説明

プロトン伝導性無機材料、電解質膜、電極、膜電極複合体及び燃料電池

【課題】本発明は、高い出力特性を得ることが可能なプロトン伝導性無機材料、電解質膜、電極、膜電極複合体及び燃料電池を提供する。
【解決手段】プロトン伝導性無機材料は、W、Mo、Cr、B及びVよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Xを含有する酸化物粒子と、Sn、Hf、Ge、Ga、In、Ce及びNbよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Yを含有し、前記酸化物粒子が担持される酸化物担体とを含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極や燃料電池用電解質膜などの電池部材に好適なプロトン伝導性無機材料と、このプロトン伝導性無機材料を用いた電解質膜、電極、膜電極複合体及び燃料電池とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロトン伝導性固体電解質はエレクトロクロミック材料やセンサー、特に最近は低温で動作する高エネルギー密度の燃料電池への応用に向けて盛んに研究されている。
【0003】
燃料電池では、プロトン伝導性電解質膜の一方の面に燃料極(アノードともいう)が設けられると共に、他方の面に酸化剤極(カソードともいう)が設けられている。燃料極には、水素あるいはメタノールなどの燃料が供給される。一方、酸化剤極には、酸化剤が供給される。アノードで電気化学的に燃料が酸化され、プロトンと電子が生成する。プロトンはプロトン伝導性電解質膜を透過してカソードに到達する。カソードでは、プロトンと酸化剤と外部回路からきた電子とにより水が生成する。これらの反応によって、燃料電池から電力が取り出される。
【0004】
プロトン伝導性電解質膜としては有機高分子系イオン交換膜であるパーフルオロスルホン酸含有高分子膜が知られている。具体的にはテトラフルオロエチレンとパーフルオロビニルエーテルとの共重合体をベースとし、イオン交換基としてスルホン酸基を有するもの、例えばデュポン社製の商品名ナフィオン(登録商標)などが知られている。パーフルオロスルホン酸含有高分子を電解質膜に用いた場合、膜に含まれる水分が乾燥によって減少しプロトン伝導度の低下が起こる。このため、高出力を得られる100℃付近での使用は厳しい水管理を必要とし、システムが極めて複雑になる。また、パーフルオロスルホン酸含有高分子は、クラスター構造を持つために疎な分子構造を有するため、この高分子を用いた電解質膜は、メタノールなどの有機液体燃料の透過性が高く、有機液体燃料がカソード側へ到達する所謂クロスオーバーを生じやすい。クロスオーバーを生じると、有機液体燃料と酸化剤とが直接反応してしまうため、エネルギーを電力として出力することができない。したがって、安定した出力を得ることができないという問題が生じる。
【0005】
無機固体酸系イオン交換膜としては固体超強酸性を有する硫酸担持金属酸化物(例えば特許文献1)が知られている。具体的にはジルコニウム、チタン、鉄、錫、シリコン、アルミニウム、モリブデン及びタングステンから選ばれる元素を1種類以上含む酸化物表面に硫酸を担持し、熱処理によって酸化物表面に硫酸を固定化したものである。硫酸担持金属酸化物は固定化された硫酸根によってプロトン伝導性が発現される。しかしながら、硫酸担持金属酸化物では加水分解により硫酸根が逸脱し、プロトン伝導度の低下が起こる。このため、発電の過程で水を生じる燃料電池、特に液体燃料を用いる燃料電池のプロトン伝導性電解質膜の材料として使用するには安定性が低く、長期の電力安定供給には不適切な材料である。
【0006】
また、特許文献2には、プロトン伝導性物質として、プロトン伝導性を有する金属酸化物水和物を使用することが記載されている。この金属酸化物水和物では、高温下での発電等による乾燥で水和水が抜けると、構造が収縮するため、その後に水を供給しても元の水和物に戻らず、十分な発電性能を得られないという問題点がある。
【0007】
特許文献3には、無機の多孔性担体に無機イオン伝導体を担持して、さらにイオン性液体を含浸させている燃料電池用電解質膜が記載されている。具体的には、無機多孔性担体としてのガラス織布に、アルミナ粒子をジルコニアを含む溶液を用いて焼き付けた後、この担体にチタニア粒子を、アルミニウム及びバナジウムを含む溶液で焼き付けることが記載されている。
【特許文献1】特開2002−216537号公報
【特許文献2】特開2003−142124号公報
【特許文献3】特表2004−515351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高い出力特性を得ることが可能なプロトン伝導性無機材料、電解質膜、電極、膜電極複合体及び燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るプロトン伝導性無機材料は、W、Mo、Cr、B及びVよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Xを含有する酸化物粒子と、
Sn、Hf、Ge、Ga、In、Ce及びNbよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Yを含有し、前記酸化物粒子が担持される酸化物担体と
を含有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るプロトン伝導性無機材料は、W、Mo、Cr、B及びVよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Xを含有する酸化物粒子と、
Ti、Zr、Si及びAlよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Mを含有し、前記酸化物粒子が担持される酸化物担体と、
前記酸化物粒子及び前記酸化物担体のうち少なくとも一方に含有され、Y、Sc、La、Sm、Gd、Mg、Ca、Sr及びBaよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Zと
を含有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る電解質膜は、W、Mo、Cr、B及びVよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Xを含有する酸化物粒子と、Sn、Hf、Ge、Ga、In、Ce及びNbよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Yを含有し、前記酸化物粒子が担持される酸化物担体とを含有するプロトン伝導性無機材料と、
高分子材料と
を具備することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る電解質膜は、W、Mo、Cr、B及びVよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Xを含有する酸化物粒子と、Ti、Zr、Si及びAlよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Mを含有し、前記酸化物粒子が担持される酸化物担体と、前記酸化物粒子及び前記酸化物担体のうち少なくとも一方に含有され、Y、Sc、La、Sm、Gd、Mg、Ca、Sr及びBaよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Zとを含有するプロトン伝導性無機材料と、
高分子材料と
を具備することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る電極は、W、Mo、Cr、B及びVよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Xを含有する酸化物粒子と、Sn、Hf、Ge、Ga、In、Ce及びNbよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Yを含有し、前記酸化物粒子が担持される酸化物担体とを含有するプロトン伝導性無機材料と、
高分子材料と、
酸化還元触媒と
を具備することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る電極は、W、Mo、Cr、B及びVよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Xを含有する酸化物粒子と、Ti、Zr、Si及びAlよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Mを含有し、前記酸化物粒子が担持される酸化物担体と、前記酸化物粒子及び前記酸化物担体のうち少なくとも一方に含有され、Y、Sc、La、Sm、Gd、Mg、Ca、Sr及びBaよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Zとを含有するプロトン伝導性無機材料と、
高分子材料と、
酸化還元触媒と
を具備することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る膜電極複合体は、燃料極と、酸化剤極と、前記燃料極及び前記酸化剤極の間に配置された電解質膜とを具備する膜電極複合体であって、
前記燃料極、前記酸化剤極及び前記電解質膜のうちの少なくともいずれかは、W、Mo、Cr、B及びVよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Xを含有する酸化物粒子と、Sn、Hf、Ge、Ga、In、Ce及びNbよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Yを含有し、前記酸化物粒子が担持される酸化物担体とを含有するプロトン伝導性無機材料を含むことを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る膜電極複合体は、燃料極と、酸化剤極と、前記燃料極及び前記酸化剤極の間に配置された電解質膜とを具備する膜電極複合体であって、
前記燃料極、前記酸化剤極及び前記電解質膜のうちの少なくともいずれかは、W、Mo、Cr、B及びVよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Xを含有する酸化物粒子と、Ti、Zr、Si及びAlよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Mを含有し、前記酸化物粒子が担持される酸化物担体と、前記酸化物粒子及び前記酸化物担体のうち少なくとも一方に含有され、Y、Sc、La、Sm、Gd、Mg、Ca、Sr及びBaよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Zとを含有するプロトン伝導性無機材料を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る燃料電池は、燃料極と、酸化剤極と、前記燃料極及び前記酸化剤極の間に配置された電解質膜とを具備する燃料電池であって、
前記燃料極、前記酸化剤極及び前記電解質膜のうちの少なくともいずれかは、W、Mo、Cr、B及びVよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Xを含有する酸化物粒子と、Sn、Hf、Ge、Ga、In、Ce及びNbよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Yを含有し、前記酸化物粒子が担持される酸化物担体とを含有するプロトン伝導性無機材料を含むことを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る燃料電池は、燃料極と、酸化剤極と、前記燃料極及び前記酸化剤極の間に配置された電解質膜とを具備する燃料電池であって、
前記燃料極、前記酸化剤極及び前記電解質膜のうちの少なくともいずれかは、W、Mo、Cr、B及びVよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Xを含有する酸化物粒子と、Ti、Zr、Si及びAlよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Mを含有し、前記酸化物粒子が担持される酸化物担体と、前記酸化物粒子及び前記酸化物担体のうち少なくとも一方に含有され、Y、Sc、La、Sm、Gd、Mg、Ca、Sr及びBaよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Zとを含有するプロトン伝導性無機材料を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高い出力特性を得ることが可能なプロトン伝導性無機材料、電解質膜、電極、膜電極複合体及び燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
前述した特許文献1,2に記載の燃料電池においては、高出力が得られないだけでなく、以下の問題点も有している。プロトン伝導性電解質膜におけるプロトンの伝導に多量の同伴水を必要とし、十分な水分が電解質に供給されなくてはならない。よって、安定した電力の供給には複雑なシステムを必要とする水の管理が不可欠となっている。また、メタノールなどの液体燃料を用いる燃料電池の場合、メタノールのクロスオーバーを十分に制御することができなかったので、安定した出力を得ることができない。
【0021】
本発明の第1,第2の実施形態に係るプロトン伝導性無機材料によると、燃料電池において高出力特性を得られるだけでなく、水管理が容易になり、メタノールのような液体燃料のクロスオーバーを抑制することが可能になる。また、第1,第2の実施形態に係るプロトン伝導性無機材料は、室温から150℃付近の高温における安定性が高く、室温から150℃付近の高温に亘る広い温度範囲で高いイオン伝導性を維持することができる。
【0022】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係るプロトン伝導性無機材料は、W、Mo、Cr、B及びVよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Xを含有する酸化物粒子と、Sn、Hf、Ge、Ga、In、Ce及びNbよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Yを含有し、前記酸化物粒子が担持される酸化物担体とを含有する。
【0023】
第1の実施形態に係るプロトン伝導性無機材料における正確なプロトン伝導機構はまだ解明されていないが、元素Yを含有する酸化物担体(以下、酸化物担体Aと称す)の表面に元素Xを含有する酸化物粒子(以下、酸化物粒子Bと称す)が担持されることで、酸化物粒子Bの構造内にルイス酸点が生成し、このルイス酸点が水和することでブレンステッド酸点になり、プロトンの伝導場が形成されると考えられる。また、プロトン伝導性無機材料が非晶質構造を有した場合、このこともルイス酸点生成の促進に寄与しているものと推測される。
【0024】
ルイス酸点によるプロトン生成反応に加えて、プロトン伝達に必要な同伴水の分子数を少なくすることができるため、プロトン伝導性無機材料の表面に存在する少量の水分子で高いプロトン伝導性を得ることが可能になり、発電時の厳格な水管理を行わずに大きな発電量を得ることができる。従って、このプロトン伝導性無機材料を、燃料極、酸化剤極及び電解質膜の少なくともいずれかに含有させることで、燃料電池のセル抵抗を低くすることができ、燃料電池の最大発電量を増加させることができる。
【0025】
また、このプロトン伝導性無機材料を含有する電解質膜によると、メタノールのような液体燃料の透過を抑制することが可能である。特に、プロトン伝導性無機材料間の結着性を高めるために電解質膜に高分子材料を添加すると、プロトン伝導性電解質膜の緻密性がさらに高くなるため、液体燃料の透過をさらに抑えることが可能である。
【0026】
ところで、酸化物粒子Bは、元素やpHの環境によってその溶解度が変動するものの、水溶性を有している場合がある。この酸化物粒子Bを水溶性の低い酸化物担体Aに担持させているため、酸化物粒子Bの水への溶解を抑えることができ、プロトン伝導性無機材料の水及び液体燃料に対する安定性を高くすることができる。また、溶出した酸化物粒子Bから生じたイオンによって、他の燃料電池材料や装置が汚染されるのを回避することができる。従って、第1の実施形態に係る無機材料によれば、燃料電池において高い長期信頼性を得ることができる。さらに、安価な酸化物担体Aを母材とすることで電池の製造コストを抑えることも可能である。
【0027】
酸化物担体Aに酸化物粒子Bが担持されていることの確認は下記に説明する方法で調べることが可能である。例えば、X線回折法(XRD)では、結晶性物質に対して物質固有の結晶格子の回折パターンが得られる。担持前後の回折パターンを比較することで、結晶性の担持物の有無を確認できる。X線回折法(XRD)の代わりにエネルギー分散型X線分析(EDX)を用いることが可能である。一方、担持物が非晶性物質であれば、回折パターンからの確認ができないため、原子吸光分析などの機器を使用した組成分析から非晶性の担持物の存在を確認することができる。組成分析には、電子プローブ微量分析(EPMA)またはX線電子分光法(XPS)を使用することが可能である。
【0028】
図3に、TiO2粒子からなる酸化物担体Aに、MoO3粒子からなる酸化物粒子Bが担持されているプロトン伝導性無機材料の電子顕微鏡写真を示す。図3に示す通り、酸化物担体Aの表面に存在する細かい粒が酸化物粒子Bである。また、図4に、無担持のTiO2粒子の電子顕微鏡写真を示す。図4から、無担持のTiO2粒子では、表面に細かい粒がなく、滑らかな表面を有していることが理解できる。このように無担持の酸化物担体の表面状態と比較することによって、酸化物担体表面上の担持物の有無を確認することが可能である。
【0029】
酸化物担体Aは、上記元素Yを含むガスを分解して酸化物を作る気相法、あるいは上記元素Yを含む金属アルコキシドを原料としてゾル―ゲル法などから合成することができるが、合成方法は限定されるものではない。また、複数の元素を含む複合酸化物から酸化物担体Aが形成されていても良い。元素Yの酸化物としては、例えば、SnO2、HfO2、GeO2、Ga23、In23、CeO2、Nb25などが挙げられる。プロトン伝導性を十分に高くするためには、SnO2を使用することが望ましい。ところで、酸化物担体Aの形状には粒子状、繊維状、平板状、層状、多孔性などの形状が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
酸化物担体Aの表面への酸化物粒子Bの担持は、例えば以下に説明する方法で行うことができる。元素Xを含む物質を溶解した溶液に酸化物担体Aを分散させ、溶液中の溶媒を蒸発させた後、酸化物担体Aの表面上の元素Xを含む物質を熱処理により酸化物粒子Bとすることにより担持がなされる。元素Xを含む物質を溶解した溶液としては、例えば、塩化物水溶液、硝酸塩水溶液、水素酸塩水溶液、オキソ酸塩水溶液、金属アルコキシドのアルコール溶液などを挙げることができる。なお、担持方法はこれに限定されるものではない。また、酸化物粒子Bは、複数の元素を含む複合酸化物から形成されていても良い。
【0031】
酸化物粒子Bは、酸化物担体Aの表面の少なくとも一部に担持されていれば良く、例えば、酸化物担体Aの表面に点在していたり、あるいは酸化物担体Aの表面を覆うような層状物である場合が挙げられる。また、酸化物粒子B及び酸化物担体Aの結晶性は限定されるものではなく、酸化物粒子Bと酸化物担体Aのいずれも結晶質であっても良い。ルイス酸点生成の促進、酸性度の向上に寄与する可能性、製造コストの低下、製造プロセスの容易さを考慮すれば、酸化物粒子Bおよび酸化物担体Aはいずれも非晶質であることが望ましい。さらに、酸化物粒子Bが結晶質で、酸化物担体Aが非晶質であっても良いが、酸化物粒子Bが非晶質で、酸化物担体Aが結晶質であることがより望ましい。
【0032】
上記プロトン伝導性無機材料は、例えば、酸化物担体Aの表面に酸化物粒子Bを焼成により担持することにより形成される。焼成温度によっては結合力の不足により十分な酸性が得られないことがある。また、構成酸化物が飛散し、目的の組成が得られず、プロトン伝導サイトの減少が起こる可能性がある。さらに、焼成を施すことにより酸化物の結晶性の増加などに伴う結晶構造の変化が起こり、プロトン伝導性無機材料に応力が生じる。プロトン伝導性無機材料内に生じた応力によって、酸化物担体Aと酸化物粒子Bの結合力が低下し、分離する恐れがある。酸化物担体Aと酸化物粒子Bの分離は、酸性度の低下やプロトン伝導サイトの減少を招く。
【0033】
プロトン伝導性無機材料に、Y、Sc、La、Sm、Gd、Mg、Ca、Sr及びBaよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Zを含む酸化物Cを第3の成分として含有させることが望ましい。これにより、酸化物Cをプロトン伝導性無機材料の構造安定剤として機能させることができる。酸化物Cの具体例としては、Y23、Sc23、La23、Sm23、Gd23、MgO、CaO、SrO及びBaOなどが挙げられる。酸化物Cは、酸化物担体A及び酸化物粒子Bのうち少なくとも一方に含有させることができるが、燃料電池において高出力を得る観点から、酸化物担体Aに酸化物Cを含有させることが望ましい。
【0034】
プロトン伝導性無機材料中の上記元素Zの含有量は、元素X、元素Y及び元素Zの合計モル量を100mol%とした際に、0.01〜40mol%の範囲にすることが望ましい。含有量を0.01mol%以上にすることによって、プロトン伝導性無機材料の安定性を向上することができる。含有量を40mol%以下にすることによって、プロトン伝導性無機材料の固体超強酸性を維持することができる。含有量のより好ましい範囲は、0.1〜10mol%である。
【0035】
プロトン伝導性無機材料は、固体超強酸を示すことが望ましい。プロトンの解離度を酸強度として表現でき、固体酸の酸強度はHammettの酸度関数H0として表わされ、硫酸の場合H0は−11.93である。プロトン伝導性無機材料は、H0<−11.93となる固体超強酸性を示すことがより好ましい。また、合成法を最適化することによって、酸度関数H0が−20.00の酸性度まで高めることが可能である。したがって、プロトン伝導性無機材料の酸強度は−20.00≦H0<−11.93の範囲にすることができる。プロトン伝導性無機材料の固体超強酸性は、実施例にて後述するように、プロトン伝導性無機材料を含む膜の固体超強酸性を測定することにより間接的に求めることができる。
【0036】
上述したようにプロトン伝導性無機材料の表面がプロトンの伝導場になるため、プロトン伝導性無機材料の比表面積は可能な限り大きいことが好ましいが、2000m2/gを超えると取り扱いや均一な合成の制御が難しくなる。また、比表面積が10m2/g未満のときは、十分なプロトン伝導性が得られない恐れがある。よって、比表面積は、10〜2000m2/gの範囲にすることが好ましい。
【0037】
酸化物担体Aの元素Yに対する酸化物粒子Bの元素Xの比(X/Y)は、0.0001〜20の範囲であることが好ましい。元素比(X/Y)が0.0001未満になると、担持量が少なく、プロトンの伝導場が少ないためにプロトン伝導度が低くなる恐れがある。一方、元素比(X/Y)が20を超えると、担持量が多く、プロトンの伝導場が、元素Xを含む酸化物粒子Bで覆い隠されてしまうため、プロトン伝導度が低くなる可能性がある。元素比(X/Y)のより望ましい範囲は、0.01〜1である。
【0038】
第1の実施形態に係るプロトン伝導性無機材料は、例えば、酸化物担体Aに酸化物粒子Bの前駆体を担持させた後、大気中のような酸化雰囲気で熱処理することにより得られる。処理温度が200℃より低いと、酸化物担体Aと酸化物粒子Bの間に十分な化学結合が形成されず、得られる無機材料のプロトン伝導性が低くなる可能性がある。一方、処理温度が1000℃を超える高温では、粒子同士の融合が生じて比表面積が小さくなるため、高いプロトン伝導性を得られない恐れがある。熱処理温度は200〜1000℃とすることが好ましい。また、200℃の低温では、酸化物担体Aと酸化物粒子Bの間に結合を形成するのに長時間の熱処理を要する。一方、1000℃付近の高温になると結合が形成しやすいため、短時間での熱処理での合成が可能である。よって、熱処理温度のさらに好ましい範囲は、400〜700℃である。
【0039】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係るプロトン伝導性無機材料は、W、Mo、Cr、B及びVよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Xを含有する酸化物粒子(以下、酸化物粒子Bと称す)と、Ti、Zr、Si及びAlよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Mを含有し、前記酸化物粒子が担持される酸化物担体(以下、酸化物担体Mと称す)と、前記酸化物粒子B及び前記酸化物担体Mのうち少なくとも一方に含有され、Y、Sc、La、Sm、Gd、Mg、Ca、Sr及びBaよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Zとを含有する。
【0040】
元素Zを含む酸化物(以下、酸化物Cと称す)は、プロトン伝導性無機材料の構造安定性を高くすることができる。その結果、酸化物担体Mの表面に酸化物粒子Bを焼成により形成する際、これらに応力が生じるのを抑制することができるため、酸化物担体Mと酸化物粒子Bの結合強度を十分に高くすることができる。また、焼成の際の構成酸化物の飛散を抑制することができる。
【0041】
その結果、第2の実施形態に係るプロトン伝導性無機材料は、酸化物担体Mと酸化物粒子Bの相互作用によって、酸化物粒子Bの構造内にルイス酸点を生成することができる。また、第2の実施形態に係るプロトン伝導性無機材料は、プロトン伝達に必要な同伴水の分子数を少なくすることができる。
【0042】
従って、このプロトン伝導性無機材料を、燃料極、酸化剤極及び電解質膜の少なくともいずれかに含有させることで、燃料電池のセル抵抗を低くすることができ、燃料電池の最大発電量を増加させることができる。
【0043】
また、第2の実施形態に係るプロトン伝導性無機材料を含有する電解質膜によると、メタノールのような液体燃料の透過を抑制することが可能である。この電解質膜に高分子材料を添加すると、電解質膜の緻密性がさらに高くなるため、液体燃料の透過をさらに抑えることが可能である。
【0044】
元素Mを含む酸化物を担体に使用することが望ましい。これにより、プロトン伝導性無機材料の水及び液体燃料に対する安定性を高くすることができる。このため、プロトン伝導性無機材料の溶出により生じたイオンによって、他の燃料電池材料や装置が汚染されるのを回避することができる。従って、第2の実施形態に係る無機材料によれば、燃料電池において高い長期信頼性を得ることができる。さらに、安価な酸化物担体Mを母材とすることで電池の製造コストを抑えることも可能である。
【0045】
酸化物Cの具体例には、第1の実施形態で説明したのと同様な種類を挙げることができる。酸化物Cは、酸化物担体M及び酸化物粒子Bのうち少なくとも一方に含有させることができるが、燃料電池において高出力を得る観点から、酸化物担体Mに酸化物Cを含有させることが望ましい。
【0046】
プロトン伝導性無機材料中の上記元素Zの含有量は、元素X、元素M及び元素Zの合計モル量を100mol%とした際に、0.01〜40mol%の範囲にすることが望ましい。含有量を0.01mol%以上にすることによって、プロトン伝導性無機材料の安定性を向上することができる。含有量を40mol%以下にすることによって、プロトン伝導性無機材料の固体超強酸性を維持することができる。含有量のより好ましい範囲は、0.1〜10mol%である。
【0047】
酸化物担体Mに酸化物粒子Bが担持されていることの確認は、第1の実施の形態で説明したのと同様な方法により行うことが可能である。
【0048】
酸化物担体Mは、上記元素Mを含むガスを分解して酸化物を作る気相法、あるいは上記元素Mを含む金属アルコキシドを原料としてゾル―ゲル法などから合成することができるが、合成方法は限定されるものではない。また、複数の元素を含む複合酸化物から酸化物担体Mが形成されていても良い。元素Mの酸化物としては、例えば、TiO2、ZrO2、SiO2、Al23などが挙げられる。製造コストを抑えつつ高いプロトン伝導性を得るには、TiO2を使用することが望ましい。ところで、酸化物担体Mの形状には粒子状、繊維状、平板状、層状、多孔性などの形状が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
酸化物担体Mの表面への酸化物粒子Bの担持は、酸化物担体Aの代わりに酸化物担体Mを使用すること以外は、第1の実施形態で説明するのと同様な方法により行うことができる。
【0050】
酸化物粒子Bは、酸化物担体Mの表面の少なくとも一部に担持されていれば良く、例えば、酸化物担体Mの表面に点在していたり、あるいは酸化物担体Mの表面を覆うような層状物である場合が挙げられる。また、酸化物粒子B及び酸化物担体Mの結晶性は限定されるものではなく、酸化物粒子Bと酸化物担体Mのいずれも結晶質であっても良い。ルイス酸点生成の促進、酸性度の向上に寄与する可能性、製造コストの低下、製造プロセスの容易さを考慮すれば、酸化物粒子Bおよび酸化物担体Mはいずれも非晶質であることが望ましい。さらに、酸化物粒子Bが結晶質で、酸化物担体Mが非晶質であっても良いが、酸化物粒子Bが非晶質で、酸化物担体Mが結晶質であることがより望ましい。
【0051】
プロトン伝導性無機材料は、固体超強酸を示すことが望ましい。プロトン伝導性無機材料は、H0<−11.93となる固体超強酸性を示すことがより好ましい。さらに好ましい範囲は、−20.00≦H0<−11.93である。プロトン伝導性無機材料の固体超強酸性は、第1の実施形態で説明したのと同様な方法により測定することができる。
【0052】
第2の実施形態に係るプロトン伝導性無機材料の比表面積は、第1の実施形態で説明したのと同様な理由により、10〜2000m2/gの範囲にすることが好ましい。
【0053】
酸化物担体Mの元素Mに対する酸化物粒子Bの元素Xの比(X/M)は、0.0001〜20の範囲であることが好ましい。元素比(X/M)を0.0001以上にすることによって、十分な担持量を確保することができる。一方、元素比(X/M)を20以下にすることによって、プロトンの伝導場が、元素Xを含む酸化物粒子Bで覆い隠されてしまうのを抑えることができる。元素比(X/M)のより望ましい範囲は、0.01〜1である。
【0054】
第2の実施形態に係るプロトン伝導性無機材料は、例えば、元素Zと元素Mの複合酸化物からなる担体aに酸化物粒子Bの前駆体を担持させた後、大気中のような酸化雰囲気で熱処理することにより得られる。担体aと酸化物粒子Bとを融合させることなく、これらの間に十分な化学結合を形成するために、熱処理温度は200〜1000℃とすることが好ましい。熱処理温度のさらに好ましい範囲は、400〜700℃である。
【0055】
(第3の実施の形態)
第3の実施形態に係る電解質膜は、第1の実施形態に係るプロトン伝導性無機材料もしくは第2の実施形態に係るプロトン伝導性無機材料と、高分子材料とを含有する。
【0056】
このような電解質膜において、プロトン伝導性無機材料が高分子材料中に含有されているか、もしくはプロトン伝導性無機材料が高分子材料により結着していることがさらに望ましい。
【0057】
高分子材料は特に限定はないが、具体的にはポリスチレンやポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンあるいは他のエンジニアリングプラスチック材料が挙げられる。また上記高分子材料にスルホン酸、リン酸、その他のプロトンキャリアをドープあるいは化学的に結合、固定化した材料、あるいはパーフルオロスルホン酸などプロトン伝導性を発現する高分子材料であってもよい。さらには、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エーテル結合及びアミド結合よりなる群から選択される少なくとも1種類を含む親水性有機高分子を使用することが可能である。中でも、親水性有機高分子が望ましい。
【0058】
ヒドロキシル基、カルボキシル基、エーテル結合及びアミド結合よりなる群から選択される少なくとも1種類を含む親水性有機高分子を電解質膜に含有させることによって、プロトン伝導性無機材料と親水性有機高分子との相分離を抑制することができ、プロトン伝導性無機材料の分散性を向上することができる。得られた電解質膜は、吸水性が高いため、プロトン伝導性無機材料に十分な量の水分を供給することができ、高いプロトン伝導性が得られ、膜抵抗を低減することができる。また、このプロトン伝導性膜は、緻密性が高いため、液体燃料の透過を抑えることが可能で、メタノールクロスオーバーを抑制することができる。
【0059】
親水性有機高分子の具体例を挙げる。ヒドロキシル基を有する親水性有機高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。カルボキシル基を有する親水性有機高分子としては、例えば、ポリアクリル酸などを挙げることができる。エーテル結合を有する有機高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、セルロースなどが挙げられる。アミド結合を有する有機高分子としては、例えば、ポリアミド、ポリビニルピロリドンなどを挙げることができる。また、エステル結合を有する有機高分子なども考えられる。
【0060】
特に、ポリビニルアルコールによると、プロトン伝導性無機材料との親和性が高くなるため、プロトン伝導性無機材料の分散性を良好にすることができ、また、プロトン伝導性無機材料と親水性有機高分子との相分離も抑制することができる。その結果、吸水性とメタノール透過抑制に優れた電解質膜を実現することができる。
【0061】
ポリビニルアルコールのケン化度は、50%以上、100%以下にすることが望ましい。ケン化度を50%〜100%にすることによって、電解質膜の抵抗を小さくすることができる。ケン化度の測定方法は以下に説明する通りである。ポリビニルアルコールを水酸化ナトリウムで完全にケン化する。完全にケン化したかは赤外吸光分析により確認することができる。ケン化したポリマー溶液に硫酸を添加し、さらに過剰の硫酸を水酸化ナトリウムで滴定して、未ケン化のアセチル基およびケン化度を求めることにより決定できる。
【0062】
親水性高分子は、20℃以上における平衡吸湿率が5%以上であることが望ましい。このような親水性高分子は、高い吸水性を有するため、電解質膜の膜抵抗をさらに低くすることができる。より好ましい親水性高分子は、20℃以上、90℃以下における平衡吸湿率が5%以上、95%以下のものである。
【0063】
なお、平衡吸湿率は温度20℃以上、相対湿度95%以上に調節した恒温恒湿中に試料膜を1週間放置して吸湿量が平衡状態となったものの重量を計測し、この試料膜の105℃で2時間乾燥後の重量との差より測定した。なお、試料膜は、親水性高分子を水に溶解させ、得られたスラリーをキャスティングすることにより作製されたものである。
【0064】
親水性有機高分子を用いる電解質膜は、例えば、以下に説明する方法で作製される。プロトン伝導性無機材料及び親水性有機高分子を水やアルコールなどの極性溶媒に分散させ、スラリーを調製する。このスラリーをガラス基板や樹脂基板上にキャスト、乾燥することによって溶媒を除去した後、200℃以下の温度で熱処理する。詳細に関しては明らかになっていないが、200℃以下の熱処理によって、プロトン伝導性無機材料と親水性有機高分子の間で酸化反応や脱水反応、水素結合からなる相互作用、親水性有機高分子の結晶化などが生じ、親水性有機高分子の膨潤や溶解を防ぐことができるものと推測される。少なくとも、ポリビニルアルコールに関しては、200℃以下の温度で熱処理することで、ポリビニルアルコール中の親水性のヒドロキシル基が固体超強酸により酸化されて疎水性のケトン基になることが赤外分光分析(IR)の結果から示唆されている。
【0065】
ポリビニルアルコールを用いて上述した方法でスラリー調製及び熱処理を行うことにより電解質膜を作製すると、プロトン伝導性無機材料に対する親和性を損なうことなく、水のような極性溶媒に対するポリビニルアルコールの溶解性を適度に低くすることができるため、スラリーの分散安定性を良好にしつつ、電解質膜の吸水時の形状保持性を高くすることができる。これにより、吸水性に優れ、かつメタノール透過が抑制された電解質膜を実現することができる。また、上記熱処理を施すことにより、スラリー調製に使用する溶媒に水を使用しても形状保持性に優れる膜が得られるため、溶媒への水使用により膜の親水性をさらに高めることが可能である。
【0066】
熱処理温度は親水性有機高分子の分解や劣化が起こらない温度で実施することが必要であり、200℃以下の温度で熱処理することが望ましい。また、熱処理による効果を十分なものとするために、熱処理温度は100℃以上にすることが望ましい。熱処理温度のより好ましい範囲は、130℃以上、180℃以下である。
【0067】
プロトン伝導性無機材料と高分子材料の配合比は、高いプロトン伝導度を維持しつつ、液体燃料の透過を阻止する条件を満たすことが望ましい。このため、膜全重量(T)に対しプロトン伝導性無機材料(S)の重量比(S/T)を0.1〜0.999の範囲にすることが望ましい。なお、重量比(S/T)が0.1よりも小さいと、プロトン伝導性無機材料の連続性が低下して伝導度が低くなる恐れがある。重量比(S/T)のさらに好ましい範囲は、0.5〜0.999である。
【0068】
電解質膜を燃料電池の固体電解質膜として使用する際には、一般的にはシートのままで使用されるが、これに限定されるものではなく筒状に成形することも可能である。即ち、プロトン伝導性無機材料と上記の高分子材料の分散混合物を、直接膜状にキャスティングする方法が挙げられる。あるいは、該分散混合物を多孔質芯材、織布または不織布などに含浸キャスティングするなどの方法も採用することができる。
【0069】
電解質膜の厚さは、特に、制限はないが強度や液体燃料の透過性、プロトン伝導性など実用に耐え得る膜を得るには10μm以上が好ましい。また、膜抵抗の低減のためには300μm以下が好ましい。特に、燃料電池の内部抵抗を小さくするためには、10〜100μmがより好ましい。
【0070】
電解質膜の厚さを制御する方法は、特に限定されるものではないが、例えば以下の方法が挙げられる。プロトン伝導性無機材料と高分子材料の分散混合物を、直接膜状にキャスティングする場合、キャストする分散混合物の量あるいはキャスト面積で変更できるほか、膜形成後、ホットプレス機などにより膜を加熱、加圧して、膜厚さを薄くすることもできる。
【0071】
(第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態に係る電極は、酸化還元触媒と、第1の実施形態に係るプロトン伝導性無機材料もしくは第2の実施形態に係るプロトン伝導性無機材料と、結着剤となる高分子材料とを含む触媒層を備える。この電極は、燃料電池の燃料極または酸化剤極として用いられるか、あるいは燃料極と酸化剤極の双方として利用され得る。
【0072】
燃料極および酸化剤極は、それぞれ、多孔体などのガス拡散性の構造体からなり、燃料ガスや液体燃料または酸化剤ガスが流通可能である。燃料極には燃料の酸化反応、酸化剤極には酸素の還元反応を促進するため、酸化還元触媒が炭素などの導電性支持材料に担持されている。酸化還元触媒としては、例えば、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、モリブデン、マンガン、バナジウムなどの金属触媒が挙げられる。金属触媒には、金属単体を使用しても、二元系合金、三元系合金を使用しても良い。特に白金は触媒活性が高く、多くの場合で使用されている。また、酸化還元触媒を担持する支持材料は導電性が備わっていれば良く、炭素材料が良く用いられている。例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、およびアセチレンブラックなどのカーボンブラック、活性炭、黒鉛などが挙げられる。
【0073】
炭素材料への酸化還元触媒の担持方法は特に限定されないが、例えば以下に説明する方法を採用することができる。触媒となる金属元素を含む物質を溶解した溶液に炭素材料を分散させ、溶液中の溶媒を蒸発させた後、還元雰囲気で熱処理することにより、炭素材料に酸化還元触媒を担持することが可能である。金属元素を含む物質を溶解した溶液としては、例えば、塩化物水溶液、硝酸塩水溶液、水素酸塩水溶液、オキソ酸塩水溶液、金属アルコキシドのアルコール溶液などを挙げることができる。触媒となる金属の粒径は、1〜50nmにすることができる。電極中の触媒金属量は、0.01〜10mg/cm2にすることができる。
【0074】
燃料極および酸化剤極の触媒層におけるプロトン伝導性無機材料は電解質膜までプロトンを運搬する経路となるため十分な連続性が維持されていることが望ましい。プロトン伝導性無機材料単体で、あるいは上記炭素材料へ担持して使用しても良い。電極中のプロトン伝導性無機材料量は、0.01〜50mg/cm2であることが好ましい。
【0075】
結着剤となる高分子材料には、第3の実施形態で説明したのと同様な種類のものを使用することができる。
【0076】
触媒層全重量(C)に対する高分子材料(P)の重量比(P/C)が0.5よりも大きいと、プロトン伝導性無機材料や酸化還元触媒の連続性が低下し、プロトン伝導度、導電度が低くなる恐れがある。プロトン伝導性、導電性を高く維持しつつ多孔性を保持した触媒層構造を形成するため、重量比(P/C)は、0.001〜0.5の範囲にすることが望ましい。
【0077】
電極は触媒層単体で形成されていても、また触媒層を他の支持体上に形成し電極としても良い。電極の形成方法は特に限定されるものではない。例えば、酸化還元触媒、プロトン伝導性無機材料及び高分子材料を水やアルコールなどの有機溶媒に混合、分散してスラリーとし、このスラリーを支持体上に塗布、乾燥、焼成して触媒層を形成することにより電極を得る。支持体は特に限定されるものではなく、例えば電解質膜を支持体とすることができる。この場合、電解質膜の両面に触媒層が形成された膜電極複合体を得ることができる。また、支持体には、ガス透過性及び導電性を有する、炭素製ペーパー、炭素製フェルトあるいは炭素製クロスなどを使用しても良い。
【0078】
(第5の実施形態)
本発明の第5の実施形態に係る膜電極複合体は、燃料極と、酸化剤極と、燃料極及び酸化剤極の間に配置される電解質膜とを具備する。燃料極、酸化剤極及び電解質膜のうち少なくともいずれかが、第1の実施形態に係るプロトン伝導性無機材料もしくは第2の実施形態に係るプロトン伝導性無機材料を含有する。具体的には、第3の実施形態に係る電解質膜を備えた膜電極複合体、第4の実施形態に係る電極を燃料極、酸化剤極もしくは燃料極及び酸化剤極の双方に使用した膜電極複合体、第3の実施形態に係る電解質膜を備え、かつ第4の実施形態に係る電極を燃料極、酸化剤極もしくは燃料極及び酸化剤極の双方に使用した膜電極複合体などが挙げられる。
【0079】
電解質膜と電極との接合は、加熱、加圧できる装置を用いて実施される。一般的にはホットプレス機により行われる。その際のプレス温度は電極、電解質膜に結着剤として使用する高分子材料のガラス転移温度以上であれば良く、100〜400℃にすることができる。プレス圧は使用する電極の硬さに依存するが、5〜200kg/cm2の範囲にすることができる。
【0080】
(第6の実施形態)
第6の実施形態に係る燃料電池は、第5の実施形態に係る膜電極複合体を備える。
【0081】
第6の実施形態に係る燃料電池を、図面を参照して説明する。図1は本発明の第6の実施形態に係る燃料電池を模式的に示した断面図を示す。
【0082】
図1に示す液体燃料電池のスタック100は、複数の単電池を積層することによって形成される。スタック100の側面には、燃料導入路1が配置されている。燃料導入路1には、液体燃料タンク(図示しない)から導入管(図示しない)を通して液体燃料が供給される。液体燃料はメタノールを含むものが好ましい。液体燃料には、例えば、メタノール水溶液、メタノールを使用することができる。各単電池は、燃料極(アノードともいう)2と、酸化剤極(カソードともいう)3と、燃料極2及び酸化剤極3の間に配置された電解質膜4とから構成された膜電極複合体(起電部)5を備える。燃料極2および酸化剤極3は、燃料や酸化剤ガスを流通させるとともに電子を通すように、導電性の多孔質体で構成されていることが望ましい。
【0083】
各単電池は、燃料極2に積層された燃料気化部6と、燃料気化部6に積層された燃料浸透部7と、酸化剤極3に積層されたカソードセパレータ8とをさらに備える。燃料浸透部7は、液体燃料を保持する機能を有する。この液体燃料は、燃料導入路1から供給される。この燃料気化部6は、燃料浸透部7に保持された液体燃料の気化成分を燃料極2に導く役割をなす。カソードセパレータ8の酸化剤極3と対向する面には、酸化剤ガスを流すための酸化剤ガス供給溝9が連続溝として設けられている。また、カソードセパレータ8は、隣り合う起電部5同士を直列に接続する役割も果たしている。
【0084】
なお、図1のように単電池を積層してスタック100を構成する場合、セパレーター5、燃料浸透部7および燃料気化部6は、発生した電子を伝導する集電板としての機能も果たすため、カーボンを含有した多孔質体などの導電性材料により形成されることが望ましい。
【0085】
上述したように、図1の単電池におけるセパレーター8は、酸化剤ガスを流すチャンネルとしての機能を併せ持つものである。このように、セパレーターとチャンネルとの両方の機能を有する部品8(以下、チャンネル兼用セパレーターと称する)を用いることによって、部品点数を削減することができるので、よりいっそう燃料電池の小型化を図ることが可能となる。あるいは、このセパレーター8に代えて通常のチャンネルを用いることもできる。
【0086】
燃料貯蔵タンク(図示せず)から液体燃料導入路1に液体燃料を供給する方法としては、燃料貯蔵タンク内に収容された液体燃料を自由落下させて、液体燃料導入路1に導入する方法が挙げられる。この方法は、スタック100の上面より高い位置に燃料貯蔵タンクを設けなければならないという構造上の制約はあるものの、液体燃料導入路1に確実に液体燃料を導入することができる。他の方法としては、液体燃料導入部1の毛管力によって、燃料貯蔵タンクから液体燃料を引き込む方法が挙げられる。この方法を採用した場合には、燃料貯蔵タンクと液体燃料導入路1との接続点、すなわち液体燃料導入路1に設けられた燃料入口の位置を、スタック100の上面より高くする必要がない。したがって、例えば、自然落下法と組み合わせると、燃料タンクの設置場所を自在に設定することができるという利点がある。
【0087】
ただし、毛管力で液体燃料導入路1に導入された液体燃料を、引き続き円滑に毛管力で燃料浸透部7に供給するためには、液体燃料導入路1の毛管力より燃料浸透部7への毛管力のほうが大きくなるように設定することが望まれる。なお、液体燃料導入路1の数は、スタック100の側面に沿って1つに限定されるものではなく、スタックの他方の側面にも液体燃料導入路1を形成することが可能である。
【0088】
また、上述したような燃料貯蔵タンクは電池本体から着脱可能とすることができる。これによって、燃料貯蔵タンクを交換することで、電池の作動を継続して長時間行なうことが可能となる。また、燃料貯蔵タンクから液体燃料導入路1への液体燃料の供給は、上述したような自然落下やタンク内の内圧等で液体燃料を押し出すような構成、あるいは、液体燃料導入路1の毛管力によって燃料を引き出すような構成とすることもできる。
【0089】
上述したような手法によって、液体燃料導入路1内に導入された液体燃料は、燃料浸透部7に供給される。燃料浸透部7の形態は、液体燃料をその内部に保持し、気化した燃料のみを燃料気化部6を通して燃料極2に供給するような機能を有していれば特に限定されるものではない。例えば、液体燃料の通路を有して、その燃料気化部6との界面に気液分離膜を具備するものとすることができる。さらに、補機を用いずに毛管力により燃料浸透部7に液体燃料を供給する場合には、燃料浸透部7の形態は、液体燃料を毛管力で浸透し得るものであれば特に限定されるものではなく、粒子やフィラーからなる多孔質体や、抄紙法で製造した不織布、繊維を織った織布等のほかに、ガラスやプラスチック等の板との間に形成された狭い隙間等も用いることができる。
【0090】
ここで、燃料浸透部7として多孔質体を用いた場合について説明する。液体燃料を燃料浸透部7側に引き込むための毛管力としては、まず燃料浸透部7を構成する多孔質体自体の毛管力が挙げられる。このような毛管力を利用する場合、多孔質体である燃料浸透部7の孔を連結させた、いわゆる連続孔とし、その孔径を制御するとともに、液体燃料導入部1側の燃料浸透部7側面から少なくとも他の一面まで連続した連続孔とすることによって、液体燃料を横方向で円滑に毛管力で供給することが可能となる。
【0091】
燃料浸透部7として用いられる多孔質体の孔径等は、液体燃料導入路1の液体燃料を引き込むことができるものであればよく、特に限定されるものではないが、液体燃料導入路1の毛管力を考慮したうえで、0.01〜150μm程度とすることが好ましい。また、多孔質体における孔の連続性の指標となる孔の体積は、20〜90%程度とすることが好ましい。孔径が0.01μmより小さい場合には燃料浸透部7の製造が困難となり、一方、150μmを越えると毛管力が低下するおそれがある。また、孔の体積が20%未満となると連続孔の量が減少して閉鎖された孔が増えるため、十分な毛管力を得ることが困難になる。その一方、孔の体積が90%を越えると連続孔の量は増加するものの、強度的に弱くなるとともに製造が困難となる。実用的には、燃料浸透部7を構成する多孔質体は、孔径が0.5〜100μmの範囲であることが好ましく、孔の体積は30〜75%の範囲とすることが望ましい。
【0092】
このような燃料電池は、電解質膜のプロトン伝導能を十分に発揮させるため、水分管理が容易な温度で作動させることが望ましい。燃料電池の作動温度の好ましい範囲は室温〜150℃である。50℃〜150℃の高い温度で作動させると、電極の触媒活性が向上するため、電極過電圧を減少させることができる。
【0093】
以下、具体的ではあるが限定的ではない実施例を示して、本発明をさらに詳細に説明する。
【0094】
〔実施例1〕
ホウ酸トリメチルB(OCH33を0.7g溶解したエタノール溶液300mlに、酸化ガリウムGa23を6gを加えた混合溶液を常に撹拌しながら80℃まで加熱し、100ml/時の蒸発速度で水を除去した。この後さらに100℃の乾燥器内で12時間保持して粉末を得た。この粉末をメノウ乳鉢で粉砕して粉末状にした後、アルミナ坩堝内において昇温速度100℃/時で700℃まで加熱し、さらに700℃を4時間保持することにより、プロトン伝導性無機材料として酸化ホウ素担持酸化ガリウムを得た。酸化ガリウムのガリウム元素(Y)に対する酸化ホウ素のホウ素元素(X)の元素比(X/Y)は0.1であった。また、プロトン伝導性無機材料の比表面積は、下記表1に示す値であった。この酸化ホウ素担持酸化ガリウムについてX線回折測定を行ったところ、回折ピークはすべて酸化ガリウムに帰属されるものしか観測されず、酸化ホウ素は非晶質構造を有していることを確認することができた。
【0095】
なお、プロトン伝導性無機材料粉末の元素比(X/Y)及び比表面積は以下に説明する方法で測定した。
【0096】
元素比(X/Y)の測定方法はプロトン伝導性無機材料粉末を酸やアルカリを使用して溶解させ、この溶液から原子吸光分析により元素比(X/Y)を決定した。比表面積の測定方法はBET法により行った。
【0097】
このプロトン伝導性無機材料粉末1gを5%ポリアクリロニトリル(PAN)のN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)溶液2gに加え、室温で10分間撹拌し、スラリーを調製した。このスラリーを四フッ化エチレンペルフルオロアルコキシビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂製シャーレに入れ、溶媒を大気中、60℃で乾燥させ、電解質膜とした。膜全重量(T)に対するプロトン伝導性無機材料(S)の重量比S/Tは0.9となり、電解質膜の膜厚は151μmだった。
【0098】
〔実施例2〕
塩化バナジウムVCl3を1g溶解した蒸留水300mlに酸化ガリウムGa23を6g加えた混合溶液を常に撹拌しながら80℃まで加熱し、100ml/時の蒸発速度で水を除去した。この後さらに100℃の乾燥器内で12時間保持して粉末を得た。この粉末をメノウ乳鉢で粉砕して粉末状にした後、アルミナ坩堝内において昇温速度100℃/時で700℃まで加熱し、さらに700℃を4時間保持することにより、プロトン伝導性無機材料として酸化バナジウム担持酸化ガリウムを得た。酸化ガリウムのガリウム元素(Y)に対する酸化バナジウムのバナジウム元素(X)の元素比X/Yは0.1であった。プロトン伝導性無機材料の比表面積は下記表1に示す値であった。この酸化バナジウム担持酸化ガリウムについてX線回折測定を行ったところ、回折ピークはすべて酸化ガリウムに帰属されるものしか観測されず、酸化バナジウムは非晶質構造を有していることを確認することができた。
【0099】
このプロトン伝導性無機材料粉末1gを5%ポリアクリロニトリル(PAN)のN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)溶液2gに加え、室温で10分間撹拌し、スラリーを調製した。このスラリーを四フッ化エチレンペルフルオロアルコキシビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂製シャーレに入れ、溶媒を大気中、60℃で乾燥させ、電解質膜とした。膜全重量(T)に対するプロトン伝導性無機材料(S)の重量比S/Tは0.9となり、電解質膜の膜厚は150μmだった。
【0100】
〔実施例3〕
塩化クロム6水和物CrCl3・6H2Oを1.7g溶解した蒸留水300mlに酸化ガリウムGa23を6g加えた混合溶液を常に撹拌しながら80℃まで加熱し、100ml/時の蒸発速度で水を除去した。この後さらに100℃の乾燥器内で12時間保持して粉末を得た。この粉末をメノウ乳鉢で粉砕して粉末状にした後、アルミナ坩堝内において昇温速度100℃/時で700℃まで加熱し、さらに700℃を4時間保持することにより、プロトン伝導性無機材料として酸化クロム担持酸化ガリウムを得た。酸化ガリウムのガリウム元素(Y)に対する酸化クロムのクロム元素(X)の元素比X/Yは0.1であった。プロトン伝導性無機材料の比表面積は下記表1に示す値であった。この酸化クロム担持酸化ガリウムについてX線回折測定を行ったところ、回折ピークはすべて酸化ガリウムに帰属されるものしか観測されず、酸化クロムは非晶質構造を有していることを確認することができた。
【0101】
このプロトン伝導性無機材料粉末1gを5%PANのDMAc溶液2gに加え、室温で10分間撹拌し、スラリーを調製した。このスラリーをPFA樹脂製シャーレに入れ、溶媒を大気中、60℃で乾燥させ、電解質膜とした。膜全重量(T)に対するプロトン伝導性無機材料(S)の比S/Tは0.9となり、電解質膜の膜厚は151μmだった。
【0102】
〔実施例4〕
モリブデン酸アンモニウム(NH46Mo724・4H2Oを1.1g溶解した蒸留水300mlに酸化ガリウムGa23を6g加えた混合溶液を常に撹拌しながら80℃まで加熱し、100ml/時の蒸発速度で水を除去した。この後さらに100℃の乾燥器内で12時間保持して粉末を得た。この粉末をメノウ乳鉢で粉砕して粉末状にした後、アルミナ坩堝内において昇温速度100℃/時で700℃まで加熱し、さらに700℃を4時間保持することにより、プロトン伝導性無機材料として酸化モリブデン担持酸化ガリウムを得た。酸化ガリウムのガリウム元素(Y)に対する酸化モリブデンのモリブデン元素(X)の元素比X/Yは0.1であった。プロトン伝導性無機材料の比表面積は下記表1に示す値であった。この酸化モリブデン担持酸化ガリウムについてX線回折測定を行ったところ、回折ピークはすべて酸化ガリウムに帰属されるものしか観測されず、酸化モリブデンは非晶質構造を有していることを確認することができた。
【0103】
このプロトン伝導性無機材料粉末1gを5%PANのDMAc溶液2gに加え、室温で10分間撹拌し、スラリーを調製した。このスラリーをPFA樹脂製シャーレに入れ、溶媒を大気中、60℃で乾燥させ、電解質膜とした。膜全重量(T)に対するプロトン伝導性無機材料(S)の比S/Tは0.9となり、電解質膜の膜厚は152μmだった。
【0104】
〔実施例5〕
塩化タングステンWCl6を2.5g溶解したエタノール溶液300mlに酸化ガリウムGa23を6g加えた混合溶液を常に撹拌しながら80℃まで加熱し、100ml/時の蒸発速度で水を除去した。この後さらに100℃の乾燥器内で12時間保持して粉末を得た。この粉末をメノウ乳鉢で粉砕して粉末状にした後、アルミナ坩堝内において昇温速度100℃/時で700℃まで加熱し、さらに700℃を4時間保持することにより、プロトン伝導性無機材料として酸化タングステン担持酸化ガリウムを得た。酸化ガリウムのガリウム元素(Y)に対する酸化タングステンのタングステン元素(X)の元素比X/Yは0.1であった。プロトン伝導性無機材料の比表面積は下記表1に示す値であった。この酸化タングステン担持酸化ガリウムについてX線回折測定を行ったところ、回折ピークはすべて酸化ガリウムに帰属されるものしか観測されず、酸化タングステンは非晶質構造を有していることを確認することができた。
【0105】
このプロトン伝導性無機材料粉末1gを5%PANのDMAc溶液2gに加え、室温で10分間撹拌し、スラリーを調製した。このスラリーをPFA樹脂製シャーレに入れ、溶媒を大気中、60℃で乾燥させ、電解質膜とした。膜全重量(T)に対するプロトン伝導性無機材料(S)の比S/Tは0.9となり、電解質膜の膜厚は152μmだった。
【0106】
〔実施例6〕
酸化ガリウム6gを酸化インジウム(In23)9gに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、下記表1に示す元素比X/Yを有する酸化ホウ素担持酸化インジウムを得た。この酸化ホウ素担持酸化インジウムを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚153μmの電解質膜を得た。
【0107】
〔実施例7〕
酸化ガリウム6gを酸化インジウム(In23)9gに変更した以外は実施例2と同様の操作を行い、下記表1に示す元素比X/Yを有する酸化バナジウム担持酸化インジウムを得た。この酸化バナジウム担持酸化インジウムを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚152μmの電解質膜を得た。
【0108】
〔実施例8〕
酸化ガリウム6gを酸化インジウム(In23)9gに変更した以外は実施例3と同様の操作を行い、下記表1に示す元素比X/Yを有する酸化クロム担持酸化インジウムを得た。この酸化クロム担持酸化インジウムを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚153μmの電解質膜を得た。
【0109】
〔実施例9〕
酸化ガリウム6gを酸化インジウム(In23)9gに変更した以外は実施例4と同様の操作を行い、下記表1に示す元素比X/Yを有する酸化モリブデン担持酸化インジウムを得た。この酸化モリブデン担持酸化インジウムを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚151μmの電解質膜を得た。
【0110】
〔実施例10〕
酸化ガリウム6gを酸化インジウム(In23)9gに変更した以外は実施例5と同様の操作を行い、下記表1に示す元素比X/Yを有する酸化タングステン担持酸化インジウムを得た。この酸化タングステン担持酸化インジウムを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚150μmの電解質膜を得た。
【0111】
〔実施例11〕
酸化ガリウム6gを酸化ゲルマニウム(GeO2)6.5gに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、元素比X/Yが下記表1に示す値の酸化ホウ素担持酸化ゲルマニウムを得た。この酸化ホウ素担持酸化ゲルマニウムを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚149μmの電解質膜を得た。
【0112】
〔実施例12〕
酸化ガリウム6gを酸化ゲルマニウム(GeO2)6.5gに変更した以外は実施例2と同様の操作を行い、元素比X/Yが下記表1に示す値の酸化バナジウム担持酸化ゲルマニウムを得た。この酸化バナジウム担持酸化ゲルマニウムを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚148μmの電解質膜を得た。
【0113】
〔実施例13〕
酸化ガリウム6gを酸化ゲルマニウム(GeO2)6.5gに変更した以外は実施例3と同様の操作を行い、下記表1に示す元素比X/Yを有する酸化クロム担持酸化ゲルマニウムを得た。この酸化クロム担持酸化ゲルマニウムを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚150μmの電解質膜を得た。
【0114】
〔実施例14〕
酸化ガリウム6gを酸化ゲルマニウム(GeO2)6.5gに変更した以外は実施例4と同様の操作を行い、下記表1に示す元素比X/Yを有する酸化モリブデン担持酸化ゲルマニウムを得た。この酸化モリブデン担持酸化ゲルマニウムを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚152μmの電解質膜を得た。
【0115】
〔実施例15〕
酸化ガリウム6gを酸化ゲルマニウム(GeO2)6.5gに変更した以外は実施例5と同様の操作を行い、下記表1に示す元素比X/Yを有する酸化タングステン担持酸化ゲルマニウムを得た。この酸化タングステン担持酸化ゲルマニウムを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚155μmの電解質膜を得た。
【0116】
〔実施例16〕
酸化ガリウム6gを酸化ニオブ(Nb25)8gに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、下記表1に示す元素比X/Yを有する酸化ホウ素担持酸化ニオブを得た。この酸化ホウ素担持酸化ニオブを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚150μmの電解質膜を得た。
【0117】
〔実施例17〕
酸化ガリウム6gを酸化ニオブ(Nb25)8gに変更した以外は実施例2と同様の操作を行い、下記表1に示す元素比X/Yを有する酸化バナジウム担持酸化ニオブを得た。この酸化バナジウム担持酸化ニオブを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚151μmの電解質膜を得た。
【0118】
〔実施例18〕
酸化ガリウム6gを酸化ニオブ(Nb25)8gに変更した以外は実施例3と同様の操作を行い、下記表1に示す元素比X/Yを有する酸化クロム担持酸化ニオブを得た。この酸化クロム担持酸化ニオブを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚152μmの電解質膜を得た。
【0119】
〔実施例19〕
酸化ガリウム6gを酸化ニオブ(Nb25)8gに変更した以外は実施例4と同様の操作を行い、下記表1に示す元素比X/Yを有する酸化モリブデン担持酸化ニオブを得た。これを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚154μmの電解質膜を得た。
【0120】
〔実施例20〕
酸化ガリウム6gを酸化ニオブ(Nb25)8gに変更した以外は実施例5と同様の操作を行い、下記表1に示す元素比X/Yを有する酸化タングステン担持酸化ニオブを得た。この酸化タングステン担持酸化ニオブを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚151μmの電解質膜を得た。
【0121】
〔実施例21〕
酸化ガリウム6gを酸化ハフニウム(HfO2)13gに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、下記表2に示す元素比X/Yを有する酸化ホウ素担持酸化ハフニウムを得た。この酸化ホウ素担持酸化ハフニウムを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚153μmの電解質膜を得た。
【0122】
〔実施例22〕
酸化ガリウム6gを酸化ハフニウム(HfO2)13gに変更した以外は実施例2と同様の操作を行い、下記表2に示す元素比X/Yを有する酸化バナジウム担持酸化ハフニウムを得た。この酸化バナジウム担持酸化ハフニウムを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚152μmの電解質膜を得た。
【0123】
〔実施例23〕
酸化ガリウム6gを酸化ハフニウム(HfO2)13gに変更した以外は実施例3と同様の操作を行い、下記表2に示す元素比X/Yを有する酸化クロム担持酸化ハフニウムを得た。この酸化クロム担持酸化ハフニウムを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚150μmの電解質膜を得た。
【0124】
〔実施例24〕
酸化ガリウム6gを酸化ハフニウム(HfO2)13gに変更した以外は実施例4と同様の操作を行い、下記表2に示す元素比X/Yを有する酸化モリブデン担持酸化ハフニウムを得た。この酸化モリブデン担持酸化ハフニウムを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚155μmの電解質膜を得た。
【0125】
〔実施例25〕
酸化ガリウム6gを酸化ハフニウム(HfO2)13gに変更した以外は実施例5と同様の操作を行い、下記表2に示す元素比X/Yを有する酸化タングステン担持酸化ハフニウムを得た。この酸化タングステン担持酸化ハフニウムを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚150μmの電解質膜を得た。
【0126】
〔実施例26〕
酸化ガリウム6gを酸化セリウム(CeO2)11gに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、下記表2に示す元素比X/Yを有する酸化ホウ素担持酸化セリウムを得た。この酸化ホウ素担持酸化セリウムを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚153μmの電解質膜を得た。
【0127】
〔実施例27〕
酸化ガリウム6gを酸化セリウム(CeO2)11gに変更した以外は実施例2と同様の操作を行い、下記表2に示す元素比X/Yを有する酸化バナジウム担持酸化セリウムを得た。この酸化バナジウム担持酸化セリウムを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚151μmの電解質膜を得た。
【0128】
〔実施例28〕
酸化ガリウム6gを酸化セリウム(CeO2)11gに変更した以外は実施例3と同様の操作を行い、下記表2に示す元素比X/Yを有する酸化クロム担持酸化セリウムを得た。この酸化クロム担持酸化セリウムを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚154μmの電解質膜を得た。
【0129】
〔実施例29〕
酸化ガリウム6gを酸化セリウム(CeO2)11gに変更した以外は実施例4と同様の操作を行い、下記表2に示す元素比X/Yを有する酸化モリブデン担持酸化セリウムを得た。この酸化モリブデン担持酸化セリウムを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚152μmの電解質膜を得た。
【0130】
〔実施例30〕
酸化ガリウム6gを酸化セリウム(CeO2)11gに変更した以外は実施例5と同様の操作を行い、下記表2に示す元素比X/Yを有する酸化タングステン担持酸化セリウムを得た。この酸化タングステン担持酸化セリウムを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚150μmの電解質膜を得た。
【0131】
〔実施例31〕
酸化ガリウム6gを酸化スズ(SnO2)9.5gに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、下記表2に示す元素比X/Yを有する酸化ホウ素担持酸化スズを得た。この酸化ホウ素担持酸化スズを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚152μmの電解質膜を得た。
【0132】
〔実施例32〕
酸化ガリウム6gを酸化スズ(SnO2)9.5gに変更した以外は実施例2と同様の操作を行い、下記表2に示す元素比X/Yを有する酸化バナジウム担持酸化スズを得た。この酸化バナジウム担持酸化スズを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚153μmの電解質膜を得た。
【0133】
〔実施例33〕
酸化ガリウム6gを酸化スズ(SnO2)9.5gに変更した以外は実施例3と同様の操作を行い、下記表2に示す元素比X/Yを有する酸化クロム担持酸化スズを得た。この酸化クロム担持酸化スズを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚152μmの電解質膜を得た。
【0134】
〔実施例34〕
酸化ガリウム6gを酸化スズ(SnO2)9.5gに変更した以外は実施例4と同様の操作を行い、下記表2に示す元素比X/Yを有する酸化モリブデン担持酸化スズを得た。この酸化モリブデン担持酸化スズを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚153μmの電解質膜を得た。
【0135】
〔実施例35〕
酸化ガリウム6gを酸化スズ(SnO2)9.5gに変更した以外は実施例5と同様の操作を行い、下記表2に示す元素比X/Yを有する酸化タングステン担持酸化スズを得た。この酸化タングステン担持酸化スズを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚151μmの電解質膜を得た。
【0136】
〔実施例36〕
5%PANのDMAc溶液を5%ポリベンズイミダゾール(PBI)のDMAc溶液に変更した以外は実施例17と同様の操作を行い、重量比S/Tが0.9で、膜厚151μmの電解質膜を得た。
【0137】
〔実施例37〕
5%PANのDMAc溶液を5%ポリスチレン(PS)のトルエン溶液に変更した以外は実施例17と同様の操作を行い、重量比S/Tが0.9で、膜厚152μmの電解質膜を得た。
【0138】
〔比較例1〕
電解質膜としてDupont社製のナフィオン117膜を用意した。
【0139】
〔比較例2〕
酸化タングステンWO32gと酸化ケイ素SiO25gの各粉末をメノウ乳鉢で十分に混合し、シリコン元素(Si)に対するタングステン元素(W)の元素比が0.1である酸化タングステンと酸化ケイ素の酸化物混合体を得た。
【0140】
この酸化物混合体粉末1gを5%ポリアクリロニトリル(PAN)のN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)溶液2gに加え、室温で10分間撹拌し、スラリーを調製した。このスラリーを四フッ化エチレンペルフルオロアルコキシビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂製シャーレに入れ、溶媒を大気中、60℃で乾燥させ、電解質膜とした。重量比S/Tは0.9となり、電解質膜の膜厚は152μmだった。
【0141】
得られた実施例1〜37の電解質膜(プロトン伝導性膜)は水分を与えることでわずかに膨潤し、PFA樹脂製シャーレから容易に剥がし取ることができた。膜は柔軟性を備えていた。また、m−ニトロトルエン(pKa=−11.99)、p−ニトロフルオロベンゼン(pKa=−12.40)、p−ニトロクロロベンゼン(pKa=−12.70)、m−ニトロクロロベンゼン(pKa=−13.16)、2、4−ジニトロトルエン(pKa=−13.75)、2、4−ジニトロフルオロベンゼン(pKa=−14.52)1,3,5−トリニトロベンゼン(pKa=−16.04)からなる酸性指示薬により、固体超強酸性を示すことがわかった。また、酸化物超強酸が着色している場合、酸性指示薬の変色から固体酸性を評価することは難しい。そのような場合、固体超強酸性はアンモニア昇温脱理法(TPD)法を用いても測定が可能である。これは固体酸試料にアンモニアガスを吸着させ、試料を昇温することで脱離するアンモニアの脱離量と脱離温度を検出し、解析するものである。各電解質膜のHammettの酸度関数H0を下記表1〜2に示す。
【0142】
これに対し、比較例1〜2の電解質膜は膨潤するまでに実施例1〜37の場合に比べて多量な水分を必要とした。また、比較例1〜2の電解質膜は、固体超強酸性を示さなかった。
【0143】
また、実施例1〜37及び比較例1〜2の電解質膜(プロトン伝導性膜)を用いて以下に説明する方法で液体燃料電池を組み立てた。
【0144】
白金担持カソード触媒を含有する電極(触媒量はPtが4mg/cm2、E−tek社製)に5%ナフィオン溶液を含浸させたものを酸化剤極3として用意した。また、白金・ルテニウム担持触媒アノード触媒を含有する電極(触媒量はPt−Ruが4mg/cm2、E−tek社製)に5%ナフィオン溶液を含浸させたものを燃料極2として用意した。
【0145】
燃料極2と酸化剤極3の間に電解質膜(プロトン伝導性膜)4を配置し、120℃で5分間、100kg/cm2の圧力でホットプレスして接合することにより膜電極複合体5を作製し、起電部を得た。
【0146】
こうして得られた起電部の燃料極2に、燃料気化部6としての平均孔径100μmかつ気孔率70%のカーボン多孔質板を積層した。この燃料気化部6上に燃料浸透部7としての平均孔径5μm、気孔率40%のカーボン多孔質板を配置した。これらを、酸化剤ガス供給溝9付きの酸化剤極ホルダー10と、燃料極ホルダー11との内部に組み込んで、図2に示すような構成を有する単電池を作製した。この単電池の反応面積は10cm2である。なお、酸化剤極ホルダー10の酸化剤ガス供給溝9は、深さが2mmで、幅が1mmである。
【0147】
このようにして得た液体燃料電池に、液体燃料として20%メタノール水溶液を図2に示すように燃料浸透部7の側面から毛管力で導入した。一方、酸化剤ガスとして1atmの空気を100ml/minでガスチャンネル9に流し、発電を行なった。発電反応に伴って発生した炭酸ガス(CO2)は、図2に示されるように燃料気化部6から放出した。最大発電量を下記表1〜表2に示す。
【0148】
また、表1〜表2に、各電解質膜(プロトン伝導性膜)についてのメタノール透過性と膜抵抗の測定結果を示した。ここで、メタノール透過性と膜抵抗は、それぞれ、比較例1のナフィオン117膜の場合を1として、相対値で表わした。
【0149】
なお、メタノールの透過性は電解質膜を10cm2の面積を持つセルに挿み込み、片方のセルに10%メタノール水溶液、もう片側のセルには純水を入れ、室温で一定時間経過後、純水を入れたセル側のメタノール濃度をガスクロマトグラフィーで測定し、メタノールの透過性を測定した。膜は、電解質膜として使用可能な状態にするために水に16時間浸した後、水を切りメタノールの透過性を測定した。
【0150】
また、膜の電気抵抗は四端子直流法により測定した。すなわち、電解質膜を10cm2の面積を持つセルに挿みこみ、両セルに10%硫酸水溶液を入れ、室温で直流電流を通電させ、電解質膜の有無による電圧降下を測定し、伝導度を測定した。
【表1】

【0151】

【表2】

【0152】
表1〜2から明らかなように、実施例1〜37の電解質膜は、比較例1,2の電解質膜と比較してメタノール透過性は大きく低下し、膜抵抗は比較例1の電解質膜の数倍の範囲で収まっていることがわかる。
【0153】
表1の比較例1で示されるように、ナフィオン膜117を電解質膜として備えた燃料電池においては、20%メタノール溶液ではクロスオーバーが大きすぎるために、最大でも2mW/cm2の発電量しか得ることができなかった。これに対して、実施例1〜37の電解質膜を電解質膜として備えた燃料電池では、クロスオーバーが抑制されたために良好な発電量が得られた。そのうち、酸化物担体としてSnO2を使用した実施例31〜35の燃料電池の発電量が大きく、最も優れていたのはタングステン酸化物粒子が担持されている実施例35であった。
【0154】
また、表1の比較例2で示されるように、酸化タングステンと酸化ケイ素を混合した酸化物混合体をプロトン伝導体として使用した電解質膜を備えた燃料電池においては、酸化物にプロトン伝導機能が発現していないため、膜抵抗が著しく大きく、発電がほとんど行えなかった。
【0155】
実施例1〜37のプロトン伝導性膜を電解質膜として用いた単位セルについて、燃料として20%メタノール水溶液を供給し、空気を流すとともに、セルの両面を40℃に加熱して10mA/cm2の電流をとり、電池性能の時間的安定性を観測した。その結果、数時間経過後でも出力は安定していた。さらに150℃で同様の測定を行った結果、数時間経過後でも出力は安定していた。
【0156】
ナフィオン117膜(比較例1)を電解質膜として備えた燃料電池について、燃料として20%メタノール水溶液を供給し、空気を流すとともに、セルの両面を40℃に加熱して10mA/cm2の電流をとり、電池性能の時間的安定性を観測した。その結果、数分のうちに、出力を得ることが不可能になった。さらに150℃で同様の測定を行った結果、加湿を厳密に制御しきれなかったため、電解質膜が乾燥して出力を得ることはできなかった。
【0157】
〔実施例38〕
酸化ガリウム6gを酸化マグネシウム添加ジルコニア(11mol%MgO―89mol%ZrO2)7.8gに変更し、700℃での焼成を850℃に変更した以外は実施例4と同様の操作を行い、下記表3に示す元素比を有し、比表面積が51m2/gである酸化モリブデン担持酸化マグネシウム添加ジルコニアを得た。これを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚153μmの電解質膜を得た。
【0158】
なお、表3中の元素比(X/Y)は、元素Y(例えばジルコニア)に対する元素X(例えばモリブデン)の比を意味する。元素比(Z/X+Y+Z)は、元素Xと元素Yと元素Z(例えばマグネシウム)の合計モル量を100モル%とした際の元素Zのモル量である。元素比(Z/X+Y+Z)が0.1であることは、元素Zのモル量が10mol%であることを意味する。
【0159】
〔実施例39〕
酸化ガリウム6gを酸化カルシウム添加ジルコニア(11mol%CaO―89mol%ZrO2)7.9gに変更し、700℃での焼成を850℃に変更した以外は実施例4と同様の操作を行い、下記表3に示す元素比を有し、比表面積が53m2/gである酸化モリブデン担持酸化カルシウム添加ジルコニアを得た。これを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚153μmの電解質膜を得た。
【0160】
〔実施例40〕
酸化ガリウム6gを酸化ストロンチウム添加ジルコニア(11mol%SrO―89mol%ZrO2)8.3gに、700℃での焼成を850℃に変更した以外は実施例4と同様の操作を行い、下記表3に示す元素比を有し、比表面積が52m2/gである酸化モリブデン担持酸化ストロンチウム添加ジルコニアを得た。これを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚151μmの電解質膜を得た。
【0161】
〔実施例41〕
酸化ガリウム6gを酸化バリウム添加ジルコニア(11mol%BaO―89mol%ZrO2)8.7gに、700℃での焼成を850℃に変更した以外は実施例4と同様の操作を行い、下記表3に示す元素比を有し、比表面積が55m2/gである酸化モリブデン担持酸化バリウム添加ジルコニアを得た。これを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚152μmの電解質膜を得た。
【0162】
〔実施例42〕
酸化ガリウム6gを酸化スカンジウム添加ジルコニア(8mol%Sc23―92mol%ZrO2)8.25gに、700℃での焼成を850℃に変更した以外は実施例4と同様の操作を行い、下記表3に示す元素比を有し、比表面積が52m2/gである酸化モリブデン担持酸化スカンジウム添加ジルコニアを得た。これを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚154μmの電解質膜を得た。
【0163】
〔実施例43〕
酸化ガリウム6gを酸化イットリウム添加ジルコニア(8mol%Y23―92mol%ZrO2)8.7gに、700℃での焼成を850℃に変更した以外は実施例4と同様の操作を行い、下記表3に示す元素比を有し、比表面積が53m2/gである酸化モリブデン担持酸化イットリウム添加ジルコニアを得た。これを用い、重量比S/Tが0.9で、膜厚151μmの電解質膜を得た。
【0164】
〔実施例44〕
酸化ガリウム6gを酸化ランタン添加ジルコニア(8mol%La23―92mol%ZrO2)9.25gに、700℃での焼成を850℃に変更した以外は実施例4と同様の操作を行い、下記表3に示す元素比を有し、比表面積が51m2/gである酸化モリブデン担持酸化ランタン添加ジルコニアを得た。これを使用し、重量比S/Tが0.9で、膜厚153μmの電解質膜を得た。
【0165】
〔実施例45〕
酸化ガリウム6gを酸化サマリウム添加セリア(10mol%Sm23―90mol%CeO2)13.5gに、700℃での焼成を850℃に変更した以外は実施4と同様の操作を行い、下記表3に示す元素比を有し、比表面積が52m2/gである酸化モリブデン担持酸化サマリウム添加セリアを得た。これを使用し、重量比S/Tが0.9で、膜厚152μmの電解質膜を得た。
【0166】
〔実施例46〕
酸化ガリウム6gを酸化ガドリニウム添加セリア(10mol%Gd23―90mol%CeO2)13.6gに、700℃での焼成を850℃に変更した以外は実施例4と同様の操作を行い、下記表3に示す元素比を有し、比表面積が54m2/gである酸化モリブデン担持酸化ガドリニウム添加セリアを得た。これを使用し、重量比S/Tが0.9で、膜厚154μmの電解質膜を得た。
【0167】
〔比較例3〕
酸化ガリウム6gを酸化ジルコニウム(ZrO2)7.5gに、700℃での焼成を850℃に変更した以外は実施例4と同様の操作を行い、下記表3に示す元素比を有し、比表面積が53m2/gである酸化モリブデン担持ジルコニウムを得た。これを使用し、重量比S/Tが0.9で、膜厚150μmの電解質膜を得た。
【0168】
この電解質膜を用いて前述した実施例1で説明したのと同様にして液体燃料電池を作製した。得られた実施例38〜46及び比較例3について、燃料電池の最大発電量を測定し、その結果を下記表3に示す。
【表3】

【0169】
実施例38〜44の電解質膜は、比較例3の電解質膜に比して抵抗が低く、また、燃料電池の最大発電量が比較例3よりも大きかった。この結果から、第3成分である元素Zの添加により、燃料電池の出力特性がさらに向上されることがわかった。
【0170】
比較例3は元素比X/Yが0.1となるように仕込み組成を調整したが、850℃の焼成によって酸化モリブデンが担体から昇華し、元素比X/Yが0.08となった。得られたプロトン伝導性無機材料はプロトン伝導サイトが減少したため、膜抵抗が高くなり、発電量が低下したと考えられる。原因は明らかになっていないが、担持物と担体の結合力が不十分であったことによるものと推測される。
【0171】
一方、第3成分を添加した実施例38〜44は酸化モリブデンが担体から飛散、脱離することなく、目的の組成が得られた。これは担持物と担体の結合力が十分に得られたからと考えられる。塩基性酸化物を添加することでプロトン伝導性無機材料の酸性度が低下したが、プロトン伝導サイトが多くなったため、膜抵抗が低下し発電量が増加した。
【0172】
また、元素Yの種類を実施例38〜44と異なる種類(Ce)に変更した場合についても、元素Zが添加されている実施例45〜46の電解質膜は、元素Zが無添加の実施例29の電解質膜に比して燃料電池の最大発電量を大きくすることができた。以上のことから、元素Zの添加により、燃料電池の出力特性が向上されることを確認できた。
【0173】
〔実施例47〕
実施例1で得られたプロトン伝導性無機材料、白金・ルテニウム担持触媒、PAN及びDMAcを重量比で0.45/0.45/0.1/5.0の割合で混合したスラリーを調製し、32mm×32mmのカーボンクロス上に塗布してPt−Ruが4mg/cm2の触媒量を有する燃料極を作製した。
【0174】
また、実施例1で得られたプロトン伝導性無機材料、白金担持触媒、PAN及びDMAcを重量比で0.45/0.45/0.1/5.0の割合で混合したスラリーを調製し、32mm×32mmのカーボンクロス上に塗布してPtが4mg/cm2の触媒量を有する酸化剤極を作製した。
【0175】
さらに、電解質膜として比較例1で使用したのと同様なナフィオン117膜を用意した。
【0176】
上記燃料極、酸化剤極及び電解質膜を使用すること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様にして燃料電池を作製した。
【0177】
〔実施例48〕
実施例47で得られた燃料極及び酸化剤極と、実施例1で得られた電解質膜を使用すること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様にして燃料電池を作製した。
【0178】
〔比較例4〕
実施例1で得られたプロトン伝導性無機材料に白金・ルテニウム触媒を担持し、この触媒担持プロトン伝導性無機材料、カーボン、PAN及びDMAcを重量比で0.45/0.45/0.1/5.0の割合で混合したスラリーを調製し、32mm×32mmのカーボンクロス上に塗布して、Pt−Ruが4mg/cm2の触媒量の燃料極を作製した。
【0179】
また、実施例1で得られたプロトン伝導性無機材料に白金触媒を担持し、この触媒担持プロトン伝導性無機材料、カーボン、PAN及びDMAcを重量比で0.45/0.45/0.1/5.0の割合で混合したスラリーを調製し、32mm×32mmのカーボンクロス上に塗布して、Ptが4mg/cm2の触媒量の酸化剤極を作製した。
【0180】
さらに、電解質膜として比較例1で使用したのと同様なナフィオン117膜を用意した。
【0181】
上記燃料極、酸化剤極及び電解質膜を使用すること以外は、前述した実施例1で説明したのと同様にして燃料電池を作製した。
【0182】
得られた実施例47、48について、燃料電池のセル抵抗と最大発電量を測定し、その結果を下記表4に示す。なお、表4には、前述した比較例1の結果を併記する。
【表4】

【0183】
表4から明らかなように、実施例1および実施例47、48で得た膜電極複合体は、比較例1で得た膜電極複合体よりも高い出力特性を示した。これは、実施例の電極や電解質膜に使用したプロトン伝導体の抵抗が小さく、セル抵抗が小さいためである。また、実施例1,48の出力特性が実施例47に比して優れているのは、表1に示したとおり実施例1で得た電解質膜のメタノール透過性が低いためである。
【0184】
また、比較例4では、プロトン伝導性無機材料にPt−Ru触媒またはPt触媒を担持したものを電極に用いて燃料電池の発電を試みたが、非常に少ない電力しか得ることができなかった。プロトン伝導性無機材料に担持された触媒は導電性を十分に得ることができず、電気的な抵抗が高くなったため、発電が行えなかったと考えられる。
【0185】
〔実施例49〕
実施例1で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末1gを5%ポリビニルアルコール(PVA)の水溶液2gに加え、室温で10分間撹拌し、スラリーを調製した。このスラリーを四フッ化エチレンペルフルオロアルコキシビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂製シャーレに入れ、溶媒を大気中にて60℃、150℃と段階的に温度を上昇させて乾燥させ、電解質膜とした。重量比S/Tは0.9となり、電解質膜の膜厚は151μmだった。
【0186】
〔実施例50〕
実施例2で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚が152μmの電解質膜を得た。
【0187】
〔実施例51〕
実施例3で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚が151μmの電解質膜を得た。
【0188】
〔実施例52〕
実施例4で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚が155μmの電解質膜を得た。
【0189】
〔実施例53〕
実施例5で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚が151μmの電解質膜を得た。
【0190】
〔実施例54〕
実施例6で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚が152μmの電解質膜を得た。
【0191】
〔実施例55〕
実施例7で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚153μmの電解質膜を得た。
【0192】
〔実施例56〕
実施例8で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚152μmの電解質膜を得た。
【0193】
〔実施例57〕
実施例9で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚152μmの電解質膜を得た。
【0194】
〔実施例58〕
実施例10で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚151μmの電解質膜を得た。
【0195】
〔実施例59〕
実施例11で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚152μmの電解質膜を得た。
【0196】
〔実施例60〕
実施例12で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚151μmの電解質膜を得た。
【0197】
〔実施例61〕
実施例13で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚150μmの電解質膜を得た。
【0198】
〔実施例62〕
実施例14で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚151μmの電解質膜を得た。
【0199】
〔実施例63〕
実施例15で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚153μmの電解質膜を得た。
【0200】
〔実施例64〕
実施例16で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚154μmの電解質膜を得た。
【0201】
〔実施例65〕
実施例17で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚152μmの電解質膜を得た。
【0202】
〔実施例66〕
実施例18で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚153μmの電解質膜を得た。
【0203】
〔実施例67〕
実施例19で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚154μmの電解質膜を得た。
【0204】
〔実施例68〕
実施例20で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚152μmの電解質膜を得た。
【0205】
〔実施例69〕
実施例21で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚151μmの電解質膜を得た。
【0206】
〔実施例70〕
実施例22で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚153μmの電解質膜を得た。
【0207】
〔実施例71〕
実施例23で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚152μmの電解質膜を得た。
【0208】
〔実施例72〕
実施例24で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚154μmの電解質膜を得た。
【0209】
〔実施例73〕
実施例25で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚152μmの電解質膜を得た。
【0210】
〔実施例74〕
実施例26で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚151μmの電解質膜を得た。
【0211】
〔実施例75〕
実施例27で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚153μmの電解質膜を得た。
【0212】
〔実施例76〕
実施例28で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚152μmの電解質膜を得た。
【0213】
〔実施例77〕
実施例29で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚151μmの電解質膜を得た。
【0214】
〔実施例78〕
実施例30で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚150μmの電解質膜を得た。
【0215】
〔実施例79〕
実施例31で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚154μmの電解質膜を得た。
【0216】
〔実施例80〕
実施例32で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚155μmの電解質膜を得た。
【0217】
〔実施例81〕
実施例33で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚153μmの電解質膜を得た。
【0218】
〔実施例82〕
実施例34で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚154μmの電解質膜を得た。
【0219】
〔実施例83〕
実施例35で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚151μmの電解質膜を得た。
【0220】
〔実施例84〕
実施例17で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いると共に、5%PVAの水溶液2gを5%PVAの水溶液1.5gと5%ポリアクリル酸(PA)の水溶液0.5gの混合溶液2gに変更した以外は、実施例49と同様の操作を行い、重量比S/Tが0.9で、膜厚150μmの電解質膜を得た。
【0221】
〔実施例85〕
実施例17で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いると共に、5%PVAの水溶液2gを5%ポリエチレングリコール(PEG)の水溶液2gに変更した以外は、実施例49と同様の操作を行い、重量比S/Tが0.9で、膜厚151μmの電解質膜を得た。
【0222】
〔実施例86〕
実施例17で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いると共に、5%PVAの水溶液2gを5%Nylon6の蟻酸溶液2gに変更した以外は、実施例49と同様の操作を行い、重量比S/Tが0.9で、膜厚154μmの電解質膜を得た。
【0223】
〔比較例5〕
酸化タングステンWO32gと酸化ケイ素SiO25gの各粉末をメノウ乳鉢で十分に混合し、シリコン元素に対するタングステン元素の元素比が0.1である酸化タングステンと酸化ケイ素の酸化物混合体を得た。
【0224】
この酸化物混合体粉末1gを5%PVAの水溶液2gに加え、室温で10分間撹拌し、スラリーを調製した。このスラリーをPFA樹脂製シャーレに入れ、溶媒を大気中にて60℃、150℃と段階的に温度を上昇させて乾燥させ、電解質膜とした。重量比S/Tは0.9となり、電解質膜の膜厚は152μmだった。
【0225】
得られた実施例49〜86の電解質膜は水分を与えることで大きく膨潤し、PFA樹脂製シャーレから容易に剥がし取ることができた。また、実施例49〜86の膜は柔軟性を備えていた。m−ニトロトルエン(pKa=−11.99)、p−ニトロフルオロベンゼン(pKa=−12.40)、p−ニトロクロロベンゼン(pKa=−12.70)、m−ニトロクロロベンゼン(pKa=−13.16)、2、4−ジニトロトルエン(pKa=−13.75)、2、4−ジニトロフルオロベンゼン(pKa=−14.52)1,3,5−トリニトロベンゼン(pKa=−16.04)からなる酸性指示薬により、固体超強酸性を示すことがわかった。また、酸化物超強酸が着色している場合、酸性指示薬の変色から固体酸性を評価することは難しい。そのような場合、固体超強酸性は、アンモニア昇温脱理法(TPD)法を用いても測定が可能である。アンモニア昇温脱理法の詳細は前述した通りである。各電解質膜のHammettの酸度関数H0を下記表5〜6に示す。
【0226】
これに対し、比較例5の電解質膜は膨潤するまでに実施例49〜86の場合に比べて多量な水分を必要とした。また、比較例5の電解質膜は、固体超強酸性を示さなかった。
【0227】
また、実施例49〜86及び比較例5の電解質膜を用い、前述した実施例1で説明したのと同様にして液体燃料電池を組み立てた。
【0228】
液体燃料電池に、20%メタノール水溶液を図2に示すように燃料浸透部7の側面から毛管力で導入した。一方、酸化剤ガスとして1atmの空気を100ml/minでガスチャンネル9に流し、発電を行なった。発電反応に伴って発生した炭酸ガス(CO2)は、図2に示されるように燃料気化部6から放出した。最大発電量を下記表5〜6に示す。
【0229】
表5〜6に、各電解質膜についてのメタノール透過性と膜抵抗の測定結果を示した。ここで、メタノール透過性と膜抵抗は、それぞれ、比較例1のナフィオン117膜の場合を1として、相対値で表わした。なお、メタノールの透過性と膜抵抗は、前述した実施例1で説明したのと同様にして測定した。
【表5】

【0230】

【表6】

【0231】
表5〜6から明らかなように、実施例49〜86の電解質膜は、比較例1,5の電解質膜と比較してメタノール透過性、膜抵抗は大きく低下したことがわかる。前述の実施例1〜37と比較しても、実施例49〜86の方が優れている。これは、実施例49〜86の電解質膜では、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エーテル結合及びアミド結合よりなる群から選択される少なくとも1種類を含む親水性有機高分子材料を使用しているからである。また、実施例65、実施例84〜86に示すように、膜に使用する高分子材料を変更して高分子の平衡吸湿率を変化させることにより、無機材料と有機材料の濡れ性、無機材料の分散性、膜の吸水性が変わり、膜の微構造に影響してプロトン伝導性やメタノール透過性が変わることがわかった。すなわち、平衡吸湿率を10%、20%、25%と大きくすることにより、電解質膜の膜抵抗が小さくなり、また、平衡吸湿率が小さい方がメタノール透過性が小さくなる。
【0232】
表6の比較例1で示されるように、ナフィオン117膜を電解質膜として備えた燃料電池においては、20%メタノール溶液ではクロスオーバーや膜の抵抗が大きく、最大でも2.0mW/cm2の発電量しか得ることができなかった。
【0233】
また、表6の比較例5で示されるように、酸化タングステンと酸化ケイ素を混合した酸化物混合体をプロトン伝導体として使用した電解質膜を備えた燃料電池においては、酸化物にプロトン伝導機能が発現していないため、膜抵抗が著しく大きく、発電がほとんど行えなかった。
【0234】
これに対して、実施例49〜86のプロトン伝導性膜を電解質膜として備えた燃料電池では、クロスオーバーが抑制されたために良好な発電量が得られた。酸化物担体としてSnO2を使用した実施例79〜83の燃料電池の発電量が大きく、最も優れていたのはタングステン酸化物粒子が担持されている実施例83だった。
【0235】
実施例49〜86のプロトン伝導性膜を電解質膜として用いた単位セルについて、燃料として20%メタノール水溶液を供給し、空気を流すとともに、セルの両面を40℃に加熱して10mA/cm2の電流をとり、電池性能の時間的安定性を観測した。その結果、数時間経過後でも出力は安定していた。さらに150℃で同様の測定を行った結果、数時間経過後でも出力は安定していた。
【0236】
〔実施例87〕
実施例38で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料を用いること以外は実施例49で説明したのと同様にして、重量比S/Tが0.9で、膜厚152μmの電解質膜を得た。
【0237】
〔実施例88〕
実施例39で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料を用いること以外は実施例49で説明したのと同様にして、重量比S/Tが0.9で、膜厚152μmの電解質膜を得た。
【0238】
〔実施例89〕
実施例40で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料を用いること以外は実施例49で説明したのと同様にして、重量比S/Tが0.9で、膜厚154μmの電解質膜を得た。
【0239】
〔実施例90〕
実施例41で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料を用いること以外は実施例49で説明したのと同様にして、重量比S/Tが0.9で、膜厚151μmの電解質膜を得た。
【0240】
〔実施例91〕
実施例42で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料を用いること以外は実施例49で説明したのと同様にして、重量比S/Tが0.9で、膜厚152μmの電解質膜を得た。
【0241】
〔実施例92〕
実施例43で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料を用いること以外は実施例49で説明したのと同様にして、重量比S/Tが0.9で、膜厚155μmの電解質膜を得た。
【0242】
〔実施例93〕
実施例44で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料を用いること以外は実施例49で説明したのと同様にして、重量比S/Tが0.9で、膜厚150μmの電解質膜を得た。
【0243】
〔実施例94〕
実施例45で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料を用いること以外は実施例49で説明したのと同様にして、重量比S/Tが0.9で、膜厚155μmの電解質膜を得た。
【0244】
〔実施例95〕
実施例46で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料を用いること以外は実施例49で説明したのと同様にして、重量比S/Tが0.9で、膜厚152μmの電解質膜を得た。
【0245】
〔比較例6〕
比較例3で説明したのと同様にして作製したプロトン伝導性無機材料粉末を用いること以外は、実施例49で説明したのと同様にし、重量比S/Tが0.9で、膜厚151μmの電解質膜を得た。
【0246】
得られた電解質膜を用いて前述した実施例49で説明したのと同様にして液体燃料電池を作製した。得られた実施例87〜95及び比較例6について、燃料電池の最大発電量を測定し、その結果を下記表7に示す。
【表7】

【0247】
実施例87〜93の電解質膜は、比較例6の電解質膜に比して抵抗が低く、また、燃料電池の最大発電量が比較例6よりも大きかった。この結果から、第3成分である元素Zの添加により、燃料電池の出力特性がさらに向上されることがわかった。
【0248】
比較例6では元素比X/Yが0.1となるように仕込み組成を調整したが、850℃の焼成によって酸化モリブデンが担体から昇華し、元素比X/Yが0.08となった。得られたプロトン伝導性無機材料はプロトン伝導サイトが減少したため、膜抵抗も高く発電量が低下したと考えられる。原因は明らかになっていないが、担持物と担体の結合力が不十分であったことによるものと推測される。
【0249】
一方、第3成分を添加した実施例87〜93は酸化モリブデンが担体から飛散、脱離することなく、目的の組成が得られた。これは担持物と担体の結合力が十分に得られたからと考えられる。塩基性酸化物を添加することでプロトン伝導性無機材料の酸性度が低下したが、プロトン伝導サイトが多くなったため、膜抵抗が低下し発電量が増加した。
【0250】
元素Yを実施例87〜93と異なる種類(Ce)に変更した場合についても、元素Zが添加されている実施例94〜95の電解質膜は、元素Zが無添加の実施例77の電解質膜に比して燃料電池の最大発電量を大きくすることができた。以上のことから、元素Zの添加により、燃料電池の出力特性が向上されることを確認することができた。
【0251】
〔実施例96〕
実施例49で得られたプロトン伝導性無機材料、白金・ルテニウム担持触媒、PVA及び水を重量比で0.45/0.45/0.1/5.0の割合で混合したスラリーを調製し、32mm×32mmのカーボンクロス上に塗布してPt−Ruが4mg/cm2の触媒量の燃料極を作製した。
【0252】
また、実施例49で得られたプロトン伝導性無機材料、白金担持触媒、PVA及び水を重量比で0.45/0.45/0.1/5.0の割合で混合したスラリーを調製し、32mm×32mmのカーボンクロス上に塗布してPtが4mg/cm2の触媒量の酸化剤極を作製した。
【0253】
さらに、電解質膜として比較例1で使用したのと同様なナフィオン117膜を用意した。
【0254】
上記燃料極、酸化剤極及び電解質膜を使用すること以外は、前述した実施例49で説明したのと同様にして燃料電池を作製した。
【0255】
〔実施例97〕
実施例96で得られた燃料極及び酸化剤極と、実施例49で得られた電解質膜を使用すること以外は、前述した実施例49で説明したのと同様にして燃料電池を作製した。
【0256】
〔比較例7〕
実施例49で得られたプロトン伝導性無機材料に白金・ルテニウム触媒を担持し、この触媒担持プロトン伝導性無機材料とカーボン、PVA、水を重量比で0.45/0.45/0.1/5.0の割合で混合したスラリーを調製し、32mm×32mmのカーボンクロス上に塗布して、Pt−Ruが4mg/cm2の触媒量の燃料極を作製した。
【0257】
また、実施例49で得られたプロトン伝導性無機材料に白金触媒を担持し、この触媒担持プロトン伝導性無機材料とカーボン、PVA、水を重量比で0.45/0.45/0.1/5.0の割合で混合したスラリーを調製し、32mm×32mmのカーボンクロス上に塗布して、Ptが4mg/cm2の触媒量の酸化剤極を作製した。
【0258】
さらに、電解質膜として比較例1で使用したのと同様なナフィオン117膜を用意した。
【0259】
上記燃料極、酸化剤極及び電解質膜を使用すること以外は、前述した実施例49で説明したのと同様にして燃料電池を作製した。
【0260】
得られた実施例96、97について、燃料電池のセル抵抗と最大発電量を測定し、その結果を下記表6に示す。なお、表6には、前述した実施例49、比較例1の結果を併記する。
【表8】

【0261】
表8から明らかなように、実施例49および実施例96、97で得た膜電極複合体は、比較例1で得た膜電極複合体よりも高い出力特性を示した。これは、実施例の電極や電解質膜に使用したプロトン伝導体の抵抗が小さく、セル抵抗が小さいためである。また、実施例49,97の出力特性が実施例96に比して優れているのは、表5に示したとおり実施例49で得た電解質膜のメタノール透過性が低いためである。
【0262】
また、比較例7では、プロトン伝導性無機材料にPt−Ru触媒またはPt触媒を担持したものを電極に用いて燃料電池の発電を試みたが、非常に少ない電力しか得ることができなかった。プロトン伝導性無機材料に担持された触媒は導電性を十分に得ることができず、電気的な抵抗が高くなったため、発電が行えなかったと考えられる。
【0263】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0264】
【図1】本発明の第6の実施形態に係る燃料電池を模式的に示した断面図。
【図2】本発明の第6の実施形態に係る別の燃料電池を模式的に示した断面図。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るプロトン伝導性無機材料の電子顕微鏡写真。
【図4】TiO2粒子の電子顕微鏡写真。
【符号の説明】
【0265】
1…液体燃料導入路、2…アノード、3…カソード、4…電解質膜、5…膜電極複合体(起電部)、6…燃料気化部、7…燃料浸透部、8…カソードセパレータ、9…酸化剤ガス供給溝、10…酸化剤極側ホルダー、11…燃料極側ホルダー、100…スタック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
W、Mo、Cr、B及びVよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Xを含有する酸化物粒子と、
Sn、Hf、Ge、Ga、In、Ce及びNbよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Yを含有し、前記酸化物粒子が担持される酸化物担体と
を含有することを特徴とするプロトン伝導性無機材料。
【請求項2】
前記酸化物粒子及び前記酸化物担体のうち少なくとも一方は、Y、Sc、La、Sm、Gd、Mg、Ca、Sr及びBaよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Zを含有することを特徴とする請求項1記載のプロトン伝導性無機材料。
【請求項3】
W、Mo、Cr、B及びVよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Xを含有する酸化物粒子と、
Ti、Zr、Si及びAlよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Mを含有し、前記酸化物粒子が担持される酸化物担体と、
前記酸化物粒子及び前記酸化物担体のうち少なくとも一方に含有され、Y、Sc、La、Sm、Gd、Mg、Ca、Sr及びBaよりなる群から選択される少なくとも一種類からなる元素Zと
を含有することを特徴とするプロトン伝導性無機材料。
【請求項4】
前記元素Zの含有量は、0.01mol%以上40mol%以下であることを特徴とする請求項2または3記載のプロトン伝導性無機材料。
【請求項5】
Hammettの酸度関数H0が、H0<−11.93となる固体超強酸性を有することを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のプロトン伝導性無機材料。
【請求項6】
比表面積が10m2/g以上、2000m2/g以下の範囲であり、かつ前記元素Yに対する前記元素Xの比(X/Y)が0.0001以上、20以下の範囲であることを特徴とする請求項1記載のプロトン伝導性無機材料。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項記載のプロトン伝導性無機材料と、高分子材料とを含むことを特徴とする電解質膜。
【請求項8】
請求項1〜6いずれか1項記載のプロトン伝導性無機材料と、酸化還元触媒と、高分子材料とを含有することを特徴とする電極。
【請求項9】
燃料極と、酸化剤極と、前記燃料極及び前記酸化剤極の間に配置された電解質膜とを具備する膜電極複合体であって、
前記燃料極、前記酸化剤極及び前記電解質膜のうちの少なくともいずれかが、請求項1〜6いずれか1項記載のプロトン伝導性無機材料を含むことを特徴とする膜電極複合体。
【請求項10】
燃料極と、酸化剤極と、前記燃料極及び前記酸化剤極の間に配置された電解質膜とを具備する燃料電池であって、
前記燃料極、前記酸化剤極及び前記電解質膜のうちの少なくともいずれかが、請求項1〜6いずれか1項記載のプロトン伝導性無機材料を含むことを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−165098(P2007−165098A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359300(P2005−359300)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】