説明

プロテアーゼ阻害剤の製造方法

【課題】植物からプロテアーゼ阻害タンパク質を簡便かつ効率的に製造することのできるプロテアーゼ阻害剤の製造方法を提供する。
【解決手段】イネなどの植物の組織をアルカリ浸漬する浸漬工程と、アルカリ浸漬された前記植物の組織からタンパク質画分を取得する画分取得工程とを備えた。浸漬工程において、0.1〜5%水酸化ナトリウム水溶液でアルカリ浸漬し、画分取得工程において、アルコール又はアルコールを含む水溶液、或いはpH4〜8の水溶液でタンパク質画分を抽出するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテアーゼ阻害剤の製造方法に関し、特に、イネやダイズなどの植物から、歯周病菌プロテアーゼ阻害剤などの産業上有用なプロテアーゼ阻害タンパク質を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの病原性微生物は、宿主の組織への侵襲や組織内での増殖を果たすために、その宿主に感染する際に様々な酵素を発現して利用している。これら酵素のなかで、プロテアーゼは感染生理に大きな役割を果たしており、病原性因子としてのプロテアーゼを標的とするプロテアーゼ阻害剤が感染症の治療,予防に有効であることが示されている。
【0003】
例えば、歯周病菌(Porphyromonas gingivalis)は、トリプシン様システインプロテアーゼであるアルギニン特異的ジンジパイン(Rgp)とリジン特異的ジンジパイン(Kgp)を産生し、RgpやKgpがヒト・トランスフェリンを分解し、歯周病菌の増殖とヒドロキシルラジカルの産生を促進すること(非特許文献1)、RgpやKgpがヒト血清アルブミン存在下での歯周病菌の増殖に重要な役割を果たしていること(非特許文献2)、Kgpに対する特異抗体が歯周病菌感染からマウスを保護すること(非特許文献3)、Rgpのペプチドドメインがマウスにおいて歯周病菌感染に対する免疫性を付与すること(非特許文献4)などが報告されている。
【0004】
これらの知見から、RgpとKgpは歯周病の治療,予防の重要な標的因子であると認識され、天然物にRgpやKgpの阻害剤を求める試みも行われている。
【0005】
特許文献1には、カテキン又はカテキン混合物がKgpやRgpの活性を阻害することが開示されている。特許文献2では赤霊芝と黒霊芝が、特許文献3では黄杞葉,緑茶,ヨモギ,カリン,刺梨,ギムネマ,ルイボス茶,サンザシ,ウコン,ラカンカ,シリマリン,枸杞子,紫玄米,エレウテロコック,月桃葉,ドクダミ,大棗,霊芝がジンジパイン阻害剤として記載されている。また、本発明者らは、イネ科植物由来のタンパク質が歯周病菌プロテアーゼ阻害剤として、医療用途や機能性食品成分として有用であることを見出している(特願2005−201356)。
【0006】
プロテアーゼ阻害剤はまた、疾病の予防や治療への利用のみならず、食品加工分野、特に、プロテアーゼ分解の制御が品質に直接関係する食肉加工において、その応用が期待されている。食品加工への応用においても安全性の観点から、プロテアーゼ阻害剤として天然物起源のプロテアーゼ阻害タンパク質に大きな関心が寄せられており、すり身製造に利用した事例などが報告されている(非特許文献5〜7)。
【0007】
このような天然物起源のプロテアーゼ阻害タンパク質を産業利用するためには、その効率的な抽出,製造法の開発が必要不可欠である。これまでに知られている方法としては、チューリップからトリプシンインヒビターを製造する方法(特許文献4)、疎水性樹脂を利用してトリプシンインヒビターなどの低分子タンパク質を精製する方法(特許文献5)が知られている。また、植物からタンパク質を抽出精製する方法として、米貯蔵タンパク質中のプロテインボディーII区分の選択的抽出方法(特許文献6)、フィチン酸及びその塩の含量の低いダイズタンパク質の製造方法(特許文献7)、ベンゼンスルフィン酸塩を利用してポリフェノール含有植物からタンパク質を抽出精製する方法(特許文献8)などがある。さらには、塩析、キレート化合物を用いたタンパク質の可溶化、有機溶媒抽出や界面活性剤による可溶化など、タンパク質の抽出精製に一般に用いられる方法(非特許文献8)が、プロテアーゼ阻害タンパク質の抽出精製にも利用されている。
【特許文献1】特開2004−143127号公報
【特許文献2】特開2005−35909号公報
【特許文献3】特開2003−335648号公報
【特許文献4】特開平2−76900号公報
【特許文献5】特開平6−157599号公報
【特許文献6】特開平9−249695号公報
【特許文献7】特開平9−121780号公報
【特許文献8】特開2004−51525号公報
【非特許文献1】Infect. Immun. (2004) 72:4351-4356
【非特許文献2】Infect. Immun. (2001) 69:5166-5172
【非特許文献3】Infect. Immun. (2001) 69:2972-2979
【非特許文献4】Infect. Immun. (1998) 66:4108-4114
【非特許文献5】J. Agric. Food Chem. (1996) 44:2584-2590
【非特許文献6】J. Sci. Food Agric. (2001) 81:1039-1046
【非特許文献7】J. Agric. Food Chem. (2004) 52:3612-3616
【非特許文献8】「タンパク質・酵素の基礎実験法」、南江堂(1981年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの方法は、抽出過程に毒性のある薬品等を使用し、又は煩雑な複数の工程や高価な試薬,設備を要するなど、安全性や製造コストを考えると、プロテアーゼ阻害タンパク質の製造方法として充分であるとは言い難いものであった。
【0009】
本発明は、従来のこれらの問題点を解決し、イネやダイズなどの植物から、歯周病菌プロテアーゼ阻害因子などの産業上有用なプロテアーゼ阻害タンパク質を簡便かつ効率的に、しかも安全性に優れた方法で製造することのできる、プロテアーゼ阻害剤の製造方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、植物の組織をアルカリ浸漬することにより、きょう雑タンパク質が効率的に除去され、プロテアーゼ阻害タンパク質に富むタンパク質画分を容易に取得できることを見出し、本発明に想到した。
【0011】
本発明の請求項1記載のプロテアーゼ阻害剤の製造方法は、植物の組織をアルカリ浸漬する浸漬工程と、アルカリ浸漬された前記植物の組織からタンパク質画分を取得する画分取得工程とを備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項2記載のプロテアーゼ阻害剤の製造方法は、請求項1において、前記画分取得工程において、アルコール又はアルコールを含む水溶液でタンパク質画分を抽出することを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項3記載のプロテアーゼ阻害剤の製造方法は、請求項1において、前記画分取得工程において、pH4〜8の水溶液でタンパク質画分を抽出することを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項4記載のプロテアーゼ阻害剤の製造方法は、請求項1〜3のいずれか1項において、前記植物がイネ(Oryza sativa)であることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項5記載のプロテアーゼ阻害剤の製造方法は、請求項1〜4のいずれか1項において、前記浸漬工程において、0.1〜5%水酸化ナトリウム水溶液でアルカリ浸漬することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1記載のプロテアーゼ阻害剤の製造方法によれば、アルカリ浸漬によって、きょう雑タンパク質が効率的に除去され、プロテアーゼ阻害タンパク質を簡便かつ効率的に、しかも安全性に優れた方法で製造することができる。
【0017】
本発明の請求項2記載のプロテアーゼ阻害剤の製造方法によれば、アルコールでは溶解しないきょう雑タンパク質を固形分として効率的に除くことができる。
【0018】
本発明の請求項3記載のプロテアーゼ阻害剤の製造方法によれば、中性では溶解しないきょう雑タンパク質を固形分として効率的に除くことができる。
【0019】
本発明の請求項4記載のプロテアーゼ阻害剤の製造方法によれば、イネから歯周病菌プロテアーゼ阻害タンパク質を簡便かつ効率的に、しかも安全性に優れた方法で製造することができる。
【0020】
本発明の請求項5記載のプロテアーゼ阻害剤の製造方法によれば、入手の容易な水酸化ナトリウムを用いて、確実に、きょう雑タンパク質を除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明のプロテアーゼ阻害剤の製造方法について説明する。
【0022】
本発明のプロテアーゼ阻害剤の製造方法は、植物の組織をアルカリ浸漬する浸漬工程と、アルカリ浸漬された前記植物の組織からタンパク質画分を取得する画分取得工程とを備えたものである。
【0023】
本発明の実施にあたっては、好ましくは、イネ(Oryza sativa)やダイズなど、プロテアーゼ阻害タンパク質を含む植物を原料とする。採取又は収穫した植物を原料としてそのまま使用してもよいが、効率よくプロテアーゼ阻害剤を製造するために、植物の組織を適当な大きさに切断又は磨砕して使用するのが望ましい。なお、本発明は、主に植物由来のプロテアーゼ阻害タンパク質の製造方法に関するものであるが、畜肉などの動物由来の材料から、プロテアーゼ阻害タンパク質を製造する目的にも、本発明を適用することができる。
【0024】
まず、浸漬工程において、植物の組織をアルカリ浸漬する。具体的には、植物の組織をアルカリ溶液に浸漬すればよい。
【0025】
ここで、アルカリ溶液としては、特定のものに限定されるものではないが、薬剤の入手の容易さなどから、水酸化ナトリウムを使用するのが望ましく、その場合、0.1〜5%(質量%)濃度の水溶液を用いるのが望ましい。また、水酸化ナトリウム溶液と同等の効果を得ることができるものならば、水酸化カリウムなどの薬剤も使用可能である。アルカリ溶液に浸漬する目的は、この段階でアルカリ溶液に溶解するタンパク質を除去することである。この目的に合致するものであれば、浸漬する時間や温度は特に限定されないが、0.1〜5%(質量%)水酸化ナトリウム溶液に浸漬する場合、室温で12時間以上浸漬するのが望ましい。
【0026】
つぎに、画分取得工程において、浸漬工程においてアルカリ浸漬された植物の組織からタンパク質画分を取得する。具体的には、植物の組織を浸漬したアルカリ溶液を廃棄したのち、植物の組織をアルコール又はアルコールを含む水溶液、或いはpH4〜8の水溶液に懸濁させてから粉砕処理を行って、タンパク質画分を抽出すればよい。
【0027】
ここで、アルコール又はアルコールを含む水溶液としては、エタノール,メタノール,プロパノール又はこれらを含む水溶液などを使用することができるが、食品への利用を考慮すると、エタノールを1〜50%の濃度で含む水溶液を使用するのが望ましい。また、pH4〜8の水溶液としては、水道水などの水のほか、リン酸緩衝液などのタンパク質の抽出精製に一般的に用いられる緩衝液を使用することができる。
【0028】
粉砕処理は、タンパク質を効率的に溶解させるために行う。この目的に合致するものであれば、破砕処理の方法は特定の方法に限定されるものではなく、超音波処理,ブレンダーによる粉砕,臼での磨砕などの方法を使用することができる。そして、粉砕処理を行った後の懸濁液から、固形分を篩分けや遠心分離などの常法により除去して、タンパク質画分を得る。
【0029】
画分取得工程の目的は、高分子タンパク質などのきょう雑タンパク質を除去しつつ、プロテアーゼ阻害タンパク質を高濃度で含むタンパク質画分を得ることである。そのためには、水溶液で抽出する場合、抽出液の最終pHが4〜8である必要がある。粉砕処理に先立ってアルカリ浸漬を行っているので、緩衝液を使用しない場合は、粉砕直後のpHはアルカリ性である。これをpH4〜8に調整することにより、アルカリ溶液には溶解するが中性では溶解しないきょう雑タンパク質、ならびにアルカリで変性するきょう雑タンパク質を固形分として、固液分離により効率的に除くことができる。粉砕処理時にpH4〜8の緩衝液を用いることによってこの目的を達成することができる。また、アルコールを含む水溶液を用いても、同様にこの目的を達成することができる。
【0030】
アルカリ浸漬後にアルコール又はアルコールを含む水溶液、或いはpH4〜8の水溶液に溶解させたタンパク質は、主にプロテアーゼ阻害タンパク質を含む分子量10,000〜30,000前後のタンパク質からなり、それより高分子量のタンパク質のほとんどは除去されている。したがって、この方法によって得られたタンパク質画分は、高いプロテアーゼ阻害活性を有し、プロテアーゼ阻害剤として疾病の治療や予防のための機能性素材、または食品加工用のプロテアーゼ阻害剤として利用可能である。
【0031】
また、このタンパク質画分をスプレードライなどの慣用の方法により粉体化し、これをプロテアーゼ阻害剤として用いてもよい。さらには、このタンパク質画分から、ゲルろ過やイオン交換クロマトグラフィーなど、タンパク質精製において一般的に用いられる手法により、プロテアーゼ阻害タンパク質を高度に精製し、精製標品としてプロテアーゼ阻害剤の様々な用途に利用することもできる。
【0032】
以上のように、本発明のプロテアーゼ阻害剤の製造方法によれば、アルカリ浸漬後にタンパク質を抽出するという、極めて簡便かつ効率的な方法でプロテアーゼ阻害タンパク質を得ることができる。そして、本発明のプロテアーゼ阻害剤の製造方法は、食品製造,加工に利用できないような特別の薬品を使用する必要がないので、安全性に優れ、医薬品や試薬の製造原料としてのみならず、食品としても安心して利用することができるプロテアーゼ阻害タンパク質を得ることができる。また、本発明のプロテアーゼ阻害剤の製造方法は、高価な試薬や特別の設備を必要としないので、製造コストの面でも優れており、安価にプロテアーゼ阻害タンパク質を提供することができる。
【0033】
以下、本発明のプロテアーゼ阻害剤の製造方法について、米からのプロテアーゼ阻害タンパク質の抽出を例にとって説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
米からのプロテアーゼ阻害タンパク質の抽出
コシヒカリ精白米1kgを1Lの0.2%(質量%)水酸化ナトリウム溶液に浸漬し、室温で一晩放置した。浸漬液を廃棄した後、浸漬米に約2.5倍容量の水を加えて、市販のフードプロセッサーによる粉砕処理を行った。粉砕液から、篩分けにより繊維分や未粉砕物を除去し、粉砕乳液を得た。粉砕乳液は、上層のタンパク質層と下層のデンプン層の二層に分かれるまで静置した後、上層のタンパク質層をデカンテーションで分別した。分別したタンパク質画分のpHを塩酸で7.0に調整し、生理食塩水に対して一晩透析を行った。透析後、遠心分離(10,000rpm,10分間)で固形分を除き、プロテアーゼ阻害タンパク質画分として−20℃で凍結保存した。
【0035】
従来法による米糠タンパク質の調製(対照)
コシヒカリ玄米を90%まで精米した際に生じる米糠1kgを原料として、これに4倍量の25mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)−0.15M NaClを加えて、4℃で1時間浸漬した。次いで、磨砕処理を行い、固形分を除いたあとに80℃で10分間の加熱処理によりプロテアーゼを失活させた。生じた沈殿物を除去し、抽出物に30%飽和になるように硫酸アンモニウムを添加して沈殿する画分を取得し、その上清に70%飽和になるように硫酸アンモニウムを追加して沈殿する画分を米糠タンパク質画分としてさらに分離した。これらの画分は、リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)−0.15M NaClに再溶解し、4℃で透析後に凍結保存した。
【実施例2】
【0036】
パパイン、フィシンとカテプシンBに対する阻害活性の測定
実施例1において調製した米からのプロテアーゼ阻害タンパク質と、その対照として調製した米糠タンパク質をサンプルとして、それぞれのパパイン、フィシンとカテプシンBに対する阻害活性を測定した。
【0037】
パパイン、フィシンやカテプシンBに対する酵素阻害活性は、蛍光基質を用いて測定した。フィシン(0.23nM;Sigma-Aldrich)、パパイン(0.14nM;Sigma-Aldrich)やカテプシンB(0.27nM;ヒト肝臓由来;Calbiochem)を、実施例1で調製したサンプルと共に2.0mlの測定用緩衝液中で40℃、5分間プレインキュベートした。測定用緩衝液として、フィシンならびにパパインに対する阻害活性の測定には0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)−1mM EDTA−4mMジチオスレイトール−0.05% Brij35、カテプシンBに対する阻害活性の測定には0.1M MES(pH6.0)−1mM EDTA−4mM ジチオスレイトール−0.05% Briji35を用いた。プレインキュベーション後に、最終濃度が45μMになるように酵素基質を加え、40℃で1〜5分間反応させた。使用した酵素基質は、フィシンとパパインの基質としてZ−Phe−Arg−MCA(ペプチド研究所)、カテプシンBの基質としてZ−Arg−Arg−MCA(ペプチド研究所)である。酵素反応に伴うAMCの遊離を蛍光分光光度計(Shimadzu RF-5300PC;島津製作所製;励起波長380nm;蛍光波長440nm)でモニタリングした。酵素阻害活性1ユニット(U)は、酵素基質から1分間に1μmolのAMC遊離を阻害する量と定義した。測定結果を表1に示す。
【実施例3】
【0038】
ジンジパイン阻害活性の測定
(酵素標品の調製)
歯周病菌(Porphyromonas gingivalis JCM8525)を、5%ウシ胎児血清を添加したKGB培地で波長600nmにおける吸光度が2.1に達するまで培養し、遠心分離(10,000rpm,10分間)で菌体を集めた。次いで、菌体を50mM Tris−HCl(pH7.4)/1mM CaClに懸濁し、超音波処理によって菌体を破砕した後、固形分を遠心分離で除去した。回収した破砕上清をKgpならびにRgp測定の酵素標品として使用した。
【0039】
(Rgp阻害活性)
実施例1において調製した米からのプロテアーゼ阻害タンパク質と、その対照として調製した米糠タンパク質をサンプルとして、それぞれのRgp阻害活性を測定した。
【0040】
測定用の緩衝液には0.2M Tris−HCl/0.1M NaCl/5mM CaCl/10mM L−システイン(pH7.6)を使用した。酵素標品として前述の歯周病菌菌体抽出液(2.78μgタンパク質/ml)と所定濃度の実施例1で調製したサンプルを加え、40℃で5分間のプレインキュベーションを行った。その後、酵素基質となるBz−Arg−MCA(ペプチド研究所)を50μMの濃度になるように添加し、酵素反応を開始した。蛍光分光光度計(Shimadzu RF-5300PC;島津製作所製;励起波長380nm;蛍光波長440nm)を用いて、反応の進行に伴う蛍光強度の増加をモニタリングし、酵素反応の強さは基質から遊離するAMC量で評価した。酵素阻害活性1ユニット(U)は、酵素基質から1分間に1μmolのAMC遊離を阻害する量と定義した。測定結果を表1に示す。
【0041】
(Kgp阻害活性)
実施例1において調製した米からのプロテアーゼ阻害タンパク質と、その対照として調製した米糠タンパク質をサンプルとして、それぞれのKgp阻害活性を測定した。
【0042】
測定用の緩衝液には0.2M Tris−HCl/0.1M NaCl/5mM CaCl/10mM L−システイン(pH7.6)を使用した。酵素標品として前述の歯周病菌菌体抽出液(21.5μgタンパク質/ml)と所定濃度の実施例1で調製したサンプルを加え、40℃で5分間のプレインキュベーションを行った。その後、酵素基質となるBoc−Val−Leu−Lys−MCA(ペプチド研究所製)を50μMの濃度になるように添加し、酵素反応を開始した。蛍光分光光度計(Shimadzu RF-5300PC;島津製作所製;励起波長380nm;蛍光波長440nm)を用いて、反応の進行に伴う蛍光強度の増加をモニタリングし、酵素反応の強さは基質から遊離するAMC量で評価した。酵素阻害活性1ユニット(U)は、酵素基質から1分間に1μmolのAMC遊離を阻害する量と定義した。測定結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
本発明の方法で調製した米タンパク質のフィシン、パパインならびにKgpに対する阻害活性は、従来の硫安分画法で調製した米糠タンパク質のうち、プロテアーゼ阻害活性が最も高かった30%硫安沈殿標品と同等であり、これらのプロテアーゼ阻害活性については従来法と遜色のない結果を得ることができた。また、本発明の方法で調製した米タンパク質のカテプシンB阻害活性は、米糠抽出物の17.8倍、Rgp阻害活性は7.2倍と、従来法で調製した米糠タンパク質よりも著しく高かった。
【0045】
本発明の方法が、簡便性と抽出効率、及び、得られたタンパク質のプロテアーゼ阻害活性の点から、プロテアーゼ阻害タンパク質を製造する方法として従来法に比べて明らかに優れていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の組織をアルカリ浸漬する浸漬工程と、アルカリ浸漬された前記植物の組織からタンパク質画分を取得する画分取得工程とを備えたことを特徴とするプロテアーゼ阻害剤の製造方法。
【請求項2】
前記画分取得工程において、アルコール又はアルコールを含む水溶液でタンパク質画分を抽出することを特徴とする請求項1記載のプロテアーゼ阻害剤の製造方法。
【請求項3】
前記画分取得工程において、pH4〜8の水溶液でタンパク質画分を抽出することを特徴とする請求項1記載のプロテアーゼ阻害剤の製造方法。
【請求項4】
前記植物がイネ(Oryza sativa)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のプロテアーゼ阻害剤の製造方法。
【請求項5】
前記浸漬工程において、0.1〜5%水酸化ナトリウム水溶液でアルカリ浸漬することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のプロテアーゼ阻害剤の製造方法。

【公開番号】特開2007−145776(P2007−145776A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−344520(P2005−344520)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(000218982)島田化学工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】