説明

ポリアミドの製造方法

【課題】パラキシリレンジアミンを含むジアミン成分とジカルボン酸成分とを実質溶媒の非存在下に直接溶融重合させるポリアミドのバッチ式製造方法において、撹拌装置への塊状の付着物の生成を抑制して生産効率を上げると共に、得られる製品中に該付着物を起因とする未溶融物の混入が少ないポリアミドのバッチ式製造方法を提供。
【解決手段】(1)撹拌駆動部に連結された回転軸、(2)該回転軸を中心とした円周上を移動する柱状体若しくは板状体からなる実質鉛直方向の二本以上の撹拌棒、及び(3)該回転軸と撹拌棒を連結する接続部材を有する撹拌装置を用いて、所定の条件にて撹拌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成形材料、ボトル、シート、フィルムおよび繊維等の用途に好適に利用されるポリアミドの製造方法に関する。更に詳しくは、キシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分とジカルボン酸成分とを溶媒の非存在下に直接溶融重合させるポリアミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジカルボン酸成分とジアミン成分を重縮合してポリアミドを製造する方法としては、ジカルボン酸成分とジアミン成分からナイロン塩水溶液を得たあと、加圧条件にて溶融重合する方法が一般的に広く知られている。
【0003】
またナイロン塩水溶液を作らず、溶媒の非存在下でジカルボン酸成分とジアミン成分とを直接溶融重合させる方法が開示されている(特許文献1参照)。この方法は、生成するポリマーの温度を、そのポリマーの融点以上になるように昇温しながら、ジアミン成分の添加を行う方法であり、水(ナイロン塩水溶液に伴う水)や溶媒を留去させる必要がないため、経済的に優位な製造方法と言える。
【0004】
この製造方法では、ジアミン成分の沸点は生成するポリアミドの融点以上であることが製造上有利である。沸点がポリアミドの融点より低い場合には、添加されたジアミンが蒸発するために、重縮合が効率的に進行しないためである。キシリレンジアミンの沸点は274℃前後であり、他の一般的なポリアミドの製造に用いられるジアミン、例えばヘキサメチレンジアミンの沸点199〜205℃と比較して高い。このため、溶媒の非存在下でジカルボン酸成分とジアミン成分とを直接溶融重合する製造方法は、キシリレンジアミンを用いた場合に有利な製造方法と言える。
【0005】
一方、バッチ式反応装置を用いてポリアミドを製造する場合、ポリアミドを抜き出した後には、ポリアミドやオリゴマーが内部に残存する。一般的にこれらの粘性が高いために、装置内壁、撹拌軸または回転軸などに付着したままとなるためである。通常は薄皮状の付着物として残存するが、この状態であれば製造上は特に大きな問題とはならない。
【0006】
しかし、キシリレンジアミン中のパラキシリレンジアミンの割合が20モル%以上となると、気液界面付近で塊状の付着物が認められるようになる。これは、パラキシリレンジアミンの含有率が高くなるに従って、生成されるポリアミドの結晶化温度が高くなり、かつ結晶化速度も速くなるため、より付着しやすい性状となるからである。この現象は30モル%以上で、より顕著に認められる。気液界面付近で付着したポリアミドは気相部によって冷却されて結晶化しやすく、また結晶化速度が速いために速やかに結晶化が進んでしまう。結晶化したポリアミドは、非晶状態の時と比べて、融点以上の温度に加熱されても再溶融し難いことから、さらに付着は顕著なものとなる。
【0007】
このような付着は特に撹拌軸や回転軸で生じやすい。これは該箇所が他の部位よりも温度が低いことやポリマーの流れが停滞しやすいためである。撹拌軸や回転軸に付着したものは、ポリマーが上塗りされて徐々に大きくなり、塊状の付着物となる。これらは熱履歴を受けて高重合度化あるいはゲル化することもある。
【0008】
塊状の付着物はポリアミドの製造中に剥離する場合があり、得られた製品中に白色の未溶融物として混入して品質を悪化させることがある。またこのような未溶融物は、ポリアミドを反応装置より取り出す際に、ダイホールを目詰まりさせたり、ストランド切れを起こしたりするなど、安定なペレタイジング操作を妨げる要因にもなる。従って、定期的に反応装置を開放して、こうした付着物を人為的に除去あるいは溶媒などで洗浄することが必要となる。
【0009】
装置内付着物を低減させる装置として、構造が簡単で、容器の壁面にポリマーの付着が少なく、ブロックの発生がない長期間安定に運転可能な撹拌翼とそれを備えた混合装置が開示されている(特許文献2参照)。しかし、容器の壁面への付着については述べられているものの、撹拌軸への付着やそれを抑制するための構造や周速については全く述べられていない。また対象とするポリマーとしてポリアミドについては全く述べられていない。
【0010】
また簡便な手段により、気相部界面の反応器内壁や撹拌軸へのポリマー付着を防止する方法として、撹拌槽型反応器中で重合性モノマーを重合するに際し、液相部および気相部を撹拌翼により撹拌し、かつ気相部を冷却する方法が開示されている(特許文献3参照)。しかし、この方法はメタクリル系ポリマーを生産する際の方法であることが述べられているが、ポリアミドについては全く述べられていない。また撹拌装置についても反応液面と気相部を撹拌できるものであれば特に制限はしておらず、形状については全く述べられていない。
【0011】
以上のことから、パラキシリレンジアミンが20モル%以上含まれるキシリレンジアミンを用いて、溶媒の非存在下でジカルボン酸成分とジアミン成分とを直接溶融重合させてポリアミドを製造する場合、撹拌装置への塊状の付着物を抑制して生産効率を上げると共に、得られる製品中に該付着物を起因とする未溶融物の混入を低減させるため、撹拌装置への付着を抑制させる方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭57−200420号公報
【特許文献2】特開平9−313912号公報
【特許文献3】特開平10−158307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、パラキシリレンジアミンを含むジアミン成分とジカルボン酸成分とを実質溶媒の非存在下に直接溶融重合させるポリアミドのバッチ式製造方法において、撹拌装置への塊状の付着物の生成を抑制して生産効率を上げると共に、得られる製品中に該付着物を起因とする未溶融物の混入が少ないポリアミドのバッチ式製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、かかる課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の形状の撹拌装置を用いて、所定の条件にて撹拌することにより、塊状の付着物および未溶融物の混入を低減できることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち本発明は、バッチ式反応装置内で、パラキシリレンジアミンを20モル%以上含むキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分とジカルボン酸成分とを実質溶媒の非存在下に直接溶融重合させるポリアミドの製造方法であって、
該反応装置に具備され、該装置内の溶融ポリマーを撹拌するための撹拌装置が、
(1)撹拌駆動部に連結された回転軸、
(2)該回転軸を中心とした円周上を移動する柱状体若しくは板状体からなる実質鉛直方向の二本以上の撹拌棒、及び
(3)該回転軸と撹拌棒を連結する接続部材
を有し、
回転軸の中心線と二本以上の撹拌棒の各々の中心線との距離が反応装置内径の15%以上であり、
接続部材と回転軸が溶融ポリマー液面よりも常時上に出ており、かつ
撹拌棒の周速が30m/分以上になるように撹拌することを特徴とするポリアミドのバッチ式製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、撹拌装置へのポリマーやオリゴマーの付着を抑制でき、定期的な洗浄を削減できて生産効率を上げることができる。また安定したペレタイジング操作が可能となると共に、未溶融物の混入が少ない品質の良好なポリアミドを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】、
【図2】および
【図3】は、それぞれ本発明の製造方法を実施するための形態を示す撹拌装置および反応装置の一例を示す概略断面図である。
【図4】は本発明の比較例1に関わる従来の撹拌装置および反応装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明では、反応装置内にジカルボン酸成分を供給し、次いでジアミン成分を添加して重合反応を行う。ジアミン成分は、パラキシリレンジアミンを20モル%以上含むキシリレンジアミンを70モル%以上含む。中でも結晶化の点から、好ましくは、パラキシリレンジアミンを30モル%以上含むキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分であり、更に好ましくは、パラキシリレンジアミンを30モル%以上含むキシリレンジアミンからなるジアミン成分である。
【0019】
ジカルボン酸成分としては、アジピン酸、コハク酸、セバシン酸、ドデカン二酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸を挙げることができ、これらの一種もしくは二種以上を含むものであってもよい。中でも、汎用性の点から、アジピン酸が好ましく用いられる。ジカルボン酸成分のうち、70モル%以上がアジピン酸であることがより好ましい。
【0020】
パラキシリレンジアミン以外のキシリレンジアミンとしては、メタキシリレンジアミンとオルソキシリレンジアミンを挙げることができ、これらの一種もしくは二種を含むものであってもよい。本発明では、キシリレンジアミンが、パラキシリレンジアミンとメタキシリレンジアミンの二成分からなることが好ましい。
【0021】
キシリレンジアミン以外のジアミン成分としては、1,2−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、オルソフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミンなどのジアミンを挙げることが出来る。
【0022】
ジアミン成分、ジカルボン酸成分以外のポリアミド形成成分としては、特に限定されないが、カプロラクタム、バレロラクタム、ラウロラクタム、ウンデカラクタムなどのラクタム、1,1−アミノウンデカン酸、1,2−アミノドデカン酸などのアミノカルボン酸などを挙げることが出来る。
【0023】
溶融重合中における着色の抑制のため、ポリアミドにリン化合物を添加することが出来る。リン化合物としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、及びこれらの塩またはエステル化合物を使用できる。リン酸塩としては、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸マンガン、リン酸ニッケル、リン酸コバルトなどを例示でき、リン酸エステルとしては、リン酸メチルエステル、リン酸エチルエステル、リン酸イソプロピルエステル、リン酸ブチルエステル、リン酸ヘキシルエステル、リン酸イソデシルエステル、リン酸デシルエステル、リン酸ステアリルエステル、リン酸フェニルエステルなどが例示できる。亜リン酸塩としては、亜リン酸カリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸マンガン、亜リン酸ニッケル、亜リン酸コバルトなどを例示でき、亜リン酸エステルとしては、亜リン酸メチルエステル、亜リン酸エチルエステル、亜リン酸イソプロピルエステル、亜リン酸ブチルエステル、亜リン酸ヘキシルエステル、亜リン酸イソデシルエステル、亜リン酸デシルエステル、亜リン酸ステアリルエステル、亜リン酸フェニルエステルなどが例示できる。次亜リン酸塩としては、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸マグネシウム、次亜リン酸マンガン、次亜リン酸ニッケル、次亜リン酸コバルトなどを例示できる。これらのリン化合物は単独、または組み合わせて用いてもよい。
【0024】
これらのリン化合物の添加方法は、ポリアミドの原料であるジアミン成分もしくはジカルボン酸成分に添加する方法、重合中に添加する方法などが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
ポリアミドの製造は、ジアミン成分とジカルボン酸成分とを直接溶融重合させて行うが、製造コストの点等から、実質溶媒の非存在下で行われる。「実質溶媒の非存在下」とは、溶媒が全く存在しない場合はもちろん、本発明の効果に影響を及ぼさない程度の少量の溶媒の存在をも排除する趣旨でないことを意味するものである。
【0026】
本発明におけるバッチ式反応装置は特に制限がなく、後述の特定の撹拌装置を具備し、反応装置として用いることができる構造を有するものであれば良いが、耐圧設計された反応装置を用いることが望ましい。また、ジアミン成分およびジカルボン酸成分の留出を抑制するために、伝熱面の温度を制御可能である分縮器が具備されていることが望ましい。
【0027】
本発明における溶融ポリマーを攪拌するための撹拌装置は、モータなどの撹拌駆動部に連結された回転軸、該回転軸を中心とした円周上を移動する柱状体若しくは板状体からなる実質鉛直方向の二本以上の撹拌棒、該回転軸と撹拌棒を連結する接続部材、から主に構成される。撹拌棒の形状は、円柱、楕円柱、角柱等の柱状体、楕円板、角板等の板状体などから選ばれる。中でも汎用性の点から、円柱、角柱、角板が望ましい。撹拌棒の外径(楕円柱の場合は長径、角柱の場合は対角線、板状体の場合は板幅)d(m)と鉛直方向の長さL(m)の比d/Lは、材質の強度および撹拌対象物の物性によるが、一般的には1/5〜1/25であり、中でも重心などのバランスの点から、望ましくは1/10〜1/20である。また撹拌棒は、実質鉛直方向であればよく、鉛直方向に対して緩やかな傾斜を有していたり、緩やかな曲線となっていたりしても構わない。
【0028】
回転軸と撹拌棒を連結する接続部材としては、強度的に問題のない形状であれば特に制限は無い。具体例としては、水平方向の柱状体あるいは板状体を挙げることができ、柱状体の場合には円柱、角柱、楕円柱など、板状体の場合は円板、角板、楕円板などが好ましい。撹拌棒及び接続部材を構成する材料の材質としては、特に制限はないが、耐腐食性や強度の点から、ステンレス等が好ましい。
【0029】
回転軸は反応装置の水平断面の中心を通る鉛直線上またはその付近に設置され、二本以上の撹拌棒は該回転軸を中心とした円周上を移動する。これら撹拌棒は、その各々が描く円周の同異については特に制限はないが、そのいずれもが同一円周上を移動することが望ましい。攪拌棒の各々が描く円周が異なる場合には、液面付近のポリマー流れが複雑になることから、撹拌棒の液面付近に予期しない滞留部が発生し、そこからポリマーの付着が生じる恐れがある。また撹拌装置に加わる力が不均一になる恐れがある。
【0030】
回転軸の中心線と二本以上の撹拌棒の各々の中心線との距離は反応装置内径の15%以上である。また好ましくは17%以上である。15%未満であると、反応装置の中心付近に撹拌棒があることから、ポリアミドの製造においては反応装置内全体の均一な撹拌が難しくなるため、反応装置内の溶融ポリマーの流れが悪化して付着しやすくなる。加えて、撹拌棒の周速を速くするためには回転数を速くしなければならないが、該距離が小さすぎると回転数を極端に速くしなければならず、効率的ではないため望ましくない。また該距離の上限は特に制限されないが、あまり大きくなると、反応装置内壁とのクリアランスが小さいために、ポリマー抜き出し後に該クリアランスにポリマーが残存する恐れがある。また撹拌装置を反応装置に設置する際に内壁を傷つける恐れがあることや、製作精度によっては回転軸が偏心して内壁に接触する恐れも考慮すると、49%以下にすることが望ましい。
【0031】
本発明においては、回転軸および回転軸と撹拌棒を連結する接続部材が、いずれも溶融ポリマー液面より上に配置され、好ましくは溶融ポリマー液面よりも常時上に出ているようにする。回転軸または接続部材が一時的にでも液面より下になる、すなわち、溶融ポリマーに浸漬されると、接続部材や回転軸にポリマーが付着しやすくなる。
【0032】
撹拌性を向上させるため、撹拌棒には羽根板を設置することが望ましい。羽根板としては、例えば、鉛直方向に螺旋に巻いた帯状の羽根板を挙げることが出来る。この場合、螺旋帯状の羽根板の内周側に、撹拌棒の鉛直部が連結されるように設置されることが望ましいが、外周側に連結されても構わない。また該螺旋帯状の羽根板を二つ以上設置する場合には、回転軸中心線に対して線対称になるよう設置することが望ましい。
【0033】
またそれ以外の羽根板としては、一般的に用いられている羽根板を用いることが望ましい。具体的には、パドル状、プロペラ状、タービン状、幅広板状、多段傾斜板状等から選ばれるいずれか一つ以上が選択される。幅広板状とは一般のパドル状よりも比較的面積の大きい特殊なパドル状のものであり、多段傾斜板状とは複数個の平板を傾斜をつけて撹拌棒に設置した形状である。これらは回転軸中心線に対して線対称になるように撹拌棒の鉛直部に設置することが望ましい。
【0034】
本発明においては、ポリアミドの生成中は撹拌棒の周速が30m/分以上になるように撹拌する。好ましくは40m/分以上である。周速が30m/分未満であると該撹拌棒の液面付近の流れが停滞し、ポリマーの付着を生じやすくなるため望ましくない。本発明のポリアミドの製造方法によって得られるポリアミドの粘度は1000ないし2000ポイズと高く、バッチ式反応装置内でのポリマーの流動状態は、水のような比較的流動性の良い液体と比べると大幅に低い。従って、ポリマーが付着しやすい場所を積極的に流動させることが重要であるとの観点から、本発明においては、周速30m/分以上で撹拌棒を回転することで、付着が抑制されることを見出した。攪拌棒の周速の上限は特に制限されないが、周速を速くするために撹拌装置の能力アップを行うと装置のコストが高くなる恐れがあること、周速が300m/分を超えると撹拌棒に押されたポリマーが盛り上がり、かえって付着しやすい状況となる場合があること、などから、上限値は300m/分であることが望ましい。なお、本発明の製造方法における撹拌棒の周速は、回転中心点と撹拌棒の中心点を回転半径として、周速(m/分)=回転半径(m)×2×π(円周率)×回転数(rpm)にて算出される。
【0035】
溶融重合は、ジアミン成分の70モル%以上がキシリレンジアミンであるため、溶融したジカルボン酸成分にジアミン成分を連続的または間欠的に添加して重合させる直接溶融重合方法が、溶媒除去に時間がかからないため好ましい。ジカルボン酸成分を溶融する場合は、酸化着色を避ける目的から窒素等の不活性ガス雰囲気で行われることが望ましい。ジカルボン酸成分の溶融は反応槽内で行っても良いし、専用の溶融槽で溶融した後、反応槽に仕込んでも良い。反応槽の利用効率を高める観点から、専用の溶融槽の利用が好ましい。
【0036】
本発明では所望のモルバランスを有するポリアミド(ジアミン成分過剰、ジカルボン酸成分過剰および等モルの場合を含む)を得るため、仕込みのモルバランスは任意に選択される。仕込みのモルバランスの調整方法は、例えば溶融状態にあるジカルボン酸を溶融槽ごと質量計量器で計量し、反応槽に供給した後、ジアミン貯槽を質量計量器で計量しつつ、ジアミンを反応系に供給する方法が例示できる。本発明においてジアミン成分およびジカルボン酸成分の質量を計量する場合、ロードセル、天秤等の質量計量器が好適に利用可能である。
【0037】
溶融ジカルボン酸成分にジアミン成分を添加する際、実質的にアミド化反応が進行する温度である160℃以上の温度に溶融ジカルボン酸が昇温されることが好ましく、かつ中間体として生成するオリゴマーおよび/または低分子量ポリアミドが溶融状態となって反応系全体が均一な流動状態を保持しうる温度に設定されていることが好ましい。通常180〜290℃から選択される温度にて行われる。
【0038】
ジアミン成分の添加操作は、反応槽中で溶融ジカルボン酸成分を撹拌し、ジアミン成分を連続的にもしくは間欠的に添加し、添加の間に反応混合物の温度を逐次昇温させ、所定の温度に保持することによって行われる。添加操作時間は特に制限されないが、添加速度が速すぎる場合には、加熱能力不足によって反応系の昇温速度が遅くなる可能性がある。反応装置の容積やヒータなどの加熱能力などによるが、一般的には30分〜5時間の中から選択される範囲にて行われる。好ましくは30分〜4時間の範囲である。
【0039】
昇温速度はアミド化反応熱,縮合水の蒸発潜熱,供給熱等に依存するため、ジアミン成分の添加速度が適時調整され、添加終了時点で反応混合物の温度は反応混合物が溶融状態となるポリアミドの融点以上かつ(融点+35℃)未満が好ましく、より好ましくは(融点+15℃)未満、更に好ましくは(融点+5℃)未満である。
【0040】
反応の進行と共に生成する縮合水は、必要に応じて設けられた分縮器と冷却器を通して反応系外に留去される。縮合水と共に蒸気として反応系外に留出するジアミン成分、昇華により留出するジカルボン酸等は、分縮器で水蒸気と分離され、反応槽に再度戻される。
【0041】
ジアミン成分の添加は、反応装置内部を常圧条件下で行うことが、発生する縮合水を効率的に除去して重合を進められるため望ましいが、窒素や水蒸気などを用いて加圧した条件下で行うことも可能である。その場合は縮合水の除去効率を考えると圧力は0.9MPaG以下より選択される。好ましくは0.5MPaG以下である。
【実施例】
【0042】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0043】
<実施例1>
図1のように、外径12mm、長さ240mmである二本の鉛直方向の円柱体(撹拌棒)が、外径20mm、長さ150mmの水平円柱体(接続部材)の両端付近に固定されており、回転軸の中心線と撹拌棒の中心線との距離はそれぞれ63mm(反応装置内径の35%)であり、接続部材の中心には撹拌駆動部に連結された回転軸の下端が固定されている撹拌装置(SUS316製)を具備したバッチ式反応装置(内径180mm、高さ325mm、SUS316製)を用いて、次のようにポリアミドを合成した。純度99.8wt%のアジピン酸1960gを溶融し、190℃まで加熱したところで、常圧下に昇温しながら、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの混合比がモル割合で7:3のキシリレンジアミン(キシリレンジアミン純度99.8wt%)1820gを4時間かけて滴下した。キシリレンジアミンの滴下終了時の内温が268℃になるように加熱を調節した。ジアミンの滴下を終え、常圧で15分間該温度にて保持した後、さらに80kPaAまで減圧して10分間撹拌下に保持した。キシリレンジアミンの滴下開始から減圧中にかけて、接続部材が常時液面より上になるようにすると共に、撹拌棒の周速が30m/分となるように回転数76rpmにて撹拌を行った。その後、撹拌を停止し、窒素で反応装置内を加圧してポリマーを装置ボトムより抜き出した。撹拌装置へのポリマー付着状況を目視観察した結果、撹拌棒に薄皮状のポリマー付着が認められただけであり、塊状の付着物は認められなかった。また得られた製品を、フィルム成形用Tダイ(幅200mm)のついたシリンダー内径25mmの単軸押出機(L/D=26、フルフライトスクリュー)を用いて、270℃で溶融、押し出して、厚さ50μm、幅150mmの未延伸フィルムを100m製作した。ポリマーの押出機滞留時間は3ないし5分であった。本フィルムを目視観察した結果、白色の未溶融物は認められなかった。
【0044】
<実施例2>
外径12mm、長さ240mmである二本の鉛直方向の円柱体(撹拌棒)が、外径20mm、長さ110mmの水平円柱体(接続部材)の両端付近に固定されており、回転軸の中心線と撹拌棒の中心線との距離はそれぞれ40mm(反応装置内径の22%)、撹拌棒の周速が30m/分となるように回転数120rpmで撹拌を行った以外は、全て実施例1と同じ方法にて行い、撹拌装置へのポリマー付着状況を目視観察した結果、撹拌棒に薄皮状のポリマー付着が認められただけであり、塊状の付着物は認められなかった。また実施例1のフィルム作成方法と同様にして作成したフィルム100mを目視観察した結果、白色の未溶融物は認められなかった。
【0045】
<実施例3>
外径16mm、長さ240mmである二本の鉛直方向の正四角柱体(撹拌棒)が、外径20mm、長さ110mmの水平円柱体(接続部材)の両端付近に固定されており、回転軸の中心線と撹拌棒の中心線との距離はそれぞれ36mm(反応装置内径の20%)、撹拌棒の周速が30m/分となるように回転数133rpmで撹拌を行った以外は、全て実施例1と同じ方法にて行い、撹拌装置へのポリマー付着状況を目視観察した結果、撹拌棒に薄皮状のポリマー付着が認められただけであり、塊状の付着物は認められなかった。また実施例1のフィルム作成方法と同様にして作成したフィルム100mを目視観察した結果、白色の未溶融物は認められなかった。
【0046】
<実施例4>
幅13mm、長さ240mm、厚み1mmである二つの鉛直方向の角板(撹拌棒)が、その平板面が回転円周と垂直になるように、外径20mm、長さ150mmの水平円柱体(接続部材)の両端付近に固定されており、回転軸の中心線と撹拌棒の中心線との距離はそれぞれ62mm(反応装置内径の34%)、撹拌棒の周速が30m/分となるように回転数78rpmで撹拌を行った以外は、全て実施例1と同じ方法にて行い、撹拌装置へのポリマー付着状況を目視観察した結果、撹拌棒に薄皮状のポリマー付着が認められただけであり、塊状の付着物は認められなかった。また実施例1のフィルム作成方法と同様にして作成したフィルム100mを目視観察した結果、白色の未溶融物は認められなかった。
【0047】
<実施例5>
図2のように、外径12mm、長さ240mmである二本の鉛直方向の円柱体(撹拌棒)が、外径20mm、長さ110mmの水平円柱体(接続部材)の両端付近に固定されており、回転軸の中心線と撹拌棒の中心線との距離はそれぞれ40mm(反応装置内径の22%)であり、撹拌棒には縦20mm、横60mmのパドル状羽根板がそれぞれ3枚ずつ回転中心線に対して線対称に設置してあり、撹拌棒の周速が30m/分となるように回転数120rpmで撹拌を行った以外は、全て実施例1と同じ方法にて行い、撹拌装置へのポリマー付着状況を目視観察した結果、撹拌棒に薄皮状のポリマー付着が認められただけであり、塊状の付着物は認められなかった。また実施例1のフィルム作成方法と同様にして作成したフィルム100mを目視観察した結果、白色の未溶融物は認められなかった。
【0048】
<実施例6>
図3のように、外径12mm、長さ240mmである二本の鉛直方向の円柱体(撹拌棒)が、外径20mm、長さ110mmの水平円柱体(接続部材)の両端付近に固定されており、回転軸の中心線と撹拌棒の中心線との距離はそれぞれ40mm(反応装置内径の22%)であり、回転中心線を中心として鉛直方向に螺旋に巻いた一本の帯状の羽根板(幅12mm、厚み2mm)が、その内周が撹拌棒の外側に連結されるように設置してあり、撹拌棒の周速が30m/分となるように回転数120rpmで撹拌を行った以外は、全て実施例1と同じ方法にて行い、撹拌装置へのポリマー付着状況を目視観察した結果、撹拌棒に薄皮状のポリマー付着が認められただけであり、塊状の付着物は認められなかった。また実施例1のフィルム作成方法と同様にして作成したフィルム100mを目視観察した結果、白色の未溶融物は認められなかった。
【0049】
<実施例7>
図1のように、外径150mm、長さ2500mmである二本の鉛直方向の円柱体(撹拌棒)が、外径200mm、長さ2200mmの水平円柱体(接続部材)の両端付近に固定されており、回転軸の中心線と撹拌棒の中心線との距離はそれぞれ1000mm(反応装置内径の35%)であり、接続部材の中心には撹拌駆動部に連結された回転軸の下端が固定されている撹拌装置(SUS316製)を具備したバッチ式反応装置(内径2860mm、高さ3200mm、SUS316製)を用いて、次のようにポリアミドを合成した。純度99.8wt%のアジピン酸4500kgを溶融し、190℃まで加熱したところで、常圧下に昇温しながら、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの混合比がモル割合で7:3のキシリレンジアミン(キシリレンジアミン純度99.8wt%)4160kgを4時間かけて滴下した。キシリレンジアミンの滴下終了時の内温が268℃になるように加熱を調節した。ジアミンの滴下を終え、常圧で15分間該温度にて保持した後、さらに80kPaAまで減圧して10分間撹拌下に保持した。キシリレンジアミンの滴下開始から減圧中にかけて、接続部材が常時液面より上になるようにすると共に、撹拌棒の周速が約300m/分となるように回転数48rpmにて撹拌を行った。その後、撹拌を停止し、窒素で反応装置内を加圧してポリマーを装置ボトムより抜き出した。撹拌装置へのポリマー付着状況を目視観察した結果、撹拌棒に薄皮状のポリマーに加えて、僅かながら塊状の付着物が認められた。また得られた製品を、フィルム成形用Tダイ(幅200mm)のついたシリンダー径25mmの単軸押出機(L/D=26、フルフライトスクリュー)を用いて、270℃で溶融、押し出して、厚さ50μm、幅150mmの未延伸フィルムを100m製作した。ポリマーの押出機滞留時間は3ないし5分であった。本フィルムを目視観察した結果、白色の未溶融物は認められなかった。
【0050】
<比較例1>
図4のように、一般的に用いられているパドル状羽根板(長さ120mm、幅10mm)3枚が回転軸に設置されている従来の撹拌装置を具備したバッチ式反応装置(内径180mm、高さ325mm)を用いた。純度99.8wt%のアジピン酸1960gを溶融し、190℃まで加熱したところで、常圧下に昇温しながら、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの混合比がモル割合で7:3のキシリレンジアミン(キシリレンジアミン純度99.8wt%)1820gを4時間かけて滴下した。キシリレンジアミンの滴下終了時の内温が268℃になるように加熱を調節した。ジアミンの滴下を終え、常圧で15分間保持した後、さらに80kPaAまで減圧して10分間撹拌下に保持した。キシリレンジアミンの滴下開始から減圧中にかけて、パドル状羽根板の先端の周速が30m/分となるように、回転数80rpmにて撹拌を行った。その後、撹拌を停止し、窒素で反応装置内を加圧してポリマーを装置ボトムより抜き出した。撹拌装置へのポリマー付着状況を目視観察した結果、回転軸に多量の塊状のポリマー付着物が認められた。また実施例1のフィルム作成方法と同様にして作成したフィルム100mを目視観察した結果、白色の未溶融物が認められた。
【0051】
<比較例2>
外径12mm、長さ240mmである二つの鉛直方向の円柱体(撹拌棒)が、外径20mm、長さ65mmの水平円柱体の両端付近に固定されており、回転軸の中心線と撹拌棒の中心線との距離は20mm(反応装置内径の11%)、撹拌棒の周速が30m/分となるように回転数240rpmで撹拌を行った以外は、全て実施例1と同じ方法にて行い、撹拌装置へのポリマー付着状況を目視観察した結果、撹拌棒に塊状の付着物が認められた。また実施例1のフィルム作成方法と同様にして作成したフィルム100mを目視観察した結果、白色の未溶融物が認められた。
【0052】
<比較例3>
キシリレンジアミンの滴下開始から減圧中にかけて、鉛直方向の円柱体(撹拌棒)の周速が20m/分となるように、回転数50rpmにて撹拌を行った以外は、全て実施例1と同じ方法にて行い、撹拌装置へのポリマー付着状況を目視観察した結果、鉛直円柱に塊状のポリマー付着物が認められた。また実施例1のフィルム作成方法と同様にして作成したフィルム100mを目視観察した結果、白色の未溶融物が認められた。
【0053】
<比較例4>
キシリレンジアミンの滴下開始から減圧中にかけて、水平円柱体(接続部材)が一時的に(140分間)液面よりも下になるようにした以外は、全て実施例1と同じ方法にて行い、撹拌装置へのポリマー付着状況を目視観察した結果、水平円柱体およびにそこに固定された回転軸に塊状のポリマー付着物が認められた。また実施例1のフィルム作成方法と同様にして作成したフィルム100mを目視観察した結果、白色の未溶融物が認められた。
【符号の説明】
【0054】
1:撹拌駆動部、2:回転軸、3:撹拌シール部、4:水平柱状体、5:液面、6:鉛直柱状体、7:反応装置、8:パドル状羽根板、9:螺旋帯状羽根板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッチ式反応装置内で、パラキシリレンジアミンを20モル%以上含むキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分とジカルボン酸成分とを実質溶媒の非存在下に直接溶融重合させるポリアミドの製造方法であって、
該反応装置に具備され、該装置内の溶融ポリマーを撹拌するための撹拌装置が、
(1)撹拌駆動部に連結された回転軸、
(2)該回転軸を中心とした円周上を移動する柱状体若しくは板状体からなる実質鉛直方向の二本以上の撹拌棒、及び
(3)該回転軸と撹拌棒を連結する接続部材を有し、
回転軸の中心線と二本以上の撹拌棒の各々の中心線との距離が反応装置内径の15%以上であり、
接続部材と回転軸が溶融ポリマー液面よりも上に配置され、かつ
撹拌棒の周速が30m/分以上になるように撹拌することを特徴とするポリアミドの製造方法。
【請求項2】
キシリレンジアミンが、パラキシリレンジアミンとメタキシリレンジアミンの二成分からなる請求項1記載のポリアミドの製造方法。
【請求項3】
ジカルボン酸成分が70モル%以上のアジピン酸を含有する請求項1または2記載のポリアミドの製造方法。
【請求項4】
前記撹拌棒が、鉛直方向に螺旋に巻いた帯状の羽根板を有するものである請求項1記載のポリアミドの製造方法。
【請求項5】
前記撹拌棒が、回転軸の中心線に対して線対称に羽根板を有するものであり、該羽根板の形状が、パドル状、プロペラ状、タービン状、幅広板状及び多段傾斜板状より選択される1種以上である請求項1記載のポリアミドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−7056(P2010−7056A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125297(P2009−125297)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】