説明

ポリアミドをベースにした流体輸送用多層管

【課題】接着剤層扶養のポリアミドの流体輸送用多層管。
【解決手段】外側から内側へ向かって下記層(1)〜(3)を有する:
(1)ナイロン-11またはナイロン-12ポリアミドから成る層(任意層)、
(2)下記の(a)と(b)から成る中間層(合計で100重量%):
(1)式:X、Y/Zまたは6、Y2/Zで表されるポリアミドA1:50〜100重量%〔XはC6〜10脂肪族ジアミンの残基、YはC10〜14脂肪族ジカルボン酸の残基、Y2はC15〜20脂肪族ジカルボン酸の残基、Zはラクタムの残基、α,ω−アミノカルボン酸の残基、X1、Y1単位(X1はジアミンの残基、Y1は二酸の残基)の中から選択される単位、Z/(X+Y+Z)およびZ/(6+Y2+Z)の重量比は0〜15%である〕、(b)ナイロン−11またはナイロン-12のポリアミド:0〜50重量%、(3)ナイロン-11またはナイロン-12のポリアミドから成る層(任意層)(層(1)および層(3)の少なくとも一方は必ず存在し、各層は互いに接着し、内層が輸送される流体と接触する)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアミドをベースにした流体輸送用多層管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献に例示されるように、流体を輸送する多層管の例としては燃料管、特にタンクから自動車のエンジンへ燃料を運ぶための多層管が挙げられる。輸送される流体の他の例としては燃料電池で使用される流体、冷却用および空調用CO2システム用流体、油圧系、冷却回路、空調および中圧の動力分配装置、タンク浸漬管、廃水処理および蒸気ライン用の流体等が挙げられる。
【特許文献1】EP1044806A
【特許文献2】EP0464271A
【特許文献3】EP1038664A
【特許文献4】EP0470605A
【0003】
安全性および環境保護の観点から自動車メーカーは輸送管に対する(特にメタノールやエタノール等のアルコール類を含む流体における)低温および高温での十分な衝撃強度と、耐圧性、耐振動のような十分な機械的特性と柔軟性を要求している。自動車用多層管には燃料やエンジン用潤滑油に対する十分な耐久性も要求される。この燃料輸送管は熱可塑性プラスチックの通常の技術で複数の層を共押出しして製造される。本発明の多層管は特に燃料輸送に有用である。
ポリアミドをベースにした多層管に関する特許は多数存在するが、機械的抵抗性と被輸送流体に対する耐久性との両方の特性を同時に満足するポリマーまたはポリマーブレンドは存在しないため、多層にする必要がある。
大抵の多層構造物では、各種ポリマー層を結合するための接着層が必要である。しかし、一般に各ポリマー層は非相溶であるため、接着のために層の数が増え、製造が複雑になるという欠点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、PA−11(またはPA−12)から成る外層と、耐熱性ポリアミド(PA−6、10タイプ)から成る中間層と、導電性または非導電性のPA−11またはPA−12から成る内層とをこの順序で有する多層管で上記の欠点を解決できることを見出した。
PA−11(またはPA−12)から成る外層は耐薬品性、耐塩化亜鉛性、衝撃強度および動的特性を有する。中間層は機械的強度、特に高温での耐圧性を有する。導電性または非導電性のPA−11またはPA−12から成る内層は機械特性および耐薬品性と、導電性(導電性を付与した場合)とを有する。
【0005】
これらの層は共押出し結合剤なしで互いに接着する。
本発明の多層管は平滑(smooth)管でもリング加工(ringed)したものでもよい。さらに、平滑部とリング加工部とを有するものでもよい。
本発明の他の実施例では多層管を2つの層のみから構成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の対象は、半径方向に外側から内側へ向かって下記の層(1)〜(3)を下記順序で有することを特徴とする多層管にある:
(1)ナイロン−11またはナイロン−12ポリアミドから成る層(任意層)、
(2)下記の(a)と(b)から成る中間層(合計で100重量%):
(1)式:X、Y/Zまたは6、Y2/Zで表される少なくとも一種のポリアミドA1:50〜100重量%、
〔ここで、
Xは6〜10個の炭素原子を有する脂肪族ジアミンの残基を示し、
Yは10〜14個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸の残基を示し、
Y2は15〜20個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸の残基を示し、
Zはラクタムの残基、α,ω−アミノカルボン酸の残基、X1、Y1単位(ここで、X1はジアミンの残基を示し、Y1は二酸の残基を示す)の中から選択される少なくとも1つの単位を示し、
Z/(X+Y+Z)およびZ/(6+Y2+Z)の重量比は0〜15%である〕
(b)ナイロン−11またはナイロン−12のポリアミド:0〜50重量%、
(3)ナイロン−11またはナイロン−12のポリアミドから成る層(任意層)、
(ただし、層(1)および層(3)の少なくとも一方は必ず存在し、各層は互いに接着し、内層が輸送される流体と接触する層である)
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
上記の層(3)が存在する場合には、この層(3)が内層である。この層(3)が存在しない場合には上記の層(2)が内層になる。
本発明の一つの実施例では表面抵抗率を好ましくは106Ω以下にする導電材料を内層が含んでいる。
【0008】
本発明の別の実施例では内層が互いに隣接する2つの層から成り、その一方の層は実質的に導電材料を含まず、その他方の層が好ましくは106Ω以下の表面抵抗率にする導電材料をさらに含み、この層が多層管の内側に配置される。これらの層は同じポリマーで構成することができるが、内側に配置される層は導電材料を含んでいる。これら2層は同じポリマーから成るのが有利である。
【0009】
例えば、層(3)が存在する場合、内層(3)は実質的に導電材料を含まず、多層管のこの層(3)の片側に層(3a)を配置し、この層(3a)をポリアミドから作り、この層に表面抵抗率を好ましくは106Ω以下にする導電材料を添加することができる。この層(3a)が内層となる。
一つの実施例ではZは0である。
別の一つの実施例では多層管が層(1)〜(3)のみで構成され、層(1)および/または(3)は任意層である。
別の実施例では各層はガラス繊維のような繊維を含まない。
【0010】
本発明の多層管の外径は6〜110mm、壁の厚さは約0.3mm〜5mmにすることができる。本発明の燃料管は外径が4〜32mmで、全体の壁厚さが約0.8mm〜2.5mmであるのが有利である。
本発明の多層管はエンジン用潤滑油と燃料に対しても十分な耐久性がある。本発明の多層管は低温および高温での機械的特性が非常に優れている。
本発明のさらに他の対象は上記多層管の燃料輸送での使用にある。
【0011】
層(1)のPA−11またはPA−12の固有粘度は1〜2、好ましくは1.2〜1.8である。この固有粘度は濃度0.5%、20℃でメタクレゾール中で測定される。外層(1)のポリアミドは100〜70重量%に対して可塑剤および衝撃改質剤の中から選択される少なくとも一種の化合物を0〜30重量%含むことができる。
【0012】
可塑剤の例としてはN−ブチルベンゼンスルホンアミド(BBSA)、エチルトルエンスルホンアミドまたはN−シクロヘキシルトルエンスルホンアミド等のベンゼンスルホンアミド誘導体、p−ヒドロキシ安息香酸−2−エチルヘキシルおよびp−ヒドロキシ安息香酸−2−デシルヘキシル等のヒドロキシ安息香酸のエステル、オリゴエチレンオキシテトラヒドロフルフリルアルコール等のテトラヒドロフルフリルアルコールのエステルまたはエーテルおよびクエン酸またはオリゴエチレンオキシマロネート等のヒドロキシマロン酸のエステルが挙げられる。また、p−ヒドロキシ安息香酸デシルヘキシルおよびp−ヒドロキシ安息香酸エチルヘキシルも挙げることができる。特に好ましい可塑剤はN−ブチルベンゼンスルホンアミド(BBSA)である。
【0013】
衝撃改質剤の例としてはポリオレフィン、架橋ポリオレフィン、EPR、EPDM、SBSおよびSEBSエラストマーが挙げられ、これらのエラストマーはポリアミド、ポリアミドブロックとポリエーテルブロックとを含むコポリマーと容易に相溶化するようにグラフト化することができる。ポリアミドブロックとポリエーテルブロックとを含むこれらのコポリマー自体は公知であり、PEBA(ポリエーテルブロックアミド)として知られている。また、アクリルエラストマー、例えば、NBR、HNBRおよびX−NBRタイプのアクリルエラストマーも挙げられる。
このポリアミドは通常の添加剤である紫外線安定剤、酸化防止剤、難燃剤等を含むことができる。
【0014】
中間層のポリアミドA1および「X」のジアミンは直鎖のα,ω−ジアミンにすることができる。また、分岐ジアミンまたは線形(直鎖)ジアミンと分岐ジアミンとの混合物にすることもできる。
「Y」の二酸は直鎖のα,ω−二酸にすることができる。分岐した二酸または線形(直鎖)二酸と分岐二酸との混合物にすることもできる。
【0015】
「Z」はPA−X,Yの結晶化度を下げ、可塑剤または衝撃改質剤の添加を容易にするのに十分な比率にするが、融点がPA−12またはPA−11の融点より低いコポリアミドが得られるあまり高くはない比率にする。この比率はZの構成成分の種類によって変るが、最大で15重量%である。PA−X,YとPA−X、Y/Zとに対してDSC(示差走査熱分析)測定を行うことによって結晶化度が低下することを当業者は容易に確認できる。Zの比率は0〜10重量%であるのが有利である。
ラクタムはカプロラクタムおよびラウリルラクタムの中ら選択できる。
X1は例えば脂肪族ジアミンであり、Y1は例えば脂肪族二酸である。X1の炭素原子の数は6〜14個にすることができる。Y1の炭素原子の数は6〜14にすることができる。
【0016】
ポリアミドA1はPA−6,10(ヘキサメチレンジアミン単位とセバシン酸単位)、PA−6,12(ヘキサメチレンジアミン単位とドデカンジオン酸単位)、PA−6,14(ヘキサメチレンジアミン単位とC14酸単位)、PA−6,18(ヘキサメチレンジアミン単位とC18酸単位)であるのが有利である。
ポリアミドA1はポリアミドを製造する公知の方法で作ることができ、これにPA−11またはPA−12を添加してその弾性率、その他の層への接着力を調節することができる。
【0017】
この中間層におけるA1とPA−11またはPA−12の比率は、30〜0%のPA−11またはPA−12に対してA1が70〜100%であるのが有利である。
中間層のA1およびPA−11またはPA−12の固有粘度は、例えば、層(1)のポリアミドの固有粘度と同一範囲内で選択される。中間層は可塑剤、衝撃改質剤および層(1)の説明で述べたものの中から選択される添加剤を含むことができる。
【0018】
層(3)のPA−11およびPA−12は層(1)の説明で既に述べたものである。これらは可塑剤、衝撃改質剤および層(1)の説明で述べたものの中から選択される添加剤をさらに含むことができる。層(1)のポリアミドを層(3)のポリアミドと同じにし、さらにポリアミドA1に添加される中間層のポリアミドとも同じにするのが有利である。
【0019】
内層に含まれる電材料の例としてはカーボンブラック、炭素繊維およびカーボンナノチューブが挙げられる。ASTM規格D3037−89に従って測定したBET比表面積が5〜200m2/gで、ASTM規格D2414−90に従って測定したDBP吸収量が50〜300ml/100gであるカーボンブラックの中から選択されるカーボンブラックを用いるのが有利である。ブラックの重量比率は、85〜70重量%の他の成分に対して15〜30%であり、好ましくは83〜77%の他の成分に対して17〜23%にするのが有利である。上記のカーボンブラックは下記文献に記載されている。この特許の内容は本明細書の一部を成す。
【特許文献5】国際特許第WO99/33908号公報
【0020】
層(3)が存在する場合は、層(3)の片側に配置される内層(3a)はポリアミドから成り、表面抵抗率を好ましくは106Ω以下にする導電材料をさらに含んでいる。この内層は層(3)と同じ組成物にすることができるが、導電材料を含んでいる。導電材料の形式および比率は層(3)の説明で述べたものと同じである。内層(3a)のポリアミドは上記層(3)のポリアミドと同じタイプ、すなわち、層(3)がPA−12から成る場合は層(3a)もPA−12から成るのが有利である。
各層の化合物は熱可塑性プラスチックの通常の溶融混合法で製造できる。本発明の多層管は通常の共押出し技術で製造でき、必要に応じてさらに成形技術を組み合わせてリング加工された管に成形できる。
【実施例】
【0021】
使用した化合物は下記の通り:
PA−11の配合物:PA−11+13%BBSA+安定剤、
PA−6,10(+PA−11)の配合物:PA−6,10+10%PA−11+13%BBSA+安定剤、
PA−6,10の配合物:PA−6,10+13%BBSA+安定剤、
PA−6,12の配合物:PA−6,12+13%BBSA+安定剤、
導電性PA−11の配合物:65%PA−11(BESNOP40TL)+12%Pebax A+22%粒状Ensaco250ブラック+1%安定剤。
【0022】
カーボンブラックは3Mから供給された名称「Granular Ensaco 250」のカーボンブラックにした。DBP吸収量は190ml/g、BET比表面積は約65m2/gである。
Pebax AはPA−12ブロックとPTMGブロックとを含むコポリマーで、固有粘度は1.5である。
【0023】
外側から内側へ向かって下記の層を有する寸法が6×8(外径8mm、壁厚さ1mm)の下記多層管を押出し成形した:
多層管1(比較例):
900μmPA−11/100μm導電性PA−11、
多層管2(本発明の3層):
400μmPA−11/500μmPA−6,10(+PA−11)/100μm導電性PA−11、
多層管3(本発明の3層):
250μmPA−11/500μmPA−6,10/250μmPA−11、
多層管4(本発明の2層):
900μmPA−6,10(+PA−11)/100μm導電性PA−11、
多層管5(本発明の2層):
900μmPA−6,12/100μm導電性PA−11。
【0024】
結果は下記の通り。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
半径方向に外側から内側へ向かって下記の層(1)〜(3)を下記順序で有することを特徴とする多層管:
(1)ナイロン−11またはナイロン−12ポリアミドから成る層(任意層)、
(2)下記の(a)と(b)から成る中間層(合計で100重量%):
(1)式:X、Y/Zまたは6、Y2/Zで表される少なくとも一種のポリアミドA1:50〜100重量%、
〔ここで、
Xは6〜10個の炭素原子を有する脂肪族ジアミンの残基を示し、
Yは10〜14個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸の残基を示し、
Y2は15〜20個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸の残基を示し、
Zはラクタムの残基、α,ω−アミノカルボン酸の残基、X1、Y1単位(ここで、X1はジアミンの残基を示し、Y1は二酸の残基を示す)の中から選択される少なくとも1つの単位を示し、
Z/(X+Y+Z)およびZ/(6+Y2+Z)の重量比は0〜15%である〕
(b)ナイロン−11またはナイロン−12のポリアミド:0〜50重量%、
(3)ナイロン−11またはナイロン−12のポリアミドから成る層(任意層)、
(ただし、層(1)および層(3)の少なくとも一方は必ず存在し、各層は互いに接着し、内層が輸送される流体と接触する層である)
【請求項2】
内層が導電材料を含んでいる請求項1に記載の多層管。
【請求項3】
内層が互いに隣接する2つの層から成り、その一方の層は導電材料を含まず、その他方の層は導電材料を含み且つ多層管の内側に配置される請求項1に記載の多層管。
【請求項4】
上記ポリアミドA1がPA−6,10である請求項1〜3のいずれか一項に記載の多層管。
【請求項5】
上記ポリアミドA1がPA−6,12である請求項1〜3のいずれか一項に記載の多層管。
【請求項6】
上記ポリアミドA1がPA−6,14である請求項1〜3のいずれか一項に記載の多層管。
【請求項7】
中間層(2)中のA1とPA−11またはPA−12との重量比が、30〜0%のPA−11またはPA−12に対してA1が70〜100%である請求項1〜6のいずれか一項に記載の多層管。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の多層管の燃料輸送での使用。

【公開番号】特開2006−306091(P2006−306091A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−114774(P2006−114774)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(591004685)アルケマ フランス (112)
【Fターム(参考)】