説明

ペロブスカイト型酸化物抵抗変化材料および抵抗変化素子

【課題】 バルク状においてゼロ磁場状態で、50K〜250Kの間で10Ωcm桁以上の抵抗変化をする材料と、これを用いた抵抗変化素子とを提供することである
【解決手段】Tb1−xMnO系ペロブスカイト型マンガン酸化物(AはCa,Ba,Srから選択される1種または2種以上の元素:0.1≦x≦0.5を示す)から構成されてなることを特徴とする抵抗変化材料

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は50K〜250Kの温度範囲で10Ωcm桁以上の抵抗変化を示す抵抗変化材料およびこの材料を用いた抵抗変化素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ペロブスカイト型酸化物は様々な金属の組み合わせが可能で、各種導電性、触媒、強誘電性など数多くの機能性材料が検討されている。中でも1994年にマンガン酸化物薄膜で巨大磁気抵抗効果(Giant Magneto−Resistance:以下,GMR)が発見されて以来、磁気メモリー・磁気センサーなどの磁性材料としての研究・開発が進められている。しかし、ペロブスカイト型酸化物はこれまで低温温度センサーとしての例は確認されていない。
【0003】
温度センサーには、輝度や色・赤外線強度などで温度を測定する非接触式のものと、熱起電力や電気抵抗・磁気の変化を利用する接触式のものがある。そのうち最も多く利用されているのが、電気抵抗変化を利用した抵抗温度センサーである。
最も一般的に使用されているのは、サーミスタ(thermistor)と呼ばれる、温度変化に対して電気抵抗の変化の大きい抵抗体である。この現象を利用し、温度を測定するセンサーとして利用されている。センサーとしては220Kから620K前後まで測定ができる。
抵抗と温度の関係には以下の式がある。
ΔR=kΔT (ΔR=抵抗値の変化、ΔT=温度の変化、k=温度係数)
上式のkによってサーミスタを分類することができる。kが正の数の場合、抵抗は増加する温度につれて増加する。kが負の数の場合、抵抗は増加する温度とともに減少する。
電気抵抗変化を利用した抵抗温度センサーとしては以下のような例が開示されている。
【特許文献1】特開昭63−104304
【特許文献2】特開2003−207396
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
抵抗温度センサーには、一般に温度係数が正のものと負のものがあり、正のものは数多く報告されている。負の温度係数の抵抗を持つものは[特許文献1]にMn−Ni−Cr+Zr材が報告されている。しかしながら、適用範囲が273K〜673Kと室温以上であった。また[特許文献2]に非晶質の金属又は導電性化合物−炭素コンポジット膜が示されているが、これには具体的な温度と抵抗値が明記されていない。それ故、これらの材料が低温温度センサーとして有用か否かは明確ではない。したがって、これまで室温よりも低い温度範囲で有効な温度センサー用材料は報告さていない。
【0005】
本発明の目的は、ゼロ磁場状態において、バルク状で50K〜250Kの温度範囲で、従来の材料の抵抗変化率をはるかに超える10Ωcm桁以上の抵抗変化をする材料と、これを用いた抵抗変化素子とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、Tb1−xMnO系ペロブスカイト型酸化物(AはCa,Ba,Srから選択される1種または2種以上の元素:0.1≦x≦0.5を示す)から構成されている物質が、抵抗変化が50K〜250Kの温度範囲で10Ωcm桁以上となる抵抗変化材料となることを見出した。これはPrCaMnOやLaCaMnO等の従来のペロブスカイトマンガン酸化物にはない特異な特性である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のペロブスカイト型酸化物は、ゼロ磁場状態において、バルク状で50K〜250Kの温度範囲で10Ωcm桁以上の抵抗変化を起こす。この材料を用いることにより、低温で急峻な抵抗変化を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の抵抗変化材料は以下で表される組成を有する。
Tb1−xMnO
AはCa,Ba,Srの少なくとも1種であり、好ましくはCaである。xは0.1≦x≦0.5である。本発明のペロブスカイト型酸化物は、TbMnOを母相としている。この状態ではMn原子は価数が3+のMn3+イオンとなっている。Tbの一部をアルカリ土類金属であるCaで置換していくと、Tb3+に対してCa2+と価数が1つ少ないため、Caの置換量に比例してMn原子の価数が4+のMn4+イオンが出現する。このとき、Mn原子は、価数が3+のMn3+イオンと価数が4+のMn4+イオンが混在しており、混合原子価状態となる。置換するアルカリ土類金属はCaに限定されず、SrやBaでも同様に混合原子価状態となる。この混合原子価状態において、本発明である抵抗変化材料となる。上式において、xは0.1≦x≦0.5としているが、この範囲を超えると最適な混合原子価状態を逸脱し、抵抗変化率は低下してしまう。
【0009】
次に、本発明の抵抗変化材料の製造方法を説明する。
本発明の抵抗変化材料を製造する際には、一般のセラミックス製造プロセスを利用することが出来る。
この固相反応プロセスでは、抵抗変化材料の構成成分である金属元素の酸化物や、焼成により酸化物となる化合物、例えば炭酸塩などを出発原料とする。次に、出発原料粉末を混合して通常1300℃前後で5〜20時間仮焼し、得られた仮焼粉末を粉砕し、粉砕粉末を所定の形状に成型する。焼成条件は、1300〜1500℃で5〜30時間焼成する。この作製方法は上記に述べた固相反応法に限定されるものではなく、共沈法やゾルゲル法によっても、製造可能である。
ペロブスカイト型酸化物は、製造条件によっては、酸素が過剰となったり、あるいは酸素欠損が生ずる場合がある。本発明にかかる抵抗変化材料は、このような過剰酸素または酸素欠損が含まれていても良い。
なおこの実施形態は本発明の好適な一例ではあるが、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形実施可能である。
【実施例】
【0010】
次に本発明の具体的実施例を比較例とともに説明する。
【0011】
実施例1
出発原料としてTb、CaCO、硝酸マンガン{Mn(NO・6HO}を用いてTb:Ca:Mn=0.6:0.4:1の比率となるように、硝酸に溶解する。この溶液に炭酸水素アンモニウムのアルカリ溶液を加えて中和させ,炭酸塩の沈殿物を生成させる。生成した沈殿物はろ過し、純水洗浄を行った。この沈殿物を乾燥させ、大気中で1300℃で5時間焼成し,合成粉末を作製した。
作製した合成粉末を用い,圧力20MPaの条件で一軸成型し,成型体を作製した。この成型体を1380℃で5時間熱処理を行い,焼結体を作製した。この焼結体を切り出し、所定のサイズに加工し、銀線を焼き付けて測定サンプルとした。磁気特性は試料振動型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer)を使用し、測定温度20〜250Kの範囲で測定を行った。電気抵抗率は4端子法を用い、温度20〜250Kの範囲で温度依存性を測定した。
図1に直流電気抵抗率の温度依存性を示す。図1より、250K付近では1×10Ωcmの抵抗率であるが、温度の低下と共に抵抗率は上昇し、50K付近では1×1010Ωcmと9桁以上も抵抗変化を示した。
【0012】
実施例2
出発原料としてTb、BaCO、硝酸マンガン{Mn(NO・6HO}を用いてTb:Ba:Mn=0.6:0.4:1の比率となるように、硝酸に溶解する。この溶液に炭酸水素アンモニウムのアルカリ溶液を加えて中和させ,炭酸塩の沈殿物を生成させる。生成した沈殿物はろ過し、純水洗浄を行った。この沈殿物を乾燥させ、大気中で1300℃,5時間焼成し,合成粉末を作製した。
作製した合成粉末を用い,圧力20MPaの条件で一軸成型し,成型体を作製した。この成型体を1380℃で5時間熱処理を行い,焼結体を作製した。この焼結体を切り出し、所定のサイズに加工し、銀線を焼き付けて測定サンプルとした。磁気特性は試料振動型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer)を使用し、測定温度20〜250Kの範囲で測定を行った。電気抵抗率は4端子法を用い、温度20〜250Kの範囲で温度依存性を測定した。
図2に直流電気抵抗率の温度依存性を示す。図2より、250K付近では1×10Ωcmの抵抗率であるが、温度の低下と共に抵抗率は上昇し、50K付近では1×1010Ωcmと9桁以上の抵抗変化を示した。
【0013】
比較例1
出発原料としてPr11、CaCO、硝酸マンガン{Mn(NO・6HO}を用いてPr:Ca:Mn=0.6:0.4:1の比率となるように、硝酸に溶解する。この溶液に炭酸水素アンモニウムのアルカリ溶液を加えて中和させ,炭酸塩の沈殿物を生成させる。生成した沈殿物はろ過し、純水洗浄を行った。沈殿物を乾燥させ、大気中で1300℃,5時間焼成し,合成粉末を作製した。
作製した合成粉末を用い,圧力20MPaの条件で一軸成型し,成型体を作製した。この成型体を1380℃で5時間熱処理を行い,焼結体を作製した。この焼結体を切り出し、所定のサイズに加工し、Ag線を焼き付けて測定サンプルとした。磁気特性は試料振動型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer)を使用し、測定温度20〜250Kの範囲で測定を行った。電気抵抗率は4端子法を用い、温度20〜250Kの範囲で温度依存性を測定した。
図3に直流電気抵抗率依存性を示す。図3より、250K付近では1×10Ωcmの抵抗率であるが、温度の低下と共に抵抗率は上昇し、50K付近では1×10Ωcmと3桁程度の抵抗変化を示した。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、Tb0.6Ca0.4MnO試料の抵抗率の温度依存性を示す図である。
【図2】図2は、Tb0.6Ba0.4MnO試料の抵抗率の温度依存性を示す図である。
【図3】図3は、Pr0.6Ca0.4MnO試料の抵抗率の温度依存性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tb1−xMnO系ペロブスカイト型酸化物(AはCa,Ba,Srから選択される1種または2種以上の元素:0.1≦x≦0.5を示す)から構成されてなることを特徴とする抵抗変化材料
【請求項2】
ゼロ磁場において、50K〜250Kの間で10Ωcm桁以上の抵抗変化を示す、請求項1の抵抗変化材料
【請求項3】
請求項1および請求項2に記載の抵抗変化材料からなることを特徴とする抵抗変化素子

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−235843(P2008−235843A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−109871(P2007−109871)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔発行者名〕社団法人 電子情報通信学会 〔刊行物名〕2007年 電子情報通信学会総合大会講演論文集 エレクトロニクス▲2▼ 〔発行年月日〕平成19年3月7日
【出願人】(593163449)株式会社豊島製作所 (15)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】