説明

プーリアームの支点軸受装置

【課題】支点軸受内への異物の侵入を確実に防止することができ、組立て時の密封用弾性シールの損傷や欠品を防止することができるようにしたプーリアームの支点軸受装置を提供することである。
【解決手段】テンションプーリ4を支持するプーリアーム5にボス部7を設け、そのボス部7に形成された軸挿入孔8内に筒状の支点軸10を挿入する。支点軸10の両端に一対の座金11を当接し、その座金11を貫通するようにして支点軸10内に挿通されたボルト12をエンジンブロック13にねじ係合し、そのボルト12の締め付けにより、支点軸10を固定する。座金11のボス部7と対向する面に膜状の弾性シール20を接着し、その弾性シール20を締め代をもってボス部7の端面に弾性接触させて、軸受内部に異物が侵入するのを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ベルトの張力調整用のテンションプーリを支持するプーリアームの支点軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、オルタネータやエアコン用のコンプレッサ、ウォータポンプ等のエンジン補機を駆動するベルトの伝動装置においては、テンションプーリを支持する揺動可能なプーリアームに油圧式オートテンショナを連結し、その油圧式オートテンショナからプーリアームに負荷される調整力によりテンションプーリがベルトを押圧する方向にプーリアームを付勢し、ベルトの張力変化を上記油圧式オートテンショナにより吸収してベルトの張力を一定に保つようにしている。
【0003】
上記のようなベルト伝動装置はエンジンの外部に設けられるため、プーリアームの揺動中心となる支点軸受部内に泥水やダスト等の異物が侵入するおそれがある。その異物の侵入によってプーリアームの揺動が阻害され、あるいは、軸受部の寿命が著しく低下するため、上記支点軸受部には異物の侵入防止対策が必要とされる。
【0004】
異物の侵入防止対策を施したプーリアームの支点軸受装置として特許文献1に記載されたものが従来から知られている。
【0005】
上記特許文献1に記載されたプーリアームの支点軸受装置においては、プーリアームに設けられたボス部に、その両端面に貫通する軸挿入孔を形成し、その軸挿入孔内に筒状の支点軸を挿入し、その支点軸の両端に一対の座金を当接し、その一対の座金を貫通するようにして支点軸の内側に挿通されたボルトをアーム取付け対象にねじ込み、そのボルトの締め付けにより支点軸を固定して、プーリアームを揺動自在に支持している。
【0006】
また、ボス部の両端面における内周部に環状の凹部を設け、各凹部内に組込まれたOリングを上記ボルトの締め付けによりスラスト方向の締め代を与えて、上記Oリングを凹部の閉塞端面と座金とに弾性接触させ、そのOリングにより支点軸受内に泥水やダスト等の異物が侵入するのを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−214509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記従来のプーリアームの支点軸受装置においては、Oリングの組込みが不適切な組み込みとされる場合があり、その時、Oリングがボス部の端面と座金で挟み込まれて損傷する懸念がある。また、支点軸受装置の組立て時にOリングの組込みを忘れる場合があり、さらに、ボス部の端面に凹部を旋削加工する必要があるため、加工コストが高くつくという問題がある。
【0009】
この発明の課題は、支点軸受内への異物の侵入を確実に防止することができ、組立て時の密封用弾性シールの損傷や欠品を防止することができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明においては、テンションプーリを支持し、油圧式オートテンショナによって前記テンションプーリがベルトを押圧する方向に付勢されるプーリアームのボス部に両端面に貫通する軸挿入孔を設け、その軸挿入孔内に挿入された筒状の支点軸の両端に一対の座金を衝合し、その一対の座金を貫通するようにして前記支点軸内に挿通されたボルトをアーム取付け対象にねじ係合し、そのボルトの締付けにより支点軸を固定してプーリアームを揺動自在に支持したプーリアームの支点軸受装置において、前記一対の座金の前記ボス部と対向する面に膜状の弾性シールを接着し、その弾性シールを締め代をもって前記ボス部の端面に弾性接触させた構成を採用したのである。
【0011】
ここで、弾性シールは、ニトリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等の未発泡のゴム、あるいは、発泡させたゴムを素材とするものであってもよく、弾性を有するプラスチックを素材とするものであってもよい。
【0012】
ここで、弾性シールの締め代が必要以上に小さい場合、密封性が低下して異物の侵入を防止することができなくなり、また、必要以上に大きくなると、プーリアームの揺動抵抗が大きくなって、プーリアームをスムーズに揺動させることができなくなるため、上記締め代は、0.05〜0.8mmの範囲とするのが好ましい。
【0013】
上記のような締め代との関係から、弾性シールの膜厚は、0.1mm〜1.0mmの範囲としておくのがよい。
【0014】
この発明に係るプーリアームの支点軸受装置において、一対の座金の一方と支点軸の相互間に、軸方向に非分離とする手段を設けておくと、ボス部内に支点軸を挿入する組立て時に、その支点軸と一方の座金を同時に組込むことができるため、座金の組込み忘れを防止することができる。また、支点軸受装置の組立ての容易化を図ることができる。
【0015】
この場合、支点軸と一方の座金を軸方向に非分離とする方法として、支点軸の軸方向一端面の内周部に環状突出部を設け、その環状突出部を前記座金の内径面に圧入する方法、支点軸の軸方向一端面の内周部に環状突出部を設け、その環状突出部を座金の内径面に嵌合して加締めにより固定する方法、あるいは、座金の内周部を弾性シールの接着面側に折曲げて筒部を設け、その筒部を支点軸の一端部内に圧入して、筒部の外径面に位置する弾性シールを支点軸の一端部内径面に弾性接触させる方法を採用することができる。
【0016】
ここで、溶融めっき鋼板等の表面処理鋼板によって座金を形成することにより、座金の腐食を防止し、支点軸受装置の耐久性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
上記のように、この発明においては、座金のボス部と対向する面に弾性シールを接着し、その弾性シールをボス部の端面に弾性接触させたことにより、支点軸受内への異物の侵入を確実に防止することができ、しかも、ボス部の端面に対して凹部等の加工を不要とすることができるため、コストの低減を図ることができる。
【0018】
また、弾性シールを座金に接着して一体化したことにより、座金の組込みと同時に弾性シールの組込みを行なうことができると共に、その弾性シールを適切な位置に確実に組込むことができ、弾性シールの損傷や組込み忘れを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明に係るプーリアームの支点軸受装置を採用した補機駆動用ベルト伝動装置の正面図
【図2】図1のII−II線に沿った断面図
【図3】図2の一部を拡大して示す断面図
【図4】支点軸固定用ボルトの締付け前の状態を示す断面図
【図5】支点軸と座金を非分離とする手段の一例を示す断面図
【図6】支点軸と座金を非分離とする手段の他の例を示す断面図
【図7】支点軸と座金を非分離とする手段のさら他の例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、補機駆動用のベルト伝動装置を示す。このベルト伝動装置は、クランク軸Sに取り付けた駆動プーリ1とオルタネータ等の複数の補機の回転軸に取付けたプーリ2a、2bのそれぞれにベルト3をかけ渡し、その1本のベルト3によって複数の補機を同時に駆動するサーペンタイン式のベルト伝動装置を示す。
【0021】
ベルト3にはテンションプーリ4が接触し、そのテンションプーリ4を回転自在に支持する揺動可能なプーリアーム5には油圧式オートテンショナ6が連結されている。
【0022】
油圧式オートテンショナ6は、テンションプーリ4がベルト3を押圧する方向にプーリアーム5を付勢すると共に、上記ベルト3の張力変化を吸収してベルト3の張力を一定に保つようになっている。
【0023】
図2は、図1に示すプーリアーム5を揺動自在に支持する支点軸受装置を示す。この支点軸受装置においては、プーリアーム5に設けられたボス部7に軸挿入孔8を設け、その軸挿入孔8内に組込まれたすべり軸受9によって上記ボス部7より軸方向長さの長い筒状の支点軸10を支持し、この支点軸10とその両端に衝合された一対の座金11のそれぞれを貫通するボルト12をアーム取付け対象としてのエンジンブロック13にねじ係合し、そのボルト12の締付けにより支点軸10を固定してプーリアーム5を揺動自在に支持している。
【0024】
ここで、一対の座金11は、耐食性を有する表面処理鋼板により形成されている。ここでは、めっき層が、Zn−Al6%−Mg3%の合金からなる耐食性に優れた溶融めっき鋼板が採用されている。座金11の外径は、ボス部7の外径に略等しく、上記ボス部7と対向する面には、その面の全体を覆う大きさの弾性シール20が接着により固定されている。弾性シール20は、ニトリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴムを素材として弾性を有している。
【0025】
なお、弾性シール20の素材としてのゴムは、未発泡のものであってもよく、発泡されたものであってもよい。また、弾性シール20はゴムに限定されるものではなく、弾性を有するプラスチックからなるものであってもよい。
【0026】
弾性シール20は、ボルト12の締め付け前の状態で、図4に示すように、全体にわたって均一な厚みの膜状とされ、上記ボルト12の締め付けにより、図3に示すように、支点軸10の端面と対向する内周部が扁平に押し潰され、ボス部7の端面と対向する外周部が締め代をもって圧縮変形して、ボス部7の端面に弾性接触している。
【0027】
上記のように、座金11に接着された弾性シール20の外周部をボス部7の端面に弾性接触させることにより、ボス部7と座金11の対向面間から内部に泥水やダスト等の異物が侵入するのを確実に防止することができる。
【0028】
また、弾性シール20を接着により座金11に一体化しておくことにより、座金11の組込みと同時に弾性シール20の組込みを行なうことができ、弾性シール20の組込み忘れを確実に防止することができると共に、弾性シール20を適切な位置に確実に組込むことができるので、支点軸受装置の組立て時に弾性シール20が損傷するという不都合の発生はない。
【0029】
ここで、弾性シール20の締め代が必要以上に小さい場合は、密封性が低下して異物の侵入を防止することができなくなり、また、必要以上に大きくなると、プーリアーム5の揺動抵抗が大きくなって、プーリアーム5をスムーズに揺動させることができなくなる。そこで、上記締め代は、0.05〜0.8mmの範囲としておくのが好ましい。
【0030】
上記のような締め代との関係から、弾性シール20の膜厚は、0.1mm〜1.0mmの範囲としておくのがよい。
【0031】
図5は、この発明に係るプーリアームの支点軸受装置の他の実施の形態を示す。この実施の形態では、支点軸10の軸方向一端面の内周部に環状突出部30を設け、その環状突出部30を座金11の内径面に圧入して、支点軸10と一方の座金11を軸方向に非分離としている。他の構成は図1に示す実施の形態と同一であるため、図1に示す支点軸受装置と同一の部品には同一の符号を付して説明を省略する。
【0032】
上記のように、支点軸10と一方の座金11を軸方向に非分離とすると、ボス部7内に支点軸10を挿入する組立て時に、その支点軸10と一方の座金11を同時に組込むことができる。このため、座金11の組込み忘れを防止することができ、また、支点軸受装置の組立ての容易化を図ることができる。
【0033】
図5では、支点軸10に設けた環状突出部30を座金11の内径面に圧入して、支点軸10と一方の座金11を軸方向に非分離としたが、軸方向に非分離とする手段はこれに限定されるものではない。
【0034】
図6および図7は、支点軸10と一方の座金11を軸方向に非分離とする手段の他の例を示す。図6では、支点軸10の軸方向一端面の内周部に環状突出部30を設け、その環状突出部30を座金11の内径面に嵌合し、その環状突出部30の先端部の径方向外方への加締めにより、その加締め片30aを座金11のテーパ状内径面11aに係合させて、支点軸10と一方の座金11を軸方向に非分離としている。
【0035】
図7では、座金11の内周部を弾性シール20側に向けて折り曲げて筒部31を形成し、その筒部31を支点軸10の端部内に圧入して、筒部31の外径面に設けられた弾性シール20を支点軸10の内径面に弾性接触させるようにしている。
【0036】
図6および図7に示すいずれの非分離手段の採用においても、座金11の組込み忘れを防止することができると共に、支点軸受装置の組立ての容易化を図ることができる。
【符号の説明】
【0037】
3 ベルト
4 テンションプーリ
5 プーリアーム
6 油圧式オートテンショナ
7 ボス部
8 軸挿入孔
10 支点軸
11 座金
12 ボルト
13 アーム取付け対象(エンジンブロック)
20 弾性シール
30 環状突出部
31 筒部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テンションプーリを支持し、油圧式オートテンショナによって前記テンションプーリがベルトを押圧する方向に付勢されるプーリアームのボス部に両端面に貫通する軸挿入孔を設け、その軸挿入孔内に挿入された筒状の支点軸の両端に一対の座金を衝合し、その一対の座金を貫通するようにして前記支点軸内に挿通されたボルトをアーム取付け対象にねじ係合し、そのボルトの締付けにより支点軸を固定してプーリアームを揺動自在に支持したプーリアームの支点軸受装置において、
前記一対の座金の前記ボス部と対向する面に膜状の弾性シールを接着し、その弾性シールを締め代をもって前記ボス部の端面に弾性接触させたことを特徴とするプーリアームの支点軸受装置。
【請求項2】
前記弾性シールが、ニトリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムの1種からなる請求項1に記載のプーリアームの支点軸受装置。
【請求項3】
前記ゴムが、発泡ゴムからなる請求項2に記載のプーリアームの支点軸受装置。
【請求項4】
前記締め代が、0.05〜0.8mmの範囲である請求項1乃至3のいずれかの項に記載のプーリアームの支点軸受装置。
【請求項5】
前記弾性シールの膜厚が、0.1mm〜1.0mmの範囲とされた請求項1乃至4のいずれかの項に記載のプーリアームの支点軸受装置。
【請求項6】
前記一対の座金の一方と支点軸の相互間に、軸方向に非分離とする手段を設けた請求項1乃至5のいずれかの項に記載のプーリアームの支点軸受装置。
【請求項7】
前記軸方向に非分離とする手段が、前記支点軸の軸方向一端面の内周部に環状突出部を設け、その環状突出部を前記座金の内径面に圧入した構成からなる請求項6に記載のプーリアームの支点軸受装置。
【請求項8】
前記軸方向に非分離とする手段が、前記支点軸の軸方向一端面の内周部に環状突出部を設け、その環状突出部を前記座金の内径面に嵌合して加締めにより固定した構成からなる請求項6に記載のプーリアームの支点軸受装置。
【請求項9】
前記軸方向に非分離とする手段が、前記座金の内周部を弾性シールの接着面側に折曲げて筒部を設け、その筒部を前記支点軸の端部内に圧入して、筒部の外径面に設けられた弾性シールを支点軸の内径面に弾性接触させた構成からなる請求項6に記載のプーリアームの支点軸受装置。
【請求項10】
前記座金が、表面処理鋼板からなる請求項1乃至9のいずれかの項に記載のプーリアームの支点軸受装置。
【請求項11】
前記表面処理鋼板が、溶融めっき鋼板からなる請求項10に記載のプーリアームの支点軸受装置。
【請求項12】
前記溶融めっき鋼板のめっき層が、Zn−Al6%−Mg3%の合金からなる請求項11に記載のプーリアームの支点軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−58528(P2011−58528A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206911(P2009−206911)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】