説明

ポリアミド樹脂組成物

【課題】成形時の流動性、従来のナイロン樹脂における問題点であった射出成形品の接合部の溶着性が高い樹脂組成物および成形品を提供する。
【解決手段】融点が230℃以上のポリアミド樹脂(A)100重量部に対してアミド基1個当たりの炭素原子数が15以上30以下かつ数平均分子量が3000以上7000以下のポリアミドオリゴマー(B)を0.1〜20重量部配合してなるポリアミド樹脂組成物およびこれを用いた射出溶着成形品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形時の流動性、耐熱性及び成形品の溶着性が優れた射出成形用ポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、その優れた射出成形性、耐熱性、強靱性、耐オイル・ガソリン性、耐磨耗性などを利して、自動車、機械部品の分野で射出溶着成形品として広範に利用されている。上記分野でのポリアミド樹脂の開発経緯は基本的には金属材料からの代替が主体であり、軽量化、防錆化などの利点の多い部品から実用化が進んできた。更に最近はポリアミド樹脂材料の高性能化および成形加工技術の進展に伴って、大型且つ複雑形状で、従来技術では樹脂化が困難とされてきた部品へのポリアミド樹脂の適用が検討されるようになっている。このような難度の高い部品を樹脂化するためには射出成形や押し出し成形、ブロー成形などの単独成形技術だけでは不十分で、切削、接着、溶着などの後加工技術を組み合わせることが必要となる。しかし、従来のポリアミド樹脂材料は、このような後加工への適用性まで考慮したものとは言えず、たとえば2つ以上のパーツからなるガラス繊維強化ポリアミド樹脂成形品を射出溶着成形法などによって溶着して用いる場合には、特に部品が大型の場合、溶着部分の強度が不十分であるという課題があった。
【0003】
これまで、ポリアミドの射出溶着強度を向上させる技術として、特許文献1にはペンタエリスリトールを0.005〜5重量部を添加したポリアミド樹脂組成物が開示されている。しかし、ペンタエリスリトールなどの多価アルコールの添加により、ポリアミド樹脂組成物からなる成形品の長期耐熱性が低下してしまう課題がある。
【0004】
特許文献2には、ポリアミド樹脂組成物の流動性を改善する目的としてポリアミド樹脂にフェノールを前駆体とするオリゴマーを混合することが提案されている。この方法では確かにポリアミド樹脂組成物の流動性を改善することが出来るが、流動性は向上するものの、ポリアミド樹脂組成物からなる成形品が、脆く割れやすいなどの欠点があった。
【0005】
一方、特許文献3には重合脂肪酸、炭素数1〜4の脂肪族モノカルボン酸、ポリアミンおよびポリラクトンを縮合重合せしめて得られる低分子量のポリアミドオリゴマーを印刷インク用途に用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−274305号公報
【特許文献2】特開2006−52411号公報
【特許文献3】特開平10−330669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述したように、成形時の流動性、耐熱性及び従来のポリアミド樹脂組成物における問題点であった射出成形品の接合部の溶着性が高い樹脂組成物および成形品の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するために鋭意検討した結果、次のような手段を採用するものである。
(1)融点が230℃以上のポリアミド樹脂(A)100重量部に対してアミド基1個当たりの炭素原子数が15以上30以下かつ数平均分子量が3000以上7000以下のポリアミドオリゴマー(B)を0.1〜20重量部配合してなるポリアミド樹脂組成物。
(2)ポリアミド樹脂(A)がポリヘキサメチレンアジパミドおよびポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマーから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)のポリアミド樹脂組成物。
(3)前記ポリアミド樹脂(A)100重量部に対して、無機充填材(C)を5〜100重量部配合してなることを特徴とする(1)または(2)記載のポリアミド樹脂組成物。
(4)1次材を成形した後、2次材を射出して射出溶着成形品を製造する際に、1次材および/または2次材として(1)〜(3)いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を用いることを特徴とする射出溶着成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、成形時の流動性、耐熱性及び射出成形時の溶着性が優れたものである。したがって、射出溶着成形を行う場合に適しており、自動車のインテークマニホールドなどの吸気系部品、オイルタンクなどの中空形状部品用などに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例において溶着強度を測定した試験片の形状を示す図である。
【図2】実施例において溶着強度を測定した成形品の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳しく述べる。
【0012】
本発明で用いるポリアミド樹脂(A)とは、融点が230℃以上のポリアミド樹脂であり、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、およびアジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸またはテレフタル酸ないしはそのエステル、酸ハロゲン化物から誘導される芳香族ジカルボン酸が挙げられ、本発明においては、これらの原料から誘導されるナイロンホモポリマーまたはコポリマーを各々単独または混合物の形で用いることができる。
【0013】
融点が230℃以上のポリアミドを用いることにより、機械的物性および耐熱性に優れた樹脂組成物となりえる。
【0014】
本発明において、特に有用なポリアミド樹脂(A)の具体的な例としては、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ポリアミド6/66)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ポリアミド66/6T)およびこれらの混合物、ないし共重合体などが挙げられる。
【0015】
中でもポリアミド66、ポリアミド6/66コポリマー、ポリアミド66/6Tコポリマーが好ましく、特にポリアミド66が機械特性や溶着特性などの点で好ましい。
【0016】
ここで、融点は示差走査熱量計(DSC)を使用し、40℃から昇温速度20℃/min.で300℃まで昇温した。
【0017】
また、ポリアミド(A)の重合度、すなわち溶媒として96%硫酸を使用したISO307に準拠して測定した粘度数としては、機械特性や流動性の点で100〜170ml/gの範囲であることが好ましく、靭性、溶着強度および流動性の観点から、特に120〜150ml/gのものが好ましい。
【0018】
本発明に用いるポリアミド樹脂(A)の重合方法は特に限定されず、溶融重合、界面重合、溶液重合、塊状重合、固相重合、およびこれらの方法を組み合わせた方法を利用することができる。通常、溶融重合が好ましく用いられる。
【0019】
本発明で用いられるポリアミド樹脂(A)には、長期耐熱性を向上させるために銅化合物が好ましく添加される。銅化合物の具体的な例としては、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅、硫酸第二銅、硝酸第二銅、リン酸銅、酢酸第一銅、酢酸第二銅、サリチル酸第二銅、ステアリン酸第二銅、安息香酸第二銅および前記無機ハロゲン化銅とキシリレンジアミン、2−メルカプトベンズイミダゾール、ベンズイミダゾールなどの銅化合物などが挙げられる。なかでも1価のハロゲン化銅化合物が好ましく、酢酸第1銅、ヨウ化第1銅などを特に好適な銅化合物として例示できる。銅化合物の添加量は、通常ポリアミド樹脂100重量部に対して0.01〜2重量部であることが好ましく、さらに0.015〜1重量部の範囲であることが好ましい。添加量が多すぎると溶融成形時に金属銅の遊離が起こり、着色により製品の価値を減ずることになる。本発明では銅化合物と併用する形でハロゲン化アルカリを添加することも可能である。このハロゲン化アルカリ化合物の例としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、臭化ナトリウムおよびヨウ化ナトリウムを挙げることができ、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムが特に好ましい。
【0020】
本発明において、流動性を向上させ、射出溶着成形した際に溶着性を向上させるために用いられるポリアミドオリゴマー(B)としては、アミド基1個あたりの炭素原子数が15以上30以下であり、数平均分子量が3000以上7000以下のものを使用する。このようなポリアミドオリゴマー(B)は、重合脂肪酸、ポリアミンを縮合重合によって得られ、アミド基1個当たりの炭素原子数が15以上30以下かつ数平均分子量が3000以上7000以下になるような重合脂肪酸、ポリアミンを用いて製造されたものである。
【0021】
本発明においてポリアミドオリゴマー(B)を構成する重合脂肪酸としては、例えばオレイン酸やリノール酸等の不飽和脂肪酸またはこれらの低級アルキルエステル(炭素数1〜3)を重合した後蒸留精製したもので、ダイマー酸とも呼ばれる下記のごとき組成のものが挙げられる(数値は重量%)。
炭素数18の一塩基酸:0〜15%(好ましくは0〜10%)
炭素数36の二塩基酸:60〜99%(好ましくは70〜99%)
炭素数54の三塩基酸:0〜30%(好ましくは0〜20%)
【0022】
本発明においてポリアミドオリゴマー(B)を構成するポリアミンとしては脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミンおよび芳香族ポリアミンが挙げられる。脂肪族ポリアミンとしてはエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、プロピレンジアミン、イミノビスプロピルアミン、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン等が挙げられる。脂環式ポリアミンとしては、イソホロンジアミン、シクロヘキシレンジアミンおよびジアミノシクロヘキサン等が挙げられる。芳香族ポリアミンとしてはジアミノフェニルメタンおよびキシリレンジアミン等が挙げられる。これらのポリアミンのうち特に好ましいものはエチレンジアミンである。
【0023】
本発明においてポリアミドオリゴマー(B)とは重合脂肪酸、ポリアミンを縮合重合によって得られるものであるが、場合によっては重合脂肪酸、ポリアミンに炭素数1〜4の脂肪族モノカルボン酸およびポリラクトンを加え、縮合重合せしめて得られるポリアミドオリゴマーを用いてもよい。
【0024】
炭素数1〜4の脂肪族系モノカルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸および酪酸が挙げられ、これらはそれぞれ単独もしくは任意の割合で混合して使用することができる。また、必要により該炭素数1〜4の脂肪族系モノカルボン酸の一部を、炭素数5以上の直鎖もしくは不飽和脂肪酸、天然油脂から得られる混合脂肪酸、芳香族モノカルボン酸等に置き換えてもよい。
【0025】
ポリラクトンとしてはβ−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンおよびこれらのラクトンから誘導されるポリラクトンが挙げられる。ポリラクトンは末端基にヒドロキシル基およびカルボキシル基から選ばれる官能基が少なくとも2個以上有するものであり、数平均分子量が通常2000以下であり、好ましくは1000以下のものである。上記ラクトンのうち好ましいものはε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトンである。またポリラクトンのうち好ましいものは、低分子ジオール(エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール等)とε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトンの1種類以との開環付加重合反応によって得られるポリラクトンジオールであり、特に好ましいものはポリラクトンジオールである。
【0026】
本発明のポリアミドオリゴマー(B)の融点が好ましくは80〜130℃であり、更に好ましくは100〜115℃である。ここでポリアミドオリゴマー(B)の融点はDSC法により測定した。ここで、融点は示差走査熱量計(DSC)を使用し、40℃から昇温速度20℃/min.で150℃まで昇温し、5分間放置して測定した。
【0027】
また、ポリアミドオリゴマー(B)の数平均分子量が3000〜7000、好ましくは4000〜6000である。数平均分子量はα−クロロナフタレンまたはヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒としてGPC分析して算出した。流速は2.0ml/min.で、カラムは昭和電工社製GPC−HFIP805を用いた。なお、標準物質はPMMAを用いた。
【0028】
またポリアミドオリゴマー(B)の酸価(JIS K0070−1966)は25以下が好ましく、さらに好ましくは20以下であり、全アミン価(ASTM D−2073−66)が通常7以下、好ましくは5以下である。ここで酸価とは、未中和のアミノ基含有化合物と中和に用いた有機酸を合わせた成分の酸価を意味する。
【0029】
本発明のポリアミドオリゴマー(B)は、通常の重合脂肪酸系ポリアミド樹脂の合成法と同じ方法で製造することができる。縮合重合反応の反応温度は、通常160〜250℃、好ましくは180〜230℃である。反応は着色を防止するため窒素ガス等の不活性ガス中で行うことが好ましく、反応末期には反応の完結あるいは揮発性成分の除去を促進するため、反応を減圧下で行ってもよい。ポリアミドオリゴマーの合成に際してのカルボン酸成分とアミン成分の等量比(カルボキシル基/アミノ基)は、通常(0.7〜0.97)/1、好ましくは(0.75〜0.95)/1である。
【0030】
本発明においてポリアミドオリゴマー(B)の配合割合は、射出成形時の溶着部強度の高い製品を得るために、本発明のポリアミド樹脂(A)100重量部に対して、0.1〜20重量部であることが必要とされる。好ましくは3〜15重量部である。0.1重量部未満では十分な流動性が得られない問題があり、20重量部を超えると耐不凍液性が悪化するためである。
【0031】
本発明において、ポリアミド樹脂組成物の機械的強度を向上させるために無機充填材(C)を配合することが好ましい。本発明で用いる無機充填材(C)としては、特に限定されるものではないが、繊維状、板状、粉末状、粒状などの充填材を使用することができる。具体的にはガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド樹脂などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカーなどの繊維状、ウィスカー状充填材、ワラステナイト、セリナイト、カオリン、マイカ、クレー、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、モンモリロナイト、合成雲母などの膨潤性の層状珪酸塩、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイドなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、燐酸カルシウムおよびシリカなどの非繊維状充填材が挙げられる。上記充填材中、ガラス繊維および導電性が必要な場合にはPAN系の炭素繊維が好ましく使用される。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものなら特に限定はなく、例えば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。また、上記の充填材は2種以上を併用して使用することもできる。長さの制限は無いが0.1〜6.0mmのチョップドストランドが好ましく、繊維径は5〜20μmのものが好ましい。
【0032】
また、公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤を用いて表面処理することで、より優れた機械的強度、耐不凍液性を得ることが出来る。シラン系カップリング剤であれば、特に限定されるものではないが、東レ・ダウコーニング製シラン系カップリング剤“SH6026”を好適に使用できる。シラン系カップリング剤の割合は本発明のポリアミド樹脂(A)100重量部に対して0.1〜2.0重量部を含むことが好ましい。0.1部未満では十分な補強効果が得られず、2.0部を超えると成形加工時にガスが発生し表面外観が悪化するため好ましくない。ポリアミドとガラス繊維を溶融混練する際に、作業性を向上させる意図で、ガラス繊維はエチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被膜あるいは集束されていてもよい。
【0033】
本発明において、無機充填材(C)の割合は本発明のポリアミド樹脂(A)100重量部に対して、5〜100重量部であることが好ましい。5重量部以上とすることで十分な機械強度を得ることができ、100重量部以下とすることで、成形加工時の表面外観を良好に保つことが出来る。
【0034】
本発明におけるポリアミド樹脂組成物中には本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(例えば、赤燐、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、他の重合体を添加することができる。
【0035】
本発明のポリアミド樹脂組成物を得る方法としては、溶融混練において、たとえば2軸押出機で溶融混練する場合にメインフィーダーからポリアミド樹脂(A)およびポリアミドオリゴマー(B)を供給し、無機充填材(C)を押出機のサイドフィーダーから供給する方法が挙げられる。
【0036】
このようにして得られた本発明のポリアミド樹脂組成物は、成形時の流動性と射出成形時の溶着性が均衡して優れたものであり、射出成形として通常の2種以上の溶融樹脂を同時に射出または押し出し成形する成形法におけると同様、射出成形や押し出し成形、ブロー成形で得られた1次材の成形品を射出成形金型内にインサートし、次いで新たに2次材による射出成形を行って両者を溶着せしめて用いる射出溶着成形を行う場合に特に有用である。この成形法を用いる場合、2次材の流動断面積が小さく、短時間にポリアミド樹脂を流さなければ溶着強度が得られないことから、使用されるポリアミド樹脂組成物はより流動性の高いものが望まれる。本発明のポリミド樹脂組成物は、射出溶着成形における1次材および/または2次材をして用いることで、溶着強度のすぐれた成形品を得ることが出来る。1次材および2次材のいずれも、本発明のポリアミド樹脂組成物を用いることがより好ましい。また、1次材または2次材のいずれかに本発明のポリアミド樹脂組成物を使用する場合は、残りの材料は通常の熱可塑性樹脂組成物を用いることが出来る。
【0037】
この利点を生かしてたとえば自動車のインテークマニホールドなどの吸気系部品、オイルタンクなどの中空形状部品用などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0039】
(実施例1〜2、比較例1〜5)
(1)原材料
(A)ポリアミド6:CM1010(東レ社製)、粘度数135ml/g、融点225℃
ポリアミド66:E3001(東レ社製)、粘度数135ml/g、融点265℃
(B)三洋化成工業株式会社製“ポリマイドS−40E”
アミド基1個当たりの炭素原子数が18、数平均分子量4500、融点110℃、酸価5、全アミン価5であるポリアミドオリゴマー。
(C)無機充填材:ガラス繊維 GF―T289(繊維径13μm、日本電気硝子社製)。
【0040】
(2)コンパウンド
表1の組成で無機充填材(C)を除く成分をあらかじめブレンドする(以下ブレンド材という)。(実施例2では、塩化リチウムを固体のまま添加した。)
押出機(Werner−Pfleiderer社製ZSK57)に、ブレンド材を第1の供給口から供給し、無機充填材を第2の供給口から供給して溶融混練、ペレット化した。
【0041】
(3)成形
得られたペレットを日精樹脂工業射出成形機 NEX1000で、ISO294−1のタイプA型ダンベルを成形した。成形条件は成形温度290℃、金型温度80℃、射出速度100mm/min、スクリュウ回転数100rpmで実施した。
【0042】
(4)流動性
日精樹脂工業射出成形機NEX1000を用い、幅10mm、厚さ1mm、全長600mmの渦巻き形状を有するスパイラルフロー測定金型を用い、成形温度280℃、射出圧力70MPa、金型温度80℃の条件下で射出形成し、金型内を流れる距離を測定し、流動性の指標とした。流れる距離を示す流動長が長いほど流動性が良好であることを示す。
【0043】
(5)溶着強度測定
日精樹脂工業射出成形機NEX1000を用い、図1に示す曲げ疲労測定用試験片を半割りした形状で厚さ10mmの試験片を、以下説明する方法で得られた樹脂組成物を射出成形法で成形した。この成形片1つを曲げ疲労試験片用金型にインサートし、残りの部分を同じ樹脂組成物で新たに射出成形し、図1の辺Aが接合部となる図2に示す形状の成形品を得た。この成形品の引張試験を行い、破断強度を溶着強度の値とした。
【0044】
(6)長期耐熱性(耐熱老化性)
(3)で得られたダンベルをISO527−1,2に準拠した方法でインストロンジャパン カンパニイリミテッド製5566を用いて引張強度を測定した。成形後の引張強度と、150℃で500時間の耐熱老化後の引張強度を測定した。
【0045】
(7)耐熱性
(3)で得られたダンベルをISO75−1,2に準拠した方法で、1.8MPaの荷重たわみ温度を測定した。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例1〜2および比較例1〜4との比較例の結果より、本発明の樹脂は成形時の流動性、耐熱性及び射出成形時の溶着性を兼ね備えたものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が230℃以上のポリアミド樹脂(A)100重量部に対してアミド基1個当たりの炭素原子数が15以上30以下かつ数平均分子量が3000以上7000以下のポリアミドオリゴマー(B)を0.1〜20重量部配合してなるポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
ポリアミド樹脂(A)がポリヘキサメチレンアジパミドおよびポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマーから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂(A)100重量部に対して、無機充填材(C)を5〜100重量部配合してなることを特徴とする請求項1または2記載のポリアミド樹脂組成物。

【請求項4】
1次材を成形した後、2次材を射出して射出溶着成形品を製造する際に、1次材および/または2次材として請求項1〜3いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を用いることを特徴とする射出溶着成形品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−229232(P2010−229232A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76420(P2009−76420)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】