説明

プレス金型

【課題】
負角部を有するプレス製品を離型する際に、プレス製品を変形させる虞をなくし、容易に離型することを可能とする。
【解決手段】
直角曲げ加工を行う直角曲げ刃と負角曲げ加工を行うスライドカムとを有する上型と、前記直角曲げ刃に対応する固定ダイとともに、前記スライドカムに対応する負角成形部分を独立させた可動ダイ及び前記スライドカムを案内するドライバーカムを有する下型と、直角曲げフランジ端面に当接してワークを下型から抜き出すパネルリフターとで構成し、ワークをプレス成形した後、直角曲げフランジ部分を前記パネルリフターにより離型方向へ移動させてワークを持ち上げるとともに、前記可動ダイを前記パネルリフターに同期させて離型方向へ移動させてワークを負角成形の加工方向とは逆方向に取り出すようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの辺縁において、相対する一辺をプレス方向に負角曲げ加工するとともに、他辺を直角曲げ加工し、プレス製品を離型する際に、ワークを変形させることなく、容易に離型することを可能とするプレス金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレス金型としては図7に示すように、上型の下降直線運動を回転運動に変換して回転カムを回動させ、上型の直線方向の下降軌跡より下型内に入り込んだ成形部分を成形させ、成形後、成形したワークが下型より取り出せる状態まで回転カムを回動後退させるべく、次の構成が知られている。
金属製薄板のワークWを支持部101に載置する下型102と、前記下型102に対し直線方向に下降してワークWに衝合してワークWを成形する上型103とで構成し、外周面に開口し、軸方向に刻設した溝104を有し、溝104の支持部101寄りの縁部に上型103の軌跡より入り込んだ入り込み成形部105を形成し、下型102に回動自在に設けた回転カム106と、入り込み成形部107を有し、前記回転カム106に対向させて上型103に摺動自在に設けたスライドカム108と、成形後、ワークWを下型102から取り出せる状態まで回転カム106を回動後退させる、下型102に設けたエアシリンダ109とよりなり、下型102の支持部101に載置されたワークWを、回転カム106の入り込み成形部105とスライドカム108の入り込み成形部107で、スライドカム108は摺動してワークWを成形し、成形後、エアシリンダ109により回転カム106を回動後退させ、成形したワークWを下型102より取り出せるようにした負角成形型である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−263753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、回転カム106と下型102の間には円滑な回動のためクリアランスを設定するためスライドカム108の押圧により僅かに変形し、ワークWの曲面に段差が生じたり、正確な曲線に成形できない場合があり、良い品質の負角成形加工ができない場合があった。
また、回転カム106は溝104部以外の外周は下型102に直接接触して支持させているので、回転カム106および下型102の回転カム106の支持部(断面概略円状の孔)の加工を正確にせねばならず加工も難しい。
さらに、回転カム106の殆どの外周を下型102で支持させているので、負角成形型が大きくなり、高価なものとなっていた。
【0005】
本発明は、このような従来のプレス金型が有する不具合を解消することを目的とするものであって、負角部を有するプレス製品を簡単な構造で負角成形加工を可能にするとともに、負角成形後のプレス製品を変形することなく、単純な金型構造で容易に離型することを可能とし、高精度のプレス製品を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための、本発明の請求項1に係るプレス金型は、回動カムを用いることなく、スライドカムを用いて負角曲げ部を成型する構成とする。すなわちパネルの辺縁において、相対する一辺を負角曲げ加工するとともに、他辺をプレス方向に直角曲げ加工するフランジ加工用プレス金型であって、直角曲げ加工を行う直角曲げ刃と負角曲げ加工を行うスライドカムとを有する上型と、前記直角曲げ刃に対応する固定ダイとともに、前記スライドカムに対応する負角成形部分を独立させた可動ダイ及び前記スライドカムを案内するドライバーカムを有する下型と、直角曲げフランジ端面に当接してワークを下型から抜き出すパネルリフターとからなり、ワークをプレス成形した後、直角曲げフランジ部分を前記パネルリフターにより離型方向へ移動させてワークを持ち上げるとともに、前記可動ダイを前記パネルリフターに同期させて離型方向へ移動させてワークを負角成形の加工方向とは逆方向に取り出すことを特徴とする。
【0007】
また請求項2に係るプレス金型は前記構成に加え、可動ダイを上昇させる方向を固定ダイ側に傾いた方向としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の請求項1に係るプレス金型は、回動カムを用いないため型が大型化、複雑化することなく、簡単な構造でメンテナンスも容易であり、ドアパネル、フードパネル部品等の負角曲げを有し、その周辺の辺縁が一連にフランジ加工される部品の加工を一工程で行うことができる。また、負角部を有するプレス製品を離型する際に、プレス製品を変形することなく、単純な金型構造で容易に離型することを可能とし、更に離型後の製品の姿勢を適正に維持して搬送機による可搬性を確保して、自動生産ラインへの最適な搬送を可能とし、従って、高精度のプレス製品を低コストで提供することができる。また本発明の請求項2に係るプレス金型によれば、可動ダイが負角曲げ部においてワークから離間する方向に上昇するため、請求項1の構成で実現した優れた離型性能が更に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る負角部を有するプレス製品を成形するための金型構造を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るプレス金型のワークのフランジ部を離型する際の断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るプレス金型のワークを取り出す際の断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る負角部を有するプレス製品を成形するための金型構造を示す断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るプレス金型のワークのフランジ部を離型する際の断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るプレス金型のワークを取り出す際の断面図である。
【図7】従来例に係る負角部を有するプレス製品を離型する際の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
図1には、本発明の実施の形態に係る、負角曲げを有するプレス製品を成形するための金型構造を示しており、プレス成形完了時の様子を示すものである。この金型の上型1は、ワーク10を押圧するパッド2とワーク10を成形するスライドカム3と直角曲げ刃5とが取り付けられている。スライドカム3の成形部はその頭頂部に設けられた直角曲げ成形部分と、これに続く傾斜部が設けられた負角曲げ刃3aとを有している。この傾斜部の傾斜角度は、負角曲げの角度によって決められる。また、スライドカム3は上型1に設けられたストッパとバネ等の弾性体を介して結合されており、上型1に対して所定の範囲内において、プレス方向に対して直角方向にスライドできるようになっている。
【0012】
一方、下型は、固定ダイ7と別体の独立部分である可動ダイ6とパネルリフター9とを有し、また下型にはスライドカム3を案内するドライバーカム4が設けられており、可動ダイ6には負角成形部6aを有する。そして、可動ダイ6は押圧手段8であるシリンダーのシリンダーロッドに連結されている。固定ダイ7と可動ダイ6とは、可動ダイ6の下端部から鉛直上方へと延びる鉛直な摺接面11,12によって摺接しており、シリンダーのシリンダーロッドが伸縮することにより、可動ダイ6が鉛直上方へ自在にスライド可能になっている。
【0013】
図1はプレス成形完了状態であるが、それに至るまでを以下に説明する。まず、プレス機が上死点付近で十分上型及び下型が離間した状態で、かつ可動ダイ6が下降し、固定ダイ7と加工面が面一になった状態で所定の位置にワークを投入する。この際可動ダイ6と固定ダイ7の加工面に段差が無いため、ワークを傷つけることが無い。次に、固定ダイ7及び可動ダイ6の上に位置決めされたワーク10を、上型1の下降動作に連動して下降するパッド2により押圧固定する。引き続き上型1が下降して、上型1に取り付けられた直角曲げ刃5と下型の固定ダイ7とにより、ワーク10の辺縁の直角曲げ加工を行うとともに、スライドカム3の負角曲げ刃3aと下型の可動ダイ6の負角曲げ成形部6aとにより負角曲げ加工を行い、直角曲げフランジ部及び負角曲げフランジ部を成形する。そして図1に示すようなプレス完了状態になる。
【0014】
負角曲げ加工が行われるワーク10の辺縁では、ドライバーカム4のドライバー部の傾斜したスライド面が、スライドカム3の負角曲げ刃3aが形成されている頭頂部とは反対側に設けられた傾斜したスライド面に当接する。上型1がさらに下降すると、スライドカム3は、ドライバーカム4のドライバー部に案内され、負角曲げ方向である図1の左方向にスライドする。これにより、負角曲げフランジ部を成形する。
【0015】
上記のように、負角曲げ加工が行われるとき、可動ダイの摺接面11と固定ダイの摺接面12は当接しており、さらに可動ダイ6の下面も固定ダイ7に当接しているため、負角曲げされる加工力を固定ダイ7で受けることができ、安定した高精度な負角曲げ加工が可能である。
【0016】
このようにして直角曲げ及び負角曲げ加工が完了すると、次に上記プレス金型から以下の手順によってワーク10の離型を行う。図1に示すプレス成形完了状態においては、ワーク10は固定ダイ7および可動ダイ6に密着しており、負角曲げフランジ部は、可動ダイ6の負角成形部6aに対しワーク10の離型する方向と交差する負角となって離型を妨げている。
【0017】
図1に示すように、フランジ曲げ加工が完了したときは、パネルリフター9のエジェクター9aは直角曲げフランジ端面の下方にあり、可動ダイ6も下死点位置にある。曲げ加工が完了すると、まず上型1を上昇させて、上型1に連動して上昇するパッド2を固定ダイ7および可動ダイ6およびワーク10から離間させる。さらに上型1が上昇するにつれて、スライドカム3はドライバーカム4及び弾性体の作用によって、図1において右方向にスライドするとともに、上方に移動する。これによりスライドカム3は、可動ダイ6の負角成形部6aに対して干渉することなく、上方に移動することができる。
【0018】
また、図2に示すように、上型1が上昇することにより、パネルリフター9の押圧手段9bによりエジェクター9aが直角曲げされた直角曲げフランジの端面に当接して、ワーク10を固定ダイ7から抜き出すように押し上げて、ワーク10を固定ダイ7から離型する。これにより、ワーク10を取り出す際に固定ダイ7に対して、ワーク10の直角曲げフランジ部が引っかかりの無い状態とする。
【0019】
本パネルリフター9は、押圧力が有効に直角曲げフランジ部の端面に作用するように、その取付方向は、直角曲げの曲げ方向に一致するようになっている。
また、パネルリフター9は単独で上下動できるように押圧手段9bはシリンダーを使用することができる。また、上型1の上下動作に連動するように、コイルバネあるいはガススプリングを使用することができる。この場合、押圧手段は所定の長さ範囲で作動するように、ワーク10を固定ダイ7から離型した後は、ストッパ等で作動が制限されるようになっている。
【0020】
自動ワーク搬送機13によりワーク10をプレス型から搬出するため、パネルリフター9によりワーク10を固定ダイ7から抜き外すように押し上げるとともに、ワーク10が適正な姿勢になるように可動ダイ6をシリンダーにより上昇させる。この時点ではワーク10の負角曲げフランジ部は、上昇させた可動ダイ6の負角曲げ成形部6aからは離型をしておらず、固定ダイ7から離型後のワーク10の姿勢を適正に維持して自動生産ラインへの最適な搬送を可能にしている。ここで、自動ワーク搬送機13とは、ロボット等のワーク搬送機と、それに装着されたワークハンドリング装置を言う。
【0021】
図3に示すように、自動ワーク搬送機13により、負角成形の加工方向とは逆方向に可動ダイ6からワーク10を離型する。つまり、ワーク10の負角フランジ部が可動ダイ6の負角成形部6aに干渉しない右上方向に可動ダイ6からワーク10を離型する。以上によりプレス金型からのワーク10の搬出を完了する。
【0022】
なお、ワーク10の離型を完了した後は、シリンダー8のシリンダーロッドを縮めて、可動ダイ6を下降させることにより、可動ダイ6の摺接面11は、図1の状態へと復帰する。
【0023】
上記構成をなす本発明の実施の形態により得られる作用効果は、以下の通りである。本発明の実施の形態に係るプレス金型は、固定ダイ7から独立させた可動ダイ6に負角成形部6aを形成し、可動ダイ6を固定ダイ7に対し、シリンダー8によってワーク10の離型方向(図1の上方)へと移動可能に支持している。
【0024】
したがって、パネルリフター9でワーク10の直角曲げフランジ部を持ち上げることで固定ダイ7に対するワーク10の離型を行うとともに、可動ダイ6を上昇させることでワーク10の負角曲げフランジ部を持上げて、ワーク10の端部に成形された負角部から、自動ワーク搬送機13により、負角成形の加工方向とは逆方向にワーク10を離型する。つまり、ワーク10の負角フランジ部が可動ダイ6の負角成形部6aに干渉しない方向、図1において右上方向へ取り出すことによってワーク10全体を離型することができる。よって、可動ダイ6の負角成形部6aは、ワーク10端部に形成された負角部の離型の妨げとはならず、ワーク10を変形させることなく、離型を完了することができる。
【0025】
パネルリフター9上昇の後可動ダイ6を上昇させてもよいが、負角の大きなワークの場合あるいは平面形状において負角曲げ端部が湾曲しているような場合、成型後にパネルリフター9のみを上昇させると負角部におけるワークの拘束が強いため、ワークに塑性変形を生じる場合がある。このような場合は可動ダイ6の上昇をパネルリフター9と同時にまたはやや遅らせて、同時並行で行う必要がある。
【0026】
実施例2について説明する。実施例1との相違部分についてのみ説明する。
【0027】
図4に示すように、実施例2において固定ダイ7と可動ダイ6とは、可動ダイ6の下端部から鉛直上方へ向かって固定ダイ側に傾斜した摺接面11,12によって摺接しており、シリンダーのシリンダーロッドが伸縮することにより、可動ダイ6が固定ダイ側に傾斜した上方へ自在にスライド可能になっている。
【0028】
図5及び図6に示すように、パネルリフター9と可動ダイ6の上昇によりワーク10を固定ダイ7から抜き外すように押し上げ、自動ワーク搬送機13によりワーク10をプレス型から搬出させる。負角の大きなワークの場合あるいは平面形状において負角曲げ端部が湾曲しているような場合、負角部におけるワークの拘束が強いため、パネルリフター9と可動ダイ6の鉛直上方への上昇のみでは自動ワーク搬送機13によるワーク10のプレス型からの搬出が円滑に行えない場合がある。実施例2の構成によれば可動ダイ6がワーク負角曲げフランジ部から離間する方向に上昇するため、負角曲げフランジ部におけるワークの拘束が弱まり自動ワーク搬送機13によるワーク10の搬出が円滑に行われる。
【0029】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0030】
1 上型
2 パッド
3 スライドカム
3a 負角曲げ刃
4 ドライバーカム
5 直角曲げ刃
6 可動ダイ
6a 負角成形部
7 固定ダイ
8 押圧手段
9 パネルリフター
9a エジェクター
9b 押圧手段
10 ワーク
11,12 摺接面
13 自動ワーク搬送機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネルの辺縁において、相対する一辺を負角曲げ加工するとともに、他辺をプレス方向に直角曲げ加工するフランジ加工用プレス金型であって、
直角曲げ加工を行う直角曲げ刃と負角曲げ加工を行うスライドカムとを有する上型と、前記直角曲げ刃に対応する固定ダイとともに、前記スライドカムに対応する負角成形部分を独立させた可動ダイ及び前記スライドカムを案内するドライバーカムを有する下型と、直角曲げフランジ端面に当接してワークを下型から抜き出すパネルリフターとからなり、ワークをプレス成形した後、直角曲げフランジ部分を前記パネルリフターにより離型方向へ移動させてワークを持ち上げるとともに、前記可動ダイを前記パネルリフターに同期させて離型方向へ移動させてワークを負角成形の加工方向とは逆方向に取り出すことを特徴とするプレス金型。
【請求項2】
前記可動ダイを上昇させる方向は固定ダイ側に傾いた方向であることを特徴とする請求項1記載のプレス金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−78777(P2013−78777A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219116(P2011−219116)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000135999)株式会社ヒロテック (62)
【Fターム(参考)】