説明

ベーンロータリ圧縮機

【課題】 従来のベーンロータリ圧縮機では、シリンダ内の作動室から吐出孔を介してシリンダ外へ圧縮された高圧冷媒を吐出するときすべての高圧冷媒を吐出する前に吐出弁が吐出孔を閉鎖するので、吐出孔内に高圧冷媒が残留し、次の吐出動作を行う作動室が連通したとき吐出孔内に残る高圧冷媒が作動室に逆流し再膨張・再圧縮され効率低下を招くという課題があった。
【解決手段】 この発明は、圧縮要素内の作動室と吐出孔とを連通する吐出流路上に作動室内の冷媒圧力が高圧冷媒の圧力より小さいとき高圧冷媒にて吐出弁溝の開口部からローラの外周面に向かって押し出され、作動室内の冷媒圧力が高圧冷媒の圧力より大きいとき作動室内の冷媒圧力にて吐出弁溝内に押し戻される吐出弁を備え、吐出流路を吐出弁溝の開口部から押し出された吐出弁の外周面とローラの外周面とによって閉じ、吐出弁が吐出弁溝に押し戻されることによって開くようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ベーンロータリ圧縮機の吐出構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止対策のため、地球温暖化係数(Global Warming Potential、以下GWPという)の低い冷媒の使用が検討されている。しかしながら、低GWP冷媒は従来の冷媒より動作圧力が低い冷媒が多く、冷凍サイクル内の冷媒循環量が多く必要となる。冷凍サイクルの循環量を制御する圧縮機としては大きな押しのけ量が必要となり、圧縮要素部分の大型化が必須であった。これに対して、低GWP冷媒の使用が進んでいるカーエアコンなどでは動作圧力が低い冷媒を使用し省スペースを実現できるベーンロータリ圧縮機が使用されている。
【0003】
従来のベーンロータリ圧縮機は、内部空間を有するシリンダと、シリンダの内部空間内で回転運動する円柱形のロータと、ロータと一体化されロータに回転力を伝達するシャフトと、ロータに設けられ、その先端がシリンダ内面に当接しながらロータの回転とともにシリンダ内を摺動するベーンとで、構成され、シリンダ、ロータ、ベーンで形成される作動室に低圧空間から吸入孔を介して冷媒を吸入し、ロータの回転とともに作動室内で冷媒を圧縮し、作動室から高圧空間に吐出孔を介して吐出するものである。
【0004】
高圧空間側に開口している吐出孔の開口部には、板状のバルブにて構成された吐出弁が設けられている。吐出弁は、作動室内の圧力が高圧空間の圧力以上となると、作動室内と高圧空間との差圧によって板状のバルブが吐出孔を開き作動室内と高圧空間とを連通して圧縮した冷媒を高圧空間へ吐出させ、作動室内の圧力が高圧空間の圧力以下となると、作動室内と高圧空間との差圧によって板状のバルブが吐出孔を閉鎖し高圧空間と作動室内とを仕切って圧縮された冷媒の作動室への逆流を防いでいる(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、吐出弁は高圧空間から作動室へ冷媒が逆流することを防ぐ一方、作動室から吐出孔を介して冷媒をすべて吐出する前に、吐出孔を閉鎖するので、作動室内の高圧冷媒が吐出され空になっても吐出孔内に高圧冷媒が残留する。そのため、吐出孔内から作動室へ逆流する冷媒があり損失となる場合がある。その対策として、吐出孔の高圧空間側開口部に高圧空間と吐出孔とを開閉する第一の吐出弁と、吐出孔内に吐出孔と作動室とを開閉する第二の吐出弁を備えたものもある。第一の吐出弁は従来同様の板状のバルブにて構成され板状のバルブが吐出孔を開閉する。一方、第二の吐出弁は球体にて構成され作動室側に開口した吐出孔の開口部にその球体が係止されることで吐出孔を閉鎖し、その球体が開口部から離れることによって吐出孔は開かれる。これによって、吐出孔内から作動室へ冷媒が逆流することを抑制できる。(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−125190号公報(第2頁、第7図)
【特許文献2】特開2003−120563号公報(第2頁、第7図)
【特許文献3】特開2004−156571号公報(第5−8頁、第2−3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のベーンロータリ圧縮機では、作動室から吐出孔を介して冷媒を吐出するときすべての冷媒を吐出する前に吐出弁が吐出孔を閉鎖するので、作動室内の高圧冷媒が吐出され空になっても吐出孔内に高圧冷媒が残留する。すなわち、吐出孔の容積分が高圧空間へ吐出しきれない高圧冷媒を残すデッドボリュームとなる。そのため、吐出動作終了後、このデッドボリュームである吐出孔と次の吐出動作を行う作動室が連通すると、次の作動室はまだ圧縮段階で作動室内部の冷媒は圧力が高まっていないため、吐出孔内に残る高圧冷媒が連通した作動室に逆流し、再膨張・再圧縮されることになる。すなわち、デッドボリュームに残った高圧冷媒により、再膨張損失を発生し、入力増加による効率低下を招くという課題があった。
また、デッドボリュームの容積を小さくするために、吐出孔のシリンダ外面から内面まで連通する長さを短くしようとしても、作動室では高圧ガスを生成するので、シリンダは強度維持のために一定の肉厚が必要であり、吐出孔のシリンダ外面から内面まで連通する長さを短くはできない。また、吐出孔の径を小さくしてデッドボリュームを小さくすると、吐出孔を通過する高圧冷媒の流路抵抗を増加させ効率低下となり、吐出孔の径を小さくすることはできない。よって、吐出孔の内容積を小さくすることに課題があった。
【0008】
また、特許文献3のようにデッドボリュームの対策のため、第二の吐出弁を設けた場合、第二の吐出弁は弁を開くにあたって球体の質量分だけ余分な力が必要である。すなわち、高圧空間の圧力あるいは吐出孔内の圧力と球体の質量によって球体が吐出孔側から作動室側の開口部の係止部に押さえつけられているので、作動室の圧力が球体を押し戻す圧力となったときに吐出孔が連通する。ゆえに、吐出弁の開口に球体の質量分だけ余分な力が必要であるという課題があった。また、球体の質量を小さくすると、球体の体積も小さくなり、球体を係止しているシリンダ内周面の開口部も小さくなるため、吐出孔を通過する冷媒に対して流路抵抗が増加し、圧力損失となるという課題があった。そのため、作動室と高圧空間との差圧と、球体の質量と、吐出孔の開口部の開口面積をもとに開閉条件を設計する必要があり、設計が複雑であるという課題があった。
また、球体を開口部に係止するため開口部より大きな直径の球体が設けられており、作動室から高圧空間へ吐出する際には、吐出孔流路内で球体が流路の障害となる。すなわち球体が吐出孔を流れる冷媒に干渉し吐出孔の流路抵抗となり、大きな圧力損失が発生するという課題もあった。
また、吐出孔内に設けられた球体は、吐出弁の開口とともに吐出孔内を自由に動き回るが、可動範囲が大きいため、再び閉鎖される場合、閉鎖までの動作遅れが生じ、冷媒の吐出、逆流防止の動作が十分にできないという課題があった。第二の吐出弁の動作を補うために、吐出孔のシリンダ外周面側の開口部に第一の吐出弁を設ける必要があり、吐出弁を2重に備えなければならないという課題があった。
【0009】
この発明は、上記のよう課題を解決するためになされたもので、圧縮要素内の作動室から圧縮要素外の高圧空間へ圧縮された高圧冷媒を吐出するとき、作動室から高圧空間に至る流路上に残留した高圧冷媒が冷媒を圧縮中の作動室へ逆流し再膨張・再圧縮されることを防止した高効率な圧縮機を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、低圧空間から冷媒を吸入し、圧縮し、高圧空間へ吐出する圧縮要素を有したベーンロータリ圧縮機において、圧縮要素は、ほぼ円筒形状の内周面にて形成された内部空間を有するシリンダと、内部空間に収納され内部空間内で回転運動を行うほぼ円筒形状の外周面を有するローラと、ローラを有しローラに回転力を伝達するシャフトと、シャフトを支持しシリンダの内部空間の両端の開口部を閉塞する2つの軸受と、ローラに設けられローラの外周面からシリンダの内周面に向かって突き出されローラの外周面とシリンダの内周面と軸受けにて形成される空間を複数の作動室に仕切る板状のベーンと、シリンダに設けられ低圧空間から作動室へ冷媒を吸入する吸入孔と、シリンダに設けられ作動室から高圧空間へ冷媒を吐出する吐出孔と、吐出孔が開口されるとともにローラの外周面とシリンダの内周面と軸受けにて形成され作動室と連通する吐出流路と、シリンダに設けられ吐出流路を形成するシリンダの内周面に開口部を有する吐出弁溝と、吐出弁溝と高圧空間とを連通し高圧空間から高圧冷媒を導く吐出弁背圧流路と、吐出弁溝に往復摺動自在に収納され、作動室内の冷媒圧力が高圧冷媒の圧力より小さいとき高圧冷媒にて吐出弁溝の開口部からローラの外周面に向かって押し出され、作動室内の冷媒圧力が高圧冷媒の圧力より大きいとき作動室内の冷媒圧力にて吐出弁溝内に押し戻される吐出弁と、を備え、吐出流路を吐出弁溝の開口部から押し出された吐出弁の外周面とローラの外周面とによって閉じ、吐出弁が吐出弁溝に押し戻されることによって開くようにしたものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明のベーンロータリ型圧縮機は、圧縮要素内の作動室と吐出孔とを連通する吐出流路上に作動室内の冷媒圧力が高圧冷媒の圧力より小さいとき高圧冷媒にて吐出弁溝の開口部からローラの外周面に向かって押し出され、作動室内の冷媒圧力が高圧冷媒の圧力より大きいとき作動室内の冷媒圧力にて吐出弁溝内に押し戻される吐出弁を備え、吐出流路を吐出弁溝の開口部から押し出された吐出弁の外周面とローラの外周面とによって閉じ、吐出弁が吐出弁溝に押し戻されることによって開くようにしたので、圧縮要素内の作動室から圧縮要素外の高圧空間へ圧縮された高圧冷媒を吐出するとき、作動室から高圧空間に至る流路上に残留した高圧冷媒が冷媒を圧縮中の作動室へ逆流し再膨張・再圧縮されることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1に係るベーンロータリ圧縮機の縦断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係るベーンロータリ圧縮機の圧縮要素部の横断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係るベーンロータリ圧縮機の吐出弁周辺の部分拡大図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係るベーンロータリ圧縮機の吐出弁の斜視図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係る冷媒回路図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係るベーンロータリ圧縮機の圧縮工程図である。
【図7】この発明の実施の形態1に係るベーンロータリ圧縮機の吐出弁に加わる力の第一の説明図である。
【図8】この発明の実施の形態1に係るベーンロータリ圧縮機の吐出弁に加わる力の第二の説明図である。
【図9】この発明の実施の形態2に係るベーンロータリ圧縮機の圧縮要素部の横断面図である。
【図10】この発明の実施の形態2に係るベーンロータリ圧縮機の吐出弁周辺の部分拡大図である。
【図11】この発明の実施の形態2に係るベーンロータリ圧縮機の吐出弁の斜視図である。
【図12】この発明の実施の形態2に係るベーンロータリ圧縮機の吐出弁に加わる力の第一の説明図である。
【図13】この発明の実施の形態2に係るベーンロータリ圧縮機の吐出弁に加わる力の第二の説明図である。
【図14】この発明の実施の形態2に係るベーンロータリ圧縮機の吐出弁溝の角度を変えた形態の圧縮要素部の横断面図である。
【図15】この発明の実施の形態2に係るベーンロータリ圧縮機の吐出弁溝を変えた形態の吐出弁周辺の部分拡大図である。
【図16】この発明の実施の形態2に係るベーンロータリ圧縮機の吐出弁を変えた形態の説明図である。
【図17】この発明の実施の形態2に係るベーンロータリ圧縮機の吐出弁溝を変えた形態の説明図である。
【図18】この発明の実施の形態3に係るベーンロータリ圧縮機の圧縮要素部の組立図である。
【図19】この発明の実施の形態3に係るベーンロータリ圧縮機の圧縮要素部の横断面図である。
【図20】この発明の実施の形態3に係るベーンロータリ圧縮機の圧縮工程図である。
【図21】この発明の実施の形態3に係るベーンロータリ圧縮機の吐出弁構造を変えた形態の説明図である。
【図22】この発明の実施の形態3に係るベーンロータリ圧縮機の吐出弁構造を変えた形態の説明図である。
【図23】この発明の実施の形態3に係るベーンロータリ圧縮機の吐出弁構造を変えた形態の説明図である。
【図24】この発明の実施の形態3に係るベーンロータリ圧縮機の吐出弁構造を変えた形態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は本発明におけるベーンロータリ圧縮機全体の縦断面図、図2は図1に示すベーンロータリ圧縮機のD−D線での圧縮要素部の横断面図を示す。また、図3は図2に示す圧縮要素部の吐出弁周辺を拡大した部分拡大図である。また、図4は図3に示す吐出弁の斜視図である。
【0014】
図1にて、密閉型のベーンロータリ圧縮機の全体構成を説明する。
図1のベーンロータリ圧縮機100は、上部容器1aと下部容器1bとで構成される密閉容器1内に、冷媒を圧縮する圧縮要素10と、圧縮要素10を駆動する電動要素40とが収納されている。圧縮要素10と電動要素40とは回転軸すなわちシャフト2で連結され、圧縮要素10は密閉容器1の下部に、電動要素40は密閉容器1の上部に配置されることで構成されている。
このような構成にて、電動要素40によって駆動された圧縮要素10が密閉容器1外から直接冷媒を吸入し、圧縮後、密閉容器1を介して密閉容器1外へ吐出する。
なお、図1は、密閉容器1内が高圧雰囲気となる例を示しているが、密閉容器1内が低圧雰囲気である構成でも構わない。すなわち、密閉容器1外から密閉容器1を介して圧縮要素10に吸入され、圧縮後、圧縮要素10から直接密閉容器1外へ排出されるものであっても構わない。また、エンジン駆動など、他の構成に適用しても構わないが、ここでは、家庭用・産業用に多く使われている密閉容器型にて説明していく。
また、図1は、圧縮要素10が密閉容器1の下部に、電動要素40が密閉容器1の上部に配置されたものを示したが、圧縮要素10と電動要素40とが左右に配置されたものや、圧縮要素10が密閉容器1の上部に、電動要素40が密閉容器1の下部に配置されたものであっても構わない。
【0015】
密閉容器1の底部には、冷凍機油3が貯留されており、圧縮要素10の下部に設けられた給油機構によって、圧縮要素10の各摺動部へ給油される。これにより、圧縮要素10の機械的潤滑作用を確保している。
【0016】
密閉容器1の外部には、気液分離のためのアキュムレータ101が備えられている。アキュムレータ101は吸入管4によって密閉容器1内の圧縮要素10に接続され、アキュムレータ101から圧縮要素10に冷媒が吸入される。また、密閉容器1の上部には吐出管5が設けられており、圧縮要素10にて圧縮された冷媒は吐出管5を介して密閉容器1外に吐出される。なお、密閉容器1外に吐出された冷媒は密閉容器1外に設けられた冷媒回路を循環して再びアキュムレータ101を介して圧縮要素10に戻る。
【0017】
図5は、圧縮機100を搭載した空調機の冷媒回路の例である。図5の冷媒回路は、冷媒を圧縮する圧縮機100およびアキュムレータ101と、冷媒を凝縮する凝縮器201と、冷媒を減圧する減圧器202と、冷媒を蒸発させる蒸発器203とを配管にて環状に接続して構成されている。圧縮機100にて圧縮された高圧冷媒は、凝縮器201に送られる。凝縮器201に送られた冷媒は、凝縮器201にて空気と熱交換を行い、凝縮され、減圧器202に送られる。次に、減圧器202に送られた冷媒は減圧され、低圧冷媒となり、蒸発器203に送られる。さらに、蒸発器203に送られた冷媒は、蒸発器203にて空気と熱交換を行い、蒸発され、アキュムレータ101を介して再び圧縮機100に戻る。なお、このとき、凝縮器201では熱交換として空気に放熱を行い、蒸発器203では空気から吸熱を行う。凝縮器201が室内側に設けられ、蒸発器203が室外側に設けられると、室内は暖房され、凝縮器201が室外側に設けられ、蒸発器203が室内側に設けられると、室内は冷房される。これらの動作は、図示しない四方弁などによって、循環方向を変えることもできるため、暖房・冷房を切り替えた動作も可能である。
【0018】
次に、電動要素40について説明する。電動要素40は、密閉容器1の内周に固定された固定子41と、固定子41の内側に配設された回転子42とによって構成された、例えば、ブラシレスDCモータである。
【0019】
固定子41は、固定子鉄心43、絶縁部材44、コイル45から構成されている。コイル45にはリード線46が接続されており、リード線46は密閉容器1に設けられたガラス端子47に接続される。ガラス端子47にはリード線46を介してコイル45に通電させる外部電源が接続される。コイル45は、固定子鉄心43に複数設けられたティースに絶縁部材44を介して回転軸方向すなわち上下方向に巻き付けられた巻き線の集合体である。コイル45の巻き線部分はティースとティースとの間に形成されるスロットにほぼ隙間無く収納されている。このような構成によって、外部電源がコイル45に通電すると、コイル45が磁束を発生し、固定子鉄心43上に複数の磁極を生成する。
なお、固定子鉄心43は、薄板電磁鋼板を打抜いた鉄心シートを積層することで形成され、密閉容器1に焼嵌めによって固定されている。
また、密閉容器1内は冷媒が循環する流路であり、電動要素部もこの冷媒流の中に晒され、外部電源は商用電源あるいは商用電源以上の高電圧を発生させコイル45に印加する。したがって、コイル45は、絶縁被膜を施した銅線やアルミ線などが用いられ、絶縁部材は、PET(ポリエチレンテレフタレート)やPBT(ポリブチレンテレフタレート)などによって形成されている。
【0020】
回転子42は、固定子41と同様に薄板電磁鋼板を打抜いた鉄心シートを積層し構成された回転子鉄心48と、回転子鉄心48の外周側表面付近に磁石挿入孔が設けられている。その磁石挿入孔にはフェライト磁石や希土類磁石などの永久磁石が挿入され、回転子42上の磁極を形成する。
なお、永久磁石はフェライト磁石や希土類磁石などを単一使用しても、フェライト磁石と希土類磁石を、2種類以上、混在使用しても構わない。また、磁石挿入孔は回転子鉄心48の外周側表面付近と説明したが、永久磁石の磁力調整のため回転子鉄心48の外周側表面から所定の距離を設けた回転子鉄心48の内周側に設けても構わない。また、回転子鉄心48に磁石挿入孔を設けず回転子鉄心48の外周表面に貼り付けても構わない。
回転子鉄心48の両端面には、永久磁石の飛散を防止するため、磁石挿入孔を閉塞する端板あるいはバランスウエイトが固定されている。圧縮要素10では吸入、圧縮、吐出など、それぞれの工程に必要な回転トルクの違いにより回転トルク変位が生じる。バランスウエイトは、回転トルク変位によって生じる回転子42の回転運動のむらを修正するために取付けられるもので、必要な場合のみ取り付けられている。なお、図1は、取り付けられていない例である。
回転子鉄心48の中心には、シャフト2の外径より小さい内径のシャフト穴が設けられている。シャフト2をそのシャフト穴に焼嵌めることにより、回転子鉄心48がシャフト2に固定される。これによって、回転子42はシャフト2と一体になって回転可能となり、電動要素40の回転力はシャフト2を介して伝達される。
固定子41と回転子42との間には、エアギャップ49と呼ばれる径方向の隙間が全周に渡ってほぼ均一に設けられている。固定子41から回転子42へ伝わる磁束はこのエアギャップ49を介して伝達されるので、エアギャップ49を広げると電動要素40の効率が低下する。そのため、できるだけ狭く構成している。同時に、エアギャップ49は圧縮要素10から吐出された冷媒が吐出管5に向かって流れる流路にもなっているので、狭すぎると電動要素40の下方の圧縮要素10から吐出された高圧冷媒が密閉容器1の上方の吐出管5に流れ込みにくくなる。これを補うため、回転子42には、回転子42の軸方向に連通する複数の風穴が設けられている場合もある。
【0021】
以上のような構成によって、電動要素40は、回転子42の永久磁石が作る磁束と固定子41のコイル45が作る磁束とが作用しあって、回転子42を回転させ、回転力をシャフト2へ伝達する。
【0022】
なお、電動要素40は、ブラシレスDCモータを一例として説明したが、回転子42に永久磁石を使わない、例えば、誘導電動機であっても構わない。誘導電動機の固定子の構成については、ブラシレスDCモータとほぼ同じであるが、回転子は永久磁石の代わりに二次コイルが設けられており、固定子側のコイルが二次コイルに磁束を誘導して回転する仕組みである。
一般的には、回転子側に電気的な作用を発生させずに、永久磁石にて磁束を発生させるブラシレスDCモータの方が家庭用として多く用いられている。なぜなら、回転子側の電気回路によって損失を発生させない分、高効率となるためである。
【0023】
また、ブラシレスDCモータの場合、外部電源として、商用電源を直結して使用することはできず、回転子42の永久磁石が作る磁束の方向すなわちN極・S極に合わせて、固定子41側のコイル45が作る磁束の方向すなわち電流が流れる方向を切り替える機能を有した外部電源が必要である。つまり、外部電源が通電する方向を切り替えることによって、固定子41側の磁束の方向が切り替わり、回転子42の永久磁石が反発あるいは吸引され、回転子42は回転させられる。したがって、一般的に外部電源には、通電する方向を切り替える、すなわち、印加する電圧や流す電流の周波数及びその値を変えることができる周波数変換装置が用いられる。周波数変換装置は、一般的にトランジスタなどの半導体で構成された装置で、印加する電圧や流す電流の方向を切り替える速度及びそれを繰り返す速度を自由に変えられる他、通電する電流を増減するためにも印加する電圧を増減させ、ブラシレスDCモータの回転数すなわち回転速度と発生トルクを自由に制御することができる。これによって、きめ細かな速度調整を行い、より高効率な圧縮機運転を実現させている。
なお、可変周波数・可変電圧型の外部電源をブラシレスDCモータに適用するように説明してきたが、誘導電動機に対して用いても構わない。誘導電動機においても、可変周波数・可変電圧制御によって、きめ細かな速度調整を行い、より高効率な圧縮機運転を実現できる。
なお、誘導電動機に対しては、速度制御やトルク制御を必要としなければ、外部電源に一定周波数、一定電圧の電源を用いても構わない。
【0024】
次に圧縮要素10について説明する。圧縮要素10は、ほぼ円筒形状の内周面を有するシリンダ11と、シリンダ11のほぼ円筒形状内周面の軸方向の両端開口部を閉塞する上軸受13および下軸受14と、上軸受13および下軸受14によって支持されるシャフト2と、シャフト2に設けられローラ15と、ローラ15に設けられたベーン16a、16bによって構成されている。また、シリンダ11のほぼ円筒形状内周面と上軸受13および下軸受14とによってほぼ円筒形状のシリンダ室12が形成されるとともに、ローラ15がシリンダ室12に収納されている。さらに、シリンダ11、上軸受13、下軸受14、ローラ15、ベーン16a、16bによって、シリンダ室12内に作動室を形成している。
【0025】
図2にて圧縮要素10の詳細を説明していく。シリンダ11は、その内部にほぼ円筒形状の内周面11aを有している。そのシリンダ内周面11aの両端開口部のうち上部側は上軸受13にて、下部側は下軸受14がそれぞれ閉塞している。そして、シリンダ内周面11aと上軸受13および下軸受14とによってシリンダ11の内部にシリンダ室12を有している。
上軸受13および下軸受14は、断面がほぼT字状で、シリンダ11に接する部分がほぼ円板状であり、シリンダ11側の端面はほぼ平面状になっており、ボルトにてシリンダ11に固定されている。
そして、上軸受13は密閉容器1の内周面に溶接などによって固定され、圧縮要素10全体が密閉容器1に固定、支持されている。なお、固定されるのは、下軸受14であっても、シリンダ11であっても構わない。
【0026】
シャフト2には、図1のように軸方向の中央部に、ローラ15がシャフト2の中心軸と同軸軸上に嵌合もしくは一体成形され設けられている。ローラ15の両側にはシャフト2の回転軸部2a、2bが形成され、シャフト2の回転軸部2a、2bは上軸受13および下軸受14によって回転自在に支持されている。
【0027】
シリンダ室12には、シャフト2に設けられシリンダ室12の容積より小さいほぼ円柱形のローラ15が収納されている。ローラ15の回転の中心(ア)であるシャフト2は、ほぼ円筒形状のシリンダ室12の中心(イ)から偏心した位置に設けられ、ローラ15のほぼ円筒形状の外周面15aとシリンダ内周面11aとが最近接点(ウ)を有している。そして、シャフト2によってローラ15は回転摺動させられる。なお、最近接点(ウ)では、ローラ外周面15aとシリンダ内周面11aとは接触せず、その互いの距離を保ち微小隙間を形成しているが、微小隙間は圧縮要素10に供給される冷凍機油3によってシールされ塞がれている。なお、ローラ外周面15aとシリンダ内周面11aは、シリンダ室12およびシリンダ室12内に形成される作動室を構成する。
【0028】
ローラ15には、図2のようにローラ外周面15aに開口部を有するベーン溝17a、17bが設けられている。ベーン溝17a、17bには、ほぼ直方体形状(板形状)をしたベーン16a、16bがベーン溝17a、17bの開口部からシリンダ内周面11aに向かって突き出せるように摺動自在に設けられている。開口部から突き出されたベーン16a、16bの先端は、シリンダ内周面11aに当接され、シリンダ室12を仕切るため、ベーン16a、16bの軸方向の長さもローラ15あるいはシリンダ11の軸方向の長さとほぼ同じ長さで構成されている。また、ベーン溝17a、17bも、そのベーン16a、16bを収納するため、ローラ15の軸方向の全長に渡る溝として構成されている。
【0029】
ベーン溝17a、17bの開口部と反対側には、ベーン16a、16bとベーン溝17a、17bとで形成されたベーン背圧空間18a、18bが設けられている。ベーン背圧空間18a、18bは、上軸受13あるいは下軸受14の少なくとも一方に設けられたベーン背圧流路(図示しない)と連通している。ベーン背圧流路は、ベーン背圧空間18a、18bと密閉容器1の高圧空間と連通させるとともに、高圧空間の高圧冷媒をベーン背圧空間18a、18bに導く。ベーン背圧空間18a、18bに導かれた高圧冷媒はベーン16a、16bをベーン溝17a、17b内からベーン溝17a、17b外すなわちローラ15の外側へ押し出す。これによって、ベーン16a、16bはベーン溝17a、17bから外れることはないが、ベーン16a、16bの先端がほぼ円筒形状のシリンダ内周面11aに当接される。
【0030】
ベーン16a、16bは、ほぼ直方体の板状であり、シリンダ内周面11a側に位置するベーン先端部は外側に円弧形状に形成され、その円弧形状の半径は、シリンダ11のほぼ円筒形状内周面の半径より小さな半径で構成されている。これによって、ベーン16a、16bの先端はほぼ円筒形状のシリンダ内周面11aと径方向では1点、軸方向では線上で接するように当接され、摩擦が抑制されている。
【0031】
このような構成にて、ベーン16a、16bは、シリンダ内周面11aに当接し、シリンダ室12内に形成される作動室を吸入側の作動室(吸入室)12aと吐出側の作動室(圧縮室)12bとに仕切っている。そして、ベーン16a、16bは、ローラ15の回転にともない、シリンダ内周面11aに当接されながらシリンダ室12内をベーン16a、16bの先端がシリンダ内周面11aに沿って移動する。なお、ローラ15の回転の中心(ア)がシリンダ11の中心(イ)に対して偏心しているので、ローラ外周面15aとシリンダ内周面11aとの対向する距離はシリンダ内周面11aの位置によって異なる。そのため、ベーン16a、16bがローラ15から押し出される量すなわち長さはローラ15の回転とともに変化させる必要がある。そこで、ベーン背圧空間18a、18bの冷媒圧力がベーン溝17a、17bから押し出すベーン16a、16bの長さをローラ15の回転とともに制御している。これによって、ベーン16a、16bはベーン溝17a、17b内で往復摺動することになる。
【0032】
なお、ベーン16a、16bはこのような構成のため、作動室12a、12bからベーン16a、16bにかかる力が小さい、動作圧力の低い冷媒が好ましく、標準沸点が−45℃以上の冷媒が好適である。このような低圧冷媒種類の冷媒であれば、ベーン16a、16b及びベーン溝17a、17bの強度上の問題もなく使用できる。
【0033】
また、ベーン背圧流路には、ベーン背圧空間18a、18b内の冷媒圧力を調整する背圧調整機構を設けベーン16a、16bがシリンダ内周面11aに当接される力を調整している場合もある。
【0034】
なお、これ以降、ベーン16a、16bがシリンダ内周面11aと接触する位置は、ほぼ円筒形状のローラ外周面15aとほぼ円筒形状のシリンダ内周面11aとの最近接点(ウ)を0degとし、図2中ローラ15の回転方向に合わせて時計回りに1周360degにて説明する。例えば、図2のベーン16aが接触するシリンダ内周面11aの位置は0deg、ベーン16bが接触するシリンダ内周面11aの位置は180degである。
【0035】
また、図2の状態は、ベーン16aの先端が0deg近傍にあり、0deg近傍のローラ外周面15aとシリンダ内周面11aとの対向する距離は最短であるため、ベーン16aの先端がローラ外周面15aとほぼ同位置すなわちベーン16a全体がベーン溝17aに収納された状態となる。同様に、180deg近傍にあるベーン16bは、180deg近傍のローラ外周面15aとシリンダ内周面11aとの対向する距離が最長であるため、ベーン16bの先端がローラ外周面15aから最大に押し出された位置すなわちベーン16bがベーン溝17bから最大に押し出された状態である。
【0036】
シリンダ11には、吸入孔19および吐出孔20が、ローラ外周面15aとシリンダ内周面11aとの最近接点(ウ)を挟んで設けられている。吸入孔19の一方は、吸入管4と連通し、他方はシリンダ内周面11aすなわちシリンダ室12に開口している。また、吐出孔20も同様に、一方はシリンダ内周面11aすなわちシリンダ室12に、他方はシリンダ11外面すなわち密閉容器1内に開口している。
なお、吸入孔19のシリンダ内周面11a側開口部には、その開口部とつながったシリンダ内吸入空間19aが設けている。シリンダ内吸入空間19aは、シリンダ11に設けられた径方向の溝状の空間であり、吸入孔19のシリンダ内周面11a側開口部とシリンダ室12とを連通させている。この構成によって、シリンダ内吸入空間19aは吸入孔19からシリンダ室12への流路を広げる役目を果たしている。
また、吐出孔20から吐出された冷媒は、上軸受13に設けられた穴あるいは密閉容器1と上軸受13との間の隙間から上方に通過し、吐出管5に向かって流れる。
【0037】
また、シリンダ11には、吐出弁溝21、吐出弁背圧流路22が設けられており、図3にて、その詳細を説明していく。なお、図3は、図2のA部分を拡大したものである。
【0038】
シリンダ11には、シリンダ内周面11aすなわちシリンダ室12に開口部を有する吐出弁溝21が設けられている。吐出弁溝21は、吐出孔20の近傍であって、作動室12bと吐出孔20とを連通し作動室12bから吐出孔20へ向かって冷媒が流れる吐出流路のシリンダ11に配置されている。すなわち、吐出弁溝21は、吐出孔20に対して最近接点(ウ)が配置されている側と反対側に配置されている。これにより、ベーン16aあるいは16bの先端が最近接点(ウ)から吸入孔19を経て、シリンダ内周面11aを摺動して進む進行方向に対して吐出孔20の手前、冷媒が吐出孔20へ向かう上流側に配置されることになる。なお、作動室12bから吐出孔20へ向かい冷媒が流れる吐出流路は、シリンダ内周面11aあるいは吐出弁溝21の開口部とローラ外周面15aとの間に形成された、作動室12bから吐出孔20までの流路である。なお、吐出流路も上軸受13と下軸受14にて上下が閉塞されている。
【0039】
吐出弁溝21は、断面がほぼ円形状でシリンダ室12の軸方向すなわちシャフト2の軸方向と同じ方向に貫通するほぼ円筒形状の溝である。なお、吐出弁溝21の軸方向とシリンダ室12の軸方向がほぼ平行となるように吐出弁溝21は設けられている。吐出弁溝21には、シリンダ室12に開口した吐出弁溝開口部23がシリンダ内周面11aの軸方向全長渡って設けられている。また、吐出弁溝開口部23には、吐出弁溝受部24が設けられている。
吐出弁溝21には、図4(a)に示すように軸方向の長さは吐出弁溝21とほぼ同じであり軸方向と直角方向の断面積は吐出弁溝21より若干小さい全体がほぼ円柱形状の吐出弁25が回動及び往復運動自在に挿入されている。吐出弁25は、吐出弁溝21にその全体をすべて収納することができる大きさであるとともに、吐出弁溝21は、吐出弁25が吐出弁溝開口部23側へ押し出されたとき、吐出弁溝受部24が吐出弁25の一部をシリンダ室12に突き出した状態で係止する構造である。ただし、吐出弁溝開口部23は吐出弁25の直径より小さく構成されているので、吐出弁25は吐出弁溝21から外れることはない。また、吐出弁溝21内での往復運動の応答性を高くするため、吐出弁25に対して吐出弁溝21を若干大きくするだけで吐出弁溝21に対する吐出弁25の可動範囲を狭く構成している。
吐出弁25及び吐出弁溝21は、吐出弁25の往復運動の方向がほぼ円筒形状のローラ外周面15aの法線方向すなわちローラ15の中心であるシャフト2に向かうように設けられている。
【0040】
シリンダ室12に押し出された吐出弁25は、吐出弁25のほぼ円筒形状の外周面とほぼ円筒形状のローラ外周面15aとでシリンダ室12を仕切る。ただし、吐出弁25の外周面とローラ外周面15aとは接触せず、所定の距離を保っている。すなわち、吐出弁25の外周面とローラ外周面15aとの間には微小隙間が形成される。微小隙間は圧縮要素10に供給されている冷凍機油3によってシールされ塞がれているため、吐出弁25の外周面とローラ外周面15aとでシリンダ室12を仕切ることができる。なお、シリンダ室12を仕切るために、吐出弁25の軸方向の長さもシリンダ11あるいはローラ15の軸方向の長さとほぼ同じ長さであり、吐出弁溝21と吐出弁溝開口部23もシリンダ11の軸方向の全長に渡って形成されている。
【0041】
なお、図4(a)では、吐出弁25は中実形状であってほぼ円柱形状のものを示したが、図4(b)の吐出弁25aのように中空形状であってほぼ円筒形状のものでも構わない。ほぼ円筒形状の方が質量は小さく、吐出弁25aを移動させるために必要な力が小さくて済む。また、吐出弁25は吐出弁25の端面と上軸受13、下軸受14とが摺動部となり、摩擦を発生する。吐出弁25はほぼ円柱形状であるが、吐出弁25aはほぼ円筒形状のため、吐出弁25aの端面と上軸受13、下軸受14との接触面積も小さく、摩擦も小さい。よって、吐出弁25aは摺動抵抗も小さく、小さな力で移動でき、吐出弁溝21内での往復運動の応答性を良くすることもできる。
また、吐出弁25aは中が中空ではなく、別の材料で埋めていても構わない。中空部分を埋める材料や量によって吐出弁25aの質量を調整し、吐出弁25aを移動させるために必要な力を調整できる。すなわち、吐出弁25aの応答性や移動条件を調整できる。
【0042】
また、吐出弁25あるいは25aをアルミニウム、チタン等の軽金属材料、またはアルミニウム基合金、チタン基合金の合金材料を使用すれば、一層軽量となるため、更に慣性力が下がり吐出弁25あるいは25aの吐出弁溝21内での往復運動の応答性を上げることができる。
【0043】
また、吐出弁25が吐出弁溝21内を往復運動するため、吐出弁25と吐出弁溝21の少なくとも一方の表面に耐摩耗性のコーティングを施すことで、摩耗を低減し、摩耗粉等を生じにくく、圧縮機の寿命を長くすることができる。
【0044】
また、図3のシリンダ11には、シリンダ11の外部の密閉容器1内の高圧空間と吐出弁溝21とを連通する吐出弁背圧流路22が設けられている。吐出弁背圧流路22は、吐出弁溝21に高圧空間の高圧冷媒を導く。吐出弁背圧流路22によって導かれた高圧冷媒は吐出弁25をシリンダ室12内へ押し出すように作用する。押し出された吐出弁25はシリンダ室12内の作動室12bから吐出孔20へ向かい冷媒が流れる吐出流路を閉鎖する。したがって、吐出孔20は、常に高圧空間と連通しており、吐出孔20内も高圧雰囲気となっている。
なお、作動室12bの冷媒圧力が所定の圧力となったとき、吐出弁25が吐出弁溝21に押し戻され、作動室12bから吐出孔20へ向かい冷媒が流れる吐出流路を開口する。作動室12bの冷媒圧力と吐出弁25の開閉移動の関係は、次の動作のところで、詳細説明する。
なお、吐出弁背圧流路22は孔形状であっても、溝形状であっても構わない。また、吐出弁背圧流路22は複数の孔形状や溝形状から構成されていても構わない。孔形状や溝形状あるいはそれらの数によって、吐出弁溝21内に流れ込む高圧冷媒のタイミングを調整し、吐出弁25の応答速度や吐出弁溝受部24に作用する応力を制御できる。
【0045】
次に圧縮機全体の動作について説明する。
圧縮機100に通電を行うと、電動要素40の回転子42は回転を行い、回転子42に嵌合されたシャフト2を回転させる。さらにシャフト2はシャフト2に嵌合されている圧縮要素10のローラ15に回転力を伝達しを回転させる。ローラ15の回転によって、ローラ15のベーン溝17a、17bに設けられたベーン16a、16bもシリンダ室12内を移動する。
【0046】
ベーン16a、16bのベーン背圧室18a、18bには背圧調整機構あるいは高圧空間から直接、ベーン背圧流路を介して高圧冷媒が流入されている。ベーン背圧室18a、18bの内部圧力とローラ15の回転による遠心力によってベーン16a、16bは、図2のようにシリンダ内周面11aに当接される。すなわち、ベーン16a、16bはシリンダ内周面11aに当接された状態でローラ15の回転とともにシリンダ11内を摺動しながら移動する。
ベーン16a、16bは図2のようにシリンダ内周面11aとローラ外周面15aによって囲まれた空間、すなわち、作動室12a、12bを形成する。なお、作動室12a、12bは、その上下を上軸受13、下軸受14によって閉鎖されている。
【0047】
また、図2の状態では、作動室12aに吸入孔19のシリンダ内周面11a側開口部がつながっており、作動室12aに吸入孔19を介して冷媒が流入している。ベーン16a、16bは、ローラ15によって、最近接点(ウ)から吸入孔19を通過して吐出孔20に向かって移動し、吐出孔20を通過して、また最近接点(ウ)に戻る、時計回りの回転移動を行っている。図6は、図2の状態からローラ15を時計回りに回転移動している状態を示した図であり、これによってベーンロータリ圧縮機100が吸入から吐出まで行う工程を、図6を用いて説明する。
【0048】
図6(a)と図2とは、同じ状態の図であり、吸入孔19側にある作動室12aは、吸入孔19と連通し、アキュムレータ101側から冷媒を吸入している工程である。
図6(b)は、図6(a)からローラ15が時計回りに回転した状態である。ベーン16aは、吸入孔19周辺のシリンダ内周面19bに当接されるので、シリンダの径方向設けられた溝状のシリンダ内吸入空間19aには進入できない。よって、ベーン16aが吸入孔19を通り過ぎても、作動室12aはシリンダ内吸入空間19aを介して吸入孔19と連通したままであり、吸入動作が継続されている。
図6(c)の状態は、ローラ15が約90deg回転し、ベーン16aによって作動室12aとシリンダ内吸入空間19aとが閉鎖された状態である。すなわち、作動室12aがシリンダ内周面11aとローラ外周面15aとベーン16a、16bとで形成されている状態である。よって、作動室12aと吸入孔19と連通が終了し、吸入動作の工程が終了する。また、この状態以降から、圧縮動作の工程が開始される。
図6(d)は、さらにローラ15が回転し作動室12aの内容積が徐々に小さくなり、圧縮動作が継続されている。
図6(e)はベーン16bが吐出弁25と接した状態で、図6(f)はベーン16bが吐出弁25の吐出孔20側へ移動した状態である。これ以降、作動室12aがシリンダ内周面11aとローラ外周面15aとベーン16aと吐出弁25とで形成される。
さらに、ローラ15が回転すると、図6(a)の状態となるが、図6(f)にて作動室12aと指示していたものは、図6(a)では作動室12bに相当するため、作動室12bの動作として説明していく。また、ローラ15の回転とともに圧縮動作が進むため、図6(a)の作動室12bは、内部の冷媒圧力が上昇していき、所定の圧力すなわち吐出圧となると、吐出弁25が動作するようになる。図7、8を用いて、その動作の詳細を説明していく。
【0049】
図7は、図6(a)と同じく、吐出弁25が作動室12bから吐出孔20へ向かい冷媒が流れる吐出流路を閉鎖した状態である。図8は、図6(b)(c)と同じく、作動室12bから吐出孔20へ向かい冷媒が流れる吐出流路が開口された状態である。
【0050】
図7、8にて、吐出弁25に働く外力と開閉動作について説明する。まず、吐出弁25には、吐出弁背圧流路22から導かれた高圧冷媒によって吐出弁溝21側からシリンダ室12側へ吐出弁25を押す力が働いている。吐出弁25が往復運動する方向、すなわち吐出弁溝21からローラ15の中心(ア)(シャフト2の中心)に向かう方向をX軸とし、吐出弁25に吐出弁溝21側からシリンダ室12側へ働く力をF1xとする。F1xはX軸方向に働く力である。
また、吐出弁25には作動室12b内の冷媒圧力によって作動室12b側から吐出弁25を押す力F2zが働いている。このF2zのうち、吐出弁25をシリンダ室12側から吐出弁溝21側へ押すX軸方向成分の力をF2xとする。
また同様に、吐出弁25には吐出孔20側の冷媒圧力によって吐出孔20側から吐出弁25を押す力F3zが働いている。このF3zのうち、吐出弁25をシリンダ室12側から吐出弁溝21側へ押すX軸方向成分の力をF3xとする。
なお、吐出弁25は吐出弁溝21に沿った方向以外には動かないので、X軸方向以外の外力は、相殺あるいは吸収されて消滅する。
【0051】
吐出弁25が吐出弁溝21内をどちらの方向に移動するかは、吐出弁25をX軸方向に押す力F1xと吐出弁25を逆方向に押す力F2xとF3xの合力とで決まる。
F1xがF2xとF3xの合力より大きい場合、すなわち、F1x>(F2x+F3x)の場合、吐出弁25は吐出弁溝開口部23にある吐出弁溝受部24に押圧されローラ15のローラ外周面15aと吐出弁25の外周面とで作動室12bと吐出孔20とを仕切り、作動室12bから吐出孔20へ向かい冷媒が流れる吐出流路を閉鎖している。
【0052】
ローラ15が回転し図8の状態に進むと、作動室12b内の冷媒の圧縮が進み、冷媒圧力が上昇する。作動室12b内の冷媒圧力が所定の圧力まで達し、F2xとF3xの合力がF1xより大きくなった場合、すなわち、F1x<(F2x+F3x)の場合、吐出弁25は吐出弁溝21の中に押し戻され、吐出弁25とローラ外周面15aとの間に流路が形成され、作動室12bと吐出孔20とが連通する。作動室12bと吐出孔20とが連通することによって、作動室12b内の圧縮された高圧冷媒が、吐出孔20を介してシリンダ11の外に吐出される。
【0053】
さらにローラ15が回転し図6(f)のようにベーン16bが吐出弁25の位置を通過し作動室12bがシリンダ内周面11aとローラ外周面15aの接近により消失すると、作動室12bから冷媒の吐出動作の工程が終了する。また、吐出弁25には、圧縮開始状態の作動室12aが接し、Fx2の力が小さくなるので、吐出弁25はシリンダ室12に押し出され、再び作動室から吐出孔20へ向かい冷媒が流れる吐出流路を閉鎖する。
【0054】
以上のような工程で、吐出弁25が作動室12bから吐出孔20へ向かい冷媒が流れる吐出流路を開閉することで、圧縮要素10は吐出動作を行っている。そして、圧縮機100は、圧縮要素10にて吸入、圧縮、吐出の工程を繰り返し、冷媒回路中に冷媒を循環させていく。
【0055】
ところで、作動室12bから吐出孔20へ向かい冷媒が流れる吐出流路上に吐出弁25がなく、吐出孔20のシリンダ11外面側開口部に従来通りの吐出弁が備えられている場合、吐出動作の工程にて、吐出孔20の内容積分が高圧空間へ吐出しきれない高圧冷媒を残すデッドボリュームとなる。例えば、図6(f)の吐出孔20をベーン16bが通過するまでは、同様の吐出動作が行われているが、図6(a)のように吐出孔20をベーン(図6(a)では16aのベーンに相当する)が通過すると、シリンダ11外面の吐出弁はシリンダ11外側とシリンダ室12側(図6(a)では作動室12b)との差圧のため吐出孔20をシリンダ11外面側で閉鎖し、吐出孔20に高圧冷媒が取り残されることになる。この高圧冷媒が取り残された吐出孔20と次に吐出動作を行う作動室が連通すると、次の作動室はまだ圧縮段階で作動室内部の冷媒は圧力が高まっていないため、吐出孔20内に残る高圧冷媒が作動室12bへ逆流し、再膨張・再圧縮されることになる。すなわち、デッドボリュームに残った高圧冷媒により、再膨張損失を発生し、入力増加による効率低下を招いている。
【0056】
これに対して、本実施の形態では、シリンダ11外面側開口部に吐出弁は設けず、作動室12bから吐出孔20へ向かい冷媒が流れる吐出流路上に吐出弁25を設けることにより、吐出動作終了後、吐出孔20がデッドボリュームとなることを防止できる。すなわち、作動室12bから吐出孔20へ向かい冷媒が流れる吐出流路上に配置した吐出弁25によって、吐出孔20と次に吐出動作を行う作動室12bとの流路を閉鎖し、吐出孔20から作動室12bへの高圧冷媒の逆流を防止できる。そして、作動室12bへの高圧冷媒が逆流し発生する再膨張損失を防ぎ、入力増加による効率低下を抑制できる。
また、吐出孔20内に高圧空間へ吐出できない高圧冷媒が残留したが、吐出孔20は常に高圧空間と連通しているので、吐出孔20と吐出弁25が高圧冷媒の吐出動作の妨げることも防止できる。これにより、吐出孔20が、吐出動作終了後にデッドボリュームとなることを防止することができる。
また、吐出弁25は作動室12bから吐出孔20へ向かい冷媒が流れる吐出流路を吐出弁25の外周面とローラ外周面15aとで閉鎖する一方、吐出弁25はシリンダ11の吐出弁溝21に押し戻されることで流路を開口する。吐出弁25が吐出流路を開口したとき、従来のデッドボリューム対策のように作動室12bから吐出孔20へ向かい冷媒が流れる吐出流路の冷媒の流れに吐出弁25が干渉することがないので、吐出流路において吐出動作時の圧力損失を改善することができる。
【0057】
以上のように、吐出孔近傍の吐出孔上流すなわち作動室から吐出孔へ向かい冷媒が流れる吐出流路上に吐出弁を配置し、この吐出流路を開閉することで、吐出孔の内容積に残った高圧冷媒が作動室に逆流し、逆流した冷媒が再膨張・再圧縮され、再膨張損失による圧縮機入力が増加し、効率が低下することを抑制した圧縮機を得ることができる。
また、吐出動作終了後、吐出孔内に高圧空間へ吐出できない高圧冷媒が残留することも回避でき、体積効率の悪化を防止できる。
【0058】
また、従来のデッドボリューム対策では、吐出孔内に吐出弁が設けられていたので、吐出弁を開いた場合、吐出弁が流路を流れる冷媒に干渉し流路抵抗を悪化させていたが、本実施の形態では吐出弁はシリンダ側に設けられた吐出弁溝に押し戻され開くので、作動室から高圧空間へ吐出される高圧冷媒を妨げるものはなく、吐出動作時の大きな圧力損失を改善することができる。
【0059】
また、ベーンは、作動室からベーンにかかる力が小さい、動作圧力の低い冷媒が好ましく、吐出弁溝受部も比較的薄肉形状となるため、吐出弁溝受部にかかる力も小さい方が好ましいため、動作圧力の低い冷媒の方が好適である。例えば、標準沸点が−45℃以上の冷媒が好適であり、R600a(イソブタン)、R600(ブタン)、R290(プロパン)、R134a、R152a、R161、R407C、R1234yf、R1234ze等の冷媒であれば、ベーンや吐出弁溝受部に強度的な問題は無く使用できる。
【0060】
また、図2では、ベーンは2個構成のものを示したが、ベーンは2個以上あっても構わない。その場合は、ベーンの個数に応じて作動室を複数に仕切ることができる。また、ベーンが1個であっても作動室は形成され、圧縮動作可能である。このように、ベーンロータリ圧縮機はシリンダやローラなどの部品を追加し圧縮要素部を大型化することなく作動室を増やすことができ、省スペースにて押しのけ量を増加させることが可能である。
【0061】
よって、動作圧力の低い冷媒を用いても、省スペースにて押しのけ量を増加させることができる圧縮機を得ることができる。
【0062】
また、吐出弁がシリンダ室側に押し出された際に、吐出弁の外周面とローラの外周面が接触せず、微小隙間を形成するとしたが、吐出弁の外周面とローラの外周面が接触しても構わない。吐出弁が回動可能であるためローラの外周面と接触しても摺動損失は小さく、吐出孔側から作動室側への高圧冷媒の逆流を防ぐことができる。ゆえに、耐摩耗性も改善し圧縮機の寿命を向上させることができる。
【0063】
また、ベーンが吐出弁に接触しても、吐出弁が回動可能であるため摺動損失を小さくでき、信頼性の高い圧縮機を得ることができる。
【0064】
また、従来のデットボリューム対策では、吐出孔内に設けられた吐出弁の可動範囲が大きいことから、吐出弁の動作遅れが生じ、高圧空間から作動室へ逆流する高圧冷媒もあった。しかし、吐出弁溝に対する吐出弁の可動範囲を狭くし、吐出弁溝内での往復運動の応答性を改善したので、吐出動作終了後の流路閉鎖を動作遅れなく行うことができるようになった。これにより、吐出弁の動作遅れにより発生する高圧空間から作動室へ逆流する高圧冷媒も抑制することができる。
さらに、この吐出弁動作遅れに伴い、吐出孔のシリンダ外面側に別の吐出弁を設けていたが、別の吐出弁は不要となり、吐出弁を2箇所設置する必要もなく、省スペースで安価な圧縮要素部を有する圧縮機を構成することができる。
【0065】
また、吐出弁は、中空形状であってほぼ円筒形状とすることによって、摺動抵抗も小さく、小さな力で移動でき、応答性を良くすることもできる。また、吐出弁をアルミニウム、チタン等の軽金属材料、またはアルミニウム基合金、チタン基合金の合金材料を使用すれば、一層軽量となるため、更に慣性力が下がり吐出弁の吐出弁溝内での往復運動の応答性を上げることができる。
また、応答性以外にも吐出弁の質量を変えることにより、移動する力を変えることができるため、開閉条件も調整することができる。
また、吐出弁が吐出弁溝内を往復運動するため、吐出弁と吐出弁溝の少なくとも一方の表面に耐摩耗性のコーティングを施すことで、摩耗を低減し、摩耗粉等を生じにくく、圧縮機の寿命を向上させることができる。
【0066】
また、図2〜8では、吐出弁の往復運動の方向がほぼ円筒形状のローラ外周面の法線方向となるように設けられた例にて説明してきたが、必ずしも、吐出弁の往復運動の方向はローラ外周面の法線方向でなくても構わない。例えば、吐出弁の往復運動の方向はほぼ円筒形状のシリンダ内周面11aの法線方向すなわちシリンダ室12の中心を向いていても構わない。吐出弁の往復運動の方向を変えることによって、シリンダ室から吐出弁溝の方向に働く合力の成分比を変えることができる。すなわち、作動室側から働く力と吐出孔側から働く力の合力の比率を調整することができ、吐出弁の開閉条件を調整することができる。
【0067】
実施の形態2.
実施の形態1では、吐出弁を円柱形状のものとし、シリンダの外面から吐出弁背圧流路を介して吐出弁溝に高圧空間の高圧冷媒を導き、吐出弁を吐出弁溝から押し出し作動室と吐出孔とを連通し作動室から吐出孔へ向かって冷媒が流れる吐出流路を閉鎖していた。しかし、吐出弁を吐出弁溝からシリンダ室側へ押し出す力は吐出弁背圧流路から導かれる高圧空間の冷媒圧力に依存している。高圧空間の冷媒圧力が十分に高圧となっていないと、吐出弁溝からシリンダ室側へ押し出す力も十分ではない場合がある。そこで、吐出弁溝内に付勢手段であるスプリングを配置し、吐出弁溝を押し出す力を補った例を実施の形態2として説明する。
【0068】
図9は、図2と同様、図1の圧縮機100の圧縮要素部をD−D線で切断した横断面図である。図9において、図2と同一符号で示すものは、図2と同一あるいは同様の部品である。図10は、図9の吐出弁25bと吐出孔20の周辺すなわちB周辺を拡大したものであり、図10にて詳細を説明していく。
【0069】
図10では、図2、3と同様に、吐出弁溝21bは、シリンダ11に設けられたシリンダ室12の軸方向に貫通する溝であり、シリンダ室12に開口した吐出弁溝開口部23bを有する。吐出弁溝開口部23bもシリンダ内周面11aの軸方向全長渡って形成されている。吐出弁溝開口部23bには、吐出弁溝受部24bが設けられている。吐出弁溝21bには図11のような軸方向の長さは吐出弁溝21とほぼ同じで全体がほぼ直方体形状の吐出弁25bが、往復運動自在に挿入されており、吐出弁25bは、吐出弁溝開口部23b側へ押し出されたとき、吐出弁25bの一部をシリンダ室12に突き出す状態で吐出弁溝受部24bに係止される。
吐出弁25b及び吐出弁溝21bは、吐出弁25bの往復運動の方向がほぼ円筒形状のローラ外周面15aの法線方向すなわちローラ15の中心であるシャフト2に向かうように設けられている。なお、吐出弁25bの往復運動の方向がほぼ円筒形状のシリンダ内周面11aの法線方向すなわちシリンダ11の中心に向かうように、吐出弁25bと吐出弁溝21bが設けられていても構わない。
また、吐出弁溝21bの配置も図2、3と同様であり、吐出孔20の近傍であって、作動室12bと吐出孔20とを連通し作動室12bから吐出孔20へ向かって冷媒が流れる吐出流路のシリンダ11に配置されている。すなわち、吐出弁溝21bは、吐出孔20に対して最近接点(ウ)が配置されている側と反対側に配置されている。
【0070】
シリンダ室12に押し出された吐出弁25bは、吐出弁25bの外周面とほぼ円筒形状のローラ外周面15aとでシリンダ室12を仕切る。ただし、吐出弁25の外周面とローラ外周面15aとは接触せず、微小隙間が形成され、圧縮要素10に供給されている冷凍機油3によってシールされ塞がれる。これによって、吐出弁25bの外周面とローラ外周面15aとでシリンダ室12を仕切ることができる。なお、吐出弁25bの軸方向の長さもシリンダ11あるいはローラ15の軸方向の長さとほぼ同じ長さであり、吐出弁溝21bと吐出弁溝開口部23bもシリンダ11の軸方向の全長に渡って形成されている。
【0071】
吐出弁溝21bには吐出弁背圧流路22bが設けられており、シリンダ11の外部にある密閉容器1内の高圧空間と吐出弁溝21bとを連通している。吐出弁背圧流路22bは、吐出弁溝21bに高圧空間の高圧冷媒を導き、導かれた高圧冷媒は吐出弁25bをシリンダ室12内へ押し出すように作用する。押し出された吐出弁25bはシリンダ室12内の作動室12bから吐出孔20へ向かい冷媒が流れる吐出流路を閉鎖する。
なお、作動室12bの冷媒圧力が、所定の圧力となったとき、吐出弁25bが吐出弁溝21bに押し戻され、作動室12bから吐出孔20へ向かい冷媒が流れる吐出流路を開く。
【0072】
吐出弁25bは、図11に示すように、全体がほぼ直方体形状であり、吐出弁溝開口部23bから押し出されるローラ外周面15a側の面すなわち吐出弁25bの先端が半円柱形状となっている。
なお、先端は半円柱形状ではなく、直方体の角部すなわち面と面との接続部にRを設けた形状であっても構わない。先端が半円柱形状の場合、吐出弁25bの半円柱形状外周面とほぼ円筒形状のローラ外周面15aとは、径方向では1点、軸方向では線上の最接近ポイントにて流路を閉鎖する。直方体形状では、最近接ポイントが面にて形成され、より広い範囲で漏れなく流路を閉鎖できる。
また、吐出弁25bの押し出される先端部分の反対側と吐出弁溝21bとの間には付勢手段であるスプリング26が設けられている。スプリング26の端面の一方は、吐出弁溝21bの吐出弁溝開口部23bと反対側の面に接し、他方は吐出弁25bの吐出弁溝開口部23bから押し出される側と反対側の面に接している。スプリング26の端面それぞれは吐出弁溝21b、吐出弁25bに必ずしも固定されている必要はない。また、スプリング26の力を十分に伝達させるためには、吐出弁溝21bおよび吐出弁25bのスプリング26が接する箇所は、平面となっていることが望ましい。また、ほぼ直方体形状の吐出弁25bを押し出すため、スプリング26は複数設けても構わない。複数設け吐出弁25bの両端側を押圧し、吐出弁溝21bを平行に移動させることができる。
このような構成にて、スプリング26は、吐出弁25bを吐出弁溝開口部23bからシリンダ室12に押し出す作用を補っている。
【0073】
次に動作について説明する。圧縮機全体の動作や圧縮機の吸入から吐出までの工程動作はほぼ同じである。作動室に冷媒を吸入後、作動室内の冷媒を圧縮中の工程である図6(a)の作動室12bの状態から説明する。実施の形態1同様、所定の圧力すなわち吐出圧となり、吐出弁25bが動作する工程である。なお、同様に、図12、13にて説明する。
【0074】
図12は、図7同様、吐出弁25bが作動室12bと吐出孔20とを仕切り、作動室12bから吐出孔20へ向かい流れる吐出流路を閉鎖した状態である。図12は、図8同様、作動室12bと吐出孔20とが連通し、作動室12bから吐出孔20へ向かい流れる吐出流路が開口された状態である。
図12、13にて、吐出弁25bに働く外力と開閉動作について説明する。図中では、吐出弁25が往復運動の方向すなわち吐出弁溝21bからローラ15の中心(ア)(シャフト2の中心)に向かう方向をX軸としている。また、吐出弁25bに働く力F1x、F2x、F3xは、図7、8と同じである。これらに加えて、吐出弁25bには、スプリング26によって吐出弁溝21b側からシリンダ室12側へ押すX軸方向の力F5xが働いている。
【0075】
図7、8同様、吐出弁25bが吐出弁溝21b内をどちらの方向に移動するかは、吐出弁25bをX軸方向に押す力F1xとF5xとの合力および吐出弁25bを逆方向に押す力F2xとF3xとの合力で決まる。
吐出弁25bをX軸方向に押す力F1xとF5xとの合力がF1xとF5xとの合力と逆方向に押す力F2xとF3xの合力より大きい場合、すなわち、(F1x+F5x)>(F2x+F3x)の場合、吐出弁25bは吐出弁溝開口部23bにある吐出弁溝受部24bに押圧されローラ15の外周面と吐出弁25bの外周面とで作動室12bと吐出孔20とを仕切り、作動室12bから吐出孔20へ向かい流れる吐出流路を閉鎖する。
【0076】
ローラ15が回転し図13の状態に進むと、作動室12b内の冷媒の圧縮が進み、冷媒圧力が上昇する。作動室12b内の冷媒圧力が所定の圧力まで達し、F2xとF3xの合力がF1xとF5xとの合力より大きくなった場合、すなわち、(F1x+F5x)<(F2x+F3x)の場合、吐出弁25bは吐出弁溝21bの中に押し戻され、吐出弁25bとローラ外周面15aとの間に流路が形成され、作動室12bと吐出孔20とが連通する。作動室12bと吐出孔20とが連通することによって、作動室12b内の圧縮された高圧冷媒が、吐出孔20を介して吐出される。
【0077】
さらにローラ15が回転し図6(f)のようにベーン16bが吐出弁25bの位置を通過し作動室12bが消失すると、作動室12bから冷媒の吐出が終了する。また、吐出弁25bには、圧縮開始状態の作動室12aが接し、Fx2の力が小さくなるので、吐出弁25bはシリンダ室12側に押し出され、再び作動室から吐出孔20へ向かい流れる吐出流路を閉鎖する。
【0078】
以上のような工程で、吐出弁25bが作動室12bから吐出孔20へ向かい流れる吐出流路を開閉することで、圧縮要素10は吐出動作を行っている。そして、圧縮機100は、圧縮要素10にて吸入、圧縮、吐出の工程を繰り返し、冷媒回路中に冷媒を循環させていく。
【0079】
本実施の形態も実施の形態1同様、作動室12bから吐出孔20へ向かい流れる吐出流路上に吐出弁25bを設けることにより、吐出動作終了後、吐出孔20がデッドボリュームとなることを防止できる。これにより、吐出孔25と次に吐出動作を行う作動室12bとの流路を閉鎖し、吐出孔20から作動室12bへの高圧冷媒の逆流を防止できる。そして、そのとき発生する再膨張損失を防ぎ、入力増加による効率低下を抑制できる。
また、吐出孔20は常に高圧空間と連通し、吐出孔内に高圧空間に吐出できない高圧冷媒が残留することを防止できる。
【0080】
一方、実施の形態1のような構成の場合、吐出弁を吐出弁溝からシリンダ室へ押し出す力は吐出弁背圧流路から導かれる高圧空間の冷媒圧力に依存している。圧縮機の始動時のように高圧空間の冷媒圧力が十分に高圧となっていないとき、高圧空間から導かれる冷媒が吐出弁を吐出弁溝からシリンダ室へ押し出す力も十分ではない場合がある。押し出す力が十分ではない場合、作動室から吐出孔へ向かい流れる吐出流路を十分に閉鎖することはできず、高圧空間から吐出孔を介して作動室へ冷媒が流れ込み再膨張損失となる。
これに対して、実施の形態2では吐出弁溝21b内に付勢手段であるスプリング26を設け、高圧空間の冷媒圧力が十分に高圧となっていない場合であっても、スプリング26の力で、吐出弁25bをシリンダ室12へ押し出すことができる。これによって、高圧空間の冷媒圧力が十分に高圧となっていない場合でも、作動室12bから吐出孔20へ向かい流れる吐出流路を確実に閉鎖することができ、再膨張損失による効率の低下を防止することができる。
【0081】
なお、高圧空間の冷媒圧力が不十分であることは圧縮機始動時以外にも、圧縮機の電動要素40を外部電源に周波数変換装置を使用し、可変速で制御している場合などでも発生する。周波数変換装置は、印加する電圧の周波数と電圧値を可変させ、圧縮機の電動要素40を、例えば0回転/秒から200回転/秒程度まで可変させることが可能である。圧縮機を低速に回転させることにより冷媒回路の冷媒循環量を減少させ冷凍能力を抑制したり、高速に回転させることにより冷媒回路の冷媒循環量を増加させ冷凍能力を拡大させたりする。特に、省エネ化が進んでいるが家庭用の製品の場合、ブラシレスDCモータを使用するケースが多く、商用電源では駆動できないブラシレスDCモータには周波数変換装置すなわちインバータが必須であり、このような冷媒循環量の制御も当然のように行っている。これに対して、圧縮機の電動要素40を20回転/秒以下程度の低速回転で運転した場合、高圧空間へ高圧冷媒を送り出す速度が遅いので高圧空間の冷媒圧力が十分に高圧とならない。そのような場合でも、スプリング26の補助力にて作動室12bから吐出孔20へ向かい流れる吐出流路を確実に閉鎖することができる。
【0082】
以上のように、吐出孔近傍の吐出孔上流すなわち作動室から吐出孔へ向かい冷媒が流れる吐出流路上に吐出弁を配置し、この吐出流路を開閉することで、吐出孔の内容積に残った高圧冷媒が作動室に逆流し、逆流した冷媒が再膨張・再圧縮され、再膨張損失による圧縮機入力が増加し、効率が低下することを抑制した圧縮機を得ることができる。
また、吐出動作終了後、吐出孔内に高圧空間へ吐出できない高圧冷媒が残留することも回避でき、体積効率の悪化を防止できる。
さらに、高圧空間の冷媒圧力が十分に高圧となっていない場合でも、吐出弁に設けた付勢手段によって、作動室から吐出孔へ向かい冷媒が流れる吐出流路を確実に閉鎖することができ、再膨張損失による効率の低下を防止することができる。
【0083】
また、従来のデッドボリューム対策では、吐出孔内に吐出弁が設けられていたので、吐出弁を開いた場合、吐出弁が流路を流れる冷媒に干渉し流路抵抗を悪化させていたが、本実施の形態では吐出弁はシリンダ側に設けられた吐出弁溝に押し戻され開くので、吐出弁に付勢手段を設けたとしても作動室から高圧空間へ吐出される高圧冷媒を妨げるものはなく、吐出動作時の大きな圧力損失を改善することができる。
【0084】
また、ベーンは、作動室からベーンにかかる力が小さい、動作圧力の低い冷媒が好ましく、吐出弁溝受部も比較的薄肉形状となるため、吐出弁溝受部にかかる力も小さい方が好ましいため、動作圧力の低い冷媒の方が好適である。例えば、標準沸点が−45℃以上の冷媒が好適であり、R600a(イソブタン)、R600(ブタン)、R290(プロパン)、R134a、R152a、R161、R407C、R1234yf、R1234ze等の冷媒であれば、吐出弁に付勢手段を設けたとしてもベーンや吐出弁溝受部に強度的な問題は無く使用できる。
【0085】
また、ベーンは1個以上あれば作動室を形成できるとともに、複数のベーンを備えれば複数の作動室に仕切ることができる。したがって、圧縮要素部を大型化することなく作動室を増し、省スペースにて押しのけ量を増加させることができる。
【0086】
よって、動作圧力の低い冷媒を用いても、省スペースにて押しのけ量を増加させることができる圧縮機を得ることができる。
【0087】
また、付勢手段を設けることにより、吐出弁の吐出弁溝内での往復運動の応答性はさらに向上し、吐出動作終了後の流路閉鎖を動作遅れなく行うことができる。これにより、吐出弁の動作遅れにより発生する高圧空間から作動室へ逆流する高圧冷媒も抑制することができ、従来のデットボリューム対策で必要であった吐出孔のシリンダ外面側に別の吐出弁は不要となる。よって、吐出弁を2箇所設置する必要もなく、省スペースで安価な圧縮要素部を有する圧縮機を構成することができる。
【0088】
また、吐出弁は、アルミニウム、チタン等の軽金属材料、またはアルミニウム基合金、チタン基合金の合金材料を使用すれば、一層軽量となるため、更に慣性力が下がり吐出弁の吐出弁溝内での往復運動の応答性を上げることができる。
また、応答性以外にも吐出弁の質量を変えることにより、開閉条件も調整することができる。
また、吐出弁が吐出弁溝内を往復運動するため、吐出弁と吐出弁溝の少なくとも一方の表面に耐摩耗性のコーティングを施すことで、摩耗を低減し、摩耗粉等を生じにくく、圧縮機の寿命を向上させることができる。
【0089】
また、吐出弁の往復運動の方向を変え、吐出弁の開閉条件を調整することも可能である。図9〜13では吐出弁25bの往復運動の方向がほぼ円筒形状のローラ外周面15aの法線方向あるいはほぼ円筒形状のシリンダ内周面11aの法線方向であったが、図14は吐出弁25bの往復運動の方向をローラ外周面15aあるいはシリンダ内周面11aの法線方向以外に向けたもの、すなわち、ローラ外周面15aあるいはシリンダ内周面11aの法線方向に対して周方向に一定の傾きを持たせたものである。また、図15は図14のC周辺を拡大した拡大図である。
【0090】
図15において、吐出弁25bが往復運動する方向をY軸とする。そして、吐出弁背圧流路22bから導かれた高圧冷媒によって吐出弁溝21b側からシリンダ室12側へ吐出弁25bを押すY軸方向の力をF1yとする。
また、スプリング26によって吐出弁溝21b側からシリンダ室12側へ押すY軸方向の力をF5yとする。
また、吐出弁25bに作動室12b側から働く力をF2zのうち、吐出弁25bをシリンダ室12側から吐出弁溝21b側へ押すY軸方向の力をF2yとする。
また同様に、吐出弁25bに吐出孔20側から働く力をF3zのうち、吐出弁25bをシリンダ室12側から吐出弁溝21側へ押すY軸方向の力をF3yとする。
図15でも、図12、13同様に、吐出弁25bが吐出弁溝21b内をどちらの方向に移動するかは、吐出弁25bをY軸方向に押す力F1yとF5yとの合力および吐出弁25bを逆方向に押す力F2yとF3yとの合力で決まり、(F1y+F5y)>(F2y+F3y)の場合、吐出弁25bは吐出流路を閉鎖し、(F1y+F5y)<(F2y+F3y)の場合、吐出弁25bは吐出流路を開口する。
【0091】
しかしながら、図15のように吐出弁25bが往復運動する方向をほぼ円筒形状のローラ外周面15aの法線方向に対して吐出孔20側に傾かせた場合、吐出弁25bをシリンダ室12側から吐出弁溝21b側へ押す力の合力はF2yの成分が大きくなり、作動室12b側から働く力すなわち作動室12bの冷媒圧力が主体となって、吐出弁を開閉させる。
【0092】
このように吐出弁25bの往復運動の方向をローラ外周面15aあるいはシリンダ内周面11aの法線方向に対して周方向に一定の傾きを持たる調整することによって、吐出弁を開閉させる高圧空間と作動室との冷媒の圧力条件をより柔軟に調整することもできる。
【0093】
また、吐出弁25bは、吐出弁25bの先端と反対側の面にスプリング26が当接される。そのスプリング26の当接面が平面であるため、吐出弁25bの当接される面も平面である方が吐出弁25bに応力を伝達し易い。したがって、吐出弁25bは直方体形状としてきた。しかしながら、吐出弁25bは吐出弁背圧流路22bからの高圧冷媒によって動かされ、スプリング26はその吐出弁25bの移動を補助するものである。そのため、スプリング26から吐出弁25bに加えられる力も、大きな力でなくても良いので、実施の形態1同様、吐出弁を円柱形状あるいは円筒形状として、スプリング26と吐出弁との当接面が面同士で無い状態であっても構わない。
【0094】
図16は、円柱形状の吐出弁25あるいは円筒形状の吐出弁25aを使用して、スプリング26にて押し出す力を補助している例である。図2、図9と同様の部品は同じ符号で表している。吐出弁溝21b内には、円柱形状の吐出弁25あるいは円筒形状の吐出弁25aが収納されており、吐出弁溝21bの吐出弁溝開口部23bと反対側にはスプリング26が収納され、スプリング26によって吐出弁25あるいは25aが吐出弁溝開口部23bに押す構成である。吐出弁溝21bには、吐出弁背圧流路22bが連通しており、高圧空間の高圧冷媒が吐出弁背圧流路22bを介して流入し吐出弁25あるいは25aを吐出弁溝開口部23b側に押す。これによって、吐出弁溝開口部23bから吐出弁25の一部がシリンダ室12に押し出されるが、流入する高圧冷媒の圧力が十分でない場合には、スプリング26が吐出弁25あるいは25aを押す力を補助する。
【0095】
これによって、図9と同様に高圧空間の冷媒圧力が十分に高圧となっていない場合でも作動室から吐出孔へ向かい冷媒が流れる吐出流路を確実に閉鎖できる効果が得られると同時に、スプリング26と吐出弁25あるいは25aとはわずかな接触面積で接触することで、図2同様、回動自在に設けられた状態となる。したがって、吐出弁25あるいは25aがベーン16a、16bと接触しても回動して摩擦が減少する効果が得られ、摺動損失の少ない圧縮機が得られる。
【0096】
また、図16の場合、図14同様、図17のように吐出弁25あるいは25a及び吐出弁溝21bを設ける方向すなわち吐出弁25あるいは25aの往復運動の方向をほぼ円筒形状のローラ外周面15aの法線方向に対して周方向に一定の傾きを持たせて設けることも可能である。これによって、吐出弁を開閉させる高圧空間と作動室との冷媒の圧力条件も柔軟に調整できる。
【0097】
また、吐出弁25あるいは25bが吐出弁溝開口部23bからシリンダ室12に押し出されるときには、吐出弁背圧流路22bからの高圧冷媒の圧力でも押し出されているので、必ずしもスプリング26は吐出弁25あるいは25bに当接されていなくとも構わない。
【0098】
例えば、吐出弁溝21bの吐出弁溝開口部23bと反対面にスプリング26の端面の一方が固定され、他方は、吐出弁25あるいは25bが吐出弁溝21b内に押し戻されたときには吐出弁25あるいは25bと接し、吐出弁25あるいは25bの一部がシリンダ室12に所定量以上押し出されたときには吐出弁25あるいは25bから離れスプリング26の付勢力が零になるようにする。すなわち、吐出弁25あるいは25bの一部がシリンダ室12に押し出され、作動室12bから吐出孔20へ向かい冷媒が流れる吐出流路の吐出弁溝開口部23b近傍の流路断面積を半分以上閉鎖すると、スプリング26は吐出弁25あるいは25bから離れスプリング26の付勢力が無くなる構成とした場合でも、吐出弁25あるいは25bは吐出流路を閉鎖することが可能である。スプリング26が所定量以上、吐出弁25あるいは25bを押し出す補助を行えば、吐出弁背圧流路22bからの高圧冷媒の圧力で、吐出弁25あるいは25bを押し出すことができるためである。なお、吐出流路の流路断面積とは、シリンダ内周面11aとローラ外周面15aとの間の空間をシャフト2の中心あるいはシリンダ11の中心を通る面で切断した時の断面の面積である。
【0099】
このように構成することによって、高圧空間の冷媒圧力が十分に高圧となっていない場合でも作動室から吐出孔へ向かい冷媒が流れる吐出流路を閉鎖することができるとともに、吐出弁25あるいは25bが吐出弁溝受部24bに押圧されるとき、スプリング26の力が加えられないため、吐出弁溝受部24bに余分な強度を持たせる必要がなくなり、より信頼性の高い圧縮機が得られる。
【0100】
また、吐出弁が円柱形状あるいは円筒形状の場合、スプリング26の端面と吐出弁25が接触することがなく、吐出弁25はより自由に回動することができ、摩擦、摺動損失が少ない効率の高い圧縮機が得られる。
【0101】
実施の形態3.
実施の形態1、2では、ベーンがシリンダの内周面に当接されながら移動する接触方式のベーンロータリ圧縮機において、作動室と吐出孔とを連通し作動室から吐出孔へ向かって冷媒が流れる吐出流路上に吐出弁を設けたものについて説明した。これに対し、ベーンロータリ圧縮機の仕組みには、ベーンがシリンダの内周面に当接されず、所定の距離を置いて移動する非接触方式のものもある。そのようなベーンロータリ圧縮機でも、実施の形態1、2と同様、作動室から吐出孔へ向かい冷媒が流れる吐出流路上に吐出弁を設け吐出孔の内容積がデットボリュームとなることを防ぐこともできる。
図18、19にてベーンがシリンダの内周面に当接されない場合のベーンロータリ圧縮機について説明していく。
【0102】
図18は、図1の圧縮機100の圧縮要素部を組み立てた場合の組み立て図である。図19は、圧縮要素部を組み立てた後の断面図である。なお、図2、図9と同一符号で示すものは、図2、図9と同一あるいは同様の部品である。
圧縮要素10aは、図2、図9と同様に、ほぼ円筒形状の内周面を有するシリンダ11と、シリンダ11のほぼ円筒形状内周面の軸方向の両端開口部を閉塞する上軸受13および下軸受14と、上軸受13および下軸受14によって支持されるシャフト2と、シャフト2に設けられたローラ15と、ローラ15に設けられたベーン16c、16dによって構成されている。シリンダ11のほぼ円筒形状内周面と上軸受13および下軸受14とによってほぼ円筒形状のシリンダ室12が形成されるとともに、ローラ15がシリンダ室12に収納されていることは、図2、図9と同じである。さらに、シリンダ11、上軸受13、下軸受14、ローラ15、ベーン16c、16dによって、シリンダ室12内に作動室を形成することも同じである。
【0103】
上軸受13および下軸受14は、断面がほぼT字状で、シリンダ11に接する部分はほぼ円板状である。
上軸受13のシリンダ11側の端面には、シリンダ11の内径と同心であるリング溝状のベーンアライナ保持部(図示しない)が形成されている。ベーンアライナ保持部には後述するベーンアライナ27a、27cが勘入される。また、上軸受13の中央部は図2、9と同様に円筒状の軸受部が設けられており、この軸受部にてシャフト2の回転軸部2aを回転自在に支持する。
同様に、下軸受14のシリンダ11側の端面には、シリンダ11の内径と同心であるリング溝状のベーンアライナ保持部28が形成されている。ベーンアライナ保持部28には後述するベーンアライナ27b、27dが勘入される。また、下軸受14の中央部は図2、9と同様に円筒状の軸受部が設けられており、この軸受部にてシャフト2の回転軸部2bを回転自在に支持する。
なお、上軸受13、下軸受14はボルトにてシリンダ11に固定されている。
【0104】
シャフト2には、図2、図9と同様に、ローラ15がシャフト2の中心軸と同軸軸上に嵌合もしくは一体成形され設けられている。
【0105】
また、図19に示すように、図2、図9と同様、シリンダ室12に収納されるローラ15の回転の中心(ア)は、ほぼ円筒形状のシリンダ室12の中心(イ)から偏心した位置に設けられ、ローラ15のほぼ円筒形状の外周面15aとシリンダ内周面11aとが最近接点(ウ)を有している。そして、シャフト2によってローラ15は回転摺動させられる。なお、最近接点(ウ)では、ローラ外周面15aとシリンダ内周面11aとは接触せず、その互いの距離を保ち微小隙間を形成しているが、微小隙間は圧縮要素10aに供給される冷凍機油3によってシールされ塞がれている。なお、ローラ外周面15aとシリンダ内周面11aは、シリンダ室12およびシリンダ室12内に形成される作動室を構成する。
【0106】
ローラ15には、図18のように断面がほぼ円形で軸方向に貫通するブッシュ保持部29a、29bおよびベーン逃がし部30a、30bが形成されている。また、ブッシュ保持部29aとベーン逃がし部30aとは連通しており、ブッシュ保持部29bとベーン逃がし部30bとは連通している。また、図18のようにベーン16が2枚配置される場合は、ブッシュ保持部29aおよびベーン逃がし部30aと、ブッシュ保持部29bおよびベーン逃がし部30bと対称の位置に配置されている。
ブッシュ保持部29aとベーン逃がし部30aとが連通した空間にベーン16cが挿入され、ブッシュ保持部29bとベーン逃がし部30bとが連通した空間にベーン16dが挿入される。
【0107】
ベーン16c、16dは、ほぼ直方体の板状であり、シリンダ11の内周面側に位置するベーン先端部は外側に円弧形状に形成され、その円弧形状の半径は、シリンダ内周面11aの半径すなわちシリンダ室12の半径とほぼ同等の半径で構成されている。ベーン16c、16dのシリンダ内周面11a側となる部分と反対側には、部分リング形状のベーンアライナ27a〜27dが設けられている。ベーンアライナ27a〜27dはベーン16c、16dと一体成形されたものでも、溶接や接着、嵌合されたものであっても構わない。
【0108】
31a〜31dは、ほぼ半円柱状のブッシュであり、31aと32b、31cと32d、の一対で構成される。ブッシュ31a〜31dは、ローラ15のブッシュ保持部29a、29bに勘入され、ブッシュ31a、32bの内側に板状のベーン16cが、ブッシュ31c、32dの内側に板状のベーン16dが、ローラ15に対して回動自在かつほぼ法線方向に往復移動可能に保持される。
【0109】
なお、ベーンアライナ27aは、ベーン16cのシリンダ内周面11a側と反対側の端部の上軸受13側の面に設けられ、ベーンアライナ27bは、ベーン16cのシリンダ内周面11a側と反対側の端部の下軸受14側の面に設けられている。ベーンアライナ27cは、ベーン16dのシリンダ内周面11a側と反対側の端部の上軸受13側の面に設けられ、ベーンアライナ27dは、ベーン16dのシリンダ内周面11a側と反対側の端部の下軸受14側の面に設けられている。これによって、ローラ15のブッシュ保持部29aとベーン逃がし部30aとが連通した空間およびブッシュ保持部29bとベーン逃がし部30bとが連通した空間にベーン16c、16dを挿入したとき、ローラ15の上軸受13および下軸受14側の端面にベーンアライナ27a〜27dが突き出た形状となり、上軸受13および下軸受14のベーンアライナ保持部(28のみ図示)に回動可能に嵌合される。
【0110】
このような構成により、ベーン16c、16dはシリンダ内周面11aの内径と同心のベーンアライナ保持部とベーンアライナ27a〜27dとに規制され、ローラ15の回転とともに、ベーン16c、16dはシリンダ室12の中心軸を中心に回転運動が行われる。すなわち、ベーン16c、16dの先端がシリンダ内周面11aに沿って移動する。
【0111】
また、ベーン16c、16dは、ベーンアライナ27a〜27dとベーンアライナ保持部により、シリンダ内周面11aの法線方向に規制され、シリンダ室12の中心軸からベーン16c、16dのシリンダ外周面11a側に位置するベーン16c、16dの先端までの距離はシリンダ室12の半径より短くなるように、ベーン16c、16dの径方向の長さは設けられている。
よって、ベーン16c、16dの先端とシリンダ内周面11aとは接触せず、所定の距離を保ちながら回動する。すなわち、ベーン16c、16dの先端とシリンダ内周面11aとの間には微小隙間が形成される。微小隙間は圧縮要素10aに供給されている冷凍機油3によってシールされ塞がれているため、ベーン16c、16dはシリンダ室12を仕切ることができる。ベーン16c、16dの先端面はシリンダ内周面11aに対しほぼ同じ角度で移動するので、ベーン16c、16dの先端面とシリンダ内周面11aとは広い面同士にて微小隙間を形成されるため、冷凍機油3によるシールがさらに容易である。
【0112】
一方、ローラ15はシリンダ室12内で偏心した位置で回転しているため、ベーン16c、16dは、シリンダ内周面11aに向く方向によっては、ローラ15のブッシュ保持部29aとベーン逃がし部30aとが連通した空間およびブッシュ保持部29bとベーン逃がし部30bとが連通した空間から突き出したり、収納されたりしながら、移動している。すなわち、ブッシュ保持部29aとベーン逃がし部30aとが連通した空間およびブッシュ保持部29bとベーン逃がし部30bとが連通した空間内で往復摺動することになる。
【0113】
なお、ベーン16c、16dは、ローラ15のブッシュ保持部29aとベーン逃がし部30aとが連通した空間およびブッシュ保持部29bとベーン逃がし部30bとが連通した空間と、ベーンアライナ27a〜27dおよびベーンアライナ保持部によって、シリンダ室12内での位置と方向が決められるので、実施の形態1、2のようにベーン背圧空間によって、ベーン溝からベーンを押し出す構造は有していない。よって、背圧調整機構やベーン背圧流路などもない。
【0114】
次に、図19にて、吐出弁25周辺の説明を行っていく。
なお、図19において、図2、9同様、ベーン16c、16dがシリンダ内周面11aと接触する位置は、ほぼ円筒形状のローラ外周面15aとほぼ円筒形状のシリンダ内周面11aとの最近接点を0degとし、時計回りに1周360degとして、ベーン16cが接触するシリンダ内周面11aの位置は0deg、ベーン16dが接触するシリンダ内周面11aの位置は180degである。0deg近傍のときは、ベーン16c全体がローラ15に収納された状態となり、180deg近傍にあるベーン16dは、ベーン16bがローラ15から最大に突き出された状態である。
【0115】
また、吸入孔19および吐出孔20は、図2、9同様、ローラ外周面15aとシリンダ内周面11aとの最近接点を挟んで設けられている。
また、吸入孔19のシリンダ内周面11a側開口部には、その開口部とつながったシリンダ内吸入空間19aが設けているが、図2、9と異なり、シリンダ11の軸方向に貫通した空間である。ベーン16c、16dはシリンダ内周面11aに接触する構造ではないので、図2、9のようにシリンダ内吸入空間19aとシリンダ室12の間にシリンダ内周面が存在しなくても動作に支障はない。
【0116】
シリンダ11には、図2と同様、断面がほぼ円形状でシリンダ室12の軸方向に貫通するほぼ円筒形状の吐出弁溝21と、シリンダ11の外の高圧空間から吐出弁溝21へ連通させる吐出弁背圧流路22が設けられており、吐出弁溝21には、吐出弁溝21より若干小さいほぼ円柱形状の吐出弁25が回動および往復運動自在に収納されている。吐出弁溝21には、シリンダ室12に開口した吐出弁溝開口部23がシリンダ内周面11aの軸方向全長渡って設けられている。また、吐出弁溝21は、作動室12bと吐出孔20とを連通し作動室12bから吐出孔20へ向かって冷媒が流れる吐出流路のシリンダ11に配置されている。吐出弁背圧流路22から流入する高圧空間の高圧冷媒によって、吐出弁溝21の吐出弁25は吐出弁溝開口部23側へ押し出され、吐出弁溝開口部23に設けられた吐出弁溝受部24に吐出弁25の一部をシリンダ室12に突き出した状態で係止される。
なお、吐出弁25と吐出弁溝21は、吐出弁25の往復運動の方向がほぼ円筒形状のローラ外周面15aの法線方向あるいはほぼ円筒形状のシリンダ内周面11aの法線方向に設けられている。
【0117】
シリンダ室12に押し出された吐出弁25は、吐出弁25の外周面とローラ外周面15aとでシリンダ室12を仕切る。ただし、吐出弁25の外周面とローラ外周面15aとは接触せず、所定の距離を保ち、吐出弁25の外周面とローラ外周面15aとの間には微小隙間が形成される。微小隙間は圧縮要素10aに供給されている冷凍機油3によってシールされ塞がれているため、吐出弁25の外周面とローラ外周面15aとでシリンダ室12を仕切ることができる。
【0118】
このような構成で、実施の形態1同様、吐出弁背圧流路22によって導かれた高圧冷媒によって、吐出弁25をシリンダ室12内へ押し出し、シリンダ室12内の作動室12bから吐出孔20へ向かい冷媒が流れる吐出流路を閉鎖する。また、作動室12bの冷媒圧力が所定の圧力となったとき、吐出弁25が吐出弁溝21に押し戻され、作動室12bから吐出孔20へ向かい冷媒が流れる吐出流路を開口する。
【0119】
次に動作について説明する。図20は、この圧縮要素10aの吸入から吐出までの工程を表したものである。
【0120】
図20(a)は、吸入孔19側にある作動室12aは、吸入孔19と連通し、冷媒を吸入している工程である。なお、このときの作動室12aは、シリンダ内周面11aと、ローラ外周面15aと、ベーン16dと、ローラ外周面15aとシリンダ内周面11aとの最近接点とで仕切られ形成されている。
図20(b)は、図20(a)からローラ15が時計回りに回転した状態である。ベーン16cは、シリンダ内周面11aと所定の距離を持って移動しているので、吸入孔19から離れた位置を移動している。よって、ベーン16cの位置に関わらず、作動室12aはシリンダ内吸入空間19aを介して吸入孔19と連通したままであり、吸入動作が継続されている。
図20(c)は、ローラ15が約90deg回転し、ベーン16cによって作動室12aとシリンダ内吸入空間19aとが閉鎖された状態である。すなわち、作動室12aがシリンダ内周面11aとローラ外周面15aとベーン16c、16dとで形成されている状態である。よって、作動室12aと吸入孔19と連通が終了し、吸入動作の工程が終了する。また、この状態以降から、圧縮動作の工程が開始される。
図20(d)はベーン16dが吐出弁25と接した状態で、図20(a)はベーン16dが吐出弁25の吐出孔20側へ移動した状態である。なお、これ以降、図20(d)で作動室12aと指示していたものは、図20(a)では、作動室12bとなり、ベーン16dと指示していたものはベーン16c、ベーン16cと指示していたものはベーン16d、となるので、これを用いて説明を行っていく。
ベーン16cが吐出弁25の吐出孔20側へ移動したことにより、作動室12bはシリンダ内周面11aとローラ外周面15aとベーン16dと吐出弁25とで形成される。そして、このまま、図20(b)、(c)と進むことによって、作動室12bは圧縮を進め、吐出弁25が開いて、吐出動作になる。
【0121】
吐出弁25の開閉動作については、実施の形態1と同じで、吐出弁にかかる外力によって、開閉する。すなわち、吐出弁背圧流路22から導かれた高圧冷媒によって吐出弁溝21側からシリンダ室12側へ吐出弁25を押す力F1xと、吐出弁25をシリンダ室12側から吐出弁溝21側へ押すF2xと、吐出弁25をシリンダ室12側から吐出弁溝21側へ押す力をF3xによって、開閉される。すなわち、F1x>(F2x+F3x)の場合、作動室12bから吐出孔20へ向かい冷媒が流れる吐出流路を閉鎖し、F1x<(F2x+F3x)の場合、作動室12bから吐出孔20へ向かい冷媒が流れる吐出流路を開口する。
【0122】
以上のような工程で、吐出弁25が作動室12bから吐出孔20へ向かい冷媒が流れる吐出流路を開閉することで、圧縮要素10aは吐出動作を行い、圧縮機100は、圧縮要素10aにて吸入、圧縮、吐出の工程を繰り返し、冷媒回路中に冷媒を循環させていく。
そして、実施の形態1同様、作動室12bから吐出孔20へ向かい冷媒が流れる吐出流路上に吐出弁25を設けることにより、吐出動作終了後、吐出孔20がデッドボリュームとなることを防止できる。これにより、吐出孔20と次に吐出動作を行う作動室12bとの流路を閉鎖し、吐出孔20から作動室12bへの高圧冷媒の逆流を防止できる。そして、そのとき発生する再膨張損失を防ぎ、入力増加による効率低下を抑制できる。
また、吐出孔20は常に高圧空間と連通し、吐出孔20内に高圧空間に吐出できない高圧冷媒が残留することを防止できる。
【0123】
一方、実施の形態1では、ベーンはシリンダ内周面11aに当接するため、吐出弁25、吐出弁溝開口部23、吐出弁溝受部24に接触し摺動する。そのため、吐出弁溝受部24のような比較的薄肉形状となる部分にも外力を与え、強度上の考慮が必要になる。これに対して、ベーン16c、16dはシリンダ内周面11aと接触しない非接触方式のため、シリンダ11の内周面の一部である吐出弁溝開口部23、吐出弁溝受部24にも接触せず、薄肉形状部分の強度にも支障はない。例えば、吐出弁溝開口部23や吐出弁溝受部24をシリンダ内周面11aよりシリンダ11の外周側へ広げて、ベーン16c、16dが接触しない構造を設けるような必要はない。
また、吐出弁25もローラ15外周面15aと接触しない非接触方式であり、ベーン16c、16dが吐出弁25を通過する際、通過する速度などの条件によっては、ベーン16c、16dと吐出弁25は接触することなく通過することもできる。なお、お互いに接触したとしても、吐出弁は回動自在のため、摩擦抵抗も少なく、ベーン16c、16dと吐出弁25との摺動損失は少ない。
【0124】
以上のように、吐出孔近傍の吐出孔上流すなわち作動室から吐出孔へ向かい冷媒が流れる吐出流路上に吐出弁を配置し、この吐出流路を開閉することで、吐出孔の内容積に残った高圧冷媒が作動室に逆流し、逆流した冷媒が再膨張・再圧縮され、再膨張損失による圧縮機入力が増加し、効率が低下することを抑制した圧縮機を得ることができる。
また、吐出動作終了後、吐出孔内に高圧空間へ吐出できない高圧冷媒が残留することも回避でき、体積効率の悪化を防止できる。
さらに、ベーンおよび吐出弁を非接触方式とすることにより、ベーンと吐出弁の接触を回避できる。あるいは接触したとしても吐出弁の回動により摩擦抵抗を小さくし、シリンダ内周面の薄肉形状部分に支障を与えず、摺動損失が少ない圧縮機を得ることができる。
【0125】
また、従来のデッドボリューム対策では、吐出孔内に吐出弁が設けられていたので、吐出弁を開いた場合、吐出弁が流路を流れる冷媒に干渉し流路抵抗を悪化させていたが、本実施の形態では吐出弁はシリンダ側に設けられた吐出弁溝に押し戻され開くので、ベーンが非接触方式であっても作動室から高圧空間へ吐出される高圧冷媒を妨げるものはなく、吐出動作時の大きな圧力損失を改善することができる。
【0126】
また、ベーンは、作動室からベーンにかかる力が小さい、動作圧力の低い冷媒が好ましく、吐出弁溝受部も比較的薄肉形状となるため、吐出弁溝受部にかかる力も小さい方が好ましいため、動作圧力の低い冷媒の方が好適である。例えば、標準沸点が−45℃以上の冷媒が好適であり、R600a(イソブタン)、R600(ブタン)、R290(プロパン)、R134a、R152a、R161、R407C、R1234yf、R1234ze等の冷媒であれば、ベーンが非接触方式であったとしても強度的な問題は無く使用できる。
【0127】
また、ベーンは1個以上あれば作動室を形成できるとともに、複数のベーンを備えれば複数の作動室に仕切ることができる。したがって、圧縮要素部を大型化することなく作動室を増し、省スペースにて押しのけ量を増加させることができる。
【0128】
よって、動作圧力の低い冷媒を用いても、省スペースにて押しのけ量を増加させることができる圧縮機を得ることができる。
【0129】
また、吐出弁は、アルミニウム、チタン等の軽金属材料、またはアルミニウム基合金、チタン基合金の合金材料を使用すれば、一層軽量となるため、更に慣性力が下がり吐出弁の吐出弁溝内での往復運動の応答性を上げることができる。
また、応答性以外にも吐出弁の質量を変えることにより、開閉条件も調整することができる。
また、吐出弁が吐出弁溝内を往復運動するため、吐出弁と吐出弁溝の少なくとも一方の表面に耐摩耗性のコーティングを施すことで、摩耗を低減し、摩耗粉等を生じにくく、圧縮機の寿命を向上させることができる。
【0130】
また、従来のデットボリューム対策では、吐出弁の可動範囲の大きさから、吐出弁の動作遅れが生じていた。これに対し、吐出弁溝に対する吐出弁の可動範囲を狭くし、吐出弁溝内での往復運動の応答性を改善したので、吐出動作終了後の流路閉鎖を動作遅れなく行うことができるようになった。これにより、吐出弁の動作遅れにより発生する高圧空間から作動室へ逆流する高圧冷媒も抑制することができる。
よって、この吐出弁動作遅れに伴い、吐出孔のシリンダ外面側に別の吐出弁を設けていたが、別の吐出弁は不要であり、吐出弁を2箇所設置する必要もなく、省スペースで安価な圧縮要素部を有する圧縮機を構成することができる。
【0131】
また、図21のように、図18の形態に、実施の形態2同様、直方体形状の吐出弁25bと付勢手段であるスプリング26とを設けても構わない。付勢手段を設けることにより、高圧空間の冷媒圧力が十分に高圧となっていない場合でも、吐出流路を閉鎖することができる。さらに、付勢手段により、吐出弁の吐出弁溝内での往復運動の応答性はさらに向上し、吐出動作終了後の流路閉鎖を動作遅れなく行うことができる。
【0132】
また、図22のように、円柱形状あるいは円筒形状の吐出弁25にスプリング26を設けたものであっても構わない。これによって、高圧空間の冷媒圧力が十分に高圧となっていない場合でも、吐出流路を閉鎖することができるとともに、吐出弁25とスプリング26とはわずかな接触面積で接触している状態なので、吐出弁25は回動自在であり、吐出弁25がベーン16c、16dと接触しても回動して摩擦が減少する効果が得られる。
【0133】
また、吐出弁の往復運動の方向を変え、吐出弁の開閉条件を調整することも可能である。例えば、図23、24のように、吐出弁25あるいは25bの往復運動の方向をほぼ円筒形状のローラ外周面15aの法線方向に対して吐出孔20側に傾かせた場合、吐出弁25あるいは25bをシリンダ室12側から吐出弁溝21b側へ押す力の合力は作動室12b側の成分が大きくなり、作動室12b側から働く力すなわち作動室12bの冷媒圧力が主体となって、吐出弁25あるいは25bを開閉させることができる。すなわち、吐出弁25あるいは25bの往復運動の方向をローラ外周面15aあるいはシリンダ内周面11aの法線方向に対して周方向に一定の傾きを持たる調整することによって、吐出弁25あるいは25bを開閉させる高圧空間と作動室との冷媒の圧力条件をより柔軟に調整することもできる。
【0134】
また、図21〜24は、スプリング26と吐出弁25あるいは25bとが当接され、常に吐出弁溝開口部23あるいは23b側に押されている状態であったが、吐出弁25あるいは25bが吐出弁溝開口部23あるいは23bからシリンダ室12に押し出されるときには、スプリング26が必ずしも吐出弁25あるいは25bと接触していなくとも構わない。すなわち、当接されていなくとも良い。
すなわち、吐出弁溝21bの吐出弁溝開口部23あるいは23bと反対面にスプリング26の端面の一方が固定され、他方は吐出弁25あるいは25bが吐出弁溝21b内に押し戻されたときには吐出弁25あるいは25bと接し、吐出弁25あるいは25bの一部がシリンダ室12に所定量以上押し出されたときには吐出弁25あるいは25bから離れるように構成する。
これによって、高圧空間の冷媒圧力が十分に高圧となっていない場合でも作動室から吐出孔へ向かい冷媒が流れる吐出流路を閉鎖することができるとともに、吐出弁25あるいは25bが吐出弁溝受部24bに押圧されるとき、スプリング26の力が加えられないため、吐出弁溝受部24bに余分な強度を持たせる必要がなくなり、より信頼性の高い圧縮機が得られる。
また、吐出弁が円柱形状あるいは円筒形状の場合、スプリング26と吐出弁25が接触することがなく、吐出弁25はより自由に回動することができ、摩擦、摺動損失が少ない効率の高い圧縮機が得られる。
【符号の説明】
【0135】
1 密閉容器
1a 上部容器
1b 下部容器
2 シャフト
2a,2b 回転軸部
3 冷凍機油
4 吸入管
5 吐出管
10,10a 圧縮要素
11 シリンダ
11a シリンダ内周面
12 シリンダ室
12a,12b,12c 作動室
13 上軸受
14 下軸受
15 ローラ
15a ローラ外周面
16a,16b,16c,16d ベーン
17a,17b ベーン溝
18a,18b ベーン背圧室
19 吸入孔
19a シリンダ内吸入空間
19b シリンダ内周面
20 吐出孔
21,21b 吐出弁溝
22,22b 吐出弁背圧流路
23,23b 吐出弁溝開口部
24,24b 吐出弁溝受部
25,25a,25b 吐出弁
26 スプリング
27a,27b,27c,27d ベーンアライナ
28 ベーンアライナ保持部
29a,29b ブッシュ保持部
30a,30b ベーン逃がし部
31a,31b,31c,31d ブッシュ
40 電動要素
41 固定子
42 回転子
43 固定子鉄心
44 絶縁部材
45 コイル
46 リード線
47 ガラス端子
48 回転子鉄心
49 エアギャップ
100 圧縮機
101 アキュムレータ
201 凝縮器
202 減圧器
203 蒸発器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低圧空間から冷媒を吸入し、圧縮し、高圧空間へ吐出する圧縮要素を有したベーンロータリ圧縮機において、
前記圧縮要素は、
ほぼ円筒形状の内周面にて形成された内部空間を有するシリンダと、
前記内部空間に収納され前記内部空間内で回転運動を行うほぼ円筒形状の外周面を有するローラと、
前記ローラを有し前記ローラに回転力を伝達するシャフトと、
前記シャフトを支持し前記シリンダの前記内部空間の両端の開口部を閉塞する2つの軸受と、
前記ローラに設けられ前記ローラの前記外周面から前記シリンダの前記内周面に向かって突き出され前記ローラの前記外周面と前記シリンダの前記内周面と前記軸受けにて形成される空間を複数の作動室に仕切る板状のベーンと、
前記シリンダに設けられ前記低圧空間から前記作動室へ冷媒を吸入する吸入孔と、
前記シリンダに設けられ前記作動室から前記高圧空間へ冷媒を吐出する吐出孔と、
前記吐出孔が開口されるとともに前記ローラの前記外周面と前記シリンダの前記内周面と前記軸受けにて形成され前記作動室と連通する吐出流路と、
前記シリンダに設けられ前記吐出流路を形成する前記シリンダの前記内周面に開口部を有する吐出弁溝と、
前記吐出弁溝と前記高圧空間とを連通し前記高圧空間から高圧冷媒を導く吐出弁背圧流路と、
前記吐出弁溝に往復摺動自在に収納され、前記作動室内の冷媒圧力が前記高圧冷媒の圧力より小さいとき前記高圧冷媒にて前記吐出弁溝の前記開口部から前記ローラの前記外周面に向かって押し出され、前記作動室内の冷媒圧力が前記高圧冷媒の圧力より大きいとき前記作動室内の冷媒圧力にて前記吐出弁溝内に押し戻される吐出弁と、
を備え、
前記吐出流路を前記吐出弁溝の前記開口部から押し出された前記吐出弁の外周面と前記ローラの前記外周面とによって閉じ、前記吐出弁が前記吐出弁溝に押し戻されることによって開くことを特徴とするベーンロータリ圧縮機。
【請求項2】
前記吐出弁は、ほぼ円柱形状あるいはほぼ円筒形状であることを特徴とする請求項1に記載のベーンロータリ圧縮機。
【請求項3】
前記吐出弁は、前記吐出弁と前記吐出弁溝との間に付勢手段を有し、前記付勢手段にて前記吐出溝の前記開口部から前記ローラの前記外周面に向かって押し出されることを特徴とする請求項2に記載のベーンロータリ圧縮機。
【請求項4】
前記吐出弁は、前記ローラの前記外周面側に位置する前記吐出弁の先端がほぼ半円柱形状を有する直方体形状であるとともに、前記吐出弁と前記吐出弁溝との間に付勢手段を有し、前記付勢手段にて前記吐出溝の前記開口部から前記ローラの前記外周面に向かって押し出されることを特徴とする請求項1に記載のベーンロータリ圧縮機。
【請求項5】
前記吐出弁の前記付勢手段は、吐出流路を所定の断面積以上閉鎖すると、前記吐出弁に対する前記付勢手段の付勢力が無くなるように構成したことを特徴とする請求項3または4のいずれかに記載のベーンロータリ圧縮機。
【請求項6】
前記吐出弁は、前記吐出弁溝の前記開口部から前記吐出弁が押し出されたとき、前記吐出弁の外周面と前記ローラの前記外周面との間に所定の隙間を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のベーンロータリ圧縮機。
【請求項7】
前記ベーンは、前記シリンダの前記内周面側に位置する前記ベーンの先端が前記シリンダの前記内周面に当接しながら前記シリンダの前記内周面に沿って移動することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のベーンロータリ圧縮機。
【請求項8】
前記ベーンは、前記シリンダの前記内周面側に位置する前記ベーンの先端が前記シリンダの前記内周面との間に所定の隙間を保ちながら前記シリンダの前記内周面に沿って移動することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のベーンロータリ圧縮機。
【請求項9】
前記吐出弁の往復方向が前記ローラの前記外周面の法線方向あるいは前記シリンダの前記内周面の法線方向となるように前記吐出弁と前記吐出弁溝とが設けられたことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のベーンロータリ圧縮機。
【請求項10】
前記吐出弁の往復方向に前記ローラの前記外周面の法線方向あるいは前記シリンダの前記内周面の法線方向対して周方向に一定の傾きを有するように前記吐出弁と前記吐出弁溝とを設け、前記吐出弁が開閉する冷媒の圧力条件を前記傾きによって調整していることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のベーンロータリ圧縮機。
【請求項11】
前記吐出弁がアルミニウム、チタン等の任意の材料からなる軽金属材料、またはアルミニウム基合金、チタン基合金等の合金材料からなることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載のベーンロータリ圧縮機。
【請求項12】
前記吐出弁の表面と前記吐出弁溝の内周面の少なくともいずれか一方に耐摩耗性のコーティングがされていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載のベーンロータリ圧縮機。
【請求項13】
前記冷媒に、標準沸点が−45℃以上の冷媒を用いたことを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載のベーンロータリ圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2013−72429(P2013−72429A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214643(P2011−214643)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】