説明

ボールジョイント装置

【課題】可動ノズルの駆動トルクを低減でき、リファレンスロッドや緩衝装置が不要であり、1つの可動ノズルで2方向の推力制御が可能であり、シール性の信頼性を向上できるボールジョイント装置を提供する。
【解決手段】ボールジョイント装置10は、可動ノズル5とノズル取付部4との間に配置されたスフェリカルベアリング12とフレキシブルジョイント14とを備える。スフェリカルベアリング12は、ピボットポイントcを中心に可動ノズル5を揺動自在に支持する。フレキシブルジョイント14は、可動ノズル5とノズル取付部4との間の気密性を確保するように周方向に延びる積層ゴムからなり可動ノズル5の機軸周りの回転を拘束する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル取付部に可動ノズルを偏向可能に連結するボールジョイント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロケットモータ(特に固体ロケットモータ)や宇宙機のスラスタにおいて、噴流ガスの方向を変えて推力方向の制御をするため、可動ノズルが用いられる。かかる可動ノズルをモータ等に結合する構造としては、「フレキシブルジョイント」と「ジンバルジョイント」とがある。
【0003】
下記特許文献1には、「フレキシブルジョイント」を採用した可動ノズルが開示されている。図1は、特許文献1において開示された可動ノズルの構成図である。図1において、固体ロケットモータ30のモータケース31の尾部32の開口縁に、積層ゴムからなるフレキシブルジョイント33を介してピッチ軸及びヨー軸回りに首振り可能に可動ノズル34が取り付けられている。尾部32と可動ノズル34との間にはリニアアクチュエータ35が配置されており、リニアアクチュエータ35を伸縮動作させて可動ノズル34に首振り動作をさせることによって、噴流ガスの方向制御を行うようになっている。
【0004】
着火後のモータ内圧によりフレキシブルジョイント33が変形し、可動ノズル34の回転中心(ピボットポイント)がずれると、ノズル回転半径が変わってしまう。したがって、高い制御精度を必要とする可動ノズルの場合、ノズル偏向角の誤差を補正するために、図1に示す構成のように、尾部32と可動ノズル34との間にノズル偏向角検出用のリファレンスロッド37が配置される。
【0005】
また、モータ着火時のノズル機軸方向変位により、リニアアクチュエータ35に大きな衝撃荷重が作用するため、可動ノズル34とリニアアクチュエータ35との間には、リニアアクチュエータ35に対する可動ノズルからの負荷荷重が最大運用荷重を超えた場合に作動して負荷荷重を軽減する緩衝装置36が配置されている。
【0006】
一方、「ジンバルジョイント」は、モータと可動ノズルの間にスフェリカル摺動面を有するとともに、機軸回りの回転を拘束するためのジンバルやベローズを備えた構成の連結構造である。
なお、ジンバルジョイントについては、たとえば下記非特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−13542号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】NASA−SP−8114 SOLID ROCKET THRUST VECTER CONTROL
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した従来のフレキシブルジョイントには、以下のような問題がある。
(1)積層ゴム構造の回転に必要なトルクが比較的大きく、可動ノズル34を駆動させるために大型・大出力のリニアアクチュエータ35を必要とする。
(2)ノズル偏向角の誤差を補正するために、リファレンスロッド37が必要になる。
(3)リニアアクチュエータ35に作用する負荷荷重を軽減するために、緩衝装置36を追加する必要がある。
【0010】
上述した従来のジンバルジョイントには、以下のような問題がある。
(4)機軸回りの回転をジンバルで拘束した場合、可動ノズルの偏向が1軸回り(ピッチ軸又はヨー軸)に限定されてしまう。このため、2方向の推力制御を行うためには、最低2つの可動ノズルを取り付ける必要があり、可動ノズル、駆動装置、及びモータと可動ノズルの結合部の構成が複雑となる。
(5)スフェリカル摺動面で気密性を確保する場合、摺動性とシール性を両立させる必要があり、特に高温ガスの流出が発生する固体ロケットモータの場合には、信頼性を確保することが難しい。
【0011】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、可動ノズルの駆動トルクを低減でき、リファレンスロッドや緩衝装置が不要であり、1つの可動ノズルで2方向の推力制御が可能であり、シール性の信頼性を向上できるボールジョイント装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の問題を解決するため、本発明は、ノズル取付部に可動ノズルを偏向可能に連結するボールジョイント装置であって、可動ノズルとノズル取付部の間に配置され、ピボットポイントを中心に前記可動ノズルを揺動自在に支持するスフェリカルベアリングと、可動ノズルとノズル取付部の間に配置され、可動ノズルとノズル取付部との間の気密性を確保するように周方向に延びる積層ゴムからなり、可動ノズルの機軸周りの回転を拘束するフレキシブルジョイントとを備える、ことを特徴とする。
【0013】
また、上記のボールジョイント装置において、前記可動ノズルは固体ロケットモータの可動ノズルであり、前記フレキシブルジョイントは、固体ロケットモータ内で燃焼ガスが発生する領域と、前記スフェリカルベアリングの間の軸方向位置に配置されており、燃焼ガスがスフェリカルベアリング側に流れることを阻止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上記の本発明の構成によれば、スフェリカルベアリングが、モータ内圧による荷重を支持しつつ摺動性を確保する機能をもち、フレキシブルジョイトが、燃焼ガスからスフェリカルベアリングを保護するための断熱性・気密性をもつとともに機軸周りの可動ノズルの回転を拘束する。
【0015】
したがって、本発明のボールジョイント装置によれば、以下の効果が得られる。
(1)スフェリカルベアリングにより、荷重が印加されている場合でも摺動性を確保できるので、従来のフレキシブルジョイントを使用した場合と比較し、その回転に必要なトルクが低減される。
(2)可動ノズルをスフェリカルベアリングで支持する構造であるため、可動ノズルの回転中心(ピボットポイント)がモータ内圧により変位することがほとんどない。このため、偏向角精度補償のためのリファレンスロッドや、負荷荷重軽減のための緩衝装置を不要にできる。
(3)機軸周りの可動ノズルの回転を拘束する機能は、フレキシブルジョイントが担うため、ジンバル等による回転の拘束が不要である。このため、1つの可動ノズルで2方向の推力制御が可能であるので、単孔ノズルに適用でき、ノズル部周辺の簡素化を図ることができる。
(4)本発明のボールジョイント装置ではスフェリカルベアリングを採用しているが、従来のジンバルジョイントと異なり、シール性についてはフレキシブルジョイントによって確保されるため、シール性の信頼性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】特許文献1に開示された従来の可動ノズルの構成図である。
【図2】本発明に係るボールジョイント装置の第1実施形態を示す構成図である。
【図3】本発明に係るボールジョイント装置の第2実施形態を示す構成図である。
【図4】本発明に係るボールジョイント装置の第3実施形態を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0018】
図2は、本発明に係るボールジョイント装置10の第1実施形態を示す構成図である。第1実施形態において、ボールジョイント装置10は、固体ロケットモータ1の可動ノズル5の結合部に適用されるものである。図2において、符号aは、固体ロケットモータ1の機軸である。図2では、機軸aより軸対称半分のみを示している。
【0019】
固体ロケットモータ1のモータケース2の尾部には、可動ノズル5を取り付けるためのノズル取付部4が設けられている。モータケース2内には固体推進剤が充填され、モータケース2内(符号3で示した領域)に高温の燃焼ガスが発生する。
可動ノズル5とノズル取付部4との間には、ボールジョイント装置10が配置されている。ボールジョイント装置10は、可動ノズル5を偏向(首振り)可能に支持するものである。
【0020】
可動ノズル5とノズル取付部4との間には、伸縮駆動するアクチュエータ7が配置されている。このアクチュエータ7は、機軸a回りに90度の間隔をおいた位置に2つ配置されている。2つのアクチュエータ7を伸縮動作させることで、可動ノズル5をピッチ軸回り及びヨー軸回りに首振り動作させることが可能であり、これにより、噴流ガスの方向制御を行うようになっている。
【0021】
ボールジョイント装置10は、スフェリカルベアリング12と、フレキシブルジョイント14とを備える。
【0022】
スフェリカルベアリング12は、可動ノズル5とノズル取付部4の間に配置され、ピボットポイントcを中心に可動ノズル5を揺動自在に支持する。
スフェリカルベアリング12は、凹球面を有する外側部材12aと、外側部材12aの内側に配置され凸球面を有する内側部材12bとを有し、外側部材12aの凹球面と内側部材12bの凸球面とがスフェリカル摺動面となって、可動ノズル5を揺動自在に支持するように構成されている。
【0023】
第1実施形態では、外側部材12aは可動ノズル5側に固定され、内側部材12bはノズル取付部4側に固定されている。なお、スフェリカルベアリング12は、周方向に複数に分割された構造であってもよい。
【0024】
フレキシブルジョイント14は、可動ノズル5とノズル取付部4の間に配置され、可動ノズル5とノズル取付部4との間の気密性を確保するように周方向に延びるリング状の積層ゴムからなり、可動ノズル5の機軸周りの回転を拘束する。積層ゴムは、板状ゴム14aと硬質隔壁14bとを交互に多数積層してなり、積層方向には相対的に剛性が高いが、層に沿う方向には弾性を有しているためせん断変形する。このためフレキシブルジョイント14は、ピボットポイントcを中心とする回転方向にせん断変形するように、可動ノズル5とノズル取付部4との間に配置されている。
【0025】
第1実施形態において、フレキシブルジョイント14は、固体ロケットモータ1内で燃焼ガスが発生する領域3と、スフェリカルベアリング12との間の軸方向位置に配置されており、燃焼ガスがスフェリカルベアリング12側に流れることを阻止するようになっている。したがって、第1実施形態では、フレキシブルジョイント14は、スフェリカルベアリング12の後方に配置されている。
【0026】
フレキシブルジョイント14を構成する積層ゴムの硬質隔壁14bは、金属板やFRPなどで構成できるが、断熱性を高めるためにFRPなどのプラスチック系材料であるのがよい。
【0027】
また、図2の構成例では、外部からスフェリカルベアリング12側にダストが侵入することを防止するために、可動ノズル5とノズル取付部4との間にリング状のダストシール15が配置されている。ただし、このダストシール15の配置は任意である。
【0028】
また、図2の構成例では、フレキシブルジョイント14の変形によって硬質隔壁14bが周辺部材に直接接触することを防止するために、フレキシブルジョイント14のスフェリカルベアリング12側にリング状のバッファ16が配置されている。ただし、このバッファ16の配置は任意である。
【0029】
上述した第1実施形態の構成によれば、スフェリカルベアリング12が、モータ内圧による荷重を支持しつつ摺動性を確保する機能をもち、フレキシブルジョイント14が、燃焼ガスからスフェリカルベアリング12を保護するための断熱性・気密性をもつとともに機軸周りの可動ノズル5の回転を拘束する。
【0030】
したがって、スフェリカルベアリング12により、荷重が印加されている場合でも摺動性を確保できるので、従来のフレキシブルジョイント(図1の符号33)を使用した場合と比較し、その回転に必要なトルクが低減される。このため、アクチュエータ7の小型化・低出力化を図ることが可能となる。
【0031】
可動ノズル5をスフェリカルベアリング12で支持する構造であるため、可動ノズル5の回転中心(ピボットポイントc)がモータ内圧により変位することがほとんどない。このため、偏向角精度補償のためのリファレンスロッド(図1の符号37)や、負荷荷重軽減のための緩衝装置(図1の符号36)を不要にできる。同様に、アクチュエータ7の耐荷重性を低減することができ、これを小型・軽量化することもできる。
【0032】
機軸a周りの可動ノズル5の回転を拘束する機能は、フレキシブルジョイント14が担うため、ジンバル等による回転の拘束が不要である。このため、1つの可動ノズル5で2方向の推力制御が可能であるので、単孔ノズルに適用でき、ノズル部周辺の簡素化を図ることができる。
【0033】
本発明のボールジョイント装置10ではスフェリカルベアリング12を採用しているが、従来のジンバルジョイントと異なり、シール性についてはフレキシブルジョイント14によって確保されるため、シール性の信頼性を向上できる。
【0034】
図3は、本発明に係るボールジョイント装置10の第2実施形態を示す構成図である。上述した第1実施形態では、ボールジョイント装置10は、外側において可動ノズル5に固定され、内側においてノズル取付部4に固定されているのに対し、第2実施形態では、ボールジョイント装置10は、外側においてノズル取付部4に固定され、内側において可動ノズル5に固定されている。したがって、スフェリカルベアリング12の外側部材12aはノズル取付部4に固定されており、内側部材12bは可動ノズル5に固定されている。
【0035】
第2実施形態においても、フレキシブルジョイント14は、固体ロケットモータ1内で燃焼ガスが発生する領域3と、スフェリカルベアリング12との間の軸方向位置に配置されており、燃焼ガスがスフェリカルベアリング12側に流れることを阻止するようになっている。このため、第2実施形態では、フレキシブルジョイント14はスフェリカルベアリング12の前方に配置されている。
【0036】
上述した第2実施形態によれば、第1実施形態と同様に、スフェリカルベアリング12が、モータ内圧による荷重を支持しつつ摺動性を確保する機能をもち、フレキシブルジョイントが、燃焼ガスからスフェリカルベアリング12を保護するための断熱性・気密性をもつとともに機軸周りの可動ノズル5の回転を拘束する。
したがって、可動ノズル5の駆動トルクを低減でき、リファレンスロッドや緩衝装置が不要であり、1つの可動ノズル5で2方向の推力制御が可能であり、シール性の信頼性を向上できる。
【0037】
図4は、本発明に係るボールジョイント装置の第3実施形態を示す構成図である。図4において、人工衛星等の宇宙機20に設けられたノズル取付部21に、可変スラスタとしての可動ノズル22が揺動可能に取り付けられている。図4では表れていないが、ノズル取付部21と可動ノズル22との間には、上述した本発明のボールジョイント装置10が配置されており、図示しないアクチュエータ7の作動により、可動ノズル5が首振り動作するように構成されている。
【0038】
このように本発明のボールジョイント装置は、人工衛星等の宇宙機20の姿勢制御用スラスタにも適用可能であり、従来の3軸毎のスラスタ配置を必要としないことから、スラスタ数の削減を図ることができる。
【0039】
なお、上記において、本発明の実施形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0040】
1 固体ロケットモータ
2 モータケース
3 ケース内部
4 ノズル取付部
5 可動ノズル
7 アクチュエータ
10 ボールジョイント装置
12 スフェリカルベアリング
12a 外側部材
12b 内側部材
14 フレキシブルジョイント
14a 板状ゴム
14b 硬質隔壁
15 ダストシール
16 バッファ
20 宇宙機
21 ノズル取付部
22 可動ノズル(可変スラスタ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル取付部に可動ノズルを偏向可能に連結するボールジョイント装置であって、
可動ノズルとノズル取付部の間に配置され、ピボットポイントを中心に前記可動ノズルを揺動自在に支持するスフェリカルベアリングと、
可動ノズルとノズル取付部の間に配置され、可動ノズルとノズル取付部との間の気密性を確保するように周方向に延びる積層ゴムからなり、可動ノズルの機軸周りの回転を拘束するフレキシブルジョイントとを備える、ことを特徴とするボールジョイント装置。
【請求項2】
前記可動ノズルは固体ロケットモータの可動ノズルであり、
前記フレキシブルジョイントは、固体ロケットモータ内で燃焼ガスが発生する領域と、前記スフェリカルベアリングの間の軸方向位置に配置されており、燃焼ガスがスフェリカルベアリング側に流れることを阻止する、請求項1記載のボールジョイント装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−275881(P2010−275881A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126833(P2009−126833)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(500302552)株式会社IHIエアロスペース (298)
【Fターム(参考)】