説明

プロピレン重合体組成物成形体の製造方法

【課題】曲げ弾性と耐衝撃性とに優れたプロピレン重合体組成物成形体を工業的に有利に製造することができる方法を提供する。
【解決手段】オレフィン重合体を1〜45質量%の範囲の量、繊維状無機充填材を35〜80質量%の範囲の量、エラストマーを5〜45質量%の範囲の量、そして脂肪酸もしくは脂肪酸金属塩を0.3〜10.0質量%の範囲の量にて含む繊維状無機充填材含有マスターバッチペレットと、プロピレン重合体を30質量%以上の量にて含む希釈材とを、溶融混練機にて溶融混練してプロピレン重合体組成物を得て、次いで該プロピレン重合体組成物を成形機にて成形することからなるプロピレン重合体組成物成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン重合体組成物の成形体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の軽量化を目的として、その内装材や外装材に樹脂成形体を用いることが検討され、実施されている。このような目的に用いられる樹脂成形体の樹脂材料としては、熱可塑性で成形性に優れ、かつ熱安定性が高いプロピレン重合体を主基材とし、これに曲げ弾性や耐衝撃性の向上を目的として無機充填材やエラストマーを添加したプロピレン重合体組成物が知られている。
【0003】
プロピレン重合体組成物に用いる無機充填材としては、繊維状無機充填材と非繊維状無機充填材とが知られている。繊維状無機充填材としては塩基性硫酸マグネシウムやチタン酸カリウムが、そして非繊維状無機充填材としてはタルクやマイカが知られている。
【0004】
プロピレン重合体組成物成形体の曲げ弾性や耐衝撃性は、プロピレン重合体組成物の製造条件、例えば、各原料の混合方法によって変動する。
【0005】
特許文献1には、繊維状無機充填材と非繊維状無機充填材とエラストマーとを含むプロピレン重合体組成物成形体の製造方法として、プロピレン重合体と繊維状無機充填材とからなる繊維状無機充填材含有マスターバッチペレットを用いる方法が記載されている。すなわち、繊維状無機充填材含有マスターバッチペレットにプロピレン重合体と非繊維状無機充填材とエラストマーとを加えて溶融混練してプロピレン重合体組成物を製造し、次いでそのプロピレン重合体組成物を射出成形法により成形する方法である。この特許文献1によれば、繊維状無機充填材含有マスターバッチペレットを用いて製造したプロピレン重合体組成物の成形体は、マスターバッチペレットを用いずに、同一の割合で各原料を溶融混練して製造したプロピレン重合体組成物の成形体と比較して、曲げ弾性と耐衝撃性とのバランスに優れるとされている。
【特許文献1】特開2006−83369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動車のさらなる軽量化のために、内装材や外装材に用いるプロピレン重合体組成物成形体の軽量化(薄肉化)が望まれている。プロピレン重合体組成物成形体の薄肉化のためには、成形体の曲げ弾性や耐衝撃性を向上させることが必要である。
従って、本発明の目的は、曲げ弾性と耐衝撃性とに優れたプロピレン重合体組成物成形体を工業的に有利に製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、マスターバッチペレットの組成と、そのマスターバッチペレットを用いて製造したプロピレン重合体組成物成形体の曲げ弾性及び耐衝撃性との関係を研究した。その結果、マスターバッチペレットとして、オレフィン重合体、繊維状無機充填材、エラストマー、そして脂肪酸もしくは脂肪酸金属塩を所定の範囲の量で含む繊維状無機充填材含有マスターバッチペレットを用いると、曲げ弾性と耐衝撃性とに優れたプロピレン重合体組成物成形体が得られることを見出して本発明を完成した。
【0008】
従って、本発明は、オレフィン重合体を1〜45質量%の範囲の量、繊維状無機充填材を35〜80質量%の範囲の量、エラストマーを5〜45質量%の範囲の量、そして脂肪酸もしくは脂肪酸金属塩を0.3〜10.0質量%の範囲の量にて含む繊維状無機充填材含有マスターバッチペレットと、プロピレン重合体を30質量%以上の量にて含む希釈材とを、溶融混練機にて溶融混練してプロピレン重合体組成物を得て、次いで該プロピレン重合体組成物を成形機にて成形することからなるプロピレン重合体組成物成形体の製造方法にある。
【0009】
本発明のプロピレン重合体組成物成形体の製造方法の好ましい態様は次の通りである。
(1)繊維状無機充填材が繊維状塩基性硫酸マグネシウムである。
(2)上記(1)の繊維状塩基性硫酸マグネシウムが、平均繊維長が3〜30μmの範囲にあって、平均繊維径が0.1〜1.0μmの範囲にある。
(3)脂肪酸金属塩を含み、該脂肪酸金属塩がマグネシウム、カルシウム、リチウム及び亜鉛からなる群より選ばれる一種以上の金属の塩である。
(4)オレフィン重合体が、プロピレン重合体である。
(5)エラストマーが、エチレン−ブテン系エラストマー、エチレン−オクテン系エラストマー及びスチレン系エラストマーからなる群より選ばれる一種以上のエラストマーである。
(6)繊維状無機充填材含有マスターバッチペレットに含まれる繊維状無機充填材の量が、オレフィン重合体と繊維状無機充填材との合計量100質量部に対して73〜99質量部の範囲となる量である。
(7)希釈材が、プロピレン重合体を30〜80質量%の範囲の量、タルクを5〜40質量%の範囲の量、そしてエラストマーを5〜60質量%の範囲の量にて含む固形物混合体である。
(8)希釈材が、プロピレン重合体を30〜80質量%の範囲の量、タルクを5〜40質量%の範囲の量、そしてエラストマーを5〜60質量%の範囲の量にて含むタルク含有樹脂組成物からなるペレットである。
(9)希釈材が、プロピレン重合体からなる。
(10)繊維状無機充填材含有マスターバッチペレットと希釈材との割合が質量比で3:97〜55:45の範囲にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法を利用することによって、曲げ弾性と耐衝撃性とに優れたプロピレン重合体組成物成形体を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の製造方法において用いる繊維状無機充填材含有マスターバッチペレットは、オレフィン重合体、繊維状無機充填材、エラストマー、そして脂肪酸もしくは脂肪酸金属塩からなる。
【0012】
オレフィン重合体は、メルトフローレート(MFR:ASTM−D1238:温度230℃、荷重2.16kg)が3〜300g/10分の範囲にあることが好ましい。オレフィン重合体の例としては、エチレン重合体、プロピレン重合体及びエチレン−プロピレン共重合体を挙げることができる。これらは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。オレフィン重合体は、プロピレン重合体であることが好ましい。なお、本発明においてプロピレン重合体とは、本質的に結晶性のプロピレン単独重合体、及びプロピレン単位成分が50モル%以上である本質的に結晶性のプロピレンと1−オレフィン単量体との共重合体を意味する。オレフィン重合体単独の代わりに、後述の希釈材を用いてもよい。
【0013】
繊維状無機充填材含有マスターバッチペレット中のオレフィン重合体の含有量は、1〜45質量%の範囲、好ましくは1〜20質量%の範囲である。
【0014】
繊維状無機充填材の例としては、繊維状塩基性硫酸マグネシウム、水酸化マグネシウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、炭酸カルシウム繊維、炭素繊維、炭素中空繊維、ガラス繊維、金属繊維等が挙げられ、好ましくは繊維状塩基性硫酸マグネシウムである。繊維状無機充填材は、無処理のまま使用してもよいし、プロピレン重合体との界面接着性を向上させ、プロピレン重合体に対する分散性を向上させるため、通常、用いられるシランカップリング剤や高級脂肪酸金属塩で表面を処理して使用してもよい。高級脂肪酸金属塩としては、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛等が挙げられる。繊維状無機充填材の形態としては、粉状、フレーク状、顆粒状などが挙げられ、いずれの形態のものを用いてもよい。好ましくは、ハンドリングしやすいという観点から、顆粒状のものである。
【0015】
繊維状無機充填材として用いる繊維状塩基性硫酸マグネシウムは、平均繊維長が3〜30μmの範囲にあって、平均繊維径が0.1〜1.0μmの範囲にあることが好ましい。ここで繊維状塩基性硫酸マグネシウムの平均繊維長及び平均繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による拡大画像から測定した繊維長及び繊維径の平均値を意味する。
繊維状塩基性硫酸マグネシウムは、複数の繊維状粒子の集合体もしくは結合体であってもよい。
【0016】
繊維状無機充填材含有マスターバッチペレット中の繊維状無機充填材の含有量は、35〜80質量%の範囲、好ましくは50〜80質量%の範囲である。繊維状無機充填材の含有量はまた、オレフィン重合体と繊維状無機充填材との合計量100質量部に対して73〜99質量部の範囲となる量にあることが好ましく、80〜99質量部の範囲となる量にあることが特に好ましい。
【0017】
繊維状無機充填材含有マスターバッチペレットに用いるエラストマーは、エチレン−α−オレフィン共重合系エラストマー、及びスチレン系エラストマーであることが好ましい。
【0018】
エチレン−α−オレフィン共重合系エラストマーの例としては、エチレンとα−オレフィンとの共重合体、及びエチレンとα−オレフィンと非共役ジエンとの共重合体を挙げることができる。α−オレフィンの例としては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン及び1−オクテンを挙げることができる。非共役ジエンの例としては、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエン、ジシクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン及び7−メチル−1,6−オクタジエンを挙げることができる。
【0019】
エチレン−α−オレフィン共重合系エラストマーの具体例としては、エチレン−プロピレン共重合エラストマー(EPR)、エチレン−1−ブテン共重合エラストマー(EBR)、エチレン−1−オクテン共重合エラストマー(EOR)、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合エラストマー(EPDM)、エチレン−プロピレン−1−ブテン共重合エラストマー(EPBR)、エチレン−1−ブテン−非共役ジエン共重合エラストマー(EBDM)及びエチレン−プロピレン−1−ブテン−非共役ジエンエラストマー(EPBDM)を挙げることができる。これらのエチレン−α−オレフィン共重合系エラストマーの中で好ましいのは、エチレンと1−ブテンとを含むエチレン−ブテン系エラストマー及びエチレンと1−オクテンとを含むエチレン−オクテン系エラストマーである。
【0020】
エチレン−α−オレフィン共重合系エラストマーのメルトフローレート(MFR:ASTM−D1238:温度190℃、荷重2.16kg)は、通常0.1g/10分以上、好ましくは0.3〜20g/10分の範囲にある。
【0021】
スチレン系エラストマーの例としては、スチレン化合物重合体ブロックと共役ジエン共重合体ブロックからなるブロック共重合体、及びブロック共重合体の共役ジエン部分の二重結合が水素添加されているブロック共重合体を挙げることができる。
【0022】
スチレン系エラストマーの具体的としては、スチレン−ブタジエンブロック共重合エラストマー(SBR)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合エラストマー(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合エラストマー(SIS)、スチレン−エチレン−ブテン−スチレンブロック共重合エラストマー(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合エラストマー(SEPS)等のブロック共重合体、及びこれらのエラストマーを水素添加したブロック共重合体等を挙げることができる。
【0023】
スチレン系エラストマーのメルトフローレート(MFR:ASTM−D1238:温度230℃、荷重2.16kg)は、通常0.1g/10分以上、好ましくは0.1〜100g/10分の範囲、より好ましくは0.5〜20g/10分の範囲にある。
【0024】
エチレン−α−オレフィン共重合系エラストマー及びスチレン系エラストマーは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中ではEBR、EOR及びSEPSが好ましい。
【0025】
繊維状無機充填材含有マスターバッチペレット中のエラストマーの含有量は、5〜45質量%の範囲、好ましくは10〜40質量%の範囲である。
【0026】
脂肪酸は、炭素原子が12〜22の範囲にあることが好ましい。脂肪酸は飽和脂肪酸であってもよいし、不飽和脂肪酸であってもよい。飽和脂肪酸の例としては、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸及びベヘン酸を挙げることができる。不飽和脂肪酸の例としては、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸及びエルカ酸を挙げることができる。
【0027】
脂肪酸金属塩は、上記脂肪酸の金属塩であることが好ましい。脂肪酸金属塩は、マグネシウム塩、カルシウム塩、リチウム塩及び亜鉛塩であることが好ましく、マグネシウム塩であることが特に好ましい。
【0028】
脂肪酸及び脂肪酸金属塩は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
繊維状無機充填材含有マスターバッチペレット中の脂肪酸及び脂肪酸金属塩の含有量は、0.3〜10.0質量%の範囲、好ましくは0.5〜5.0質量%の範囲である。
【0030】
繊維状無機充填材含有マスターバッチペレットは円柱状であることが好ましく、そのサイズは直径が1〜5mmの範囲、長さが1〜5mmの範囲にあることが好ましい。ペレット50粒当たりの質量は、0.5〜5.0gの範囲にあることが好ましい。
【0031】
繊維状無機充填材含有マスターバッチペレットには、さらに、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、耐電防止剤、銅害防止剤、難燃剤、滑剤、中和剤、発泡剤、可塑剤、造核剤、気泡防止剤、架橋剤を添加してもよい。
【0032】
繊維状無機充填材含有マスターバッチペレットは、例えば、オレフィン重合体、繊維状無機充填材、エラストマー、そして脂肪酸もしくは脂肪酸金属塩を混合して、得られた混合物を溶融混練した後、ペレット状に成形することによって製造することができる。また、繊維状無機充填材を脂肪酸もしくは脂肪酸金属塩により表面処理して、表面が脂肪酸もしくは脂肪酸金属塩で被覆された被覆繊維状無機充填材を調製し、次いでこの被覆繊維状無機充填材、オレフィン重合体及びエラストマーを混合して、得られた混合物を溶融混練した後、ペレット状に成形する方法によっても製造することができる。
【0033】
本発明においては、上記の繊維状無機充填材含有マスターバッチペレットを、プロピレン重合体を30質量%以上の量にて含む希釈材と混合して、プロピレン重合体組成物成形体を製造する。希釈材は、プロピレン重合体の他に、非繊維状無機充填材及びエラストマーを含有していてもよい。
【0034】
希釈材として用いるプロピレン重合体は、メルトフローレート(MFR:ASTM−D1238:温度230℃、荷重2.16kg)が、3〜300g/10分の範囲にあることが好ましい。
【0035】
非繊維状無機充填材の例としては、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、クレー、アルミナ、シリカ、硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、ドロマイト、ドーソナイト、ガラスフレーク、ガラスバルーン、ガラスビーズ、ケイ酸カルシウム、スメクタイト、モンモリロナイト、ベントナイト、カオリナイト、カーボンブラック及び酸化チタンを挙げることができる。非繊維状無機充填材は、タルクであることが好ましい。
【0036】
非繊維状無機充填材は、平均粒子径が10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。ここで非繊維状無機充填材の平均粒子径は、レーザー回折法により測定した値を意味する。
【0037】
非繊維状無機充填材は無処理のまま使用してもよいし、プロピレン重合体との界面接着性を向上させ、プロピレン重合体に対する分散性を向上させるために、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、界面活性剤で表面を処理して使用してもよい。界面活性剤の例としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル及び脂肪酸塩類を挙げることができる。
【0038】
希釈材に用いるエラストマーの例としては、繊維状無機充填材含有マスターバッチペレットと同様に、エチレン−α−オレフィン共重合系エラストマー、スチレン系エラストマーを挙げることができる。
【0039】
希釈材には、さらに、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、耐電防止剤、銅害防止剤、難燃剤、滑剤、中和剤、発泡剤、可塑剤、造核剤、気泡防止剤、架橋剤を添加してもよい。
【0040】
希釈材の組成は、成形体の用途に合わせて選択することができる。高度な曲げ弾性と耐衝撃性とが要求される自動車の外装材(例、バンパー)を製造するのに用いる希釈材は、プロピレン重合体を30〜80質量%の範囲、タルクを5〜40質量%の範囲及びエラストマーを5〜60質量%の範囲にて含むタルク含有樹脂混合物からなることが好ましい。タルク含有樹脂混合物は、ドライブレンドにより混合して得られた固形物混合体であってもよいし、その固形物混合体を溶融混練して得られたタルク含有樹脂組成物であってもよい。また、高度な曲げ弾性が要求される自動車の内装材(例、ドアガーニッシュ)を製造するのに用いる希釈材は、プロピレン重合体単独からなることが好ましい。
【0041】
希釈材は、粉末状、フレーク状及びペレット状のいずれの形態であってもよい。
【0042】
本発明のプロピレン重合体組成物成形体の製造方法では、上記の繊維状無機充填材含有マスターバッチペレットと希釈材とを、溶融混練機にて溶融混練してプロピレン重合体組成物を得て、次いで得られたプロピレン重合体組成物を成形機にて成形する。
【0043】
繊維状無機充填材含有マスターバッチペレットと希釈材との混合割合は、3:97〜55:45の範囲にあることが好ましく、3:97〜20:80の範囲にあることが特に好ましい。
【0044】
繊維状無機充填材含有マスターバッチペレットと希釈材との溶融混練するための溶融混練機の例としては、一軸混練機、二軸混練機、バンバリーミキサ、ミキシングロールを挙げることができる。繊維状無機充填材含有マスターバッチペレットと希釈材とを溶融混練機に投入する前に、タンブラーやヘンシェルミキサー等の公知の混合装置を用いてドライブレンドで混合してもよい。
【0045】
繊維状無機充填材含有マスターバッチペレットと希釈材との溶融混練によって得られるプロピレン重合体組成物の形状には特に制限はなく、シート状、ペレット状、ストランド状とすることができる。
【0046】
プロピレン重合体組成物の成形に用いる成形機の例としては、圧延成形機(カレンダー成形機など)、真空成形機、押出成形機、射出成形機、ブロー成形機及びプレス成形機を挙げることができる。
【実施例】
【0047】
本実施例で製造したプロピレン重合体組成物成形体のアイゾット(ノッチ付き)衝撃強度、曲げ弾性率、荷重たわみ温度及び密度は、下記の方法により測定した。
【0048】
[アイゾット(ノッチ付き)衝撃強度]
ASTM−D256に規定された方法に従って測定した。測定温度は、−30℃とした。
【0049】
[曲げ弾性率]
ASTM−D790に規定された方法に従って測定した。
【0050】
[荷重たわみ温度]
ASTM−D648に規定された方法に従って測定した。
【0051】
[密度]
ASTM−D792に規定された方法に従って測定した。
【0052】
[実施例1]
(1)繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有マスターバッチペレットの製造
プロピレン・ブロック共重合体[MFR(温度230℃、荷重2.16kg):50g/10分]を10質量部、繊維状塩基性硫酸マグネシウム(平均繊維長:15μm、平均繊維径:0.5μm)を70質量部、SEPS[MFR(温度230℃、荷重2.16kg):5g/10分]を20質量部、ステアリン酸マグネシウムを1.47質量部の割合にてタンブラーに投入してドライブレンドした。得られた混合物を、二軸混練機に投入し、200℃の温度で溶融混練した後、ストランド状に押出した。得られた延伸ストランドを水冷して、ストランドカッター装置で切断して、繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有マスターバッチペレットを製造した。得られたペレットは、嵩密度が1.47g/cm3、直径が約3.4mmで長さが約2.0mmの円柱状であり、50粒当たりの質量は1.1gであった。
【0053】
(2)希釈材ペレットの製造
プロピレン・ブロック共重合体[MFR(温度230℃、荷重2.16kg):50g/10分]を62質量部、EBR[MFR(温度190℃、荷重2.16kg):5g/10分]を30質量部、タルク(平均粒子径:4.7μm)を8質量部、ステアリン酸カルシウムを0.1質量部の割合にてタンブラーに投入してドライブレンドした。得られた混合物を、二軸混練機に投入し、200℃の温度で溶融混練した後、ストランド状に押出し、得られた延伸ストランドをホットカット装置で切断して、タルク含有樹脂組成物からなる希釈材ペレットを製造した。得られたペレットは、嵩密度が0.96g/cm3、直径が約3.1mmで長さが約3.6mmの円柱状であり、50粒当たりの質量は1.0gであった。
【0054】
(3)プロピレン重合体組成物成形体の製造
上記(1)で製造した繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有マスターバッチペレットと、上記(2)で製造したタルク含有樹脂組成物からなる希釈材ペレットとを、質量比で7.2:92.8(前者:後者)の割合にてタンブラーに投入してドライブレンドした。得られたペレット混合物をタンデム式二軸混練機(NCM−30、(株)神戸製鋼所製)に投入し、200℃の温度で溶融混練してストランド状に押出した。得られた延伸ストランドを水冷した後、ストランドカッター装置で切断して、塩基性硫酸マグネシウムを5質量%含有するプロピレン重合体組成物ペレットを製造した。得られたプロピレン重合体組成物ペレットを射出成形機(J100SAII、(株)日本製鋼所製)に投入して、200℃の温度で溶融し射出成形して、物性評価用のプロピレン重合体組成物成形体を製造した。表1に、成形体の製造に用いた繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有マスターバッチペレットと希釈材ペレットの組成、成形体の原料配合比、成形体の組成、そして得られた成形体の物性(アイゾット衝撃強度、曲げ弾性率、荷重たわみ温度及び密度)を示す。
【0055】
[実施例2]
実施例1(1)の繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有マスターバッチペレットの製造において、プロピレン・ブロック共重合体の替わりに、実施例1(2)にて製造した希釈材ペレットを使用したこと以外は、実施例1と同様にして物性評価用のプロピレン重合体組成物成形体を製造した。表1に、成形体の製造に用いた繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有マスターバッチペレットと希釈材ペレットの組成、成形体の原料配合比、成形体の組成、そして得られた成形体の物性を示す。
【0056】
[実施例3]
実施例1(1)の繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有マスターバッチペレットの製造において、プロピレン・ブロック共重合体の替わりに、実施例1(2)にて製造した希釈材ペレットを使用し、併せてSEPSの替わりにEBRを使用したこと以外は、実施例1と同様にして物性評価用のプロピレン重合体組成物成形体を製造した。表1に、成形体の製造に用いた繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有マスターバッチペレットと希釈材ペレットの組成、成形体の原料配合比、成形体の組成、そして得られた成形体の物性を示す。
【0057】
[比較例1]
実施例1(1)の繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有マスターバッチペレットの製造において、プロピレン・ブロック共重合体及びSEPSの替わりに、プロピレン・ホモ重合体[MFR(温度230℃、荷重2.16kg):50g/10分]を使用し、(3)プロピレン重合体組成物成形体の製造において、繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有マスターバッチペレットと希釈材ペレットとEBRとSEPSをそれぞれ質量比で、7.2:90.8:0.6:1.4となる割合にてドライブレンドして、ペレット混合物を得たこと以外は、実施例1と同様にして物性評価用のプロピレン重合体組成物成形体を製造した。表1に、成形体の製造に用いた繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有マスターバッチペレットと希釈材ペレットの組成、成形体の原料配合比、成形体の組成、そして得られた成形体の物性を示す。
【0058】
[比較例2]
実施例1(1)の繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有マスターバッチペレットの製造において、プロピレン重合体及びSEPSの替わりに、プロピレン・ホモ重合体[MFR(温度230℃、荷重2.16kg):50g/10分]を使用したこと以外は、実施例1と同様にして物性評価用のプロピレン重合体組成物成形体を製造した。表1に、成形体の製造に用いた繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有マスターバッチペレットと希釈材ペレットの組成、成形体の原料配合比、成形体の組成、そして得られた成形体の物性を示す。
【0059】
[参考例1]
実施例1の(2)で製造した希釈材ペレットを射出成形機(J100SAII、(株)日本製鋼所製)に投入して、200℃の温度で溶融し射出成形して、物性評価用のプロピレン重合体組成物成形体を製造した。表1に、得られた成形体の物性を示す。
【0060】
表1
────────────────────────────────────────
実施例1 実施例2 実施例3 比較例1 比較例2 参考例1
────────────────────────────────────────
繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有
マスターバッチペレットの組成(質量%)
MOS 69.0 69.0 69.0 69.0 69.0 使用せず
プロピレン重合体 9.9 6.1 6.1 29.6 29.6
EBR 0 3.0 22.7 0 0
SEPS 19.7 19.7 0 0 0
タルク 0 0.8 0.8 0 0
ステアリン酸
マグネシウム 1.4 1.4 1.4 1.4 1.4
────────────────────────────────────────
希釈材ペレットの組成(質量%)
プロピレン・ブロック
重合体 61.9 61.9 61.9 61.9 61.9 61.9
EBR 30.0 30.0 30.0 30.0 30.0 30.0
タルク 8.0 8.0 8.0 8.0 8.0 8.0
ステアリン酸
カルシウム 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1
────────────────────────────────────────
成形体の原料配合比(質量比)
マスターバッチ
ペレット 7.2 7.2 7.2 7.2 7.2 0
希釈材ペレット 92.8 92.8 92.8 90.8 92.8 100
EBR 0 0 0 0.6 0 0
SEPS 0 0 0 1.4 0 0
────────────────────────────────────────
成形体の組成(質量%)
MOS 5.0 5.0 5.0 5.0 5.0 0
PP重合体 58.2 57.8 59.2 58.3 59.6 61.9
EBR 27.8 28.1 28.1 27.8 27.8 30.0
SEPS 1.4 1.4 0 1.4 0 0
タルク 7.4 7.5 7.5 7.3 7.4 8.0
ステアリン酸
マグネシウム 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0
ステアリン酸
カルシウム 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1
────────────────────────────────────────
成形体の物性
曲げ弾性率
(MPa) 2146 2138 2189 2108 2239 1749
アイゾット衝撃強度
(J/M) 163 170 152 133 116 123
荷重たわみ温度
(℃) 118 118 118 118 120 117
密度
(g/cm3) 0.985 0.984 0.987 0.986 0.985 0.956
────────────────────────────────────────
1)MOSは、繊維状塩基性硫酸マグネシウムを意味する。
2)繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有マスターバッチペレットのプロピレン重合体は、実施例1〜3はプロピレン・ブロック共重合体であり、比較例1、2はプロピレン・ホモ重合体である。
【0061】
表1の結果から明らかなように、繊維状塩基性硫酸マグネシウムとタルクとエラストマーを含む成形体(実施例1〜3、比較例1、2)は、タルクとエラストマーを含む成形体(参考例1)と比較して曲げ弾性率が顕著に高い値を示す。さらに、本発明に従う繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有マスターバッチペレットを用いて維状塩基性硫酸マグネシウムを添加した成形体(実施例1〜3)は、エラストマーを含まない繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有マスターバッチペレットを用いて維状塩基性硫酸マグネシウムを添加した成形体(比較例1、2)と比較してアイゾット衝撃強度が顕著に向上する。
【0062】
[実施例4]
実施例1(3)のプロピレン重合体組成物成形体の製造において、希釈材ペレットに、プロピレン・ブロック共重合体[MFR(温度230℃、荷重2.16kg):45g/10分]からなるプロピレン重合体ペレットを使用したこと以外は、実施例1と同様にして物性評価用のプロピレン重合体組成物成形体を製造した。プロピレン重合体ペレットは、嵩密度が0.91g/cm3、直径が約3.4mmで長さが約4.6mmの円柱状であり、50粒当たりの質量は1.9gであった。表2に、成形体の製造に用いた繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有マスターバッチペレットと希釈材ペレットの組成、成形体の原料配合比、成形体の組成、そして得られた成形体の物性を示す。
【0063】
[比較例3]
実施例1(1)の繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有マスターバッチペレットの製造において、プロピレン・ブロック共重合体及びSEPSの替わりに、プロピレン・ホモ重合体[MFR(温度230℃、荷重2.16kg):50g/10分]を使用し、(3)のプロピレン重合体組成物成形体の製造において、希釈材ペレットに、実施例4で用いたプロピレン・ブロック共重合体からなるプロピレン重合体ペレットを使用し、併せて繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有マスターバッチペレットと希釈材ペレットとSEPSとをそれぞれ質量比で、7.2:91.4:1.4となる割合にてドライブレンドして、ペレット混合物を得たこと以外は、実施例1と同様にして物性評価用のプロピレン重合体組成物成形体を製造した。表2に、成形体の製造に用いた繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有マスターバッチペレットと希釈材ペレットの組成、成形体の原料配合比、成形体の組成、そして得られた成形体の物性を示す。
【0064】
[参考例2]
実施例4で用いたプロピレン重合体ペレットを射出成形機(J100SAII、(株)日本製鋼所製)に投入して、200℃の温度で溶融し射出成形して、物性評価用のプロピレン重合体組成物成形体を製造した。表2に、得られた成形体の物性を示す。
【0065】
表2
────────────────────────────────────────
実施例4 比較例3 参考例2
────────────────────────────────────────
繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有
マスターバッチペレットの組成(質量%)
MOS 69.0 69.0 使用せず
プロピレン重合体 9.9 29.6
SEPS 19.7 0
ステアリン酸
マグネシウム 1.4 1.4
────────────────────────────────────────
希釈材ペレットの組成(質量%)
プロピレン・ブロック共重合体 100 100 100
────────────────────────────────────────
成形体の原料配合比(質量比)
マスターバッチペレット 7.2 7.2 0
希釈材ペレット 92.8 91.4 100
SEPS 0 1.4 0
────────────────────────────────────────
成形体の組成(質量%)
MOS 5.0 5.0 0
プロピレン重合体 93.5 93.5 100
SEPS 1.4 1.4 0
ステアリン酸マグネシウム 0.1 0.1 0
────────────────────────────────────────
成形体の物性
曲げ弾性率
(MPa) 2388 2334 1880
アイゾット衝撃強度
(J/M) 48 33 33
荷重たわみ温度
(℃) 135 136 135
密度
(g/cm3) 0.927 0.929 0.902
────────────────────────────────────────
1)MOSは、繊維状塩基性硫酸マグネシウムを意味する。
2)繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有マスターバッチペレットのプロピレン重合体は、実施例4はプロピレン・ブロック共重合体であり、比較例3はプロピレン・ホモ重合体である。
【0066】
表2の結果から明らかなように、繊維状塩基性硫酸マグネシウムとエラストマーを含む成形体(実施例4、比較例3)は、タルクとエラストマーを含む成形体(参考例2)と比較して曲げ弾性率が顕著に高い値を示す。さらに、本発明に従う繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有マスターバッチペレットを用いて維状塩基性硫酸マグネシウムを添加した成形体(実施例4)は、エラストマーを含まない繊維状塩基性硫酸マグネシウム含有マスターバッチペレットを用いて維状塩基性硫酸マグネシウムを添加した成形体(比較例3)と比較してアイゾット衝撃強度が顕著に向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン重合体を1〜45質量%の範囲の量、繊維状無機充填材を35〜80質量%の範囲の量、エラストマーを5〜45質量%の範囲の量、そして脂肪酸もしくは脂肪酸金属塩を0.3〜10.0質量%の範囲の量にて含む繊維状無機充填材含有マスターバッチペレットと、プロピレン重合体を30質量%以上の量にて含む希釈材とを、溶融混練機にて溶融混練してプロピレン重合体組成物を得て、次いで該プロピレン重合体組成物を成形機にて成形することからなるプロピレン重合体組成物成形体の製造方法。
【請求項2】
繊維状無機充填材が繊維状塩基性硫酸マグネシウムである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
繊維状塩基性硫酸マグネシウムが、平均繊維長が3〜30μmの範囲にあって、平均繊維径が0.1〜1.0μmの範囲にある請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
脂肪酸金属塩を含み、該脂肪酸金属塩がマグネシウム、カルシウム、リチウム及び亜鉛からなる群より選ばれる一種以上の金属の塩である請求項1乃至3のうちのいずれかの項に記載の製造方法。
【請求項5】
オレフィン重合体が、プロピレン重合体である請求項1乃至4のうちのいずれかの項に記載の製造方法。
【請求項6】
エラストマーが、エチレン−ブテン系エラストマー、エチレン−オクテン系エラストマー及びスチレン系エラストマーからなる群より選ばれる一種以上のエラストマーである請求項1乃至5のうちのいずれかの項に記載の製造方法。
【請求項7】
繊維状無機充填材含有マスターバッチペレットに含まれる繊維状無機充填材の量が、オレフィン重合体と繊維状無機充填材との合計量100質量部に対して73〜99質量部の範囲となる量である請求項1乃至6のうちのいずれかの項に記載の製造方法。
【請求項8】
希釈材が、プロピレン重合体を30〜80質量%の範囲の量、タルクを5〜40質量%の範囲の量、そしてエラストマーを5〜60質量%の範囲の量にて含む固形物混合体である請求項1乃至7のうちのいずれかの項に記載の製造方法。
【請求項9】
希釈材が、プロピレン重合体を30〜80質量%の範囲の量、タルクを5〜40質量%の範囲の量、そしてエラストマーを5〜60質量%の範囲の量にて含むタルク含有樹脂組成物からなるペレットである請求項1乃至7のうちのいずれかの項に記載の製造方法。
【請求項10】
希釈材が、プロピレン重合体からなる請求項1乃至7のうちのいずれかの項に記載の製造方法。
【請求項11】
繊維状無機充填材含有マスターバッチペレットと希釈材との割合が質量比で3:97〜55:45の範囲にある請求項1乃至10のうちのいずれかの項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−90198(P2010−90198A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258940(P2008−258940)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000119988)宇部マテリアルズ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】