説明

ベーンポンプ

【課題】ベーンポンプにおけるポンプ室の作動油の閉じ込み性能を向上する。
【解決手段】ロータ2に形成されベーン3の背面に画成される背圧室2aと、ロータ2の一側部に臨んでサイドプレート6に形成されポンプ室7から吐出された作動油を背圧室2aに導く背圧流路50とを備えるベーンポンプ100において、カムリング4は、ポンプ室7の容積を拡張する吸込領域41と、ポンプ室7の容積を収縮する吐出領域42と、吸込領域41と吐出領域42との間に設けられ吸込領域41の低圧と吐出領域42の高圧とが切り替わる閉込領域43,44とを有し、背圧流路50は、吸込領域41に対応して形成されポンプ室7から吐出された作動流体が導かれる吸込側背圧ポート51と、吐出領域42及び閉込領域43,44に対応して形成される吐出側背圧ポート52とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体圧機器における流体圧供給源として用いられるベーンポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ベーンポンプは、駆動軸の回転に伴って回転するロータに保持された複数のベーンが、吸込領域と吐出領域とを有するカムリングの内周を摺動しながら回転することで、カムリングとベーンとによって画成されるポンプ室に作動流体を吸込んで吐出するものである。
【0003】
特許文献1には、カムリング内周のカム面に先端が摺接する複数のベーンがロータに往復動可能に設けられ、カムリングが外周上の一点を支点として回動することで、ロータに対するカムリングの偏心量が変化して吐出容量が変化するベーンポンプが開示されている。
【0004】
特許文献1のベーンポンプでは、吐出された作動流体の一部を背圧溝を介してベーンの背圧室に導き、背圧室の作動流体の圧力によってベーンをカムリングの内周面に向けて付勢している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−138876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のベーンポンプでは、吸込領域と吐出領域との間のポンプ室内に作動流体を閉じ込める閉込領域では、背圧溝が絞られて形成されているため背圧が小さい。そのため、ベーンがカムリングから離間してポンプ室の閉じ込み性が悪化するおそれがある。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、ベーンポンプにおけるポンプ室の作動流体の閉じ込み性能を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、駆動軸に連結されたロータと、前記ロータに対して径方向に往復動可能に設けられる複数のベーンと、前記ロータを収容すると共に、前記ロータの回転に伴って前記ベーンの先端部が摺動するカム面を内周に有するカムリングと、前記ロータと前記カムリングとの間に画成されたポンプ室と、前記カムリングの側面に当接して設けられるサイド部材と、前記ロータに形成され、前記ベーンの背面に画成される背圧室と、前記ロータの一側部に臨んで前記サイド部材に形成され、前記ポンプ室から吐出された作動流体を前記背圧室に導く背圧流路と、を備えるベーンポンプにおいて、前記カムリングは、前記ロータの回転に伴って前記ポンプ室の容積を拡張する吸込領域と、前記ロータの回転に伴って前記ポンプ室の容積を収縮する吐出領域と、前記吸込領域と前記吐出領域との間に設けられ、前記吸込領域の低圧と前記吐出領域の高圧とが切り替わる閉込領域と、を有し、前記背圧流路は、前記吸込領域に対応して形成される吸込側背圧ポートと、前記吐出領域及び前記閉込領域に対応して形成される吐出側背圧ポートと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、吐出側背圧ポートが吐出領域及び閉込領域に対応して形成されるため、閉込領域においてもベーンの背圧を高く設定することができる。よって、ベーンがカムリングから離間することが抑制され、ポンプ室の閉じ込み性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態に係るベーンポンプにおける駆動軸に垂直な断面を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るベーンポンプにおける駆動軸に平行な断面を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るサイドプレートの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
まず、図1及び図2を参照して、本発明の実施の形態に係るベーンポンプ100について説明する。
【0013】
ベーンポンプ100は、車両に搭載される油圧機器、例えば、パワーステアリング装置や無段変速機等の油圧供給源として用いられるものである。
【0014】
ベーンポンプ100は、駆動軸1にエンジン(図示省略)の動力が伝達され、駆動軸1に連結されたロータ2が回転するものである。図1では、ロータ2は反時計回りに回転する。
【0015】
ベーンポンプ100は、ロータ2に対して径方向に往復動可能に設けられる複数のベーン3と、ロータ2を収容すると共に、ロータ2の回転に伴って内周のカム面4aにベーン3の先端部が摺動しロータ2の中心に対して偏心可能なカムリング4とを備える。
【0016】
ベーンポンプ100は、ロータ2に対するカムリング4の偏心量を変化させることによってポンプ室7からの吐出容量が変化するいわゆる可変容量型である。しかしながら、可変容量型ではなく、カムリング4が固定されてポンプ室7からの吐出容量が一定である固定容量型であってもよい。
【0017】
ロータ2には、外周面に開口部を有するスリット2bが所定間隔をおいて放射状に形成され、ベーン3は、スリット2bに摺動自在に挿入される。スリット2bの基端側には、ポンプ吐出圧が導かれる背圧室2aが画成される。ベーン3は、背圧室2aの圧力によってスリット2bから飛び出る方向に押圧される。
【0018】
図2に示すように、駆動軸1は、ブッシュ27を介してポンプボディ10に回転自在に支持される。ポンプボディ10には、カムリング4を収容するポンプ収容凹部10aが形成される。ポンプボディ10の端部には、駆動軸1外周とブッシュ27内周との間の潤滑油の漏れを防止するためのシール20が設けられる。
【0019】
ポンプ収容凹部10aの底面10bには、ロータ2及びカムリング4の一側部に当接するサイドプレート6が配置される。ポンプ収容凹部10aの開口部は、ロータ2及びカムリング4の他側部に当接するポンプカバー5によって封止される。ポンプカバー5には、ポンプ収容凹部10aに嵌合する円形のインロー部5aが形成され、インロー部5aの端面がロータ2及びカムリング4の他側部に当接する。ポンプカバー5は、ポンプボディ10のフランジ部10cにボルト8(図1参照)を介して締結される。
【0020】
このように、ポンプカバー5とサイドプレート6は、ロータ2及びカムリング4の両側面を挟んだ状態で配置される。これにより、ロータ2とカムリング4との間には、各ベーン3によって仕切られたポンプ室7が画成される。これらのポンプカバー5とサイドプレート6とが、サイド部材に該当する。この他にも、サイド部材は、カムリング4の側面に当接して設けられればよいため、例えば、サイドプレート6を設けずに、ポンプボディ10の一部をサイド部材としてもよい。
【0021】
図1に示すように、カムリング4は、環状の部材であり、ロータ2の回転に伴って各ベーン3間によって仕切られるポンプ室7の容積を拡張する吸込領域41と、各ベーン3間によって仕切られるポンプ室7の容積を収縮する吐出領域42とを有する。また、カムリング4は、吸込領域41と吐出領域42との間をポンプ室7が遷移するときに、ポンプ室7内に作動流体を閉じ込める閉込領域43,44を有する。
【0022】
ポンプ室7は、吸込領域41にて作動油(作動流体)を吸込み、吐出領域42にて作動油を吐出する。
【0023】
ポンプ収容凹部10aの内周面には、カムリング4を取り囲むようにして環状のアダプタリング11が嵌装される。また、アダプタリング11は、ロータ2及びカムリング4と同様に、両側面がポンプカバー5とサイドプレート6とによって挟まれる(図2参照)。
【0024】
アダプタリング11の内周面には、駆動軸1と平行に延在すると共に、両端部がそれぞれポンプカバー5及びサイドプレート6に挿入された支持ピン13が支持される。支持ピン13にはカムリング4が支持され、カムリング4はアダプタリング11の内部で支持ピン13を支点に揺動する。
【0025】
支持ピン13は、両端部がそれぞれポンプカバー5及びサイドプレート6に挿入されると共にカムリング4を支持するため、カムリング4に対するポンプカバー5及びサイドプレート6の相対回転を規制する。
【0026】
アダプタリング11の内周面における支持ピン13と軸対称の位置には、駆動軸1と平行に延びる溝11aが形成される。溝11aには、カムリング4の揺動時にカムリング4の外周面が摺接するシール材14が装着される。
【0027】
このように、カムリング4外周の収容空間であるカムリング4の外周面とアダプタリング11の内周面との間には、支持ピン13とシール材14とによって、第一流体圧室31と第二流体圧室32とが画成される。
【0028】
カムリング4は、第一流体圧室31と第二流体圧室32の作動油の圧力差によって、支持ピン13を支点に揺動する。カムリング4が支持ピン13を支点に揺動することによって、ロータ2に対するカムリング4の偏心量が変化し、ポンプ室7の吐出容量が変化する。第一流体圧室31の圧力が第二流体圧室32の圧力よりも大きい場合には、ロータ2に対するカムリング4の偏心量が小さくなり、ポンプ室7の吐出容量は小さくなる。これに対して、第二流体圧室32の圧力が第一流体圧室31の圧力よりも大きい場合には、ロータ2に対するカムリング4の偏心量が大きくなり、ポンプ室7の吐出容量は大きくなる。このように、ベーンポンプ100は、第一流体圧室31と第二流体圧室32との圧力差によってロータ2に対するカムリング4の偏心量が変化し、吐出容量が変化する。
【0029】
第二流体圧室32内におけるアダプタリング11の内周面には、ロータ2に対する偏心量が小さくなる方向のカムリング4の移動を規制する膨出部12が形成される。膨出部12は、ロータ2に対するカムリング4の最小偏心量を規定するものであり、カムリング4の外周面が膨出部12に当接した状態において、ロータ2の軸心とカムリング4の軸心とはずれた状態を維持する。
【0030】
膨出部12は、ロータ2に対するカムリング4の偏心量がゼロとならないように、つまり、カムリング4の外周面が膨出部12に当接した状態でも、ロータ2に対するカムリング4の最小偏心量が確保され、ポンプ室7が作動油を吐出可能となるような形状に形成される。このように、膨出部12は、ポンプ室7の最小吐出容量を保障するものである。
【0031】
なお、膨出部12は、アダプタリング11の内周面に形成する代わりに、第二流体圧室32内におけるカムリング4の外周面に形成するようにしてもよい。また、アダプタリング11を設けず、第一流体圧室31と第二流体圧室32をカムリング4の外周面とポンプ収容凹部10aの内周面との間に画成する場合には、膨出部12は、ポンプ収容凹部10aの内周面に形成される。
【0032】
ポンプカバー5には、ポンプ室7の吸込領域41に対応して円弧状に開口する吸込ポート15が形成される。また、サイドプレート6には、ポンプ室7の吐出領域42に対応して円弧状に開口する吐出ポート16が形成される。なお、吸込ポート15と吐出ポート16は、図1のように、ポンプ室7の吸込領域41と吐出領域42の形状に近い円弧状に形成するのが望ましいが、吸込領域41と吐出領域42に連通する位置であれば、どのような形状でもよい。
【0033】
カムリング4に対するポンプカバー5及びサイドプレート6の相対回転は支持ピン13によって規制されるため、ポンプ室7の吸込領域41及び吐出領域42に対する吸込ポート15及び吐出ポート16の位置ずれが防止される。
【0034】
図2に示すように、吸込ポート15は、ポンプカバー5に形成された吸込通路17に連通して形成され、吸込通路17の作動油をポンプ室7の吸込領域へと導く。吐出ポート16は、ポンプボディ10に形成された高圧室18に連通して形成され、ポンプ室7の吐出領域42から吐出される作動油を高圧室18へと導く。
【0035】
高圧室18は、ポンプ収容凹部10aの底面10bに環状に開口して形成される溝部10dがサイドプレート6にて塞がれることによって画成される。高圧室18は、ポンプボディ10に形成され作動油をベーンポンプ100外部の油圧機器へと導く吐出通路(図示省略)に接続される。
【0036】
高圧室18は、絞り通路36(図1参照)を介して第二流体圧室32に連通しており、高圧室18の作動油は第二流体圧室32に常時導かれている。つまり、カムリング4は、第二流体圧室32によってロータ2に対する偏心量が大きくなる方向の圧力を常に受けている。
【0037】
また、ポンプボディ10には高圧室18が形成されるため、高圧室18に導かれる作動油の圧力によって、サイドプレート6はロータ2及びベーン3側に押し付けられる。これにより、ロータ2及びベーン3に対するサイドプレート6のクリアランスが小さくなり、作動油の漏れが防止される。このように、高圧室18は、ポンプ室7からの作動油の漏れを防止するためのプレッシャーローディング機構としても作用する。
【0038】
高圧室18は、サイドプレート6に形成される背圧流路50に連通し、この背圧流路50を介して、ベーン3をカム面4aに向けて付勢するための作動油を背圧室2aに供給する。この背圧流路50については、図3を参照しながら後で詳細に説明する。
【0039】
図1に示すように、ポンプボディ10には、駆動軸1の軸方向と直交する向きにバルブ収容穴29が形成される。バルブ収容穴29には、第一流体圧室31と第二流体圧室32の作動油の圧力を制御する制御バルブ21が収容される。
【0040】
制御バルブ21は、バルブ収容穴29に摺動自在に挿入されたスプール22と、スプール22の一端とバルブ収容穴29の底部との間に画成された第一スプール室24と、スプール22の他端とバルブ収容穴29を封止するプラグ23との間に画成された第二スプール室25と、第二スプール室25内に収装され第二スプール室25の容積を拡張する方向にスプール22を付勢するリターンスプリング26とを備える。
【0041】
スプール22は、バルブ収容穴29の内周面に沿って摺動する第一ランド部22a及び第二ランド部22bと、第一ランド部22aと第二ランド部22bとの間に形成された環状溝22cとを備える。
【0042】
第一スプール室24には、スプール22が第一スプール室24の容積を収縮する方向に移動した場合にバルブ収容穴29の底部に当接してスプール22の所定以上の移動を規制する第一ストッパ部22dが第一ランド部22aに結合して配置される。
【0043】
また、第二スプール室25には、スプール22が第二スプール室25の容積を収縮する方向に移動した場合にプラグ23に当接してスプール22の所定以上の移動を規制する第二ストッパ部22eが第二ランド部22bに結合して配置される。リターンスプリング26は、第二ストッパ部22eを取り囲んで第二スプール室25内に収装される。
【0044】
制御バルブ21には、第一流体圧室31及び第二流体圧室32にそれぞれ連通する第一流体圧通路33及び第二流体圧通路34と、環状溝22cに連通すると共に吸込通路17に連通するドレン通路35と、第一スプール室24に連通すると共に高圧室18に連通する導圧通路(図示省略)とが接続されている。
【0045】
第一流体圧通路33及び第二流体圧通路34は、ポンプボディ10の内部に形成されると共に、アダプタリング11を貫通して形成される。
【0046】
スプール22は、両端に画成された第一スプール室24及び第二スプール室25に導かれる作動油の圧力による荷重と、リターンスプリング26の付勢力とがバランスした位置で止まる。スプール22の位置によって、第一流体圧通路33及び第二流体圧通路34が、それぞれ第一ランド部22a及び第二ランド部22bによって開閉され、第一流体圧室31及び第二流体圧室32の作動油が給排される。
【0047】
第二スプール室25の圧力による荷重とリターンスプリング26の付勢力との合計荷重が第一スプール室24の圧力による荷重よりも大きい場合には、リターンスプリング26が伸長し、スプール22は第一ストッパ部22dがバルブ収容穴29の底部に当接した状態となる。この状態では、図1に示すように、第一流体圧通路33はスプール22の第一ランド部22aによって閉塞され、かつ第二流体圧通路34はスプール22の第二ランド部22bによって閉塞された状態となる。これにより、第一流体圧室31と高圧室18との連通は遮断されると共に、第二流体圧室32とドレン通路35との連通も遮断される。
【0048】
ここで、第一ランド部22aには環状溝22cに連通する連通路(図示省略)が形成されているため、第一流体圧通路33が第一ランド部22aによって閉塞された状態では、第一流体圧室31は、第一流体圧通路33、連通路、及び環状溝22cを通じてドレン通路35に連通した状態となる。また、第二流体圧室32には絞り通路36を介して高圧室18の作動油が常時導かれているため、第二流体圧室32の圧力は第一流体圧室31の圧力よりも大きくなり、ロータ2に対するカムリング4の偏心量は最大となる。
【0049】
これに対して、第一スプール室24の圧力による荷重が第二スプール室25の圧力による荷重とリターンスプリング26の付勢力との合計荷重よりも大きい場合には、リターンスプリング26が圧縮され、スプール22はリターンスプリング26の付勢力に抗して移動する。この場合には、第一流体圧通路33は第一スプール室24に連通し、その第一スプール室24を介して導圧通路に連通する。また、第二流体圧通路34はスプール22の環状溝22cに連通し、その環状溝22cを介してドレン通路35に連通する。これにより、第一流体圧室31は高圧室18に連通し、第二流体圧室32はドレン通路35に連通する。したがって、第二流体圧室32の圧力は第一流体圧室31の圧力よりも小さくなり、カムリング4はロータ2に対する偏心量が小さくなる方向に移動する。
【0050】
なお、第二流体圧通路34と環状溝22cの連通は、スプール22の第二ランド部22bに形成されたノッチ22fを介して行われる。したがって、スプール22の移動量に応じて第二流体圧室32に対するドレン通路35の開口面積が増減する。
【0051】
以上のように、制御バルブ21は、第一流体圧室31及び第二流体圧室32の作動油の圧力を制御するものであり、吐出通路に介装されたオリフィス(図示省略)の前後差圧によって動作する。第一スプール室24にはオリフィスの上流の作動油が導かれ、第二スプール室25にはオリフィスの下流の作動油が導かれる。
【0052】
つまり、高圧室18の作動油は、オリフィスを介さずに導圧通路を通じて直接第一スプール室24へと導かれると共に、オリフィスを介して第二スプール室25へと導かれる。なお、オリフィスは、ポンプ室7から吐出された作動油の流れに抵抗を付与するものであれば、可変型、固定型のどちらでもよい。
【0053】
次に、図3を参照して、本発明の実施の形態に係る背圧流路50について説明する。
【0054】
背圧流路50は、サイドプレート6に環状に形成され、ポンプ室7から吐出された作動油を高圧室18から各ベーン3の背圧室2aに導く。背圧室2aに導かれた作動油は、その圧力によってベーン3をカム面4aに向けて付勢する。
【0055】
背圧流路50は、吸込領域41に対応して形成されポンプ室7から吐出された作動油が導かれる吸込側背圧ポート51と、吐出領域42及び閉込領域43,44に対応して形成される吐出側背圧ポート52と、吸込側背圧ポート51と吐出側背圧ポート52とを連通する絞り通路53と、を備える。
【0056】
吸込側背圧ポート51は、吸込ポート15の内周に形成される円弧状の溝である。吸込側背圧ポート51は、その周方向長さが、吸込ポート15の周方向長さより絞り通路53の分だけ短く形成される。よって、吸込側背圧ポート51と一対の絞り通路53との周方向の長さを合わせた長さに対応する中心角は、吸込ポート15の中心角と同等になる。
【0057】
吸込側背圧ポート51は、連通孔51aを介して高圧室18と連通する。この連通孔51aは、吸込側背圧ポート51の両端近傍に一対設けられるが、一対に限られるものではなく、一個以上であればよい。
【0058】
吐出側背圧ポート52は、吐出ポート16の内周に形成される円弧状の溝である。吐出側背圧ポート52は、吐出領域42及び閉込領域43,44に対応して形成される。つまり、吐出側背圧ポート52は、吐出領域42に対応する位置から、その両端の閉込領域43,44に対応する位置にかけて広く形成される。
【0059】
吐出側背圧ポート52は、周方向の両端部が、各々が隣接する吸込ポート15の周方向の両端部に対応する位置になるような周方向長さに形成される。よって、吐出側背圧ポート52は、ベーン3が飛び出し終わってポンプ室7の容積が最大になる吸い込み終わりの位置から、ポンプ室7の容積が最小になりベーン3が飛び出しはじめる吸い込み始めの位置までを広くカバーするように形成される。
【0060】
一般に、閉込領域43,44では、ポンプ室7に低圧の作動油が吸い込まれる吸込領域41と、ポンプ室7から高圧の作動油が吐出される吐出領域42との間で、ベーン3を高圧側から低圧側に向けて傾斜させる力が発生する。このような力が作用すると、ベーン3は、低圧側の面がロータ2のスリット2bに押し付けられていわゆるセルフロックの状態になり、ベーン3が往復動するロータ2のスリット2bとベーン3との間の摺動抵抗が大きくなる。この摺動抵抗が大きくなると、ベーン3がロータ2に対して往復動する動作が妨げられるおそれがある。よって、閉込領域43,44において、ロータ2の中心からカム面4aまでの径がロータ2の回転に伴って増減した場合には、ベーン3がカム面4aのカーブ形状に追従して往復動できず、ベーン3の先端がカム面4aから離間して、ポンプ室7の作動油の閉じ込み性能が悪化するおそれがある。
【0061】
これに対して、背圧流路50では、吐出領域42だけでなく閉込領域43,44にまでも対応するように吐出側背圧ポート52が広く形成されるため、閉込領域43,44においてもベーン3の背圧を高く設定できる。よって、吐出側背圧ポート52の高圧の作動油によってベーン3をカム面4aに向けて付勢するため、ロータ2のスリット2bとベーン3との摺動抵抗が大きくなった場合にも、ベーン3がカム面4aから離間することが抑制され、ポンプ室7の閉じ込み性能を向上できる。
【0062】
絞り通路53は、吸込側背圧ポート51の端部と吐出側背圧ポート52とを連通する通路である。絞り通路53は、吸込側背圧ポート51と吐出側背圧ポート52との間を移動する作動油に抵抗を付与するものであり、吸込側背圧ポート51及び吐出側背圧ポート52の径と比べて、小径に絞って形成される。
【0063】
吐出側背圧ポート52の作動油は、ベーン3がカム面4aを摺動してロータ2内に退避することで、その圧力が上昇する。絞り通路53が設けられることによって、吐出側背圧ポート52の作動油の圧力変化が吸込側背圧ポート51の作動油に伝播するまでにタイムラグがある。よって、ポンプ室7から吐出される作動油の圧力が変化することが抑制される。
【0064】
絞り通路53は、一対設けられ、吸込側背圧ポート51の両端部と吐出側背圧ポート52の両端部とをそれぞれ連通するが、一対ではなく、いずれか一方のみに設けられてもよい。
【0065】
背圧流路50は、サイドプレート6に形成されるが、図2に示すように、ポンプカバー5もまた、吸込側背圧ポート51,吐出側背圧ポート52,及び絞り通路53を備える。ポンプカバー5の吸込側背圧ポート51,吐出側背圧ポート52,及び絞り通路53は、サイドプレート6に形成される各々の位置及び形状に対応して形成される。
【0066】
ポンプカバー5及びサイドプレート6に形成される各々の吸込側背圧ポート51,吐出側背圧ポート52は、ロータ2を貫通して形成される背圧室2aによって連通する。よって、51aを介して高圧室18から供給された高圧の作動油は、サイドプレート6の吸込側背圧ポート51内に広がり、絞り通路53を介して吐出側背圧ポート52に供給されるのと同時に、ロータ2に形成される背圧室2aを介してポンプカバー5の吸込側背圧ポート51に供給され、同様に絞り通路53を介して吐出側背圧ポート52に供給される。これにより、ベーン3の背面には、ロータ2の両側部から高圧の作動油が供給され、ベーン3はカム面4aに向けて付勢されることとなる。
【0067】
ポンプカバー5にも吸込側背圧ポート51,吐出側背圧ポート52,及び絞り通路53が形成されることにより、ベーン3の背面には、サイドプレート6側とポンプカバー5側との両側から高圧の作動油が供給される。これにより、ベーン3の背面にサイドプレート6側からのみ高圧の作動油が供給される場合と比べて、ベーン3をカム面4aに押し付ける力が偏ったり、ベーン3が傾斜することが防止される。
【0068】
なお、背圧流路50は、ロータ2の少なくとも一側部に臨んで形成される。即ち、背圧流路50をロータ2の両側部に形成するのではなく、サイドプレート6とポンプカバー5との少なくともいずれか一方のみに形成してもよい。
【0069】
以上の実施の形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0070】
背圧流路50では、吐出領域42だけでなく閉込領域43,44にも対応するように吐出側背圧ポート52を広く形成することで、閉込領域43,44においてもベーン3の背圧を高く設定できる。よって、吐出側背圧ポート52の高圧の作動油によってベーン3をカム面4aに向けて付勢するため、ロータ2のスリット2bとベーン3との摺動抵抗が大きくなった場合にも、ベーン3がカム面4aから離間することが抑制され、ポンプ室7の閉じ込み性能を向上できる。
【0071】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係るベーンポンプは、パワーステアリング装置や変速機等の油圧供給源に適用することができる。
【符号の説明】
【0073】
100 ベーンポンプ
2 ロータ
2a 背圧室
3 ベーン
4 カムリング
4a カム面
5 ポンプカバー
6 サイドプレート
7 ポンプ室
10 ポンプボディ
11 アダプタリング
15 吸込ポート
16 吐出ポート
41 吸込領域
42 吐出領域
43 閉込領域
44 閉込領域
50 背圧流路
51 吸込側背圧ポート
52 吐出側背圧ポート
53 絞り通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸に連結されたロータと、
前記ロータに対して径方向に往復動可能に設けられる複数のベーンと、
前記ロータを収容すると共に、前記ロータの回転に伴って前記ベーンの先端部が摺動するカム面を内周に有するカムリングと、
前記ロータと前記カムリングとの間に画成されたポンプ室と、
前記カムリングの側面に当接して設けられるサイド部材と、
前記ロータに形成され、前記ベーンの背面に画成される背圧室と、
前記ロータの一側部に臨んで前記サイド部材に形成され、前記ポンプ室から吐出された作動流体を前記背圧室に導く背圧流路と、を備えるベーンポンプにおいて、
前記カムリングは、
前記ロータの回転に伴って前記ポンプ室の容積を拡張する吸込領域と、
前記ロータの回転に伴って前記ポンプ室の容積を収縮する吐出領域と、
前記吸込領域と前記吐出領域との間に設けられ、前記吸込領域の低圧と前記吐出領域の高圧とが切り替わる閉込領域と、を有し、
前記背圧流路は、
前記吸込領域に対応して形成される吸込側背圧ポートと、
前記吐出領域及び前記閉込領域に対応して形成される吐出側背圧ポートと、を備えることを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
前記背圧流路は、前記吸込側背圧ポートと前記吐出側背圧ポートとを連結する絞り通路を備えることを特徴とする請求項1に記載のベーンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−7512(P2012−7512A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142608(P2010−142608)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】