説明

ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ阻害活性を有する化合物及びその使用方法

ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3−K)活性を阻害する化合物及び疾患治療におけるその調製方法及び使用方法を開示する。PI3−K活性を阻害する化合物及びPI3−K阻害化合物を使用して、癌細胞成長を阻害するか又は、PI3−Kが白血球の機能において役割を担う免疫疾病及び炎症を治療する方法をも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、概してホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3−K)酵素、特にPI3−Kの活性の阻害剤並びにかかる物質の使用方法に関する。
【0002】
先行技術
全ての細胞の連絡の挙動は、外部シグナル、例えばホルモン、神経伝達物質及び成長因子を細胞内二次メッセンジャーに変換するシグナリング系によって制御されている。ホスホイノシチドポリリン酸(PIPn)は、細胞のシグナリングにおいて鍵となる脂質二次メッセンジャーである(マルチン著、細胞発生生物学年次報告書14号:231〜2614頁(1998年)(Martin, Ann. Rev. Cell Dev. Biol., 14:231-2614. (1998))。その活性はそのリン酸化状態によって決められるので、その脂質を修飾する酵素は、シグナリング事象の正常な実施にとって中心的存在である(レスリーら著、化学紀要101号:2365〜2380頁(2001年(Leslie, et al., Chem Rev, 101:2365-80. (2001)))。そのプロセスの破綻は、多くの疾病状態、例えば癌、糖尿病、炎症及び心臓血管性疾患に共通するものである。
【0003】
ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3−K)によるホスホイノシチドポリホスフェートPI(3,4,5)P又はPIPの生成は、細胞の増殖、分化、アポトーシス及び移動を制御する経路において重要である。PIPレベル及びその脂質生成物レベルの正常な調節に作用する改変は、種々の癌の型と関連している(フィリップスら著、癌83号:41〜47頁(1998年)(Phillips et al., Cancer 83:41-47. (1998))、シャイエステら著、ネイチャージェネティクス21号:99〜102頁(1999年)(Shayesteh, et al., Nat Genet, 21:99-102. (1999))、マーら著、癌遺伝子19号:2739〜2744頁(2000年)(Ma, er al., Oncogene, 19: 2739-44. (2000)))。PI3−Kシグナリングの調節に作用する変異は、異常な増殖及び腫瘍形成をもたらす(リーら著、サイエンス275号:1943〜1947頁(1997年)(Li, et al., Science, 275:1943-7. (1997))、テンら著、癌研究57号:5221〜5225頁(1997年)(Teng, et al., Cancer Res, 57:5221-5. (1997))、シャイエステら著、遺伝科学21号:99〜102頁(1999年)(Shayesteh, et al., Nat Genet, 21:99-102. (1999))、マーら著、癌遺伝子19号:2739〜2744頁(2000年)(Ma, er al., Oncogene, 19: 2739-44. (2000)))。
【0004】
PI3−Kは、成長因子の刺激に応じて受容体型チロシンキナーゼによって活性化されると、PIPの形成を触媒する。PI3−Kは、細胞のPIPレベルを増加させることによって、シグナル伝達経路において作用する所定の分子複合体を形成を誘導する。とりわけ、PI3−K活性は、その下流の標的、PKB/Aktの活性化を介してアポトーシスを抑制し、そして細胞の生存を促進する(フランケら著、セル81号:727〜736頁(1995年)(Franke, et, al., Cell, 81:727-736. (1995))、ダッタら著、生物化学紀要271号:30835〜30839頁(1996年)(Datta, et al., J Biol Chem, 271:30835-9. (1996)))。脂質ホスファターゼPTEN及びSHIPは両方とも、細胞内のPIPレベルを、PI(4,5)P、又はPI(3,4)Pの何れかに変換することによって低下させる作用を有する2種の酵素である。
【0005】
現在、PI3−キナーゼ酵素ファミリーは、それらの基質特異性に基づいて3つのクラスに分けられている。クラスIのPI3−Kは、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルイノシトール−4−リン酸及びホスファチジルイノシトール−4,5−ビスリン酸(PIP)をリン酸化して、それぞれホスファチジルイノシトール−3−リン酸(PIP)、ホスファチジルイノシトール−3,4−ビスリン酸及びホスファチジルイノシトール−3,4,5−三リン酸を生成できる。クラスIIのPI3−Kは、PI及びホスファチジルイノシトール−4−リン酸をリン酸化するのに対して、クラスIIIのPI3−KはPIをリン酸化できるにすぎない。ヒトにおいては、8種の別々のPI3−Kアイソフォームが特性決定されている。
【0006】
PI3−キナーゼの初期の精製及び分子クローニングによって、該キナーゼはp85及びp110サブユニットから構成されるヘテロ二量体であることが明らかになった(オーツら著、セル65号:91〜104頁(1991年)Otsu et al., Cell, 65:91-104. (1991);ハイルスら著、セル70号:419〜429頁(Hiles et al., Cell, 70:419-29. (1992)))。それ以降、4種の別々のクラスIのPI3−Kが同定されており、それらはPI3−Kアルファ、ベータ、デルタ及びガンマと称されており、それぞれ別々の110kDaの触媒サブユニット及び調節サブユニットから構成されている。特に、その触媒サブユニットのうちの3種、すなわちp110アルファ、p110ベータ及びp110デルタは、それぞれ同一の調節サブユニットp85と相互作用する一方で、p110ガンマは、別の調節サブユニットp101と相互作用する。PI3−キナーゼアルファ、ベータ及びデルタの亜型のそれぞれにおいては、このp85サブユニットが、標的タンパク質中においてそのSH2ドメインとリン酸化されたチロシン残基(適切な配列のコンテクスト内に存在する)との相互作用によってPI3−キナーゼを形質膜に局在させる。p85の2種のアイソフォーム、ユビキタスに発現されるp85アルファと、主として脳及びリンパ組織中に見出されるp85ベータとが同定されている。p85サブユニットと、PI3−キナーゼp110アルファ、ベータ又はデルタの触媒サブユニットとの会合は、それらの酵素の触媒活性及び安定性にとって明らかに必要とされるものである。更に、Rasタンパク質の結合も、PI3−キナーゼ活性をアップレギュレートする。細胞のPI3−キナーゼ、一般的に、特にPI3−Kアルファ及びPI3−Kガンマの機能についての情報がここ最近で多数蓄積しているが、個々のアイソフォームが担う役割は、依然として明確に規定されるべきである。p110アイソフォームに関する詳細は、米国特許番号第5858753号;同第5822910号;及び同第5985589号に見い出すこともできる。
【0007】
酵素ファミリーの個々のメンバーに対する特異的な阻害剤は、それぞれの酵素の機能を解明する非常に貴重な手段を提供する。PI3−K阻害剤の実験的使用は、通常の機能時及び疾病時のPI3−K活性の役割についての現在の理解をもたらしている。この理解にあたって使用される主要な薬理学的手段は、ウォルトマンニン(wortmannin)(ポウィスら著、癌研究54号:2419〜2423(199)(Powis, et al., Cancer Res, 54:2419-23. (199))、及びバイオフラボノイド化合物、例えばクエルセチン(マターら著、生物化学・生物物理研究論文186号:624〜631頁(1992年)(Matter et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 186:624-631. (1992)))及びLY294002(ヴラホスら著、生物化学紀要、269号:5241〜5248頁(1994年)(Vlahos, et al., J Biol Chem, 269:5241-8. (1994))である。PI3−Kを阻害するのに必要なウォルトマンニン濃度は1〜100nMに及び、かつ阻害は触媒部位の共有結合修飾を介して生ずる(ワイマンら著、分子細胞生物学16号:1722〜1733頁(1996年)(Wymann et al., Mol. Cell. Biol. 16:1722-1733. (1996)))。バイオフラボノイドのクエルセチンは、PI3−Kを3.8μMというIC50で有効に阻害するが、選択性が欠けている。それというのも、それはまたPI4−キナーゼ及び幾つかのプロテインキナーゼへの阻害活性を示すからである。LY294002はクエルセチンをモデルとして用いて作製された合成化合物であり、PI3−Kを100μMというIC50で阻害する(ブラホスら著、生物化学紀要269号:5241〜5248頁(Vlahos, et al., J Biol Chem, 296:5241-8. (1994)))。クエルセチン及びLY294002は両方ともPI3−KのATP結合部位の競合阻害剤であるが、LY294002のみがPI3−K阻害についての特異性を示し、かつ他の型のキナーゼには作用しない。ウォルトマンニン及びLY294002は両方ともPI3−Kの生物学的役割を特性決定するために集中的に使用されているが、何れも個々のPI3−Kアイソフォームについての選択性を示さない。従って、これらの化合物を個々のクラスIのPI3−キナーゼの役割の研究に活用することは制限される。
【0008】
PI3−K阻害剤は、細胞増殖疾患に有用な新型の薬物療法、特に抗癌剤であると見込まれている。PI3−K阻害剤として、ウォルトマンニン(H.ヤノら著、生物化学紀要263号、16178頁(1993年)(H.Yano et al., J. Miol. Chem., 263, 16178. (1993))及び、以下に式によって示されるLY294002(J.ヴラホスら著、生物化学紀要269号、5241頁(1994年)(J. Vlahos et al., J.Biol. Chem., 269, 5241. (1994)))が公知である。しかしながら、より強力な癌細胞成長の阻害活性を有するPI3−K阻害剤の創作が望まれている。
【0009】
多くの発癌のシグナリング経路はPI3−Kによって媒介されるので、PI3−K活性を標的とする阻害剤は癌治療に応用することができる。比較ゲノムハイブリダイゼーションを使用する研究によって、DNA配列のコピー数が頻発して異常な、卵巣癌の発生又は進行に関与する遺伝子をコードしうる幾つかの領域が明らかになった。卵巣癌及び他の癌の約40%においてコピー数が増加することが見い出されたある領域は、PI3−Kアルファの触媒サブユニットのp110アルファをコードするPIK3CA遺伝子を含有する。このPIK3CAのコピー数とPI3−キナーゼ活性との関連によって、PIK3CAは癌遺伝子の候補になる。それというのも、広範囲の癌に関連する機能がPI3−キナーゼ媒介性のシグナリングと関連しているからである。PIK3CAは、卵巣癌においてしばしばコピー数が増加され、かつこのコピー数の増加はPIK3CAの転写、p110アルファタンパク質発現及びPI3−キナーゼ活性の増加に関連する(シャイエステら著、ネイチャージェネティクス21号:99〜102頁(1999年)(Shayesteh, et al., Nature Genet, 21:99-102. (1999)))。更に、PI3−K活性の増加及びAktの活性化を示す卵巣癌細胞株をPI3−キナーゼ阻害剤で処理すると、増殖が低下し、かつアポトーシスが増加した(シャイエステら著、ネイチャージェネティクス21号:99〜102頁(1999年)(Shayesteh, et al., Nature Genet, 21:99-102. (1999))、ユアンら著、癌遺伝子19号:2324〜2330頁(2000年)(Yuan et al., Oncogene 19:2324-2330. (2000)))。このように、PI3−Kアルファは、卵巣癌において重要な役割を担っている。増幅されたPIK3CAを有する頸部癌細胞株においては、遺伝子生成物の発現が増加し、かつ高いPI3−キナーゼ活性と関連していた(マーら著、癌遺伝子19号:2739〜2744頁(2000年)(Ma et al., Oncogene 19:2739-2744, (2000)))。このように、頸部癌におけるPI3−キナーゼアルファの発現の増加は、細胞増殖を促進し、かつアポトーシスを減らしうる。更に、PIPを分解する脂質ホスファター及び腫瘍抑制因子PTEN、3′ホスファターゼの変異は、癌に関連する最も一般的な変異の1種であり、特に神経膠芽細胞腫、前立腺癌、子宮癌及び乳癌と関連している(リーら著、サイエンス275号:1943〜1947頁(1997年)(Li et al., Science 275:1943-1947. (1997))、テンら著、癌研究57号:5221〜5225頁(1997年)(Teng et al., Cancer Res. 57: 5221-5225. (1997))、アリら著、国立癌研究所紀要91号:1922〜1932(1999年)(Ali et al., J. National Cancer Institute, 91: 1922-1932. (1999))、シンプソン、パーソン著、実験細胞研究264号:29〜41頁(2002年)(Simpson and Parsons, Exp. Cell Res. 264:29-41. (2002)))。PI3−K活性は、その下流の標的PKB/Aktの活性化を介してアポトーシスを抑制し、かつ細胞の生存を長期にわたって促進する(フランケら著、セル81号:727〜736頁(1995年)(Franke, et, al., Cell, 81:727-736. (1995))、ダテートら著、生物化学紀要271号:30835〜30839頁(1996年)(Dattaet, et al., J Biol Chem, 271:30835-30839. (1996)))。Aktの活性化及び増幅は、多くの癌に見られる(テスタ、ベリコーサ著、米国科学アカデミー紀要98号:10983〜10985頁(2002年)(Testa and Bellicosa, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98: 10983-10985. (2002)))。
【0010】
PI3−K阻害剤での処理は、幾つかの癌細胞株の増殖を阻止し、かつ卵巣癌腫に加え腫瘍異種移植モデルに有効な処理であることが示されている。Aktは、多数の小細胞癌ではない肺癌細胞株において活性化され、そしてPI3−K阻害剤での処理は、それらの細胞の増殖停止をもたらす(ブログナルドら著、癌研究60号:6353〜6358頁(2000年)(Brognard et al., Cancer Res. 60:6353-6358. (2000))、リーら著、生物化学紀要、電子出版(2003年)(Lee et al., L. Biol. Chem. electronic publication, (2003)))。このPI3−K/Akt経路はまた、多数のヒト膵臓癌細胞株中で構成的に活性化され、そしてPI3−K阻害剤での処理はそれらの細胞株のアポトーシスを誘導する。腫瘍の成長及び転移の減少は、膵臓癌の異種移植モデルにおけるPI3−K阻害剤での処理についても観察された(ペルジーニら著、外科研究紀要90号:39〜44(2000年)(Perugini et al., J. Surg. Res. 90:39-44. (2000))、ボンダーら著、分子癌療法1号:989〜997頁(2002年)(Bondar et al., Mol. Cancer Ther. 1:989-997. (2002)))。LY204002での処理は、PTEN欠損ヒト悪性神経膠腫細胞の成長停止及びアポトーシスを誘導した(シングウら著、神経外科紀要98号:154〜161頁(2002年)(Shingu et al., J. Neurosurg. 98:154-161. (2003)))。LY294002は、ヒト結腸癌細胞株の成長停止及びマウス中の結腸癌腫の異種移植片の腫瘍成長の抑制をもたらす(センバら著、臨床癌研究8号:1957〜1963頁(2002年)(Semba et al., Clin Cancer Res.8: 1957-1963. (2002)))。PI3−K阻害剤は、インビトロでの足場非依存性の成長及びインビボでの肝臓癌細胞の転移を阻害する(ナカニシら著、癌研究62号:2971〜2975頁(2002年)(Nakanishi et al., Clin Cancer Res. 62: 2971-2975. (2002)))。バーキットリンパ腫細胞をLY294002で処理すると、アポトーシスが誘導される(ブレナンら著、癌遺伝子21号:1263〜1271頁(2002年)(Brennan et al., Oncogene 21: 1263-1271. (2002)))。LY294002はまた、多種の薬剤に耐性を有する細胞のアポトーシスを誘導することが示されている(ニコルソンら著、癌著述集190号:31〜36頁(2003年)(Nicholson et al., Cancer Lett. 190: 31-36. (2003)))。このように、PI3−K阻害剤は、PI3−K又はPKB/Aktレベルの活性化又は増加を示す多くの腫瘍並びにPTENを欠損する腫瘍に好適な療法剤でありうる。
【0011】
幾つかの研究は、PI3−K経路を標的とする作用物質が、種々の癌の型における標準的な化学療法剤の作用を高めうることを示している。このように、PI3−K阻害剤は、所定の癌についての新規アジュバント療法としての価値を有しうる。PI3−K阻害剤は、AKTの構成的なリン酸化及び活性化を示す膵臓癌腫細胞のアポトーシスを誘導し、かつ最適以下の用量は、最適以下の用量のゲムシタビンと組み合わせた際に付加的な腫瘍成長の阻害をもたらす(Ngら著、癌研究60号:5451〜5455PI3−K(2000年)(Ng, et al., Cancer Res, 60:5451-5. (2000))、ボンダーら著、分子癌療法1号:989〜997PI3−K(2002年)(Bondar et al., Mol. Cancer Ther. 1:989-997. (2002)))。PI3−K阻害はまた、膵臓癌腫細胞の非ステロイド抗炎症剤(NSAID)スリンダクに対する応答性を増加させる(イプ−シュナイダーら著、胃腸外科紀要7号:354〜363頁(2003年)(Yip-Schneider, et al., J Gastrointest Surg, 7:354-63. (2003)))。マウスの膵臓癌の異種移植モデルにおいては、ウォルトマンニンとゲミシタビンとの組合せはまた、それぞれの作用物質を単独で用いる処理に対して腫瘍のアポトーシス誘導の効能を増加させる(Ngら著、臨床癌研究7号:3269〜3275頁(2001年)(Ng, et al., Clin Cancer Res, 7:3269-75. (2001)))。無胸腺マウスの卵巣癌の異種移植モデルにおいては、LY294002とパクリタクセルとの組合せ処理は、パクリタクセルによって誘導される腫瘍細胞のアポトーシスの効能の増加をもたらし、かつLY294002のレベルを減らして使用することを可能にして、その際、皮膚科学的毒性をほとんどもたらさない(フーら著、癌研究62号:1087〜1092頁(2002年)(Hu, et al., Cancer Res, 62:1087-92. (2002)))。HL60ヒト白血病細胞は、PI3−K阻害剤で処理すると、細胞毒性薬剤での処理に対する感作を示し、Fasによって誘導されるアポトーシスを示し、このことは、治療薬剤耐性の急性骨髄性白血病におけるPI3−K阻害の役割を示唆している(オゴールマンら著、白血病14号:602〜611頁(2000年)(O'Gorman, et al., Leukemia, 14:602-11. (2000))、オゴールマンら著、白血病研究25号:801〜811頁(2001年)(O'Gorman, et al., Leuk Res, 25:801-11. (2001)))。PI3−K阻害は、進行性結腸癌細胞株において、酪酸ナトリウム、ゲムシタビン及び5−フルオロウラシルのアポトーシス作用を高める(ワンら著、臨床癌研究8号:1940〜1947頁(2002年)(Wang, et al., Clin Cancer Res, 8:1940-7. (2002)))。LY294002は、PTEN変異又はerbB2過剰発現を示す乳癌細胞株において、ドキソルビシン、トラスツズマブ、パクリタクセル、タモキシフェン及びエトポシドによって誘導されるアポトーシスを増加する(クラークら著、分子癌療法1号:707〜717頁(2002年)(Clark, et al., Mol Cancer Ther, 1:707-17. (2002)))。PI3−K阻害は、小細胞癌の肺癌細胞におけるエトポシドのアポトーシス誘導作用を増加する(クリスタルら著、分子癌療法1号:913〜922(2002年)(Krystal, et al., Mol Cancer Ther, 1:913-22. (2002)))。
【0012】
PI3−K阻害剤はまた、癌治療用の化学療法剤の作用を高めるのに加え、腫瘍の放射線治療に対する反応を高めうる。PI3−K阻害剤は、構成的に活性なH−rasについてトランスフェクションされた乳癌細胞の放射線耐性を元に戻し(リアンら著、分子癌療法2号:353〜360(2003年)(Liang. et al., Mol Cancer Ther, 2:353-60. (2003)))、かつPI3−K阻害剤は、放射線によって誘導される腫瘍血管内皮細胞のアポトーシス及び細胞毒性を高める(エドワーズら著、癌研究62号:4671〜4677頁(2002年)(Edwards, et al., Cancer Res, 62:4671-7. (2002)))。このように、PI3−K阻害剤は、腫瘍細胞及び腫瘍血管の放射線療法に対する反応を両方とも高めるのに使用できるものであった。
【0013】
米国特許第6403588号は、優れたPI3−K阻害活性及び細胞成長阻害活性を有するイミダゾピリジン誘導体を開示している。米国特許第5518277号は、PI3−Kデルタ活性を阻害する化合物を開示しており、それにはPI3−Kデルタ活性を選択的に阻害する化合物が含まれる。しかしながら、これら全種の化合物は、本発明の化合物とは異なる構造を有する。
【0014】
発明の概要
PI3−Kポリペプチド阻害剤を開発することが有利であることが見出されている。特に、PI3−K阻害剤は、PI3−Kアイソザイムの役割を調査すること、及びそのアイソザイムの活性を調節する医薬品の開発することにとって望ましい。
【0015】
本発明の一実施態様は、式I、式II又は式III;
【0016】
【化1】

[式中、nは、0〜2から選択された整数であってよい]によって表される一般構造を有する、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3−K)阻害剤として有用な化合物を提供することである。
【0017】
一実施態様においては、R及びRは、それぞれ無関係に、水素、アルキル、アルケニル、アリール、ヘタリール、アラルキル、ヘタラルキル、少なくとも1個の置換基で置換されたアルキル、少なくとも1個の置換基で置換されたアリール、少なくとも1個の置換基で置換されたヘタリール、少なくとも1個の置換基で置換されたアラルキル及び少なくとも1個の置換基で置換されたヘタラルキルからなる群から選択された構成成分であってよい。別の実施態様においては、Rは、水素、アルキル、アルケニル、アラルキル、少なくとも1個の置換基で置換されたアルキル、少なくとも1個の置換基で置換されたアラルキル、CO−R、SO−R;CO−O−R、CO−N−R及びRからなる群から選択された構成成分であってよい。付加的な実施態様においては、R及びRは、それぞれ無関係に、水素、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アラルキル、アリール、少なくとも1個の置換基で置換されたアルキル、少なくとも1個の置換基で置換されたシクロアルキル、少なくとも1個の置換基で置換されたアリール及び少なくとも1個の置換基で置換されたアラルキルからなる群から選択された構成成分であってよい。
【0018】
本発明の一実施態様は、式I、式II又は式IIIで表される一般構造を有し、その式中、前記のアルキル、シクロアルキル又はアラルキルは、C1−15アルキル、C3−8シクロアルキル、C2−18アルケニルであるか若しくはアラルキル基が、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、カルバモイル、モノ−又はジ−C1−4アルキル−カルバモイル、カルボキシ、C1−4アルコキシ−カルボニル、スルホ、ハロゲン、C1−4アルコキシ、フェノキシ、ハロフェノキシ、C1−4アルキルチオ、メルカプト、フェニルチオ、ピリジルチオ、C1−4アルキルスルフィニル、C1−4アルキルスルホニル、アミノ、C1−3アルカノイルアミノ、モノ−又はジ−C1−4アルキルアミノ、4〜6員の環式アミノ、C1−3アルカノイル、ベンゾイル及び5〜10員の複素環式化合物の基からなる群から選択された1〜5個の置換基で置換された、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3−K)阻害剤として有用な化合物である。
【0019】
本発明の別の実施態様は、式I、式II又は式IIIで表される一般構造を有し、その式中、前記アルキルは、1〜15個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝鎖状の炭化水素鎖であり、前記アリールは、6〜14個の炭素原子を有する芳香族環状炭化水素基であり、前記ヘタリールは、酸素、硫黄及び窒素から選択された1〜4個のヘテロ原子を含有する5又は6員の複素単環式化合物の基であるか又は、酸素、硫黄及び窒素から選択された1〜6個のヘテロ原子を含有する縮合複素二環化合物の基であり、前記置換されたアリールは、ハロゲン、C1−4アルキル、C1−4ハロアルキル、C1−4ハロアルコキシ、C1−4アルコキシ、C1−4アルキルチオ、ヒドロキシ、カルボキシ、シアノ、ニトロ、アミノ、モノ−又はジ−C1−4アルキルアミノ、ホルミル、メルカプト、C1−4アルキル−カルボニル、C1−4アルコキシ−カルボニル、スルホ、C1−4アルキルスルホニル、カルバモイル、モノ−又はジ−C1−4アルキル−カルバモイル、オキソ及びチオキソからなる群から選択された1〜4個の置換基で置換されたC6−14アリール基であり:かつ前記置換されたヘタリールは、ハロゲン、C1−4アルキル、C1−4ハロアルキル、C1−4ハロアルコキシ、C1−4アルコキシ、C1−4アルキルチオ、ヒドロキシ、カルボキシ、シアノ、ニトロ、アミノ、モノ−又はジ−C1−4アルキルアミノ、ホルミル、メルカプト、C1−4アルキル−カルボニル、C1−4アルコキシ−カルボニル、スルホ、C1−4アルキルスルホニル、カルバモイル、モノ−又はジ−C1−4アルキル−カルバモイル、オキソ及びチオキソ基からなる群から選択された1〜4個の置換基で置換されたヘタリールである、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3−K)阻害剤として有用な化合物である。
【0020】
本発明の別の実施態様は、式I、式II又は式IIIで表される一般構造を有し、その式中、R及びRは、それぞれ無関係に、C1−6アルキル、フェニル、ナフチル、ヘタリール置換されたC1−6アルキル及びフェニル置換されたC1−6アルキルからなる群から選択された構成要素であり;Rは、H、C1−6アルキル、アラルキル置換されたC1−6アルキル、アラルキル基、CO−R又はSO−R;CO−O−R、CO−N−R及びRからなる群から選択された構成要素であり;かつR及びRは、H、C1−6アルキル、置換されたC1−6アルキル、シクロアルキル及びアラルキル基からなる群から選択された構成要素であってよい、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3−K)阻害剤として有用な化合物である。
【0021】
本発明の別の実施態様は、式I、式II又は式IIIで表される一般構造を有し、その式中、nは、1であり;Rは、直鎖状C1−6アルキル、分枝鎖状C1−6アルキル及びフェニル基からなる群から選択された構成要素であり;Rは、フェニル、C1−6アルキルフェニル、C1−6ジアルキルフェニル、C1−6アルコキシフェニル、ハロフェニル、ジハロフェニル及びニトロフェニル基からなる群から選択された構成要素であり;Rは、水素、直鎖状C1−6アルキル及び分枝鎖状C1−6アルキル基から選択された構成要素であり;Rは、アリールオキシ、アルキルアリールオキシ、ハロアリールオキシ、直鎖状C1−6アルキル、分枝鎖状C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、C1−6、ハロアリール及びハロ−C1−4アルキルアリール基からなる群から選択された少なくとも1個の置換基で置換されたフェニルであり;かつRは、直鎖状又は分枝鎖状C1−6アルキル基である、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3−K)阻害剤として有用な化合物である。
【0022】
本発明の好ましい実施態様は、式I、式II又は式IIIで表される一般構造を有し、その式中、Rは、フェニル又はt−ブチル基であり;Rは、メチルフェニル、ジメチルフェニル、t−ブチル、メトキシフェニル、クロロフェニル、ジクロロフェニル、フルオロフェニル及びニトロフェニル基からなる群から選択された構成要素であり;Rは、水素であり;Rは、フェノキシ、ベンジルオキシ、ハロフェノキシ、直鎖状C1−6アルキル、分枝鎖状C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、C1−6、ハロフェニル及びハロ−C1−4アルキルフェニル基からなる群から選択された少なくとも1個の置換基で置換されたフェニルであり;かつRは、直鎖状又は分枝鎖状C1−4アルキル基である、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3−K)阻害剤として有用な化合物である。
【0023】
本発明の特に好ましい実施態様は、式I、式II又は式IIIで表される一般構造を有し、その式中、Rは、フェニル又はt−ブチルであり;Rは、メチルフェニル、ジメチルフェニル、t−ブチル、メトキシフェニル、クロロフェニル、ジクロロフェニル、フルオロフェニル及びニトロフェニル基からなる群から選択された構成要素であり;Rは、水素であり;Rは、フェノキシ、ベンジルオキシ、ハロフェノキシ、直鎖状C1−6アルキル、分枝鎖状C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、C1−6、ハロフェニル及びハロ−C1−4アルキルフェニル基からなる群から選択された少なくとも1個の置換基で置換されたフェニルであり;かつRは、メチル基である、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3−K)阻害剤として有用な化合物である。
【0024】
本発明は更に、新規医薬品組成物、特に本発明の化合物及び製剤学的に許容される担体を有するPI3−K阻害剤及び抗腫瘍剤に関する。
【0025】
本発明の更なる実施態様は、PI3−Kによって作用を受ける疾患(特に癌)を治療する方法において、本発明の化合物の有効量をヒト又は動物に投与する方法に関する。
【0026】
本発明の付加的な特徴及び利点は、本発明の特徴を一緒に例示する付属の図と関連して以下に記載する詳細な説明から明らかである。
【0027】
詳細な説明
目下のところ、図で説明する実施例を参照し、かつその同一物を説明するために、特定の用語を本明細書中で使用する。それにもかかわらず、それによって本発明の範囲は限定されないという意図が理解されるはずである。この開示を所有する当業者に想起される本明細書中で説明する本発明の特徴の変更又は更なる変形、本明細書中で説明する本発明の原理の付加的な適用が、本発明の範囲内で考慮されるべきである。
【0028】
本発明の実施態様は、PI3−K阻害剤及び抗腫瘍剤として有用な新規化合物に関する。本発明の化合物は、以下の一般式:
【0029】
【化2】

[式中、nは、0〜2から選択された整数であってよい]の1種によって表される。
【0030】
一実施態様においては、R及びRは、それぞれ無関係に、水素、アルキル、アルケニル、アリール、ヘタリール、アラルキル、ヘタラルキル、少なくとも1個の置換基で置換された置換されたアルキル、少なくとも1個の置換基で置換されたアリール、少なくとも1個の置換基で置換されたヘタリール、少なくとも1個の置換基で置換されたアラルキル及び少なくとも1個の置換基で置換されたヘタラルキルからなる群から選択された構成要素であってよい。別の実施態様においては、Rは、水素、アルキル、アルケニル、アラルキル、少なくとも1個の置換基で置換されたアルキル、少なくとも1個の置換基で置換されたアラルキル、CO−R、SO−R;CO−O−R、CO−N−R及びRからなる群から選択された構成要素であってよい。付加的な実施態様においては、R及びRは、それぞれ無関係に、水素、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アラルキル、アリール、少なくとも1個の置換基で置換されたアルキル、少なくとも1個の置換基で置換されたシクロアルキル、少なくとも1個の置換基で置換されたアリール及び少なくとも1個の置換基で置換されたアラルキルからなる群から選択された構成要素であってよい。
【0031】
本発明によれば、式I、式II及び/又は式IIIによる化合物は、それを使用する場合に、種々の構成成分で置換されていてよい。従って、アルキルは、直鎖状又は分枝鎖状C1−15アルキルであってよい。一実施態様においては、シクロアルキルは、C3−8シクロアルキルであってよい。別の実施態様においては、アルケニルは、直鎖状又は分枝鎖状C2−18アルケニルであってよい。更に別の実施態様においては、アラルキルは、直鎖状又は分枝鎖状C1−15アルキルで置換された炭素単環式芳香族化合物又は炭素二環式芳香族化合物であってよい。更に別の実施態様においては、任意の置換基は、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、カルバモイル、モノ−又はジ−C1−4アルキル−カルバモイル、カルボキシ、C1−4アルコキシ−カルボニル、スルホ、ハロゲン、C1−4アルコキシ、フェノキシ、ハロフェノキシ、C1−4アルキルチオ、メルカプト、フェニルチオ、ピリジルチオ、C1−4アルキルスルフィニル、C1−4アルキルスルホニル、アミノ、C1−3アルカノイルアミノ、モノ−又はジ−C1−4アルキルアミノ、4〜6員の環式アミノ、C1−3アルカノイル、ベンゾイル及び5〜10員の複素環式化合物の基からなる群から選択されてよい。
【0032】
別の実施態様においては、式I、式II及び/又は式IIIのR1−5は、それを使用する場合に、それぞれ無関係に、種々の構成成分から選択されていてよく、その際、その構成成分は場合により少なくとも1個の置換基で置換されていてよい。従って、アリールは、炭素単環式芳香族化合物又は炭素二環式芳香族化合物の基であってよい。一実施態様においては、ヘタリールは、酸素、硫黄及び窒素から選択された1〜4個のヘテロ原子又は1〜6個のヘテロ原子を含有する複素単環式芳香族化合物又は複素二環式芳香族化合物であってよい。別の実施態様においては、アラルキルは、直鎖状又は分枝鎖状C1−15アルキル基で置換された炭素単環式芳香族化合物又は炭素二環式芳香族化合物であってよい。付加的な実施態様においては、置換基は、ハロゲン、C1−4アルキル、C1−4ハロアルキル、C1−4ハロアルコキシ、C1−4アルコキシ、C1−4アルキルチオ、ヒドロキシ、カルボキシ、シアノ、ニトロ、アミノ、モノ−又はジ−C1−4アルキルアミノ、ホルミル、メルカプト、C1−4アルキル−カルボニル、C1−4アルコキシ−カルボニル、スルホ、C1−4アルキルスルホニル、カルバモイル、モノ−又はジ−C1−4アルキル−カルバモイル、オキソ及びチオキソからなる群から選択されてよい。
【0033】
一実施態様においては、R及びRは、それぞれ無関係に、水素、直鎖状又は分枝鎖状C1−6アルキル、フェニル、ナフタリル、ヘタリール、少なくとも1個の置換基で置換された置換されたC1−6アルキル、直鎖状又は分枝鎖状C1−6アルキルフェニル、少なくとも1個の置換基で置換されたフェニル及びベンジルからなる群から選択された構成要素であってよい。一実施態様においては、Rは、水素、C1−6アルキル、アラルキル、少なくとも1個の置換基で置換されたC1−6アルキル、CO−R又はSO−R;CO−O−R、CO−N−R及びRからなる群から選択された構成要素であってよい。別の実施態様においては、R及びRは、それぞれ無関係に、水素、C1−6アルキル、少なくとも1個の置換基で置換されたC1−6アルキル、シクロアルキル、フェニル、少なくとも1個の置換基で置換されたフェニル、ベンジル及びアラルキル基からなる群から選択された構成要素であってよい。
【0034】
付加的な実施態様においては、結合構成成分は、非置換か又は少なくとも1個の置換基で置換されていてよい。一実施態様においては、アルキルは、直鎖状又は分枝鎖状C1−15であってよい。別の実施態様においては、アルケニルは、直鎖状又は分枝鎖状C2−18アルケニルであってよい。付加的な実施態様においては、アリールは、炭素単環式芳香族化合物又は炭素二環式芳香族化合物の基であってよい。更に別の実施態様においては、シクロアルキルは、C3−8環状アルキルであってよい。更に別の実施態様においては、ヘタリールは、酸素、硫黄及び窒素からなる群から選択された1〜6個のヘテロ原子を含有する複素単環式芳香族化合物又は複素二環式芳香族化合物であってよい。更に別の実施態様においては、前記アラルキルは、炭素単環式芳香族化合物又は炭素二環式芳香族化合物の基であってよく、かつ直鎖状又は分枝鎖状C1−15アルキルで置換されていてよい。更なる実施態様においては、前記ヘタラルキルは、酸素、硫黄及び窒素からなる群から選択された1〜4個のヘテロ原子又は1〜6個のヘテロ原子を含有する複素単環式芳香族化合物又は複素二環式芳香族化合物であってよく、かつ直鎖状又は分枝鎖状C1−15で置換されていてよい。更に、任意の置換基は、無関係に、ハロゲン、C1−4アルキル、C1−4ハロアルキル、C1−4ハロアルコキシ、C1−4アルコキシ、C1−4アルキルチオ、フェノキシル、ハロフェノキシ、フェニルチオ、ピリジルチオ、ヒドロキシ、カルボキシ、シアノ、ニトロ、アミノ、C1−3アルカノイルアミノ、モノ−又はジ−C1−4アルキルアミノ、4〜6員の環式アミノ、ホルミル、メルカプト、C1−4アルキル−カルボニル、C1−4アルコキシ−カルボニル、スルホ、C1−4アルキルスルフィニル、C1−4アルキルスルホニル、C1−3アルカノイル、ベンゾイル、モノ−又はジ−C1−4アルキル−カルバモイル、オキソ、チオキソ、5〜10員の複素環式化合物及びそれらの組合せ物からなる群から選択された構成要素であってよい。
【0035】
更に特定の実施態様においては、構成成分は、非置換か又は少なくとも1個の置換基で置換されているかの何れであってもよい。それに応じて、R及びRは、それぞれ無関係に、直鎖状又は分枝鎖状C1−6アルキル、フェニル、ナフチル、少なくとも1個の置換基で置換された直鎖状又は分枝鎖状C1−6アルキル及び少なくとも1個の置換基で置換されたフェニルからなる群から選択された構成要素であってよい。一実施態様においては、Rは、水素、直鎖状又は分枝鎖状C1−6アルキル、C1−6アラルキル及び少なくとも1個の置換基で置換されたC1−6アルキルから選択された構成要素であってよい。別の実施態様においては、R及びRは、それぞれ無関係に、水素、直鎖状又は分枝鎖状C1−6アルキル、少なくとも1個の置換基で置換された直鎖状又は分枝鎖状C1−6アルキル、シクロアルキル、フェニル、少なくとも1個の置換基で置換されたフェニル、C1−6アラルキル及び少なくとも1個の置換基で置換されたC1−6アラルキルからなる群から選択された構成要素であってよい。更に別の実施態様においては、任意の置換基は、メチル、ハロゲン、ハロフェニルオキシ、メトキシ、エチルオキシ、フェノキシ、ベンジルオキシ、トリフルオロメチル、t−ブチル及びニトロからなる群から選択された構成要素であってよい。
【0036】
一実施態様においては、Rは、直鎖状又は分枝鎖状C1−6アルキル及びフェニルからなる群から選択されていてよい。別の実施態様においては、Rは、フェニル、C1−6アルキルフェニル、C1−6ジアルキルフェニル、C1−6アルコキシフェニル、ハロフェニル、ジハロフェニル及びニトロフェニルからなる群から選択されていてよい。付加的な実施態様においては、Rは、水素及び直鎖状又は分枝鎖状C1−6アルキルから選択されていてよい。更に別の実施態様においては、Rは、フェノキシ、ベンジルオキシ、ハロフェノキシ、直鎖状又は分枝鎖状C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、ハロフェニル及びハロ−C1−4アルキルからなる群から選択された少なくとも1個の置換基で置換されたフェニルであってよい。更なる実施態様においては、Rは、直鎖状又は分枝鎖状C1−6アルキルであってよい。
【0037】
別の実施態様においては、Rは、フェニル又はt−ブチルであってよく;Rは、メチルフェニル、ジメチルフェニル、t−ブチル、メトキシフェニル、クロロフェニル、ジクロロフェニル、フルオロフェニル及びニトロフェニルからなる群から選択された構成要素であってよく;Rは、水素であってよく;Rは、塩素、フッ素、フェノキシ、ベンジルオキシ、クロロフェノキシ、メトキシ、エトキシ及びトリフルオロメチルからなる群から選択された少なくとも1個の置換基で置換されたフェニルであってよく;かつRは、メチルであってよい。
【0038】
用語「置換されたアルキル、シクロアルキル、アルケニル又はアラルキル」は:(i)ニトロ、(ii)ヒドロキシ、(iii)シアノ、(iv)カルバモイル、(v)モノ−又はジ−C1−4アルキル−カルバモイル、(vi)カルボキシ、(vii)C1−4アルコキシ−カルボニル、(viii)スルホ、(ix)ハロゲン、(x)C1−4アルコキシ、(xi)フェノキシ、(xii)ハロフェノキシ、(xiii)C1−4アルキルチオ、(xiv)メルカプト、(xv)フェニルチオ、(xvi)ピリジルチオ、(xvii)C1−4アルキルスルフィニル、(xviii)C1−4アルキルスルホニル、(xix)アミノ、(xx)C1−3アルカノイルアミノ、(xxi)モノ−又はジ−C1−4アルキルアミノ、(xxii)4〜6員の環式アミノ、(xxiii)C1−3アルカノイル、(xxiv)ベンゾイル及び(xxv)5〜10員の複素環式化合物の基からなる群から選択された1〜5個の置換基で置換されていてよいC1−15アルキル、C3−8シクロアルキル、C2−18アルケニル又はアラルキル基を意味する。
【0039】
不定形名詞及び定形名詞の単数形は、本明細書及び後の特許請求の範囲において使用される場合には、特に文脈から明らかに示されない限り、複数形の指示対象を含むということを留意しなければならない。
【0040】
本発明の説明及び特許請求の範囲においては、以下の専門用語を、以下に説明する定義に従って使用する。
【0041】
用語「アルキル」は、特に記載がない限り、1〜15個、好ましくは1〜6個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝鎖状の炭化水素鎖、好ましくはメチル又はエチル基を意味する。
【0042】
用語「アリール」は、特に記載がない限り、本明細書全体を通して、芳香族環炭化水素基を意味するのに使用する。6〜14個の炭素原子を有するアリールが好ましい。それは部分的に飽和性であってよい。かかるアリールの好ましい例は、フェニル及びナフチル基である。
【0043】
用語「ヘタリール」は、特に記載がない限り、本明細書全体を通して、酸素、硫黄及び窒素から選択された1〜4個のヘテロ原子を含有する5又は6員の単環式化合物又は複素環式化合物の基、若しくは酸素、硫黄及び窒素から選択された1〜6個のヘテロ原子を含有する縮合複素二環式化合物の基であり、前記基はそれぞれ、(i)ハロゲン、(ii)C1−4アルキル、(iii)C1−4ハロアルキル、(iv)C1−4ハロアルコキシ、(v)C1−4アルコキシ、(vi)C1−4アルキルチオ、(vii)ヒドロキシ、(viii)カルボキシ、(ix)シアノ、(x)ニトロ、(xi)アミノ、(xii)モノ−又はジ−C1−4アルキルアミノ、(xiii)ホルミル、(xiv)メルカプト、(xv)C1−4アルキル−カルボニル、(xvi)C1−4アルコキシ−カルボニル、(xvii)スルホ、(xviii)C1−4アルキルスルホニル、(xix)カルバモイル、(xx)モノ−又はジ−C1−4アルキル−カルバモイル、(xxi)オキソ及び(xxii)チオキソ基からなる群から選択された1〜4個の置換基で置換されていてよい基を意味するのに使用する。
【0044】
用語「置換されたアリール」は、本明細書全体を通して、(i)ハロゲン、(ii)C1−4アルキル、(iii)C1−4ハロアルキル、(iv)C1−4ハロアルコキシ、(v)C1−4アルコキシ、(vi)C1−4アルキルチオ、(vii)ヒドロキシ、(viii)カルボキシ、(ix)シアノ、(x)ニトロ、(xi)アミノ、(xii)モノ−又はジ−C1−4アルキルアミノ、(xiii)ホルミル、(xiv)メルカプト、(xv)C1−4アルキル−カルボニル、(xvi)C1−4アルコキシ−カルボニル、(xvii)スルホ、(xviii)C1−4アルキルスルホニル、(xix)カルバモイル、(xx)モノ−又はジ−C1−4アルキル−カルバモイル、(xxi)オキソ及び(xxii)チオキソ基からなる群から選択された1〜4個の置換基で置換されていてよいC6−14アリール基を意味するのに使用する。このアリールは、その任意の位置で置換されていてよい。従って、アリールがフェニルである場合、そのフェニル環は、パラ、メタ、オルト位及びその任意の組合せで置換されていてよい。
【0045】
用語「置換されたヘタリール」は、本明細書全体を通して、前記のヘタリールが、(i)ハロゲン、(ii)C1−4アルキル、(iii)C1−4ハロアルキル、(iv)C1−4ハロアルコキシ、(v)C1−4アルコキシ、(vi)C1−4アルキルチオ、(vii)ヒドロキシ、(viii)カルボキシ、(ix)シアノ、(x)ニトロ、(xi)アミノ、(xii)モノ−又はジ−C1−4アルキルアミノ、(xiii)ホルミル、(xiv)メルカプト、(xv)C1−4アルキル−カルボニル、(xvi)C1−4アルコキシ−カルボニル、(xvii)スルホ、(xviii)C1−4アルキルスルホニル、(xix)カルバモイル、(xx)モノ−又はジ−C1−4アルキル−カルバモイル、(xxi)オキソ及び(xxii)チオキソ基からなる群から選択された1〜4個の置換基で置換されていてよいヘタリールを意味するのに使用する。
【0046】
用語「ハロ」又は「ハロゲン」は、置換基が塩素及びフッ素であることを説明するのに使用する。付加的に、このハロゲンは、機能的に可能であれば臭素であってよい。
【0047】
本発明の化合物は、置換基の型に応じて幾何異性体又は互変異性体であってよい。本発明は、これらの分離された形の異性体及びその混合物をも対象に含む。更に、これらの幾つかの化合物は、その分子中に不斉炭素を含有してよい;かかる場合においては、異性体が存在しうる。本発明はまた、これらの光学異性体の混合物及びその単離された形の異性体にまで及ぶ。
【0048】
本発明の幾つかの化合物は、塩を形成してよい。塩形成物が薬理学的に許容される限り、特に限定されるものではない。酸付加塩の特定の例は、無機酸、例えば塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の塩、有機酸、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の塩である。塩基性塩の特定の例は、例えば金属、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等を含有する無機塩基との塩、又は有機塩基、例えばメチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、リシン、オルニチン等との塩である。本発明は更に、本発明の化合物又はその塩の種々の水和物及び溶媒和物並びにその多形を含む。
【0049】
以下、本発明の化合物の代表的な製造方法を説明する。これらの方法においては、出発物質又は中間生成物中に存在する官能基は、官能基の種類に応じて、保護基で好適に保護されていてよい。製造技術の観点においては、官能基を、容易に元の官能基に戻すことができる基で保護することが有利でありえる。必要であれば、この保護基を除去し、所望の生成物を得る。かかる官能基の例は、アミノ、ヒドロキシ、カルボキシ基等である。これらの官能基を保護するために使用されてよい基の例は、例えば、グリーン、ワッツ著、「有機合成における保護基」第2版(Greene and Wuts, "Protective Groups in Organic Synthesis" second edition)に示されている。
【0050】
ピラゾロ[3,4−b]キノリン−5−オン及びピラゾロ[3,4−b]ピリジン−6−オン化合物を合成する一般的な手順を、以下に説明する:
【0051】
【化3】

【0052】
反応器に、エチルアルコール(10mL)中に溶解されたアミノピラゾール(1.0ミリモル)を装入した。適切なアルデヒド(1.0ミリモル)及びジメドン(1.0ミリモル)を前記の溶液に、室温で撹拌しつつ添加した。この反応混合物を80℃まで加熱し、そして6〜8時間にわたって還流させた。次いで、この反応器を室温まで冷却し、そして溶媒を減圧下で回転式蒸発装置上で除去した。この残留物をn−ヘキサンを用いて粉砕し、結晶化を導いた。この固形生成物を濾別し、n−ヘキサンを用いて十分に洗浄し、そして室温条件下で乾燥させた。収率:30〜75%、純度:90〜95%。
【0053】
【化4】

【0054】
反応器に、エチルアルコール(10mL)中に溶解されたアミノピラゾール(1.0ミリモル)を装入した。適切なアルデヒド(1.0ミリモル)及びメルドラム酸(1.0ミリモル)を前記の溶液に、室温で撹拌しつつ添加した。この反応混合物を80℃まで加熱し、そして6〜8時間にわたって還流させた。次いでこの反応器を室温まで冷却し、そして溶媒を減圧下で回転式蒸発装置上で除去した。この残留物を、フラッシュクロマトグラフィーによって精製した。収率:50〜75%、純度:90〜95%。
【0055】
本発明の所望の化合物は、当業者に知られている官能基変換法によって製造してもよく、このことは置換基の種類に応じて行ってよい。反応順序等は、目的化合物及び利用されるべき反応型に従って適切に変更してよい。本発明の他の化合物及び出発化合物は、前記方法と同様に又は当業者に知られている方法によって好適な材料から容易に製造できる。前記の製造方法によって得られたそれぞれの反応生成物は、遊離の塩基又はその塩として単離及び精製する。この塩は、慣用の塩形成法によって製造できる。この単離精製段階は、慣用の化学的技術、例えば抽出、濃縮、蒸発、結晶化、濾過、再結晶、種々の型のクロマトグラフィー等を利用することによって実施する。
【0056】
種々の形の異性体は、異性体間の物理化学的差異を使用する慣用の手順によって単離してよい。例えば、ラセミ化合物は、慣用の光学分割法によって(例えば、慣用の光学活性酸、例えば酒石酸等とのジアステレオマー塩を形成させ、次いでその塩を光学分割することによって)分離して、光学的に純粋な異性体を得てよい。ジアステレオマー混合物は、慣用の手段、例えば分別結晶法又はクロマトグラフィーによって分離してよい。更に、光学異性体は、適切な光学活性の出発化合物から合成してもよい。
【0057】
第1表に、本発明の代表的な化合物の構造を列挙する。
【0058】
第1表
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
【表5】

【0064】
【表6】

【0065】
本発明の一実施態様は、PI3−Kアルファの活性を阻害する化合物に関する。本発明は更に、PI3−Kアルファの活性を阻害する方法、例えば、細胞、特に癌細胞中でのPI3−Kアルファ活性を調節する方法を提供する。PI3−Kアルファ活性を臨床現場で調節し、PI3−Kアルファ活性によって媒介される疾病又は疾患を改善する方法が特に有利である。このように、過剰な又は不適切なPI3−Kアルファ活性を特徴とする疾病又は疾患の治療を、本発明によるPI3−Kアルファのモジュレーターの使用を介して施すことができる。
【0066】
本発明の化合物は、他のPI3−Kアイソフォーム、例えばPI3−Kベータ、ガンマ及びデルタに対する阻害活性をも示す。従って、本発明は、それぞれのPI3−Kアイソザイムの生理学的役割の更なる特性決定を可能にする方法をも提供する。更に、本発明は、PI3−K阻害剤を有する医薬組成物、及びかかるPI3−K阻害化合物の製造方法並びにその使用方法を提供する。
【0067】
本明細書で説明された方法は、PI3−Kアイソフォームの活性を細胞内で阻害する化合物、好ましくは特異的に阻害する化合物の使用に利する。本方法において有用な細胞は、内因性PI3−Kを発現させる細胞を含み、その際、内因性とは、細胞が、PI3−Kアイソフォームポリペプチド又はその生物学的に活性な断片をコードする1種以上のポリヌクレオチドをその細胞へ組換え導入することなく、PI3−Kを発現させることを示す。本方法はまた、外因性PI3−Kアイソフォームを発現させる細胞の使用を含み、その際、その細胞内にはPI3−Kアイソフィーム又はその生物学的に活性な断片をコードする1種以上のポリヌクレオチドが、組換え手順を用いて導入されている。
【0068】
その細胞は、インビボ、すなわち生存している対象物、例えば動物又はヒト内に存在していてよく、その際、PI3−Kを療法的に使用してPI3−K活性をその対象物中で阻害できることが特に有利である。代替的に、エクスビボ又はインビトロ法のために、その細胞を別々の細胞として単離するか又は組織内に存在していてよい。本発明に含まれるインビトロ法はまた、PI3−K酵素又はその生物学的に活性な断片と本発明の阻害化合物とを接触させる段階を含んでよい。このPI3−K酵素は、例えば精製及び単離された酵素であってよく、その際、この酵素は、天然資源(例えば、組換え技術により改変されることなくPI3−Kポリペプチドを正常に発現させる細胞又は組織)から単離するか、又は組換え技術によって外因性酵素を発現させるように改変された細胞から単離する。
【0069】
化合物の酵素活性(又は他の生物学的活性)阻害剤としての相対的な効能は、それぞれの化合物がその活性を予め規定された範囲まで阻害する濃度を測定し、次いでその結果を比較することによって設定できる。一般的に、好ましい測定は、生化学アッセイにおける活性の50%を阻害する濃度、すなわち50%阻害濃度又は「IC50」である。IC50の測定は、当該技術分野で公知の慣用技術を使用して遂行できる。一般的に、IC50は、所与の酵素の活性を、検討中の阻害剤の濃度範囲の存在下で計測することによって測定できる。次いで、実験的に得られた酵素活性の値を、使用された阻害剤濃度に対してプロットする。50%の酵素活性(阻害剤の不存在下での活性と比較して)とする阻害剤濃度をIC50値とする。同様に、他の阻害濃度は、適切な活性の測定を介して規定できる。例えば、状況によっては、90%阻害濃度、すなわちIC90等を設定することが望ましい。
【0070】
本発明にかかる化合物は、キナーゼ阻害活性、特にPI3−K阻害活性を示すので、PI3−Kが役割を担う異常な細胞成長を阻害するのに活用できる。従って、本化合物は、PI3−Kの異常な細胞成長作用が関連する疾患、例えば再狭窄、アテローム硬化症、骨疾患、関節炎、糖尿病性網膜症、乾癬、前立腺肥大症、アテローム硬化症、炎症、血管形成、免疫疾患、膵臓炎、腎臓病、癌等の治療に有効である。特に、本発明にかかる化合物は、顕著な癌細胞成長阻害作用を有しており、かつ癌、好ましくは全種の充実性癌及び悪性リンパ腫、特に白血病、皮膚癌、膀胱癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、結腸癌、膵臓癌、腎臓癌、胃癌、脳腫瘍等の治療において有効である。
【0071】
従って、本発明は、評価化合物のPI3−Kポリペプチド阻害剤としての効力を特性決定する方法において、前記方法は、(a)PI3−Kポリペプチド活性を評価化合物の存在下で計測する段階;(b)前記評価化合物の存在下でのPI3ポリペプチド活性と、当量の基準化合物(例えば、本明細書中に記載された本発明にかかるPI3−Kα阻害化合物)の存在下でのPI3−Kポリペプチド活性とを比較し、その際、前記評価化合物の存在下でのPI3−Kポリペプチド活性が前記基準化合物の存在下での活性と比べて低ければ、前記評価化合物が前記基準化合物と比べて効力の高い阻害剤であることを示し、かつ前記評価化合物の存在下でのPI3−Kポリペプチドの活性が前記基準化合物の存在下での活性と比べて高ければ、前記評価化合物が前記基準化合物と比べて効力の低い阻害剤であることを示す段階を含む方法を提供する。
【0072】
本発明は更に、評価化合物のPI3−Kポリペプチド阻害剤としての効力を特性決定する方法において、(a)PI3−K活性を基準の百分率だけ阻害する対照化合物(例えば、本明細書中に記載された本発明にかかるPI3−Kアルファ阻害化合物)の量を測定し、これによって前記対照化合物についての基準の阻害量を規定する段階;(b)PI3−Kポリペプチド活性を阻害の基準の百分率だけ阻害する前記評価化合物の量を測定し、これによって前記評価化合物についての基準の阻害量を規定する段階;(c)前記評価化合物についての基準の阻害量と、前記対照化合物についての基準の阻害量とを比較し、その際、前記評価化合物についての基準の阻害量が前記対照化合物についての基準の阻害量と比べて低ければ、前記評価化合物が前記対照化合物と比べて効力の高い阻害剤であることを示し、かつ前記評価化合物についての基準の阻害量が前記対照化合物についての基準の阻害量と比べて高ければ、前記評価化合物が前記対照化合物と比べて効力の低い阻害剤であることを示す段階を含む方法を提供する。
【0073】
一実施態様においては、本方法は、PI3−Kアルファポリペプチド活性を50%、60%、70%又は80%だけ阻害する化合物の量である基準の阻害量を使用する。別の実施態様においては、本方法は、PI3−Kアルファポリペプチド活性を90%、95%又は99%だけ阻害する化合物の量である基準の阻害量を利用する。これらの方法は、化合物の基準の阻害量を、インビトロでの生化学アッセイ、インビトロでの細胞ベースのアッセイ又はインビボでのアッセイにおいて測定することを含む。
【0074】
本発明は更に、PI3−Kアルファ活性の負のモジュレーターを同定する方法において、(i)PI3アルファポリペプチド活性を評価化合物の存在下及び不存在下で計測する段階及び(ii)PI3−Kアルファ活性を減らし、かつ本発明にかかる化合物とPI3−Kアルファへの結合について競合する評価化合物を負のモジュレーターと同定する段階を有する方法を提供する。更に、本発明は、PI3−Kアルファ活性を阻害する化合物を同定する方法において、(i)PI3−Kアルファポリペプチドと、本発明にかかる化合物とを評価化合物の存在下及び不存在下で接触させる段階;及び(ii)前記評価化合物を、この化合物が本発明にかかる化合物とPI3−Kアルファへの結合について競合した際に、PI3−Kアルファ活性の負のモジュレーターと同定する段階を有する方法を提供する。従って、本発明は、PI3−Kアルファ活性の負のモジュレーター候補をスクリーニングする方法及び/又は負のモジュレーターとしての候補物の作用機構を証明する方法を提供する。かかる方法は、他のPI3−Kアイソフォームに対して同時に利用し、そのアイソフォームにわたる評価化合物の比較活性及び/又は本発明にかかる化合物に対する評価化合物の比較活性を設定できる。
【0075】
これらの方法においては、PI3−Kポリペプチドは、キナーゼ活性を示すペプチド断片又はペプチドのアロステリックモジュレーターを同定する方法を提供する結合ドメインからの断片であってよい。これらの方法は、PI3−Kペプチド又はそのサブユニットを、内因的又は外因的に発現させる細胞において利用できる。従って、かかる方法に利用されるポリペプチドは、溶液中に遊離しているか、固体支持体に付着しているか、細胞表面上にディスプレイされるように改変されているか、又は細胞内に局在していてよい。次いで、その活性の変化又はPI3−Kポリペプチドと、評価されている作用物質との結合複合体の形成を計測してよい。
【0076】
ヒトPI3−Kポリペプチドは、当該技術分野で公知かつ実践されている方法による生化学的又は細胞ベースのハイスループットスクリーニング(HTS)アッセイ、例えば受容体−リガンド相互作用を調査するメラニン細胞アッセイ系、酵母ベースのアッセイ系、及び哺乳細胞発現系に適用できる。文献については、ジャヤウィクレーム、コスト著、バイオテクノロジーについての現代の見解8号:629〜634頁(1997年)(Jayawickreme and Kost, Curr Opin Biotechnol, 8:629-34(1997))を参照のこと。自動小型化HTSアッセイはまた、例えばヒューストン、バンクス著、バイオテクノロジーについての現代の見解8号:734〜740頁(1997年)(Houston and Banks, Curr Opin Biotechnol, 8:734-40(1997))の記載と同様と解される。かかるHTSアッセイは、化合物のライブラリーをスクリーニングし、所望の特性を示す特定の化合物を同定するために使用される。任意の化合物のライブラリー、例えば化学薬品のライブラリー、天然生成物のライブラリー及びランダムな又は指定されたオリゴペプチド、オリゴヌクレオチド又は他の有機化合物を有する組合せのライブラリーを使用してよい。
【0077】
本発明はまた、PI3−K活性を療法的又は予防的に阻害する方法を提供する。この方法は、症状又は病状がPI3−K発現又は活性によって媒介される任意の容態であるか又はその容態になりうるヒト又は動物の治療において、PI3−K活性の阻害剤をその有効量で投与することを含む。
【0078】
本明細書中で使用される「治療」は、疾患に罹患しうるが、依然としてその疾患と診断されていない動物において疾患が生ずるのを防ぐこと;疾患を阻害すること、すなわちその発達を停止させること;疾患を緩和すること、すなわちその退行をもたらすこと;又は疾患を改善させること、すなわち疾患が関与する激しい病状を軽減することを意味する。「疾患」は、医学的な疾患、疾病、容態、症候群等を含むと意図され、限定されるものではない。
【0079】
本発明にかかる方法は、対象動物、好ましくは哺乳類、特に好ましくは霊長類、殊に好ましくはヒトを治療する種々の様式を含む。治療できる哺乳動物は、例えば愛玩動物(ペット)、例えばイヌ及びネコ;家畜、例えばウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ及びヤギ;実験用動物、例えばラット、マウス、ウサギ、モルモット及び非ヒト霊長類及び動物園の見本動物である。非哺乳動物は、例えばトリ、サカナ、爬虫類及び両生類である。
【0080】
一実施態様においては、本発明にかかる方法は、炎症疾患にかかっているか又はかかりうる対象を療法的又は予防的に治療するために利用できる。本発明の一実施態様は、PI3−Kが炎症プロセスの媒介という側面に介入することに由来する。いかなる理論にも拘束されることを意図することなく、炎症は、一般的に白血球(例えば、好中球、リンパ球等)の活性化及び遊走移行によって媒介されるプロセスに関係し、かつPI3−Kはかかる現象を媒介しうるので、PI3−Kのアンタゴニストを、炎症が関与する損傷の抑制のために使用できるということが理論化される。
【0081】
本明細書中で使用される「炎症」は、組織の損傷又は分解によって惹起され、有害な作用物質及び損傷組織を両方とも分解するか、弱めるか又は遮断(隔離)させる限局性の保護反応を意味する。炎症には、白血球の流入及び/又は好中球の遊走が顕著に関与している。炎症は、病原微生物及びウイルスの感染又は非感染媒介、例えば心筋梗塞又は脳卒中に引き続いて起こる障害又は再潅流、外部抗原に対する免疫反応及び自己免疫反応から惹起されることがある。従って、本発明を適用できる免疫疾患は、特異的防御系の反応が関与する疾患並びに非特異的防御系の反応が関与する疾患を含む。
【0082】
本発明にかかる療法的方法は、炎症性細胞活性化が関与する疾患の治療方法を含む。「炎症性細胞活性化」は、刺激物質(例えば、限定されるものではないが、サイトカイン、抗原又は自己抗体)による増殖性細胞反応の誘導、可溶性メディエーター(例えば、限定されるものではないが、サイトカイン、酸素ラジカル、酵素、プロスタノイド又は血管活性アミン)の生成又は炎症細胞(例えば、限定されるものではないが、単球、マクロファージ、Tリンパ球、Bリンパ球、顆粒球(すなわち、多形核白血球、例えば好中球、好塩基球、好酸球)、マスト細胞、樹状細胞、ランゲルハンス細胞及び内皮細胞)内での新たなメディエーター(例えば、限定されるものではないが、主な組織適合性抗原又は細胞接着分子)の新たな細胞表面発現又はその数の増加を意味する。これらの細胞におけるこれらの表現型の1つ又は組合せの活性化が、炎症疾患の開始、永続化又は悪化をもたらしうることが当業者によって評価されるはずである。
【0083】
更なる実施態様においては、本発明は、PI3−K阻害化合物を、造血系由来の癌細胞、好ましくはリンパ系由来の癌細胞、特に好ましくはBリンパ球又はBリンパ球前駆細胞に関連するか又は由来する癌細胞の成長又は増殖を阻害するために使用する方法を含む。本発明にかかる方法を使用する治療を適用できる癌は、例えば、限定されるものではないが、リンパ腫、例えばリンパ球及び細網内皮組織の悪性新生物、例えばバーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、リンパ球性リンパ腫等;多発性骨髄腫;並びに白血病、例えばリンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病等である。
【0084】
本発明にかかる化合物は、純粋な化学物質として投与してよいが、一般的には化合物を医薬組成物又は配合物の形で投与するのが好ましい。従って、本発明はまた、PI3−K活性のモジュレーターとして有効な化学的又は生物学的化合物(「作用物質」)と、生物学的適合性医薬担体、アジュバント又は賦形剤とを有する医薬組成物を提供する。本組成物は、その作用物質を唯一の有効成分として有するか、若しくは1種以上の添加剤又は他の製剤学的に許容される担体と混合された他の作用物質、例えばオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド、オリゴペプチド又はポリペプチド、薬剤又はホルモンと組合せて有してよい。担体及び他の成分は、それらがその配合物の他の成分と適合し、かつその受容物にとって有害でない限り、製剤学的に許容されるものと解されてよい。
【0085】
医薬組成物の配合技術及び投与技術は、レミントン製薬科学、第18版、マック出版社、イーストン、ペンシルバニア州、1990年(Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed., Mack Publishing Co, Easton, Pa., 1990)見い出すことができる。本発明にかかる医薬組成物は、任意の慣用の方法、例えば混合、溶解、造粒、糖剤製造、湿式粉砕、乳化、カプセル化、閉じ込め、溶融紡糸、噴霧乾燥又は凍結乾燥法を使用して製造できる。しかしながら、最適な医薬配合物は、当業者によって投与経路及び所望の投与量に応じて決定される。かかる配合物は、投与される作用物質の物理的状態、安定性、インビボでの放出速度及びインビボでのクリアランス速度に作用することがある。これらの医薬組成物は、治療される容態に応じて配合し、そして全身投与に又は局所投与してよい。
【0086】
本医薬組成物は、製剤学的に許容される好適な担体を含有するように配合し、かつ場合により、有効化合物を製剤学的に使用できる製剤に加工するのを容易にする添加剤及び助剤を有してよい。一般的に、投与様式によって担体の性質が決まる。例えば、非経口投与用の配合物は、有効化合物の水溶液を水溶性の形で有してよい。非経口投与に好適な担体は、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、水及び他の生理学的に適合する溶液から選択してよい。非経口投与に好ましい担体は、生理学的に適合する緩衝液、例えばハンクス溶液、リンガー溶液、又は生理緩衝食塩水である。組織投与又は細胞投与のためには、浸透されるべき特定の障壁に適切な浸透剤がその配合物中に使用される。かかる浸透剤は、一般的に、当該技術分野で公知である。タンパク質を有する製剤については、その配合物は、安定化材料、例えばポリオール(例えば、スクロース)及び/又は界面活性剤(例えば、非イオン性界面活性剤)等を有してよい。
【0087】
代替的に、非経口使用のための配合物は、適切な油性注射用懸濁液として調製された有効化合物の分散液又は懸濁液を有してよい。好適な親油性溶媒又は賦形剤は、脂肪油、例えば胡麻油、及び合成脂肪酸エステル、例えばオレイン酸エチル又はトリグリセリド若しくはリポソームである。水性注射用懸濁液は、その懸濁液の粘度を増加させる物質、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール又はデキストランを含有してよい。この懸濁液は、場合により、高度に濃縮された溶液の調製するために化合物の溶解度を増加させる好適な安定化剤又は作用物質を含有してよい。有効作用物質のpHに反応する可溶化及び/又は持効性をもたらす水性ポリマー、例えばメタクリルポリマー、例えばRohm America Inc.社(ピスカタウエイ、ニュージャージー州)から市販されている一連のEUDRAGIT.RTMを、コーティング又はマトリックス構造として使用してもよい。エマルション、例えば水中油形分散液及び油中水形分散液を使用してもよく、これらを場合により乳化剤又は分散剤(界面活性物質;界面活性剤)によって安定化させてもよい。懸濁液は、懸濁化剤、例えばエトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール及びソルビタンエステル、微結晶セルロース、酸化水酸化アルミニウム(aluminum metahydroxide)、ベントナイト、寒天、トラガカントゴム及びそれらの混合物を含有してよい。
【0088】
非経口投与には、有効作用物質を含有するリポソームを利用してもよい。リポソームは、一般的に、リン脂質又は他の脂質物質に由来する。リポソーム中の組成物は、他の成分、例えば安定化剤、保存剤、添加剤等を含有してよい。好ましい脂質は、例えばリン脂質及びホスファチジルコリン(レシチン)であり、天然物及び合成物の両方を含む。リポソーム形成法は、当該技術分野で公知である。例えば、プレスコット(編)、細胞生物学方法論第14巻、33頁、アカデミック出版、ニューヨーク(1976年)(Prescott(Ed.), Methods in Cell Biology, Vol. XIV, p. 33, Academic Press, New York (1976))を参照のこと。
【0089】
この作用物質を経口投与に好適な投与量で有する医薬組成物は、当該技術分野で公知の製剤学的に許容される担体を使用して配合してよい。経口投与用に配合される製剤は、錠剤、丸剤、カプセル剤、カシェ剤、糖剤、トローチ剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、エリキシル剤、懸濁剤、又は粉末剤の形であってよい。例として、経口使用のための医薬製剤は、有効化合物と固形添加剤とを組み合わせて、場合によりその得られた混合物を粉砕し、そしてその顆粒の混合物を加工することによって得てよく、所望により好適な助剤を添加した後に、錠剤又は糖剤の中心錠を得てよい。経口用の配合物は、非経口使用について記載されたものと同様の液状担体、例えば緩衝水溶液、懸濁液等を利用してよい。
【0090】
好ましい経口用の配合物は、例えば錠剤、糖剤及びゼラチンカプセルである。これらの製剤は、1種以上の添加剤、例えば、限定されるものではないが;
a)希釈剤、例えば糖、例えばラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール又はソルビトール;
b)結合剤、例えばケイ酸アルミニウムマグネシウム、コーンスターチ、小麦、米、ジャガイモ等;
c)セルロース材料、例えばメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ゴム、例えばアラビアゴム及びトラガカントゴム並びにタンパク質、例えばゼラチン及びコラーゲン;
d)崩壊剤又は可溶化剤、例えば架橋したポリビニルピロリドン、デンプン、寒天、アルギン酸又はその塩、例えばアルギン酸ナトリウム、若しくは発泡性組成物;
e)滑沢剤、例えばシリカ、タルク、ステアリン酸、若しくはそのマグネシウム又はカルシウム塩、及びポリエチレングリコール;
f)風味剤又は甘味剤;
g)着色剤又は顔料、例えば製品を識別するため又は有効化合物の量(投与量)を特徴付けるためのもの;及び
h)他の成分、例えば保存剤、安定化剤、膨潤剤、乳化剤、溶解促進剤、浸透圧調節用の塩、及び緩衝液を含有してよい。
【0091】
ゼラチンカプセルは、例えばゼラチンから構成される押込嵌めカプセル並びにゼラチンとコーティング、例えばグリセロール又はソルビトールとから構成される軟質封入カプセルである。押込嵌めカプセルは、充填剤、結合剤、滑沢剤及び/又は安定化剤等と混合された1種以上の有効成分を含有してよい。軟質カプセル中では、有効化合物は、好適な流体、例えば脂肪油、液状パラフィン又は液状ポリエチレングリコール中に溶解又は懸濁されていてよく、その際、安定化剤が含まれるか又は含まれない。
【0092】
糖剤の中心錠に、好適なコーティング、例えばアラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポル(carbopol)ゲル、ポリエチレングリコール及び/又は二酸化チタン、ラッカー溶液及び好適な有機溶媒又は溶媒混合物を含有してよい濃縮糖溶液を提供してよい。
【0093】
本医薬組成物は、その有効作用物質の塩として提供してよい。塩は、水性又は他のプロトン溶媒中では、対応する遊離の酸又は塩基の形と比べて溶解性が高い傾向にある。製剤学的に許容される塩は、当該技術分野で公知である。酸性成分を含有する化合物は、好適な陽イオンと製剤学的に許容される塩を形成できる。製剤学的に許容される好適な陽イオンは、例えばアルカリ金属(例えば、ナトリウム又はカリウム)及びアルカリ土類(例えば、カルシウム又はマグネシウム)陽イオンである。
【0094】
本発明にかかる構造式I〜IIIの化合物は、好適な酸と製剤学的に許容される酸付加塩を形成できる。例えば、バージら(Berge et al)は製剤学的に許容される塩を創薬科学紀要66号:1頁(1977年)(J Pharm Sci, 66:1 (1977))に記載している。この塩は、本発明にかかる化合物の最終的な単離及び精製の間にその場で調製するか又は遊離の塩基官能基と好適な酸とを反応させることによって別個に調製してよい。
【0095】
前記内容を考慮して、本明細書中に説明される本発明にかかる化合物に関するあらゆる言及は、前記構造式の化合物並びにその製剤学的に許容される塩及び溶媒和物、並びにそのプロドラッグを含むものと意図される。
【0096】
製剤学的に許容される担体中に配合された本発明にかかる化合物を有する組成物を製造し、適切な容器内に位置させ、そして治療される容態を示すために標識してよい。従って、それらはまた製品、例えば本発明にかかる化合物の投与形とその化合物の使用指示を含む標識とを有する容器と検討される。また、本発明のもとではキットが検討される。例えば、このキットは、医薬組成物の投与形と、医学的な容態の治療におけるその組成物の使用指示を含む包装挿入物とを有してよい。何れにしても、標識上に表示された容態は、炎症疾患、癌等の治療を含んでよい。
【0097】
PI3−K活性の阻害剤を有する医薬組成物は、任意の慣用の方法、例えば非経口及び経腸技術によって対象物に投与してよい。非経口投与様式は、その組成物が胃腸管を介する以外の経路、例えば静脈内、動脈内、腹腔内、骨髄内、筋肉内、関節内、鞘内及び心室内注射によって投与される様式を含む。経腸投与様式は、例えば、経口(例えば頬及び舌下)及び直腸投与を含む。経上皮投与様式は、例えば、経粘膜投与及び経皮投与を含む。経粘膜投与は、例えば経腸投与並びに経鼻、吸入及び肺深部への投与;膣投与;及び直腸投与を含む。経皮投与は、受動的又は能動的な経皮性又は経皮的様式、例えばパッチ、及びイオン浸透導入機器並びにペースト剤、ロウ膏又は軟膏剤の表面塗布を含む。非経口投与は、高圧技術を使用して遂行してもよい。
【0098】
外科的技術は、デポー(貯留)組成物、浸透圧ポンプ等の移植を含む。炎症治療に好ましい投与経路は、限局性疾患、例えば関節炎のための局所的又は表面送達、又は分布性の疾患のための全身性送達、例えば再潅流障害又は全身性容態、例えば敗血症のための静脈内送達であってよい。 他の疾病、例えば気道に関する疾病、例えば慢性閉塞性肺疾患、喘息及び気腫については、投与を噴霧剤、エアロゾル、粉末剤等の吸入又は肺深部への投与によって達成してよい。
【0099】
腫瘍性疾病、特に白血病及び他の分布性の癌の治療のためには、一般的に非経口投与が好ましい。化合物の配合物は、その化合物を非経口投与に引き続いて生体内分布を最適化するものが望ましい。このPI3−K阻害化合物は、化学療法、放射線療法、及び/又は外科療法の適用前、適用の間又は適用後に投与してよい。
【0100】
前記のとおり、作用物質それ自体及びその作用物質の配合物の特性は、投与された作用物質の物理的状態、安定性、インビボでの放出速度及びインビボでのクリアランス速度に作用することがある。かかる薬物動態学的及び薬力薬物学的情報をインビトロ及びインビボでの前臨床研究を介して収集し、次いでヒトにおいて臨床実験過程の間で確認してよい。このように、本発明にかかる方法において使用される任意の化合物について、療法的有効量を、生化学的アッセイ及び/又は細胞ベースのアッセイから最初に推定できる。次いで、PI3−K発現又は活性を調節する所望の循環濃度範囲を達成する投与量を、動物モデルにおいて明確に示す。ヒトでの研究が実施される際には、適切な投与量レベル及び種々の疾病及び容態の治療の持続時間に関する更なる情報が得られるはずである。
【0101】
かかる化合物の毒性及び療法的な効能は、細胞培養物及び実験動物を使用して、例えばLD50(個体群の50%についての致死量)及びED50(個体群の50%についての療法的に有効な用量)を測定する標準的な製剤学的手順によって測定してよい。毒性作用と療法作用との用量比は「治療係数」であり、これは一般的に比LD50/ED50として表現される。大きい治療係数を示す化合物、すなわち中毒量が有効量と比べて実質的に高い化合物が好ましい。かかる細胞培養物アッセイ及び付加的な動物研究から得られたデータは、ヒトでの使用についての投与量の範囲を明確に示すのに使用できる。かかる化合物の投与量は、毒性をほとんど有さないか又は全く有さないED50を含む循環濃度の範囲内にあることが好ましい。
【0102】
本発明にかかる方法のために、用量の時期及び順序を調節する任意の有効な投与の計画を使用してよい。本作用物質の用量は、その作用物質の有効量を有する製剤学的な投与量の単位を含むことが好ましい。本明細書中で使用される「有効量」は、1回以上の製剤学的な投与量の単位の投与を介してPI3−Kの発現及び活性を調整すること及び/又は対象物の生理学的パラメータの測定可能な変化を導くことに十分な量を意味する。
【0103】
ヒトを対象とする実験的投与量レベルは、体重1キログラムにつき約0.001ミリグラム(mg/kg)〜約100mg/kgの有効作用物質の規模である。一般的に、この有効作用物質の投与量単位は、効能、投与経路等に応じて約0.01mg〜約10000mg、好ましくは約0.1mg〜約1000mgを有する。好適な用量は、投与経路に応じて、体重、体表面積、又は器官の大きさにより計算してよい。最終的な用量投与計画は、所属医師によって良好な診断という観点から決定され、その際、薬剤の作用を変更する種々の要因、例えばその作用物質の特異的活性、疾病状態の正体及び発病性、患者の応答性、患者の年齢、容態、体重、性別及び食事並びに任意の感染症の発病性が検討される。
【0104】
考慮されてよい付加的な要因は、例えば投与時間及び投与頻度、薬剤の組合せ、反応感受性及び療法に対する許容度/反応である。本明細書中で記載された任意の配合物に関する治療に適切な投与量の更なる改善は、熟練従業者によって、必要以上に実験を行うことなく、特に投与量情報及び開示されたアッセイ並びにヒト臨床試験で得られた薬物動態学的データを考慮しつつ慣例的になされる。適切な投与量は、体液又は他の試料中の作用物質の濃度を測定するために設定されたアッセイの使用を介して用量反応データと一緒に確認してよい。
【0105】
投与頻度は、作用物質及び投与経路の薬物動態学的パラメータに依存する。投与量及び投与は、有効成分の十分なレベルを提供するか又は所望の作用を維持するように調節する。従って、本医薬組成物は、一回量又は複数回の別々の量で、持続注入法によって、その作用物質の所望の最小のレベルを維持するのに必要な持効性デポー剤として、又はその組合せ物として、投与してよい。短時間作用性の医薬組成物(すなわち、半減期が短い)を、1日1回又はそれ以上(例えば、1日2回、3回又は4回)投与してよい。長時間作用性の医薬組成物を、3〜4日ごと、毎週、又は2週間に1回投与してよい。持続注入法には、ポンプ、例えば皮下用、腹腔内用、硬膜下用のポンプが好ましい。
【0106】
以下に実施例を、本発明を理解すること及び実施例が関係する当業者に知られている慣用の方法の理解を前提とすることの更なる手助けのために提供する。かかる方法は多くの文献、例えばサムブルークら著、分子クローニング:ラボラトリマニュアル、コールドスプリングハーバーラボラトリ出版(1989年)(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989))、アズベルら(編)分子生物学最新プロトコール、ジョンウィレイアンドサンズ社(1994年)(Ausubel et al. (Eds.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc. (1994));及びアズベルら(編)分子生物学ショートプロトコール第4版、ジョンウィレイアンドサンズ社(1999年)(Ausubel et al. (Eds.), Short Protocols in Molecular Biology, 4th ed., John Wiley & Sons, Inc. (1999)))に詳細に記載されている。以下に記載される特定の材料及び条件は、本発明の特定の実施態様の例示が意図されており、かつその妥当な範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0107】
実施例
実施例1
964076(3−t−ブチル−4−(2−クロロフェニル)−7,7−ジメチル−1−(4−メトキシフェニル)−4,7,8,9−テトラヒドロ−1H−ピラゾロ[3,4−b]キノリン−5(6H)−オン)の合成及び特性決定
【0108】
【化5】

【0109】
反応器に、エチルアルコール(20mL)中に溶解された1−(4−メトキシフェニル)−3−t−ブチル−5−アミノピラゾール(500mg、2.03ミリモル)を装入した。次いで、2−クロロ−ベンズアルデヒド(218mL、2.43ミリモル)及びジメドン(285mg、1.0ミリモル)を前記溶液に、室温で撹拌しつつ添加した。この反応混合物を80℃まで加熱し、そして6時間にわたって還流させた。
【0110】
次いで、この反応器を室温まで冷却し、そして溶媒を減圧下で回転式蒸発装置上で除去した。この残留物をn−ヘキサンを用いて粉砕し、結晶化を導いた。この固形生成物を再び溶解させ、そしてカラムクロマトグラフィーによって更に精製し、純粋な生成物(110mg)を得て、次いでNMRによって特性決定した:
1HNMR(CDCl3):0.8,1.02,1.1,1.23,2.03,2.14,3.85,5.67,6.32,7.02,7.14,7.23,7.44。
【0111】
実施例2
964028(3−t−ブチル−4−(4−メチルフェニル)−7,7−ジメチル−1−(4−メチルフェニル)−4,7,8,9−テトラヒドロ−1H−ピラゾロ[3,4−b]キノリン−5(6H)−オン)の合成及び特性決定
【0112】
【化6】

【0113】
反応器に、エチルアルコール中(10mL)中に溶解された1−(4−メチルフェニル)−3−t−ブチル−5−アミノピラゾール(180mg、0.78ミリモル)を装入した。次いで、p−トルアルデヒド(110mg、0.94ミリモル)及びジメドン(110mg、0.78ミリモル)を前記溶液に、室温で撹拌しつつ添加した。この反応混合物を80℃まで加熱し、そして6時間にわたって還流させた。次いで、この反応器を室温まで冷却し、そして溶媒を減圧下で回転式蒸発装置上で除去した。この残留物をn−ヘキサンを用いて粉砕し、結晶化を導いた。この固形生成物(178mg)を濾別し、洗浄し、そして室温条件下で乾燥させ、次いでNMRによって特性決定した:1HNMR(CDCl3):0.82,1.03,1.14,1.23,2.25,2.41,5.40,6.22,7.00,7.18,7.31,7.43。
【0114】
実施例3
1,3−ジ−t−ブチル−4−p−トリフルオロメチルフェニル−1,4,5,7−テトラヒドロ−ピラゾロ[3,4−b]ピリジン−6−オンの合成及び特性決定
【0115】
【化7】

【0116】
反応器に、エチルアルコール(5mL)中に溶解された1,3−ジ−t−ブチル−5−アミノピラゾール(50mg、0.26ミリモル)を装入した。次いで、p−トリフルオロメチルベンズアルデヒド(44.6mg、0.26ミリモル)及びメルドラム酸(36mg、0.26ミリモル)を前記溶液に、室温で撹拌しつつ添加した。この反応混合物を80℃まで加熱し、そして6時間にわたって還流させた。次いで、この反応器を室温まで冷却し、そして溶媒を減圧下で回転式蒸発装置上で除去した。この残留物をシリカ上でのクロマトグラフィーによって、ヘキサンとエチルアセテートとの混合物を用いて溶出させつつ精製した。この固形生成物(70mg)を単離し、次いでNMRによって特性決定した:1HNMR(CDCl3):1.12,1.59,2.67,3.12,4.40,7.14,7.51,8.23。
【0117】
実施例4
1,3−ジ−t−ブチル−4−(3,4−ジメトキシ−フェニル)−4,6,7,8−テトラヒドロ−1H−1,2,8−トリアザ−s−インダセン−5−オンの合成及び特性決定
【0118】
【化8】

【0119】
反応器に、エチルアルコール(5mL)中に溶解された1,3−ジ−t−ブチル−5−アミノピラゾール(40mg、0.20ミリモル)を装入した。次いで、3,4−ジメトキシベンズアルデヒド(34mg、0.20ミリモル)及び1,3シクロペンタジオン(36mg、0.26ミリモル)を前記溶液に、室温で撹拌しつつ添加した。この反応混合物を80℃まで加熱し、そして6時間にわたって還流させた。次いでこの反応器を室温まで冷却し、そして溶媒を減圧下で回転式蒸発装置上で除去した。この残留物をシリカ上でのクロマトグラフィーによって、ヘキサンとエチルアセテートとの混合物を用いて溶出させつつ精製した。この固形生成物(60mg)を単離し、次いでNMRによって特性決定した:1HNMR(CDCl3):0.95,1.56,2.27,2.49,3.59,3.69,3.71,5.00,6.58,3,61,6.78。
【0120】
実施例5
4−(3,4−ビス−ベンジルオキシ−フェニル)−1,3−ジ−t−ブチル−4,6,7,8,9,10−ヘキサヒドロ−1H−1,2,10−トリアザ−シクロヘプタ[f]インデン−5−オンの合成及び特性決定
【0121】
【化9】

【0122】
反応器に、エチルアルコール(5mL)中に溶解された1,3−ジ−t−ブチル−5−アミノピラゾール(40mg、0.20ミリモル)を装入した。次いで、3,4−ジベンジルオキシベンズアルデヒド(65mg、0.20ミリモル)及び1,3シクロヘプタジオン(36mg、0.26ミリモル)を前記溶液に、室温で撹拌しつつ添加した。この反応混合物を80℃まで加熱し、そして6時間にわたって還流させた。次いでこの反応器を室温まで冷却し、そして溶媒を減圧下で回転式蒸発装置上で除去した。この残留物をシリカ上でのクロマトグラフィーによって、ヘキサンとエチルアセテートとの混合物を用いて溶出させつつ精製した。この固形生成物(18mg)を単離し、次いでNMRによって特性決定した:1HNMR(CDCl3):1.03,1.64,2.42,5.07,5.28,6.72,7.31,7.37。
【0123】
実施例6
1−(1,3−ジ−t−ブチル−4−p−トリル−4,7−ジヒドロ−1H−ピラゾロ[3,4−b]ピリジン−5−イル)−エタノンの合成及び特性決定
【0124】
【化10】

【0125】
反応器に、エチルアルコール(5mL)中に溶解された1,3−ジ−t−ブチル−5−アミノピラゾール(40mg、0.20ミリモル)を装入する。次いで、p−トルアルデヒド(23mg、0.20ミリモル)及び1,3ペンタジオン(36mg、0.26ミリモル)を前記溶液に、室温で撹拌しつつ添加する。この反応混合物を80℃まで加熱し、そして6時間にわたって還流させる。次いでこの反応器を室温まで冷却し、そして溶媒を減圧下で回転式蒸発装置上で除去する。この残留物をシリカ上でのクロマトグラフィーによって、ヘキサンとエチルアセテートとの混合物を用いて溶出させつつ精製する。
【0126】
実施例7
組換えPI3−Kポリペプチドの単離及び精製
p110触媒サブユニットとGSTタグ付きp85調節サブユニットとから構成される組換えヘテロ二量体PI3−Kアルファを、Sf9細胞内でバキュロウイルス発現系を用いて発現させた。発現用構築物を、アレックス・トーカー博士(Dr.Alex Toker)(ハーバード大学(Harvard University))の研究室から入手した。この方法は当業者には十分知られており、かつストイアノフら著、サイエンス269号、690〜693頁(1995年)(Stoyanov et al., Science269, 690-693(1995))及びストイアノフら著、生物化学紀要324号:489〜495頁(1997年)(Stoyanov et al., Biochem. J. 324: 489-495. (1997))にも記載されている。
【0127】
回収された細胞沈殿物を、プロテアーゼ阻害剤(1mMのPMSF、1mMのNaVO、ロイペプチン1μg/ml、ペプスタチン1μg/ml)を含有する3mlの緩衝液A(20mMのトリス(pH7.0)、150mMのNaCl、10mMのEDTA、20mMのフッ化ナトリウム、5mMのピロリン酸ナトリウム、10%のグリセロール、0.1%のIgapal)中で再び懸濁させた。この懸濁液を、1時間にわたって4℃で回転によって細胞を破壊しつつインキュベートして、次いで穏やかにボルテックスにかけて、細胞溶解を確保する。この溶液を、14000gで15分にわたって遠心分離し、そしてこの上清を10mlの緩衝液Aの添加によって希釈した。この希釈上清を、緩衝液Aで予め平衡化された3mlのグルタチオン−アガロース樹脂(Glutathione−agarose resin)(Pharmacia社製)に添加し、そして1時間にわたって4℃で回転させつつインキュベートした。この樹脂をカラム内に流出させ、そして35mlの緩衝液Aで洗浄し、そしてタンパク質を10mMのグルタチオンを用いて緩衝液A中に溶出させた。20個の0.5ml分画を回収し、そしてタンパク質の存在を12%SDS−PAGEトリスグリシンゲル(12% SDS−PAGE Tris Glycine gel)(Invirtogen社製)上で評価した。標的タンパク質を含有する分画をプールし、そしてMicrosep30K濃縮器(Pall−Gelman社製)を使用して濃縮した。この濃縮タンパク質を、3mlの最終緩衝液(20mMのトリス(pH7.4)、100mMのNaCl、1mMのEDTA)で希釈し、そして更に2回濃縮し、あらゆる界面活性剤を除去した。このタンパク質を50%のグリセロール中に希釈し、そして−20℃で貯蔵した。
【0128】
実施例8
PI3−K活性アッセイ及びPI3−K阻害剤のスクリーニング
GST−GRP1−PH発現ベクターを、マーク・レモン氏(ペンシルバニア大学(University of Pennsylvania))から入手した(カヴランら著、生物化学紀要273号:30497〜30508頁(1998年)(Kavran, et al., J Biol Chem, 273: 30497-30508(1998)))。E.コリからのタンパク質の発現及び精製を、以下のように実施した:LB/ampプレートにこの発現ベクターを含有するEコリの冷凍グリセロールストックを塗り、そして37℃で一夜増殖させた。単一のコロニーを選択し、そしてそれを100μg/mlのアンピシリンを含有する20mlのLB培地中に植菌し、一夜増殖させた。この一夜培養した物を、100μg/mlのアンピシリンを含有する1リットルのLB培地に添加し、そしてO.D.600が0.8〜1.0になるまで増殖させた。タンパク質発現を、0.1mMのIPTGの添加によって誘導し、そして培養物を37℃で継続して一夜増殖させた。細胞を4000gで20分にわたって遠心分離することによって回収した。沈殿物を、タンパク質精製を実施するまで−80℃で冷凍させて貯蔵した。GSTタグ付きタンパク質の精製を、以下のように行った:この沈殿物を、プロテアーゼ阻害剤(1mMのPMSF、0.5μg/mlのロイペプチン、0.7μg/mlのペプスタチン)を有する25mlの緩衝液A(50mMのトリス(pH7.5)、1mMのBME、1mMのEDTA、1mMのEGTA、1mMのNaVO、50mMのフッ化ナトリウム、5mMのピロリン酸ナトリウム、0.27Mのスクロース)中に、再び懸濁させた。この細胞を、超音波によって3分にわたって溶解させ、そしてトリトンx−100を最終濃度0.01%になるまで添加した。この混合物を10000rpmで15分にわたって遠心分離することによって澄明にした。この上清と、緩衝液Aで予め平衡化された5mlのグルタチオン−アガロース樹脂(Glutathione−agarose resin)(Amersham社製)と混合した。このタンパク質をその樹脂に、1時間にわたって4℃で回転させつつ結合させた。この樹脂をカラムに移し、そして30mlの緩衝液Aで洗浄した。このタンパク質を、10mMのグルタチオン(Glutathione)(Sigma社製)を使用して緩衝液A中に溶出させた。20個の1ml分画を回収し、そしてタンパク質レベルを12%トリス−グリシンゲル(Invitrogen社製)上でのSDS−PAGEによって評価した。精製タンパク質を含有する分画を、プールし、そして−20℃で貯蔵した。
【0129】
PI3−キナーゼ反応を、50ngの組換えPI3−Kと一緒に基質としての10ピコモルのジCPI(4,5)P(Echelon Biosciences社製)とを含有する5mMのヘペス(pH7)、2.5mMのMgCl及び25μMのATPを含有する反応緩衝液中で実施した。この反応を、室温で1〜3時間にわたって進行させ、次いでEDTAを最終濃度が10mMになるまで添加することによってクエンチさせた。最終反応容量は、10μlであった。阻害について評価されるべき化合物を、ストックからDMSO中に最終濃度が1μMになるまで添加した。DMSOの最終濃度は1%であった。
【0130】
この基質からPI(3,4,5)Pへの変換を、Perkin Elmer社によって開発された増幅型ルミネセンスプロキシミティーホモジニアスアッセイ(Amplified Luminescent Proximity Homogeneous Assay)(ALPHA(R))技術を使用する競合アッセイを使用して測定した。0.25ピコモルの組換えGST−Grp1−PHドメインタンパク質及び0.25ピコモルのビオチン化ジCPI(3,4,5)P(Echelon Biosciences社製)を、それぞれの反応混合物に添加した。AlphaScreen(R)GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)検出キット(GST(Glutathione−S−Transferase)Detection Kit)(Perkin Elmer社製)からのドナービーズ及びアクセプタービーズを、最終濃度が20μg/mlになるまで添加した。最終容量は25μlであった。この反応物を37℃で2時間にわたってインキュベートし、そして発光シグナルをFusionα型マイクロプレートリーダ上で読み取った。酵素活性の%阻害率を、無酵素(阻害率100%)及びDMSO単独(阻害率0%)対照と比較することによって決定した。
【0131】
基質のPI(3,4,5)Pへの変換の検出に使用される代替法は、競合蛍光偏光アッセイであった。125ピコモルの組換えGST−Grp1−PHドメインタンパク質及び25ピコモルのTAMRA−I(1,3,4,5)P(Echelon Biosciences社製)を、それぞれの反応混合物に添加した。最終容量は25μlであった。偏光値を、マイクロプレートリーダ上で550nm励起/580nm偏光用発光フィルタを使用して測定した。このアッセイでは、BODIPY−TMR−I(1,3,4,5)P又はBODIPY−TMR−I(3,4,5)Pを、蛍光トレーサーとして置き換えることもできた。酵素活性の%阻害率を、無酵素(阻害率100%)及びDMSO単独(阻害率0%)対照と比較することによって決定した。
【0132】
実施例9
PI3−K阻害剤についてのIC50の測定
潜在的なPI3−K阻害剤のライブラリーについて、PI3−Kアルファに対する活性を以下のように評価した。同定された有効化合物から、ライブラリーに存在する種々の化学物質群から12種を代表例として選択し、それらを更なる分析に供した。IC50値を、選択された本発明にかかる化合物について測定した。酵素活性アッセイを前記と同様に、IC50値の測定を可能にする化合物濃度の範囲の存在下で実施した。酵素活性及び%阻害率を、前記と同様にAlphaScreen(R)発光アッセイ又は蛍光偏光アッセイを使用して決定した。これらの阻害剤は他のPI3−Kアイソフォーム、例えばPI3−Kベータ、ガンマ及びデルタに対抗する活性を示してもよい。
【0133】
実施例10
癌細胞に対するPI3−K阻害剤の作用の特性決定
選択された化合物について、卵巣対癌及び乳癌細胞株に対抗する選択的活性を評価した。
【0134】
卵巣癌細胞株SKOV3については、PI3−Kシグナリングに変化はみられず、かつPI3−K阻害剤での処理によって生成された抗増殖作用にほとんど感受性を有さないはずである一方で、OVCAR3細胞株については、PI3−K活性の増幅を介してPI3−Kシグナリングに変化がみられ、その感受性を有するはずである。SKOV3細胞を96ウエル型細胞培養プレート(Greiner社製)内に、1ウエルにつき20000細胞の密度で、10%のウシ胎児血清及び20mMのL−グルタミンを有するMcCoys5A培地(GibcoBRL社製)中で播いた。OVCAR3細胞を、1ウエルにつき15000細胞の密度で、20mMのl−グルタミン、0.01mg/mlのウシインスリン、10mMのヘペス(pH7.4)、1mMのピルビン酸ナトリウム、2.5g/Lのグルコース及び20%のウシ胎児血清を含有するRPMI1640培地(GibcoBRL社製)中で播いた。24時間後に、化合物を細胞培地に最終濃度が1μMになるまで添加し、そしてこの細胞をその化合物の存在下で48時間にわたって、0.5%のウシ胎児血清を含有する培地中で増殖させた。生存率を、MTT細胞増殖アッセイ(R and D Systems社製)を使用して測定して、そしてDMSO単独対照(生存率100%)と比較した。生存率の低下をもたらす化合物は、細胞増殖の阻害又はアポトーシス(プログラム細胞死)の誘導の何れかによって作用しうる。ライブラリー内の096型構造群の代表的な化合物は、細胞増殖及び生存率について選択的作用を示した。
【0135】
インビトロでのスクリーニングを使用してPI3−K阻害剤と同定されており、かつ生存率について細胞特異的作用を示す本発明にかかる化合物に構造的にも関連するライブラリー内に存在する化合物について、卵巣対癌細胞株に対抗する活性を評価した。これらの多くの化合物はまた、細胞増殖について同様の選択的作用を示す。第2表に、選択された本発明にかかる化合物についての2回の別個の細胞増殖実験の結果をまとめる。
【0136】
選択された化合物を、卵巣対癌細胞株に対して、増殖阻害に有効な濃度を測定する濃度の範囲で評価した。
【0137】
第2表
本発明にかかる化合物について卵巣対癌細胞株についての選択的作用を評価した異なる2回の実験の一覧
【0138】
【表7】

【0139】
この活性プロファイルを示すPI3−K阻害剤は、PI3−K活性の増幅又はPI3−K活性の調節に作用する変異、例えば腫瘍抑制因子PTEN遺伝子変異の何れかによってPI3−Kシグナリングに変化がみられる多くの腫瘍細胞株及び腫瘍の型に対して有効でありえる。それらは、例えば乳癌、前立腺癌、結腸癌及び卵巣癌である。
【0140】
PI3−K阻害剤については、乳癌細胞株に対抗する選択的活性をも評価した。細胞株MDA−MB−468は、PTEN、すなわちPI3−Kシグナリングの負の調節因子の変異型であり、かつそれらの細胞内ではPI3−Kシグナリングが異常に活性化する一方で、細胞株MDA−MB−231は正常のPTENの発現を示し、かつPI3−Kシグナリングは正常に調節される。
【0141】
MDA−MB−468及びMDA−MB−231細胞を、96ウエル型細胞培養プレート(Greiner社製)内に、1ウエルにつき20000細胞の密度で、10%のウシ胎児血清及び20mMのL−グルタミンを有するRMPI培地(GibcoBRL社製)中で播いた。24時間後に、化合物を細胞培地に、最終濃度が10nM〜100μMに及ぶまで添加し、そしてこの細胞をその化合物の存在下で48時間にわたって、0.5%のウシ胎児血清及び20mMのL−グルタミンを含有するRMPI培地中で増殖させた。生存率を、MTT細胞増殖アッセイ(R and D Systems社製)を使用して測定して、そしてDMSO単独対照(生存率100%)と比較した。生存率の低下をもたらす化合物は、細胞増殖の阻害又はアポトーシス(プログラム細胞死)の誘導の何れかによって作用しうる。ライブラリー内の096型構造群の代表的化合物は、細胞増殖及び生存率について選択的作用を示した。選択された化合物を、肺対癌細胞株に対して、その成長阻害に有効な濃度を測定する濃度範囲で評価した。
【0142】
実施例11
PI3−K阻害剤によるPKB/Aktを介する、PI3−K媒介性のシグナリングに対する作用
PKB/Aktのリン酸化及び活性化は、PI3−K活性に依存しているので、PI3−K阻害剤は細胞のホスホ−Aktレベルを低下させる。MDA−MB−468細胞は、PI3−Kシグナリングの異常な活性化の結果として、構成的に高いホスホ−Aktレベルを示す。
【0143】
この細胞内をPI3−K阻害剤で処理した際のホスホ−Aktレベルに対する作用を、以下のように測定した。細胞を6ウエル型細胞培養皿内で、1ウエルにつき5×10細胞の密度で、10%のウシ胎児血清及び2mMのL−グルタミンを含有するRMPI培地中で平板培養した。24時間後に、培地を除去し、そして2mMのL−グルタミンを含有する無血清RMPIで置き換えた。この細胞は一夜にわたり血清飢餓状態であった。
【0144】
本化合物を、無血清培地内に最終濃度が50μMになるまで希釈し、そしてその細胞に添加した。この細胞を、PI3−K阻害剤の存在下で4時間にわたってインキュベートした。ホスホ−Aktレベルを、以下の方法の一つを使用して測定した。
【0145】
ホスホ−Aktレベルをイムノブロッティングを使用して測定するために、細胞をPBSで2回洗浄し、そして氷で冷却された溶解緩衝液(1%のトリトンX−100、50mMのヘペス(pH7.4)、150mMのNaCl、1.5mMのMgCl、1mMのEGTA、100mMのNaF、10mMのピロリン酸ナトリウム、1mMのNaVO、10%のグリセロール、1mMのフェニルメチルスルホニルフルオリド、及び10μg/mlのアプロチニン)中で溶解させた。全タンパク質の濃度を、BCAアッセイを使用して測定した。全ての細胞溶解タンパク質のうちの30μgをLaemmli試料緩衝液内に希釈し、そして10%アクリルアミドゲル上に装填し、SDS−PAGEに供し、そしてPVDF膜に転写した。この膜を5%ウシ血清アルブミンを用いてブロッキングし、次いで4℃で抗体と一緒に一夜インキュベートした。この膜をTBS−T(10mMのトリス−HCl(pH7.4)、150mMのNaCl、及び0.1%のトウィーン−20)中で洗浄し、そしてHRP結合抗体(TBS−T中で5%のミルクで希釈された)と一緒に、室温で1時間にわたってインキュベートした。この膜を広範に洗浄し、そしてそのタンパク質を化学発光検出によって可視化した。ホスホ−Aktレベルに作用する化合物は、イムノブロッティングによって検出されたホスホ−Akt量の相対的な差異として観察された。
【0146】
PI3−K阻害剤での処理に続いての細胞のホスホ−Aktレベルに対する作用を、PathScanホスホ−AktELISA(Cell Signaling Technologies社製)(ホスホ−Akt検出用のサンドイッチ型ELISA)を使用して定量した。このキットを、製造業者のプロトコールによって使用した。450nmでの吸光度を、それぞれの試料について測定し、そしてそれをホスホ−Aktレベルに相当するものとして直接使用した。
【0147】
ホスホ−Aktレベルの%低下率を、空の試料(0%)及びDMSO単独で処理された対照試料(100%)に対して標準化することによって決定した。PI3−K阻害剤で処理すると、このアッセイによって決定されたように、ホスホ−Aktレベルが20〜60%低下した。このデータは、これらの化合物が細胞のPI3−K媒介性のシグナリングに作用しうることを示している。
【0148】
第3表に、この構造群の幾つかの化合物についてのデータ、具体的にはインビトロでの酵素活性阻害についてのIC50、細胞のmIC50及びPI3−K媒介性のシグナリングに変化がみられる腫瘍細胞に対する抗増殖活性、並びに細胞のホスホ−Aktレベルに対する作用をまとめる。
【0149】
第3表
本発明にかかる化合物についてのデータ一覧
【0150】
【表8】

【0151】
実施例12
PI3−K阻害剤による3−D培養系において増殖した腫瘍細胞に対する作用
PI3−K阻害剤を、他の細胞培養モデルと比較してより厳密に腫瘍の環境を模擬する三次元マトリックス内で増殖した腫瘍細胞に対する作用についてアッセイする。MDA−MB−468細胞を、マトリックス溶液、例えばMatrigel(BD Biosciences社製)に入れて、2×10細胞/mlで混合し、そしてこの混合物のうち100μlを24ウエル型細胞培養プレートのそれぞれのウエルに添加した。それぞれのウエルは直径6.5mmであり、1ウエルにつき2×10細胞を添加する。マトリックスを凝固させ、10%のウシ胎児血清及び2mMのL−グルタミンを含有するRMPI培地をそれぞれのウエルに添加する。約14日間の培養の後に、本化合物を細胞培地に最終濃度が10nM〜100μMに及ぶまで添加し、そしてこの細胞をその化合物の存在下で7日間にわたって、0.5%のウシ胎児血清及び20mMのL−グルタミンを含有するRMPI培地中で増殖させる。
【0152】
この処理に続いて、三次元マトリックス内での細胞増殖を、細胞生存度アッセイ、例えばCellTiter96 One Solution Cell Proliferation Assay(Promega社製、G3582)を使用して計測してよい。1ウエルにつき1.2mlのアッセイ用溶液を添加し、その細胞を3時間にわたってインキュベートする。550nmでの吸光度を、それぞれのウエルについて測定し、そして細胞数に相当するものとして直接使用する。更に、生細胞を標識するフルオレセインジアセテート(Fluorescein diacetate)(Sigma社製)及び死細胞を標識するヨウ化プロピジウム(propidium iodide)(Sigma社製)で染色後に蛍光顕微鏡を使用して、生細胞と死細胞とを区別及び観察してよい。
【0153】
本発明にかかるPI3−K阻害剤は、1種の阻害剤の抗増殖作用と基準のPI3−K阻害剤LY294002のその作用とを比較する第6表の代表的データによって示されるように、この腫瘍細胞増殖モデルにおいて抗増殖作用を示す。本発明にかかるPI3−K阻害剤はまた、他の制癌剤、例えばパクリタクセル又はドキソルビシンと組み合わされた際には、抗増殖活性の向上を示す。
【0154】
第4表
腫瘍細胞増殖の三次元モデル内でのPI3−K阻害剤の作用
【0155】
【表9】

【0156】
実施例13
腫瘍成長の阻害
癌細胞の増殖についての阻害剤のインビボでの効能を、当該技術分野において公知の幾つかのプロトコールによって確認できる。PI3−K経路が脱調節されたヒト腫瘍細胞、例えばLnCaP、PC3、C33a、OVCAR−3、MDA−MB−468を、0日目に、ヌードマウスの側腹部内に皮下注射する。マウスを、賦形剤処理群、本化合物処理群又はその組合せ処理群に割り当てる。化合物の投与を、1〜7日目に開始してよい。実験の持続時間にわたって、皮下投与を、毎日又は1日おきに行うか又はその化合物を持続注入ポンプによって送達してよい。
【0157】
この実験の過程を通して、皮下腫瘍の大きさを追跡してよい。この実験の終了時に、この腫瘍を切除及び秤量し、そしてそれぞれの処理群の腫瘍の平均重量を算出する。
【0158】
代替的に、細胞株、例えばOVCAR−3を、雌ヌードマウスの腹腔内に、腹腔内注射してよい。実験に持続時間にわたって、皮下投与、静脈内投与、又は腹腔内投与を、毎日又は1日おきに行うか又はその化合物を持続注入ポンプによって送達してよい。この実験の終了時に、腫瘍を切除及び秤量し、そしてそれぞれの処理群の腫瘍の平均重量を算出する。PI3−K阻害剤は、他の制癌剤、例えばパクリタクセル又はドキソルビシンと組み合わされた際に、腫瘍成長に対抗する活性の向上を示す。
【0159】
前記の取り合わせは、本発明の原理の適用を説明するにすぎないものと解されるべきである。多くの変更及び代替的な取り合わせが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく考案されてよい。本発明は図面で示され、かつ本発明の最も実用的かつ好ましい1つ以上の実施態様であると現在考えられるものと関連して個々に詳細に完全に上記される一方で、特許請求の範囲において説明される本発明の精神及び概念から逸脱することなく多くの変更がなされうることは当業者にとって明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I、式II又は式III;
【化1】

[式中、nは、0〜2から選択された整数であり;
及びRは、それぞれ無関係に、水素、アルキル、アルケニル、アリール、ヘタリール、アラルキル、ヘタラルキル、少なくとも1個の置換基で置換されたアルキル、少なくとも1個の置換基で置換されたアリール、少なくとも1個の置換基で置換されたヘタリール、少なくとも1個の置換基で置換されたアラルキル及び少なくとも1個の置換基で置換されたヘタラルキルからなる群から選択された構成要素であり;
は、水素、アルキル、アルケニル、アラルキル、少なくとも1個の置換基で置換されたアルキル、少なくとも1個の置換基で置換されたアラルキル、CO−R、SO−R;CO−O−R、CO−N−R及びRからなる群から選択された構成要素であり;かつ
及びRは、それぞれ無関係に、水素、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アラルキル、アリール、少なくとも1個の置換基で置換されたアルキル、少なくとも1個の置換基で置換されたシクロアルキル、少なくとも1個の置換基で置換されたアリール及び少なくとも1個の置換基で置換されたアラルキルからなる群から選択された構成要素である]によって表される一般構造を有する化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物であって、R1−5について、以下の基を使用する場合には;
アルキルは、直鎖状又は分枝鎖状C1−15アルキルであり;
シクロアルキルは、C3−8シクロアルキルであり;
アルケニルは、直鎖状又は分枝鎖状C2−18アルケニルであり;
アラルキルは、直鎖状又は分枝鎖状C1−15アルキルで置換された炭素単環式芳香族化合物又は炭素二環式芳香族化合物であり;かつ
置換基は、ニトロ、ヒドロキシ、シアノ、カルバモイル、モノ−又はジ−C1−4アルキル−カルバモイル、カルボキシ、C1−4アルコキシ−カルボニル、スルホ、ハロゲン、C1−4アルコキシ、フェノキシ、ハロフェノキシ、C1−4アルキルチオ、メルカプト、フェニルチオ、ピリジルチオ、C1−4アルキルスルフィニル、C1−4アルキルスルホニル、アミノ、C1−3アルカノイルアミノ、モノ−又はジ−C1−4アルキルアミノ、4〜6員の環式アミノ、C1−3アルカノイル、ベンゾイル及び5〜10員の複素環式化合物からなる群から選択された化合物。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物であって、R1−5について、以下の基を使用する場合には;
アリールは、炭素単環式芳香族化合物又は炭素二環式芳香族化合物であり;
ヘタリールは、酸素、硫黄及び窒素から選択された1〜6個のヘテロ原子を含有する複素単環式芳香族化合物又は複素二環式芳香族化合物であり;
アラルキルは、直鎖状又は分枝鎖状C1−15アルキルで置換された炭素単環式芳香族化合物又は炭素二環式芳香族化合物であり;かつ
置換基は、ハロゲン、C1−4アルキル、C1−4ハロアルキル、C1−4ハロアルコキシ、C1−4アルコキシ、C1−4アルキルチオ、ヒドロキシ、カルボキシ、シアノ、ニトロ、アミノ、モノ−又はジ−C1−4アルキルアミノ、ホルミル、メルカプト、C1−4アルキル−カルボニル、C1−4アルコキシ−カルボニル、スルホ、C1−4アルキルスルホニル、カルバモイル、モノ−又はジ−C1−4アルキル−カルバモイル、オキソ及びチオキソからなる群から選択された構成要素である化合物。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物であって、nは、1であり;
及びRは、それぞれ無関係に、水素、直鎖状又は分枝鎖状C1−6アルキル、フェニル、ナフチル、ヘタリール、少なくとも1個の置換基で置換されたC1−6アルキル、直鎖状又は分枝鎖状C1−6アルキルフェニル、少なくとも1個の置換基で置換されたフェニル、ベンジル、及び少なくとも1個の置換基で置換されたベンジルからなる群から選択された構成要素であり;
は、水素、C1−6アルキル、アラルキル、少なくとも1個の置換基で置換されたC1−6アルキル、CO−R又はSO−R;CO−O−R、CO−N−R及びRからなる群から選択された構成要素であり;
及びRは、それぞれ無関係に、水素、C1−6アルキル、少なくとも1個の置換基で置換されたC1−6アルキル、シクロアルキル、フェニル、及び少なくとも1個の置換基で置換されたフェニル、アラルキル、ベンジル、及び少なくとも1個の置換基で置換されたベンジルからなる群から選択された構成要素であり;かつ
置換基は、ハロゲン、C1−4アルキル、C1−4ハロアルキル、C1−4ハロアルコキシ、C1−4アルコキシ、C1−4アルキルチオ、フェノキシル、ハロフェノキシ、フェニルチオ、ピリジルチオ、ヒドロキシ、カルボキシ、シアノ、ニトロ、アミノ、C1−3アルカノイルアミノ、モノ−又はジ−C1−4アルキルアミノ、4〜6員の環式アミノ、ホルミル、メルカプト、C1−4アルキル−カルボニル、C1−4アルコキシ−カルボニル、スルホ、C1−4アルキルスルフィニル、C1−4アルキルスルホニル、C1−3アルカノイル、ベンゾイル、モノ−又はジ−C1−4アルキル−カルバモイル、オキソ、チオキソ及び5〜10員の複素環式化合物からなる群から選択された構成要素である化合物。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物であって、nは、1であり、かつR1−5について、以下の基を使用する場合には;
アルキルは、直鎖状又は分枝鎖状C1−15であり;
アルケニルは、直鎖状又は分枝鎖状C2−18であり;
アリールは、炭素単環式芳香族化合物又は炭素二環式芳香族化合物であり;
シクロアルキルは、C3−8環状アルキルであり、
ヘタリールは、酸素、硫黄及び窒素からなる群から選択された1〜6個のヘテロ原子を含有する複素単環式芳香族化合物又は複素二環式芳香族化合物であり;
アラルキルは、炭素単環式芳香族化合物又は炭素二環式芳香族化合物であり、かつ直鎖状又は分枝鎖状C1−15アルキルで置換されており;
ヘタラルキルは、酸素、硫黄及び窒素からなる群から選択された1〜6個のヘテロ原子を含有する複素単環式芳香族化合物又は複素二環式芳香族化合物であり、かつ直鎖状又は分枝鎖状C1−15アルキルで置換されており;かつ
置換基は、ハロゲン、C1−4アルキル、C1−4ハロアルキル、C1−4ハロアルコキシ、C1−4アルコキシ、C1−4アルキルチオ、フェノキシル、ハロフェノキシ、フェニルチオ、ピリジルチオ、ヒドロキシ、カルボキシ、シアノ、ニトロ、アミノ、C1−3アルカノイルアミノ、モノ−又はジ−C1−4アルキルアミノ、4〜6員の環式アミノ、ホルミル、メルカプト、C1−4アルキル−カルボニル、C1−4アルコキシ−カルボニル、スルホ、C1−4アルキルスルフィニル、C1−4アルキルスルホニル、C1−3アルカノイル、ベンゾイル、モノ−又はジ−C1−4アルキル−カルバモイル、オキソ、チオキソ及び5〜10員の複素環式化合物からなる群から選択された構成要素である化合物。
【請求項6】
請求項1に記載の化合物であって、nは、1であり;
及びRは、それぞれ無関係に、直鎖状又は分枝鎖状C1−6アルキル、フェニル、ベンジル、ナフチル、少なくとも1個の置換基で置換された直鎖状又は分枝鎖状C1−6アルキル、少なくとも1個の置換基で置換されたフェニル、及び少なくとも1個の置換基で置換されたベンジルからなる群から選択された構成要素であり;
は、水素、直鎖状又は分枝鎖状C1−6アルキル、C1−6アラルキル、少なくとも1個の置換基で置換されたC1−6アルキルから選択された構成要素であり;
及びRは、それぞれ無関係に、水素、直鎖状又は分枝鎖状C1−6アルキル、少なくとも1個の置換基で置換された直鎖状又は分枝鎖状C1−6アルキル、シクロアルキル、フェニル、少なくとも1個の置換基で置換されたフェニル、ベンジル、及び少なくとも1個の置換基で置換されたベンジルからなる群から選択された構成要素であり;かつ
置換基は、メチル、ハロゲン、ハロフェニルオキシ、メトキシ、エチルオキシ、フェノキシ、ベンジルオキシ、トリフルオロメチル、t−ブチル及びニトロからなる群から選択された構成要素である化合物。
【請求項7】
請求項1に記載の化合物であって、nは、1であり;
は、直鎖状又は分枝鎖状C1−6アルキル及びフェニルからなる群から選択された構成要素であり;
は、フェニル、C1−6アルキルフェニル、C1−6ジアルキルフェニル、C1−6アルコキシフェニル、ハロフェニル、ジハロフェニル及びニトロフェニルからなる群から選択された構成要素であり;
は、水素及び直鎖状又は分枝鎖状C1−6アルキルから選択された構成要素であり;
は、ハロゲン、フェノキシ、ベンジルオキシ、ハロフェノキシ、直鎖状又は分枝鎖状C1−6アルキル、C1−6アルコキシ及びハロ−C1−4アルキルからなる群から選択された少なくとも1個の置換基で置換されたフェニルであり;かつ
は、直鎖状又は分枝鎖状C1−6アルキルである化合物。
【請求項8】
請求項1に記載の化合物であって、nは、1であり;
は、フェニル又はt−ブチルであり;
は、メチルフェニル、ジメチルフェニル、t−ブチル、メトキシフェニル、クロロフェニル、ジクロロフェニル、フルオロフェニル及びニトロフェニルからなる群から選択された構成要素であり;
は、水素であり;
は、塩素、フッ素、フェノキシ、ベンジルオキシ、クロロフェノキシ、メトキシ、エトキシ及びトリフルオロメチルからなる群から選択された少なくとも1個の置換基で置換されたフェニルであり;かつ
は、メチルである化合物。
【請求項9】
前記化合物が、インビトロでのPI3−K活性の阻害において10μMより小さいIC50を有するか、又は細胞でのPI3−K活性の阻害において20μMより小さいIC50を有する、請求項1から8までの何れか1項に記載の化合物。
【請求項10】
請求項1から8までの何れか1項に記載の化合物又はその塩及び製剤学的に許容される担体を有する医薬組成物。
【請求項11】
評価化合物のホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3−K)ポリペプチドの阻害剤としての効力のスクリーニング及び特性決定を行う方法において、前記方法は、(a)PI3−Kポリペプチド活性を請求項1から8までの何れか1項に記載の評価化合物の存在下で計測する段階;(b)前記評価化合物の存在下でのPI3−Kポリペプチド活性と、当量の基準化合物としての既知のPI3−K阻害剤の存在下でのPI3−Kポリペプチド活性とを比較する段階を含み、その際、前記評価化合物の存在下でのPI3−Kポリペプチド活性が前記基準化合物の存在下での活性と比べて低ければ、前記評価化合物が前記基準化合物と比べて効力が高い阻害剤であることを示し、かつ前記評価化合物の存在下でのPI3−Kポリペプチド活性が前記基準化合物の存在下での活性と比べて高ければ、前記評価化合物が前記基準化合物と比べて効力の低い阻害剤であることを示す方法。
【請求項12】
PI3−Kが役割を担う疾患を治療する方法において、前記疾患の患者に、請求項1から8までの何れか1項に記載の化合物又はその塩の有効量を投与することを含む方法。
【請求項13】
疾患が、癌又は免疫及び炎症の疾病である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
疾患が、白血球のPI3−K機能の破綻である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
癌細胞の成長を阻害する方法において、前記癌細胞と、有効量の請求項1から8までの何れか1項に記載の化合物又はその塩とを接触させることを含む方法。
【請求項16】
前記癌細胞は、PI3−K媒介性のシグナリングにPTENの変異、PIK3CA遺伝子の増幅又はPI3−キナーゼの変異を介して変化がみられる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記癌が、乳癌、前立腺癌、結腸癌、肺癌、卵巣癌及びPI3−K活性に変化がみられる他の癌を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
細胞内のPI3−K媒介性のシグナリングに作用させる方法において、前記細胞と、有効量の請求項1から8までの何れか1項に記載の化合物又はその塩とを接触させることを含む方法。
【請求項19】
前記化合物が、PI3−K媒介性のAktのリン酸化に作用する、請求項18に記載の方法。

【公表番号】特表2007−500249(P2007−500249A)
【公表日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533762(P2006−533762)
【出願日】平成16年6月14日(2004.6.14)
【国際出願番号】PCT/US2004/018752
【国際公開番号】WO2005/016245
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(503300502)ツェンタリス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (25)
【氏名又は名称原語表記】Zentaris GmbH
【住所又は居所原語表記】Weismuellerstrasse 50,D−60314Frankfurt am Main,Germany
【Fターム(参考)】