説明

ボルト用クリップ

【課題】ボルトに対するクリップの組み付け作業を容易にする。
【解決手段】本発明のボルト用クリップ10は、スタッドボルトSBに螺合するボルト孔41を有するナット40と、ナット40を内部に収容するナット収容部50と、ナット40におけるボルト孔41の孔縁部に設けられ、スタッドボルトSBと干渉することにより径方向外側に変位する規制片44とを備え、ナット40は、ナット収容部50をスタッドボルトSBに組み付けることでスタッドボルトSBの軸線回りに回転してスタッドボルトSBに螺合するようになっており、規制片44には規制突起46が設けられ、ナット収容部50には、スタッドボルトSBとナット40が螺合した状態で規制突起46が嵌り込むことによりナット40の逆回転を規制する規制溝58が設けられている構成としたところに特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被取付部材から突出されたボルトに取り付けられてワイヤハーネスを保持するボルト用クリップに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のボルト用クリップとして、例えば下記特許文献1に記載のものが知られている。このものは、ボルト(スタッドボルト)に圧入される中空部を有する連結具と、この連結具の外周側に嵌合することにより連結具がボルトから外れることを規制する筒体とを備えて構成されている。このようなクリップによると、まず、連結具の中空部をボルトに圧入状態で挿入し、次に、筒体を連結部に挿入することによってクリップがボルトに固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−280228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のクリップでは、連結具をボルトに圧入する際の挿入力が大きいことは言うまでもなく、筒体を連結部に挿入する際の挿入力もそれなりに大きいものとなっている。また、連結具の挿入作業と筒体の挿入作業をそれぞれ行う必要があるため、ボルトに対するクリップの組み付け作業が容易ではない。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、ボルトに対するクリップの組み付け作業を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、被取付部材から突出されたボルトに取り付けられてワイヤハーネスを保持するボルト用クリップであって、ボルトに螺合するボルト孔を有するナットと、ナットを内部に収容するナット収容部と、ナットにおけるボルト孔の孔縁部に設けられ、ボルトと干渉することにより径方向外側に変位する規制片とを備え、ナットは、ナット収容部をボルトに組み付けることでボルトの軸線回りに回転してボルトに螺合するようになっており、規制片とナット収容部との両対向部の一方には、同他方に向けて突出する突起が設けられ、同他方には、ボルトとナットが螺合した状態で突起が嵌り込むことによりナットの逆回転を規制する溝が設けられている構成としたところに特徴を有する。
【0007】
このような構成によると、まず、ナット収容部をボルトに組み付けることでナットをボルトの軸線回りに回転させ、ボルトに螺合させる。そして、ナットがボルトに螺合した状態で突起が溝に嵌り込んでナットの逆回転を規制し、ナットがボルトに螺合した状態に保持される。このように、ナット収容部をボルトに組み付けるだけでナットが回転するから、大きな操作力を必要とせず、また、ナット収容部をボルトに組み付ける作業だけで完結させることができるから、ボルトに対するクリップの組み付け作業を容易にすることができる。
【0008】
本発明の実施の態様として、以下の構成が好ましい。
突起は、規制片に設けられ、溝は、ナット収容部に設けられている構成としてもよい。
このような構成によると、規制片の突起がナット収容部の溝に嵌り込むことになる。
【0009】
ナットの外周面には、ガイド突部が突設され、ナット収容部の内周面には、ガイド突部と係合するガイド凹部が設けられ、このガイド凹部はボルトの軸線方向に対して斜め方向に延出されている構成としてもよい。
このような構成によると、ナット収容部をボルトに組み付けることでガイド突部がガイド凹部に沿って移動する。このとき、ナット収容部が回転しないようにボルトの軸線方向に移動させることにより、ナットがボルトの軸線回りに回転し、ボルトに螺合することになる。
【0010】
ナット収容部は、可撓性のヒンジ部によって連結された一対の半割体からなる構成としてもよい。
このような構成によると、一対の半割体によってナットを挟み込むようにして組み付けることができるため、ナットをナット収容部に組み付ける作業が容易になる。
【0011】
規制片は、ナットに設けられている構成としてもよい。
通常、ボルトの径に合わせてボルト孔の径を設定するとともに、ボルトの径に合わせて規制片の寸法を設定することになる。したがって、ナットの種類を変更するだけで、ボルトの径に合ったボルト孔の径と規制片の寸法の双方を設定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ボルトに対するクリップの組み付け作業を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】クリップをボルトに組み付ける前の状態を示した斜視図
【図2】ナットをナット収容部に組み付ける前の状態を示した斜視図
【図3】クリップをボルトに組み付けた後の状態におけるナットの回り止め構造を斜め方向から見た断面図
【図4】ナットをボルトに螺合させる直前の状態を示した断面図
【図5】図4の状態からナット収容部をさらにボルトに挿入してナットをボルトに螺合させた状態を示した断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施形態>
本発明の実施形態を図1ないし図5の図面を参照しながら説明する。本実施形態におけるボルト用クリップ10は、例えば車両のボディパネル(本発明の「被取付部材」の一例)BPから突出するスタッドボルトSBに取り付けられるものである。以下において上下方向とは図4を基準とする。なお、本実施形態のスタッドボルトSBは、図1に示すように、ボディパネルBPの取付面に対して垂直となるように同取付面に溶接されている。
【0015】
ボルト用クリップ10は、合成樹脂製(例えば、ポリプロピレン)であって、図1に示すように、ワイヤハーネスを結束させるためのバンド部20と、スタッドボルトSBに取り付けられるヘッド部30とを備えて構成されている。
【0016】
バンド部20は、複数のワイヤハーネスを束ねることができる長さであって、ほぼ一定の幅寸法でヘッド部30に連なっており、その厚みは可撓性を有するために薄肉となっている。バンド部20の上面には結束する大きさを調節するための多数の係止凸部21が並んで形成されている。
【0017】
ヘッド部30は、スタッドボルトSBに螺合するボルト孔41を有するナット40と、このナット40を内部に収容するナット収容部50とを備えて構成されている。
【0018】
ナット収容部50は、図2に示す一対の半割体51,51を互いに組み付けることによって円筒状をなすように構成されている。両半割体51,51は、可撓性を有するヒンジ部52によって連結されている。一方の半割体51におけるヒンジ部52とは反対側の端部には、上下一対の可撓片53が設けられている。他方の半割体51におけるヒンジ部52とは反対側の端部には、上下一対の保持突起54が設けられている。両可撓片53は、略U字状をなして片持ち状に延出されており、両保持突起54が嵌り込む一対の保持孔55を備えている。ヒンジ部52を中心として両半割体51,51を組み付けると、両保持孔55に両保持突起54が嵌り込み、両可撓片53と両保持突起54が係止した状態に保持される。これにより、両半割体51,51が組み付いた状態に保持され、ナット収容部50が円筒状に保持される。
【0019】
各半割体51の内周面には、ナット収容部50の軸線方向に対して斜め方向に延びるガイド凹部56がそれぞれ凹設されている。ガイド凹部56は、上方に向かうほど反時計回り方向に向かう形態とされている。また、ガイド凹部56は、半割体51の周方向におけるほぼ中央に配置されている。ガイド凹部56の下端は、半割体51の下端近くに配置され、ガイド凹部56の上端は、半割体51の上端近くに配置されている。
【0020】
各半割体51の内周面の上部における周方向両端部には、一対の規制凹部57,57が対向状態で設けられている。規制凹部57は、両半割体51,51の合わせ面と内周面とに開口する形態とされている。両半割体51,51の合わせ面同士を合わせるように両半割体51,51を組み付けると、両規制凹部57,57が連結されて両半割体51,51の内周面のみに開口する形態となる。このように両規制凹部57,57が連結されることによって、図1に示すような1つの規制溝58が形成される。
【0021】
ナット40は、図2に示すように、円筒状をなすナット本体42を有し、このナット本体42の中心部を上下方向に貫通する形態でボルト孔41が形成された構成とされている。ナット本体42の外周面には、一対のガイド突部43,43が形成されている。両ガイド突部43,43は、ボルト孔41の軸心に関して径方向に対称に配置されている。ガイド突部43は、ナット本体42の下端から上端に至る領域に形成されている。ガイド突部43は、上方に向かうほど反時計回り方向に向かうリブ状に形成されている。
【0022】
ガイド突部43の幅寸法は、ガイド凹部56の幅寸法と同じかこれよりやや小さめとされている。ガイド突部43の傾斜角度と、ガイド凹部56の傾斜角度とは、同じとされている。また、ナット本体42の外周面は、ナット収容部50の内周面に沿う形態とされている。ナット40を両半割体51,51の内側に挟み込んで組み付けると、両ガイド突部43,43が両ガイド凹部56,56の下端位置に適合して嵌り込む。この状態からナット40を上方に移動させると、両ガイド突部43,43と両ガイド凹部56,56との係合に基づくカム作用を発揮することで、両ガイド突部43,43が両ガイド凹部56,56の上端位置に移動するとともにナット40が反時計回り方向に回転する。
【0023】
また、ナット本体42におけるボルト孔41の孔縁部には、一対の規制片44,44が設けられている。両規制片44,44は、ナット本体42において両ガイド突部43を通る線と直交する位置にそれぞれ配置されている。規制片44は、図4に示すように、断面略T字状をなし、その上端が径方向外側に変位可能に設けられている。すなわち、規制片44の下端部における周方向両側は、ナット本体42に対して可撓片(図示せず)によって連結されており、この可撓片が撓み変形することで規制片44の下端部を基端として上端部が径方向外側に拡開変位するように構成されている。
【0024】
規制片44の上端部における径方向内側には、干渉部45が設けられており、規制片44の上端部における径方向外側には、規制突起46が設けられている。図2に示すように、両規制片44,44の両干渉部45,45は、対向して配置されており、ボルト孔41の内周面よりも径方向内側に張り出す形態とされている。一方、両規制片44,44の両規制突起46,46は、ナット本体42の径方向においてナット本体42の外周面からはみ出さない形態、換言すると、ナット本体42の外周面と周方向に揃う形態とされている。
【0025】
このため、ボルト孔41にスタッドボルトSBを挿入すると、スタッドボルトSBが両干渉部45,45に干渉して両規制突起46,46がナット本体42の外周面からはみ出すように変位することになる。これにより、両規制突起46,46は、図3に示すように、両ガイド突部43,43が両ガイド凹部56,56の上端位置にあるときに、両規制溝58,58に嵌り込む。さらに、両ガイド突部43,43が両ガイド凹部56,56の上端位置に保持されることで、両ガイド突部43,43が両ガイド凹部56,56に対して周方向に移動できなくなり、ナット40の逆回転(時計回り方向の回転)が規制される。
【0026】
本実施形態は以上のような構成であって、続いてその作用を説明する。まず、図2に示すように、ナット40を両半割体51,51の内側に挟み込むようにしてナット収容部50に組み付ける。次に、ナット収容部50をスタッドボルトSBに組み付けると、図4に示すように、スタッドボルトSBの先端がボルト孔41に進入し、両干渉部45,45に接触する。本実施形態では、スタッドボルトSBの先端がやや先細り形状とされており、両干渉部45,45がスタッドボルトSBの先端に干渉して始めて、ボルト孔41の下端部がスタッドボルトSBに螺合するように設定されている。
【0027】
続けてナット収容部50を回転させないようにしてさらに押し込んでいくと、両ガイド突部43,43が両ガイド凹部56,56に沿ってその下端位置から上方へ移動し、ナット40が反時計回り方向に回転することでスタッドボルトSBに螺合する。このため、ナット40は、スタッドボルトSBの下側へ移動し、両干渉部45,45は、スタッドボルトSBと干渉することで径方向外側へ変位しようとする。しかしながら、両規制突起46がナット収容部50の内周面に接触して径方向外側への変位が規制されているため、両規制片44,44における干渉部45から規制突起46までの領域が弾性変形する。
【0028】
そして、両ガイド突部43,43が両ガイド凹部56,56の上端位置に至ると、図5に示すように、両規制突起46,46が勢いよく両規制溝58,58に嵌り込み、両規制片44,44が弾性復帰する。この状態では、ナット収容部50の下端は、ボディパネルBPの設置面に接触しており、ナット40のボルト孔41がスタッドボルトSBに螺合しているため、ナット40がスタッドボルトSBに固定される。さらに、ナット収容部50は、ナット40によって保持されるため、ヘッド30がスタッドボルトSBに取り付けられた状態に保持され、ボルト用クリップ10がボディパネルBPに対して強固に固定される。
【0029】
また、例えばワイヤハーネスが上下方向に振られるなどしてボルト用クリップ10が上方に引っ張られた場合であっても、両規制突起46,46が両規制溝58,58に保持されて下方への移動が規制され、この結果両ガイド突部43,43が両ガイド凹部56,56の上端位置に保持されることで下方への移動が規制される。この状態では両ガイド突部43,43が両ガイド凹部56,56の上端位置にて周方向へ移動することが規制され、ナット40の逆回転が規制される。このため、ナット40が逆回転してスタッドボルトSBの螺合が解除されることはなく、ナット40はスタッドボルトSBに固定されたまま保持される。
【0030】
以上のように本実施形態では、ナット収容部50をスタッドボルトSBに組み付けるだけでナット40が反時計回り方向へ回転し、この回転によってナット40がスタッドボルトSBに螺合するようにしているため、スタッドボルトSBに対するボルト用クリップ10の組み付け作業を容易にすることができる。
【0031】
また、両規制突起46,46が両規制溝58,58に嵌り込んでナット40の逆回転が規制されるようになっているため、ボルト用クリップ10が上方に引っ張られるなどしてもナット40が逆回転してスタッドボルトSBから外れることはなく、ボルト用クリップ10をスタッドボルトSBに強固に固定することができる。
【0032】
さらに、ナット収容部50を一対の半割体51,51によって構成したから、ナット40をナット収容部50に組み付ける作業が容易になる。ナット収容部50に組み付けられたナット40は、両ガイド突部43,43と両ガイド凹部56,56との係合に基づくカム作用によってナット収容部50内を円滑に移動するため、大きな操作力を必要とすることなく、ナット収容部50をスタッドボルトSBに対して容易に組み付けることができる。
【0033】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では規制突起46を規制片44に設け、規制溝58をナット収容部50に設けているものの、本発明によると、規制突起をナット収容部に設け、規制溝を規制片に設けてもよい。
【0034】
(2)ガイド凹部の傾斜角度は、本実施形態よりも緩やかにしてもよく、例えば、ナット収容部50の内周面においてらせん状に形成してもよい。
【0035】
(3)上記実施形態では一対の半割体51,51によってナット収容部50を構成しているものの、本発明によると、両半割体が一体に形成されたナット収容部としてもよく、その場合には、ガイド凹部がナット収容部の下端に開口するように形成することで、ナットを下方からナット収容部に組み付けることができる。
【0036】
(4)上記実施形態では規制片44がナット40に設けられているものの、本発明によると、規制片をナット収容部に設けてもよい。
【符号の説明】
【0037】
10…ボルト用クリップ
40…ナット
41…ボルト孔
43…ガイド突部
44…規制片
46…規制突起(突起)
50…ナット収容部
51…半割体
52…ヒンジ部
56…ガイド凹部
58…規制溝(溝)
BP…ボディパネル(被取付部材)
SB…スタッドボルト(ボルト)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被取付部材から突出されたボルトに取り付けられてワイヤハーネスを保持するボルト用クリップであって、
前記ボルトに螺合するボルト孔を有するナットと、
前記ナットを内部に収容するナット収容部と、
前記ナットにおける前記ボルト孔の孔縁部に設けられ、前記ボルトと干渉することにより径方向外側に変位する規制片とを備え、
前記ナットは、前記ナット収容部を前記ボルトに組み付けることで前記ボルトの軸線回りに回転して前記ボルトに螺合するようになっており、
前記規制片と前記ナット収容部との両対向部の一方には、同他方に向けて突出する突起が設けられ、同他方には、前記ボルトと前記ナットが螺合した状態で前記突起が嵌り込むことにより前記ナットの逆回転を規制する溝が設けられていることを特徴とするボルト用クリップ。
【請求項2】
前記突起は、前記規制片に設けられ、前記溝は、前記ナット収容部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のボルト用クリップ。
【請求項3】
前記ナットの外周面には、ガイド突部が突設され、前記ナット収容部の内周面には、前記ガイド突部と係合するガイド凹部が設けられ、このガイド凹部は前記ボルトの軸線方向に対して斜め方向に延出されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のボルト用クリップ。
【請求項4】
前記ナット収容部は、可撓性のヒンジ部によって連結された一対の半割体からなることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のボルト用クリップ。
【請求項5】
前記規制片は、前記ナットに設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のボルト用クリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−122530(P2012−122530A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272921(P2010−272921)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】