説明

プロジェクタ

【課題】プロジェクタにおいて、青色光源からの青色光のカラーホイールからの反射を防止し、光の有効利用をする。
【解決手段】カラーホイール本体24に蛍光体層23の両側に、低屈折率層21、高屈折率層22の誘電体薄膜を単位として、繰り返して積層される周期的誘電体層A、B(総数X)、C(総数Y)を設ける。周期的誘電体層Aに入射する青色光は、多重干渉効果が強められて蛍光体層23に光が集中し、蛍光体層23から発光した緑色光は、周期的誘電体層Bにより多重干渉効果が少なくなり、周期的誘電体層Cにより反射され、逆の道筋で出射される。本発明によれば、従来よりも青色光が有効に利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像を投射表示するプロジェクタ(投射型画像表示装置)に関し、特に屈折率の異なる2つの誘電体薄膜を単位として、繰り返し周期的に形成した誘電体多層膜が設けられたカラーホイールを備えるプロジェクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホームシアター、プレゼンテーション等で使用される、表示画像を投写光学系により拡大投影し、大画面の表示画像を得るプロジェクタが商品化されている。このようなプロジェクタには、光源から出射された光を照明光として、デジタルマイクロミラーデバイス、液晶表示素子等の空間光変調器を使用する電気光学装置を介してスクリーンに画像を表示するものがある。上記プロジェクタには、光源として、高圧水銀ランプやキセノンランプを用いたものもあるが、それらは水銀の含有や、発熱量の問題から好ましくない。そのため近年では、発光ダイオード(LED)やレーザを使用したプロジェクタが考案されている。
【0003】
例えば、LEDとレーザを使用するものとして、米国で開催された家電製品のトレードショーであるInternational CES(Consumer Electronics Show)(2010年)で展示発表されたカシオ計算機株式会社のプロジェクタがある。ここでは、赤色光源としてLED,青色光源として青色レーザ、緑色光源として青色レーザの位相と波長を変換したものを利用している(以下、この種のプロジェクタを「ハイブリッド型」という。)。
【0004】
上記ハイブリッド型プロジェクタの色合成の方式について、その模式図を図8に示す。図8において、プロジェクタ100は、青色光源1、赤色光源2、カラーホイール5、ダイクロイックミラー3,8、レンズ4,9、ミラー6,7、空間光変調器としてのデジタルマイクロミラーデバイス10、投影光学系11、スクリーン12を備えている。青色光源1から出射される青色光(B)は、青色光を透過するダイクロイックミラー3、レンズ4を通過し、カラーホイール5に照射される。カラーホイール5は本体が金属製円盤であって、その円周方向の一部に緑色光(G)を発する蛍光体(以下、「緑蛍光体」という)が形成されている。青色光は、緑蛍光体が設けられていない部分(カラーホイール本体の円周方向の切り欠き部分)を通過し、ダイクロイックミラー8を透過し、レンズ9により集光されてデジタルマイクロミラーデバイス10に達する。
【0005】
カラーホイール5から反射された一部の青色光は、青色光源1側に戻る。そして、青色光が上記緑蛍光体に照射されると緑色光が発光され、この緑色光は、レンズ4を通って緑色光を反射するダイクロイックミラー3により反射され、さらにミラー6,7と、ダイクロイックミラー8で反射され、レンズ9により集光されてデジタルマイクロミラーデバイス10に達する。
【0006】
また、赤色光源2からの赤色光(R)は、ダイクロイックミラー3を通過し、ミラー6,7に反射されてダイクロイックミラー8に反射され、レンズ9により集光されてデジタルマイクロミラーデバイス10に達する。
デジタルマイクロミラーデバイス10に入射する青色光(B)、緑色光(G)、赤色光(R)の3原色は、入射光の切り替えを同期させて、それぞれの色の画像として時系列的に処理され、投影光学系11を介して、スクリーン12に画像が投写される。
【0007】
このようなプロジェクタに使用される時分割型のフィルタ素子は、蛍光体層が干渉フィルタ層として形成されるものがあり、それは蒸着やスパッタリングにより作られる(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−48542号公報(段落0009)
【特許文献2】特開2002−341133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記ハイブリッド型のようなプロジェクタでは、青色光は金属製のカラーホイールの切り欠き部を透過するとともに、青色光がカラーホイールに形成された緑色蛍光体に入射し、緑色光を出射する。しかし、カラーホイール本体から青色光源側への青色光の反射もあり、青色光が有効に利用されていない。
【0010】
本発明は、上記のような問題に鑑みなされたものであって、従来のプロジェクタにおいて、より青色光を有効利用するために、カラーホイールに形成される蛍光体とともに形成される光干渉フィルタ層を備えたプロジェクタを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成するために、請求項1に記載のプロジェクタは、光源と、カラーホイールと、集光レンズと、空間光変調器と、投写光学系とを少なくとも備えるプロジェクタであって、前記カラーホイールは、カラーホイール本体に蛍光体層と光干渉フィルタ層とが形成されており、前記光干渉フィルタ層は、互いに屈折率の異なる二つの誘電体層を単位とする誘電体層が繰り返えされる周期的誘電体層からなり、前記周期的誘電体層は、前記蛍光体層の両側に形成される周期的誘電体層と、前記カラーホイール本体側に形成される周期的誘電体層とからなることを特徴とする。
【0012】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載のプロジェクタにおいて、前記蛍光体層の両側に形成される誘電体層の繰り返し数は、同数であり、該数は、前記カラーホイール本体側に形成される誘電体層の繰り返し数とは、異なることを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に記載のプロジェクタは、請求項1又は2に記載のプロジェクタにおいて、前記カラーホイール本体は、ガラス、サファイヤ、水晶、銀又はアルミニウムのいずれか一つから構成されることを特徴とする。
【0014】
また、請求項4の発明は、請求項1から3のいずれかに記載のプロジェクタにおいて、前記蛍光体層の両側の周期的誘電体層は、蛍光体層に光を集中させ、発光を促進するものであり、カラーホイール本体側に形成される周期的誘電体層は、前記発光を反射するものであることを特徴とする。
【0015】
また、請求項5の発明は、請求項1から4のいずれかに記載のプロジェクタにおいて、前記繰り返しの単位となる屈折率の異なる二つの誘電体層は、SiOからなる低屈折率層と、Nb又はTaからなる高屈折率層であることを特徴とする。
【0016】
さらに、請求項6の発明は、請求項1から5のいずれかに記載のプロジェクタにおいて、前記蛍光体層の光学波長は、0.15〜0.5λであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本願請求項1乃至6に係る発明によれば、多層膜光干渉フィルタとしての周期的誘電体層を蛍光体層を挟むようにして形成したことにより、入射光が蛍光体層を中心として多重反射されることになり、蛍光体層での発光効率の高いカラーホイールを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のカラーホイールに形成される、蛍光体層と光干渉フィルタ層を示す模式図である。
【図2】図1における周期的誘電体層の積層数Yを一定とし、Xを変化させたときの、入射光に対する反射率と透過率の関係を示す図である。
【図3】図1における周期的誘電体層の積層数Yを一定とし、Xを変化させたときの、青色光の反射率と透過率の関係を示す図である。図(B)は図(A)の(P)に対応する拡大図である。
【図4】図1とは異なる実施形態で、周期的誘電体層の積層数Yを一定とし、Xを変化させたときの、青色光に対する反射率と透過率の関係を示す図である。図(B)は図(A)の(P)に対応する拡大図である。
【図5】図1における実施形態で、周期的誘電体層の積層数Xを一定とし、Yを変化させたときの、青色光の反射率を示す図である。図(B)は図(A)の(Q)に対応する拡大図である。
【図6】図1とは異なる実施形態で、周期的誘電体層の積層数Xを一定とし、Yを変化させたときの、青色光の反射率を示す図である。図(B)は図(A)の(Q)に対応する拡大図である。
【図7】図(A)、(B)は、図1の実施形態において、設計光学波長を、波長域の拡大を説明する図であり、図(C)は、透過光がないことを示す図である。
【図8】従来のハイブリッド型のプロジェクタの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、カラーホイール本体24に形成される蛍光体層と誘電体層を示している。カラーホイール本体24(ここでは、ガラス基板からなる)には、光干渉フィルタ層としての周期的誘電体層Aを介して蛍光体層23が形成される。蛍光体層23の、青色光(例えば、レーザダイオードから得られる波長λが460nmの青色光)が入射する側には、SiOからなる低屈折率層21と、Nb又はTaからなる高屈折率層22とを単位とする多層膜がX層(X=1,2、・・・、n)繰り返えされる周期的誘電体層Aが形成される。このとき、蛍光体層23は、λ/2の整数倍の厚さとされる。蛍光体層23の反対側には、上記低屈折率層21と高屈折率層22とを同じく単位とする多層膜が、周期的誘電体層Bとして、X層が形成される。
カラーホイール本体24側には、上記低屈折率層21と高屈折率層22とを同じく単位とする多層膜が、周期的誘電体層Cとして、Y層(Y=1,2、・・・、n)が形成される。
上記誘電体薄膜は、
n・d=(1/4 + m/2)・λ
(ここで、n:屈折率、d:膜厚、λ:波長、m=0,1,2,・・・)
の関係で形成される。
上記の関係にあれば、図1におけるような繰り返し多層膜では、高い反射層を両面にもつ薄膜の干渉特性により、ファブリー・ペロー干渉計と同様な効果が得られることがわかっている。
なお、カラーホイール本体24の材料としては、透明物質として、ガラス、サファイヤ、水晶、金属物質として銀(Ag)、アルミニウム(Al)の中から選択される物質が使用される。上記のような透明物質を使用する理由は、赤、青、緑の光が例えば、ガラスまで達した場合、光の吸収ができるだけ無いようにするためである。また、金属物質を使用する理由は、完全に光を反射させるためである。ガラスなどの透明物質に、上記金属薄膜を形成しても同様な作用効果がある。さらに金属物質、サファイア等は、放熱性が高いので、カラーホイールの熱を逃す効果もある。
【0020】
図1において、周期的誘電体層Aに入射した青色光は、多重干渉を起こし、蛍光体層23に光が集中し、吸収されて、蛍光体層23から緑色光が発光する。発光した緑色光は、周期的誘電体層B(青色光の波長に合わせて形成される)により多重干渉効果が少なくなり、周期的誘電体層C(青色光の波長に合わせて形成される)により干渉効果を起こさずに反射される。反射された緑色光は、入射光とは逆の道筋をたどって、出射される。青色光の波長に合わせて形成される周期的誘電体層A,B,Cによって、緑色光が効率よく出射される。
【0021】
図2は、周期的誘電体層の積層数X,Yを変化させたときの関係を図示するものである。図2(A)、(B)では、積層数Xが3,4,5に対し、積層数Yを9としたときの、入射光の反射率と透過率の関係が示されている。
積層数X,Yの関係を上記のように設定すれば、蛍光体層23に入射する青色光は、積層された何層もの周期的誘電体層Aにより干渉効果が強められて蛍光体層23に集中し、吸収されて緑色光が出射されるが、緑色光は周期的誘電体層Bにより干渉効果が少なくなり、周期的誘電体層Cにより反射され、入射光とは逆の道筋をたどって、出射される。
【0022】
上記の関係を波長で示せば、図3(A)で示すように、カラーホイール本体24がガラスからなる場合に、積層数Yを9に固定し、Xを3,4,5に変化させたときの、青色光の反射率と透過率の関係が示されている。図3(B)、(C)で示すように青色光の波長域の反射と透過がなくなっている。
【0023】
図4(A)で示すように、カラーホイール本体24が銀又はアルミニウムからなる場合に、積層数Yを9に固定し、Xを3,4,5に変化させたときにも図3と同様に、図4(B)、(C)で示すように青色光の波長域の反射と透過がなくなっている。
【0024】
次に、周期的誘電体層Cについて説明する。周期的誘電体層の積層数Xを固定し、Yを変化させたときの反射率をみると、図5及び図6に示すようになる。
図5(A)、(B)において、カラーホイール本体24がガラスの場合、積層数Yを0〜9とした場合、青色光(λ=460nm)の反射率は、積層数をY=1以上とすれば、0に近い値となる。
図6(A)、(B)において、カラーホイール本体24が銀又はアルミニウムの場合、積層数Yを0〜9とした場合、青色光(λ=460nm)の反射率は、積層数をY=1以上とすれば、0に近い値となる。
【0025】
図7は、出射される青色光の波長域を拡大することを示すものである。
カラーホイール本体24がガラスの場合で説明する。通常、蛍光体層23の厚さは入射光の波長λ/2、誘電体層の厚さはλ/4、青色光の中心波長は460nmとされる。この場合、X=5、Y=9の場合、蛍光体層0.5λである。
ここで、図7(A)、(B)に示すように、設定される波長を青色光の波長よりも長く設計すると(例えば、500nm)、帯域波長は広くなる。しかし、青色光の波長での干渉効果が少なくなるため、本実施形態では、蛍光体の厚みを0.397λにして、中心波長が460nmになるようにする。その場合、青色光の干渉効果が少ないため、周期的誘電体層の積総数を6とすると、反射率が0に近くなる。また、図7(C)に示すように透過光も現れていないことから、光が有効に利用されていることになる。
したがって、蛍光体層で発光した緑色光などを波長帯域を長くすることで全て反射し、使用できるため、励起の波長の青色光および蛍光体層で発光される光を全て効率的に利用できる。
長波長側の帯域を増やすことは、図7では、530nmが570nmに広がるため、緑色の発光が全て反射し、発光した光が全て有効に使用できる。
【符号の説明】
【0026】
21:低屈折率層、22:高屈折率層、23:蛍光体層、24:カラーホイール本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、カラーホイールと、集光レンズと、空間光変調器と、投写光学系とを少なくとも備えるプロジェクタであって、
前記カラーホイールは、カラーホイール本体に蛍光体層と光干渉フィルタ層とが形成されており、
前記光干渉フィルタ層は、互いに屈折率の異なる二つの誘電体層を単位とする誘電体層が繰り返えされる周期的誘電体層からなり、
前記周期的誘電体層は、前記蛍光体層の両側に形成される周期的誘電体層と、前記カラーホイール本体側に形成される周期的誘電体層とからなることを特徴とするプロジェクタ。
【請求項2】
前記蛍光体層の両側に形成される誘電体層の繰り返し数は、同数であり、該数は、前記カラーホイール本体側に形成される誘電体層の繰り返し数とは、異なることを特徴とする請求項2に記載のプロジェクタ。
【請求項3】
前記カラーホイール本体は、ガラス、サファイヤ、水晶、銀又はアルミニウムのいずれか一つから構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のプロジェクタ。
【請求項4】
前記蛍光体層の両側の周期的誘電体層は、蛍光体層に光を集中させ、発光を促進するものであり、カラーホイール本体側に形成される周期的誘電体層は、前記発光を反射するものであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のプロジェクタ。
【請求項5】
前記繰り返しの単位となる屈折率の異なる二つの誘電体層は、SiOからなる低屈折率層と、Nb又はTaからなる高屈折率層であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のプロジェクタ。
【請求項6】
前記蛍光体層の光学波長は、0.15〜0.5λであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のプロジェクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−186132(P2011−186132A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50477(P2010−50477)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)
【Fターム(参考)】