説明

ヘパラナーゼ阻害剤による美白方法及び美白効果を有する物質の評価方法

【課題】新規美白方法及び美白効果を有する物質の評価方法の提供。
【解決手段】本発明は、皮膚に存在するヘパラナーゼの活性を抑制することを特徴とする、美白方法、並びにヒトまたは動物の皮膚、皮膚組織または細胞に被験物質を接触させ、前記皮膚におけるヘパラナーゼの酵素活性を測定し、ヘパラナーゼの酵素活性の変化を指標として被験物質の美白効果を評価することを特徴とする、被験物質の美白効果の評価方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘパラナーゼ阻害剤による美白方法及び美白効果を有する物質の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚のしみ・そばかすなどの色素沈着は、ホルモンの異常や紫外線、皮膚局所の炎症が原因となってメラニンが過剰に形成され、これが皮膚内に沈着するものと考えられている。皮膚の色素沈着の原因となるこのメラニンは、表皮基底層にある色素細胞(メラノサイト)内で合成され、メラノソームと呼ばれる小胞に貯蔵される。このメラノソームがメラノサイト内に移動し、周囲角化細胞(ケラチノサイト)に取り込まれ、皮膚が黒色化する。このメラノサイト内におけるメラニンは、チロシンが酵素チロシナーゼの作用によりドーパキノンを経て酵素的または非酵素的な酸化反応により黒色のメラニンへと変化して生成される。そこでこれまで、第一段階の反応であるチロシナーゼの活性を抑制することが、メラニンの生成を抑制するうえで重要であると考えられ、チロシナーゼ活性を阻害する物質の開発が行われてきた。
【0003】
しかしながら、チロシナーゼの活性を抑制する化合物はハイドロキノンを除いてはその効果の発現がきわめて緩慢であるため、皮膚色素沈着の改善効果が十分でない(特開昭58-154507号公報(特許文献1))。一方、ハイドロキノンは効果が認められるが、感作性があるため一般の使用が制限されている。そこで、チロシナーゼ活性阻害以外の作用機序による美白剤の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−154507号公報
【特許文献2】WO 2005/042495 A1
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Semin Cancer Biol., 2002;12(2):121-129
【非特許文献2】Mol Cancer Ther., 2004;3(9):1069-1077
【非特許文献3】Bioorg. Med. Chem. Lett., 2006;(16):409-412.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、より効果的な美白方法を提供することを目的とするものである。さらに、本発明は、より効率的かつ簡便に被験物質の美白効果を評価できる方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、以前に、小じわモデルによって誘導されるしわ形成過程を生化学的に解析した結果、しわ形成過程において、ヘパラナーゼの発現が増加し、基底膜のヘパラン硫酸プロテオグリカンであるパールカンのヘパラン硫酸鎖が分解されることを見出し、ヘパラナーゼの活性を阻害する物質を塗布することによって、しわ形成を抑制できることを発見している(PCT/JP2009/056717)。そこで、ヘパラナーゼの活性を阻害とシミとの関係性についても検討した結果、シミ部位でヘパラン硫酸が特異的に分解を受けている新知見を得た。そして、ヘパラナーゼ阻害剤として公知な化合物1-[4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニル]-3-[4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニル]-ユレアを美白効果検証用皮膚モデル(メラノサイトを含む皮膚モデル)に作用させることで、コントロールと比較して有意に皮膚の黒色化を抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。なお、1-[4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニル]-3-[4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニル]-ユレアは、ヘパラナーゼ阻害効果が知られているが、美白効果については知られていない。
【0008】
したがって、本願は以下の発明を包含する。
(1)皮膚に存在するヘパラナーゼの活性を抑制することを特徴とする、美白方法。
(2)皮膚に存在するヘパラナーゼの活性を抑制する方法として、ヘパラナーゼ遺伝子発現を抑制する物質を適用することを特徴とする、(1)の美白方法。
(3)皮膚に存在するヘパラナーゼの活性を抑制する方法として、ヘパラナーゼ遺伝子の翻訳を抑制する物質を適用することを特徴とする、(1)の美白方法。
(4)皮膚に存在するヘパラナーゼの活性を抑制する方法として、ヘパラナーゼの酵素活性を阻害する物質を適用することを特徴とする、(1)の美白方法。
(5)皮膚に存在するヘパラナーゼの活性を抑制する方法として、ヘパラナーゼの酵素活性の活性化を阻害する物質を適用することを特徴とする、(1)の美白方法。
(6)皮膚に存在するヘパラナーゼの活性を抑制する物質を、経口、注射、外用塗布などの手段にて投与することを特徴とする、(2)の美白方法。
(7)皮膚に存在するヘパラナーゼの活性を抑制する物質を有効成分として含有する、経口投与用美白剤。
(8)皮膚に存在するヘパラナーゼの活性を抑制する物質を有効成分として含有する、注射用美白剤。
(9)皮膚に存在するヘパラナーゼの活性を抑制する物質を有効成分として含有する、皮膚外用美白剤。
(10)ヘパラナーゼの活性を抑制する物質が4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニルアミンである、(7)〜(9)のいずれかの美白剤。
(11)ヒトまたは動物の皮膚、皮膚組織または細胞に被験物質を接触させ、前記皮膚におけるヘパラナーゼの酵素活性、遺伝子発現レベルまたはヘパラン硫酸鎖を測定し、ヘパラナーゼの酵素活性、遺伝子発現レベルまたはヘパラン硫酸鎖の変化を指標として被験物質の美白効果を評価することを特徴とする、被験物質についての美白効果の評価方法。
(12)表皮角化細胞を用いることを特徴とする(11)の方法。
(13)真皮線維芽細胞を用いることを特徴とする(11)の方法。
【0009】
本発明の経口、注射、皮膚外用剤を適応することによって、また、本発明の美容方法によって、皮膚に存在するヘパラナーゼを抑制し、非常に効果的に美白効果を得ることが可能である。また、本発明の評価方法によって、効率的かつ簡便に、より高い効果を有する美白効果を有する物質を特定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】メラノサイトを含む皮膚モデル(MEL-FT、MatTeK社製、USA)の外観写真を示す。
【図2】各皮膚モデルの表皮中のメラニン量の比較結果を示す。
【図3】老人性色素斑とその近傍部位の正常組織のパールカン、ヘパラン硫酸の免疫染色結果を示す。
【図4】血管マーカーである抗CD31抗体による免疫染色の結果と、画像解析結果を示す。
【図5】リンパ管マーカーである抗LYVE-1抗体による免疫染色の結果と、画像解析結果を示す。
【図6】老人性色素斑組織におけるin situ bFGF 結合アッセイの結果を示す。
【図7】脂漏性色素斑組織におけるin situ bFGF結合アッセイの結果を示す。
【図8】4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニルアミンのヘパラナーゼ活性阻害の評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ヘパラナーゼは、種々の細胞に存在し、様々なヘパラン硫酸プロテオグリカンのヘパラン硫酸鎖を特異的に分解する酵素である。皮膚では、表皮を構成する表皮角化細胞および真皮の線維芽細胞、血管内皮細胞などが産生する。各種癌細胞でも産生が高まっていることが知られ、癌の悪性度との関連も示唆されている。癌細胞でヘパラナーゼの産生が高いと転移性が高く、血管新生の誘導能も高いことが知られている(Vlodavsky I., et. al., Semin Cancer Biol., 2002;12(2):121-129(非特許文献2)参照)。
【0012】
本発明では、老人性色素斑組織は露光部皮膚と比較して、基底膜のヘパラン硫酸が分解していることを明らかにされた。ヘパラン硫酸の分解に伴い、表皮で発現している血管内皮細胞増殖因子−A(VEGF-A)の制御が破綻し、これにより真皮の血管やリンパ管の変化により炎症を生じさせ、メラノサイトを活性化させメラノソームへのメラニン貯蔵を促進させる。また、真皮で発現している線維芽細胞増殖因子-7(FGF‐7)の制御が破綻することで、メラノサイトから表皮細胞でメラノソームの受け渡しが促進される。すなわち、ヘパラナーゼ活性化に伴うヘパラン硫酸の分解は、炎症によるメラノサイトの活性化とFGF-7制御の破綻によるメラノソーム受け渡し促進により、相乗的にメラノソームがケラチノサイトに蓄積すると考えられる。
【0013】
本発明の美白効果を示す物質としては、皮膚に存在するヘパラナーゼの活性を阻害する物質、ヘパラナーゼの発現を阻害する物質、ヘパラナーゼの翻訳を阻害する物質、ヘパラナーゼの酵素活性の活性化を阻害する物質等のヘパラナーゼ活性抑制物質を有効成分として含有することを特徴とする。
【0014】
本発明の美白方法は、皮膚に存在するヘパラナーゼに対して上記ヘパラナーゼ活性抑制物質を経口、注射または外用の方法で投与し、皮膚のヘパラナーゼを抑制することを特徴とする。
【0015】
本明細書において、「ヘパラナーゼの活性の抑制」とは、ヘパラナーゼの酵素活性を阻害するのみならず、遺伝子の発現やタンパク質生合成を阻害する、ヘパラナーゼの酵素活性の活性化を阻害する等、皮膚におけるヘパラナーゼの働きを抑制する任意の作用を含む。ヘパラナーゼの酵素活性を阻害する物質の例としては、1-[4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニル]-3-[4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニル]-ユレア(WO 2005/042495 A1(特許文献2)、スラミンをはじめ、様々な化合物や生薬が知られる。
本発明に係るヘパラナーゼの活性の測定は、ヘパラナーゼ自体あるいはその酵素活性を測定することのできる任意の方法に従い、定量的又は定性的に実施することができる。具体的には、ヘパラナーゼの基質ヘパラン硫酸の分解産物を測定するか、あるいはヘパラナーゼの生合成量を測定するためにヘパラナーゼに特異的な抗体を利用する免疫測定方法、例えば酵素ラベルを利用するELISA法、放射性ラベルを利用するRIA法、免疫比濁法、ウェスタンブロット法、ラテックス凝集法、赤血球凝集法等、様々な方法が挙げられる。免疫測定法の方式には競合法やサンドイッチ法が挙げられる。他に、ヘパラナーゼをコードする遺伝子の量の測定により行うこともできる。この場合、好ましくは、ヘパラナーゼの発現は細胞内のヘパラナーゼをコードするmRNAの量を測定することにより決定する。mRNAの抽出、その量の定量的又は定性的測定も当業界において周知であり、例えばPCR法、3SR法、NASBA法、TMA法など、さまざまな周知の方法により実施することができる。他に、ヘパラナーゼはin situハイブリダイゼーション法やその生物活性の測定を通じて定性的に決定することができる。
【0016】
ヘパラナーゼの活性は、例えば対照の皮膚と比べ有意に低下していたら、抑制されていると判断する。「対照の皮膚と比べ有意に低下」とは、「対照の皮膚細胞」、すなわちヘパラナーゼの活性を阻害する物質で処理していない皮膚細胞と比べ、測定されたヘパラナーゼの活性が統計学的に有意に低下していること、例えば95%以下、又は90%以下、又は80%以下、又は70%以下、又は60%以下、又は50%以下、又は30%以下、又は10%以下である場合をいう。
【0017】
本発明の被験物質の美白効果の評価方法は、ヒトまたは動物の皮膚、皮膚組織、細胞または酵素に被験物質を接触させ、前記皮膚、組織または細胞におけるヘパラナーゼの酵素活性、遺伝子発現レベルまたはヘパラン硫酸鎖の変化を指標として美白効果を評価することを特徴とする。
【0018】
本明細書において、「美白」とは、基底膜のへパラン硫酸の分解に伴うメラノサイトの活性化の結果生ずるケラチノサイトでのメラノソームの蓄積による皮膚の黒色化を抑え、しみ、そばかす、くすみなどを改善することを意味する。本発明でいう「美白方法」とは特に断りのない限り、美容目的を意味するが、場合により、医療目的とする場合もある。
【0019】
本発明の美白方法において、上記のヘパラナーゼを抑制する物質は、本発明の目的を達成できる限り、任意の形態で適用することができ、また単独で適用しても、あるいは他の任意の成分と共に配合して適用してもよい。皮膚への適用する場合には、皮膚の場所も限定されず、頭皮を含む体表面のあらゆる皮膚を含む。
【0020】
本発明の美白効果の評価方法は、ヒトまたは動物の皮膚、皮膚組織、細胞または酵素に被験物質を接触させる工程を含む。
【0021】
本評価方法で用いることができるヒトまたは動物の皮膚は、本発明の目的を達成できる限り特に限定はされない。本発明の評価方法において、例えば、美白モデルにおいて亢進された遺伝子発現を低下させる物質、ヘパラン硫酸鎖の分解を阻害する物質を特定することによって、美白効果を示す物質を効率的に特定できると考えられる。
【0022】
ヘパラナーゼの活性を指標とする一次評価は、例えばビオチン化したヘパラン硫酸を96ウェルに固定化した後、薬剤や生薬存在下にてヘパラナーゼを作用させ、ビオチン化ヘパラン硫酸の減少量をパーオキシダーゼ標識したアビジンを作用させ、発色させることでヘパラナーゼ活性を評価することで行うことができる。一次評価にてヘパラナーゼ活性阻害効果があった薬剤は、一次評価とは異なったヘパラナーゼ活性を指標とした二次評価系にて再現性および濃度依存性の評価を行うことができる。二次評価は、ヘパラナーゼを発現しているHT1080細胞を用いて評価を行うことができる。HT1080細胞は、コンフレントに培養した後に細胞をスクラッチすると、ヘパラナーゼ活性依存的に細胞が遊走することが知られている(Ishida K., et. al., Mol Cancer Ther., 2004;3(9):1069-1077.参照(非特許文献4))。そこで評価薬剤を添加することで、スクラッチ部位の遊走(回復)の程度からヘパラナーゼ阻害活性を評価する。
【0023】
その結果、ヘパラナーゼ活性を有意に抑制する化合物として4‐(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニルアミンが見出された。4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニルアミン及びその誘導体はヘパラナーゼ活性阻害作用や美白作用を示すことが従来技術において全く知られていない。
【0024】
ヘパラナーゼ活性を有する4‐(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニルアミンや植物エキスは本願発明の美白方法に使用することができる。特に植物エキスは、安全性が高く、ヘパラナーゼ活性を原因とする種々の症状や疾病、病態等の治療、予防、改善等に役立つ。特に、皮膚におけるヘパラナーゼ活性の阻害に基づくメラノサイトの活性化の予防に好適に適用される。より詳しくは、加齢や光老化等による基底膜プロテオグリカンのヘパラン硫酸鎖の分解に伴うメラノサイトの活性化とFGF-7制御の破綻によるメラノソーム受け渡し促進による相乗的なメラノソームの蓄積を防止、改善し、しみ、そばかす、くすみのない肌の状態を維持すること等に好適に適用される。
【0025】
本発明のヘパラナーゼ活性阻害剤を皮膚外用剤に配合する場合、上記各ヘパラナーゼ活性阻害剤配合量は外用剤全量中、乾燥質量(固形分質量)として0.0001〜1質量%が好ましく、特には0.0001〜0.2質量%である。0.0001質量%未満では本発明の効果が十分に発揮され難く、一方、1質量%を超えて配合してもさほど大きな効果の向上は認められず、また製剤化が難しくなるので好ましくない。
【0026】
本発明のヘパラナーゼ活性阻害剤を、例えば皮膚外用剤に適用する場合、上記必須成分以外に、本発明の効果を損わない範囲内で、通常化粧品や医薬品等の外用剤に用いられる成分、例えば、美白剤、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0027】
さらに、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属イオン封鎖剤、メチルパラベン、エチルパラベン、ブチルパラベン、フェノキシエタノール等の防腐剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸およびその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸、4-メトキシサリチル酸等の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類、レチノイン酸、レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール等のビタミンA誘導体類なども適宜配合することができる。本発明のヘパラナーゼ活性阻害剤は美白剤と併用することにより更なる美白効果が期待される。
【0028】
またこの皮膚外用剤は、外皮に適用される化粧料、医薬部外品等、特に好適には化粧料に広く適用することが可能であり、その剤型も、皮膚に適用できるものであればいずれでもよく、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水−油二層系、水−油−粉末三層系、軟膏、化粧水、ゲル、エアゾール等、任意の剤型が適用される。
【0029】
使用形態も任意であり、例えば化粧水、乳液、クリーム、パック等のフェーシャル化粧料やファンデーション、口紅、アイシャドウ等のメーキャップ化粧料、芳香化粧料、浴用剤等に用いることができる。
【0030】
また、メーキャップ化粧品であれば、ファンデーション等、トイレタリー製品としてはボディーソープ、石けん等の形態に広く適用可能である。さらに、医薬部外品であれば、各種の軟膏剤等の形態に広く適用が可能である。そして、これらの剤型および形態に、本発明のヘパラナーゼ活性阻害剤の採り得る形態が限定されるものではない。
【0031】
本発明のヘパラナーゼ活性阻害剤を医薬製剤として用いる場合、該製剤は経口的にあるいは非経口的(静脈投与、腹腔内投与、等)に適宜に使用される。剤型も任意で、例えば錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤、または、注射剤などの非経口用液体製剤など、いずれの形態にも公知の方法により適宜調製することができる。これらの医薬製剤には、通常用いられる結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤やpH調製剤などの賦形剤を適宜使用してもよい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
実験1:ヘパラナーゼ阻害剤による美白効果の評価
メラノサイトを含む皮膚モデルを用いて、ヘパラナーゼ阻害剤である1-[4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニル]-3-[4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニル]-ユレアの美白効果について検討した。
メラノサイトを含む皮膚モデル(MEL-FT、MatTeK社製、USA)を専用培地(MEL-FT-NMM-113、MatTeK社製、USA)にて培養を開始した。培養2日目からはコントロール群はDMSO、ヘパラナーゼ阻害剤群は終濃度50μMとなるように1-[4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニル]-3-[4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニル]-ユレアを加え培養を行い、培地交換を2日または3日おきに行った。培養10日目、14日目に皮膚モデルを採取して外観写真を撮影したところ、ヘパラナーゼ阻害剤群では外観の色がコントロール群より薄く白いことが分かった。
【0033】
さらにその皮膚モデルの表皮のみを採取し、0.2N水酸化ナトリウム溶液300μLを加え攪拌後、24時間室温にて静置し、30分間95℃で加熱することで表皮を完全に可溶化させた。可溶化後の溶液の475nm吸光度を測定することで表皮中に含まれるメラニン量を検討すると、ヘパラナーゼ阻害剤群はコントロール群と比較して有意にOD475nmの値が低い、すなわちメラニン量が少ないことが明らかとなった。
図1は、MEL-FT皮膚モデルの外観写真を示す。培養10日、14日めでヘパラナーゼ阻害剤群で明らかに白いことが分かる。図2は、各皮膚モデルの表皮中のメラニン量の比較結果を示す。培養10日、14日において、ヘパラナーゼ阻害剤群でメラニンの指標となるOD475nmの吸光度値が優位に低いことがわかる。よって、ヘパラナーゼ阻害剤に美白効果があることが立証された。
【0034】
実験2:凍結ヒト組織の免疫染色
老人性色素斑及び近傍の正常部位皮膚の凍結組織ブロックを新たに切片化し、8μmの切片を作成した。8μmに剥切した組織切片は、冷アセトンによって固定し乾燥後、PBSにて脱OCTを行った。3%過酸化水素水処理にて組織内在性パーオキシダーゼを不活化してから、10%正常ヤギ血清にてブロッキングし、表1の1次抗体、2次抗体の順番で反応させた。HRP標識させた組織は、PBSにて5回洗浄した後、AECにて発色させた。発色後の組織は、流水にて十分に洗浄してから、水溶性マウント剤を用いて封入した。
【表1】

【0035】
実験3:in situ bFGFアッセイ
25μgのbFGFを200μLの膨潤ヘパリン-セファロース(CL-6B; Pharmacia Biotech)に結合させ、DMSOに溶解したNH2-反応性-ビオチン(Dojindo molecular tech.)を室温で5分反応させ、800μLの洗浄バッファー(20mmol/L HEPES, pH7.4, 400mmol/L NaCl )で洗浄し、200μLの溶出バッファー(20mmol/L HEPES, pH7.4, 0.2% BSA, 3mol/L NaCl )で2回溶出させることで、高塩濃度ビオチン化bFGFを回収した。その後、Ultra free C3LGCカラム(アミコン)に入れ、PBSで3回洗浄することで(0.25g/L)ビオチン化bFGFを得た。
【0036】
5μmに剥切したパラフィン組織切片(老人性、脂漏性角化症部位とその近傍正常部位)を、キシレンにて脱パラ後、エタノール(100%→70%)で置換し、3%過酸化水素水処理にて組織内在性パーオキシダーゼを不活化した。その後、pH5のバッファー(0.5M NaCl含有)、pH10のバッファー(0.5M NaCl含有)で洗浄することで、内在性のヘパラン硫酸結合因子を遊離させた。10%血清にてブロッキングし、ビオチン化bFGF(10nmol/L)を室温1時間反応させ、PBSで3回洗浄した。その後、ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン(Nichirei, Japan)を室温で15分作用させ、PBSで3回洗浄し、DABにて発色させた。発色後の組織は、流水にて十分に洗浄してから、ヘマトキシリンにて核を染色させ、エタノール(70%→100%)置換、キシレン置換してから封入した。
【0037】
実験4:血管、リンパ管画像解析
CD31染色、LYVE1染色組織は、1切片あたり3枚の写真を撮影し、win roof (Mitani Corporation)にて、染色された血管、リンパ管の数、面積を画像解析にて算出した。さらに、真皮乳頭層エリアの真皮総面積も画像解析にて算出することで、血管やリンパ管の密度、大きさを算出した。
【0038】
図3は、老人性色素斑とその近傍部位の正常組織のパールカン、ヘパラン硫酸の免疫染色結果を示す。正常組織では、パールカン、ヘパラン硫酸ともに基底膜が染色されているが、老人性色素斑組織では、パールカン染色のみ染色され、ヘパラン硫酸の染色は著しく低下している。この結果から、老人性色素斑部位ではヘパラン硫酸が特異的に分解を受けていることがわかる。
【0039】
図4は、血管マーカーである抗CD31抗体による免疫染色の結果と、画像解析結果を示す。各染色組織を画像解析ソフトwin roofにて、cd31で染色された血管の数、太さ、面積を算出することで、老人性色素斑部位とその近傍正常部位の血管の変化を解析した。老人性色素斑部位で血管のサイズ、血管エリアが有意に高いことが明らかとなった。この結果から老人性色素斑部位では血管拡張が起きていることが明らかとなった。
【0040】
図5は、リンパ管マーカーである抗LYVE-1抗体による免疫染色の結果と、画像解析結果を示す。各染色画像を解析ソフトwin roofにて、LYVE-1で染色されたリンパ管の数、太さ、面積を算出することで、老人性色素斑部位とその近傍正常部位のリンパ管の変化を解析した。老人性色素斑部位でリンパ管のサイズ、リンパ管エリアが有意に高いことが明らかとなった。この結果から老人性色素斑部位ではリンパ管拡張が起きていることが明らかとなった。
【0041】
図6は、老人性色素斑組織におけるin situ bFGF結合アッセイの結果を示す。老人性色素斑の近傍の正常組織では、基底膜が茶色に染色されていることから、bFGFが結合することを示しているが、老人性色素斑部位では、基底膜の染色が見られない、すなわちbFGFが結合できないことを示しており、ヘパラン硫酸の分解によりbFGFが結合できなくかったと考えられる。
【0042】
図7は、脂漏性色素斑組織におけるin situ bFGF結合アッセイの結果を示す。脂漏性色素斑の近傍の正常組織では、基底膜が茶色に染色されていることから、bFGFが結合することを示しているが、脂漏性色素斑部位では、基底膜の染色が見られない、すなわちbFGFが結合できないことを示しており、ヘパラン硫酸の分解によりbFGFが結合できなくかったと考えられる。
【0043】
ヘパラナーゼ活性阻害のスクリーニング
1-[4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニル]-3-[4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニル]-ユレアの誘導体である4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニルアミンについてヘパラナーゼ活性を調べた。
A431細胞(浸潤性ヒト上皮ガン細胞)を10%血清入りDMEM培地にて培養した。培養細胞はLysis Buffer(50mM Tris, 0.5% TritonX-100, 0.15M Nacl, pH4.5)にて可溶化し、スクレイパーにて回収した後、ピペッティングを行いon iceで30分間静置させた。その後10,000rpmで10分遠心することで、不溶解物を除去して上清を細胞抽出液とした。細胞抽出液中のタンパク量はBCA Protein Assay Kit(PIERCE, CA46141)にて測定した。
【0044】
細胞抽出液をアッセイBuffer(50mM HEPES, 50mM CH3COONa, 150mM NaCl, 9mM CaCl2, 0.1% BSA)にて所定の濃度に希釈し、4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニルアミンを添加、混合してから、ビオチン化ヘパラン硫酸固定化プレートに100μL/wellで播種した。37℃で2時間反応させ、PBS-Tで3回洗浄してから、10,000倍希釈HRP-avidin(Vector, A-2004)/PBS-Tを100μL/wellで播種して37℃で1時間反応させた。再度3回PBS-Tにて洗浄を行い、TMB試薬(BIO-RAD, 172-1066)を100μL/wellで播種して反応させ、1NH2SO4にて反応を止めた後、OD475nmを測定した(特表2003-502054参照(特許文献3))。
ヘパラナーゼ活性は、A431細胞抽出液の検量線から活性を算出し、薬剤抽出物を添加していない資料(コントロール)に対する相対的な値を持って、阻害率(%)を示した。
【0045】
その結果、4-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-フェニルアミンが濃度依存的にヘパラナーゼ活性を効果的に抑制することが明らかとなった。この結果を図8に示す。コントロールは、候補薬剤の変わりにDMSOを作用させたものである。
IC50=256μM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚に存在するヘパラナーゼの活性を抑制することを特徴とする、美白方法。
【請求項2】
皮膚に存在するヘパラナーゼの活性を抑制する方法として、ヘパラナーゼの酵素活性を阻害する物質を適用することを特徴とする、請求項1記載の美白方法。
【請求項3】
皮膚に存在するヘパラナーゼの活性を抑制する物質を、経口、注射、外用塗布から選ばれる手段にて投与することを特徴とする、請求項1又は2記載の美白方法。
【請求項4】
皮膚に存在するヘパラナーゼの活性を抑制する物質を有効成分として含有する、美白剤。
【請求項5】
皮膚外用剤である、請求項4に記載の美白剤。
【請求項6】
ヒトまたは動物の皮膚、皮膚組織または細胞に被験物質を接触させ、前記皮膚におけるヘパラナーゼの酵素活性を測定し、ヘパラナーゼの酵素活性の変化を指標として被験物質の美白効果を評価することを特徴とする、被験物質の美白効果の評価方法。
【請求項7】
表皮角化細胞を用いることを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
真皮線維芽細胞を用いることを特徴とする、請求項6記載の方法。

【図2】
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【図8】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−63520(P2011−63520A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213095(P2009−213095)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】