説明

ペースト組成物およびその用途

本発明のペースト組成物は、[i]式(1)で表わされる繰り返し単位(a)と、式(2)で表される繰り返し単位(b)とからなり、繰り返し単位(a)のモル比が0.35〜0.99であり、繰り返し単位(b)のモル比が0.01〜0.65(ただし、両者の合計を1とする。)であるポリウレタン樹脂と、[ii]溶剤と、[iii]粉末とからなるペースト組成物である。このペースト組成物を用いると、誘電体層、封止体、隔壁、蛍光体などを好適に形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はペースト組成物に関し、さらに詳しくはPDP(プラズマディスプレイパネル)の製造に用いられる誘電体ペースト、隔壁材ペースト、および蛍光体ペースト、ならびに特にPDP(プラズマディスプレイパネル)、陰極放電管、蛍光表示管、FED(電界放射型ディスプレイ)の封止やICパッケージの封止に用いられる封止用ガラスペーストとして好適なペースト組成物に関する。
さらに本発明は、該ペースト組成物を用いて形成される誘電体層、封止体、隔壁、および蛍光体、ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の大型TV用ディスプレイとして、PDP(プラズマディスプレイパネル)が最有力視されている。勝谷康夫著「PDP用材料の技術動向」(日立化成テクニカルレポートNO.33(7)、9−16、1999年)には、PDPの製造工程とその各工程に用いられる主だった材料について詳しく記載されている(非特許文献1)。
一般的なPDPの構造では、前面硝子基板上にプラズマ放電用の電極が形成され、その上に誘電体層(絶縁体)が形成されている。この誘電体層は、高電圧への耐圧性と可視光への透明性とを要求される。
一般的な誘電体層の形成方法においては、電極が成形された前面硝子基板の上に、スクリーン印刷やバーコーター、ロールコーター、スリットコーターなどを用いて、適当な粘度の誘電体ペーストを均一に塗布し、溶剤を乾燥させ、これを500〜600℃で焼成して誘電体ペースト中のバインダー樹脂を分解する。
【0003】
誘電体ペースト中のバインダー樹脂としては、従来は印刷特性が優れていることからエチルセルロースが専ら用いられてきたが、エチルセルロースは樹脂が硬いために、乾燥時にひび割れや皺が発生するなど加工性に問題があった。そこで特開平11−246236(特許文献1)などでは、フタル酸エステル類などの可塑剤を加えることで加工性を改善しているが、可塑剤と溶剤の乾燥速度が異なるため、乾燥工程でより厳密な温度制御が要求され、製造工程がより複雑になるなど、まだ改善すべき点があった。
また、PDPの封止用ガラスペーストは、主に低融点ガラス粉末と無機フィラーとバインダー樹脂と溶剤とからなる。一般的なPDP基板の封止方法においては、封止用ガラスペースト(封着ガラスペースト、シール用ガラスペースト、フリットガラスペーストとも呼ばれる)をスクリーン印刷やディスペンサー等により背面基板と前面基板の間隙に充填した後、溶剤を乾燥させ、400〜500℃で焼成してバインダー樹脂を分解する。バインダー樹脂としては、従来はペーストの粘度特性が優れていることからエチルセルロースが専ら用いられてきたが、エチルセルロースは熱分解時に炭化するため、熱分解が不十分になり易く、封止用ガラスを劣化させ、PDPの寿命を低下させる問題があった。
【0004】
より熱分解性のよい樹脂としてアクリル系の樹脂がバインダーとして検討されたが、熱分解特性は改善されたものの、ペーストの流動性が高すぎ、ペーストの粘度が不十分であった。そこで、例えば特開2002−255587号公報では、粘度特性を改善したアクリル系樹脂も提案されている(特許文献2)。しかしこれらのアクリル系樹脂では、樹脂の分子量が高く、そのためにスクリーン印刷時にスクリーンと印刷面の間に糸引きが生じ、印刷特性としてまだ改善の余地があった。
また、PDPでは一般に、前面ガラス基板と背面ガラス基板が対向して設けられており、これらのガラス基板の間の空間は隔壁(バリアリブ)により区切られている。この隔壁は一般にサンドブラスト法により形成される。この方法においては、背面ガラス基板の上に隔壁材ペーストをスクリーン印刷やロールコーター、スリットコーター等により塗布し、溶剤を乾燥させて均一な厚みの隔壁材の層を形成する。続いてこの上にドライフィルムレジスト(DFR)をラミネートし、露光し、現像した後にレジストが被覆していない隔壁材の部分をサンドブラストにより除去し、所定の場所に隔壁が形成される。他の方法としては、スクリーン印刷により隔壁を直接背面ガラス基板上に印刷する方法や、背面ガラス基板全面にスクリーン印刷やロールコーター、スリットコーターなどにより隔壁材ペーストを塗布し、これをくし型のブレードで隔壁以外の部分隔壁材のペーストを削り取って隔壁を形成する方法などがある。
【0005】
こうして形成された隔壁は500〜600℃で焼成され、バインダー樹脂は分解される。バインダー樹脂としては、従来は印刷特性が優れていることからエチルセルロースが専ら用いられてきたが、エチルセルロースは硬いために、ペーストに可塑剤を加えて硬度を下げないと、サンドブラスト性などの加工性が良くないという問題があった。可塑剤を加えることで加工性は改善されるが、可塑剤の影響により、乾燥工程や焼成工程で隔壁にひびなどの欠陥が入り易い問題があった。
加工性を改善する方法として、バインダーとしてエチルセルロースと水酸基含有アクリル樹脂を混合して用いる方法も提案されている(特開2003−54992号公報:特許文献3)。しかし2種類のバインダー樹脂を混合して用いると、ペーストの製造工程がより複雑になる、ペーストの品質管理がより複雑になるなどの問題が生じ、まだ改善の余地があった。
【0006】
また、PDPの蛍光体は、蛍光体粉末とバインダー樹脂と溶剤とからなる蛍光体ペーストを用いて形成される。蛍光体ペーストをスクリーン印刷などによりリブ間に充填した後、溶剤を乾燥させ、400〜500℃で焼成してバインダー樹脂を分解する。バインダー樹脂としては、従来は印刷特性が優れていることからエチルセルロースが専ら用いられてきたが、エチルセルロースは熱分解時に炭化するため、蛍光体中に炭素が残り、蛍光の輝度を低下させる問題があった。
より熱分解性のよい樹脂としてアクリル系の樹脂がバインダーとして検討されたが、熱分解特性は改善されたものの、ペーストの流動性が高すぎ、印刷特性が不十分であった。そこで、例えば特開2001−329256号公報では、印刷特性を改善したアクリル系樹脂も提案されている(特許文献4)。しかしこれらのアクリル系樹脂では、樹脂の重量平均分子量が60万〜200万と高く、そのためにスクリーン印刷時にスクリーンと印刷面の間に糸引きが生じ、印刷特性としてまだ改善の余地があった。
【0007】
一方、本発明者らは特開平12−355618号公報において、本発明に用いられるポリウレタン樹脂が熱分解性に優れることを開示しているが、印刷用ペーストの発明には至っていなかった(特許文献5)。
また、米国特許第6,646,093号明細書(特許文献6)の実施例C−17〜C−19には、本発明に用いられるポリウレタン樹脂からなる増粘剤と、セメントと、水とからなるセメントペーストが開示されている。このセメントペーストは、該増粘剤を用いると実質的に凝結遅延がないという特性に鑑みて製造されたものである。ペースト中のセメントが水と反応(水和反応)することでセメントペーストは硬化するため、セメントペーストを使用する際には、ペーストを硬化させるための焼成工程は不要である。したがって、例えばこの点において、上記誘電体ペーストなどとセメントペーストとは、異質なものである。
【0008】
このような特許文献5および特許文献6には、該ポリウレタン樹脂を含有するペーストの印刷特性に関する記載はなく、該ポリウレタン樹脂を含有するペーストを印刷に好適に使用できること、具体的には該ポリウレタン樹脂を含有するペーストを用いると、たとえばペーストの糸引き現象をほとんど起こすことなくスクリーン印刷ができ、かつ印刷物を平滑にできることについては何ら開示されていなかった。
【特許文献1】特開平11−246236号公報
【特許文献2】特開2002−255587号公報
【特許文献3】特開2003−54992号公報
【特許文献4】特開2001−329256号公報
【特許文献5】特開平12−355618号公報
【特許文献6】米国特許第6,646,093号明細書
【非特許文献1】勝谷康夫著「PDP用材料の技術動向」日立化成テクニカルレポートNO.33(7)、9−16、1999年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ペーストの糸引き現象をほとんど起こすことなくスクリーン印刷ができ、かつ平滑な印刷物を得ることのできるペースト組成物を提供することを目的とする。
また本発明は、エチルセルロースをバインダー樹脂として用いる従来のペースト組成物に替わる、より加工性に優れた誘電体ペースト組成物を提供することを目的とする。
また本発明は、焼成時に炭化せず、スクリーン印刷時に糸引きなどの問題を生じない、封止用ガラスペースト組成物を提供することを目的とする。
また本発明は、エチルセルロースをバインダー樹脂として用いる従来のペースト組成物に替わる、より加工性に優れた隔壁材ペースト組成物を提供することを目的とする。
さらに本発明は、焼成時に炭化せず、スクリーン印刷時に糸引きなどの問題を生じない蛍光体ペースト組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の櫛形ジオールとポリオキシアルキレングリコールとをジオール成分とするポリウレタン樹脂をバインダー樹脂として用いたペースト組成物が、印刷特性等に優れることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は下記の特徴を有している。
本発明のペースト組成物は、
[i]
下式(1)
【0011】

【0012】
(式中、Aは、両末端に水酸基を有するポリオキシアルキレングリコール(化合物A)HO−A−OHの脱アルコール残基(2価基)であり、
Bは、ジイソシナアート(化合物B)OCN−B−NCOの脱NCO残基(2価基)である。)
で表わされる繰り返し単位(a)と、
下式(2)
【0013】

【0014】
(式中、Dは、分子内に炭素数4〜21の炭化水素基(1価基)を少なくとも2個以上有する櫛形ジオールHO−D−OHの脱アルコール残基(2価基)であり、
Bは、ジイソシナアート(化合物B)OCN−B−NCOの脱NCO残基(2価基)である。)
で表される繰り返し単位(b)とからなり、
繰り返し単位(a)のモル比が0.35〜0.99であり、繰り返し単位(b)のモル比が0.01〜0.65(ただし、両者の合計を1とする。)であるポリウレタン樹脂、
[ii]溶剤、および
[iii]粉末
を含有することを特徴としている。
【0015】
前記櫛形ジオールHO−D−OHとしては、
下式(3)
【0016】

【0017】
(式中、Rは、炭素原子数1〜20の炭化水素基または窒素含有炭化水素基であり、RおよびRは、炭素原子数4〜21の炭化水素基であり、R、RおよびR中の水素の一部または全部はフッ素、塩素、臭素または沃素で置換されていてもよく、RとRとは同じでも異なっていてもよい。
YおよびY’は、水素、メチル基またはCHCl基であり、YとY’とは同じでも異なっていてもよい。
ZおよびZ’は、酸素、硫黄またはCH基であり、ZとZ’とは同じでも異なっていてもよい。
nは、Zが酸素の場合は0〜15の整数であり、Zが硫黄またはCH基の場合は0である。
【0018】
また、n’は、Z’が酸素の場合は0〜15の整数であり、Z’が硫黄またはCH基の場合は0であり、nとn’とは同じでも異なっていてもよい。)
で表わされる櫛形ジオール(化合物D)、または
下式(4)
【0019】

【0020】
(式中、Rは、炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、RおよびRは、炭素原子数4〜21の炭化水素基であり、R、RおよびR中の水素の一部または全部はフッ素、塩素、臭素または沃素で置換されていてもよく、RとRとは同じでも異なっていてもよい。
Y、Y’およびY”は、水素、メチル基またはCHCl基であり、YとY’とは同じでも異なっていてもよい。
ZおよびZ’は、酸素、硫黄またはCH基であり、ZとZ’とは同じでも異なっていてもよい。
は、全炭素原子数が2〜4のアルキレン基であり、
kは、0〜15の整数である。
【0021】
nは、Zが酸素の場合は0〜15の整数であり、Zが硫黄またはCH基の場合は0である。
また、n’は、Z’が酸素の場合は0〜15の整数であり、Z’が硫黄またはCH基の場合は0であり、nとn’とは同じでも異なっていてもよい。)
で表わされる櫛形ジオール(化合物D’)を用いることができる。
前記粉末[iii]としては、低融点ガラス粉末または蛍光体粉末が好ましい。
前記ペースト組成物は、前記粉末[iii]としてさらに無機フィラー(前記低融点ガラス粉末を除く。)を含有してもよい。
前記低融点ガラス粉末としては、誘電体ガラス粉末、封止用ガラス粉末または隔壁材ガラスが好ましい。
【0022】
本発明の誘電体層、封止体、隔壁または蛍光体は、それぞれ前記ペースト組成物から形成されることを特徴としている。
本発明の誘電体層、封止体、隔壁または蛍光体の製造方法は、それぞれ前記ペースト組成物を基板上に塗布または印刷した後に焼成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明のペースト組成物を用いると、印刷面とスクリーンの間の版離れが良好でかつペーストの糸引き現象をほとんど起こすことなくスクリーン印刷をすることができる。また、平滑な印刷面を形成することができる。さらに、印刷されたペースト組成物を焼成した後の残渣が非常に少ない。
また、本発明のペースト組成物を誘電体ペースト組成物として用いると、可塑剤をまったく、あるいは少量しか含まなくても、乾燥工程で誘電体層にひび割れや皺などの欠陥が入るなどの問題が生じないという利点がある。
また、本発明のペースト組成物を封止用ガラスペースト組成物として用いると、焼成時に炭化せず完全に分解するので封止用ガラスの劣化が生じ難く、またスクリーン印刷時に糸引きなどの問題が生じないという利点がある。
【0024】
また、本発明のペースト組成物を隔壁材ペースト組成物として用いると、サンドブラスト法においてオーバーサンドが生じ難いという利点がある。ここで、サンドブラスト法では、パターニングされたフォトレジストの上から、フォトレジストの剥離した隔壁材ペースト組成物部分のみを、隔壁材ペースト組成物の塗布面に垂直方向へ隔壁材を削っていくが、オーバーサンドとは、サンドブラストにより、隔壁材ペースト組成物のフォトレジストが剥離していない部分の下までも余分にえぐりとってしまうことを指す。さらに、本発明の隔壁材ペースト組成物は、可塑剤をまったく、あるいは少量しか含まないので、可塑剤を多量に添加することにより生じる、乾燥工程や焼成工程で隔壁に欠陥が入るなどの問題が生じないという利点がある。
さらに、本発明のペースト組成物を蛍光体ペースト組成物として用いると、焼成時に炭化しないので蛍光の輝度が高く、スクリーン印刷時に糸引きなどの問題が生じないという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明のペースト組成物を詳細に説明する。
[i]ポリウレタン樹脂
本発明で用いられるポリウレタン樹脂[i]は、
下式(1)
【0026】

【0027】
(式中、Aは、両末端に水酸基を有するポリオキシアルキレングリコール(化合物A)HO−A−OHの脱アルコール残基(2価基)であり、
Bは、ジイソシナアート(化合物B)OCN−B−NCOの脱NCO残基(2価基)である。)
で表わされる繰り返し単位(a)と、
下式(2)
【0028】

【0029】
(式中、Dは、分子内に炭素数4〜21の炭化水素基(1価基)を少なくとも2個以上有する櫛形ジオールHO−D−OHの脱アルコール残基(2価基)であり、
Bは、ジイソシナアート(化合物B)OCN−B−NCOの脱NCO残基(2価基)である。)
で表される繰り返し単位(b)とからなり、
繰り返し単位(a)のモル比が0.35〜0.99であり、繰り返し単位(b)のモル比が0.01〜0.65である(ただし、両者の合計を1とする。)。
前記式(1)で表された繰り返し単位(a)中のAは、水溶性ないし親水性のポリオキシアルキレングリコール(化合物A)HO−A−OHの脱アルコール残基(2価基)である。該ポリオキシアルキレングリコール(化合物A)としては、特にアルキレン基の炭素数が2〜6であるポリオキシアルキレングリコールが好適に用いられ、より具体的には、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール、PPGへのエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
【0030】
前記化合物Aの数平均分子量(Mn)は、好ましくは400〜100,000、より好ましくは400〜20,000、さらに好ましくは900〜9,000の範囲内にある。数平均分子量が400以上ならば、均一な印刷面を得るのに十分な重量平均分子量のポリウレタン樹脂[i]が得られる。数平均分子量が100,000以下ならば、充分な重合反応が行うことができ、また、実質的に糸引きを発生することのない樹脂が得られる。
前記ポリオキシアルキレングリコール(化合物A)として、2種類以上のポリオキシアルキレングリコールを組み合わせて用いてもよい。例えば、ポリエチレングリコールと、ポリプロピレングリコールまたはポリテトラメチレンエーテルグリコールとを組み合わせて用いることも可能である。
また化合物Aの全重量の20重量%以下であれば、化合物Aとして前記ポリオキシアルキレングリコールに代えて、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールなどの低分子量グリコールを併用してもよい。
【0031】
前記式(2)で表された繰り返し単位(b)中のDは、櫛形ジオール(化合物D)HO−D−OHの脱アルコール残基(2価基)である。該櫛形ジオールHO−D−OHは、分子内に炭素原子数4〜21の1価炭化水素基を少なくとも2個以上もつジオール類である。この1価炭化水素基はジオール分子の骨格に複数個が側鎖としてグラフトしており、この形状から化合物Dを櫛形ジオールと称している。
前記1価炭化水素基の例としては、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基が挙げられる。
前記1価炭化水素基は、メチレン基、エーテル基、チオエーテル基、ポリエーテル基等を介して櫛形ジオールの骨格に結合している。
櫛形ジオールの骨格は炭化水素のみからなっていてもよいが、骨格中にエーテル基(−O−)、ポリエーテル基、3級アミノ基(−N(R)−)などの極性基をもつ櫛形ジオールも好適に用いられる。
【0032】
このような櫛形ジオールとして、例えば上記式(3)、(4)に記載されているような3級アミノ基を骨格に有するジオールなどを利用することができる。
前記櫛形ジオール中の前記1価炭化水素基は極性が低いため、極性のある溶剤中ではこの炭化水素基同士の相互作用により、ポリウレタンの高分子鎖間に疎水的相互作用が生じ、そのために比較的分子量の低いポリウレタンでも印刷に必要な粘度が得られると考えられる。
一般に重量平均分子量が百万を超えるような高分子の溶液を含有するペースト組成物は、スクリーン印刷や、バーコーター、ロールコーターなどを用いた塗布の工程で、ペーストの表面とスクリーン、バーコーター、ロールコーター等との間に糸引きを生じ易く、このような高分子溶液を用いて加工したペーストの表面は平滑さが損なわれる問題があった。特にスクリーン印刷の場合には、糸引きによりスクリーンと印刷面との間の版離れが悪くなり印刷が出来ない場合があった(ここでいう版離れとは、スクリーンがスクリーンの張力によって自然に印刷面から離れる現象をいう)。またディスペンサーによる塗布の場合にも、ディスペンサーの先端とペーストとの間に糸引きが生じ、加工精度が低下する問題があった。
【0033】
これらのペースト組成物においては、高分子溶液中で高分子の鎖同士が絡み合うことにより粘度が発現するが、この高分子鎖間の絡み合いが糸引きの要因と考えられる。この絡み合いにより印刷などの加工に必要な粘度を発現するためには、一般的には高分子の重量平均分子量は50万以上、より好ましくは100万以上であることが必要である。
一方、本発明のペースト組成物においては、前記ポリウレタン樹脂[i]の高分子鎖が絡み合わなくとも、前記櫛形ジオールの間の疎水性相互作用により高分子鎖同士が溶液中で会合することで高分子溶液が増粘する。したがって、前記ポリウレタン樹脂[i]の重量平均分子量が百万以下であっても印刷などの加工に必要な粘度をペースト組成物に付与できるので、糸引きの問題を生じない。
また前記櫛形ジオールは、ポリウレタンのポリマー骨格内に固定された可塑剤(内部可塑剤)としての効果もあると考えられる。
【0034】
前記櫛形ジオールの製造方法は、特開平11−343328号公報や特開平12−297133号公報などに詳しく記載されている。
前記式(1)で表された繰り返し単位(a)中および前記式(2)で表された繰り返し単位(b)中のBは、ジイソシアナート化合物(化合物B)OCN−B−NCOの脱NCO残基(2価基)である。
前記ジイソシアナート化合物(化合物B)は、鎖状脂肪族ジイソシアナート類、環状脂肪族ジイソシアナート類および芳香族ジイソシアナートよりなる群から選ばれたジイソシアナート化合物である。
前記ジイソシアナート化合物(化合物B)として、全炭素原子数が(NCO基の炭素原子を含めて)3〜18のジイソシアナート類を用いることがより好ましい。
【0035】
前記鎖状脂肪族ジイソシアナート類は、NCO基の間を直鎖もしくは分岐鎖のアルキレン基で繋いだ構造をもつポリイソシアナート化合物であり、その具体例としては、メチレンジイソシアナート、エチレンジイソシアナート、トリメチレンジイソシアナート、1−メチルエチレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアナート、ペンタメチレンジイソシアナート、2−メチルブタン−1,4−ジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート(通称HMDIと略す)、ヘプタメチレンジイソシアナート、2,2’−ジメチルペンタン−1,5−ジイソシアナート、リジンジイソシアナートメチルエステル(通称LDIと略す)、オクタメチレンジイソシアナート、2,5−ジメチルヘキサン−1,6−ジイソシアナート、2,2,4−トリメチルペンタン−1,5−ジイソシアナート、ノナメチルジイソシアナート、2,4,4−トリメチルヘキサン−1,6−ジイソシアナート、デカメチレンジイソシアナート、ウンデカメチレンジイソシアナート、ドデカメチレンジイソシアナート、トリデカメチレンジイソシアナート、テトラデカメチレンジイソシアナート、ペンタデカメチレンジイソシアナート、ヘキサデカメチレンジイソシアナート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナートなどが挙げられる。
【0036】
前記環状脂肪族ジイソシアナート類は、NCO基の間を繋ぐアルキレン基が環状構造をもつポリイソシアナート化合物であり、その具体例としては、シクロヘキサン−1,2−ジイソシアナート、シクロヘキサン−1,3−ジイソシアナート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアナート、1−メチルシクロヘキサン−2,4−ジイソシアナート、1−メチルシクロヘキサン−2,6−ジイソシアナート、1−エチルシクロヘキサン−2,4−ジイソシアナート、4,5−ジメチルシクロヘキサン−1,3−ジイソシアナート、1,2−ジメチルシクロヘキサン−ω,ω’−ジイソシアナート、1,4−ジメチルシクロヘキサン−ω,ω’−ジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート(通称IPDIと略す)、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート、ジシクロヘキシルメチルメタン−4,4’−ジイソシアナート、ジシクロヘキシルジメチルメタン−4,4’−ジイソシアナート、2,2’−ジメチルジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート、3,3’−ジメチルジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート、4,4’−メチレン−ビス(イソシアナトシクロヘキサン)、イソプロピリデンビス(4−シクロヘキシルイソシアナート)(通称IPCIと略す)、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、水素化トリレンジイソシアナート(通称H−TDIと略す)、水素化4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(通称H−MDIと略す)、水素化キシリレンジイソシアナート(通称H−XDIと略す)、ノルボルナンジイソシアナートメチル(通称NBDIと略す)などが挙げられる。
【0037】
前記芳香族ジイソシアナート類は、NCO基の間をフェニレン基、アルキル置換フェニレン基およびアラルキレン基などの芳香族基または芳香族基を含有する炭化水素基で繋いだポリイソシアナート化合物であり、その具体例としては、1,3−および1,4−フェニレンジイソシアナート、1−メチル−2,4−フェニレンジイソシアナート(2,4−TDI)、1−メチル−2,6−フェニレンジイソシアナート(2,6−TDI)、1−メチル−2,5−フェニレンジイソシアナート、1−メチル−3,5−フェニレンジイソシアナート、1−エチル−2,4−フェニレンジイソシアナート、1−イソプロピル−2,4−フェニレンジイソシアナート、1,3−ジメチル−2,4−フェニレンジイソシアナート、1,3−ジメチル−4,6−フェニレンジイソシアナート、1,4−ジメチル−2,5−フェニレンジイソシアナート、m−キシレンジイソシアナート、ジエチルベンゼンジイソシアナート、ジイソプロピルベンゼンジイソシアナート、1−メチル−3,5−ジエチルベンゼン−2,4−ジイソシアナート、3−メチル−1,5−ジエチルベンゼン−2,4−ジイソシアナート、1,3,5−トリエチルベンゼン−2,4−ジイソシアナート、ナフタリン−1,4−ジイソシアナート、ナフタリン−1,5−ジイソシアナート、1−メチルナフタリン−1,5−ジイソシアナート、ナフタリン−2,6−ジイソシアナート、ナフタリン−2,7−ジイソシアナート、1,1−ジナフチル−2,2’−ジイソシアナート、ビフェニル−2,4’−ジイソシアナート、ビフェニル−4,4’−ジイソシアナート、1,3−ビス(1−イソシアナト−1−メチルエチル)ベンゼン、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアナート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアナート(MDI)、ジフェニルメタン−2,2’−ジイソシアナート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート(XDI)などが挙げられる。
【0038】
前記ポリウレタン樹脂[i]は、特開平11−343328号公報や特開平12−297133号公報などに詳しく記載された製造方法を参照して、適宜製造することができる。
[ii]溶剤
本発明で用いられる溶剤[ii]は特に限定されず、バインダー樹脂として用いられる前記ポリウレタン樹脂[i]が溶解する溶剤ならば好適に用いることができる。溶剤[ii]としては、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキサイド、ベンジルアルコール、テルピネオール、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ブチルカルビトール、ブチルカルビトール、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、水、およびこれらの溶剤を混合したものなどが挙げられ、極性の大きい溶剤が特に好適に用いられる。
[iii]粉末
本発明で用いられる粉末[iii]は、本発明のペースト組成物の使用目的に応じて、適宜選択することができる。このような粉末[iii]としては、例えば低融点ガラス粉末や、蛍光体粉末などが挙げられる。ここで低融点ガラスとは、板ガラスが熱変形しない温度で融着できるガラス、あるいは板ガラスの耐熱温度より低い温度で融着できるガラスを意味する。この低融点ガラスのTgは600℃以下であり、好ましくは400℃以下であり、より好ましくは350℃以下250℃以上である。このような低融点ガラスは、一般的には、封止用ガラス、シール用ガラス、半田ガラスなどとして使用されている。この粉末[iii]の最大粒子径Dmaxは100μm以下、より好ましくは1〜50μmである。最大粒子径が100μm以下であればスクリーン印刷などを十分に行える。
【0039】
本発明のペースト組成物を、例えば誘電体ペースト組成物として使用する場合には、粉末[iii]として、誘電体ガラス粉末、および必要に応じて無機フィラーが用いられる。
前記誘電体ガラス粉末としては、前記低融点ガラスであれば特に限定されず、PDPに用いられる誘電体ガラス粉末を好適に用いることができる。この誘電体ガラスとは、PDPの誘電体層形成に用いられるガラスであり、誘電体層の焼成温度(通常は400−600℃、好ましくは530〜580℃)で欠陥がなく高い耐電圧性を示す膜が形成できるガラスである。前記誘電体ガラスのTgは通常600℃以下、300℃以上であり、好ましくは500℃以下、390℃以上である。前記誘電体ガラスとしては、例えばPbO−B−SiO系ガラス、PbO−B−SiO−ZnO−CaO系ガラス、PbO−B−SiO−ZnO−BaO−CaO−Bi系ガラス、ZnO−Bi−B−SiO−CaO−SrO−BaO系ガラスなどが好適に用いられる。
【0040】
前記無機フィラーはなくてもよいが、ペーストの流動性や熱膨張係数を調整するために適量加えることができる。この無機フィラーの種類は特に限定されるものではなく、PDPに用いられる誘電体用フィラーは好適に用いることができる。例えば、アルミナ、α−石英、チタニア、ジルコニアなどが用いることができる。
また、本発明のペースト組成物を封止用ガラスペースト組成物として使用する場合には、粉末[iii]として、封止用ガラス粉末、および必要に応じて無機フィラーが用いられる。
前記封止用ガラス粉末としては、前記低融点ガラスであれば特に限定されず、PDP等に用いられる封止用ガラス粉末を好適に用いることができる。この封止用ガラスとは、封着ガラス、シール用ガラス、フリットガラスなどとも呼ばれ、PDP、FEDやブラウン管などの開口部を最後にシールするガラスであり、物性の面からは、封着処理温度(例えば410〜480℃)でシールできるガラスをいう。封止用ガラスのTgは、通常400℃以下好ましくは350℃であり、より好ましくは330℃以下250℃以上である。
【0041】
前記封止用ガラスとしては、例えば、B−PbO系ガラス、B−PbO−SiO−系ガラス、B−PbO−ZnO系ガラス、CuO−P系ガラス、P−SnO系ガラス、P−SnO−B系ガラス、PbO−B系ガラスなどが好適に用いられる。具体例としては、旭硝子株式会社製フリットガラスAFS1304M、ASF1200M、IWF2300Mなどが挙げられる。
ペーストには、熱膨張係数の調製等の目的で必要ならば、前記無機フィラーを加えることができる。無機フィラーは、特に限定されるものではない。封止用ガラスペースト組成物に用いられている無機フィラーは、好適に用いることができる。例えば、コージエライト、ジルコン、酸化錫、酸化ニオブ、燐酸ジルコニウム、ウイレマイト、ムライトなどが好適に用いられる。
【0042】
また、本発明のペースト組成物を隔壁材ペースト組成物として使用する場合には、粉末[iii]として、ガラス粉末、および該ガラス粉末以外の無機フィラー(アルミナ、石英など)が用いられる。
前記ガラス粉末としては、前記低融点ガラスであれば特に限定されず、PDP用に用いられる隔壁材ガラス粉末を好適に用いることができる(以下、隔壁材ペースト組成物に粉末[iii]として使用されるガラス粉末を「隔壁材ガラス」ともいう。)。この隔壁材ガラスは、軟化点が450℃以上650℃以下である。熱膨張係数は60×10−7〜90×10−7(1/℃)程度であることが好ましい。また、その平均粒子径D50は1〜7μm、最大粒子径Dmaxは5〜30μmであることが好ましい。前記隔壁材ガラスとしては、例えば、PbO−B−SiO系ガラス、BaO−ZnO−B−SiO系ガラス、ZnO−Bi−B−SiO系ガラスなどが好適に用いられる。
【0043】
ガラス以外の前記無機フィラーも、特に限定されるものではない。PDP用に用いられる隔壁材用フィラーは、好適に用いることができる。例えば、アルミナ、α−石英、チタニア、ジルコニアなどを用いることができる。
さらに、本発明のペースト組成物を蛍光体ペースト組成物として使用する場合には、粉末[iii]として、蛍光体粉末が用いられる。
前記蛍光体粉末は特に限定されるものではなく、PDP用に用いられる蛍光体粉末を好適に用いることができる。前記蛍光体粉末としては、例えば、青色蛍光体であればBaMgAl1424:Eu、BaMgAl1017:Eu、SrMg(SiO:Euなどが、赤色蛍光体であれば(Y,Gd)BO:Eu、Y:Eu、Y(P,V)O:Eu、(Y,Gd):Euなどが、緑色蛍光体であればZnSiO:Mn、BaAl1219:Mn、YBO:Tbなどが好適に用いられる。
【0044】
本発明のペースト組成物は、前記ポリウレタン樹脂[i]、溶剤[ii]、および粉末[iii]の他の成分として可塑剤、分散剤、消泡剤などを適量含んでいてもよい。
[ペースト組成物]
本発明のペースト組成物は、その100重量%中に、前記粉末[iii]を30〜95重量%、および前記ポリウレタン樹脂[i]と前記溶剤[ii]とからなるバインダー樹脂溶液を5〜70重量%含んでいる。
前記バインダー樹脂溶液は、その100重量%中に前記ポリウレタン樹脂[i]を1〜30重量%、前記溶剤[ii]を70〜99重量%含んでいる(ただし、バインダー樹脂と溶剤との合計の重量を100重量%とする。)。前記バインダー樹脂溶液の粘度は、20℃において通常は20〜50Pa・sである。
【0045】
本発明のペースト組成物は、バインダー樹脂として重量平均分子量が1万〜100万、より好ましくは5万〜50万の範囲の熱可塑性ポリウレタン樹脂である前記ポリウレタン樹脂[i]を用いている。
前記ポリウレタン樹脂[i]の重量平均分子量が1万以上あれば、ペーストの粘度を高めることができる。また重量平均分子量が100万以下であれば、ペーストのスクリーン印刷時の糸引きはほとんど起こらない。重量平均分子量が5万〜50万の範囲で、印刷特性が最も優れている。
本発明のペースト組成物の粘度は、例えば粉末[iii]が誘電体ガラスである誘電体ペースト組成物、粉体[iii]が封止用ガラスである封止用ガラスペースト組成物、もしくは粉体[iii]が隔壁ガラスである隔壁材ペースト組成物である場合には、20℃において通常1〜1000Pa・s、より好ましくは5〜50Pa・sの範囲にある。また、粉末[iii]が蛍光体粉末である蛍光体ペースト組成物の場合には、20℃において通常1〜1000Pa・s、より好ましくは10〜150Pa・sの範囲にある。粘度が上記範囲にあるため、本発明のペースト組成物はスクリーン印刷等の印刷に好適に用いることができる。
【0046】
本発明のペースト組成物を用いると、パターン形成も可能である。
また、本発明のペースト組成物は、非反応性のペースト組成物、すなわちペースト組成物を構成するポリウレタン樹脂[i]、溶剤[ii]および粉末[iii]が互いに実質的に化学反応を起こさないペースト組成物である。
本発明のペースト組成物の調整方法は、特に限定されるものではない。例えば、セパラブルフラスコに溶剤[ii]とポリウレタン樹脂[i]とを仕込み、40〜80℃程度に加熱しながら1時間ほど攪拌し、バインダー樹脂溶液を得る。このバインダー樹脂溶液と粉末[iii]とフィラーを3本ロールミル等で混練し、ペースト組成物を得ることができる。
誘電体ペースト組成物
本発明のペースト組成物を誘電体ペースト組成物として用いる場合は、その100重量%中に、前記誘電体ガラス粉末を40〜80重量%、および前記誘電体ガラス以外の前記無機フィラー(アルミナ、石英など)を0〜10重量%、バインダー樹脂溶液を20〜60重量%含んでいる。
【0047】
誘電体ガラス粉末が40重量%未満では、十分な絶縁性と透明性とが得られない場合がある。また誘電体ガラス粉末が80重量%を超えると、ペーストの流動性が低下し均一な塗布が難しい場合がある。
より好ましい組成は、ペースト組成物100重量%中に誘電体ガラス粉末が55〜65重量%、誘電体ガラス以外の無機フィラー(アルミナ、石英など)が0〜5重量%、バインダー樹脂溶液が35〜45重量%である。
前記バインダー樹脂溶液は、その100重量%中にバインダー樹脂を1〜30重量%、溶剤を70〜99重量%含んでいる(ただし、バインダー樹脂と溶剤との合計の重量を100重量%とする。)。
前記バインダー樹脂としては、重量平均分子量が1万〜100万、より好ましくは5万〜50万の範囲の熱可塑性ポリウレタン樹脂である前記ポリウレタン樹脂[i]が用いられる。
【0048】
前記ポリウレタン樹脂[i]の重量平均分子量が1万以上あれば、ペーストの粘度を高めることができる。また重量平均分子量が100万以下であれば、ペーストのスクリーン印刷時の糸引きはほとんど起こらない。重量平均分子量が5万〜50万の範囲で、印刷特性が最も優れている。
本発明のペースト組成物を誘電体ペースト組成物として用いる場合に、その調整方法は特に限定されない。例えば、セパラブルフラスコに溶剤[ii]とポリウレタン樹脂[i]とを仕込み、40〜80℃程度に加熱しながら1時間ほど攪拌し、バインダー樹脂溶液を得る。このバインダー樹脂溶液と誘電体ガラス粉末とフィラーを3本ロールミル等で混練し、誘電体ペースト組成物を得ることができる。
封止用ガラスペースト組成物
本発明のペースト組成物を封止用ガラスペースト組成物として用いる場合は、その100重量%中に、前記封止用ガラス粉末を30〜95重量%、無機フィラーを0〜50重量%、バインダー樹脂溶液を5〜30重量%含んでいる。
【0049】
前記バインダー樹脂溶液は、バインダー樹脂を1〜30重量%、溶剤を70〜99重量%含んでいる(ただし、バインダー樹脂と溶剤との合計の重量を100重量%とする。)。
前記封止用ガラス粉末が30重量%未満では、封止体中に欠陥が多くなり封止が不十分になる場合がある。また前記封止用ガラス粉末が95重量%を超えると、ペーストの流動性が低下し加工が困難な場合がある。
前記バインダー樹脂としては、重量平均分子量が1万〜100万、より好ましくは5万〜50万の範囲の熱可塑性ポリウレタン樹脂である前記ポリウレタン樹脂[i]が用いられる。
前記ポリウレタン樹脂[i]の重量平均分子量が1万以上あれば、ペーストの粘度を高めることができる。また重量平均分子量が100万以下であれば、ペーストのスクリーン印刷時の糸引きはほとんど起こらない。重量平均分子量が5万〜50万の範囲で印刷特性が最も優れている。
【0050】
本発明のペースト組成物を封止用ガラスペースト組成物として用いる場合に、その調整方法は特に限定されない。例えば、セパラブルフラスコに溶剤[ii]とポリウレタン樹脂[i]とを仕込み、40〜80℃程度に加熱しながら1時間ほど攪拌し、バインダー樹脂溶液を得る。このバインダー樹脂溶液と封止用ガラス粉末と無機フィラーを3本ロール等で混練し、封止用ガラスペースト組成物を得ることができる。
隔壁材ペースト組成物
本発明のペースト組成物を隔壁材ペースト組成物として用いる場合は、その100重量%中に、前記隔壁材ガラス粉末を30〜80重量%、該隔壁材ガラス粉末以外の無機フィラー(アルミナ、石英など)を1〜40重量%、バインダー樹脂溶液を5〜30重量%含んでいる。
【0051】
バインダー樹脂溶液はその100重量%中に、バインダー樹脂を1〜30重量%、溶剤を70〜99重量%含んでいる(ただし、バインダー樹脂と溶剤との合計の重量を100重量%とする。)。
前記バインダー樹脂としては、重量平均分子量が1万〜100万、より好ましくは5万〜50万の範囲の熱可塑性ポリウレタン樹脂である前記ポリウレタン樹脂[i]が用いられる。
前記ポリウレタン樹脂[i]の重量平均分子量が1万以上あればペーストの粘度を高めることができる。また重量平均分子量が100万以下であれば、ペーストのスクリーン印刷時の糸引きはほとんど起こらない。重量平均分子量が5万〜50万の範囲で印刷特性が最も優れている。
【0052】
本発明のペースト組成物を隔壁材ペースト組成物として用いる場合に、その調整方法は特に限定されない。例えば、セパラブルフラスコに溶剤[ii]とポリウレタン樹脂[i]とを仕込み、40〜80℃程度に加熱しながら1時間ほど攪拌し、バインダー樹脂溶液を得る。このバインダー樹脂溶液とガラス粉末とフィラーとを3本ロール等で混練し、隔壁材ペースト組成物を得ることができる。
蛍光体ペースト組成物
本発明のペースト組成物を蛍光体ペースト組成物として用いる場合は、その100重量%中に、蛍光体粉末を30〜70重量%、バインダー樹脂溶液を30〜70重量%を含んでいる。
バインダー樹脂溶液は、バインダー樹脂を2〜20重量%、溶剤を80〜98重量%含んでいる(ただし、バインダー樹脂と溶剤との合計の重量を100重量%とする。)。
【0053】
前記バインダー樹脂としては、重量平均分子量が1万〜100万、より好ましくは5万〜50万、さらに好ましくは10万から50万の範囲の熱可塑性ポリウレタン樹脂である前記ポリウレタン樹脂[i]が用いられる。
前記ポリウレタン樹脂[i]の重量平均分子量が1万以上あればペーストの粘度を高めることができる。また重量平均分子量が100万以下であれば、ペーストのスクリーン印刷時の糸引きはほとんど起こらない。重量平均分子量が10万〜50万の範囲で印刷特性が最も優れている。
本発明のペースト組成物を蛍光体ペースト組成物として用いる場合に、その調整方法は特に限定されない。例えば、セパラブルフラスコに溶剤[ii]とポリウレタン樹脂[i]とを仕込み、40〜80℃程度に加熱しながら1時間ほど攪拌し、バインダー樹脂溶液を得る。このバインダー樹脂溶液と蛍光体粉末とを3本ロール等で混練し、蛍光体ペースト組成物を得ることができる。
「誘電体層およびその製造方法]
本発明の誘電体層は、前記誘電体ガラス粉末を含有する本発明のペースト組成物を、基板上に塗布または印刷した後に焼成することによって製造される。具体的には、例えば以下の方法で製造することができる。
【0054】
電極を形成したガラス背面基板の上に、スクリーン印刷機、アプリケーター、バーコーター、ロールコーター等を用いて、誘電体ペースト組成物として調製した本発明の誘電体ペースト組成物を全面に塗布し、溶剤を乾燥させる。厚みは30〜500μmが適当である。次に熱風乾燥機等で80〜150℃で溶剤を乾燥させ、500〜600℃で5〜15分間焼成し、厚みが20〜100μm程度の誘電体層を形成する。
[封止体およびその製造方法]
(PDP両基板間の封止方法)
本発明の封止体は、前記封止用ガラス粉末を含有する本発明のペースト組成物を、基板上に塗布または印刷した後に焼成することによって製造される。具体的には、例えば以下の方法で製造することができる。
【0055】
封止用ガラスペースト組成物として調製した本発明のペースト組成物を、スクリーン印刷機やディスペンサー等を用いて、PDPの背面硝子基板上と前面硝子基板の間の空隙に充填する。溶剤を乾燥後、400〜500℃で焼成してバインダー樹脂を分解しながら、PDPの両基板間を封止する。この際、PDPの両基板間には本発明の封止体が形成される。焼成は、空気中でも窒素中でも行うことができる。その後低圧Xe含有Neガス等を封入して、PDPを製造する。
[隔壁およびその製造方法]
本発明の隔壁は、前記隔壁材ガラス粉末を含有する本発明のペースト組成物を、基板上に塗布または印刷した後に焼成することによって製造される。具体的には、例えば以下の方法で製造することができる。
【0056】
本発明のペースト組成物を用いた隔壁の形成方法には幾つかあるが、(a)サンドブラスト法を例に説明する。電極、誘電体層を形成したガラス背面基板の上に、スクリーン印刷等を用いて、隔壁材ペースト組成物として調製した本発明のペースト組成物を全面に塗布し、溶剤を乾燥させる。厚みは50〜200μmが適当である。この上にドライフィルムレジストをラミネートし、パターン露光し、現像する。サンドブラスト法により不要な部分を除去し、500〜600℃で焼成することで、ガラス基板上に隔壁を形成することができる。
この他の隔壁形成方法としては、(b)複数回スクリーン印刷を重ねることにより基板上に直接隔壁のパターンを形成する方法、(c)スクリーン印刷等により基板全面に隔壁材を塗布後、くし型のブレードで余分な隔壁材を除去し、隔壁のパターンを形成する方法などが用いられる。本発明のペースト組成物はサンドブラスト法以外の隔壁形成法においても用いることができる。
[蛍光体およびその製造方法]
(PDP用背面板部材の製造方法)
本発明の蛍光体は、前記蛍光体粉末を含有する本発明のペースト組成物を、基板上に塗布または印刷した後に焼成することによって製造される。具体的には、例えば以下の方法で製造することができる。
【0057】
蛍光体ペースト組成物として調製した本発明のペースト組成物を、スクリーン印刷機やディスペンサー等を用いてPDPの背面硝子基板上に形成された隔壁(リブ)の間に充填する。溶剤を乾燥後、400〜500℃で焼成してバインダー樹脂を分解し、PDP用背面板部材を製造する。この際に、本発明の蛍光体が形成される。
その後、別途製造された前面硝子基板と上記の背面板部材をシール材(低融点ガラス)で封着し、低圧Xe含有Neガスを封入してPDPを製造する。
以下実施例を用いて詳細に説明するが、勿論本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
誘電体ガラスペースト組成物
[実施例A1]
[櫛形ジオール(1)の合成]
500mlの丸底フラスコにマグネチックスターラー、温度計および滴下ロートを設置し、2−エチルヘキシルアミン(関東化学)64.6gを仕込み、フラスコ内を窒素で置換した。オイルバスでフラスコを60℃に加熱し、攪拌しながら、滴下ロートから2−エチルヘキシルグリシジルエーテル(旭電化、アデカグリシロールED518、エポキシ価220)220.0gを40分かけて滴下した。滴下終了後、オイルバスの温度を80℃に上げて、フラスコを10時間加熱した。続いて、オイルバスの温度を120℃に上げて、真空ポンプを用いて、3mmHgの真空度で少量の未反応物を減圧留去した。2−エチルヘキシルアミン1モルに対して2−エチルヘキシルグリシジルエーテルが2モルの比率で付加した櫛形ジオール(1)(OH価からの平均分子量532)を収率90%で得た。
[ポリウレタン樹脂(1)の合成]
1000mlのSUS製セパラブルフラスコに市販のPEG#6000(三洋化成、数平均分子量8,630)を200g仕込み、窒素シール下で150℃にて溶融した。これを攪拌しながら減圧下(3mmHg)で3時間乾燥した。残留する水分は200ppmであった。70℃まで温度を下げ、フラスコ内を1気圧の窒素で満たした。酸化防止剤としてBHT(ジ−ter−ブチルヒドロキシトルエン)を300ppm加えた。フラスコ内を攪拌しながら、櫛形ジオール(1)を1.90g、ヘキサメチレンジイソシアナート(東京化成)を4.41g仕込んだ(NCO/OH=0.98mol/mol)。触媒としてDBTDLを0.05g添加すると、10分程で急激に増粘した。攪拌を止めて、70℃で2時間反応させた。120℃に温度を上げて30分間一定温度に保ち、その後フラスコから生成物を取り出した。生成物の重量平均分子量は47万であった。
【0058】
取り出した生成物を小片に裁断後放冷した。これを液体窒素で冷却し、小型の衝撃型電動ミルで粉砕した。粉砕物を篩にかけ、粒子径が600μm以下の粉体をポリウレタン樹脂(1)として得た。粉体の平均粒子径は400μmであった。
[バインダー樹脂溶液(1)の製造]
200mlのガラス製セパラブルフラスコに上記のポリウレタン樹脂(1)を10g、溶剤のN−メチルピロリドン(関東化学)を90g仕込み、60℃に加熱しながら1時間攪拌して溶解し、バインダー樹脂溶液(1)を得た。
[誘電体ペースト組成物(1)の製造]
上記のバインダー樹脂溶液35gに誘電体ガラス粉末(PbO−B−SiO−CaOガラス)65gを加え、3本ローラーで混練し誘電体ペースト組成物(1)を得た。
[誘電体層の形成]
上記の誘電体ペースト組成物(1)を、バーコーターを用いてソーダガラス板上全面に塗布した。これを熱風乾燥機中120℃で溶剤を乾燥し、550℃で10分間焼成し、膜厚50μmの誘電体層を形成した。
【0059】
触針式表面粗さ計を用いて表面粗さRaを測定したところ0.15μmと平坦な表面であった。
[実施例A2]
上記のバインダー樹脂溶液(1)45gに誘電体ガラス粉末(PbO−B−SiO−CaOガラス)50gと石英粉末5gを加え、3本ローラーで混練し、誘電体ペースト組成物(2)を得た。
この誘電体ペースト組成物(2)を、バーコーターを用いてソーダガラス板上全面に塗布した。これを熱風乾燥機中120℃で溶剤を乾燥し、550℃で10分間焼成し、膜厚30μmの誘電体層を形成した。
触針式表面粗さ計を用いて表面粗さRaを測定したところ0.10μmと平坦な表面であった。
(比較例A1)
200mlのガラス製セパラブルフラスコにエチルセルロースを10g、溶剤のN−メチルピロリドン(関東化学)を90g仕込み、60℃に加熱しながら1時間攪拌して溶解し、バインダー樹脂溶液(2)を得た。
【0060】
このバインダー樹脂溶液(2)40gに誘電体ガラス粉末(PbO−B−SiO−CaOガラス)60gを加え、3本ローラーで混練し、誘電体ペースト組成物(3)を得た。
この誘電体ペースト組成物(3)を、バーコーターを用いてソーダガラス板上全面に塗布した。これを熱風乾燥機中120℃で溶剤を乾燥し、550℃で10分間焼成し、膜厚50μmの誘電体層を形成した。
触針式表面粗さ計を用いて表面粗さRaを測定したところ1.0μmと凹凸の多い表面であった。凹凸のために透明性が損なわれていた。表面にひび割れがあり、耐圧性の低下が予想された。
このように、エチルセルロースを用いたペーストでは可塑剤を添加しないと凹凸の多い表面となるが、本発明のポリウレタン樹脂を用いると可塑剤なしでも平坦な表面が得られた。
封止用ガラスペースト組成物
[実施例B1]
[バインダー樹脂溶液(3)の製造]
200mlのガラス製セパラブルフラスコに上記のポリウレタン樹脂(1)を6g、溶剤のN−メチルピロリドン(関東化学)を94g仕込み、60℃に加熱しながら30分間攪拌して溶解し、バインダー樹脂溶液(3)を得た。
[封止用ガラスペースト組成物(1)の製造]
上記のバインダー樹脂溶液(3)10gにP−SnO−B系ガラス70gと無機フィラーの酸化錫粉末を20g加え、3本ロールミルで混練し、封止用ガラスペースト組成物(1)を得た。
[スクリーン印刷]
上記の封止用ガラスペースト組成物(1)をスクリーンを用いて、ソーダガラス板上に印刷した。厚みは100μmであった。糸引きは生じず、平坦な印刷面が得られた。これを空気中150℃で10分間乾燥後、空気中450℃で10分間焼成した。
[封止用ガラスの光沢]
焼成後の封止用ガラスの表面の光沢を目視で観察したが、光沢のある表面であり、ガラスの劣化は認められなかった。
[実施例B2]
実施例B1で用いた封止用ガラスペースト組成物(1)をスクリーンを用いて、実施例B1と同様にソーダガラス板上に印刷した。これを空気中150℃で10分間乾燥後、窒素中480℃で10分間焼成した。
【0061】
焼成後の封止用ガラスの表面の光沢を目視で観察したが、光沢のある表面であり、ガラスの劣化は認められなかった。
[実施例B3]
[封止用ガラスペースト組成物(2)の製造]
上記のバインダー樹脂溶液(3)20gにP−SnO−B系ガラス40gと無機フィラーの酸化錫粉末を40g加え、3本ロールミルで混練し封止用ガラスペースト組成物(2)を得た。
[スクリーン印刷]
上記の封止用ガラスペースト組成物(2)を、スクリーンを用いてソーダガラス板上に印刷した。厚みは80μmであった。糸引きは生じず、平坦な印刷面が得られた。これを空気中150℃で10分間乾燥後、空気中450℃で10分間焼成した。
[封止用ガラスの光沢]
焼成後の封止用ガラスの表面の光沢を目視で観察したが、光沢のある表面であり、ガラスの劣化は認められなかった。
(比較例B1)
エチルセルロース5gをN−メチルピロリドン95gに溶解した。このバインダー樹脂溶液10gにP−SnO−B系ガラス70gと無機フィラーの酸化錫粉末を20g加え、3本ロールミルで混練し封止用ガラスペースト組成物(3)を得た。
【0062】
上記の封止用ガラスペースト組成物(3)を、スクリーンを用いてソーダガラス板上に印刷した。厚みは110μmであった。糸引きは生じず、平坦な印刷面が得られた。これを空気中150℃で10分間乾燥後、空気中480℃で10分間焼成した焼成後の封止用ガラスの表面の光沢を目視で観察したが、表面に光沢がなく、ガラスの劣化が認められた。
(比較例B2)
アクリル樹脂(ポリ(ブチルメタクリレート))5gをN−メチルピロリドン95gに溶解した。このバインダー樹脂溶液10gにP−SnO−B系ガラス70gと無機フィラーの酸化錫粉末を20g加え、3本ロールミルで混練し封止用ガラスペースト組成物(4)を得た。
【0063】
上記の封止用ガラスペースト組成物(4)を、スクリーンを用いてソーダガラス板上に印刷した。厚みは平均して90μmであったが、糸引きが生じ、印刷面に凹凸が認められた。これを空気中150℃で10分間乾燥後、空気中480℃で10分間焼成した。
焼成後の封止用ガラスの表面の光沢を目視で観察したが、光沢のある表面であり、ガラスの劣化は認められなかった。ただし表面の凹凸は焼成後も残っていた。
エチルセルロースを用いたペーストでは空気中の焼成でガラスに劣化が認められたのに対して、本発明の封止用ガラスペースト組成物では空気中の焼成でガラスの劣化が認められなかった。更に窒素中でも焼成が可能であった。これは本発明の封止用ガラスペースト組成物が、低温での焼成や窒素中の焼成でも分解し易いので、封止用ガラスを劣化させ難いことを表している。
【0064】
本発明のペースト組成物は熱分解性とともに印刷特性にも優れており、PDP製造以外にもICパッケージの封止用ガラスペースト組成物として有用である。
隔壁材ペースト組成物
[実施例C1]
[ポリウレタン樹脂(2)の合成]
1000mlのSUS製セパラブルフラスコに市販のPEG#6000(三洋化成、数平均分子量8,630)を160gと市販のPTMEG#1000(保土ヶ谷化学、数平均分子量1,039)を40g仕込み、窒素シール下で150℃にて溶融した。これを攪拌しながら減圧下(3mmHg)で3時間乾燥した。残留する水分は200ppmであった。70℃まで温度を下げ、フラスコ内を1気圧の窒素で満たした。酸化防止剤としてBHT(ジ−ter−ブチルヒドロキシトルエン)を300ppm加えた。フラスコ内を攪拌しながら、上記の櫛形ジオール(1)を2.00g、ヘキサメチレンジイソシアナート(東京化成)を5.07g仕込んだ(NCO/OH=0.99mol/mol)。触媒としてDBTDLを0.05g添加すると、10分程で急激に増粘した。攪拌を止めて、70℃で2時間反応させた。120℃に温度を上げて30分間一定温度に保ち、その後フラスコから生成物を取り出した。生成物の重量平均分子量は30万であった。
【0065】
取り出した生成物を小片に裁断後放冷した。これを液体窒素で冷却し、小型の衝撃型電動ミルで粉砕した。粉砕物を篩にかけ、粒子径が600μm以下の粉体をバインダー樹脂(ポリウレタン樹脂(2))として得た。粉体の平均粒子径は400μmであった。
[バインダー樹脂溶液(4)の製造]
200mlのガラス製セパラブルフラスコに上記のポリウレタン樹脂(2)を20g、溶剤のN−メチルピロリドン(関東化学)を80g仕込み、60℃に加熱しながら1時間攪拌して溶解し、バインダー樹脂溶液(4)を得た。
[隔壁材ペースト組成物(1)の製造]
上記のバインダー樹脂溶液(4)20gにガラス粉末(PbO−B−SiO)60g、アルミナ20gを加え、3本ローラーで混練し隔壁材ペースト組成物(1)を得た。
[隔壁の形成]
上記の隔壁材ペースト組成物(1)をアプリケータを用いて、ソーダガラス板上全面に塗布した。熱風乾燥機で溶剤を除去し、厚み180μmの隔壁材層を得た。ドライフィルムレジストをラミネートし、遮光フィルムを載せ、露光し、現像し、未露光部分を1%化苛性ソーダ溶液用いて除去した。炭酸カルシウム粉末を用いて、サンドブラスト装置により90秒間サンドブラストを施した。サンドブラストによる研磨深さを測定したところ、110μmであり、適切な深さであった。断面形状を観察したところ、隔壁の壁面はほぼ平坦であり、オーバーサンドは認められなかった。
(比較例C1)
200mlのガラス製セパラブルフラスコにエチルセルロースを20g、溶剤のN−メチルピロリドン(関東化学)を80g仕込み、60℃に加熱しながら1時間攪拌して溶解し、バインダー樹脂溶液(5)を得た。
【0066】
上記のバインダー樹脂溶液(5)を20g取り、ガラス粉末(PbO−B−SiO)60g、アルミナ20gを加え、3本ローラーで混練し隔壁材ペースト組成物(2)を得た。
上記の隔壁材ペースト組成物(2)をアプリケータを用いて、ソーダガラス板上全面に塗布した。熱風乾燥機で溶剤を除去し、厚み180μmの隔壁材層を得た。ドライフィルムをラミネートし、遮光フィルムを載せ、露光し、現像し、未露光部分を1%化苛性ソーダ溶液用いて除去した。炭酸カルシウム粉末を用いて、サンドブラスト装置により90秒間サンドブラストを施した。サンドブラストによる研磨深さを測定したところ、100μmであり、適切な深さであった。断面形状を観察したところ、隔壁の壁面は中央部分が研磨されすぎて(オーバーサンドされて)凹みが生じていた。
【0067】
エチルセルロースを用いたペーストでは十分な深さまで研磨すると、隔壁側面がオーバーサンドされてしまい、サンドブラスト性に問題があった。本発明の隔壁材ペースト組成物を用いるとほぼ同じ深さまで研磨しても隔壁側面はオーバーサンドされず、サンドブラスト性が良好であった。
蛍光体ペースト組成物
[実施例D1]
[ポリウレタン樹脂(3)の合成]
1000mlのSUS製セパラブルフラスコに市販のPEG#6000(三洋化成、数平均分子量8,630)を200g仕込み、窒素シール下で150℃にて溶融した。これを攪拌しながら減圧下(3mmHg)で3時間乾燥した。残留する水分は200ppmであった。70℃まで温度を下げ、フラスコ内を1気圧の窒素で満たした。酸化防止剤としてBHT(ジ−ter−ブチルヒドロキシトルエン)を300ppm加えた。フラスコ内を攪拌しながら、上記の櫛形ジオール(1)を1.90g、ヘキサメチレンジイソシアナート(東京化成)を4.28g仕込んだ(NCO/OH=0.95mol/mol)。触媒としてDBTDLを0.05g添加すると、10分程で急激に増粘した。攪拌を止めて、70℃で2時間反応させた。120℃に温度を上げて30分間一定温度に保ち、その後フラスコから生成物を取り出した。生成物の重量平均分子量は29万であった。
【0068】
取り出した生成物を小片に裁断後放冷した。これを液体窒素で冷却し、小型の衝撃型電動ミルで粉砕した。粉砕物を篩にかけ、粒子径が600μm以下の粉体をバインダー樹脂(ポリウレタン樹脂(3))として得た。粉体の平均粒子径は400μmであった。
[バインダー樹脂溶液(6)の製造]
200mlのガラス製セパラブルフラスコに上記のポリウレタン樹脂(3)を9g、溶剤のN−メチルピロリドン(関東化学)を91g仕込み、60℃に加熱しながら30分間攪拌して溶解し、バインダー樹脂溶液(6)を得た。
[蛍光体ペースト組成物(1)の製造]
上記のバインダー樹脂溶液(6)50gに青色蛍光体粉末(BaMgAl1017:Eu)50gを加え、3本ローラーで混練し、青色用の蛍光体ペースト組成物(1)を得た。[スクリーン印刷]
上記の蛍光体ペースト組成物(1)を、スクリーンを用いてソーダガラス板上に印刷した。厚みは30μmであった。糸引きは生じず、平坦な印刷面が得られた。これを150℃で10分間乾燥後、450℃で10分間焼成した。
[蛍光体の輝度]
上記の蛍光体をガラス板から剥離し、蛍光体粉末を回収した。この粉末に紫外光(146nm)を照射し、蛍光体からの発光強度を計測した。未焼成の蛍光粉末からの発光強度を100%とすると、焼成後の蛍光体からの発光強度は96%であった。
[実施例D2]
[ポリウレタン樹脂(4)の合成]
1000mlのSUS製セパラブルフラスコに市販のPEG#6000(三洋化成、数平均分子量8,630)を200g仕込み、窒素シール下で150℃にて溶融した。これを攪拌しながら減圧下(3mmHg)で3時間乾燥した。残留する水分は200ppmであった。70℃まで温度を下げ、フラスコ内を1気圧の窒素で満たした。酸化防止剤としてBHT(ジ−ter−ブチルヒドロキシトルエン)を300ppm加えた。フラスコ内を攪拌しながら、上記の櫛形ジオール(1)を1.90g、ヘキサメチレンジイソシアナート(東京化成)を4.41g仕込んだ(NCO/OH=0.98mol/mol)。触媒としてDBTDLを0.05g添加すると、10分程で急激に増粘した。攪拌を止めて、70℃で2時間反応させた。120℃に温度を上げて30分間一定温度に保ち、その後フラスコから生成物を取り出した。生成物の重量平均分子量は47万であった。
【0069】
取り出した生成物を小片に裁断後放冷した。これを液体窒素で冷却し、小型の衝撃型電動ミルで粉砕した。粉砕物を篩にかけ、粒子径が600μm以下の粉体をバインダー樹脂(ポリウレタン樹脂(4))として得た。粉体の平均粒子径は400μmであった。
[バインダー樹脂溶液(7)の製造]
200mlのガラス製セパラブルフラスコに上記のポリウレタン樹脂(4)を6g、溶剤のN−メチルピロリドン(関東化学)を94g仕込み、60℃に加熱しながら30分間攪拌して溶解し、バインダー樹脂溶液(7)を得た。
[蛍光体ペースト組成物2の製造]
上記のバインダー樹脂溶液(7)50gに赤色蛍光体粉末((Y,Gd)BO:Eu)50gを加え、3本ローラーで混練し赤色用の蛍光体ペースト組成物(2)を得た。
[スクリーン印刷]
上記の蛍光体ペースト組成物(2)を、スクリーンを用いてソーダガラス板上に印刷した。厚みは30μmであった。糸引きは生じず、平坦な印刷面が得られた。これを150℃で10分間乾燥後、450℃で10分間焼成した。
[蛍光体の輝度]
上記の蛍光体をガラス板から剥離し、蛍光体粉末を回収した。この粉末に紫外光(146nm)を照射し、蛍光体からの発光強度を計測した。未焼成の蛍光粉末からの発光強度を100%とすると、焼成後の蛍光体からの発光強度は95%であった。
(比較例D1)
エチルセルロース5gをN−メチルピロリドン95gに溶解した。この溶液50gに青色蛍光体粉末(BaMgAl1017:Eu)50gを加え、3本ローラーで混練し青色用の蛍光体ペースト組成物(3)を得た。
【0070】
上記の蛍光体ペースト組成物(3)をスクリーンを用いて、ソーダガラス板上に印刷した。厚みは30μmであった。糸引きは生じず、平坦な印刷面が得られた。これを150℃で10分間乾燥後、500℃で10分間焼成した上記の蛍光体をガラス板から剥離し、蛍光体粉末を回収した。この粉末に紫外光(146nm)を照射し、蛍光体からの発光強度を計測した。未焼成の蛍光粉末からの発光強度を100%とすると、焼成後の蛍光体からの発光強度は80%であった。
エチルセルロースを用いたペーストでは500℃焼成で発光の相対強度は80%であったのに対し、本発明の蛍光体ペースト組成物では450℃焼成で発光の相対強度が95%以上であった。これは本発明の蛍光体ペースト組成物が、低温焼成でも炭化し難いので、蛍光体の輝度を低下させ難いことを表している。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のペースト組成物は、PDP(プラズマディスプレイ)の誘電体層の形成、PDP等の封止用ガラス層の形成、PDPの隔壁材層の形成、PDPの蛍光体層の形成に用いることができる。本発明のペースト組成物はディスプレイ用のペースト組成物として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
[i]
下式(1)

(式中、Aは、両末端に水酸基を有するポリオキシアルキレングリコール(化合物A)HO−A−OHの脱アルコール残基(2価基)であり、
Bは、ジイソシナアート(化合物B)OCN−B−NCOの脱NCO残基(2価基)である。)
で表わされる繰り返し単位(a)と、
下式(2)

(式中、Dは、分子内に炭素数4〜21の炭化水素基(1価基)を少なくとも2個以上有する櫛形ジオールHO−D−OHの脱アルコール残基(2価基)であり、
Bは、ジイソシナアート(化合物B)OCN−B−NCOの脱NCO残基(2価基)である。)
で表される繰り返し単位(b)とからなり、
繰り返し単位(a)のモル比が0.35〜0.99であり、繰り返し単位(b)のモル比が0.01〜0.65(ただし、両者の合計を1とする。)であるポリウレタン樹脂、
[ii]溶剤、および
[iii]粉末
を含有することを特徴とするペースト組成物。
【請求項2】
前記櫛形ジオールHO−D−OHが、
下式(3)

(式中、Rは、炭素原子数1〜20の炭化水素基または窒素含有炭化水素基であり、RおよびRは、炭素原子数4〜21の炭化水素基であり、R、RおよびR中の水素の一部または全部はフッ素、塩素、臭素または沃素で置換されていてもよく、RとRとは同じでも異なっていてもよい。
YおよびY’は、水素、メチル基またはCHCl基であり、YとY’とは同じでも異なっていてもよい。
ZおよびZ’は、酸素、硫黄またはCH基であり、ZとZ’とは同じでも異なっていてもよい。
nは、Zが酸素の場合は0〜15の整数であり、Zが硫黄またはCH基の場合は0である。
また、n’は、Z’が酸素の場合は0〜15の整数であり、Z’が硫黄またはCH基の場合は0であり、nとn’とは同じでも異なっていてもよい。)
で表わされる櫛形ジオール(化合物D)、または
下式(4)

(式中、Rは、炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、RおよびRは、炭素原子数4〜21の炭化水素基であり、R、RおよびR中の水素の一部または全部はフッ素、塩素、臭素または沃素で置換されていてもよく、RとRとは同じでも異なっていてもよい。
Y、Y’およびY”は、水素、メチル基またはCHCl基であり、YとY’とは同じでも異なっていてもよい。
ZおよびZ’は、酸素、硫黄またはCH基であり、ZとZ’とは同じでも異なっていてもよい。
は、全炭素原子数が2〜4のアルキレン基であり、
kは、0〜15の整数である。
nは、Zが酸素の場合は0〜15の整数であり、Zが硫黄またはCH基の場合は0である。
また、n’は、Z’が酸素の場合は0〜15の整数であり、Z’が硫黄またはCH基の場合は0であり、nとn’とは同じでも異なっていてもよい。)
で表わされる櫛形ジオール(化合物D’)であることを特徴とする請求項1に記載のペースト組成物。
【請求項3】
前記粉末[iii]が低融点ガラス粉末であることを特徴とする請求項1または2に記載のペースト組成物。
【請求項4】
前記粉末[iii]として、さらに無機フィラー(前記低融点ガラス粉末を除く。)を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のペースト組成物。
【請求項5】
前記粉末[iii]が蛍光体粉末であることを特徴とする請求項1または2に記載のペースト組成物。
【請求項6】
前記低融点ガラスが、誘電体ガラス粉末であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のペースト組成物。
【請求項7】
前記低融点ガラスが、封止用ガラス粉末であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のペースト組成物。
【請求項8】
前記低融点ガラスが、隔壁材ガラス粉末であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のペースト組成物。
【請求項9】
請求項1〜4,6のいずれかに記載されたペースト組成物から形成される誘電体層。
【請求項10】
請求項1〜4,7のいずれかに記載されたペースト組成物から形成される封止体。
【請求項11】
請求項1〜4,8のいずれかに記載されたペースト組成物から形成される隔壁。
【請求項12】
請求項1,2,5のいずれかに記載されたペースト組成物から形成される蛍光体。
【請求項13】
請求項1〜4,6のいずれかに記載されたペースト組成物を、基板上に塗布または印刷した後に焼成することを特徴とする誘電体層の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜4,7のいずれかに記載されたペースト組成物を、基板上に塗布または印刷した後に焼成することを特徴とする封止体の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜4,8のいずれかに記載されたペースト組成物を、基板上に塗布または印刷した後に焼成することを特徴とする隔壁の製造方法。
【請求項16】
請求項1,2,5のいずれかに記載されたペースト組成物を、基板上に塗布または印刷した後に焼成することを特徴とする蛍光体の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/040280
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【発行日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515023(P2005−515023)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015943
【国際出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(501140544)三井化学ポリウレタン株式会社 (115)
【Fターム(参考)】