説明

プロピオン酸フルチカゾンを含む局所投与剤

【課題】有効成分であるプロピオン酸フルチカゾン微粒子を粘膜に長時間滞留させ、より高い治療効果及び作用持続性を達成することができる局所投与剤を提供する。
【解決手段】プロピオン酸フルチカゾン微粒子であって、プロピオン酸フルチカゾン結晶核の周りに放射状に成長した針状結晶からなり、平均粒径が10〜60μmの範囲である微粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロピオン酸フルチカゾンを含む局所投与剤に関する。より具体的には、本発明はプロピオン酸フルチカゾン粒子を粘膜に効率的に付着させ、粘膜上により長く滞留させることにより高い治療効果及び作用持続性を発揮できる局所投与剤に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピオン酸フルチカゾン(Fluticasone Propionate)は花粉症などのアレルギー性鼻炎、血管運動性鼻炎、気管支炎、又は気管支喘息など様々な炎症を抑える副腎皮質ホルモンとして広く使用されている。アレルギー性鼻炎や血管運動性鼻炎などの鼻炎に対しては定量噴霧式の点鼻液を用いてプロピオン酸フルチカゾンを含む水溶液を微細な霧状にして鼻粘膜に適用する手段が採用されている。この点鼻剤(例えば「フルナーゼ」(登録商標)、グラクソ・スミスクライン株式会社販売)は局所的に作用するため全身への副作用がほとんどないとされており、鼻炎に伴うくしゃみ、鼻水、及び鼻詰まりに特に有効性が高い。
【0003】
プロピオン酸フルチカゾンを有効成分として含む上記の点鼻剤はプロピオン酸フルチカゾン結晶の微粒子を含む水性懸濁剤であり、針状結晶を平均粒径1〜10μm程度の微粒子となるように粉砕して水性媒体に均一に懸濁させることにより調製されている。また、この点鼻剤には、霧状の噴霧を容易にするために一般的に製剤用添加物としてセルロース、カルメロースナトリウム、ブドウ糖、フェニルエチルアルコール、ポリソルベート80などが使用されている。しかしながら、噴霧された懸濁剤に含まれるプロピオン酸フルチカゾン微粒子は鼻粘膜表面に長時間滞留することができず、噴霧後短時間に粘膜表面から脱落ないし消失してしまい、作用の持続性が低くなるという問題を有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題はプロピオン酸フルチカゾンを含む局所投与剤を提供することにあり、より具体的には、有効成分であるプロピオン酸フルチカゾン微粒子を粘膜に長時間滞留させ、より高い治療効果及び作用持続性を達成することができる局所投与剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の課題を解決すべく、プロピオン酸フルチカゾン微粒子の性状と粘膜付着性及び作用持続性との関係を鋭意検討した。この結果、晶析法で得られた粒子径 5〜50μmの微粒子状の放射針状結晶塊が粘膜に対して高い付着性を示すこと、及びこの微粒子を分散させた水性懸濁液を局所投与剤として用いると従来の局所投与剤に比べて高い薬剤滞留性が得られ、より高い治療効果及び作用持続性を達成できることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
【0006】
すなわち、本発明により、プロピオン酸フルチカゾン微粒子であって、プロピオン酸フルチカゾン結晶核の周りに放射状に成長した針状結晶からなり、平均粒径が10〜60μmの範囲である微粒子が提供される。
上記発明の好ましい態様によれば、プロピオン酸フルチカゾン結晶核の粒径が2〜10μmである上記の微粒子;針状結晶の長さが2〜30μmである上記の微粒子;平均粒径が10〜50μmである上記の微粒子が提供される。
【0007】
別の観点からは、本発明により、上記のプロピオン酸フルチカゾン微粒子の製造方法であって、晶出溶媒中にプロピオン酸フルチカゾンを含む均一溶液にプロピオン酸フルチカゾン結晶核を含む懸濁液を加える工程;及び得られた懸濁液に水を加えて攪拌する工程を含む方法が提供される。
さらに別の観点からは、本発明により、上記のプロピオン酸フルチカゾン微粒子の水性懸濁液を含む局所投与剤が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明のプロピオン酸フルチカゾン微粒子は粘膜に対して高い付着性を示すことから、従来の局所投与剤に比べて高い薬剤滞留性が得られ、作用持続性に優れるという特徴がある。また、この微粒子は生体成分への溶解性にも優れており、より高い治療効果を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明により提供されるプロピオン酸フルチカゾン微粒子は、プロピオン酸フルチカゾン結晶核の周りに放射状に成長した針状結晶からなり、平均粒径が10〜60μmの範囲の微粒子であることを特徴としている(以下、本明細書においてこの微粒子を「放射針状結晶塊」と呼ぶことがある)。
【0010】
本発明の微粒子の製造に用いられる結晶核としては、例えばプロピオン酸フルチカゾンの針状晶の微粉末を用いることができる。微粉末の平均粒径は特に限定されないが、例えば0.5〜10μm程度、好ましくは2〜10μm程度である。粒径の上限も特に限定されないが、例えば50μm以下、好ましくは20μm以下である。上記微粉末は、一般的にはプロピオン酸フルチカゾンの針状晶を適宜の手段で微粉化し、必要に応じてサイズ化することにより得られるが、例えばハンマーミル、コロイドミルなどの手段で微粉化したものを用いることができる。
【0011】
本発明の微粒子は、上記の結晶核、及びこの結晶核の周りに放射状に成長した針状結晶を含んでいる。この針状結晶の大きさは特に限定されないが、一般的には長さ(長径)が2〜30μm程度、好ましくは5〜20μm程度であり、幅(短径)が0.5〜5μm程度、好ましくは0.5〜2μm程度である。
【0012】
一般的には、本発明の微粒子は結晶核の周りに少なくとも2方向以上、好ましくは3方向以上、さらに好ましくは多方向に放射状に成長した針状結晶を含んでおり、例えば略球形又はラグビーボール型のような3次元的な立体形状を有する結晶塊である。本発明の微粒子の平均粒径は10〜60μm程度の範囲であり、好ましくは10〜50μm程度の範囲である。また、本発明の微粒子の粒径の上限は 100μm程度以下、好ましくは80μm程度以下である。
【0013】
本発明の微粒子は、例えば、プロピオン酸フルチカゾンを晶出溶媒に均一に溶解し、得られた溶液にプロピオン酸フルチカゾン結晶核を含む懸濁液を加えた後、さらに水を加えて溶解度を低下させつつ攪拌することにより製造することができる。晶出溶媒としては、水と混じり合い、かつプロピオン酸フルチカゾンを溶解することができる有機溶媒を用いることができる。例えば、エタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフランなどを用いることができるが、残留溶媒の安全性の観点からエタノールを用いることが好ましい。この溶液におけるプロピオン酸フルチカゾンの濃度は特に限定されないが、例えば、1〜3.5 g/L、好ましくは2〜3.5 g/L程度であり、飽和濃度に近い濃度であることが好ましい。晶出溶媒としてエタノールを用いる場合には、例えば、2.0〜4.0 g/L程度の濃度、好ましくは3.0〜3.5 g/L程度の濃度とすることができる。
【0014】
プロピオン酸フルチカゾン結晶核としては上記に説明した平均粒径の結晶核を用いることができ、一般的にはこの結晶核を晶出溶媒と水との混合物又は水に懸濁して上記のプロピオン酸フルチカゾン溶液に添加することができる。例えば晶出溶媒としてエタノールを用いる場合には、水とエタノールとの混合物に結晶核を懸濁することができ、水とエタノールの混合物として例えば1〜10質量%、好ましくは5質量%程度のエタノールを含む水を用いることができる。上記懸濁液中の結晶核の濃度は特に限定されないが、例えば、10〜100 g/L程度、好ましくは30〜60 g/L程度、さらに好ましくは40 g/L程度の濃度とすることができるが、この濃度に限定されることはない。添加すべき結晶核懸濁液の容量としては、例えば、プロピオン酸フルチカゾンを含む溶液の100容量部に対して1〜5容量部程度とすることができるが、添加すべき結晶核懸濁液の濃度により適宜選択可能である。また、添加すべき結晶核の質量は、溶液中のプロピオン酸フルチカゾンの100質量に対して0.1〜5質量部、好ましくは0.5〜2質量部、さらに好ましくは1質量部程度である。
【0015】
プロピオン酸フルチカゾンを均一に溶解した溶液中に上記の結晶核懸濁液を添加して攪拌して均一の懸濁液を得た後、この懸濁液に水を加えてプロピオン酸フルチカゾンの溶解度を低下させつつ、徐々に攪拌を継続することにより、結晶核の周りに針状結晶が成長し、本発明の微粒子を得ることができる。添加すべき水の容量は特に限定されず、プロピオン酸フルチカゾンを含む溶液においてプロピオン酸フルチカゾンの溶解度を十分に低下させて過飽和状態を形成できる容量を適宜選択すればよい。例えば晶出溶媒としてエタノールを用いて飽和状態に近い濃度のプロピオン酸フルチカゾン溶液を調製している場合には、溶液の容量に対して2から10倍程度、好ましくは3〜5倍程度の容量の水を添加することができる。水を添加する速度は特に限定されないが、なるべくゆっくり添加すべきであり、一時に全量又は大部分の水を添加することは好ましくない。例えば30分〜数時間かけて水を滴下又は注入することにより徐々に過飽和状態を形成することが好ましい。また、水の添加に際して溶液を攪拌しておくことが好ましく、水の添加後も攪拌を継続することが好ましい。上記の方法により結晶核の周りに放射状に針状結晶が成長して本発明の微粒子を製造することができるが、本発明の微粒子の製造方法は上記の特定の方法に限定されることはない。得られた微粒子は常法に従って回収して乾燥することができる。
【0016】
本発明の微粒子を含む局所滞留製剤のうち、点鼻剤においては、従来市販されているプロピオン酸フルチカゾン点鼻剤と同様にして水性懸濁形態の定量噴霧型点鼻剤として調製することができ、従来市販のプロピオン酸フルチカゾンと同様にアレルギー性鼻炎及び血管運動性鼻炎などの鼻炎の治療及び/又は予防に用いることができる。プロピオン酸フルチカゾン点鼻剤は数種市販されており、これらの製剤において使用されている製剤用添加物、例えばセルロース、カルメロースナトリウム、ブドウ糖、フェニルエチルアルコール、ポリソルベート80などを用いて本発明の点鼻剤を調製することができる。本発明の点鼻剤におけるプロピオン酸フルチカゾンの濃度は適宜選択可能であるが、一般的には0.5〜0.6 mg/mL程度、好ましくは市販製剤と同様に0.51 mg/mL程度とすることができる。一回の用量(1噴霧)あたり50μg程度の微粒子が噴霧されるように製剤を調製することが望ましい。さらには、この微粒子(局所滞留型)を適当な粉末と混和して経肺吸入剤として用い、喘息の治療に用いることができる。この場合、他の薬剤、例えばβ刺激薬などを配合してもよい。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
例1
A.材料と方法
生分解性ポリマーとしてD,L-乳酸とグリコール酸の組成比(モル比)が50:50で重量平均分子量 8,000 のPLGA(ポリ乳酸・グリコール酸コポリマー:PLGA 5008、和光純薬製)を用い、粘膜付着性の微粒子としてCVP(カルボキシビニルポリマー:ハイビスワコー104、和光純薬製)を用いた。水は精製水を使用した。プロピオン酸フルチカゾン(以下、実施例において「FP」と略す場合がある)としては針状晶を粉砕した粉末(平均粒径約1μm)を原体として用い、FPの定量は、分光光度計による吸光度測定又は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い以下の条件で分析した。
【0018】
吸光度測定
分光光度計:日立U-1800
セル:石英ガラス製
光路長:1cm
波長:UV 236 nm
HPLC測定
HPLC:日立L-2000 シリーズ
カラム:イナートシルODS-3 4.6φ x 250mm (GLサイエンス社製)
カラム温度:40 ℃
溶離液:アセトニトリル/0.6%酢酸アンモニウム (80 / 20, v / v)
流量:0.8 mL/min
検出器:UV 239 nm(ピーク面積値)
保持時間:FP 約5.7 min
【0019】
(1)付着性FP粒子の調製方法
FPを数十μmの粒子径になるよう造粒した。粒子調製には、(a)FPをポリマーと共にジクロロメタンに溶解し、分散溶媒中で水中油滴エマルションとするO/W法、及び(b)FPをアセトンもしくはエタノールに溶解し、攪拌しながら水を徐々に添加して結晶を析出させる晶析法を用いた。造粒の条件としては下記に示すA〜Dの4種を採用し、これらのうち微粒子AとCの一部については粒子の重量に対して5%のCVPを加え、自転公転型ミキサー(あわとり練太郎 AR-250 シンキー)で5分間攪拌することによりCVPコーティングを施し、その効果について評価した。
【0020】
(1-A)微粒子Aの調製
微粒子A はO/W法を用いて調製した。ポリマー 10 mgと薬物 90 mg秤量し、6 mLのジクロロメタンを加えて攪拌および超音波水槽で溶解することにより油相とした。これを分散溶媒の0.1% ポリビニルアルコール(PVA)水溶液 18 mL 中に投入し、撹拌することによりO/Wエマルションを形成させた。このO/W型エマルションをさらに 900 mL の 0.1% PVA水溶液中に投入し、5時間攪拌してジクロロメタンを揮発させ微粒化した。得られた粒子を水で洗浄し、粒子懸濁液を凍結乾燥して、平均粒子径が 20〜30μm程度の球形粒子を得た。
【0021】
(1-B)微粒子Bの調製
微粒子Bは晶析法を用いて調製した。FP 原体 100 mg をアセトン 10 mL に溶解し、攪拌しながら水 40 mL を約1分かけて添加、混合することにより、FPの結晶を析出させた。得られた結晶を水で洗浄し、粒子懸濁液を凍結乾燥して、長さ約50〜100μm程度の針状結晶を得た。
【0022】
(1-C)微粒子Cの調製
微粒子Cは晶析法を用いて調製した。FP原体 200 mg をエタノール 60 mL に溶解し、ほぼ飽和状態のFP溶解液を調製した。別途FP原体 20 mg 量りとり、5 % エタノールの水混合液 0.5 mL 中に懸濁させ、FP結晶核用添加液を調製した。FP結晶核用添加液をFP溶解液中に全量投入することにより、FP溶解液中に非溶解のFP原体粒子を懸濁させた。これをスターラーで攪拌しながらHPLCのポンプを用いて、水 240 mL を 2 mL/min の速度で 120分間静かに添加し、析出するFPを核のFP粒子に着くよう成長させた。得られた結晶を水で洗浄し、粒子懸濁液を凍結乾燥して、平均粒子径が 30〜50μm程度の放射針状結晶を得た。
【0023】
(1-D)微粒子Dの調製
微粒子Dは微粒子Cの析出時間を短縮し、析出量を半量とした場合の条件とし、晶析法で調製した。FP原体 100 mg をエタノール 30 mL に溶解し、ほぼ飽和状態のFP溶解液を調製した。別途FP原体 20 mg 量りとり、5% エタノールの水混合液 0.5 mL 中に懸濁させ、FP結晶核用添加液を調製した。FP結晶核用添加液をFP溶解液中に全量投入することにより、FP溶解液中に非溶解のFP原体粒子を懸濁させた。これをスターラーで攪拌しながらHPLCのポンプを用いて、水 120 mL を 5 mL/min の速度で 24分間攪拌中心より滴下し、析出するFPを核のFP粒子に着くように成長させた。得られた結晶を水で洗浄し、粒子懸濁液を凍結乾燥して、平均粒子径が 30〜50μm 程度の放射針状結晶と長さ約 50μm 程度の針状結晶の混合物を得た。
【0024】
(2)粘膜付着性の評価
粘膜付着性の評価は、8 cmに切ったラット小腸の反転腸管に対し、既知量の各微粒子および対照の市販製剤(ミリカレット:あすか製薬株式会社販売、及びスカイロン:大日本住友製薬株式会社販売)を接触させ、1 mL のPBSを加え37℃で一定時間静置した。十分薬剤粒子と接触させた腸管を 20 mL のPBS中に沈め、緩やかに振とうすることにより、非付着の薬剤粒子と分離した。薬物が付着した腸管にアセトニトリル 20 mL を加えて薬物を抽出し、水 10 mL を加えて希釈することにより、上清を測定試料とした。分光光度計にて波長 236 nm における吸光度を測定し、付着していた薬物量を定量した。添加した薬物量に対して、腸管に付着していた薬物量の百分率を求めることにより付着率を評価した。
【0025】
(3)鼻粘膜にける経時的局所滞留性の評価
エーテル麻酔下のラット右鼻腔内に懸濁製剤液 10μL 点鼻し、各群を経時的にエーテル麻酔下で全採血することにより安楽死させ、投与した右鼻腔部を摘出した。摘出された鼻腔組織を硝子バイアルに取り、HPLC移動相 3 mL を加え、眼科用鋏で細かく破砕した。超音波(水浴)で5分間処理した後、攪拌することにより薬剤を抽出して均一化した。抽出液の一部をマイクロチューブに取り、遠心分離して固形成分を沈降させ、上清をHPLCで分析した。投与用の薬液は、検出感度とラットへの点鼻可能液量から、FPの粒子濃度が 2.5〜3 mg/mL となるよう調整した。対照とした市販製剤のミリカレットとスカイロンは、何れもFPの粒子濃度が 0.51 mg/mL であるため、本評価系にあわせて市販製剤液にFPの原体を加えて薬剤粒子濃度を高めて用いた。
【0026】
(4)微粒子Cの生体成分に対する溶解性
生体由来試料としてラットのヘパリン血漿を用い、PBSで2倍と4倍に希釈して 25% および 50% ラット血漿を調製した。対照として生体成分を含まない試料はPBSを用いた。微粒子C 1 mg に試料溶液 1 mL を加え、37℃恒温槽中で緩やかに攪拌させた。調製直後(0時間)、1および3時間の各時点毎に個別に調製した試料を 0.20μm のろ過フィルタ(DISMIC-25CS ADVANTEC)を通じて薬剤粒子を除去し、ろ液中のFP濃度をHPLCで測定した。
【0027】
B.結果
(1)FPの造粒法と粒子の形状
(1-A)微粒子A:
O/W法により調製された粒子Aは、平均粒子径が 20〜30μm 程度の球状で、かつ表面が比較的平滑であった(図1)。
(1-B)微粒子B:
アセトンに完全に溶解させたFP溶液に水を加えることにより溶解度を変化させてFPを結晶化させ長さ約 50〜100μm 程度の針状結晶を得た(図1)。この晶析法では一方方向へ結晶が成長し、針状の結晶となったものと考えられる。この粒子に対してはコーティングは実施しなかった。
【0028】
(1-C)微粒子C:
微粒子Cでは予め核となる粒状のFPの原体を懸濁させ多方向に結晶を成長させた。FPの溶媒としてエタノールを用いてFPをほぼ飽和付近まで溶解させ、核となるFPの原体粒子を投入後、緩やかに水を加えて結晶を成長させた。得られた結晶塊は外形がほぼ球状で、平均粒子径が 30〜50μm 程度の放射状に伸びた針状結晶塊(放射針状結晶塊)であった(図1)。
また、この結晶塊の表面は平滑ではなかったが、粒子径はそろっていた。この結晶の一部にCVPのコーティングを施して粘膜付着性を比較したが、CVPのコーティングを行うと粒子表面の放射針状結晶塊が一部崩壊し、多量の針状結晶との混合状態となった(図2)。
【0029】
(1-D)微粒子D:
得られた結晶は、微粒子Cと同様の平均粒子径が 30〜50μm程度の放射針状結晶と、微粒子Bに類似の長さ約 50μm 程度の針状結晶との混合物となった(図1)。水の流速を上げて攪拌中心へ水を滴下し、より急速に水の拡散及び混合を速めた結果、滴下により瞬間的に水とエタノールの界面付近に新たな結晶核が生じ、これが針状結晶となったと考えられる。この微粒子Dは均質でなく、針状結晶を含むものであることから、CVPのコーティングは実施しなかった。
【0030】
(2)粘膜付着性の評価
他の薬物で実施した本評価系におけるPLGAを用いたマイクロ粒子では、ラット反転腸管に対する付着率はおおむね 20% 程度であった。FP(造粒前の原体)の付着率を確認したところ約 40%であり、CVPなどの粘膜付着性成分を付加しない場合でもFPは比較的反転腸管に付着しやすいことが確認された。そこで、ラット反転腸管に対する付着性を調製した微粒子A〜DとFPの原体について比較した。結果を表1に示す。原体粒子の付着率の平均は 40.5% であったのに対し、造粒した粒子の付着率は総じて高く、最も高かった微粒子Cでは 77.1% であり、約2倍程度の付着率であった。
【0031】
【表1】

【0032】
粘膜付着性がある高分子であるCVPをコーティングしやすい微粒子Aと、最も粒子の付着率が高かった微粒子Cについて、CVPのコーティングを実施し、コーティングの有無による付着性を比較した。微粒子AではCVPをコーティングすることにより付着率が高くなったが、微粒子CではCVPの有無による差は認められず、何れの場合にも約 80% 程度と高い付着率を与えた(表2)。
【0033】
【表2】

【0034】
微粒子CはCVPをコーティングしなくても高い付着率を示したことから、製剤化して市販の製剤であるミリカレットとスカイロンを対象に懸濁製剤の状態における付着性を比較した。市販製剤のミリカレットから薬剤粒子を遠心分離して得た懸濁媒に微粒子Cを懸濁して被検製剤とした。微粒子CはPBSに懸濁した場合の約 80% に比べて平均値で 47.3% と低い付着率であったが、ミリカレットの 23.9%、スカイロンの 21.6% に比較すると、約2倍の付着率を示した(表3)。これらのことから、微粒子Cは、粒子そのものに高い粘膜付着性があり、市販製剤の濃度まで希釈し、かつ粘性のある懸濁媒においても、従来のFPの薬剤粒子に比較して高い粘膜付着性を示すことが確認された。
【0035】
【表3】

【0036】
(3)鼻粘膜滞留性の評価
市販製剤ミリカレットおよびスカイロンにFPの原体粒子を加えて投与量を調製した被検製剤と、ミリカレットの遠心上清を懸濁媒として微粒子Cを懸濁させた被検製剤をラット鼻腔内に投与薬物量が約 25〜30μg となるよう点鼻し、投与部位の経時的な薬物残留量を測定した。投与後6時間の投与部位における残留薬物量を比較した。投与後6時間後におけるミリカレットとスカイロンの残留薬物量の平均値は、それぞれ 0.4 及び 0.3μg であり、投与量の 1〜2 %程度であった。これに対し、微粒子Cから調製した被検製剤では平均値 3.4μgを与えた。この残留薬物量は投与量の約 11% に相当しており、市販製剤から調製した被検製剤に比較して 8〜10 倍程度の残存率であった(表4)。
【0037】
【表4】

【0038】
市販の製剤に含まれるFP粒子に比較して、微粒子Cは鼻粘膜への滞留性が極めて高いと考えられたことから、ミリカレット又は微粒子Cから調製した被検製剤の投与部位に対する経時的な残存量の推移を比較した。投与量はミリカレットから調製した被検製剤では 25μg/匹、微粒子Cから調製した被検製剤では 30μg/匹とした。結果を図3に示す。ミリカレットから調製した被検製剤は、投与部位から経時的に薬物が減少して行くのに対し、微粒子Cは投与後3時間以後12時間まで、投与量の 10 % 程度でほぼ一定の残存量を示していた。また、投与後24時間後における微粒子Cの残存量は、投与後12時間における残存量よりも減少していることから、この粒子の残留や蓄積などの危険性は低いものと考えられた。なお、ミリカレットから調製した被検製剤群においては、投与後12時間の時点で3例中1例、投与後24時間の時点で3例中2例が定量下限未満の個体が認められたが、これらの個体の残存FP量については定量下限値の 0.2μg を代入して総ての時点を3例の平均値およびSDとして表記した。また、ミリカレットから調製した被検製剤群では投与後24時間の値は絶対値としての信頼性が乏しいため、図3では投与後12時間から24時間の間を破線として表記した。
【0039】
(4)生体成分に対する溶解性
微粒子Cの生体成分に対する溶解性を確認するため、ラット希釈血漿に微粒子Cを添加して、粒子を除いた試料中FP濃度を経時的に測定した(図4)。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で懸濁した試料におけるFP濃度は何れの時点においても検出下限未満となり、操作上、非溶解のFP粒子は混入しないことが確認された。ラットの血漿成分が多い試料においてよりFP濃度が高く、血漿に含まれる生体成分がFPを可溶化したものと考えられた。これらのことから、生体成分との共存下であれば微粒子Cは生体内に取り込まれると結論できる。
【0040】
(5)経肺投与用製剤の調製
径肺投与用には、放射状粒子が小さく、かつ、単分散しているものがよい。そこで凝集防止をはかるために、析出用の水中にポリビニルアルコール(PVA)を0.5%となるように加えた水溶液を作成した。これを上記1−Cと同様にポンプを用いて添加し、FPの放射針状結晶を得た。この結晶は、針状結晶の長さが5〜30μmの分布をもち、平均粒子径は約15μmであった。また、水中に懸濁させると単分散状に分散した。この粒子に対し、粉砕したマンニトールを98の割合(重量)で混合して径肺投与用の粉末用製剤を得た。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】造粒したFP粒子の顕微鏡写真である。
【図2】微粒子CのCVPコーティング前後の顕微鏡写真である。
【図3】FP粒子模擬製剤をラット鼻腔内に点鼻した後の経時的鼻粘膜残存量の推移(n=3)を示した図である。
【図4】微粒子Cのラット希釈血漿への溶解性(n=1)を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピオン酸フルチカゾン微粒子であって、プロピオン酸フルチカゾン結晶核の周りに放射状に成長した針状結晶からなり、平均粒径が10〜60μmの範囲である微粒子。
【請求項2】
プロピオン酸フルチカゾン結晶核の粒径が0.5〜10μmである請求項1に記載の微粒子。
【請求項3】
針状結晶の長さが2〜30μmである請求項1又は2に記載の微粒子。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のプロピオン酸フルチカゾン微粒子の製造方法であって、晶出溶媒中にプロピオン酸フルチカゾンを含む均一溶液にプロピオン酸フルチカゾン結晶核を含む懸濁液を加える工程;及び得られた懸濁液に水を加えて攪拌する工程を含む方法。
【請求項5】
晶出溶媒がエタノールである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のプロピオン酸フルチカゾン微粒子の水性懸濁液を含む点鼻剤。
【請求項7】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のプロピオン酸フルチカゾン微粒子を含む経肺投与用粉末状吸入剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−111592(P2010−111592A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283080(P2008−283080)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000002990)あすか製薬株式会社 (39)
【出願人】(304062317)ガレニサーチ株式会社 (6)
【Fターム(参考)】