説明

ホールカバー

【課題】潤滑剤が充填されて摩擦を低減する潤滑剤充填凹部が潰れにくいホールカバーを得る。
【解決手段】シール部130の端部170に、突出環部172を形成する。その突出環部172は、潤滑剤充填凹部140の外周端171よりも外周側の位置から軸方向に突出させられている。そのため、組み付け作業時等に、伝達比可変装置本体50が軸方向に移動させられて、その端面180がシール部130とが当接する。その際には、シール部130は突出環部172において端面180と当接することにより、潤滑剤充填凹部140の変形が抑制されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングシャフトが貫通する車室壁の穴を塞ぐカバーに関し、特に、ステアリングシャフトに外嵌されるシール部に特徴のあるホールカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、ステアリングホイール等の操作部材になされた回転操作等の操舵操作は、ダッシュパネル等の車室壁を貫通するステアリングシャフトによって、車室外の転舵装置等に伝達される。そのような構造を有する車両には、ステアリングシャフトの外周に嵌められるシール部を有して、車室壁とステアリングシャフトとの隙間を塞ぐホールカバーが設けられる場合がある。下記〔特許文献1〕には、上述のホールカバーが図面中に表されている。
【特許文献1】特開2004−58742
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記ホールカバーは、例えば、操舵操作によって回転させられるステアリングシャフトとシール部との摩擦が小さくなるようにされていることが望ましい。そこで、シール部の内周面に全周にわたって連続して開口する凹部を設けて、その凹部に潤滑剤を充填することにより、上記摩擦を低減させることができると考えられる。また、上記凹部を設けても、組み付け作業時等に組み付け部品や工具等がシール部に当たってシール部の端部が軸方向に押されると、その凹部が潰されて充填された潤滑剤がシール部の外に漏れてしまう虞がある。従来のホールカバーには上述のような問題があり、そのような問題を改善することによってより実用的なホールカバーを得ることができる。本発明は、そういった実情を鑑みてなされたものであり、より実用的なホールカバーを得ることを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明のホールカバーは、ステアリングシャフトに外嵌されるシール部を備え、そのシール部が、ステアリングシャフトの外周面と摺接する内周面に全周にわたって連続して開口して内部に潤滑剤が充填される潤滑剤充填凹部を有し、少なくとも一方の端部に、前記ステアリングシャフトの外周面から離間した位置から軸方向に突出する1以上の突出部が形成されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明のホールカバーは、上記突出部を組み付け部品等と当接させることにより、その当接によってシール部の内周部に加わる力を低減させることができ、潤滑剤充填凹部が潰れることを抑制することができる。なお、本発明のホールカバーの各種態様およびそれらの作用および効果については、以下の、〔発明の態様〕の項において詳しく説明する。
【発明の態様】
【0006】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0007】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に、(2)項が請求項2に、(3)項が請求項3に、(4)項が請求項4に、(5)項が請求項5に、(6)項が請求項6に、それぞれ相当する。
【0008】
(1)ステアリングシャフトに外嵌されてそれの外周面と摺接するシール部を有してそのステアリングシャフトが貫通する車室壁の穴を塞ぐホールカバーであって、
前記シール部が、前記ステアリングシャフトの外周面と摺接する内周面に全周にわたって連続して開口して内部に潤滑剤が充填される潤滑剤充填凹部を有し、少なくとも一方の端部に、前記ステアリングシャフトの外周面から離間した位置から軸方向に突出する1以上の突出部が形成されたものであることを特徴とするホールカバー。
【0009】
本項に記載のホールカバーは、例えば、操舵操作によって回転させられるステアリングシャフトの外周面とシール部において摺接する。そのシール部は、例えば、環状をなしており、自身を貫通するステアリングシャフトの外周に嵌められて、自身の内周面においてステアリングシャフトと摺動可能に密着し、ホールカバーとステアリングシャフトとの間に隙間ができないようにするものである。そのシール部の内周部に設けられた潤滑剤充填凹部は、例えば、シール部の内周面に沿って形成された溝と捉えることができる。また、潤滑剤充填凹部は、例えば、シール部のステアリングシャフトに摺接する部分に隣接して設けられた潤滑剤を収容する環状の空間と捉えることもできる。さらに、潤滑剤充填凹部は、例えば、2つの環状の壁によって形成された空間と捉えることもできる。その場合には、シール部は、それぞれが潤滑剤充填凹部の軸方向の壁を形成するとともに、その内周端においてステアリングシャフトの外周面と摺接する2つの摺接壁を備えるものと考えることができる。その潤滑剤充填凹部の断面形状は、特に限定されず、例えば、半円状,矩形状,U字状,V字状等の形状とすることができる。
【0010】
潤滑剤充填凹部にグリス等の潤滑剤が充填された状態でシール部とステアリングシャフトと摺接させることにより、ステアリングシャフト回転時の摺動摩擦等を低減させることができる。しかし、単に潤滑剤充填凹部を有するだけでは、組み付け作業時,メンテナンス時等に組み付け部品や工具等がシール部の端部、特にステアリングシャフトの外周面の近傍に位置する内周部に当たると、潤滑剤充填凹部が軸方向に潰されて充填された潤滑剤がシール部の外に漏れてしまう虞がある。本項に記載のシール部は、少なくとも一方の端部に、ステアリングシャフトの外周面から離間した位置から軸方向に突出する突出部が形成されており、その突出部において組み付け部品等と当接することにより、シール部の内周部に加わる力を低減させることができ、潤滑剤充填凹部が潰れることを抑制することができるのである。また、本項のシール部は、その突出部において組み付け部品等と当接することにより、当接によって加わる力をステアリングシャフトの外周面から離間した部分で受け止めることによって、潤滑剤充填凹部が潰れることを抑制することができると捉えることもできる。
【0011】
本項に記載のシール部において、突出部が突出する位置は、シール部の剛性,潤滑剤充填凹部の壁面の厚さ等によって異なるが、例えば、ステアリングシャフトの外周面から、潤滑剤充填凹部の深さ寸法(例えば、シール部の内周面と当該凹部の外周端との距離)の半分以上の距離離間した位置から突出していることが望ましく、また、上記深さ寸法の4分の3以上の距離離間した位置から突出していることがさらに望ましい。すなわち、潤滑剤充填凹部の軸方向の壁を形成する壁部の内周端付近の部分が押されないので、潤滑剤充填凹部が潰れにくいのである。
【0012】
なお、ダッシュパネル,フロアパネル等の車室壁を貫通するステアリングシャフトは、単に、1つの軸部材によって構成されたものであってもよいし、複数の軸部材がユニバーサルジョイント等によって連結されて構成されたものであってもよい。さらに、本項のステアリングシャフトは、例えば、操舵操作の伝達比を変化させることが可能な装置である伝達比可変装置等を備えたものとすることができ、例えば、2つのシャフト間に伝達比可変装置等が介在して構成されたものであってもよい。そのステアリングシャフトを含んで、操舵操作を転舵装置に伝達する操舵操作伝達機構が構成されている。
【0013】
(2)前記1以上の突出部の各々が、前記潤滑剤充填凹部の外周端が位置する位置よりも前記ステアリングシャフトの外周面から離間した位置から軸方向に突出するように形成された(1)項に記載のホールカバー。
【0014】
本項に記載の突起部は、ステアリングシャフトの外周面から、上記潤滑剤充填凹部の深さ寸法と同じ距離以上の距離離間した位置から突出する態様である。本態様において、突出部に加わる軸方向の力の殆どを、シール部の潤滑剤充填凹部が設けられていない部分で受け止めることができるため、潤滑剤充填凹部の潰れを効果的に抑制することができる。
【0015】
(3)前記シール部が、前記1以上の突出部として、全周にわたって軸方向に突出して環状に形成された1つの突出部を有する(1)項または(2)項に記載のホールカバー。
【0016】
突出部を環状に形成することにより、シール部は、いずれの周方向の位置においても、その突起部において組み付け部品等と当接することができ、潤滑剤充填凹部の潰れを効果的に抑制することができる。また、突起部が、例えば、全周にわたって,複数の部分において,あるいは連続した少なくとも一部の部分において、組み付け部品等と当接する場合には、その当接によって加わる力を分散させることができ、潤滑剤充填凹部の潰れを効果的に抑制することができる。
【0017】
(4)前記シール部が、
自身と摺接する部分より大きな外径の大径部を有する前記ステアリングシャフトに外嵌されて、その大径部の端部と前記1以上の突出部の各々の突出端とが互いに向かい合うとともにそれらの間に間隔を隔てるように位置させられた(1)項ないし(3)項のいずれかに記載のホールカバー。
【0018】
本項に記載のシール部は、例えば、ステアリングシャフトと軸方向に相対移動可能とされて、前記ステアリングシャフトと当該シール部との相対移動によって前記大径部が当該シール部に当接する際に、前記1以上の突出部の各々の突出端において前記大径部の端部と当接するものとすることができる。具体的には、例えば、組み付け時等に、ステアリングシャフトが軸方向の車両における前方側に移動させられる場合がある。その際には、シール部とステアリングシャフトとが相対移動することとなるが、シール部が突出部においてステアリングシャフトの大径部と当接するため、潤滑剤充填凹部の潰れを抑制することができる。ステアリングシャフトの大径部は、単に、径の大きな部分が形成され,あるいは径の大きな部材が連結されて構成されていてもよいし、車両に関する何らかの装置、例えば、ユニバーサルジョイント,伝達比可変装置,衝撃吸収装置等によって構成されていてもよい。
【0019】
(5)前記シール部が、前記大径部としての伝達比可変装置を有する前記ステアリングシャフトに外嵌される(4)項に記載のホールカバー。
【0020】
本項に記載の態様では、シール部が突出部において伝達比可変装置と当接することにより、潤滑剤充填凹部の潰れを抑制することができる。
【0021】
(6)当該ホールカバーが、前記伝達比可変装置のカバーである装置カバーの一部分をなし、その装置カバーの前記伝達比可変装置の一端部を覆う部分として機能する(5)項に記載のホールカバー。
【0022】
ホールカバーの一部分を、伝達比可変装置のカバーの一部分として機能させることにより、伝達比可変装置を設ける際に必要な部品の点数を減らすことができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の一実施例およびその変形例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、決して下記の実施例に限定されるものではなく、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0024】
1. ステアリングシャフトの概要.
図1に、本発明の一実施例であるホールカバー10,およびそれを備えたステアリングシステムの一部分を示す。本実施例において、ステアリングシャフト20は、車体に固定されたステアリングコラム30によって回転可能に保持されたコラムシャフト32,そのコラムシャフト32に連結されてその回転の伝達比を変化させる伝達比可変装置40,および,その伝達比可変装置40と図示を省略する転舵装置とを連結するインタミディエイトシャフト42を備えている。コラムシャフト32は、その一端部に図示を省略するステアリングホイール(操作部材の一種である)が取り付けられており、運転者の操舵操作に伴って、ステアリングホイールとともに回転させられる。
【0025】
伝達比可変装置40は、例えば、SUV(スポーツユーティリティビークル)等の車両に搭載されており、「VGRS:(Variable Gear Ratio Steering)」の一部を構成する場合がある。図2に、ホールカバー10の切断面,伝達比可変装置40等を拡大して示す(一部断面)。伝達比可変装置40は、伝達比可変装置本体50(以後、「装置本体」と略記する場合がある。)および給電ケーブル保持器52を含んで構成されている。装置本体50は、ステアリングホイール側(図2において右側)である後方側において、ユニバーサルジョイント60を介してコラムシャフト32に連結され、また、転舵装置側(図2において左側)である前方側において、インタミディエイトシャフト42に連結されている。そして、装置本体50は、コラムシャフト32の回転に伴い回転させられる。
【0026】
装置本体50の内部構造については、伝達比可変装置40自体が公知であるため、図示を省略して簡単に説明する。装置本体50は、差動機構および波動発生器を備えるハーモニックドライブ減速機と、モータ等を含んで構成されている。差動機構は、それぞれコラムシャフト32,インタミディエイトシャフト42の各々と連結された互いに歯数の異なる相対回転可能な2つのリングギヤと、それら2つのリングギヤと噛み合うフレキシブルギヤとを有している。そして、モータによって波動発生器が回転駆動されると、差動機構において、フレキシブルギヤと2つのリングギヤとの噛み合う部分が周方向に移動し、それら2つのリングギヤの歯数の違いに起因してそれらの回転角度に差が生じる構造とされている。すなわち、伝達比可変装置40は、装置本体50において、必要に応じて波動発生器を回転させることにより、ステアリングシャフト30の回転角度よりもインタミディエイトシャフト42の回転角度を増加あるいは減少させることができるのである。
【0027】
本実施例において、装置本体50は、前方部分(図において左側)がホールカバー10によって、後方部分(図において右側)の側面が円筒状の装置側方カバー54によって覆われている。詳細は後述するが、装置側方カバー54の前方端部がホールカバー10に固定され、後方端部に給電ケーブル保持器52が固定されている。すなわち、給電ケーブル保持器52は、装置側方カバー54を介してホールカバー10に固定的に支持されている。その給電ケーブル保持器52は、螺旋状に巻かれた給電用のスパイラルケーブルを備えており、装置本体50の回転に伴い、そのスパイラルケーブルを繰り出し,または巻き取り可能に保持している。すなわち、給電ケーブル保持器52は、装置本体50の相対回転を許容しながら電力を供給することができるのである。
【0028】
ステアリングシャフト20は、車室壁たるダッシュパネル70を貫通して配設されている。そのダッシュパネル70は概ね直立して設けられて、そのダッシュパネル70によって車室内(図において右側)と車室外(本実施例においてエンジンルーム、図において左側)とが隔てられている。ダッシュパネル70には、ステアリングシャフト20が通る貫通穴72が設けられており、その貫通穴72の外周に環状のホールカバーリテーナ74がボルト・ナットによってダッシュパネル70に締結されている。なお、図1には、ホールカバーリテーナ74を締結するボルトが通る穴であるボルト穴76が図示されている。そのホールカバーリテーナ74は、貫通穴72とステアリングシャフト20との間の隙間を塞ぐホールカバー10を、その周縁部を押さえ付けて、ダッシュパネル70に固定している。
【0029】
2. ホールカバー.
本実施例において、ホールカバー10は、ダッシュパネル70に固定されて貫通穴72の外周部分を覆うアウタカバー100と、そのアウタカバー100に嵌合させられて貫通穴72の中央部分を覆うセンタカバー102とを含んで構成されている。アウタカバー100およびセンタカバー102は、いずれもEPDM(エチレンプロピレンジエン三元共重合体),NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)等のゴム材料によって成形されており、ダッシュパネル70,ステアリングシャフト20等への密着性、あるいはそれら互いの密着性に優れたものとされている。アウタカバー100は、平板部110とアウタ側円筒部112とを有しており、平板部110の周縁部114が、上述のようにホールカバーリテーナ74によってダッシュパネル70に固定されている。アウタ側円筒部112は、ステアリングシャフト20と同軸的に配設されるように、平板部110に対して傾斜して設けられ、また、平板部110から車室内側に延び出す向きに設けられている。
【0030】
センタカバー102は、アウタ側円筒部112の内側に嵌合させられるセンタ側円筒部120と、インタミディエイトシャフト42に外嵌されてインナ側円筒部120の車室外側の開口部を塞ぐシャフト外嵌部122とを有している。そのシャフト外嵌部122は、内周部にシール部130を有しており、そのシール部130が、インタミディエイトシャフト42の外周に嵌められて、その外周面に摺接している。なお、シール部130の詳細については後述する。シャフト外嵌部122は、また、シール部130の外周側にそれと同心円の波状に形成された波状部132を有しており、その波状部132は、シール部130の外周部と全周にわたって連続して設けられている。また、波状部132は、全周にわたって径方向に屈曲させられ、かつ、板厚が薄くされているため、径方向に変形しやすいものとされている。すなわち、その波状部132によってシール部130がインタミディエイトシャフト42に対して径方向に相対変位可能に支持されており、シール部130とインタミディエイトシャフト42とを適切に摺接させることができるのである。以上のように、本実施例において、ホールカバー10を構成するアウタカバー100とセンタカバー102とが組み付けられてインタミディエイトシャフト42とダッシュパネル70の貫通穴72との間の隙間が塞がれているのである。
【0031】
3. シール部.
図3に、シール部130の切断面を拡大して示す。シール部130は、概して円環状をなしており、その外周部131において全周にわたって波状部132と連続的につながっており、また、その内周面134においてインタミディエイトシャフト42の外周面136と摺接している。そのシール部130によって、ホールカバー10とインタミディエイトシャフト42との間を砂埃等のダストや雨水等が通過しないようにされている。
シール部130は、内周部に断面形状が概してU字形状の溝であるU字溝140(潤滑剤充填凹部の一種である)を有している。そのU字溝140は、シール部130の内周面に全周にわたって連続して開口し、U字溝140とインタミディエイトシャフト42の外周面136とによって囲まれた空間に潤滑剤たるグリス142が充填されている。そのグリス142によってシール部130とインタミディエイトシャフト42との摩擦が低減されている。シール部130は、軸方向においてU字溝140の車室外側の壁を形成する摺接壁たるシール基体部150と、車室内側の壁を形成する摺接壁たるオイルリップ部152とを有している。それらシール基体部150およびオイルリップ部152の各々は、シール部130の内周面を形成するそれぞれの内周端154,156において外周面136と摺接している。
【0032】
なお、本実施例において、オイルリップ部152は、軸方向の厚さがシール基体部150よりも薄いものとされており、摩擦抵抗の増加を抑制しつつ、グリス142を収容するU字溝140の壁を形成している。そのため、オイルリップ部152は、潤滑剤充填凹部たるU字溝140の壁を形成することを主目的として設けられた摺接壁である凹部形成摺接壁と称することもできる。また、オイルリップ部152は、インタミディエイトシャフト42の外周面136と摺接することを主目的に設けられたシール基体部150から軸方向に離間した位置に設けられており、シール部130の車室内側の端部170に近い位置に位置している。シール部130は、また、シール基体部150の車室外側の端部に設けられたダストリップ部160を備えており、シール部130とインタミディエイトシャフト42との間にダスト等がさらに入りにくくされている。
【0033】
シール部130の車室内側の端部170には、U字溝142の外周端171が位置する位置よりもインタミディエイトシャフト42の外周面136から離間した位置から、全周にわたって軸方向に突出する環状の突出環部172が形成されている。また、本実施例において、突出環部172は、外周面136から離間した状態で軸方向に突出させられており、外周面136と接触しないようにされている。その突出環部172の突出端174は、伝達比可変装置本体50の車室外側の端面180と互いに向かい合うとともに、設定された間隔D(図4)を隔てるように位置させられている。
【0034】
ところで、例えば、組み付け作業において、装置本体50とコラムシャフト32とをユニバーサルジョイント60を介して連結する作業等が行われるが、その連結作業の際には、装置本体50が一旦インタミディエイトシャフト42とともに軸方向の車両前方へ向かって移動させられてから、ユニバーサルジョイント60にコラムシャフト32の端部が連結される。そのため、センタカバー102には、装置本体50が車室外側の方向へ設定距離だけ移動できるように、装置本体50とシャフト外嵌部122との間に設けられた空間である移動許容空間が確保されている。すなわち、本実施例において、シャフト外嵌部122の外周部184が、センタ側円筒部120の前方側の端部から車室外側に延び出しており、シャフト外嵌部122のうちの、装置本体50の車室外側の端面180の外径よりも若干の大きな径の円であって、インタミディエイトシャフト42の軸線を中心軸線とする円に囲まれた部分が、装置本体50の移動を阻止する装置端面移動阻止部として機能する。その装置端面移動阻止部は、軸方向において端面180から設定された距離である移動許容距離だけ間隔を隔てるようにされている。
【0035】
本実施例において、組み付け作業の際に、装置本体50が軸方向の前方に移動させられ、装置本体50の端面180とシャフト外嵌部122のシール部130とが当接する(図4)。もし、シール部130の端部170に突出環部172が形成されていない場合には、シール部130のオイルリップ部152が端面180に押されて変形し、U字溝142が軸方向に潰されて内部に充填されていたグリス142が漏れてしまう虞がある。しかしながら、本実施例において、シール部130の端部170には突出環部172が形成されており、シール部130はその突出環部172において端面180と当接する。その突出環部172はインタミディエイトシャフト42の外周面180から離間した位置から軸方向に延びるように形成されており、オイルリップ部152の内周端156から十分離間しているため、オイルリップ部152が変形し難く、U字溝142は殆ど潰れないのである。また、本実施例において、突出環部172は、環状をなしており、全周にわたって端面180と当接するため、端面180から加わる力を全周に分散させて受け止めることができる。
【0036】
このように、シール部130の端部170に突出環部172を形成することにより、組み付け作業,メンテナンス作業,分解作業等を行う際等に、伝達比可変装置本体50等の組み付け部品,工具等がシール部130に当接しても、突出環部172においてそれら組み付け部品等と当接することにより、U字溝142を潰すことなく作業を行うことができるのである。
【0037】
4. 伝達比可変装置のカバーについて.
本実施例において、センタカバー102は、ホールカバー10の構成要素であるとともに、伝達比可変装置のカバーの一部として機能している。そのことから、伝達比可変装置40のカバーが、アウタカバー100の穴を塞いでいると捉えることもできる。その場合には、伝達比可変装置40のカバーは、センタカバー102および装置側方カバー54を含んで構成されていると考えることができる。さらに、センタカバー102とアウタカバー100とを、一体的なものと捉えれば、伝達比可変装置40のカバーによって、ダッシュパネル70の貫通穴72が塞がれていると捉えることもできる。その場合には、伝達比可変装置40のカバーは、センタカバー102,アウタカバー100,および装置側方カバー54を含んで構成されていると考えることができる。
【0038】
なお、装置側方カバー54等の固定について説明する。装置側方カバー54には、その前方端部の内周に連結用の円筒部材180が車室外側に延び出して設けられている。その円筒部材180の延び出した部分がセンタカバー102のセンタ側円筒部120の内側に嵌入させられている。また、センタ側円筒部120はアウタ側円筒部112の内側に嵌入させられいる。そして、アウタ側円筒部112の外周には締結帯190が巻き付けられており、その締結帯190が締め付けられることにより、アウタカバー100,センタカバー102,および装置側方カバー54が互いに固定されている。装置側方カバー54の後方端部への給電ケーブル保持器52の固定も同様に、装置側方カバー54が、その後方端部の外周に巻き付けられた締結帯192によって締め付けられ、装置側方カバー54の後方端部の内側に嵌入させられた給電ケーブル保持器52の前方端部が固定されるのである。
【0039】
5. 変形例.
上記実施例において、アウタカバー100,センタカバー102,および装置側方カバー54は、それぞれ別体の部品として成形されていたが、それらのうちの2つ以上が一体的に、1つの部品として成形されていてもよい。また、上記実施例において、前記1以上の突出部として、1つの環状の突出環部172が形成されていたが、複数の突出部を形成することもできる。例えば、インタミディエイトシャフト42の外周面から離間した位置を通り、かつ、シール部の中心軸線を中心軸線とする一円周上に、複数の突出部が設定された間隔で周方向に並べて形成することができる。さらに、上記実施例において、ホールカバー10は伝達比可変装置40のカバーの一部分として機能していたが、伝達比可変装置40のカバーとして機能させることは必要不可欠ではない。例えば、本発明のホールカバーを、単に、ダッシュパネル70の貫通穴72を塞ぐ機能だけを有する態様とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施例であるホールカバーを備えたステアリングシステムの一部分を示す図である。
【図2】上記ホールカバーの切断面を示す図である。
【図3】上記ホールカバーのシール部を拡大して示す図である。
【図4】上記シール部と伝達比可変装置本体の端面との距離を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
10:ホールカバー 20:ステアリングシャフト 40:伝達比可変装置 42:インタミディエイトシャフト 50:伝達比可変装置本体 54:装置側方カバー 60:ユニバーサルジョイント 70:ダッシュパネル(車室壁) 72:貫通穴 100:アウタカバー 102:センタカバー 130:シール部 134:内周面 136:外周面 140:U字溝(潤滑剤充填凹部) 142:グリス(潤滑剤) 150:シール基体部(摺接壁) 152:オイルリップ部(摺接壁) 154:内周端 156:内周端 170:端部 171:外周端 172:突出環部(突出部) 174:突出端 180:端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトに外嵌されてそれの外周面と摺接するシール部を有してそのステアリングシャフトが貫通する車室壁の穴を塞ぐホールカバーであって、
前記シール部が、前記ステアリングシャフトの外周面と摺接する内周面に全周にわたって連続して開口して内部に潤滑剤が充填される潤滑剤充填凹部を有し、少なくとも一方の端部に、前記ステアリングシャフトの外周面から離間した位置から軸方向に突出する1以上の突出部が形成されたものであることを特徴とするホールカバー。
【請求項2】
前記1以上の突出部の各々が、前記潤滑剤充填凹部の外周端が位置する位置よりも前記ステアリングシャフトの外周面から離間した位置から軸方向に突出するように形成された請求項1に記載のホールカバー。
【請求項3】
前記シール部が、前記1以上の突出部として、全周にわたって軸方向に突出して環状に形成された1つの突出部を有する請求項1または2に記載のホールカバー。
【請求項4】
前記シール部が、
自身と摺接する部分より大きな外径の大径部を有する前記ステアリングシャフトに外嵌されて、その大径部の端部と前記1以上の突出部の各々の突出端とが互いに向かい合うとともにそれらの間に間隔を隔てるように位置させられた請求項1ないし3のいずれかに記載のホールカバー。
【請求項5】
前記シール部が、前記大径部としての伝達比可変装置を有する前記ステアリングシャフトに外嵌される請求項4に記載のホールカバー。
【請求項6】
当該ホールカバーが、前記伝達比可変装置のカバーである装置カバーの一部分をなし、その装置カバーの前記伝達比可変装置の一端部を覆う部分として機能する請求項5に記載のホールカバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−76329(P2006−76329A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259386(P2004−259386)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ハーモニックドライブ
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】