説明

ポリイミドフィルムおよびそれを用いたカバーレイおよび銅張り板

【課題】向上した接着性を有すると同時に、フィルム同士の貼り付きが起こらないポリイミドフィルムの提供。
【解決手段】第1面および第2面を有するポリイミドフィルムであって、第1面が80mN/m以上の表面自由エネルギーを有し、第2面が80mN/m未満の表面自由エネルギーを有することを特徴とするポリイミドフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドフィルムに関し、より詳細には、片面のみに表面自由エネルギーを高める処理を施したポリイミドフィルム、およびこれを用いたカバーレイ、金属張り板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板は広く電子・電機機器に使用されている。中でも、折り曲げ可能なフレキシブルプリント配線板は、パーソナルコンピューターや携帯電話等の折り曲げ部分、ハードディスク等の屈曲が必要な部分に広く使用されている。このようなフレキシブルプリント配線板の基材、および配線板を保護するためのカバーレイの基材としては、通常各種のポリイミドフィルムが使用されている。
【0003】
ポリイミドフィルムの代表的なものは、酸二無水物成分としてピロメリット酸二無水物を用い、ジアミン成分として4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを用いる重縮合によって得られるポリイミドフィルムが挙げられる。このようなポリイミドフィルムは機械的、熱的特性のバランスに優れた構造を有しており、汎用の製品として広く工業的に用いられている。しかしながら、ポリイミドフィルムはその化学構造および高度な耐薬品性により、接着性が不十分であるという欠点を有していた。
【0004】
このような問題を解決するために、フィルム表面を酸またはアルカリを用いて化学的に処理して、接着性を改善する試みがなされている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−294965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術の化学的処理は、処理後に、洗浄、乾燥などの別工程を要することから、生産性、安定性およびコスト面の問題点に加えて、環境保全の面でも問題点を含んでいた。さらに、この方法ではフィルムの両面の接着性が向上するので、フィルムをロール状に巻いた場合、フィルム同士が貼り付いてしまうという問題点を有していた。したがって、本発明の目的は、向上した接着性を有すると同時に、フィルム同士の貼り付きが起こらないポリイミドフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するため、以下の構成を採用する。
(1) 第1面および第2面を有するポリイミドフィルムであって、第1面が80mN/m以上の表面自由エネルギーを有し、第2面が80mN/m未満の表面自由エネルギーを有することを特徴とするポリイミドフィルム。
(2) 第1面がプラズマ処理されていることを特徴とする(1)記載のポリイミドフィルム。
(3) ポリイミドフィルムが、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなるジアミン成分と、ピロメリット酸二無水物からなる酸二無水物成分との反応によって得られることを特徴とする(1)記載のポリイミドフィルム。
(4) ポリイミドフィルムが、1,4−フェニレンジアミンからなるジアミン成分と、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物成分からなる酸二無水物との反応によって得られることを特徴とする(1)記載のポリイミドフィルム。
(5) ポリイミドフィルムが、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルおよび1,4−フェニレンジアミンからなるジアミン成分と、ピロメリット酸二無水物からなる酸二無水物成分との反応によって得られることを特徴とする(1)記載のポリイミドフィルム。
(6) ポリイミドフィルムが、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルおよび3,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなるジアミン成分と、ピロメリット酸二無水物からなる酸二無水物成分との反応によって得られることを特徴とする(1)記載のポリイミドフィルム。
(7) ポリイミドフィルムが、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルおよび1,4−フェニレンジアミンからなるジアミン成分と、ピロメリット酸二無水物および3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物からなる酸二無水物成分との反応によって得られることを特徴とする(1)記載のポリイミドフィルム。
(8) (1)記載のポリイミドフィルムと、前記第1面上に形成された接着層を有することを特徴とするカバーレイ。
(9) (1)記載のポリイミドフィルムと、前記第1面上に形成された接着剤層と、前記接着層に接着された銅層を有することを特徴とする銅張り板。
【発明の効果】
【0008】
以上の構成を採用することによって、ポリイミドフィルムの接着性を向上させると同時に、ロール状に巻いた場合、ポリイミドフィルム同士の貼り付きを効果的に防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のポリイミドフィルムについてその実施の形態の一例に基づき説明する。本発明のポリイミドフィルムは、通常は酸二無水物成分とジアミン成分とから調製され、製膜された後に一方の面のみに放電処理を施すことにより接着性を高める。
【0010】
ポリイミドを製造する方法としては、1)酸二無水物成分とジアミン成分を反応させてポリアミド酸を形成するアミド化工程と、2)ポリアミド酸中のアミドおよびカルボン酸を反応させてポリイミドを形成するイミド化工程とを含む、当該技術において知られている任意の方法を用いることができる。たとえば、ポリアミド酸の形成工程としては、当該技術において知られている任意の方法論を用いることができる。
【0011】
ポリアミド酸を形成するアミド化工程としては、当該技術において知られている任意の方法論を用いることができる。たとえば、実質的に等モル量の酸二無水物成分とジアミン成分との有機溶媒溶液を、制御された温度条件下で、酸二無水物成分とジアミン成分の反応が完了するまで撹拌することによってポリアミド酸溶液を製造することができる。アミド化方法としてはあらゆる公知の方法を用いることができるが、特に好ましいアミド化方法として次のような方法が挙げられる。すなわち、
(1) ジアミン成分を有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モル量の酸二無水物成分を添加して反応させる方法;
(2) 酸二無水物成分とこれに対し過小モル量のジアミン成分とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得る。続いて、プレポリマー溶液に対して、全工程において酸二無水物成分とジアミン成分とが実質的に等モル量となるようにジアミン成分を添加して反応させる方法;
(3) 酸二無水物成分とこれに対し過剰モル量のジアミン成分を有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。プレポリマー溶液に対して、ジアミン成分を追加添加し、続いて、全工程において酸二無水物成分とジアミン成分とが実質的に等モルとなるように酸二無水物成分を添加して反応させる方法;
(4) 酸二無水物成分を有機極性溶媒中に溶解および/または分散させた後に、実質的に等モル量のジアミン成分を添加して反応させる方法;または
(5) 実質的に等モル量の酸二無水物成分とジアミン成分との混合物を有機極性溶媒中で反応させて反応する方法
などのような方法である。これらのポリアミド酸溶液は、通常5〜35質量%、好ましくは10〜30質量%の濃度で得られる。このような範囲内の濃度とすることによって、適当な分子量のポリアミド酸を得ることができる。また、引き続く処理に適当な範囲内の溶液粘度を有するポリアミド酸溶液を提供することが可能となる。
【0012】
本発明において、上記のいずれの方法を用いて得られるポリアミド酸を用いてもよく、製造方法は特に限定されるものではない。これらの方法の中で、安定的に工程を制御するという観点から、全工程において用いられるジアミン成分すべてを有機溶剤に溶解し、その後に実質的に等モル量となるように酸二無水物成分を添加して反応を行う方法(1)を用いるのが好ましい。
【0013】
本発明において用いることができる酸二無水物成分は、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−カルボキシフェニル)エーテル二無水物、ナフタレン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、デカヒドロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、4,8−ジメチル−1,2,3,5,6,7−ヘキサヒドロナフタレン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,7−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−テトラクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、フェナントレン−1,8,9,10−テトラカルボン酸二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ベンゼン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物などを含む。これらの中でも、ピロメリット酸二無水物および3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物がフレキシブルプリント配線板に要求される耐熱性や耐折性の点から好ましい。
【0014】
また、本発明において用いることができるジアミンは、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−フェニレンジアミン(p−フェニレンジアミン)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,3−フェニレンジアミン(m−フェニレンジアミン)、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンチジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、2,6−ジアミノピリジン、ビス(4−アミノフェニル)ジエチルシラン、ビス(4−アミノフェニル)ジフェニルシラン、3,3’−ジクロロベンチジン、ビス(4−アミノフェニル)エチルホスフィンオキシド、ビス(4−アミノフェニル)フェニルホスフィンオキシド、N,N−ビス(4−アミノフェニル)−N−フェニルアミン、N,N−ビス(4−アミノフェニル)−N−メチルアミン、1,5−ジアミノナフタレン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,4’−ジメチル−3’,4−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシベンチジン、2,4−ビス(2−アミノ−1,1−ジメチルエチル)トルエン、ビス(4−(2−アミノ−1,1−ジメチルエチル)フェニル)エーテル、1,4−ビス(2−メチル−4−アミノペンチル)ベンゼン、1,4−ビス(1,1−ジメチル−5−アミノペンチル)ベンゼン、1,3−ビス(アミノメチル)ベンゼン(m−キシリレンジアミン)、1,4−ビス(アミノメチル)ベンゼン(p−キシリレンジアミン)、1,3−ジアミノアダマンタン、3,3’−ジアミノ−1,1’−ジアダマンタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ヘキサメチレンジアミン、ペプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、3−メチルヘプタン−1,7−ジアミン、4,4−ジメチルヘプタン−1,7−ジアミン、ドデカン−2,11−ジアミン、1,2−ビス−(3−アミノプロピルオキシ)エタン、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジアミン、3−メトキシヘキサン−1,6−ジアミン、2,5−ジメチルヘキサン−1,6−ジアミン、5−メチルノナン−1,9−ジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、オクタデカン−1,12−ジアミン、2,5−ジアミノ−1,3,4−オキサジアゾール、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、N−(3−アミノフェニル)−4−アミノベンズアミド、4−アミノフェニル−3−アミノベンゾエートなどを含む。これらの中でも、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−フェニレンジアミン(p−フェニレンジアミン)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルがフレキシブルプリント配線板に要求される耐熱性や耐折性の点から好ましい。
【0015】
ポリアミド酸を形成するためのアミド化工程において用いることができる有機溶剤は、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−ジメチルメトキシアセトアミド、N−メチル−ε−カプロラクタム、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルホスホロアミド、テトラメチレンスルホン、ホルムアミド、N−メチルホルムアミドおよびγ−ブチロラクトンなどの有機極性溶媒を含む。これらの有機極性溶媒は単独または組み合わせて使用することもできるし、あるいはベンゼン、ベンゾニトリル、ジオキサン、キシレン、トルエンおよびシクロヘキサンのごとき溶解性の劣る溶媒と組み合わせて用いることもできる。
【0016】
本発明におけるイミド化工程は、当該技術において知られている任意の方法論を用いることができる。たとえば、添加剤の存在または不存在下において、ポリアミド酸を乾燥、熱処理することによって、イミド化工程を実施することができる。本発明においては、転化剤を添加してイミド化を行うことが好ましい。転化剤は、一般的に触媒および脱水剤を含む。
【0017】
本発明において用いることができる触媒は、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジエチル−N−シクロヘキシルアミン、N,N−ジメチル−N−シクロヘキシルアミン、N,N−ジメチル−N−ベンジルアミン、N,N−ジメチル−N−ドデシルアミン、N−エチルモルフォリン、N−メチルモルフォリン、トリエチレンジアミン、ピリジン、2−エチルピリジン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、4−イソプロピルピリジン、4−ベンジルピリジン、4−ベンゾイルピリジン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン、3,4−ルチジン、3,5−ルチジン、2,4,6−コリジン、およびイソキノリンなどの非求核性アミンを含むが、これらに限定されない。
【0018】
また、本発明において用いることができる脱水剤は、有機カルボン酸無水物、N,N−ジアルキルカルボジイミド類、低級脂肪酸ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪酸ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪酸無水物、アリールホスホン酸ジハロゲン化物およびチオニルハロゲン化物等を含むが、これらに限定されない。
【0019】
脱水剤として用いることができる有機カルボン酸無水物は、
(a) 酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸などの脂肪族モノカルボン酸の無水物および混合酸無水物;
(b) 安息香酸、ナフトエ酸(異性体を含む)、トルイル酸(異性体を含む)、m−エチル安息香酸、p−エチル安息香酸、p−プロピル安息香酸、p−イソプロピル安息香酸、アニス酸、ニトロ安息香酸(異性体を含む)、モノハロ安息香酸(異性体を含む)、ジブロモ安息香酸(異性体を含む)、ジクロロ安息香酸(異性体を含む)、トリブロモ安息香酸(異性体を含む)、トリクロロ安息香酸(異性体を含む)、ジメチル安息香酸(たとえば、3,4−キシリル酸、イソキシリル酸などの異性体を含む)、メシチレン酸、ベラトルム酸、トリメトキシ安息香酸、ビフェニルカルボン酸などの芳香族モノカルボン酸の無水物および混合酸無水物;
(c) 脂肪族モノカルボン酸と芳香族モノカルボン酸との混合酸無水物;
(d) 炭酸またはギ酸とモノカルボン酸(脂肪族および芳香族を含む)との混合酸無水物;および
(e) 脂肪酸ケテン類(ケテンおよびジメチルケテンを含む)と上記の酸無水物との混合物
を含む。
【0020】
脱水剤として用いることができる低級脂肪酸ハロゲン化物は、アセチルクロリド、アセチルブロミド、アセチルヨージド、アセチルフルオリド、プロピオニルクロリド、プロピオニルブロミド、プロピオニルヨージド、プロピオニルフルオリド、イソブチリルクロリド、イソブチリルブロミド、n−ブチリルクロリド、n−ブチリルブロミド、およびバレリルクロリドを含む。脱水剤として用いることができるハロゲン化低級脂肪酸ハロゲン化物は、モノクロロアセチルクロリド、ジクロロアセチルクロリド、トリクロロアセチルクロリド、およびブロモアセチルブロミドを含む。脱水剤として用いることができるハロゲン化低級脂肪酸無水物は、クロロ酢酸無水物およびトリフルオロ酢酸無水物を含む。脱水剤として用いることができるアリールホスホン酸ジハロゲン化物は、フェニルホスホン酸ジクロリドを含む。脱水剤として用いることができるチオニルハロゲン化物は、チオニルクロリド、チオニルブロミド、チオニルフルオリド、およびチオニルクロロフルオリドを含む。
【0021】
本発明のポリイミドフィルムの製膜方法は、特に限定されないが、上記のように得られるポリアミド酸溶液を流延(キャスト)または押出によりフィルム状とし、得られたフィルムの乾燥、熱処理を行うことによりイミド化を進行させることにより実施するのが一般的である。この際、乾燥・熱処理は、流延(キャスト)または押出によって得られたポリアミド酸のフィルムを、200〜550℃、好ましくは250〜500℃の高温雰囲気に維持した乾燥熱処理ゾーンを通過させることにより達成することができる。
【0022】
本発明のポリイミドフィルムとしては、フィルム厚さが1〜250μm、好ましくは5〜225μmになるように調整することが望ましい。この範囲内のフィルム厚さとすることによって、十分なイミド化を行うと同時に、厚さを一定に維持することが容易となる。
【0023】
上述のような方法で製膜されたポリイミドフィルムの表面自由エネルギーは、特別な処理を施さない限り、80mN/m未満である。本発明の最大の特徴は、このようなポリイミドフィルムの片面(第1面)の表面自由エネルギーのみを80mN/m以上にすることで、ポリイミドフィルムの片面(第1面)の接着性を向上させ、かつフィルムをロール状にした際(80mN/m以上の表面自由エネルギーを有する第1面と、80mN/m未満の表面自由エネルギーを有する第2面とが接触する)に、フィルム同士が貼り付きを起こさないようにすることである。
【0024】
片面の表面自由エネルギーのみを80mN/m以上にするための方法としては、片面(第1面)のみに放電処理を施す方法が挙げられる。使用することができる放電処理は、プラズマ処理およびコロナ処理を含む。しかしながら、コロナ処理では処理の効果寿命が短いので、処理の効果寿命が長いプラズマ処理が好ましい。
【0025】
プラズマ処理を行う雰囲気の圧力は、特に限定されないが、通常13.3〜1330kPaの範囲、13.3〜133kPa(100〜1000Torr)の範囲が好ましく、より好ましくは80.0〜120kPa(600〜900Torr)の範囲で選択することが好ましい。
【0026】
また、プラズマ処理を行う雰囲気は、不活性ガスを少なくとも20モル%、好ましくは50モル%以上、より好ましくは80モル%以上、最も好ましくは90モル%以上含有する。用いることが不活性ガスは、He、Ar、Kr、Xe、Ne、Rn、Nおよびこれらの2種以上の混合物を含む。特に好ましい不活性ガスはArである。さらに、前述の不活性ガスに対して、酸素、空気、一酸化炭素、二酸化炭素、四塩化炭素、クロロホルム、水素、アンモニア、テトラフルオロメタン(カーボンテトラフルオリド)、トリクロロフルオロエタン、トリフルオロメタンなどを混合してもよい。これらのガスを混合することによって、酸素、塩素、窒素またはハロゲンを含む活性基の発生が促進されるからである。本発明のプラズマ処理の雰囲気として用いられる好ましい混合ガスの組み合わせは、アルゴン/酸素、アルゴン/アンモニア、アルゴン/ヘリウム/酸素、アルゴン/二酸化炭素、アルゴン/窒素/二酸化炭素、アルゴン/ヘリウム/窒素、アルゴン/ヘリウム/窒素/二酸化炭素、アルゴン/ヘリウム、ヘリウム/空気、アルゴン/ヘリウム/モノシラン、アルゴン/ヘリウム/ジシランなどを含む。
【0027】
プラズマ処理を施す際の処理電力密度は、200W・分/m以上が好ましく、500W・分/m以上がより好ましく、最も好ましくは1000W・分/m以上である。プラズマ処理を行うプラズマ照射時間は1秒〜10分が好ましい。プラズマ照射時間をこの範囲内に設定することによって、フィルムの劣化をともなうことなしに、プラズマ処理の効果を十分に発揮することができる。
【0028】
また、コロナ処理の実施に用いるガス種類、ガス圧、および処理電力密度は特に限定されない。コロナ処理は、一般的には大気中で行われる。コロナ処理を施す際の処理電力密度は、200W・分/m以上であることが好ましく、500W・分/m以上であることがより好ましく、1000W・分/m以上であることがさらに好ましい。
【0029】
上記のように放電処理を施したポリイミドフィルムを用い、放電処理により表面自由エネルギーを80mN/m以上としたポリイミドフィルムの第1面に、接着層を設けてカバーレイを作製することができる。
【0030】
接着層は、一般的に接着剤の塗布によって形成される。本発明において使用する接着剤としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、およびポリイミド樹脂から選ばれる少なくとも1種が好ましい。これらの接着剤に対して、各種ゴム、可塑剤、硬化剤、難燃剤(リン系など)、および、その他の各種添加物を混合してもよい。たとえば、添加物の添加によって、接着層に柔軟性を付与することができる。また、接着剤に用いられるポリイミド樹脂は主として熱可塑性ポリイミドであるが、熱硬化性ポリイミドであってもよい。ポリイミド樹脂の場合、通常は溶媒不要であるが、適当な有機溶媒に可溶なポリイミドを用いてもよい。本発明のカバーレイの接着層は、1〜100μmの範囲内の厚さを有することが好ましく、5〜75μmの範囲内の厚さを有することがより好ましい。前述の範囲内の厚さを有することにより、接着時の充分な硬化性および充分な接着力を実現することができる。
【0031】
上記のように放電処理を施したポリイミドフィルムを用い、放電処理により表面自由エネルギーを80mN/m以上としたポリイミドフィルムの第1面に、接着層を設け、さらに接着層に対して金属箔を貼り付けることによって、金属張り板を製造することができる。接着層は、前述のカバーレイと同様の材料、厚さを有する層である。
【0032】
金属箔としては、銅箔を使用することが望ましい。本発明において使用することができる銅箔は、当該技術において知られている圧延銅箔、電解銅箔などを含む。本発明において使用する金属箔(銅箔)の厚さは、用途に依存して決定され、特に制限されるものではない。たとえばフレキシブル配線板への加工を目的として銅箔を用いた銅張り板を作製する場合、銅箔の厚さは、好ましくは1〜36μm、より好ましくは3〜18μmである。この範囲内の厚さを使用することによって、エッチングによる配線形成を短時間で行うことができ、かつ配線の断線が抑制することができる銅張り板を得ることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例にて具体的に説明する。なお、実施例中のポリイミドフィルムのプラズマ処理、表面自由エネルギー測定、カバーレイ作成、銅張り板作成は以下の方法で実施した。
【0034】
[プラズマ処理]
プラズマ処理は、Arを95%以上含有する雰囲気下、100kPaの雰囲気下で、表面が誘電体によって被覆され、かつ25℃に冷却された電極と、ポリイミドフィルムを支持する誘電体被覆電極との間に高電圧を印加し、フィルムの第1面を1100W・分/mの処理電力密度で連続的に処理を施した。プラズマ照射時間は0.5分間であった。
【0035】
[表面自由エネルギー測定]
水、エチレングリコールおよびジヨードメタンを用いて、ポリイミドフィルム表面の接触角を測定した。それぞれの液体について、5個のサンプルを測定して接触角の平均値を求めた。得られた接触角の平均値を用いて、協和界面科学株式会社製FACECA−W150を用いて、表面自由エネルギーを求めた。
【0036】
[銅張り板作成]
ポリイミドフィルムのプラズマ処理を施した第1面に対して、コーターを用いて、エポキシ樹脂接着剤混合物(三井化学株式会社製、商品名エポックスAH−357A/AH−357B/AH−357C=100/5/12(質量比))を塗布し、4分間にわたって130℃において予備乾燥を行った。引き続いて、予備乾燥した接着層に厚さ18μmの圧延銅箔(株式会社ジャパンエナジー製、BHY−22B−T)を重ねて、2MPa加圧下、170℃、80分のプレスキュアを実施して、銅張り板を得た。
【0037】
[カバーレイ作成]
ポリイミドフィルムのプラズマ処理を施した第1面に対して、コーターを用いて、エポキシ樹脂接着剤混合物(三井化学株式会社製、商品名エポックスAH−357A/AH−357B/AH−357C=100/5/12(質量比))を塗布し、4分間にわたって130℃において予備乾燥を行い、カバーレイを得た。
【0038】
[ピール強度測定]
貼り合わせたサンプルを1mm幅に切り出し、90゜の剥離角度、50mm/分の速度条件で引き剥がすのに必要な力を測定した。5サンプルについて測定し、その平均値を算出した。
【0039】
[実施例1]
DMAc中で、ピロメリット酸二無水物(分子量218.12)/3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(分子量294.22)/4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(分子量200.20)/1,4−フェニレンジアミン(分子量108.14)を、モル比で3/1/3/1の割合で混合し、アミド化を実施して、ポリアミド酸溶液(固形分濃度:18.5質量%)を得た。
【0040】
続いて、無水酢酸(分子量102.09)とイソキノリン(分子量129.16)からなる転化剤(ポリアミド酸溶液を基準として50質量%)を、ポリアミド酸溶液に混合し、撹拌した。この時、ポリアミド酸のアミド酸基に対し、無水酢酸およびイソキノリンがそれぞれ2.0および0.4モル当量になるように調整した。得られた混合物を、T型スリットダイより回転する100℃のステンレス製ドラム上にキャストし、残揮発成分が60質量%の自己支持性を有するゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをドラムから引き剥がし、その両端を把持し、加熱炉にて200℃(30秒間)、350℃(30秒間)、および550℃(30秒間)にて処理してイミド化を進行させ、厚さ25μmのポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムの表面自由エネルギーは42mN/mであった。
【0041】
このポリイミドフィルムの第1面のみにプラズマ処理を施した。プラズマ処理後の第1面の表面自由エネルギーは、84mN/mであると測定された。
【0042】
ポリイミドフィルムの第1面に接着剤層を形成し、カバーレイを得た。また、別のポリイミドフィルムの第1面に接着剤層および銅層を形成し、銅張り板を得た。得られた銅張り板の銅層とカバーレイの接着剤層とを重ね合わせて、2MPa加圧下、170℃、80分のプレスキュアを実施し、得られた積層物のピール強度を測定することで接着性を評価した。さらに、ポリイミドフィルムの第1面(すなわち、プラズマ処理されている面)とポリイミドフィルムの第2面(プラズマ処理されていない第2面)とを重ね合わせて、2MPa加圧下、170℃、80分のプレスキュアを実施し、得られた積層物の貼り付き強度をピール強度で評価した。結果を第1表に示す。本実施例のポリイミドフィルムは、良好な接着性を有すると同時に、ポリイミドフィルム同士の貼り付きが抑制されていることが分かる。
【0043】
[実施例2]
DMF中で、ピロメリット酸二無水物/4,4’−ジアミノジフェニルエーテル/1,4−フェニレンジアミンをモル比で3/2/5の割合で混合し、アミド化を実施して、ポリアミド酸溶液(固形分濃度:18.5質量%)を得た。得られたポリアミド酸溶液を実施例1と同様に処理して、厚さ12.5μmのポリイミドフィルムを得た。
【0044】
このポリイミドフィルムを実施例1と同様の方法で評価した。結果を第1表に示す。本実施例のポリイミドフィルムは、良好な接着性を有すると同時に、ポリイミドフィルム同士の貼り付きが抑制されていることが分かる。
【0045】
[実施例3]
DMAc中で、ピロメリット酸二無水物/4,4’−ジアミノジフェニルエーテルをモル比で1/1の割合で混合し、アミド化を実施して、ポリアミド酸溶液(固形分濃度:18.5質量%)を得た。
【0046】
続いて、ポリアミド酸溶液に対して、無水酢酸とイソキノリンからなる転化剤(ポリアミド酸溶液を基準として50質量%)を混合し、撹拌した。この時、ポリアミド酸のアミド酸基に対し、無水酢酸およびイソキノリンがそれぞれ2.0および0.4モル当量になるように調整した。得られた混合物を、T型スリットダイよりエンドレスベルト上にキャストし、70℃の熱風を用いて加熱し、残揮発成分が60質量%の自己支持性を有するゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをエンドレスベルトから引き剥がし、その両端を把持し、加熱炉にて200℃(60秒間)、350℃(60秒間)、および550℃(45秒間)にて処理してイミド化を進行させ、厚さ125μmのポリイミドフィルムを得た。
【0047】
このポリイミドフィルムを実施例1と同様の方法で評価した。結果を第1表に示す。本実施例のポリイミドフィルムは、良好な接着性を有すると同時に、ポリイミドフィルム同士の貼り付きが抑制されていることが分かる。
【0048】
[実施例4]
DMAc中で、ピロメリット酸二無水物/4,4’−ジアミノジフェニルエーテル/3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(分子量200.20)をモル比で2/1/1の割合で混合し、アミド化を実施して、ポリアミド酸溶液(固形分濃度:18.5質量%)を得た。
【0049】
続いて、ポリアミド酸溶液に対して、無水酢酸とイソキノリンからなる転化剤(ポリアミド酸溶液を基準として50質量%)を混合し、撹拌した。この時、ポリアミド酸のアミド酸基に対し、無水酢酸およびイソキノリンがそれぞれ2.0および0.4モル当量になるように調整した。得られた混合物を、T型スリットダイよりエンドレスベルト上にキャストし、50℃の熱風を用いて加熱し、残揮発成分が60質量%の自己支持性を有するゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをエンドレスベルトから引き剥がし、その両端を把持し、加熱炉にて150℃(30秒間)、300℃(30秒間)、400℃(20秒間)、および550℃(10秒間)にて処理してイミド化を進行させ、厚さ12.5μmのポリイミドフィルムを得た。
【0050】
このポリイミドフィルムを実施例1と同様の方法で評価した。結果を第1表に示す。本実施例のポリイミドフィルムは、良好な接着性を有すると同時に、ポリイミドフィルム同士の貼り付きが抑制されていることが分かる。
【0051】
[実施例5]
DMAc中で、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物/1,4−フェニレンジアミンをモル比で1/1の割合で混合し、アミド化を実施して、ポリアミド酸溶液(固形分濃度:18.5質量%)を得た。
【0052】
続いて、ポリアミド酸溶液に対して、無水酢酸とイソキノリンからなる転化剤(ポリアミド酸溶液を基準として50質量%)を混合し、撹拌した。この時、ポリアミド酸のアミド酸基に対し、無水酢酸およびイソキノリンがそれぞれ2.0および0.4モル当量になるように調整した。得られた混合物を、T型スリットダイよりエンドレスベルト上にキャストし、50℃の熱風を用いて加熱し、残揮発成分が60質量%の自己支持性を有するゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをエンドレスベルトから引き剥がし、その両端を把持し、加熱炉にて150℃(30秒間)、300℃(30秒間)、400℃(20秒間)、および550℃(20秒間)にて処理してイミド化を進行させ、厚さ6.2μmのポリイミドフィルムを得た。
【0053】
このポリイミドフィルムを実施例1と同様の方法で評価した。結果を第1表に示す。本実施例のポリイミドフィルムは、良好な接着性を有すると同時に、ポリイミドフィルム同士の貼り付きが抑制されていることが分かる。
【0054】
[比較例1〜5]
プラズマ処理を一切実施しないことを除いて、実施例1〜5の手順を繰り返して、ポリイミドフィルムを得た。得られたフィルムを実施例1と同様の方法で評価した。結果を第1表に示す。本実施例のポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルム同士の貼り付きが抑制されているが、接着性が不足していることが分かる。
【0055】
[比較例6〜10]
プラズマ処理をポリイミドフィルムの両面に実施したことを除いて、実施例1〜5の手順を繰り返して、ポリイミドフィルムを得た。得られたフィルムを実施例1と同様の方法で評価した。ただし、両面がプラズマ処理されているため、貼り付き強度の評価は、プラズマ処理された面同士の貼り付きについて実施した。結果を第1表に示す。本実施例のポリイミドフィルムは、良好な接着性を有するが、ポリイミドフィルム同士の貼り付きが発生することが分かる。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のポリイミドフィルムを用いることによって、接着性が良好であり、かつフィルム同士の貼り付きがないカバーレイおよび金属張り板を得ることが可能となる。それらカバーレイおよび金属張り板は、電子・電機機器用のプリント配線板、特に、折り曲げ可能なフレキシブルプリント配線板のカバーレイおよび基材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面および第2面を有するポリイミドフィルムであって、第1面が80mN/m以上の表面自由エネルギーを有し、第2面が80mN/m未満の表面自由エネルギーを有することを特徴とするポリイミドフィルム。
【請求項2】
第1面がプラズマ処理されていることを特徴とする請求項1記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
ポリイミドフィルムが、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなるジアミン成分と、ピロメリット酸二無水物からなる酸二無水物成分との反応によって得られることを特徴とする請求項1記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
ポリイミドフィルムが、1,4−フェニレンジアミンからなるジアミン成分と、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物成分からなる酸二無水物との反応によって得られることを特徴とする請求項1記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
ポリイミドフィルムが、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルおよび1,4−フェニレンジアミンからなるジアミン成分と、ピロメリット酸二無水物からなる酸二無水物成分との反応によって得られることを特徴とする請求項1記載のポリイミドフィルム。
【請求項6】
ポリイミドフィルムが、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルおよび3,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなるジアミン成分と、ピロメリット酸二無水物からなる酸二無水物成分との反応によって得られることを特徴とする請求項1記載のポリイミドフィルム。
【請求項7】
ポリイミドフィルムが、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルおよび1,4−フェニレンジアミンからなるジアミン成分と、ピロメリット酸二無水物および3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物からなる酸二無水物成分との反応によって得られることを特徴とする請求項1記載のポリイミドフィルム。
【請求項8】
請求項1記載のポリイミドフィルムと、前記第1面上に形成された接着層を有することを特徴とするカバーレイ。
【請求項9】
請求項1記載のポリイミドフィルムと、前記第1面上に形成された接着剤層と、前記接着層に接着された銅層を有することを特徴とする銅張り板。

【公開番号】特開2008−127471(P2008−127471A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−314219(P2006−314219)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】