレス動作モーションの設定段階で振り子動作端での加減速動作に必要なスライドストロークが設定されない場合、モーションの設定不良としている。このときの加減速動作におけるサーボのパラメタは、プレス機種ごとに決まっているモータ最高回転数でのモータ出力トルクを基準とするワーストケースで計算されたものである。
【0009】
また、成形加工領域で加減速をおこなう場合にも、加減速動作はプレス機種ごとに決まっているモータ最高回転数でのモータ出力トルクを基準とするワーストケースで計算されており、成形加工領域の加減速動作では必要以上の加減速時間を費やし生産性の低下をまねいており、このモータの能力的には余分な加減速時間を短縮し生産性を高めることができないという問題点があった。
【0010】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、その目的は、ユーザの生産目的に合わせた動作指定を事前におこない、サーボモータの回転数と出力トルク特性に応じて、加減速の制御をおこなうことにより、生産性の高いサーボプレス機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のサーボモータによりスライドを駆動させるプレス機械では、弱め界磁制御を始める回転数の動作モードである動作優先モード、それより小さな回転数の動作モードである客先優先モード、それより大きな回転数の動作モードである生産優先モードのいずれかの動作モードを設定する。
【0012】
客先優先モードが設定されたときに、最高非加工速度をプレスユーザに入力させる。
【0013】
そして、設定された動作モードに応じて、最高非加工速度、加減速時定数、加減速終端丸め定数からなるサーボパラメタによりサーボモータに対してサーボ制御をするように設定する。
【0014】
回転数の小さな動作モードである客先優先モードでは、加減速時定数を小さくし、加減速の変化を大きくして、回転数の大きな動作モードである生産優先モードでは、加減速時定数を大きくして、加減速の変化を小さくする。
【0015】
これにより、プレスユーザの生産目的に合わせた動作指定を事前におこなうことができ、サーボモータの回転数と出力トルクの特性に応じた最適なサーボパラメータとが設定される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ユーザの生産目的に合わせた動作指定を事前におこない、サーボモータの回転数と出力トルク特性に応じて、加減速の制御をおこなうことにより、生産性の高いサーボプレス機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係るサーボプレス機械の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るサーボプレス機械の構成の概略図である。
【図3】サーボモータ回転数と出力トルクの関係図である。
【図4】加減速動作を説明するために、時間とスライド速度の関係を示した図である。
【図5】各モード毎のサーボパラメタの例を示す図である。
【図6】制御動作設定画面の一例を示す図である。
【図7】制御動作を設定したときの制御部32の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る一実施形態を、図1ないし図7を用いて説明する。
【0019】
先ず、図1および図2を用いて本発明の一実施形態に係るサーボプレス機械について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るサーボプレス機械の斜視図である。
図2は、本発明の一実施形態に係るサーボプレス機械の構成の概略図である。
【0020】
本実施形態では、サーボプレス機械の例として、スライドを移動させる機構・形式が、クランク機構になっているプレスであるクランクプレスを例に採って説明する。
【0021】
クランクプレスは、図2に示されるように、動力としてサーボ制御をおこなうサーボモータ10を駆動させて、モータ軸11を回転させ、モータ軸ギア12をメインギア20と噛みあわせて回転させる。メインギア20の中心部には、クランク軸21が取り付けられており、メインギア20の回転運動を上下の昇降運動に変換する。これにより、クランク軸21に取り付けられたコンロッド22とスライド23が昇降運動する。スライド23には、上金型24aが取り付けられており、静止側の台であるボルスタ25には、下金型24bが搭載されていて、スライド23を下降させることにより、上金型24aと下金型24bの間に、成型部品を挟み込んでプレスする。
【0022】
サーボモータ10が回転すると、エンコーダ13は、回転方向および回転量をサーボコントローラ15にフィードバックする。サーボコントローラ15は、与えられるサーボパラメタ41に従って、サーボ制御をおこなう機能を有し、ドライバ14に制御信号を与える。ドライバ14は、入力された信号を電流値に変換して、サーボモータ10に供給する。
【0023】
サーボコントローラ15に与えられるサーボパラメタ41は、操作パネル31の指定に従って設定され、サーボパラメタ記憶部40に記憶されているものが与えられる。
【0024】
また、制御部32とサーボパラメタ記憶部40は、図1に示した制御盤30の中に格納されている。
【0025】
次に、図3ないし図5を用いて本発明の一実施形態に係るサーボプレス機械の動作について説明する。
図3は、サーボモータ回転数と出力トルクの関係図である。
図4は、加減速動作を説明するために、時間とスライド速度の関係を示した図である。
図5は、各モード毎のサーボパラメタの例を示す図である。
【0026】
サーボプレスの生産性を高めるには加減速動作条件が重要な要素であり、できるだけ加減速時間を短い条件にした設定をおこなう事が必要である。この加減速時間を決定する要因は、サーボモータ10のモータトルク値である。そこで、本実施形態は、サーボモータの回転数と出力トルク特性に着目し、モータ回転数を生産優先指定、動作優先指定、客先優先指定の三つの動作モードに分け、プレスユーザの生産目的に合わせた動作指定を事前におこなえるようにしたものである。
【0027】
一般に、サーボモータ10の出力トルクは、モータ停止時が最大であり、回転数の上昇と共に次第に低下する。特に、モータ回転数が上昇し、モータ内部の電圧発生で電流供給モータトルクが大きく低下する回転数が存在するが、このモータ回転数を境目にして弱め界磁制御を働かせ、モータ出力トルクを減少させ、モータ最高回転数を得る事にする。弱め界磁制御とは、逆起電力を弱くするために、モータの界磁に流す電流を抑える制御である。
【0028】
この弱め界磁制御を有効にする制御開始のモータ回転数を「動作優先回転数」とし、弱め界磁制御によってモータ最高回転数、すなわち、生産優先回転数が得られる。
【0029】
このモータトルクが大きく低下開始する限界モータ回転数を「動作優先回転数」とする。また、プレス機種ごとのモータ最高回転数を「生産優先回転数」とし、この「生産優先回転数」の例えば50%を「客先優先回転数」の初期値とする。
【0030】
そして、各々の回転数のときに「動作優先モード」、「生産優先モード」、「客先優先モード」の動作モードとして、サーボパラメタをユーザに指定させることができるようにする。
【0031】
例えば、図5に示されるように、サーボパラメタの加減速時定数と、加減速終端丸め定数をとる。ここで、各々のモードは、最高非加工速度で定められる。加減速時定数は、非加工速度が最低速度から最高速度まで変化する時間である。ここでは、最低速度を、0SPMとし、最高速度を、生産優先のときの最高非加工速度である80SPMを基準にとることにする。加減速終端丸め定数は、加減速によるプレス機械の一定以上のゆれを吸収できる時間である。なお、最高非加工速度は、本来、スライドの非加工時のときの速度をいうが、ここでは、生産量を表すSPMという単位で表すことにする。
【0032】
動作優先指定時の最高非加工速度を60SPM、加減速時定数を120mS、加減速終端丸め定数を50mSを条件とし、客先優先時指定時の最高非加工速度を40SPMとした場合の客先優先の加減速時定数と、加減速終端丸め定数は以下のようになる。
【0033】
定数計算の係数 Y=40[spm]÷60[spm]
加減速時定数 120[mS]×Y=80[msec]
加減速終端丸め定数 50[mS]×Y=33[msec]
すなわち、動作優先の最高非加工速度に比例するように定める。なお、このサーボパラメタは、あくまで一例であり、実際には、各プレス機械の特性に適応した最適な値を求めることになる。
【0034】
加減速時定数は、図5に示されるようになる。加減速時定数は、0SPMから80SPMまで変化するときの変化時間としたから、生産優先のときの加減速の傾きは、80/160=0.50、動作優先のときの加減速の傾きは、80/120≒0.67(ただし、動作優先のときの非加工速度の変化は、0SPM〜60SPMであることに注意)、客先優先のときの加減速の傾きは、80/80=1.0(ただし、客先優先のときの非加工速度の変化は、0SPM〜40SPMであることに注意)となる。
【0035】
スライド速度と、加減速の関係を示すと、図4に示されるようになる。最高速度から最低速度まで変化するに要する時間が、加減速時定数である。従来では、図4(a)のδに示されるように、加減速の割合は、モータ回転数によらず一定であった。本実施形態では、図4(b)のδに示されるように、各モードにおける加減速の加減速の割合を可変にするものである。
【0036】
これらのサーボパラメタの値は、サーボモータの回転数と出力トルクの特性に応じた最適なパラメタとなるように設定されているため、最高非加工速度が速いときには加減速時定数は大きな値(加減速の変化は、小さい)、最高非加工速度が遅いときには加減速時定数は小さな値(加減速の変化は、大きい)が設定されて、最も生産数が上がるモーションで生産をおこなえるようになる。
【0037】
次に、図6および図7を用いてプレスユーザのモード指定について説明する。
図6は、制御動作設定画面の一例を示す図である。
図7は、制御動作を設定したときの制御部32の動作を示すフローチャートである。
【0038】
プレスユーザは、図6に示される操作パネル31に表示される制御動作設定画面により与えられる。例えば、「客先優先モード」のときには、「客先優先」の部分をタッチパネルにより、タッチする。また、「生産優先モード」、「動作優先モード」のときには、最高非加工速度は、固定とするが、「客先優先モード」を選択したときのみ、最高非加工速度を指定できるものとする。
【0039】
制御動作画面が選択され、客先優先の最高非加工速度を変更するとき(S10)には、数値を設定し(S20)、加減速に関するサーボパラメタを演算し(S21)、演算した条件が記憶され(S30)、転送されて、サーボパラメタ記憶部40に記憶される(S40)。
【0040】
また、モードを指定されたときには、生産優先(S11)、動作優先(S12)、客先優先(S13)の各々の選択したモードが設定条件として記憶され(S30)、転送されて、サーボパラメタ記憶部40に記憶される(S40)。
【0041】
このように、本実施形態によれば、プレスユーザが加速度切り換え用のパラメタを選択するだけで、モータの特性を意識することなく、プレスユーザが使用するプレス速度に対して最も生産性が高くなるような、最適なプレスの加減速パラメタを決定することができる。このことにより、従来ではモータ速度が最も速い状態を基準として決められていた、加減速時定数がプレスの速度に対して可変値となる。これにより、プレスの速度が遅い設定の場合は、加減速度が上がることとなり、生産数が上がる。さらには、従来では加減領域の不足により動作できないと判定されていた短い区間での大きな変速動作をも可能となるため、より柔軟な加工条件の設定が可能となる。
【0042】
特に、振り子モーションにおいて、従来であれば加減速領域の不足によって、折り返し地点を高い位置に設定する必要があったものが、より低い位置に設定することを可能となり、不要な移動量が減少することにより、生産数が上がるだけでなく、不要な加減速動作のための不要な移動区間を減らすことによるエネルギー消費の抑制にもつながることになる。
【符号の説明】
【0043】
10…サーボモータ、11…モータ軸、12…モータ軸ギア、13…エンコーダ、14…ドライバ、15…サーボコントローラ、20…メインギア、21…クラン、22…コンロッド、23…スライド、24a…上金型、24b…下金型、25…ボルスタ、30…制御盤、31…操作パネル、32…制御部、40…サーボパラメタ記憶部、41…サーボパラメタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボモータによりスライドを駆動させるプレス機械において、
前記サーボモータの回転数に応じて、動作モードを設定し、
前記動作モードに基づいたサーボパラメタにより、前記サーボモータのサーボ制御をおこなうことを特徴とするプレス機械。
【請求項2】
前記サーボパラメタが、最高非加工速度、加減速時定数、加減速終端丸め定数であることを特徴とする請求項1記載のプレス機械。
【請求項3】
前記サーボモータに対して弱め界磁制御を始める回転数により、動作モードを区分することを特徴とする請求項1記載のプレス機械。
【請求項4】
前記サーボモータの回転数が小さいときに、加速度時定数を小さくし、前記サーボモータの回転数が大きいときに、加速度時定数を大きくすることを特徴とする請求項1記載のプレス機械。
【請求項5】
サーボモータによりスライドを駆動させるプレス機械の制御方法おいて、
弱め界磁制御を始める回転数の動作モードである動作優先モード、それより小さな回転数の動作モードである客先優先モード、それより大きな回転数の動作モードである生産優先モードのいずれかの動作モードを設定する手順と、
前記客先優先モードが設定されたときに、最高非加工速度を入力させる手順と、
設定された動作モードに応じて、最高非加工速度、加減速時定数、加減速終端丸め定数からなるサーボパラメタにより前記サーボモータに対してサーボ制御をするように設定する手順とを有することを特徴とするプレス機械の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−11449(P2012−11449A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152941(P2010−152941)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
【Fターム(参考)】