説明

ベルト伝動装置

【課題】リミットトルクの精度と反復性・復帰性とを高めたトルクリミッタを、低コストで実現する。
【解決手段】自動調心プーリ4は、プーリ本体5がプーリ軸C1周りに回転自在にかつ、枢軸C2周りに揺動自在に支持されて構成される。平ベルト3は、所定のスラスト力の作用によりプーリ幅方向の一方向に付勢されており、通常時においては、自動調心プーリ4からの調心力とスラスト力とがつり合った状態で平ベルト3が走行する一方、従動プーリ2の負荷が所定以上になった時には、駆動プーリ1がスリップして平ベルト3の走行が停止することにより自動調心プーリ4からの調心力がなくなって、スラスト力により平ベルト3が駆動プーリ1のプーリ面から脱落する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクリミッタを備えたベルト伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば農業機械等における動力伝達機構には、所定以上のトルク伝達を遮断するトルクリミッタが利用されている。こうしたトルクリミッタの一例として、例えば所定のトルクでピン等を破断させる破断式のものが知られている。ところが、破断式のトルクリミッタは、安価であるものの、トルクリミッタが作動するトルク(リミットトルク)が不安定で(つまり、リミットトルクの精度が低い)、しかもトルクリミッタの作動後はピンの交換を行わなければならず、容易に復帰させることができないと共に復帰に長時間を要する(つまり、反復性・復帰性が悪い)という問題がある。
【0003】
これに対し、例えば特許文献1には、複数のローラを一定の傾斜角で傾斜配置させたトルク板を有するトルクリミッタが開示されている。
【特許文献1】特開2004−261093号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されているトルクリミッタは反復性・復帰性が高いものの、構造が複雑であり、しかもリミットトルクの精度を高めようとすれば製造コストが大幅に増大してしまうという不都合がある。
【0005】
すなわち、トルクリミッタにおいて、リミットトルクの精度を高めつつ反復性・復帰性を高めることと、低コスト性とを両立させることは極めて困難である。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、リミットトルクの精度と反復性・復帰性とを高めたトルクリミッタを、低コストで実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、平ベルトを用いたベルト伝動装置であって、このベルト伝動装置において、平ベルトの片寄りを生じたときに、この平ベルトの張力によってプーリ軸にかかる軸荷重の位置が変化することを利用してプーリを変位させ、平ベルトの蛇行を防止する自動調心プーリをトルクリミッタに利用することとした。
【0008】
つまり、この自動調心プーリは、詳しくは後述するが、平ベルトが巻き掛けられる円筒状のプーリ本体と、プーリ本体を、そのプーリ軸周りに回転自在にかつ、所定の枢軸周りに揺動自在に支持する支持手段と、を有し、その枢軸がプーリ軸方向に沿って見て軸荷重の方向に対して上記プーリ本体の回転方向前側に所定の傾倒角で傾倒しているものである。このことで、平ベルトの片寄りに伴い軸荷重の位置がプーリ幅方向にずれたときには、この軸荷重によりプーリ本体が枢軸周りに回動変位して、平ベルトに対し片寄り方向とは反対の方向の戻し力(調心力)を付与し、それによって平ベルトの蛇行を防止する。
【0009】
この自動調心プーリは、平ベルトが走行しているときにはベルトに対し調心力を付与する一方で、平ベルトの走行が停止した時には調心力を付与することができない。
【0010】
そこで、本発明では、ベルト伝動装置において所定以上のトルクが加わった時に、平ベルトの走行を停止させて自動調心プーリの調心力をなくし、それによって平ベルトを駆動プーリのプーリ面から脱落させてトルクの伝達を遮断することとした。
【0011】
具体的に、本発明のベルト伝動装置は、駆動プーリと、従動プーリと、自動調心プーリと、上記駆動プーリ、従動プーリ及び自動調心プーリ間に巻き掛けられて該駆動プーリの動力を上記従動プーリに伝達する平ベルトと、を備える。
【0012】
そして、上記自動調心プーリは、上記平ベルトが巻き掛けられるプーリ本体と、上記プーリ本体を、そのプーリ軸周りに回転自在にかつ、所定の枢軸周りに揺動自在に支持する支持手段と、を有し、上記枢軸は、上記プーリ軸方向に沿って見て軸荷重の方向に対して上記プーリ本体の回転方向前側に所定の傾倒角で傾倒しており、上記平ベルトは、所定のスラスト力の作用により上記各プーリのプーリ幅方向の一方向に付勢されているとする。
【0013】
そうして上記ベルト伝動装置は、通常時には、上記自動調心プーリにかかる軸荷重によって該自動調心プーリから上記平ベルトに付与される調心力と上記スラスト力とがつり合った状態で上記平ベルトが走行する一方、上記従動プーリの負荷が所定以上になった時には、上記駆動プーリがスリップして上記平ベルトの走行が停止することに伴い上記自動調心プーリからの調心力がなくなって、上記平ベルトが上記スラスト力により上記プーリ幅方向の一方向に移動して上記駆動プーリのプーリ面から脱落するように構成される。
【0014】
上記構成のベルト伝動装置において、まず自動調心プーリの基本的な作用を説明する。すなわち、平ベルトが自動調心プーリのプーリ本体上で片寄って、軸荷重が枢軸の位置からプーリ本体の幅方向にずれて作用するようになると、その軸荷重によって枢軸周りの回転モーメントが発生して、プーリ本体が回動変位する。これにより、プーリ本体は、ベルトの片寄った側が軸荷重の方向に移動するように、即ち、軸荷重の方向で高低をみれば、ベルトが片寄ってきた側が低く、反対側が高くなるように傾斜する。つまり、プーリ本体は、その外周面がプーリのクラウンと同様に傾斜した状態になるので、ベルトには上記片寄り方向とは反対の方向への戻し力が働くことになる。
【0015】
また、上記のような回動変位の中心となる枢軸が、軸荷重の方向に対して該プーリ本体の回転方向前側に傾倒している(即ち傾倒角度が0度を越え且つ90度未満である)ときには、プーリ本体の回動変位には、上記軸荷重の方向の成分だけでなく、軸荷重方向に直交する前後方向(ベルトがプーリ本体に接触して走行している方向である)の成分が含まれる。すなわち、プーリ本体は上記の如く軸荷重の方向に傾斜するだけでなく、ベルトの片寄った側がベルト走行方向の前側に移動して、当該ベルトに対し斜交いになって接触した状態になり、その斜交い状態でプーリ本体が回転することにより、平ベルトにはプーリ本体から上記片寄り方向とは反対の方向への戻し力が働くことになる。
【0016】
ここで、上述の如く自動調心プーリのプーリ本体が軸荷重方向に傾斜することによる戻し力の作用と、該プーリ本体が斜交いになってベルトを捻ることによる戻し力の作用とでは、後者の方が片寄り防止効果が高いので、自動調心プーリにおける枢軸の傾倒角は0度を越え90度未満とすることが好ましい。より好ましくは、上記捻りによる作用を有効に利用するために、上記傾倒角は0度を越え45度以下の範囲に設定するのがよく、30度以下とするのがさらに好ましい。
【0017】
上記自動調心プーリは換言すれば、上記プーリ本体が上記枢軸の周りに揺動自在に支持されていることにより、その枢軸の傾倒角が0度を越え且つ90度未満である場合は、プーリ本体の幅方向に平ベルトが片寄ったときに、プーリ本体が軸荷重の方向に傾斜することによる戻し力と、プーリ本体が斜交い状態になることによる戻し力と、の双方の力(調心力)を平ベルトに対し付与して、この平ベルトを、その調心力と片寄り力とがつり合った状態で走行させるプーリである。すなわち、上記自動調心プーリは平ベルトの蛇行を防止することができる。
【0018】
ここで、上記の構成のベルト伝動装置においては、平ベルトには所定のスラスト力の作用により上記各プーリのプーリ幅方向の一方向に付勢されていることから、通常時において上記平ベルトは、そのスラスト力と、上記自動調心プーリの調心力とがつり合った状態で走行することになる。従って、平ベルトは、スラスト力が作用するものの、駆動プーリから脱落することなく走行する。ここで、平ベルトにスラスト力を作用させるためには、例えばベルト心線の巻き方向を変える等によって容易に実現する。
【0019】
上記自動調心プーリは、ベルトの走行時にはそのベルトに対し調心力を付与することができるのに対し、ベルトの走行が停止した時にはそのベルトに対し調心力を付与することができない。
【0020】
そこで、上記の構成のベルト伝動装置においては、上記従動プーリの負荷が所定以上になった時には、上記駆動プーリがスリップして平ベルトの走行を停止させる。これは、ベルト伝動装置のレイアウトを調整することによって容易に実現可能であり、例えば駆動プーリの接触角度を調整すること、そのプーリ径を調整すること、及び平ベルトの張力を調整すること等によって、駆動プーリを所定のトルクでスリップさせることが可能である。
【0021】
そうして、駆動プーリがスリップして平ベルトの走行が停止した時には、上述したように自動調心プーリの調心力がなくなるため、調心力とスラスト力とがつり合った状態が崩れて、平ベルトはスラスト力により駆動プーリのプーリ幅方向に移動してそのプーリ面から脱落する。その結果、上記のベルト伝動装置におけるトルクの伝達が遮断されることとなる。
【0022】
平ベルトを用いたベルト伝動装置において駆動プーリがスリップを開始するトルクは、ベルトの張力によって比較的高精度に設定可能であるため、上記構成のベルト伝動装置では、トルクリミッタにおけるリミットトルクの高精度化が図られる。
【0023】
また、駆動プーリのスリップ開始(換言すれば平ベルトの走行停止)からベルトの脱落までは瞬時に行われるため、平ベルトは大きな発熱を受けることない。つまり、平ベルトは、ほとんどダメージを受けないため、繰り返して使用することが可能である。そのため、トルクリミッタの作動後は、脱落した平ベルトを再び駆動プーリに巻き掛けるだけで、ベルト伝動装置を復帰させることができる。つまり、上記構成のベルト伝動装置は、反復性・復帰性が高い。
【0024】
さらに、プーリ本体が枢軸の回りに回動自在に支持されている自動調心プーリによってトルクリミッタが構成されるため、トルクリミッタを備えたベルト伝動装置を低コストで構成することが可能である。また、上記のベルト伝動装置は平ベルトを用いていることから、ベルトの曲げによるロスが少なく伝動効率が非常に高い点でも有利である。
【0025】
ここで、上記自動調心プーリは、上記平ベルトに張力を付与するように押し当てられている、としてもよい。このことにより、通常時は平ベルトに対して安定した張力を与えながら、該平ベルトの蛇行を防止することができ、平ベルトの伝動能力を十分に発揮させる上で有利になる。また、平ベルトの張力を一定に保つことによって、従動プーリの負荷が所定以上になった時には駆動プーリが確実にスリップする。つまり、平ベルトの張力を一定に保つことによってリミットトルクの精度が高まる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明に係るベルト伝動装置によると、平ベルトの片寄りに伴い軸荷重によって回動変位し、これにより該平ベルトに調心力を付与する自動調心プーリを備えることによって、通常時は平ベルトの蛇行を防止しながら、高い伝動効率を得ることができる一方、従動プーリの負荷が所定以上になった時には、平ベルトを駆動プーリのプーリ面から脱落させてトルクを遮断することができる。しかも、上記ベルト伝動装置は、平ベルトの張力を調整することによってリミットトルクを高精度に調整することができる上に、脱落した平ベルトを再び各プーリに巻きかけるだけで復帰することが可能であるため、リミットトルクの精度を高めつつ反復性・復帰性を高めることと、低コスト性とを両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0028】
図1に示すベルト伝動装置において、1は駆動プーリ(平プーリ)、2は従動プーリ(平プーリ)、4は自動調心プーリであり、この駆動プーリ1及び従動プーリ2に平ベルト3が巻き掛けられ、この平ベルト3に張力を付与すべく上記自動調心プーリ4がテンションプーリとして、図示省略の付勢アームによって平ベルト3の背面に押し当てられている。
【0029】
上記駆動プーリ1は、図2に示すように、上記平ベルト3の幅よりもわずかに大きい幅を有する、比較的幅狭のプーリであって、駆動軸1aに嵌め込まれてこの駆動軸1aと回転一体にされている。また、駆動プーリ1に対してプーリ軸方向の両側にはそれぞれ、待避ベアリング21,22が上記駆動軸1aに対して嵌め込まれて配設されている。この2つの待避ベアリング21,22は、その外周面が上記駆動プーリ1のプーリ面と略面一の状態にされている。
【0030】
上記従動プーリ2は、上記駆動軸1aに対して互いに平行に配置された従動軸2aに嵌め込まれて、この従動軸2aと回転一体にされている。この従動プーリ2は、図2に示すように、上記駆動プーリ1と2つの待避ベアリング21,22とを合わせた幅と略同じ幅を有する、比較的幅広のプーリである。
【0031】
そうして、図2に二点鎖線で示すように、平ベルト3が駆動プーリ1に巻き掛けられた状態では、駆動軸1aの動力が平ベルト3によって従動プーリ2に伝達される動力伝達状態となり、図2に実線で示すように、平ベルト3がいずれかの待避ベアリング21,22に巻き掛けられた状態(この状態でも、平ベルト3は従動プーリ2に巻き掛けられる)では、駆動軸1aの動力が従動プーリ2に伝達されない動力遮断状態となる。
【0032】
上記自動調心プーリ4は、図3,4に示すように、平ベルト3が巻き掛けられるプーリ本体5と、プーリ本体5をプーリ軸C1周りに回転自在にかつ枢軸C2周りに揺動自在に支持する支持手段10と、を備えている。
【0033】
上記支持手段10は、プーリ本体5をベアリング12,12によって支持する筒状の軸部材11と、支持ロッド13と、枢軸C2を構成するピン17と、備えて構成される。
【0034】
プーリ本体5は円筒状の部材であって、図2に示すように、そのプーリ面(外周面)の幅が上記従動プーリ2と略同じであり、これにより、自動調心プーリ4は比較的幅広のプーリ幅を有し、平ベルト3がいずれかの待避ベアリング21,22に巻き掛けられた動力遮断状態であっても、上記平ベルト3は自動調心プーリ4に巻き掛けられることになる。
【0035】
支持ロッド13は、その基端部が図示省略の上記付勢アームに固定されると共に、その先端側が上記軸部材11の筒孔に挿入される支持部13bとされている。支持部13bは、断面円形ロッドの直径方向に対応する部位をD字状にカットして形成されたものであり、このDカットによって、図3及び図4に示すように、互いに平行になった平坦な摺動面13c,13cが形成されている。
【0036】
支持ロッド13の支持部13bにはまた、摺動面13cに直交しかつロッドの径方向に貫通する貫通孔が形成されており、この貫通孔内には、摺動筒18が嵌め込まれている。
【0037】
上記軸部材11の内周面には、それぞれ断面D字状を有する2つの摺動部材19が、直径方向に相対向して取り付けられている。この摺動部材19によって、上記軸部材11の内面には、上記支持ロッド13の摺動面13c,13cが摺動自在に接触する平坦な摺動面11a,11aが相対向するように形成されている。また、この摺動面11a,11aの両側縁を結ぶ両サイドの円弧面が、上記軸部材11の内周面によって形成されている。さらに、上記軸部材11及び摺動部材19には、上記ピン17が嵌め入れられる支持孔が形成されている。尚、上記の摺動部材19及び摺動筒18はそれぞれ、樹脂製としてもよい。
【0038】
支持手段10のピン17は、支持ロッド13の支持部13bに形成された摺動筒18に内挿されると共に、その両端は上記軸部材11及び摺動部材19に形成された支持孔に嵌められて上記軸部材11に対して固定されている。そうして、ピン17は、プーリ本体5の回転方向に対しては、軸荷重方向Lに対しプーリ本体5の回転方向前側に所定の傾倒角αで傾倒して配置されている(図3参照)。
【0039】
そうして、支持ロッド13の支持部13bの両サイドの円弧面と軸部材11の筒孔の両サイドの円弧面との間に、ピン17を軸として軸部材11がプーリ本体5と共に揺動することを許容する隙間15,15が形成されている。従って、上記プーリ本体5は、プーリ軸(回転中心軸)C1周りに回転自在にかつ、そのプーリ軸C1に直交する枢軸C2周りに揺動自在に支持される。
【0040】
上記平ベルト3は、図示は省略するが、例えばコード平ベルトとすればよく、その心線の巻き方向を調整すること等によって、プーリ幅方向の力であるスラスト力が作用するようにされている。これにより、上記平ベルト3は、その走行中にプーリ幅方向の一方向(本実施形態では図2中の下方向)に付勢される。
【0041】
このベルト伝動装置は、図1に示すように、駆動プーリ1はプーリ径が比較的小さくかつ、その接触角度θ1が比較的小さく設定される一方、従動プーリ2はプーリ径が比較的大きくかつ、その接触角度θ2が比較的大きく設定されるレイアウトとされている。このレイアウトにより従動プーリ2の負荷が所定以上に増大したときには、駆動プーリ1の方がスリップするようになっている。
【0042】
また、上記自動調心プーリ4(テンションプーリ)によって、平ベルト3に対し所定かつ一定の張力が付与されることによって、上記駆動プーリ1がスリップを開始するトルク(つまり、トルクリミッタのリミットトルク)が所定かつ一定のトルクに設定されている。
【0043】
次に、このベルト伝動装置の動作について説明する。ここでは先ず、平ベルト3にスラスト力が作用していない状態を仮定して、ベルト伝動装置の動作について説明する。
【0044】
図3に示す使用形態、つまり、平ベルト3が駆動プーリ1と従動プーリ2とに巻きかけられて、平ベルト3による動力伝達が行われている通常時において、図6に示すように、プーリ幅方向の中央付近に掛かっていた平ベルト3が鎖線で示す如くプーリ本体5の片側へ寄ると、軸荷重はピン17の位置からプーリ本体5の片側にずれて軸部材11に作用するようになる。これにより、軸部材11にピン17を中心とする回転モーメントが働き、この軸部材11がプーリ本体5と共にピン17の回りに回転変位する。
【0045】
すなわち、図5に支持ロッド13の支持部13b、ピン17及び軸部材11を示すように、軸荷重の方向がピン17と平行であるとき(Loのとき)は、このピン17周りの回転モーメントは発生しない。これに対して、軸荷重の方向がピン17の方向に対して角度αだけ傾いたLになると、その分力L1によって、ピン17周りの回転モーメントが発生し、軸部材11は回転変位することになる。上記角度αは、軸荷重Lの方向を基準とするピン17の傾倒角に相当する。
【0046】
そうして、図3の場合は、軸荷重Lによって、プーリ本体5が傾倒したピン17周りに回転変位することにより、プーリ本体5は、図6(平面図)に示すように、平ベルト3が片寄ってきた側がベルト走行方向の先側になるようにこの平ベルト3に対して斜交い状態になり、また、図7(図3のVII矢視図)に示すように、平ベルト3が片寄ってきた側が低く、反対側が高くなるように軸荷重Lの方向において傾斜する。図3、図6及び図7ではプーリ本体5が回転変位した状態を鎖線で示している。
【0047】
そのように、プーリ本体5が回動変位することによって、平ベルト3は、図7に示すようなプーリ本体5の軸荷重方向への傾斜によって片寄りを戻す方向の戻し力を受けると共に、図6のようなプーリ本体5が斜交いになることによって片寄りを戻す方向に捩じられて、片寄りを戻す方向の戻し力を受ける。
【0048】
従って、走行している平ベルト3には、プーリ本体5が斜交い状態になることによる戻し力と、プーリ本体5が傾斜することによる戻し力との双方の力(調心力)が働き、これによって平ベルト3は、その調心力と片寄り力とがつり合う位置で走行することになる。
【0049】
ここで、上述したように、平ベルト3にはスラスト力が作用しているため、この平ベルト3は、上記調心力と上記スラスト力とがつり合う位置で走行することになる。その結果、上記スラスト力が作用していても、上記平ベルト3は駆動プーリ1から脱落することなく、しかも蛇行等が防止された状態で走行する(図2の二点鎖線参照)。
【0050】
これに対し、上記従動プーリ2の負荷が増大して所定以上になった時(従動プーリ2に衝撃トルクが加わった時等)には、上述したように駆動プーリ1がスリップし、これにより平ベルト3の走行が停止する。こうして平ベルト3の走行が停止したときには、上記自動調心プーリ4からの調心力がなくなり、上記平ベルト3はスラスト力によってプーリ幅方向に移動し、最終的に待避ベアリング22上に位置するようになる(図2の実線参照)。つまり、平ベルト3が駆動プーリ1のプーリ面から脱落して動力が遮断された状態となる。これは換言すればトルクリミッタが作動したことになる。
【0051】
ここで、上記駆動プーリ1のスリップ(平ベルト3の走行停止)から平ベルト3の脱落までは瞬時に行われるため、平ベルト3は大きな発熱を受けることがない(ほとんどダメージを受けない)。そのため、平ベルト3は繰り返して使用することが可能である。従って、トルクリミッタ作動後の復帰の際には、上記自動調心プーリ4を持ち上げて平ベルト3に対する張力を解放し、平ベルト3を待避ベアリング22上から駆動プーリ1上に戻すだけでよい。この状態で平ベルト3の走行を開始すれば、自動調心プーリ4の調心作用によって、平ベルト3は、調心力とスラスト力とがつり合い位置に自動的に移動して走行するようになる。
【0052】
従って、このベルト伝動装置は、上記自動調心プーリ4を用いることによって、通常時においては、平ベルト3にスラスト力が作用した状態であっても、その平ベルト3を安定に走行させて、平ベルト3による高い伝動効率を得ることができる。
【0053】
一方、従動プーリ2の負荷が所定以上になってベルト3の走行が停止した時には、上記自動調心プーリ4が機能しなくなることで、平ベルト3を駆動プーリ1から脱落させることができる。ここで、平ベルトを用いたベルト伝動装置では、平ベルト3の張力と駆動プーリ1の最大トルクとの関係が一定であることから、平ベルト3の張力を調整することによって、駆動プーリ1の最大トルク、換言すればトルクリミッタのリミットトルクを高精度に設定することができる。
【0054】
また、上述したように、トルクリミッタの作動後の復帰は極めて容易であり、反復性・復帰性が高い。従って、リミットトルクの高精度化を図りつつ、反復性・復帰性の高いトルクリミッタが、上記の自動調心プーリ4による単純な構造によって構成されるため、コストの大幅な低減化を図ることができる。
【0055】
尚、上記平ベルト3に作用するスラスト力の方向を、上記とは逆方向に設定して、平ベルト3を待避ベアリング21側に脱落させてもよいことは言うまでもない。
【0056】
また、上記ベルト伝動装置は、駆動プーリ1のプーリ軸方向の両側に待避ベアリング21,22を配置していたが、これら待避ベアリング21,22を省略して、図8,9に示すように、駆動プーリ1と従動プーリ2との間に、脱落した平ベルト3を保持する待避ピン23を設けてもよい。
【0057】
また例えば、トルクリミッタ作動後の復帰の際に、自動調心プーリ4を持ち上げることに連動して、平ベルト3が駆動プーリ1に自動的に巻きかけられる機構を設けてもよい。
【0058】
なお、プーリ本体5の外周面には緩やかなクラウンを付けるようにしてもよい。クラウンが緩やかであれば、平ベルト3に大きな負荷がかかることは避けられる。
【0059】
また、上記自動調心プーリ4は、枢軸C2をピン17によって構成していたが、これに限らず、上記枢軸C2を例えば上記支持ロッド13の摺動面13c上に成形した半球状凸部によって構成してもよいし、あるいは、上記摺動面13cに凹設した窪みに球体を嵌め込むことによって構成してもよい。これらの場合には、摺動部材19の摺動面11a上に、上記半球状凸部や球体を嵌め込むための窪みを凹設すればよい。
【0060】
加えて、上記自動調心プーリ4では、枢軸C2がプーリ本体5のプーリ軸C1と直交しているがこれに限るものではなく、枢軸C2はプーリ本体5のプーリ軸C1に沿って見たときに軸荷重方向Lに対して所定角度αだけ傾倒していればよい。
【0061】
また、平ベルト3にスラスト力を作用する構成は、ベルト心線の巻き方向によるものに限らず、例えば駆動プーリ1及び従動プーリ2の平行度を調整することによってもよいし、駆動プーリ1及び/又は従動プーリ2のプーリ面の形状を調整することによってもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、自動調心プーリ4をテンションプーリとして用いたが、テンションプーリを別途設け、上記自動調心プーリ4を、ベルトの長さ、接触角の調節、ベルト走行方向の変更などベルト伝動装置の他の用途に用いるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上、説明したように、本発明に係るベルト伝動装置は、自動調心プーリによってトルクリミッタを構成したことで、通常時は平ベルトの蛇行を確実に防止してトルク伝動を行いつつ、高精度なリミットトルクと高い反復性・復帰性を備えたトルクリミッタを安価に実現することができるため、例えば自動車、農機、各種産業機械、家電製品、その他の機器に利用可能な点で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】ベルト伝動装置の正面図である。
【図2】同装置の平面図である。
【図3】プーリの縦断面図(図4のIII−III断面図)である。
【図4】図3のIV−IV断面図である。
【図5】同プーリの使用状態において軸荷重によって軸部材に回転モーメントが発生することを説明する図である。
【図6】同プーリの使用状態を示す平面図である。
【図7】図3のVII矢視図である。
【図8】他の実施形態に係るベルト伝動装置の正面図である。
【図9】同装置の平面図である。
【符号の説明】
【0065】
1 駆動プーリ
2 従動プーリ
3 平ベルト
4 自動調心プーリ
5 プーリ本体
10 支持手段
11 軸部材
13 支持ロッド
17 ピン
C1 プーリ軸
C2 枢軸
α 傾倒角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動プーリと、
従動プーリと、
自動調心プーリと、
上記駆動プーリ、従動プーリ及び自動調心プーリ間に巻き掛けられて該駆動プーリの動力を上記従動プーリに伝達する平ベルトと、を備え、
上記自動調心プーリは、
上記平ベルトが巻き掛けられるプーリ本体と、
上記プーリ本体を、そのプーリ軸周りに回転自在にかつ、所定の枢軸周りに揺動自在に支持する支持手段と、を有し、
上記枢軸は、上記プーリ軸方向に沿って見て軸荷重の方向に対して上記プーリ本体の回転方向前側に所定の傾倒角で傾倒しており、
上記平ベルトは、所定のスラスト力の作用により上記各プーリのプーリ幅方向の一方向に付勢されており、
通常時には、上記自動調心プーリにかかる軸荷重によって該自動調心プーリから上記平ベルトに付与される調心力と上記スラスト力とがつり合った状態で上記平ベルトが走行する一方、
上記従動プーリの負荷が所定以上になった時には、上記駆動プーリがスリップして上記平ベルトの走行が停止することに伴い上記自動調心プーリからの調心力がなくなって、上記平ベルトが上記スラスト力により上記プーリ幅方向の一方向に移動して上記駆動プーリのプーリ面から脱落するように構成されているベルト伝動装置。
【請求項2】
請求項1に記載のベルト伝動装置において、
上記枢軸の傾倒角は、0度を超え90度を超えない角度範囲に設定されているベルト伝動装置。
【請求項3】
請求項1に記載のベルト伝動装置において、
上記自動調心プーリは、上記平ベルトに張力を付与するように押し当てられているベルト伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−300154(P2006−300154A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−120551(P2005−120551)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】