説明

ポリアミド樹脂の製造方法

【課題】ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、およびテトラメチレンジアミンから選ばれる少なくとも1種と、芳香族ジカルボン酸および/または脂環族ジカルボン酸を必須成分とする、ジアミンの環化副生物含有量が少なく、ガラス転移温度が高いポリアミド樹脂を提供する。
【解決手段】(A)ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、およびテトラメチレンジアミンから選ばれる少なくとも1種の脂肪族ジアミンと、(B)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、およびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種を構成成分とする単量体を、最高到達圧力が1.0MPa(10kg/cm)未満の条件で加熱重縮合するポリアミド樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、およびテトラメチレンジアミンから選ばれる少なくとも1種と、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、およびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種を必須成分とする、ジアミンの環化副生物含有量が少なく、ガラス転移温度の高いポリアミド樹脂の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、テトラメチレンジアミンはポリアミド樹脂原料として知られている。
【0003】
特許文献1には、ペンタメチレンジアミンとテレフタル酸の結合単位(5T)、およびヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸の結合単位(6T)から構成されるポリアミド樹脂、特許文献2には、5T成分を必須成分とする共重合ポリアミド樹脂が開示されている。また、特許文献3には、2−メチルペンタメチレンジアミンとテレフタル酸の結合単位(M5T)、および6Tから構成されるポリアミド樹脂が開示されている。さらに特許文献4には、テトラメチレンジアミンとテレフタル酸の結合単位(4T)を含有するポリアミド樹脂が開示されている。
【0004】
これらポリアミド樹脂の原料となるペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、テトラメチレンジアミンは、重縮合時に分子内脱アンモニア反応により単官能アミンである環化物を副生し、これが重合停止剤として作用することが課題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−292613号公報
【特許文献2】国際公開第2010/1846号
【特許文献3】特表平5−506871号公報
【特許文献4】国際公開第2007/85406号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、およびテトラメチレンジアミンから選ばれる少なくとも1種と、芳香族ジカルボン酸および/または脂環族ジカルボン酸を必須成分とする、ジアミンの環化副生物含有量が少ないポリアミド樹脂を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、およびテトラメチレンジアミンの分子内環化反応を抑制するためには、加熱重縮合時の圧力を制御することが有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明は、
(i)(A)ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、およびテトラメチレンジアミンから選ばれる少なくとも1種の脂肪族ジアミンと、(B)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、およびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種を構成成分とする単量体を、最高到達圧力が1.0MPa(10kg/cm)未満の条件で加熱重縮合するポリアミド樹脂の製造方法、
(ii)前記加熱重縮合において、ポリアミド樹脂の融点以上に加熱する(i)に記載のポリアミド樹脂の製造方法、
(iii)200℃以下の温度で、原料中の水含有量を40重量%以下に濃縮する工程を経由する(i)または(ii)に記載のポリアミド樹脂の製造方法、
(iv)水含有量が10重量%以下の原料を出発原料とする(i)〜(iii)いずれかに記載のポリアミド樹脂の製造方法、
(v)得られたポリアミド樹脂の0.01g/mlとした98%硫酸溶液の25℃における相対粘度が1.5以上5.0以下である(i)〜(iv)いずれかに記載のポリアミド樹脂の製造方法、
(vi)得られたポリアミド樹脂に含まれるピペリジン、3−メチルピペリジン、ピロリジンの総含有量が、5.0×10−5mol/g以下である(i)〜(v)いずれかに記載のポリアミド樹脂の製造方法、
(vii)ペンタメチレンジアミンおよび/またはテトラメチレンジアミンと、芳香族ジカルボン酸および/または脂環族ジカルボン酸を構成成分とする単量体を重縮合して得られ、0.01g/mlとした98%硫酸溶液の25℃における相対粘度が1.5以上5.0以下、ピペリジンおよびピロリジンの総含有量が5.0×10−5mol/g以下であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が3.0以下であるポリアミド樹脂である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、重合停止剤として作用する脂肪族ジアミンの環化副生物(単官能アミン)の含有量が少ないポリアミド樹脂を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明により製造されるポリアミド樹脂は、(A)ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、およびテトラメチレンジアミンから選ばれる少なくとも1種の脂肪族ジアミンと、(B)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、およびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種を必須成分とする単量体を加熱重縮合して得られる。加熱重縮合とは、製造時のポリアミド樹脂の最高到達温度を200℃以上とする製造プロセスと定義する。
【0011】
本発明の(A)成分として使用されるペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、およびテトラメチレンジアミンの中で、側鎖に置換基がない脂肪族ジアミンを用いる方が、結晶性に優れたポリアミド樹脂を得ることができるため、(A)成分としては、ペンタメチレンジアミン、テトラメチレンジアミンを使用することが好ましい。
【0012】
(B)成分として用いられる芳香族ジカルボン酸およびその誘導体としては、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸、イソフタル酸ジメチル、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0013】
また、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体としては、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0014】
本発明により製造されるポリアミド樹脂には、(A)ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、およびテトラメチレンジアミン、(B)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、およびこれらの誘導体以外の単量体成分を共重合することができる。
【0015】
(A)、(B)成分以外の共重合成分としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,13−ジアミノトリデカン、1,14−ジアミノテトラデカン、1,15−ジアミノペンタデカン、1,16−ジアミノヘキサデカン、1,17−ジアミノヘプタデカン、1,18−ジアミノオクタデカン、1,19−ジアミノノナデカン、1,20−ジアミノエイコサン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタンなどの脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタンのような脂環式ジアミン、キシリレンジアミンのような芳香族ジアミン、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム等が挙げられる。
【0016】
本発明では、得られるポリアミド樹脂のガラス転移温度を高くする観点から、ポリアミド樹脂を構成する全原料に対して、(A)と(B)の合計量は40重量%以上が好ましく、45重量%以上がより好ましく、50重量%以上が最も好ましい。一方、(A)と(B)の合計量は100重量%以下が好ましく、90重量%以下がより好ましい。
【0017】
本発明により製造されるポリアミド樹脂の原料である(A)ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、テトラメチレンジアミンは、高圧下で環化反応が促進され、重合停止剤として作用する単官能アミン(ピペリジン、3−メチルピペリジン、ピロリジン)生成量が増加する傾向にあるため、本発明のポリアミド樹脂の製造方法は、重縮合時の最高到達圧力を1.0MPa(10kg/cm)未満とすることが必要である。最高到達圧力1.0MPa(10kg/cm)未満の条件で加熱重縮合することにより、環化副生物である単官能アミンの発生を抑制し、重合度の高いポリアミド樹脂を得ることができる。より好ましくは0.8MPa(8kg/cm)以下、さらに好ましくは0.5MPa(5kg/cm)以下、最も好ましくは0.3MPa(3kg/cm)以下である。
【0018】
本発明では、高温で重縮合反応を行うため、(A)成分、およびその環化反応により生成する単官能アミンが揮発したり、単官能アミンが末端封鎖剤となるなどの理由で、重合の進行に伴い、重合系内では全カルボキシル基量に対する全アミノ基量が少なくなり、重合速度が遅延する傾向がある。(A)成分の揮発を抑制し、アミノ基とカルボキシル基の等モル性を維持して重合度をより高くするためには、重縮合反応時の最高到達圧力を0.05MPa(0.5kg/cm)以上とすることが好ましい。より好ましくは0.1MPa(1.0kg/cm)以上、さらに好ましくは0.15MPa(1.5kg/cm)以上、最も好ましくは0.2MPa(2.0kg/cm)以上である。
【0019】
アミノ基とカルボキシル基の等モル性を保つためには、原料を仕込む段階で、あらかじめジアミン成分を特定量過剰に添加して、重合系内のアミノ基量を増加させておくことが好ましい。原料として使用するジアミン成分のモル数をa、ジカルボン酸成分のモル数をbとしたとき、その比a/bが1.002〜1.15となるように原料組成比を調整することが好ましい。a/bを1.002以上とすることにより、重合系内の全アミノ基量が全カルボキシル基量に対して適切な範囲となり、高分子量のポリアミド樹脂を容易に得ることができる。1.01以上がより好ましく、1.03以上がさらに好ましく、1.05以上が最も好ましい。一方、a/bを1.15以下とすることにより、重合系内の全カルボキシル基量が全アミノ基量に対して適切な範囲となり、高分子量のポリアミド樹脂を容易に得ることができる。1.12以下がより好ましく、1.10以下がさらに好ましく、1.09以下が最も好ましい。
【0020】
本発明のポリアミド樹脂を製造する際には、重縮合反応の最終段階で、ポリアミド樹脂の融点以上に加熱してもよく、ポリアミド樹脂の重合をより向上させることができる。かかる加熱処理は、不活性ガス雰囲気下または減圧下で高重合度化を行うことができる。融点以上の温度で長時間加熱することによる着色を防止する観点からは、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行う方がより好ましい。また、融点以下の温度で低重合度体を取り出した後、さらに100℃以上融点未満の温度で、減圧下、あるいは不活性ガス中で固相重合する方法も用いることができる。
【0021】
また、(A)成分の環化反応は、系内に存在する水量が増大するに従い促進される傾向があるため、この環化反応を抑制するためには、系内の水量を制御することが有効である。(A)成分の環化反応は、200℃より高い温度で促進されるので、原料に含まれる水を200℃以下の温度で除去しておくことが好ましい。そのため、本発明では、200℃以下の温度で、原料中の水含有量を40重量%以下に濃縮する工程を設けることが好ましい。より好ましくは、30重量%以下、さらに好ましくは20重量%以下、最も好ましくは10重量%以下である。ここで、200℃以下での原料中の水含有量は、縮合水を除いた値とする。濃縮工程を加熱重縮合工程の前に設けてもよいし、濃縮と加熱重縮合を同時に行ってもよい。この濃縮工程は、(A)成分の揮発を抑制するため、0.05MPa(0.5kg/cm)以上の加圧下で行うことが好ましい。より好ましくは、0.1MPa(1.0kg/cm)以上、さらに好ましくは0.15MPa(1.5kg/cm)以上、最も好ましくは0.2MPa(2.0kg/cm)以上である。一方、0.5MPa(5kg/cm)以下が好ましく、0.4MPa(4kg/cm)以下がより好ましい。200℃以下の温度において、原料に含まれる水の含有量は、仕込み時の水の添加量から、200℃以下で留出した水の量を差し引くことにより求めることができる。
【0022】
また、出発原料に含まれる水含有量を、10重量%以下とすることで、重縮合反応時の(A)成分の環化反応をさらに低減することができる。より好ましくは5重量%以下、最も好ましくは0重量%である。
【0023】
本発明において、出発原料として用いる(A)成分と(B)成分の塩の作製方法としては、水または水/アルコール混合中で塩反応を行った後、溶媒を揮発させる方法、アルコール中で塩反応を行った後、析出した塩を回収する方法などが挙げられる。アルコール溶媒としては、メタノール、エタノールなどが好適に用いられる。なお、水中で塩反応を行った後、得られる塩の水溶液をそのまま原料として用いてもよい。
【0024】
本発明では、(A)の揮発や、それらの環化反応の抑制に加え、分解による着色を防止するためには、重合工程全体でポリマーが受ける熱履歴を極力小さくすることが有効であり、その手段として、重合系内の最高到達温度を低くすることが好ましい。本発明では、ポリマーの分解反応を抑制する観点から、重合系内の最高到達温度は、ポリアミド樹脂の融点以上、360℃未満にすることが好ましい。より好ましくは融点以上340℃以下、さらに好ましくは、融点以上330℃以下である。
【0025】
本発明のポリアミド樹脂を製造する際、必要に応じて、重合促進剤を添加することができる。重合促進剤としては、例えばリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸およびこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などの無機系リン化合物が好ましく、特に亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウムが好適に用いられる。重合促進剤は(A)成分、(B)成分を含むすべての原料の合計100重量部に対して、0.001〜1重量部の範囲で使用するのが好ましい。重合促進剤の使用量を0.001重量部以上とすることにより、その添加効果が十分に奏される。一方、また1重量部以下とすることにより、得られるポリアミド樹脂の重合度を適度に抑え、溶融成形を容易に行うことができる。
【0026】
本発明の製造方法により得られるポリアミド樹脂は、0.01g/mlとした98%硫酸溶液の25℃における相対粘度が、1.5〜5.0であることが好ましい。より好ましくは、1.7〜5.0、さらに好ましくは1.8〜4.5、最も好ましくは2.0〜4.0である。相対粘度を1.5以上5.0以下とすることで、靭性、加工性に優れたポリアミド樹脂を得ることができる。
【0027】
本発明の(A)成分として使用される脂肪族ジアミンの環化副生物であるピペリジン、ピロリジン、3−メチルピペリジンは、重合停止剤として作用し、重合速度を遅延させるため、ポリアミド樹脂に含まれるこれら環化副生物の総量は、5.0×10−5mol/g以下であることが好ましい。より好ましくは4.0×10−5mol/g以下、さらに好ましくは2.5×10−5mol/g以下、最も好ましくは1.5×10−5mol/g以下である。環化副生物が5.0×10−5mol/gより多い場合には、重合時間が長い、高重合度化が困難となる傾向がある。なお、ピペリジン、ピロリジン、3−メチルピペリジン量は、いずれもガスクロマトグラフ分析等により求めることができる。
【0028】
本発明は、耐熱性に優れるポリアミド樹脂を得ようとするものであるので、示差走査熱量計を用いて、不活性ガス雰囲気下、前記ポリアミド樹脂を、溶融状態から20℃/minの降温速度で30℃まで降温した後、20℃/minの昇温速度で昇温した場合に現れる吸熱ピークの温度(融点:Tm)が、260℃以上350℃以下であることが好ましい。より好ましくは270℃以上330℃以下、さらに好ましくは285℃以上320℃以下、最も好ましくは290℃以上320℃以下である。ただし、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、ピーク温度の最も高い吸熱ピークを融点とする。例えば、ポリアミド樹脂を構成する全原料に対して、(A)と(B)の合計量を40重量%以上100重量%以下とすることで、かかる高い融点を有し、かつ加工性に優れたポリアミド樹脂を得ることができる。
【0029】
また、本発明により製造されるポリアミド樹脂のガラス転移温度は65℃以上160℃以下であることが好ましい。より好ましくは70℃以上150℃以下、最も好ましくは80℃以上145℃以下である。例えば、ポリアミド樹脂を構成する全原料に対して、(A)と(B)の合計量を40重量%以上100重量%以下とすることで、かかる高いガラス転移温度を有し、加工性に優れたポリアミド樹脂を得ることができる。
【0030】
本発明により製造されるポリアミド樹脂は、従来、プレ重合してオリゴマーを生成させた後、固相重合する2段重合法により得られるポリアミド樹脂と比較して、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が小さく、3.0以下となる傾向がある。さらに好ましくは2.9以下、最も好ましくは2.8以下である。熱の伝達が不均一な固相重合法と比べて、熱の伝達が均一な溶融重合法では、重合が均一に進行するためと考えられる。分散度が3.0よりも大きい場合には、相対的に低分子量成分が多くなり、成形加工時にガスの発生が多くなる、靭性が低下する傾向がある。なお、ポリアミド樹脂の分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより求めることができる。
【0031】
本発明により製造されたポリアミド樹脂には、無機充填材、他種ポリマー、または難燃剤等を配合し、ポリアミド樹脂組成物として使用することができる。無機充填材としては、一般に樹脂用フィラーとして用いられる公知のものを用いることができる。例えば、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維、ワラストナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、タルク、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、合成雲母、アスベスト、アルミノシリケート、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、シリカなどが挙げられる。これらは中空であってもよく、さらにはこれら無機充填材を2種類以上用いることも可能である。また、ベントナイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、合成雲母などの膨潤性層状珪酸塩については、有機アンモニウム塩で層間イオンをカチオン交換した有機化モンモリロナイトを用いてもよい。ポリアミド樹脂を補強するには、前記充填材の中でも、特にガラス繊維、炭素繊維が好ましい。ポリアミド樹脂組成物の表面外観を優れたものとするためには、無機充填材の平均粒子径を0.001〜10μmとすることが好ましい。平均粒子径が0.001μmを下回る場合は、得られるポリアミド樹脂の溶融加工性が著しく低下するため好ましくない。また、粒径10μmを上回る場合には、成形品表面外観が悪化する傾向がある。平均粒子径は好ましくは0.01〜5μm、さらに好ましくは0.05〜3μmである。なお、これらの平均粒子径は、沈降法によって測定される。ポリアミド樹脂の補強と良表面外観を両立するためには、無機充填材として、タルク、カオリン、ワラストナイト、膨潤性層状珪酸塩を用いるのが好ましい。
【0032】
また、無機充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。特に好ましいのは、有機シラン系化合物であり、その具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩等の炭素炭素不飽和基含有アルコキシシラン化合物、3−トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物などの酸無水物基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。特に、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物が好ましく用いられる。これらのシランカップリング剤は常法に従って、予め充填剤を表面処理し、ついでポリアミド樹脂と溶融混練する方法が好ましく用いられるが、予め充填剤の表面処理を行わずに、充填剤とポリアミド樹脂を溶融混練する際に、これらカップリング剤を添加するいわゆるインテグラルブレンド法を用いてもよい。
【0033】
これらカップリング剤の処理量は、無機充填材100重量部に対して、0.05〜10重量部が好ましい。より好ましくは0.1〜5重量部、最も好ましくは0.5〜3重量部である。0.05重量部未満の場合には、カップリング剤で処理することによる機械特性の改良効果が小さく、10重量部を上回る場合には、無機充填材が凝集しやすく、ポリアミド樹脂への分散不良となる傾向がある。
【0034】
無機充填材の配合量は、ポリアミド樹脂100重量部に対して、0.1〜200重量部であることが好ましい。より好ましくは、1〜100重量部、さらに好ましくは1.1〜60重量部、最も好ましくは5〜50重量部である。0.1重量部未満では、剛性、強度の改良効果が小さく、200重量部を上回る場合には、ポリアミド樹脂中に均一に分散させることが困難となり、強度が低下する傾向がある。
【0035】
ポリアミド樹脂と無機充填材の界面を強化するために、カップリング剤による無機充填材の処理に加え、さらに、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタコン酸、無水シトラコン酸、無水アコニット酸、またはポリ無水マレイン酸から選ばれる無水物の少なくとも1種を配合することが好ましい。これらの中で、無水マレイン酸、ポリ無水マレイン酸が延性、剛性のバランスに優れるため好ましく用いられる。ポリ無水マレイン酸としては、例えばJ. Macromol. Sci.-Revs. Macromol. Chem.,C13(2), 235(1975)等に記載のものを用いることができる。
【0036】
これら無水物の添加量はポリアミド樹脂100重量部に対して0.05〜10重量部が延性の向上効果、得られる組成物の流動性の点から好ましく、さらに0.1〜5重量部の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜3重量部であり、さらに好ましくは0.1〜1重量部である。
【0037】
なお、これら無水物は、実質的にポリアミド樹脂、無機充填材と溶融混練する際に無水物の構造を取ればよく、加水分解してカルボン酸あるいはその水溶液の様な形態で溶融混練に供し、溶融混練の際の加熱により脱水反応させ、実質的に無水酸の形でナイロン樹脂と溶融混練してもかまわない。
【0038】
また他種ポリマーとしては、他のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ABS樹脂、SAN樹脂、ポリスチレン等を挙げることができ、本発明のポリアミド樹脂の耐衝撃性を改良するには、オレフィン系化合物および/または共役ジエン系化合物を重合して得られる(共)重合体などの変性ポリオレフィンが好ましく用いられる。
【0039】
上記(共)重合体としては、エチレン系共重合体、共役ジエン系重合体、共役ジエン−芳香族ビニル炭化水素系共重合体などが挙げられる。
【0040】
ここで、エチレン系共重合体とは、エチレンと他の単量体との共重合体および多元共重合体をさし、エチレンと共重合する他の単量体としては炭素数3以上のα−オレフィン、非共役ジエン、酢酸ビニル、ビニルアルコール、α,β−不飽和カルボン酸およびその誘導体などの中から選択することができる。
【0041】
炭素数3以上のα−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、3−メチルペンテン−1、オクタセン−1などが挙げられ、プロピレン、ブテン−1が好ましく使用できる。非共役系ジエンとしては5−メチリデン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−プロペニル−2−ノルボルネン、5−イソプロペニル−2−ノルボルネン、5−クロチル−2−ノルボルネン、5−(2−メチル−2−ブテニル)−2−ノルボルネン、5−(2−エチル−2−ブテニル)−2−ノルボルネン、5−メチル−5−ビニルノルボルネンなどのノルボルネン化合物、ジシクロペンタジエン、メチルテトラヒドロインデン、4,7,8,9−テトラヒドロインデン、1,5−シクロオクタジエン1,4−ヘキサジエン、イソプレン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、11−トリデカジエンなどが挙げられ、好ましくは5−メチリデン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエンなどである。α,β−不飽和カルボン酸としてはアクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ブテンジカルボン酸などが挙げられ、その誘導体としてはアルキルエステル、アリールエステル、グリシジルエステル、酸無水物、イミドを例として挙げることができる。
【0042】
また、共役ジエン系重合体とは少なくとも1種以上の共役ジエンを構成成分とする重合体であり、例えば1,3−ブタジエンの如き単独重合体や1,3−ブタジエン、イソプレン(2−メチル−1,3−ブタジエン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンから選ばれる1種以上の単量体の共重合体などが挙げられる。これらの重合体の不飽和結合の一部または全部が水添により還元されているものも好ましく使用できる。
【0043】
共役ジエン−芳香族ビニル炭化水素系共重合体とは共役ジエンと芳香族ビニル炭化水素からなるブロック共重合体またはランダム共重合体であり、これを構成する共役ジエンの例としては前記の単量体が挙げられ、特に1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。芳香族ビニル炭化水素の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられ、中でもスチレンが好ましく使用できる。また、共役ジエン−芳香族ビニル炭化水素系共重合体の芳香環以外の二重結合以外の不飽和結合の一部または全部が水添により還元されているものも好ましく使用できる。
【0044】
また、ポリアミド系エラストマーやポリエステル系エラストマーを用いることもできる。これらの耐衝撃性改良材は2種以上併用することも可能である。
【0045】
このような耐衝撃性改良材の具体例としては、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/ブテン−1共重合体、エチレン/ヘキセン−1共重合体、エチレン/プロピレン/ジシクロペンタジエン共重合体、エチレン/プロピレン/5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体、未水添または水添スチレン/イソプレン/スチレントリブロック共重合体、未水添または水添スチレン/ブタジエン/スチレントリブロック共重合体、エチレン/メタクリル酸共重合体およびこれら共重合体中のカルボン酸部分の一部または全てをナトリウム、リチウム、カリウム、亜鉛、カルシウムとの塩としたもの、エチレン/アクリル酸メチル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体、エチレン/メタクリル酸エチル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル−g−無水マレイン酸共重合体、(「g」はグラフトを表わす、以下同じ)、エチレン/メタクリル酸メチル−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸エチル−g−マレイミド共重合体、エチレン/アクリル酸エチル−g−N−フェニルマレイミド共重合体およびこれら共重合体の部分ケン化物、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/ビニルアセテート/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/グリシジルアクリレート共重合体、エチレン/ビニルアセテート/グリシジルアクリレート共重合体、エチレン/グリシジルエーテル共重合体、エチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン−1−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/1,4−ヘキサジエン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/ジシクロペンタジエン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/2,5−ノルボルナジエン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン−g−N−フェニルマレイミド共重合体、エチレン/ブテン−1−g−N−フェニルマレイミド共重合体、水添スチレン/ブタジエン/スチレン−g−無水マレイン酸共重合体、水添スチレン/イソプレン/スチレン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/ブテン−1−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/プロピレン/1,4−ヘキサジエン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/プロピレン/ジシクロペンタジエン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、水添スチレン/ブタジエン/スチレン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、ナイロン12/ポリテトラメチレングリコール共重合体、ナイロン12/ポリトリメチレングリコール共重合体、ポリブチレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール共重合体、ポリブチレンテレフタレート/ポリトリメチレングリコール共重合体などを挙げることができる。この中で、エチレン/メタクリル酸共重合体およびこれら共重合体中のカルボン酸部分の一部または全てをナトリウム、リチウム、カリウム、亜鉛、カルシウムとの塩としたもの、エチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン−1−g−無水マレイン酸共重合体、水添スチレン/ブタジエン/スチレン−g−無水マレイン酸共重合体がさらに好ましく、エチレン/メタクリル酸共重合体およびこれら共重合体中のカルボン酸部分の一部または全てをナトリウム、リチウム、カリウム、亜鉛、カルシウムとの塩としたもの、エチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン−1−g−無水マレイン酸共重合体が特に好ましい。
【0046】
耐衝撃性改良材の配合量は、ポリアミド樹脂100重量部に対して、5〜100重量部であることが好ましい。より好ましくは、5〜50重量部、さらに好ましくは10〜40重量部、最も好ましくは10〜30重量部である。5重量部未満では、耐衝撃性の改良効果が小さく、100重量部を上回る場合には、溶融粘度が高く成形加工性に劣る傾向がある。
【0047】
本発明で製造されたポリアミド樹脂に配合することができる難燃剤としては、リン系難燃剤、窒素系難燃剤および金属水酸化物系難燃剤などのハロゲン原子を含まない非ハロゲン系難燃剤、臭素系難燃剤に代表されるハロゲン系難燃剤を挙げることができ、これらの難燃剤は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
難燃剤の添加量は、ポリアミド樹脂100重量部に対して、1〜50重量部とすることが好ましい。添加量が1重量部に満たない場合は難燃性に劣る傾向にある。また、50重量部を超える場合には、靱性が著しく低下する傾向がある。
【0049】
リン系難燃剤としては、赤燐、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミンなどのポリリン酸系化合物、(ジ)ホスフィン酸金属塩、ホスファゼン化合物、芳香族リン酸エステル、芳香族縮合リン酸エステル、ハロゲン化リン酸エステルなどが挙げられる。
【0050】
(ジ)ホスフィン酸塩は、例えば、ホスフィン酸と金属炭酸塩、金属水酸化物または金属酸化物を使用して水性媒体中で製造される。(ジ)ホスフィン酸塩は、本来モノマー性化合物であるが、反応条件に依存し、環境によっては重合度が1〜3のポリマー性ホスフィン酸塩となる場合もある。ホスフィン酸としては、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル−n−プロピルホスフィン酸、メタンジ(メチルホスフィン酸)、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)、メチルフェニルホスフィン酸およびジフェニルホスフィン酸等が挙げられる。また、上記のホスフィン酸と反応させる金属成分(M)としては、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオンおよび/または亜鉛イオンを含む金属炭酸塩、金属水酸化物または金属酸化物が挙げられる。ホスフィン酸塩としては、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル−n−プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル―n−プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛等が挙げられる。ジホスフィン酸塩としては、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン−1,4−ジメチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)亜鉛等が挙げられる。これらの(ジ)ホスフィン酸塩の中でも、特に、難燃性、電気的特性の観点からエチルメチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛が好ましい。
【0051】
ホスファゼン化合物は分子中に−P=N−結合を有する有機化合物、好ましくは、環状フェノキシホスファゼン、鎖状フェノキシホスファゼン、ならびに、架橋フェノキシホスファゼン化合物から選択される少なくとも1種の化合物である。環状フェノキシホスファゼン化合物としては、例えば、塩化アンモニウムと五塩化リンとを120〜130℃の温度で反応させて得られる環状および直鎖状のクロロホスファゼン混合物から、ヘキサクロロシクロトリホスファゼン、オクタクロロシクロテトラホスファゼン、デカクロロシクロペンタホスファゼン等の環状のクロルホスファゼンを取り出した後にフェノキシ基で置換して得られる、フェノキシシクロトリホスファゼン、オクタフェノキシシクロテトラホスファゼン、デカフェノキシシクロペンタホスファゼン等の化合物が挙げられる。鎖状フェノキシホスファゼン化合物としては、例えば、上記の方法で得られるヘキサクロロシクロトリホスファゼンを220〜250℃の温度で開還重合し、得られた重合度3〜10000の直鎖状ジクロロホスファゼンをフェノキシ基で置換することにより得られる化合物が挙げられる。架橋フェノキシホスファゼン化合物としては、例えば、4,4’−スルホニルジフェニレン(ビスフェノールS残基)の架橋構造を有する化合物、2,2−(4,4’−ジフェニレン)イソプロピリデン基の架橋構造を有する化合物、4,4’−オキシジフェニレン基の架橋構造を有する化合物、4,4’−チオジフェニレン基の架橋構造を有する化合物等の、4,4’−ジフェニレン基の架橋構造を有する化合物等が挙げられる。架橋フェノキシホスファゼン化合物中のフェニレン基の含有量は、環状ホスファゼン化合物および/または鎖状フェノキシホスファゼン化合物中の全フェニル基およびフェニレン基数を基準として、通常50〜99.9%、好ましくは70〜90%である。また、該架橋フェノキシホスファゼン化合物は、その分子内にフリーの水酸基を有しない化合物であることが特に好ましい。
【0052】
芳香族リン酸エステルはオキシ塩化リンおよびフェノール類またはフェノール類とアルコール類の混合物との反応により生成する化合物である。芳香族リン酸エステルとしては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、またはt−ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ビス−(t−ブチルフェニル)フェニルホスフェート、トリス−(t−ブチルフェニル)ホスフェートなどのブチル化フェニルホスフェート、イソプロピルフェニルジフェニルホスフェート、ビス−(イソプロピルフェニル)ジフェニルホスフェート、トリス−(イソプロピルフェニル)ホスフェートなどのプロピル化フェニルホスフェートなどが挙げられる。
【0053】
芳香族縮合リン酸エステルはオキシ塩化リンと二価のフェノール系化合物、およびフェノール(またはアルキルフェノール)との反応生成物である。芳香族縮合リン酸エステルとしては、レゾルシノールビス−ジフェニルホスフェート、レゾルシノールビス−ジキシレニルホスフェート、ビスフェノールAビス−ジフェニルホスフェートなどが挙げられる。
【0054】
ハロゲン化リン酸エステルは触媒の存在下で、アルキレンオキサイドとオキシ塩化リンを反応させる事によって製造される。ハロゲン化リン酸エステルとしては、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(β−クロロプロピル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、テトラキス(2クロロエチル)ジクロロイソペンチルジホスフェート、ポリオキシアルキレンビス(ジクロロアルキル)ホスフェートなどが挙げられる。
【0055】
リン系難燃剤の添加量は、ポリアミド樹脂100重量部に対して、1〜50重量部であることが好ましい。より好ましくは2〜40重量部、さらに好ましくは3〜35重量部である。
【0056】
窒素系難燃剤としては、トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸の塩を形成する化合物が挙げられる。トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸の塩とは、トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との付加物であり、通常は1対1(モル比)、場合により2対1(モル比)の組成を有する付加物である。トリアジン系化合物のうち、シアヌール酸またはイソシアヌール酸と塩を形成しないものは除外される。シアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩のうち、特に好ましいトリアジン系化合物の例としてはメラミン、モノ(ヒドロキシメチル)メラミン、ジ(ヒドロキシメチル)メラミン、トリ(ヒドロキシメチル)メラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、2−アミド−4,6−ジアミノ−1,3,5−トリアジンの塩が挙げられ、とりわけメラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミンの塩が好ましい。トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩の具体例としては、メラミンシアヌレート、モノ(β−シアノエチル)イソシアヌレート、ビス(β−シアノエチル)イソシアヌレート、トリス(β−シアノエチル)イソシアヌレートなどが挙げられ、とりわけメラミンシアヌレートが好ましい。
【0057】
窒素系難燃剤の添加量は、ポリアミド樹脂100重量部に対して、1〜50重量部であることが好ましい。より好ましくは3〜30重量部、さらに好ましくは5〜20重量部である。
【0058】
金属水酸化物系難燃剤としては、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムなどが挙げられ、水酸化マグネシウムがより好ましい。これらは通常市販されているものであり、粒子径、比表面積、形状など特に限定されるものではないが、好ましくは粒子径が0.1〜20μm、比表面積が3〜75m/g、形状は球状、針状または小板状のものがよい。金属水酸化物系難燃剤の表面処理については施されていてもいなくてもよい。表面処理法の例としては、シランカップリング剤、アニオン界面活性剤、多価官能性有機酸、エポキシ樹脂など熱硬化性樹脂による被覆形成などの処理法が挙げられる。
【0059】
金属水酸化物系難燃剤の添加量は、ポリアミド樹脂100重量部に対して、1〜50重量部が好ましい。好ましくは10〜50重量部、より好ましくは20〜50重量部である。
【0060】
本発明で製造されたポリアミド樹脂に配合することができる臭素系難燃剤としては、化学構造中に臭素を含有する化合物であれば特に制限はなく、通常公知の難燃剤を使用することができる。例えばヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモトルエン、ヘキサブロモビフェニル、デカブロモビフェニル、ヘキサブロモシクロデカン、デカブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、ヘキサブロモジフェニルエーテル、ビス(ペンタブロモフェノキシ)エタン、エチレン−ビス(テトラブロモフタルイミド)、テトラブロモビスフェノールAなどのモノマー系有機臭素化合物、臭素化ポリカーボネート(例えば臭素化ビスフェノールAを原料として製造されたポリカーボネートオリゴマーあるいはそのビスフェノールAとの共重合物)、臭素化エポキシ化合物(例えば臭素化ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応によって製造されるジエポキシ化合物や臭素化フェノール類とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるモノエポキシ化合物)、ポリ(臭素化ベンジルアクリレート)、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ビスフェノールA、塩化シアヌールおよび臭素化フェノールの縮合物、臭素化(ポリスチレン)、ポリ(臭素化スチレン)、架橋臭素化ポリスチレンなどの臭素化ポリスチレン、架橋または非架橋臭素化ポリ(−メチルスチレン)などのハロゲン化されたポリマー系臭素化合物が挙げられ、なかでもエチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、臭素化エポキシポリマー、臭素化ポリスチレン、架橋臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテルおよび臭素化ポリカーボネートが好ましく、臭素化ポリスチレン、架橋臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテルおよび臭素化ポリカーボネートが最も好ましく使用できる。
【0061】
臭素系難燃剤の添加量は、ポリアミド樹脂100重量部に対して、1〜50重量部が好ましい。より好ましくは10〜50重量部、さらに好ましくは20〜50重量部である。
【0062】
また、上記の臭素化難燃剤と併用することによって、相乗的に難燃性を向上させるために使用される難燃助剤を添加することも好ましく、例えば三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、十二酸化アンチモン、結晶性アンチモン酸、アンチモン酸ナトリウム、アンチモン酸リチウム、アンチモン酸バリウム、リン酸アンチモン、硼酸亜鉛、錫酸亜鉛、塩基性モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム亜鉛、酸化モリブデン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、赤燐、膨潤性黒鉛、カーボンブラック等を例示できる。これらのうち三酸化アンチモン、五酸化アンチモンがより好ましい。難燃助剤の配合量は、難燃性改良効果の点から、ポリアミド樹脂100重量部に対して、0.2〜30重量部であることが好ましい。より好ましくは1〜20重量部である。
【0063】
本発明で製造されたポリアミド樹脂に無機充填材、他種ポリマー、または難燃剤等を配合する方法としては特に制限はないが、具体例として、原料のポリアミド樹脂、無機充填材、および/または他種ポリマーを単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーおよびミキシングロールなど公知の溶融混練機に供給して溶融混練する方法などを挙げることができる。
【0064】
ポリアミド樹脂に、これら無機充填材や他種ポリマーを均一に分散させる方法として、溶融混練機を用いた場合、混練機のL/D(スクリュー長/スクリュー径)、ベントの有無、混練温度、滞留時間、それぞれの成分の添加位置、添加量をコントロールすることが有効である。一般に溶融混練機のL/Dを長く、滞留時間を長くすることは、これら無機充填材や他種ポリマーの均一分散を促進するため好ましい。
【0065】
さらに、本発明のポリアミド樹脂には本発明の効果を損なわない範囲で各種添加剤、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)を任意の時点で添加することができる。
【0066】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、4,4’−ブチリデンビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−ジ−t−ブチルフェニル)ブタン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート] 、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサメチレン−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,4−ビス[(オクチルチオ)メチル]−o−クレゾール、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどが挙げられる。特にエステル型高分子ヒンダードフェノールタイプが好ましく、具体的には、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどが好ましく用いられる。
【0067】
ホスファイト系化合物の具体例としては、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−クミルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビスフェニレンホスファイト、ジ−ステアリルペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、トリフェニルホスファイト、3,5−ジ−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスフォネートジエチルエステルなどが挙げられる。
【0068】
これら酸化防止剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせると相乗的な効果が得られることがあるので、併用して使用してもよい。酸化防止剤の配合量には特に制限はないが、ポリアミド樹脂100重量部に対して、0.01〜20重量部配合されることが好ましい。
【0069】
また、耐熱安定剤の具体例としては、フッ化銅、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅のハロゲン化銅、酸化銅、硫酸銅、硝酸銅などの無機酸銅化合物、酢酸銅、ラウリン酸銅、ステアリン酸銅、ナフテン酸銅、カプリン酸銅等の有機酸銅化合物が挙げられるが、その中でもヨウ化銅、酢酸銅が好ましく、より好ましくはヨウ化銅である。これらの配合量はポリアミド樹脂100重量部に対して、0.01〜0.3重量部、特に好ましくは0.01〜0.1重量部である。
【0070】
さらに、銅化合物とハロゲン化アルカリと併用して用いることでより高い耐熱性を付与することができる。ハロゲン化アルカリとしては、例えばヨウ化カリウム、ヨウ化マグネシウム等を挙げることができ、好ましくはヨウ化カリウムである。好ましい配合量としては、上記銅化合物中の銅1原子に対し、該ハロゲン化アルカリ中のハロゲン原子が0.3〜4原子の割合である。
【0071】
本発明の製造方法により得られるポリアミド樹脂、およびそれを含むポリアミド樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、溶融紡糸、フィルム成形などの任意の成形方法により、所望の形状に成形でき、自動車部品、機械部品などの樹脂成形品、繊維、フィルムなどに使用することができる。具体的な用途としては、自動車エンジン冷却水系部品、特にラジエタータンクのトップおよびベースなどのラジエタータンク部品、冷却液リザーブタンク、ウォーターパイプ、ウォーターポンプハウジング、ウォーターポンプインペラ、バルブなどのウォーターポンプ部品など自動車エンジンルーム内で冷却水との接触下で使用される部品、スイッチ類、超小型スライドスイッチ、DIPスイッチ、スイッチのハウジング、ランプソケット、結束バンド、コネクタ、コネクタのハウジング、コネクタのシェル、ICソケット類、コイルボビン、ボビンカバー、リレー、リレーボックス、コンデンサーケース、モーターの内部部品、小型モーターケース、ギヤ・カム、ダンシングプーリー、スペーサー、インシュレーター、ファスナー、バックル、ワイヤークリップ、自転車ホイール、キャスター、ヘルメット、端子台、電動工具のハウジング、スターターの絶縁部分、スポイラー、キャニスター、ラジエタータンク、チャンバータンク、リザーバータンク、ヒューズボックス、エアークリーナーケース、エアコンファン、ターミナルのハウジング、ホイールカバー、吸排気パイプ、ベアリングリテーナー、シリンダーヘッドカバー、インテークマニホールド、ウォーターパイプインペラ、クラッチレリーズ、スピーカー振動板、耐熱容器、電子レンジ部品、炊飯器部品、プリンタリボンガイドなどに代表される電気・電子関連部品、自動車・車両関連部品、家電・事務電気製品部品、コンピューター関連部品、ファクシミリ・複写機関連部品、機械関連部品、その他各種用途に有用である。
【実施例】
【0072】
実施例、比較例で製造したポリアミド樹脂は以下の方法で評価を行った。
【0073】
[相対粘度(ηr)]
98%硫酸中、0.01g/ml濃度、25℃でオストワルド式粘度計を用いて測定を行った。
【0074】
[脂肪族ジアミン環化副生物の定量]
試料約0.06gを精秤し、臭化水素酸水溶液にて150℃で3時間加水分解を行った。得られた処理液に、40%水酸化ナトリウム水溶液、トルエンを加え、次いでクロロギ酸エチルを添加して撹拌した。上澄みのトルエン溶液を抽出し測定溶液とし、ガスクロマトグラフ分析によりピペリジン、ピロリジン、および3−メチルピペリジン量を定量した。定量はピぺリジン、ピロリジン、3−メチルピペリジン標準溶液を用いた。測定条件を以下に示した。
装置:島津GC−14A
カラム:NB−1(GLサイエンス社製)60m×0.25mm
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)
オーブン温度:150℃から330℃まで10℃/分で昇温
試料注入部温度:250℃
検出部温度:330℃
キャリアガス:He
試料注入量:3.0μl。
【0075】
[融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)]
SIIナノテクノロジー社製 ロボットDSCRDC220を用い、試料を約5mg採取し、窒素雰囲気下、次の条件で測定した。融点+35℃に昇温して溶融状態とした後、20℃/分の降温速度で、30℃まで降温し、30℃で3分保持した。これに続いて、20℃/分の昇温速度で融点+35℃まで昇温したときに観測される、階段状吸熱ピークの中点の温度からガラス転移温度(Tg)を、吸熱ピークの温度から、融点(Tm)を求めた。なお、吸熱ピークが2つ以上観測される場合には、最もピーク強度の大きい点を融点とした。
【0076】
[分子量分布]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリアミド樹脂2.5mgを、ヘキサフルオロイソプロパノール(0.005N−トリフルオロ酢酸ナトリウム添加)4mlに溶解し、0.45μmのフィルターでろ過して得られた溶液を測定に用いた。測定条件を以下に示した。
ポンプ:Waters 515(Waters製)
検出器:示差屈折率計 Waters 410(Waters製)
カラム:Shodex HFIP−806M(2本)+HFIP−LG
溶媒:ヘキサフルオロイソプロパノール(0.005N−トリフルオロ酢酸ナトリウム添加)
流速:0.5ml/min
試料注入量:0.1ml
温度:30℃
分子量校正:ポリメチルメタクリレート。
【0077】
参考例1
参考例1(リジン脱炭酸酵素の調製)
E.coli JM109株の培養は以下のように行った。まず、この菌株をLB培地5mlに1白金耳植菌し、30℃で24時間振とうして前培養を行った。次に、LB培地50mlを500mlの三角フラスコに入れ、予め115℃、10分間蒸気滅菌した。この培地に前培養した上記菌株を植え継ぎ、振幅30cmで、180rpmの条件下で、1N塩酸水溶液でpHを6.0に調整しながら、24時間培養した。こうして得られた菌体を集め、超音波破砕および遠心分離により無細胞抽出液を調製した。これらのリジン脱炭酸酵素活性の測定を定法に従って行った(左右田健次,味園春雄,生化学実験講座,vol.11上,P.179−191(1976))。リジンを基質とした場合、本来の主経路と考えられるリジンモノオキシゲナーゼ、リジンオキシダーゼおよびリジンムターゼによる転換が起こり得るので、この反応系を遮断する目的で75℃で5分間、E.coli JM109株の無細胞抽出液を加熱した。さらにこの無細胞抽出液を40%飽和および55%飽和硫酸アンモニウムにより分画した。こうして得られた粗精製リジン脱炭酸酵素溶液を用いて、リジンからペンタメチレンジアミンの生成を行った。
【0078】
参考例2(ペンタメチレンジアミンの製造)
50mM リジン塩酸塩(和光純薬工業製)、0.1mM ピリドキサルリン酸(和光純薬工業)、40mg/L−粗精製リジン脱炭酸酵素(参考例1で調製)となるように調製した水溶液1000mlを、0.1N塩酸水溶液でpHを5.5〜6.5に維持しながら、45℃で48時間反応させ、ペンタメチレンジアミン塩酸塩を得た。この水溶液に水酸化ナトリウムを添加することによってペンタメチレンジアミン塩酸塩をペンタメチレンジアミンに変換し、クロロホルムで抽出して、減圧蒸留(10mmHg、60℃)を3度繰り返すことにより、ペンタメチレンジアミンを得た。このペンタンジアミンには不純物としてピペリジン、2,3,4,5−テトラヒドロピリジンは含まれていなかった。
【0079】
実施例1、3
ペンタメチレンジアミンとテレフタル酸の等モル塩(5T)、2−メチルペンタメチレンジアミンとテレフタル酸の等モル塩(M5T)、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸の等モル塩(6T)を表1に示した重量比になるように配合した。この塩混合物を10g、イオン交換水を10g、さらに塩中の脂肪族ジアミンのモル数a、ジカルボン酸のモル数bに対して、a/bが表1に示した値となるように特定量の脂肪族ジアミンを試験管に仕込んだ。これを圧力容器に入れて、密閉し、窒素置換した。加熱を開始し、缶内温度160℃、缶内圧力3.0kg/cm(0.3MPa)に到達した後、水を留出させながら缶内圧力を3.0kg/cm(0.3MPa)で1時間保持した(缶内温度200℃の時点で、原料中の水83%が留出し、最終的に缶内温度は260℃に上昇した)。その後、15分かけて缶内圧力を常圧に戻し(缶内温度は285℃に上昇した)、窒素雰囲気下で、2時間保持した(缶内温度は325℃に到達した)。加熱を停止し、室温に冷却後、試験管を圧力容器から取り出し、ポリアミド樹脂を得た。
【0080】
なお、脂肪族ジアミンについては以下に示す原料を使用した。
ペンタメチレンジアミン:参考例2
2−メチルペンタメチレンジアミン:東京化成工業製
ヘキサメチレンジアミン:東京化成工業製。
【0081】
実施例2
イオン交換水を添加せず、ジアミン過剰量を変更する以外は、実施例1と同様の原料を試験管に仕込んだ。加熱を開始し、缶内温度212℃、缶内圧力3.0kg/cm(0.3MPa)に到達した後、水を留出させながら缶内圧力を3.0kg/cm(0.3MPa)で1.5時間保持した(缶内温度は270℃に上昇した)。その後、30分かけて缶内圧力を常圧に戻し(缶内温度は295℃に上昇した)、窒素雰囲気下で、1時間保持した(缶内温度は320℃に到達した)。加熱を停止し、室温に冷却後、試験管を圧力容器から取り出し、ポリアミド樹脂を得た。
【0082】
実施例4〜8
ペンタメチレンジアミンとアジピン酸の等モル塩(56)、ペンタメチレンジアミンとテレフタル酸の等モル塩(5T)、ペンタメチレンジアミンとイソフタル酸の等モル塩(5I)、12−アミノドデカン酸(12)、ペンタメチレンジアミンとセバシン酸の等モル塩(510)、デカンジアミンとテレフタル酸の等モル混合物(10T)を表2〜4に示した重量比になるように配合した。この塩混合物を10g、イオン交換水を10g、さらに塩中の脂肪族ジアミンのモル数a、ジカルボン酸のモル数bに対して、a/bが表2〜4に示した値となるように特定量の脂肪族ジアミンを試験管に仕込んだ。これを圧力容器に入れて、密閉し、窒素置換した。加熱を開始し、缶内温度150℃、缶内圧力3.0kg/cm(0.3MPa)に到達した後、水を留出させながら缶内圧力を3.0kg/cm(0.3MPa)で50分保持した(缶内温度200℃の時点で、原料中の水79%が留出し、最終的に缶内温度は250℃に上昇した)。その後、15分かけて缶内圧力を常圧に戻し(缶内温度は275℃に上昇した)、窒素雰囲気下で、2時間保持した(缶内温度は318℃に到達した)。加熱を停止し、室温に冷却後、試験管を圧力容器から取り出し、ポリアミド樹脂を得た。なお、デカンジアミンについては、小倉合成工業製を使用した。
【0083】
比較例1、2
実施例1と同様の原料を用い、表1に示した重量比になるように配合した。この塩混合物を10g、イオン交換水を10g、さらに塩中の脂肪族ジアミンのモル数a、ジカルボン酸のモル数bに対して、a/bが表1に示した値となるように特定量の脂肪族ジアミンを試験管に仕込んだ。これを圧力容器に入れて、密閉し、窒素置換した。加熱を開始し、缶内温度236℃、缶内圧力17.5kg/cm(1.7MPa)に到達した後、水を留出させながら缶内圧力を17.5kg/cm(1.7MPa)で1時間保持した(缶内温度は278℃に上昇した)。その後、80分かけて缶内圧力を常圧に戻し(缶内温度は295℃に上昇した)、窒素雰囲気下で、1.5時間保持した(最終的に缶内温度が325℃に到達した)。加熱を停止し、室温に冷却後、試験管を圧力容器から取り出し、ポリアミド樹脂を得た。
【0084】
比較例3〜7
実施例3〜7と同様の原料を用い、表2〜4に示した重量比になるように配合した。この塩混合物を10g、イオン交換水を10g、さらに塩中の脂肪族ジアミンのモル数a、ジカルボン酸のモル数bに対して、a/bが表2〜4に示した値となるように特定量の脂肪族ジアミンを試験管に仕込んだ。これを圧力容器に入れて、密閉し、窒素置換した。加熱を開始し、缶内温度225℃、缶内圧力17.5kg/cm(1.7MPa)に到達した後、水を留出させながら缶内圧力を17.5kg/cm(1.7MPa)で1時間保持した(缶内温度は270℃に上昇した)。その後、80分かけて缶内圧力を常圧に戻し(缶内温度は305℃に上昇した)、窒素雰囲気下で、2時間保持した(最終的に缶内温度が320℃に到達した)。加熱を停止し、室温に冷却後、試験管を圧力容器から取り出し、ポリアミド樹脂を得た。
【0085】
比較例8〜14
実施例1〜8と同様の原料を用い、表1〜4に示した重量比になるように配合した。この塩混合物を10g、イオン交換水を10g、さらに塩中の脂肪族ジアミンのモル数a、ジカルボン酸のモル数bに対して、a/bが表1〜4に示した値となるように特定量の脂肪族ジアミンを試験管に仕込んだ。これを圧力容器に入れて、密閉し、窒素置換した。加熱を開始し、缶内温度214℃、缶内圧力17.5kg/cm(1.7MPa)に到達した後、水を留出させながら缶内圧力を17.5kg/cm(1.7MPa)で2時間保持した(缶内温度は241℃に上昇した)。加熱を停止し、室温に冷却後、試験管を圧力容器から取り出し、ポリアミド樹脂を得た。このようにして得られたポリアミド樹脂オリゴマーを粉砕し、240℃、減圧下(40Pa)にて固相重合し、ポリアミド樹脂を得た。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
実施例1〜8と比較例1〜7の比較により、重合時の最高到達温度を10kg/cm(1.0MPa)未満とすると、脂肪族ジアミンの環化副生物を低減することができる。
【0091】
実施例1と2の比較から、原料中の水が少ない方が、脂肪族ジアミンの環化副生物を低減することができる。
【0092】
実施例1〜8と比較例8〜14の比較により、固相重合法よりも溶融重合法で得られるポリアミド樹脂の方が分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が小さく、より均質なポリマーを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のポリアミド樹脂は、耐熱性に優れるという特長を生かして、自動車・車両関連部品、電気・電子関連部品、家電・事務電気製品部品、コンピューター関連部品、ファクシミリ・複写機関連部品、機械関連部品、その他各種用途に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ペンタメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、および2−メチルペンタメチレンジアミンから選ばれる少なくとも1種の脂肪族ジアミンと、(B)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、およびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種を構成成分とする単量体を、最高到達圧力が1.0MPa(10kg/cm)未満の条件で加熱重縮合するポリアミド樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記加熱重縮合において、ポリアミド樹脂の融点以上に加熱する請求項1に記載のポリアミド樹脂の製造方法。
【請求項3】
200℃以下の温度で、原料中の水含有量を40重量%以下に濃縮する工程を経由する請求項1または2に記載のポリアミド樹脂の製造方法。
【請求項4】
水含有量が10重量%以下の原料を出発原料とする請求項1〜3いずれかに記載のポリアミド樹脂の製造方法。
【請求項5】
得られるポリアミド樹脂の0.01g/mlとした98%硫酸溶液の25℃における相対粘度が1.5以上5.0以下である請求項1〜4いずれかに記載のポリアミド樹脂の製造方法。
【請求項6】
得られるポリアミド樹脂に含まれるピペリジン、ピロリジン、および3−メチルピペリジンの総含有量が、5.0×10−5mol/g以下である請求項1〜5いずれかに記載のポリアミド樹脂の製造方法。
【請求項7】
ペンタメチレンジアミンおよび/またはテトラメチレンジアミンと、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種を構成成分とする単量体を重縮合して得られ、0.01g/mlとした98%硫酸溶液の25℃における相対粘度が1.5以上5.0以下、ピペリジンおよびピロリジンの総含有量が5.0×10−5mol/g以下であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が3.0以下であるポリアミド樹脂。

【公開番号】特開2011−225830(P2011−225830A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64208(P2011−64208)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】