プロサイモシンαの機能抑制用組成物を含む抗癌剤、およびプロサイモシンα遺伝子の発現抑制用組成物に含有される核酸
【課題】前立腺癌の治療を可能とする新たな抗癌剤を提供すること。また、簡便に前立腺癌の診断を可能とする前立腺癌細胞の検定方法を提供すること
【解決手段】本発明にかかる抗癌剤は、プロサイモシンαの機能抑制用組成物を有効成分として含有する。機能抑制用組成物として、特に、プロサイモシンαの発現抑制用組成物が、プロサイモシンα遺伝子を標的遺伝子としてRNA干渉を生じさせる核酸であることが好ましい。当該核酸は、少なくとも2重鎖領域を有し、2重鎖領域における一方の鎖が、標的遺伝子の塩基配列中に含まれる、所定規則に従う配列(規定配列)と相同な塩基配列からなり、他方の鎖が、当該規定配列と相同な塩基配列と相補的な配列を有する塩基配列からなる。また、プロサイモシンα遺伝子の発現レベルを調べることにより、前立腺癌の進行度合いを判定することができる。
【解決手段】本発明にかかる抗癌剤は、プロサイモシンαの機能抑制用組成物を有効成分として含有する。機能抑制用組成物として、特に、プロサイモシンαの発現抑制用組成物が、プロサイモシンα遺伝子を標的遺伝子としてRNA干渉を生じさせる核酸であることが好ましい。当該核酸は、少なくとも2重鎖領域を有し、2重鎖領域における一方の鎖が、標的遺伝子の塩基配列中に含まれる、所定規則に従う配列(規定配列)と相同な塩基配列からなり、他方の鎖が、当該規定配列と相同な塩基配列と相補的な配列を有する塩基配列からなる。また、プロサイモシンα遺伝子の発現レベルを調べることにより、前立腺癌の進行度合いを判定することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロサイモシンαの機能抑制用組成物を含む抗癌剤、およびプロサイモシンα遺伝子の発現抑制用組成物に含有される核酸に関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺癌は、アメリカにおける男性の最も一般的な悪性疾患である(例えば、非特許文献1参照)。日本における前立腺癌の発生率および死亡率は、アメリカに比べてかなり低いものの、急速に増加している(例えば、非特許文献2参照)。
【0003】
前立腺癌は、その発生および進行のメカニズムが解明されていないが、前立腺癌患者における生物学的不均一性や、進行度および死亡率の多様性(具体的には、何故非常に進行の早い前立腺癌患者とそうでない患者とがいるのか等)から、前立腺癌の発生や進行に多くの因子が関与していると考えられている(例えば、非特許文献3〜5参照)。そのような因子を一つずつ同定していくことは、前立腺癌の診断方法や治療方法の開発に非常に重要である。
【0004】
一般的に、前立腺癌の発生や進行に関与する因子として、年齢、遺伝および環境/食事等といった要素の組み合わせが指摘されている。中でも、アンドロゲンが前立腺の成長および分化において重要な役割を果たすことから、前立腺癌とアンドロゲンとの関係について多くの研究がなされてきた。その結果、前立腺腫瘍の進行が、循環性のアンドロゲンであるテストステロンやジヒドロテストステロンのレベルの上昇に関連していることが明らかにされた(例えば、非特許文献6参照)。また、前立腺組織の上皮内に限定され、細胞異型と腺細胞の多層化によって診断される前立腺上皮内腫瘍(prostatic intraepithelial neoplasm:PIN)が、前立腺癌の前段階にある病巣として注目されており、実際にPINから前立腺癌への進行も報告された例もある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
前立腺癌の診断には、通常、腫瘍マーカである前立腺特異抗原(PSA)や前立腺酸性フォスファターゼ(PAP)を用いた診断方法(具体的には、これらの血清中レベルの測定)や直腸診等が用いられ、診断結果は複数のステージ(病期)に分類される。例えば、Gleasonスコアと組み合わせた血清PSAレベルの判定は、前立腺癌の診断(病期分類)に有効である。
【0006】
前立腺癌の治療には、前立腺全摘術、放射線療法、化学療法、ホルモン療法、免疫療法が用いられる。これらの方法は、単独で診断/治療に用いられることもあるし、組み合わせて用いられることもある。
【0007】
最近、これらの定法以外に、前立腺癌の診断や治療等への利用が期待される核酸等も開示されている(例えば、特許文献2および特許文献3参照)。
【非特許文献1】Jemal A,Murray T,Ward E,et al. Cancer statistics,2005.CA Cancer J Clin 2005;55(1):10-30.
【非特許文献2】Hsing AW,Tsao L,Devesa SS.International trends and patterns of prostate cancer incidence and mortality. Int J Cancer 2000;85(1):60-7.
【非特許文献3】Lalani el N,Laniado ME,Abel PD. Molecular and cellular biology of prostate cancer.Cancer Metastasis Rev 1997;16(1-2):29-66.
【非特許文献4】Bonkhoff H,Remberger K.Morphogenetic concepts of normal and abnormal growth in the human prostate. Virchows Arch 1998;433(3):195-202.
【非特許文献5】Roudier MP,True LD,Higano CS,et al.Phenotypic heterogeneity of end-stage prostate carcinoma metastatic to bone. Hum Pathol 2003;34(7):646-53.
【非特許文献6】Elizabeth A.Platz et al.,&Edward Giovannucci,Epidemiology of and Risk Factor for Prostate Cancer,Management of Prostate Cancer21(Eric A Klein,ed.2000)
【特許文献1】特開2004−315480号
【特許文献2】特表2002−518048号
【特許文献3】特表2004−530413号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前立腺癌の治療を可能とする新たな抗癌剤を提供することを目的の一つとする。また、本発明は、簡便に前立腺癌の診断を可能とする前立腺癌細胞の検定方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、2-Samino-1-methyl-6-phenylimidazo[4,5-b]pyridine(PhIP)を投与したラットにおいて、前立腺癌の発生が大豆イソフラボンにより抑制されること、また、大豆イソフラボンは、ラットの前立腺におけるプロサイモシンαの発現を抑制することを見出した(Carcinogenesis,Vol.25,No.3,381-387,March)。プロサイモシンαは、111個のアミノ酸で構成された小さな酸性タンパクであり、多岐種類に渡る組織で遍在的に発現する。
【0010】
発明者らは、前立腺癌におけるプロサイモシンαの役割を明らかにするため鋭意努力した結果、プロサイモシンαの発現レベルと前立腺癌における細胞増殖および浸潤との間に相関があることを明らかにし、本発明の前立腺癌の検定方法を完成するに至った。さらに、前立腺癌由来の培養細胞において、プロサイモシンαの発現をRNA干渉により抑制することにより、癌細胞の増殖を抑制できることを明らかにし、プロサイモシンα遺伝子の発現抑制方法や機能抑制方法、及びそれらを用いた前立腺癌の治療方法等を完成するに至った。
【0011】
本発明は、以下の各項の通りである。
〔1〕前立腺癌の治療に用いるための抗癌剤であって、プロサイモシンαの機能抑制用組成物を有効成分として含有する抗癌剤。
〔2〕前記機能抑制組成物が、プロサイモシンαの発現を抑制することにより前記プロサイモシンαの機能を抑制する、プロサイモシンαの発現抑制用組成物であることを特徴とする第1項記載の抗癌剤。
〔3〕前記発現抑制用組成物が、プロサイモシンα遺伝子の発現を抑制することのできる核酸を含有することを特徴とする第2項記載の抗癌剤。
〔4〕プロサイモシンα遺伝子に対してRNA干渉を生じさせることにより、プロサイモシンα遺伝子の発現を抑制することを特徴とする第3項記載の抗癌剤。
【0012】
〔5〕プロサイモシンα遺伝子を標的遺伝子とし、当該標的遺伝子に対してRNA干渉を生じさせる核酸であって、
2重鎖領域を有し、
前記2重鎖領域における一方の鎖が、標的遺伝子の塩基配列中に含まれる、下記(1)〜(4)の規則;
(1) 3’末端の塩基が、アデニン、チミンまたはウラシルであり;
(2) 5’末端の塩基が、グアニンまたはシトシンであり;
(3) 3’末端の7塩基の配列において、アデニン、チミンおよびウラシルからなる群より選ばれる一種又は二種以上の塩基がリッチであり;
(4) 塩基数が、細胞毒性を生じさせずにRNA干渉を生じさせ得る数である
に従う規定配列と相同な塩基配列からなり、そして、
前記2重鎖領域における他方の鎖が、前記規定配列と相同な塩基配列と相補的な配列を有する塩基配列からなる
ことを特徴とする核酸。
〔6〕前記規定配列と相同な塩基配列の少なくとも80%以上の塩基が、前記規定配列の塩基配列と一致することを特徴とする第5項記載の核酸。
【0013】
〔7〕前記規則(3)において、7塩基のうち少なくとも3塩基以上が、アデニン、チミンおよびウラシルからなる群より選択される1種以上の塩基であることを特徴とする第5または第6項記載の核酸。
〔8〕前記規則(4)において、塩基数が13〜28であることを特徴とする第5〜第7項のいずれか1項記載の核酸。
【0014】
〔9〕前記標的遺伝子の規定配列が、さらに下記(5)の規則;
(5) 導入される被検体の全遺伝子配列のうち、前記標的遺伝子以外の他の遺伝子の塩基配列中に、当該規定配列と90%以上の相同性を有する配列が含まれない
に従う配列であることを特徴とする第5〜第8項のいずれか1項記載の核酸。
【0015】
〔10〕2本鎖のポリヌクレオチドから成ることを特徴とする第5〜第9項のいずれか1項記載の核酸。
〔11〕前記2本鎖のポリヌクレオチドが、前記2重鎖領域の両端に、3’末端が突出したオーバーハング部を有することを特徴とする第10項記載の核酸。
〔12〕1本鎖のポリヌクレオチドから成ることを特徴とする第5〜第9項のいずれか1項記載の核酸。
【0016】
〔13〕前記2重鎖領域の一方の鎖が下記配列番号1に項記載の塩基配列を有し、かつ、前記2重鎖領域の他方の鎖が下記配列番号2に項記載の塩基配列を有する
ことを特徴とする第5〜12のいずれか1つに項記載の核酸。
CUUCCCGUCUCAGAAUCUAAA(配列番号1)
UAGAUUCUGAGACGGGAAGUG(配列番号2)
〔14〕前記2重鎖領域の一方の鎖が下記配列番号3に項記載の塩基配列を有し、かつ、前記2重鎖領域の他方の鎖が下記配列番号4に項記載の塩基配列を有する
ことを特徴とする第5〜12のいずれか1つに項記載の核酸。
GGCAGAGCACGGUAUACUAAA(配列番号3)
UAGUAUACCGUGCUCUGCCUG(配列番号4)
〔15〕前記2重鎖領域において、少なくとも前記他方の鎖がRNAとDNAとからなるキメラ構成を有することを特徴とする第5〜第14項のいずれか1項記載の核酸。
〔16〕前記他方の鎖の2重鎖領域の3’末端から9〜13ヌクレオチドがRNAであることを特徴とする第15項記載の核酸。
【0017】
〔17〕第5〜第16項のいずれか1項記載の核酸を、プロサイモシンαが発現している細胞に導入し、当該プロサイモシンαの発現を抑制することを特徴とするプロサイモシンαの発現抑制方法。
〔18〕前立腺癌に由来する癌細胞に、第5〜第16項のいずれか1項記載の核酸を導入することを特徴とする、癌細胞増殖および浸潤の抑制方法。
〔19〕前記癌細胞が、LNCaP、22Rvl、DUl45およびPC3からなる群から選択される癌細胞であることを特徴とする第18項記載の方法。
【0018】
〔20〕ほ乳類被検体から採取した試料における前立腺癌の進行度判定に用いられる前立腺癌の検定方法であって、
前記試料中のプロサイモシンαの発現量に基づいて検定を行うことを特徴とする検定方法。
〔21〕ほ乳類被検体から採取した試料に対し、前立腺癌の進行度の判定に用いられる前立腺癌診断キットであって、
当該試料中のプロサイモシンαの発現量を検出する検出手段を含むことを特徴とする前立腺癌診断キット。
【発明の効果】
【0019】
本発明によって、前立腺癌の治療を可能とする新たな抗癌剤を提供することが可能になった。また、簡便に前立腺癌の診断を可能とする前立腺癌細胞の検定方法を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いている場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0021】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0022】
<1>本発明にかかる抗癌剤
本発明にかかる前立腺癌の治療に用いるための抗癌剤は、プロサイモシンαの機能抑制用組成物を有効成分として含有する。後述の実施例1で示すように前立腺癌の進行とプロサイモシンαの発現量との間には相関関係が見られ、また、後述の実施例2で示すようにプロサイモシンα遺伝子の発現を抑制することにより癌細胞の増殖が抑制されることから、プロサイモシンα遺伝子の発現抑制が前立腺癌の治療に有効であることは明らかである。したがって、プロサイモシンαの機能抑制用組成物を含有した薬剤により、前立腺癌の抗癌剤を提供することが可能となる。
【0023】
ここで、プロサイモシンαの機能抑制用組成物は、癌細胞内でのプロサイモシンαの機能を抑制することができる組成物であれば特に限定されず、例えば、プロサイモシンα遺伝子プロモーターのリプレッサー、あるいはアクチベーター阻害因子などを含有する転写レベルでの発現抑制用組成物やリボザイム、アンチセンスRNA、siRNA、shRNA、miRNAなどを含有する翻訳レベルでの発現抑制用組成物、あるいは、抗プロサイモシンα抗体や抗プロサイモシンα機能阻害低分子化合物などを含有するタンパク質レベルでの機能抑制用組成物などを含むが、効果が高く、簡便であるため、リボザイム、アンチセンスRNA、siRNA、shRNA、miRNAなどの核酸を含有する発現抑制用組成物であることが好ましく、siRNAやshRNAなどの、プロサイモシンα遺伝子に対してRNA干渉を生じさせる核酸を含有する発現抑制用組成物がさらに好ましい。
【0024】
これらの核酸は、遺伝子組み換え技術、化学的または酵素的合成等の公知技術を適宜用いることによって合成しうる。かかる核酸は、その名称(アンチセンスRNA、siRNA、shRNA、miRNAなど)に関わらず、RNAから成っていても、DNAから成っていても、RNAとDNAの両方から成っていてもよく、天然のヌクレオチドあるいは人工のヌクレオチドのいずれから構成されてもよく、また、これらの核酸の複数種類の混成であってもよい。人工のヌクレオチドとしては、例えば、天然のヌクレオチドの塩基の一部に化学修飾がなされているような核酸アナログでもよい。化学修飾としては、例えば、リン酸結合、リボース、核酸塩基、3’および/または5’末端等の化学修飾が挙げられる。
【0025】
このようなプロサイモシンαの発現抑制用組成物を含む本発明の抗癌剤は、例えば、薬学的に許容され得る担体に発現抑制用組成物を医学的に有効な量配合して得られる。ここで、「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘ちょう剤、矯味剤、溶解補助剤等が挙げられる。かかる担体により、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、注射剤、液剤、カプセル剤、トローチ剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、外用液剤、坐剤、およびペッサリー等の形態の抗癌剤が調製される。これらの抗癌剤は、その剤形に従って、経口あるいは非経口的に投与することができる。
【0026】
これらの抗癌剤の投与量は、患者の年齢、性別、体重および症状、治療効果、投与方法、処理時間または当該医薬組成物に含有される活性成分の種類等により異なり、投与量は特に限定されず、状況に適宜応じて投与することができる。例えば、注射剤の場合、生理食塩水または注射用蒸留水等の非毒性の薬学的に許容され得る担体中に発現抑制用組成物を溶解または懸濁することにより製造することができる。この場合、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、アルコール類等の非水性の希釈剤や、懸濁剤または乳濁剤として適宜調製してもよい。このようにして調製された注射剤は、処置を必要とするヒト患者に対し、一日あたり1〜数回投与することができる。
【0027】
<2>RNA干渉を生じさせる核酸
上述のように、プロサイモシンαの機能抑制用組成物に含有される核酸の構成は特に限定されないが、RNA干渉を生じさせる核酸であることが好ましい。
【0028】
RNA干渉を生じさせる核酸は、siRNA等の2本鎖型であってもよく、ヘアピン構造を有するRNA(short hairpin RNA:shRNA)等の1本鎖型であってもよい。shRNAは、2重鎖領域における一方の鎖の3'末端と、当該2重鎖領域における他方の鎖の5'末端とがループ部で連結して1本鎖を構成するものである。かかるshRNAは、1本鎖RNAの5'末端または3'末端に、1重鎖の状態で突出したオーバーハング部を有していても良い。このようなshRNAは、WO01/49844等、公知の手法に従って設計することができる。
【0029】
ここで、「RNA干渉」とは、元来、標的遺伝子の一部分と相同なセンス鎖RNAとアンチセンス鎖RNAとからなる2本鎖RNA(double−stranded RNA;dsRNA)が、標的遺伝子の機能を阻害する現象のことであった。しかし、現在では、当該2本鎖RNAの一部がDNAであっても、標的遺伝子の機能を阻害することができることが明らかになっている。従って、本明細書では一部にDNAを含むものもsiRNAやshRNAの概念に含める。
【0030】
このように、RNA干渉を生じさせる核酸は、プロサイモシンαの発現を有意に阻害するものであればヌクレオチドの構成、塩基配列、塩基長等は任意であり、種々公表されている所定のガイドラインに従って任意に設計された核酸を用いることが可能である。RNA干渉の効果が高い程、プロサイモシンαの発現が大きく阻害されることから、RNA干渉効果の高い核酸であることが好ましい。
【0031】
特に好適に用いられる核酸は、プロサイモシンα遺伝子を標的遺伝子とし、当該標的遺伝子に対してRNA干渉を生じさせる核酸であって、少なくとも2重鎖領域を有し、前記2重鎖領域における一方の鎖が、前記標的遺伝子の塩基配列中に含まれる、下記(1)〜(4)の規則;
(1) 3’末端の塩基が、アデニン、チミンまたはウラシルであり;
(2) 5’末端の塩基が、グアニンまたはシトシンであり;
(3) 3’末端の7塩基の配列において、アデニン、チミンおよびウラシルからなる群より選ばれる一種又は二種以上の塩基がリッチであり;
(4) 塩基数が、細胞毒性を生じさせずにRNA干渉を生じさせ得る数である
に従う規定配列と相同な塩基配列からなり、そして、前記2重鎖領域における他方の鎖が、前記規定配列と相同な塩基配列と相補的な配列を有する塩基配列からなることを特徴とする。
【0032】
これらの核酸の、特に2重鎖領域におけるヌクレオチド構成は、RNA型、DNA型、ハイブリッド型、キメラ型のいずれであってもよい。ここで、「RNA型」は、RNAからなる核酸、「DNA型」は、DNAからなる核酸、「ハイブリッド型」は核酸が2重鎖領域を有するとき、2重鎖領域における一方の鎖がRNAで、もう一方の鎖がDNAから成る核酸、「キメラ型」は、2重鎖領域においてRNAとDNAが同一鎖に含まれている核酸をいう。
【0033】
このハイブリッド型構造は、被導入体に導入した際に標的遺伝子の発現を抑制する活性を有するものであれば構造は特には限定されないが、センス鎖がDNAで構成されアンチセンス鎖がRNAで構成された2本鎖ポリヌクレオチドであることが好ましい。
【0034】
また、キメラ型構造は、被導入体に導入した際に標的遺伝子の発現を抑制する活性を有するものであれば構造は特には限定されない。RNA干渉に用いられる核酸は、構造上、機能的なアシンメトリー性(非対称性)を有する傾向が認められることから、RNA干渉を生じさせるという目的からすると、センス鎖の5'末端側の半分、アンチセンス鎖の3'末端側の半分はRNAで構成されることが望ましい。キメラ構造を有する核酸では、被導入体内おける安定性や製造コスト等の点から、RNAの含量をできるだけ少なくすることが好ましい。そこで、高い標的遺伝子の発現抑制効果を維持しつつRNA含量を低減可能な核酸について鋭意検討したところ、2重鎖領域において、センス鎖の5’末端から9〜13ポリヌクレオチドの部分、およびアンチセンス鎖の3’末端から9〜13ポリヌクレオチドの部分(例えば、センス鎖およびアンチセンス鎖の前記各末端から11ポリヌクレオチド、好ましくは10ポリヌクレオチド、さらに好ましくは9ポリヌクレオチドの部分)はRNAで構成されることが望ましく、特に、アンチセンス鎖の3’末端側が当該構成を有することが望ましい。なお、センス鎖のRNA部分とアンチセンス鎖のRNA部分とは、必ずしも、その位置が一致して相補的に結合していなくてもよい。
【0035】
RNA干渉の標的となる標的遺伝子の塩基配列は、プロサイモシンα遺伝子から転写される転写産物が有する塩基配列であって、上記規則を満たすものであれば、遺伝子のどの部分でもかまわない。ここで、転写産物は、スプライシング前のhnRNAでも、スプライシング後のmRNAでもよい。
【0036】
本明細書中では、上記(1)から(4)の規則を満たす塩基配列のことを「規定配列」という。上記規則においては、塩基配列がDNAの配列であればチミンが、RNAの配列であればウラシルが対応する。また、「相補的な配列」とは、水素結合によって結合できる塩基対の並びによって構成される配列である。例えば、グアニンとシトシンとの相補的な水素結合(G−C水素結合)においては3つの水素結合部位が形成されるのに対し、アデニンとチミンまたはウラシルとの相補的水素結合(A−(T/U)水素結合)においては2つの水素結合部位が形成される。このため、G−C水素結合に対し、A−(T/U)水素結合のほうが結合力は弱い。上述のように、「相補的な配列」には、これらの天然の塩基によって構成される配列だけでなく、イノシンや塩基アナログなどの人工的な塩基によって構成される配列も含む。従って、相補的な水素結合は、2つあるいは3つに限らず、1つでも4つ以上でも構わない。
【0037】
また、「規定配列と相同な塩基配列」とは、標的遺伝子配列(又はその一部)に中程度または高程度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることが可能な塩基配列のことであり、規定配列を有する遺伝子に対し、その配列を有するポリヌクレオチドがRNA干渉を生じさせることができることが好ましい。
【0038】
「ストリンジェントな条件下」とは、中程度または高程度にストリンジェントな条件においてハイブリダイズすることを意味する。具体的な条件は、例えば、DNAの長さに基づき、一般の技術を有する当業者によって、容易に決定することが可能である。基本的な条件は、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3版,第6−7章,Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001に示されているが、例えば、高程度にストリンジェントな条件とは、ニトロセルロースフィルターを用いた場合、50%ホルムアミド、2〜6×SSCまたは等価な濃度の塩存在下で、約42℃以上でのハイブリダイゼーション条件を挙げることができる。中程度にストリンジェントな条件とは、例えば、50%ホルムアミド、2〜6×SSCまたは等価な濃度の塩存在下で、約37℃以上でのハイブリダイゼーション条件を挙げることができる。一般に、ストリンジェンシーが高くなるほど、高い温度および/または低い塩濃度でのハイブリダイゼーション(例えば、ホルムアミドの非存在下では、65ないし80℃、2ないし6×SSC)および/または洗浄(例えば、68℃、0.2×SSC)が行われる。しかし、核酸の解離温度は、例えばその核酸の長さや核酸を構成する各塩基の割合に依存するため、ストリンジェントな条件は、用いる核酸によって、個々に決定されなければならないが、当業者であれば、その条件を容易に決定することが可能である。すなわち、望ましい強さのストリンジェンシーを達成するためには、ハイブリダイゼーション反応と2本鎖の安定性を支配する基本原理を考慮することによって、洗浄温度と洗浄塩濃度が調整されると理解すべきである。
【0039】
通常、中程度または高程度にストリンジェントな条件においてハイブリダイズする配列は、規定配列と50〜100%の相同性を有する。RNA干渉を生じさせるという機能を失わない範囲であれば、塩基配列の一部に欠失、置換、挿入などの変異を含んでもよい。なお、許容される変異の程度としての相同性を算出する場合、同一の検索アルゴリズムを用いて算出された数値どうしを比較することが望ましい。検索アルゴリズムは特に限定されないが、局所的な配列の検索に適したものが好適であり、より具体的にはBLASTsearchなどを好適に用いることができる。
【0040】
より詳細には、核酸(ポリヌクレオチド)の相同性は、視覚的検査および数学的計算によって決定することが可能である。またはより好ましくは、この比較はコンピュータ・プログラムを使用して配列情報を比較することによってなされる。代表的な、好ましいコンピュータ・プログラムは、遺伝学コンピュータ・グループ(GCG;ウィスコンシン州マジソン)のウィスコンシン・パッケージ、バージョン10.0プログラム「GAP」である(Devereuxら、1984、Nucl.Acids Res.12:387)。ここで、「GAP」プログラムの好ましいデフォルトパラメーターには:(1)ヌクレオチドについての(同一物について1、および非同一物について0の値を含む)一元(unary)比較マトリックスのGCG実行と、SchwartzおよびDayhoff監修「ポリペプチドの配列および構造のアトラス(Atlas of Polypeptide Sequence and Structure)」国立バイオ医学研究財団、353−358頁、1979により記載されるような、Gribskov and Burgess,Nucl.Acids Res.14:6745,1986の加重アミノ酸比較マトリックス;または他の比較可能な比較マトリックス;(2)アミノ酸の各ギャップについて30のペナルティと各ギャップ中の各記号について追加の1のペナルティ;またはヌクレオチド配列の各ギャップについて50のペナルティと各ギャップ中の各記号について追加の3のペナルティ;(3)エンドギャップへのノーペナルティ:および(4)長いギャップへは最大ペナルティなし、が含まれる。当業者により使用される他の配列比較プログラムでは、例えば、国立医学ライブラリーのウェブサイト:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/bl2seq/bls.htmlにより使用が利用可能なBLASTNプログラム、バージョン2.2.7、またはUW−BLAST2.0アルゴリズムが使用可能である。UW−BLAST2.0についての標準的なデフォルトパラメーターの設定は、以下のインターネットサイト:http://blast.wustl.eduに記載されている。さらに、BLASTアルゴリズムは、BLOSUM62アミノ酸スコア付けマトリックスを使用し、使用可能である選択パラメーターは以下の通りである:(A)低い組成複雑性を有するクエリー配列のセグメント(WoottonおよびFederhenのSEGプログラム(Computers and Chemistry,1993)により決定され;WoottonおよびFederhen,「配列データベースにおける組成編重領域の解析(Analysis of compositionally biased regions in sequence databases)」Methods Enzymol.266:544-71, 1996も参照されたい)、または、短周期性の内部リピートからなるセグメント(ClaverieおよびStates(Computers and Chemistry,1993)のXNUプログラムにより決定される)をマスクするためのフィルターを含むこと、および(B)データベース配列に対する適合を報告するための統計学的有意性の閾値、またはE−スコア(KarlinおよびAltschul,1990)の統計学的モデルにしたがって、単に偶然により見出される適合の期待確率;ある適合に起因する統計学的有意差がE−スコア閾値より大きい場合、この適合は報告されない);好ましいE−スコア閾値の数値は0.5であるか、または好ましさが増える順に、0.25、0.1、0.05、0.01、0.001、0.0001、1e−5、1e−10、1e−15、1e−20、1e−25、1e−30、1e−40、1e−50、1e−75、または1e−100である。
【0041】
規則(3)において、「リッチ」とは特定の塩基が現れる頻度が高いことを意味し、規定配列における3'末端側の5〜10塩基、好ましくは7塩基の配列中にアデニン、チミンおよび/またはウラシルからなる群より選ばれる1種または2種以上が、少なくとも40%以上、より好ましくは50%以上含まれることを意味する。例えば約19塩基程度の規定配列の場合を例に挙げると、3'末端側の7塩基のうち好ましくは少なくとも3塩基以上、より好ましくは4塩基以上、特に好ましくは5塩基以上が、アデニン、チミンおよびウラシルからなる群より選ばれる1種または2種以上である。
【0042】
規則(4)について、規定配列の鎖長は、数塩基から転写産物の全長まで、いずれの長さであってもよい。しかし、生物種などの条件により、塩基数があまりに大きすぎる核酸(例えば、siRNA)が細胞毒性を生じるため、極端に長い核酸は使えない場合がある。規定配列の塩基数の上限は、RNA干渉を生じさせようとする生物の種類などにより異なるが、例えば、siRNAの場合、哺乳動物由来の細胞においては、30塩基数以上の鎖長を有するsiRNAを導入するとインターフェロン応答が生じるため、siRNAの塩基数は、30以下、より好ましくは28以下である。さらに好ましくは24以下、より好ましくは22以下、さらに好ましくは20以下である。また、下限は、RNA干渉を生じさせる核酸を取得可能な限りにおいて特に制限されるものではないが、好ましくは13以上、より好ましくは15以上、さらに好ましくは18以上、より好ましくは20以上である。よって、規則(4)において、標的遺伝子の規定配列は塩基数が13〜28であることが好ましい。特に、哺乳動物由来の細胞等に導入する場合には、13〜28、好ましくは15〜23、さらに好ましくは19〜21塩基数である。標的遺伝子の規定配列は、かかる上限および下限をふまえた塩基数であることが特に好ましく、最も好ましくは19塩基である。この19塩基中、(3)の規則に鑑みると、規定配列の3’末端側の7塩基のうち好ましくは少なくとも3塩基以上、より好ましくは4塩基上、特に好ましくは5塩基以上が、A、Tおよび/またはUである。
【0043】
本発明にかかる核酸において、2重鎖領域の両端は平滑末端であっても、オーバーハング部を有していてもよいが、両端に3’末端が突出したオーバーハング部を有しているのが好ましい。オーバーハング部とは、2重鎖領域の端に存在する、1本鎖の状態で突出する部分である。オーバーハング部は、生物種などにもよるが、塩基数2であることが好ましい。オーバーハング部の塩基配列は、基本的には任意であるが、例えば、TTあるいはUU等が好適に用いられる。
【0044】
なお、上記(1)〜(4)の規則は、Ui-Teiらによるガイドライン(Ui-Tei,K.,Naito,Y.,Takahashi,F.,Haraguchi,T.,Ohki-Hamazaki,H.,Juni,A.,Ueda,R.,Saigo,K.の「Guidelines for the selection of highly effective siRNA sequences for mammalian and chick RNA interference」,Nucleic Acids Research,2004,Vol.32,No.3,936-948)に基づくものであり、PCT/JP2003/014893(WO2004/048566)にも詳細に記載されている。
【0045】
さらに、本発明の核酸において、標的遺伝子の規定配列は、さらに下記(5)の規則:
(5)被導入体の全遺伝子配列のうち、前記標的遺伝子以外の他の遺伝子の塩基配列中に、当該規定配列と90%以上の相同性を有する配列が含まれない
に従う配列であることが好ましい。
【0046】
言い換えると、(5)の規則は、標的遺伝子と関係のない遺伝子におけるRNA干渉(これをオフターゲット効果と呼ぶ)を抑制するために、標的遺伝子の上記(1)〜(4)に従う規定配列は、これと同一又は類似の配列が他の遺伝子に含まれていない塩基配列であることが好ましいことを規定したものである。かかる規則を満たす規定配列を選択することにより、標的遺伝子のみに特異的にRNA干渉を生じさせることができ、オフターゲット効果の低いRNA干渉を実現することが可能となる。規定配列またはその相補配列と同一/類似の配列を検索する方法としては、一般的なホモロジー検索を行うソフトウェア等を用いた方法が挙げられる。
【0047】
例えば、BLAST等を利用して標的遺伝子の規定配列と同一又は類似の配列を他の遺伝子について検索し、当該他の遺伝子に塩基配列のミスマッチ数が小さい類似配列が存在するという検索結果が得られた場合には、このような標的遺伝子の規定配列は除外する。それにより、標的遺伝子に対する特異性の高い配列を選別することができる。具体的に、標的遺伝子の規定配列の塩基数が19である場合には、他の遺伝子にミスマッチが2塩基以下、より好ましくは3塩基以下、さらに好ましくは4塩基以下の類似配列が存在する配列を規定配列から除外することが好ましい。類似性判断の閾値となるミスマッチ数の値の増加に伴って、特異性が高くなる。また、標的遺伝子の規定配列のみならずこれと相補的な配列の両方についても検索を行うことにより、さらに特異性の高い配列が得られる。
【0048】
便宜上、塩基配列の類似性を判断する基準となるミスマッチ数を相同性で規定し、(5)の規則に従う配列であるかどうか、検索することにより類似性を判断して塩基配列を選別することが好ましい。かかる相同性は適宜設定されるものであり、当業者は、所望により規定配列と85%以上、80%以上、75%以上のように適宜設定することが可能である。ここで、規定配列との相同性を低く設定するほど標的配列と類似する他の遺伝子が存在しないこととなる。
【0049】
さらに、センス鎖のセンス配列は、上記(1)〜(4)あるいは(1)〜(5)の規則の他、下記(6)の規則に従う標的遺伝子の規定配列に相同な塩基配列を有することが好ましい。
(6)10塩基以上G又はCが連続する配列を含まない。
【0050】
(6)の規則において、10塩基以上グアニン及び/またはシトシンが連続するというのは、例えば、グアニンまたはシトシンの一方のみが連続する場合と、グアニンおよびシトシンとが混在する配列となっている場合の双方を含み、具体的には、GGGGGGGGGG、CCCCCCCCCCのほか、GおよびCの混合配列であるGCGGCCCGCGなども含まれる。
【0051】
なお、(5)及び(6)については、PCT/IB20035/001647明細書に、詳細に記載されている。
【0052】
標的遺伝子の規定配列は、上記のような塩基配列上の規則だけでなく、これ以外の点に鑑みて適宜選択されてもよい。例えば、上記(1)〜(6)等の規則を満たす規定配列を標的遺伝子から複数選択した後、さらに、当該選択された規定配列の中から、別の条件を付加して配列の選択を行ってもよい。本発明にかかる核酸を設計するための規定配列の検索および選択は、例えば、上記の(1)〜(6)の規則に従う部分を検索可能なプログラムを搭載するコンピュータを用いることにより、効率的な検出および選択が実行可能である。このような核酸の設計により、RNA干渉効果の高い核酸分子を、高い確率でしかも容易に設計することができる。
【0053】
後述の実施例2では、本発明にかかる核酸の一態様として、下記のように配列番号1に示す塩基配列を有するセンス鎖と、配列番号2に示す塩基配列を有するアンチセンス鎖と、から構成された2本鎖RNAや、配列番号3に示す塩基配列を有するセンス鎖と、配列番号4に示す塩基配列を有するアンチセンス鎖から構成された2本鎖RNAなどのsiRNAを例示する。これらのsiRNAでは、19塩基数のセンス配列の3’末端に2塩基のオーバーハング部が設けられて21塩基から成るセンス鎖が構成され、19塩基数のアンチセンス配列の3’末端に2塩基のオーバーハング部が設けられて21塩基から成るアンチセンス鎖が構成されている。
センス鎖:CUUCCCGUCUCAGAAUCUAAA(配列番号1)
アンチセンス鎖:UAGAUUCUGAGACGGGAAGUG(配列番号2)
センス鎖:GGCAGAGCACGGUAUACUAAA(配列番号3)
アンチセンス鎖:UAGUAUACCGUGCUCUGCCUG(配列番号4)
【0054】
本発明にかかる核酸は、遺伝子組み換え技術(具体的な一例としては、所定の配列を有するDNA鎖を作製し、これを鋳型として転写酵素を用いて一本鎖RNAを合成し、一本鎖RNAを2本鎖化するなどの手法)、化学的または酵素的合成等の公知技術を適宜用いることによって製造することができる。
【0055】
<3>プロサイモシンαの発現抑制を利用した細胞増殖および浸潤の抑制方法
本発明にかかるプロサイモシンαの機能抑制方法の一実施形態として、上記<2>記載の核酸を、プロサイモシンαを発現している細胞に導入してプロサイモシンα遺伝子の発現を抑制することにより、プロサイモシンαの機能を抑制することができる。ここで、本発明の発現抑制方法において、「プロサイモシンα遺伝子の発現を抑制する」とは、プロサイモシンαの生成を減少させることを意味する。通常、プロサイモシンαのmRNA量が減少すれば(図7B参照)、プロサイモシンαの生成が抑制されるため(図7A参照)、発現抑制のアッセイ系は、mRNAのレベルを測定するものであっても良い。すなわち、mRNA量が実質的に減少していれば、その変化の幅の大小にかかわらず、プロサイモシンαの発現抑制が実現されているとみなせる。上記<2>で述べた核酸を用いる本発明のプロサイモシンαの発現抑制方法によれば、プロサイモシンαのmRNA量を、ほぼ完全に無くすことが可能となり、また、当該核酸を用いれば、プロサイモシンαの発現抑制効果が10日間程度持続する。
【0056】
細胞に核酸としてsiRNAを導入する方法は、常法に従い、トランスフェクション、エレクトロポレーション、リポフェクションなどで、siRNAを直接細胞内に取り込ませることもできる。あるいは、規定配列およびオーバーハング部からなる塩基配列を有する発現ベクターを作製し、同様の方法によって、細胞内に導入する(WO01/36646、WO01/49844)こともできる。
【0057】
本発明にかかるプロサイモシンαの発現抑制方法によれば、プロサイモシンα遺伝子を標的として効率よくRNA干渉を生じさせる核酸を用いるため、効率よく、また簡便にプロサイモシンαの発現を抑制することが可能となる。さらに、後述の実施例2で示すように、プロサイモシンα遺伝子の発現抑制によって前立腺癌細胞の増殖および浸潤を抑制することができる。したがって、この方法を前立腺癌や前立腺上皮内腫瘍の患者に適用することにより、当該疾患の進行を抑制・阻害でき、それらの腫瘍に対する有効な治療方法が得られる。
【0058】
<4>前立腺癌の検定方法
本発明にかかる前立腺癌の検定方法は、採取した試料における前立腺癌の進行度判定に用いられる前立腺癌の検定方法であって、前記試料中のプロサイモシンαの発現レベルに基づいて検定を行うことを特徴とする。言い換えれば、プロサイモシンαを前立腺癌の診断用マーカーとして利用する。
【0059】
後述の実施例1で示すように、前立腺癌の進行とプロサイモシンαの発現量との間には、有意な相関が見られる。例えば、正常な前立腺上皮、前立腺上皮内腫瘍、前立腺癌の各場合について採取した細胞では、プロサイモシンαの発現量が前立腺癌の場合で最も多く、次いで、前立腺上皮内腫瘍の場合が多い(例えば、図2参照)。また、Gleasonパターンが2、3、4、5の各細胞では、パターン5の場合でプロサイモシンαの発現量が最も多く、パターン2に向かって順次発現量が低下する(例えば、図5参照)。したがって、このような相関関係に基づき、プロサイモシンαの発現量を用いることによって前立腺癌の進行度を判定することが可能となる。この方法を前立腺癌の診断に適用することにより、診断精度の向上が図られ、有効かつ簡便な診断が実現可能となる。
【0060】
例えば、本発明の方法の一態様として、生検で取得した試料に対し、免疫組織化学的分析によりプロサイモシンαの発現量を測定してもよい。具体的には、後述の実施例1で示すように、酵素標識抗体法であるABC法(avidine-biotinylated peroxidase complex法)によりプロサイモシンαの発現量を測定し、当該測定結果に基づいて、前立腺癌の進行度を判定してもよい。この場合、隣接する正常前立腺管腔上皮の発現量と比較し、前立腺癌組織において、プロサイモシンαの発現量が少なければ進行度が低く、発現量が多ければ進行度が高いと判定する。かかる判定は、所定のプロサイモシンα発現量を閾値とし、かかる閾値に基づいて行ってもよい。
【0061】
さらに、本発明にかかる検定方法は、組織病理学上の分類方法(具体的には、従来の病期分類法やGleasonスコア等)に基づく検定方法や、PSAおよびPAPに基づく検定方法や、直腸診に基づく検定方法等と併用して用いてもよい。それにより、より精度の高い診断が可能となる。病期分類はJewett Staging systemを用いてもよい。この分類は病期Aは臨床的に前立腺癌と診断されず、前立腺手術においてたまたま組織学的に診断された前立腺に限局する癌を指し,A1は限局性の高分化腺癌、A2は中あるいは低分化腺癌、あるいは複数の病巣を前立腺内に認めるものである。病期Bは前立腺に限局している腺癌で、B0は触診では触れず、PSA高値にて精査され組織学的に診断されるもの、B1は片葉内の単発腫瘍、B2は片葉全体あるいは両葉に存在するものを指す。病期Cは前立腺には留まっているが前立腺被膜は越えているか、精嚢に浸潤するもので、C1は臨床的に被膜外浸潤が診断されたもの、C2は膀胱頸部あるいは尿管の閉塞を来したものを指す。病期Dは転移を有するもので、D0は臨床的には転移を認めないが、血清酸性フォスファターゼの持続的上昇を認め、転移の存在が強く疑われるもの、D1は所属リンパ節転移を有するもの、D2は所属リンパ節以外のリンパ節転移、骨、その他臓器への転移、D3はD2に対する適切な内分泌療法後の再燃したものを指す。またGleason分類はThe Veterans Admionistration Cooperative Urological Research Group (VACURG)による1960年から1975年における患者の解析から生まれた分類である。基本的に低倍率で組織を顕微鏡観察して診断し、前立腺癌をその組織構築と浸潤様式により分類し、それをスコア化してGleason patternとして優位な組織像のスコアと次に優位な組織像のスコアを合計するものである。具体的にはGleason patternは1から5まで5段階に分類され、最も多くの面積を占める組織像をPrimary pattern、次に優位な組織像をsecondary patternとする。GleasonスコアはPrimary patternおよびsecondary patternの合計として示されるがsecondary patternが5%以下ならPrimary patternを2倍する。実例としてPrimary pattern 4, secondary pattern 5の症例のGleasonスコアは9であり、Gleasonスコア 4+5=9と表記する。
【0062】
このように、本発明にかかる前立腺癌細胞の検定方法によれば、簡便かつ高精度で前立腺癌の診断(具体的には、進行の程度等の診断)が可能となる。前立腺癌は、悪性度の低い初期の小さな腫瘍細胞から悪性度の高い大きな癌に変化していく速度が極めて遅いことから、上記効果を奏する本発明の利用により、前立腺癌の早期発見および早期治療が可能となる。それにより、癌の進行を有効に抑制することが可能となり、癌による死亡率の低下が図られる。
【0063】
<5>前立腺癌診断キット
本発明にかかる前立腺癌診断キットは、当該癌の進行度の判定に用いられる前立腺癌診断キットであって、被検体から採取した試料中のプロサイモシンαの発現量を検出する検出手段を含むことを特徴とする。このような前立腺癌診断キットの構成は、上記<4>記載の検定方法を実現できる構成であれば特には限定されないが、例えば、プロサイモシンαの発現量の検出手段は、酵素標識抗プロサイモシンα抗体及び/または該酵素の基質であってもよく、あるいは、プロサイモシンαのmRNA量を測定するための試薬、例えばPCRの場合、TAQポリメラーゼ及び/またはプライマーであってもよい。かかるキットは、このような検出手段以外に、適宜、バッファー等の試薬類を含んで構成される。
【実施例】
【0064】
以下、実施例に基づき、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。以下においては、プロサイモシンαを「PTMA」と記すことがある。
【0065】
実施例1:前立腺癌の進行とプロサイモシンα遺伝子の発現との関係
実施例1において、前立腺癌の進行とプロサイモシンα遺伝子の発現との関係を調べるため、正常な前立腺、前立腺肥大症(BPH)、限局性前立腺癌、ホルモン耐性前立腺癌の生検から試料を採取した。そして、各試料を用いて、1)ステージ(病期)分類および2)Gleasonスコアに基づく前立腺癌の進行度判定、リンパ節転移の確認、プロサイモシンαの発現量の測定、を行った。なお、ここでは、1)の方法として、米国泌尿器科学会(AUA)により開発されたAUA分類システムを用いた。
以下、実施例1について、項目に沿って詳細に説明する。
【0066】
1−1.試料
正常な前立腺の試料(n=5)は、膀胱癌のための膀胱前立腺全摘術を受けた患者から取得した。前立肥大症(BPH)の試料(n= 15)は、前立腺肥大症のための局部的前立腺切除を受けた患者から取得した。限局性前立腺癌の試料(n= 59)は、前立腺癌のために前立腺全摘術を受けた患者から取得した。これらの試料を採取した患者は、いずれも、化学療法、放射線療法、ホルモン療法を予め受けていない。また、ホルモン耐性前立腺癌の試料(n=9)は、ホルモン療法にもかかわらず当該癌が進行して死亡したヒト検体から死後3〜4時間以内に採取した。
【0067】
1−2.免疫組織化学的分析
ここでは、酵素標識抗体法であるavidine-biotinylated peroxidase complex法(以下、ABC法と記載する)を用い、試料中におけるプロサイモシンαの発現レベルを調べた。ここでは、後述するように、ABC法を用いた分析で取得された吸光度(Optical Density:O.D.)を、プロサイモシンαの発現レベルとした。
【0068】
具体的には、まず、従来の方法にしたがって、採取した上記各試料をアルコール脱水およびパラフィン包埋し、パラフィン切片を作製した。続いて、脱パラフィン後、1mMのEDTA(pH8.0)中、当該切片を120℃で5分間オートクレーブし、その後、0.5%H2O2のメタノール溶液で30分間処理した。さらに、この切片を、希釈した抗プロサイモシンα抗体(一次抗体に相当)とともに2時間室温で培養し、その後、PBS中、スキムミルクを用いて30分間培養した。抗プロサイモシンα抗体は、Alexis Biochemicals社製のanti-ProTα MAb(clone 2F11)を用いた1:3,000)。続いて、切片を、ビオチン化二次抗体であるbiotin-labeled horse anti-mouse IgGと30分間反応させた。この場合、免疫反応は、市販のavidin-biotin complex(Vector laboratories Inc.社製の「Vectastain ABC elite kit」)を用いて行った。その後、切片を3’3-diaminobenzidine(DAB)で処理して発色させた。その後、光学顕微鏡による観察のため、ヘマトキシリンおよびエオジンを用いて切片の染色(HE染色)を行った。
【0069】
なお、上記のABC法や染色において、記載を省略した処理工程や試薬等については、従来法に順じている。また、ネガティブコントロールとして、上記の抗プロサイモシンα抗体を用いた実施例と並行して、1次抗体で処理しない実験も行い、抗プロサイモシンα抗体の特異性の確認を行った(後述の図1C参照)。
【0070】
上記のようにABC法で処理した切片に対し、光学顕微鏡で観察するとともに、住化テクノサービス株式会社製のImage Processor for Analytical Pathology(IPAP−WIN)を用いて、プロサイモシンαの定量を行った。具体的には、病巣の腺構成成分における吸光度(O.D.)を測定し、得られた測定値をプロサイモシンαの発現レベルとみなした。
【0071】
1−3.結果
図1A〜1Lは、各切片の顕微鏡写真である。図1B〜図1Lにおいて、図中の黒色部分がプロサイモシンαの発現部分に相当する。以下、図1A〜図1Lの詳細を述べる。
【0072】
図1A〜図1Cは、後述の図3の患者2の場合における前立腺の連続切片であり、図1Aは、HE染色の結果を示し、図1Bは、抗プロサイモシンα抗体を用いた抗体染色の結果を示し、図1Cは、ネガティブコントロール(1次抗体無し)の結果を示す。図1A〜図1Cにおいて、図中の矢印sの部分は正常上皮であり、矢印tの部分は腺癌である。
【0073】
図1Dは、図3の患者2の前立腺正常上皮におけるプロサイモシンαの発現を示す。図1Eは、前立腺肥大症(BPH)の前立腺におけるプロサイモシンαの発現を示す。図1Fは、図3の患者51の前立腺上皮内腫瘍(PIN)におけるプロサイモシンαの発現を示す。
【0074】
図1G〜図1Lは、前立腺癌におけるプロサイモシンαの発現を示している。具体的に、図1Gは、図3の患者44の前立腺癌におけるGleasonパターン3の原発巣での発現を示す。図1Hは、図3の患者20の前立腺癌におけるリンパ節に転移した癌での発現を示す。図1Iは、図3の患者20の前立腺癌におけるGleasonパターン5の原発巣での発現を示す。図1Jは、図3の患者57の前立腺癌におけるGleasonパターン4の原発巣での発現を示す。図Kは、図3の患者57の前立腺癌におけるGleasonパターン4の原発巣での発現を示す。図1Lは、後述の図4の患者a3の前立腺癌におけるGleasonパターン5の原発巣での発現を示す。
【0075】
図2は、前立腺切除により採取された、正常上皮、前立腺肥大症(BPH)、前立腺上皮細胞内癌(PIN)、および前立腺癌(Cancer)の各々の場合におけるプロサイモシンαの発現レベルを示している。ここでは、前立腺肥大症の15の病巣におけるプロサイモシンαの発現レベル、前立腺上皮内腫瘍の49の病巣におけるプロサイモシンαの発現レベル、前立腺癌の140の病巣におけるプロサイモシンαの発現レベル、59人の前立腺癌患者の正常な上皮におけるプロサイモシンαの発現レベルについてそれぞれ調べた結果を示す。図中の縦軸は、プロサイモシンαの発現レベルに相当する吸光度(O.D.)を示している。また、図中の「###」は、スピアマンの順位相関係数の検定において、p<0.0001の有意差をもって正常上皮から前立腺上皮内腫瘍、癌という悪性への進展に従い発現が上昇していくことを示している。また、「***」は正常上皮およびBPHに比較してp<0.001で有意に発現差があることを示している。
【0076】
図3は、上述した方法で行った、前立腺癌の59の患者における病期分類、Gleasonスコアおよびパターン、ならびにプロサイモシンαの発現レベルを示す図である。図3において、「Stage」の欄は、前述した上記1)の方法による病期分類を示している。「Gleason’s score」の欄は、前述した上記2)の方法によるGleasonスコアを示している。「signal intensity(O.D.)/Gleason’s pattern」の欄は、腺癌成分のGleasonパターンによる分類、および当該成分の領域における吸光度(O.D.)を示している。「lymph node metastasis」の欄は、リンパ節転移が存在する場合の当該領域の吸光度(O.D.)を示している。
【0077】
図3の見方を説明すると、例えば、患者1の場合、病期分類は「B1」であり、Gleasonスコアは「6」であり、Gleasonパターンが「3」である病巣の腺癌成分におけるプロサイモシンαの発現レベルは吸光度(O.D.)で18.04である。この場合、リンパ節転移は、見られなかった。また、患者57の場合、病期分類は「D1」であり、Gleasonスコアは「9」であり、Gleasonパターンが「4」である最も面積の大きい病巣の腺癌成分におけるプロサイモシンαの発現レベルは吸光度(O.D.)で67.67であり、Gleasonパターンが「5」である二番目に面積の大きい病巣の腺癌成分におけるプロサイモシンαの発現量は吸光度で78.03であり、Gleasonパターンが「3」である病巣の腺癌成分におけるプロサイモシンαの発現レベルは吸光度で40.94であり、リンパ節転移部分のプロサイモシンαの発現レベルは吸光度(O.D.)で54.42である。このように、患者57の場合には、1つの試料において、Gleasonパターンの異なる複数の腺癌が見られた。
【0078】
図4は、ホルモン耐性前立腺癌により死亡した患者から試料を採取したa1〜a9の9つの患者におけるGleasonパターンとプロサイモシンαの発現レベルとを示す図である。図4において、「Lesion」の欄は病巣の範囲を示しており、当該欄の「LN」の記載は、Lymph Nodeの略である。
【0079】
図5は、組織学的な分類であるGleasonパターンとプロサイモシンαの発現レベルとの関係を示す図であり、パターン2からパターン5の各々におけるプロサイモシンαの発現レベルを示している。図5において、縦軸は、プロサイモシンαの発現レベルに相当する吸光度(O.D.)を示している。また、図中の「###」は、スピアマンの順位相関係数の検定において、p<0.0001の有意差をもってGleasonパターン増加という悪性指標に従って発現が上昇していくことを示している。また、「***」は、Gleasonパターン2や3に比較してp<0.001で有意に発現差があることを示している。
【0080】
以下、図1A〜図1L、図2、図3、図4および図5を参照して実施例1の結果を詳述する。図1Aに示すように、プロサイモシンαは、細胞質(エオジンで赤く染色される図1A中の暗色部分)および核(ヘマトキシリンで青く染色される部分であり図1A中の透明部分に相当)の両方において免疫組織化学的に陽性を示すことから、細胞質および核の両方にプロサイモシンαが存在することが明らかになった。また、図1D〜図1Lおよび図2に示すように、プロサイモシンαは、正常な前立腺上皮、前立腺肥大症(BPH)、前立腺上皮内腫瘍(PIN)および前立腺癌のいずれの場合においても発現するが、前立腺肥大症の場合は正常な前立腺上皮と同程度の低い発現レベルであるのに対して、前立腺上皮内腫瘍および前立腺癌の場合では、前立腺肥大症の場合や正常な前立腺上皮の場合に比べて、高い発現レベルを示す。正常な前立腺上皮では、分泌細胞の方が基底細胞に比べてプロサイモシンαの発現レベルが高かった。
【0081】
図3〜図5に示すように、プロサイモシンαの発現レベルは、前立腺癌の進行に伴って増加した。このようなプロサイモシンαの発現レベルは、従来の病期分類法およびGleasonスコアに対して統計的に意味がある、言い換えれば、プロサイモシンαの発現レベルは病期分類法およびGleasonスコアと有意な相関を有している。例えば、病期分類法やGleasonスコアのような組織学的パターンに基づく診断で癌進行度が低いと判定された場合は、プロサイモシンαの発現量が低く、当該診断で癌進行度が高いと判定された場合は、プロサイモシンαの発現量が高いという相関関係が成り立つ。具体的には、病期分類法およびGleasonスコアとプロサイモシンαの発現量との間では、スピアマンの順位相関係数の検定における順位相関係数の有意水準Pが病期分類法およびGleasonスコアに対してそれぞれp<0.05、p<0.01であり、また、図5に示すように、Gleasonパターンとプロサイモシンαの発現量との間におけるスピアマンの順位相関係数の検定において、順位相関係数の有意水準Pはp<0.0001であった。また、図3に示すように、死亡に至る患者では、ほとんど全ての場合においてGleasonパターンが5であり、この場合のプロサイモシンαの発現量は高レベル、具体的には、多くの患者においてプロサイモシンαの発現レベル(O.D.値)が50.0以上となることが示された。
【0082】
以上より、プロサイモシンα遺伝子の発現を調べることにより、前立腺癌の進行度を検定することができることが明らかである。
【0083】
実施例2.siRNAを用いた前立腺癌細胞におけるプロサイモシンα遺伝子の発現抑制
実施例2においては、前立腺癌細胞におけるプロサイモシンα遺伝子の発現を、siRNAを用いたRNA干渉により抑制し、それにより、前立腺癌細胞の細胞増殖および浸潤を抑制した。以下、詳細を各項目に沿って説明する。
【0084】
2−1.プロサイモシンαの発現系選択
ここでは、プロサイモシンαを発現するヒト前立腺癌細胞を選択するため、ヒトの前立腺癌細胞系であるDU145、LNCaP、PC3および22Rv1を準備するとともに、前立腺上皮細胞であるPrECを準備した。DU145、LNCaP、PC3および22Rv1は、American Type Culture Collectionから取得し、PrECは、Cambrex BioScience Walkersville,Inc.社製のものを用いた。
【0085】
これらの前立腺細胞系DU145、LNCaP、PC3、22Rv1およびPrECについて、抗プロサイモシンα抗体を用いた免疫ブロット法により、プロサイモシンα遺伝子の発現を調べた。プロサイモシンα(clone 2F11)のモノクローナル抗体は、Alexis Biochemicals社製のものを用いた。また、コントロール実験として、これらの前立腺細胞系におけるβ−アクチンの発現を抗β−アクチン抗体(シグマ社製)を用いて同様の方法により調べた。
【0086】
免疫ブロット法については、従来技術に従った。ここでは、まず、下記組成を有するRIPA緩衝液に細胞を溶解させた。
【0087】
<RIPA緩衝液の組成>
150mM NaCl、50mM Tris−HCl(pH8.0)、1% NP−40、0.5% sodium deoxycholate、0.1% SDS、1mM phenylmethylsulphonyl fluoride、1mM sodium orthovanadate、Protease inhibitor cocktail(Roche Diagnostics社製)
かかる細胞溶解物中から10μgのタンパク質をSDS−PAGEを用いて電気泳動し、分画したタンパク質を20mMの酢酸ナトリウム液(pH5.2)を用いてニトロセルロース膜に移し、0.5%グルタルアルデヒドで5分固定した。続いて、ニトロセルロース膜を5%脱脂乳/TBS溶液でブロッキングした後、TBS中に1000分の一希釈した抗プロサイモシンα抗体と室温で1時間反応させた。そして、同様に、二次抗体である抗マウスIgG抗体(1:10,000、 アマシャム バイオサイエンス株式会社)と1時間反応させた。その後、ECL plus western blotting detection試薬(Amersham Biosciences社製:「Piscataway」)を用いて、プロサイモシンαのバンドの検出を行った。なお、内部マーカーとして、β−アクチンについても、プロサイモシンαの場合と同様の方法により分析を行った。
【0088】
図6に、DU145、LNCaP、PC3、22Rv1およびPrECにおける上記免疫ブロット法の結果を示す。前立腺癌細胞であるDU145、LNCaP、PC3および22Rv1ではプロサイモシンαの発現が見られたが、前立腺上皮細胞であるPrECでは、プロサイモシンαの発現がほとんど見られなかった。本実施例では、免疫ブロット法の結果と、後に述べる浸潤能検討実験を行いやすい点とを考慮し、プロサイモシンαの発現系に前立腺癌細胞であるPC3及びLNCaPを用いた。
【0089】
2−2.PC3に導入するsiRNAの作製とPC3細胞への導入
PC3に導入するsiRNAとして、以下のsiRNA(株式会社RNAi社製)を用いた。具体的には、配列番号1に示す塩基配列を有する21塩基のセンス鎖RNAと、配列番号2に示す塩基配列を有する21塩基アンチセンス鎖RNAとから構成されるsiRNA(以下、このsiRNAをPTMA−siRNA1と呼ぶ)を準備するとともに、ネガティブコントロールとして、配列番号5に示す塩基配列を有する21塩基のセンス鎖RNAと、配列番号6に示す塩基配列を有する21塩基アンチセンス鎖RNAとから構成されるsiRNA(以下、このsiRNAをCont.−siRNAと呼ぶ)を用意した。これらの2本鎖siRNAは、上記配列を有するセンス鎖とアンチセンス鎖とを、10mMのTris−HCl(pH7.5)、20mMのNaCl反応溶液中、90℃で3分間加熱し、そして、37℃で1時間インキュベートした後に、室温になるまで放置して会合させることにより作製された。なお、これらの2本鎖siRNAを、2%アガロースゲルで電気泳動し、センス鎖とアンチセンス鎖との会合を確認した。
【0090】
<PTMA−siRNA1の塩基配列(5’→3’)>
センス鎖:CUUCCCGUCUCAGAAUCUAAA(配列番号1)
アンチセンス鎖:UAGAUUCUGAGACGGGAAGUG(配列番号2)
<Cont.−siRNAの塩基配列(5’→3’)>
センス鎖:GUACCGCACGUCAUUCGUAUC(配列番号5)
アンチセンス鎖:UACGAAUGACGUGCGGUACGU(配列番号6)
PC3細胞は、RPMI1640培地(InVitrogen社製)に0.1%ウシ血清アルブミン(シグマ社製)を添加したものを用い、37℃、5%CO2存在下で培養した。siRNAのPC3細胞への導入は、Amaxa社製のNucleofector IIを用い、1x106個の細胞に、PTMA−siRNA1およびCont.−siRNAをそれぞれ3μg導入した。導入操作は当該機器のマニュアルに従って行った。
【0091】
2−3.LNCaPに導入するsiRNAの作製とLNCaP細胞への導入
LNCaPに導入するsiRNAとして、以下のPTMA−siRNA2(株式会社RNAi社製)を用いた以外は、2−2と同様にsiRNAを調整した。なお、ネガティブコントロールとしては、2−2と同様に、Cont.−siRNAを用いた。
【0092】
LNCaP細胞の培養及びsiRNAの導入も、PC3細胞と同様に行った。
【0093】
<PTMA−siRNA2の塩基配列(5’→3’)>
センス鎖:GGCAGAGCACGGUAUACUAAA(配列番号3)
アンチセンス鎖:UAGUAUACCGUGCUCUGCCUG(配列番号4)
【0094】
2−4.siRNAによるプロサイモシンαの発現抑制
<1>免疫ブロット法による解析
PTMA−siRNA1およびCont.−siRNAをPC3細胞へ導入し48時間後に、PC3細胞を、5×103個/200μl培地の濃度で96穴プレートにトランスファーし、さらに培養を続けた。そして、siRNA導入から3日後、5日後および7日後に細胞を回収し、前述した免疫ブロット法を用いてプロサイモシンαの発現量を解析した。
PTMA−siRNA2およびCont.−siRNAを、同様にLNCaP細胞へ導入し、今回は、3日後、5日後、7日後、10日後および14日後に細胞を回収し、プロサイモシンαの発現量を解析した。
【0095】
<2>リアルタイムRT−PCR法による解析
さらに、ここでは、リアルタイムRT−PCRにより、プロサイモシンα遺伝子の発現を調べた。このリアルタイムRT−PCRでは、RNeasy Mini kit(Qiagen社製)を用いて全RNAを抽出し、Superscript II(InVitrogen社製)と下記塩基配列を有するプライマー対A(配列番号7および配列番号8)とを用いて、逆転写によりプロサイモシンαにかかるcDNAを取得し、PCRで増幅させて発現を測定した( 94℃5秒、60℃15秒、72℃30秒を 40cycle )。リアルタイムRT−PCRにおける測定データの収集および分析は、LightCycler(Roche Diagnostics社製)を用いて行った。
【0096】
プライマー対A(5’→3’)
TGCCCCACCATGTCAGACGC(配列番号7)
GTCTAGTCATCCTCGTCGGTC(配列番号8)
また、ここでは、GAPDHを内部コントロールとして利用し、GAPDHについてプロサイモシンαの場合と同様の操作を行ってGAPDHの検出結果に基づきプロサイモシンαの測定結果を標準化した。GAPDHのRT−PCRにおいては、下記塩基配列を有するプライマー対B(配列番号9および配列番号10)を用いた。
【0097】
プライマー対B(5’→3’)
AACGGATTTGGTCGTATTGG(配列番号9)
GGGTGGAATCATATTGGAAC(配列番号10)
本実施例では、このようなプロサイモシンαおよびGAPDHのRT−PCRによる発現測定を3回行った。
【0098】
結果
図7Aは、PTMA−siRNA1およびCont.−siRNAをいずれも導入しなかった未処理の場合(図中の矢印aで示す)、Cont.−siRNAを導入した場合(図中の矢印bで示す)、およびPTMA−siRNA1を導入した場合(図中の矢印cで示す)における、siRNA導入から3日後、5日後、および7日後の免疫ブロット法の結果を示す図である。また、図7Bは、未処理の場合(図中の矢印aで示す)、Cont.−siRNAを導入した場合(図中の矢印bで示す)、およびPTMA−siRNA1を導入した場合(図中の矢印cで示す)における、siRNA導入から3日後、5日後、および7日後のリアルタイムRT−PCRの結果を示す図である。図7B中において、縦軸は、未処理の場合のmRNA量を1とした相対量を示している。また、図中の「***」は、スピアマンの順位相関係数の検定において、順位相関係数の有意水準Pが、Cont.−siRNAおよび未処理の場合に対し、p<0.0001であることを示している。
【0099】
PTMA−siRNA1を導入した場合(矢印cの場合)には、導入から7日後においてもプロサイモシンαの発現が抑制されており(図7A参照)、また、プロサイモシンαのmRNA量が少なかった (図7B参照)。一方、Cont.−siRNAを導入した場合(矢印bの場合)には、未処理の場合(矢印aの場合)と同様のプロサイモシンαの発現(図7A参照)およびmRNA量(図7B参照)が検出された。このことから、PTMA−siRNA1は、プロサイモシンα遺伝子に対してRNA干渉を生じさせて、それにより、プロサイモシンαの発現を抑制することが明らかとなった。
【0100】
また、図8に示すように、PTMA−siRNA2を導入したLNCaP細胞においても、siRNA導入後5日目までは、完全にmRNAが消失したが、7日目に少し発現が回復し、14日目には、ほぼsiRNAによる発現阻害効果は無くなった(図8)。
このように、どちらの場合においても、少なくとも1週間は、siRNAによる発現阻害効果が有効に生じていた。
【0101】
2−5.PC3へのsiRNA導入による細胞増殖・浸潤抑制
siRNA導入によるPC3の細胞増殖及び浸潤を調べるため、以下の解析を行った。この2つの分析においては、下記のようにPTMA−siRNA1を導入したものおよびCont.−siRNAを導入したものについて調べるとともに、いずれのsiRNAも導入しないで同様の処理を行った非処理のものについても調べた。
【0102】
<1>細胞増殖
PTMA−siRNA1およびCont.−siRNA導入から48時間後のPC3を、5×103個/200μl培地の濃度で96穴プレートに植えて培養するとともに、WST−1アッセイ法のマニュアルに従い、培地にWST−1(Roche Diagnostics社製)を添加した。そして、siRNA導入から3日後および5日後の生細胞におけるWST−1の吸光度を分光光度計を用いて測定し、細胞数を算定した。WST−1は、セルトランスフェレーション試薬であるテトラゾリウム塩であり、細胞におけるWST−1の吸光度を測定することにより、細胞の代謝活性を測定し、細胞数とするアッセイシステムである。ここでは、このようなWST−1アッセイ法による細胞数の測定を、それぞれ3回ずつ行った。
【0103】
<2>浸潤
細胞浸潤を促進する化学誘引物質であるフィブロネクチンを10μg/ml含有する上記RPMI1640培地を分注した24穴プレートの各ウエルに、Matrigel MatrixでコートしたCell culture insert(BD Biosciences社製)を入れた。そして、PTMA−siRNA1およびCont.−siRNA導入から48時間後のPC3のうち、PRMI1640培地中を浮遊する細胞(1×105個)をCell culture insertに播種し、5%CO2存在下、37℃で22時間培養した。培養後、Saitoらの方法(Saito K,Oku T,Ata N,Miyashiro H,Hattori M,Saiki I,A modified and convenient method for assessing tumor cell invasion and migration and its application to scriining for inhibitors.Biol Pharm Bull 1997;20(4):345-348)に従い浸潤能に対する影響を検討した。具体的にはCell culture insertをメタノールに浸して細胞を5分間固定した後、0.5%クリスタルバイオレットで30分間染色した。その後、蒸留水で洗浄しCell culture insertの膜上面に存在する細胞を綿棒で完全に除去した後十分に風乾した。その後Cell culture insertから膜を切り離して96-well plate内に入れ、各wellに100μL 30%酢酸を加えて5分間インキュベートし、膜下面に浸潤した細胞からクリスタルバイオレット色素を溶出した。浸潤細胞数に比例して色素の溶出量は増加するので、波長590nmにおける吸光度を分光光度計を用いて測定することで浸潤細胞数を定量的に評価した。ここでは、このようなアッセイを3回行った。
【0104】
結果
図9は、未処理の場合(図中の矢印aの場合)、Cont.−siRNAを導入した場合(図中の矢印bの場合)、およびPTMA−siRNA1を導入した場合(図中の矢印cの場合)における、導入から3日後および5日後の上記<b−1>のWST−1アッセイの結果を示す図である。図9の縦軸は、3日後、および5日後の各経過時における未処理の場合の細胞数を100%とした相対量を示している。また、図中の「**」は、スピアマンの順位相関係数の検定において、順位相関係数の有意水準Pが、Cont.−siRNAの場合および未処理の場合に対し、p<0.01であることを示している。このグラフから、PTMA−siRNA1を導入したPC3においては、細胞増殖が抑制されていることが明らかである。
【0105】
図10および図11は、細胞浸潤を観察するための<b−2>の分析における、未処理の場合(図中のaの場合)、Cont.−siRNAを導入した場合(図中のbの場合)、およびPTMA−siRNA1を導入した場合(図中のcの場合)の結果を示す図である。図10は、これらの各場合において取得された波長590nm帯の吸光度(O.D.)を示している。図中の「**」は、スピアマンの順位相関係数の検定において、順位相関係数の有意水準Pが、Cont.−siRNAの場合および未処理の場合に対し、p<0.01であることを示している。図11は、これら各場合の顕微鏡写真である。図10および図11に示すように、膜下面に浸潤したPC3細胞数は未処理、Cont.-siRNAの場合に比較してPTMA-siRNA導入により顕著に減少した。PTMA−siRNA1導入の場合(cの場合)、すなわち図7Aおよび図7Bで前述したRNA干渉によってプロサイモシンαの発現が抑制される場合には、浸潤が抑制されることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の実施例1における、ABC法によるプロサイモシンαの発現分析の結果を示す図である。
【図2】本発明の実施例1における、正常上皮、前立腺肥大症、前立腺上皮細胞内癌、および前立腺癌の各場合のプロサイモシンαの発現量を示す図である。
【図3】本発明の実施例1における、前立腺切除を行った59の患者についての従来法による診断およびプロサイモシンαの発現量を示す図である。
【図4】本発明の実施例1における、検体から試料採取した場合についての従来法による診断およびプロサイモシンαの発現量を示す図である。
【図5】本発明の実施例1における、前立腺癌病巣のGleasonパターンとプロサイモシンαの発現量との相関を示す図である。
【図6】本発明の実施例2における、前立腺細胞系でのプロサイモシンαの発現を免疫ブロット法で分析した結果を示す図である。
【図7】本発明の実施例2における、PC3細胞に対する、PTMA−siRNA1のプロサイモシンα発現抑制効果を示す図である。
【図8】本発明の実施例2における、LNCaP細胞に対する、PTMA−siRNA2のプロサイモシンα発現抑制効果を示す図である。
【図9】本発明の実施例2における、PTMA−siRNA1の細胞増殖抑制効果をWST−1アッセイ法で分析した結果示す図である。
【図10】本発明の実施例2における、フィブロネクチンを細胞増殖促進剤として添加した場合のPTMA−siRNA1の細胞増殖抑制効果をWST−1アッセイ法で分析した結果を示す図である。
【図11】本発明の実施例2における、PTMA−siRNA1の細胞増殖抑制効果を顕微鏡で調べた結果を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロサイモシンαの機能抑制用組成物を含む抗癌剤、およびプロサイモシンα遺伝子の発現抑制用組成物に含有される核酸に関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺癌は、アメリカにおける男性の最も一般的な悪性疾患である(例えば、非特許文献1参照)。日本における前立腺癌の発生率および死亡率は、アメリカに比べてかなり低いものの、急速に増加している(例えば、非特許文献2参照)。
【0003】
前立腺癌は、その発生および進行のメカニズムが解明されていないが、前立腺癌患者における生物学的不均一性や、進行度および死亡率の多様性(具体的には、何故非常に進行の早い前立腺癌患者とそうでない患者とがいるのか等)から、前立腺癌の発生や進行に多くの因子が関与していると考えられている(例えば、非特許文献3〜5参照)。そのような因子を一つずつ同定していくことは、前立腺癌の診断方法や治療方法の開発に非常に重要である。
【0004】
一般的に、前立腺癌の発生や進行に関与する因子として、年齢、遺伝および環境/食事等といった要素の組み合わせが指摘されている。中でも、アンドロゲンが前立腺の成長および分化において重要な役割を果たすことから、前立腺癌とアンドロゲンとの関係について多くの研究がなされてきた。その結果、前立腺腫瘍の進行が、循環性のアンドロゲンであるテストステロンやジヒドロテストステロンのレベルの上昇に関連していることが明らかにされた(例えば、非特許文献6参照)。また、前立腺組織の上皮内に限定され、細胞異型と腺細胞の多層化によって診断される前立腺上皮内腫瘍(prostatic intraepithelial neoplasm:PIN)が、前立腺癌の前段階にある病巣として注目されており、実際にPINから前立腺癌への進行も報告された例もある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
前立腺癌の診断には、通常、腫瘍マーカである前立腺特異抗原(PSA)や前立腺酸性フォスファターゼ(PAP)を用いた診断方法(具体的には、これらの血清中レベルの測定)や直腸診等が用いられ、診断結果は複数のステージ(病期)に分類される。例えば、Gleasonスコアと組み合わせた血清PSAレベルの判定は、前立腺癌の診断(病期分類)に有効である。
【0006】
前立腺癌の治療には、前立腺全摘術、放射線療法、化学療法、ホルモン療法、免疫療法が用いられる。これらの方法は、単独で診断/治療に用いられることもあるし、組み合わせて用いられることもある。
【0007】
最近、これらの定法以外に、前立腺癌の診断や治療等への利用が期待される核酸等も開示されている(例えば、特許文献2および特許文献3参照)。
【非特許文献1】Jemal A,Murray T,Ward E,et al. Cancer statistics,2005.CA Cancer J Clin 2005;55(1):10-30.
【非特許文献2】Hsing AW,Tsao L,Devesa SS.International trends and patterns of prostate cancer incidence and mortality. Int J Cancer 2000;85(1):60-7.
【非特許文献3】Lalani el N,Laniado ME,Abel PD. Molecular and cellular biology of prostate cancer.Cancer Metastasis Rev 1997;16(1-2):29-66.
【非特許文献4】Bonkhoff H,Remberger K.Morphogenetic concepts of normal and abnormal growth in the human prostate. Virchows Arch 1998;433(3):195-202.
【非特許文献5】Roudier MP,True LD,Higano CS,et al.Phenotypic heterogeneity of end-stage prostate carcinoma metastatic to bone. Hum Pathol 2003;34(7):646-53.
【非特許文献6】Elizabeth A.Platz et al.,&Edward Giovannucci,Epidemiology of and Risk Factor for Prostate Cancer,Management of Prostate Cancer21(Eric A Klein,ed.2000)
【特許文献1】特開2004−315480号
【特許文献2】特表2002−518048号
【特許文献3】特表2004−530413号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前立腺癌の治療を可能とする新たな抗癌剤を提供することを目的の一つとする。また、本発明は、簡便に前立腺癌の診断を可能とする前立腺癌細胞の検定方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、2-Samino-1-methyl-6-phenylimidazo[4,5-b]pyridine(PhIP)を投与したラットにおいて、前立腺癌の発生が大豆イソフラボンにより抑制されること、また、大豆イソフラボンは、ラットの前立腺におけるプロサイモシンαの発現を抑制することを見出した(Carcinogenesis,Vol.25,No.3,381-387,March)。プロサイモシンαは、111個のアミノ酸で構成された小さな酸性タンパクであり、多岐種類に渡る組織で遍在的に発現する。
【0010】
発明者らは、前立腺癌におけるプロサイモシンαの役割を明らかにするため鋭意努力した結果、プロサイモシンαの発現レベルと前立腺癌における細胞増殖および浸潤との間に相関があることを明らかにし、本発明の前立腺癌の検定方法を完成するに至った。さらに、前立腺癌由来の培養細胞において、プロサイモシンαの発現をRNA干渉により抑制することにより、癌細胞の増殖を抑制できることを明らかにし、プロサイモシンα遺伝子の発現抑制方法や機能抑制方法、及びそれらを用いた前立腺癌の治療方法等を完成するに至った。
【0011】
本発明は、以下の各項の通りである。
〔1〕前立腺癌の治療に用いるための抗癌剤であって、プロサイモシンαの機能抑制用組成物を有効成分として含有する抗癌剤。
〔2〕前記機能抑制組成物が、プロサイモシンαの発現を抑制することにより前記プロサイモシンαの機能を抑制する、プロサイモシンαの発現抑制用組成物であることを特徴とする第1項記載の抗癌剤。
〔3〕前記発現抑制用組成物が、プロサイモシンα遺伝子の発現を抑制することのできる核酸を含有することを特徴とする第2項記載の抗癌剤。
〔4〕プロサイモシンα遺伝子に対してRNA干渉を生じさせることにより、プロサイモシンα遺伝子の発現を抑制することを特徴とする第3項記載の抗癌剤。
【0012】
〔5〕プロサイモシンα遺伝子を標的遺伝子とし、当該標的遺伝子に対してRNA干渉を生じさせる核酸であって、
2重鎖領域を有し、
前記2重鎖領域における一方の鎖が、標的遺伝子の塩基配列中に含まれる、下記(1)〜(4)の規則;
(1) 3’末端の塩基が、アデニン、チミンまたはウラシルであり;
(2) 5’末端の塩基が、グアニンまたはシトシンであり;
(3) 3’末端の7塩基の配列において、アデニン、チミンおよびウラシルからなる群より選ばれる一種又は二種以上の塩基がリッチであり;
(4) 塩基数が、細胞毒性を生じさせずにRNA干渉を生じさせ得る数である
に従う規定配列と相同な塩基配列からなり、そして、
前記2重鎖領域における他方の鎖が、前記規定配列と相同な塩基配列と相補的な配列を有する塩基配列からなる
ことを特徴とする核酸。
〔6〕前記規定配列と相同な塩基配列の少なくとも80%以上の塩基が、前記規定配列の塩基配列と一致することを特徴とする第5項記載の核酸。
【0013】
〔7〕前記規則(3)において、7塩基のうち少なくとも3塩基以上が、アデニン、チミンおよびウラシルからなる群より選択される1種以上の塩基であることを特徴とする第5または第6項記載の核酸。
〔8〕前記規則(4)において、塩基数が13〜28であることを特徴とする第5〜第7項のいずれか1項記載の核酸。
【0014】
〔9〕前記標的遺伝子の規定配列が、さらに下記(5)の規則;
(5) 導入される被検体の全遺伝子配列のうち、前記標的遺伝子以外の他の遺伝子の塩基配列中に、当該規定配列と90%以上の相同性を有する配列が含まれない
に従う配列であることを特徴とする第5〜第8項のいずれか1項記載の核酸。
【0015】
〔10〕2本鎖のポリヌクレオチドから成ることを特徴とする第5〜第9項のいずれか1項記載の核酸。
〔11〕前記2本鎖のポリヌクレオチドが、前記2重鎖領域の両端に、3’末端が突出したオーバーハング部を有することを特徴とする第10項記載の核酸。
〔12〕1本鎖のポリヌクレオチドから成ることを特徴とする第5〜第9項のいずれか1項記載の核酸。
【0016】
〔13〕前記2重鎖領域の一方の鎖が下記配列番号1に項記載の塩基配列を有し、かつ、前記2重鎖領域の他方の鎖が下記配列番号2に項記載の塩基配列を有する
ことを特徴とする第5〜12のいずれか1つに項記載の核酸。
CUUCCCGUCUCAGAAUCUAAA(配列番号1)
UAGAUUCUGAGACGGGAAGUG(配列番号2)
〔14〕前記2重鎖領域の一方の鎖が下記配列番号3に項記載の塩基配列を有し、かつ、前記2重鎖領域の他方の鎖が下記配列番号4に項記載の塩基配列を有する
ことを特徴とする第5〜12のいずれか1つに項記載の核酸。
GGCAGAGCACGGUAUACUAAA(配列番号3)
UAGUAUACCGUGCUCUGCCUG(配列番号4)
〔15〕前記2重鎖領域において、少なくとも前記他方の鎖がRNAとDNAとからなるキメラ構成を有することを特徴とする第5〜第14項のいずれか1項記載の核酸。
〔16〕前記他方の鎖の2重鎖領域の3’末端から9〜13ヌクレオチドがRNAであることを特徴とする第15項記載の核酸。
【0017】
〔17〕第5〜第16項のいずれか1項記載の核酸を、プロサイモシンαが発現している細胞に導入し、当該プロサイモシンαの発現を抑制することを特徴とするプロサイモシンαの発現抑制方法。
〔18〕前立腺癌に由来する癌細胞に、第5〜第16項のいずれか1項記載の核酸を導入することを特徴とする、癌細胞増殖および浸潤の抑制方法。
〔19〕前記癌細胞が、LNCaP、22Rvl、DUl45およびPC3からなる群から選択される癌細胞であることを特徴とする第18項記載の方法。
【0018】
〔20〕ほ乳類被検体から採取した試料における前立腺癌の進行度判定に用いられる前立腺癌の検定方法であって、
前記試料中のプロサイモシンαの発現量に基づいて検定を行うことを特徴とする検定方法。
〔21〕ほ乳類被検体から採取した試料に対し、前立腺癌の進行度の判定に用いられる前立腺癌診断キットであって、
当該試料中のプロサイモシンαの発現量を検出する検出手段を含むことを特徴とする前立腺癌診断キット。
【発明の効果】
【0019】
本発明によって、前立腺癌の治療を可能とする新たな抗癌剤を提供することが可能になった。また、簡便に前立腺癌の診断を可能とする前立腺癌細胞の検定方法を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いている場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0021】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0022】
<1>本発明にかかる抗癌剤
本発明にかかる前立腺癌の治療に用いるための抗癌剤は、プロサイモシンαの機能抑制用組成物を有効成分として含有する。後述の実施例1で示すように前立腺癌の進行とプロサイモシンαの発現量との間には相関関係が見られ、また、後述の実施例2で示すようにプロサイモシンα遺伝子の発現を抑制することにより癌細胞の増殖が抑制されることから、プロサイモシンα遺伝子の発現抑制が前立腺癌の治療に有効であることは明らかである。したがって、プロサイモシンαの機能抑制用組成物を含有した薬剤により、前立腺癌の抗癌剤を提供することが可能となる。
【0023】
ここで、プロサイモシンαの機能抑制用組成物は、癌細胞内でのプロサイモシンαの機能を抑制することができる組成物であれば特に限定されず、例えば、プロサイモシンα遺伝子プロモーターのリプレッサー、あるいはアクチベーター阻害因子などを含有する転写レベルでの発現抑制用組成物やリボザイム、アンチセンスRNA、siRNA、shRNA、miRNAなどを含有する翻訳レベルでの発現抑制用組成物、あるいは、抗プロサイモシンα抗体や抗プロサイモシンα機能阻害低分子化合物などを含有するタンパク質レベルでの機能抑制用組成物などを含むが、効果が高く、簡便であるため、リボザイム、アンチセンスRNA、siRNA、shRNA、miRNAなどの核酸を含有する発現抑制用組成物であることが好ましく、siRNAやshRNAなどの、プロサイモシンα遺伝子に対してRNA干渉を生じさせる核酸を含有する発現抑制用組成物がさらに好ましい。
【0024】
これらの核酸は、遺伝子組み換え技術、化学的または酵素的合成等の公知技術を適宜用いることによって合成しうる。かかる核酸は、その名称(アンチセンスRNA、siRNA、shRNA、miRNAなど)に関わらず、RNAから成っていても、DNAから成っていても、RNAとDNAの両方から成っていてもよく、天然のヌクレオチドあるいは人工のヌクレオチドのいずれから構成されてもよく、また、これらの核酸の複数種類の混成であってもよい。人工のヌクレオチドとしては、例えば、天然のヌクレオチドの塩基の一部に化学修飾がなされているような核酸アナログでもよい。化学修飾としては、例えば、リン酸結合、リボース、核酸塩基、3’および/または5’末端等の化学修飾が挙げられる。
【0025】
このようなプロサイモシンαの発現抑制用組成物を含む本発明の抗癌剤は、例えば、薬学的に許容され得る担体に発現抑制用組成物を医学的に有効な量配合して得られる。ここで、「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘ちょう剤、矯味剤、溶解補助剤等が挙げられる。かかる担体により、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、注射剤、液剤、カプセル剤、トローチ剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、外用液剤、坐剤、およびペッサリー等の形態の抗癌剤が調製される。これらの抗癌剤は、その剤形に従って、経口あるいは非経口的に投与することができる。
【0026】
これらの抗癌剤の投与量は、患者の年齢、性別、体重および症状、治療効果、投与方法、処理時間または当該医薬組成物に含有される活性成分の種類等により異なり、投与量は特に限定されず、状況に適宜応じて投与することができる。例えば、注射剤の場合、生理食塩水または注射用蒸留水等の非毒性の薬学的に許容され得る担体中に発現抑制用組成物を溶解または懸濁することにより製造することができる。この場合、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、アルコール類等の非水性の希釈剤や、懸濁剤または乳濁剤として適宜調製してもよい。このようにして調製された注射剤は、処置を必要とするヒト患者に対し、一日あたり1〜数回投与することができる。
【0027】
<2>RNA干渉を生じさせる核酸
上述のように、プロサイモシンαの機能抑制用組成物に含有される核酸の構成は特に限定されないが、RNA干渉を生じさせる核酸であることが好ましい。
【0028】
RNA干渉を生じさせる核酸は、siRNA等の2本鎖型であってもよく、ヘアピン構造を有するRNA(short hairpin RNA:shRNA)等の1本鎖型であってもよい。shRNAは、2重鎖領域における一方の鎖の3'末端と、当該2重鎖領域における他方の鎖の5'末端とがループ部で連結して1本鎖を構成するものである。かかるshRNAは、1本鎖RNAの5'末端または3'末端に、1重鎖の状態で突出したオーバーハング部を有していても良い。このようなshRNAは、WO01/49844等、公知の手法に従って設計することができる。
【0029】
ここで、「RNA干渉」とは、元来、標的遺伝子の一部分と相同なセンス鎖RNAとアンチセンス鎖RNAとからなる2本鎖RNA(double−stranded RNA;dsRNA)が、標的遺伝子の機能を阻害する現象のことであった。しかし、現在では、当該2本鎖RNAの一部がDNAであっても、標的遺伝子の機能を阻害することができることが明らかになっている。従って、本明細書では一部にDNAを含むものもsiRNAやshRNAの概念に含める。
【0030】
このように、RNA干渉を生じさせる核酸は、プロサイモシンαの発現を有意に阻害するものであればヌクレオチドの構成、塩基配列、塩基長等は任意であり、種々公表されている所定のガイドラインに従って任意に設計された核酸を用いることが可能である。RNA干渉の効果が高い程、プロサイモシンαの発現が大きく阻害されることから、RNA干渉効果の高い核酸であることが好ましい。
【0031】
特に好適に用いられる核酸は、プロサイモシンα遺伝子を標的遺伝子とし、当該標的遺伝子に対してRNA干渉を生じさせる核酸であって、少なくとも2重鎖領域を有し、前記2重鎖領域における一方の鎖が、前記標的遺伝子の塩基配列中に含まれる、下記(1)〜(4)の規則;
(1) 3’末端の塩基が、アデニン、チミンまたはウラシルであり;
(2) 5’末端の塩基が、グアニンまたはシトシンであり;
(3) 3’末端の7塩基の配列において、アデニン、チミンおよびウラシルからなる群より選ばれる一種又は二種以上の塩基がリッチであり;
(4) 塩基数が、細胞毒性を生じさせずにRNA干渉を生じさせ得る数である
に従う規定配列と相同な塩基配列からなり、そして、前記2重鎖領域における他方の鎖が、前記規定配列と相同な塩基配列と相補的な配列を有する塩基配列からなることを特徴とする。
【0032】
これらの核酸の、特に2重鎖領域におけるヌクレオチド構成は、RNA型、DNA型、ハイブリッド型、キメラ型のいずれであってもよい。ここで、「RNA型」は、RNAからなる核酸、「DNA型」は、DNAからなる核酸、「ハイブリッド型」は核酸が2重鎖領域を有するとき、2重鎖領域における一方の鎖がRNAで、もう一方の鎖がDNAから成る核酸、「キメラ型」は、2重鎖領域においてRNAとDNAが同一鎖に含まれている核酸をいう。
【0033】
このハイブリッド型構造は、被導入体に導入した際に標的遺伝子の発現を抑制する活性を有するものであれば構造は特には限定されないが、センス鎖がDNAで構成されアンチセンス鎖がRNAで構成された2本鎖ポリヌクレオチドであることが好ましい。
【0034】
また、キメラ型構造は、被導入体に導入した際に標的遺伝子の発現を抑制する活性を有するものであれば構造は特には限定されない。RNA干渉に用いられる核酸は、構造上、機能的なアシンメトリー性(非対称性)を有する傾向が認められることから、RNA干渉を生じさせるという目的からすると、センス鎖の5'末端側の半分、アンチセンス鎖の3'末端側の半分はRNAで構成されることが望ましい。キメラ構造を有する核酸では、被導入体内おける安定性や製造コスト等の点から、RNAの含量をできるだけ少なくすることが好ましい。そこで、高い標的遺伝子の発現抑制効果を維持しつつRNA含量を低減可能な核酸について鋭意検討したところ、2重鎖領域において、センス鎖の5’末端から9〜13ポリヌクレオチドの部分、およびアンチセンス鎖の3’末端から9〜13ポリヌクレオチドの部分(例えば、センス鎖およびアンチセンス鎖の前記各末端から11ポリヌクレオチド、好ましくは10ポリヌクレオチド、さらに好ましくは9ポリヌクレオチドの部分)はRNAで構成されることが望ましく、特に、アンチセンス鎖の3’末端側が当該構成を有することが望ましい。なお、センス鎖のRNA部分とアンチセンス鎖のRNA部分とは、必ずしも、その位置が一致して相補的に結合していなくてもよい。
【0035】
RNA干渉の標的となる標的遺伝子の塩基配列は、プロサイモシンα遺伝子から転写される転写産物が有する塩基配列であって、上記規則を満たすものであれば、遺伝子のどの部分でもかまわない。ここで、転写産物は、スプライシング前のhnRNAでも、スプライシング後のmRNAでもよい。
【0036】
本明細書中では、上記(1)から(4)の規則を満たす塩基配列のことを「規定配列」という。上記規則においては、塩基配列がDNAの配列であればチミンが、RNAの配列であればウラシルが対応する。また、「相補的な配列」とは、水素結合によって結合できる塩基対の並びによって構成される配列である。例えば、グアニンとシトシンとの相補的な水素結合(G−C水素結合)においては3つの水素結合部位が形成されるのに対し、アデニンとチミンまたはウラシルとの相補的水素結合(A−(T/U)水素結合)においては2つの水素結合部位が形成される。このため、G−C水素結合に対し、A−(T/U)水素結合のほうが結合力は弱い。上述のように、「相補的な配列」には、これらの天然の塩基によって構成される配列だけでなく、イノシンや塩基アナログなどの人工的な塩基によって構成される配列も含む。従って、相補的な水素結合は、2つあるいは3つに限らず、1つでも4つ以上でも構わない。
【0037】
また、「規定配列と相同な塩基配列」とは、標的遺伝子配列(又はその一部)に中程度または高程度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることが可能な塩基配列のことであり、規定配列を有する遺伝子に対し、その配列を有するポリヌクレオチドがRNA干渉を生じさせることができることが好ましい。
【0038】
「ストリンジェントな条件下」とは、中程度または高程度にストリンジェントな条件においてハイブリダイズすることを意味する。具体的な条件は、例えば、DNAの長さに基づき、一般の技術を有する当業者によって、容易に決定することが可能である。基本的な条件は、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3版,第6−7章,Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001に示されているが、例えば、高程度にストリンジェントな条件とは、ニトロセルロースフィルターを用いた場合、50%ホルムアミド、2〜6×SSCまたは等価な濃度の塩存在下で、約42℃以上でのハイブリダイゼーション条件を挙げることができる。中程度にストリンジェントな条件とは、例えば、50%ホルムアミド、2〜6×SSCまたは等価な濃度の塩存在下で、約37℃以上でのハイブリダイゼーション条件を挙げることができる。一般に、ストリンジェンシーが高くなるほど、高い温度および/または低い塩濃度でのハイブリダイゼーション(例えば、ホルムアミドの非存在下では、65ないし80℃、2ないし6×SSC)および/または洗浄(例えば、68℃、0.2×SSC)が行われる。しかし、核酸の解離温度は、例えばその核酸の長さや核酸を構成する各塩基の割合に依存するため、ストリンジェントな条件は、用いる核酸によって、個々に決定されなければならないが、当業者であれば、その条件を容易に決定することが可能である。すなわち、望ましい強さのストリンジェンシーを達成するためには、ハイブリダイゼーション反応と2本鎖の安定性を支配する基本原理を考慮することによって、洗浄温度と洗浄塩濃度が調整されると理解すべきである。
【0039】
通常、中程度または高程度にストリンジェントな条件においてハイブリダイズする配列は、規定配列と50〜100%の相同性を有する。RNA干渉を生じさせるという機能を失わない範囲であれば、塩基配列の一部に欠失、置換、挿入などの変異を含んでもよい。なお、許容される変異の程度としての相同性を算出する場合、同一の検索アルゴリズムを用いて算出された数値どうしを比較することが望ましい。検索アルゴリズムは特に限定されないが、局所的な配列の検索に適したものが好適であり、より具体的にはBLASTsearchなどを好適に用いることができる。
【0040】
より詳細には、核酸(ポリヌクレオチド)の相同性は、視覚的検査および数学的計算によって決定することが可能である。またはより好ましくは、この比較はコンピュータ・プログラムを使用して配列情報を比較することによってなされる。代表的な、好ましいコンピュータ・プログラムは、遺伝学コンピュータ・グループ(GCG;ウィスコンシン州マジソン)のウィスコンシン・パッケージ、バージョン10.0プログラム「GAP」である(Devereuxら、1984、Nucl.Acids Res.12:387)。ここで、「GAP」プログラムの好ましいデフォルトパラメーターには:(1)ヌクレオチドについての(同一物について1、および非同一物について0の値を含む)一元(unary)比較マトリックスのGCG実行と、SchwartzおよびDayhoff監修「ポリペプチドの配列および構造のアトラス(Atlas of Polypeptide Sequence and Structure)」国立バイオ医学研究財団、353−358頁、1979により記載されるような、Gribskov and Burgess,Nucl.Acids Res.14:6745,1986の加重アミノ酸比較マトリックス;または他の比較可能な比較マトリックス;(2)アミノ酸の各ギャップについて30のペナルティと各ギャップ中の各記号について追加の1のペナルティ;またはヌクレオチド配列の各ギャップについて50のペナルティと各ギャップ中の各記号について追加の3のペナルティ;(3)エンドギャップへのノーペナルティ:および(4)長いギャップへは最大ペナルティなし、が含まれる。当業者により使用される他の配列比較プログラムでは、例えば、国立医学ライブラリーのウェブサイト:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/bl2seq/bls.htmlにより使用が利用可能なBLASTNプログラム、バージョン2.2.7、またはUW−BLAST2.0アルゴリズムが使用可能である。UW−BLAST2.0についての標準的なデフォルトパラメーターの設定は、以下のインターネットサイト:http://blast.wustl.eduに記載されている。さらに、BLASTアルゴリズムは、BLOSUM62アミノ酸スコア付けマトリックスを使用し、使用可能である選択パラメーターは以下の通りである:(A)低い組成複雑性を有するクエリー配列のセグメント(WoottonおよびFederhenのSEGプログラム(Computers and Chemistry,1993)により決定され;WoottonおよびFederhen,「配列データベースにおける組成編重領域の解析(Analysis of compositionally biased regions in sequence databases)」Methods Enzymol.266:544-71, 1996も参照されたい)、または、短周期性の内部リピートからなるセグメント(ClaverieおよびStates(Computers and Chemistry,1993)のXNUプログラムにより決定される)をマスクするためのフィルターを含むこと、および(B)データベース配列に対する適合を報告するための統計学的有意性の閾値、またはE−スコア(KarlinおよびAltschul,1990)の統計学的モデルにしたがって、単に偶然により見出される適合の期待確率;ある適合に起因する統計学的有意差がE−スコア閾値より大きい場合、この適合は報告されない);好ましいE−スコア閾値の数値は0.5であるか、または好ましさが増える順に、0.25、0.1、0.05、0.01、0.001、0.0001、1e−5、1e−10、1e−15、1e−20、1e−25、1e−30、1e−40、1e−50、1e−75、または1e−100である。
【0041】
規則(3)において、「リッチ」とは特定の塩基が現れる頻度が高いことを意味し、規定配列における3'末端側の5〜10塩基、好ましくは7塩基の配列中にアデニン、チミンおよび/またはウラシルからなる群より選ばれる1種または2種以上が、少なくとも40%以上、より好ましくは50%以上含まれることを意味する。例えば約19塩基程度の規定配列の場合を例に挙げると、3'末端側の7塩基のうち好ましくは少なくとも3塩基以上、より好ましくは4塩基以上、特に好ましくは5塩基以上が、アデニン、チミンおよびウラシルからなる群より選ばれる1種または2種以上である。
【0042】
規則(4)について、規定配列の鎖長は、数塩基から転写産物の全長まで、いずれの長さであってもよい。しかし、生物種などの条件により、塩基数があまりに大きすぎる核酸(例えば、siRNA)が細胞毒性を生じるため、極端に長い核酸は使えない場合がある。規定配列の塩基数の上限は、RNA干渉を生じさせようとする生物の種類などにより異なるが、例えば、siRNAの場合、哺乳動物由来の細胞においては、30塩基数以上の鎖長を有するsiRNAを導入するとインターフェロン応答が生じるため、siRNAの塩基数は、30以下、より好ましくは28以下である。さらに好ましくは24以下、より好ましくは22以下、さらに好ましくは20以下である。また、下限は、RNA干渉を生じさせる核酸を取得可能な限りにおいて特に制限されるものではないが、好ましくは13以上、より好ましくは15以上、さらに好ましくは18以上、より好ましくは20以上である。よって、規則(4)において、標的遺伝子の規定配列は塩基数が13〜28であることが好ましい。特に、哺乳動物由来の細胞等に導入する場合には、13〜28、好ましくは15〜23、さらに好ましくは19〜21塩基数である。標的遺伝子の規定配列は、かかる上限および下限をふまえた塩基数であることが特に好ましく、最も好ましくは19塩基である。この19塩基中、(3)の規則に鑑みると、規定配列の3’末端側の7塩基のうち好ましくは少なくとも3塩基以上、より好ましくは4塩基上、特に好ましくは5塩基以上が、A、Tおよび/またはUである。
【0043】
本発明にかかる核酸において、2重鎖領域の両端は平滑末端であっても、オーバーハング部を有していてもよいが、両端に3’末端が突出したオーバーハング部を有しているのが好ましい。オーバーハング部とは、2重鎖領域の端に存在する、1本鎖の状態で突出する部分である。オーバーハング部は、生物種などにもよるが、塩基数2であることが好ましい。オーバーハング部の塩基配列は、基本的には任意であるが、例えば、TTあるいはUU等が好適に用いられる。
【0044】
なお、上記(1)〜(4)の規則は、Ui-Teiらによるガイドライン(Ui-Tei,K.,Naito,Y.,Takahashi,F.,Haraguchi,T.,Ohki-Hamazaki,H.,Juni,A.,Ueda,R.,Saigo,K.の「Guidelines for the selection of highly effective siRNA sequences for mammalian and chick RNA interference」,Nucleic Acids Research,2004,Vol.32,No.3,936-948)に基づくものであり、PCT/JP2003/014893(WO2004/048566)にも詳細に記載されている。
【0045】
さらに、本発明の核酸において、標的遺伝子の規定配列は、さらに下記(5)の規則:
(5)被導入体の全遺伝子配列のうち、前記標的遺伝子以外の他の遺伝子の塩基配列中に、当該規定配列と90%以上の相同性を有する配列が含まれない
に従う配列であることが好ましい。
【0046】
言い換えると、(5)の規則は、標的遺伝子と関係のない遺伝子におけるRNA干渉(これをオフターゲット効果と呼ぶ)を抑制するために、標的遺伝子の上記(1)〜(4)に従う規定配列は、これと同一又は類似の配列が他の遺伝子に含まれていない塩基配列であることが好ましいことを規定したものである。かかる規則を満たす規定配列を選択することにより、標的遺伝子のみに特異的にRNA干渉を生じさせることができ、オフターゲット効果の低いRNA干渉を実現することが可能となる。規定配列またはその相補配列と同一/類似の配列を検索する方法としては、一般的なホモロジー検索を行うソフトウェア等を用いた方法が挙げられる。
【0047】
例えば、BLAST等を利用して標的遺伝子の規定配列と同一又は類似の配列を他の遺伝子について検索し、当該他の遺伝子に塩基配列のミスマッチ数が小さい類似配列が存在するという検索結果が得られた場合には、このような標的遺伝子の規定配列は除外する。それにより、標的遺伝子に対する特異性の高い配列を選別することができる。具体的に、標的遺伝子の規定配列の塩基数が19である場合には、他の遺伝子にミスマッチが2塩基以下、より好ましくは3塩基以下、さらに好ましくは4塩基以下の類似配列が存在する配列を規定配列から除外することが好ましい。類似性判断の閾値となるミスマッチ数の値の増加に伴って、特異性が高くなる。また、標的遺伝子の規定配列のみならずこれと相補的な配列の両方についても検索を行うことにより、さらに特異性の高い配列が得られる。
【0048】
便宜上、塩基配列の類似性を判断する基準となるミスマッチ数を相同性で規定し、(5)の規則に従う配列であるかどうか、検索することにより類似性を判断して塩基配列を選別することが好ましい。かかる相同性は適宜設定されるものであり、当業者は、所望により規定配列と85%以上、80%以上、75%以上のように適宜設定することが可能である。ここで、規定配列との相同性を低く設定するほど標的配列と類似する他の遺伝子が存在しないこととなる。
【0049】
さらに、センス鎖のセンス配列は、上記(1)〜(4)あるいは(1)〜(5)の規則の他、下記(6)の規則に従う標的遺伝子の規定配列に相同な塩基配列を有することが好ましい。
(6)10塩基以上G又はCが連続する配列を含まない。
【0050】
(6)の規則において、10塩基以上グアニン及び/またはシトシンが連続するというのは、例えば、グアニンまたはシトシンの一方のみが連続する場合と、グアニンおよびシトシンとが混在する配列となっている場合の双方を含み、具体的には、GGGGGGGGGG、CCCCCCCCCCのほか、GおよびCの混合配列であるGCGGCCCGCGなども含まれる。
【0051】
なお、(5)及び(6)については、PCT/IB20035/001647明細書に、詳細に記載されている。
【0052】
標的遺伝子の規定配列は、上記のような塩基配列上の規則だけでなく、これ以外の点に鑑みて適宜選択されてもよい。例えば、上記(1)〜(6)等の規則を満たす規定配列を標的遺伝子から複数選択した後、さらに、当該選択された規定配列の中から、別の条件を付加して配列の選択を行ってもよい。本発明にかかる核酸を設計するための規定配列の検索および選択は、例えば、上記の(1)〜(6)の規則に従う部分を検索可能なプログラムを搭載するコンピュータを用いることにより、効率的な検出および選択が実行可能である。このような核酸の設計により、RNA干渉効果の高い核酸分子を、高い確率でしかも容易に設計することができる。
【0053】
後述の実施例2では、本発明にかかる核酸の一態様として、下記のように配列番号1に示す塩基配列を有するセンス鎖と、配列番号2に示す塩基配列を有するアンチセンス鎖と、から構成された2本鎖RNAや、配列番号3に示す塩基配列を有するセンス鎖と、配列番号4に示す塩基配列を有するアンチセンス鎖から構成された2本鎖RNAなどのsiRNAを例示する。これらのsiRNAでは、19塩基数のセンス配列の3’末端に2塩基のオーバーハング部が設けられて21塩基から成るセンス鎖が構成され、19塩基数のアンチセンス配列の3’末端に2塩基のオーバーハング部が設けられて21塩基から成るアンチセンス鎖が構成されている。
センス鎖:CUUCCCGUCUCAGAAUCUAAA(配列番号1)
アンチセンス鎖:UAGAUUCUGAGACGGGAAGUG(配列番号2)
センス鎖:GGCAGAGCACGGUAUACUAAA(配列番号3)
アンチセンス鎖:UAGUAUACCGUGCUCUGCCUG(配列番号4)
【0054】
本発明にかかる核酸は、遺伝子組み換え技術(具体的な一例としては、所定の配列を有するDNA鎖を作製し、これを鋳型として転写酵素を用いて一本鎖RNAを合成し、一本鎖RNAを2本鎖化するなどの手法)、化学的または酵素的合成等の公知技術を適宜用いることによって製造することができる。
【0055】
<3>プロサイモシンαの発現抑制を利用した細胞増殖および浸潤の抑制方法
本発明にかかるプロサイモシンαの機能抑制方法の一実施形態として、上記<2>記載の核酸を、プロサイモシンαを発現している細胞に導入してプロサイモシンα遺伝子の発現を抑制することにより、プロサイモシンαの機能を抑制することができる。ここで、本発明の発現抑制方法において、「プロサイモシンα遺伝子の発現を抑制する」とは、プロサイモシンαの生成を減少させることを意味する。通常、プロサイモシンαのmRNA量が減少すれば(図7B参照)、プロサイモシンαの生成が抑制されるため(図7A参照)、発現抑制のアッセイ系は、mRNAのレベルを測定するものであっても良い。すなわち、mRNA量が実質的に減少していれば、その変化の幅の大小にかかわらず、プロサイモシンαの発現抑制が実現されているとみなせる。上記<2>で述べた核酸を用いる本発明のプロサイモシンαの発現抑制方法によれば、プロサイモシンαのmRNA量を、ほぼ完全に無くすことが可能となり、また、当該核酸を用いれば、プロサイモシンαの発現抑制効果が10日間程度持続する。
【0056】
細胞に核酸としてsiRNAを導入する方法は、常法に従い、トランスフェクション、エレクトロポレーション、リポフェクションなどで、siRNAを直接細胞内に取り込ませることもできる。あるいは、規定配列およびオーバーハング部からなる塩基配列を有する発現ベクターを作製し、同様の方法によって、細胞内に導入する(WO01/36646、WO01/49844)こともできる。
【0057】
本発明にかかるプロサイモシンαの発現抑制方法によれば、プロサイモシンα遺伝子を標的として効率よくRNA干渉を生じさせる核酸を用いるため、効率よく、また簡便にプロサイモシンαの発現を抑制することが可能となる。さらに、後述の実施例2で示すように、プロサイモシンα遺伝子の発現抑制によって前立腺癌細胞の増殖および浸潤を抑制することができる。したがって、この方法を前立腺癌や前立腺上皮内腫瘍の患者に適用することにより、当該疾患の進行を抑制・阻害でき、それらの腫瘍に対する有効な治療方法が得られる。
【0058】
<4>前立腺癌の検定方法
本発明にかかる前立腺癌の検定方法は、採取した試料における前立腺癌の進行度判定に用いられる前立腺癌の検定方法であって、前記試料中のプロサイモシンαの発現レベルに基づいて検定を行うことを特徴とする。言い換えれば、プロサイモシンαを前立腺癌の診断用マーカーとして利用する。
【0059】
後述の実施例1で示すように、前立腺癌の進行とプロサイモシンαの発現量との間には、有意な相関が見られる。例えば、正常な前立腺上皮、前立腺上皮内腫瘍、前立腺癌の各場合について採取した細胞では、プロサイモシンαの発現量が前立腺癌の場合で最も多く、次いで、前立腺上皮内腫瘍の場合が多い(例えば、図2参照)。また、Gleasonパターンが2、3、4、5の各細胞では、パターン5の場合でプロサイモシンαの発現量が最も多く、パターン2に向かって順次発現量が低下する(例えば、図5参照)。したがって、このような相関関係に基づき、プロサイモシンαの発現量を用いることによって前立腺癌の進行度を判定することが可能となる。この方法を前立腺癌の診断に適用することにより、診断精度の向上が図られ、有効かつ簡便な診断が実現可能となる。
【0060】
例えば、本発明の方法の一態様として、生検で取得した試料に対し、免疫組織化学的分析によりプロサイモシンαの発現量を測定してもよい。具体的には、後述の実施例1で示すように、酵素標識抗体法であるABC法(avidine-biotinylated peroxidase complex法)によりプロサイモシンαの発現量を測定し、当該測定結果に基づいて、前立腺癌の進行度を判定してもよい。この場合、隣接する正常前立腺管腔上皮の発現量と比較し、前立腺癌組織において、プロサイモシンαの発現量が少なければ進行度が低く、発現量が多ければ進行度が高いと判定する。かかる判定は、所定のプロサイモシンα発現量を閾値とし、かかる閾値に基づいて行ってもよい。
【0061】
さらに、本発明にかかる検定方法は、組織病理学上の分類方法(具体的には、従来の病期分類法やGleasonスコア等)に基づく検定方法や、PSAおよびPAPに基づく検定方法や、直腸診に基づく検定方法等と併用して用いてもよい。それにより、より精度の高い診断が可能となる。病期分類はJewett Staging systemを用いてもよい。この分類は病期Aは臨床的に前立腺癌と診断されず、前立腺手術においてたまたま組織学的に診断された前立腺に限局する癌を指し,A1は限局性の高分化腺癌、A2は中あるいは低分化腺癌、あるいは複数の病巣を前立腺内に認めるものである。病期Bは前立腺に限局している腺癌で、B0は触診では触れず、PSA高値にて精査され組織学的に診断されるもの、B1は片葉内の単発腫瘍、B2は片葉全体あるいは両葉に存在するものを指す。病期Cは前立腺には留まっているが前立腺被膜は越えているか、精嚢に浸潤するもので、C1は臨床的に被膜外浸潤が診断されたもの、C2は膀胱頸部あるいは尿管の閉塞を来したものを指す。病期Dは転移を有するもので、D0は臨床的には転移を認めないが、血清酸性フォスファターゼの持続的上昇を認め、転移の存在が強く疑われるもの、D1は所属リンパ節転移を有するもの、D2は所属リンパ節以外のリンパ節転移、骨、その他臓器への転移、D3はD2に対する適切な内分泌療法後の再燃したものを指す。またGleason分類はThe Veterans Admionistration Cooperative Urological Research Group (VACURG)による1960年から1975年における患者の解析から生まれた分類である。基本的に低倍率で組織を顕微鏡観察して診断し、前立腺癌をその組織構築と浸潤様式により分類し、それをスコア化してGleason patternとして優位な組織像のスコアと次に優位な組織像のスコアを合計するものである。具体的にはGleason patternは1から5まで5段階に分類され、最も多くの面積を占める組織像をPrimary pattern、次に優位な組織像をsecondary patternとする。GleasonスコアはPrimary patternおよびsecondary patternの合計として示されるがsecondary patternが5%以下ならPrimary patternを2倍する。実例としてPrimary pattern 4, secondary pattern 5の症例のGleasonスコアは9であり、Gleasonスコア 4+5=9と表記する。
【0062】
このように、本発明にかかる前立腺癌細胞の検定方法によれば、簡便かつ高精度で前立腺癌の診断(具体的には、進行の程度等の診断)が可能となる。前立腺癌は、悪性度の低い初期の小さな腫瘍細胞から悪性度の高い大きな癌に変化していく速度が極めて遅いことから、上記効果を奏する本発明の利用により、前立腺癌の早期発見および早期治療が可能となる。それにより、癌の進行を有効に抑制することが可能となり、癌による死亡率の低下が図られる。
【0063】
<5>前立腺癌診断キット
本発明にかかる前立腺癌診断キットは、当該癌の進行度の判定に用いられる前立腺癌診断キットであって、被検体から採取した試料中のプロサイモシンαの発現量を検出する検出手段を含むことを特徴とする。このような前立腺癌診断キットの構成は、上記<4>記載の検定方法を実現できる構成であれば特には限定されないが、例えば、プロサイモシンαの発現量の検出手段は、酵素標識抗プロサイモシンα抗体及び/または該酵素の基質であってもよく、あるいは、プロサイモシンαのmRNA量を測定するための試薬、例えばPCRの場合、TAQポリメラーゼ及び/またはプライマーであってもよい。かかるキットは、このような検出手段以外に、適宜、バッファー等の試薬類を含んで構成される。
【実施例】
【0064】
以下、実施例に基づき、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。以下においては、プロサイモシンαを「PTMA」と記すことがある。
【0065】
実施例1:前立腺癌の進行とプロサイモシンα遺伝子の発現との関係
実施例1において、前立腺癌の進行とプロサイモシンα遺伝子の発現との関係を調べるため、正常な前立腺、前立腺肥大症(BPH)、限局性前立腺癌、ホルモン耐性前立腺癌の生検から試料を採取した。そして、各試料を用いて、1)ステージ(病期)分類および2)Gleasonスコアに基づく前立腺癌の進行度判定、リンパ節転移の確認、プロサイモシンαの発現量の測定、を行った。なお、ここでは、1)の方法として、米国泌尿器科学会(AUA)により開発されたAUA分類システムを用いた。
以下、実施例1について、項目に沿って詳細に説明する。
【0066】
1−1.試料
正常な前立腺の試料(n=5)は、膀胱癌のための膀胱前立腺全摘術を受けた患者から取得した。前立肥大症(BPH)の試料(n= 15)は、前立腺肥大症のための局部的前立腺切除を受けた患者から取得した。限局性前立腺癌の試料(n= 59)は、前立腺癌のために前立腺全摘術を受けた患者から取得した。これらの試料を採取した患者は、いずれも、化学療法、放射線療法、ホルモン療法を予め受けていない。また、ホルモン耐性前立腺癌の試料(n=9)は、ホルモン療法にもかかわらず当該癌が進行して死亡したヒト検体から死後3〜4時間以内に採取した。
【0067】
1−2.免疫組織化学的分析
ここでは、酵素標識抗体法であるavidine-biotinylated peroxidase complex法(以下、ABC法と記載する)を用い、試料中におけるプロサイモシンαの発現レベルを調べた。ここでは、後述するように、ABC法を用いた分析で取得された吸光度(Optical Density:O.D.)を、プロサイモシンαの発現レベルとした。
【0068】
具体的には、まず、従来の方法にしたがって、採取した上記各試料をアルコール脱水およびパラフィン包埋し、パラフィン切片を作製した。続いて、脱パラフィン後、1mMのEDTA(pH8.0)中、当該切片を120℃で5分間オートクレーブし、その後、0.5%H2O2のメタノール溶液で30分間処理した。さらに、この切片を、希釈した抗プロサイモシンα抗体(一次抗体に相当)とともに2時間室温で培養し、その後、PBS中、スキムミルクを用いて30分間培養した。抗プロサイモシンα抗体は、Alexis Biochemicals社製のanti-ProTα MAb(clone 2F11)を用いた1:3,000)。続いて、切片を、ビオチン化二次抗体であるbiotin-labeled horse anti-mouse IgGと30分間反応させた。この場合、免疫反応は、市販のavidin-biotin complex(Vector laboratories Inc.社製の「Vectastain ABC elite kit」)を用いて行った。その後、切片を3’3-diaminobenzidine(DAB)で処理して発色させた。その後、光学顕微鏡による観察のため、ヘマトキシリンおよびエオジンを用いて切片の染色(HE染色)を行った。
【0069】
なお、上記のABC法や染色において、記載を省略した処理工程や試薬等については、従来法に順じている。また、ネガティブコントロールとして、上記の抗プロサイモシンα抗体を用いた実施例と並行して、1次抗体で処理しない実験も行い、抗プロサイモシンα抗体の特異性の確認を行った(後述の図1C参照)。
【0070】
上記のようにABC法で処理した切片に対し、光学顕微鏡で観察するとともに、住化テクノサービス株式会社製のImage Processor for Analytical Pathology(IPAP−WIN)を用いて、プロサイモシンαの定量を行った。具体的には、病巣の腺構成成分における吸光度(O.D.)を測定し、得られた測定値をプロサイモシンαの発現レベルとみなした。
【0071】
1−3.結果
図1A〜1Lは、各切片の顕微鏡写真である。図1B〜図1Lにおいて、図中の黒色部分がプロサイモシンαの発現部分に相当する。以下、図1A〜図1Lの詳細を述べる。
【0072】
図1A〜図1Cは、後述の図3の患者2の場合における前立腺の連続切片であり、図1Aは、HE染色の結果を示し、図1Bは、抗プロサイモシンα抗体を用いた抗体染色の結果を示し、図1Cは、ネガティブコントロール(1次抗体無し)の結果を示す。図1A〜図1Cにおいて、図中の矢印sの部分は正常上皮であり、矢印tの部分は腺癌である。
【0073】
図1Dは、図3の患者2の前立腺正常上皮におけるプロサイモシンαの発現を示す。図1Eは、前立腺肥大症(BPH)の前立腺におけるプロサイモシンαの発現を示す。図1Fは、図3の患者51の前立腺上皮内腫瘍(PIN)におけるプロサイモシンαの発現を示す。
【0074】
図1G〜図1Lは、前立腺癌におけるプロサイモシンαの発現を示している。具体的に、図1Gは、図3の患者44の前立腺癌におけるGleasonパターン3の原発巣での発現を示す。図1Hは、図3の患者20の前立腺癌におけるリンパ節に転移した癌での発現を示す。図1Iは、図3の患者20の前立腺癌におけるGleasonパターン5の原発巣での発現を示す。図1Jは、図3の患者57の前立腺癌におけるGleasonパターン4の原発巣での発現を示す。図Kは、図3の患者57の前立腺癌におけるGleasonパターン4の原発巣での発現を示す。図1Lは、後述の図4の患者a3の前立腺癌におけるGleasonパターン5の原発巣での発現を示す。
【0075】
図2は、前立腺切除により採取された、正常上皮、前立腺肥大症(BPH)、前立腺上皮細胞内癌(PIN)、および前立腺癌(Cancer)の各々の場合におけるプロサイモシンαの発現レベルを示している。ここでは、前立腺肥大症の15の病巣におけるプロサイモシンαの発現レベル、前立腺上皮内腫瘍の49の病巣におけるプロサイモシンαの発現レベル、前立腺癌の140の病巣におけるプロサイモシンαの発現レベル、59人の前立腺癌患者の正常な上皮におけるプロサイモシンαの発現レベルについてそれぞれ調べた結果を示す。図中の縦軸は、プロサイモシンαの発現レベルに相当する吸光度(O.D.)を示している。また、図中の「###」は、スピアマンの順位相関係数の検定において、p<0.0001の有意差をもって正常上皮から前立腺上皮内腫瘍、癌という悪性への進展に従い発現が上昇していくことを示している。また、「***」は正常上皮およびBPHに比較してp<0.001で有意に発現差があることを示している。
【0076】
図3は、上述した方法で行った、前立腺癌の59の患者における病期分類、Gleasonスコアおよびパターン、ならびにプロサイモシンαの発現レベルを示す図である。図3において、「Stage」の欄は、前述した上記1)の方法による病期分類を示している。「Gleason’s score」の欄は、前述した上記2)の方法によるGleasonスコアを示している。「signal intensity(O.D.)/Gleason’s pattern」の欄は、腺癌成分のGleasonパターンによる分類、および当該成分の領域における吸光度(O.D.)を示している。「lymph node metastasis」の欄は、リンパ節転移が存在する場合の当該領域の吸光度(O.D.)を示している。
【0077】
図3の見方を説明すると、例えば、患者1の場合、病期分類は「B1」であり、Gleasonスコアは「6」であり、Gleasonパターンが「3」である病巣の腺癌成分におけるプロサイモシンαの発現レベルは吸光度(O.D.)で18.04である。この場合、リンパ節転移は、見られなかった。また、患者57の場合、病期分類は「D1」であり、Gleasonスコアは「9」であり、Gleasonパターンが「4」である最も面積の大きい病巣の腺癌成分におけるプロサイモシンαの発現レベルは吸光度(O.D.)で67.67であり、Gleasonパターンが「5」である二番目に面積の大きい病巣の腺癌成分におけるプロサイモシンαの発現量は吸光度で78.03であり、Gleasonパターンが「3」である病巣の腺癌成分におけるプロサイモシンαの発現レベルは吸光度で40.94であり、リンパ節転移部分のプロサイモシンαの発現レベルは吸光度(O.D.)で54.42である。このように、患者57の場合には、1つの試料において、Gleasonパターンの異なる複数の腺癌が見られた。
【0078】
図4は、ホルモン耐性前立腺癌により死亡した患者から試料を採取したa1〜a9の9つの患者におけるGleasonパターンとプロサイモシンαの発現レベルとを示す図である。図4において、「Lesion」の欄は病巣の範囲を示しており、当該欄の「LN」の記載は、Lymph Nodeの略である。
【0079】
図5は、組織学的な分類であるGleasonパターンとプロサイモシンαの発現レベルとの関係を示す図であり、パターン2からパターン5の各々におけるプロサイモシンαの発現レベルを示している。図5において、縦軸は、プロサイモシンαの発現レベルに相当する吸光度(O.D.)を示している。また、図中の「###」は、スピアマンの順位相関係数の検定において、p<0.0001の有意差をもってGleasonパターン増加という悪性指標に従って発現が上昇していくことを示している。また、「***」は、Gleasonパターン2や3に比較してp<0.001で有意に発現差があることを示している。
【0080】
以下、図1A〜図1L、図2、図3、図4および図5を参照して実施例1の結果を詳述する。図1Aに示すように、プロサイモシンαは、細胞質(エオジンで赤く染色される図1A中の暗色部分)および核(ヘマトキシリンで青く染色される部分であり図1A中の透明部分に相当)の両方において免疫組織化学的に陽性を示すことから、細胞質および核の両方にプロサイモシンαが存在することが明らかになった。また、図1D〜図1Lおよび図2に示すように、プロサイモシンαは、正常な前立腺上皮、前立腺肥大症(BPH)、前立腺上皮内腫瘍(PIN)および前立腺癌のいずれの場合においても発現するが、前立腺肥大症の場合は正常な前立腺上皮と同程度の低い発現レベルであるのに対して、前立腺上皮内腫瘍および前立腺癌の場合では、前立腺肥大症の場合や正常な前立腺上皮の場合に比べて、高い発現レベルを示す。正常な前立腺上皮では、分泌細胞の方が基底細胞に比べてプロサイモシンαの発現レベルが高かった。
【0081】
図3〜図5に示すように、プロサイモシンαの発現レベルは、前立腺癌の進行に伴って増加した。このようなプロサイモシンαの発現レベルは、従来の病期分類法およびGleasonスコアに対して統計的に意味がある、言い換えれば、プロサイモシンαの発現レベルは病期分類法およびGleasonスコアと有意な相関を有している。例えば、病期分類法やGleasonスコアのような組織学的パターンに基づく診断で癌進行度が低いと判定された場合は、プロサイモシンαの発現量が低く、当該診断で癌進行度が高いと判定された場合は、プロサイモシンαの発現量が高いという相関関係が成り立つ。具体的には、病期分類法およびGleasonスコアとプロサイモシンαの発現量との間では、スピアマンの順位相関係数の検定における順位相関係数の有意水準Pが病期分類法およびGleasonスコアに対してそれぞれp<0.05、p<0.01であり、また、図5に示すように、Gleasonパターンとプロサイモシンαの発現量との間におけるスピアマンの順位相関係数の検定において、順位相関係数の有意水準Pはp<0.0001であった。また、図3に示すように、死亡に至る患者では、ほとんど全ての場合においてGleasonパターンが5であり、この場合のプロサイモシンαの発現量は高レベル、具体的には、多くの患者においてプロサイモシンαの発現レベル(O.D.値)が50.0以上となることが示された。
【0082】
以上より、プロサイモシンα遺伝子の発現を調べることにより、前立腺癌の進行度を検定することができることが明らかである。
【0083】
実施例2.siRNAを用いた前立腺癌細胞におけるプロサイモシンα遺伝子の発現抑制
実施例2においては、前立腺癌細胞におけるプロサイモシンα遺伝子の発現を、siRNAを用いたRNA干渉により抑制し、それにより、前立腺癌細胞の細胞増殖および浸潤を抑制した。以下、詳細を各項目に沿って説明する。
【0084】
2−1.プロサイモシンαの発現系選択
ここでは、プロサイモシンαを発現するヒト前立腺癌細胞を選択するため、ヒトの前立腺癌細胞系であるDU145、LNCaP、PC3および22Rv1を準備するとともに、前立腺上皮細胞であるPrECを準備した。DU145、LNCaP、PC3および22Rv1は、American Type Culture Collectionから取得し、PrECは、Cambrex BioScience Walkersville,Inc.社製のものを用いた。
【0085】
これらの前立腺細胞系DU145、LNCaP、PC3、22Rv1およびPrECについて、抗プロサイモシンα抗体を用いた免疫ブロット法により、プロサイモシンα遺伝子の発現を調べた。プロサイモシンα(clone 2F11)のモノクローナル抗体は、Alexis Biochemicals社製のものを用いた。また、コントロール実験として、これらの前立腺細胞系におけるβ−アクチンの発現を抗β−アクチン抗体(シグマ社製)を用いて同様の方法により調べた。
【0086】
免疫ブロット法については、従来技術に従った。ここでは、まず、下記組成を有するRIPA緩衝液に細胞を溶解させた。
【0087】
<RIPA緩衝液の組成>
150mM NaCl、50mM Tris−HCl(pH8.0)、1% NP−40、0.5% sodium deoxycholate、0.1% SDS、1mM phenylmethylsulphonyl fluoride、1mM sodium orthovanadate、Protease inhibitor cocktail(Roche Diagnostics社製)
かかる細胞溶解物中から10μgのタンパク質をSDS−PAGEを用いて電気泳動し、分画したタンパク質を20mMの酢酸ナトリウム液(pH5.2)を用いてニトロセルロース膜に移し、0.5%グルタルアルデヒドで5分固定した。続いて、ニトロセルロース膜を5%脱脂乳/TBS溶液でブロッキングした後、TBS中に1000分の一希釈した抗プロサイモシンα抗体と室温で1時間反応させた。そして、同様に、二次抗体である抗マウスIgG抗体(1:10,000、 アマシャム バイオサイエンス株式会社)と1時間反応させた。その後、ECL plus western blotting detection試薬(Amersham Biosciences社製:「Piscataway」)を用いて、プロサイモシンαのバンドの検出を行った。なお、内部マーカーとして、β−アクチンについても、プロサイモシンαの場合と同様の方法により分析を行った。
【0088】
図6に、DU145、LNCaP、PC3、22Rv1およびPrECにおける上記免疫ブロット法の結果を示す。前立腺癌細胞であるDU145、LNCaP、PC3および22Rv1ではプロサイモシンαの発現が見られたが、前立腺上皮細胞であるPrECでは、プロサイモシンαの発現がほとんど見られなかった。本実施例では、免疫ブロット法の結果と、後に述べる浸潤能検討実験を行いやすい点とを考慮し、プロサイモシンαの発現系に前立腺癌細胞であるPC3及びLNCaPを用いた。
【0089】
2−2.PC3に導入するsiRNAの作製とPC3細胞への導入
PC3に導入するsiRNAとして、以下のsiRNA(株式会社RNAi社製)を用いた。具体的には、配列番号1に示す塩基配列を有する21塩基のセンス鎖RNAと、配列番号2に示す塩基配列を有する21塩基アンチセンス鎖RNAとから構成されるsiRNA(以下、このsiRNAをPTMA−siRNA1と呼ぶ)を準備するとともに、ネガティブコントロールとして、配列番号5に示す塩基配列を有する21塩基のセンス鎖RNAと、配列番号6に示す塩基配列を有する21塩基アンチセンス鎖RNAとから構成されるsiRNA(以下、このsiRNAをCont.−siRNAと呼ぶ)を用意した。これらの2本鎖siRNAは、上記配列を有するセンス鎖とアンチセンス鎖とを、10mMのTris−HCl(pH7.5)、20mMのNaCl反応溶液中、90℃で3分間加熱し、そして、37℃で1時間インキュベートした後に、室温になるまで放置して会合させることにより作製された。なお、これらの2本鎖siRNAを、2%アガロースゲルで電気泳動し、センス鎖とアンチセンス鎖との会合を確認した。
【0090】
<PTMA−siRNA1の塩基配列(5’→3’)>
センス鎖:CUUCCCGUCUCAGAAUCUAAA(配列番号1)
アンチセンス鎖:UAGAUUCUGAGACGGGAAGUG(配列番号2)
<Cont.−siRNAの塩基配列(5’→3’)>
センス鎖:GUACCGCACGUCAUUCGUAUC(配列番号5)
アンチセンス鎖:UACGAAUGACGUGCGGUACGU(配列番号6)
PC3細胞は、RPMI1640培地(InVitrogen社製)に0.1%ウシ血清アルブミン(シグマ社製)を添加したものを用い、37℃、5%CO2存在下で培養した。siRNAのPC3細胞への導入は、Amaxa社製のNucleofector IIを用い、1x106個の細胞に、PTMA−siRNA1およびCont.−siRNAをそれぞれ3μg導入した。導入操作は当該機器のマニュアルに従って行った。
【0091】
2−3.LNCaPに導入するsiRNAの作製とLNCaP細胞への導入
LNCaPに導入するsiRNAとして、以下のPTMA−siRNA2(株式会社RNAi社製)を用いた以外は、2−2と同様にsiRNAを調整した。なお、ネガティブコントロールとしては、2−2と同様に、Cont.−siRNAを用いた。
【0092】
LNCaP細胞の培養及びsiRNAの導入も、PC3細胞と同様に行った。
【0093】
<PTMA−siRNA2の塩基配列(5’→3’)>
センス鎖:GGCAGAGCACGGUAUACUAAA(配列番号3)
アンチセンス鎖:UAGUAUACCGUGCUCUGCCUG(配列番号4)
【0094】
2−4.siRNAによるプロサイモシンαの発現抑制
<1>免疫ブロット法による解析
PTMA−siRNA1およびCont.−siRNAをPC3細胞へ導入し48時間後に、PC3細胞を、5×103個/200μl培地の濃度で96穴プレートにトランスファーし、さらに培養を続けた。そして、siRNA導入から3日後、5日後および7日後に細胞を回収し、前述した免疫ブロット法を用いてプロサイモシンαの発現量を解析した。
PTMA−siRNA2およびCont.−siRNAを、同様にLNCaP細胞へ導入し、今回は、3日後、5日後、7日後、10日後および14日後に細胞を回収し、プロサイモシンαの発現量を解析した。
【0095】
<2>リアルタイムRT−PCR法による解析
さらに、ここでは、リアルタイムRT−PCRにより、プロサイモシンα遺伝子の発現を調べた。このリアルタイムRT−PCRでは、RNeasy Mini kit(Qiagen社製)を用いて全RNAを抽出し、Superscript II(InVitrogen社製)と下記塩基配列を有するプライマー対A(配列番号7および配列番号8)とを用いて、逆転写によりプロサイモシンαにかかるcDNAを取得し、PCRで増幅させて発現を測定した( 94℃5秒、60℃15秒、72℃30秒を 40cycle )。リアルタイムRT−PCRにおける測定データの収集および分析は、LightCycler(Roche Diagnostics社製)を用いて行った。
【0096】
プライマー対A(5’→3’)
TGCCCCACCATGTCAGACGC(配列番号7)
GTCTAGTCATCCTCGTCGGTC(配列番号8)
また、ここでは、GAPDHを内部コントロールとして利用し、GAPDHについてプロサイモシンαの場合と同様の操作を行ってGAPDHの検出結果に基づきプロサイモシンαの測定結果を標準化した。GAPDHのRT−PCRにおいては、下記塩基配列を有するプライマー対B(配列番号9および配列番号10)を用いた。
【0097】
プライマー対B(5’→3’)
AACGGATTTGGTCGTATTGG(配列番号9)
GGGTGGAATCATATTGGAAC(配列番号10)
本実施例では、このようなプロサイモシンαおよびGAPDHのRT−PCRによる発現測定を3回行った。
【0098】
結果
図7Aは、PTMA−siRNA1およびCont.−siRNAをいずれも導入しなかった未処理の場合(図中の矢印aで示す)、Cont.−siRNAを導入した場合(図中の矢印bで示す)、およびPTMA−siRNA1を導入した場合(図中の矢印cで示す)における、siRNA導入から3日後、5日後、および7日後の免疫ブロット法の結果を示す図である。また、図7Bは、未処理の場合(図中の矢印aで示す)、Cont.−siRNAを導入した場合(図中の矢印bで示す)、およびPTMA−siRNA1を導入した場合(図中の矢印cで示す)における、siRNA導入から3日後、5日後、および7日後のリアルタイムRT−PCRの結果を示す図である。図7B中において、縦軸は、未処理の場合のmRNA量を1とした相対量を示している。また、図中の「***」は、スピアマンの順位相関係数の検定において、順位相関係数の有意水準Pが、Cont.−siRNAおよび未処理の場合に対し、p<0.0001であることを示している。
【0099】
PTMA−siRNA1を導入した場合(矢印cの場合)には、導入から7日後においてもプロサイモシンαの発現が抑制されており(図7A参照)、また、プロサイモシンαのmRNA量が少なかった (図7B参照)。一方、Cont.−siRNAを導入した場合(矢印bの場合)には、未処理の場合(矢印aの場合)と同様のプロサイモシンαの発現(図7A参照)およびmRNA量(図7B参照)が検出された。このことから、PTMA−siRNA1は、プロサイモシンα遺伝子に対してRNA干渉を生じさせて、それにより、プロサイモシンαの発現を抑制することが明らかとなった。
【0100】
また、図8に示すように、PTMA−siRNA2を導入したLNCaP細胞においても、siRNA導入後5日目までは、完全にmRNAが消失したが、7日目に少し発現が回復し、14日目には、ほぼsiRNAによる発現阻害効果は無くなった(図8)。
このように、どちらの場合においても、少なくとも1週間は、siRNAによる発現阻害効果が有効に生じていた。
【0101】
2−5.PC3へのsiRNA導入による細胞増殖・浸潤抑制
siRNA導入によるPC3の細胞増殖及び浸潤を調べるため、以下の解析を行った。この2つの分析においては、下記のようにPTMA−siRNA1を導入したものおよびCont.−siRNAを導入したものについて調べるとともに、いずれのsiRNAも導入しないで同様の処理を行った非処理のものについても調べた。
【0102】
<1>細胞増殖
PTMA−siRNA1およびCont.−siRNA導入から48時間後のPC3を、5×103個/200μl培地の濃度で96穴プレートに植えて培養するとともに、WST−1アッセイ法のマニュアルに従い、培地にWST−1(Roche Diagnostics社製)を添加した。そして、siRNA導入から3日後および5日後の生細胞におけるWST−1の吸光度を分光光度計を用いて測定し、細胞数を算定した。WST−1は、セルトランスフェレーション試薬であるテトラゾリウム塩であり、細胞におけるWST−1の吸光度を測定することにより、細胞の代謝活性を測定し、細胞数とするアッセイシステムである。ここでは、このようなWST−1アッセイ法による細胞数の測定を、それぞれ3回ずつ行った。
【0103】
<2>浸潤
細胞浸潤を促進する化学誘引物質であるフィブロネクチンを10μg/ml含有する上記RPMI1640培地を分注した24穴プレートの各ウエルに、Matrigel MatrixでコートしたCell culture insert(BD Biosciences社製)を入れた。そして、PTMA−siRNA1およびCont.−siRNA導入から48時間後のPC3のうち、PRMI1640培地中を浮遊する細胞(1×105個)をCell culture insertに播種し、5%CO2存在下、37℃で22時間培養した。培養後、Saitoらの方法(Saito K,Oku T,Ata N,Miyashiro H,Hattori M,Saiki I,A modified and convenient method for assessing tumor cell invasion and migration and its application to scriining for inhibitors.Biol Pharm Bull 1997;20(4):345-348)に従い浸潤能に対する影響を検討した。具体的にはCell culture insertをメタノールに浸して細胞を5分間固定した後、0.5%クリスタルバイオレットで30分間染色した。その後、蒸留水で洗浄しCell culture insertの膜上面に存在する細胞を綿棒で完全に除去した後十分に風乾した。その後Cell culture insertから膜を切り離して96-well plate内に入れ、各wellに100μL 30%酢酸を加えて5分間インキュベートし、膜下面に浸潤した細胞からクリスタルバイオレット色素を溶出した。浸潤細胞数に比例して色素の溶出量は増加するので、波長590nmにおける吸光度を分光光度計を用いて測定することで浸潤細胞数を定量的に評価した。ここでは、このようなアッセイを3回行った。
【0104】
結果
図9は、未処理の場合(図中の矢印aの場合)、Cont.−siRNAを導入した場合(図中の矢印bの場合)、およびPTMA−siRNA1を導入した場合(図中の矢印cの場合)における、導入から3日後および5日後の上記<b−1>のWST−1アッセイの結果を示す図である。図9の縦軸は、3日後、および5日後の各経過時における未処理の場合の細胞数を100%とした相対量を示している。また、図中の「**」は、スピアマンの順位相関係数の検定において、順位相関係数の有意水準Pが、Cont.−siRNAの場合および未処理の場合に対し、p<0.01であることを示している。このグラフから、PTMA−siRNA1を導入したPC3においては、細胞増殖が抑制されていることが明らかである。
【0105】
図10および図11は、細胞浸潤を観察するための<b−2>の分析における、未処理の場合(図中のaの場合)、Cont.−siRNAを導入した場合(図中のbの場合)、およびPTMA−siRNA1を導入した場合(図中のcの場合)の結果を示す図である。図10は、これらの各場合において取得された波長590nm帯の吸光度(O.D.)を示している。図中の「**」は、スピアマンの順位相関係数の検定において、順位相関係数の有意水準Pが、Cont.−siRNAの場合および未処理の場合に対し、p<0.01であることを示している。図11は、これら各場合の顕微鏡写真である。図10および図11に示すように、膜下面に浸潤したPC3細胞数は未処理、Cont.-siRNAの場合に比較してPTMA-siRNA導入により顕著に減少した。PTMA−siRNA1導入の場合(cの場合)、すなわち図7Aおよび図7Bで前述したRNA干渉によってプロサイモシンαの発現が抑制される場合には、浸潤が抑制されることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の実施例1における、ABC法によるプロサイモシンαの発現分析の結果を示す図である。
【図2】本発明の実施例1における、正常上皮、前立腺肥大症、前立腺上皮細胞内癌、および前立腺癌の各場合のプロサイモシンαの発現量を示す図である。
【図3】本発明の実施例1における、前立腺切除を行った59の患者についての従来法による診断およびプロサイモシンαの発現量を示す図である。
【図4】本発明の実施例1における、検体から試料採取した場合についての従来法による診断およびプロサイモシンαの発現量を示す図である。
【図5】本発明の実施例1における、前立腺癌病巣のGleasonパターンとプロサイモシンαの発現量との相関を示す図である。
【図6】本発明の実施例2における、前立腺細胞系でのプロサイモシンαの発現を免疫ブロット法で分析した結果を示す図である。
【図7】本発明の実施例2における、PC3細胞に対する、PTMA−siRNA1のプロサイモシンα発現抑制効果を示す図である。
【図8】本発明の実施例2における、LNCaP細胞に対する、PTMA−siRNA2のプロサイモシンα発現抑制効果を示す図である。
【図9】本発明の実施例2における、PTMA−siRNA1の細胞増殖抑制効果をWST−1アッセイ法で分析した結果示す図である。
【図10】本発明の実施例2における、フィブロネクチンを細胞増殖促進剤として添加した場合のPTMA−siRNA1の細胞増殖抑制効果をWST−1アッセイ法で分析した結果を示す図である。
【図11】本発明の実施例2における、PTMA−siRNA1の細胞増殖抑制効果を顕微鏡で調べた結果を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前立腺癌の治療に用いるための抗癌剤であって、プロサイモシンαの機能抑制用組成物を有効成分として含有する抗癌剤。
【請求項2】
前記機能抑制組成物が、プロサイモシンαの発現を抑制することにより前記プロサイモシンαの機能を抑制する、プロサイモシンαの発現抑制用組成物であることを特徴とする請求項1に記載の抗癌剤。
【請求項3】
前記発現抑制用組成物が、プロサイモシンα遺伝子の発現を抑制することのできる核酸を含有することを特徴とする請求項2記載の抗癌剤。
【請求項4】
プロサイモシンα遺伝子に対してRNA干渉を生じさせることにより、プロサイモシンα遺伝子の発現を抑制することを特徴とする請求項3記載の抗癌剤。
【請求項5】
プロサイモシンα遺伝子を標的遺伝子とし、当該標的遺伝子に対してRNA干渉を生じさせる核酸であって、
2重鎖領域を有し、
前記2重鎖領域における一方の鎖が、標的遺伝子の塩基配列中に含まれる、下記(1)〜(4)の規則;
(1) 3’末端の塩基が、アデニン、チミンまたはウラシルであり;
(2) 5’末端の塩基が、グアニンまたはシトシンであり;
(3) 3’末端の7塩基の配列において、アデニン、チミンおよびウラシルからなる群より選ばれる一種又は二種以上の塩基がリッチであり;
(4) 塩基数が、細胞毒性を生じさせずにRNA干渉を生じさせ得る数である
に従う規定配列と相同な塩基配列からなり、そして、
前記2重鎖領域における他方の鎖が、前記規定配列と相同な塩基配列と相補的な配列を有する塩基配列からなる
ことを特徴とする核酸。
【請求項6】
前記規定配列と相同な塩基配列の少なくとも80%以上の塩基が、前記規定配列の塩基配列と一致することを特徴とする請求項5記載の核酸。
【請求項7】
前記規則(3)において、7塩基のうち少なくとも3塩基以上が、アデニン、チミンおよびウラシルからなる群より選択される1種以上の塩基であることを特徴とする請求項5または6記載の核酸。
【請求項8】
前記規則(4)において、塩基数が13〜28であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1つに記載の核酸。
【請求項9】
前記標的遺伝子の規定配列が、さらに下記(5)の規則;
(5) 導入される被検体の全遺伝子配列のうち、前記標的遺伝子以外の他の遺伝子の塩基配列中に、当該規定配列と90%以上の相同性を有する配列が含まれない
に従う配列であることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1つに記載の核酸。
【請求項10】
2本鎖のポリヌクレオチドから成ることを特徴とする請求項5〜9のいずれか1つに記載の核酸。
【請求項11】
お前記2本鎖のポリヌクレオチドが、前記2重鎖領域の両端に、3’末端が突出したオーバーハング部を有することを特徴とする請求項10記載の核酸。
【請求項12】
1本鎖のポリヌクレオチドから成ることを特徴とする請求項5〜9のいずれか1つに記載の核酸。
【請求項13】
前記2重鎖領域の一方の鎖が下記配列番号1に記載の塩基配列を有し、かつ、前記2重鎖領域の他方の鎖が下記配列番号2に記載の塩基配列を有する
ことを特徴とする請求項5〜12のいずれか1つに記載の核酸。
CUUCCCGUCUCAGAAUCUAAA(配列番号1)
UAGAUUCUGAGACGGGAAGUG(配列番号2)
【請求項14】
前記2重鎖領域の一方の鎖が下記配列番号3に記載の塩基配列を有し、かつ、前記2重鎖領域の他方の鎖が下記配列番号4に記載の塩基配列を有する
ことを特徴とする請求項5〜12のいずれか1つに記載の核酸。
GGCAGAGCACGGUAUACUAAA(配列番号3)
UAGUAUACCGUGCUCUGCCUG(配列番号4)
【請求項15】
前記2重鎖領域において、少なくとも前記他方の鎖がRNAとDNAとからなるキメラ構成を有することを特徴とする請求項5〜14のいずれか1つに記載の核酸。
【請求項16】
前記他方の鎖の2重鎖領域の3’末端から9〜13ヌクレオチドがRNAであることを特徴とする請求項15記載の核酸。
【請求項17】
請求項5〜16のいずれか1つに記載の核酸を、プロサイモシンαが発現している細胞に導入し、当該プロサイモシンαの発現を抑制することを特徴とするプロサイモシンαの発現抑制方法。
【請求項18】
前立腺癌に由来する癌細胞に、請求項5〜16のいずれか1つに記載の核酸を導入することを特徴とする、癌細胞増殖および浸潤の抑制方法。
【請求項19】
前記癌細胞が、LNCaP、22Rvl、DUl45およびPC3からなる群から選択される癌細胞であることを特徴とする請求項18記載の方法。
【請求項20】
ほ乳類被検体から採取した試料における前立腺癌の進行度判定に用いられる前立腺癌の検定方法であって、
前記試料中のプロサイモシンαの発現量に基づいて検定を行うことを特徴とする検定方法。
【請求項21】
ほ乳類被検体から採取した試料に対し、前立腺癌の進行度の判定に用いられる前立腺癌診断キットであって、
当該試料中のプロサイモシンαの発現量を検出する検出手段を含むことを特徴とする前立腺癌診断キット。
【請求項1】
前立腺癌の治療に用いるための抗癌剤であって、プロサイモシンαの機能抑制用組成物を有効成分として含有する抗癌剤。
【請求項2】
前記機能抑制組成物が、プロサイモシンαの発現を抑制することにより前記プロサイモシンαの機能を抑制する、プロサイモシンαの発現抑制用組成物であることを特徴とする請求項1に記載の抗癌剤。
【請求項3】
前記発現抑制用組成物が、プロサイモシンα遺伝子の発現を抑制することのできる核酸を含有することを特徴とする請求項2記載の抗癌剤。
【請求項4】
プロサイモシンα遺伝子に対してRNA干渉を生じさせることにより、プロサイモシンα遺伝子の発現を抑制することを特徴とする請求項3記載の抗癌剤。
【請求項5】
プロサイモシンα遺伝子を標的遺伝子とし、当該標的遺伝子に対してRNA干渉を生じさせる核酸であって、
2重鎖領域を有し、
前記2重鎖領域における一方の鎖が、標的遺伝子の塩基配列中に含まれる、下記(1)〜(4)の規則;
(1) 3’末端の塩基が、アデニン、チミンまたはウラシルであり;
(2) 5’末端の塩基が、グアニンまたはシトシンであり;
(3) 3’末端の7塩基の配列において、アデニン、チミンおよびウラシルからなる群より選ばれる一種又は二種以上の塩基がリッチであり;
(4) 塩基数が、細胞毒性を生じさせずにRNA干渉を生じさせ得る数である
に従う規定配列と相同な塩基配列からなり、そして、
前記2重鎖領域における他方の鎖が、前記規定配列と相同な塩基配列と相補的な配列を有する塩基配列からなる
ことを特徴とする核酸。
【請求項6】
前記規定配列と相同な塩基配列の少なくとも80%以上の塩基が、前記規定配列の塩基配列と一致することを特徴とする請求項5記載の核酸。
【請求項7】
前記規則(3)において、7塩基のうち少なくとも3塩基以上が、アデニン、チミンおよびウラシルからなる群より選択される1種以上の塩基であることを特徴とする請求項5または6記載の核酸。
【請求項8】
前記規則(4)において、塩基数が13〜28であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1つに記載の核酸。
【請求項9】
前記標的遺伝子の規定配列が、さらに下記(5)の規則;
(5) 導入される被検体の全遺伝子配列のうち、前記標的遺伝子以外の他の遺伝子の塩基配列中に、当該規定配列と90%以上の相同性を有する配列が含まれない
に従う配列であることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1つに記載の核酸。
【請求項10】
2本鎖のポリヌクレオチドから成ることを特徴とする請求項5〜9のいずれか1つに記載の核酸。
【請求項11】
お前記2本鎖のポリヌクレオチドが、前記2重鎖領域の両端に、3’末端が突出したオーバーハング部を有することを特徴とする請求項10記載の核酸。
【請求項12】
1本鎖のポリヌクレオチドから成ることを特徴とする請求項5〜9のいずれか1つに記載の核酸。
【請求項13】
前記2重鎖領域の一方の鎖が下記配列番号1に記載の塩基配列を有し、かつ、前記2重鎖領域の他方の鎖が下記配列番号2に記載の塩基配列を有する
ことを特徴とする請求項5〜12のいずれか1つに記載の核酸。
CUUCCCGUCUCAGAAUCUAAA(配列番号1)
UAGAUUCUGAGACGGGAAGUG(配列番号2)
【請求項14】
前記2重鎖領域の一方の鎖が下記配列番号3に記載の塩基配列を有し、かつ、前記2重鎖領域の他方の鎖が下記配列番号4に記載の塩基配列を有する
ことを特徴とする請求項5〜12のいずれか1つに記載の核酸。
GGCAGAGCACGGUAUACUAAA(配列番号3)
UAGUAUACCGUGCUCUGCCUG(配列番号4)
【請求項15】
前記2重鎖領域において、少なくとも前記他方の鎖がRNAとDNAとからなるキメラ構成を有することを特徴とする請求項5〜14のいずれか1つに記載の核酸。
【請求項16】
前記他方の鎖の2重鎖領域の3’末端から9〜13ヌクレオチドがRNAであることを特徴とする請求項15記載の核酸。
【請求項17】
請求項5〜16のいずれか1つに記載の核酸を、プロサイモシンαが発現している細胞に導入し、当該プロサイモシンαの発現を抑制することを特徴とするプロサイモシンαの発現抑制方法。
【請求項18】
前立腺癌に由来する癌細胞に、請求項5〜16のいずれか1つに記載の核酸を導入することを特徴とする、癌細胞増殖および浸潤の抑制方法。
【請求項19】
前記癌細胞が、LNCaP、22Rvl、DUl45およびPC3からなる群から選択される癌細胞であることを特徴とする請求項18記載の方法。
【請求項20】
ほ乳類被検体から採取した試料における前立腺癌の進行度判定に用いられる前立腺癌の検定方法であって、
前記試料中のプロサイモシンαの発現量に基づいて検定を行うことを特徴とする検定方法。
【請求項21】
ほ乳類被検体から採取した試料に対し、前立腺癌の進行度の判定に用いられる前立腺癌診断キットであって、
当該試料中のプロサイモシンαの発現量を検出する検出手段を含むことを特徴とする前立腺癌診断キット。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図10】
【図1】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図10】
【図1】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【公開番号】特開2007−75072(P2007−75072A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−270856(P2005−270856)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(505350374)
【出願人】(504319367)株式会社アルファジェン (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(505350374)
【出願人】(504319367)株式会社アルファジェン (4)
【Fターム(参考)】
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