説明

ポリアミド樹脂組成物

【課題】弾性率が高く、吸水率が低く、バリア性に優れ、かつ、柔軟性の改善されたポリアミド樹脂材料を提供する。
【解決手段】ジアミン構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸構成単位の50モル%以上がセバシン酸又はアジピン酸に由来するポリアミド樹脂(A)を60〜99質量%と、ポリアミド12単位又はポリアミド11単位とポリエーテル単位から構成されるポリエーテル共重合ポリアミド(B)を40〜1質量%含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物に関し、詳しくは、弾性率が高く、吸水率が低く、バリア性に優れ、かつ、柔軟性の改善されたポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、一般に、機械的性質、耐薬品性、耐油性、ガスバリア性等に優れたエンジニアリングプラスチックスとして、広く使用されている。
メタキシリレンジアミンとアジピン酸とを重合して得られるポリアミド樹脂(以下「MXD6ポリアミド」ということもある。)は、ポリアミド6やポリアミド66等に比べて高強度、高弾性率、低吸水性であり、なおかつガスバリア性にも優れるため、更にポリエチレンテレフタレート、ポリアミド6、ポリエチレン及びポリプロピレン等の熱可塑性樹脂との共押出や共射出成形が可能であることから、広く利用されている。
【0003】
しかしながら、MXD6ポリアミドは、弾性率は高いものの伸びが悪く、これをフィルムやシート等にしたものは、硬過ぎ、剛性が要求される用途には使用できるものの、伸びが要求されるような用途向けには使用できない。また、高湿度雰囲気下での保存中、あるいは水や沸騰水に接触した際に白化・結晶化し、透明性が低下しやすいという問題もあった。これまで、弾性率が高くかつ柔軟性を有するポリアミド樹脂は見出されていなかった。
【0004】
本出願人は、特許文献1にて、MXD6ポリアミドに結晶化速度の速い特定の他の脂肪族ポリアミド樹脂(例えばポリアミド6)を混合した組成物を提案した。このポリアミド樹脂組成物より得られるフィルム、シートは、高湿度雰囲気下においても優れた透明性を保つという優れた特徴を有するが、吸水率を増加させる欠点があり、また、他のポリアミド樹脂を混合することによりMXD6ポリアミド単独の場合と比較し、ガスバリア性が低下するという問題点があった。また、柔らかさを求められる用途には柔軟性が不足していた。
【0005】
一方、メタキシリレンジアミンとセバシン酸とを重縮合して得られるポリアミド樹脂(以下、「MXD10ポリアミド」ということがある。)が提案され、伸び特性が良いことからフィルム等の用途分野での使用が期待される。しかしながら、得られるフィルム等はそれなりの伸びを示すものの十分なものではなく、フィルム、シート、チューブ等には、更なる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−198329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、以上のような状況から、弾性率が高く、ガスバリア性がよく、吸水率が低く、しかも、柔軟性に優れたポリアミド樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂(A)に、ポリアミド12単位又はポリアミド11単位とポリエーテル単位から構成されるポリエーテル共重合ポリアミド(B)を、特定量配合することにより、上記目的に適うポリアミド樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ジアミン構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸構成単位の50モル%以上がセバシン酸又はアジピン酸に由来するポリアミド樹脂(A)を60〜99質量%と、ポリアミド12単位又はポリアミド11単位とポリエーテル単位から構成されるポリエーテル共重合ポリアミド(B)を40〜1質量%含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物が提供される。
【0010】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、キシリレンジアミンが、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン又はこれらの混合物であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物が提供される。
【0011】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は第2の発明において、さらに、カルボジイミド化合物(C)を、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、0.1〜2質量部含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物が提供される。
【0012】
また、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、カルボジイミド化合物(C)が、脂肪族又は脂環式ポリカルボジイミド化合物であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物が提供される。
【0013】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、さらに、安定剤(D)を、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、0.01〜1質量部含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物が提供される。
【0014】
また、本発明の第6の発明によれば、第5の発明において、安定剤(D)が、無機系安定剤、芳香族第2級アミン系安定剤及び有機硫黄系安定剤から選ばれることを特徴とするポリアミド樹脂組成物が提供される。
【0015】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において、ポリアミド樹脂(A)が、メタキシリレンジアミンとセバシン酸とを重縮合して得られるポリアミド樹脂であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物が提供される。
【0016】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において、ポリアミド樹脂(A)が、メタキシリレンジアミンとアジピン酸とを重縮合して得られるポリアミド樹脂であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物が提供される。
【0017】
また、本発明の第9の発明によれば、第1〜8のいずれかの発明において、フィルムにした際の引張弾性率(E)が、ポリアミド樹脂(A)をフィルムにした際の引張弾性率(E)に対し、70〜97%の弾性率を示すことを特徴とするポリアミド樹脂組成物が提供される。
【0018】
また、本発明の第10の発明によれば、第1〜9のいずれかの発明のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形品が提供される。
【0019】
また、本発明の第11の発明によれば、第10の発明において、成形品が、フィルム、シート又はチューブであることを特徴とする成形品が提供される。
【0020】
さらに、本発明の第12の発明によれば、第1〜9のいずれかの発明のポリアミド樹脂組成物からなるフィルムと繊維材料(F)を積層し、積層物を加熱加圧したものであることを特徴とする複合材が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、前記ポリアミド樹脂(A)と、ポリアミド12単位又はポリアミド11単位とポリエーテル単位から構成されるポリエーテル共重合ポリアミド(B)とが特異的に極めて馴染みがよいことが見出され、そしてこれら共重合ポリエーテル共重合ポリアミド(B)を40〜1質量%、ポリアミド樹脂(A)を60〜99質量%という特定の量比で配合すると、驚くべきことに、弾性率に優れていながら、高い引張伸びが発現し、柔らかく、ガスバリア性も優れたポリアミド樹脂材料が達成できることを見出したものである。
本発明によれば、弾性率が高く、ガスバリア性がよく、吸水率が低く、しかも、柔軟性の改善された、ポリアミド樹脂組成物が得られる。
特に、本発明のポリアミド樹脂組成物を使用して得られる成形品は、フィルム、シートあるいはチューブ等として、各種用途での使用が期待される。
また、本発明のポリアミド樹脂組成物は、弾性率とガスバリア性に優れ、吸水しにくく、しかも柔軟性の改善されたポリアミド樹脂材料を提供するので、各種のフィルム、シート、積層フィルム、積層シート、チューブ、ホース、パイプ、中空容器、ボトル等の各種容器、各種部品等、種々の成形体に好適に使用することができる。
例えば、本発明のポリアミド樹脂組成物を用いて得られるフィルムは、高いレベルの実用的物性を示し、引張弾性率1000〜2500MPa、引張り伸び200〜500%、酸素透過係数0.5〜3.5cc・mm/m・day・atm、吸水率0.1〜1.0%である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のポリアミド樹脂組成物におけるポリアミド樹脂(A)としては、ジアミン構成単位(ジアミンに由来する構成単位)とジカルボン酸構成単位(ジカルボン酸に由来する構成単位)からなるポリアミド樹脂であって、ジアミン構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸構成単位の50モル%以上がセバシン酸又はアジピン酸に由来するポリアミド樹脂(A)を使用する。
【0023】
ポリアミド樹脂(A)は、キシリレンジアミンを70モル%以上、好ましくは80モル%以上含むジアミン成分と、セバシン酸又はアジピン酸を50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上含むジカルボン酸成分を重縮合させることにより得られる。
ここでキシリレンジアミンが70モル%未満では、最終的に得られるポリアミド樹脂組成物のバリア性が十分でなく、セバシン酸又はアジピン酸が50モル%に満たないと、ポリアミド樹脂組成物が硬くなり加工性が悪くなる。
キシリレンジアミンは、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン又はこれらの混合物を使用することが好ましい。混合して使用する場合は、任意の割合にて使用できるが、耐熱性を重視する場合は、メタキシリレンジアミン0〜50モル%及びパラキシレンジアミン50〜100モル%が好ましく、フィルムする際の成形加工性を重視する場合は、メタキシリレンジアミン50〜100モル%及びパラキシレンジアミン0〜50モル%が好ましい。
【0024】
ポリアミド樹脂(A)の原料ジアミン成分として用いるキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン(構造異性体を含む。)、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン(構造異性体を含む。)等の脂環式ジアミン、ビス(4−アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン(構造異性体を含む。)等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種又は2種以上を混合して使用できる。
ジアミン成分として、キシリレンジアミン以外のジアミンを用いる場合は、ジアミン構成単位の30モル%未満であり、好ましくは1〜25モル%、特に好ましくは5〜20モル%の割合で用いる。
【0025】
ポリアミド樹脂(A)の原料ジカルボン酸成分として用いるセバシン酸又はアジピン酸は、50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上を使用する。高い弾性率を重視する場合は、アジピン酸が多いことが好ましく、柔軟性と低吸水性を重視する場合はセバシン酸が多いことが好ましい。また、セバシン酸成分が多いほどポリエーテル共重合ポリアミド(B)との相溶性がよくなり、ヘーズ(Haze)が低くなる傾向にある。
【0026】
セバシン酸及びアジピン酸以外の原料ジカルボン酸成分としては、セバシン酸及びアジピン酸以外の炭素原子数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸が好ましく使用でき、例えばコハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示でき、1種又は2種以上を混合して使用できる。
【0027】
セバシン酸、アジピン酸以外のジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸も使用でき、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、1,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸といった異性体等のナフタレンジカルボン酸等が例示され、1種又は2種以上を混合して使用できる。
また、安息香酸、プロピオン酸、酪酸等のモノカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等のカルボン酸無水物等も併用することもできる。
セバシン酸及びアジピン酸以外のジカルボン酸成分として、炭素原子数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸を用いる場合は、成形加工性、バリア性の点から、イソフタル酸を用いることが好ましい。イソフタル酸の割合は、ジカルボン酸構成単位の30モル%未満であり、好ましくは1〜25モル%、特に好ましくは5〜20モル%の範囲である。
【0028】
ポリアミド樹脂(A)は、キシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分と、セバシン酸又はアジピン酸を50モル%以上含むジカルボン酸成分とを重縮合して得られたものであるが、その製造方法は特に限定されるものではなく、常圧溶融重合法、加圧溶融重合法等の従来公知の方法、重合条件により製造される。
例えば、メタキシリレンジアミンとセバシン酸(又はアジピン酸)からなるポリアミド塩を水の存在下に、加圧下で昇温し、加えた水および縮合水を取り除きながら溶融状態で重合させる方法により製造される。また、メタキシリレンジアミンを溶融状態のセバシン酸(又はアジピン酸)に直接加えて、常圧下で重縮合する方法によっても製造される。この場合、反応系を固化させることの無いように、メタキシリレンジアミンを連続的に加えて、その間の反応温度が生成するオリゴアミド及びポリアミドの融点以上となるように反応系を昇温しつつ、重縮合が進められる。
【0029】
重縮合によりポリアミド樹脂(A)を得る際には、重縮合反応系に、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム、ω−エナントラクタム等のラクタム類、6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、9−アミノノナン酸、パラアミノメチル安息香酸等のアミノ酸等を、性能を損なわない範囲で加えても良い。
【0030】
ポリアミド樹脂(A)は、さらに加熱処理し、溶融粘度を増大させたものを用いることもできる。
加熱処理する方法として、例えば、回転ドラム等の回分式加熱装置を用いて、不活性ガス雰囲気中もしくは減圧下において、水の存在下で緩やかに加熱し、融着を回避しつつ結晶化させた後、更に加熱処理を行う方法、溝型攪拌加熱装置を用いて、不活性ガス雰囲気中で加熱し、結晶化させた後、ホッパー形状の加熱装置を用いて、不活性ガス雰囲気中で加熱処理する方法、溝型攪拌加熱装置を用いて結晶化させた後、回転ドラム等の回分式加熱装置を用いて加熱処理を行う方法等が挙げられる。
なかでも、回分式加熱装置を用いて、結晶化ならびに加熱処理を行う方法が好ましい。結晶化処理の条件としては、溶融重合で得られたポリアミド樹脂に対して1〜30質量%の水の存在下、かつ、0.5〜4時間かけて70〜120℃まで昇温することにより結晶化し、次いで、不活性ガス雰囲気中又は減圧下で、〔溶融重合で得られたポリアミド樹脂の融点−50℃〕〜〔溶融重合で得られたポリアミド樹脂の融点−10℃〕の温度で1〜12時間加熱処理する条件が好ましい。
【0031】
ポリアミド樹脂(A)の融点は、150℃〜310℃の範囲に制御することが好ましく、より好ましくは160〜300℃、さらに好ましくは170〜290℃である。融点を上記範囲とすることにより、加工性がよくなる傾向にあり好ましい。
また、ポリアミド樹脂(A)のガラス転移点は、50〜130℃の範囲であることが好ましい。ガラス転移点を上記範囲とすることによりガスバリア性が良好となる傾向にあり好ましい。
【0032】
なお、本発明において、ポリアミド樹脂(A)及び後述のポリエーテル共重合ポリアミド(B)の融点及びガラス転移点は、示差走査熱量測定(DSC)法によって測定することができ、試料を一度加熱溶融させ熱履歴による結晶性への影響をなくした後、再度昇温して測定される融点、ガラス転移点をいう。具体的には、例えば、30℃から予想される融点以上の温度まで10℃/minの速度で昇温し、2分間保持した後、30℃まで20℃/minの速度で降温する。次いで、10℃/minの速度で融点以上の温度まで昇温し、融点、ガラス転移点を求めることができる。
【0033】
ポリアミド樹脂(A)は、末端アミノ基濃度が好ましくは100μeq/g未満、より好ましくは5〜75μeq/g、さらに好ましくは10〜50μeq/g、末端カルボキシル基濃度が好ましくは100μeq/g未満、より好ましくは10〜90μeq/g、さらに好ましくは10〜50μeq/gのものが好適に用いられる。末端アミノ基濃度及び末端カルボキシル基濃度を上記範囲とすることにより、後述のカルボジイミド化合物(C)との反応が容易になり、耐加水分解性が良好となる傾向にある。
【0034】
ポリアミド樹脂(A)は、96%硫酸中、樹脂濃度1g/100cc、温度25℃で測定した相対粘度が1.7〜4であるものが好ましく、1.9〜3.8であるものがより好ましい。
ポリアミド樹脂(A)の数平均分子量は、好ましくは6,000〜50,000であり、より好ましくは10,000〜43,000である。上記の範囲であると機械的強度及び成形性が良好な傾向となる。
【0035】
ポリアミド樹脂(A)には、溶融成形時の加工安定性を高めるため、或いはポリアミド樹脂の着色を防止するためにリン化合物が含まれていても良い。リン化合物としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含むリン化合物が好適に使用され、例えば、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム等のリン酸塩、次亜リン酸塩、亜リン酸塩が挙げられる。なかでも、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の次亜リン酸塩を含有させると、ポリアミド樹脂の着色防止効果に特に優れるため好ましい。リン化合物を使用する場合は、最終的に得られるポリアミド樹脂組成物中のリン原子濃度として1ppm以上200ppm以下、好ましくは5ppm以上160ppm以下、さらに好ましくは10ppm以上100ppm以下となるように、ポリアミド樹脂(A)中に含有させることが望ましい。
なお、ポリアミド樹脂(A)には、上記のリン化合物の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、滑剤、艶消剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、核剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤等の添加剤等を加えることもできるが、以上に示したものに限定されることなく、種々の材料を混合して加えても良い。
【0036】
本発明においては、ポリアミド樹脂(A)にポリアミド12単位又はポリアミド11単位とポリエーテル単位から構成されるポリエーテル共重合ポリアミド(B)を配合する。
ポリアミド12単位又はポリアミド11単位とポリエーテル単位から構成されるポリエーテル共重合ポリアミド(B)は、ポリアミド12単位(ドデカンアミド単位)又はポリアミド11単位(ウンデカンアミド単位)とポリオキシアルキレングリコールなどのポリエーテル単位とから主として構成される。通常は、ポリアミド12単位又はポリアミド11単位を含むポリアミド単位が15〜90質量%とポリエーテル単位が85〜10質量%とから主として構成される。本発明で用いるポリエーテル共重合ポリアミド(B)は、セグメント化共重合体であることが好ましい。
【0037】
ポリエーテル共重合ポリアミド(B)を構成するポリエーテル単位としては、ポリオキシアルキレンオキサイド単位が好ましい。ポリアルキレンオキサイド単位は、炭素数2〜4のオキシアルキレン単位からなり、200〜8,000の分子量を有するものが好ましく、具体的にはポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリブチレンオキサイド単位(又はこれらのグリコール由来の単位)等が挙げられる。
【0038】
ポリエーテル共重合ポリアミド(B)の数平均分子量は、15,000〜35,000であることが好ましい。数平均分子量を上記範囲とすることにより、ポリアミド樹脂(A)中での分散性が良好となり、耐加水分解性及び柔軟性が向上する傾向にある。また、96%硫酸中、樹脂濃度1g/100cc、温度25℃で測定された相対粘度は1.5〜4.5のものが好ましく、1.6〜4.2のものがより好ましく、1.8〜4のものを使用するのがさらに好ましい。
【0039】
ポリエーテル共重合ポリアミド(B)は、融点又は軟化点が、好ましくは175℃以下であり、より好ましくは170℃以下である。このようなポリエーテル共重合ポリアミド(B)を用いることにより、ポリアミド樹脂(A)中での分散性がより向上するという利点がある。
なお、軟化点とは、JIS K2207規格に準拠して測定される温度である。
【0040】
上記したポリエーテル共重合ポリアミド(B)は、その末端アミノ基濃度が1〜100μeq/gであることが好ましく、より好ましくは2〜50μeq/gであり、末端カルボキシル基濃度が好ましくは1〜100μeq/g、より好ましくは2〜50μeq/gのものが好適に用いられる。末端アミノ基濃度及び末端カルボキシル基濃度を上記範囲とすることにより、後記するカルボジイミド化合物との反応が容易になり、耐加水分解性が良好となる傾向にある。
【0041】
ポリエーテル共重合ポリアミド(B)は、公知の方法で製造でき、例えば、ウンデカンラクタム又は11−アミノウンデカン酸等のポリアミド11形成性成分、あるいはドデカンラクタム又は12−アミノドデカン酸等のポリアミド12形成性成分と、さらにその他のポリアミド形成性成分からポリアミドセグメントを形成し、これにポリエーテルセグメントを加えて、高温、減圧下で重合を行う等の方法により製造できる。
また、ポリエーテル共重合ポリアミド(B)は、市販されており、これらの中から適宜選択してもよい。
【0042】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)とポリエーテル共重合ポリアミド(B)の合計を100質量%としたとき、ポリエーテル共重合ポリアミド(B)を1〜40質量%含有する。このような範囲であると、ポリアミド樹脂組成物の柔軟性が改善され、吸水率を低くすることができる。ポリエーテル共重合ポリアミド(B)の好ましい含有量は、5〜40質量%であり、より好ましい含有量は、5〜35質量%、特に好ましくは10〜30質量%である。
【0043】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、カルボジイミド化合物(C)を配合することが好ましい。カルボジイミド化合物(C)としては、種々の方法で製造した芳香族、脂肪族又は脂環式のポリカルボジイミド化合物が好ましく挙げられる。これらの中で、押出時等の溶融混練性の面から、脂肪族又は脂環式ポリカルボジイミド化合物が好ましく、脂環式ポリカルボジイミド化合物がより好ましく用いられる。
【0044】
これらのカルボジイミド化合物(C)は、有機ポリイソシアネートを脱炭酸縮合反応することで製造することができる。例えば、カルボジイミド化触媒の存在下、各種有機ポリイソシアネートを約70℃以上の温度で不活性溶媒中、もしくは溶媒を使用することなく、脱炭酸縮合反応させることによって合成する方法等を挙げることができる。イソシアネート基含有率は好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは1〜3質量%である。上記のような範囲とすることにより、ポリアミド樹脂(A)及びポリエーテル共重合ポリアミド(B)との反応が容易となり、耐加水分解性が良好となる傾向にある。
【0045】
カルボジイミド化合物(C)の合成原料である有機ポリイソシアネートとしては、例えば芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート等の各種有機ジイソシアネートやこれらの混合物を使用することができる。
有機ジイソシアネートとしては、具体的には、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,6−ジイソプロピルフェニルイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−ジイソシアネート、メチレンビス(4,1−シクロへキシレン)=ジイソシアネート等を例示することができ、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネート、メチレンビス(4,1−シクロヘキシレン)=ジイソシアネートが好ましい。
【0046】
カルボジイミド化合物(C)の末端を封止してその重合度を制御するためにモノイソシアネート等の末端封止剤を使用することも好ましい。モノイソシアネートとしては、例えば、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
【0047】
なお、末端封止剤としては、上記のモノイソシアネートに限定されることはなく、イソシアネートと反応し得る活性水素化合物であればよい。このような活性水素化合物としては、脂肪族、芳香族、脂環式の化合物の中で、メタノール、エタノール、フェノール、シクロヘキサノール、N−メチルエタノールアミン、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル等の−OH基を持つ化合物、ジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の2級アミン、ブチルアミン、シクロヘキシルアミン等の1級アミン、コハク酸、安息香酸、シクロヘキサンカルボン酸等のカルボン酸、エチルメルカプタン、アリルメルカプタン、チオフェノール等のチオール類やエポキシ基を有する化合物等を例示することができ、2種以上を併用してもよい。
【0048】
カルボジイミド化触媒としては、例えば、1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−エチル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド及びこれらの3−ホスホレン異性体等のホスホレンオキシド等、チタン酸テトラブチル等の金属触媒等を使用することができ、これらのなかでは、反応性の面から3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシドが好適である。カルボジイミド化触媒は、2種以上併用してもよい。
【0049】
カルボジイミド化合物(C)の好ましい含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し0.1〜2質量部であり、より好ましくは、0.2〜1.5質量部、さらに好ましくは、0.3〜1.5質量部である。0.1質量部未満では樹脂組成物の耐加水分解性が十分ではなく、押出等の溶融混練時の吐出ムラが発生しやすく、溶融混練が不十分となりやすい。一方、2質量部を超えると、溶融混練時の樹脂組成物の粘度が著しく増加し、溶融混練性、成形加工性が悪くなりやすい。
【0050】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物には、安定剤(D)を配合することが好ましい。安定剤としては、例えば、リン系、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、有機硫黄系、シュウ酸アニリド系、芳香族第2級アミン系などの有機系安定剤、銅化合物やハロゲン化物などの無機系安定剤が好ましい。リン系安定剤としては、ホスファイト化合物及びホスホナイト化合物が好ましい。
【0051】
ホスファイト化合物としては、例えば、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジノニルフェニルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−イソプロピルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−sec−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−t−オクチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられ、特に、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましい。
【0052】
ホスホナイト化合物としては、例えば、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,5−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,3,4−トリメチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,3−ジメチル−5−エチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−t−ブチル−5−エチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,3,4−トリブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられ、特に、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイトが好ましい。
【0053】
ヒンダードフェノール系安定剤としては、例えば、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)等が挙げられる。これらの中では、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)が好ましい。
【0054】
ヒンダードアミン系安定剤としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン骨格を有する周知のヒンダ−ドアミン化合物が挙げられる。ヒンダードアミン系化合物の具体例としては、4−アセトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−フェニルアセトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアリルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−フェノキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−エチルカルバモイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−シクロヘキシルカルバモイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−フェニルカルバモイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)カーボネイト、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)オキサレート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)マロネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アジペート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)テレフタレート、1,2−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルオキシ)エタン、α,α’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルオキシ)−p−キシレン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルトリレン)−2,4−ジカルバメート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ヘキサメチレン−1,6−ジカルバメート、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−ベンゼン−1,3,5−トリカルボキシレート、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−ベンゼン−1,3,4−トリカルボキシレート、1−[2−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}ブチル]−4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β’,β’,−テトラメチル−3,9−[2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエタノールとの縮合物、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6,−テトラメチルピペリジンの重縮合物、1,3−ベンゼンジカルボキサミド−N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)等が挙げられる。
【0055】
ヒンダードアミン系化合物の商品としては、ADEKA社製の商品「アデカスタブLA−52、LA−57、LA−62、LA−67、LA−63P、LA−68LD、LA−77、LA−82、LA−87」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の商品「チヌビン622、944、119、770、144」、住友化学社製の商品「スミソーブ577」、サイアミド社製の商品「サイアソープUV−3346、3529、3853」、クラリアント・ジャパン社製の商品「ナイロスタブS−EED」等が挙げられる。
【0056】
有機硫黄系安定剤としては、例えば、ジドデシルチオジプロピオネート、ジテトラデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)、チオビス(N−フェニル−β−ナフチルアミン)等の有機チオ酸系化合物、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトメチルベンゾイミダゾール及び2−メルカプトベンゾイミダゾールの金属塩等のメルカプトベンゾイミダゾール系化合物、ジエチルジチオカルバミン酸の金属塩、及びジブチルジチオカルバミン酸の金属塩等のジチオカルバミン酸系化合物、並びに1,3−ビス(ジメチルアミノプロピル)−2−チオ尿素、及びトリブチルチオ尿素等のチオウレア系化合物、テトラメチルチウラムモノサルファイド、テトラメチルチウラムジサルファイド、ニッケルジブチルジチオカルバメート、ニッケルイソプロピルキサンテート、トリラウリルトリチオホスファイト等が挙げられる。
【0057】
これらの中でも、メルカプトベンゾイミダゾール系化合物、ジチオカルバミン酸系化合物、チオウレア系化合物、及び有機チオ酸系化合物が好ましく、メルカプトベンゾイミダゾール系化合物、及び有機チオ酸系化合物がさらに好ましい。特に、チオエーテル構造を有するチオエーテル系化合物は、酸化された物質から酸素を受け取って還元するため、好適に使用することができる。具体的には、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトメチルベンゾイミダゾール、ジテトラデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)がより好ましく、ジテトラデシルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)、2−メルカプトメチルベンゾイミダゾールがさらに好ましく、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)が特に好ましい。
有機硫黄系化合物の分子量は、通常200以上、好ましくは500以上であり、その上限は通常3,000である。
【0058】
シュウ酸アニリド系安定剤としては、好ましくは、4,4’−ジオクチルオキシオキサニリド、2,2’−ジエトキシオキサニリド、2,2’−ジオクチルオキシ−5,5’−ジ−第三ブトキサニリド、2,2’−ジドデシルオキシ−5,5’−ジ−第三ブトキサニリド、2−エトキシ−2’−エチルオキサニリド、N,N’−ビス(3−ジメチルアミノプロピル)オキサニリド、2−エトキシ−5−第三ブチル−2’−エトキサニリド及びその2−エトキシ−2’−エチル−5,4’−ジ−第三ブトキサニリドとの混合物、o−及びp−メトキシ−二置換オキサニリドの混合物、o−及びp−エトキシ−二置換オキサニリドの混合物などが挙げられる。
【0059】
芳香族第2級アミン系安定剤としては、ジフェニルアミン骨格を有する化合物、フェニルナフチルアミン骨格を有する化合物及びジナフチルアミン骨格を有する化合物が好ましく、ジフェニルアミン骨格を有する化合物、及びフェニルナフチルアミン骨格を有する化合物がさらに好ましい。具体的には、p,p’−ジアルキルジフェニルアミン(アルキル基の炭素数は8〜14)、オクチル化ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン及びN−フェニル−N’−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−p−フェニレンジアミン等のジフェニルアミン骨格を有する化合物、N−フェニル−1−ナフチルアミン及びN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン等のフェニルナフチルアミン骨格を有する化合物、及び2,2’−ジナフチルアミン、1,2’−ジナフチルアミン、及び1,1’−ジナフチルアミン等のジナフチルアミン骨格を有する化合物が挙げられる。これらの中でも4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン及びN,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミンがより好ましく、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン及び4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンが特に好ましい。
【0060】
上記の有機硫黄系安定剤又は芳香族第2級アミン系安定剤を配合する場合は、これらを併用することが好ましい。これらを併用することによって、それぞれ単独で使用した場合よりも、ポリアミド樹脂組成物の耐熱老化性が良好となる傾向にある。
【0061】
より具体的な有機硫黄系安定剤及び芳香族第2級アミン系安定剤の好適な組み合わせとしては、有機硫黄系安定剤として、ジテトラデシルチオジプロピオネート、2−メルカプトメチルベンゾイミダゾール及びペンタエリスリトールテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)から選ばれる少なくとも1種と、芳香族第2級アミン系安定剤が、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン及びN,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンから選ばれる少なくとも1種との組み合わせが挙げられる。さらに、有機硫黄系安定剤が、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)、芳香族第2級アミン系安定剤が、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミンの組み合わせがより好ましい。
【0062】
また、上記有機硫黄系安定剤と芳香族第2級アミン系安定剤とを併用する場合は、ポリアミド樹脂組成物中の含有量比(質量比)で、芳香族第2級アミン系安定剤/有機硫黄系安定剤=0.05〜15であることが好ましく、0.1〜5であることがより好ましく、0.2〜2がさらに好ましい。このような含有量比とすることにより、ガスバリア性を維持しつつ、耐熱老化性を効率的に向上させることができる。
【0063】
無機系安定剤としては、銅化合物及びハロゲン化物が好ましい。
銅化合物は、種々の無機酸又は有機酸の銅塩であって、後述のハロゲン化物を除くものである。銅としては、第1銅、第2銅の何れでもよく、銅塩の具体例としては、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、リン酸銅、ステアリン酸銅の他、ハイドロタルサイト、スチヒタイト、パイロライト等の天然鉱物が挙げられる。
【0064】
また、無機系安定剤として使用されるハロゲン化物としては、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化物;ハロゲン化アンモニウム及び有機化合物の第4級アンモニウムのハロゲン化物;ハロゲン化アルキル、ハロゲン化アリル等の有機ハロゲン化物が挙げられ、その具体例としては、ヨウ化アンモニウム、ステアリルトリエチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリエチルアンモニウムアイオダイド等が挙げられる。これらの中では、塩化カリウム、塩化ナトリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム等のハロゲン化アルカリ金属塩が好適である。
【0065】
銅化合物とハロゲン化物との併用、特に、銅化合物とハロゲン化アルカリ金属塩との併用は、耐熱変色性、耐候性(耐光性)の面で優れた効果を発揮するので好ましい。例えば、銅化合物を単独で使用する場合は、成形品が銅により赤褐色に着色することがあり、この着色は用途によっては好ましくない。この場合、銅化合物とハロゲン化物と併用することにより赤褐色への変色を防止することが出来る。
【0066】
本発明においては、上記の安定剤のうち、溶融成形時の加工安定性、耐熱老化性、成形品外観、着色防止の点から、特に、有機硫黄系、芳香族第2級アミン系、無機系の安定剤が特に好ましい。
【0067】
前記の安定剤(D)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、通常0.01〜1質量部、好ましくは0.01〜0.8質量部である。含有量を0.01質量部以上とすることにより、熱変色改善、耐候性/耐光性改善効果を十分に発揮することが出来、含有量を1質量部以下とすることにより、機械的物性低下を抑制することが出来る。
【0068】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリアミド樹脂(A)、ポリエーテル共重合ポリアミド(B)以外のその他の樹脂を配合してもよい。その他の樹脂としては、カルボジイミド基と反応する官能基を有する樹脂が好ましい。具体的には、例えば、ポリアミド樹脂(A)、ポリエーテル共重合ポリアミド(B)以外のポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル系樹脂、ポリアクリロニトリル、アイオノマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体、フッ素系樹脂、エチレン−ビニルアルコール等のビニルアルコール系共重合体、生分解性樹脂等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を混合して使用できる。
【0069】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない限り、必要に応じて無機充填材、結晶核剤、導電剤、滑剤、可塑剤、離型性改良剤、顔料、染料、分散剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、耐衝撃性改良剤、難燃剤及びその他の周知の添加剤を配合することができる。
【0070】
なかでも、無機充填材を配合することも好ましく、ガラス系充填材(ガラス繊維、粉砕ガラス繊維(ミルドファイバー)、ガラスフレーク、ガラスビーズ等)、ケイ酸カルシウム系充填材(ワラストナイト等)、マイカ、タルク、カオリン、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ホウ素、炭素繊維等が挙げられ、これらの2種以上を併用してもよい。
【0071】
また、結晶化速度を上げて成形性を向上させるため、核剤を配合することも好ましい。核剤としては、通常、タルク、窒化ホウ素等の無機核剤が挙げられるが、有機核剤を添加しても良い。核剤の好ましい配合量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、有機核剤や窒化ホウ素の場合、0.01〜6質量部、より好ましくは0.03〜1質量部であり、タルクその他の核剤を用いる場合は、0.5〜8質量部、より好ましくは1〜4質量部である。
【0072】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、好ましくは、フィルムにした際の引張弾性率(E)が、ポリアミド樹脂(A)をフィルムにした際の引張弾性率(E)に対し、70〜97%の弾性率を示す。引張弾性率(E)が、ポリアミド樹脂(A)の引張弾性率(E)に対し、70〜97%を示すということは、ポリエーテル共重合ポリアミド(B)を1〜40質量%配合しても弾性率の低下が3%を超え、30%未満であり、大きくは低下せず弾性率をある程度維持していながら、柔軟性に優れているということを意味する。このような弾性率を有することで、弾性率が高く、かつ柔軟性にも優れた樹脂組成物を提供することができる。
なお、ここでのポリアミド樹脂組成物及びポリアミド樹脂(A)の弾性率は、厚みが100μmのフィルムについて、その引張特性をJIS K7127及びK7161に準じて試験し、引張弾性率(MPa)を求めることにより、測定される。
具体的な装置は、東洋精機株式会社製ストログラフを使用し、試験片幅を10mm、チャック間距離を50mm、引張速度を50mm/分とし、測定温度を23℃、測定湿度を50%RHとして測定した。フィルムは、厚みが100μmで、無延伸フィルムである。
【0073】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、ポリアミド樹脂(A)とポリエーテル共重合ポリアミド(B)と、必要によりカルボジイミド化合物(C)、安定剤(D)及び他の成分を、任意の順序で混合しドライブレンド物とすることによって製造することができる。また、前記のドライブレンドを、さらに混練することによっても製造することができる。なかでも、単軸もしくは二軸押出機等の通常用いられる種々の押出機を用いて溶融混練する方法が好ましく、生産性、汎用性等の点から二軸押出機を用いる方法が特に好ましい。その際、溶融混練温度は200〜300℃、滞留時間は10分以下に調整することが好ましく、スクリューには少なくとも一カ所以上の逆目スクリューエレメント及び/又はニーディングディスクを有し、該部分において一部滞留させながら溶融混練することが好ましい。溶融混練温度を上記範囲とすることにより、押出混練不良や樹脂の分解が生じ難い傾向となる。
また、予め、ポリアミド樹脂添加剤を高濃度で溶融混練してマスターバッチを製造し、その後ポリアミド樹脂で希釈して、所定の配合比の組成物を製造することも出来る。
【0074】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、従来公知の成形方法により、各種のフィルム、シート、積層フィルム、積層シート、チューブ、ホース、パイプ、中空容器、ボトル等の各種容器、各種部品等、種々の成形体に成形することが出来る。
フィルム又はシートを製造する代表的な製膜法としては、T型ダイから押し出されたフィルム又はシート状物の冷却固化をチルドロールによりキャストして冷却するTダイ法、環状スリットを有するダイからチューブ状物を押し出し、チューブ内に空気を吹き込み膨張させて空冷又は水冷し成形するインフレーション法などが挙げられる。この様にして成形されたフィルム/シートは、未延伸のまま、又は、一軸延伸、二軸延伸などの延伸工程を経て延伸フィルム/シートとして使用される。
また、単層であってもよいし、共押出やラミネート等による他の樹脂との積層であってもよい。
【0075】
フィルム/シートの厚みは、特に規定されるものではないが、ポリアミド樹脂単層としての厚みは、未延伸のものでは1〜200μmであることが好ましく、2〜100μmであることがより好ましい。特に好ましくは、10〜50μmである。延伸されたフィルム/シートでは2〜50μmであることが好ましい。積層とした場合には、積層フィルム/シート全体としての厚みは10〜3000μmであることが好ましく、そのうちのポリアミド樹脂層としての厚みは、前記単層としての厚みと同様の範囲が良い。
【0076】
ポリアミドチューブを製造する方法は特に限定されるものではなく、公知の技術を採用して製造することが出来る。例えば、前記ドライブレンド物や溶融混練して得られたペレットをチューブ押出成形機に供給して、常法に従って成形すればよい。成形条件についても特に制約はなく通常のポリアミド樹脂の成形温度を採用することが出来る。チューブの肉厚は、0.1〜2mmとすることが好ましい。肉厚が0.1mm未満ではチューブとしての形状を保持できない場合があり、一方肉厚が2mmを越えると硬くなりチューブとしてのフレキシビリティーが低下し、製品の組み付けが困難となりやすい傾向にあり好ましくない
【0077】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物は、単層で又は積層して、耐加水分解性、バリア性、柔軟性、強度及び耐衝撃性に優れた層を提供することもできる。多層の場合は、特に成形体の強度の観点から、本発明のポリアミド樹脂組成物からなる層を少なくとも1層含み、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂あるいは本発明のポリアミド樹脂組成物以外のポリアミド樹脂、フッ素系樹脂等からなる補強層を少なくとも一層積層した多層成形体であることが好ましい。
【0078】
補強層に使用するポリオレフィン樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、あるいはエチレン、プロピレン、ブテン等から選ばれる2種類以上のオレフィンの共重合体、及びそれらの混合物が例示できる。また、上記補強層において例示したポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、本発明のポリアミド樹脂組成物以外のポリアミド樹脂及びフッ素系樹脂は、互いに混合して用いてもよいし、エラストマー等の他の樹脂や、例えばカーボンブラックや難燃剤等の添加剤と混合して使用することも可能である。
【0079】
また、ポリアミド樹脂組成物のフィルムを繊維材料(F)と積層し、得られた積層物を加熱加圧して、ポリアミド/繊維材料の複合材を得ることも好ましい。
このような複合材を得るには、できるだけ薄いフィルムを使用することが好ましい。ポリアミド樹脂組成物を、例えば50μm以下の薄いフィルム状にするには、直接フィルム化することでもよく、またポリアミド樹脂組成物とポリオレフィン樹脂とを積層し、積層フィルムを得、これからポリオレフィン樹脂層を剥離して製造することも好ましい。
積層樹脂フィルムを製造する方法については、特に制限はなく、公知の方法を採用できる。好ましい方法を説明すると、ポリアミド樹脂組成物とポリオレフィン樹脂を、例えば、Tダイ共押出機、インフレ−ション共押出機等を使用して共押出成形して、ポリアミド樹脂組成物/ポリオレフィン樹脂積層フィルムを得る。
【0080】
積層樹脂フィルムは、ポリオレフィン樹脂層/ポリアミド樹脂組成物層の2層構造であっても、ポリオレフィン樹脂層/ポリアミド樹脂組成物層/ポリオレフィン樹脂層の3層構造であってもよい。
Tダイ共押出で製造する場合は、押出機により混練、押し出された各溶融樹脂は、2種2層あるいは2種3層に積層可能なTダイに導入され、その内部で積層され、溶融フィルムとしてTダイより押し出される。ここで、各層の層比は、種々の層比として設定することができ、押し出された溶融フィルムは、冷却ロールで加圧冷却されて所定膜厚に形成される。
積層フィルムの膜厚としては、ポリアミド樹脂組成物層が、5〜50μmであることが好ましく、より好ましくは10〜30μmである。この範囲であると積層フィルムの成形性が良好である。
また、ポリオレフィン樹脂層の厚みは、5〜50μm位であることが好ましく、より好ましくは10〜30μmである。ポリオレフィン樹脂層の厚みが上記範囲であると、積層樹脂フィルムの成形性が良好となる傾向にあり好ましい。また、積層フィルムを剥離する際に層間の剥離性が良好であり、ポリアミド樹脂組成物層の巻取り性が良好であり、巻きシワの無いポリアミド樹脂組成物からなるフィルムロールとしやすい傾向にあり好ましい。
【0081】
積層に使用されるポリオレフィン樹脂とは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂に代表される樹脂である。
ポリエチレン系樹脂の具体例としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高圧法低密度ポリエチレン(HPLDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、低結晶性エチレン−1−ブテンランダム共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。これらは1種を単独で使用しても2種以上を併用しても良い。
【0082】
ポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレン、高圧法低密度ポリエチレン(HPLDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が好ましく、特に、高圧法低密度ポリエチレン(HPLDPE)は、成形加工性の安定性や剥離性の点から有効である。
【0083】
ポリオレフィン樹脂は、ポリアミド樹脂組成物との剥離性能は十分であるが、必要により、剥離剤を含有してもよい。剥離剤としては、公知のグリセリド系剥離剤等が使用できる。剥離剤を配合する場合の含有量は、ポリオレフィン樹脂100重量部に対して0.1〜10質量部、好ましくは1〜5質量部である。
また、ポリオレフィン樹脂はスリップ剤を含有しても良い。スリップ剤を含有することで、ポリオレフィン樹脂層/ポリアミド樹脂組成物層の2層フィルムあるいはポリオレフィン樹脂層/ポリアミド樹脂組成物層/ポリオレフィン樹脂層の3層積層フィルムの巻取りが容易になり、シワのない優れた品質の積層フィルムロールを得ることができ、それを剥離したポリアミド樹脂組成物フィルムもシワのないものとしやすい傾向となる。
【0084】
ポリアミド樹脂組成物のフィルムは、上記ポリオレフィン樹脂層/ポリアミド樹脂組成物層の2層フィルムあるいはポリオレフィン樹脂層/ポリアミド樹脂組成物層/ポリオレフィン樹脂層の3層積層フィルムから、ポリオレフィン樹脂層を剥離することにより製造できる。このような工程により、ポリアミド樹脂組成物の薄膜フィルムを得ることができる。ポリオレフィン樹脂層の剥離はいかなる方法で行ってもよいが、工業的には剥離ロール等により剥離し、得られたポリアミド樹脂組成物フィルムは巻き取られる。
得られるポリアミド樹脂組成物フィルムの膜厚は、薄いものが好ましく、5〜50μmであることが好ましく、より好ましくは10〜30μmである。
【0085】
以上、積層フィルムを経由してフィルムを製造する方法を説明したが、直接フィルム化することも可能であり、例えば、ポリアミド樹脂組成物を単層で押出してフィルム状に加工することができる。この際は、フィルム表面にシボ加工を施す方法を採用し、フィルムを成形することも好ましい。特に、成形加工時の微細な応力や不均等な応力がかかることによって、薄く加工しようとする際に破断しやすい場合に有効である。表面にシボ加工されていること、すなわち表面に微細な凹凸を有する凹凸状シボ表面を有するフィルムとすることにより、フィルムを成形する際にフィルム表面と引取り機、すなわちロール等との摩擦抵抗が少なくなり、フィルムにかかる応力を少なくかつ均一に制御できるため、フィルムの破断を防ぐことができるものと考えられる。また、ロール状に巻き取る際には、フィルム表面同士の摩擦を低減しシワなく巻き取ることが可能であり、巻取り時の応力を緩和し、フィルムの破断を防ぐことができる。さらに、フィルムロールを任意の幅にスリット加工することやドライラミネーションにより他のフィルムと張り合わせるなどの後加工する際に、装置との摩擦を防止し破断を防ぐことから生産性を向上させることができる。
【0086】
このような方法等で製造されたポリアミド樹脂組成物からなるフィルムは、繊維材料(F)と積層される。
繊維材料(F)としては、植物繊維、炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、ポリオキシメチレン繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、スチール繊維等の金属繊維などが挙げられる。なかでも、軽量でありながら、高強度、高弾性率であるという優れた特徴を有するため、炭素繊維が好ましく用いられる。
【0087】
これら繊維材料は、例えば単に一方向に並べたもの、編織物等の布帛、不織布あるいはマット等の種々の形態であり得る。これらのうち布帛、不織布あるいはマットの形態が好ましい。さらに、これらを積層し、賦形し、バインダー等を含浸したプリプレグも好ましく用いられる。
また、ポリアミド樹脂組成物との濡れ性、界面密着性を向上させるために、シランカップリング剤、収束剤又は表面処理剤(例えば、エポキシ系化合物、アクリル系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物)で表面処理したものを用いるのも好ましい。
【0088】
繊維材料(F)の繊維長は、ポリアミド樹脂組成物フィルムと繊維材料(F)を積層する工程が、ポリアミド樹脂組成物フィルム上に繊維材料(F)を振り掛けた後に加圧する工程をとる場合は、3〜100mmのものが好ましく、5〜50mmがより好ましい。また繊維の直径は、補強効果を確保する点で、5〜30μmが好ましく、より好ましくは7〜25μmである。
ポリアミド樹脂組成物フィルムと繊維材料(F)を積層する工程が、ポリアミド樹脂組成物フィルムとボビンに巻かれた繊維材料(F)を開繊しながら加圧する工程をとる場合、あるいはボビンに巻かれたモノフィラメント状の繊維材料(F)を繰出しながら加圧する工程を取る場合は、繊維材料(F)の直径は1〜300μmが好ましく、2〜200μmがより好ましく、3〜100μmがさらに好ましい。この範囲であると、得られる複合材の強度が良好になる傾向にある。
【0089】
このような繊維材料(F)は、上記したポリアミド樹脂組成物のフィルムと積層されて、積層物とされる。積層は、公知の方法で行うことができ、例えば、ポリアミド樹脂フィルムを、ロール上を搬送させながら、上記繊維材料を供給し、加圧ロールで積層する等により行われる。
得られる積層物の厚みは、繊維材料(F)層が5〜300μmが好ましく、より好ましくは10〜250μm程度であり、ポリアミド樹脂組成物層は5〜50μmが好ましく、より好ましくは7〜30μmであり、特に好ましくは10〜25μmである。
【0090】
得られた積層物は、加熱加圧されることにより、ポリアミド樹脂組成物の全量あるいは少なくとも一部は溶融して、繊維材料(F)層に含浸され、かつ圧密(緻密)化する。
加熱加圧は、ポリアミド樹脂組成物フィルム/繊維材料の積層物を、複数枚以上重畳した重畳物に対して、行うのが好ましい。例えば、ポリアミド樹脂組成物フィルム/繊維材料積層物の少なくとも2枚、好ましくは5枚以上を、その両外側がポリアミド樹脂層になるように重ね合せた重畳物に対して加熱加圧するのが望ましい。
【0091】
加熱加圧において、繊維材料層へのポリアミド樹脂組成物の含浸、これらの一体化のための温度は、ポリアミド樹脂(A)が軟化溶融する温度以上とする必要があり、ポリアミド樹脂(A)の種類や分子量によっても異なるが、一般にガラス転移点+10℃以上の温度から熱分解温度−20℃の温度範囲が好ましい。また、融点+10℃以上が好ましく、より好ましくは融点+20℃以上である。このような温度範囲で加熱加圧することで、ポリアミド樹脂組成物の繊維材料(F)への含浸がより良く行われ、成形品の物性が向上する。また、成形のプレス圧力は1MPa以上が好ましく、5MPa以上がより好ましく、10MPa以上が特に好ましい。加熱加圧は、減圧下、特には真空下で行うのが好ましく、このような条件で行うと、気泡が残存しにくくなり好ましい。
【0092】
このようにして得られた複合材はさらに熱処理することが好ましい。複合材を熱処理することによって、成形品の低そり性、寸法安定性をより向上させることができる。熱処理温度は120〜180℃が好ましく、より好ましくは140〜170℃、さらに好ましくは150〜160℃である。この範囲であると、ポリアミド樹脂(A)の結晶化が速やかに進行し、成形品の低そり性、寸法安定性をより向上させることができる。
上記熱処理は、複合材を金型から取り出した後に行うこともできるし、金型内で行うこともできる。金型内で行う際は複合材を成形した金型とは別の金型内で処理しても良いし、同一の金型の温度を熱処理に適した温度に変化させて処理することもできる。
【0093】
上述の方法で得られた複合材は、そのシート断面形状において、繊維材料(F)層にポリアミド樹脂組成物が含浸しており、その両表面はポリアミド樹脂組成物層で形成される構成となっている。
このような複合材は、熱可塑性樹脂材料からなるので、これをそのまま、あるいは所望の形状・サイズに切断して、これを成形材料として使用し、これを金型に入れて成形し、各種の成形品を得ることが可能である。
【0094】
得られた複合材は、弾性率に優れ、低そり性であり、高温高湿度下での物性低下が少なく、従来の熱硬化性樹脂に比べて、リサイクル特性、成形性、生産性にも優れており、薄くても機械的強度に優れるため、製品としたときの軽量化が可能である。本発明の複合材は、各種部品等に利用でき、特に、電気・電子機器の部品、自動車部品・部材として好ましく使用できる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例/比較例に限定して解釈されるものではない。
【0096】
[使用材料]
本発明におけるポリアミド樹脂(A)として、以下の製造例で製造したものを使用した。
<製造例1(ポリメタキシリレンセバカミド(MXD10)の合成)>
反応缶内でセバシン酸(伊藤製油製、TAグレード)を170℃にて加熱し溶融した後、内容物を攪拌しながら、メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製、MXDA)をセバシン酸とのモル比が1:1になるように徐々に滴下しながら、温度を240℃まで上昇させた。滴下終了後、260℃まで昇温した。反応終了後、内容物をストランド状に取り出し、ペレタイザーにてペレット化した。得られたペレットをタンブラーに仕込み、減圧下で固相重合し、分子量を調整したポリアミド樹脂を得た。
下記の方法で測定されたポリアミド樹脂(MXD10)の融点は191℃、ガラス転移点は60℃、数平均分子量は30,000、酸素透過係数は0.8cc・mm/m・day・atmであった。
以下、このポリアミド樹脂を、「MXD10」と略記する。
【0097】
<製造例2(ポリパラキシリレンセバカミド(PXD10)の合成)>
攪拌機、分縮器、冷却器、温度計、滴下装置及び窒素導入管、ストランドダイを備えた反応容器に、精秤したセバシン酸(伊藤製油製、TAグレード)8950g(44mol)、次亜リン酸ナトリウム一水和物13.7401g(ポリアミド樹脂中のリン原子濃度として300ppm)、酢酸ナトリウム10.6340gを秤量して仕込んだ。なお、次亜リン酸ナトリウムと酢酸ナトリウムのモル比は1.0である。反応容器内を十分に窒素置換した後、窒素で0.3MPaに加圧し、攪拌しながら160℃に昇温してセバシン酸を均一に溶融した。
次いでパラキシリレンジアミン(PXDA)6026g(44mol)を攪拌下で170分を要して滴下した。この間、内温は281℃まで連続的に上昇させた。滴下工程では圧力を0.5MPaに制御し、生成水は分縮器及び冷却器を通して系外に除いた。分縮器の温度は145〜147℃の範囲に制御した。パラキシリレンジアミン滴下終了後、0.4MPa/hrの速度で降圧し、60分間で常圧まで降圧した。この間に内温は299℃まで昇温した。その後0.002MPa/minの速度で降圧し、20分間で0.08MPaまで降圧した。その後攪拌装置のトルクが所定の値となるまで0.08MPaで反応を継続した。0.08MPaでの反応時間は10分であった。その後、系内を窒素で加圧し、ストランドダイからポリマーを取り出してこれをペレット化しポリアミド樹脂を得た。得られたポリアミド樹脂PXD10の融点は290℃、ガラス転移点は75℃であった。数平均分子量は25000、酸素透過係数は2.5cc・mm/m・day・atmであった。
以下、このポリアミド樹脂を、「PXD10」と略記する。
【0098】
<製造例3(ポリメタ/パラキシリレンセバカミド(MPXD10−1)の合成)>
製造例1において、メタキシリレンジアミンをメタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの3:7混合物(モル比)とし、混合キシリレンジアミンをセバシン酸とのモル比が1:1になるように徐々に滴下しながら、温度を260℃まで上昇させた。滴下終了後、280℃まで昇温した以外は製造例1と同様にして、ポリアミド樹脂を得た。
下記記載の方法で測定されたポリアミド樹脂(MPXD10−1)の融点は258℃、ガラス転移点は70℃、数平均分子量は20,000、酸素透過係数は2cc・mm/m・day・atmであった。
以下、このポリアミド樹脂を、「MPXD10−1」と略記する。
【0099】
<製造例4(ポリメタ/パラキシリレンセバカミド(MPXD10−2)の合成)>
製造例1において、メタキシリレンジアミンをメタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの7:3混合物(モル比)とした以外は製造例1と同様にして、ポリアミド樹脂を得た。
下記記載の方法で測定されたポリアミド樹脂(MPXD10−2)の融点は215℃、ガラス転移点は63℃、数平均分子量は28,000、酸素透過係数は1.4cc・mm/m・day・atmであった。
以下、このポリアミド樹脂を、「MPXD10−2」と略記する。
【0100】
他のポリアミド樹脂(A):
・ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)
三菱ガス化学製、商品名「MXナイロンS6007」
融点240℃、ガラス転移点85℃、数平均分子量40000、相対粘度2.65
以下、このポリアミド樹脂を、「MXD6」と略記する。
【0101】
ポリエーテル共重合ポリアミド樹脂(B)として、以下のポリエーテル共重合ポリアミド12を使用した。
宇部興産社製、商品名「UBESTA XPA 9055X1」
ポリエーテル共重合ポリアミド12、ショアD硬度55、融点164℃
以下、このポリアミド樹脂を、「PE/N12」と略記する。
【0102】
なお、上記ポリアミドの融点、ガラス転移点(単位:℃)の測定方法は、以下のとおりである。
島津製作所(株)製DSC−60を用いて、示差走査熱量測定(DSC)法により測定した。測定条件は、約5mgのサンプルを30〜300℃まで10℃/minの条件で昇温し、300℃で2分間保持した後、30℃まで20℃/minの速度で降温する。次いで、10℃/minの条件で昇温し、融点、ガラス転移点を測定した。
【0103】
また、上記各XD10及びMXD6の数平均分子量の測定は、以下のとおりである。
東ソー(株)製HLC−8320GPCを用いて、GPC測定によりPMMA換算値として求めた。なお、測定用カラムはTSKgel SuperHM−Hを用い、溶媒にはトリフルオロ酢酸ナトリウムを10mmol/L溶解したヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を用い、測定温度は40℃とした。また、検量線は6水準のPMMAをHFIPに溶解させて測定し作成した。
【0104】
カルボジイミド化合物(C):
脂環式ポリカルボジイミド化合物、日清紡績社製、商品名「カルボジライトLA−1」
以下、このカルボジイミド化合物を、「カルボジイミド」と略記する。
安定剤(D):
塩化銅/ヨウ化カリウム混合物
塩化銅:ヨウ化カリウム=1:10(質量比)の混合物
以下、「CuCl/KI」と略記する。
なお、表1〜2における(C)、(D)成分の使用量は、ポリアミド樹脂(A)100質量に対する質量部である。
【0105】
(実施例1〜5及び比較例1〜2)
上記の各成分を、後記表1、表2に記した割合(各ポリアミド樹脂の割合は質量%、添加剤の配合量は樹脂成分合計100質量部に対する質量部)でドライブレンドし、シリンダー径30mmのTダイ付き単軸押出機(プラスチック工学研社製、PTM−30)に供給した。シリンダー温度260℃、スクリュー回転数30rpmの条件で溶融混練を行った後、Tダイを通じてフィルム状物を押出し冷却ロール上で固化し、厚さ100μmのフィルムを得た。
得られたフィルムを用いて、下記記載の各種評価を行った。結果を表1〜2に示す。
【0106】
(実施例6〜8及び比較例3〜5)
実施例1において、ペレット製造の際のシリンダー温度を各ポリアミド樹脂の融点+25℃としてポリアミド樹脂組成物のペレットを製造し、フィルム製造時のシリンダー温度を各ポリアミド樹脂の融点+25℃としてフィルムを製造した以外は、実施例1と同様にして、評価を行った。
評価結果を表2に示す。
【0107】
[評価方法]
なお、実施例及び比較例において、測定・評価方法は、下記のとおりである。
(1)引張弾性率(単位:MPa)
フィルムの引張特性をJIS K7127及びK7161に準じて試験し、引張弾性率(MPa)を求めた。なお、装置は東洋精機株式会社製ストログラフを使用し、試験片幅を10mm、チャック間距離を50mm、引張速度を50mm/minとし、測定温度を23℃、測定湿度を50%RHとして測定した。
【0108】
(2)引張り伸び(単位:%)
フィルムの引張特性をJIS K7127及びK7161に準じて試験し、フィルム破壊時のひずみを求め、その値を引張り伸びとした。なお、装置は東洋精機株式会社製ストログラフを使用し、試験片幅を10mm、チャック間距離を50mm、引張速度を50mm/minとし、測定温度を23℃、測定湿度を50%RHとして測定した。
【0109】
(3)吸水率(単位:%)
フィルムを23℃の条件で蒸留水に浸漬し24時間経過後、表面の水分をふき取った後、カールフィシャー水分計にて主要成分の樹脂の融点より10℃低い温度で加熱し、吸水率の測定を行った。
【0110】
(4)酸素透過係数(単位:cc・mm/m・day・atm)
23℃、75%RHの雰囲気下にて、JIS K7126に準じてフィルムの酸素透過係数(cc・mm/m・day・atm)を測定した。測定は、モダンコントロールズ社製、OX−TRAN2/21を使用した。値が低いほど、ガスバリア性が良好であることを示す。
【0111】
【表1】

【0112】
【表2】

【0113】
(実施例9)
[複合材の製造]
上記実施例4で製造したPE/N12入りMXD10ポリアミド樹脂組成物(MXD10系ポリアミドという。)を、30mmφのスクリューを有する単軸押出機にて溶融押出しし、また、高圧法低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)製、商品名「ノバテックUF421」)を、30mmφのスクリューを有する単軸押出機にて溶融押出しし、500mm幅のTダイを介して共押出成形し、450mm幅のポリエチレン層(30μm厚)/MXD10系ポリアミド層(25μm厚)の2層キャストフィルムを得た。
得られた2層フィルムを400mm幅にスリットし、ポリエチレン層とMXD10系ポリアミド層の界面を剥離しながら、それぞれロール状に巻き取り、長さ500mm、厚み25μm、幅400mmのロール状のMXD10系ポリアミド単層フィルムを得た。
【0114】
三菱レイヨン(株)製炭素繊維(TR50S、引張弾性率:240GPa)を繊維目付が125g/mになるように一方向に引きそろえたシート状物を210℃に加熱しながら、連続的に上記MXD10系ポリアミド単層フィルムを貼り合わせ、積層物を得た。
次いで、得られた20cm×20cmに切断した積層物10枚を重ね合わせて重畳物とし、さらに前記MXD10系ポリアミド単層フィルムを重畳物最表面の炭素繊維層側に重ねて、260℃の金型で圧力1MPaにて熱プレス処理を行い、両表面がMXD10系ポリアミドの板状の成形品を得た。得られた成形品の炭素繊維含有率は40容量%であった。得られた成形品に、加熱オーブンにて、130℃×4分の熱処理を施した。
得られた成形品の引張り弾性率、そり量、熱水処理後の弾性率の評価を行った。
【0115】
なお、その測定・評価方法は以下のとおりである。
(1)引張弾性率:成形品を1cm×10cmの形状とし、JIS K7113に準じて引張試験を実施した。
(2)そり量:試料片(20cm×20cm)の中心より10cmの点でのそり量を測定した。なお、そり量とは、試料片の最大高さより試料片の厚みを引いたものである。そり量が少ないほど寸法安定性が良好であることを意味する。
(3)熱水処理後の弾性率:成形品を1cm×10cmの形状とし、100℃の沸水中で240時間浸漬後、引張試験を実施した。
【0116】
得られた成形品の引張弾性率は100GPa、そり量は0.5mm、熱水処理後の引張弾性率は95GPaであった。
この実施例9で示したように、本発明のポリアミド樹脂組成物と繊維材料(F)の積層物を加熱加圧して得られた複合材は、優れた弾性率、低そり性を有し、高温高湿度下での物性低下が少なく、優れたものであることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、弾性率が高く、吸水率が低く、バリア性に優れ、かつ、柔軟性の改善されたポリアミド樹脂材料であるため、各種用途に広く利用でき、各種のフィルム、シート、積層フィルム、積層シート、チューブ、ホース、パイプ、中空容器、ボトル等の各種容器、各種部品等、種々の成形体に好適に使用することができる。
また、本発明のポリアミド樹脂組成物のフィルムと繊維材料を積層し、積層物を加熱加圧したものは、従来の熱硬化性樹脂に比べて、リサイクル特性、成形性、生産性にも優れており、薄くても機械的強度に優れるため、製品としたときの軽量化が可能であり、得られる複合材は、各種部品等に利用でき、特に、電気・電子機器の部品、自動車部品・部材として好ましく使用できる。
以上、本発明のポリアミド樹脂組成物は、広範な分野で好ましく使用でき、産業上の利用性は非常に高いものがある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミン構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸構成単位の50モル%以上がセバシン酸又はアジピン酸に由来するポリアミド樹脂(A)を60〜99質量%と、ポリアミド12単位又はポリアミド11単位とポリエーテル単位から構成されるポリエーテル共重合ポリアミド(B)を40〜1質量%含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
キシリレンジアミンが、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン又はこれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、カルボジイミド化合物(C)を、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、0.1〜2質量部含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
カルボジイミド化合物(C)が、脂肪族又は脂環式ポリカルボジイミド化合物であることを特徴とする請求項3に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、安定剤(D)を、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、0.01〜1質量部含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
安定剤(D)が、無機系安定剤、芳香族第2級アミン系安定剤及び有機硫黄系安定剤から選ばれることを特徴とする請求項5に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
ポリアミド樹脂(A)が、メタキシリレンジアミンとセバシン酸とを重縮合して得られるポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
ポリアミド樹脂(A)が、メタキシリレンジアミンとアジピン酸とを重縮合して得られるポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
フィルムにした際の引張弾性率(E)が、ポリアミド樹脂(A)をフィルムにした際の引張弾性率(E)に対し、70〜97%の弾性率を示すことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項11】
成形品が、フィルム、シート又はチューブであることを特徴とする請求項10に記載の成形品。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物からなるフィルムと繊維材料(F)を積層し、積層物を加熱加圧したものであることを特徴とする複合材。

【公開番号】特開2012−41526(P2012−41526A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158513(P2011−158513)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】