説明

プーリアッセンブリー圧入方法、及び、プーリアッセンブリー圧入装置

【課題】ドライブプーリ及びドリブンプーリにベルトを巻き掛けて形成されるアッセンブリーをミッションケースに圧入する際に、ドライブプーリ及びドリブンプーリの軸方向の相対位置がずれないように圧入できるようにする。
【解決手段】入力軸11に装着されるドライブプーリ20と、出力軸12に装着されるドリブンプーリ30と、これらプーリ20,30に巻き掛けられるVベルト13とを有するプーリアッセンブリー15をミッションケース40に圧入するプーリアッセンブリー圧入方法において、入力軸11と出力軸12との軸間距離、及び、Vベルト13の位置を固定治具53で固定するアッセンブリー固定工程と、固定治具53で固定されたプーリアッセンブリー15をミッションケース40に移動し、ミッションケース40に圧入する圧入工程と、固定治具53を取り外す治具取り外し工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プーリアッセンブリーをミッションケースに圧入するプーリアッセンブリー圧入方法、及び、プーリアッセンブリー圧入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、入力軸に設けられるドライブプーリと、出力軸に設けられるドリブンプーリと、ドライブプーリとドリブンプーリとの間に巻き掛けられるベルトとを備えたCVT式の無段変速機の組立て工程において、ドライブプーリの油圧室を真空引きすることで油圧室のスプリングに抗してドライブプーリを移動させてドライブプーリの溝幅を拡大し、ベルトの組付性を向上させたものが知られている(例えば、特許文献1)。この種の無段変速機では、ドライブプーリ及びドリブンプーリにベルトを巻き掛けてアッセンブリー体を形成し、このアッセンブリー体の入力軸及び出力軸をベルトが両プーリに巻き掛けられた状態で軸方向に同時に押圧し、ミッションケースに圧入していくことで、組立てが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許2681595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記CVT式の無段変速機では、上記アッセンブリー体をミッションケースに圧入していく際に、ドライブプーリ及びドリブンプーリの軸方向の相対位置が大きくずれないようにして、ベルトが両プーリの溝に強く当接することを防止する必要がある。しかし、ドライブプーリ及びドリブンプーリは製造上の寸法誤差を有するため、両プーリを軸方向に押圧して圧入していく際に、寸法誤差の分だけ両プーリの軸方向の相対位置がずれてしまう虞がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、ドライブプーリ及びドリブンプーリにベルトを巻き掛けて形成されるアッセンブリーをミッションケースに圧入する際に、ドライブプーリ及びドリブンプーリの軸方向の相対位置がずれないように圧入できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、入力軸に装着されるドライブプーリと、出力軸に装着されるドリブンプーリと、ドライブプーリ及びドリブンプーリに巻き掛けられる金属ベルトとを有するプーリアッセンブリーをミッションケースに圧入するプーリアッセンブリー圧入方法において、前記入力軸と前記出力軸との軸間距離、及び、金属ベルト位置を治具で固定するアッセンブリー固定工程と、前記治具で固定された前記プーリアッセンブリーを前記ミッションケースに移動し、前記ミッションケースに圧入する圧入工程と、圧入された前記プーリアッセンブリーから前記治具を取り外す治具取り外し工程とを有することを特徴とする。
この構成によれば、入力軸と出力軸との軸間距離、及び、金属ベルト位置を治具で固定するアッセンブリー固定工程と、治具で固定されたプーリアッセンブリーをミッションケースに移動し、ミッションケースに圧入する圧入工程と、圧入されたプーリアッセンブリーから治具を取り外す治具取り外し工程とを有し、入力軸と出力軸との軸間距離、及び、金属ベルト位置を治具で固定した状態でプーリアッセンブリーをミッションケースに移動して圧入するため、ドライブプーリ及びドリブンプーリの軸方向の相対位置がずれないようにプーリアッセンブリーをミッションケースに圧入できる。また、圧入されたプーリアッセンブリーから治具を取り外すため、後工程で治具が邪魔にならないとともに、治具を繰り返して効率良く使用できる。
【0006】
また、上記構成において、前記圧入工程では、前記ミッションケースに圧入される側の入力軸端部及び出力軸端部を、突き当て部材に突き当てて圧入基準位置に位置させた後、前記治具による固定を解除して、圧入される側の前記入力軸端部及び前記出力軸端部とは反対側の軸端部にそれぞれ独立した加圧ヘッドを突き当てることにより、前記入力軸及び前記出力軸の寸法誤差を補正し、前記プーリアッセンブリーを前記ミッションケースに圧入する構成としても良い。
この場合、圧入工程では、ミッションケースに圧入される側の入力軸端部及び出力軸端部を、突き当て部材に突き当てて圧入基準位置に位置させた後、治具による固定を解除するため、治具による固定を解除しても突き当て部材によって圧入基準位置を維持でき、その後、圧入される側の入力軸端部及び出力軸端部とは反対側の軸端部にそれぞれ独立した加圧ヘッドを突き当てることにより、入力軸及び出力軸の寸法誤差を補正し、プーリアッセンブリーをミッションケースに圧入するため、入力軸及び出力軸の軸方向の寸法誤差を補正した状態で圧入でき、ドライブプーリ及びドリブンプーリの軸方向の相対位置がずれないように圧入することができる。
【0007】
また、前記加圧ヘッドで圧入を行う際、前記突き当て部材は、ミッションケース孔部から前記プーリアッセンブリー側に突出しており、前記入力軸及び前記出力軸が突き当てられた後、前記ミッションケース孔部に収容される方向に移動し、それに伴い前記入力軸及び前記出力軸も前記ミッションケース孔部に圧入される構成としても良い。
この場合、加圧ヘッドで圧入を行う際、突き当て部材は、ミッションケース孔部からプーリアッセンブリー側に突出しており、入力軸及び出力軸が突き当てられた後、ミッションケース孔部に収容される方向に移動し、それに伴い入力軸及び出力軸もミッションケース孔部に圧入されるため、突き当て部材を入力軸及び出力軸に容易に突き当てできるとともに、突き当て部材を突き当てた状態でミッションケース孔部に安定して圧入できる。
【0008】
また、本発明は、入力軸に装着されるドライブプーリと、出力軸に装着されるドリブンプーリと、ドライブプーリ及びドリブンプーリに巻き掛けられる金属ベルトとを有するプーリアッセンブリーをミッションケースに圧入するプーリアッセンブリー圧入方法において、前記ミッションケースに圧入される側の入力軸端部及び出力軸端部を、突き当て部材に突き当てて圧入基準位置に位置させた後、圧入される側の前記入力軸端部及び前記出力軸端部とは反対側の軸端部にそれぞれ独立した加圧ヘッドを突き当てることにより、前記入力軸及び前記出力軸の寸法誤差を補正し、前記プーリアッセンブリーを前記ミッションケースに圧入する構成としても良い。
この場合、ミッションケースに圧入される側の入力軸端部及び出力軸端部を、突き当て部材に突き当てて圧入基準位置に位置させた後、圧入される側の入力軸端部及び出力軸端部とは反対側の軸端部にそれぞれ独立した加圧ヘッドを突き当てることにより、入力軸及び出力軸の寸法誤差を補正し、プーリアッセンブリーをミッションケースに圧入するため、入力軸及び出力軸の軸方向の寸法誤差を補正した状態で圧入でき、ドライブプーリ及びドリブンプーリの軸方向の相対位置がずれないように圧入することができる。
【0009】
さらに、本発明は、入力軸に装着されるドライブプーリと、出力軸に装着されるドリブンプーリと、ドライブプーリ及びドリブンプーリに巻き掛けられる金属ベルトとを有するプーリアッセンブリーをミッションケースに圧入するプーリアッセンブリー圧入装置において、前記入力軸と前記出力軸との軸間距離、及び、金属ベルト位置を固定する固定機構と、前記ミッションケースに圧入される側の入力軸端部及び出力軸端部を突き当て、圧入基準位置に揃える突き当て部材と、圧入される側の前記入力軸端部及び前記出力軸端部とは反対側の軸端部にそれぞれ独立して突き当てて前記入力軸及び前記出力軸の寸法誤差を補正するとともに、前記入力軸及び前記出力軸を前記ミッションケースに圧入する加圧ヘッドとを有することを特徴とする。
この場合、入力軸と出力軸との軸間距離、及び、金属ベルト位置を固定機構で固定し、入力軸端部及び出力軸端部を突き当て部材に突き当てて圧入基準位置に揃え、圧入される側の入力軸端部及び出力軸端部とは反対側の軸端部にそれぞれ独立して加圧ヘッド突き当てて入力軸及び出力軸の寸法誤差を補正するため、入力軸及び出力軸の軸方向の寸法誤差を補正した状態で圧入でき、ドライブプーリ及びドリブンプーリの軸方向の相対位置がずれないように圧入することができる。
【0010】
また、前記突き当て部材が、前記入力軸端部及び前記出力軸端部が圧入されるミッションケース孔部から出没自在に設けられている構成としても良い。
この場合、突き当て部材が、入力軸端部及び出力軸端部が圧入されるミッションケース孔部から出没自在であるため、入力軸端部及び出力軸端部を突き当て部材に突き当てた状態でミッションケース孔部に圧入でき、安定して圧入できる。
【0011】
また、前記固定機構は、前記入力軸及び出力軸を狭持する狭持部材と、当該狭持部材を前記入力軸及び前記出力軸の中心方向に押し当てる弾性部材と、外力を受けることにより前記狭持部材の狭持状態を解除する狭持解除機構とを有する構成としても良い。
この場合、固定機構は、入力軸及び出力軸を狭持する狭持部材と、狭持部材を入力軸及び出力軸の中心方向に押し当てる弾性部材と、外力を受けることにより狭持部材の狭持状態を解除する狭持解除機構とを有し、弾性部材で狭持部材を押し当てて入力軸及び出力軸を把持するため、固定機構を簡単な構造で構成できる。また、入力軸及び出力軸の狭持に電力を使用しないため、電力の供給が断たれたとしても入力軸及び出力軸の把持が解除されることがなく、特別なフェールセーフ機構を設ける必要がない。
さらに、前記狭持部材は、V型の溝が形成されており、当該V型の溝が形成された一対の前記狭持部材で前記入力軸及び前記出力軸をそれぞれ狭持する構成としても良い。
この場合、V型の溝が形成された一対の狭持部材で入力軸及び出力軸を狭持することで、入力軸及び出力軸を位置決めしつつ確実に固定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプーリアッセンブリー圧入方法によれば、入力軸と出力軸との軸間距離、及び、金属ベルト位置を治具で固定した状態でプーリアッセンブリーをミッションケースに移動して圧入するため、ドライブプーリ及びドリブンプーリの軸方向の相対位置がずれないようにプーリアッセンブリーをミッションケースに圧入できる。
また、圧入される側の入力軸端部及び出力軸端部とは反対側の軸端部にそれぞれ独立した加圧ヘッドを突き当てることにより、入力軸及び出力軸の寸法誤差を補正し、プーリアッセンブリーをミッションケースに圧入するため、入力軸及び出力軸の軸方向の寸法誤差を補正した状態で圧入でき、ドライブプーリ及びドリブンプーリの軸方向の相対位置がずれないように圧入することができる。
【0013】
また、突き当て部材を入力軸及び出力軸に容易に突き当てできるとともに、突き当て部材を突き当てた状態でミッションケース孔部に安定して圧入できる。
さらに、本発明のプーリアッセンブリー圧入装置によれば、圧入される側の入力軸端部及び出力軸端部とは反対側の軸端部にそれぞれ独立して加圧ヘッド突き当てて入力軸及び出力軸の寸法誤差を補正するため、入力軸及び出力軸の軸方向の寸法誤差を補正した状態で圧入でき、ドライブプーリ及びドリブンプーリの軸方向の相対位置がずれないように圧入することができる。
また、突き当て部材が、入力軸端部及び出力軸端部が圧入されるミッションケース孔部から出没自在であるため、入力軸端部及び出力軸端部を突き当て部材に突き当てた状態でミッションケース孔部に圧入でき、安定して圧入できる。
【0014】
また、固定機構は、弾性部材で狭持部材を押し当てて入力軸及び出力軸を把持するため、固定機構を簡単な構造で構成できる。また、入力軸及び出力軸の狭持に電力を使用しないため、電力の供給が断たれたとしても入力軸及び出力軸の把持が解除されることがなく、特別なフェールセーフ機構を設ける必要がない。
さらに、V型の溝が形成された一対の狭持部材で入力軸及び出力軸を狭持することで、入力軸及び出力軸を位置決めしつつ確実に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係る無段変速機の断面図である。
【図2】CVTをミッションケースに圧入する製造ラインを示す図である。
【図3】CVTをミッションケースに圧入する手順を示す図である。
【図4】固定治具の側面図である。
【図5】クランパーを上方から見た平面図である。
【図6】圧入装置の正面図である。
【図7】圧入装置による圧入工程の模式図である。
【図8】圧入装置による圧入の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係るプーリアッセンブリー圧入方法、及び、プーリアッセンブリー圧入装置について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る無段変速機の断面図である。
無段変速機1は、車両に搭載されるCVT(Continuous Variable Transmission、以下では「CVT」と言う。)であり、トルクコンバータ(不図示)等を介して車両のエンジン(不図示)に連結されている。上記エンジンからの出力は、CVT1の入力軸11に入力される。
【0017】
CVT1は、入力軸11上に装着されるドライブプーリ20と、入力軸11に平行な出力軸12上に装着されるドリブンプーリ30と、ドライブプーリ20とドリブンプーリ30との間に巻き掛けられる金属製のVベルト13(金属ベルト)とを備えて構成され、ミッションケース40に収容される。
【0018】
ドライブプーリ20は、入力軸11上に一体に形成された固定プーリ半体21と、固定プーリ半体21と一体回転するとともに固定プーリ半体21に対して接近・離反するように入力軸11の軸方向に移動可能に設けられた可動プーリ半体22とを備えている。
可動プーリ半体22は、Vベルト13の側面に当接する当接面22Aを有する可動プレート23と、可動プレート23に嵌合し、可動プレート23との間に油圧室24を形成する隔壁25とを有している。可動プレート23は、油圧室24に供給される油圧によって移動する。
【0019】
固定プーリ半体21は、Vベルト13の側面に当接する当接面21Aを有し、断面V字状となるように対向する当接面21A,22Aによって、Vベルト13が保持されるV溝部26が形成されている。
入力軸11は、ミッションケース40に圧入されるミッションケース側軸部11A(入力軸端部)と、ミッションケース側軸部11Aの反対側で変速機のケース(不図示)に軸支される軸部11B(反対側の軸端部)とを有している。可動プーリ半体22は、ミッションケース側軸部11A側に設けられている。
【0020】
ドリブンプーリ30は、出力軸12上に固定された固定プーリ半体31と、固定プーリ半体31と一体回転するとともに固定プーリ半体31に対して接近・離反するように出力軸12の軸方向に移動可能に設けられた可動プーリ半体32とを備えている。
可動プーリ半体32は、Vベルト13の側面に当接する当接面32Aを有する可動プレート33と、可動プレート33に嵌合し、可動プレート33との間に油圧室34を形成する隔壁35とを有している。油圧室34は、出力軸12内を軸方向に延びる油路37を介して油圧源に接続されている。可動プレート33は、油圧室34に供給される油圧によって移動する。
油圧室34には、可動プレート33を固定プーリ半体31側に付勢するばね38が設けられている。
【0021】
固定プーリ半体31は、Vベルト13の側面に当接する当接面31Aを有し、断面V字状となるように対向する当接面31A,32Aによって、Vベルト13が保持されるV溝部36が形成されている。ドリブンプーリ30側では、Vベルト13は、油圧室34に油圧が作用しない状態であっても、ばね38によって所定の荷重でV溝部36に狭持されている。このため、Vベルト13には、常に張力が作用しており、入力軸11と出力軸12との間にはこれらの軸の軸間距離を近づけようとする力が作用している。
出力軸12は、ミッションケース40に圧入されるミッションケース側軸部12A(出力軸端部)と、ミッションケース側軸部12Aの反対側で変速機のケース(不図示)に軸支される軸部12B(反対側の軸端部)とを有している。固定プーリ半体31は、ミッションケース側軸部12A側に設けられている。
【0022】
CVT1の変速比は、エンジンの負荷および回転数等に応じて各油圧室24,34への油圧供給が制御されることで、各V溝部26,36の幅が変化してドライブプーリ20及びドリブンプーリ30のプーリ径が変更され、無段階に変化する。
V溝部26,36を構成する当接面21A,22A及び当接面31A,32Aは、傷が付いてはいけない面であり、CVT1の組付け工程では、傷が付かないように配慮されている。
【0023】
ミッションケース40は、一面が開口した箱形のケースであり、入力軸11及び出力軸12が圧入される底面部41と、変速機のケース(不図示)に合わさる合わせ面42とを有している。
底面部41には、底面部41を貫通する一対のベアリング支持孔42A,42Bが形成され、ベアリング支持孔42A,42Bには、入力軸11及び出力軸12を軸支するボールベアリング43,44がそれぞれ組付されている。入力軸11及び出力軸12は、ミッションケース側軸部11A及びミッションケース側軸部12Aが、ボールベアリング43,44の支持孔43A,44A(ミッションケース孔部)にそれぞれ圧入されることで、ミッションケース40に組付けられる。
【0024】
底面部41は、ベアリング支持孔42Aが設けられる外側底部41Aよりも合わせ面42側に一段膨出した段差面41Bを有し、ベアリング支持孔42Bは、段差面41Bに設けられている。すなわち、出力軸12は、入力軸11よりもミッションケース40内の浅い位置に圧入される。
【0025】
ミッションケース側軸部11Aには、ボールベアリング43側に突き当てられる段部11Cが形成されており、入力軸11は、段部11Cが隔壁25を介してボールベアリング43に当接することで、軸方向に位置決めされている。
また、ミッションケース側軸部12Aには、ボールベアリング44側に突き当てられる段部12Cが形成されており、出力軸12は、段部12Cがボールベアリング44側に当接することで、軸方向に位置決めされている。
【0026】
詳細には、出力軸12の段部12Cとボールベアリング44との間には、リング状のシム45が介装され、段部12Cはシム45を介してボールベアリング44に当接する。CVT1の各部品及びミッションケース40には寸法公差が設定されており、製造時の寸法誤差があるため、CVT1をミッションケース40に組立てた際に、V溝部26の中心とV溝部36の中心とが軸方向で一致しない可能性がある。本実施の形態では、予め上記寸法誤差を測定し、V溝部26の中心とV溝部36の中心とを一致させることが可能な厚みのシム45が複数種の板厚のシムの中から選択されて組付けられる。これにより、V溝部26とV溝部36との位置ずれを防止できるため、Vベルト13を入力軸11及び出力軸12に略直交するように正しく組付けることができる。
【0027】
図2は、CVT1をミッションケース40に圧入する製造ライン50を示す図である。図3は、CVT1をミッションケース40に圧入する手順を示す図である。
CVT1は、ドライブプーリ20及びドリブンプーリ30にVベルト13を巻き掛けてプーリアッセンブリー15を形成し、このプーリアッセンブリー15をミッションケース40に圧入することで組立てられる。
図2に示すように、製造ライン50は、プーリアッセンブリー15を組立てるサブライン51と、プーリアッセンブリー15をミッションケース40に組付けるメインライン52とを有している。
【0028】
製造ライン50は、主として5つのステージを有しており、工程順に、サブライン51でプーリアッセンブリー15を組立てるとともに、プーリアッセンブリー15を組立て状態で把持する固定治具53(治具、固定機構)(図3)を組付けるアッセンブリー組立てステージ61と、プーリアッセンブリー15をハンドクレーン54でメインライン52に移載する移載ステージ62と、プーリアッセンブリー15をミッションケース40にセットするアッセンブリー搭載ステージ63と、プーリアッセンブリー15をミッションケース40に圧入する圧入ステージ64と、固定治具53を取り外す治具取り外しステージ65とを有している。治具取り外しステージ65の後のステージでは、ギヤ等がプーリアッセンブリー15に組付けられる。
【0029】
アッセンブリー組立てステージ61では、サブライン51から一対の入力軸11及び出力軸12が複数組で順に供給され、作業台55の上でプーリアッセンブリー15が作業者によって組み立てられ、この状態で固定治具53が組付けられることで、プーリアッセンブリー15の組付け状態が固定される。詳細には、固定治具53が組付けられることで、入力軸11と出力軸12との軸間距離及び軸方向位置、及び、Vベルト13の位置が固定されて、Vベルト13は、入力軸11及び出力軸12に略直交した状態で位置が維持されることになる。この状態は、圧入の際にプーリアッセンブリー15に求められる位置状態であり、この状態を圧入基準位置と呼ぶ。圧入基準位置では、入力軸11、出力軸12及びVベルト13の相対的な位置関係が、プーリアッセンブリー15がミッションケース40に完全に圧入された状態における入力軸11、出力軸12及びVベルト13の相対的な位置関係に一致する。
【0030】
移載ステージ62では、作業者が操作するハンドクレーン54によって、固定治具53と共にプーリアッセンブリー15がメインライン52のアッセンブリー搭載ステージ63に移載される。
アッセンブリー搭載ステージ63では、ミッションケース40がパレット56上にセットされてメインライン52を流れる。ミッションケース40のボールベアリング44には、板厚が選択されたシム45がセットされ、シム45は、パレット56を貫通して支持孔44Aに挿通される求心治具57によって支持孔44Aに芯出しされる。
その後、アッセンブリー搭載ステージ63では、プーリアッセンブリー15が圧入位置にセットされる。ここでは、固定治具53がミッションケース40に嵌合して位置決めされることで、プーリアッセンブリー15は所定の圧入位置に位置決めされる。
【0031】
圧入ステージ64では、入力軸11及び出力軸12の軸部11B,12Bの上端面11D、12D(図1)を同時に軸方向に押圧する圧入装置80(プーリアッセンブリー圧入装置)(図6)によって、入力軸11及び出力軸12が、ミッションケース40の支持孔43A,44Aに圧入される。
ところで、プーリアッセンブリー15をミッションケース40に圧入する際には、Vベルト13がプーリアッセンブリー15の軸方向にずれないようにするために、互いの中心が一致するように組付けられているV溝部26,36の相対位置を維持したまま圧入していく必要がある。しかし、上述のように、プーリアッセンブリー15は、各部品の寸法誤差を有するため、単に軸部11B,12Bの上端面11D,12Dを押圧するだけでは、圧入時にVベルト13が軸方向にずれてしまう可能性がある。
【0032】
すなわち、プーリアッセンブリー15は各部品によって積み上げられた寸法誤差を有し、圧入基準位置にセットされた状態のプーリアッセンブリー15の軸部11B,12Bの上端面11D,12Dの位置は、量産される各プーリアッセンブリー15毎に異なるため、寸法誤差を吸収しつつ、入力軸11及び出力軸12を同時に圧入することが求められる。図1に示すように、プーリアッセンブリー15は、圧入基準位置において軸部11B,12Bの上端面11Dと上端面12Dとの間には段差が設定されているが、製品の実際の段差Dには、プーリアッセンブリー15及びミッションケース40の製造誤差が積み重なって生じる寸法誤差Eが含まれている。本実施の形態では、寸法誤差Eの最大値は、一例として、1.3(mm)である。
ここで、許容されるV溝部26,36の中心位置の相対ずれ量は、一例として、軸方向に0.6(mm)であり、この相対ずれ量0.6(mm)より小さな相対ずれ量を維持して圧入していく必要がある。
【0033】
従来、CVT式の無段変速機において変速機のケースの一部を構成する別体の中間ケースを有するものでは、この中間ケースに、プーリアッセンブリー15を組付けておき、中間ケースごとプーリアッセンブリー15をミッションケースに圧入する方法がある。この場合、中間ケースによってプーリアッセンブリー15を圧入基準位置に固定したまま圧入できるため、圧入が容易であるが、中間ケースの分だけ重量が大きくなるとともに、構造が複雑になる。
【0034】
治具取り外しステージ65では、固定治具53はプーリアッセンブリー15から取り外される。固定治具53は、ハンドクレーン54によってアッセンブリー組立てステージ61に移載され、次のプーリアッセンブリー15の組立てに使用される。
【0035】
図4は、固定治具53の側面図である。
図4に示すように、固定治具53は、プーリアッセンブリー15が載置される位置決め治具58と組み合せて用いられる。
位置決め治具58は、入力軸11及び出力軸12を支持するプレート66と、プレート66に立設される一対の支柱67,67とを有している。プレート66には、位置決め穴66A,66Bが形成されており、ミッションケース側軸部11A,12Aが位置決め穴66A,66Bにそれぞれ嵌め込まれることで、入力軸11及び出力軸12は軸間距離及び軸方向位置が所定の位置(圧入基準位置)となるように位置決めされる。この所定の位置では、V溝部26,36の中心位置は一致し、Vベルト13は入力軸11及び出力軸12に略直交する。
各支柱67,67の上端部には、固定治具53に嵌合する位置決め軸部67Aと、固定治具53を受ける座部67Bとが形成されている。
【0036】
固定治具53は、入力軸11及び出力軸12の軸部11B,12Bをそれぞれ狭持する一対のクランパー68,69と、クランパー68,69を支持する支持プレート70と、支持プレート70の両端に設けられ、ハンドクレーン54に連結される一対の連結部71,71と、軸部11Bが嵌合するガイド筒60Aと、軸部12Bが嵌合するガイド筒60Bとを有している。各連結部71,71の下面には、板部72が設けられ、各板部72には、位置決め治具58の位置決め軸部67Aが嵌合する位置決め孔72Aと、下方に突出する位置決めピン72Bとが設けられている。
ガイド筒60A,60Bは、位置決め治具58の位置決め穴66A,66Bとそれぞれ同軸の位置に設けられており、入力軸11及び出力軸12に嵌合することで、入力軸11及び出力軸12の軸間距離を圧入基準位置の状態に維持する。
【0037】
図5は、クランパー68,69を上方から見た平面図である。
クランパー68,69は、支持プレート70の下面に設けられる。図4及び図5に示すように、クランパー68,69は、V型の溝73Aが形成された固定側Vブロック73(狭持部材)と、V型の溝74Aが形成され、固定側Vブロック73に対向して配置される可動側Vブロック74(狭持部材)と、可動側Vブロック74を固定側Vブロック73側に付勢する一対の皿ばね75,75(弾性部材)と、皿ばね75,75を受けるばね受け部材76とを備えて構成されている。可動側Vブロック74の両側面には、その外周面が固定側Vブロック73に対向するように配置される一対のローラー77,77(狭持解除機構)が設けられている。V型の溝73A,74Aが対向することで断面矩形のクランプ部78が形成され、軸部11B,12Bは、クランパー68,69の各クランプ部78にそれぞれ狭持される。
【0038】
固定側Vブロック73は、支持プレート70の下面に固定されている。可動側Vブロック74は、固定側Vブロック73及び皿ばね75,75を貫通する一対のばね支持軸79,79によってばね受け部材76に連結されており、皿ばね75,75は、ばね支持軸79,79を介してばね受け部材76が固定側Vブロック73側に引っ張られることで、固定側Vブロック73とばね受け部材76との間に挟まれて圧縮された状態で設けられている。すなわち、可動側Vブロック74は、圧縮された皿ばね75の反力によって軸部11B,12Bを把持するように付勢されている。皿ばね75,75の荷重は、入力軸11と出力軸12との軸間に作用するVベルト13の張力や、プーリアッセンブリー15の移載時に作用する軸方向の加速度に耐えられるだけの十分な把持力を得られる大きさに設定されている。
【0039】
このように、皿ばね75,75のばね力のみによってプーリアッセンブリー15を把持するため、電源の供給が断たれたとしてもプーリアッセンブリー15の把持が解除されることがなく、特別なフェールセーフ機構を設ける必要がない。
クランパー68,69による軸部11B,12Bの狭持状態は、ローラー77,77と固定側Vブロック73との間に棒状の解除カム98,98(狭持解除機構)(図5及び図6)が挿入され、可動側Vブロック74が解除カム98,98によって押し広げられるようにして固定側Vブロック73から離間することで解除される。ローラー77,77及び解除カム98,98は、クランパー68,69による狭持状態を解除する狭持解除機構を構成している。
【0040】
図4に示すように、位置決め治具58にセットされたプーリアッセンブリー15に対し、上方から固定治具53を下ろし、位置決め孔72A,72Aを支柱67,67の各位置決め軸部67Aに嵌合させることで、固定治具53は、プーリアッセンブリー15に対して所定の位置に固定される。このように、固定治具53でプーリアッセンブリー15を固定することで、プーリアッセンブリー15は、入力軸11及び出力軸12の軸間距離、及び、入力軸11及び出力軸12の軸方向位置が、位置決め治具58によって圧入基準位置に位置決めされた状態で固定される。この状態では、入力軸11と出力軸12との軸間距離がボールベアリング43,44の軸間距離に一致するとともに、V溝部26,36の中心位置が一致しており、ミッションケース40への圧入に適した状態となっている。
【0041】
アッセンブリー組立てステージ61においてプーリアッセンブリー15への固定治具53の固定が終了すると、固定治具53の連結部71,71にハンドクレーン54が連結され、ハンドクレーン54によって固定治具53は位置決め治具58から引き抜かれ、プーリアッセンブリー15は固定治具53に支持されたままアッセンブリー搭載ステージ63に移載され、その後、圧入ステージ64でミッションケース40に圧入される。
【0042】
図6は、圧入装置80の正面図である。
図6に示すように、圧入装置80は、圧入ステージ64(図2)に設置される筺体81と、筺体81の上部に設けられる一対のドライブ側圧入サーボ機構82及びドリブン側圧入サーボ機構83と、ドライブ側圧入サーボ機構82に連結されたドライブ側圧入ヘッド84(加圧ヘッド)と、ドリブン側圧入サーボ機構83に連結されたドリブン側圧入ヘッド85(加圧ヘッド)と、ミッションケース40を支持するテーブル86と、テーブル86を貫通して上下に移動可能な一対のドライブ側バックアップ部材87及びドリブン側バックアップ部材88と、圧入装置80を制御する制御部89とを備えて構成されている。
【0043】
ドライブ側圧入ヘッド84は、ドライブ側圧入サーボ機構82のサーボモータ82Aから下方に延びるボールねじ機構90によってドライブ側圧入サーボ機構82に連結されており、サーボモータ82Aの駆動によって上下に移動する。サーボモータ82Aは、サーボエンコーダー(不図示)を備え、制御部89は、このサーボエンコーダーからフィードバックされるサーボモータ82Aの回転に基づいてドライブ側圧入ヘッド84の軸方向(上下方向)の位置を制御する。また、ドライブ側圧入ヘッド84には、ドライブ側圧入ヘッド84に作用する荷重を検出するロードセル92(図7)が内蔵されており、検出された荷重は制御部89に入力される。
【0044】
ドリブン側圧入ヘッド85は、ドリブン側圧入サーボ機構83のサーボモータ83Aから下方に延びるボールねじ機構91によってドリブン側圧入サーボ機構83に連結されており、サーボモータ83Aの駆動によって上下に移動する。サーボモータ83Aは、サーボエンコーダー(不図示)を備え、制御部89は、このサーボエンコーダーからフィードバックされるサーボモータ83Aの回転に基づいてドリブン側圧入ヘッド85の軸方向(上下方向)の位置を制御する。また、ドリブン側圧入ヘッド85には、ドリブン側圧入ヘッド85に作用する荷重を検出するロードセル93(図7)が内蔵されており、検出された荷重は制御部89に入力される。
【0045】
図7は、圧入装置80による圧入工程の模式図である。ここで、図7では、固定治具53はクランパー68,69の部分のみが示されている。
図6及び図7に示すように、ドライブ側バックアップ部材87は、円筒状のベアリングバックアップパイプ94と、ベアリングバックアップパイプ94内を摺動するドライブ側バックアップシャフト95(突き当て部材)とを有している。ベアリングバックアップパイプ94及びドライブ側バックアップシャフト95は、制御部89によって駆動されるエアシリンダ(不図示)の空気圧によって上下に移動するように構成されている。ベアリングバックアップパイプ94は、ボールベアリング43の下面に当接し、圧入時にボールベアリング43に作用する力を受ける。ドライブ側バックアップシャフト95は、ボールベアリング43の支持孔43Aを貫通して入力軸11のミッションケース側軸部11Aに突き当てられ、入力軸11を下方から支持する。ドライブ側バックアップシャフト95は、制御部89により駆動されるロック機構(不図示)を有し、このロック機構によって、ミッションケース側軸部11Aに突き当てられた位置でロックされる。
【0046】
ドリブン側バックアップ部材88は、円筒状のベアリングバックアップパイプ96と、ベアリングバックアップパイプ96内を摺動するドリブン側バックアップシャフト97(突き当て部材)とを有している。ベアリングバックアップパイプ96及びドリブン側バックアップシャフト97は、制御部89によって駆動されるエアシリンダ(不図示)の空気圧によって上下に移動するように構成されている。ベアリングバックアップパイプ96は、ボールベアリング44の下面に当接し、圧入時にボールベアリング44に作用する力を受ける。ドリブン側バックアップシャフト97は、ボールベアリング44の支持孔44Aを貫通して入力軸11のミッションケース側軸部12Aに突き当てられ、出力軸12を下方から支持する。ドリブン側バックアップシャフト97は、制御部89により駆動されるロック機構(不図示)を有し、このロック機構によって、ミッションケース側軸部12Aに突き当てられた位置でロックされる。
【0047】
以下、プーリアッセンブリー15をミッションケース40に圧入して組立てる工程について説明する。
図3に示すように、プーリアッセンブリー15をミッションケース40に組立てる工程は、製造ライン50のアッセンブリー組立てステージ61でプーリアッセンブリー15を固定治具53によって固定するアッセンブリー固定工程と、ハンドクレーン54でプーリアッセンブリー15を固定治具53ごとアッセンブリー搭載ステージ63のミッションケース40に移載し、圧入ステージ64で圧入装置80によってプーリアッセンブリー15を圧入する圧入工程と、治具取り外しステージ65で固定治具53をプーリアッセンブリー15から取り外す治具取り外し工程とを有している。
【0048】
まず、アッセンブリー固定工程では、図4に示すように、位置決め治具58によって所定の位置に位置決めされたプーリアッセンブリー15に固定治具53がセットされ、プーリアッセンブリー15は、圧入基準位置にセットされた状態を保たれる。すなわち、プーリアッセンブリー15を位置決め治具58から取り外してハンドクレーン54で移載している際も、プーリアッセンブリー15は固定治具53によって圧入基準位置を維持されたままである。
【0049】
次に、圧入工程では、ハンドクレーン54によって固定治具53と共にプーリアッセンブリー15がミッションケース40に移載される。この際、固定治具53の位置決めピン72B,72Bがミッションケース40の位置決め穴(不図示)に嵌合することで、プーリアッセンブリー15は、所定の圧入位置に位置決めされる。この所定の圧入位置では、入力軸11及び出力軸12は、支持孔43A,44Aに対しそれぞれ同軸の位置にあるとともに、支持孔43A,44Aの上方に位置している。上記位置決め穴は、ミッションケース40を変速機のケースに位置決めするために設けられた穴であるため、新たな位置決め穴を設ける必要がない。
圧入工程では、圧入装置80によってプーリアッセンブリー15が圧入される。
【0050】
図8は、圧入装置80による圧入の手順を示すフローチャートである。
図7及び図8を参照し、まず、制御部89は、各エアシリンダを駆動し、ベアリングバックアップパイプ94及びベアリングバックアップパイプ96をボールベアリング43,44に突き当てて、これらベアリングを支持するとともに、ドライブ側バックアップシャフト95及びドリブン側バックアップシャフト97を上昇させてミッションケース側軸部11A,12Aの下面に突き当てる(ステップS1)。ドライブ側バックアップシャフト95及びドリブン側バックアップシャフト97は、上記ロック機構によって突き当てられた位置にロックされる。このように、ドライブ側バックアップシャフト95及びドリブン側バックアップシャフト97で入力軸11及び出力軸12を下方から支持することで、入力軸11及び出力軸12を圧入基準位置に維持させておくことができる。すなわち、固定治具53の固定を解除したとしても、ドライブ側バックアップシャフト95及びドリブン側バックアップシャフト97によって圧入基準位置を維持できる。
【0051】
制御部89は、ドライブ側圧入サーボ機構82及びドリブン側圧入サーボ機構83をそれぞれ独立して駆動し、ドライブ側圧入ヘッド84及びドリブン側圧入ヘッド85を下降させ、解除カム98,98をローラー77,77と固定側Vブロック73との間に挿入することで、クランパー68,69による軸部11B,12Bの狭持状態を解除する(ステップS2)。これにより、入力軸11及び出力軸12は上下に移動可能となる。入力軸11及び出力軸12は、ガイド筒60A,60Bに嵌合されているため、軸部11B,12Bの狭持状態を解除しても軸間距離は維持される。
ここで、解除カム98,98は、ドライブ側圧入ヘッド84及びドリブン側圧入ヘッド85にそれぞれ固定されており、解除カム98,98の先端はドライブ側圧入ヘッド84及びドリブン側圧入ヘッド85よりも下方に延びている。
【0052】
次いで、制御部89は、ドライブ側圧入ヘッド84及びドリブン側圧入ヘッド85をさらに下降させ、ドライブ側圧入ヘッド84及びドリブン側圧入ヘッド85の下面を入力軸11及び出力軸12の上端面11D、12Dに突き当てていき、各ロードセル92,93の荷重の検出値が所定値となったところでドライブ側圧入ヘッド84及びドリブン側圧入ヘッド85の下降を停止する(ステップS3)。ここで、下降を停止させる条件となるロードセル92,93の所定値は、一例として、100(N)である。
【0053】
制御部89は、ステップS3でドライブ側圧入ヘッド84及びドリブン側圧入ヘッド85が突き当てられて停止した位置で、上記各サーボエンコーダーの値を0にリセットする(ステップS4)。すなわち、ステップS4では、ステップS3でドライブ側圧入ヘッド84及びドリブン側圧入ヘッド85が突き当てられて停止した位置が、ドライブ側圧入サーボ機構82及びドリブン側圧入サーボ機構83によるドライブ側圧入ヘッド84及びドリブン側圧入ヘッド85の上下の移動の基準位置としてセットされる。このように、ドライブ側圧入ヘッド84及びドリブン側圧入ヘッド85が上端面11D、12Dにそれぞれ突き当たった位置を、ドライブ側圧入ヘッド84及びドリブン側圧入ヘッド85の上下のストローク量の基準位置とすることで、入力軸11及び出力軸12の軸方向の寸法誤差Eを吸収することができる。
【0054】
次に、制御部89は、サーボモータ82A及びサーボモータ83Aを同期させて回転し、ドライブ側圧入ヘッド84の下面とドリブン側圧入ヘッド85の下面との高さ方向の相対ズレが所定値以下となるように制御しながら、ドライブ側圧入ヘッド84及びドリブン側圧入ヘッド85を同時に下降させていき、入力軸11及び出力軸12を支持孔43A,44Aにそれぞれ圧入する(ステップS5)。ここで、相対ズレの所定値は、一例として、0.2(mm)であり、許容されるV溝部26,36の中心位置の相対ずれ量である0.6(mm)よりも小さく設定される。
【0055】
ステップS5の圧入の際には、上記ロック機構は解除され、ドライブ側バックアップシャフト95及びドリブン側バックアップシャフト97は、入力軸11及び出力軸12が自重で下がらないように、入力軸11及び出力軸12の重量以上の推力でエアシリンダによって入力軸11及び出力軸12の下面に突き当てられている。本実施の形態では、入力軸11及び出力軸12を、ドライブ側圧入ヘッド84及びドライブ側バックアップシャフト95と、ドリブン側圧入ヘッド85及びドリブン側バックアップシャフト97とでそれぞれ上下から挟んだ状態で圧入するため、安定して圧入することができる。
【0056】
制御部89は、ステップS5における圧入途中の各ロードセル92,93の荷重値を検出し、この荷重値に基づいて、圧入がタイトであるか、または、ルーズであるかを判別する(ステップS6)。
次いで、制御部89は、ドリブン側圧入ヘッド85のストローク量に基づいて、シム45の組付け状態を判別する(ステップS7)。詳細には、制御部89は、ステップS4でサーボエンコーダーの値を0にリセットしてからのドリブン側圧入ヘッド85のストローク量を検出し、ミッションケース側軸部12Aの支持孔44Aへの圧入が開始されたと判別した際のストローク量が所定の範囲のストローク量より小さい場合は、シム45が複数枚組付けられた誤組み状態にあると判断して圧入工程を中止し、上記ストローク量が所定の範囲のストローク量より大きい場合は、シム45が組付けられていない誤組み状態にあると判断して圧入工程を中止する。圧入の開始は、ロードセル93の検出値が大きく増加し始めたことを検出することで判別可能である。上記ストローク量が所定の範囲のストローク量である場合は、圧入工程が継続される。
【0057】
その後、制御部89は、ドライブ側圧入サーボ機構82及びドリブン側圧入サーボ機構83によって圧入を継続し、入力軸11及び出力軸12の両方のロードセル92,93の荷重値が圧入を完了したと判断される所定値に達すると、圧入を完了する(ステップS8)。ここで、圧入を完了したと判断される所定値は、一例として、10(kN)である。詳細には、制御部89は、ドライブ側圧入サーボ機構82及びドリブン側圧入サーボ機構83の内、ロードセル92,93の上記所定値が先に10(kN)に達した一方の加圧を停止し、その後、10(kN)に達していない他方のみを駆動し、他方のサーボ機構でも10(kN)が検知されると、圧入を終了する。
【0058】
このように、ステップS4でドライブ側圧入ヘッド84及びドリブン側圧入ヘッド85を上端面11D、12Dにそれぞれ突き当てて入力軸11及び出力軸12の軸方向の寸法誤差Eを吸収し、ステップS5でサーボモータ82A及びサーボモータ83Aを同期させて回転させて、ドライブ側圧入ヘッド84とドリブン側圧入ヘッド85との高さ方向の相対ズレを所定値以下にして圧入するため、ドライブプーリ20及びドリブンプーリ30の軸方向の相対位置がずれないようにプーリアッセンブリー15をミッションケース40に圧入することができる。
【0059】
そして、圧入が終了すると、制御部89は、ドライブ側圧入ヘッド84及びドリブン側圧入ヘッド85を上昇させるとともに、ドライブ側バックアップ部材87及びドリブン側バックアップ部材88を下方に退避させ、圧入工程を終了する(ステップS9)。
【0060】
図2及び図3に示すように、治具取り外し工程では、圧入が終了したプーリアッセンブリー15の固定治具53にハンドクレーン54が連結され、ハンドクレーン54によって上方に引き抜かれるようにして固定治具53がプーリアッセンブリー15から取り外される。取り外された固定治具53は、サブライン51に移動され、次に組立てるプーリアッセンブリー15の固定に用いられる。
【0061】
以上説明したように、本発明を適用した実施の形態によれば、入力軸11と出力軸12との軸間距離、及び、Vベルト13の位置を固定治具53で固定するアッセンブリー固定工程と、固定治具53で固定されたプーリアッセンブリー15をミッションケース40に移動し、ミッションケース40に圧入する圧入工程と、圧入されたプーリアッセンブリー15から固定治具53を取り外す治具取り外し工程とを有し、入力軸11と出力軸12との軸間距離、及び、Vベルト13の位置を固定治具53で固定した状態でプーリアッセンブリー15をミッションケース40に移動して圧入するため、ドライブプーリ20及びドリブンプーリ30の軸方向の相対位置がずれないようにプーリアッセンブリー15をミッションケース40に圧入することができる。また、圧入されたプーリアッセンブリー15から固定治具53を取り外すため、後工程で固定治具53が邪魔にならないとともに、固定治具53を繰り返して効率良く使用できる。
【0062】
また、圧入工程では、ミッションケース40に圧入される側のミッションケース側軸部11A及びミッションケース側軸部12Aを、ドライブ側バックアップシャフト95及びドリブン側バックアップシャフト97に突き当てて圧入基準位置に位置させた後、固定治具53による固定を解除するため、固定治具53による固定を解除してもドライブ側バックアップシャフト95及びドリブン側バックアップシャフト97によって圧入基準位置を維持でき、その後、ミッションケース側軸部11A及びミッションケース側軸部12Aとは反対側の軸部11B及び軸部12Bにそれぞれ独立したドライブ側圧入ヘッド84及びドリブン側圧入ヘッド85を突き当てることにより、入力軸11及び出力軸12の寸法誤差Eを補正し、プーリアッセンブリー15をミッションケース40に圧入するため、入力軸11及び出力軸12の軸方向の寸法誤差Eを補正した状態で圧入でき、ドライブプーリ20及びドリブンプーリ30の軸方向の相対位置がずれないように両圧入軸を圧入端まで圧入することができる。さらに、従来のような中間ケースを用いないため、ミッションケース40の構造を簡単にできるとともに軽量化を図ることができる。
【0063】
また、ドライブ側圧入ヘッド84及びドリブン側圧入ヘッド85で圧入を行う際、ドライブ側バックアップシャフト95及びドリブン側バックアップシャフト97は、支持孔43A,44Aからプーリアッセンブリー15側に突出しており、入力軸11及び出力軸12が突き当てられた後、ミッションケース40の支持孔43A,44Aに収容される方向に移動し、それに伴い入力軸11及び出力軸12も支持孔43A,44Aに圧入されるため、ドライブ側バックアップシャフト95及びドリブン側バックアップシャフト97を入力軸11及び出力軸12に容易に突き当てできるとともに、ドライブ側バックアップシャフト95及びドリブン側バックアップシャフト97を突き当てた状態で支持孔43A,44Aに安定して圧入できる。
【0064】
さらに、ドライブ側バックアップシャフト95及びドリブン側バックアップシャフト97が、ミッションケース側軸部11A及びミッションケース側軸部12Aが圧入される支持孔43A,44Aから出没自在であるため、ミッションケース側軸部11A及びミッションケース側軸部12Aをドライブ側バックアップシャフト95及びドリブン側バックアップシャフト97に突き当てた状態で支持孔43A,44Aに圧入でき、安定して圧入できる。
【0065】
また、固定治具53は、入力軸11及び出力軸12を狭持する固定側Vブロック73及び可動側Vブロック74と、可動側Vブロック74を入力軸11及び出力軸12の中心方向に押し当てる皿ばね75,75と、外力を受けることにより固定側Vブロック73及び可動側Vブロック74の狭持状態を解除するローラー77,77及び解除カム98,98とを有し、皿ばね75,75で可動側Vブロック74を押し当てて入力軸11及び出力軸12を把持するため、固定治具53を簡単な構造で構成できる。また、入力軸11及び出力軸12の狭持に電力を使用しないため、電力の供給が断たれたとしても入力軸11及び出力軸12の把持が解除されることがなく、特別なフェールセーフ機構を設ける必要がない。
また、V型の溝73A,74Aが形成された一対の固定側Vブロック73及び可動側Vブロック74で入力軸11及び出力軸12をそれぞれ狭持することで、入力軸11及び出力軸12を位置決めしつつ確実に固定することができる。
【符号の説明】
【0066】
11 入力軸
11A ミッションケース側軸部(入力軸端部)
11B 軸部(反対側の軸端部)
12 出力軸
12A ミッションケース側軸部(出力軸端部)
12B 軸部(反対側の軸端部)
13 Vベルト(金属ベルト)
15 プーリアッセンブリー
20 ドライブプーリ
30 ドリブンプーリ
40 ミッションケース
43A 支持孔(ミッションケース孔部)
44A 支持孔(ミッションケース孔部)
53 固定治具(治具、固定機構)
73 固定側Vブロック(狭持部材)
73A,74A V型の溝
74 可動側Vブロック(狭持部材)
75,75 皿ばね(弾性部材)
77,77 ローラー(狭持解除機構)
80 圧入装置(プーリアッセンブリー圧入装置)
82 ドライブ側圧入サーボ機構
83 ドリブン側圧入サーボ機構
84 ドライブ側圧入ヘッド(加圧ヘッド)
85 ドリブン側圧入ヘッド(加圧ヘッド)
95 ドライブ側バックアップシャフト(突き当て部材)
97 ドリブン側バックアップシャフト(突き当て部材)
98,98 解除カム(狭持解除機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸に装着されるドライブプーリと、出力軸に装着されるドリブンプーリと、ドライブプーリ及びドリブンプーリに巻き掛けられる金属ベルトとを有するプーリアッセンブリーをミッションケースに圧入するプーリアッセンブリー圧入方法において、
前記入力軸と前記出力軸との軸間距離、及び、金属ベルト位置を治具で固定するアッセンブリー固定工程と、
前記治具で固定された前記プーリアッセンブリーを前記ミッションケースに移動し、前記ミッションケースに圧入する圧入工程と、
圧入された前記プーリアッセンブリーから前記治具を取り外す治具取り外し工程とを有することを特徴とするプーリアッセンブリー圧入方法。
【請求項2】
前記圧入工程では、前記ミッションケースに圧入される側の入力軸端部及び出力軸端部を、突き当て部材に突き当てて圧入基準位置に位置させた後、前記治具による固定を解除して、圧入される側の前記入力軸端部及び前記出力軸端部とは反対側の軸端部にそれぞれ独立した加圧ヘッドを突き当てることにより、前記入力軸及び前記出力軸の寸法誤差を補正し、前記プーリアッセンブリーを前記ミッションケースに圧入することを特徴とする請求項1記載のプーリアッセンブリー圧入方法。
【請求項3】
前記加圧ヘッドで圧入を行う際、前記突き当て部材は、ミッションケース孔部から前記プーリアッセンブリー側に突出しており、前記入力軸及び前記出力軸が突き当てられた後、前記ミッションケース孔部に収容される方向に移動し、それに伴い前記入力軸及び前記出力軸も前記ミッションケース孔部に圧入されることを特徴とする請求項2記載のプーリアッセンブリー圧入方法。
【請求項4】
入力軸に装着されるドライブプーリと、出力軸に装着されるドリブンプーリと、ドライブプーリ及びドリブンプーリに巻き掛けられる金属ベルトとを有するプーリアッセンブリーをミッションケースに圧入するプーリアッセンブリー圧入方法において、
前記ミッションケースに圧入される側の入力軸端部及び出力軸端部を、突き当て部材に突き当てて圧入基準位置に位置させた後、圧入される側の前記入力軸端部及び前記出力軸端部とは反対側の軸端部にそれぞれ独立した加圧ヘッドを突き当てることにより、前記入力軸及び前記出力軸の寸法誤差を補正し、前記プーリアッセンブリーを前記ミッションケースに圧入することを特徴とするプーリアッセンブリー圧入方法。
【請求項5】
入力軸に装着されるドライブプーリと、出力軸に装着されるドリブンプーリと、ドライブプーリ及びドリブンプーリに巻き掛けられる金属ベルトとを有するプーリアッセンブリーをミッションケースに圧入するプーリアッセンブリー圧入装置において、
前記入力軸と前記出力軸との軸間距離、及び、金属ベルト位置を固定する固定機構と、
前記ミッションケースに圧入される側の入力軸端部及び出力軸端部を突き当て、圧入基準位置に揃える突き当て部材と、
圧入される側の前記入力軸端部及び前記出力軸端部とは反対側の軸端部にそれぞれ独立して突き当てて前記入力軸及び前記出力軸の寸法誤差を補正するとともに、前記入力軸及び前記出力軸を前記ミッションケースに圧入する加圧ヘッドとを有することを特徴とするプーリアッセンブリー圧入装置。
【請求項6】
前記突き当て部材が、前記入力軸端部及び前記出力軸端部が圧入されるミッションケース孔部から出没自在に設けられていることを特徴とする請求項5記載のプーリアッセンブリー圧入装置。
【請求項7】
前記固定機構は、前記入力軸及び出力軸を狭持する狭持部材と、当該狭持部材を前記入力軸及び前記出力軸の中心方向に押し当てる弾性部材と、外力を受けることにより前記狭持部材の狭持状態を解除する狭持解除機構とを有することを特徴とする請求項5または6記載のプーリアッセンブリー圧入装置。
【請求項8】
前記狭持部材は、V型の溝が形成されており、当該V型の溝が形成された一対の前記狭持部材で前記入力軸及び前記出力軸をそれぞれ狭持することを特徴とする請求項7記載のプーリアッセンブリー圧入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−31905(P2013−31905A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169425(P2011−169425)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】