プロピレン系重合体の製造方法
【課題】液化プロピレンの気化熱を利用して重合熱を除去する、水平軸回りに回転する撹拌機を内部に備えた横型重合反応器を用い、連続気相重合法によりプロピレンを重合させてなるプロピレン系重合体の製造プロセスにおいて、塊状ポリマーの発生を抑制し、生産効率を高めると共に、更に、透明性や低温ヒートシール性に優れたプロピレン系重合体を製造する方法を開発する。
【解決手段】水平軸回りに回転する撹拌機を内部に備えた横型重合反応器において、反応熱を主として液化プロピレンの気化熱により除去する連続気相重合法によりプロピレンを重合させてなるプロピレン系重合体を製造する工程で、反応器内に軸方向に2区分以上の異なる温度区分を設定することが可能であり、かつ触媒供給部が含まれる区分の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1(℃)=Tx−Tzが0〜5℃であることを特徴とする、プロピレン系重合体の製造方法。
【解決手段】水平軸回りに回転する撹拌機を内部に備えた横型重合反応器において、反応熱を主として液化プロピレンの気化熱により除去する連続気相重合法によりプロピレンを重合させてなるプロピレン系重合体を製造する工程で、反応器内に軸方向に2区分以上の異なる温度区分を設定することが可能であり、かつ触媒供給部が含まれる区分の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1(℃)=Tx−Tzが0〜5℃であることを特徴とする、プロピレン系重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン系重合体の製造方法に関するものであり、詳しくは、横型重合反応器を用いたプロピレンの気相重合において、反応器内の温度を特定の除熱により制御して温度を特定化することによって、塊状や微粉状のポリマーの生成を充分に抑制しながら、生産効率良く、特に透明性や低温ヒートシール性に優れたプロピレン系重合体を工業的に安定に製造する方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
プロピレン系重合体は、剛性や耐熱性などの機械的物性に優れ、成形性も良好であり、比較的安価に製造することが可能であり、環境問題適応性も高いことから、産業上の広い用途に適用されている。
そのため、ポリプロピレンの製造プロセスは、工程の簡略化と生産コストの低減及び生産性の向上、更には触媒性能の改良などの観点で技術検討が続けられてきた。
【0003】
ポリプロピレンの製造プロセスにおいては、ポリプロピレンが工業的に製造され始めた当時は触媒の性能が低く、得られたポリプロピレンから触媒残渣やアタクチックポリマーなどを除去する工程が必要であり、溶媒を用いたスラリー法などのプロセスが主体であった。
その後、触媒性能が格段に進歩するにつれて、触媒残渣やアタクチックポリマーなどの除去の必然性が低減され、現在では気相法プロセスが主流となっている。
【0004】
気相法プロセスにおいては、近年の触媒技術の進歩により開発された高活性化触媒やメタロセン系触媒などの新規触媒のプロセスへの適応、及びそれに付随した塊状や微粉状のポリマーの発生の抑制は、プロセスの安定した運転を行う点からも解決すべき問題としての課題を呈している。
【0005】
気相重合において塊状の不定形ポリマーの発生を防止するに際しては、流動床反応器では触媒供給部において重合熱の除去が比較的困難であるため、局部的な重合熱の蓄積により、流動床内の温度が不安定化し易い。そのために、流動床反応器を用いた蒸発潜熱を利用して、気相重合器内に戻る液化した循環ガスの液流量と系外排出ガス流量及び供給モノマーガス流量により、器内の温度及び圧力を制御するポリプロピレンの製造法(例えば、特許文献1を参照)が提案されているが、生産量の増加や急激なグレード変更での流動床反応器における重合熱の除去の点で改善の余地があることが避けられない。
また、塊状重合体の生成の抑制と流動状態の保持を目的とし、流動床反応器では重合時に反応器内壁温度を流動ガスの露点以下に冷却することを特徴とする気相重合方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)が、局部的な相変化により運転制御に困難が伴うことを本発明者らは認知している。
【0006】
気相法プロセスには、液化プロピレンの潜熱(気化熱)を利用して重合熱を除去する形式のオレフィンの気相反応器として、水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型重合反応器を用いた重合プロセスが知られている。液化プロピレンの潜熱を利用して重合熱を除去する方法は、小さな設備で大きな除熱能力を持つことができる点で優位性のあるものである。
【0007】
また、横型重合反応器で重合したポリマー粒子は、撹拌反応器中で形成され、重合を進行しながら、撹拌により移動しつつ反応器に沿って進み、そのため、他の重合器にない特徴である、完全混合槽を数台直列に並べたフローパターンである、ピストンフロー型を示す。横型重合反応器は、長さの直径に対する比率において、2個や3個又はそれ以上の反応器と同等な、固体混合度を容易に達成することができる点で経済的に有利である。
更に、重合反応器が横型であるため縦型反応器に比べて除熱時に重合熱も効率よく除去される点で有利であり、ポリプロピレンの製造を行う際に、液化プロピレンの気化熱を利用して重合熱の除去を行い、かつ、水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型重合反応器を用いる手法は、上記の様な優れた特徴を有している(例えば、特許文献3を参照)。
【0008】
ところで、本発明者らは、横型重合反応器を用いたプロセスを詳細に検討したところ、塊状ポリマーや微粉の発生に起因する、次のような問題を把握した。
一般的に横型重合反応器は反応器の上流端より触媒系が反応器内部へ注入され、固体ポリプロピレン粉末は反応器中で生成されて、それの下流から抜き出される。液化プロピレンの気化熱を利用したプロセスでは、多量の気化ガス発生のため、微粉体が気化ガスに同伴され、ガス排出管系統のパイプ内やフィルターに付着したり、或はこれらを閉塞したりすることを避けるために、ポリマー粒子は上流部で可能な限り、粒子形状を早急に作ることが望ましい。一方、反応を促すことは、急激な反応による局部発熱などにより塊状の不定形ポリマーの生成が生じ、製造工程の中断などを引き起こす惧れがある。
【0009】
液化プロピレンの潜熱(気化熱)を利用する場合、反応器からガスを抜き出し、熱交換器で冷却することにより液化させ、再び反応器へ戻すのが一般的な方法である。ガスが液化する温度(露点)は圧力及びガスの組成に依存するため、プロピレン単独の露点に対して、プロピレンに水素やエチレンなどの露点の低いガス成分を混合していくと、混合量の増加に従って露点が低下する。熱交換器の冷却能力は設備によって決まるものであり、同一設備を使用する場合にはガス成分の露点が低くなるほどガスを液化させる能力が低下、即ち、除熱能力が低下する。
かくして、高活性化触媒やメタロセン触媒などの新規触媒による、MFRの高いプロピレン系重合体、或はランダム重合体といった、水素やエチレンが反応器に多く存在する製造プロセスでは触媒活性が高くなる反面、除熱能力の低下による塊状ポリマーの発生が不可避であり、また、高重合活性を発現する際に、重合時の固体状触媒成分の崩壊により、粒子形状の悪化、粉体特性の劣化といった問題が生じるため、重合プロセスへの適応に課題を呈している。
この様に、高活性化触媒やメタロセン触媒などの新規触媒を、ポリプロピレンを製造する気相重合に適応する場合には、塊状の不定形ポリマーや微粉状ポリマーの抑制及び生産性の面で解決すべき課題を抱えている。
【0010】
かかる課題に対応するために、横型重合反応器において、チタン担持触媒成分と助触媒成分の供給口を変えることでポリマー凝集体を抑制する方法が提案されている(例えば、特許文献4を参照)が、凝集体の抑制と生産効率を充分に満足するものではない。また、α−オレフィンによる予備重合処理とドナー添加による塊状の不定形ポリマーの抑制方法(例えば特許文献5を参照)も提案されているが、ドナー添加による触媒性能の低下などの問題を内在している。
【0011】
また、実質上縦型の攪拌床反応器において、反応帯域中の圧力及び温度を、圧力−温度線図中で、露点曲線の下方一定の圧力範囲で運転することにより、反応器の温度が均一となり、塊状の不定形ポリマー発生を防止する、α−オレフィン重合体の製造方法が提案されている(特許文献6を参照)が、該製造方法では反応圧力或いは温度が制限されてしまうため、充分な触媒活性が得られない、という問題を解決することができていない。
【0012】
以上に背景技術として詳述した様に、従来技術においては、横型重合反応器の性能やポリマー粒子性などの技術が改良されてきているが、横型重合反応器を用いた気相重合法において、重合反応熱の除熱の問題と関連して、塊状の不定形ポリマーの生成の抑制や微粉状ポリマー量の減量、或は生産効率の向上といった全ての課題を充分に解決する技術は未だ実現されてなく、このような観点から更なる技術改良が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平11−209415号公報
【特許文献2】特許3,180,305号明細書
【特許文献3】米国特許第3,971,768号明細書
【特許文献4】特公平7−94485号公報
【特許文献5】国際公開WO00−42081号
【特許文献6】特開2000−264918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、前記した背景技術の状況を鑑みて、液化プロピレンの潜熱(気化熱)を利用して重合熱を除去する、水平軸回りに回転する撹拌機を内部に備えた横型重合反応器を用い、連続気相重合法によりプロピレン又はプロピレンとエチレンを含む他のα−オレフィンとを重合させてなるプロピレン系重合体の製造プロセスにおいて、塊状ポリマーの発生を抑制し、生産効率を高めると共に、更に透明性や低温ヒートシール性に優れたプロピレン系重合体を工業的に安定に製造する方法を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の課題を解決することを目指して、液化プロピレンの潜熱(気化熱)を利用して重合熱を除去する、水平軸回りに回転する撹拌機を内部に備えた横型重合反応器を用い、連続気相重合法によりプロピレン又はプロピレンとエチレンを含む他のα−オレフィンとを重合させてなるプロピレン系重合体の製造プロセスにおいて、重合熱の除去方法や重合熱の制御及び重合条件や反応器の構造などについて種々にわたり考察勘案し実験による検証などを行って、塊状ポリマーの発生を抑制して、生産効率を高めると共に、安定してプロピレン系重合体を製造する方法を探究した。
それらの過程の結果として、液化プロピレンの潜熱(気化熱)を利用して重合熱を除去するに際して、重合反応器内における温度条件を特異的に設定制御すれば、前記の課題が解決されて、格別顕著に、塊状ポリマーの発生を抑制して、生産効率を高めると共に、安定してプロピレン系重合体を製造する手法を見出すことができ、更には付加的に重合触媒の担体の粒子性状を制御すれば、更に、透明性や低温ヒートシール性に優れたプロピレン系重合体が工業的に安定に製造されることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明は、基本的な要件として、横型重合反応器において、反応器内に軸方向に2区分以上の異なる温度区分を設定することを可能とし、触媒供給部の温度を反応器内の混合ガスの露点に対し制御することにより、前記の課題を解決するものである。
【0017】
具体的には、本発明は基本発明として、水平軸回りに回転する撹拌機を内部に備えた横型重合反応器において、反応熱を主として液化プロピレンの気化熱により除去する連続気相重合法によりプロピレン又はプロピレンとエチレンを含む他のα−オレフィンとを重合させてなるプロピレン系重合体を製造する工程で、反応器内に軸方向に2区分以上の異なる温度区分を設定することが可能であり、かつ触媒供給部が含まれる区分の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1(℃)(=Tx−Tz)が0〜5℃であることを構成の要件(発明の基本的な特定事項)とする。
【0018】
本発明は、上記の基本的発明に対して、付加的な要件ないしは実施の態様として、メタロセン系化合物を担体に担持した重合触媒を用いることによって、低温ヒートシール性と透明性に優れたプロピレン系重合体を製造し、特に、粒形及び粒径の制御された担体を用いることを特徴とする。
また、触媒供給部が反応器の上流末端を含む区分に含まれ、横型重合反応器の上流末端から下流末端に至る区分(n)とその隣接する下流部の区分(n+1)の反応温度である、TnとTn+1がTn≦Tn+1であり、反応器の上流末端を含む区分の温度(Tα)と下流末端を含む区分の温度(Tω)との温度差ΔT2(℃)(=Tω−Tα)が2〜15℃であり、複数の区分(n)の反応温度Tnを個別に異なる温度で制御し、製造されるプロピレン系重合体の示差走査熱量測定(DSC)による融解ピーク温度Tmが、105〜140℃であることを特徴とする。
【0019】
かくして、本発明は、高活性化触媒やメタロセン系触媒などの新規触媒の気相重合プロセスへの適応のために、液化プロピレンの気化熱を利用して重合熱を除去する、水平軸回りに回転する撹拌機を内部に備えた横型重合反応器を用い、連続気相重合法によりプロピレン又はプロピレンとエチレンを含む他のα−オレフィンとを重合させてなるプロピレン系重合体の製造プロセスにおいて、塊状ポリマーの発生を抑制し微粉の生成量を低減して、生産効率を高めると共に、安定してプロピレン系重合体を製造することを可能となし、更には、かかるプロセスにおいて、メタロセン系化合物を担体に担持した重合触媒を用いることによって、低温ヒートシール性と透明性に優れたプロピレン系重合体を製造し得、かかる作用と効果は後述する実施例のデータ及び実施例と比較例の対照により実証されている。
なお、本発明における、かかる新規な構成及び効果などの特徴は、前述の背景技術に掲載した特許文献及びその他の特許文献を精査しても示唆はされていないし、窺うこともできない。
【0020】
以上においては、本発明が創作される経緯と、本発明の基本的な構成要素と特徴について概観的に記述したので、ここで本発明の全体を俯瞰すると、本発明は次の発明の単位群から構成されるものであって、[1]の発明を基本発明とし、それ以下は、基本発明をより具体化又は実施態様化するものである。なお、発明群の全体をまとめて、「本発明」という。
【0021】
[1]水平軸回りに回転する撹拌機を内部に備えた横型重合反応器を用い、反応熱を主として液化プロピレンの気化熱により除去する連続気相重合法により、オレフィン重合用触媒の存在下で、プロピレン又はプロピレンと他のα−オレフィンとを重合させて、プロピレン系重合体を製造する方法において、該反応器は水平軸方向に2区分以上の異なる温度区分を設定することが可能であり、かつ触媒供給部が含まれる区分の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1(℃)(=Tx−Tz)が0〜5℃であることを特徴とする、プロピレン系重合体の製造方法。
【0022】
[2]オレフィン重合用触媒として、メタロセン系化合物を担体に担持した重合触媒を用いることを特徴とする、[1]におけるプロピレン系重合体の製造方法。
[3]担体として、粒形及び粒径の制御された担体を用いることを特徴とする、[2]におけるプロピレン系重合体の製造方法。
[4]触媒供給部が該反応器の上流末端を含む区分に含まれることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかにおけるプロピレン系重合体の製造方法。
[5]反応器の上流からn番目の区分の温度Tnとその隣接するn+1番目の区分の温度Tn+1が、Tn≦Tn+1であることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかにおけるプロピレン系重合体の製造方法。
[6]反応器の上流末端を含む区分の温度(Tα)と下流末端を含む区分の温度(Tω)との温度差ΔT2(℃)=Tω−Tαが2〜15℃であることを特徴とする、[1]〜[5]のいずれかにおけるプロピレン系重合体の製造方法。
[7]複数の領域区分(n)の反応温度Tnを個別に異なる温度で制御することを特徴とする、[1]〜[6]のいずれかにおけるプロピレン系重合体の製造方法。
[8]製造されるプロピレン系重合体の示差走査熱量測定(DSC)による融解ピーク温度Tmが、105〜140℃であることを特徴とする、[1]〜[7]のいずれかにおけるプロピレン系重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明のプロピレン系重合体の製造方法によれば、液化プロピレンの気化熱を利用して重合熱を除去する、水平軸回りに回転する撹拌機を内部に備えた横型重合反応器を用い、連続気相重合法によりプロピレン又はプロピレンとエチレンを含む他のα−オレフィンとを重合させてなるプロピレン系重合体の製造プロセスにおいて、塊状ポリマーや微粉状のポリマーの発生を抑制して、生産効率を高めると共に、更に、透明性や低温ヒートシール性に優れたプロピレン系重合体を、工業的かつ安定的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の製造方法に用いる横型重合反応器の説明図である。
【図2】本発明の製造方法に用いる横型重合反応器における、示差温度計の配置の一例を表す概略図である。
【図3】本発明の製造方法に用いる横型重合反応器の領域区分における温度制御の説明図である。
【図4】本発明の製造方法に用いる横型重合反応器の領域区分における温度制御の説明図である。
【図5】本発明の製造方法に用いない、横型重合反応器の領域区分における温度制御の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下においては、本発明を実施する態様において、本発明が使用する重合触媒、本発明における製造プロセス及びその条件、本発明によるプロピレン系重合体の製造方法について、具体的かつ詳細に記述する。
【0026】
I.製造されるプロピレン系重合体の特徴
本発明で製造されるプロピレン系重合体は、製造されるポリマーの用途によってプロピレン単独重合体、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体の中から選ばれる。
使用されるα−オレフィンは、プロピレンを除く炭素数が2〜8のα−オレフィンであり、好ましくはエチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、特に好ましくはエチレンが用いられる。以下、α−オレフィンが主にエチレンの場合について、詳細を記載する。
【0027】
本発明で、特に好ましく製造されるプロピレン系重合体は、融解ピーク温度(Tm)(以下融点ともいう)が、105℃以上140℃以下のプロピレン系重合体である。上記範囲よりも融点が著しく高いと、低温ヒートシール性が不充分なものとなってしまうし、また、上記範囲より融点が著しく低いと工業的に可能な重合温度では重合体自身が一部融解してしまう惧れがあり、安定運転の維持が困難となる。
ただし、本発明の製造方法においては、かかる融点以外の融点を有するプロピレン系重合体を製造することを排除することを意味するものではない。
このような低融点のプロピレン系重合体は、メタロセン系化合物を担体に担持した触媒を用いることによって、製造されることが好ましい。
メタロセン系触媒の、結晶性及び分子量分布が狭く、低結晶・低分子量成分が少ないという特徴を活かすことができ、従来のチーグラー・ナッタ系触媒では製造が困難であった低温ヒートシール性に優れたポリマーの製造が可能となる。
【0028】
製造される重合体がプロピレン−エチレンランダム共重合体である場合、該共重合体中のエチレン含量は、該共重合体の融点が好ましくは105〜140℃の範囲に入るようにコントロールされ、使用される触媒にもよるが、メタロセン系触媒の場合、一般的には、1〜10質量%の範囲である。
なお、本発明において、融解ピーク温度(Tm)は、示差走査熱量測定(DSC)により計測した値である。具体的には、例えば、パーキン・エルマー社製のDSC7型示差走査熱量分析計を用いて試料を室温から80℃/分の条件で230℃まで昇温し、同温度にて10分間保持後、−10℃/分にて50℃まで降温し、同温度にて3分間保持した後、10℃/分の昇温条件下で融解した時のピーク温度である。
【0029】
その際、反応器中のエチレンとプロピレンのガス濃度モル比(エチレン/プロピレン)の値は、上記の融点が得られるように調整すればよいが、好ましくは、0.01〜0.5、より好ましくは、0.01〜0.3、更に好ましくは0.02〜0.2の範囲である。
重合体は、その目的によっては、多段重合法を用いて、製造してもよい。その場合、第一段階で製造される重合体については、上記の特徴を持つ重合体が好ましく、第二段階以降に製造される重合体の成分については、特に制限はない。
【0030】
重合体中のエチレン含量は、NMRにより求め、多段重合法を用いる場合は、第一段階で重合された重合体を対象とする。具体的方法を以下に示す。
イ)NMRによるエチレン含量測定
得られた重合体のエチレン含量は、プロトン完全デカップリング法により以下の条件に従って測定した13C−NMRスペクトルを解析することにより求める。
機種:日本電子(株)製 GSX−400又は、同等の装置(炭素核共鳴周波数100MHz以上) 溶媒:o−ジクロルベンゼン:重ベンゼン=4:1(体積比) 濃度:100mg/ml 温度:130℃ パルス角:90° パルス間隔:15秒 積算回数:5,000回以上
ロ)スペクトル
スペクトルの帰属は、例えばMacromolecules,17,1950(198
4)を参考に行えばよい。上記条件により測定されたスペクトルの帰属は下の表1の通りである。表中Sααなどの記号はCarmanら(Macromolecules,1
0,536(1977))の表記法に従い、Pはメチル炭素、Sはメチレン炭素、Tはメチン炭素をそれぞれ表わす。
【0031】
【表1】
【0032】
ハ)エチレン含量の計算
以下、「P」を共重合体連鎖中のプロピレン単位、「E」をエチレン単位とすると、連鎖中にはPPP、PPE、EPE、PEP、PEE、及びEEEの6種類のトリアッドが存在し得る。Macromolecules,15,1150(1982)などに記されているように、これらトリアッドの濃度と、スペクトルのピーク強度とは、以下の(1)〜(6)の関係式で結び付けられる。
[PPP]=k×I(Tββ) (1)
[PPE]=k×I(Tβδ) (2)
[EPE]=k×I(Tδδ) (3)
[PEP]=k×I(Sββ) (4)
[PEE]=k×I(Sβδ) (5)
[EEE]=k×{I(Sδδ)/2+I(Sγδ)/4} (6)
ここで[ ]はトリアッドの分率を示し、例えば[PPP]は全トリアッド中のPPPトリアッドの分率である。したがって、
[PPP]+[PPE]+[EPE]+[PEP]+[PEE]+[EEE]=1 (7)
である。また、kは定数であり、Iはスペクトル強度を示し、例えばI(Tββ)はTββに帰属される28.7ppmのピークの強度を意味する。
【0033】
上記(1)〜(7)の関係式を用いることにより、各トリアッドの分率が求まり、さらに下式によりエチレン含量が求まる。
エチレン含量(モル%)=([PEP]+[PEE]+[EEE])×100
なお、本発明の中で、メタロセン系触媒を使用して製造したプロピレンランダム共重合体成分には少量のプロピレン異種結合(2,1−結合及び/又は1,3−結合)が含まれ、それにより、以下の微小なピークを生じる。
【0034】
【表2】
【0035】
正確なエチレン含量を求めるにはこれら異種結合に由来するピークも考慮して計算に含める必要があるが、異種結合由来のピークの完全な分離・同定が困難であり、また異種結合量が少量であることから、本発明のエチレン含量は実質的に異種結合を含まないチーグラー・ナッタ系触媒で製造された共重合体の解析と同じく上記(1)〜(7)の関係式を用いて求めることとする。
【0036】
エチレン含量のモル%から質量%への換算は以下の式を用いて行う。
エチレン含量(質量%)=(28×X/100)/{28×X/100+42×(1−X/100)}×100 ここでXはモル%表示でのエチレン含量である。
【0037】
II.プロピレン系重合体の製造
1.触媒
本発明で用いる触媒は、(I)(a)共役五員環配位子を有する周期律表第4族遷移金属化合物からなるメタロセン錯体と、それを担持する(b)担体、それを活性化させる(c)助触媒、並びに必要に応じて使用される(d)有機アルミニウム化合物からなり、即ち、メタロセン系重合触媒である。
また、(II)(1)チタン、マグネシウム、ハロゲン及び電子供与性化合物(内部ドナー)を必須成分として含有してなる、α−オレフィンの立体規則性重合用固体触媒成分、(2)有機アルミニウム化合物、(3)電子供与性化合物(外部ドナー)より構成される重合用触媒、即ち、チーグラー系重合触媒でも可能である。
本発明で用いることができるオレフィン重合用触媒は、前述のメタロセン系重合触媒又はチーグラー系重合触媒が好ましく、メタロセン系重合触媒がより好ましいが、これらに限られるものではない。
【0038】
(I)メタロセン系重合触媒
本発明のプロピレン系重合体を製造するために必要とされる触媒は、メタロセン系遷移金属化合物を含む担持触媒であれば、特に限定されないが、その中でも、好適に使用されるメタロセン系遷移金属化合物を含む担持触媒系としては、(a)共役五員環配位子を有する周期律表第4族遷移金属化合物からなるメタロセン錯体と、それを担持する(b)担体、それを活性化させる(c)助触媒、並びに必要に応じて使用される(d)有機アルミニウム化合物から構成されるものを挙げることができる。
以下、(a)〜(d)の説明をする。なお、本明細書の記載においては、元素の周期律表として長周期型のものを使用している。
【0039】
(1)メタロセン系遷移金属化合物(a)
本発明において用いられるメタロセン系遷移金属化合物としては、代表的なものとして共役五員環配位子を有する周期律表第4〜6族遷移金属化合物のメタロセン錯体が挙げられ、これらのうち、下記一般式のいずれかで表されるものが好ましい。
【0040】
【化1】
(式中、A及びA’は置換基を有していてもよいシクロペンタジエニル基、Qは二つの共役五員環配位子間を任意の位置で架橋する結合性基、Mは周期律表第4族の遷移金属原子、X及びYは補助配位子である)
【0041】
上記一般式中、シクロペンタジエニル基が置換基を有する場合、その置換基の例としては、炭素数1〜30の炭化水素基(ハロゲン、珪素、酸素、硫黄などのヘテロ原子を含有していてもよい)が挙げられ、この炭化水素基は一価の基としてシクロペンタジエニル基と結合していても、また、これが複数存在するときにその内の2個がそれぞれ他端(ω−端)で結合してシクロペンタジエニルの一部と共に環を形成していてもよい。この置換基の他の例としては、インデニル基、フルオレニル基、又はアズレニル基などが挙げられ、これらの基は、更に副環上に置換基を有していてもよく、中でもインデニル基又はアズレニル基が好ましい。
Qとして好ましくはアルキレン基、シリレン基、シラフルオレン基、ゲルミレン基が挙げられる。
Mとして好ましくはチタン、ジルコニウム、ハフニウムであり、特に、ジルコニウム、ハフニウムが好ましい。
X及びYの補助配位子は、成分(c)と反応してオレフィン重合能を有する活性なメタロセンを生成させるものであり、したがって、この目的が達成される限りX、Yは配位子の種類が制限されるものではなく、各々水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、或いはヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基が例示できる。これらのうち好ましいものは、炭素数1〜10の炭化水素基、或いはハロゲン原子である。
【0042】
(2)担体(b)
本発明で用いられる触媒担体としては、公知のものが使用できるが、好ましい担体としては、シリカ、チタニア、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、イオン交換性層状珪酸塩などの無機化合物担体やポリプロピレンパウダー、ポリエチレンパウダーなどのポリマー担体を挙げることができる。
その中でも、ポリマーの粒子の形状を整え、かつ大粒径化するために、使用する触媒としては、粒形及び粒径の制御された担持型触媒を用いることが特に好ましい。このような粒形及び粒径の制御された担持型触媒の製造法としては、例えば、無機化合物担体を用いた場合、以下のような例を挙げることができる。
【0043】
原料の無機化合物担体の粒子径は、通常、平均粒径が0.01〜5μmで、かつ、1μm未満の粒子分率を10%以上、好ましくは、平均粒子径が0.1〜3μmで、1μm未満の粒子分率を40%以上とするのがよい。このような粒径の無機化合物担体粒子を得る方法としては、乾式の微粒子化方法、例えば、ジェットミル、ボールミル、振動ミルなどによる微粒子化、或いは、湿式状態下での粉砕方法、ポリトロンなどを使用した強制撹拌による粉砕やダイノーミル、パールミルなどによる方法がある。
【0044】
また、担体を好ましい粒径に造粒して用いても良く、その造粒法としては、例えば、撹拌造粒法、噴霧造粒法、転動造粒法、ブリケッティング、流動層造粒法、液中造粒法が挙げられる。好ましい造粒法は、撹拌造粒法、噴霧造粒法、転動造粒法又は流動造粒法であり、更に好ましくは噴霧造粒法である。
粒子強度については、本造粒工程においてもその制御が可能である。好ましい範囲の圧壊強度を得るためには、前述したような粒径分布の無機化合物担体を使用することが好ましい。
更に、多段階に分けて造粒する場合の造粒方法を組み合わせても良く、その組合せに制限はないが、好ましくは、噴霧造粒法と噴霧造粒法、噴霧造粒法と転動造粒法、噴霧造粒法と流動造粒法との組合せが挙げられる。
【0045】
上記のような造粒法で得られる造粒粒子の形状は、球状が好ましく、具体的には、M/L(ここで、Lは投影図の粒子の最大径の値を、MはLと直交する径の値を、それぞれ示す。)の値が0.8以上1.0以下である粒子について、その数が、全粒子の50%以上100%以下、好ましくは全粒子の85%以上100%以下であるものが挙げられる。
なお、M/Lは任意の粒子の100個以上を光学顕微鏡で観察し、それを画像処理して求めたものである。
【0046】
球形の無機化合物担体粒子が得られる噴霧造粒における原料スラリー液の珪酸塩の濃度は、スラリー粘度にもよるが、通常0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜30質量%、より好ましくは5.0〜20質量%である。球状粒子が得られる噴霧造粒の熱風の入り口の温度は、分散媒により異なるが、水を例にとると、通常80〜260℃、好ましくは100〜220℃の範囲で選ばれる。
分散媒は任意のものを使用することができる。分散媒としては、水や、有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、クロロホルム、塩化メチレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレンなどを単独で用いてもよいし、また、2種以上併用してもよいが、水が好ましい。
【0047】
このようにして得られた無機化合物担体粒子は、そのまま触媒担体として用いてもよく、その場合、粒径は好ましくは1〜200μm、より好ましくは10〜150μmの範囲で選ばれる。
また、形状が整った粒子を所望の粒径で得るためには、原料の粒子径を少なくとも2段階の造粒工程で調製してもよい。例えば、第1段目の造粒工程で、ある程度造粒可能な粒子径に造粒して、それを用いて再度造粒処理することで、粒形と粒径を制御することができる。
このような段階的な造粒法として、具体的には、先ず、第1段目の造粒工程で平均粒径が0.01〜5μmの原料の無機化合物担体微粒子を造粒して一次造粒粒子を製造する。一次造粒粒子の粒径は、好ましくは1〜25μm、より好ましくは1〜15μmである。
次いで、このようにして造粒された一次造粒粒子を更にスラリー化して造粒させる。その際、スラリー粘度は比較的低くなっているので、スラリー濃度を上げることができ、適当な噴霧造粒条件を採択することによって、重合触媒成分に適した粒径及び粒形のものとすることができる。この最終的な粒径は、原料の無機化合物担体の種類によるが、通常25〜200μm、好ましくは25〜150μmとするのがよい。
【0048】
造粒条件は、造粒方法により適宜良好な性状の粒子が得られるよう選択することができる。例えば、噴霧造粒方法においては、噴霧時の熱風の入り口温度は90℃〜300℃程度の広い温度範囲で設定できる。また、出口温度はノズルやディスクからの噴霧流量や熱風流量などによって規定され、80℃〜150℃となる。噴霧形式はディスクタイプや加圧ノズル式、2流体ノズル式などの一般的な噴霧乾燥方法が適用できる。粒径の制御は噴霧液の流量、ディスクの回転数又はディスクサイズ、加圧ノズルの圧力、キャリアーガスの流量などを設定することで可能である。
【0049】
一次造粒粒子を再度造粒して2次粒子を製造すると、2次造粒粒子の方が大きいサイズとなる。原料粒子に対する1次粒子の粒径アップ率は、3〜500%が好ましく、5〜300%が更に好ましい。また、1次粒子に対する2次粒子の粒径アップ率は3〜200%が好ましく、3〜100%が更に好ましい。そのため1次造粒条件と2次造粒条件は異なる条件をとった方が良好な粉体性状の粒子を得ることができる。
例えば、1次造粒より2次造粒の方をディスクの回転数を下げるのが好ましい粒子を得ることができる。2次造粒のディスク回転数は、1次造粒のディスク回転数より1,000〜30,000rpm低い方が好ましく、5,000〜20,000rpm低い方が更に好ましい。また乾燥温度は、1次造粒より2次造粒の方を低くするのが好ましい。2次造粒の熱風入り口温度は、1次造粒の熱風入り口温度より10〜80℃低いほうが好ましく、20〜50℃低い方が更に好ましい。
具体的には、ディスクサイズによるが、一次造粒においては、熱風入り口温度は130〜250℃が好ましく、150〜200℃が更に好ましい。ディスク回転数は10,000〜30,000rpmの条件が好ましい。2次造粒においては、熱風入り口温度は90℃〜180℃が好ましく、100〜150℃が更に好ましい。
【0050】
造粒の際に、有機物、無機溶媒、無機塩、各種バインダーを用いてもよい。用いられるバインダーとしては、例えば砂糖、デキストローズ、コーンシロップ、ゼラチン、グルー、カルボキシメチルセルロース類、ポリビニルアルコール、水ガラス、塩化マグネシウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸マグネシウム、アルコール類、グリコール、澱粉、カゼイン、ラテックス、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、タール、ピッチ、アルミナゾル、シリカゲル、アラビアゴム、アルギン酸ソーダなどが挙げられる。
【0051】
このようにして、造粒された無機化合物担体上に、メタロセン錯体を担持することによって、粒形及び粒径の整備された担持型触媒を製造することができる。
【0052】
(3)助触媒(活性化剤成分)(c)
助触媒は、メタロセン錯体を活性化する成分で、メタロセン錯体の補助配位子と反応して当該錯体を、オレフィン重合能を有する活性種に変換させうる化合物であり、具体的には(c−1)アルミニウムオキシ化合物、(c−2)成分(a)と反応して成分(a)をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物又はルイス酸、(c−3)固体酸、(c−4)イオン交換性層状珪酸塩が挙げられる。以下、(c−1)〜(c−4)の説明をする。
【0053】
(c−1):アルミニウムオキシ化合物
アルミニウムオキシ化合物がメタロセン錯体を活性化しうることは周知であり、該化合物としては、具体的にはアルミノキサンや、一種類のトリアルキルアルミニウム又は二種類以上のトリアルキルアルミニウムとアルキルボロン酸との10:1〜1:1(モル比)の反応により得ることができる化合物である。
アルミノキサンを使用する場合、メチルアルミノキサン又はメチルイソブチルアルミノキサンが好ましい。上記のアルミノキサンは、各群内及び各群間で複数種併用することも可能である。そして、上記のアルミノキサンは、公知の様々な条件下に調製することができる。
【0054】
(c−2):成分(a)と反応して成分(a)をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物又はルイス酸
(c−2)の化合物は、成分(a)と反応して成分(a)をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物又はルイス酸であり、このようなイオン性化合物としては、カルボニウムカチオン、アンモニウムカチオンなどの陽イオンと、トリフェニルホウ素、トリス(3,5−ジフルオロフェニル)ホウ素、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素などの有機ホウ素化合物との錯化物が挙げられる。
また、上記のようなルイス酸としては、種々の有機ホウ素化合物、例えばトリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素などが例示される。或いは、塩化アルミニウム、塩化マグネシウムなどの金属ハロゲン化合物が例示される。
なお、上記のルイス酸のある種のものは、成分(a)と反応して成分(a)をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物として把握することもできる。上述した非配位性のホウ素化合物を用いたメタロセン触媒は、特開平3−234709号公報、特開平5−247128号公報に例示されている。
【0055】
(c−3)固体酸
固体酸としては、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシアなどが挙げられる。
【0056】
(c−4)イオン交換性層状化合物
イオン交換性層状化合物は、粘土鉱物の大部分を占めるものであり、好ましくはイオン交換性層状珪酸塩である。
イオン交換性層状珪酸塩は、イオン結合などによって構成される面が互いに結合力で平行に積み重なった結晶構造を有し、且つ、含有されるイオンが交換可能である珪酸塩化合物をいう。大部分の珪酸塩は、天然には主に粘土鉱物の主成分として産出されるため、イオン交換性層状珪酸塩以外の夾雑物(石英、クリストバライトなど)が含まれることが多いが、それらを含んでいてもよい。珪酸塩は各種公知のものが使用できる。具体的には、白水春雄著「粘土鉱物学」朝倉書店(1995年)に記載されている次のような層状珪酸塩が挙げられる。
【0057】
(i)2:1型鉱物類
モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイトなどのスメクタイト族;バーミキュライトなどのバーミキュライト族;雲母、イライト、セリサイト、海緑石などの雲母族;パイロフィライト、タルクなどのパイロフィライト−タルク族;Mg緑泥石などの緑泥石族である。
(ii)2:1リボン型鉱物類
セピオライト、パリゴルスカイトなどである。
【0058】
本発明で原料として使用する珪酸塩は、上記の混合層を形成した層状珪酸塩であってもよい。本発明においては、主成分の珪酸塩が2:1型構造を有する珪酸塩であることが好ましく、スメクタイト族であることが更に好ましく、モンモリロナイトが特に好ましい。本発明で使用する珪酸塩は、天然品又は工業原料として入手したものは、特に処理を行うことなくそのまま用いることができるが、化学処理を施すことが好ましい。具体的には、酸処理、アルカリ処理、塩類処理、有機物処理が挙げられる。これらの処理を互いに組み合わせて用いてもよい。本発明において、これらの処理条件には特に制限はなく、公知の条件が使用できる。
また、これらイオン交換性層状珪酸塩には、通常吸着水及び層間水が含まれるため、不活性ガス流通下で加熱脱水処理するなどして、水分を除去してから使用するのが好ましい。
担体(b)と助触媒(c)の両方の機能を併せ持つもの、具体的には上記(c−4)のイオン交換性層状化合物などは、担体兼助触媒として使用することができる。
【0059】
(4)有機アルミニウム化合物(d)
メタロセン触媒系に、必要に応じて使用される有機アルミニウム化合物としては、本発明においては、ハロゲンを含有しないものが使用され、具体的には一般式 AlR3−iXi (式中、Rは炭素数1〜20の炭化水素基、Xは水素、アルコキシ基、iは0≦i≦3の数を示す。但し、Xが水素の場合は、iは0<i<3とする。)で示される化合物が使用される。
【0060】
具体的な化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム又はジエチルアルミニウムメトキシド、ジイソブチルアルミニウムメトキシド、ジイソブチルアルミニウムエトキシドなどのアルコキシ含有アルキルアルミニウム又はジエチルアルミニウムハイドライドなどのハイドライド含有アルキルアルミニウムである。
これらのうち特にトリアルキルアルミニウムが好ましい。より好ましくは、トリイソブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウムである。
【0061】
(II)チーグラー系重合触媒
(1)チタン、マグネシウム、ハロゲン及び電子供与性化合物
チタン、マグネシウム及びハロゲンを含む固体成分そのものは公知のものである。例えば、特開昭53−45688号、同54−3894号、同54−131589号、同55−75411号、同55−155003号、同56−18609号、同56−1552
06号、同57−3803号、同57−121003号、同58−5309号、同58−183709号、同63−108008号、同63−264608号、特開平1−79
203号、同1−98603号、同7−258328、同8−269125、同11−21309各公報などに記載のものが使用される。
【0062】
本発明において使用されるマグネシウム源となるマグネシウム化合物としては、金属マグネシウム、マグネシウムジハライド、ジアルコキシマグネシウム、アルコキシマグネシウムハライド、マグネシウムオキシハライド、ジアルキルマグネシウム、アルキルマグネシウムハライド、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムのカルボン酸塩などが挙げられる。これらの中でもマグネシウムジハライド、ジアルコキシマグネシウムなどのMg(OR)2−m Xm(ここで、Rは炭化水素基、好ましくは炭素数1〜10程度のものであり、Xはハロゲンを示し、mは0≦m≦2である。)で表されるマグネシウム化合物が好ましい。
【0063】
チタン源となるチタン化合物としては、一般式Ti(OR )4−n Xn (ここで、R は炭化水素基、好ましくは炭素数1〜10程度のものであり、Xはハロゲンを示し、nは0≦n≦4である。)で表される化合物が挙げられる。
具体例としては、TiCl4 、TiBr4 、TiI4 、Ti(OC2 H5 )Cl3 、Ti(OC2 H5 )2 Cl2 、Ti(OC2 H5 )3 Cl、Ti(O−i−C3 H7 )Cl3 、Ti(O−n−C4 H9 )Cl3 、Ti(O−n−C4 H9 )2 Cl2 、Ti(OC2 H5 )Br3 、Ti(OC2 H5 )(O−n−C4 H9 )2 Cl、Ti(O−n−C4 H9 )3 Cl、Ti(OC6 H5 )Cl3 、Ti(O−i−C4 H9 )2 Cl2 、Ti(OC5 H11 )Cl3 、Ti(OC6 H13 )Cl3 、Ti(OC2 H5 )4 、Ti(O−n−C3 H7 )4 、Ti(O−n−C4H9 )4 、Ti(O−i−C4H9 )4 、Ti(O−n−C6H13)4 、Ti(O−n−C8 H17 )4 、Ti(OCH2 CH(C2 H5 )C4 H9 )4 などが挙げられる。
【0064】
また、TiX´4(ここで、X´はハロゲンである。)に後述する電子供与体を反応させたチタン化合物をチタン源として用いることもできる。
そのような化合物の具体例としては、TiCl4 ・CH3 COC2 H5 、TiCl4 ・CH3 CO2 C2 H5 、TiCl4 ・C6 H5 NO2 、TiCl4 ・CH3 COCl、TiCl4 ・C6 H5 COCl、TiCl4 ・C6 H5CO2 C2 H5 、TiCl4 ・ClCOC2 H5 、TiCl4 ・C4 H4 Oなどが挙げられる。
また、TiCl3 (TiCl4 を水素で還元したもの、アルミニウム金属で還元したもの、或は有機金属化合物で還元したものなどを含む)、TiBr3 、Ti(OC2 H5 )Cl2 、TiCl2 、ジシクロペンタジエニルチタニウムジクロライド、シクロペンタジエニルチタニウムトリクロライドなどのチタン化合物の使用も可能である。
これらのチタン化合物の中でもTiCl4 、Ti(OC4 H9 )4 、Ti(OC2 H5 )Cl3 などが好ましい。
【0065】
ハロゲンは、上述のマグネシウムのハロゲン化合物及び/又はチタンのハロゲン化合物から添加されるのが普通であるが、他のハロゲン源、例えばAlCl3 、AlBr3 、AlI3 などのアルミニウムのハロゲン化物、BCl3 、BBr3 、BI3 などのホウ素のハロゲン化物、SiCl4 などのケイ素のハロゲン化物、PCl3 、PCl5 などのリンのハロゲン化物、WCl6 などのタングステンのハロゲン化物、MoCl5 などのモリブデンのハロゲン化物といった公知のハロゲン化剤から添加することもできる。固体触媒成分中に含まれるハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素又はこれらの混合物であってもよく、特に塩素が好ましい。
【0066】
電子供与性化合物(内部ドナー)としては、アルコール類、フェノール類、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類、有機酸又は無機酸類のエステル類、エーテル類、酸アミド類、酸無水物類のような含酸素電子供与体、アンモニア、アミン、ニトリル、イソシアネートのような含窒素電子供与体、スルホン酸エステルのような含硫黄電子供与体などを例示することができる。
【0067】
(2)有機アルミニウム化合物
任意成分として用いられる有機アルミニウム化合物としては、特開2004−1240
90号公報に開示された化合物などを用いることができる。
具体例としては、R13-s AlXs 又はR23-t Al(OR3 )t (ここで、R1 及びR2 は炭素数1〜20の炭化水素基又は水素原子であり、R3は炭化水素基であり、Xはハロゲンであり、s及びtはそれぞれ0≦s<3、0<t<3である。)で表されるものがある。
【0068】
具体的には、(イ)トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ−n−ヘキシルアルミニウム、トリ−n−オクチルアルミニウム、トリ−n−デシルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、(ロ)ジエチルアルミニウムモノクロライド、ジイソブチルアルミニウムモノクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライド、エチルアルミニウムジクロライドなどのアルキルアルミニウムハライド、(ハ)ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどのアルキルアルミニウムハイドライド、(ニ)ジエチルアルミニウムエトキシド、ジエチルアルミニウムフェノキシドなどのアルキルアルミニウムアルコキシドなどが挙げられる。
有機アルミニウム化合物は単独の化合物を用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
【0069】
(3)電子供与性化合物(外部ドナー)
触媒成分として上記の成分に加えて、必要に応じて電子供与性化合物(外部ドナー)を用いることもできる。
このような電子供与性化合物としては、触媒成分中の必須成分として用いる内部ドナーとして例示した化合物が挙げられる。このような電子供与性化合物を用いる場合に、内部ドナーの化合物と同一であっても、異なっていてもよい。
【0070】
好ましい電子供与性化合物としては、エーテル類、無機酸エステル、有機酸エステル及び有機酸ハライド、有機ケイ素化合物であり、特に好ましいのは無機及び有機ケイ酸エステル、フタル酸エステル、酢酸セロソルブエステル、フタル酸ハライドである。
【0071】
2.予備重合
本発明においては、メタロセン系重合触媒及びチーグラー系重合触媒のいずれの触媒の使用に関わらず、本重合で使用する前に予備重合処理して用いることが好ましい。予備重合処理された触媒を用いることによって、微粉末のプロピレン系重合体の発生を抑制することができ、またプロピレン系重合体の粉体特性を向上させることができる。
予備重合した後の触媒は、ポリマーの殻に覆われているが、本重合に用いられる触媒の平均粒径(ポリマーの殻を含めた大きさ)は、好ましくは30μm以上、更に好ましくは40μm以上であり、また、好ましくは300μm以下、更に好ましくは200μm以下である。
【0072】
ポリオレフィン重合触媒成分の予備重合処理は、前記した有機アルミニウム化合物と同様の有機アルミニウム化合物の存在下で実施できる。
予備重合時の温度は10〜80℃で、予備重合時間として10分〜48時間かけて、ポリオレフィン重合触媒成分1グラム当たり0.1〜100グラム、好ましくは0.5〜50グラムのα−オレフィンを不活性溶媒中で反応させる。
【0073】
チーグラー系重合触媒の予備重合処理においては、前記した電子供与体と同様の電子供与体を用いることもできる。電子供与体が有機ケイ素化合物の場合、有機アルミニウム化合物1モルに対して0.01〜10モルの範囲で用いてもよい。
【0074】
予備重合処理に用いられるα−オレフィンは、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテンなどであり、好ましくはエチレン、プロピレンが使用される。また、これらは単独のみならず、他のα−オレフィンとの2種以上の混合物であってもよい。その重合に際して生成するポリマーの分子量を調節するために水素などの分子調節剤を併用することもできる。
【0075】
予備重合処理に用いられる不活性溶剤は、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン及び流動パラフィンなどの液状飽和炭化水素やジメチルポリシロキサンの構造を持ったシリコンオイルなどの、重合反応に著しく影響を及ぼさない不活性溶剤である。これらの不活性溶剤は1種の単独溶剤又は2種以上の混合溶剤のいずれでもよい。
これらの不活性溶剤の使用に際しては、重合に悪影響を及ぼす水分やイオウ化合物などの不純物を取り除いた後で使用することが好ましい。
【0076】
予備重合処理は複数回行ってもよく、この際に用いるモノマーは同一であっても異なっていてもよい。また、予備重合後にヘキサン、ヘプタンなどの不活性溶媒で洗浄を行うこともできる。予備重合を終了した後に、触媒の使用形態に応じ、そのまま使用することが可能であるが、必要ならば乾燥を行ってもよい。更に、上記各成分の接触の際、若しくは接触の後に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの重合体やシリカ、チタニアなどの無機酸化物固体を共存させることも可能である。
【0077】
3.重合様式と重合反応器
本発明においては、プロピレン又はプロピレンと他のα−オレフィンとを重合させてなるプロピレン系重合体の製造は、水平軸回りに回転する撹拌機を内部に備えた横型重合反応器を用いて、連続気相重合法によって実施する。
本発明において、気相重合法とは液が全く存在しないことを意味しない。重合を行う相が実質的に気相であればよく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で液が存在してもよい。この液としては、除熱のための液化プロピレンでだけではなく、ヘキサンなどの不活性炭化水素成分を例示することができる。
【0078】
本発明による反応器は、使用する原料、反応条件、反応形態、生成物などにより、その反応に適する限りにおいて、大きさ、材質などに限定されず、既存のものから任意に選択し使用することが可能である。形状は円筒状の部分を有する横型重合反応器である。液化プロピレンの気化熱(蒸発潜熱)を用いて除熱を行うため、反応器には、反応器からプロピレンを含むガスを抜き出し、そのガスを冷却して少なくとも一部を液化させ、液化した成分の少なくとも一部を反応器に供給するリサイクル装置を備えたものである。
【0079】
一般に、水平軸回りに回転する撹拌機を内部に有する横型重合反応器を用いた気相法プロセスで重合を行う場合は、反応器内の局部発熱などの影響による異常反応により、塊状ポリマー量が増大し、塊状ポリマーと撹拌機との物理接触により、微粉量が増大する傾向にある。
本発明のプロピレン系重合体の製造方法においては、反応器(リアクター)の触媒供給部分の温度と反応器内の混合ガスの露点との温度差を適正に制御し、更に好ましくは、反応器の領域間に温度差をつけ反応を適正に制御することにより、塊状ポリマーの発生、ひいては微粉の発生を抑制することができ、運転の安定性及び生産性などを向上できるという特徴を有している。
【0080】
反応器の並び方については、本発明の要旨を阻害しない限り任意の方法を用いることができる。反応器は一つでも複数でもよく、複数の場合は、直列に繋いでも良いし、並列に繋いでも良い。
特に好ましい例としては、2〜4槽の反応器を直列に繋いだ反応装置を例示することができる。特にプロピレンとその他のα−オレフィンとのブロック共重合体を製造する場合には、少なくとも直列に繋がった2槽の反応器を含む並び方にする方が好ましい。2槽以上の反応器の配置方法としては、特に制限はないが、水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型重合反応器が複数槽の場合には、上流の反応器の攪拌機の回転軸は、下流の反応器の攪拌機の回転軸と同じ又はより高い高さに配置、好ましくは、下流の反応器の攪拌機の回転軸より高い、ある一定の高さで配置するのが好ましい。
【0081】
槽数を増やすことなく滞留時間分布を狭くする方法としては、反応器の内部にパウダーの移動を制限する堰を設けることにより可能である。堰の形態としては、反応器に固定された固定堰を用いてもよいし、回転軸に固定された回転堰を用いてもよい。滞留時間は生産量に応じて任意に変えることもできる。
【0082】
触媒供給はいずれの位置よりも供給可能であるが、反応器上流部の上部より供給することが好ましい。触媒供給部は反応器の上流末端から下流方向へ、該反応器の長さの0〜15%、好ましくは2.5〜10%の領域に設置することが好ましい。2.5%以上であると、触媒が反応器の内壁に付着し難く、凝集体や塊状ポリマーの発生が抑制でき、運転安定性を高めることができる。10%以下であると、触媒の反応器内での滞留時間が短過ぎることがなく、活性の低下を抑えることができ、経済的に有利である。
【0083】
本発明の重合用触媒やその他の任意成分は、公知の方法を用いて反応器に供給することができる。重合用触媒についてはそのまま粉末状で反応器に供給してもよいが、ヘキサンやミネラルオイルなどの不活性溶媒を用いて希釈した上で供給してもよい。
また、有機アルミニウム化合物は、メタロセン系重合触媒やチーグラー系重合触媒と接触させた後に触媒中の成分として供給してもよく、これらの重合用触媒とは別に供給してもよい。
【0084】
4.気化熱による除熱
液化プロピレンの気化熱を用いて除熱を行う方法としては、任意の方法を用いることができる。
液化プロピレンの気化熱を用いて除熱を行うためには、実質的に液の状態にあるプロピレンを反応器に供給すればよい。フレッシュな液化プロピレンを反応器に供給することもできるが、一般的にはリサイクルプロピレンを用いることが望ましい。リサイクルプロピレンを用いる一般的な手順は以下に例示される。
【0085】
反応器からプロピレンを含むガスを抜き出し、そのガスを冷却して少なくとも一部を液化させ、液化した成分の少なくとも一部を反応器に供給する。この際、液化する成分はプロピレンを含む必要があるが、ブテンに代表されるコモノマー成分やイソブタンに代表される不活性炭化水素成分を含んでいてもよい。
液化プロピレンの供給方法は、実質的に液の状態にあるプロピレンを反応器に供給するものである限り任意の方法を用いることができる。プロピレン系重合体粒子のベッドに供給してもよいし、気相部に供給してもよい。気相部に供給する場合には、反応器内部の気相部に供給してもよいし、リサイクルガスラインに供給してもよい。特に、反応器内部の気相部に供給することが好ましい。
【0086】
本発明において、主に液化プロピレンの気化熱を用いて除熱を行うということは、液化プロピレンの気化熱だけを用いて除熱を行うことを意味しない。本発明の要旨を逸脱しない限り、他の除熱方法を併用することができる。具体的には、反応器に備え付けたジャケットを用いて除熱する方法、反応器からのガスの一部を抜き出して熱交換器により冷却し再びガスを反応器に戻す方法、などを例示することができる。ただし、本発明においては、液化プロピレンの気化熱を用いた除熱が主体である必要がある。具体的には、少なくとも一つの反応器において、除熱量の少なくとも半分を液化プロピレンの気化熱を用いて除熱する必要がある。
【0087】
III.重合反応器の構造と温度制御
定常運転状態では、横型重合反応器内は全体にポリマー床を形成し、重合反応は全ての領域において行われる。反応器の工業的に有用な長さ対直径比は2.0以上であるため、各領域に分け、温度制御を行うことが運転安定性の面から重要である。図2に例示されるように、反応器は一般的に上方部分に沿って間隔をおいて配置された液化プロピレン供給配管、底部に沿って間隔をおいて配置された混合ガス供給配管、及び示差温度計が設置されており、温度制御は主に上部配管の液化プロピレンの流量により個別に制御される。補助的に混合ガスの導入及び流量も制御因子として使用することも可能である。
【0088】
ここで横型重合反応器の一例について図1を用いて詳細に述べると、横型重合反応器10は細長く、上流末端12と下流末端14を持ち、図1に示すように、一般的には水平位置で設置されている。
本発明における横型重合槽の上流末端領域とは、上流末端を含む領域を、下流末端領域とは、下流末端を含み重合体抜き出し配管を備える領域を示すものである。温度は、反応器内に設置した示差温度計による指示値である。
軸20は重合槽10の下流末端14の中へ延び、撹拌の為の翼が重合槽10内で取り付けられている。撹拌翼はポリマー粒子を重合槽10内でその中へ導入される他物質と混合する。
【0089】
重合槽10の上流部配管1,2(必要に応じて1本の使用でも可能)より導入された触媒成分は、撹拌翼にてポリマー粒子と混合されながら、重合を開始する。配管1,2は、本発明の主旨に逸脱しない限り、任意の位置に設置することができる。重合の際に発生する重合熱は、頂部配管19から供給される原料液化プロピレンの気化熱により除去される。
未反応のプロピレンガスは配管13にて反応系外へ排出され、凝縮器15にてその一部分が凝縮され、気液分離槽11で液相と気相へ分離される。液相部は重合熱除去のため配管19へ再導入され、気相部は、分子量調節のための水素などと混合され、重合槽10底部に設置された配管18を経由して再供給される。ポリマー粒子は反応と混合をしながら重合槽内を上流部から下流部へ移動し、重合体抜き出し配管23にて反応系外へ排出される。
【0090】
本発明において、触媒供給部の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1(℃)(=Tx−Tz)が0℃以上5℃以下、好ましくは1℃以上3℃以下となるように重合反応を行う。
温度差ΔT1がこの範囲にあると、重合温度と露点とが近づき過ぎて、プロピレンガスが反応器内で凝縮して運転が不安定になったり、塊状ポリマーが発生し易くなったりすることを防止でき、また、露点に対して重合温度が高くなり過ぎて、触媒供給部のパウダー層の除熱に使用される液化プロピレンの量が少なくなり、触媒濃度が高く発熱量が大きな触媒供給部では、除熱不足から局部発熱により、生成ポリマーの融解などが発生し、塊状ポリマーが生成してしまうことを防止できる。また、急激な反応によりパウダーモルフォロジーが悪化し、撹拌及びガスの流動化による粉砕が生じやすくなること、特に撹拌時にパウダーの粉砕による微粉発生が多くなることを防止できる。
【0091】
本発明においては、透明性や低温ヒートシール性に優れた融点の低いポリマー、具体的には105℃以上140℃以下の融点をもつプロピレン系重合体を製造する場合に、特にその効果が顕著に現れる。このような低融点ポリマーは、融点が低く、融解し易いためである。このようなポリマーを製造する場合は、組成分布が狭いメタロセン系触媒が好んで使用される。
【0092】
なお、反応器内の混合ガスの露点(Tz)は、混合ガスのガスクロマトグラフィー分析値を用い、化学工学便覧改訂五版(丸善株式会社刊;第485頁)に記載の方法に従って、算出した。
【0093】
滞留時間、触媒供給部以外の反応圧力や温度の様な重合条件は、本発明の要旨を逸脱しない限り任意に設定することができる。
具体的には、重合圧力は好ましくは1,200kPa以上、更に好ましくは1,400kPa以上、特に好ましくは1,600kPa以上であり、好ましくは4,200kPa以下、更に好ましくは3,500kPa以下、特に好ましくは3,000kPa以下である。但し、重合圧力は重合温度におけるプロピレンの蒸気圧より高く設定するべきではない。一般に横型重合反応器は、ガス相は循環しているため、同一反応器内における重合圧力は一定に保持される。また、反応器に設置した堰形状により物理的に分割することも可能であり、同一器内で異なる圧力操作も可能である。
【0094】
滞留時間は反応器の構成や製品インデックスに合わせて任意に調整することができる。一般的には、30分から5時間の範囲内で設定される。
重合温度は、好ましくは0℃以上、更に好ましくは30℃以上、特に好ましくは40℃以上であり、好ましくは100℃以下、更に好ましくは90℃以下、特に好ましくは80℃以下である。
【0095】
更に、反応器の上流末端を含む領域の温度(Tα)と下流末端を含む領域の温度(Tω)が異なり、温度差ΔT2(℃)(=Tω−Tα)が2〜15℃であることを特徴とする。
また、単一重合器内では同一反応条件とすることが一般的だが、本発明では反応器を上流から下流方向にi個(iは2以上の任意の整数)の領域区分に分けたときに、本発明による横型重合反応器の上流末端領域から下流末端領域のn番目(nは1以上(i−1)以下の整数)の領域区分(n)とその隣接する下流部の領域区分(n+1)の各反応温度TnとTn+1がTn≦Tn+1である製造方法により、それぞれのメタロセン系重合触媒やチーグラー系重合触媒を用いた、重合特性に応じた重合温度制御を行うことが可能となり、局部発熱などによる除熱不良による塊状ポリマーの抑制などに有効である。
【0096】
本発明において領域区分は堰を用いた物理的な領域区分を示すのではなく、温度制御実施領域区分を示すものである。反応器内の重合温度は、反応器内に設置した示差温度計により、複数の領域区分(n)の反応器温度Tnを個別に異なる温度で制御することが可能である。
設置する示差温度計は反応器容積や反応形態などに応じて任意であるが、少なくとも反応器内の上流部、中流部、下流部を制御することが好ましく(i=3に相当する)、反応器最上流末端から下流方向へ、反応器の長さの0〜30%、30〜70%、70〜100
%までの間に示差温度計は少なくとも1本ずつ、3本以上を設置する、即ち、領域区分の数iは3以上であることが好ましい。
【0097】
本発明における上流末端を含む領域の温度(Tα)、下流末端を含む領域の温度(Tω)とはそれぞれ反応器の最上流、最下流末端領域に設置した示差温度計指示値を示すものである。
反応器上流末端を含む領域の反応温度(Tα)と下流末端を含む領域の温度(Tω)の温度差ΔT2(℃)(=Tω−Tα)が2℃以上15℃以下、好ましくは5℃以上15℃以下となるように重合反応を行う。2℃未満であると重合初期の反応抑制効果が低く、塊状ポリマーの抑制とパウダーモロフォロジー悪化による微細粒抑制効果が低くなり、運転制御が安定しない。また反応器下流部での温度上昇に伴う生産性向上の効果が充分に得られない。15℃を超えると単一器内における温度変化が大きくなってしまい、重合体の組成変化を引き起こす惧れがある。
反応器内において、触媒供給部が含まれる領域区分と上流末端領域区分が同一である必要はない。即ち、触媒供給部の温度(Tx)と反応器の領域区分における領域区分温度(T1=Tα)とが同一である必要はないことを示すものである。
【0098】
ここで横型重合反応器における温度制御の一例について図2を用いて詳細に述べる。横型重合反応器1は、上流末端2と下流末端3を持ち、領域を3区分で分割したものである。触媒成分は反応器の上流部配管4より供給される。
重合の際に、発生する反応熱は、頂部配管7から供給される原料液化プロピレンの気化熱により除去される。各領域区分における重合温度は、上部に特定の間隔を持って配置された原料液化プロピレンの供給配管からの流量、下部に特定の間隔を持って配置された原料混合ガス供給配管9からの、温度制御された混合ガス流量の組み合わせによって個別に制御されうる。各流量は操作弁8,10によって制御される。
【0099】
反応器上流末端から下流末端への温度設定方法は、本発明の要旨を逸脱しない限り任意に設定することができる。
図3,4には一例として領域区分i=10における温度設定方法が記載されている。図3では8領域にて、図4では3領域にて温度制御がなされている。
いずれの場合においても、重合初期の重合温度が相対的に低いことによる反応抑制効果と、重合中期から重合後期にかけての重合温度が相対的に高くなることによる生産性向上効果によって、塊状ポリマーの生成の抑制とパウダーモロフォロジー悪化による微粉生成の抑制効果、及び生産の効率化に有効である。図5に示す、一旦温度を低下し、途中の領域区分で温度を上げるような制御では、塊状ポリマーの抑制とパウダーモロフォロジー悪化による微粉生成の抑制効果が低いばかりでなく、パウダーの生産性が低下し経済的にも不利である。
【0100】
横型重合反応器で重合を行う場合、重合反応によるプロピレン系重合体の生成と機械的な撹拌の2つの力により、プロピレン系重合体の粒子は徐々に成長しながら重合槽の軸方向に沿って進んでいくため、フローパターンはピストンフロー型となる。そのため、プロピレン系重合体は同一反応器内で触媒供給口からパウダー排出口まで異なる温度履歴を受けることが可能である。
本発明による手法を取り入れることで、反応初期の緩慢な活性化が容易であり、メタロセン系重合触媒とチーグラー系重合触媒に関わらず、触媒供給部における局部的な発熱による無秩序な重合反応の抑制、特にプロピレンとエチレンやα−オレフィンとのランダム共重合における、急速な重合速度を生じ易いために生じる塊状ポリマーの生成の抑制、モルフォロジーの悪化した破砕され易いポリマーの生成と微粉の発生の抑制に有効な手段となる。
反応器内での塊状ポリマーと微粉の発生の抑制により生産の連続性と運転の安定性をより高めることも可能となる。また、触媒活性も高く保持され、製造コストも抑えることができて経済的である。
【実施例】
【0101】
以下に本発明を実施例及び比較例によって、更に具体的に説明し、各実施例のデータ及び各実施例と各比較例の対照により、本発明の構成の合理性と有意性及び従来技術に対する卓越性を実証する。本発明における各物性値の測定方法を以下に示す。
なお、以下の触媒合成工程及び重合工程は、全て精製窒素雰囲気下で行った。また、溶媒は、モレキュラーシーブMS−4Aで脱水したものを用いた。
【0102】
1.物性値の測定方法及び装置
(1)MFR
ポリプロピレン系重合体はJIS−K−6758により測定したメルトインデックス値を示す。
(2)ポリマー中のエチレン含有量
段落0030〜0036に前記した方法に従って測定した。
(3)ポリマーの融点(Tm)
パーキン・エルマー社製のDSC7型示差走査熱量分析計を用いて試料を室温から80℃/分の条件で230℃まで昇温し、同温度にて10分間保持後、−10℃/分にて50℃まで降温し、同温度にて3分間保持した後、10℃/分の昇温条件下で融解した時のピーク温度をもって融点(Tm)とした。
(4)塊状ポリマー量
ポリマー生成物を4,750μmの篩にかけ、篩を通過しなかったパウダーの重量%とした。
【0103】
2.実施例及び比較例
(実施例1)
(1)予備重合触媒の製造
珪酸塩の化学処理:10Lの撹拌翼の付いたガラス製セパラブルフラスコに、蒸留水3.75L、続いて濃硫酸(96%)2.5kgをゆっくりと添加した。50℃で、更にモンモリロナイト(水澤化学社製ベンクレイSL;平均粒径=50μm)を1kg分散させ、90℃に昇温し、6.5時間その温度を維持した。50℃まで冷却後、このスラリーを減圧濾過し、ケーキを回収した。このケーキに蒸留水を7L加え再スラリー化後、濾過した。この洗浄操作を、洗浄液(濾液)のpHが、3.5を越えるまで実施した。回収したケーキを窒素雰囲気下110℃で終夜乾燥した。乾燥後の質量は710gであった。化学処理した珪酸塩をキルン乾燥機で乾燥した。
【0104】
触媒の調製:内容積3Lの撹拌翼のついたガラス製反応器に上記で得た乾燥珪酸塩100gを導入し、混合ヘプタン580ml、更にトリエチルアルミニウムのヘプタン溶液(0.60M)420mlを加え、室温で撹拌した。1時間後、混合ヘプタンにて洗浄し、珪酸塩スラリーを2.0Lに調製した。次に、調製した珪酸塩スラリーにトリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液(0.71M/L)4.8mlを添加し、25℃で1時間反応させた。並行して、〔(r)−ジクロロ[1,1´−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル}]ジルコニウム〕(合成は特開平10−226712号公報実施例に従って実施した)1,090mg(1.5mmol)と混合ヘプタン870mlに、トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液(0.71M)を16.5ml加えて、室温にて1時間反応させた混合物を、珪酸塩スラリーに加え、1時間撹拌した。
【0105】
予備重合:続いて、窒素で充分置換を行った内容積10Lの撹拌式オートクレーブに、ノルマルヘプタン2.1Lを導入し、40℃に保持した。そこに先に調製した珪酸塩/メタロセン錯体スラリーを導入した。温度が40℃に安定したところでプロピレンを100g/hrの速度で供給し、温度を維持した。2時間後プロピレンの供給を停止し、更に2時間維持した。予備重合終了後、残モノマーをパージし、撹拌を停止させ約10分間静置後、上澄み約3Lをデカントした。続いてトリイソブチルアルミニウム(0.71M/L)のノルマルヘプタン溶液4.7ml、更にノルマルヘプタンを2.8L添加し、40℃で30分間撹拌し、10分間静置した後に、上澄みを2.8L除いた。更にこの操作を3回繰り返した。続いて、トリイソブチルアルミニウム(0.71M/L)のノルマルヘプタン溶液8.5mlを添加した後に、45℃で減圧乾燥した。この操作により触媒1g当たりポリプロピレン2.1gを含む予備重合触媒が得られた。
更に得られた予備重合触媒にノルマルヘキサンを加え、予備重合ポリマーを含まない触媒成分として0.8g/Lの触媒スラリーを調製した。
【0106】
(2)重合
添付した図1に示したフローシートによって説明する。1台の横型重合反応器を用い、気相重合を行った。重合器10は、内径D:340mm、長さL:1,260mm、回転軸の径:90mm、内容積:110Lの撹拌機を備えた連続式横型気相重合器(長さ/直径=3.7)である。
重合器10内を窒素ガスで置換後、シーズパウダーを35kg導入し、窒素ガスを3時間流通させた。その後、プロピレン、エチレン及び水素を導入しながら昇温し、重合条件が整った時点で、上流末端から160mmの位置に設置した配管1より上記で得られた予備重合触媒を、固体成分として1.2g/hr、また、上流末端から150mmの位置に設置した配管2よりトリイソブチルアルミニウムの15重量%n−ヘキサン溶液を15mmol/hrで連続的に供給した。また、重合器10内の水素濃度、エチレン濃度のプロピレン濃度に対する比がそれぞれ0.00035、0.06、示差温度計を上流末端からそれぞれ200、600、1,000mmに設置し領域を3区分で制御し、各温度をそれぞれ上流より53,56,59℃、重合器10内の圧力が2.20MPa、を保つようにプロピレンを供給し、また、水素とエチレンモノマーは循環配管4より連続的に供給した。この時の反応器内の露点(Tz)は50℃、触媒供給部の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1は3℃であった。反応熱は、原料プロピレン供給配管19から供給する原料プロピレンの気化熱により除去した。重合器10から排出される未反応ガスは、未反応ガス抜き出し配管13を通して反応器系外に抜き出し、冷却・凝縮させて原料液化プロピレン供給配管19を通して重合器10に還流した。
【0107】
重合器10内で生成したプロピレン−エチレンランダム共重合体の保有レベルが反応容積の60容量%となる様に重合体抜き出し配管23を通して重合器10から連続的に抜き出した。抜き出したパウダーは、ガス回収機22でガス類を分離し、パウダー部は回収機21に抜き出した。
プロピレン−エチレンランダム共重合体の単位時間当たりの生産量は7.0kg/hr、触媒効率は18,100g−PP/g−Catであった。
得られたプロピレン−エチレンランダム共重合体のMFR、エチレン含量、Tmの測定結果を表3にまとめて示す。
上記の運転を72時間で実施し、運転の安定性には全く問題が無いことを確認した。運転中に、反応器10から抜き出されるポリマー中に含まれる塊量を、4,750ミクロンの篩で篩い分けることによって、4時間毎に測定をした結果、塊状物量はいずれの時間もゼロであった。また、反応終了後に反応器内に残留していたポリマー中の塊状物量もゼロであった。
【0108】
(比較例1)
実施例1において、予備重合触媒のフィード量を固体成分として1.5g/hr、反応器10内の重合温度を全て60℃とした以外は同様の方法でプロピレン−エチレンランダム共重合体を製造した。このとき、反応器内の露点(Tz)は50℃、触媒供給部の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1は10℃であった。触媒効率は、14,500g−PP/g−Catであった。得られたパウダーの分析結果を表3にまとめて示す。
また、反応器10から抜き出されるポリマー中に含まれる塊状物量を、4,750ミクロンの篩で篩い分けることによって、4時間毎に測定をした結果、塊状物量は平均して0.8重量%であった。また、反応終了後に反応器内に残留していたポリマー中の塊状物量は5.5重量%であった。
【0109】
(実施例2)
実施例1において、予備重合触媒のフィード量を固体成分として1.7g/hr、水素とプロピレンの濃度比を0.00023、反応器10内の重合温度を上流より51,55,59℃、とした以外は同様の方法でプロピレン−エチレンランダム共重合体を製造した。このとき、反応器内の露点(Tz)は50℃、触媒供給部の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1は1℃であった。触媒効率は、12,800g−PP/g−Catであった。得られたパウダーの分析結果を表3にまとめて示す。
また、反応器10から抜き出されるポリマー中に含まれる塊状物量を、4,750ミクロンの篩で篩い分けることによって、4時間毎に測定をした結果、塊状物量はいずれの時間もゼロであった。また、反応終了後に反応器内に残留していたポリマー中の塊状物量もゼロであった。
【0110】
(実施例3)
実施例2において、予備重合触媒のフィード量を固体成分として2.5g/hr、反応器10内の重合温度を全て53℃とした以外は同様の方法でプロピレン−エチレンランダム共重合体を製造した。このとき、反応器内の露点(Tz)は50℃、触媒供給部の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1は3℃であった。触媒効率は、8,700g−PP/g−Catであった。得られたパウダーの分析結果を表3にまとめて示す。
また、反応器10から抜き出されるポリマー中に含まれる塊状物量を、4,750ミクロンの篩で篩い分けることによって、4時間毎に測定をした結果、塊状物量はいずれの時間もゼロであった。また、反応終了後に反応器内に残留していたポリマー中の塊状物量もゼロであった。
【0111】
(実施例4)
実施例1において、予備重合触媒のフィード量を固体成分として1.1g/hr、水素とプロピレンの濃度比を0.00009、エチレンとプロピレンの濃度比を0.10、反応器10内の重合温度を上流より51,55,59℃、とした以外は同様の方法でプロピレン−エチレンランダム共重合体を製造した。このとき、反応器内の露点(Tz)は48℃、触媒供給部の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1は3℃であった。触媒効率は、19,700g−PP/g−Catであった。得られたパウダーの分析結果を表3にまとめて示す。
また、反応器10から抜き出されるポリマー中に含まれる塊状物量を、4,750ミクロンの篩で篩い分けることによって、4時間毎に測定をした結果、塊状物量はいずれの時間もゼロであった。また、反応終了後に反応器内に残留していたポリマー中の塊状物量もゼロであった。
【0112】
(比較例2)
実施例4において、予備重合触媒のフィード量を固体成分として1.4g/hr、反応器10内の重合温度を全て55℃とした以外は同様の方法でプロピレン−エチレンランダム共重合体を製造した。このとき、反応器内の露点(Tz)は48℃、触媒供給部の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1は7℃であった。触媒効率は、13,500g−PP/g−Catであった。得られたパウダーの分析結果を表3にまとめて示す。また、反応器10から抜き出されるポリマー中に含まれる塊状物量を、4,750ミクロンの篩で篩い分けることによって、4時間毎に測定をした結果、塊状物量は平均して1.1重量%であった。また、反応終了後に反応器内に残留していたポリマー中の塊状物量は7.8重量%であった。
【0113】
(実施例5)
実施例1において、予備重合触媒のフィード量を固体成分として0.6g/hr、水素とプロピレンの濃度比を0.0009、エチレンとプロピレンの濃度比を0.26、反応器10内の重合温度を上流より47,50,55℃、とした以外は同様の方法でプロピレン−エチレンランダム共重合体を製造した。このとき、反応器内の露点(Tz)は45℃、触媒供給部の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1は2℃であった。触媒効率は、36,200g−PP/g−Catであった。得られたパウダーの分析結果を表3にまとめて示す。また、反応器10から抜き出されるポリマー中に含まれる塊状物量を、4,750ミクロンの篩で篩い分けることによって、4時間毎に測定をした結果、塊状物量はいずれの時間もゼロであった。また、反応終了後に反応器内に残留していたポリマー中の塊状物量もゼロであった。
【0114】
【表3】
【0115】
3.評価
実施例1と比較例1及び実施例4と比較例2の対照で、ΔT1が本願の範囲であれば塊状物が発生せず、安定な運転を維持できることを示している。
実施例2と実施例3との比較から、中間部及び下流部の温度を上げることによって触媒効率が上がり、より高活性な条件となることを示している。
実施例5で低Tmでも、ΔT1が本願の範囲であれば、塊が発生せず、安定運転が可能なことを示している。
以上の結果より、各実施例においては、各比較例に比して、水平軸回りに回転する撹拌機を内部に有する横型重合反応器の温度を効果的に制御することにより、塊状ポリマーの発生が抑制され、生産効率も高く、更に、低融点のポリマーが得られヒートシール性に富む、優れた結果が得られており、本発明の構成の合理性と有意性及び従来技術に対する卓越性を明示しているといえる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明のプロピレン系重合体の製造方法によれば、液化プロピレンの気化熱を利用して重合熱を除去する、水平軸回りに回転する撹拌機を内部に備えた横型重合反応器を用い、連続気相重合法によりプロピレン又はプロピレンとエチレンを含む他のα−オレフィンとを重合させてなるプロピレン系重合体の製造プロセスにおいて、塊状ポリマーや微粉状のポリマーの発生を抑制して、生産効率を高めると共に、更に、透明性や低温ヒートシール性に優れたプロピレン系重合体を、工業的かつ安定的に製造することができるので、連続気相重合法によりプロピレン又はプロピレンとエチレンを含む他のα−オレフィンとを重合させてなるプロピレン系重合体の製造プロセスにおいて、産業上の利用可能性が高いことが明らかである。
【符号の説明】
【0117】
図1;1及び2 触媒成分供給配管 3 原料プロピレン供給配管
4 原料供給配管(水素など) 10 反応器
11 気液分離槽 12 反応器上流末端
13 未反応ガス抜出し配管 14 反応器下流末端
15 凝縮機 16 圧縮機
17 ポンプ 18 原料混合ガス供給配管
19 原料液化プロピレン供給配管 20 撹拌機
21 パウダー回収機 22 ガス回収機
23 重合体抜出し配管 24 バグフィルター
図2;1 反応器 2 反応器上流末端
3 反応器下流末端 4 触媒成分供給配管
5 重合体抜出し配管 6 示差温度計
7 原料液化プロピレン供給配管 8 操作弁
9 原料混合ガス供給配管 10 操作弁
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン系重合体の製造方法に関するものであり、詳しくは、横型重合反応器を用いたプロピレンの気相重合において、反応器内の温度を特定の除熱により制御して温度を特定化することによって、塊状や微粉状のポリマーの生成を充分に抑制しながら、生産効率良く、特に透明性や低温ヒートシール性に優れたプロピレン系重合体を工業的に安定に製造する方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
プロピレン系重合体は、剛性や耐熱性などの機械的物性に優れ、成形性も良好であり、比較的安価に製造することが可能であり、環境問題適応性も高いことから、産業上の広い用途に適用されている。
そのため、ポリプロピレンの製造プロセスは、工程の簡略化と生産コストの低減及び生産性の向上、更には触媒性能の改良などの観点で技術検討が続けられてきた。
【0003】
ポリプロピレンの製造プロセスにおいては、ポリプロピレンが工業的に製造され始めた当時は触媒の性能が低く、得られたポリプロピレンから触媒残渣やアタクチックポリマーなどを除去する工程が必要であり、溶媒を用いたスラリー法などのプロセスが主体であった。
その後、触媒性能が格段に進歩するにつれて、触媒残渣やアタクチックポリマーなどの除去の必然性が低減され、現在では気相法プロセスが主流となっている。
【0004】
気相法プロセスにおいては、近年の触媒技術の進歩により開発された高活性化触媒やメタロセン系触媒などの新規触媒のプロセスへの適応、及びそれに付随した塊状や微粉状のポリマーの発生の抑制は、プロセスの安定した運転を行う点からも解決すべき問題としての課題を呈している。
【0005】
気相重合において塊状の不定形ポリマーの発生を防止するに際しては、流動床反応器では触媒供給部において重合熱の除去が比較的困難であるため、局部的な重合熱の蓄積により、流動床内の温度が不安定化し易い。そのために、流動床反応器を用いた蒸発潜熱を利用して、気相重合器内に戻る液化した循環ガスの液流量と系外排出ガス流量及び供給モノマーガス流量により、器内の温度及び圧力を制御するポリプロピレンの製造法(例えば、特許文献1を参照)が提案されているが、生産量の増加や急激なグレード変更での流動床反応器における重合熱の除去の点で改善の余地があることが避けられない。
また、塊状重合体の生成の抑制と流動状態の保持を目的とし、流動床反応器では重合時に反応器内壁温度を流動ガスの露点以下に冷却することを特徴とする気相重合方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)が、局部的な相変化により運転制御に困難が伴うことを本発明者らは認知している。
【0006】
気相法プロセスには、液化プロピレンの潜熱(気化熱)を利用して重合熱を除去する形式のオレフィンの気相反応器として、水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型重合反応器を用いた重合プロセスが知られている。液化プロピレンの潜熱を利用して重合熱を除去する方法は、小さな設備で大きな除熱能力を持つことができる点で優位性のあるものである。
【0007】
また、横型重合反応器で重合したポリマー粒子は、撹拌反応器中で形成され、重合を進行しながら、撹拌により移動しつつ反応器に沿って進み、そのため、他の重合器にない特徴である、完全混合槽を数台直列に並べたフローパターンである、ピストンフロー型を示す。横型重合反応器は、長さの直径に対する比率において、2個や3個又はそれ以上の反応器と同等な、固体混合度を容易に達成することができる点で経済的に有利である。
更に、重合反応器が横型であるため縦型反応器に比べて除熱時に重合熱も効率よく除去される点で有利であり、ポリプロピレンの製造を行う際に、液化プロピレンの気化熱を利用して重合熱の除去を行い、かつ、水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型重合反応器を用いる手法は、上記の様な優れた特徴を有している(例えば、特許文献3を参照)。
【0008】
ところで、本発明者らは、横型重合反応器を用いたプロセスを詳細に検討したところ、塊状ポリマーや微粉の発生に起因する、次のような問題を把握した。
一般的に横型重合反応器は反応器の上流端より触媒系が反応器内部へ注入され、固体ポリプロピレン粉末は反応器中で生成されて、それの下流から抜き出される。液化プロピレンの気化熱を利用したプロセスでは、多量の気化ガス発生のため、微粉体が気化ガスに同伴され、ガス排出管系統のパイプ内やフィルターに付着したり、或はこれらを閉塞したりすることを避けるために、ポリマー粒子は上流部で可能な限り、粒子形状を早急に作ることが望ましい。一方、反応を促すことは、急激な反応による局部発熱などにより塊状の不定形ポリマーの生成が生じ、製造工程の中断などを引き起こす惧れがある。
【0009】
液化プロピレンの潜熱(気化熱)を利用する場合、反応器からガスを抜き出し、熱交換器で冷却することにより液化させ、再び反応器へ戻すのが一般的な方法である。ガスが液化する温度(露点)は圧力及びガスの組成に依存するため、プロピレン単独の露点に対して、プロピレンに水素やエチレンなどの露点の低いガス成分を混合していくと、混合量の増加に従って露点が低下する。熱交換器の冷却能力は設備によって決まるものであり、同一設備を使用する場合にはガス成分の露点が低くなるほどガスを液化させる能力が低下、即ち、除熱能力が低下する。
かくして、高活性化触媒やメタロセン触媒などの新規触媒による、MFRの高いプロピレン系重合体、或はランダム重合体といった、水素やエチレンが反応器に多く存在する製造プロセスでは触媒活性が高くなる反面、除熱能力の低下による塊状ポリマーの発生が不可避であり、また、高重合活性を発現する際に、重合時の固体状触媒成分の崩壊により、粒子形状の悪化、粉体特性の劣化といった問題が生じるため、重合プロセスへの適応に課題を呈している。
この様に、高活性化触媒やメタロセン触媒などの新規触媒を、ポリプロピレンを製造する気相重合に適応する場合には、塊状の不定形ポリマーや微粉状ポリマーの抑制及び生産性の面で解決すべき課題を抱えている。
【0010】
かかる課題に対応するために、横型重合反応器において、チタン担持触媒成分と助触媒成分の供給口を変えることでポリマー凝集体を抑制する方法が提案されている(例えば、特許文献4を参照)が、凝集体の抑制と生産効率を充分に満足するものではない。また、α−オレフィンによる予備重合処理とドナー添加による塊状の不定形ポリマーの抑制方法(例えば特許文献5を参照)も提案されているが、ドナー添加による触媒性能の低下などの問題を内在している。
【0011】
また、実質上縦型の攪拌床反応器において、反応帯域中の圧力及び温度を、圧力−温度線図中で、露点曲線の下方一定の圧力範囲で運転することにより、反応器の温度が均一となり、塊状の不定形ポリマー発生を防止する、α−オレフィン重合体の製造方法が提案されている(特許文献6を参照)が、該製造方法では反応圧力或いは温度が制限されてしまうため、充分な触媒活性が得られない、という問題を解決することができていない。
【0012】
以上に背景技術として詳述した様に、従来技術においては、横型重合反応器の性能やポリマー粒子性などの技術が改良されてきているが、横型重合反応器を用いた気相重合法において、重合反応熱の除熱の問題と関連して、塊状の不定形ポリマーの生成の抑制や微粉状ポリマー量の減量、或は生産効率の向上といった全ての課題を充分に解決する技術は未だ実現されてなく、このような観点から更なる技術改良が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平11−209415号公報
【特許文献2】特許3,180,305号明細書
【特許文献3】米国特許第3,971,768号明細書
【特許文献4】特公平7−94485号公報
【特許文献5】国際公開WO00−42081号
【特許文献6】特開2000−264918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、前記した背景技術の状況を鑑みて、液化プロピレンの潜熱(気化熱)を利用して重合熱を除去する、水平軸回りに回転する撹拌機を内部に備えた横型重合反応器を用い、連続気相重合法によりプロピレン又はプロピレンとエチレンを含む他のα−オレフィンとを重合させてなるプロピレン系重合体の製造プロセスにおいて、塊状ポリマーの発生を抑制し、生産効率を高めると共に、更に透明性や低温ヒートシール性に優れたプロピレン系重合体を工業的に安定に製造する方法を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の課題を解決することを目指して、液化プロピレンの潜熱(気化熱)を利用して重合熱を除去する、水平軸回りに回転する撹拌機を内部に備えた横型重合反応器を用い、連続気相重合法によりプロピレン又はプロピレンとエチレンを含む他のα−オレフィンとを重合させてなるプロピレン系重合体の製造プロセスにおいて、重合熱の除去方法や重合熱の制御及び重合条件や反応器の構造などについて種々にわたり考察勘案し実験による検証などを行って、塊状ポリマーの発生を抑制して、生産効率を高めると共に、安定してプロピレン系重合体を製造する方法を探究した。
それらの過程の結果として、液化プロピレンの潜熱(気化熱)を利用して重合熱を除去するに際して、重合反応器内における温度条件を特異的に設定制御すれば、前記の課題が解決されて、格別顕著に、塊状ポリマーの発生を抑制して、生産効率を高めると共に、安定してプロピレン系重合体を製造する手法を見出すことができ、更には付加的に重合触媒の担体の粒子性状を制御すれば、更に、透明性や低温ヒートシール性に優れたプロピレン系重合体が工業的に安定に製造されることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明は、基本的な要件として、横型重合反応器において、反応器内に軸方向に2区分以上の異なる温度区分を設定することを可能とし、触媒供給部の温度を反応器内の混合ガスの露点に対し制御することにより、前記の課題を解決するものである。
【0017】
具体的には、本発明は基本発明として、水平軸回りに回転する撹拌機を内部に備えた横型重合反応器において、反応熱を主として液化プロピレンの気化熱により除去する連続気相重合法によりプロピレン又はプロピレンとエチレンを含む他のα−オレフィンとを重合させてなるプロピレン系重合体を製造する工程で、反応器内に軸方向に2区分以上の異なる温度区分を設定することが可能であり、かつ触媒供給部が含まれる区分の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1(℃)(=Tx−Tz)が0〜5℃であることを構成の要件(発明の基本的な特定事項)とする。
【0018】
本発明は、上記の基本的発明に対して、付加的な要件ないしは実施の態様として、メタロセン系化合物を担体に担持した重合触媒を用いることによって、低温ヒートシール性と透明性に優れたプロピレン系重合体を製造し、特に、粒形及び粒径の制御された担体を用いることを特徴とする。
また、触媒供給部が反応器の上流末端を含む区分に含まれ、横型重合反応器の上流末端から下流末端に至る区分(n)とその隣接する下流部の区分(n+1)の反応温度である、TnとTn+1がTn≦Tn+1であり、反応器の上流末端を含む区分の温度(Tα)と下流末端を含む区分の温度(Tω)との温度差ΔT2(℃)(=Tω−Tα)が2〜15℃であり、複数の区分(n)の反応温度Tnを個別に異なる温度で制御し、製造されるプロピレン系重合体の示差走査熱量測定(DSC)による融解ピーク温度Tmが、105〜140℃であることを特徴とする。
【0019】
かくして、本発明は、高活性化触媒やメタロセン系触媒などの新規触媒の気相重合プロセスへの適応のために、液化プロピレンの気化熱を利用して重合熱を除去する、水平軸回りに回転する撹拌機を内部に備えた横型重合反応器を用い、連続気相重合法によりプロピレン又はプロピレンとエチレンを含む他のα−オレフィンとを重合させてなるプロピレン系重合体の製造プロセスにおいて、塊状ポリマーの発生を抑制し微粉の生成量を低減して、生産効率を高めると共に、安定してプロピレン系重合体を製造することを可能となし、更には、かかるプロセスにおいて、メタロセン系化合物を担体に担持した重合触媒を用いることによって、低温ヒートシール性と透明性に優れたプロピレン系重合体を製造し得、かかる作用と効果は後述する実施例のデータ及び実施例と比較例の対照により実証されている。
なお、本発明における、かかる新規な構成及び効果などの特徴は、前述の背景技術に掲載した特許文献及びその他の特許文献を精査しても示唆はされていないし、窺うこともできない。
【0020】
以上においては、本発明が創作される経緯と、本発明の基本的な構成要素と特徴について概観的に記述したので、ここで本発明の全体を俯瞰すると、本発明は次の発明の単位群から構成されるものであって、[1]の発明を基本発明とし、それ以下は、基本発明をより具体化又は実施態様化するものである。なお、発明群の全体をまとめて、「本発明」という。
【0021】
[1]水平軸回りに回転する撹拌機を内部に備えた横型重合反応器を用い、反応熱を主として液化プロピレンの気化熱により除去する連続気相重合法により、オレフィン重合用触媒の存在下で、プロピレン又はプロピレンと他のα−オレフィンとを重合させて、プロピレン系重合体を製造する方法において、該反応器は水平軸方向に2区分以上の異なる温度区分を設定することが可能であり、かつ触媒供給部が含まれる区分の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1(℃)(=Tx−Tz)が0〜5℃であることを特徴とする、プロピレン系重合体の製造方法。
【0022】
[2]オレフィン重合用触媒として、メタロセン系化合物を担体に担持した重合触媒を用いることを特徴とする、[1]におけるプロピレン系重合体の製造方法。
[3]担体として、粒形及び粒径の制御された担体を用いることを特徴とする、[2]におけるプロピレン系重合体の製造方法。
[4]触媒供給部が該反応器の上流末端を含む区分に含まれることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかにおけるプロピレン系重合体の製造方法。
[5]反応器の上流からn番目の区分の温度Tnとその隣接するn+1番目の区分の温度Tn+1が、Tn≦Tn+1であることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかにおけるプロピレン系重合体の製造方法。
[6]反応器の上流末端を含む区分の温度(Tα)と下流末端を含む区分の温度(Tω)との温度差ΔT2(℃)=Tω−Tαが2〜15℃であることを特徴とする、[1]〜[5]のいずれかにおけるプロピレン系重合体の製造方法。
[7]複数の領域区分(n)の反応温度Tnを個別に異なる温度で制御することを特徴とする、[1]〜[6]のいずれかにおけるプロピレン系重合体の製造方法。
[8]製造されるプロピレン系重合体の示差走査熱量測定(DSC)による融解ピーク温度Tmが、105〜140℃であることを特徴とする、[1]〜[7]のいずれかにおけるプロピレン系重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明のプロピレン系重合体の製造方法によれば、液化プロピレンの気化熱を利用して重合熱を除去する、水平軸回りに回転する撹拌機を内部に備えた横型重合反応器を用い、連続気相重合法によりプロピレン又はプロピレンとエチレンを含む他のα−オレフィンとを重合させてなるプロピレン系重合体の製造プロセスにおいて、塊状ポリマーや微粉状のポリマーの発生を抑制して、生産効率を高めると共に、更に、透明性や低温ヒートシール性に優れたプロピレン系重合体を、工業的かつ安定的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の製造方法に用いる横型重合反応器の説明図である。
【図2】本発明の製造方法に用いる横型重合反応器における、示差温度計の配置の一例を表す概略図である。
【図3】本発明の製造方法に用いる横型重合反応器の領域区分における温度制御の説明図である。
【図4】本発明の製造方法に用いる横型重合反応器の領域区分における温度制御の説明図である。
【図5】本発明の製造方法に用いない、横型重合反応器の領域区分における温度制御の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下においては、本発明を実施する態様において、本発明が使用する重合触媒、本発明における製造プロセス及びその条件、本発明によるプロピレン系重合体の製造方法について、具体的かつ詳細に記述する。
【0026】
I.製造されるプロピレン系重合体の特徴
本発明で製造されるプロピレン系重合体は、製造されるポリマーの用途によってプロピレン単独重合体、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体の中から選ばれる。
使用されるα−オレフィンは、プロピレンを除く炭素数が2〜8のα−オレフィンであり、好ましくはエチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、特に好ましくはエチレンが用いられる。以下、α−オレフィンが主にエチレンの場合について、詳細を記載する。
【0027】
本発明で、特に好ましく製造されるプロピレン系重合体は、融解ピーク温度(Tm)(以下融点ともいう)が、105℃以上140℃以下のプロピレン系重合体である。上記範囲よりも融点が著しく高いと、低温ヒートシール性が不充分なものとなってしまうし、また、上記範囲より融点が著しく低いと工業的に可能な重合温度では重合体自身が一部融解してしまう惧れがあり、安定運転の維持が困難となる。
ただし、本発明の製造方法においては、かかる融点以外の融点を有するプロピレン系重合体を製造することを排除することを意味するものではない。
このような低融点のプロピレン系重合体は、メタロセン系化合物を担体に担持した触媒を用いることによって、製造されることが好ましい。
メタロセン系触媒の、結晶性及び分子量分布が狭く、低結晶・低分子量成分が少ないという特徴を活かすことができ、従来のチーグラー・ナッタ系触媒では製造が困難であった低温ヒートシール性に優れたポリマーの製造が可能となる。
【0028】
製造される重合体がプロピレン−エチレンランダム共重合体である場合、該共重合体中のエチレン含量は、該共重合体の融点が好ましくは105〜140℃の範囲に入るようにコントロールされ、使用される触媒にもよるが、メタロセン系触媒の場合、一般的には、1〜10質量%の範囲である。
なお、本発明において、融解ピーク温度(Tm)は、示差走査熱量測定(DSC)により計測した値である。具体的には、例えば、パーキン・エルマー社製のDSC7型示差走査熱量分析計を用いて試料を室温から80℃/分の条件で230℃まで昇温し、同温度にて10分間保持後、−10℃/分にて50℃まで降温し、同温度にて3分間保持した後、10℃/分の昇温条件下で融解した時のピーク温度である。
【0029】
その際、反応器中のエチレンとプロピレンのガス濃度モル比(エチレン/プロピレン)の値は、上記の融点が得られるように調整すればよいが、好ましくは、0.01〜0.5、より好ましくは、0.01〜0.3、更に好ましくは0.02〜0.2の範囲である。
重合体は、その目的によっては、多段重合法を用いて、製造してもよい。その場合、第一段階で製造される重合体については、上記の特徴を持つ重合体が好ましく、第二段階以降に製造される重合体の成分については、特に制限はない。
【0030】
重合体中のエチレン含量は、NMRにより求め、多段重合法を用いる場合は、第一段階で重合された重合体を対象とする。具体的方法を以下に示す。
イ)NMRによるエチレン含量測定
得られた重合体のエチレン含量は、プロトン完全デカップリング法により以下の条件に従って測定した13C−NMRスペクトルを解析することにより求める。
機種:日本電子(株)製 GSX−400又は、同等の装置(炭素核共鳴周波数100MHz以上) 溶媒:o−ジクロルベンゼン:重ベンゼン=4:1(体積比) 濃度:100mg/ml 温度:130℃ パルス角:90° パルス間隔:15秒 積算回数:5,000回以上
ロ)スペクトル
スペクトルの帰属は、例えばMacromolecules,17,1950(198
4)を参考に行えばよい。上記条件により測定されたスペクトルの帰属は下の表1の通りである。表中Sααなどの記号はCarmanら(Macromolecules,1
0,536(1977))の表記法に従い、Pはメチル炭素、Sはメチレン炭素、Tはメチン炭素をそれぞれ表わす。
【0031】
【表1】
【0032】
ハ)エチレン含量の計算
以下、「P」を共重合体連鎖中のプロピレン単位、「E」をエチレン単位とすると、連鎖中にはPPP、PPE、EPE、PEP、PEE、及びEEEの6種類のトリアッドが存在し得る。Macromolecules,15,1150(1982)などに記されているように、これらトリアッドの濃度と、スペクトルのピーク強度とは、以下の(1)〜(6)の関係式で結び付けられる。
[PPP]=k×I(Tββ) (1)
[PPE]=k×I(Tβδ) (2)
[EPE]=k×I(Tδδ) (3)
[PEP]=k×I(Sββ) (4)
[PEE]=k×I(Sβδ) (5)
[EEE]=k×{I(Sδδ)/2+I(Sγδ)/4} (6)
ここで[ ]はトリアッドの分率を示し、例えば[PPP]は全トリアッド中のPPPトリアッドの分率である。したがって、
[PPP]+[PPE]+[EPE]+[PEP]+[PEE]+[EEE]=1 (7)
である。また、kは定数であり、Iはスペクトル強度を示し、例えばI(Tββ)はTββに帰属される28.7ppmのピークの強度を意味する。
【0033】
上記(1)〜(7)の関係式を用いることにより、各トリアッドの分率が求まり、さらに下式によりエチレン含量が求まる。
エチレン含量(モル%)=([PEP]+[PEE]+[EEE])×100
なお、本発明の中で、メタロセン系触媒を使用して製造したプロピレンランダム共重合体成分には少量のプロピレン異種結合(2,1−結合及び/又は1,3−結合)が含まれ、それにより、以下の微小なピークを生じる。
【0034】
【表2】
【0035】
正確なエチレン含量を求めるにはこれら異種結合に由来するピークも考慮して計算に含める必要があるが、異種結合由来のピークの完全な分離・同定が困難であり、また異種結合量が少量であることから、本発明のエチレン含量は実質的に異種結合を含まないチーグラー・ナッタ系触媒で製造された共重合体の解析と同じく上記(1)〜(7)の関係式を用いて求めることとする。
【0036】
エチレン含量のモル%から質量%への換算は以下の式を用いて行う。
エチレン含量(質量%)=(28×X/100)/{28×X/100+42×(1−X/100)}×100 ここでXはモル%表示でのエチレン含量である。
【0037】
II.プロピレン系重合体の製造
1.触媒
本発明で用いる触媒は、(I)(a)共役五員環配位子を有する周期律表第4族遷移金属化合物からなるメタロセン錯体と、それを担持する(b)担体、それを活性化させる(c)助触媒、並びに必要に応じて使用される(d)有機アルミニウム化合物からなり、即ち、メタロセン系重合触媒である。
また、(II)(1)チタン、マグネシウム、ハロゲン及び電子供与性化合物(内部ドナー)を必須成分として含有してなる、α−オレフィンの立体規則性重合用固体触媒成分、(2)有機アルミニウム化合物、(3)電子供与性化合物(外部ドナー)より構成される重合用触媒、即ち、チーグラー系重合触媒でも可能である。
本発明で用いることができるオレフィン重合用触媒は、前述のメタロセン系重合触媒又はチーグラー系重合触媒が好ましく、メタロセン系重合触媒がより好ましいが、これらに限られるものではない。
【0038】
(I)メタロセン系重合触媒
本発明のプロピレン系重合体を製造するために必要とされる触媒は、メタロセン系遷移金属化合物を含む担持触媒であれば、特に限定されないが、その中でも、好適に使用されるメタロセン系遷移金属化合物を含む担持触媒系としては、(a)共役五員環配位子を有する周期律表第4族遷移金属化合物からなるメタロセン錯体と、それを担持する(b)担体、それを活性化させる(c)助触媒、並びに必要に応じて使用される(d)有機アルミニウム化合物から構成されるものを挙げることができる。
以下、(a)〜(d)の説明をする。なお、本明細書の記載においては、元素の周期律表として長周期型のものを使用している。
【0039】
(1)メタロセン系遷移金属化合物(a)
本発明において用いられるメタロセン系遷移金属化合物としては、代表的なものとして共役五員環配位子を有する周期律表第4〜6族遷移金属化合物のメタロセン錯体が挙げられ、これらのうち、下記一般式のいずれかで表されるものが好ましい。
【0040】
【化1】
(式中、A及びA’は置換基を有していてもよいシクロペンタジエニル基、Qは二つの共役五員環配位子間を任意の位置で架橋する結合性基、Mは周期律表第4族の遷移金属原子、X及びYは補助配位子である)
【0041】
上記一般式中、シクロペンタジエニル基が置換基を有する場合、その置換基の例としては、炭素数1〜30の炭化水素基(ハロゲン、珪素、酸素、硫黄などのヘテロ原子を含有していてもよい)が挙げられ、この炭化水素基は一価の基としてシクロペンタジエニル基と結合していても、また、これが複数存在するときにその内の2個がそれぞれ他端(ω−端)で結合してシクロペンタジエニルの一部と共に環を形成していてもよい。この置換基の他の例としては、インデニル基、フルオレニル基、又はアズレニル基などが挙げられ、これらの基は、更に副環上に置換基を有していてもよく、中でもインデニル基又はアズレニル基が好ましい。
Qとして好ましくはアルキレン基、シリレン基、シラフルオレン基、ゲルミレン基が挙げられる。
Mとして好ましくはチタン、ジルコニウム、ハフニウムであり、特に、ジルコニウム、ハフニウムが好ましい。
X及びYの補助配位子は、成分(c)と反応してオレフィン重合能を有する活性なメタロセンを生成させるものであり、したがって、この目的が達成される限りX、Yは配位子の種類が制限されるものではなく、各々水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、或いはヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基が例示できる。これらのうち好ましいものは、炭素数1〜10の炭化水素基、或いはハロゲン原子である。
【0042】
(2)担体(b)
本発明で用いられる触媒担体としては、公知のものが使用できるが、好ましい担体としては、シリカ、チタニア、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、イオン交換性層状珪酸塩などの無機化合物担体やポリプロピレンパウダー、ポリエチレンパウダーなどのポリマー担体を挙げることができる。
その中でも、ポリマーの粒子の形状を整え、かつ大粒径化するために、使用する触媒としては、粒形及び粒径の制御された担持型触媒を用いることが特に好ましい。このような粒形及び粒径の制御された担持型触媒の製造法としては、例えば、無機化合物担体を用いた場合、以下のような例を挙げることができる。
【0043】
原料の無機化合物担体の粒子径は、通常、平均粒径が0.01〜5μmで、かつ、1μm未満の粒子分率を10%以上、好ましくは、平均粒子径が0.1〜3μmで、1μm未満の粒子分率を40%以上とするのがよい。このような粒径の無機化合物担体粒子を得る方法としては、乾式の微粒子化方法、例えば、ジェットミル、ボールミル、振動ミルなどによる微粒子化、或いは、湿式状態下での粉砕方法、ポリトロンなどを使用した強制撹拌による粉砕やダイノーミル、パールミルなどによる方法がある。
【0044】
また、担体を好ましい粒径に造粒して用いても良く、その造粒法としては、例えば、撹拌造粒法、噴霧造粒法、転動造粒法、ブリケッティング、流動層造粒法、液中造粒法が挙げられる。好ましい造粒法は、撹拌造粒法、噴霧造粒法、転動造粒法又は流動造粒法であり、更に好ましくは噴霧造粒法である。
粒子強度については、本造粒工程においてもその制御が可能である。好ましい範囲の圧壊強度を得るためには、前述したような粒径分布の無機化合物担体を使用することが好ましい。
更に、多段階に分けて造粒する場合の造粒方法を組み合わせても良く、その組合せに制限はないが、好ましくは、噴霧造粒法と噴霧造粒法、噴霧造粒法と転動造粒法、噴霧造粒法と流動造粒法との組合せが挙げられる。
【0045】
上記のような造粒法で得られる造粒粒子の形状は、球状が好ましく、具体的には、M/L(ここで、Lは投影図の粒子の最大径の値を、MはLと直交する径の値を、それぞれ示す。)の値が0.8以上1.0以下である粒子について、その数が、全粒子の50%以上100%以下、好ましくは全粒子の85%以上100%以下であるものが挙げられる。
なお、M/Lは任意の粒子の100個以上を光学顕微鏡で観察し、それを画像処理して求めたものである。
【0046】
球形の無機化合物担体粒子が得られる噴霧造粒における原料スラリー液の珪酸塩の濃度は、スラリー粘度にもよるが、通常0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜30質量%、より好ましくは5.0〜20質量%である。球状粒子が得られる噴霧造粒の熱風の入り口の温度は、分散媒により異なるが、水を例にとると、通常80〜260℃、好ましくは100〜220℃の範囲で選ばれる。
分散媒は任意のものを使用することができる。分散媒としては、水や、有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、クロロホルム、塩化メチレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレンなどを単独で用いてもよいし、また、2種以上併用してもよいが、水が好ましい。
【0047】
このようにして得られた無機化合物担体粒子は、そのまま触媒担体として用いてもよく、その場合、粒径は好ましくは1〜200μm、より好ましくは10〜150μmの範囲で選ばれる。
また、形状が整った粒子を所望の粒径で得るためには、原料の粒子径を少なくとも2段階の造粒工程で調製してもよい。例えば、第1段目の造粒工程で、ある程度造粒可能な粒子径に造粒して、それを用いて再度造粒処理することで、粒形と粒径を制御することができる。
このような段階的な造粒法として、具体的には、先ず、第1段目の造粒工程で平均粒径が0.01〜5μmの原料の無機化合物担体微粒子を造粒して一次造粒粒子を製造する。一次造粒粒子の粒径は、好ましくは1〜25μm、より好ましくは1〜15μmである。
次いで、このようにして造粒された一次造粒粒子を更にスラリー化して造粒させる。その際、スラリー粘度は比較的低くなっているので、スラリー濃度を上げることができ、適当な噴霧造粒条件を採択することによって、重合触媒成分に適した粒径及び粒形のものとすることができる。この最終的な粒径は、原料の無機化合物担体の種類によるが、通常25〜200μm、好ましくは25〜150μmとするのがよい。
【0048】
造粒条件は、造粒方法により適宜良好な性状の粒子が得られるよう選択することができる。例えば、噴霧造粒方法においては、噴霧時の熱風の入り口温度は90℃〜300℃程度の広い温度範囲で設定できる。また、出口温度はノズルやディスクからの噴霧流量や熱風流量などによって規定され、80℃〜150℃となる。噴霧形式はディスクタイプや加圧ノズル式、2流体ノズル式などの一般的な噴霧乾燥方法が適用できる。粒径の制御は噴霧液の流量、ディスクの回転数又はディスクサイズ、加圧ノズルの圧力、キャリアーガスの流量などを設定することで可能である。
【0049】
一次造粒粒子を再度造粒して2次粒子を製造すると、2次造粒粒子の方が大きいサイズとなる。原料粒子に対する1次粒子の粒径アップ率は、3〜500%が好ましく、5〜300%が更に好ましい。また、1次粒子に対する2次粒子の粒径アップ率は3〜200%が好ましく、3〜100%が更に好ましい。そのため1次造粒条件と2次造粒条件は異なる条件をとった方が良好な粉体性状の粒子を得ることができる。
例えば、1次造粒より2次造粒の方をディスクの回転数を下げるのが好ましい粒子を得ることができる。2次造粒のディスク回転数は、1次造粒のディスク回転数より1,000〜30,000rpm低い方が好ましく、5,000〜20,000rpm低い方が更に好ましい。また乾燥温度は、1次造粒より2次造粒の方を低くするのが好ましい。2次造粒の熱風入り口温度は、1次造粒の熱風入り口温度より10〜80℃低いほうが好ましく、20〜50℃低い方が更に好ましい。
具体的には、ディスクサイズによるが、一次造粒においては、熱風入り口温度は130〜250℃が好ましく、150〜200℃が更に好ましい。ディスク回転数は10,000〜30,000rpmの条件が好ましい。2次造粒においては、熱風入り口温度は90℃〜180℃が好ましく、100〜150℃が更に好ましい。
【0050】
造粒の際に、有機物、無機溶媒、無機塩、各種バインダーを用いてもよい。用いられるバインダーとしては、例えば砂糖、デキストローズ、コーンシロップ、ゼラチン、グルー、カルボキシメチルセルロース類、ポリビニルアルコール、水ガラス、塩化マグネシウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸マグネシウム、アルコール類、グリコール、澱粉、カゼイン、ラテックス、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、タール、ピッチ、アルミナゾル、シリカゲル、アラビアゴム、アルギン酸ソーダなどが挙げられる。
【0051】
このようにして、造粒された無機化合物担体上に、メタロセン錯体を担持することによって、粒形及び粒径の整備された担持型触媒を製造することができる。
【0052】
(3)助触媒(活性化剤成分)(c)
助触媒は、メタロセン錯体を活性化する成分で、メタロセン錯体の補助配位子と反応して当該錯体を、オレフィン重合能を有する活性種に変換させうる化合物であり、具体的には(c−1)アルミニウムオキシ化合物、(c−2)成分(a)と反応して成分(a)をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物又はルイス酸、(c−3)固体酸、(c−4)イオン交換性層状珪酸塩が挙げられる。以下、(c−1)〜(c−4)の説明をする。
【0053】
(c−1):アルミニウムオキシ化合物
アルミニウムオキシ化合物がメタロセン錯体を活性化しうることは周知であり、該化合物としては、具体的にはアルミノキサンや、一種類のトリアルキルアルミニウム又は二種類以上のトリアルキルアルミニウムとアルキルボロン酸との10:1〜1:1(モル比)の反応により得ることができる化合物である。
アルミノキサンを使用する場合、メチルアルミノキサン又はメチルイソブチルアルミノキサンが好ましい。上記のアルミノキサンは、各群内及び各群間で複数種併用することも可能である。そして、上記のアルミノキサンは、公知の様々な条件下に調製することができる。
【0054】
(c−2):成分(a)と反応して成分(a)をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物又はルイス酸
(c−2)の化合物は、成分(a)と反応して成分(a)をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物又はルイス酸であり、このようなイオン性化合物としては、カルボニウムカチオン、アンモニウムカチオンなどの陽イオンと、トリフェニルホウ素、トリス(3,5−ジフルオロフェニル)ホウ素、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素などの有機ホウ素化合物との錯化物が挙げられる。
また、上記のようなルイス酸としては、種々の有機ホウ素化合物、例えばトリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素などが例示される。或いは、塩化アルミニウム、塩化マグネシウムなどの金属ハロゲン化合物が例示される。
なお、上記のルイス酸のある種のものは、成分(a)と反応して成分(a)をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物として把握することもできる。上述した非配位性のホウ素化合物を用いたメタロセン触媒は、特開平3−234709号公報、特開平5−247128号公報に例示されている。
【0055】
(c−3)固体酸
固体酸としては、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシアなどが挙げられる。
【0056】
(c−4)イオン交換性層状化合物
イオン交換性層状化合物は、粘土鉱物の大部分を占めるものであり、好ましくはイオン交換性層状珪酸塩である。
イオン交換性層状珪酸塩は、イオン結合などによって構成される面が互いに結合力で平行に積み重なった結晶構造を有し、且つ、含有されるイオンが交換可能である珪酸塩化合物をいう。大部分の珪酸塩は、天然には主に粘土鉱物の主成分として産出されるため、イオン交換性層状珪酸塩以外の夾雑物(石英、クリストバライトなど)が含まれることが多いが、それらを含んでいてもよい。珪酸塩は各種公知のものが使用できる。具体的には、白水春雄著「粘土鉱物学」朝倉書店(1995年)に記載されている次のような層状珪酸塩が挙げられる。
【0057】
(i)2:1型鉱物類
モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイトなどのスメクタイト族;バーミキュライトなどのバーミキュライト族;雲母、イライト、セリサイト、海緑石などの雲母族;パイロフィライト、タルクなどのパイロフィライト−タルク族;Mg緑泥石などの緑泥石族である。
(ii)2:1リボン型鉱物類
セピオライト、パリゴルスカイトなどである。
【0058】
本発明で原料として使用する珪酸塩は、上記の混合層を形成した層状珪酸塩であってもよい。本発明においては、主成分の珪酸塩が2:1型構造を有する珪酸塩であることが好ましく、スメクタイト族であることが更に好ましく、モンモリロナイトが特に好ましい。本発明で使用する珪酸塩は、天然品又は工業原料として入手したものは、特に処理を行うことなくそのまま用いることができるが、化学処理を施すことが好ましい。具体的には、酸処理、アルカリ処理、塩類処理、有機物処理が挙げられる。これらの処理を互いに組み合わせて用いてもよい。本発明において、これらの処理条件には特に制限はなく、公知の条件が使用できる。
また、これらイオン交換性層状珪酸塩には、通常吸着水及び層間水が含まれるため、不活性ガス流通下で加熱脱水処理するなどして、水分を除去してから使用するのが好ましい。
担体(b)と助触媒(c)の両方の機能を併せ持つもの、具体的には上記(c−4)のイオン交換性層状化合物などは、担体兼助触媒として使用することができる。
【0059】
(4)有機アルミニウム化合物(d)
メタロセン触媒系に、必要に応じて使用される有機アルミニウム化合物としては、本発明においては、ハロゲンを含有しないものが使用され、具体的には一般式 AlR3−iXi (式中、Rは炭素数1〜20の炭化水素基、Xは水素、アルコキシ基、iは0≦i≦3の数を示す。但し、Xが水素の場合は、iは0<i<3とする。)で示される化合物が使用される。
【0060】
具体的な化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム又はジエチルアルミニウムメトキシド、ジイソブチルアルミニウムメトキシド、ジイソブチルアルミニウムエトキシドなどのアルコキシ含有アルキルアルミニウム又はジエチルアルミニウムハイドライドなどのハイドライド含有アルキルアルミニウムである。
これらのうち特にトリアルキルアルミニウムが好ましい。より好ましくは、トリイソブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウムである。
【0061】
(II)チーグラー系重合触媒
(1)チタン、マグネシウム、ハロゲン及び電子供与性化合物
チタン、マグネシウム及びハロゲンを含む固体成分そのものは公知のものである。例えば、特開昭53−45688号、同54−3894号、同54−131589号、同55−75411号、同55−155003号、同56−18609号、同56−1552
06号、同57−3803号、同57−121003号、同58−5309号、同58−183709号、同63−108008号、同63−264608号、特開平1−79
203号、同1−98603号、同7−258328、同8−269125、同11−21309各公報などに記載のものが使用される。
【0062】
本発明において使用されるマグネシウム源となるマグネシウム化合物としては、金属マグネシウム、マグネシウムジハライド、ジアルコキシマグネシウム、アルコキシマグネシウムハライド、マグネシウムオキシハライド、ジアルキルマグネシウム、アルキルマグネシウムハライド、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムのカルボン酸塩などが挙げられる。これらの中でもマグネシウムジハライド、ジアルコキシマグネシウムなどのMg(OR)2−m Xm(ここで、Rは炭化水素基、好ましくは炭素数1〜10程度のものであり、Xはハロゲンを示し、mは0≦m≦2である。)で表されるマグネシウム化合物が好ましい。
【0063】
チタン源となるチタン化合物としては、一般式Ti(OR )4−n Xn (ここで、R は炭化水素基、好ましくは炭素数1〜10程度のものであり、Xはハロゲンを示し、nは0≦n≦4である。)で表される化合物が挙げられる。
具体例としては、TiCl4 、TiBr4 、TiI4 、Ti(OC2 H5 )Cl3 、Ti(OC2 H5 )2 Cl2 、Ti(OC2 H5 )3 Cl、Ti(O−i−C3 H7 )Cl3 、Ti(O−n−C4 H9 )Cl3 、Ti(O−n−C4 H9 )2 Cl2 、Ti(OC2 H5 )Br3 、Ti(OC2 H5 )(O−n−C4 H9 )2 Cl、Ti(O−n−C4 H9 )3 Cl、Ti(OC6 H5 )Cl3 、Ti(O−i−C4 H9 )2 Cl2 、Ti(OC5 H11 )Cl3 、Ti(OC6 H13 )Cl3 、Ti(OC2 H5 )4 、Ti(O−n−C3 H7 )4 、Ti(O−n−C4H9 )4 、Ti(O−i−C4H9 )4 、Ti(O−n−C6H13)4 、Ti(O−n−C8 H17 )4 、Ti(OCH2 CH(C2 H5 )C4 H9 )4 などが挙げられる。
【0064】
また、TiX´4(ここで、X´はハロゲンである。)に後述する電子供与体を反応させたチタン化合物をチタン源として用いることもできる。
そのような化合物の具体例としては、TiCl4 ・CH3 COC2 H5 、TiCl4 ・CH3 CO2 C2 H5 、TiCl4 ・C6 H5 NO2 、TiCl4 ・CH3 COCl、TiCl4 ・C6 H5 COCl、TiCl4 ・C6 H5CO2 C2 H5 、TiCl4 ・ClCOC2 H5 、TiCl4 ・C4 H4 Oなどが挙げられる。
また、TiCl3 (TiCl4 を水素で還元したもの、アルミニウム金属で還元したもの、或は有機金属化合物で還元したものなどを含む)、TiBr3 、Ti(OC2 H5 )Cl2 、TiCl2 、ジシクロペンタジエニルチタニウムジクロライド、シクロペンタジエニルチタニウムトリクロライドなどのチタン化合物の使用も可能である。
これらのチタン化合物の中でもTiCl4 、Ti(OC4 H9 )4 、Ti(OC2 H5 )Cl3 などが好ましい。
【0065】
ハロゲンは、上述のマグネシウムのハロゲン化合物及び/又はチタンのハロゲン化合物から添加されるのが普通であるが、他のハロゲン源、例えばAlCl3 、AlBr3 、AlI3 などのアルミニウムのハロゲン化物、BCl3 、BBr3 、BI3 などのホウ素のハロゲン化物、SiCl4 などのケイ素のハロゲン化物、PCl3 、PCl5 などのリンのハロゲン化物、WCl6 などのタングステンのハロゲン化物、MoCl5 などのモリブデンのハロゲン化物といった公知のハロゲン化剤から添加することもできる。固体触媒成分中に含まれるハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素又はこれらの混合物であってもよく、特に塩素が好ましい。
【0066】
電子供与性化合物(内部ドナー)としては、アルコール類、フェノール類、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類、有機酸又は無機酸類のエステル類、エーテル類、酸アミド類、酸無水物類のような含酸素電子供与体、アンモニア、アミン、ニトリル、イソシアネートのような含窒素電子供与体、スルホン酸エステルのような含硫黄電子供与体などを例示することができる。
【0067】
(2)有機アルミニウム化合物
任意成分として用いられる有機アルミニウム化合物としては、特開2004−1240
90号公報に開示された化合物などを用いることができる。
具体例としては、R13-s AlXs 又はR23-t Al(OR3 )t (ここで、R1 及びR2 は炭素数1〜20の炭化水素基又は水素原子であり、R3は炭化水素基であり、Xはハロゲンであり、s及びtはそれぞれ0≦s<3、0<t<3である。)で表されるものがある。
【0068】
具体的には、(イ)トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ−n−ヘキシルアルミニウム、トリ−n−オクチルアルミニウム、トリ−n−デシルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、(ロ)ジエチルアルミニウムモノクロライド、ジイソブチルアルミニウムモノクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライド、エチルアルミニウムジクロライドなどのアルキルアルミニウムハライド、(ハ)ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどのアルキルアルミニウムハイドライド、(ニ)ジエチルアルミニウムエトキシド、ジエチルアルミニウムフェノキシドなどのアルキルアルミニウムアルコキシドなどが挙げられる。
有機アルミニウム化合物は単独の化合物を用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
【0069】
(3)電子供与性化合物(外部ドナー)
触媒成分として上記の成分に加えて、必要に応じて電子供与性化合物(外部ドナー)を用いることもできる。
このような電子供与性化合物としては、触媒成分中の必須成分として用いる内部ドナーとして例示した化合物が挙げられる。このような電子供与性化合物を用いる場合に、内部ドナーの化合物と同一であっても、異なっていてもよい。
【0070】
好ましい電子供与性化合物としては、エーテル類、無機酸エステル、有機酸エステル及び有機酸ハライド、有機ケイ素化合物であり、特に好ましいのは無機及び有機ケイ酸エステル、フタル酸エステル、酢酸セロソルブエステル、フタル酸ハライドである。
【0071】
2.予備重合
本発明においては、メタロセン系重合触媒及びチーグラー系重合触媒のいずれの触媒の使用に関わらず、本重合で使用する前に予備重合処理して用いることが好ましい。予備重合処理された触媒を用いることによって、微粉末のプロピレン系重合体の発生を抑制することができ、またプロピレン系重合体の粉体特性を向上させることができる。
予備重合した後の触媒は、ポリマーの殻に覆われているが、本重合に用いられる触媒の平均粒径(ポリマーの殻を含めた大きさ)は、好ましくは30μm以上、更に好ましくは40μm以上であり、また、好ましくは300μm以下、更に好ましくは200μm以下である。
【0072】
ポリオレフィン重合触媒成分の予備重合処理は、前記した有機アルミニウム化合物と同様の有機アルミニウム化合物の存在下で実施できる。
予備重合時の温度は10〜80℃で、予備重合時間として10分〜48時間かけて、ポリオレフィン重合触媒成分1グラム当たり0.1〜100グラム、好ましくは0.5〜50グラムのα−オレフィンを不活性溶媒中で反応させる。
【0073】
チーグラー系重合触媒の予備重合処理においては、前記した電子供与体と同様の電子供与体を用いることもできる。電子供与体が有機ケイ素化合物の場合、有機アルミニウム化合物1モルに対して0.01〜10モルの範囲で用いてもよい。
【0074】
予備重合処理に用いられるα−オレフィンは、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテンなどであり、好ましくはエチレン、プロピレンが使用される。また、これらは単独のみならず、他のα−オレフィンとの2種以上の混合物であってもよい。その重合に際して生成するポリマーの分子量を調節するために水素などの分子調節剤を併用することもできる。
【0075】
予備重合処理に用いられる不活性溶剤は、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン及び流動パラフィンなどの液状飽和炭化水素やジメチルポリシロキサンの構造を持ったシリコンオイルなどの、重合反応に著しく影響を及ぼさない不活性溶剤である。これらの不活性溶剤は1種の単独溶剤又は2種以上の混合溶剤のいずれでもよい。
これらの不活性溶剤の使用に際しては、重合に悪影響を及ぼす水分やイオウ化合物などの不純物を取り除いた後で使用することが好ましい。
【0076】
予備重合処理は複数回行ってもよく、この際に用いるモノマーは同一であっても異なっていてもよい。また、予備重合後にヘキサン、ヘプタンなどの不活性溶媒で洗浄を行うこともできる。予備重合を終了した後に、触媒の使用形態に応じ、そのまま使用することが可能であるが、必要ならば乾燥を行ってもよい。更に、上記各成分の接触の際、若しくは接触の後に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの重合体やシリカ、チタニアなどの無機酸化物固体を共存させることも可能である。
【0077】
3.重合様式と重合反応器
本発明においては、プロピレン又はプロピレンと他のα−オレフィンとを重合させてなるプロピレン系重合体の製造は、水平軸回りに回転する撹拌機を内部に備えた横型重合反応器を用いて、連続気相重合法によって実施する。
本発明において、気相重合法とは液が全く存在しないことを意味しない。重合を行う相が実質的に気相であればよく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で液が存在してもよい。この液としては、除熱のための液化プロピレンでだけではなく、ヘキサンなどの不活性炭化水素成分を例示することができる。
【0078】
本発明による反応器は、使用する原料、反応条件、反応形態、生成物などにより、その反応に適する限りにおいて、大きさ、材質などに限定されず、既存のものから任意に選択し使用することが可能である。形状は円筒状の部分を有する横型重合反応器である。液化プロピレンの気化熱(蒸発潜熱)を用いて除熱を行うため、反応器には、反応器からプロピレンを含むガスを抜き出し、そのガスを冷却して少なくとも一部を液化させ、液化した成分の少なくとも一部を反応器に供給するリサイクル装置を備えたものである。
【0079】
一般に、水平軸回りに回転する撹拌機を内部に有する横型重合反応器を用いた気相法プロセスで重合を行う場合は、反応器内の局部発熱などの影響による異常反応により、塊状ポリマー量が増大し、塊状ポリマーと撹拌機との物理接触により、微粉量が増大する傾向にある。
本発明のプロピレン系重合体の製造方法においては、反応器(リアクター)の触媒供給部分の温度と反応器内の混合ガスの露点との温度差を適正に制御し、更に好ましくは、反応器の領域間に温度差をつけ反応を適正に制御することにより、塊状ポリマーの発生、ひいては微粉の発生を抑制することができ、運転の安定性及び生産性などを向上できるという特徴を有している。
【0080】
反応器の並び方については、本発明の要旨を阻害しない限り任意の方法を用いることができる。反応器は一つでも複数でもよく、複数の場合は、直列に繋いでも良いし、並列に繋いでも良い。
特に好ましい例としては、2〜4槽の反応器を直列に繋いだ反応装置を例示することができる。特にプロピレンとその他のα−オレフィンとのブロック共重合体を製造する場合には、少なくとも直列に繋がった2槽の反応器を含む並び方にする方が好ましい。2槽以上の反応器の配置方法としては、特に制限はないが、水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型重合反応器が複数槽の場合には、上流の反応器の攪拌機の回転軸は、下流の反応器の攪拌機の回転軸と同じ又はより高い高さに配置、好ましくは、下流の反応器の攪拌機の回転軸より高い、ある一定の高さで配置するのが好ましい。
【0081】
槽数を増やすことなく滞留時間分布を狭くする方法としては、反応器の内部にパウダーの移動を制限する堰を設けることにより可能である。堰の形態としては、反応器に固定された固定堰を用いてもよいし、回転軸に固定された回転堰を用いてもよい。滞留時間は生産量に応じて任意に変えることもできる。
【0082】
触媒供給はいずれの位置よりも供給可能であるが、反応器上流部の上部より供給することが好ましい。触媒供給部は反応器の上流末端から下流方向へ、該反応器の長さの0〜15%、好ましくは2.5〜10%の領域に設置することが好ましい。2.5%以上であると、触媒が反応器の内壁に付着し難く、凝集体や塊状ポリマーの発生が抑制でき、運転安定性を高めることができる。10%以下であると、触媒の反応器内での滞留時間が短過ぎることがなく、活性の低下を抑えることができ、経済的に有利である。
【0083】
本発明の重合用触媒やその他の任意成分は、公知の方法を用いて反応器に供給することができる。重合用触媒についてはそのまま粉末状で反応器に供給してもよいが、ヘキサンやミネラルオイルなどの不活性溶媒を用いて希釈した上で供給してもよい。
また、有機アルミニウム化合物は、メタロセン系重合触媒やチーグラー系重合触媒と接触させた後に触媒中の成分として供給してもよく、これらの重合用触媒とは別に供給してもよい。
【0084】
4.気化熱による除熱
液化プロピレンの気化熱を用いて除熱を行う方法としては、任意の方法を用いることができる。
液化プロピレンの気化熱を用いて除熱を行うためには、実質的に液の状態にあるプロピレンを反応器に供給すればよい。フレッシュな液化プロピレンを反応器に供給することもできるが、一般的にはリサイクルプロピレンを用いることが望ましい。リサイクルプロピレンを用いる一般的な手順は以下に例示される。
【0085】
反応器からプロピレンを含むガスを抜き出し、そのガスを冷却して少なくとも一部を液化させ、液化した成分の少なくとも一部を反応器に供給する。この際、液化する成分はプロピレンを含む必要があるが、ブテンに代表されるコモノマー成分やイソブタンに代表される不活性炭化水素成分を含んでいてもよい。
液化プロピレンの供給方法は、実質的に液の状態にあるプロピレンを反応器に供給するものである限り任意の方法を用いることができる。プロピレン系重合体粒子のベッドに供給してもよいし、気相部に供給してもよい。気相部に供給する場合には、反応器内部の気相部に供給してもよいし、リサイクルガスラインに供給してもよい。特に、反応器内部の気相部に供給することが好ましい。
【0086】
本発明において、主に液化プロピレンの気化熱を用いて除熱を行うということは、液化プロピレンの気化熱だけを用いて除熱を行うことを意味しない。本発明の要旨を逸脱しない限り、他の除熱方法を併用することができる。具体的には、反応器に備え付けたジャケットを用いて除熱する方法、反応器からのガスの一部を抜き出して熱交換器により冷却し再びガスを反応器に戻す方法、などを例示することができる。ただし、本発明においては、液化プロピレンの気化熱を用いた除熱が主体である必要がある。具体的には、少なくとも一つの反応器において、除熱量の少なくとも半分を液化プロピレンの気化熱を用いて除熱する必要がある。
【0087】
III.重合反応器の構造と温度制御
定常運転状態では、横型重合反応器内は全体にポリマー床を形成し、重合反応は全ての領域において行われる。反応器の工業的に有用な長さ対直径比は2.0以上であるため、各領域に分け、温度制御を行うことが運転安定性の面から重要である。図2に例示されるように、反応器は一般的に上方部分に沿って間隔をおいて配置された液化プロピレン供給配管、底部に沿って間隔をおいて配置された混合ガス供給配管、及び示差温度計が設置されており、温度制御は主に上部配管の液化プロピレンの流量により個別に制御される。補助的に混合ガスの導入及び流量も制御因子として使用することも可能である。
【0088】
ここで横型重合反応器の一例について図1を用いて詳細に述べると、横型重合反応器10は細長く、上流末端12と下流末端14を持ち、図1に示すように、一般的には水平位置で設置されている。
本発明における横型重合槽の上流末端領域とは、上流末端を含む領域を、下流末端領域とは、下流末端を含み重合体抜き出し配管を備える領域を示すものである。温度は、反応器内に設置した示差温度計による指示値である。
軸20は重合槽10の下流末端14の中へ延び、撹拌の為の翼が重合槽10内で取り付けられている。撹拌翼はポリマー粒子を重合槽10内でその中へ導入される他物質と混合する。
【0089】
重合槽10の上流部配管1,2(必要に応じて1本の使用でも可能)より導入された触媒成分は、撹拌翼にてポリマー粒子と混合されながら、重合を開始する。配管1,2は、本発明の主旨に逸脱しない限り、任意の位置に設置することができる。重合の際に発生する重合熱は、頂部配管19から供給される原料液化プロピレンの気化熱により除去される。
未反応のプロピレンガスは配管13にて反応系外へ排出され、凝縮器15にてその一部分が凝縮され、気液分離槽11で液相と気相へ分離される。液相部は重合熱除去のため配管19へ再導入され、気相部は、分子量調節のための水素などと混合され、重合槽10底部に設置された配管18を経由して再供給される。ポリマー粒子は反応と混合をしながら重合槽内を上流部から下流部へ移動し、重合体抜き出し配管23にて反応系外へ排出される。
【0090】
本発明において、触媒供給部の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1(℃)(=Tx−Tz)が0℃以上5℃以下、好ましくは1℃以上3℃以下となるように重合反応を行う。
温度差ΔT1がこの範囲にあると、重合温度と露点とが近づき過ぎて、プロピレンガスが反応器内で凝縮して運転が不安定になったり、塊状ポリマーが発生し易くなったりすることを防止でき、また、露点に対して重合温度が高くなり過ぎて、触媒供給部のパウダー層の除熱に使用される液化プロピレンの量が少なくなり、触媒濃度が高く発熱量が大きな触媒供給部では、除熱不足から局部発熱により、生成ポリマーの融解などが発生し、塊状ポリマーが生成してしまうことを防止できる。また、急激な反応によりパウダーモルフォロジーが悪化し、撹拌及びガスの流動化による粉砕が生じやすくなること、特に撹拌時にパウダーの粉砕による微粉発生が多くなることを防止できる。
【0091】
本発明においては、透明性や低温ヒートシール性に優れた融点の低いポリマー、具体的には105℃以上140℃以下の融点をもつプロピレン系重合体を製造する場合に、特にその効果が顕著に現れる。このような低融点ポリマーは、融点が低く、融解し易いためである。このようなポリマーを製造する場合は、組成分布が狭いメタロセン系触媒が好んで使用される。
【0092】
なお、反応器内の混合ガスの露点(Tz)は、混合ガスのガスクロマトグラフィー分析値を用い、化学工学便覧改訂五版(丸善株式会社刊;第485頁)に記載の方法に従って、算出した。
【0093】
滞留時間、触媒供給部以外の反応圧力や温度の様な重合条件は、本発明の要旨を逸脱しない限り任意に設定することができる。
具体的には、重合圧力は好ましくは1,200kPa以上、更に好ましくは1,400kPa以上、特に好ましくは1,600kPa以上であり、好ましくは4,200kPa以下、更に好ましくは3,500kPa以下、特に好ましくは3,000kPa以下である。但し、重合圧力は重合温度におけるプロピレンの蒸気圧より高く設定するべきではない。一般に横型重合反応器は、ガス相は循環しているため、同一反応器内における重合圧力は一定に保持される。また、反応器に設置した堰形状により物理的に分割することも可能であり、同一器内で異なる圧力操作も可能である。
【0094】
滞留時間は反応器の構成や製品インデックスに合わせて任意に調整することができる。一般的には、30分から5時間の範囲内で設定される。
重合温度は、好ましくは0℃以上、更に好ましくは30℃以上、特に好ましくは40℃以上であり、好ましくは100℃以下、更に好ましくは90℃以下、特に好ましくは80℃以下である。
【0095】
更に、反応器の上流末端を含む領域の温度(Tα)と下流末端を含む領域の温度(Tω)が異なり、温度差ΔT2(℃)(=Tω−Tα)が2〜15℃であることを特徴とする。
また、単一重合器内では同一反応条件とすることが一般的だが、本発明では反応器を上流から下流方向にi個(iは2以上の任意の整数)の領域区分に分けたときに、本発明による横型重合反応器の上流末端領域から下流末端領域のn番目(nは1以上(i−1)以下の整数)の領域区分(n)とその隣接する下流部の領域区分(n+1)の各反応温度TnとTn+1がTn≦Tn+1である製造方法により、それぞれのメタロセン系重合触媒やチーグラー系重合触媒を用いた、重合特性に応じた重合温度制御を行うことが可能となり、局部発熱などによる除熱不良による塊状ポリマーの抑制などに有効である。
【0096】
本発明において領域区分は堰を用いた物理的な領域区分を示すのではなく、温度制御実施領域区分を示すものである。反応器内の重合温度は、反応器内に設置した示差温度計により、複数の領域区分(n)の反応器温度Tnを個別に異なる温度で制御することが可能である。
設置する示差温度計は反応器容積や反応形態などに応じて任意であるが、少なくとも反応器内の上流部、中流部、下流部を制御することが好ましく(i=3に相当する)、反応器最上流末端から下流方向へ、反応器の長さの0〜30%、30〜70%、70〜100
%までの間に示差温度計は少なくとも1本ずつ、3本以上を設置する、即ち、領域区分の数iは3以上であることが好ましい。
【0097】
本発明における上流末端を含む領域の温度(Tα)、下流末端を含む領域の温度(Tω)とはそれぞれ反応器の最上流、最下流末端領域に設置した示差温度計指示値を示すものである。
反応器上流末端を含む領域の反応温度(Tα)と下流末端を含む領域の温度(Tω)の温度差ΔT2(℃)(=Tω−Tα)が2℃以上15℃以下、好ましくは5℃以上15℃以下となるように重合反応を行う。2℃未満であると重合初期の反応抑制効果が低く、塊状ポリマーの抑制とパウダーモロフォロジー悪化による微細粒抑制効果が低くなり、運転制御が安定しない。また反応器下流部での温度上昇に伴う生産性向上の効果が充分に得られない。15℃を超えると単一器内における温度変化が大きくなってしまい、重合体の組成変化を引き起こす惧れがある。
反応器内において、触媒供給部が含まれる領域区分と上流末端領域区分が同一である必要はない。即ち、触媒供給部の温度(Tx)と反応器の領域区分における領域区分温度(T1=Tα)とが同一である必要はないことを示すものである。
【0098】
ここで横型重合反応器における温度制御の一例について図2を用いて詳細に述べる。横型重合反応器1は、上流末端2と下流末端3を持ち、領域を3区分で分割したものである。触媒成分は反応器の上流部配管4より供給される。
重合の際に、発生する反応熱は、頂部配管7から供給される原料液化プロピレンの気化熱により除去される。各領域区分における重合温度は、上部に特定の間隔を持って配置された原料液化プロピレンの供給配管からの流量、下部に特定の間隔を持って配置された原料混合ガス供給配管9からの、温度制御された混合ガス流量の組み合わせによって個別に制御されうる。各流量は操作弁8,10によって制御される。
【0099】
反応器上流末端から下流末端への温度設定方法は、本発明の要旨を逸脱しない限り任意に設定することができる。
図3,4には一例として領域区分i=10における温度設定方法が記載されている。図3では8領域にて、図4では3領域にて温度制御がなされている。
いずれの場合においても、重合初期の重合温度が相対的に低いことによる反応抑制効果と、重合中期から重合後期にかけての重合温度が相対的に高くなることによる生産性向上効果によって、塊状ポリマーの生成の抑制とパウダーモロフォロジー悪化による微粉生成の抑制効果、及び生産の効率化に有効である。図5に示す、一旦温度を低下し、途中の領域区分で温度を上げるような制御では、塊状ポリマーの抑制とパウダーモロフォロジー悪化による微粉生成の抑制効果が低いばかりでなく、パウダーの生産性が低下し経済的にも不利である。
【0100】
横型重合反応器で重合を行う場合、重合反応によるプロピレン系重合体の生成と機械的な撹拌の2つの力により、プロピレン系重合体の粒子は徐々に成長しながら重合槽の軸方向に沿って進んでいくため、フローパターンはピストンフロー型となる。そのため、プロピレン系重合体は同一反応器内で触媒供給口からパウダー排出口まで異なる温度履歴を受けることが可能である。
本発明による手法を取り入れることで、反応初期の緩慢な活性化が容易であり、メタロセン系重合触媒とチーグラー系重合触媒に関わらず、触媒供給部における局部的な発熱による無秩序な重合反応の抑制、特にプロピレンとエチレンやα−オレフィンとのランダム共重合における、急速な重合速度を生じ易いために生じる塊状ポリマーの生成の抑制、モルフォロジーの悪化した破砕され易いポリマーの生成と微粉の発生の抑制に有効な手段となる。
反応器内での塊状ポリマーと微粉の発生の抑制により生産の連続性と運転の安定性をより高めることも可能となる。また、触媒活性も高く保持され、製造コストも抑えることができて経済的である。
【実施例】
【0101】
以下に本発明を実施例及び比較例によって、更に具体的に説明し、各実施例のデータ及び各実施例と各比較例の対照により、本発明の構成の合理性と有意性及び従来技術に対する卓越性を実証する。本発明における各物性値の測定方法を以下に示す。
なお、以下の触媒合成工程及び重合工程は、全て精製窒素雰囲気下で行った。また、溶媒は、モレキュラーシーブMS−4Aで脱水したものを用いた。
【0102】
1.物性値の測定方法及び装置
(1)MFR
ポリプロピレン系重合体はJIS−K−6758により測定したメルトインデックス値を示す。
(2)ポリマー中のエチレン含有量
段落0030〜0036に前記した方法に従って測定した。
(3)ポリマーの融点(Tm)
パーキン・エルマー社製のDSC7型示差走査熱量分析計を用いて試料を室温から80℃/分の条件で230℃まで昇温し、同温度にて10分間保持後、−10℃/分にて50℃まで降温し、同温度にて3分間保持した後、10℃/分の昇温条件下で融解した時のピーク温度をもって融点(Tm)とした。
(4)塊状ポリマー量
ポリマー生成物を4,750μmの篩にかけ、篩を通過しなかったパウダーの重量%とした。
【0103】
2.実施例及び比較例
(実施例1)
(1)予備重合触媒の製造
珪酸塩の化学処理:10Lの撹拌翼の付いたガラス製セパラブルフラスコに、蒸留水3.75L、続いて濃硫酸(96%)2.5kgをゆっくりと添加した。50℃で、更にモンモリロナイト(水澤化学社製ベンクレイSL;平均粒径=50μm)を1kg分散させ、90℃に昇温し、6.5時間その温度を維持した。50℃まで冷却後、このスラリーを減圧濾過し、ケーキを回収した。このケーキに蒸留水を7L加え再スラリー化後、濾過した。この洗浄操作を、洗浄液(濾液)のpHが、3.5を越えるまで実施した。回収したケーキを窒素雰囲気下110℃で終夜乾燥した。乾燥後の質量は710gであった。化学処理した珪酸塩をキルン乾燥機で乾燥した。
【0104】
触媒の調製:内容積3Lの撹拌翼のついたガラス製反応器に上記で得た乾燥珪酸塩100gを導入し、混合ヘプタン580ml、更にトリエチルアルミニウムのヘプタン溶液(0.60M)420mlを加え、室温で撹拌した。1時間後、混合ヘプタンにて洗浄し、珪酸塩スラリーを2.0Lに調製した。次に、調製した珪酸塩スラリーにトリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液(0.71M/L)4.8mlを添加し、25℃で1時間反応させた。並行して、〔(r)−ジクロロ[1,1´−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル}]ジルコニウム〕(合成は特開平10−226712号公報実施例に従って実施した)1,090mg(1.5mmol)と混合ヘプタン870mlに、トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液(0.71M)を16.5ml加えて、室温にて1時間反応させた混合物を、珪酸塩スラリーに加え、1時間撹拌した。
【0105】
予備重合:続いて、窒素で充分置換を行った内容積10Lの撹拌式オートクレーブに、ノルマルヘプタン2.1Lを導入し、40℃に保持した。そこに先に調製した珪酸塩/メタロセン錯体スラリーを導入した。温度が40℃に安定したところでプロピレンを100g/hrの速度で供給し、温度を維持した。2時間後プロピレンの供給を停止し、更に2時間維持した。予備重合終了後、残モノマーをパージし、撹拌を停止させ約10分間静置後、上澄み約3Lをデカントした。続いてトリイソブチルアルミニウム(0.71M/L)のノルマルヘプタン溶液4.7ml、更にノルマルヘプタンを2.8L添加し、40℃で30分間撹拌し、10分間静置した後に、上澄みを2.8L除いた。更にこの操作を3回繰り返した。続いて、トリイソブチルアルミニウム(0.71M/L)のノルマルヘプタン溶液8.5mlを添加した後に、45℃で減圧乾燥した。この操作により触媒1g当たりポリプロピレン2.1gを含む予備重合触媒が得られた。
更に得られた予備重合触媒にノルマルヘキサンを加え、予備重合ポリマーを含まない触媒成分として0.8g/Lの触媒スラリーを調製した。
【0106】
(2)重合
添付した図1に示したフローシートによって説明する。1台の横型重合反応器を用い、気相重合を行った。重合器10は、内径D:340mm、長さL:1,260mm、回転軸の径:90mm、内容積:110Lの撹拌機を備えた連続式横型気相重合器(長さ/直径=3.7)である。
重合器10内を窒素ガスで置換後、シーズパウダーを35kg導入し、窒素ガスを3時間流通させた。その後、プロピレン、エチレン及び水素を導入しながら昇温し、重合条件が整った時点で、上流末端から160mmの位置に設置した配管1より上記で得られた予備重合触媒を、固体成分として1.2g/hr、また、上流末端から150mmの位置に設置した配管2よりトリイソブチルアルミニウムの15重量%n−ヘキサン溶液を15mmol/hrで連続的に供給した。また、重合器10内の水素濃度、エチレン濃度のプロピレン濃度に対する比がそれぞれ0.00035、0.06、示差温度計を上流末端からそれぞれ200、600、1,000mmに設置し領域を3区分で制御し、各温度をそれぞれ上流より53,56,59℃、重合器10内の圧力が2.20MPa、を保つようにプロピレンを供給し、また、水素とエチレンモノマーは循環配管4より連続的に供給した。この時の反応器内の露点(Tz)は50℃、触媒供給部の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1は3℃であった。反応熱は、原料プロピレン供給配管19から供給する原料プロピレンの気化熱により除去した。重合器10から排出される未反応ガスは、未反応ガス抜き出し配管13を通して反応器系外に抜き出し、冷却・凝縮させて原料液化プロピレン供給配管19を通して重合器10に還流した。
【0107】
重合器10内で生成したプロピレン−エチレンランダム共重合体の保有レベルが反応容積の60容量%となる様に重合体抜き出し配管23を通して重合器10から連続的に抜き出した。抜き出したパウダーは、ガス回収機22でガス類を分離し、パウダー部は回収機21に抜き出した。
プロピレン−エチレンランダム共重合体の単位時間当たりの生産量は7.0kg/hr、触媒効率は18,100g−PP/g−Catであった。
得られたプロピレン−エチレンランダム共重合体のMFR、エチレン含量、Tmの測定結果を表3にまとめて示す。
上記の運転を72時間で実施し、運転の安定性には全く問題が無いことを確認した。運転中に、反応器10から抜き出されるポリマー中に含まれる塊量を、4,750ミクロンの篩で篩い分けることによって、4時間毎に測定をした結果、塊状物量はいずれの時間もゼロであった。また、反応終了後に反応器内に残留していたポリマー中の塊状物量もゼロであった。
【0108】
(比較例1)
実施例1において、予備重合触媒のフィード量を固体成分として1.5g/hr、反応器10内の重合温度を全て60℃とした以外は同様の方法でプロピレン−エチレンランダム共重合体を製造した。このとき、反応器内の露点(Tz)は50℃、触媒供給部の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1は10℃であった。触媒効率は、14,500g−PP/g−Catであった。得られたパウダーの分析結果を表3にまとめて示す。
また、反応器10から抜き出されるポリマー中に含まれる塊状物量を、4,750ミクロンの篩で篩い分けることによって、4時間毎に測定をした結果、塊状物量は平均して0.8重量%であった。また、反応終了後に反応器内に残留していたポリマー中の塊状物量は5.5重量%であった。
【0109】
(実施例2)
実施例1において、予備重合触媒のフィード量を固体成分として1.7g/hr、水素とプロピレンの濃度比を0.00023、反応器10内の重合温度を上流より51,55,59℃、とした以外は同様の方法でプロピレン−エチレンランダム共重合体を製造した。このとき、反応器内の露点(Tz)は50℃、触媒供給部の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1は1℃であった。触媒効率は、12,800g−PP/g−Catであった。得られたパウダーの分析結果を表3にまとめて示す。
また、反応器10から抜き出されるポリマー中に含まれる塊状物量を、4,750ミクロンの篩で篩い分けることによって、4時間毎に測定をした結果、塊状物量はいずれの時間もゼロであった。また、反応終了後に反応器内に残留していたポリマー中の塊状物量もゼロであった。
【0110】
(実施例3)
実施例2において、予備重合触媒のフィード量を固体成分として2.5g/hr、反応器10内の重合温度を全て53℃とした以外は同様の方法でプロピレン−エチレンランダム共重合体を製造した。このとき、反応器内の露点(Tz)は50℃、触媒供給部の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1は3℃であった。触媒効率は、8,700g−PP/g−Catであった。得られたパウダーの分析結果を表3にまとめて示す。
また、反応器10から抜き出されるポリマー中に含まれる塊状物量を、4,750ミクロンの篩で篩い分けることによって、4時間毎に測定をした結果、塊状物量はいずれの時間もゼロであった。また、反応終了後に反応器内に残留していたポリマー中の塊状物量もゼロであった。
【0111】
(実施例4)
実施例1において、予備重合触媒のフィード量を固体成分として1.1g/hr、水素とプロピレンの濃度比を0.00009、エチレンとプロピレンの濃度比を0.10、反応器10内の重合温度を上流より51,55,59℃、とした以外は同様の方法でプロピレン−エチレンランダム共重合体を製造した。このとき、反応器内の露点(Tz)は48℃、触媒供給部の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1は3℃であった。触媒効率は、19,700g−PP/g−Catであった。得られたパウダーの分析結果を表3にまとめて示す。
また、反応器10から抜き出されるポリマー中に含まれる塊状物量を、4,750ミクロンの篩で篩い分けることによって、4時間毎に測定をした結果、塊状物量はいずれの時間もゼロであった。また、反応終了後に反応器内に残留していたポリマー中の塊状物量もゼロであった。
【0112】
(比較例2)
実施例4において、予備重合触媒のフィード量を固体成分として1.4g/hr、反応器10内の重合温度を全て55℃とした以外は同様の方法でプロピレン−エチレンランダム共重合体を製造した。このとき、反応器内の露点(Tz)は48℃、触媒供給部の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1は7℃であった。触媒効率は、13,500g−PP/g−Catであった。得られたパウダーの分析結果を表3にまとめて示す。また、反応器10から抜き出されるポリマー中に含まれる塊状物量を、4,750ミクロンの篩で篩い分けることによって、4時間毎に測定をした結果、塊状物量は平均して1.1重量%であった。また、反応終了後に反応器内に残留していたポリマー中の塊状物量は7.8重量%であった。
【0113】
(実施例5)
実施例1において、予備重合触媒のフィード量を固体成分として0.6g/hr、水素とプロピレンの濃度比を0.0009、エチレンとプロピレンの濃度比を0.26、反応器10内の重合温度を上流より47,50,55℃、とした以外は同様の方法でプロピレン−エチレンランダム共重合体を製造した。このとき、反応器内の露点(Tz)は45℃、触媒供給部の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1は2℃であった。触媒効率は、36,200g−PP/g−Catであった。得られたパウダーの分析結果を表3にまとめて示す。また、反応器10から抜き出されるポリマー中に含まれる塊状物量を、4,750ミクロンの篩で篩い分けることによって、4時間毎に測定をした結果、塊状物量はいずれの時間もゼロであった。また、反応終了後に反応器内に残留していたポリマー中の塊状物量もゼロであった。
【0114】
【表3】
【0115】
3.評価
実施例1と比較例1及び実施例4と比較例2の対照で、ΔT1が本願の範囲であれば塊状物が発生せず、安定な運転を維持できることを示している。
実施例2と実施例3との比較から、中間部及び下流部の温度を上げることによって触媒効率が上がり、より高活性な条件となることを示している。
実施例5で低Tmでも、ΔT1が本願の範囲であれば、塊が発生せず、安定運転が可能なことを示している。
以上の結果より、各実施例においては、各比較例に比して、水平軸回りに回転する撹拌機を内部に有する横型重合反応器の温度を効果的に制御することにより、塊状ポリマーの発生が抑制され、生産効率も高く、更に、低融点のポリマーが得られヒートシール性に富む、優れた結果が得られており、本発明の構成の合理性と有意性及び従来技術に対する卓越性を明示しているといえる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明のプロピレン系重合体の製造方法によれば、液化プロピレンの気化熱を利用して重合熱を除去する、水平軸回りに回転する撹拌機を内部に備えた横型重合反応器を用い、連続気相重合法によりプロピレン又はプロピレンとエチレンを含む他のα−オレフィンとを重合させてなるプロピレン系重合体の製造プロセスにおいて、塊状ポリマーや微粉状のポリマーの発生を抑制して、生産効率を高めると共に、更に、透明性や低温ヒートシール性に優れたプロピレン系重合体を、工業的かつ安定的に製造することができるので、連続気相重合法によりプロピレン又はプロピレンとエチレンを含む他のα−オレフィンとを重合させてなるプロピレン系重合体の製造プロセスにおいて、産業上の利用可能性が高いことが明らかである。
【符号の説明】
【0117】
図1;1及び2 触媒成分供給配管 3 原料プロピレン供給配管
4 原料供給配管(水素など) 10 反応器
11 気液分離槽 12 反応器上流末端
13 未反応ガス抜出し配管 14 反応器下流末端
15 凝縮機 16 圧縮機
17 ポンプ 18 原料混合ガス供給配管
19 原料液化プロピレン供給配管 20 撹拌機
21 パウダー回収機 22 ガス回収機
23 重合体抜出し配管 24 バグフィルター
図2;1 反応器 2 反応器上流末端
3 反応器下流末端 4 触媒成分供給配管
5 重合体抜出し配管 6 示差温度計
7 原料液化プロピレン供給配管 8 操作弁
9 原料混合ガス供給配管 10 操作弁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平軸回りに回転する撹拌機を内部に備えた横型重合反応器を用い、反応熱を主として液化プロピレンの気化熱により除去する連続気相重合法により、オレフィン重合用触媒の存在下で、プロピレン又はプロピレンと他のα−オレフィンとを重合させて、プロピレン系重合体を製造する方法において、該反応器は水平軸方向に2区分以上の異なる温度区分を設定することが可能であり、かつ触媒供給部が含まれる区分の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1(℃)(=Tx−Tz)が0〜5℃であることを特徴とする、プロピレン系重合体の製造方法。
【請求項2】
オレフィン重合用触媒として、メタロセン系化合物を担体に担持した重合触媒を用いることを特徴とする、請求項1に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
【請求項3】
担体として、粒形及び粒径の制御された担体を用いることを特徴とする、請求項2に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
【請求項4】
触媒供給部が反応器の上流末端を含む区分に含まれることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
【請求項5】
反応器の上流からn番目の区分の温度Tnとその隣接するn+1番目の区分の温度Tn+1が、Tn≦Tn+1であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
【請求項6】
反応器の上流末端を含む区分の温度(Tα)と下流末端を含む区分の温度(Tω)との温度差ΔT2(℃)(=Tω−Tα)が2〜15℃であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
【請求項7】
複数の領域区分(n)の反応温度Tnを個別に異なる温度で制御することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
【請求項8】
製造されるプロピレン系重合体の示差走査熱量測定(DSC)による融解ピーク温度Tmが、105〜140℃であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
【請求項1】
水平軸回りに回転する撹拌機を内部に備えた横型重合反応器を用い、反応熱を主として液化プロピレンの気化熱により除去する連続気相重合法により、オレフィン重合用触媒の存在下で、プロピレン又はプロピレンと他のα−オレフィンとを重合させて、プロピレン系重合体を製造する方法において、該反応器は水平軸方向に2区分以上の異なる温度区分を設定することが可能であり、かつ触媒供給部が含まれる区分の温度(Tx)と反応器内の混合ガスの露点(Tz)との温度差ΔT1(℃)(=Tx−Tz)が0〜5℃であることを特徴とする、プロピレン系重合体の製造方法。
【請求項2】
オレフィン重合用触媒として、メタロセン系化合物を担体に担持した重合触媒を用いることを特徴とする、請求項1に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
【請求項3】
担体として、粒形及び粒径の制御された担体を用いることを特徴とする、請求項2に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
【請求項4】
触媒供給部が反応器の上流末端を含む区分に含まれることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
【請求項5】
反応器の上流からn番目の区分の温度Tnとその隣接するn+1番目の区分の温度Tn+1が、Tn≦Tn+1であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
【請求項6】
反応器の上流末端を含む区分の温度(Tα)と下流末端を含む区分の温度(Tω)との温度差ΔT2(℃)(=Tω−Tα)が2〜15℃であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
【請求項7】
複数の領域区分(n)の反応温度Tnを個別に異なる温度で制御することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
【請求項8】
製造されるプロピレン系重合体の示差走査熱量測定(DSC)による融解ピーク温度Tmが、105〜140℃であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2011−148980(P2011−148980A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244795(P2010−244795)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】
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